説明

インジウムとスズの分離方法

【課題】インジウムとスズを含む溶液からスズを簡単にかつ効率よく分離する方法を提供する。
【解決手段】インジウムとスズを含む酸性溶液にタンニン酸を添加して液中のスズを沈澱させて分離することを特徴とするインジウムとスズの分離方法であって、好ましくは、タンニン酸とスズのモル比(タンニン酸/スズ)が0.05〜4、好ましくは0.1〜3になる量のタンニン酸を添加し、さらにアルカリを添加してpH0.1〜3.5、好ましくはpH0.5〜2.5に調整してスズ含有沈殿物を生成させるインジウムとスズの分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムとスズの共存溶液からスズを簡単に分離する方法に関する。本分離方法はインジウム回収プロセスにおけるスズの分離回収方法として好適である。
【背景技術】
【0002】
インジウムは酸化スズインジウム(ITO)、透明導電性薄膜、ハンダペースト、InP、InAs等の半導体材料として利用されているが、使用後はスクラップとして廃棄されている。一方、インジウムは希少金属であり、固有の含有鉱物が無く、副産物として生産されており、需要に見合う十分な供給量を確保するのが難しい。そこで、上記スクラップからインジウムを回収し、有効に再利用することが求められている。とくに、液晶ディスプレイに使用されているITOの需要が増加している。ITOスクラップにはインジウムと共にスズが多く含まれているので、インジウムの回収にはスズを効率よく分離する必要がある。
【0003】
インジウム含有溶液からスズを分離する方法として以下の方法が従来知られている。
(i)ITOスクラップを塩酸溶解し、その塩化インジウム溶液に水酸化アルカリを添加して液中のスズを水酸化スズとして沈澱させ除去する方法(特許文献1)。
(ii)ITOスクラップの塩酸溶解液にアルカリを加えて中和し、pH0.5〜4に調整して液中のスズを水酸化スズとして沈澱させて分離し、さらにこの溶液に硫化水素ガスを吹き込んで液中の銅、鉛、および残留しているスズを硫化物として析出除去する方法(特許文献2)。
(iii)ITOスクラップの塩酸溶解液に不活性ガスを通じて液中の溶存酸素を追い出した後に、金属インジウムを投入して液中のスズ、銅、鉛などを置換析出させる方法(特許文献3)。
(iv)インジウム含有溶液をキレート型イオン交換樹脂に接触させて、鉄、亜鉛、ジルコニウム、銅、錫などの不純物金属を吸着させて除去する方法(特許文献4)。
(v)インジウムを含む電解後液から溶媒抽出またはイオン交換によってインジウムを抽出し、液中のスズと分離する方法(特許文献5)。
【特許文献1】特開2002−069544号公報
【特許文献2】特開2005−146420号公報
【特許文献3】特許第3173404号(特開平10−204673号)公報
【特許文献4】特開2002−308622号公報
【特許文献5】特開2006−124782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来知られている上記(i)の水酸化スズを沈澱させる方法は、水酸化スズの濾過性が劣るので固液分離に時間がかかり、大型の濾過設備を必要とする問題がある。また、上記(ii)の硫化物沈澱を生成させる方法は、スズの沈澱生成が十分ではなく、しかも硫化水素が発生するので作業環境を整える必要がある。上記(iii)のスズを置換析出させる方法は、液中のスズ濃度が高い場合には大量の金属インジウムが必要になり、一方、低濃度のスズについては析出に時間がかかる。上記(iv)のイオン交換法は、高濃度インジウム溶液ではスズの吸着が妨害され、液中にスズが残存する問題がある。また、上記(v)の溶媒抽出法は、スズの効果的な逆抽出液が無いため溶媒中にスズが残留する問題があり、また硫酸によってスズを溶媒から硫酸スズとして回収しているが、このための設備が大型化する問題もある。
【0005】
本発明は、従来のインジウム回収等に伴うスズ分離工程における上記問題を解決したものであり、インジウムとスズを含む溶液からスズを簡単にかつ効率よく分離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した、インジウムとスズの分離方法に関する。
(1)インジウムとスズを含む酸性溶液にタンニン酸を添加して液中のスズを沈澱させて分離することを特徴とするインジウムとスズの分離方法。
(2)タンニン酸とスズのモル比(タンニン酸/スズ)が0.05〜4になる量のタンニン酸を添加する上記(1)に記載するインジウムとスズの分離方法。
(3) タンニン酸を添加し、さらにアルカリを添加してpH0.1〜3.5に調整してスズ含有沈殿物を生成させる上記(1)または上記(2)に記載するインジウムとスズの分離方法。
(4)タンニン酸とスズのモル比(タンニン酸/スズ)が0.1〜3になる量のタンニン酸を添加し、pH0.5〜2.5に調整してスズ含有沈殿物を生成させる上記(1)に記載するインジウムとスズの分離方法。
(5)インジウムとスズを含有する酸性溶液が塩酸性溶液である上記(1)〜上記(4)の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
(6)インジウムとスズを含む酸性溶液にタンニン酸を添加して液中のスズを沈澱させ、該スズ含有沈澱を固液分離して回収し、塩酸に溶解させ、このスズ含有塩酸溶液のpHを調整してスズ含有沈澱を生成させ、該スズ含有沈澱を固液分離する二段階処理を行う上記(1)〜上記(5)の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
(7)スズを分離したインジウム溶液に亜鉛を添加して金属インジウムを析出させて回収する上記(1)〜上記(6)の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
(8)分離したスズ含有沈澱をスズ製錬原料として用いる上記(1)〜上記(7)の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の分離方法によって生成するスズ含有沈澱は濾過性が良いので、固液分離が容易であり、効率よくスズを分離することができる。また、本発明の方法によればインジウムとスズの分離性が良く、概ね99.9%以上のスズを分離することができる。さらに、本発明の分離方法は操作が簡単であるので実施しやすい。
【0008】
また、本発明の分離方法では、スズを分離したインジウム溶液について液性の大きな変化はないので、亜鉛などのインジウムより卑な金属を用いたセメンテーション、あるいは電解採取などによって不純物の少ない高品位の金属インジウムを容易に回収することができる。また、分離したスズ含有沈澱を再び塩酸に溶解し、溶解液のpHを調整してスズの沈澱化と固液分離を繰り返すことによってスズの分離効果をさらに高めることができる。また、最終的に回収したスズ含有沈澱はスズの含有量が多いので、スズ製錬原料などに再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の方法は、インジウムとスズを含む酸性溶液にタンニン酸を添加して液中のスズを沈澱させて分離することを特徴とするインジウムとスズの分離方法である。
本発明の分離方法の概略を図1に示す。図示する本発明の分離方法はタンニン酸を添加して生成した沈澱を酸溶解し、その溶解液のpHを調整して沈殿を再生成させることを繰り返す二段処理の例である。
【0010】
インジウムとスズを含有する酸性溶液は、例えば、ITOスクラップ等を塩酸、硫酸、硝酸、またはこれらの混酸に溶解させた酸性溶液である。インジウム濃度およびスズ濃度は限定されない。
【0011】
インジウムとスズの含有酸性溶液に添加するタンニン酸を添加すると、液中のスズが反応しスズ含有沈澱が生じる。一方、タンニン酸と反応するインジウム量は少なく、一例として、インジウムの沈殿量はスズ沈殿量の約2/9〜約5/100程度であり、スズが選択的にタンニン酸により沈殿する。
【0012】
タンニン酸の添加量は、タンニン酸とスズのモル比(タンニン酸/スズ)が0.05〜4になる量が好ましく、0.1〜3になる量がより好ましい。また、タンニン酸を添加後、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加して、pH0.1〜3.5、好ましくはpH0.5〜2.5に調整することによって、スズの沈澱化を高めることができる。
【0013】
沈澱生成工程においては、溶液を加熱し、攪拌して反応を進めるのが好ましい。加熱温度は30℃〜80℃が適当であり、攪拌時間は10分〜8時間であれば良く、30分程度が好ましい。
【0014】
上記沈澱生成後、固液分離して沈澱化したスズと液中のインジウムとを分離する。上記スズ含有沈澱は濾過性が良く、短時間で沈澱を分離することができる。因みに、従来のスズ水酸化物沈澱を生成させて濾過する方法では、スズ水酸化物の濾過時間が例えば7時間程度であったが、本発明のタンニン酸を用いたスズ沈澱では、上記と同程度の沈澱量を濾過するのに要する時間は約5分程度であり、処理時間を大幅に短縮することができる。
【0015】
図1に示すように、分離したスズ含有沈澱を回収して再び塩酸に溶解させ、このスズ含有塩酸溶液のpHを調整して再度スズ含有沈澱を生成させ、該スズ含有沈澱を固液分離する二段階処理を行うことによってスズの分離効果をさらに高めることができる。
【0016】
上記二段処理において、二回目のpH範囲、液温の調整は一回目と同様のpH範囲、液温に調整すれば良い。本発明の分離方法によれば、処理前の原料溶液に含まれるスズ含有量の99.9%以上を分離することができる。
【0017】
本発明の分離方法では、スズを分離したインジウム溶液について液性の大きな変化はないので上記溶液から容易にインジウムを回収することができる。具体的には、例えば、亜鉛などのインジウムより卑な金属をインジウム溶解液に加えて金属インジウムを析出させるセメンテーションによってスズ含有量が極めて少ない高品位の金属インジウムを容易に回収することができる。あるいは、脱スズインジウム溶解液を電解液として用いる電解採取によって高品位の金属インジウムを容易に回収することができる。
【0018】
また、分離したスズ含有沈澱には原料溶液に溶存していたスズの大部分が含まれているので、スズ製錬原料として好適である。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例を示す。
〔実施例1〕
インジウムとスズを含む塩酸性溶液(インジウム濃度80g/L、スズ濃度8g/L)1リットルに、タンニン酸を添加し、タンニン酸は予め濃度150g/Lに調整し、表1に示すタンニン酸/スズのモル比になる量を添加した。タンニン酸を添加した後に水酸化ナトリウムを加えて表1に示すpHに調整し、さらに表1に示す液温および攪拌時間に調整して沈澱を生成させ、この沈澱を濾過分離した。濾液に含まれるインジウム濃度とスズ濃度、およびスズ濃度から求めたスズ除去率を表1に示した。
表1に示すように、液中のスズ量に対するタンニン酸のモル比0.4〜3.0、pH0.5〜2.5、液温30℃〜80℃、攪拌時間4時間〜8時間の処理条件下で99.9%のスズ除去率を達成している。
【0020】
【表1】

【0021】
〔実施例2〕
タンニン酸の添加量を変えた以外は実施例1と同様の処理条件下で沈澱を生成させ、沈澱を濾過分離し、濾液のスズ除去率およびインジウム損失率を調べた。インジウム損失量(Y)はインジウムの初期濃度×使用液量(No)と処理後のインジウム濃度×濾液量(Ns)に基づき次式によって求めた。
〔Y=(No−Ns)/No×100(%)〕
この結果を図2に示した。図示するように、タンニン酸の添加量(タンニン酸/スズのモル比)が0.4〜1.4の範囲で、インジウム損失率が約7%以下と低く、一方、スズ除去率は約95%であり、インジウムの損失が少なく高いスズ除去率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の分離方法を示す処理工程図
【図2】本発明の分離方法において、タンニン酸添加量とスズ除去率およびインジウム損失率の関係を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムとスズを含む酸性溶液にタンニン酸を添加して液中のスズを沈澱させて分離することを特徴とするインジウムとスズの分離方法。
【請求項2】
タンニン酸とスズのモル比(タンニン酸/スズ)が0.05〜4になる量のタンニン酸を添加する請求項1に記載するインジウムとスズの分離方法。
【請求項3】
タンニン酸を添加し、さらにアルカリを添加してpH0.1〜3.5に調整してスズ含有沈殿物を生成させる請求項1または請求項2に記載するインジウムとスズの分離方法。
【請求項4】
タンニン酸とスズのモル比(タンニン酸/スズ)が0.1〜3になる量のタンニン酸を添加し、pH0.5〜2.5に調整してスズ含有沈殿物を生成させる請求項1に記載するインジウムとスズの分離方法。
【請求項5】
インジウムとスズを含有する酸性溶液が塩酸性溶液である請求項1〜請求項4の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
【請求項6】
インジウムとスズを含む酸性溶液にタンニン酸を添加して液中のスズを沈澱させ、該スズ含有沈澱を固液分離して回収し、塩酸に溶解させ、このスズ含有塩酸溶液のpHを調整してスズ含有沈澱を生成させ、該スズ含有沈澱を固液分離する二段階処理を行う請求項1〜請求項5の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
【請求項7】
スズを分離したインジウム溶液に亜鉛を添加して金属インジウムを析出させて回収する請求項1〜請求項6の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。
【請求項8】
分離したスズ含有沈澱をスズ製錬原料として用いる請求項1〜請求項7の何れかに記載するインジウムとスズの分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−208438(P2008−208438A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47510(P2007−47510)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】