説明

インクジェト記録用素材

【課題】 袋、フィルムやシートに採用され、インクジェット記録特性に優れた合成樹脂製のインクジェット記録用素材を提供する。
【解決手段】 インクジェットプリンターによる記録特性に優れたポリエチレン製又はポリプロピレン製のインクジェット記録用素材であって、素材の記録箇所にはコロナ放電加工が行われ、該コロナ放電加工を行った箇所にはポリアミド樹脂からなるアンカー層が形成され、該アンカー層の上にインク受理層が形成されている。
コロナ放電加工による素材記録箇所のぬれ指数は40ダイン以上であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はインクジェット記録用素材に関し、特に袋、フィルムやシートに採用され、インクジェット記録特性に優れた合成樹脂製の素材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(PE)は、1)比重が小さく、2)化学的に安定で、耐水性及び耐薬品性があり、3)強靱で、可撓性があり、低温で脆化しにくい、4)加工性が優れている、等の特長があり、雑貨用のポリ袋やレジ袋、ごみ袋、商品の包装用シートなどに汎用されている。また、ポリプロピレン(PP)は、1)腰があり、2)防湿性や透明性に優れ、雑貨、衣類、乾燥食品の包装用袋に採用されている。
【0003】
最近、家庭や店舗などにインクジェットプリンターが普及し、簡単にカラー印刷を行うことができるようになってきた。
【0004】
ところで、オリジナルデザインのポリ袋、レジ袋、ごみ袋、包装用フィルムなどを製作する場合、これらの素材には主としてPEやPPが用いられている。しかし、家庭用の水性インクを用いたインクジェットプリンターではPE、PPなどの素材に対しては直接の印刷が不可能であり、インク受理層が必要であるが、インク受理層を加工できるのは定着性の点からポリエチレンテレフタレート(PET)に限られ(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、PEやPPにはインク受理層の加工は難しく、インク受理層を加工できたとしても印刷物としての標準的な摩擦性堅牢度や水耐候性などの観点からインクジェットプリンターによる印刷が難しい。
【0005】
そのため、PEやPPに対する印刷はグラビア印刷やシルク印刷によるしか方法がなく、フルカラー印刷をしようとすると、多数の版下を必要とし、印刷コストが高く、小ロットの印刷には採用し難かった。
【0006】
これに対し、固形成分として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム微粉体とカチオン性ポリマーを含有させることにより、インクジェット記録用の吐出インクに対する遮蔽性、乾燥性、発色性、定着性、耐水性に優れたインク受理層を形成できるようにした印刷インクが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−130780号公報
【特許文献2】特開2007−130776号公報
【特許文献3】特開2004−181859号公報
【特許文献4】特開2008−213345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献4記載のインク受理層形成用の印刷インクでは固形成分にマグネシウム微粉体を用いているので、空気接触している部分に黄変が発生するおそれがある。
【0009】
また、上述の印刷インクは水に弱く、乾燥時には素材とインク受理層とは定着しているが、ひとたび、水がかかったりすると、素材とインク受理層の間に水皮膜が形成され、インク受理層が剥がれ落ちるという問題があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑み、インクジェット記録特性を改善するようにしたPE製やPP製のインクジェット記録用素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明に係るインクジェット記録用素材は、インクジェットプリンターによる記録特性に優れたポリエチレン製又はポリプロピレン製のインクジェット記録用素材であって、素材の記録箇所にはコロナ放電加工が行われ、該コロナ放電加工を行った箇所にはポリアミド樹脂からなるアンカー層が形成され、該アンカー層の上にインク受理層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
インクジェットプリンター用のインクには染料と顔料の2種類が存在し、共にインク受理層に対する定着性が異なる。その為、異なる定着性のインクの定着を可能にするインク受理層が必要である。また、インクジェットプリンター用のインクの場合、一般的にpH7〜9のレベルで仕上げられている。インク受理層自体のpH値がプリンターのインクと異なった場合、着弾後のインクは酸性又はアルカリ性に傾き、変色の原因となる。写真画質を求めたとき、インク受理層自体のホワイト性又変色性がインク受理層の性能として重要なポイントとなる。
【0013】
本発明の特徴はコロナ放電によって素材の記録箇所のぬれ指数を高め、その上にポリアミド樹脂からなるアンカー層を形成するようにした点にある。
【0014】
これにより、PEやPPに対するインク受理層の定着性が向上し、オリジナルデザインのポリ袋、レジ袋、ごみ袋、包装用フィルムなどを小ロットであっても安価に製作することができる。その結果、印刷物として標準的な組成を持った素材で作れるようになった。
【0015】
コロナ放電加工による素材記録箇所のぬれ指数はPEやPPに対するポリアミド樹脂の安定した定着性を考慮すると、40ダイン以上であるのが好ましい。
【0016】
インク受理層は通常15μm〜20μmの厚みが必要である。グラビア印刷はその厚みを1回で印刷することができないので、印刷を多層に行うことによって対応することができる。他方、オフセット印刷では1回で所望の厚みのインク受理層を形成することができる。
【0017】
インク受理層形成用の基剤にはノニオン系ポリウレタン樹脂が好ましいが、これに限定されず、公知のインク受理層形成用の基剤、例えばカチオン系ポリウレタン樹脂、アクリル−ウレタン系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニールアルコール及びその変成物、ポリビニルピロドリン、CMC、エーテル化澱粉、エチルセルロース、ニトロセルロース、吸水性樹脂、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド及びその誘導体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのラテックスやエマルジョンを採用することができる。
【0018】
インク受理層形成用の基剤には、乾燥能力を高めて表面積を大きくするため、乾燥助剤
をさらに混合するのがよい。乾燥助剤にはシリカを用いるのが好ましい、有機カルシウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、ベーマイト、水酸化アルミニウムを使用することもできる。
【0019】
インク受理層形成用の基剤には染料定着剤が含まれるのが好ましい。染料定着剤には多価カルボン酸及びその変成物、具体的にはマロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、シュウ酸などが挙げられる。この多価カルボン酸は、その一部または全部が無水物化していてもよい。また、全体として酸性を示すのであれば、クエン酸やアスパラギン酸などのように他に水酸基、アミノ基などの置換基を含んでいてもよい。
【0020】
例えば、インクジェット記録用素材は、チューブ状をなす素材を平坦に畳み、該素材の長手方向の所定間隔ごとに帯状に熱圧着するとともに帯状の中央にはマイクロミシン目を形成し、該マイクロミシン目で切り離す一方、素材の幅方向の一端縁を切断して開口を形成することによって袋状に形成されていてもよい。
【0021】
また、インクジェット記録用素材は、チューブ状をなす素材を平坦に畳み、該素材を任意の形状に帯状に熱圧着するとともに帯状の中央にはマイクロミシン目を形成し、上記任意の形状の一部を切断して開口を形成するとともにマイクロミシン目で切り離すことによって任意の形状、例えばハート形状の袋状に形成されていてもよい。
【0022】
さらに、インクジェット記録用素材は、素材を重ね、四角形の対抗する二辺を線状に熱圧着し、二辺のうちの一辺を切断して開口を形成する一方、他の二辺を帯状に熱圧着するとともに帯状の中央にはマイクロミシン目を形成し、マイクロミシン目で切り離すことによって袋状に形成されることもできる。
【0023】
また、インクジェット記録用素材は、素材を重ね、任意の形状に帯状に熱圧着するとともに帯状の中央にはマイクロミシン目を形成し、任意の形状の一部を切断して開口を形成するとともにマイクロミシン目で切り離すことによって任意形状の袋状に形成されることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るインクジェット記録用素材の好ましい実施形態の製造方法の前半部を模式的に示す図である。
【図2】上記実施形態の製造方法の後半部を模式的に示す図である。
【図3】他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1及び図2は本発明に係るインクジェット記録用素材の好ましい実施形態を示す。素材にはチューブ状のPE素材10が用いられ、このPE素材10を平坦に畳む(図1の(a))。
【0026】
この平坦なPE素材10をコロナ放電装置に送り込み(図1の(b))、PE素材10のインクジェットプリンタによって印刷を行う面(記録箇所)にコロナ放電加工を行う。コロナ放電は、PE素材10の表面にのぬれ指数が40ダイン以上となるように条件を採用する。
【0027】
コロナ放電加工を行ったPE素材10に印刷ロールを用いてポリアミド樹脂、例えばナイロン(登録商標)を塗布してアンカー層を形成する。ポリアミド樹脂はエタノールなどの溶剤によって印刷に適した粘度に調整したものを使用した。
【0028】
アンカー層が形成されると、その上にインク受理層を形成する。インク受理層にはノニオン系のポリウレタン樹脂40〜50重量%、アルコール系溶剤30〜40重量%、酸化チタン1〜15重量%、シリカ1〜10重量%、コハク酸1〜10重量%の範囲から合計100重量%になるように混合したものを用いた。
【0029】
グラビア印刷装置は圧下ロール12A、表面に版を形成した印刷ロール12B、樹脂塗布ロール12C及び樹脂槽12Dの組み合わせによって構成され、印刷ロール12Bの表面の版には約240μm角、深さ50μmのポケットが多数密に形成されている。送り速度は5〜10m/minの範囲内の速度とする。樹脂槽12D内にはpH調整剤でpH7〜9に調整されたシリカ剤混合のノニオン系のポリウレタン樹脂が貯留されており、これを樹脂塗布ロール12Cによって印刷ロール12Dに塗布し、PE素材10のアンカー層を形成した上に印刷する。
【0030】
こうしたスクリーン印刷を3〜4回繰り返して多層に重ね塗りし、15μm〜20μmのインク受理層を形成する。
【0031】
次に、図2に示されるように、素材10をローラ15によって送り込む。一対の真鍮金型13を用い、素材10の長手方向の所定間隔ごとに帯状に熱圧着する。金型13の先端には平坦な熱圧着面13Aが形成されるとともに、中央にマイクミシン目形成用の刃13Bが形成されており、帯状の熱圧着部10Aの中央にはマイクロミシン目10Bが形成される。
【0032】
切断刃14を用い、真鍮金型13によって熱圧着した素材10を熱圧着部10Aの直近で切断し、マイクロミシン目10Bで切り離すと、本例のインクジェット記録用の素材シート20が得られる。
【0033】
この素材シート20は二辺が熱圧着され、他の二辺がチューブの折り畳み辺であるので、素材シート20をインクジェットプリンタにセットしてもスムーズにプリンタ内に送り込んで印刷することができる。
【0034】
印刷が済むと、図2の(f)に示されるように、チューブの折り畳み辺の一方を切断線21で切断すると、印刷された袋20を製造することができる。
【0035】
図3は第2の実施形態を示す。本例では図3の(a) に示されるようにハート形状の金型13’を用い、図3の(b) に示されるように素材10をハート状に帯状に熱圧着するとともに、熱圧着部10A’の中央にマイクロミシン目10B’を形成し、所定間隔ごとに切断して素材シート20’を製造する。
【0036】
この素材シート20’にインクジェットプリンタによる印刷を行った後、図3の(c) に示されるように切断線21’で切断し、図3の(d) に示されるようにマイクロミシン目10B’で切り離すと、印刷されたハート状の袋を得ることができる。
【0037】
なお、上記の例ではチューブ状の素材を用いる場合について説明したが、2枚の素材を重ねて用いる場合も同様に袋を製造することができる。また、上記の例ではPE製の袋を製造する場合について説明したが、本発明はPE製のフィルムやシート、PP製の袋、フィルムやシートを製造する場合も同様に適用できる。なお、人形などの立体物への印刷においても、本発明のインク受理層を形成しておけばインクジェットプリンターによって印刷することもできる。
【符号の説明】
【0038】
10 チューブ状素材
10A 熱圧着部
10B マイクロミシン目
11A、11B 電極
12B 印刷ロール
13 電極
20 素材シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリンターによる記録特性に優れたポリエチレン製又はポリプロピレン製のインクジェット記録用素材であって、
素材の記録箇所にはコロナ放電加工が行われ、該コロナ放電加工を行った箇所にはポリアミド樹脂からなるアンカー層が形成され、該アンカー層の上にインク受理層が形成されていることを特徴とするインクジェット記録用素材。
【請求項2】
コロナ放電加工による上記素材記録箇所のぬれ指数が40ダイン以上である請求項1記載のインクジェット記録用素材。
【請求項3】
上記インク受理層形成用の基剤がノニオン系ポリウレタン樹脂である請求項1記載のインクジェット記録用素材。
【請求項4】
上記インク受理層がpH7〜9に調整されている請求項1記載のインクジェット記録用素材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178044(P2011−178044A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44923(P2010−44923)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(505438982)株式会社クローズアップ (2)
【Fターム(参考)】