説明

インパクトワイヤ再生方法および再生機能付きインパクトワイヤとワイヤ長調整治具

【課題】インパクトワイヤの先端が磨耗した場合であっても格別の交換部品を要することなく磨耗による不都合を解消することのできるインパクトワイヤ再生方法を提供する。
【解決手段】再生機能付きインパクトワイヤ1を構成するピン4と本体部5とを固着するロウ材9を融解してピン4の磨耗量に相当する分だけピン4を突出させた状態で改めてピン4と本体部5とを再固着する。ワイヤ長調整治具2,29に再生機能付きインパクトワイヤ1を取り付けた状態でロウ材9を融解し、本体部5に内嵌されたスプリング8の弾性復帰力を利用してピン4の磨耗量に相当する分だけピン4を突出させることによってピン4の突出量を規定値に合わせ、この状態を保持したままロウ材9を冷却してピン4と本体部5とを再固着することでピン4の突出長さの精度を保証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトワイヤの先端の磨耗に伴う寸法の目減りを補うためのインパクトワイヤ再生方法と、このインパクトワイヤ再生方法で利用される再生機能付きインパクトワイヤおよびワイヤ長調整治具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ドットインパクトプリンタは装置が頑丈にできており、印字ヘッドのインパクトワイヤを交換することにより半永久的に使用が可能である。
【0003】
インクジェットプリンタやレーザープリンタが主流の昨今にあっても、インクリボンの再生使用によってランニングコストの軽減化が可能であること、複写帳票の印刷が容易に実現できること等から、銀行を始めとする各種の金融機関等においては今後も永い期間に亘って現役で使用され続ける可能性が高い。
【0004】
ドットインパクトプリンタの構造としては、例えば、特許文献1に開示されるようにコイルスプリングを利用したスプリングチャージ式のものや特許文献2に開示されるように板バネを利用したスプリングチャージ式のもの、更には、特許文献3開示されるワイヤ自由飛行方式のもの等が公知である。
【0005】
しかし、長期の使用によってインパクトワイヤの先端に磨耗が生じると、印字が不安定になる問題があり、この点がドットインパクトプリンタの構造上のネックとなっている。
【0006】
インパクトワイヤの生産は専業メーカーに任されているのが一般的であるが、メーカーの都合、例えば、製造設備の老朽化や材料の供給に関わる問題等により、従来使用されていたインパクトワイヤの再生産が困難となるような状況が往々にして生じる。
【0007】
インパクトワイヤの供給が断たれれば、当然、ドットインパクトプリンタは使用不能の状態となり、ドットインパクトプリンタのメーカーに対する顧客の信頼が損なわれるといった問題が生じる。
【0008】
無論、ドットインパクトプリンタのメーカーが大量のインパクトワイヤを補修部品としてストックしておくということも考えられるが、メーカーあるいは顧客のコスト負担が増大する弊害がある。
【0009】
また、ピン専門の精密加工メーカーに少量のインパクトワイヤの再生産を発注するといったことも不可能ではあるが、そうした場合は加工手数料が著しく高くなるので、前記と同様、メーカーあるいは顧客のコスト負担が増大するといった問題に繋がる。
【0010】
インパクトワイヤの耐久性を向上させるための技術としては、特許文献3に開示されるように、インパクトワイヤに外嵌される衝撃緩衝用のコイルスプリングの端部を小径化してノーズのガイド穴が広がった際のインパクトワイヤの横振動を防止することで印字作動を安定化するものが知られているが、インパクトワイヤの先端部の磨耗抑制やインパクトワイヤの再生に役立つものは今のところ提案されていない。
【0011】
【特許文献1】特開平1−160650号公報
【特許文献2】特開2002−52747号公報
【特許文献3】特開平5−338213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、インパクトワイヤの先端が磨耗した場合であっても、格別の交換部品を要することなく磨耗による不都合を解消することのできるインパクトワイヤ再生方法と再生機能付きインパクトワイヤおよびワイヤ長調整治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のインパクトワイヤ再生方法は、インクリボンを叩打する先端部を有するピンと、前記ピンを摺動可能な嵌め合い状態で内嵌する有底パイプ状の本体部と、前記本体部の底面と前記ピンの基部側の端面に両端部を当接させて予圧状態とされたスプリングとからなり、前記ピンの少なくとも先端部が前記本体部の開口側端部から突出するようにして前記ピンおよび前記本体部よりも低融点のロウ材によって前記ピンと前記本体部との嵌合部をロウ付けして構成された再生機能付きインパクトワイヤの先端部の磨耗に伴う寸法の目減りを補うためのインパクトワイヤ再生方法であり、
前記再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定するための保持部と、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤの本体部を前記保持部に固定した状態で前記再生機能付きインパクトワイヤのピンの先端に直交状態で当接する先端規制面とを備えたワイヤ長調整治具に磨耗を生じた前記再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定し、
前記ピンと前記本体部との嵌合部をロウ付けしている前記ロウ材を加熱して融解させることによって前記ピンと前記本体部との固着を解除した後、
前記スプリングの弾性復帰力によって前記ピンを前記本体部から突出させて前記ピンの先端を前記先端規制面に当接させて前記ピンの突出量を初期精度に戻し、
前記ロウ材に対する加熱を停止してロウ材を固化させることによって前記ピンを前記本体部に再びロウ付けすることを特徴とした構成を有する。
【0014】
本発明の再生機能付きインパクトワイヤは、前述のインパクトワイヤ再生方法において使用される再生機能付きインパクトワイヤであり、
インクリボンを叩打する先端部を有するピンと、前記ピンを摺動可能な嵌め合い状態で内嵌する有底パイプ状の本体部と、前記本体部の底面と前記ピンの基部側の端面に両端部を当接させて予圧状態とされたスプリングとからなり、
前記ピンの少なくとも先端部が前記本体部の開口側端部から突出するようにして前記ピンおよび前記本体部よりも低融点のロウ材によって前記ピンと前記本体部との嵌合部がロウ付けされていることを特徴とした構成を有する。
【0015】
本発明のワイヤ長調整治具は、前述のインパクトワイヤ再生方法において使用されるワイヤ長調整治具であり、
再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定するための保持部と、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤの本体部を前記保持部に固定した状態で前記再生機能付きインパクトワイヤのピンの先端に直交状態で当接する先端規制面とを備えたことを特徴とする構成を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再生機能付きインパクトワイヤを構成するピンと本体部とを固着するロウ材を融解してピンの磨耗量に相当する分だけピンを突出させた状態で改めてピンと本体部とを再固着することができるので、再生機能付きインパクトワイヤを構成するピンの先端が磨耗した場合であっても、部品交換を行なうことなくドットインパクトプリンタを継続して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態について一例を挙げて具体的に説明する。
【0018】
図1は本発明を適用した一実施形態のインパクトワイヤ再生方法で利用される再生機能付きインパクトワイヤ1の構成について示した断面図、図2は同実施形態のインパクトワイヤ再生方法で利用されるワイヤ長調整治具2の構成について示した斜視図、図3はワイヤ長調整治具2の一部を拡大して組み立て状態を示した図、図4はワイヤ長調整治具2に再生機能付きインパクトワイヤ1を装着した状態を示した断面図である。
【0019】
この実施形態の再生機能付きインパクトワイヤ1の主要部は、図1に示されるように、ドットインパクトプリンタに装着されたインクリボン(図示せず)を叩打する先端部3を有するピン4と、ピン4を摺動可能な嵌め合い状態で内嵌した有底パイプ状の本体部5、および、本体部5の底面6とピン4の基部側の端面7に両端部を当接させて予圧されたスプリング8によって構成され、ピン4および本体部5よりも低融点のロウ材9によってピン4と本体部5との嵌合部10がロウ付けされている。
【0020】
より具体的には、ピン4は、印刷に必要とされるドット径に適合した直径を有する円柱状の先端部3と、有底パイプ状の本体部5の内径に適合した外径を有する基部側大径部11とを備え、基部側大径部11の端部から1/3程度の部分が本体部5の内部に収められ、基部側大径部11の残り2/3程度の部分と円柱状の先端部3の全てが本体部5の開口側端部から外部に突出し、基部側大径部11と先端部3の間が先細りのテーパ部12によって滑らかに連絡されている。
【0021】
円柱状の先端部3は、その最先端部の側に或る程度の磨耗が生じた場合であっても印字の際のドット径が保証されるように、つまり、先端部3の断面形状や寸法が変化しないように、円柱体の部分の軸方向長さが例えば数ミリ程度といったように長めの値に決められている。
【0022】
また、本体部5の内部に収められている基部側大径部11の長さは概ね円柱状の先端部3の長さと同等であり、円柱状の先端部3の大半が磨耗し切った状態でも、基部側大径部11を本体部5から押し出すことによってピン4の全体的な突出量を初期の状態に戻すことができ、更に、この状態で本体部5の内周面と基部側大径部11との嵌合状態を維持してロウ付けによる固着ができるようになっている。
【0023】
ピン4の材料としては炭素工具鋼,高速度工具鋼,合金工具鋼等が望ましく、また、本体部5の材料としてはステンレス鋼等が望ましい。
【0024】
工具鋼やステンレス鋼を接合するロウ材9としては一般に銀ロウ,黄銅ロウ,ニッケルロウ等が使用されるので、ロウ材9の融点はピン4や本体部5更にはバネ鋼からなるスプリング8の融点に比べて十分に低く、仮に、ロウ材9の溶融や固化を何度かに亘って繰り返したとしても、ピン4や本体部5およびスプリング8の機械的な特性が損なわれることはない。
【0025】
前述した通り、ピン4の基部側大径部11と有底パイプ状の本体部5との嵌め合いは、本体部5の内周面がピン4の摺動動作を妨げない程度の遊嵌嵌めであるが、より厳密に言えば、この遊嵌状態は、ピン4および本体部5をロウ材9の融点温度にまで加熱した状態でも保証されている必要があり、ピン4の基部側大径部11の外径と有底パイプ状の本体部5の内径は、鋼材の線膨張係数等を考慮して決める必要がある。
【0026】
再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5に固着されたアーマチュア13は、図示しない印字ヘッドに設けられたコイルの励磁によって生じる磁気吸引力と図示しない印字ヘッド内のアーマチュア復帰バネの弾性力とを利用して再生機能付きインパクトワイヤ1を図示しないドットインパクトプリンタのプラテンに対して接離する方向に駆動するためのもので、スプリングチャージ式のドットインパクトプリンタにあっては周知の構成要素である。
【0027】
この実施形態における再生機能付きインパクトワイヤ1の長さLは、図1に示されるように、アーマチュア13の下端面13aからピン4の最先端部に至る軸方向距離で規定されている。
なお、ワイヤ自由飛行方式のドットインパクトプリンタにあっては、アーマチュア13が再生機能付きインパクトワイヤ1と分離した構造となっているので、一般に、再生機能付きインパクトワイヤ1の長さは本体部5の下端面からピン4の先端に至る距離つまり図1に示される長さL’によって表される。
【0028】
この実施形態で採用されたワイヤ長調整治具2は、図2に示されるように、再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を固定するための保持部14と、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部14に固定した状態で再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4の先端に直交状態で当接する先端規制面15とを備える。
【0029】
より具体的には、ワイヤ長調整治具2は、図2に示されるように、3本の矩形状のブロック材16,17,18をコの字型に組み合わせてネジ止め等で一体的に構成したもので、ブロック材16の上面側に保持部14が設けられる一方、このブロック材16に対向するブロック材18の下面側に先端規制面15が形成されている。
【0030】
また、ブロック材16の手前側の端部には、再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部14に固定する際に逃ガシとして機能する切欠部19が形成されている。
【0031】
保持部14の主要部は、再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5と一体化されたアーマチュア13の下端面13aおよび左右両側面13b,13cに嵌合するようにしてブロック材16の上面側に刻設された角溝20によって構成される。角溝20はアーマチュア13を介して再生機能付きインパクトワイヤ1をワイヤ長調整治具2に固定するためのもので、ブロック材18の下面側に形成された先端規制面15に対向するかたちで、かつ、先端規制面15に対して平行となるようにしてブロック材16の上面側に刻設されている。
また、図3に示されるようにしてブロック材16の側面に形成された摺動溝21と、摺動溝21に遊嵌された略L字型のストッパ部材22と、ストッパ部材22に穿設された長穴23を貫通してストッパ部材22を摺動溝21に摺動自在に取り付ける段付きの六角穴付きボルト24、更には、ブロック材16の側面に植設されたピン25とストッパ部材22の表面に植設されたピン26で両端を支持されて予圧状態とされ、其のループ部分27aを貫通するリベット28によってブロック材16の側面に固定された捩りコイルバネ27も保持部14の一部である。
【0032】
ブロック材17,18を別部材としているのは、材料取りの容易化と材料の歩留まりの向上を目的としてのことであり、また、ブロック材16を別部材としているのは保持部14の主要な構成要素である角溝20を研削加工によって精密に仕上げるため(回転砥石を通すため)であるから、材料取りや歩留まりおよび精度等に関して格別の注意を払う必要がなければ、ブロック材16,17,18からなるフレーム部分の一体加工たとえばプレスによる打ち抜き加工や角溝20のフライス加工等も可能である。
【0033】
この実施形態では、保持部14の主要部である角溝20の底面20aにアーマチュア13の下端面13aを確実に密着させる必要上、捩りコイルバネ27で下方に向けて付勢されたストッパ部材22を設け、ストッパ部材22の舌片部22aの下面でアーマチュア13の上端面13dを角溝20の底面20aに向けて押さえ付けるようにしているが、同様の操作を手で行うようにすれば、摺動溝21,ストッパ部材22,六角穴付きボルト24,ピン25,ピン26,リベット28,捩りコイルバネ27は省略してもよく、その場合は、保持部14が角溝20のみによって構成されることになる。
【0034】
次に、先端部に磨耗が生じた再生機能付きインパクトワイヤ1を再生して其の全長を初期状態に戻す場合の処理操作について説明する。
【0035】
再生機能付きインパクトワイヤ1の先端に許容できない磨耗が生じているか否かは、ドットインパクトプリンタによって印字された用紙や帳票の印字状態を確認することで容易に判別され得る。
【0036】
そこで、再生機能付きインパクトワイヤ1の先端に許容できない磨耗が生じたことが確認された場合には、まず、ドットインパクトプリンタの印字ヘッドを分解して再生機能付きインパクトワイヤ1を印字ヘッドから取り外し、アセトン等で洗浄する。
【0037】
次いで、ワイヤ長調整治具2を把持し、捩りコイルバネ27の付勢力に抗して舌片部22aがブロック材16における角溝20の底面20aから離間する方向にストッパ部材22を持ち上げ、舌片部22aの下面と角溝20の底面20aとの間にアーマチュア13の上下幅に匹敵する間隔を形成した上で、アーマチュア13の下端面13aを角溝20の底面20aに押し付けるようにしながらアーマチュア13をスライドさせて、角溝20にアーマチュア13を嵌合させる。
ブロック材16には切欠部19が形成されているので、アーマチュア13の下端面13aよりも下方に突出した本体部5の部分がブロック材16に干渉する心配はない。
【0038】
そして、アーマチュア13を角溝20に嵌合させた状態でストッパ部材22から手を離すと、ストッパ部材22が捩りコイルバネ27の弾性復帰力で付勢されて自動的に下降し、ストッパ部材22の舌片部22aの下面がアーマチュア13の上端面13dを押圧し、アーマチュア13の下端面13aが角溝20の底面20aと密着した状態で、再生機能付きインパクトワイヤ1がワイヤ長調整治具2の保持部14に固定される。
【0039】
既に述べた通り、ブロック材16上の角溝20はブロック材18の下面側に形成された先端規制面15に対向し、かつ、先端規制面15に対して平行となっているから、再生機能付きインパクトワイヤ1の軸に対して垂直に径方向外側に突出するアーマチュア13が角溝20に対して適切に嵌合された時点で、再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4および有底パイプ状の本体部5が、ブロック材18の下面側の先端規制面15に対して垂直な状態となる。
【0040】
再生機能付きインパクトワイヤ1をワイヤ長調整治具2に装着した状態を図4に示す。
【0041】
ワイヤ長調整治具2に装着された再生機能付きインパクトワイヤ1には、ピン4の先端で或る程度の磨耗ΔLが生じているので、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部14に固定した状態でピン4の先端に直交状態で当接する先端規制面15とピン4の先端との間には、図4に示されるように、磨耗量に相当する間隙ΔLが生じることになる。
【0042】
次いで、再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4を本体部5に固着しているロウ材9の周辺をガストーチ等で加熱してロウ材9を融解させると、ピン4と本体部5との固着が解除される。
【0043】
この結果、本体部5に内嵌されたスプリング8の弾性復帰力によってピン4が本体部5の開口側端部から押し出され、磨耗を生じているピン4の最先端部がブロック材18の下面側の先端規制面15に当接した時点でピン4の突出が停止する。
【0044】
先端規制面15は初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部14に固定した状態でピン4の先端に直交状態で当接する位置に形成されているから、先端部にΔLの磨耗を生じているピン4は、磨耗量ΔLに相当する距離だけ本体部5の開口側端部から押し出されることになり、磨耗を生じたピン4の突出量は初期の精度に自動的に復帰することになる。
【0045】
この際、ピン4の先端が押し出されて先端規制面15に衝接することにより、再生機能付きインパクトワイヤ1およびアーマチュア13を図4中のP点を中心としてカウンタクロックワイズ方向に回転させる僅かな力が作用するが、アーマチュア13の上端面13dがストッパ部材22の舌片部22aによって上方から支えられているので、再生機能付きインパクトワイヤ1が不用意に位置・姿勢を変化させることはない。
【0046】
ピン4の最先端部が先端規制面15に当接したことを確認した時点でガストーチ等による加熱を停止すれば、外気との接触による空冷作用および再生機能付きインパクトワイヤ1と接触したワイヤ長調整治具2による熱交換作用によってロウ材9の周辺が冷却され、ロウ材9が固化することによってピン4の基部側大径部11が有底パイプ状の本体部5に改めて強固に固着される。
【0047】
ロウ材9の周辺をガストーチ等で加熱してロウ材9を融解させる際には再生機能付きインパクトワイヤ1におけるピン4と本体部5の接合箇所周辺のみが集中的に加熱され、ワイヤ長調整治具2、特に、ブロック材17の部分は加熱されにくいので、加熱状況下でピン4の突出量を正しく規制された再生機能付きインパクトワイヤ1が常温に復した段階で、厳密に言えば、ピン4の最先端部が僅かに先端規制面15から離間することになるが、その縮退量は僅かであるから印字の状態に影響を与える心配はない。
また、常温環境下におけるピン4の突出量を極めて厳密に初期精度に一致させる必要がある場合には、前述したような再生機能付きインパクトワイヤ1の縮退量を予め考慮し、ブロック16に設けられた角溝20の底面20aからブロック材18の先端規制面15に至る離間距離が基準値である長さLに対して前述の縮退量に相当する分だけ大きくなるように各部の加工、例えば、角溝20の深さやブロック材17の長さを調整しておくようにする。
【0048】
以上、再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5に一体的に固着されたアーマチュア13を利用して再生機能付きインパクトワイヤ1をワイヤ長調整治具2の保持部14に取り付けるようにした例について述べたが、ワイヤ自由飛行方式のドットインパクトプリンタにあってはアーマチュア13と再生機能付きインパクトワイヤ1とが独立した構成であるので、アーマチュア13を利用して再生機能付きインパクトワイヤ1をワイヤ長調整治具2の保持部14に取り付けるといったことはできない。
【0049】
次に、アーマチュア13と独立した再生機能付きインパクトワイヤ1を取り扱うためのワイヤ長調整治具29の構成について図5を参照して説明する。
【0050】
このワイヤ長調整治具29は、図5に示されるように、再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を固定するための保持部30と、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部14に固定した状態で再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4の先端に直交状態で当接する先端規制面15とを備える。
【0051】
より具体的には、ワイヤ長調整治具29は、図5に示されるように、3本の矩形状のブロック材16,17,18をコの字型に組み合わせてネジ止め等で一体的に構成したもので、ブロック材16の手前側の端部に保持部30が設けられる一方、このブロック材16の上面に対向するブロック材18の下面側に先端規制面15が形成されている。
【0052】
保持部30は、再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5の外周面と嵌合して再生機能付きインパクトワイヤ1を支えるためにブロック材16の手前側の端面に先端規制面15と直交する方きで刻設された上下方向のV溝31と、V溝31で支えられた本体部5の下端面を支持するための矩形状のエンドピース32と、略L字型のストッパ部材33によって構成されている。
【0053】
ストッパ部材33は、V溝31の加工を容易にするためにブロック材16とは別部材で構成され、V溝31の加工終了後にネジ等でブロック材16に固着されている。ストッパ部材33は前述した実施形態のストッパ部材22と同等の構成を有するもので、図示しない捩りコイルバネの付勢力により、ストッパ部材33の舌片部33aがV溝31に接近する方向に向けて付勢されている。つまり、ストッパ部材33の移動方向をガイドすべくブロック材16の左側面に設けられた図示しない摺動溝は、ブロック材16の長手方向に沿って刻設されていることになる。
【0054】
再生機能付きインパクトワイヤ1の全長が図1に示される寸法L’であるとすれば、エンドピース32の上面から先端規制面15に至る距離がL’となるように、ワイヤ長調整治具29の各部の加工、例えば、ブロック材17の長さ等を調整しておくようにする。
【0055】
このワイヤ長調整治具29を使用して再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4の突出量を初期状態に戻す場合には、まず、ワイヤ長調整治具29を把持し、図示しない捩りコイルバネの付勢力に抗して舌片部33aがブロック材16におけるV溝31から離間する方向にストッパ部材33を引き出し、舌片部33a裏面とV溝31との間に再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を挟み込めるだけの間隔を形成した上で、本体部5の外周面をV溝31の2つの側壁に密着させて再生機能付きインパクトワイヤ1が先端規制面15に対して直交するように再生機能付きインパクトワイヤ1の姿勢を正し、本体部5の下端面をエンドピース32の上面に当接させる。
【0056】
そして、この状態を維持したままストッパ部材33から手を離すと、ストッパ部材33が図示しない捩りコイルバネの弾性復帰力で付勢されて舌片部33aが自動的にV溝31に向けて移動し、舌片部33aの裏面が本体部5の外周面を押圧し、本体部5の外周面をV溝31の2つの側壁に予圧状態で密着させる。
【0057】
この状態で、本体部5の姿勢がV溝31によって規制され、再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4および有底パイプ状の本体部5が、ブロック材18の下面側の先端規制面15に対して垂直な状態となる。
【0058】
ワイヤ長調整治具29の保持部30に装着された再生機能付きインパクトワイヤ1には、ピン4の先端で或る程度の磨耗ΔLが生じているので、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部30に固定した状態でピン4の先端に直交状態で当接する先端規制面15とピン4の先端との間には、磨耗量に相当する間隙ΔLが生じることになる。
【0059】
次いで、再生機能付きインパクトワイヤ1のピン4を本体部5に固着しているロウ材9の周辺をガストーチ等で加熱してロウ材9を融解させると、ピン4と本体部5との固着が解除される。
【0060】
この結果、本体部5に内嵌されたスプリング8の弾性復帰力によってピン4が本体部5の開口側端部から押し出され、磨耗を生じているピン4の最先端部がブロック材18の下面側の先端規制面15に当接した時点でピン4の突出が停止する。
【0061】
先端規制面15は初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤ1の本体部5を保持部30に固定した状態でピン4の先端に直交状態で当接する位置に形成されているから、先端部にΔLの磨耗を生じているピン4は、磨耗量ΔLに相当する距離だけ本体部5の開口側端部から押し出されることになり、磨耗を生じたピン4の突出量は初期の精度に自動的に復帰することになる。
【0062】
この際、ピン4の先端が押し出されて先端規制面15に衝接するが、その反力は再生機能付きインパクトワイヤ1の中心軸に沿って作用するので、再生機能付きインパクトワイヤ1に不用意な姿勢変化が生じることはない。
【0063】
また、仮に、再生機能付きインパクトワイヤ1を保持部30に装着するときのミスで本体部5の下端面とエンドピース32の上面の間に間隙が生じていたとしても、ピン4を突出させようとするスプリング8の弾性復帰力によって本体部5の下端面がエンドピース32の上面に押し付けられるので、この間隙が自動的に解消される。
【0064】
ピン4の最先端部が先端規制面15に当接したことを確認した時点でガストーチ等による加熱を停止すれば、外気との接触による空冷作用および再生機能付きインパクトワイヤ1と接触したワイヤ長調整治具29による熱交換作用によってロウ材9の周辺が冷却され、ロウ材9が固化することによってピン4の基部側大径部11が有底パイプ状の本体部5に改めて強固に固着される。
【0065】
前記と同様、ロウ材9の周辺をガストーチ等で加熱してロウ材9を融解させる際には再生機能付きインパクトワイヤ1におけるピン4と本体部5の接合箇所周辺のみが集中的に加熱されるが、ワイヤ長調整治具29、特に、ブロック材17の部分は加熱されにくいので、加熱状況下でピン4の突出量を正しく規制された再生機能付きインパクトワイヤ1が常温に復した段階で、厳密に言えば、ピン4の最先端部が僅かに先端規制面15から離間するが、その縮退量は僅かであるから印字の状態に影響を与える心配はない。
また、常温環境下におけるピン4の突出量を極めて厳密に初期精度に一致させる必要がある場合には、再生機能付きインパクトワイヤ1の縮退量を予め考慮し、エンドピース32の上面からブロック材18の先端規制面15に至る離間距離が基準値である寸法L’に対して前述の縮退量に相当する分だけ大きくなるように各部の加工、例えば、ブロック材17の長さを調整しておくようにする。
【0066】
以上に述べた通り、これらの実施形態によれば、ワイヤ長調整治具2(29)の保持部14(30)に再生機能付きインパクトワイヤ1を取り付け、再生機能付きインパクトワイヤ1を構成するピン4と本体部5とを固着するロウ材9を融解し、ワイヤ長調整治具2(29)の保持部14(30)と先端規制面15とによりピン4の磨耗量ΔLに相当する分だけピン4が突出するようにピン4の突出量を規制した状態でスプリング8の弾性力でピン4を突出させた後、改めてロウ材9を固化させてピン4と本体部5とを再固着することができるので、再生機能付きインパクトワイヤ1を構成するピン4の先端が磨耗した場合であっても、再生機能付きインパクトワイヤ1や其の構成要素を全く交換することなく、ドットインパクトプリンタを継続して使用することができる。
【0067】
この結果、ドットインパクトプリンタのメーカーが大量のインパクトワイヤを補修部品としてストックしたり、あるいは、インパクトワイヤの入手が困難となった段階で改めて精密加工メーカーにインパクトワイヤの生産を発注しなくても、ドットインパクトプリンタを継続して使用することが可能となる。
【0068】
また、ドットインパクトプリンタのメーカーが大量の補修部品を抱え込んだり、将来のドットインパクトプリンタの補修作業を見越してドットインパクトプリンタのコストを算定するといった必要性もなくなるので、ドットインパクトプリンタの販売価格を低く抑えて出荷するといったことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明を適用した一実施形態のインパクトワイヤ再生方法で利用される再生機能付きインパクトワイヤの構成について示した断面図である。
【図2】同実施形態のインパクトワイヤ再生方法で利用されるワイヤ長調整治具の構成について示した斜視図である。
【図3】同実施形態のワイヤ長調整治具の一部を拡大して組み立て状態を示した図である。
【図4】同実施形態のワイヤ長調整治具に再生機能付きインパクトワイヤを装着した状態を示した断面図である。
【図5】他の一実施形態のワイヤ長調整治具の構成について示した斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
1 再生機能付きインパクトワイヤ
2 ワイヤ長調整治具
3 先端部
4 ピン
5 本体部
6 本体部の底面
7 ピンの基部側の端面
8 スプリング
9 ロウ材
10 嵌合部
11 基部側大径部
12 先細りのテーパ部
13 アーマチュア
13a アーマチュアの下端面
13b,13c アーマチュアの左右側面
13d アーマチュアの上端面
14 保持部
15 先端規制面
16 ブロック材
17 ブロック材
18 ブロック材
19 切欠部
20 角溝
20a 底面
21 摺動溝
22 ストッパ部材
22a 舌片部
23 長穴
24 六角穴付きボルト
25,26 ピン
27 捩りコイルバネ
27a ループ部分
28 リベット
29 ワイヤ長調整治具
30 保持部
31 V溝
32 エンドピース
33 ストッパ部材
33a 舌片部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクリボンを叩打する先端部を有するピンと、前記ピンを摺動可能な嵌め合い状態で内嵌する有底パイプ状の本体部と、前記本体部の底面と前記ピンの基部側の端面に両端部を当接させて予圧状態とされたスプリングとからなり、前記ピンの少なくとも先端部が前記本体部の開口側端部から突出するようにして前記ピンおよび前記本体部よりも低融点のロウ材によって前記ピンと前記本体部との嵌合部をロウ付けして構成された再生機能付きインパクトワイヤの先端部の磨耗に伴う寸法の目減りを補うためのインパクトワイヤ再生方法であって、
前記再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定するための保持部と、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤの本体部を前記保持部に固定した状態で前記再生機能付きインパクトワイヤのピンの先端に直交状態で当接する先端規制面とを備えたワイヤ長調整治具に磨耗を生じた前記再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定し、
前記ピンと前記本体部との嵌合部をロウ付けしている前記ロウ材を加熱して融解させることによって前記ピンと前記本体部との固着を解除した後、
前記スプリングの弾性復帰力によって前記ピンを前記本体部から突出させて前記ピンの先端を前記先端規制面に当接させて前記ピンの突出量を初期精度に戻し、
前記ロウ材に対する加熱を停止してロウ材を固化させることによって前記ピンを前記本体部に再びロウ付けすることを特徴としたインパクトワイヤ再生方法。
【請求項2】
インクリボンを叩打する先端部を有するピンと、前記ピンを摺動可能な嵌め合い状態で内嵌する有底パイプ状の本体部と、前記本体部の底面と前記ピンの基部側の端面に両端部を当接させて予圧状態とされたスプリングとからなり、
前記ピンの少なくとも先端部が前記本体部の開口側端部から突出するようにして前記ピンおよび前記本体部よりも低融点のロウ材によって前記ピンと前記本体部との嵌合部がロウ付けされていることを特徴とした再生機能付きインパクトワイヤ。
【請求項3】
前記ピンが、ドット径に適合した円柱状の先端部と、前記本体部の内径に適合した基部側大径部とを備え、前記基部側大径部の一部が前記本体部の開口側端部から突出していることを特徴とした請求項2記載の再生機能付きインパクトワイヤ。
【請求項4】
インクリボンを叩打する先端部を有するピンと、前記ピンを摺動可能な嵌め合い状態で内嵌する有底パイプ状の本体部と、前記本体部の底面と前記ピンの基部側の端面に両端部を当接させて予圧状態とされたスプリングとからなり、前記ピンの少なくとも先端部が前記本体部の開口側端部から突出するようにして前記ピンおよび前記本体部よりも低融点のロウ材によって前記ピンと前記本体部との嵌合部をロウ付けした再生機能付きインパクトワイヤにおけるピンの突出量を予め決められた初期精度に合わせるためのワイヤ長調整治具であって、
前記再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定するための保持部と、初期精度を有する再生機能付きインパクトワイヤの本体部を前記保持部に固定した状態で前記再生機能付きインパクトワイヤのピンの先端に直交状態で当接する先端規制面とを備えたことを特徴とするワイヤ長調整治具。
【請求項5】
前記保持部が、再生機能付きインパクトワイヤの本体部に固着されたアーマチュアを介して前記再生機能付きインパクトワイヤの本体部を固定するように構成されていることを特徴とした請求項4記載のワイヤ長調整治具。
【請求項6】
前記保持部が、前記アーマチャを保持すべく前記先端規制面と対向して前記先端規制面に対し平行に形成された角溝によって構成されていることを特徴とした請求項5記載のワイヤ長調整治具。
【請求項7】
前記保持部が、前記先端規制面と直交する方向に形成されたV溝と、前記V溝に前記本体部の外周面を内接させるようにして配置された前記再生機能付きインパクトワイヤの底面を支えるエンドピースと、前記V溝に前記本体部を押圧保持するストッパ部材とによって構成されていることを特徴とした請求項4記載のワイヤ長調整治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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