説明

インシデント分析システム及びインシデント分析プログラム

【課題】本発明は、医療事故の未然防止の精度向上を目的とする。
【解決手段】インシデント分析システムは、作業手順上関連のある複数の医療行為における事故因子の発生に関する情報を入力する入力部11と、入力された事故因子の重大性と医療行為又は事故因子間の関連性とに基づいて現在又は将来時点の医療行為での事故発生予測を定量的に計算する計算部13と、計算された事故発生予測を出力する警告通知部15とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療事故の未然防止を目的としたインシデント分析システム及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、携帯情報入力装置100が入力した予定する医療行為と医療計画情報管理装置200が保持する情報とを照合し、誤りがある場合、警告を発するとともに、医療実績ログ情報10の一部として記憶する。医療事故防止情報収集装置300は、医療実績ログ情報10から医療事故防止の実績情報を抽出し、医療事故防止実績情報20として医療事故防止情報記録装置500に送信し、医療事故防止情報記録装置500は、医療事故情報入力装置400より入力された他のレポートと共通の様式に加工して医療事故防止情報DB600に蓄積する。医療事故分析装置700は医療事故防止実績情報20を適宜読み出し、医療事故発生傾向等を分析する。
【0003】
特許文献2において、警告システム10はサーバ12を含み、サーバ12はネットワーク14を介して複数のステーション18に接続される。各看護師はセンサユニット20を装着しており、それから送信される看護師IDはステーション18で検出され、検出された看護師IDの情報はサーバ12に送信される。サーバ12は、この情報から看護師の所在を知る。たとえば、看護師が看護業務を行う場合、サーバ12は、当該の看護師の所在を検出し、看護業務が正しく行われているか、看護業務に必要な器具や薬が正しく選択されているかを検出する。正しくない場合には、当該看護師が所持するPDAを通して内容に応じた警告を発する。また、患者が転倒しそうな状態などの危険な状態におかれている場合には、当該患者を担当する看護師の所在を検出して、警告を発する。ただし、当該看護師の所在を確認できない場合には、婦長や詰所などに同様の警告を発する。
【0004】
特許文献3において、医療支援システム1は、データストア210に格納されたケアフローデータ群からナースごとのケア指示を生成して、携帯情報端末40へ送信する。ケア指示には、エクゼキュートコンポジション部290で生成された警告が付加される。また、インシデントレポート生成部220は、携帯情報端末40から入力された情報を利用してインシデントレポートIRPを生成する。医療支援システム1では、インシデントレポートIRPが追加されるとKSDモデル302が更新される。さらに、警告生成に利用されるインシデントクエリ構造モデル291、データ構造モデル212およびトランスレータ240のデータ構造変換特性はKSDモデル302を反映したものに更新される。
【0005】
特許文献4において、行動分析装10はコンピュータ12を含み、コンピュータ12には計測装置30によって計測される看護師の歩数および傾斜角度(上体を傾斜させる角度)のデータが送信される。この計測された歩数および傾斜角度に基づいて看護師の行動特徴ベクトルが作成され、たとえば、アクシデント(事故)が発生したときの行動特徴ベクトルに基づいて特定のアクシデントについての辞書データが作成される。辞書データが作成された後では、或る時点(現時点)における看護師の行動特徴データを作成して、辞書データと比較することにより、アクシデントが発生する可能性の有無が判断される。そして、アクシデントが発生する可能性がある場合には、これを回避するための警告が発せられる。
【0006】
現状のインシデント分析では、インシデントレポートをもとにしているが、日常的に発生している小さな問題点は、そもそも当事者によってインシデントとして認識されていないため、インシデントレポートには、明らかなインシデントにしか書かれない。しかしながら、実際には重大なインシデントまたはアクシデントが発生する前には、その誘因となる影響度の低いインシデントが発生していることが多い。
【0007】
本発明では、それらの影響度の低いインシデントの発生状況を考慮して、そこから起因する重大なインシデントまたはアクシデントの発生を的確に予測することを課題とする。
【特許文献1】特開2004−030554号公報
【特許文献2】特開2005−092440号公報
【特許文献3】特開2005−063269号公報
【特許文献4】特開2004−157614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、医療事故の未然防止の精度向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明に係るインシデント分析システムは、作業手順上関連のある複数の医療行為における事故因子の発生に関する情報を入力する入力部と、前記入力された事故因子の重大性と、前記医療行為又は事故因子間の関連性とに基づいて、現在又は将来時点の医療行為での事故発生予測を定量的に計算する計算部と、前記計算された事故発生予測を出力する出力部とを具備する。
【0010】
請求項8に記載の本発明に係るインシデント分析プログラムは、相互関連性のある複数の医療行為における事故因子の発生に関する情報を入力する手段と、前記入力された事故因子と、前記医療行為又は事故因子間の関連性とに基づいて、現在又は将来時点の医療行為での事故発生予測を定量的に計算する手段と、前記計算された事故発生予測を出力する手段とをコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、医療事故の未然防止の精度向上を実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1には、本実施形態に係るインシデント分析システムとその関連システムの全体構成を示している。本実施形態に係るインシデント分析システムの入力には、手術計画システム3が接続される。手術計画システム3は、術前に手術で行われる一連の医療行為に関する計画を立案するためのシステムである。手術計画システム3において、手術の術式、術式の中での詳細な手順、担当者の割り当て、使用される医薬品、医療器具など手術の準備から完了に至る作業の全ての事項が決定される。決定の際には、電子カルテシステムから患者情報、カルテ情報を取得し、それを基に検討を進める事が多い。
【0013】
また、本実施形態に係るインシデント分析システムの入力には、インシデント判定システム5を介して手術記録システム4が接続される。手術記録システム4は、X線撮影装置等の医用機器1からの画像や映像を記録し、また行為記録入力部2からの患者の音声及び映像、医師の音声及び映像を記録するために構成されたシステムである。
【0014】
図20には、手術記録システム4と、その周辺機器としての行為記録入力部2を示している。手術記録システム4は、複数の映像信号用コネクタ125−1,125−2,125−3,125−4と、複数の音声信号用コネクタ126−1,126−2とを装備する。映像信号用コネクタ125−1には、脳機能検査装置101の装置本体111が接続される。手術記録システム4には脳機能検査装置101の装置本体111から、映像信号用コネクタ125−1を介して、患者にタスクを提示するための患者用タスク提示ディスプレイ112と同じ表示画面に関する映像信号が供給される。映像信号用コネクタ125−2には、脳機能検査対象の患者の顔面を主に撮影するために位置及び向きが設定された患者撮影用カメラ113が接続される。手術記録システム4には患者撮影用カメラ113から、患者の表情に関する映像信号が供給される。映像信号用コネクタ125−3には、撮像機能を有する手術顕微鏡103のカメラが接続される。手術記録システム4には手術顕微鏡103のカメラから、術野に関する映像信号が供給される。さらに、映像信号用コネクタ125−4には、手術支援機能を有するナビゲータ装置104が接続される。手術記録システム4にはナビゲータ装置104の表示画面に関する映像信号が供給される。
【0015】
音声信号用コネクタ126−1には、患者の顔面を主に撮影するために位置及び向きが設定された患者撮影用カメラ113に付設された主に患者が発した音声を電気信号に変換するためのマイクロホン118が接続される。手術記録システム4にはマイクロホン118から主に患者が発した音声に関する音声信号が供給される。音声信号用コネクタ126−2には、主に執刀医が発した音声を電気信号に変換するためのマイクロホン105が接続される。手術記録システム4にはマイクロホン105から主に執刀医が発した音声に関する音声信号が供給される。手術記録システム4は、手術記録制御部121を制御中枢として、4画面合成器124を有する。4画面合成器124は、複数の映像信号用コネクタ125−1,125−2,125−3,125−4に接続される。4画面合成器124は、図21に示すように、映像信号用コネクタ125−1,125−2,125−3,125−4を介して供給された複数の映像信号としてここでは患者用タスク提示ディスプレイ112の表示画面の映像信号、患者撮影用カメラ113で撮影した患者の映像信号、手術顕微鏡103のカメラで撮影した術野の映像信号、ナビゲータ装置104の表示画面の映像信号を、単一の画面(フレーム)に合成する。単一の画面に合成された映像信号は、手術室内に設置された情報提示モニタ122に送られ表示されるとともに、記録部として例えばビデオテープレコーダ(VTR)123に記録される。マイクロホン105、118から音声信号用コネクタ126−1,126−2を介して供給された複数の音声信号は、図2に示すように、個別に再生可能なように、ビデオテープレコーダ123に多チャンネルで記録される。
【0016】
インシデント判定システム5は、手術記録システム4で記録された医用機器1からの画像や映像、また患者の音声及び映像、医師の音声及び映像としての記医療行為情報及び手術計画システム3で作成された手術計画を用いて、「医療事故(アクシデント)を誘発する可能性のある顕在的又は潜在的な事故因子(以下、インシデントという)」の発生を検知するために構成される。基本的には、事前に綿密に作成した手術計画から外れるような作業や事態が発生したときにそれをインシデントとしてピックアップする。
【0017】
なお、インシデントには、例えば、作業人員不足、作業時間超過、作業時間不足、使用薬品の誤り(薬品の種別、銘柄、量、順序など)、使用機械・器具(種別、順序、量、使用時間など)、出血量、血圧、心拍、血液成分、麻酔深度が例示される。
【0018】
本実施形態に係るインシデント分析システム6は、インシデント判定システム5で判定された作業手順上関連のある複数の医療行為におけるインシデントの発生に関する情報(インシデント発生情報)を入力し、この入力された発生インシデントの重大性度数(医療事故を誘発する可能性を定量化した度数(重要度数))と、医療行為間の関連性係数(ある医療行為で発生したインシデントが次の医療行為への影響の程度を定量化した係数(伝播係数))とに基づいて、現在又は将来時点の医療行為での事故発生予測(アクシデント発生予測値)を定量的に計算するとともに、計算されたアクシデント発生予測値を例えばネットワーク接続された任意のコンピュータのモニタ7上に警告情報を表示出力する機能を有している。
【0019】
図2に本実施形態に係るインシデント分析システム6の構成を示している。インシデント情報入力部11は、インシデント判定システム5からインシデント発生に関するデータを入力してインシデント記憶部12に記憶させる。インシデント発生に関するデータには、以下の項目が含まれる。
・インシデントが発生した医療行為を識別する識別情報(手術計画の中で一意に識別できれば良い)
・発生したインシデントを識別する識別情報
・インシデントの発生時刻
・インシデントの発生場所
・インシデントの発生に関わった当事者の識別情報
・インシデント発生時の患者の状態
インシデント記憶部12は、手術計画システム3からの手術計画に関するデータと、インシデント判定システム5からのインシデント発生に関するデータとを記憶する。
【0020】
医療行為マップ記憶部14は、複数種類の治療処置それぞれ対応する複数の医療行為マップのデータを記憶する。医療行為マップは、図3に例示するように、治療処置を構成する複数の医療行為が、作業手順に応じてツリー構造に関連付けられてなる。実際的には、医療行為マップのデータは、以下の項目から構成される。
・医療ステージ名及び識別情報
・医療行為名及び医療行為識別情報
・医療行為補足情報(医療行為の説明情報)
・医療行為間の関連付け
・医療行為間の伝播係数a(図5参照)
・各医療行為の中で発生する可能性のあるインシデントの種別及び各インシデントの重要度数IVA(図4参照)
・伝播度数IVPを変換するための変換テーブルf(図6参照)
なお、本実施形態で扱われる指標値は、次の通りである。
・IVA:各医療行為で発生する各インシデントに固有のその重大性を定量化した値(インシデント重要度数)
・a;ある医療行為で発生したインシデントが次の医療行為でインシデントを誘引する可能性を定量化した値(インシデント伝播係数)
・IVP;ある医療行為から次の医療行為に伝播するインシデント発生予測値のインシデント伝播度数(a×IVE)
・IVE;ある医療行為で発生したインシデントのインシデント重要度数IVAと、その医療行為に伝播してきたインシデント伝播度数IVPを図6の変換テーブルにより変換した値f(IVP)との合計(f(IVP)+IVA)であって、アクシデントを誘引するような重大なインシデント又はアクシデントの発生可能性を定量化した値(以下、アクシデント発生予測値という)
インシデント警告判定部13は、アクシデント発生予測値IVEを計算する。計算されたアクシデント発生予測値IVEは、インシデント警告通知部15に供給される。インシデント警告通知部15は、アクシデント発生予測値IVEを、数値情報としてそのまま外部システムまたはコンピュータモニタ7上に表示しても良いし、図7に示すようにユーザが予め任意に設定した閾値をアクシデント発生予測値IVEが超過した時に、警告メッセージを表示、又はそれとともに図8に示すようにスピーカ16を介して警告音又は音声で警告通知するようにしても良い。
【0021】
図9を参照して本実施形態のインシデント分析動作について説明する。図9において、各ブロックは個々に医療行為を示している。矢印により医療行為間の関連性を示し、矢印の向きにより伝播元と伝播先とを区別している。また、a1,a2,a3は、インシデント伝播係数を示す(他の医療行為で発生したインシデントの影響度合い)。また、ここでは、3段階の医療ステージを例示している。説明の便宜上、医療ステージを(i−2)、(i−1)、iのステージ番号で識別し、また、各医療ステージに含まれる医療行為を1、2、・・・のように連番による医療行為番号で示すものとする。各医療行為はステージ番号と医療行為番号との組み合わせで特定され得る。図9では、麻酔ステージ(i−1)から開頭ステージ(i)に移行した時点を現時点として示している。
【0022】
まず、最初の準備ステージ(i−2)において、医療行為(i−2,1)で麻酔準備が行われる。当該医療行為(i−2,1)で、薬品の銘柄が予定の銘柄から他の銘柄に変更になったというインシデントが発生したとする。このインシデントのインシデント重要度数IVAは4である。他のインシデントは発生しなかったとする。また、最初の医療ステージであるのでインシデント伝播もなく、つまりインシデント伝播度数IVPはゼロであり、図6のテーブルで変換されたインシデント伝播度数f(IVP)もそのままゼロである。従って、インシデント重要度数IVAとインシデント伝播度数IVPとの合計として与えられるアクシデント発生予測値IVE(i−2,1)は、4となる。なお、当該医療行為(i−2,1)で他のインシデントは発生した時、そのインシデントに割り当てられている重要度数IVAがアクシデント発生予測値IVEに随時加算され、アクシデント発生予測値IVEが次々と即時的に更新される。
【0023】
次の麻酔ステージ(i−1)では、2つの医療行為(i−1,1)、(i−1,2)が並行して行われる。一方の麻酔導入の医療行為(i−1,1)において、例えば作業時間超過というインシデントが発生した。このインシデントのインシデント重要度数IVAは4である。麻酔導入の医療行為(i−1,1)は、前段の麻酔準備の医療行為(i−2,1)と関連性がある、つまり伝播係数がゼロでない。麻酔導入の医療行為(i−1,1)が前段の麻酔準備の医療行為(i−2,1)から伝播をうけるインシデント伝播度数IVPは、前段の麻酔準備の医療行為(i−2,1)のインシデント発生予測値IVEの4に、両医療行為間に設定されている伝播係数0.5を乗じた値2(=0.5×4)である。このインシデント伝播度数IVPの2は、図6の変換テーブルにより、値4に変換される。変換されたインシデント伝播度数f(IVP)の4と、当該医療行為で発生したインシデントの重要度数IVAとの合計値8が、当該医療行為(i−1,1)でのアクシデント発生予測値IVE(i−1,1)として8になる。なお、当該医療行為(i−1,1)で他のインシデントは発生した時、そのインシデントに割り当てられている重要度数IVAがアクシデント発生予測値IVEに随時加算され、アクシデント発生予測値IVEが次々と即時的に更新される。
【0024】
他方の開頭準備の医療行為(i−1,2)では、例えば作業時間不足というインシデントが発生した。このインシデントのインシデント重要度数IVAは4である。開頭準備の医療行為(i−1,2)は、前段の麻酔準備の医療行為(i−2,1)と関連性がない、つまり伝播係数がゼロである。当該医療行為(i−1,2)が前段の麻酔準備の医療行為(i−2,1)から伝播をうけるインシデント伝播度数IVPは、0であり、変換されたインシデント伝播度数f(IVP)もそのままゼロである。従って、インシデント伝播度数IVPの変換値f(IVP)の値0と、当該医療行為(i−1,2)で発生したインシデントの重要度数IVAとの合計値4が、当該医療行為(i−1,2)でのアクシデント発生予測値IVE(i−1,2)として4になる。なお、当該医療行為(i−1,1)で他のインシデントは発生した時、そのインシデントに割り当てられている重要度数IVAがアクシデント発生予測値IVEに随時加算され、アクシデント発生予測値IVEが次々と即時的に更新される。
【0025】
上記の計算結果を引き継いで、次の開頭ステージ(i)に移行する時点で、最終的に開頭ステージ(i)におけるアクシデント発生予測値IVE(i,1)の計算がなされる。この開頭の医療行為(i,1)に移行直後は、インシデントはまだ発生しないので、インシデント重要度数IVAは0である。開頭の医療行為(i,1)は、前段の麻酔導入の医療行為(i−1,1)と、開頭準備の医療行為(i−1,2)との両方に関連性がある、つまり伝播係数がゼロでない。
【0026】
開頭医療行為(i,1)が前段の一方の麻酔導入の医療行為(i−1,1)から伝播をうけるインシデント伝播度数IVPは、前段の麻酔導入の医療行為(i−1,1)のインシデント発生予測値IVEの8に、両医療行為間に設定されている伝播係数1を乗じた値8である。
【0027】
また、開頭医療行為(i,1)が前段の他方の開頭準備の医療行為(i−1,2)から伝播をうけるインシデント伝播度数IVPは、前段の開頭準備の医療行為(i−1,2)のインシデント発生予測値IVEの4に、両医療行為間に設定されている伝播係数0.2を乗じた値0.8である。
【0028】
従って、開頭医療行為(i,1)が全段の医療行為から受けるインシデント伝播度数IVPは、麻酔導入の医療行為(i−1,1)からのインシデント伝播度数IVP(8)と、開頭準備の医療行為(i−1,2)からのインシデント伝播度数IVP(0.8)との合計値として(8.8)となる。インシデント伝播度数IVP(8.8)は、図6の変換テーブルで、値10に変換される。従ってインシデント伝播度数IVPの変換値f(IVP)の値10と、当該医療行為(i,1)で発生したインシデントの重要度数IVAの値0との合計値10が、当該医療行為(i,1)での予測されるアクシデント発生予測値IVE(i,1)として10になる。なお、当該医療行為(i,1)で他のインシデントは発生した時、そのインシデントに割り当てられている重要度数IVAがアクシデント発生予測値IVEに随時加算され、アクシデント発生予測値IVEが次々と即時的に更新される。
【0029】
なお、説明の便宜上、各医療行為で1種類のインシデントが発生することとして説明してきたが、1つの医療行為で発生するインシデントは1種類に限定されず、実際には複数のインシデントが発生するものも多い。この場合、同じ医療行為で発生するインシデントには全て同じインシデント伝播係数を適用しても良いし、それぞれ独自のインシデント係数を定義し使用しても良い。
【0030】
つまり、図9に示すように医療行為間の関連性(伝播係数)により医療行為単位で、つまりアクシデント発生予測値IVEに伝播係数aを乗じて次の医療行為のインシデント伝播度数IVPを決定することには限定されず、図14に示すように、インシデントと次の医療行為との間に個々に伝播係数を設定し、前段ステージの医療行為で発生したインシデントごとにインシデント重要度数IVAに伝播係数aを乗じた値を計算し、それらの合計値を次のステージの医療行為への伝播度数IVP(i)を計算するようにしても良い。また、図15に示すように、医療行為ごとに複数のインシデントのIVAから最大値等の代表値を選択して、選択したインシデント重要度数IVAにそれ固有の伝播係数aを乗じた値を計算し、その値を次のステージの医療行為への伝播度数IVP(i)としても良い。
【0031】
また、図16に示すように、医療行為間の関連性に限定されず、インシデント間に関連性を与え、つまりインシデント間にそれぞれ固有の伝播係数を設定し、前段ステージの複数のインシデントから個々に伝播度数を乗じた値の合計値として次のステージのインシデント伝播度数としてインシデント毎に計算するようにしてもよい。
【0032】
なお、発生したインシデントに対して、人員増員や血圧上昇剤投与等の何らかの回復処置(リカバリ処理)をすれば、アクシデント発生予測値IVEを低下させるようにしても良い。図18に示すように、インシデント情報入力部11から、インシデントの発生に関する情報とともに、リカバリ処理の実行に関する情報も入力される。インシデント警告情報記憶部18は、インシデント警告判定部13で計算されたアクシデント発生予測値IVEを、当該一連の医療行為を識別する識別情報(手術通番等)、警告発生時刻、警告インシデント種類を関連付けて逐次記憶する。インシデント警告判定部13では、インシデント記憶部12へのリカバリ処理に関する情報の記憶をトリガにアクシデント発生予測値の再計算を行う。このとき、インシデント警告情報記憶部18から直近のアクシデント発生予測値と、リカバリ処理に伴って再計算されたアクシデント発生予測値とを比較し、その変化量を計算して、アクシデント発生予測値を閾値と比較して、閾値以下に改善しているか否かの判定を行う。その判定結果と最新のアクシデント発生予測値をインシデント警告通知部15に通知して利用者に、例えば図19に示す改善メッセージとともに通知する。
【0033】
次に、インシデント警告判定部13及びインシデント警告通知部15によるアクシデント発生警告の方法について説明する。図8に示したように、スピーカ16から音で警告レベルを表現しても良い。この場合、音質(周波数の高低、連続性)で警告レベルを表現すれば良い。また、アクシデント発生予測値IVEが閾値を超過したときに、音声で警告を発生するものであっても良い。また、図10Aに示すように、他システム、例えば手術記録システム4の記録表示画面下部に、現在の医療ステージの医療行為をマップ形式で表示し、医療行為のアクシデント発生予測値IVEに応じて色分けして表示しても良い。この場合、HTMLなど汎用性の高いデータ形式で他システムにデータを送信することで、より簡単に他システムでの表示を実現できる。またアクシデント発生予測値IVEが閾値を超過したときに、「アクシデント発生予測値が上昇(悪化)しています」等の警告メッセージを発生するようにしても良い。また、音声やメッセージの表示以外の警告手段として、振動センサや光センサなどを利用してインシデント発生を警告するシステムを実現することもできる。
【0034】
図10Bで示したように、専用の画面に表示しても良い。図10Aや図10Bのモニタは、医療従事者から良く見える場所に設置すれば良い。医療従事者は、音あるいは画像によって表示されるアクシデント発生予測に基づいて、医療行為を当初の計画通り進めるか、計画を変更するか、中止するかを判断することができ、より重大なインシデントあるいはアクシデントを回避できる。
【0035】
警告発生のタイミングとしては、各ステージが始まるタイミングに同期して警告を発生する。図17に示すように、ステージ情報入力部17で外部システムから医療行為のステージ情報を受け付ける。インシデント警告判定部13では、ステージ情報入力部17でのステージ情報入力をトリガとしてアクシデント発生予測値の計算を行う。アクシデント発生予測値の計算対象は、ステージ情報入力部17から送信されたステージ情報を基に、医療行為マップ記憶部14に記憶されている当該医療ステージ以降の医療ステージに関連するインシデント情報を取得して、それを基にそれぞれのアクシデント発生予測値を計算する。
【0036】
図11には、医療行為マップの作成画面例を示している。図示しない医療行為マップ作成支援装置により、グラフィックユーザインタフェースGUIを用いて容易に、医療行為マップの新規作成、医療行為マップ記憶部14に記憶されている医療マップの更新を行うことができる。医療マップ記憶部14に記憶されている医療行為マップは、手術計画システム3など外部システムからインポートされたものであっても良い。
【0037】
図11のボックスは、1つの医療行為を表している。矢印は、医療行為間でインシデントが伝播する(インシデントの影響を受ける)ことを示している。マウス操作によりブロックを配列する。画面右下部のPrev(前に)、Next(次に)のボタンは、医療ステージの切り替えを実現する。SAVEボタンの押下げにより、編集されたマップ情報が医療行為マップ記憶部14に記憶される。
【0038】
図11の医療行為をダブルクリックで指定することにより図12に例示する医療ステージ設定画面が表示される。図12の画面には、3つのタブがある。入力設定タブ及び出力設定タブでは、ダブルクリックした医療行為に、関連性のある医療行為(伝播元となる医療行為)の選択を行うとともに、その医療行為からの伝播係数aを指定する。画面右のリストから対象となる医療行為を選択する。この時、医療行為をステージ単位で絞り込むことができるようにしておけば、より簡単で誤りを少なく医療行為を選択することができる。画面右のリストから選択し、Add(追加)のボタンによりリストに追加する。追加した医療行為に関して、画面左の医療行為リストで、伝播係数の登録を行うことができる。
【0039】
図13のインシデント設定タブでは、各医療行為で発生が予測されるインシデントと各インシデントの重要度数IVAを定義する。画面右側のインシデントリストから発生が予測されるインシデントを選択し、画面中央のAdd(追加)のボタンを押すことで、選択されているインシデントを発生が予測されるインシデントとして登録することができる。この時、画面左側の選択インシデントリストで各インシデントの重要度を定義することができる。ここで登録されるインシデントの種類には、例えば作業人員不足、作業時間超過、作業時間不足、使用薬品の誤り(薬品の種別、銘柄、量、順序など)、使用機械・器具(種別、順序、量、使用時間など)、出血量過多、血圧上昇、血圧低下、心拍数減少、心拍数増加、血液成分変化、麻酔深度不足がある。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係るインシデント分析システムとその関連システムの全体構成図。
【図2】図1のインシデント分析システムの構成図。
【図3】図2の医療行為マップ記憶部に記憶される医療行為マップの一例を示す図。
【図4】図3の医療行為マップ上の各インシデント(事故因子)の固有値(レベル)の典型的な意味合いを示す図。
【図5】図3の医療行為マップ上の各伝播係数(関連性係数)の典型的な意味合いを示す図。
【図6】図2のインシデント警告判定部によるインシデント伝播度数をアクシデント発生予測値に変換するための変換テーブルを示す図。
【図7】図2のインシデント警告判定部による警告閾値の設定画面例を示す図。
【図8】図2のインシデント警告通知部の音声による警告通知のための構成を示す図。
【図9】図2のインシデント警告判定部によるアクシデント発生予測値の計算方法の説明図。
【図10A】図2のインシデント警告通知部の警告通知のためのモニタ画面の一例を示す図。
【図10B】図2のインシデント警告通知部の警告通知のためのモニタ画面の他の例を示す図。
【図11】図2の医療行為マップ記憶部に記憶される医療行為マップの作成画面の一例を示す図。
【図12】図2の医療行為マップ記憶部に記憶される医療行為マップ上の伝播係数の設定画面の一例を示す図。
【図13】図2の医療行為マップ記憶部に記憶される医療行為マップ上のインシデント及びその固有値の設定画面の一例を示す図。
【図14】図2のインシデント警告判定部によるアクシデント発生予測値の他の計算方法の説明図。
【図15】図2のインシデント警告判定部によるアクシデント発生予測値の他の計算方法の説明図。
【図16】図2のインシデント警告判定部によるアクシデント発生予測値の他の計算方法の説明図。
【図17】図1のインシデント分析システムの他の構成例を示す図。
【図18】図1のインシデント分析システムの他の構成例を示す図。
【図19】図18の構成に対応するアクシデント発生予測値の回復(低下)のための通知画面例を示す図。
【図20】図1の手術記録システムの構成例を示す図。
【図21】図20の手術記録システムの補足説明図。
【符号の説明】
【0042】
1…医用機器、2…行為記録入力部、3…手術計画システム、4…手術記録システム、5…インシデント判定システム、6…インシデント分析システム、7…モニタ、11…インシデント情報入力部、12…インシデント記憶部、13…インシデント警告判定部、14…医療行為マップ記憶部、15…インシデント警告通知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業手順上関連のある複数の医療行為における事故因子の発生に関する情報を入力する入力部と、
前記入力された事故因子の重大性と、前記医療行為又は事故因子間の関連性とに基づいて、現在又は将来時点の医療行為での事故発生予測を定量的に計算する計算部と、
前記計算された事故発生予測を出力する出力部とを具備するインシデント分析システム。
【請求項2】
前記事故因子の候補には、計画と相違する作業時間、薬剤変更、人員交代が含まれる請求項1記載のインシデント分析システム。
【請求項3】
前記事故因子に対する固有値のデータと、前記医療行為又は事故因子間の関連性に対応する伝播係数のデータとを記憶する記憶部をさらに備える請求項1記載のインシデント分析システム。
【請求項4】
前記計算部は、前記入力された事故因子に対応する固有値と伝播係数との積及び/又はその連鎖から前記事故発生予測を定量的に計算する請求項3記載のインシデント分析システム。
【請求項5】
前記出力部は、前記計算された事故発生予測の値が閾値を超過しているとき、画面表示及び/又は音声で警告を発生又はその警告発生に必要な制御信号を発生する請求項1記載のインシデント分析システム。
【請求項6】
前記出力部は、前記医療行為の開始時期に実質的に同期して、前記警告又はその警告発生に必要な制御信号を発生する請求項1記載のインシデント分析システム。
【請求項7】
前記計算部は、前記事故発生予測の値を、回復処置の発生により低下する請求項1記載のインシデント分析システム。
【請求項8】
相互関連性のある複数の医療行為における事故因子の発生に関する情報を入力する手段と、
前記入力された事故因子と、前記医療行為又は事故因子間の関連性とに基づいて、現在又は将来時点の医療行為での事故発生予測を定量的に計算する手段と、
前記計算された事故発生予測を出力する手段とをコンピュータに実現させるためのインシデント分析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−165679(P2008−165679A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186(P2007−186)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】