説明

インクジエツト記録装置用のノズルプレ−トとその製造方法

【目的】 インク滴の飛翔方向及びインク滴の吐出タイミングにばらつきが生じないノズルプレートの提供。
【構成】 ノズル孔4の周囲の部分6を除いてノズルプレート1の裏面2全体をレジストテープにより被覆し、ついでこのノズルプレート1を金属イオンと撥水性樹脂の粒子を分散させた電解液に浸漬してメッキ処理をした後、さらにこれを撥水性樹脂の融点以上の温度で加熱処理することにより、ノズルプレート1の表面3とこれに続くノズル孔4の内面5から裏面2にかけての部分全体に、強固な撥水性の共析メッキ層8を形成して、インクの濡れ等によるインク滴の曲りを押えるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェット記録装置に用いるノズルプレートとその製造方法に関するもので、より詳しくは、プレートの表面とノズルの内面に撥水性の皮膜を形成するようにしたインクジェット記録装置用のノズルプレートとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェットプリンタでは、ノズル回りの状態、つまりノズルの周囲表面にインクの濡れができるとインク滴の飛翔方向にズレが生じるといった問題が起きる。このような問題に対して、特開昭55−65564号公報あるいは特開平2−55140号公報には、ノズルプレートの表面に撥水性の皮膜を設けて濡れが生じるのを抑えるようにした技術が示されている。
【0003】ところがこのような皮膜を施すには、接着剤の付きをよくするためノズルプレートの裏面をマスキングしておく必要があるが、このための被覆材にノズル孔を設けたものでは、孔の周囲を完全に覆っておくことが困難であるため、表面に施した撥水性皮膜の一部がノズル孔の内面に不均一に回り込んでしまい、その結果、ノズル孔内で形成されるインクのメニスカスがノズル孔毎に異なって、インクの吐出タイミングにばらつきが生じるといった不都合が生じる。
【0004】また、ノズル孔の内部に被覆材を完全に埋め込んでノズルプレートの表面にのみ撥水性の皮膜を施すようにしたものでは、ノズル孔の縁の部分に皮膜がエッジ状に突出してその部分がワイピング処理した際に欠け落ちてしまう結果、濡れ性に部分的な差が生じてインクの飛翔方向が不均一になってしまうといった問題が生じる。
【0005】またさらに、ノズルプレートの表面にのみ撥水性皮膜を施した場合には、インクとの親和性がノズル孔の出口の部分で大きく異なるため、メニスカスの位置が不安定になるといった問題が生じる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、インク滴の飛翔方向及びインク滴の吐出タイミングにばらつきを生じさせることのない新たなノズルプレートとその製造方法を提供することにある
【0007】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明このような課題を達成するためのノズルプレートとして、表面と、この表面に続くノズル孔の内面と、裏面に続くノズル孔の周囲部分に、撥インク性の皮膜を均一に形成するようにしたものであり、また、このようなノズルプレートの製造方法として、ノズル孔とその周囲の部分を除いてノズルプレートの裏面を被覆材により被覆し、ついで、ノズルプレートの表面と、これに続くノズル孔の内面と、ノズルプレートの裏面に続くノズル孔の周囲部分に、撥インク性の皮膜を均一に形成するようにしたものである。
【0008】
【実施例】そこで以下に図示したじっしれいについて説明する。図1は本発明の一実施例をなすノズルプレートであり、また図2はその製造工程を示したものである。
【0009】はじめに、図2によりこのノズルプレートの製造方法について説明する。図において符号1で示したノズルプレートは、金属、セラミックス、シリコン、ガラス、プラスチック等で形成され、好ましくはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、金等の単一もしくはニッケルーリン合金、スズー銅−リン合金(リン青銅)、銅−亜鉛合金、ステンレス鋼等の合金や、ポリカーボネイト、プリサルフォン、ABS樹脂(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン供重合)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール及び各種の感光性樹脂で形成されていて、このノズルプレート1には、裏面2側に大きく開口した漏斗状部分と、表面3側に狭く開口したオリフィス部分とからなる複数のノズル孔4が設けられている。
【0010】このノズルプレート1には、はじめにその裏面2にノズル孔4とその周囲の部分6を除いて適宜レジストテープ8が貼着される(図2(b))。すなわち、このノズルプレート1の裏面2には、漏斗状部分から平坦な裏面2へとその周囲の部分6を露出させるような大径の孔7を多数設けたレジストテープ8が貼着されるが、この孔7は、レジストテープ8をノズルプレート1に貼着したあとで打抜き等によって形成することもできる。
【0011】このようにしてレジストテープ8が貼着されたノズルプレート1は、一旦酸で洗浄した上、ニッケルイオンとポリテトフルオロエチレン等の撥水性高分子樹脂の粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し、ついで、電解液を攪拌しながらその表面に共析メッキを施こす(図2(c))。
【0012】この共析メッキ処理に使用されるフッ素系高分子としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリバーフルオロアルコキシブタジェン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、ポリジパーフルオロアルキルフマレート及び、化学式1、2、3、4、5で示される樹脂等を単独にあるいは混合したものが用いられる。
【0013】このメッキ層のマトリックスとしては特に制限はなく、ニッケル、銅、銀、亜鉛、錫等の適宜の金属を選ぶことができるが、好ましくは、ニッケルやニッケルーコバルト合金、ニッケル−リン合金、ニッケル−ホウ素合金等の表面硬度が大で、しかも対摩耗性に優れたのもが選定される。
【0014】これにより、ポリテトラフルオロエチレンの粒子は、ニッケルイオンを媒介としてノズルプレート1の表面3とノズル孔4の内面5及びレジストテープ8の孔7から露出した裏面2部分に均一の層となって付着するから、つぎに、ノズルプレート1に荷重を加えて反りの発生を抑えながら、これをポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度、例えば350℃以上の温度で加熱する。
【0015】このため、ポリテトラフルオロエチレンの粒子は、ノズルプレート1の表面3とノズル孔4の内面5及び裏面2のノズル孔4の周囲部分5に融着し、そこに平滑でしかも硬度の大なる撥インク性のメッキ層10を形成する。
【0016】フッ素系高分子共析メッキ層10は、膜厚が薄すぎるとインク吐出口を有する面の撥インク性が不十分となり、厚すぎるとインク吐出口の径の精度の影響がでるから、面の10の膜厚は1〜10μmの範囲に抑えるよう制御する。また、メッキ層10中のフッ素系高分子の共析量は、メッキ層中〜60vol%特に10〜50vol%になるようにすることが好ましい。
【0017】共析メッキの方法としては、無電解法、電解法のいずれによってもよいが、インクジェト記録用インクを含むインクを使用し、インク中にLi+、Na+、K+、Ca2+、Cl-、SO42-、SO32-、NO3-、NO2-等のイオンが不純物として混入しているため、このイオン種の影響を受けにくくかつ耐久性の高い電解法による方が望ましい。さらに、フッ素系高分子共析メッキを施したノズルプレート1をフッ素系高分子の融点以上の温度に加熱した際に生じるノズルプレート1の反りを防ぐため、100gf/cm2以上、好ましくは、500gf/cm2の圧力をかけると良い。
【0018】このようにしてノズルプレート1の表面3とノズル孔4の内面5に形成された撥インク性のメッキ層10は、さらにノズルプレート1の裏面2に達し、ここでノズル孔4の漏斗状部分から平坦な裏面2へと断面が大きなアール状をなして周囲の部分6にまで拡がる。
【0019】このため、ノズル孔4の周囲から内部にかけての部分は、全体が均一な表面状態を呈するため、例えばインク室内の圧力変動等によってメニスカスMが大きく振動し、図1に示したようにこれが漏斗状部分の近くまでインク室側に大きく後退したとしても、メニスカスMはそのまま安定した球面を保持して、インク滴の曲りやドット抜け等を生じさせることなく高い周波数での記録書込みを可能にする。
【0020】したがって、このあとノズルプレート1の裏面2からレジストテープ8を除去し、その部分に接着剤11を塗布してノズルプレート1を基体12上に固着すれば、1つのインクジェット記録ヘッドが形成される。
【0021】図3は、ノズルプレート1の裏面2を被覆する他の被覆手段について示したものである。この被覆手段は、一般のマスキング法と同様、はじめにノズルプレート1の裏面2全体に液状のレジスト材18を塗布する(図3(a))。
【0022】そしてつぎに、この上をマスク部材19で覆って、ノズル孔4の部分とその周囲の部分6を露光し(図3(b))、最後にこの露光した部分を溶融除去すれば、図3(c)に示したように、接着剤の塗布部分のみを被覆することができる。
【0023】この被覆手段は、ノズルプレート1に上述したような共析メッキ層10を施す際に用いられるものであるが、もとよりこれ以外の撥インク性皮膜形成手段にも適用することができる。すなわち、上述した以外の撥インク性皮膜形成手段としては、ディッピングによるフッ素樹脂の塗布方法がある。、この撥インク性の皮膜は、共析メッキによる皮膜に較べてワイピングのような機械的な外部作用に対して弱いという難点を有しているが、反面においてこのものは融点が低いため、合成樹脂のような熱に対して比較的弱い素材を用いてノズルプレート1を成形する事ができる利点を有している。
【0024】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、ノズルプレートの表面とこれに続くノズル孔の内面からノズルプレートの裏面2にかけての部分全体に、撥インク性の皮膜を施すようにしたので、ノズルプレート表面のインクの濡れを抑えてインク滴の飛翔方向を一定にすることができるばかりでなく、ノズル孔の内面状態を一定となして、インクに作用する振動の如何に拘わりなく常に安定したメニスカスを形成することができる。
【0025】しかも、ノズル孔の周囲を除くノズルプレートの裏面全体をレジストテープによって被覆した状態で撥インク性の皮膜を施すようにしたので、ノズルプレートの表面とこれに続くノズル孔の内面からノズルプレートの裏面2にかけての部分全体に撥インク性の皮膜を容易かつ均一に形成することができるとともに、被覆した部分への接着剤の付きをよくしてノズルプレートを本体に強固にすることができるばかりでなく接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例をなすノズルプレートの要部を拡大して示した断片図である。
【図2】(a)及至(e)は、ノズルプレートの表面に撥水性皮膜を施す各工程を示した図である。
【図3】(a)及至(c)は、マスキングの各加工工程を示した図である。
【符号の説明】
1 ノズルプレート
2 裏面
3 表面
4 ノズル孔
6 周囲の部分
8 レジストテープ
10 メッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ノズルプレートの表面と、該表面に続くノズル孔の内面と、ノズルプレートの裏面に続く上記ノズル孔の周囲部分に、撥インク性の皮膜を均一に形成したことを特徴とするインクジェット記録装置用のノズルプレート。
【請求項2】 上記撥インク性の皮膜がフッ素系高分子材の皮膜である請求項1記載のインクジェット記録装置用のノズルプレート。
【請求項3】 上記撥インク性の皮膜がフッ素系高分子共析メッキの皮膜である請求項1記載のインクジェット記録装置用のノズルプレート。
【請求項4】 ノズル孔とその周囲の部分を除いてノズルプレートの裏面を被覆材により被覆し、ついで、上記ノズルプレートの表面と、これに続くノズル孔の内面と、ノズルプレートの裏面に続く上記ノズル孔の周囲部分に、撥インク性の皮膜を均一に形成するようにしたことを特徴とするインクジェット記録装置用のノズルプレートの製造方法。
【請求項5】 上記被覆材を被覆したノズルプレートを、含フッ素高分子溶液もしくは含フッ素高分子分散液の中にディッピングして、上記ノズルプレートの該当する面に含フッ素高分子の皮膜を形成するようにした請求項4記載のインクジェット記録装置用のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】 上記被覆材を被覆したノズルプレートを、始めに金属イオンとフッ素系高分子の粒子を分散させた電解液の中に浸漬し、ついで該フッ素系高分子の融点以上の温度で加熱して、上記ノズルプレートの該当する面にフッ素系高分子共析メッキの皮膜を形成するようにした請求項4記載のインクジェット記録装置用のノズルプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平5−116327
【公開日】平成5年(1993)5月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−93720
【出願日】平成4年(1992)3月19日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)