説明

インバータ診断方法およびその方法の診断に用いるインバータ診断器

【課題】インバータの安全装置が動作して緊急停止したインバータを含む圧縮機の故障診断を迅速に正確に行うインバータ診断方法を提供する。
【解決手段】インバータ診断方法は、空調機または冷凍機の圧縮機に電力を供給するインバータの安全装置が作動して上記圧縮機が停止したときに上記インバータの機能を診断するインバータ診断方法において、上記圧縮機を上記インバータから分離し、代わりに疑似負荷を上記インバータに接続するとともに、上記インバータを稼動したときの上記疑似負荷の入力電圧が予め定めた判断基準を満足しているか否かにより上記インバータが正常または異常と判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷凍機・空調機などの圧縮機を駆動するインバータを診断するインバータ診断方法およびその方法の診断に用いるインバータ診断器に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の冷凍機や空調機などの冷媒を圧縮する圧縮機は、一般的にインバータにより駆動されている。そして、インバータの安全装置として運転電流をセンサで検出し、過大な電流が流れた場合に緊急停止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平3−15770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、故障を診断するときに、インバータにおいて過電流が検出される原因として、インバータ自身の電気回路の不良だけでなく、圧縮機のモータの巻線断線や圧縮機の軸のかじりなどがあるため、故障の原因がインバータにあるのか圧縮機にあるのか診断に困る場合が起こりうる。そして、実際はインバータ自身の不良であっても診断を誤って圧縮機を交換してしまい、故障の修理に多くの工数が掛かり、費用もかさむという問題がある。
【0005】
この発明の目的は、インバータの安全装置が動作して緊急停止したインバータを含む圧縮機の故障診断を迅速に正確に行うインバータ診断方法およびその方法の診断に用いるインバータ診断器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るインバータ診断方法は、空調機または冷凍機の圧縮機に電力を供給するインバータの安全装置が作動して上記圧縮機が停止したときに上記インバータの機能を診断するインバータ診断方法において、上記圧縮機を上記インバータから分離し、代わりに疑似負荷を上記インバータに接続するとともに、上記インバータを稼動したときの上記疑似負荷の入力電圧が予め定めた判断基準を満足しているか否かにより上記インバータが正常または異常と判断する。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るインバータ診断方法の効果は、インバータの安全装置が作動して停止した圧縮機をインバータから分離し、代わりに疑似負荷をインバータに接続してからインバータを稼動して疑似負荷の入力電圧を判断基準と比較することによりインバータの正常または異常を判断するので、インバータの安全装置の作動の原因がインバータ側にあるのか圧縮機側にあるのかを迅速に且つ正確に診断することができる。その結果、インバータが故障している場合、事前に携行したインバータを交換することにより、速やかに復旧することができることである。また、インバータが正常の場合、圧縮機に異常があると判断し代替の圧縮機の手配などをその場で行えることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、この発明に係る実施の形態によるインバータ診断器の回路図である。図2は、この発明に係る実施の形態によるインバータ診断器の斜視図である。
この発明に係る実施の形態によるインバータ診断器1は、図1に示すように、電動機を含む圧縮機2の負荷を疑似する疑似負荷3、疑似負荷3の入力端子4a、4b、4c間の電圧を計測する電圧計5a、5b、5c、疑似負荷3の入力端子4a、4b、4cを流れる電流を計測する電流計6a、6b、6c、疑似負荷3の入力端子4a、4b、4cに接続される診断用ケーブル7を備える。
【0009】
疑似負荷3は、電動機を含む圧縮機2の負荷を電動機の入力端から見て疑似した負荷であり、スター結線された3相回路である。各相回路は、抵抗器8とコイル9とを直列に接続した回路である。
なお、電動機を含む圧縮機2の負荷を、等価な電気負荷として求めると抵抗成分は約1〜2Ω、インダクタンス成分は約10mHである。しかし、抵抗器8の抵抗を1〜2Ωにすると、発熱量が過多になり、携帯性を確保できないので、発熱量を抑えるために1000Ωとする。また、コイル9のインダクタンスも、波形のリップルを抑えるために1500mHとする。このような抵抗とインダクタンスを定めることにより、携帯可能なインバータ診断器1を得ることができる。
【0010】
インバータ診断器1の表面パネル11には、図2に示すように、電圧計5a、5b、5cと電流計6a、6b、6cが配設されている。また、表面パネル11には、疑似負荷3の入力端子4a、4b、4cが接続されたレセプタクル12が配設されている。
診断用ケーブル7は、3本のケーブルがまとめられたものであり、各ケーブルの一端にプラグ13が接続されている。そして、プラグ13をレセプタクル12に嵌め込むことにより診断用ケーブル7を疑似負荷3に接続できる。
また、診断用ケーブル7の他端にワニ口クリップ14が付設されている。そして、電動機の端子から外されたインバータ15の電源ケーブル16の一端は、図3に示すように、表側に引き出すことができるので、その一端をワニ口クリップ14で挟めばインバータ15とインバータ診断器1が簡単に接続することができる。
【0011】
次に、インバータ15の正常または異常を判断する判断基準について説明する。
疑似負荷3を接続した正常なインバータ15では、疑似負荷3の各相の入力端子4a、4b、4cの電圧の差が所定の範囲内、例えば10V以内であるので、これを第1の判断基準とする。
また、疑似負荷3を接続した正常なインバータ15の駆動周波数を20Hzから120Hzまで掃引して、そのときの疑似負荷3の入力端子4a、4b、4cの電圧を計測すると図4に示すように変化する。なお、インバータ15の機種により入力端子4a、4b、4cの電圧は上下するが、駆動周波数に対する依存性は類似している。そこで、図4に太線で表す判定値上限と判定値下限を設定して第2の判断基準として用いる。
診断対象のインバータ15に疑似負荷3を接続して空調機の動作を開始すると、疑似負荷3の入力端子4a、4b、4cの電圧が表示されるので、各相の電圧の差を求め第1の判断基準と比較することによりインバータ15が正常または異常であると判断できる。
また、診断対象のインバータ15に疑似負荷3を接続して空調機の動作を開始するとインバータ15は可変電圧可変周波数で動作して疑似負荷3に電力を供給するが、圧縮機2は停止しているので、インバータ15の駆動周波数は最終的には120Hzまで増加する。そこで、疑似負荷3の入力端子4a、4b、4cの電圧を、駆動周波数120Hzのときの第2の判断基準と比較することにより、診断対象のインバータ15が正常または異常であると判断できる。
【0012】
次に、この発明に係る実施の形態によるインバータ診断方法について説明する。図5は、この発明に係る実施の形態によるインバータ診断方法の手順を示すフローチャートである。
診断員は、故障が起こった空調機を診断するために、予めインバータ診断器1を現場に携行する。同時に、診断対象のインバータ15と同機種のインバータ15を携行しても良い。
ステップS101で、故障した空調機を停止し、空調機の電源ブレーカを遮断する。
ステップS102で、診断するインバータ15が駆動していた電動機につながっている電源ケーブル16を電動機から取り外す。
ステップS103で、電動機から取り外された電源ケーブル16の一端を診断用ケーブル7の一端にワニ口クリップ14を用いて接続する。
ステップS104で、インバータ15の異常検知無効の設定を行う。
ステップS105で、空調機の電源を投入し、空調機を運転する。
ステップS106で、電圧計5a、5b、5cに表示される電圧の差が10V以内であるか否かを判断する。電圧の差が10V以内のときステップS107に進む、電圧の差が10Vを超えているときステップS108に進む。
ステップS107で、空調機の運転開始から所定の時間経過後、電圧計5a、5b、5cに表示される電圧が219V以下および165V以上であるか否かを判断する。表示される電圧が219V以下および165V以上であるとき、ステップS109に進み、表示される電圧が219Vを超え、または165V未満であるとき、ステップS108に進む。
ステップS108で、インバータ15が異常であるとして診断を終了する。
ステップS109で、インバータ15が正常であるとして診断を終了する。
【0013】
この発明に係る実施の形態によるインバータ診断方法は、インバータ15の安全装置が作動して停止した圧縮機2をインバータ15から分離し、代わりに疑似負荷3をインバータ15に接続してからインバータ15を動かして疑似負荷3の入力電圧を判断基準と比較することによりインバータ15の正常または異常を判断するので、インバータ15の安全装置の作動の原因がインバータ15側にあるのか圧縮機2側にあるのかを迅速に且つ正確に診断することができる。その結果、インバータ15が故障している場合、事前に携行した代替のインバータ15に交換することにより、速やかに復旧することができる。また、インバータ15が正常の場合、圧縮機2に異常があると判断し代替の圧縮機2の手配などをその場で行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る実施の形態によるインバータ診断器の回路図である。
【図2】この発明に係る実施の形態によるインバータ診断器の斜視図である。
【図3】この発明に係る実施の形態によるインバータ診断器をインバータに接続した様子を示す斜視図である。
【図4】この発明に係る実施の形態による疑似負荷の入力電圧のインバータ駆動周波数の依存性を示すグラフである。
【図5】この発明に係る実施の形態によるインバータ診断方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0015】
1 インバータ診断器、2 圧縮機、3 疑似負荷、4a、4b、4c 入力端子、5a、5b、5c 電圧計、6a、6b、6c 電流計、7 診断用ケーブル、8 抵抗器、9 コイル、11 表面パネル、12 レセプタクル、13 プラグ、14 ワニ口クリップ、15 インバータ、16 電源ケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機または冷凍機の圧縮機に電力を供給するインバータの安全装置が作動して上記圧縮機が停止したときに上記インバータの機能を診断するインバータ診断方法において、
上記圧縮機を上記インバータから分離し、代わりに疑似負荷を上記インバータに接続するとともに、上記インバータを稼動したときの上記疑似負荷の入力電圧が予め定めた判断基準を満足しているか否かにより上記インバータが正常または異常と判断することを特徴とするインバータ診断方法。
【請求項2】
上記判断基準は、上記疑似負荷の各相の入力電圧間の差が所定の範囲内にあるとともに、上記疑似負荷の各相の入力電圧が所定の判定値上限と判定値下限との間にあることであることを特徴とする請求項1に記載のインバータ診断方法。
【請求項3】
空調機または冷凍機の圧縮機に電力を供給するインバータの安全装置が作動して上記圧縮機が停止したときに上記インバータの機能を診断するインバータ診断器において、
上記圧縮機が分離された上記インバータから電力が供給され、上記圧縮機の負荷を疑似する疑似負荷と、
上記疑似負荷の入力電圧を計測する電圧計と、
を備えることを特徴とするインバータ診断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−245469(P2008−245469A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85253(P2007−85253)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】