説明

インクジェット記録装置

【課題】 防水、防塵性能が要求されるような過酷な使用環境において、印字ヘッド内部に液体や塵埃が進入することで発生する不具合を予防し、特別なメンテナンスを必要とせずに、装置の正常な状態を維持できるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 ノズルより噴出されたインク粒子に文字信号となる帯電電圧を印加する帯電電極と、帯電電極により帯電電圧を印加されたインク粒子に電荷を付与し、飛翔方向を偏向させる偏向電極と、ノズル、帯電電極及び偏向電極を覆う印字ヘッドカバーが備えられた印字ヘッドより噴出されたインク粒子により印字対象物に文字を形成する荷電制御型インクジェット記録装置において、印字ヘッドカバーには、ノズルより噴出されたインク粒子を通過させるための開口部が開口されているとともに、開口部を遮蔽するための遮蔽機構が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電制御型インクジェット記録装置の印字ヘッドの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、現在、あらゆる業種の製品に対して製造ロット番号や製造日、賞味期限などの文字を印字するといった用途に広く用いられている。業種が多岐に渡ることから使用される環境も様々であり、その中には食品や飲料の生産ラインに設置され、その生産ライン洗浄用の液体がかかるような環境や、木材加工、プラスチックパイプ加工ラインなどの塵埃の非常に多い環境など、インクジェット記録装置に対して過酷な環境もある。そのため、近年のインクジェット記録装置は防水、防塵性能を持つものが一般的となっている。
【0003】
このような状況の中で、防水、防塵性能を確保する上で問題となるのが、印字ヘッド部の開口部である。インクジェット記録装置においては、原理的にインク粒子を印字ヘッド外に噴出する必要があり、この開口部は必ず必要となる。従来は特開2006−341529号公報(特許文献1)に示されるように、この開口部を極力少なく、小さくすることで、水や塵埃の浸入を極力減らす構造としていた。しかし、インクジェット記録装置本体側の防塵、防水性能が上がるにつれて、使用される環境も厳しいものとなってきているため、この開口部が無視できなくなってきている。
【0004】
そのような厳しい環境で発生する問題としては、顧客の生産ライン洗浄用の液体がこの開口部から印字ヘッド内部に侵入し、ノズルや電極部に付着することで、正常なインクの噴出ができない場合や、電極に電圧を印加した際に、付着した液体を通して電極間がショートした状態となり、装置が正常に動作できなくなる場合がある。
【0005】
その他にも、塵埃の多い環境では、インクの噴出を行っていない間に、ノズルに塵埃が侵入し、ノズルが詰まりインクを正常に噴出できなくなる場合や、印字に使用しないインク粒子を回収するガター部から塵埃が侵入することで、インク粒子の回収ができなくなる場合や、インク循環経路に異物が混入することで装置全体の動作に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
【特許文献1】特開2006−341529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のインクジェット記録装置では、食品、飲料などの生産ラインで、ライン洗浄時に液体がかかるような環境や、木材加工、プラスチックパイプ加工ラインなど塵埃の非常の多い環境で使用される場合には、印字ヘッド内部に液体や塵埃が進入することで、装置が正常に印字が行えない状態となることがある。その状態を回避するためには、ライン稼動の度に手作業により印字ヘッド内部や、ノズルの洗浄を行う必要があり、その結果、段取り時間の増加に繋がり、生産効率の低下を招くといった問題がある。
【0008】
本発明は、高い防水、防塵性能を要求されるような過酷な使用環境においても、印字ヘッド内部への液体や塵埃の侵入を防止するインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、例えば、本体から供給されたインクを加圧して噴出するノズルと、前記ノズルより噴出されたインク粒子に文字信号となる帯電電圧を印加する帯電電極と、前記帯電電極により帯電電圧を印加されたインク粒子に電荷を付与し、飛翔方向を偏向させる偏向電極と、前記ノズル、前記帯電電極及び前記偏向電極を覆う印字ヘッドカバーが備えられた前記印字ヘッドより噴出されたインク粒子により印字対象物に文字を形成する荷電制御型インクジェット記録装置において、前記印字ヘッドカバーには、前記ノズルより噴出されたインク粒子を通過させるための開口部が開口されているとともに、前記開口部を遮蔽するための遮蔽機構が備えられているという構成をとる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い防水、防塵性能を要求されるような過酷な使用環境においても、その環境が原因で発生する印字ヘッドのメンテナンスが不要となり、生産ラインのダウンタイムを最小限に抑えられるインクジェット記録装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施の形態例を、図を用いて説明する。図1は本発明におけるインクジェット記録装置の全体構成を示した図である。インクジェット記録装置は大きく分けて本体101と印字ヘッド102から構成される。印字ヘッド102には印字ヘッドカバー103が取り付けられており、印字ヘッドのメンテナンスは、この印字ヘッドカバー103を取り外して行う。通常の使用時は、印字ヘッドカバー103は取り付けられたままであり、印字の際には、インク粒子が印字ヘッドカバー103上に設けられた開口部104を通って、印字対象物115に到達することで文字が印字される。
【0012】
図2は本発明における印字ヘッドの構成を示した図である。印字ヘッド内部は、インクを粒子化して噴出するノズル105、インク粒子に文字信号となる帯電電圧を印加するための帯電電極106、帯電されたインク粒子を電界により偏向させるための偏向電極107、印字に使用しないインク粒子を回収するためのガター108から構成される。
【0013】
印字に使用するインク粒子は印字ヘッドカバー103に設けられた開口部104を通って、印字ヘッド102の外へ噴出される。従来の課題は、この開口部104から液体や塵埃が印字ヘッド内部に侵入し、ノズル105を詰まらせたり、帯電電極106、偏向電極107に付着して、電極間のショートを引き起こしたり、ガター108からインク循環経路内に異物が混入したりすることにある。
【0014】
そこで、本課題を解決するための手段として、開口部104を塞ぐシャッター機構を印字ヘッド部に持つ構造を発明した。開口部104を塞ぐシャッター機構としては、例えば、図2に示すような凸形状の突起を持つキャップ状の部品110を使用して、ユーザーが任意に開口部を塞ぐことができる構造が考えられる。その他には、図3に示すような印字ヘッドカバー103に密接するように、ガター108の先にスライド式の板109を設ける構造が考えられる。このスライド式の板を手動により開閉できる構造としておけば、ユーザーはインクジェット記録装置の稼動終了後にそのスライド式の板を閉じ、稼動開始時に再び開けることで、インクジェット記録装置の非稼動時における印字ヘッド内部の防水、防塵を実現することが可能となる。
【0015】
手動式の場合には、インク停止処理完了後に表示装置120にキャップ110もしくはシャッター109を閉る旨の警告メッセージ表示を行うことで、キャップの付け忘れ、シャッターの閉め忘れを防止することが可能である。逆に、インク噴出処理が選択された場合には、キャップ110もしくはシャッター109が開いていることを確認するメッセージ表示を行うことで、キャップ110の外し忘れやシャッター109の開き忘れも防止できる。
【0016】
これらの機構を設ける際に考慮が必要な点として、ヘッド内部には高電圧が印加されている偏向電極があるために、その電極との十分な距離を確保する必要がある。また、材質の選定に当たっては、耐溶剤性を有するプラスチック、ゴム、金属などの材料を選ぶ必要がある。
【0017】
その他の実施例として、図3に示したシャッター機構109に電磁式のシャッターなど電気的に開閉制御可能な機構を使用したものが考えられる。これにより開閉動作の自動化が可能となり、装置の稼動状態に合わせた開閉動作の最適化が実現でき、手動式に比べ防水、防塵の効果を高めることができる。また、手動式におけるユーザーの開閉動作し忘れによる2次的な問題の発生を防ぐことができる。
【0018】
図4は本実施例の構成を示すブロック図である。始めに制御部の構成概要を説明する。116はインクジェット記録装置全体を制御するMPU(マイクロプロセシングユニット)であり、122はMPUが動作するのに必要な制御用プログラム及びデータを記憶するROM(読み出し専用メモリ)、123はプログラム実行中に必要となるデータを一時的に記憶するRAM(書き換え可能なメモリ)である。124はプログラムや印字データなどを記憶する記憶装置である。
【0019】
119は印字内容や設定値等を入力する入力パネル、120は入力されたデータ及び印字内容等を表示する表示装置、125はMPUのデータ信号、アドレス信号及びコントロール信号を伝送するバスラインである。118はインクを粒子化するための電圧を発生させるための励振電圧発生回路であり、117はインク粒子に文字信号に応じた電圧を発生させるための帯電電圧発生回路である。121が本発明におけるシャッター機構を電気的に動作させるための制御回路である。
【0020】
次に印字、インク循環部の構成概要を説明する。ノズル105から噴出されるインクは、励振電圧発生回路118で生成される励振電圧により、ノズルの電歪素子で粒子化されインク粒子112となる。帯電電圧発生回路117により生成された電圧は、帯電電極106に与えられ、インク粒子は文字信号に応じた電圧により帯電される。帯電されたインク粒子112は、偏向電極107により作られる電界中を飛行し、その帯電量に応じて偏向され、搬送用コンベア114により移動する被印字物113に到達し、文字を形成する。印字に使用しないインク粒子は、インク回収用のガター108により回収され、ポンプ115により再びノズル109へ供給される。
【0021】
図4に示す構成としたときの具体的な開閉動作の制御タイミングとしては、例えば、ノズルからのインク噴出の有無により制御することが考えられる。インクジェット記録装置の状態はMPU116にて制御されているため、シャッター制御回路121に開閉の指示信号を出力することで、ノズルからインクが噴出されていないときには、シャッター機構を閉じておき、ユーザーがインク噴出の操作を行った場合に、シャッターを自動的に開くといった制御が実現できる。また、ユーザーがインク噴出停止の処理を行ったときには、再びシャッターを閉じれば良い。
【0022】
さらに細かい開閉動作を実現する方法として、偏向電極107への偏向電圧印加の有無により制御する方式が考えられる。通常、インクジェット記録装置においては、印字対象物を検出するセンサからの入力信号を検知して、その信号毎に印字を行う。センサからの信号を検知して、瞬時に印字を行うためには、偏向電圧は印加した状態で待機し、帯電電圧を印加したインク粒子のみが偏向され、印字に使用される。そのため、偏向電圧が印加された場合のみシャッターを開く制御を行うことで、ウォームアップ動作や異常発生時など、ノズルからインクが噴出されているが、印字待機の状態になっていない場合には、シャッターを閉じて、防水、防塵の状態を維持できる。上述したインク噴出の有無と同様にMPU116から高圧電源制御回路126に指示する偏向電圧の印加有無に応じて、シャッター制御回路121に開閉の指示信号を出力すればよい。
【0023】
これらの電磁式のシャッター機構を使用する場合には、インクジェット記録装置の非通電時にもシャッター機構は閉じておく必要があるため、非通電で閉じるシャッター機構とする必要がある。このように構成することで、電力事情の悪い環境などにおける停電発生時にも、即座にシャッターが閉じられるために、制御不能となったノズルからインクが漏れて、滴下したインクが顧客のラインや、印字対象物を汚すことも最小限に留めることが可能となる。
【0024】
以上、上述した構成とすることで、印字ヘッド内部への液体や塵埃の侵入を防止することが可能なインクジェット記録装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施例に係るインクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本実施例に係る印字ヘッド内部の構成の一例を示す図である。
【図3】本実施例に係る印字ヘッド内部の構成の一例を示す図である。
【図4】本実施例にかかるインクジェット記録装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
101…インクジェット記録装置本体、102…印字ヘッド、103…印字ヘッドカバー、104…印字ヘッドカバー開口部、105…印字ノズル、106…帯電電極、107…偏向電極、108…ガター、109…シャッター、110…キャップ、111…高圧電源、112…インク粒子、113…印字対象物、114…コンベア、115…ポンプ、116…MPU、117…帯電電圧発生回路、118…励振電圧発生回路、119…入力パネル、120…表示装置、121…シャッター制御回路、122…ROM、123…RAM、124…記憶装置、125…バスライン、126…高圧電源制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体から供給されたインクを加圧して噴出するノズルと、前記ノズルより噴出されたインク粒子に文字信号となる帯電電圧を印加する帯電電極と、前記帯電電極により帯電電圧を印加されたインク粒子に電荷を付与し、飛翔方向を偏向させる偏向電極と、前記ノズル、前記帯電電極及び前記偏向電極を覆う印字ヘッドカバーが備えられた前記印字ヘッドより噴出されたインク粒子により印字対象物に文字を形成する荷電制御型インクジェット記録装置において、
前記印字ヘッドカバーには、前記ノズルより噴出されたインク粒子を通過させるための開口部が開口されているとともに、前記開口部を遮蔽するための遮蔽機構が備えられていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記遮蔽機構は、前記印字ヘッドカバーの外部より前記開口部に挿入する凸部を有する部材であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記遮蔽機構は、前記印字ヘッドカバーに設けられた前記開口部を開閉自在のシャッター機構であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記遮蔽機構のうち前記開口部を塞ぐ部材は、耐溶剤性を有しているとともに、プラスチック又はゴムであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記シャッター機構の開閉は、前記ノズルからのインク粒子の噴出の有無に連動して行われることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記シャッター機構の開閉は、前記偏向電極における偏向電圧の有無に連動して行なわれることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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