説明

インターロイキン6リセプター抗体を有効成分とする骨吸収抑制剤

【課題】新規な骨吸収抑制剤を提供する。
【解決手段】インターロイキン6リセプターに対する抗体を有効成分とする骨吸収抑制剤。この骨吸収抑制剤は、インターロイキン6及びインターロイキン6リセプターの共存下での破骨細胞の形成を抑制するため骨吸収作用を効果的に抑制し、骨吸収が関与する種々の疾患の治療剤として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインターロイキン6リセプターに対する抗体(以下、インターロイキン6リセプター抗体と称する)を有効成分とする骨吸収抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨組織は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とによって基本的形状を変えることなく、新生骨と置換される。この過程は骨リモデリング(骨再造形)と呼ばれ、生体の機能維持に重要な役割を果たしている。
しかしながら、一度、骨形成と骨吸収とのバランスが失われると、骨組織は異常をきたし、種々の疾患を呈することとなる。
【0003】
骨吸収の主役を担う破骨細胞はマクロファージ系の細胞に由来し、骨芽細胞との細胞間接触を介して破骨細胞へと分化することによって形成されるが、この過程を促進する因子は骨吸収因子と呼ばれ、これまでに活性型ビタミンD3 、副甲状腺ホルモン、インターロイキン1(1L−1)、プロスタグランディンなどが知られている。
これ等の骨吸収因子を過剰投与すると、in vivoで破骨細胞数を増加、活性化させ、骨吸収を亢進することが知られている(例えば医学のあゆみ165:572-576,1993を参照)。
【0004】
インターロイキン6(IL−6)はBリンパ球系細胞の増殖を促進させるサイトカインとして発見され、その後Tリンパ球細胞の成熟化をも誘導することによって免疫系に影響を及ぼすことがわかった(例えばLotz等;J. Exp. Immunol. 18:1253-1258, 1988 を参照)。さらにはIL−6は造血系幹細胞の分化誘導にも関与している等、さまざまな細胞機能に関与していることおよびIL−6は種々の細胞から分泌されることから骨に対する影響も示唆されている。
【0005】
Ishimi等は骨吸収因子のIL−1や腫瘍壊死因子(TNF)の刺激によってマウス骨芽細胞は多量のIL−6を産生し、その結果in vitroで骨吸収が惹起されることを報告した(J. Immunol.,145:3297-3803, 1990 )。またIL−6はマウス頭頂骨に対し骨吸収活性を示すことも知られており(J. Immunol.,145:3297-3803, 1990 )、さらにはIL−6遺伝子を移入したCHO細胞をマウスに移植すると、高Ca血症を呈すると報告されている(Endocrinology, 128:2657-2659, 1991)。
【0006】
しかしながらAl−humidan等やBarton等はIL−6添加によってもマウス頭頂骨の骨吸収作用は見られなかったと報告しており(J Bone Miner Res 6:3-8, 1991およびCytokine 2:217-220, 1990)、さらにはLittlewood等は副甲状腺ホルモン(PTH)、リポポリサッカライド(LPS)、TNFα、またはIL−1によって刺激された骨芽細胞はIL−6を産生するが、IL−6は骨芽細胞様細胞の分化増殖については何らの作用をも示さなかったことから、骨芽細胞から産生されたIL−6は骨芽細胞の増殖や分化に影響しないと報告している(J Bone Miner Res 6:141-148, 1991)。
【0007】
さらにLittlewood等はPTH刺激により骨芽細胞のIL−6産生は増加したものの、IL−6リセプター(IL−6R)のメッセンジャーRNA(mRNA)量は増加しなかったと述べている(Endocrinology, 129:1513-1520, 1991)。
従って、IL−6と骨吸収の関係については使用する材料や実験系によって相反する結果が報告されており、未だその関係は解明されていない(詳細はRoodmanの総説:J Bone Miner Res 7:475-478, 1992を参照)。
【0008】
最近、Manolagas等はin vitroでエストロゲンがIL−6の産生を抑制する事(J.C.I. 89:883-891, 1992 )、あるいは卵巣摘出(OVX)ラットの破骨細胞数の増加をエストロゲンや抗IL−6抗体が抑制する事(Science 257:88-91, 1992 )を報告している。しかしながら、これ等の報告では増加した破骨細胞が骨吸収作用を有する程度に活性化(成熟細胞化)されているか否かについては何らのデータもなく、従ってIL−6が生体内での骨吸収に直接関与しているかは依然として不明である。
【発明の概要】
【0009】
本発明者等はIL−6の骨吸収における役割を鋭意研究してきたがヒトIL−6を強制発現させたトランスジェニックマウスでは高Ca血症や破骨細胞形成の亢進が認められなかったことから、IL−6以外の因子の寄与について研究した結果、IL−6は単独では破骨細胞形成促進作用を殆ど示さないのに対しIL−6Rの存在下では強力な破骨細胞形成作用を持つこと、さらにはこの破骨細胞形成作用が抗IL−6R抗体を添加することによって抑制されることを見い出し、発明を完成させた。
すなわち本願発明はインターロイキン6リセプター抗体(IL−6R抗体)を有効成分として含有する骨吸収抑制剤に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はMH60.BSF2細胞のIL−6依存性増殖に対する抗体MR16−1及びRS12の効果を示すグラフである。
【図2】図2は、OVX(2週)マウスからの骨髄液の骨吸収活性に対する、抗体の中和効果を示すグラフである。
【図3】図3は、マウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系での破骨細胞の形成に対する、IL−6又は可溶性IL−6R(sR324)単独による効果を示すグラフである。
【図4】図4は、マウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系での破骨細胞の形成に対する、IL−6又はsR324の併用の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、IL−6及びIL−6R(sR324)の共存下でのマウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養による破骨細胞の形成に対する、IL−6R抗体の抑制効果を示すグラフである。
【図6】図6は、IL−6,可溶性IL−6R(sR324)およびIL−1αの共存下での45Ca放出に対する、抗IL−6R抗体の抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明で使用される抗IL−6R抗体は骨吸収抑制効果を有する限り、抗原や抗体の由来(動物種の相異)を問わない。
抗IL−6R抗体は公知の手段を用いて、ポリクローナルまたはモノクローナルタイプの抗体として得ることができる。例えば抗ヒトIL−6Rポリクローナル抗体の場合は欧州特許出願公開番号EP325474号に開示された遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞中で形質発現させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のIL−6R蛋白を精製し、次いでその蛋白を感作抗原として、ヒト以外の哺乳動物を免疫させることによって得ることができる。
【0012】
また抗マウスIL−6R抗体の場合は特開平3−155795号に開示された遺伝子配列を使って、上記と同様な方法を用いて得ることができる。
一方、IL−6Rは細胞膜上に発現しているものと、細胞表層より離脱している(以下、可溶性と呼ぶ)ものとの2種類があり、可溶性IL−6Rは細胞膜上のIL−6R蛋白に於ける細胞外領域、細胞膜貫通領域および細胞内領域のうち細胞内領域が欠損している点で構造的に相異する。
【0013】
従って本願発明の抗IL−6R抗体のための抗原はこのような可溶性IL−6Rを含むものであり、これ等の可溶性IL−6Rは公知の手段により得ることができる(例えば、特開平4−98800号を参照)。
モノクローナル抗体の場合は、IL−6R蛋白を感作抗原として哺乳動物を免疫した後、その形質細胞(免疫細胞)をマウス等の哺乳動物のミエローマ細胞と融合させ、得られた融合細胞(ハイブリドーマ)をクローン化し、その中からIL−6Rの作用を中和させるクローンを選別し、これを培養して目的の抗体を回収することによって得ることができる。
【0014】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては特に限定されるものではないが、細胞融合に使用するミエローマ細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはマウス、ラット、ハムスター等が使用される。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞としては、すでに公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3X63Ag8.653)〔J. Immunol.,123:1548, 1978〕、p3−U1〔Current Topics in Micro-biology and Immunology, 81:1-7, 1978〕、NS−1〔Eur. J. Immunol.,6: 511-519, 1976 〕、MPC−11〔Cell, 8:405-415, 1976 〕、SP2/0〔Nature, 276,269-270, 1978 〕、FO〔J. Immunol. Meth.,35:1-21, 1980 〕,S194〔J. Exp. Med.,148:313-323, 1978〕、R210〔Nature, 277:131-133, 1979 〕等が好適に使用される。
【0015】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、例えば、ミルシュタインら(Milstein et al.)の方法〔Methods Enzymol.,73:3-46, 1981〕等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は、例えば、融合促進剤の存在下に通常の栄養培地中で実施される。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0016】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して、免疫細胞を1〜10倍程度とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培地としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI−1640培地、MEM培地、その他、この種の細胞培養に使用される通常の培地が使用可能であり、更に、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することも可能である。
【0017】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培地内でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1,000〜6,000程度のPEGを、通常、培地に約30〜60%(W/V)の濃度で添加し、混合することによって行われる。続いて、適当な培地を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことにより目的とするハイブリドーマが形成される。
【0018】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培地、例えば、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地)で培養することにより選択される。当該HAT培地による培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(未融合細胞)が死滅するのに充分な時間、通常数日〜数週間継続する。次いで、通常の限界希釈法に従って、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及び単一クローン化が実施される。
【0019】
さらには得られた抗体がヒト以外の動物に由来する抗体である場合は、その抗原認識部位(CDR)を残したまま、FR部分や定常領域部分をヒト由来の抗体に変えた再構成ヒト型抗体とすることができ、IL−6R抗体のヒト型抗体の例としてはPCT国際公開No.WO 92/19759を挙げることができる。
【0020】
本願発明の抗IL−6R抗体は投与する対象の動物種によって抗原であるIL−6Rと抗体産生細胞との間で種間の組合せを選択できる。一般的にはヒトに対してはヒトIL−6Rに対するヒト細胞由来の抗体が、またマウスに対してはマウスIL−6Rに対するマウス細胞由来の抗体が望ましいが、臨床上許容される限り、異なる種間の組合せであってもよい。
【0021】
本発明の骨吸収抑制剤の活性成分である抗IL−6R抗体は、実施例2の実験3に示されるごとく、マウスIL−6とマウス可溶性IL−6Rの共存下での破骨細胞の形成を抑制する。また、本発明の骨吸収抑制剤の活性成分である抗IL−6R抗体は、実施例3に示すごとく、マウスIL−6、マウス可溶性IL−6RおよびヒトIL−1αの共存下での骨吸収を抑制する。
【0022】
本願発明の骨吸収抑制剤はIL−6Rによって惹起された骨吸収が抑制される限り、これ等の関与する各種骨代謝疾患の治療に有効である。それ等の疾患としては、例えば骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、多発性骨髄腫、腫瘍性高カルシウム血症、腎性骨異栄養症、ペーゼット症、骨転移、骨肉腫等を挙げることができる。
本願発明の骨吸収抑制剤は常用経路、例えば錠剤もしくはカプセル形態で経口的にまたは注射剤等の非経口的方法で全身または局所的に投与され得る。さらには少なくも1種の医薬用担体または希釈剤と共に医薬組成物やキットの形態をとることができる。
【0023】
投与量は病態の程度や投与方法等によって異なり、適宜適当な量を選択することが必要であるが一般にヒトの場合、指示一日用量は約25〜100マイクログラムの範囲で4回以下の分割用量となっている。しかしながら本願の骨吸収抑制剤はこれ等の投与量に限定されるものではない。
なお、IL−6R抗体の毒性については現在まで、何らかの影響があるとの報告はなされていない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および参考例により本発明を具体的に説明する。
参考例1 マウスIL−6の調製
約108 個のP388D1 (IL−1)細胞(Nordan等、Science 233:566-569, 1986;Bazin 等、J. Immunol. 139:780-787, 1987 )からFast TrackTM(Invitrogen社製)kitを用いたランダムプライミングにより二本鎖のCDNAを合成した。
【0025】
さらにプライマーとして5′または3′末端に制限酵素BamH1の認識部位を持つマウスIL−6遺伝子(J. Van Snick等、Eur. J. Immunol 18:193, 1988)の翻訳開始コドン(34番目のATG)を含む21〜43番目の配列及び終止コドン(667番目のTAG)を含む658〜683番目の配列に相補的なオリゴマーを合成した。
【0026】
これ等のプライマーおよびGene Amp(宝酒造)kitを用いて、DNA Thermo Cycler(宝酒造)により、94℃1分間、50℃2分間、72℃3分間にて50サイクルのPCRを行なった。増幅された断片(0.66kb)を低融点アガロースゲル電気泳動により精製し、BamH1処理後、PUC19ベクターに導入し、サブクローニングした。マウスIL6遺伝子をBamH1で切り出した後、予めBamH1処理したpdRに組み込みCHO細胞に形質導入した。50nM MTX耐性のCHO細胞を選びその培養上清を実験に供した。
【0027】
参考例2 マウス可溶性IL6リセプター抗体の調製
(1)Saito等の方法(J. Immunol., 147:168-173 (1991))によって抗マウス可溶性IL−6リセプター抗体RS12を得た。この抗体はIgG2aサブクラスであった。
【0028】
(2)上記Saito等の文献に開示されたマウス可溶性IL−6リセプターを産生するCHO細胞を10%FCSを含むIMDM培地で培養し、その培養上清をRS12抗体とAffigel 10ゲル(バイオラッド)に固定したアフィニティーカラムを用いて精製した。得られたマウス可溶性IL−6リセプター50μgをフロイント完全アジュバントと混合しウィスターラット(日本チャールズリバー)の腹部皮下に接種した。2週間後からはフロイント不完全アジュバントで追加免疫した。45日目に屠殺し、その脾細胞約2×108 個を1×107 個のマウスミエローマ細胞P3U1と50%のPEG1500(ベーリンガーマンハイム)を用いて常法により細胞融合させた後、HAT培地にてハイブリドーマを選択した。
【0029】
ウサギ抗ラットIgG抗体(カッペル)をコートしたイミュノプレートにハイブリドーマ培養上清を加えた後、マウス可溶性IL−6Rを反応させ、次いでウサギ抗マウスIL−6R抗体およびアルカリフォスファターゼ標識ヒツジ抗ウサギIgG抗体によるELISA法によりマウス可溶性IL−6リセプターに対する抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングした。抗体の産生が確認されたものは2回のサブクローニングを行ない単一のクローン(MR16−1)を得た。
【0030】
このハイブリドーマが産生する抗体のマウスIL−6に対する中和活性をMH60.BSF2細胞(Matsuda等、Eur. J. Immunol. 18:951-956, 1988)を用いた 3H−チミジンの取り込みで調べた。
96穴プレートにMH60.BSF2細胞を1×104 個/200μl/ウエルとなるよう調製し、これにマウスIL−6(10pg/ml)とMR16−1抗体およびRS12抗体12.3〜1000ng/mlを加えて、37℃、5%CO2 で44時間培養した後、 3H−チミジン(IμCi/well)を加え4時間後の取り込みを測定した(図1)。
【0031】
実施例1
8週齢の雌性ddy系マウスに偽手術(sham)または卵巣摘出術(OVX)を行ない2週後に屠殺した。フェノールレッド不含αMEM培地を用い、脛骨および大腿骨より骨髄を採取し遠心分離により骨髄細胞を除いて骨髄液とした。骨髄液の骨吸収活性は45Caでラベルしたマウス長管骨を用いた器官培養法により測定した。すなわち、母親マウスに45CaCl2 を皮下投与することによって45Ca標識された前腕骨を妊娠17日令の胎児より採取し、フェノールレッド不含αMEM培地で5%CO2 ,37℃にて器官培養した。
【0032】
24時間後、0.2%BSAを含むフェノールレッド不含αMEM培地と交換すると同時に骨髄液試料を40%の割合で添加した。骨吸収活性はSham群では約25%であったのに対し、OVX群は約60%であった。
そこで、この系を用いて、66μg/mlのマウスIL−6抗体およびRS12抗体で骨髄液試料を前処理(37℃、2時間、5%CO2 )して持続的添加を行った結果、両抗体ともOVX群に於いて骨吸収活性を阻害した(図2)。
【0033】
実施例2
マウスの骨芽細胞と骨髄細胞との共存培養系〔Takahashi,等:Endocrinology 122:1373, 1988, Takahashi, 等:Endocrinology 123:2600, 1988 〕により形成される破骨細胞数を骨吸収の指標として用いた。
【0034】
マウスの骨芽細胞は以下の方法により調製した。すなわち生後1または2日令のddy系マウスから無菌的に取り出した頭蓋骨を0.1%コラゲナーゼ(細胞分散用、和光純薬)と0.2%ディスパーゼ(合同酒精)を含むPBSに入れ37℃の恒温槽にて10分間振とうした。浮遊してきた細胞を集め、更に新しい酵素溶液を入れ10分間酵素処理した。この酵素消化を5回繰返し、2〜5回目の消化で浮遊してきた細胞を骨芽細胞として回収した。
【0035】
マウスの骨髄細胞は以下の方法により調製した。すなわち、6〜9週令のddy系マウスからけい骨を無菌的に取りだし、その骨端を切り落とした。けい骨の遠位端より25Gの針を付けたシリンジで1mlのα−最少必須培地(α−MEM,GIBCO社)を注入し、近位端より骨髄細胞を回収した。これらの細胞は共に10%の牛胎児血清(Biocell社)を含むα−MEMに懸濁して培養に用いた。
【0036】
共存培養は、48穴の培養プレートに1×104 細胞/0.5m/wellの骨芽細胞と2×105 細胞/wellの骨髄細胞を添加し、37℃、5%CO2 で6〜7日間培養した。形成された破骨細胞は破骨細胞のマーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRAP)を染色することにより同定した〔Takahashi,等:Endocrinology 122:1373, 1988 〕。
【0037】
これらの培養系にマウスIL−6またはマウス可溶性IL−6R〔IL−6sR(sR324)〕〔Saito,等 al.J Immunol,147:168-173 (1991)〕とマウスIL−6R抗体(MR16−1あるいはRS12)またはマウスIL−6抗体(R&D systems)を添加して以下の実験を行った。なお、マウスIL−6とsR324は、CHO細胞にこれらの遺伝子を組み込んだ細胞の培養上清をそれぞれ用いた。培養上清中のマウスIL−6およびIL−6sR324はエンザイムイッムノアッセイによってそれぞれの濃度を測定し、α−MEMで適当な濃度に希釈して実験に供した。
【0038】
実験1 マウスIL−6又はマウス可溶性IL−6R単独での破骨細胞形成実験
マウスIL−6(0.2ng/ml〜200ng/ml)とsR324(0.5〜500ng/ml)単独での破骨細胞形成能を調べたが、いずれも単独では破骨細胞形成能を示さなかった。なお、本実験系において陽性対象薬である活性型ビタミンD3 は有意な破骨細胞形成を示した(図3)。
【0039】
実験2 マウスIL−6とマウス可溶性IL−6R共存下での破骨細胞形成実験
20ng/mlまたは200ng/mlのマウスIL−6に0.05ng/ml〜500ng/mlのsR324を共存させた時の破骨細胞形成能を調べたところ、sR324の濃度に依存して著明な破骨細胞の形成が認められた(図4)。なお、形成された破骨細胞を象牙切片上で培養したところ多くの吸収窩が認められ、それらはカルシトニンの添加により抑制された。従って本実験系で形成された破骨細胞は骨吸収能とカルシトニンリセプターを有する成熟破骨細胞であると考えられた。
【0040】
実験3 マウスIL−6とマウス可溶性IL−6リセプター共存下での破骨細胞形成に対するマウス抗IL−6リセプター抗体(MR16−1もしくはRS12)またはマウス抗IL−6抗体の抑制効果
20ng/mlまたは200ng/mlのマウスIL−6に62.5ng/ml〜500ng/mlのsR324を共存させた時の破骨細胞形成能を調べたところ、実験2と同様にsR324の濃度に依存して著明な破骨細胞の形成が認められた。20ng/mlのマウスIL−6と500ng/mlのsR324による破骨細胞形成に対してMR16−1は1ng/ml〜100ng/mlの濃度範囲で濃度依存的な抑制作用を示した。RS12およびマウス抗IL−6抗体は10ng/mlと100ng/mlで抑制作用を示した(図5)。
【0041】
実施例3 マウスIL−6、マウス可溶性IL−6リセプターおよびヒトIL−1αの共存下で惹起される骨吸収に対する抗マウスIL−6リセプター抗体(MR16−1)の抑制効果
母親マウスに45CaCl2 を皮下投与することによって45Ca標識された頭蓋冠を妊娠16日令の胎児より採取し、1mg/mlのBSAを含むBGJb培地で5%CO2 ,37℃にて器官培養した。24時間後、新たな培地に交換し、100pg/mlのヒトIL−1α,20ng/mlのマウスIL−6および500ng/mlのマウス可溶性IL−6R(sR324)を添加して、37℃,5%CO2 で5日間培養した。この場合、前記新たな培地に被験物質であるMR16−1を10μg/ml添加した。この実験系で惹起される骨吸収を、10μg/mlのMR16−1はほぼ完全に抑制した(図6)。
【0042】
発明の効果
以上の通り、抗IL−6R抗体を有効成分とする本発明の骨吸収抑制剤は、IL−6とIL−6Rの共存下での破骨細胞の形成を抑制し、骨吸収阻害効果を有していることが証明される。従って、本発明の骨吸収抑制剤は、骨吸収が関与する各種骨代謝疾患、例えば骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、多発性骨髄腫、腫瘍性高カルシウム血症、腎性骨異栄養、ペーゼット症、骨転移、骨肉腫等の治療剤として期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン6リセプターに対する抗体を有効成分とする骨吸収抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−111706(P2010−111706A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27563(P2010−27563)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【分割の表示】特願2006−138631(P2006−138631)の分割
【原出願日】平成6年6月16日(1994.6.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000157865)
【出願人】(593139732)
【出願人】(593139743)
【Fターム(参考)】