説明

インナーライナー用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】素練り工程を必要としないような優れた加工性を持ちながら、優れた低発熱性と高い耐屈曲亀裂成長性とを両立でき、耐空気透過性も良好なインナーライナー用ゴム組成物、及びそれを用いて作製した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含有するインナーライナー用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーライナー用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの転がり抵抗を低減して発熱を抑えることにより、車両を低燃費化することが行われている。近年、タイヤによる低燃費化への要請が大きく、タイヤにおける占有比率が大きいトレッドの他、良好な耐空気透過性が要求されるインナーライナーに対しても低燃費化が要請されている。インナーライナー用ゴム組成物の低発熱性を満足させる方法として、低補強性の充填剤を用いる方法、補強用充填剤の含有量を低減させる方法等が知られている。また、充填剤としてシリカを用いることで低発熱化を図ることがなされている。
【0003】
しかし、このような充填剤による低燃費化(低発熱化)は、ゴム組成物の硬度が低下するためタイヤが軟化し、耐屈曲疲労性が低下してしまうという問題があり、優れた低発熱性と高い耐屈曲疲労性とを両立させることは困難であった。
【0004】
一方、インナーライナーには、天然ゴムが広く使用されているが、天然ゴムは他の合成ゴムに比べてムーニー粘度が高く加工性が悪いため、通常しゃっ解剤を添加して素練りを行い、ムーニー粘度を低下させてから使用される。そのため、天然ゴムを使用する場合、このようなプロセスが必要となるため生産性が低下してしまう。また素練りによって天然ゴムの分子鎖を切断してしまうため、天然ゴムが本来有する高分子量ポリマーの特性(例えば、高い耐摩耗性能、低燃費性能、ゴム強度)が失われてしまうという問題があった。
【0005】
特許文献1には、石油外資源の含有比率を高めるために、天然ゴム及びエポキシ化天然ゴムを用いたゴム組成物が開示されている。しかし、低発熱性と耐屈曲亀裂成長性を両立しつつ、良好な耐空気透過性を得るという点、同時に加工性を改善するという点については、未だ改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−169431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、素練り工程を必要としないような優れた加工性を持ちながら、優れた低発熱性と高い耐屈曲亀裂成長性とを両立でき、耐空気透過性も良好なインナーライナー用ゴム組成物、及びそれを用いて作製した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含有するインナーライナー用ゴム組成物に関する。
【0009】
上記ゴム成分100質量%中の改質天然ゴム含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。また、上記改質天然ゴムの窒素含有量は、0.3質量%以下であることが好ましい。更に、上記改質天然ゴムのトルエン不溶分として測定されるゲル含有率は、20質量%以下であることが好ましい。
【0010】
上記改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものが好ましい。
上記白色充填剤は、シリカであることが好ましい。
本発明はまた、上記改質天然ゴムを素練りする工程を含まない上記インナーライナー用ゴム組成物の製造方法に関する。
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したインナーライナーを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴム(以下、HPNRともいう)に、カーボンブラック及び/又は白色充填剤が配合されたゴム組成物であるので、優れた低発熱性と高い耐屈曲亀裂成長性を両立できるとともに、良好な耐空気透過性も有している。また、素練り工程を特段必要としないような優れた加工性も有している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含有する。本発明では、天然ゴム(NR)中に含まれるタンパク質やゲル分、リン脂質を低減、除去した改質天然ゴム(HPNR)を使用しているため、カーボンブラックや白色充填剤を減量しなくても低燃費化できる。よって、充填剤の補強効果による高いゴム強度も同時に得られるため、低発熱性と耐屈曲亀裂成長性を両立できる。
【0013】
また、HPNRを使用しているため、ゴム成分としてブチル系ゴムのみを使用する場合やブチル系ゴム及び通常のNRの混合ゴムを使用する場合に比べて、耐空気透過性も改善できる。更に、HPNRを配合している未加硫ゴム組成物は、予め素練り工程を行わなくても、充填剤などの成分との混練り工程で良好な加工性が得られるため、生産性も優れている。
【0014】
改質天然ゴム(HPNR)は、リン含有量が200ppm以下である。200ppmを超えると、貯蔵中にゲル量が増加し、加硫ゴムのtanδが上昇する傾向がある。該リン含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。ここで、リン含有量は、たとえばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0015】
改質天然ゴムは、実質的にリン脂質が存在しないことが好ましい。「実質的にリン脂質が存在しない」とは、天然ゴム試料をクロロホルムで抽出し、抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しない状態を表す。−3ppm〜1ppmに存在するリンのピークとは、リン脂質におけるリンのリン酸エステル構造に由来するピークである。
【0016】
改質天然ゴムにおいて、窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。窒素含有量が0.3質量%を超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇する傾向がある。窒素はタンパク質に由来する。窒素含有量は、例えばケルダール法等、従来の方法で測定することができる。
【0017】
改質天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。20質量%を超えると、ムーニー粘度が高くなるなど、加工性が低下する傾向がある。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×10rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0018】
改質天然ゴムの製造方法としては、例えば、天然ゴムラテックスをアルカリによりケン化し、ケン化後凝集させたゴムを洗浄し、その後乾燥することにより製造する方法が挙げられる。ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行う。なお、必要に応じて撹拌等を行っても良い。上記製造方法によれば、ケン化により分離したリン化合物が洗浄除去されるので、天然ゴムのリン含有量を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることができる。本発明では、天然ゴムラテックスにアルカリを添加してケン化できるが、天然ゴムラテックスに添加することにより、効率的にケン化処理を行えるという効果がある。
【0019】
天然ゴムラテックスはヘビア樹の樹液として採取され、ゴム分のほか水、蛋白質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、ヘビア樹をタッピングして出てくる生ラテックス、あるいは遠心分離法によって濃縮した精製ラテックスを使用できる。さらに、生ゴムラテックス中に存在するバクテリアによる腐敗の進行を防止し、ラテックスの凝固を避けるために、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックスであってもよい。
【0020】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アミン化合物等が挙げられ、ケン化処理の効果や天然ゴムラテックスの安定性への影響の観点から、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0021】
アルカリの添加量は特に限定されないが、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、上限は12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下が特に好ましい。アルカリの添加量が0.1質量部未満では、ケン化処理に時間がかかってしまうおそれがある。また逆にアルカリの添加量が12質量部を超えると天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。
【0022】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が使用可能である。陰イオン性界面活性剤としては、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等の陰イオン性界面活性剤があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系等の非イオン性界面活性剤があげられる。両性界面活性剤としては、例えばアミノ酸型、ベタイン型、アミンオキサイド型等の両性界面活性剤があげられる。
【0023】
界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、上限は6質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3.5質量部以下がさらに好ましく、3質量部以下が特に好ましい。界面活性剤の添加量が0.01質量部未満では、ケン化処理時に天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。また逆に界面活性剤の添加量が6質量部を超えると天然ゴムラテックスが安定化しすぎて凝固が困難になるおそれがある。
【0024】
ケン化処理の温度は、アルカリによるケン化反応が十分な反応速度で進行しうる範囲、および天然ゴムラテックスが凝固等の変質を起こさない範囲で適宜、設定できるが、通常は20〜70℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。また処理の時間は、天然ゴムラテックスを静置して処理を行う場合、処理の温度にもよるが、十分な処理を行うことと、生産性を向上することとを併せ考慮すると3〜48時間が好ましく、3〜24時間がより好ましい。
【0025】
ケン化反応終了後、凝集させたゴムを破砕し、洗浄処理を行う。凝集方法としては、例えば、ギ酸等の酸を添加し、pHを調整する方法が挙げられる。また、洗浄処理としては、例えばゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離処理を行い、ゴム分を取り出す方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように水で希釈する。次いで、5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよい。洗浄処理終了後、ケン化処理天然ゴムラテックスが得られる。ケン化処理天然ゴムラテックスを乾燥することにより、本発明における改質天然ゴムが得られる。
【0026】
上記製造方法では、天然ゴムラテックス採取後15日以内にケン化、洗浄及び乾燥の工程を終了することが好ましい。より好ましくは10日以内、更に好ましくは5日以内である。採取後固形化せずに15日を超えて放置しておくとゲル分が増大していくためである。
【0027】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。1質量%未満であると、優れた低発熱性が得られないおそれがある。該改質天然ゴムの含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。30質量%を超えると、高い耐空気透過性が得られないおそれがある。
【0028】
本発明では、耐空気透過性の点から、上記改質天然ゴムとともに、ブチル系ゴムを併用することが好ましい。ブチル系ゴムとしては、例えば、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)などのハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、ブチルゴム(IIR)などがあげられる。これらブチル系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、低発熱性の点から、Cl−IIRなどのX−IIRを用いることが好ましい。
【0029】
本発明において、ゴム成分としてブチル系ゴムを配合する場合、ゴム成分100質量%中のブチル系ゴムの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。ブチル系ゴムの含有量が70質量%未満では、優れた耐空気透過性が得られないおそれがある。また、該ブチル系ゴムの含有量は、好ましくは99質量%以下である。ブチル系ゴムの含有量が99質量%をこえると、良好な低燃費性が得られないおそれがある。
【0030】
本発明において、他に使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0031】
カーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。カーボンブラックを配合することにより、補強効果が得られ、良好な耐屈曲亀裂成長性が得られる。このため、HPNRとともに使用することで、本発明の効果が良好に得られる。
【0032】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は10m/g以上が好ましく、20m/g以上がより好ましく、23m/g以上が更に好ましい。10m/g未満では、充分な接着性やゴム強度が得られないおそれがある。また、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は150m/g以下が好ましく、120m/g以下がより好ましく、100m/g以下が更に好ましい。150m/gを超えると、加工性の悪化や低発熱性の悪化のおそれがある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0033】
上記ゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上である。5質量部未満では、充分な耐摩耗性や粘着性、ゴム強度が得られないおそれがある。また、該カーボンブラックの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。100質量部を超えると、分散性や加工性が悪化する傾向がある。
【0034】
白色充填剤としては、ゴム工業で一般的に使用されているもの、たとえば、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイトなどの雲母、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、アルミナ、酸化チタンなどを使用することができる。なかでも、低燃費性及びゴム強度の点から、シリカが好ましい。
【0035】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法により得られるシリカ(無水ケイ酸)および/または湿式法により得られるシリカ(含水ケイ酸)等を用いることができる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法により得られるシリカ(含水ケイ酸)を用いることが好ましい。
【0036】
シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、30m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましい。30m/g未満では、加硫後の破壊強度が低下する傾向がある。また、シリカのBETは500m/g以下が好ましく、300m/g以下がより好ましく、200m/g以下が更に好ましい。500m/gを超えると、加工性が悪化する傾向にある。なお、シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、ASTM−D−4820−93に準拠した方法により測定することができる。
【0037】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。5質量部未満では、充分な低燃費性能が得られないおそれがある。また、シリカの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。100質量部を超えると、加工性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明では、シリカとともに、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系、メルカプト系ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが特に好ましい。
【0039】
シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して2質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。2質量部未満では、ゴム強度及び耐摩耗性が悪化するおそれがある。また、シランカップリング剤の含有量は、15質量部以下が好ましく、13質量部以下がより好ましい。15質量部を超えると、ゴム強度及び耐摩耗性の改善効果が見られず、コストが増大する傾向がある。
【0040】
本発明のゴム組成物において、カーボンブラックおよび白色充填剤の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは35質量部以上、更に好ましくは40質量部以上である。30質量部未満では、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。また、上記カーボンブラックおよび白色充填剤の合計含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、加工性が悪化したり、充分な低発熱性が得られないおそれがある。
【0041】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、アロマオイル等のオイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。ここで、天然ゴムを含むゴム組成物を製造する場合、ゴム成分、充填剤などの各成分の混練り工程前に、通常、天然ゴムの素練り工程が行われる。本発明では、改質天然ゴムが使用されているため、天然ゴム(未改質)を含まない場合には、該素練り工程を行わなくても良好に混練り工程を実施でき、所望のゴム組成物を作製できる。
【0043】
本発明のゴム組成物は、タイヤ内腔面をなすように形成されるインナーライナーに使用されるもので、この部材により、空気透過量を低減して、タイヤ内圧を保持することができる。具体的には、特開2008−291091号公報の図1、特開2007−160980号公報の図1〜2などに示される部材に使用される。
【0044】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのインナーライナーの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0045】
本発明のゴム組成物を用いて作製したインナーライナーを有するタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤに特に好適に使用できる。
【実施例】
【0046】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
以下、実施例で用いた各種薬品等について説明する。
天然ゴムラテックス:タイテックス社から入手したフィールドラテックスを使用
ケン化天然ゴムA:下記製造例1
ケン化天然ゴムB:下記製造例2
未処理天然ゴム:下記製造例3
TSR:天然ゴム(TSR)
ブチル系ゴム:塩素化ブチルゴム(エクソンモービル(株)社製エクソンクロロブチル1066)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製シーストV(N660、NSA:27m/g)
シリカ:ローディアジャパン(株)製シリカ115Gr(BET比表面積:110m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製Si266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製ステアリン酸「椿」
老化防止剤:川口化学工業(株)製アンテージRD(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合体)
硫黄:鶴見化学(株)製粉末硫黄
加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製ノクセラーDM(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)
加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製ノクセラーM(2−メルカプトベンゾチアゾール)
界面活性剤:花王(株)製Emal−E
NaOH:和光純薬工業(株)製NaOH
【0047】
(アルカリによるケン化天然ゴムの作製)
製造例1
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH20gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後110℃で2時間乾燥して固形ゴム(ケン化天然ゴムA)を得た。
【0048】
製造例2
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH15gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後110℃で2時間乾燥して固形ゴム(ケン化天然ゴムB)を得た。
【0049】
製造例3
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、ゆっくり攪拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、110℃で2時間乾燥して固形ゴム(未処理天然ゴム)を得た。
【0050】
製造例1〜3により得られた固形ゴム及びTSRについて以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、CHN CORDER MT−5(ヤナコ分析工業社製)を用いて測定した。測定には、まずアンチピリンを標準物質として、窒素含有量を求めるための検量線を作製した。次いで、各製造例で得られた天然ゴム又はTSR約10mgを秤量し、3回の測定結果から平均値を求めて、試料の窒素含有量とした。
【0052】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(ICPS−8100、島津製作所(株)製)を使用してリン含有量を求めた。
【0053】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、ケン化天然ゴムA、Bは、未処理の天然ゴムやTSRに比べて、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率が低減している。
【0056】
<実施例1〜9及び比較例1〜9>
(ゴム試験片およびタイヤの作製)
表2〜4に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。なお、TSRを使用した比較例2、5及び8では、TSRのゴム成分100質量部に対して素練促進剤を0.4質量部添加して、1.7Lバンバリーミキサーを用いてあらかじめ素練りを行った。一方、実施例1〜9、比較例1、3、4、6、7及び9では、天然ゴムの素練りを行わなかった。
次に、得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物(加硫ゴムシート)を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をタイヤ成型機上でトレッド形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、150℃で30分間加硫することにより試験用タイヤを製造した。
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤを下記により評価した。結果を表2〜4に示す。
【0057】
(ムーニー粘度測定)
得られた未加硫ゴム組成物について、JIS−K−6300に基づいてムーニー粘度の測定方法に従い、130℃で測定した。比較例1、4、7のムーニー粘度(ML1+4)を100とし、指数表示した。指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
【0058】
(低発熱性、tanδ)
加硫ゴムシートを用い、(株)岩本製作所製粘弾性スペクトロメーターで周波数10Hz、初期歪み10%、動歪2%の条件で70℃におけるゴムシートの損失正接tanδの測定を行った。tanδの値が小さいほど発熱が小さく、低発熱性を示し、転がり抵抗を低減できることを示す。比較例1、4、7のtanδの逆数を100とし、指数表示した。指数が大きいほどtanδが小さく、低発熱性に優れる。
【0059】
(耐屈曲亀裂成長試験)
加硫ゴムシートを用い、JIS−K−6260「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−デマッチャ屈曲亀裂試験方法」に基づいてサンプルを作製し、屈曲亀裂成長試験を行い、70%伸張を100万回繰り返してゴムシートを屈曲させたのち、発生した亀裂の長さを測定した。比較例1、4、7の測定値(長さ)の逆数を100とし、指数表示した。指数が大きいほど、亀裂の成長が抑制され、好ましいことを示す。
【0060】
(静的空気圧低下率試験、タイヤエアリーク性能)
試験用タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300KPaを封入し、90日間室温で放置し、空気圧の低下率を測定した。比較例1、4、7の逆数を100とし、指数表示した。指数が大きいほど、空気圧の低下率が少なく良好であることを示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表2が示す通り、カーボンブラックを20質量部配合した場合、ゴム成分としてケン化天然ゴム(改質天然ゴム)を含む実施例では、これを含まない比較例に比べて、低発熱性と耐屈曲亀裂成長性が良好に両立していた。また、実施例では、比較例に比べ、加工性や耐空気透過性も改善された。更に、ゴム成分100質量%中にケン化天然ゴムを20質量%含有する場合、5質量%含有する場合に比べて加工性及び低発熱性がより改善された。
また、表3が示す通り、カーボンブラックを60質量部配合したゴム組成物でも、表2と同様の傾向がみられた。
【0064】
【表4】

【0065】
表4が示す通り、シリカ配合でもカーボンブラック配合と同様の改善効果がみられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含有するインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量%中の前記改質天然ゴム含有量が1〜30質量%である請求項1記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項3】
前記改質天然ゴムの窒素含有量が0.3質量%以下である請求項1又は2記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項4】
前記改質天然ゴムのトルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項5】
前記改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものである請求項1〜4のいずれかに記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項6】
前記白色充填剤がシリカである請求項1〜5のいずれかに記載のインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項7】
前記改質天然ゴムを素練りする工程を含まない請求項1〜6のいずれかに記載のインナーライナー用ゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したインナーライナーを有する空気入りタイヤ。


【公開番号】特開2011−144326(P2011−144326A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8290(P2010−8290)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】