説明

インサート成形用接着フィルムおよびインサート成形により得られる成形体

【課題】 金属からなるインサート部材と樹脂部材とを簡便にかつ強固に接着可能な接着フィルムを提供すること。また、この接着フィルムにより強固に接合されたインサート成形体を提供する。
【解決手段】 (a)ポリオレフィン系樹脂 100重量部に対して、(b)ラジカル重合開始剤 0.01重量部〜5重量部、(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体 5〜15重量部、および(d)芳香族ビニル単量体 1〜10重量部を溶融混練して得られた変性ポリオレフィン系樹脂からなり、以下に示す表面粘着力を有することを特徴とするインサート成形用接着フィルム。
表面粘着力:JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に規定する球転装置を用いて試験し、23℃、傾斜角度5°における表面粘着力がNo.3以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形用接着フィルムおよびインサート成形により得られる成型体に関する。特に、金属からなるインサート部材と樹脂部材とを簡便にかつ強固に接着可能な接着フィルムであり、それにより強固に接合されたインサート成形体に関する。得られた成形体は、自動車内装部材、建材、住宅資材などに好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
金属部材と樹脂部材とが一体化されてなる複合品は、従来から、自動車内装部材などに用いられている。金属部材と樹脂部材とを一体化する方法としては、接着剤を用いて接着する方法や、金属部材および樹脂部材に折り返し片や爪などの固定部材を設け、この固定部材を用いて両者を固着させる方法、ねじなどを用いて接合する方法などがある。しかし、接着剤を用いないで、金属部材と樹脂部材とが一体化されてなる複合品は、金属部材の形状加工と樹脂部材の成型加工とを別々に行なってから両者を一体化して形成しなければならないため、工程が複雑化し経済的でないという問題がある。また、接着剤でも溶剤系接着剤を使用した場合、VOCによる作業環境の悪化が懸念されたり、塗布ムラによる接着不良、糸引きによる成形体の外観不良などによる歩留まり率の低下が発生する。さらに、溶剤系接着剤では、塗布後、乾燥工程が必須であるため、設備の大型化や生産のタクトタイムが長くなるなど経済的ではない。例えば、特許文献1では、金属部材と樹脂部材をインサート成形により強固に接着させることが可能であるが、接着剤の乾燥工程に30分以上を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−73088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の課題を解決し、金属からなるインサート部材と樹脂部材とを簡便にかつ強固に接着可能な以下のような性質を持つ接着フィルムを提供すること、およびこの接着フィルムにより強固に接合されたインサート成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の現状に鑑み、インサート成形用接着フィルムの開発を行った結果、[1]表面粘着性の付与、[2]低熱量でも優れた接着性の付与が有効な特性であることを見出し、さらにポリオレフィン系樹脂にエチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む特定量の単量体及び芳香族ビニル単量体をグラフト反応させた変性ポリオレフィン系樹脂からなる接着フィルムが、金属からなるインサート部材と樹脂部材とを簡便にかつ強固に接着可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の変性ポリオレフィン系樹脂からなる接着フィルムは、[1]表面粘着性を有し、金属からなるインサート部材に簡便に所定の位置に貼り付けることが可能であり、また、その表面粘着性により、樹脂を金型内に射出した際にも押し流されることなく、接着界面に存在することができる。また、[2]低熱量でも優れた接着性を有することにより、インサート成形時に射出された樹脂の熱量のみで、部材を強固に接着させることが可能となった。
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1) (a)ポリオレフィン系樹脂 100重量部に対して、(b)ラジカル重合開始剤 0.01重量部〜5重量部、(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体 5〜15重量部、および(d)芳香族ビニル単量体 1〜10重量部を、溶融混練して得られた変性ポリオレフィン系樹脂からなり、以下に示す表面粘着力を有することを特徴とするインサート成形用接着フィルム。
表面粘着力:JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に規定する球転装置を用いて試験し、23℃、傾斜角度5°における表面粘着力がNo.3以上。
【0007】
2) (a)ポリオレフィン系樹脂が、プロピレン単位が過半量であるポリプロピレン樹脂である、請求項1に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【0008】
3) (a)ポリオレフィン系樹脂が、融点が130℃以下の炭素数2〜20のα−オレフィン重合体または共重合体である請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【0009】
4) (c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体が、無水マレイン酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【0010】
5) (d)芳香族ビニル単量体が、スチレンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【0011】
6) (a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ラジカル重合開始剤と(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体を溶融混練した後、次いで(d)芳香族ビニル単量体を加え溶融混練して得られた変性ポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインサート成形用接着フィルム。
【0012】
7) 請求項1〜6のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、プロピレン単位が過半量であるポリプロピレン系樹脂0.1〜100重量部を混合した変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなり、以下に示す表面粘着力を有することを特徴とするインサート成形用接着フィルム。
表面粘着力:JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に規定する球転装置を用いて試験し、23℃、傾斜角度5°における表面粘着力がNo.3以上。
【0013】
8) (e)金属からなるインサート部材と(f)樹脂部材が、請求項1〜7に記載のインサート成形用接着フィルムを用いて接着されたことを特徴とするインサート成形体。
【0014】
9) (e)金属からなるインサート部材が、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ガルバリウム鋼及び亜鉛めっき鋼から選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載のインサート成形体。
【0015】
10) (f)樹脂部材が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれた少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項8または9に記載のインサート成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接着フィルムは、金属からなるインサート部材と樹脂部材とを簡便にかつ強固に接着可能であり、この接着フィルムにより強固に接合されたインサート成形体は、文具、雑貨、レトルト食品などの包装材、各種自動車用部品、金属樹脂複合板や化粧鋼板などの建材・住宅資材、家電などの電気電子部品、各種産業用資材などの幅広い分野に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の詳細について述べる。 (ポリオレフィン系樹脂)
前記(a)ポリオレフィン系樹脂とは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンおよび/または1−ブテンとのあらゆる比率でのランダム共重合体またはブロック共重合体、エチレンとプロピレンとのあらゆる比率においてジエン成分が50重量%以下であるエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、ポリメチルペンテン、シクロペンタジエンとエチレンおよび/またはプロピレンとの共重合体などの環状ポリオレフィン、エチレンまたはプロピレンと50重量%以下のビニル化合物などとのランダム共重合体、ブロック共重合体などが挙げられる。
【0018】
中でも、表面粘着力の観点から、オレフィン系エラストマーが好適に用いられる。オレフィン系エラストマーとしては、融点が130℃以下、好ましくは融点が120℃以下、さらに好ましくは融点が110℃以下の炭素数2〜20のα−オレフィン重合体または共重合体である。具体的には、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、1−ブテン単独重合体、1−ブテン・エチレン共重合体、1−ブテン・プロピレン共重合体、4−メチルペンテン−1単独重合体、4−メチルペンテン−1・プロピレン共重合体、4−メチルペンテン−1・1−ブテン共重合体、4−メチルペンテン−1・プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等を挙げることができる。好ましくは、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体である。特に好ましくは、プロピレン・エチレン共重合体である。
【0019】
また、極性基を有する不飽和カルボン酸単量体と相溶し易い点で、極性基が導入されたポリオレフィン系樹脂も使用できる。極性基が導入されたポリオレフィン系樹脂の具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、アクリル酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン;エチレン/塩化ビニル共重合体、エチレン/塩化ビニリデン共重合体、エチレン/アクリロニトリル共重合体、エチレン/メタクリロニトリル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリルアミド共重合体、エチレン/メタクリルアミド共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸イソブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸金属塩共重合体、エチレン/メタクリル酸金属塩共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、又はその鹸化物、エチレン/プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン/ビニル単量体共重合体;塩素化ポリプロピレン塩素化ポリエチレンなどの塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。これらの極性基導入ポリオレフィン系樹脂は2種類以上を混合しても使用できる。
前記原料ポリオレフィン系樹脂には、必要に応じて、他の樹脂またはゴムを本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0020】
前記の他の樹脂またはゴムとしては、たとえばポリペンテン−1、ポリメチルペンテン−1などのポリα−オレフィン;プロピレン含有量が75重量%未満のプロピレン/ブテン−1共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン/α−オレフィン共重合体;プロピレン含有量が75重量%未満のエチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン/α−オレフィン/ジエン単量体共重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン共重合体;スチレン/ブタジエンランダム共重合体などのビニル単量体/ジエン単量体ランダム共重合体;スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体などのビニル単量体/ジエン単量体/ビニル単量体ブロック共重合体;水素化(スチレン/ブタジエンランダム共重合体)などの水素化(ビニル単量体/ジエン単量体ランダム共重合体);水素化(スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体)などの水素化(ビニル単量体/ジエン単量体/ビニル単量体ブロック共重合体);アクリロニトリル/ブタジエン/スチレングラフト共重合体、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレングラフト共重合体などのビニル単量体/ジエン単量体/ビニル単量体グラフト共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンなどのビニル重合体;塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体などのビニル共重合体などがあげられる。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂に対するこれら他の樹脂またはゴムの添加量は、この樹脂の種類またはゴムの種類により異なり、前述のように本発明の効果を損なわない範囲内にあればよいものであるが、通常、25重量%程度以下であることが好ましい。
【0022】
また、これらポリオレフィン系樹脂(各種の添加材料を含む場合もある)は粒子状のものであってもペレット状のものであってもよく、その大きさや形はとくに制限されるものではない。
また、前記の添加材料(ほかの樹脂、およびゴム)を用いる場合は、この添加材料は予めポリオレフィン樹脂に添加されているものであっても、ポリオレフィン系樹脂を溶融するときに添加されるものであってもよく、また変性ポリオレフィン系樹脂を製造したのちに適宜の方法でこの変性ポリオレフィン系樹脂に添加されるものであってもよい。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂におけるプロピレン成分に関しては、ポリオレフィン系樹脂に対しラジカルが発生し易くなる点で、プロピレン単位が過半量であることが好ましい。ここでいう過半量とはポリオレフィン系樹脂に対するプロピレン成分が50重量%以上のことを意味する。 (エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体)
エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体に含まれる酸性極性基としては、例えば、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸アミド基、カルボン酸イミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基等が挙げられる。このうち、好ましくは、カルボン酸基及びカルボン酸無水物基である。
【0024】
本発明で用いるエチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体は、特に制限されないが、好ましくは、上記の極性基を含む不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体である。不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、不飽和モノもしくはジカルボン酸、又はこれらの誘導体が挙げられる。これらの誘導体としては、具体的には、カルボン酸の無水物、ハライド、及び塩等が挙げられる。このうち、好ましくは、不飽和ジカルボン酸又はその無水物である。
【0025】
不飽和モノ又はジカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、エンド−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸(エンディック酸)、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸等が挙げられる。
【0026】
不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、塩化マレニル、無水マレイン酸、無水エンディック酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、無水ナジック酸、マレイン酸モノメチル、フマル酸モノメチル等が挙げられる。
【0027】
これら不飽和カルボン酸又はその誘導体のうち、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸の無水物であり、より好ましくは、無水マレイン酸である。これらは、一種単独で用いてもよく、また、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体の添加量は、表面粘着力の発現と低熱量での接着性能発現の観点から、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、5〜15重量部であることが好ましく、さらに5〜12重量部であることがより好ましい。
【0029】
(芳香族ビニル単量体)
例示するならば、スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレンなどのメチルスチレン;o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、α−クロロスチレン、β−クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのクロロスチレン;o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレンなどのブロモスチレン;o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、トリフルオロスチレンなどのフルオロスチレン;o−ニトロスチレン、m−ニトロスチレン、p−ニトロスチレン、ジニトロスチレン、トリニトロスチレンなどのニトロスチレン;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、トリヒドロキシスチレンなどのビニルフェノール;o−ジビニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼンなどのジビニルベンゼン;o−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼンなどのジイソプロペニルベンゼン;などの1種または2種以上が挙げられる。これらのうちスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどのメチルスチレン、ジビニルベンゼン単量体またはジビニルベンゼン異性体混合物が安価であるという点で好ましい。
【0030】
芳香族ビニル単量体の添加量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、1〜10重量部であることが好ましい。添加量が少なすぎるとポリオレフィン樹脂に対するエチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体のグラフト率が劣り十分な接着力が得られにくい傾向がある。一方、添加量が10重量部を超えると溶融混錬時に多量のガスが発生する場合がある。
【0031】
(ラジカル開始剤)
(a)ポリオレフィン系樹脂に対して、(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体、(d)芳香族ビニル単量体をグラフト共重合する際、反応を開始するため、ラジカル重合開始剤を添加する。
【0032】
ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物またはアゾ化合物などがあげられる。前記ラジカル重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート;t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの有機過酸化物の1種または2種以上があげられる。
【0033】
これらのうち、とくに水素引き抜き能が高いものが好ましく、そのようなラジカル重合開始剤としては、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール;ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上があげられる。
【0034】
前記ラジカル重合開始剤の添加量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲内にあることが好ましく、0.01〜3重量部の範囲内にあることがさらに好ましい。0.01重量部未満では変性が十分に進行せず、5重量部を超えると得られた変性樹脂の流動性、機械的特性の著しい低下を招く。
【0035】
(変性ポリオレフィン系樹脂)
変性ポリオレフィン系樹脂は、(a)ポリオレフィン系樹脂に対し、(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体と(d)芳香族ビニル単量体からなるグラフト鎖をグラフトさせた樹脂組成物である。
【0036】
溶融混練時の添加順序及び方法については、特に制限されることはないが、ポリオレフィン系樹脂とラジカル重合開始剤とエチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体を溶融混練した混合物に、芳香族ビニル単量体を加え溶融混練する添加順序が好ましく、この添加順序で行うことでエチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体を効率よくポリオレフィンにグラフトさせ、且つ変性時の機械的物性の低下を抑制できる。なお、その他必要に応じ添加される材料の混合や溶融混練の順序及び方法はとくに制限されるものではない。
【0037】
溶融混練時の加熱温度は、130〜250℃であることが、ポリオレフィン系樹脂が充分に溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。また溶融混練の時間(ラジカル重合開始剤を混合してからの時間)は、通常30秒間〜60分間である。
【0038】
また、前記の溶融混練の装置としては、一軸又は多軸押出機、バンバリーミキサー、ミル、ニーダー、加熱ロールなどを使用することができる。生産性の面から減圧装置を装備した単軸あるいは2軸の押出機を用いる方法が好ましい。また、各々の材料を充分に均一に混合するために、前記溶融混練を複数回繰返してもよい。
【0039】
変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂と混合して用いても使用することができる。変性ポリオレフィン系樹脂に混合されるポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン単独重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンおよび/または1−ブテンとのあらゆる比率でのランダム共重合体またはブロック共重合体、エチレンとプロピレンとのあらゆる比率においてジエン成分が50重量%以下であるエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、ポリメチルペンテン、シクロペンタジエンとエチレンおよび/またはプロピレンとの共重合体などの環状ポリオレフィン、エチレンまたはプロピレンと50重量%以下のたとえば酢酸ビニル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニルなどのビニル化合物などとのランダム共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーブロック共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー(ポリプロピレンとエチレン/プロピレン共重合体又はエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体の単純混合物、その一部架橋物、又はその完全架橋物)などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。表面粘着力の観点から、特にポリオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0040】
変性ポリオレフィン系樹脂とポリオレフィン系樹脂を混合する際にその混合量は特に限定はないが、変性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂を0.1〜100重量部含有することが好ましく、更には0.1〜70重量部を含有させることが好ましい。より好ましくは0.3〜50重量部であり、更に好ましくは0.5〜20重量部である。
【0041】
変性ポリオレフィン系樹脂には必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。これらの安定剤および添加剤を用いる場合は、予め(a)ポリオレフィン樹脂に添加されているものであってもよく、(a)ポリオレフィン樹脂に(c)および(d)成分をグラフトさせる際に添加されるものであってもよく、また変性ポリオレフィン系樹脂を製造したのちに適宜の方法でこの変性ポリオレフィン系樹脂に添加されるものであってもよい。
【0042】
(インサート成形用接着フィルム)
本発明では、変性ポリオレフィン系樹脂をフィルム化しインサート成形用接着フィルムとして用いることを特徴とする。フィルム化することにより、むら無く全面接着させることが可能であり、接着の信頼性を高めることができる。また、ポリオレフィン系樹脂に変性ポリオレフィン系樹脂を添加してなる変性ポリオレフィン系樹脂組成物も同様に、フィルム化してから使用する。本発明のインサート成形用接着フィルムの厚みは、3μmから3mm、好ましくは10μmから1mmである。
【0043】
本発明のインサート成形用接着フィルムは、表面粘着性を有していることを特徴とする。表面粘着性を有することにより、(e)金属からなるインサート部材に簡便に所定の位置に貼り付けることが可能であり、溶剤系接着剤では必要であった乾燥工程を省略できるため経済的である。また、その表面粘着性により、(e)金属からなるインサート部材に貼り付けられた本発明の接着フィルムは、樹脂を金型内に射出した際にも押し流されることなく、接着界面に存在することができる。このような条件を満たす表面粘着力は、JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に規定する球転装置を用いて試験し、23℃、傾斜角度5°においてNo.3以上であれば良い。
【0044】
さらに、本発明のインサート成形用接着フィルムは、低熱量でも優れた接着性能を発揮することを特徴とする。すなわち、該接着フィルムはインサート成形時に射出された樹脂の熱量のみで、(e)金属からなるインサート部材と(f)樹脂部材を強固に接着させることが可能である。
【0045】
本発明のインサート成形用接着フィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば変性ポリオレフィン系樹脂を溶融混練した後に、各種の押出成形機、射出成形機、カレンダー成形機、インフレーション成形機、ロール成形機、あるいは加熱プレス成形機などを用いてフィルム化することにより得られる。
【0046】
本発明のインサート成形用接着フィルムは表面粘着性を有しているため、フィルム化して取得する際には、粘着剤離型用セパレーターをインサート成形用接着フィルムの片面もしくは両面に積層させることが好ましい。用いる粘着剤離型用セパレーターは特に限定されないが、フッ素コーティング、シリコーンコーティング、エンボス加工、タルクの配合等により離型処理された紙、PETフィルムが好適に用いられる。
【0047】
(インサート成形体)
本発明のインサート成形体は、上記のインサート成形用接着フィルムを接着層とし、金属からなるインサート部材と樹脂部材とが強固に接着された成形体である。その製造は公知のインサート成形により可能であり、例えば、(e)金属からなるインサート部材の被接着面に上記のインサート成形用接着フィルムを張り合わせる工程、該インサート部材を射出成形用金型キャビティーに配置した後、溶融した(f)樹脂部材を射出する工程を経ることにより簡便に接着成形体を得ることができる。
【0048】
(金属からなるインサート部材)
(e)金属からなるインサート部材としては、本発明のインサート成形用接着フィルムが接着するものであれば特に制限はないが、例えば、金、銀、銅、錫、鉛、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ガルバリウム鋼及び亜鉛めっき鋼等が挙げられる。これらのうち鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ガルバリウム鋼及び亜鉛めっき鋼が好ましい。なお、金属からなるインサート部材は用途に応じて2種類以上を同時に使用しても良い。
【0049】
(樹脂部材)
(f)樹脂部材としては、本発明のインサート成形用接着フィルムが接着するものであれば特に制限はないが、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0050】
スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体)、アクリロニトリル/スチレン/アクリルゴム共重合体などが挙げられる。
【0051】
ポリカーボネート系樹脂の具体例としては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族−脂肪族ポリカーボネート等が挙げられる。
【0052】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0053】
アクリル系樹脂の具体例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、エチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。
【0054】
ポリオレフィン系樹脂は、本発明の(a)ポリオレフィン系樹脂に例示したものが好適に用いられる。
【0055】
これらの樹脂は1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせたポリマーアロイとして用いてもよい。
【0056】
本発明の成形体を用いることのできる用途の具体例としては、自動車、二輪車、船舶、鉄道車両、航空機等の部材、室内ドア、パーティション、家具、システムキッチン、バスタブ等の住宅資材、楽器、家電製品、建築材料、容器、事務用品、スポーツ用品、玩具などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。下記実施例および比較例中「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0058】
(実施例1)
ポリプロピレンエチレンラバー(ダウケミカル製V3401、MFR=8、融点100℃)100部、1,3−ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日本油脂(株)製:パーブチルP、1分間半減期175℃)0.1部、無水マレイン酸(和光純薬社製)10部をシリンダー温度200℃、スクリュ回転数250rpmに設定したベント付き二軸押出機(30mmφ、L/D=28、(株)日本製鋼所製、製品名LABOTEX30)に供給して溶融混練した後、次いで、シリンダー途中よりスチレン5部を加え溶融混練して変性ポリオレフィン系樹脂ペレットを得た。得られた変性オレフィン系樹脂ペレットを、シリンダー及びダイス温度200℃、スクリュ回転数100rpmに設定した単軸押出機(20mmφ、L/D=20、(株)東洋精機製、製品名ラボプラストミル)のホッパーに投入し、ダイス先端に取り付けたT型ダイスより、幅約13cm、厚み100μmのフィルム(A1)を得た。
【0059】
(実施例2)
ポリプロピレンエチレンラバー(ダウケミカル製V3401、MFR=8、融点100℃)100部、1,3−ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日本油脂(株)製:パーブチルP、1分間半減期175℃)0.5部、無水マレイン酸(和光純薬社製)10部をシリンダー温度200℃、スクリュ回転数250rpmに設定したベント付き二軸押出機(30mmφ、L/D=28、(株)日本製鋼所製、製品名LABOTEX30)に供給して溶融混練した後、次いで、シリンダー途中よりスチレン5部を加え溶融混練して変性ポリオレフィン系樹脂ペレットを得た。得られた変性オレフィン系樹脂ペレットを、シリンダー及びダイス温度200℃、スクリュ回転数100rpmに設定した単軸押出機(20mmφ、L/D=20、(株)東洋精機製、製品名ラボプラストミル)のホッパーに投入し、ダイス先端に取り付けたT型ダイスより、幅約13cm、厚み100μmのフィルム(A2)を得た。
【0060】
(実施例3)
ポリプロピレンエチレンラバー(ダウケミカル製V3401、MFR=8、融点100℃)100部、1,3−ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日本油脂(株)製:パーブチルP、1分間半減期175℃)0.2部、無水マレイン酸(和光純薬社製)5部をシリンダー温度200℃、スクリュ回転数250rpmに設定したベント付き二軸押出機(30mmφ、L/D=28、(株)日本製鋼所製、製品名LABOTEX30)に供給して溶融混練した後、次いで、シリンダー途中よりスチレン5部を加え溶融混練して変性ポリオレフィン系樹脂ペレットを得た。得られた変性オレフィン系樹脂ペレットを、シリンダー及びダイス温度200℃、スクリュ回転数100rpmに設定した単軸押出機(20mmφ、L/D=20、(株)東洋精機製、製品名ラボプラストミル)のホッパーに投入し、ダイス先端に取り付けたT型ダイスより、幅約13cm、厚み100μmのフィルム(A3)を得た。
【0061】
(比較例1)
ポリプロピレンエチレンラバー(ダウケミカル製V3401、MFR=8、融点100℃)を、シリンダー及びダイス温度200℃、スクリュ回転数100rpmに設定した単軸押出機(20mmφ、L/D=20、(株)東洋精機製、製品名ラボプラストミル)のホッパーに投入し、ダイス先端に取り付けたT型ダイスより、幅約13cm、厚み100μmのフィルム(B1)を得た。
【0062】
(比較例2)
ポリプロピレンエチレンラバー(ダウケミカル製V3401、MFR=8、融点100℃)100部、1,3−ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日本油脂(株)製:パーブチルP、1分間半減期175℃)0.1部、無水マレイン酸(和光純薬社製)1部をシリンダー温度200℃、スクリュ回転数250rpmに設定したベント付き二軸押出機(30mmφ、L/D=28、(株)日本製鋼所製、製品名LABOTEX30)に供給して溶融混練した後、次いで、シリンダー途中よりスチレン1部を加え溶融混練して変性ポリオレフィン系樹脂ペレットを得た。得られた変性オレフィン系樹脂ペレットを、シリンダー及びダイス温度200℃、スクリュ回転数100rpmに設定した単軸押出機(20mmφ、L/D=20、(株)東洋精機製、製品名ラボプラストミル)のホッパーに投入し、ダイス先端に取り付けたT型ダイスより、幅約13cm、厚み100μmのフィルム(B2)を得た。
【0063】
[表面粘着力の測定]
製造例で得られたフィルムを、傾斜角度を5°にする以外は、JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例4〜6、比較例3〜4)
実施例1〜3、比較例1〜2において作成した接着フィルム(A1)〜(A3)、(B1)〜(B2)を用いてインサート成形体による180℃剥離評価およびプレス成形体によるT字剥離評価を実施した。結果を表2に示す。
【0065】
[180°剥離評価(インサート成形体)]
インサート成形体を用いる180°剥離評価は、テストサンプルの金属部材と樹脂部材を剥離する際の強度を島津製作所製AG−2000Aを用い、23℃にて引張テストスピード100mm/分で測定した。結果を表2に示す。テストサンプルは、以下の方法で作成した。金属部材としてSUS430板(幅25mm×長さ110mm、厚さ0.1mm)の被接着面に実施例、比較例で得られたフィルム(幅25mm×長さ50mm)を手で貼り付けた後、金型(120mm×120mm×2mm)内に配置し(フィルムの無い部分にテープを貼り金型と固定)、樹脂部材としてポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート アロイ(重量比でPC/PET=90/10)を下記条件で金型内に射出することによりテストサンプルを得た。
樹脂温度:280℃、金型温度:40℃、射出条件:中高速、冷却時間:25秒
射出成形機:東芝製 型締め力80t
【0066】
[T字剥離評価(プレス成形体)]
プレス成形体を用いるT字剥離評価は、テストサンプルの金属部材を剥離する際の強度を島津製作所製AG−2000Aを用い、23℃にて引張テストスピード200mm/分で測定した。結果を表2に示す。テストサンプルは、以下の方法で作成した。金属部材として2枚のSUS430板(幅25mm×長さ110mm、厚さ0.1mm)の間に実施例、比較例で得られたフィルムを挟み、プレス機(神藤金属工業所、型式NSF−50、プレス温度200℃、無圧・予熱4分、2MPa・プレス30秒、無圧・冷却プレス3分)にて接着し、テストサンプルを得た。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
実施例4〜6は、本発明に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなる接着層有しており、非常に良好な接着性能を示した。比較例3は原料樹脂をそのままフィルム化した後に使用したため、表面粘着力が低く、インサート成形体を用いる180°剥離評価用サンプルを作成する際に、射出された樹脂によってフィルムが流されてしまった。また、接着力が低すぎるためT字剥離評価実施前に、接着面が剥がれてしまった。比較例4はプレス成形体を用いるT字剥離評価(十分な熱量でテストサンプルを接着させてある)では高い接着性を示した。一方、180°剥離評価では、接着に必要な熱量が足りなかったため接着不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオレフィン系樹脂 100重量部に対して、
(b)ラジカル重合開始剤 0.01重量部〜5重量部、
(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体 5〜15重量部、および
(d)芳香族ビニル単量体 1〜10重量部を、
溶融混練して得られた変性ポリオレフィン系樹脂からなり、以下に示す表面粘着力を有することを特徴とするインサート成形用接着フィルム。
表面粘着力:JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に規定する球転装置を用いて試験し、23℃、傾斜角度5°における表面粘着力がNo.3以上
【請求項2】
(a)ポリオレフィン系樹脂が、プロピレン単位が過半量であるポリプロピレン樹脂である、請求項1に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【請求項3】
(a)ポリオレフィン系樹脂が、融点が130℃以下の炭素数2〜20のα−オレフィン重合体または共重合体である請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【請求項4】
(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体が、無水マレイン酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【請求項5】
(d)芳香族ビニル単量体が、スチレンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン系樹脂からなるインサート成形用接着フィルム。
【請求項6】
(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ラジカル重合開始剤と(c)エチレン性二重結合及び酸性極性基を同一分子内に含む単量体を溶融混練した後、次いで(d)芳香族ビニル単量体を加え溶融混練して得られた変性ポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインサート成形用接着フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、プロピレン単位が過半量であるポリプロピレン系樹脂0.1〜100重量部を混合した変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなり、以下に示す表面粘着力を有することを特徴とするインサート成形用接着フィルム。
表面粘着力:JIS Z 0237「傾斜式ボールタック試験法」に規定する球転装置を用いて試験し、23℃、傾斜角度5°における表面粘着力がNo.3以上
【請求項8】
(e)金属からなるインサート部材と(f)樹脂部材が、請求項1〜7に記載のインサート成形用接着フィルムを用いて接着されたことを特徴とするインサート成形体。
【請求項9】
(e)金属からなるインサート部材が、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ガルバリウム鋼及び亜鉛めっき鋼から選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載のインサート成形体。
【請求項10】
(f)樹脂部材が、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれた少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項8または9に記載のインサート成形体。

【公開番号】特開2012−62423(P2012−62423A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209043(P2010−209043)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】