説明

インサート樹脂成形品

【課題】ボルトの取付精度を低下させずに、ねじ締付け力が低下し難いインサート樹脂成形品を提供する。
【解決手段】バスバー17の貫通穴41に軸部39を挿通された第2インサートボルト21の頭部37が、バスバー17の締付面43と共に樹脂材15によってインサート成形されるヒューズブロック11であって、締付面43には、貫通穴41の開口縁45より外周側において頭部37と当接し、貫通穴41の開口縁45を囲む環状突起47が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の貫通穴に軸部を挿通されたボルトの頭部が金属板と共に樹脂材によってインサート成形されるインサート樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナット締結時のボルトの回り止めを、ボルトのインサート成形によって対策するインサート樹脂成形品が知られている。例えば特許文献1に開示される電流検出装置は、電流センサのバスバーの端子に円形の取付孔が貫通形成され、この取付孔にケーブルの圧着端子とボルトを挿通してナットで締結し、ケーブルをバスバーの端子に取り付けている。
この電流検出装置では、ケーブルをバスバーの端子に取り付けるためにナットを締結する際、ボルトを回り難くするため、ボルトの頭部をバスバーの大部分と共に樹脂材によってインサート成形している。
【0003】
また、特許文献2に開示される樹脂バンパのインサートボルトは、平坦な頭部を有するボルト本体と、ボルト本体に挿通される孔、頭部を囲繞するカップ状部、これの周囲に形成されたフランジ部を備えるリテーナとからなっている。これらボルト本体とリテーナとは溶接により一体化され、樹脂によってモールドされるようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−141191号公報(図1)
【特許文献2】実公平5−3415号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図6(a)に示すようなバスバー501に形成された取付孔503に、図6(b)に示すボルト505を挿通すると、図6(c)に示すように、ボルト505の首下すみ肉部507が取付孔503の端面509に位置する可能性がある。この場合、ボルト505の頭部511とバスバー501との間に微小な隙間513が生じる。
この状態でインサート成形がなされると、図7に示すように、隙間513に溶融した樹脂材515が流れ込む。これが製品となり、LA端子(不図示)などがナット(不図示)によってボルト505に締結されると、ナット締付力によりこの流入樹脂部517が割れて、ねじ締付け力が低下し、例えば電流検出装置等では導通不良の生じる虞がある。
これに対し、取付孔503の内径を首下すみ肉部507の最大外径よりも大きくすれば、隙間513は生じないが、取付孔503とボルト505とのクリアランスが大きくなり、ボルト505の取付精度が低下してしまう。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、ボルトの取付精度を低下させずに、ねじ締付け力が低下し難いインサート樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 金属板の貫通穴に軸部を挿通されたボルトの頭部が、前記金属板の前記頭部と対向する締付面と共に樹脂材によってインサート成形されるインサート樹脂成形品であって、前記締付面には、前記貫通穴の開口縁より外周側において前記頭部と当接する突起部が設けられていることを特徴とするインサート樹脂成形品。
【0008】
上記(1)の構成のインサート樹脂成形品によれば、金属板の締付面に設けた突起部がボルトの頭部に当接することにより、貫通穴の端面がボルトの首下すみ肉部に位置することが無くなる。そこで、貫通穴とボルトの軸部とのクリアランスを狭めることができ、ボルトの取付精度が向上する。突起部がナット締付力を直接受けることにより、ボルトの頭部と金属板の締付面との間に介在する流入樹脂部の割れが防止される。
【0009】
(2) 上記(1)の構成のインサート樹脂成形品であって、前記突起部が、前記貫通穴の開口縁を囲む環状突起であることを特徴とするインサート樹脂成形品。
【0010】
上記(2)の構成のインサート樹脂成形品によれば、インサート成形時に、溶融した樹脂材が環状突起より内側の貫通穴側へ侵入せず、ボルトの頭部と金属板の締付面との間に流入樹脂部が介在しない。そして、環状突起がナット締付力を直接受けることができる。
【0011】
(3) 上記(1)の構成のインサート樹脂成形品であって、前記突起部が、前記貫通穴の周方向に沿って等間隔に形成された複数の島状突起であることを特徴とするインサート樹脂成形品。
【0012】
上記(3)の構成のインサート樹脂成形品によれば、金属板の締付面に設けた複数の島状突起がボルトの頭部に当接することにより、ボルトの頭部と金属板の締付面との間に介在する流入樹脂部と、島状突起とで、ナット締付力を均等に受けることができる。そこで、島状突起の強度を必要以上に大きくする必要がなく、流入樹脂部の割れも防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るインサート樹脂成形品によれば、ボルトの取付精度を低下させずに、ねじ締付け力が低下し難いインサート樹脂成形品を提供できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るインサート樹脂成形品の正面図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【図2】(a)はボルトのセットされたインサート成形前の金属板の平面図、(b)は(a)のD−D断面における要部拡大図である。
【図3】図2(b)のインサート成形後の要部拡大図である。
【図4】突起部が島状突起で形成されたインサート成形前の変形例に係る金属板の平面図である。
【図5】突起部が折り曲げ形成された変形例に係る金属板の要部拡大図である。
【図6】(a)は取付孔の形成された従来のバスバーの平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(b)のB部要部拡大図である。
【図7】図6(c)のインサート成形後の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るインサート樹脂成形品を添付図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態は、インサート樹脂成形品をヒューズブロック11に適用した場合を例に説明する。なお、インサート樹脂成形品は、従来技術で述べたインサートボルトを設けた樹脂バンパ等の電装品以外にも勿論適用することができる。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係るヒューズブロック11は、絶縁性を有する合成樹脂材料を用いて形成したブロック本体13と、このブロック本体13を形成する樹脂材15に少なくとも一部分が埋設される金属板であるバスバー17と、バスバー17と共にその一部分が樹脂材15に埋設される第1インサートボルト19と、同じくバスバー17と共にその一部分が樹脂材15に埋設される第2インサートボルト(ボルト)21と、を有している。第1インサートボルト19は、バッテリ端子(図示省略)をバスバー17に接続する。第2インサートボルト21は、負荷側端子23をバスバー17に接続する。
【0018】
バスバー17は、電源側に接続される電源側端子25と、負荷側に接続される負荷側端子23と、電源側端子25と負荷側端子23との間に設けられ、過電流(過大な電流)が通電されると電源側端子25と負荷側端子23とを切断する複数の可溶体27と、を備える。
【0019】
樹脂材15からなるブロック本体13は、第1インサートボルト19及び複数個の第2インサートボルト21をそれぞれ埋設することが可能な埋設部29を備えている。埋設部29は、第1インサートボルト19を埋設する第1埋設部31と、複数個の第2インサートボルト21を埋設する複数の第2埋設部33と、を備えている。
【0020】
複数の第2埋設部33の内側には、複数個の第2インサートボルト21をそれぞれ保持する案内部材35を有している。案内部材35は、複数個の第2インサートボルト21を第2埋設部33へ案内した後、一部が第2インサートボルト21と当接し、第2インサートボルト21を第2埋設部33に回転不能に保持することが可能なようにL字状の突出壁として形成されている。
【0021】
第2インサートボルト21は、ブロック本体13の第2埋設部33に埋設され、上面視で四角形状となった頭部37と、この頭部37から突出し、外周が雄ネジとなる円柱状の軸部39と、を備える。バスバー17には、第2インサートボルト21を挿通する貫通穴41が形成される。バスバー17の貫通穴41に軸部39を挿通した第2インサートボルト21の頭部37は、図1(b)に示すように、この頭部37と対向するバスバー17の締付面43と共に樹脂材15によってインサート成形される。
【0022】
バスバー17の締付面43には、貫通穴41の開口縁45より外周側において頭部37と当接する突起部が設けられている。本実施形態において、この突起部は、図2(b)に示すように、貫通穴41の開口縁45を囲む断面台形状の環状突起47として形成されている。従って、図2(a)に示すように、頭部37の平面視では、頭部37の締付面側に軸部39と同軸に環状突起47が配置される。なお、図2(a)で描いた複数の同心円状の破線は半径方向外側より、環状突起47の外裾部49、外稜線51、内稜線53、内裾部55、貫通穴41となる。
【0023】
図2(b)に示すように、第2インサートボルト21の頭部37と軸部39との境には首下すみ肉部である首下R部57が形成される。首下R部57は、頭部37と軸部39との境を突っ切り加工することによる切欠損失、応力集中による強度低下をなくすために設けられる。環状突起47の高さは、この首下R部57の半径よりも大きく設定されている。
【0024】
次に、上記構成を有するインサート樹脂成形品の作用を説明する。
本実施形態のヒューズブロック11では、バスバー17の締付面43に設けた環状突起47が第2インサートボルト21の頭部37に当接し、環状突起47がナット締付力を直接受けることになる。従って、貫通穴41の端面61が第2インサートボルト21の首下R部57に位置することが無くなり、貫通穴41は、開口縁45が首下R部57に当接しなくなる。そこで、貫通穴41と第2インサートボルト21の軸部39とのクリアランスを狭めることができ、バスバー17に対する第2インサートボルト21の取付精度が向上する。
【0025】
また、図3に示すように、インサート成形時に、溶融した樹脂材15が環状突起47より内側の貫通穴側へ侵入せず、第2インサートボルト21の頭部37とバスバー17の締付面43との間に流入樹脂部が介在しない。即ち、第2インサートボルト21の頭部37とバスバー17との間に隙間が生じず、隙間に樹脂材15が流れ込むことがない。
【0026】
このため、製品となり、LA端子(不図示)などがナット(不図示)によって第2インサートボルト21に締結されると、環状突起47がナット締付力を直接受ける。従って、ナット締付力により流入樹脂部が割れ、ねじ締付け力が低下することがない。このため、ヒューズブロック11の導通信頼性を向上させることができる。
【0027】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。
図4は突起部が島状突起63で形成されたインサート成形前の変形例に係る金属板の平面図である。
この変形例に係る突起部は、貫通穴41の周方向に沿って等間隔に形成された複数の島状突起63として形成されている。図示例では、突起部が円周方向に4つの島状突起63として等間隔に配設されている。なお、複数の島状突起とは、2つ以上の島状突起であればよい。例えば、島状突起63が2つの場合、図示は省略するが島状突起63は、貫通穴41の直径を挟んで一対の半円弧状に形成される。
【0028】
この変形例によれば、バスバー17の締付面43に設けた複数の島状突起63が第2インサートボルト21の頭部37に当接することにより、第2インサートボルト21の頭部37とバスバー17の締付面43との間に介在する流入樹脂部と、島状突起63とで、ナット締付力を均等に受けることができる。そこで、島状突起63の強度を必要以上に大きくする必要がなく、流入樹脂部の割れも防止できる。
【0029】
図5は突起部が折り曲げ形成された変形例に係る金属板の要部拡大図である。
この変形例に係る突起部は、バスバー17の穴周縁65が第2インサートボルト21の頭部側に折り曲げられた折曲突起67として形成されている。この折曲突起67は、断面台形状に形成されている。また、折曲突起67は、上述した環状突起47と同様に円周方向に連続した環状に形成されてもよく、上述した島状突起63のように複数のものが周方向に沿って等間隔に形成されてもよい。なお、折曲突起67は、図示例のように、穴周縁65の折曲先端が締付面43に当接することで、ナット締付時に折曲突起67が低くなる方向に変位することがない十分な剛性を得ることができる。
【0030】
この変形例によれば、貫通穴41の開口縁45が、バスバー17と、このバスバー17から折曲部69で折り返された折曲斜面部71と、によって形成される。そこで、ナット締付力に対する開口縁45の強度、並びに、ナット締付力に対する折曲突起67の強度を高めることができる。
【0031】
従って、本実施形態に係るヒューズブロック11によれば、バスバー17に対する第2インサートボルト21の取付精度を低下させずに、ねじ締付け力を低下し難くでき、導通信頼性を向上させることができる。
なお、本発明のインサート樹脂成形品は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0032】
11…ヒューズブロック(インサート樹脂成形品)
15…樹脂材
17…バスバー(金属板)
21…第2インサートボルト(ボルト)
37…頭部
39…軸部
41…貫通穴
43…締付面
45…開口縁
47…環状突起(突起部)
63…島状突起(突起部)
67…折曲突起(突起部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の貫通穴に軸部を挿通されたボルトの頭部が、前記金属板の前記頭部と対向する締付面と共に樹脂材によってインサート成形されるインサート樹脂成形品であって、
前記締付面には、前記貫通穴の開口縁より外周側において前記頭部と当接する突起部が設けられていることを特徴とするインサート樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載のインサート樹脂成形品であって、
前記突起部が、前記貫通穴の開口縁を囲む環状突起であることを特徴とするインサート樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1に記載のインサート樹脂成形品であって、
前記突起部が、前記貫通穴の周方向に沿って等間隔に形成された複数の島状突起であることを特徴とするインサート樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−86364(P2013−86364A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229119(P2011−229119)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】