説明

インクジェット記録装置

【課題】記録ヘッドに新たな構成を設けることなく、記録ヘッドの異常が発生した場合にその旨を早期に検出する。
【解決手段】画像データに基づいて生成された吐出制御信号に従ってインクを吐出する60記録ヘッドを駆動することによって画像データに応じた画像形成を行うインクジェット記録装置において、画像データに基づいて吐出制御信号を生成するヘッドデータ生成回路41と、吐出制御信号を記録ヘッド60に供給するための出力バッファ42と、出力42バッファの出力をハイインピーダンスにしてから出力バッファ42の出力信号が所定のレベルに変化するまでの遅延時間を測定するコンパレータ44及びタイマ45と、タイマ45によって測定された遅延時間に基づいて記録ヘッド60に異常が生じているかどうかを判定する判定部46とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体に画像を形成する記録装置に関し、特に、記録ヘッドに関する異常状態を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の一方式として、インクを加熱した場合に沸騰することによって生じる気泡が膨張する運動エネルギーを利用して微細ノズルからインクを吐出させ、記録媒体に画像を記録する装置が知られている。このサーマル方式のインクジェット記録装置では、インクの吐出エネルギーの発生素子である抵抗発熱体をノズル内部に設け、これら抵抗発熱体及びノズルを多数整列配列した構造の記録ヘッドを搭載している。インクジェット記録装置の他の方式としては、抵抗発熱体の代わりに圧電素子を備え、圧電素子に所定の電圧を印加することによってインク滴を吐出させるための運動エネルギーを得るといった方式もある。
【0003】
いずれの方式においても、インクジェット記録装置では、記録ヘッドが交換できずに製品寿命まで使いきるタイプと、記録ヘッドを交換できるタイプとがある。記録ヘッドを交換できるタイプにおいては、記録ヘッドと装置本体側に電気的な接合手段を設けておくことによって、記録ヘッドを駆動するための電源やインク滴の吐出を制御するためのヘッドデータ信号の記録ヘッドに伝達することができる。
【0004】
記録ヘッドには、装置本体と接続するためのコンタクト部、及びヘッドデータ信号の処理を行う論理回路、発生素子を駆動するためのドライバートランジスタが搭載された電気基板が備えられている。発生素子は、一方の端子が装置本体から供給されるヘッド駆動電源接続され、もう一方の端子は発生素子への通電をオン/オフ制御するドライバートランジスタに接続されている。
【0005】
ここで、インクの吐出は、ノズル内にインクを充填させておいた状態で発生素子を駆動することによって行うが、記録ヘッド内の電気基板にインクが触れてしまうと、電気回路内で短絡が発生して、記録ヘッドや装置本体の回路を故障させる恐れがある。そのため、記録ヘッドは、記録ヘッドの回路へのインク付着を防止するために耐インク性の材料を用いた封止剤によって、電気回路を封止することが一般に行なわれている。
【0006】
ところが、記録ヘッドの製造上の不具合や、使用状況によって、封止剤が劣化し、稀に記録ヘッドの回路へのインク付着が発生する場合がある。このような状況に対処するため、従来、インクの付着の検出方法としては以下のような方法がある。
【0007】
第一の方法として、記録ヘッド内の電気基板上に、通常開放状態にあるインク検出用の電極を設けておき、電極間の抵抗値を検出することにより、インクによって電極間が電気的に短絡しているか否かを判別する方法がある(特許文献1,2参照)。
【0008】
第二の方法としては、電源が供給されている状態で、記録ヘッドの電源ラインに流れる電流を測定して、異常な電流が流れているかどうかを検出することにより、記録ヘッドの故障を検出する方法がある。
【0009】
第三の方法としては、記録動作中に装置本体から記録ヘッドに出力する制御信号について、出力しようとした信号と、実際に記録ヘッドに入力された信号とを比較し、制御信号のインピーダンスを測定して異常を判定する方法がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−193588号公報
【特許文献2】特許第3646431号公報
【特許文献3】特開平11−142489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1,2に記載された方法では、記録ヘッドに電極を設ける必要があるため、記録ヘッドや記録装置本体が安価に製造できないという問題点がある。さらに、電極の配置にも制限があるため、必ずしも、インクが回路に触れる前にインクが付着したことを検出することができなかったり、記録ヘッドが大型化してしまったりという問題点もある。
【0012】
また、記録ヘッドの電源ラインに流れる電流を測定する方法では、通常の状態でも記録ヘッドの状況によって電源電流は変動するので、そのためのマージンを考慮すると、インクを検出するタイミングが遅くなってしまう。その結果、インクが検出された段階では、既に装置本体側の回路も故障させてしまうことが多いという問題点がある。
【0013】
さらに、特許文献3に記載された方法では、制御信号のインピーダンスは、インクによって他の信号と短絡した場合に小さくなるが、内部抵抗が大きい。そのため、制御信号の入出力信号の比較により、信号伝達の異常を判定する方法では、信号電極の充電、放電に時間がかかり、一般的なロジック信号の伝送方法では、高速な検出が不可能であるという問題点がある。
【0014】
本発明は、上述したしたような従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、記録ヘッドに新たな構成を設けることなく、記録ヘッドの異常が発生した場合にその旨を早期に検出することができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明は、
画像データに基づいて生成された吐出制御信号に従ってインクを吐出する記録ヘッドを駆動することによって前記画像データに応じた画像形成を行うインクジェット記録装置において、
前記画像データに基づいて前記吐出制御信号を生成する吐出制御信号生成手段と、
前記吐出制御信号を前記記録ヘッドに供給するためのバッファと、
前記バッファの出力をハイインピーダンスにしてから前記バッファの出力信号が所定のレベルに変化するまでの遅延時間を測定する遅延時間測定手段と、
前記遅延時間測定手段によって測定された遅延時間に基づいて前記記録ヘッドに異常が生じているかどうかを判定する判定手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、記録装置本体から記録ヘッドに出力される信号の変化に基づいて、記録ヘッドに異常が生じているかどうかを判定するため、記録ヘッドに新たな構成を設けることなく、記録ヘッドの異常が発生した旨を早期に検出することができる。それにより、記録ヘッド内でインクが回路に付着した場合に、その影響がインクジェット記録装置本体に及ぶ前に記録動作を停止することができるようになり、万一インクが付着しても、記録ヘッドを交換するだけで、ユーザは記録動作を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の実施の一形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示したヘッドデータ出力回路に設けられたインク付着検出回路の実施の一形態を示す図である。
【図3】インクジェット記録装置にて2つの端子間にインクが付着した状態を示す図である。
【図4】端子にインクが付着した状態の等価回路を示す図である。
【図5】図1及び図2に示したプリンタにおいて信号線の異常を検出するシーケンスを示す図である。
【図6】図1及び図2に示したプリンタにおいて信号線に異常が生じている場合にて異常を検出するシーケンスを示す図である。
【図7】図1及び図2に示したプリンタにおいて記録ヘッドが正常な状態と異常が生じた状態でのコンパレータにて検出される不一致時間を示す図である。
【図8】図1に示したヘッドデータ出力回路に設けられたインク付着検出回路の他の実施の形態を示す図である。
【図9】図8に示したデューティサイクル測定回路の一例を示す図である。
【図10】図8に示したデューティサイクル測定回路の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明のインクジェット記録装置の実施の一形態を示すブロック図であり、画像データ転送に係る構成のみを示す。
【0020】
本形態は図1に示すように、パーソナルコンピュータ等のホスト装置1から送られてくる画像データに応じた画像形成を行うプリンタ2であって、全体の制御や画像処理を実行するコントローラ部3と、実際に画像形成を行うエンジン部4とを有している。
【0021】
コントローラ部3は、画像処理回路10と、受信バッファ20と、CPU30とを有している。画像処理回路10は、ASICやDSP等で構成され、ホスト装置1から送られてくる画像データを受信し、この画像データを受信バッファ20に格納した後、所定の処理を行って画像データをエンジン部4に送出する。CPU30は、画像処理回路10やエンジン部4の動作等、プリンタ2全体の制御を実行する。
【0022】
エンジン部4は、ヘッドデータ出力回路40と、記録ヘッド60とを有しており、これらヘッドデータ出力回路40と記録ヘッド60とがコンタクト部50によって電気的に接合されている。ヘッドデータ出力回路40は、コントローラ部3から受信した画像データを、記録ヘッド60や印刷媒体の走査に応じて、記録ヘッド60が受信可能なフォーマットの信号に変換して吐出制御信号として出力する。記録ヘッド60は、コンタクト部50によってプリンタ2本体と電気的に接合されており、コンタクト部50を介して、電源の供給を受けたり、吐出制御信号を受信して加圧素子を駆動したりして、インクを吐出して画像形成を行う。この記録ヘッド60は、多数のノズルのそれぞれに液体インクが充填された状態において、それぞれのノズル内に配置された素子によってノズルを加圧し、インク滴を吐出することによって、ノズル数分の1ライン画像を形成するものである。ノズルの加圧方法としては、ヒータを過熱することによって気泡を発生させてインク滴を吐出するサーマル方式や、圧電素子を備え、電圧を印加することで圧電素子を変形させて、その圧力によってインクを吐出するピエゾ方式が知られている。
【0023】
ここで、上述したように、記録ヘッド60内では、液体であるインクと電気回路とが混在しているため、それらを分離するために、電気回路部分は樹脂等の絶縁体によって封止されている。しかしながら、記録ヘッド60の製造上の不具合や、落下、衝撃等の機械的要因等に起因して、絶縁が破られた場合、電気回路にインクが流れ込み、記録ヘッド60の動作に不具合が生じてしまう。もし、そのまま記録動作を継続していると、インクが流れて広がり、また、電気回路内でのインクの変質や腐食も発生し、最悪の場合、記録装置本体の回路をも故障させてしまう恐れもある。
【0024】
このようなインク付着による二次的な被害を防止する目的で、本形態では、ヘッドデータ出力回路40にインク付着検出回路を設けている。
【0025】
図2は、図1に示したヘッドデータ出力回路40に設けられたインク付着検出回路の実施の一形態を示す図である。
【0026】
図2に示すように、図1に示したヘッドデータ出力回路40には、ヘッドデータ生成回路41と、出力バッファ42及び入力バッファ43と、コンパレータ44と、タイマ45と、判定部46とが設けられている。そして、ヘッドデータ生成回路41が本願発明における吐出制御信号生成手段となり、また、コンパレータ44とタイマ45とから本願発明における遅延時間測定手段が構成されている。ヘッドデータ生成回路41は、記録ヘッド41を駆動するための画像データや、駆動タイミングを伝達するための駆動パルスからなる吐出制御信号を生成する回路である。ヘッドデータ生成回路41は、コントローラ部3から受信した画像データを、記録ヘッド60や印刷媒体の走査に応じて、記録ヘッド60が受信可能なフォーマットの信号に変換し、図示しない記録ヘッドの位置検出センサの検出タイミングで出力する。また、ヘッドデータ生成回路41は、前記検出タイミングを基準として、記録ヘッド60内の温度、同時に駆動するノズルの数、駆動電圧等のパラメータによって決定されるタイミングに従って駆動パルスを生成する。ヘッドデータ生成回路41によって生成されて吐出制御信号として出力されたODATA信号は、最終的に全ての信号に対して出力バッファ42を経由してHDATA信号として記録ヘッド60に出力される。なお、出力バッファ42には、ヘッドデータ生成回路41から生成されるアウトプットイネーブル信号OEが入力され、このOEがインアクティブ状態である場合には、出力バッファ42の出力をハイインピーダンスにするものとしている。また、HDATA信号がハイインピーダンスであっても誤動作の無いように、記録ヘッド60内には、プルダウン抵抗61が接続されている。
【0027】
出力バッファ42から出力されたHDATA信号は、記録ヘッド60に入力されるとともに、入力バッファ43を介してコンパレータ44にIDATA信号として入力される。これは、ヘッドデータ生成回路41から出力されたODATA信号が正しく出力されたか否かを検出するためである。そのために、コンパレータ44において、ヘッドデータ生成回路41から出力されたODATA信号と、入力バッファ43を介して入力されたIDATA信号との比較を行う。ただし、一般的にバッファ回路は、正常な状態でも、負荷容量や配線インピーダンス、内部素子のスイッチング時間等によって一定の遅延が発生する。そのため、コンパレータ44において、ヘッドデータ生成回路41から出力されたODATA信号と、入力バッファ43を介して入力されたIDATA信号とが一時的に不一致であるからといって、直ちに異常であると判定することはできない。そこで、コンパレータ44において、ヘッドデータ生成回路41から出力されたODATA信号と、入力バッファ43を介して入力されたIDATA信号とが不一致であった時間をタイマ45で測定し、判定部46において、これらが不一致であった時間に応じてヘッドデータ信号の異常状態を判別している。
【0028】
なお、図2に示す回路構成は、記録ヘッド60に接続されている複数の信号線のうちの1本の信号線にのみ着目したものであるが、全ての信号線に対して同回路を搭載しても良い。また、例えば、インク付着が発生した際に、記録ヘッド内の回路配置上、最も早い段階でインクに触れる信号線等の一部の信号線についてのみ搭載しても良い。また、本形態では、ヘッドデータの出力信号線を用いてインク付着の検知を行なっているが、インクが付着したことを検出するための専用の端子を使用したり、また、通常はセンサ等の別の目的で使用している端子を使用したりすることも可能である。
【0029】
ここで、上述した構成を有するプリンタ2等のインクジェット記録装置について、ヘッドデータ出力回路40から出力されるヘッドデータの信号線にインクが付着した場合について考察する。
【0030】
図3は、インクジェット記録装置にて2つの端子間にインクが付着した状態を示す図である。
【0031】
図3に示すように、2つの端子間にインクが付着すると、その間で電気的な結合が発生するが、インクは、水、または有機溶媒に様々な不純物を溶解して形成されており、不純物にはイオン性の物質を含んでいるため、インクの中には多くのイオンが発生している。そのため、インクに電極を入れると、インクが電解液として作用し、電極間に電解コンデンサが接続されたような特性を示すことになる。ただし、インクの内部抵抗は非常に高くなっており、この現象は通常の電解コンデンサでも見られる現象だが、インクの場合は、内部抵抗が桁違いに大きいところに注意を払う必要がある。
【0032】
図4は、端子にインクが付着した状態の等価回路を示す図である。
【0033】
図4に示すように、端子にインクが付着した状態においては、コンデンサと抵抗が直列に接続された形態となっており、抵抗の値は、数キロオームのオーダーとなっている。図4に示す等価回路は、本形態の説明にあたり便宜的に作成したものであり、厳密には、インクの乾燥や電離状態による変質等の現象により、非常に複雑な特性を示すが、ごく短時間に限れば、概ね図4に示す等価回路の特性を示すことが実験的に確認されている。
【0034】
以下に、上述したプリンタ2において信号線の異常を検出するシーケンスについて説明する。
【0035】
図5は、図1及び図2に示したプリンタ2において信号線の異常を検出するシーケンスを示す図である。ODATA信号をハイレベルの状態で、アウトプットイネーブルOE信号をディセーブルとした際のHDATA信号及びIDATA信号の波形、並びにコンパレータ44の出力を示す。
【0036】
出力バッファ42から出力されるHDATA信号は、ODATA信号及びアウトプットイネーブル信号OEが共にハイレベルでの状態では、配線容量や、記録ヘッドの入力バッファの入力容量によって、電荷が蓄積した状態となっている。その状態から、出力バッファ42がハイインピーダンスとなると、図5に示すように、蓄積されていた電荷がプルダウン抵抗61を介して放出され、最終的には、HDATA信号はローレベルの状態で安定する。
【0037】
HDATA信号が入力バッファ43を介してコンパレータ44に入力されるIDATA信号は、HDATA信号が所定のレベルとなる入力バッファ43のローレベル閾値を下回るとローレベルとなる。この間、コンパレータ44において信号ODATAと信号IDATAとの不一致が検出され、タイマ45によってコンパレータ44にて不一致が検出された時間が測定される。これにより、出力バッファ42の出力がハイインピーダンスになってから出力バッファ42から出力されるHDATA信号が所定のレベルに変化するまでの遅延時間が測定されることになる。そして、本形態においては、測定された不一致時間、すなわち、測定された遅延時間に基づいて、記録ヘッド60に異常が生じているかどうかを判定する。
【0038】
なお、本シーケンスは、記録ヘッド60を駆動していないタイミング、例えば、記録ヘッド60が装着された際、もしくは、画像形成動作の前後、画像形成動作中における非駆動タイミングに行うものである。画像形成動作中においても、例えば、記録ヘッド60内のセンサを読み取るタイミングや、駆動位置調整のためのマージン等のために、非駆動タイミングは、他の要因によって作られていることが多いため、その時間を利用して異常判別を行なうのが望ましい。
【0039】
正常な状態では、HDATA信号の容量は、数pF〜数十pF程度であるが、インク等の付着等が発生した場合は、上述したように、図4に示したような回路が接続されることになるため、容量は大きくなって、放電時間が長くなる。
【0040】
図6は、図1及び図2に示したプリンタ2において信号線に異常が生じている場合にて異常を検出するシーケンスを示す図であり、異常を検出する信号線とグランドがインクによって電気的に短絡した際の波形を示す。なお、破線で示したHDATA信号が正常な状態での放電波形であり、実線で示した波形がインクが付着した状態でのHDATA信号の波形である。
【0041】
放電開始直後は、充電された電圧がインクの内部抵抗とプルダウン抵抗61との分圧によって、ある程度まですぐに下がるが、その後は、正常な状態での放電波形と同様の波形で放電される。しかし、インクによって端子容量が増大し、蓄積されている電荷量も大きくなったことが主因となって、図6に示すように、放電時間は非常に長い時間となっている。その結果、タイマ45によって測定される不一致時間が非常に長くなる。
【0042】
図7は、図1及び図2に示したプリンタ2において記録ヘッド60が正常な状態と異常が生じた状態でのコンパレータ44にて検出される不一致時間を示す図である。
【0043】
図7に示す実験結果によれば、記録ヘッド60が正常な状態ではコンパレータ44にて検出される不一致時間は1μs、記録ヘッド60の回路にインクが付着した状態では不一致時間は30μs、記録ヘッド60の回路に水が付着した状態では不一致時間は2μsという結果になっている。そのため、記録ヘッド60が正常な状態と、記録ヘッド60の回路にインクが付着した状態では、不一致時間の違いは明らかである。インクの電気的特性はその組成によって大きく異なるため、このような実験結果を予め行なっておいて、それに基づいて閾値を設定しておき、記録ヘッド内のインク付着の検出を行なうことが可能である。すなわち、判定部46において、測定された遅延時間となる不一致時間が、予め設定された第1の閾値よりも長い場合に、記録ヘッド60の内部に異常が生じていると判定することになる。
【0044】
記録ヘッド60内でインク付着が検出されると、CPU30に対する割り込み通知等を行い、直ちに記録動作を中止し、使用者に対しては、記録ヘッドが故障したため交換を促す旨の通知を行なうことができる。
【0045】
また、図7に示したように、記録ヘッド60の回路に水が付着した場合でも、コンパレータ44にて検出される不一致時間は、記録ヘッド60が正常な状態と異なる時間となる。例えば、記録ヘッド60を装着した際に、コンタクト部50に結露が発生していたり、人体が触れて汗の成分が付着していたり、または、インクが付着していたとしても、記録装置内に漂うミスト状のインクが付着しているといった、中間的な状態も存在する。そのような場合であっても、記録ヘッド60に異常が生じていると判定すると、記録ヘッド60を交換する通知を行なってしまい、使用者に対して不必要な負担をかけてしまう。また、記録ヘッド60が正常であると判定してしまうと、記録ヘッド60を正しく駆動することができずに、異常な画像を印刷してしまう可能性がある。
【0046】
そこで、中間的な時間として、上述した第1の閾値と第2の閾値との間を設定し、不一致時間が中間的な時間、すなわち、第1の閾値以下であり、かつ第2の閾値より長い場合は、判定部46において、プリンタ2本体と記録ヘッド60との接点となるコンタクト部50に不純物が付着していると判定する。そして、使用者に対しては、記録ヘッド60のコンタクト部50の清掃を促して、記録動作を継続させることが考えられる。
【0047】
このように、プリンタ2本体と記録ヘッド60との接点となるコンタクト部50の異常を検出することにより、ユーザによって、異常状態を修復することが可能となる。そして、無駄に記録ヘッド60を交換したり、異常な画像形成を行なったりして、不要な記録媒体やインクを使用することを防止することができる。
【0048】
(他の実施の形態)
ここで、記録動作中のヘッドデータ信号は、ハイ、ローの状態によって、記録ヘッドと通信を行って制御しているので、上述したシーケンスに入る前の信号の状態によって、HDATA信号に蓄積する電荷量も異なる。不一致時間は、HDATA信号に蓄積した電荷を放電するのにかかった時間であるため、HDATA信号に蓄積した電荷量に比例して変動する。時間的な余裕があれば、確実に充電できる時間以上の間、ODATA信号をハイに固定しておけば良いが、時間的な余裕が無い場合には、通信中の信号の状態の影響を受けてしまう可能性があるため、その場合でも、確実に異常検出が可能な方法を考える必要がある。
【0049】
図8は、図1に示したヘッドデータ出力回路40に設けられたインク付着検出回路の他の実施の形態を示す図である。
【0050】
本形態におけるインク付着検出回路は図8に示すように、図2に示したものに対して、デューティサイクル測定回路70が追加された点が異なるものである。デューティサイクル測定回路70は、ヘッドデータ生成回路41から出力されたODATA信号が入力され、ODATA信号のハイ、ローの状態の割り合いを測定し、その結果を判定部46に出力する。判定部46は、デューティサイクル測定回路70から出力された測定結果に応じて、上述した第1の閾値や第2の閾値を変更する。
【0051】
図9は、図8に示したデューティサイクル測定回路70の一例を示す図である。
【0052】
図9に示すように、図8に示したデューティサイクル測定回路70としては、カウンタ71を用いたものが考えられる。カウンタ71は、ODATA信号に同期したクロック信号(CLK)によって動作し、ODATA信号がロー状態であった場合はカウントを行い、ハイ状態であった場合は、カウントを行なわない。CLR信号は、カウンタ値をクリアするための信号で、少なくとも異常検出シーケンスに入る所定時間前にカウンタ値をクリアしておく。
【0053】
そして、判定部46において、カウンタ71におけるカウント値、すなわち、ODATA信号のハイ、ローの状態の割り合いからHDATA信号に蓄積されている電荷量を演算によって予測し、上述した第1の閾値や第2の閾値を変更する。
【0054】
図10は、図8に示したデューティサイクル測定回路70の他の例を示す図である。
【0055】
本例のデューティサイクル測定回路70は図10に示すように、図9に示したものに対して、加算器72と除算器73が追加された点が異なるものである。カウンタ71に入力されるCLK信号は、図9に示したものに用いたCLK信号と同じ信号であり、SCLK信号は、ある一定の周期ごとにCLK信号に同期して発生する同期信号である。
【0056】
加算器72において、SCLK信号の周期でカウント値のサンプリングを行い、カウンタ71におけるカウント値と、直前の加算器72から出力された値を除算器73において1/nにした値とを加算した値を加算器72からの出力値としている。除算器73の序数nは、2の整数乗であれば、ビットシフト演算によって簡単に求めることができる。
【0057】
このような構成のデューティサイクル測定回路70では、加算器72から出力される値には、それ以前のカウント値が蓄積されており、古いカウント値ほど影響が小さく、最近のカウント値ほど影響が大きくなるように重み付けがされることになる。すなわち、デューティサイクル測定回路70において、デューティサイクルの測定が複数回実行され、測定されたデューティサイクルについて、測定されたタイミングに応じて重み付けを設定されることになる。そして、判定部46において、重み付けされたデューティサイクルに応じて、上述した第1の閾値や第2の閾値を変更することになる。このように加算器72から出力される値は、実際にHDATA信号に蓄積していく電荷量の変化と同様の振る舞いをするため、より高精度な電荷量の予測を行なうことが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 ホスト装置
2 プリンタ
3 コントローラ部
4 エンジン部
10 画像処理回路
20 受信バッファ
30 CPU
40 ヘッドデータ出力回路
41 ヘッドデータ生成回路
42 出力バッファ
43 入力バッファ
44 コンパレータ
45 タイマ
46 判定部
50 コンタクト部
60 記録ヘッド
61 プルダウン抵抗
70 デューティサイクル測定回路
71 カウンタ
72 加算器
73 除算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに基づいて生成された吐出制御信号に従ってインクを吐出する記録ヘッドを駆動することによって前記画像データに応じた画像形成を行うインクジェット記録装置において、
前記画像データに基づいて前記吐出制御信号を生成する吐出制御信号生成手段と、
前記吐出制御信号を前記記録ヘッドに供給するためのバッファと、
前記バッファの出力をハイインピーダンスにしてから前記バッファの出力信号が所定のレベルに変化するまでの遅延時間を測定する遅延時間測定手段と、
前記遅延時間測定手段によって測定された遅延時間に基づいて前記記録ヘッドに異常が生じているかどうかを判定する判定手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記判定手段は、前記遅延時間測定手段によって測定された遅延時間が第1の閾値よりも長い場合に、前記記録ヘッドの内部に異常が生じていると判定するインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置において、
前記判定手段は、前記遅延時間測定手段によって測定された遅延時間が前記第1の閾値以下であり、かつ、第2の閾値よりも長い場合に、前記インクジェット記録装置と前記記録ヘッドとの接点にて異常が生じていると判定するインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置において、
前記吐出制御信号のデューティサイクルを測定するデューティサイクル測定手段を有し、
前記判定手段は、前記デューティサイクル測定手段の測定結果に応じて、前記第1または第2の閾値を変更するインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット記録装置において、
前記デューティサイクル測定手段は、前記デューティサイクルの測定を複数回実行し、測定されたデューティサイクルについて、測定されたタイミングに応じて重み付けを設定し、
前記判定手段は、前記重み付けされたデューティサイクルに応じて、前記第1または第2の閾値を変更するインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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