説明

インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの傾き検出方法

【課題】被記録媒体に形成した傾き検出パターンから、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を抽出し、ノズル列の傾きを正しく検出すること。
【解決手段】インクジェットヘッド4が走査方向の一方に移動するときに、1列のノズル列20を構成する第1のノズル群41と第2のノズル群42によって記録用紙100に平行な2本の直線51a,52aからなる第1の傾き検出パターン50aを形成するとともに、インクジェットヘッド4が走査方向の他方に移動するときに、第1のノズル群41と第2のノズル群42によって記録用紙100に平行な2本の直線51b,52bからなる第2の傾き検出パターン50bを形成する。そして、第1の傾き検出パターン50aと第2の傾き検出パターン50bを用いてノズル列20の傾きを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に画像等を記録するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一方向に配列された複数のノズルを有するインクジェットヘッドを備え、このインクジェットヘッドをノズル配列方向と交差する方向(走査方向)に移動させつつノズルからインクの液滴を噴射させることによって、被記録媒体に画像等を記録する、いわゆるシリアルタイプのインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
ところで、上記のインクジェット記録装置において、組付誤差等に起因して、インクジェットヘッドが、被記録媒体と対向する複数のノズルの配置面(液滴噴射面)と平行な面内においてある正規の姿勢に対して傾いた(回転した)姿勢で取り付けられていると、ノズル列が本来のノズル配列方向に対して傾き、このノズル列によって被記録媒体上に形成されるドット列も傾くために画質が低下する。そのため、このようなインクジェットヘッド(ノズル列)の傾きを検出した上で、ノズル列が正規の方向を向くようにインクジェットヘッドの姿勢を調整する、あるいは、ノズル列の傾きに応じて複数のノズルの噴射タイミングを補正する等の対策を取ることが望まれる。
【0004】
特許文献1には、上記のインクジェットヘッドの傾き検出に関連した技術が記載されている。この特許文献1においては、まず、インクジェットヘッドを走査方向の一方に移動させながら、1列のノズル列を構成する複数のノズルのうちの、一端側(被記録媒体の搬送方向上流側)の3つのノズル(ノズル群)からインクを噴射させて被記録媒体上にドット列を形成する。次に、被記録媒体を所定量搬送した後に、再びインクジェットヘッドを先と同じ方向に移動させながら、ノズル列の他端側(搬送方向下流側)の3つのノズル(ノズル群)からインクを噴射させ、前記上流側ノズル群によるドット列と隣接する位置に、ドット列を形成する。
【0005】
ここで、特許文献1の図9に示されるように、ノズル列が正規の方向に対して傾いている場合には、搬送方向上流側のノズル群によるドット列と、下流側のノズル群によるドット列との間に、ノズル列の傾きに応じた走査方向の位置ズレが発生する。そこで、特許文献1では、上流側のノズル群によるドット列と下流側のノズル群によるドット列との間の走査方向の離間距離(位置ズレ)を検出し、これに応じて、1列のノズル列を構成する複数のノズルの噴射タイミングをそれぞれ補正することで、ノズル列の傾きが画質に及ぼす影響を解消している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−39958号公報(図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、1列のノズル列の上流側ノズル群と下流側ノズル群によってそれぞれ形成される2つのドット列の走査方向の位置ズレは、全てノズル列の傾きに起因すると仮定して、前記位置ズレ量に応じてノズルの噴射タイミングを補正している。しかし、上記2つのドット列の位置ズレは、ノズル列の傾きとは別の要因によっても生じうる。
【0008】
具体的には、上記2つのドット列を形成する際に、インクジェットヘッドの液滴噴射面と被記録媒体とが平行でなく、上流側ノズル群と下流側ノズル群との間で被記録媒体との間の距離(ギャップ)が異なっていることがある。この場合、上流側ノズル群と下流側ノズル群とで、ノズルから液滴が噴射されてから被記録媒体に着弾するまでの液滴の飛翔時間に差が生じ、その結果、この飛翔時間の差に起因する着弾位置ずれが発生する。
【0009】
即ち、上流側ノズル群と下流側ノズル群によってそれぞれ形成される2つのドット列の走査方向の位置ズレには、上流側ノズル群と下流側ノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分も含むものであるから、この位置ズレ量からノズル列の傾きを正しく検出することはできない。
【0010】
本発明の目的は、1列のノズル列の2つのノズル群によって形成した、2本の直線(ドット列)の位置関係から、インクジェットヘッドのノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を抽出して、その傾きを正しく検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明のインクジェット記録装置は、インクの液滴を噴射する複数のノズルが所定のノズル配列方向に沿って配列された液滴噴射面を有し、前記液滴噴射面と平行で且つ前記ノズル配列方向と交差する走査方向に移動可能な、インクジェットヘッドと、前記液滴噴射面と対向して配置された被記録媒体を、前記インクジェットヘッドに対して、前記液滴噴射面と平行で且つ前記走査方向と交差する搬送方向に相対的に移動させる搬送手段と、前記インクジェットヘッドと前記搬送手段を制御して、前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面に平行な平面内での回転による、ノズル列の前記所定のノズル配列方向に対する傾きを検出するための傾き検出パターンを前記被記録媒体に形成する、パターン形成手段を有し、
前記パターン形成手段は、前記インクジェットヘッドが前記走査方向の一方に移動するときに、1列の前記ノズル列の一部分を構成する第1のノズル群と、前記1列のノズル列の前記第1のノズル群とは異なる部分を構成する第2のノズル群から、それぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第1の傾き検出パターンを形成し、前記インクジェットヘッドが前記走査方向の他方に移動するときに、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群からそれぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第2の傾き検出パターンを形成することを特徴とするものである。
【0012】
1列のノズル列を構成する2つの部分である、第1のノズル群と第2のノズル群からそれぞれ液滴を噴射して、2本の直線(ドット列)を形成したときに、実際のノズル列の方向が正規のノズル配列方向に対して傾いていると、その傾きに応じて2本の直線の走査方向の位置がずれる。従って、2本の直線の走査方向の位置関係からノズル列の傾きを検出できる。但し、第1のノズル群と第2のノズル群の間で、液滴噴射面と被記録媒体との距離(ギャップ)に差が存在する場合、このギャップの差も、前記2本の直線の位置関係を変化させる要因となる。
【0013】
ここで、ギャップが小さい方のノズル群から噴射された液滴は被記録媒体に早く着弾するために、このノズル群によって形成される直線の位置がヘッドの移動方向の上流側にずれるのに対して、ギャップが大きい方のノズル群によって形成される直線の位置はヘッドの移動方向下流側にずれる。従って、ノズル列が傾いている状態で、ギャップが小さいノズル群がギャップが大きいノズル群よりもヘッドの移動方向上流側に位置している場合には、そのギャップ差によって2本の直線の離間距離が広がるのに対し、ギャップが小さいノズル群がヘッドの移動方向下流側に位置している場合には、2本の直線の離間距離が狭まる。
【0014】
従って、パターン形成時におけるヘッドの移動方向が反対である、第1の傾き検出パターンと第2の傾き検出パターンでは、2本の直線の間の走査方向の位置関係(離間距離)に含まれている、第1のノズル群と第2のノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分が真逆の関係(ズレ量の絶対値が同じで向きが逆)となる。従って、これら2種類の傾き検出パターンを用いて、ギャップ差に起因する位置ズレ成分を相殺し、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を抽出することができ、その傾きを正しく検出することができる。
【0015】
また、上記とは逆に、2本の直線の間の、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分については、第1の傾き検出パターンと第2の傾き検出パターンで同じである。従って、2本の直線の間の走査方向の位置関係(離間距離)から、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を相殺して、第1のノズル群と第2のノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分を抽出し、上記ギャップ差を検出することもできる。
【0016】
第2の発明のインクジェット記録装置は、前記第1の発明において、前記パターン形成手段は、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンをそれぞれ形成する際に、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の片方から液滴を噴射させた後、残りのノズル群から液滴を噴射させる前に、前記搬送手段により前記被記録媒体を前記インクジェットヘッドに対して前記搬送方向に相対移動させることを特徴とするものである。
【0017】
1つのノズル列の異なる2つの部分である、2つのノズル群によってそれぞれ2本の直線を形成する間に、被記録媒体をヘッドに対して相対的に搬送することで、2つの直線の搬送方向位置を近づけることができ、ノズル列の傾きや2つのノズル群の間のギャップ差に起因する、2本の直線の走査方向の位置ズレを把握することが容易になる。
【0018】
第3の発明のインクジェット記録装置は、前記第2の発明において、前記パターン形成手段は、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンをそれぞれ形成する際に、前記第1のノズル群により形成される前記直線と前記第2のノズル群により形成される前記直線とが重なるように、前記第1ノズル群と前記第2ノズル群の液滴噴射タイミングを制御することを特徴とするものである。
【0019】
このように、第1のノズル群により形成される直線と第2のノズル群により形成される直線とが重なるように液滴噴射タイミングを制御することで、ノズル列の傾きやノズル群の間のギャップ差に起因する、2本の直線の走査方向の位置ズレを把握することが一層容易になる。
【0020】
第4の発明のインクジェット記録装置は、前記第3の発明において、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンとから、前記ノズル列の傾きを検出する傾き検出手段を備え、前記傾き検出手段は、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれについて、前記2本の直線間の前記走査方向の離間距離を求め、前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の和から、前記ノズル列の傾きを検出することを特徴とするものである。
【0021】
上述したように、パターン形成時におけるヘッドの移動方向が反対である、第1の傾き検出パターンと第2の傾き検出パターンでは、2本の直線の間の離間距離に含まれている、第1のノズル群と第2のノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分が真逆の関係となる。従って、傾き検出手段は、第1の傾き検出パターンの前記離間距離と第2の傾き検出パターンの前記離間距離の和をとることで、ギャップ差に起因する位置ズレ成分を相殺してノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を抽出でき、ノズル列の傾きを正しく検出できる。
【0022】
第5の発明のインクジェット記録装置は、前記第4の発明において、前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の差から、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の間での、前記液滴噴射面と前記被記録媒体とのギャップ差を検出する、ギャップ差検出手段を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
2本の直線の間の、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分については、第1の傾き検出パターンと第2の傾き検出パターンで同じである。従って、前記第4の発明とは逆に、ギャップ差検出手段は、第1の傾き検出パターンにおける前記離間距離と、第2の傾き検出パターンにおける前記離間距離の差をとることで、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を相殺して、第1のノズル群と第2のノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分を抽出でき、ノズル群の間のギャップ差を検出できる。
【0024】
第6の発明のインクジェット記録装置は、前記第3の発明において、前記パターン形成手段は、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンをそれぞれ形成する際に、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のうちの前記一方のノズル群により1本の前記直線を形成する一方で、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のうちの前記他方のノズル群により、前記ノズル列の傾きがなく、且つ、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の間での前記液滴噴射面と前記被記録媒体とのギャップ差もない場合に前記1本の直線と重なる基準直線を含み、前記走査方向位置が互いに異なる複数本の前記直線を形成することを特徴とするものである。
【0025】
本発明によれば、一方のノズル群によって1本の直線が形成される一方で、他方のノズル群により、基準直線を含む複数本の直線が形成される。また、他方のノズル群により形成される複数の直線の間隔は、それらを形成する際のヘッドの走査方向位置から把握できる。従って、他方のノズル群により形成される複数本の直線のうち、一方のノズル群により形成される1本の直線に最も近い直線を、前記1本の直線と重なっているとみなすことで、前記1本の直線と基準直線との走査方向の離間距離を簡易的に求めることができる。これにより、ノズル列の傾きを簡便に検出できる。
【0026】
第7の発明のインクジェット記録装置は、前記第6の発明において、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンとから、前記ノズル列の傾きを検出する傾き検出手段と、前記他方のノズル群によって形成された前記複数本の直線の中から、前記一方のノズル群により形成される前記1本の直線と前記走査方向に最も近い直線を選択して入力するための入力部とを備え、前記傾き検出手段は、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれについて、前記一方のノズル群により形成された前記1本の直線と、前記他方のノズル群により形成され且つ前記入力部により選択された直線とが重なるとみなし、これらの直線をそれぞれ形成する際の前記インクジェットヘッドの前記走査方向位置から、前記1本の直線と前記基準直線との前記走査方向における離間距離を求めることによって、前記ノズル列の傾きを検出することを特徴とするものである。
【0027】
本発明において、他方のノズル群により形成される複数本の直線のうち、一方のノズル群による1本の直線に最も近い直線が入力部から入力されると、傾き検出手段は、一方のノズル群により形成される1本の直線と、前記他方のノズル群により形成される、前記入力部から入力された直線とが重なっているとみなす。これによって、前記1本の直線と基準直線との走査方向の離間距離を簡易的に求めることができ、ノズル列の傾きを簡便に検出できる。
【0028】
第8の発明のインクジェット記録装置は、前記第1〜第7の何れかの発明において、前記パターン形成手段は、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれを形成する際に、前記1列のノズル列の、前記第1のノズル群及び前記第2のノズル群とそれぞれ異なる部分を構成する、第3のノズル群からも液滴を噴射させて、前記被記録媒体に互いに平行な3本の直線を形成することを特徴とするものである。
【0029】
被記録媒体の表面が平坦な面になるとは限らず、例えば、被記録媒体が載置されるプラテンと被記録媒体を搬送するローラの配置関係等の要因で、被記録媒体の搬送方向における中央部が少し盛り上がる、あるいは、凹んだ形状になることも考えられる。本発明では、1列のノズル列を構成する3つのノズル群からそれぞれ液滴を噴射させて3本の直線を形成することで、3つのノズル群間でのギャップ差をそれぞれ検出することが可能となる。これにより、1列のノズル列内での、液滴噴射面と被記録媒体間のギャップ差をより精度よく把握することができる。
【0030】
第9の発明のインクジェットヘッドの傾き検出方法は、インクの液滴を噴射する複数のノズルが所定のノズル配列方向に沿って配列された液滴噴射面を有し、前記液滴噴射面と平行で且つ前記ノズル配列方向と交差する走査方向に移動可能な、インクジェットヘッドと、前記液滴噴射面と対向して配置されて前記ノズルから噴射された液滴が着弾する被記録媒体を、前記インクジェットヘッドに対して、前記液滴噴射面と平行で且つ前記走査方向と交差する搬送方向に相対的に移動させる搬送手段とを備えたインクジェット記録装置において、前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面に平行な平面内での回転による、ノズル列の前記所定のノズル配列方向に対する傾きを検出する方法であって、
前記インクジェットヘッドが前記走査方向の一方に移動するときに、1列の前記ノズル列の一部分を構成する第1のノズル群と、前記1列のノズル列の前記第1のノズル群とは異なる部分を構成する第2のノズル群から、それぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第1の傾き検出パターンを形成する、第1パターン形成工程と、前記インクジェットヘッドが前記走査方向の他方に移動するときに、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群からそれぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第1の傾き検出パターンを形成する、第2パターン形成工程と、前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれについて、前記2本の直線間の前記走査方向の離間距離を求め、前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の和から、前記ノズル列の傾きを検出する傾き検出工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0031】
第1の傾き検出パターンの前記離間距離と第2の傾き検出パターンの前記離間距離の和をとることで、第1のノズル群と第2のノズル群によってそれぞれ形成される2本の直線の間の、ギャップ差に起因する位置ズレ成分を相殺し、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を抽出して、ヘッド(ノズル列)の傾きを正しく検出することができる。
【0032】
第10の発明のインクジェットヘッドの傾き検出方法は、前記第9の発明において、前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の差から、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の間での、前記液滴噴射面と前記被記録媒体とのギャップ差を検出する、ギャップ差検出工程を備えていることを特徴とするものである。
【0033】
第1の傾き検出パターンにおける前記離間距離と、第2の傾き検出パターンにおける前記離間距離の差をとることで、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を相殺して、第1のノズル群と第2のノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分を抽出し、ギャップ差を検出できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、パターン形成時におけるヘッドの移動方向が反対である、第1の傾き検出パターンと第2の傾き検出パターンを用いて、第1のノズル群と第2のノズル群によってそれぞれ形成される2本の直線の間の、ギャップ差に起因する位置ズレ成分を相殺し、ヘッド(ノズル列)の傾きに起因する位置ズレ成分を抽出することができ、傾きを正しく検出することができる。また、ノズル列の傾きに起因する位置ズレ成分を相殺して、第1のノズル群と第2のノズル群の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分を抽出し、ギャップ差を検出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態のインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】インクジェットプリンタの制御系を示すブロック図である。
【図3】第1パターン形成工程の説明図である。
【図4】第2パターン形成工程の説明図である。
【図5】ギャップ差が、2本の直線の位置ズレに及ぼす影響を説明する図である。
【図6】ギャップ算出の説明図である。
【図7】変更形態の傾き検出パターンを示す図である。
【図8】別の変更形態のインクジェットプリンタのブロック図である。
【図9】さらに別の変更形態の傾き検出パターンを示す図である。
【図10】さらに別の変更形態の傾き検出パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略平面図、図2は、インクジェットプリンタ1の制御系を示すブロック図である。図1、図2に示すように、インクジェットプリンタ1(インクジェット記録装置)は、記録用紙100が載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4と、記録用紙100を走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5(搬送手段)と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置8等を備えている。
【0037】
(プリンタの概略構成)
プラテン2の水平な上面には、被記録媒体である記録用紙100が載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10,11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙100と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12,13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されたときに、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行に伴って走査方向に移動する。
【0038】
尚、プリンタ1のプリンタ本体1aには、走査方向に間隔を空けて配列された多数の透光部(スリット)を有するリニアエンコーダ24が設けられている。一方、キャリッジ3には、発光素子と受光素子とを有する透過型光センサからなるフォトセンサ25が設けられている。そして、プリンタ1は、キャリッジ3の移動中にフォトセンサ25が検出したリニアエンコーダ24の透光部の計数値(検出回数)から、キャリッジ3(インクジェットヘッド4)の走査方向に関する現在位置を認識できるようになっている。
【0039】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に取り付けられている。このインクジェットヘッド4の下面(図1の紙面向こう側の面)は複数のノズル16が開口する液滴噴射面4a(図5参照)であり、この液滴噴射面4aはプラテン2の上面と平行であって、プラテン2上の記録用紙100と対向する。また、複数のノズル16は搬送方向に沿って配列されて、4色のインク(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)をそれぞれ噴射する4列のノズル列20を構成している。
【0040】
また、図1に示すように、プリンタ1のプリンタ本体1aにはホルダ9が固定的に設けられ、このホルダ9には、前記4列のノズル列20で噴射される4色のインクがそれぞれ貯留された4つのインクカートリッジ17が装着される。また、図示は省略するが、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4とホルダ9とが4本のチューブ(図示省略)で接続され、4つのインクカートリッジ17内のインクが、4本のチューブを介してインクジェットヘッド4にそれぞれ供給されるようになっている。そして、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16から、4色のインクをプラテン2に載置された記録用紙100に対して噴射する。
【0041】
搬送機構5は、搬送方向においてプラテン2及びキャリッジ3を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有する。これら2つの搬送ローラ18,19は、搬送モータ21(図2参照)によってそれぞれ回転駆動され、プラテン2に載置された記録用紙100を搬送方向に搬送する。
【0042】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙100に対して、キャリッジ3を走査方向(図1の左右方向)に移動させつつインクジェットヘッド4からインクを噴射させる一方で、2つの搬送ローラ18,19によって記録用紙100を搬送方向(図1の下方)に搬送することにより、記録用紙100に画像や文字を記録する。
【0043】
図2に示される制御装置8は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような種々の制御を行う。あるいは、制御装置8は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0044】
この制御装置8には、外部装置であるPC40やプリンタ1の操作パネル22から、記録動作に関する各種信号が入力される。また、制御装置8は、インクジェットヘッド4のインク噴射動作を制御するヘッド制御部31と、キャリッジ3を走査方向に駆動するキャリッジ駆動モータ15を制御するキャリッジ制御部32と、搬送ローラ18,19を駆動する搬送モータ21を制御する搬送制御部33とを含む、記録制御部30を有する。記録制御部30は、PC40から入力された画像データに基づき、インクジェットヘッド4、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5の搬送モータ21をそれぞれ制御して、記録用紙100への記録を行わせる。
【0045】
ところで、本実施形態のプリンタ1の製造時(組立時)に、インクジェットヘッド4が所定の正規の姿勢に対して、その液滴噴射面4aと平行な水平面(図1の紙面と平行な平面)内で傾いて(回転して)取り付けられることによって、ノズル列20の方向が本来のノズル配列方向(ここでは、搬送方向)に対して傾いてしまうことがある。例えば、インクジェットヘッド4がキャリッジ3に対して正規の姿勢に対して傾いた姿勢で取り付けられる、あるいは、インクジェットヘッド4を搭載したキャリッジ3自体が傾いた姿勢で2本のガイドレール10,11に取り付けられる場合などが考えられる。
【0046】
このようなノズル列20の傾きは記録用紙100上でのドット列の傾きとなって現れ、画質劣化を生じさせることから、ノズル列20の傾きを検出した上で、検出された傾きに応じて各種調整を行って画質への影響を小さく抑えることが好ましい。そこで、本実施形態のプリンタ1は、制御装置8の記録制御部30によって、インクジェットヘッド4、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5の搬送モータ21をそれぞれ制御することにより、上記ノズル列20の傾きを検出するための傾き検出パターンを記録用紙100に形成するように構成されている。尚、記録制御部30が、本願発明のパターン形成手段に相当する。
【0047】
(傾き検出の詳細)
以下、記録用紙100に形成する傾き検出パターンの詳細と、傾き形成パターンを用いた傾き検出手法について説明する。図3、図4は、傾き検出パターンの形成工程の説明図である。
【0048】
以下に説明する傾き形成パターンは、1列のノズル列20の異なる2つの部分をそれぞれ構成する、2つのノズル群(第1のノズル群41と第2のノズル群42)を用いて形成する。尚、本実施形態では、第1のノズル群41と第2のノズル群42として、1列のノズル列20の、搬送方向の上流側端部のノズル群41と搬送方向下流側端部のノズル群42を用いる。また、本実施形態では、2つのノズル群41,42を構成するノズル16の数は同一で、2つのノズル群41,42の長さは等しくなっている。また、2つのノズル群41,42のノズル列方向に沿った離間距離(図3、図4では、第1のノズル群41の中で最も搬送方向上流側に位置するノズル16と、第2のノズル群42の中で最も搬送方向上流側に位置するノズル16の間の距離)をLとする。
【0049】
(第1パターン形成工程)
まず、図3に示すように、インクジェットヘッド4を搭載したキャリッジ3を走査方向一方(fwd方向)に移動させながら、インクジェットヘッド4の第1のノズル群41を構成するノズル16から同時にインクを噴射させる。これにより、図3(a)のように、記録用紙100上に1本の直線51aが形成される。ここで、図のように、ノズル列20が、正規のノズル配列方向である搬送方向に対して傾いている場合には、その傾き(角度θ)だけ、直線51aも搬送方向に対して傾くことになる。次に、搬送機構5により、記録用紙100をインクジェットヘッド4に対して搬送方向に搬送した後、キャリッジ3を再び走査方向一方(fwd方向)に移動させながら、第2のノズル群42を構成するノズル16から同時にインクを噴射させる。これにより、図3(b)のように、記録用紙100上に、直線51aと平行な直線52aが形成される。つまり、Fwd方向へインクジェットヘッド4が移動する際に、2つのノズル群41,42により、2本の平行な直線51a,52aからなる第1の傾き検出パターン50aを形成する。
【0050】
尚、上述のように、第1のノズル群41による直線51の形成(図3(a))と、第2のノズル群42による直線52の形成(図3(b))の間において、記録用紙100を搬送方向に搬送することで、2本の直線51a,52aの搬送方向位置が近づけられる。
【0051】
特に、本実施形態においては、2つのノズル群41,42の離間距離Lだけ記録用紙100を搬送することで、図3(b)のように、2本の直線51,52の搬送方向位置を一致させる。さらに、ノズル列20が傾いていない正常な組付がなされている場合に2本の直線51a,52aの走査方向位置も一致して両者が重なるように、第1ノズル群41と第2ノズル群42の液滴噴射タイミングを制御する。具体的には、第1のノズル群41によって直線51aを形成するときと、第2のノズル群42によって直線52aを形成するときとで、ノズル16の液滴噴射タイミング(即ち、液滴噴射時の、フォトセンサ25で検出されるインクジェットヘッド4の走査方向位置)を一致させる。別の言い方をすれば、本来、図3(b)に示すように、直線51aと直線52aは重なって搬送方向と平行な直線55(二点鎖線で示す)となるはずであるが、ノズル列20が傾いているが故に直線51aと直線52aも傾き、且つ、両者の走査方向もずれることになる。
【0052】
(第2パターン形成工程)
さらに、前記第1パターン形成工程とは逆方向にインクジェットヘッド4を移動させながら、記録用紙100に第2の傾き検出パターン50bを形成する。即ち、図4(a)に示すように、インクジェットヘッド4を搭載したキャリッジ3を走査方向他方(rvs方向)に移動させながら、第1のノズル群41からインクを噴射させて、直線51bを形成する。その後、搬送機構5により、記録用紙100をインクジェットヘッド4に対して搬送方向に搬送した後、図4(b)に示すように、キャリッジ3を再び走査方向他方(Rvs方向)に移動させながら、第2のノズル群42からインクを噴射させて直線52bを形成する。つまり、rvs方向へインクジェットヘッド4が移動する際に、2つのノズル群41,42により、2本の平行な直線51b,52bからなる第2の傾き検出パターン50bを形成する。
【0053】
この第2パターン形成工程においても、ノズル列20が傾いていない正常な組付がなされている場合には、2本の直線51b,52bが重なるような制御を行う。即ち、直線51bの形成(図4(a))と直線52bの形成(図4(b))の間に、記録用紙100をノズル群41,42の離間距離Lだけ搬送するとともに、第1のノズル群41と第2のノズル群42の液滴噴射タイミングを一致させる。
【0054】
尚、上述した第1の傾き検出パターン50aと第2の傾き検出パターン50bは、実際には、以下の順序で形成すると効率的である。まず、ヘッド4をfwd方向とrvs方向で1往復させながら、第1のノズル群41により、第1の傾き検出パターン50aの直線51aと第2の傾き検出パターン50bの直線51bをそれぞれ形成する(図3(a)、図4(a))。次に、記録用紙100を離間距離Lだけ搬送した後、ヘッド4をfwd方向とrvs方向で1往復させながら、第2のノズル群42により、第1の傾き検出パターン50aの直線52aと第2の傾き検出パターン50bの直線52bをそれぞれ形成する(図3(a)、図4(a))。
【0055】
(傾き検出工程)
次に、記録用紙100に記録された、上述の第1の傾き検出パターン50aと第2の傾き検出パターン50bのそれぞれについて、2本の直線51a(51b),52a(52b)間の走査方向離間距離X1(X2)を検出し、検出されたX1(X2)を用いてノズル列20の傾きθを求める。この離間距離X1(X2)は、例えば、光学式センサ等を有する専用の検査装置で検出してもよいし、あるいは、高解像度カメラで傾き検出パターン50a(50b)を撮像し、画像解析によって離間距離X1(X2)を検出してもよい。
【0056】
ノズル列20に傾きがある場合には、図3(b)、図4(b)に示すように、2本の直線51,52の走査方向の位置がずれるが、その2本の直線51,52の位置ズレ(走査方向離間距離)X1(X2)は、2つのノズル群41,42の走査方向における離間距離に等しく、X1(X2)=Lsinθとなる。また、このことから明らかであるが、ノズル列20の傾きに起因する2本の直線51,52の位置ズレは、インクジェットヘッド4の移動方向(fwd方向かrvs方向であるか)には関係せず、ノズル列20の傾きのみの要因で2本の直線51,52の位置ズレが生じているのであれば、X1=X2となる。
【0057】
しかしながら、2つのノズル群41,42の間で、液滴噴射面4aと記録用紙100のギャップに差がある場合がある。例えば、組付誤差等に起因して、図1に示されるプラテン2が水平面に対して傾いている、あるいは、プラテン2を搬送方向に挟む2つの搬送ローラ18,19の高さ位置が僅かに異なっているような場合である。そして、このような2つのノズル群41,42の間のギャップ差によっても2本の直線51,52の走査方向位置が変化する。図5は、ギャップ差が、2本の直線51,52の位置ズレに及ぼす影響を説明する図である。以下では、図5(a)に示すように、搬送方向上流側に位置する第1のノズル群41における、液滴噴射面4aと記録用紙100のギャップg1が所定の基準値g0よりも小さく、搬送方向下流側に位置する第2のノズル群42におけるギャップg2が前記基準値g0よりも大きい場合を例に挙げて説明する。
【0058】
液滴噴射面4aと記録用紙100との間のギャップが小さいほど、ノズル16から噴射されたインクの液滴は記録用紙100に早く着弾する。そのため、図5(b)に示すように、ギャップが小さい第1のノズル群41によって形成される直線51の位置は、ギャップが基準値g0であるときの位置(二点鎖線の位置)と比べて、インクジェットヘッド4の移動方向の上流側にずれる。逆に、ギャップが大きい第2のノズル群42によって形成される直線52の位置は、ギャップが基準値g0であるときの位置と比べて、インクジェットヘッド4の移動方向の下流側にずれる。
【0059】
そして、図3、図4のようにノズル列20が傾いている状態では、インクジェットヘッド4がfwd方向に移動する場合(第1パターン形成工程)には、ギャップが小さい第1のノズル群41が、ギャップが大きい第2のノズル群42よりも、ヘッド4の移動方向上流側に位置していることから、図5(b)の左図に示すように、ギャップ差の存在によって2本の直線51a,52aの離間距離X1が広がる。逆に、インクジェットヘッド4がrvs方向に移動する場合(第2パターン形成工程)では、図5(b)の右図に示すように、ギャップ差の存在によって2本の直線51b,52bの離間距離X2が狭まる。つまり、第1の傾き検出パターン50aと、第2の傾き検出パターン50bとで、2本の直線51,52の間の離間距離X1(X2)に含まれる、第1のノズル群41と第2のノズル群42の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分は逆の関係となる。即ち、X1=Lsinθ−p、X2=Lsinθ+pとなる(但し、pは、ギャップ差に起因する2本の直線の位置ズレ成分)。
【0060】
従って、第1の傾き検出パターン50aにおける2本の直線51a,52aの離間距離X1と、第2の傾き検出パターン50bにおける2本の直線51b,52bの離間距離X2の和を取ることで、ギャップ差に起因する位置ズレ成分pを相殺できる。即ち、Lsinθ=(X1+X2)/2となり、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分(Lsinθ)のみを抽出でき、また、Lが既知であるから、傾き角度θを求めることができる。尚、上記式からも分かるように、2つのノズル群41,42の離間距離Lが大きいほど、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分が大きくなるため検出精度が上がる。そのため、本実施形態では、2つのノズル群41,42が、前記離間距離Lが最大となるようにノズル列20の両端部のノズル群に設定されている。
【0061】
このように、ノズル列20の傾き角度θが求まれば、このθに応じて、ノズル列20の方向が搬送方向と平行となるように、インクジェットヘッド4の傾き、あるいは、ヘッド4を搭載したキャリッジ3自体の傾き(取り付け角度)を調整することができる。あるいは、ノズル列20の傾きはそのままとし、この傾きに応じて、このノズル列20を構成する複数のノズル16の個々の液滴噴射タイミングを調整してもよい。尚、傾きの角度θまで求めずとも、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分(Lsinθ)の値に応じて、ヘッド4の傾き調整やノズル16の液滴噴射タイミングの調整を行ってもよい。
【0062】
(ギャップ差検出工程)
上述したように、2本の直線51,52の間の、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分Lsinθは、第1の傾き検出パターン50aと第2の傾き検出パターン50bで同じである。従って、上記の傾き検出とは逆に、第1の傾き検出パターン50aにおける2本の直線51a,52aの離間距離X1と、第2の傾き検出パターン50bにおける2本の直線51b,52bの離間距離X2の差をとることで、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分を相殺できる。即ち、p=|X1−X2|/2となり、第1のノズル群41と第2のノズル群42の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分pを抽出できる。
【0063】
尚、ノズル群41,42におけるギャップg1,g2は、位置ズレ成分pから以下のようにして求められる。図6はギャップ算出の説明図である。図6は、インクジェットヘッド4がfwd方向に移動しているときに、記録用紙100とのギャップがg1である第1のノズル群41から液滴を噴射させた状態を示している。図6において、仮に第1のノズル群41のギャップが基準値g0であるとすると、第1のノズル群41のノズル16から噴射された液滴Dは、fwd方向の速度成分を有することから、ノズル16の直下の位置から距離Aだけfwd方向にずれた位置に着弾する。この距離Aは、予め求められた液滴速度とギャップの基準値g0から求まる、液滴が着弾するまでの飛翔時間に、キャリッジ3の移動速度を掛け合わせることで、簡易的に求められる。これに対して、第1のノズル群41におけるギャップがg1であると、液滴Dの着弾位置が、先に抽出された位置ズレ成分pの半分(p/2)だけずれる。そして、図6において、g0、A、p/2が既知であることから、三角形の相似の関係からギャップg1を求めることができる。また、第2のノズル群42についても同様にしてギャップg2を求めることができる。従って、ギャップ差|g1−g2|が求められる。
【0064】
そして、このギャップ差が解消されるように、プラテン2の傾きや2つの搬送ローラ18,19の高さ位置等を調整するなどしてギャップ調整を行う。尚、先に説明したヘッド4の傾き調整と同様に、ギャップ差そのものを求めずとも、ギャップ差に起因する位置ズレ成分pの値に応じて、ギャップ調整を行ってもよい。
【0065】
以上説明した本発明の実施形態によれば、インクジェットヘッド4を走査方向一方へ移動させて記録用紙100に第1の傾き検出パターン50aを形成し、さらに、走査方向他方へも移動させて第2の傾き検出パターン50bを形成する。これら2つの傾き検出パターン50a,50bによって、2本の直線51,52の離間距離に含まれている、2つのノズル群41,42の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分pを相殺し、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分Lsinθを抽出することができる。これにより、ノズル列20の傾きθを正しく検出できる。また、逆に、ノズル列20の傾きに起因する位置ズレ成分Lsinθを相殺して、第1のノズル群41と第2のノズル群42の間のギャップ差に起因する位置ズレ成分pを抽出することもでき、ギャップ差を正しく検出できる。
【0066】
また、第1パターン形成工程と第2パターン形成工程のそれぞれについて、第1のノズル群41による直線51の形成(図3(a))と、第2のノズル群42による直線52の形成(図3(b))の間に、記録用紙100を搬送方向に搬送することで、2本の直線51,52の搬送方向位置を近づけることができる。特に、その搬送量を、2つのノズル群41,42の離間距離Lとすることで、2本の直線51,52の搬送方向位置を完全に一致させることができる。さらに、2本の直線51,52の走査方向位置を一致させて両者が重なるように液滴噴射タイミングを制御することで、ノズル列20の傾きやノズル群41,42の間のギャップ差に起因する、2本の直線51,52の走査方向の位置ズレを検出することが非常に容易になる。
【0067】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態とほぼ同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0068】
1]前記実施形態では、傾き検出パターン50の2本の直線51,52が重なるように、2つのノズル群41,42の液滴噴射タイミングが制御されていたが、初めから2本の直線41,42が走査方向に所定距離X0だけ離間するように液滴噴射タイミングが制御されてもよい。この場合、前記実施形態と同じように離間距離X1,X2を検出した後、これらX1とX2の和からさらに上記離間距離X0を引いた上で、ノズル列20の傾きを求めればよい。
【0069】
2]図7に示すように、傾き検出パターン50a(50b)の2本の直線51a(51b),52a(52b)の、搬送方向位置が離れていても、これら2本の直線51,52の走査方向の離間距離X1(X2)を検出することは可能である。従って、2本の直線51,52を形成する間に記録用紙100を搬送せず、2本の直線51,52をインクジェットヘッド4の1回の走査で一度に形成することも可能である。
【0070】
3]インクジェットプリンタ1が、記録用紙100に傾き検出パターンを形成するだけでなく、その傾き検出パターンからノズル列20の傾きを検出することが可能に構成されてもよい。
【0071】
例えば、図8のブロック図に示す例では、インクジェットプリンタ1は、記録用紙100に形成された傾き検出パターン50a,50bを読み取るイメージスキャナ26を有する(いわゆる複合機)。さらに、制御装置8は、イメージスキャナ26で読み取られた傾き検出パターンの画像データから、2本の直線51,52の離間距離を検出し、ノズル列20の傾きを検出する傾き検出部34(傾き検出手段)を有する。より具体的には、傾き検出部34は、第1の傾き検出パターン50aにおける2本の直線51a,52aの離間距離X1と、第2の傾き検出パターン50bにおける2本の直線51b,52bの離間距離X2の和から、ノズル列20の傾きを検出する。このように、プリンタ1側でノズル列20の傾きが検出される場合には、続けて、ノズル列20の傾きに応じて、ノズル列20を構成する複数のノズル16の液滴噴射タイミングを調整することが可能となる。また、上記離間距離X1と離間距離X2の差から、2つのノズル群41,42のギャップ差を検出するギャップ差検出部35(ギャップ差検出手段)をさらに有するものであってもよい。
【0072】
4]第1のノズル群41と第2のノズル群42の何れか一方によって1本の直線を形成する一方で、他方のノズル群によって、走査方向位置が互いに異なる複数本の直線を形成してもよい。図9は、第1のノズル群41によって1本の直線51aを形成し、第2のノズル群42によって3本の直線52a0,52a1,52a2を等間隔で形成している例である。尚、3本の直線52a0,52a1,52a2のうち、中央の1本の直線52a0は、正規の状態(ノズル列20の傾きや2つのノズル群41,42の間のギャップ差がない状態)において、第1のノズル群41による1本の直線51aと重なる直線(基準直線)である。
【0073】
この場合、第2のノズル群42により形成される3本の直線52a0,52a1,52a2の間隔Bは、それらを形成する際の液滴噴射タイミング(ヘッド4の走査方向位置)から予め分かっている。従って、第2のノズル群42により形成される3本の直線52a0,52a1,52a2のうち、第1のノズル群41により形成される1本の直線51aに最も近い直線(図9では右端の直線52a2)を、前記1本の直線51aと重なっているとみなすことで、前記1本の直線51aと基準直線52a0との走査方向の離間距離を、間隔Bに等しいとみなして簡易的に求めることができる。これにより、ノズル列20の傾きを簡便に検出できる。
【0074】
上記変更形態は、プリンタ1で形成された傾き検出パターンを、プリンタ1のユーザーがチェックすることによって、2本の直線51,52の離間距離を検出する場合に特に適している。即ち、ユーザーが傾き検出パターンを肉眼でチェックする場合には、図3や図4に示される2本の直線51,52の離間距離を精度よく検出することは難しい。そこで、図9の傾き検出パターンから、ユーザーが、第2のノズル群42により形成された3本の直線52a0,52a1,52a2のうち、第1のノズル群41により形成された1本の直線51aに最も近い直線(図9では右端の直線52a2)を選択するようにすればチェックが容易となる。そして、ユーザーによって選択された直線がプリンタ1の操作パネル22(図8参照)等の入力部から入力されることによって、プリンタ1の傾き検出部34がノズル列20の傾きを簡易的に検出することができるようになる。
【0075】
5]前記実施形態においては、1列のノズル列20の2箇所の位置(2つのノズル群41,42)の間のギャップ差が求められるが、記録用紙100の表面が平坦でなく、例えば反った形状になっていることもある。例えば、記録用紙100が載置されるプラテン2の上面が、2つの搬送ローラ18,19を含む平面よりもやや上方又は下方に位置していると、記録用紙100の搬送方向における中央部が少し盛り上がる、あるいは、凹んだ形状になることがある。このような場合には、ノズル列20の3箇所以上の位置でギャップが検出されることが好ましい。
【0076】
そこで、図10に示すように、第1のノズル群41と第2のノズル群42に加え、これらノズル群41,42の間に位置する第3のノズル群43も用いて、3本の直線51,52,53からなる傾き検出パターン60を形成してもよい。これにより、3つのノズル群41,42,43間のギャップ差をそれぞれ検出することができるようになる。このように、1列のノズル列20内での、ギャップ差を検出する位置が増えることで、検出精度が上がる。尚、4以上のノズル群を用いて傾き検出パターンを形成してもよい。
【0077】
6]前記実施形態は、複数のノズル16が搬送方向に沿って配列された構成を前提として、ノズル列20の、正規のノズル配列方向である搬送方向に対する傾きを検出するものであったが、複数のノズル16の正規の配列方向自体が、搬送方向に対して90度未満の角度で交差した構成であってもよい。
【0078】
7]前記実施形態では、搬送機構5により記録用紙100が搬送方向に搬送される構成であったが、インクジェットヘッド4が走査方向に移動するだけでなく、走査方向と交差する方向(搬送方向)にも移動可能に構成され、インクジェットヘッド4が記録用紙100に対して移動することによって、記録用紙100とインクジェットヘッド4との間に相対的な搬送が実現される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 インクジェットプリンタ
3 キャリッジ
4 インクジェットヘッド
4a 液滴噴射面
5 搬送機構
16 ノズル
20 ノズル列
22 操作パネル
25 フォトセンサ
26 イメージスキャナ
30 記録制御部
34 傾き検出部
35 ギャップ差検出部
41 第1のノズル群
42 第2のノズル群
43 第3のノズル群
50a 第1の傾き検出パターン
50b 第2の傾き検出パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの液滴を噴射する複数のノズルが所定のノズル配列方向に沿って配列された液滴噴射面を有し、前記液滴噴射面と平行で且つ前記ノズル配列方向と交差する走査方向に移動可能な、インクジェットヘッドと、
前記液滴噴射面と対向して配置された被記録媒体を、前記インクジェットヘッドに対して、前記液滴噴射面と平行で且つ前記走査方向と交差する搬送方向に相対的に移動させる搬送手段と、
前記インクジェットヘッドと前記搬送手段を制御して、前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面に平行な平面内での回転による、ノズル列の前記所定のノズル配列方向に対する傾きを検出するための傾き検出パターンを前記被記録媒体に形成する、パターン形成手段を有し、
前記パターン形成手段は、
前記インクジェットヘッドが前記走査方向の一方に移動するときに、1列の前記ノズル列の一部分を構成する第1のノズル群と、前記1列のノズル列の前記第1のノズル群とは異なる部分を構成する第2のノズル群から、それぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第1の傾き検出パターンを形成し、
前記インクジェットヘッドが前記走査方向の他方に移動するときに、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群からそれぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第2の傾き検出パターンを形成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記パターン形成手段は、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンをそれぞれ形成する際に、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の片方から液滴を噴射させた後、残りのノズル群から液滴を噴射させる前に、前記搬送手段により前記被記録媒体を前記インクジェットヘッドに対して前記搬送方向に相対移動させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記パターン形成手段は、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンをそれぞれ形成する際に、前記第1のノズル群により形成される前記直線と前記第2のノズル群により形成される前記直線とが重なるように、前記第1ノズル群と前記第2ノズル群の液滴噴射タイミングを制御することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンとから、前記ノズル列の傾きを検出する傾き検出手段を備え、
前記傾き検出手段は、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれについて、前記2本の直線間の前記走査方向の離間距離を求め、前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の和から、前記ノズル列の傾きを検出することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の差から、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の間での、前記液滴噴射面と前記被記録媒体とのギャップ差を検出する、ギャップ差検出手段を備えていることを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッドの傾き検出方法。
【請求項6】
前記パターン形成手段は、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンをそれぞれ形成する際に、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のうちの前記一方のノズル群により1本の前記直線を形成する一方で、
前記第1のノズル群と前記第2のノズル群のうちの前記他方のノズル群により、前記ノズル列の傾きがなく、且つ、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の間での前記液滴噴射面と前記被記録媒体とのギャップ差もない場合に前記1本の直線と重なる基準直線を含み、前記走査方向位置が互いに異なる複数本の前記直線を形成することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンとから、前記ノズル列の傾きを検出する傾き検出手段と、
前記他方のノズル群によって形成された前記複数本の直線の中から、前記一方のノズル群により形成される前記1本の直線と前記走査方向に最も近い直線を選択して入力するための入力部とを備え、
前記傾き検出手段は、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれについて、
前記一方のノズル群により形成された前記1本の直線と、前記他方のノズル群により形成され且つ前記入力部により選択された直線とが重なるとみなし、これらの直線をそれぞれ形成する際の前記インクジェットヘッドの前記走査方向位置から、前記1本の直線と前記基準直線との前記走査方向における離間距離を求めることによって、前記ノズル列の傾きを検出することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記パターン形成手段は、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれを形成する際に、
前記1列のノズル列の、前記第1のノズル群及び前記第2のノズル群とそれぞれ異なる部分を構成する、第3のノズル群からも液滴を噴射させて、前記被記録媒体に互いに平行な3本の直線を形成することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
インクの液滴を噴射する複数のノズルが所定のノズル配列方向に沿って配列された液滴噴射面を有し、前記液滴噴射面と平行で且つ前記ノズル配列方向と交差する走査方向に移動可能な、インクジェットヘッドと、前記液滴噴射面と対向して配置されて前記ノズルから噴射された液滴が着弾する被記録媒体を、前記インクジェットヘッドに対して、前記液滴噴射面と平行で且つ前記走査方向と交差する搬送方向に相対的に移動させる搬送手段とを備えたインクジェット記録装置において、
前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面に平行な平面内での回転による、ノズル列の前記所定のノズル配列方向に対する傾きを検出する方法であって、
前記インクジェットヘッドが前記走査方向の一方に移動するときに、1列の前記ノズル列の一部分を構成する第1のノズル群と、前記1列のノズル列の前記第1のノズル群とは異なる部分を構成する第2のノズル群から、それぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第1の傾き検出パターンを形成する、第1パターン形成工程と、
前記インクジェットヘッドが前記走査方向の他方に移動するときに、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群からそれぞれ液滴を噴射させて、前記被記録媒体に平行な2本の直線からなる第1の傾き検出パターンを形成する、第2パターン形成工程と、
前記第1の傾き検出パターンと前記第2の傾き検出パターンのそれぞれについて、前記2本の直線間の前記走査方向の離間距離を求め、前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の和から、前記ノズル列の傾きを検出することを特徴とするインクジェットヘッドの傾き検出方法。
【請求項10】
前記第1の傾き検出パターンの前記離間距離と前記第2の傾き検出パターンの前記離間距離の差から、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の間での、前記液滴噴射面と前記被記録媒体とのギャップ差を検出する、ギャップ差検出工程を備えていることを特徴とする請求項9に記載のインクジェットヘッドの傾き検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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