説明

インビトロでの造血細胞の刺激

【課題】細胞増殖および分化を支持する外部添加サイトカインを必要としない、インビトロで造血細胞を増大するための新たな方法を開発すること。
【解決手段】造血細胞をインビトロで刺激するための方法であって、該方法は、以下の工程:1)該造血細胞とIV型ジペプチジルペプチダーゼインヒビターの十分な量とを、該造血細胞の数および/または該造血細胞の分化状態を、該インヒビターと接触されないが他の点では該インヒビター存在下で培養される該造血細胞と同じ培養条件に供されるコントロール培養において存在する造血細胞の数および分化と比較して増大させるために、接触させる工程;および2)該造血細胞を、該インヒビター存在下および外部サイトカインの非存在下で、該コントロール培養において存在した造血細胞の数と比較して該造血細胞の数および/または該造血細胞の分化を増大させるのに十分な条件下および時間で培養する工程を包含する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、1997年9月29日に出願さ
れ、そしてインビトロでの造血細胞の刺激という名称である、米国仮出願第60
/060,306号に対して優先権を主張し、その全内容は本明細書中に参考と
して援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、インビトロでの造血細胞の刺激のための、ジペプチジルペプチダー
ゼIV(DPIV、CD26としても知られる)に結合する薬剤の使用に関する

【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
骨髄移植は、高用量の化学療法または放射線治療を受けている患者に対して広
く使用される。用量を制限する、化学療法および放射線治療の副作用は、全造血
細胞の前駆細胞である骨髄細胞の破壊による、造血細胞へのそれらの有害な効果
である。この骨髄損傷は骨髄抑制または骨髄剥離をもたらし、患者を日和見感染
に長期間かかりやすくする。骨髄移植は、患者の造血系(免疫系を含む)を回復
させる能力を有する初期骨髄前駆細胞の注入を伴う。移植は、化学療法または放
射線治療後の免疫系回復に通常必要とされる期間、従って日和見感染の恐れのあ
る期間を減らす。
【0004】
骨髄細胞は、全系列(リンパ系列、骨髄系列、および赤血球系列を含む)の造
血細胞を生じさせる全能性幹細胞を含む。幹細胞は、自己再生する能力ならびに
全造血系列の前駆細胞に分化する能力を有する。前駆細胞は、増殖能力および全
系列の分化細胞を生じさせる能力を保持する。分化細胞は増殖能力を失い、そし
てそれらの系列(例えば、マクロファージ、顆粒球、血小板、赤血球、T細胞、
およびB細胞)に特異的な形態特徴を示す。幹細胞および前駆細胞は、それらの
表面上にCD34を発現するが、他方、分化細胞は発現しない。骨髄は、幹細胞
、ならびにリンパ系列(TおよびB細胞)、骨髄系列(顆粒球、マクロファージ
)、および赤血球系列(赤血球)の前駆細胞を含む。
【0005】
骨髄移植における使用のための造血前駆細胞は、ガン患者(自己移植片)また
は組織適合ドナー(同種異系移植片)いずれかに由来し得る。これらの細胞は、
骨髄、末梢血、または臍帯血から単離され得る。全ての場合において、細胞は、
化学療法または放射線治療の前に採集される。一度に採集され得る前駆細胞の数
は少なく、そして多くの場合、首尾良い移植に十分でない。従って、血液アフェ
レーシスまたは臍帯血から得られる骨髄細胞または前駆細胞をインビトロで増大
するための、いくつかの方法が開発された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの細胞を増大する能力は、高用量の化学療法および/または放射線を伴
うガン処置の実行可能な補助治療として、骨髄移植技術を発展させるのを助けた
。しかし、現存する造血細胞増大のための方法は、造血幹細胞のインビトロ増大
を可能にする適切なサイトカインの添加を必要とする。このような増殖因子の高
コストは、移植または他の目的のために、当業者がインビトロで造血細胞を増大
する能力に不利に影響した。従って、細胞増殖および分化を支持する外部添加サ
イトカインを必要としない、インビトロで造血細胞を増大するための新たな方法
を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって以下が提供される:
(項目1) 造血細胞をインビトロで刺激するための方法であって、該方
法は、以下の工程:
(1)該造血細胞とIV型ジペプチジルペプチダーゼインヒビターの十分な量
とを、該造血細胞の数および/または該造血細胞の分化状態を、該インヒビター
と接触されないが他の点では該インヒビター存在下で培養される該造血細胞と同
じ培養条件に供されるコントロール培養において存在する造血細胞の数および分
化と比較して増大させるために、接触させる工程;および
(2)該造血細胞を、該インヒビター存在下および外部サイトカインの非存在
下で、該コントロール培養において存在した造血細胞の数と比較して該造血細胞
の数および/または該造血細胞の分化を増大させるのに十分な条件下および時間
で、培養する工程、
を包含する、方法。
(項目2) 項目1に記載の方法であって、ここで前記造血細胞の数を
増大させることが、前記造血細胞が最初に前記インヒビターと接触させられたと
きに存在した造血細胞の数と比較して、少なくとも2倍、該細胞の数を増大させ
ることを含む、方法。
(項目3) 項目1に記載の方法であって、ここで前記造血細胞は、造
血幹細胞、始原幹細胞、初期前駆細胞、CD34+細胞、間葉系列、骨髄系列、
リンパ系列、および赤血球系列の初期系列細胞、骨髄細胞、血球、臍帯血細胞、
ストローマ細胞、ならびに造血前駆細胞からなる群より選択される、方法。
(項目4) 項目1に記載の方法であって、ここで前記IV型ジペプチ
ジルペプチダーゼ(DPIV)インヒビターは、DPIVの可溶性インヒビター
およびDPIVの固定化インヒビターからなる群より選択される、方法。
(項目5) 項目1に記載の方法であって、ここで前記DPIVインヒ
ビターが、Lys−boroPro単量体、Pro−boroPro単量体、V
al−boroPro単量体、およびLys−boroPro結合体からなる群
より選択される、方法。
(項目6) 前記インヒビターが固定化インヒビターである、項目1に
記載の方法。
(項目7) 前記固定化インヒビターが、組織培養容器である固定化構造
に接着されたインヒビターを含む、項目6に記載の方法。
(項目8) 前記固定化インヒビターが、粒子である固定化構造に接着さ
れたインヒビターを含む、項目6に記載の方法。
(項目9) 前記インヒビターの十分な量は、前記造血細胞の数を少なく
とも2倍増大させるのに必要な量である、項目1に記載の方法。
(項目10)
(1)容器;および
(2)それに含まれるか、またはそれに接着されたDPIVインヒビター、
を含む、装置。
(項目11)
前記容器が無菌性である、容器。
(項目12)
前記容器が細胞培養容器であり、前記DPIVインヒビタ
ーが該細胞培養容器の表面に接着されている、項目10に記載の装置。
(項目13) 前記DPIVインヒビターが、前記容器に含まれる粒子に
接着されている、項目10に記載の装置。
(項目14)
(1)磁気粒子;および
(2)それに接着されたDPIVインヒビター、
を含む組成物。
(項目15) 前記組成物が滅菌されている、項目13に記載の組成物。
(項目16) 造血細胞をインビトロで刺激するためのキットであって、
該キットは、以下:
(1)項目10、11、12および13のいずれかに記載の装置;および
(2)該造血細胞の数をインビトロで増大させるために、該装置を使用するた
めの説明書、
を含む、キット。
(項目17) 項目16に記載のキットであって、前記造血細胞を培養するための
1つ以上の増殖栄養分をさらに含み、ここで該増殖栄養分は、前記装置の容器中
または別の容器中に提供され、該別の容器の内容物は、該細胞を培養するときに
該装置の容器に添加され得る、キット。
(項目18) 抗原特異的T細胞をインビトロで増大するための方法であって、
該方法は、以下の工程:
(1)骨髄細胞を、DPIVインヒビターの十分な量の存在下で培養して、培
養中の初期T系列細胞の数を増大する工程;および
(2)該初期T系列細胞を、抗原性ペプチドに接着されたDPIVインヒビタ
ーを含むヘテロ結合体の十分な量の存在下で培養して、培養中の該抗原特異的T
細胞の数を増大する工程、
を包含する、方法。
(項目19) 抗原特異的T細胞をインビトロで増大するための方法であって、
該方法は、以下の工程:
(1)臍帯血細胞を、DPIVインヒビターの十分な量の存在下で培養して、
培養中の初期T系列細胞の数を増大する工程;および
(2)該初期T系列細胞を、抗原性ペプチドに接着されたDPIVインヒビタ
ーを含むヘテロ結合体の十分な量の存在下で培養して、培養中の該抗原特異的T
細胞の数を増大する工程、
を包含する、方法。
(項目20) 抗原特異的T細胞をインビトロで増大するための方法であ
って、該方法は、以下の工程:
(1)末梢血細胞を、DPIVインヒビターの十分な量の存在下で培養して、
培養中のT細胞の数を増大する工程;および
(2)該T細胞を、抗原性ペプチドに接着されたDPIVインヒビターを含む
ヘテロ結合体の十分な量で培養して、培養中の該抗原特異的T細胞の数を増大す
る工程、
を包含する、方法。
(項目21) 抗原特異的T細胞をインビトロで増大するための方法であ
って、該方法は、以下の工程:
(1)末梢血細胞を、抗原性ペプチドに接着されたDPIVインヒビターを含
むヘテロ結合体の十分な量の存在下で培養して、培養中の該抗原特異的T細胞の
数を増大する工程、
を包含する、方法。
(項目22) 前記DPIVインヒビターが、DPIV単量体、DPIV
ホモ結合体、および前述の組み合せからなる群より選択される、項目18、
19、20または21に記載の方法。
(項目23) 前記ヘテロ結合体が腫瘍特異的抗原を含む、項目18、
19、20または21に記載の方法。
(項目24) 前記ヘテロ結合体が病原体特異的抗原を含む、項目18、
19、20または21に記載の方法。
(項目25) 少なくとも1つの培養する工程が、添加サイトカインまたは
ストローマ細胞の存在下で行われる、項目18、19、20または21に
記載の方法。
(項目26) 少なくとも1つの培養する工程が、添加サイトカインまた
はストローマ細胞の非存在下で行われる、項目18、19、20または21
に記載の方法。
(項目27) 前記工程(2)が抗原性ペプチドの存在下で行われる、請
求項18、19または20に記載の方法。
(項目28) 前記工程(1)が抗原性ペプチドの存在下で行われる、請
求項21に記載の方法。
(項目29) 前記工程(1)および工程(2)が連続して行われる、請
求項18、19または20に記載の方法。
(項目30) 前記骨髄細胞が、単離されたCD34+細胞および単離さ
れた幹細胞からなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(発明の要旨)
本発明は、インビトロで造血細胞の増殖および分化を刺激するための方法およ
び組成物を提供する。都合よく、本発明の方法および組成物は、造血細胞の刺激
をインビトロで支持する外部添加サイトカインの添加を必要としない。従って、
本発明の方法および組成物は、インビトロで造血細胞の数を増大させ、そして/
または初期前駆細胞の分化を引き起こすことに有用である。培養造血細胞の数お
よび/または分化の増大は、種々の条件下でのこのような培養細胞の特徴付け、
ならびにそれに由来する組換え分子または天然に生じる分子のインビトロ生成の
ための、このような培養細胞の使用を可能にする。さらに、本発明の刺激造血細
胞は、インビボでの造血細胞またはそれらの前駆体の数の減少により特徴付けら
れる障害の処置に有用である。このような状態は、例えば、ガンの化学療法およ
び/または放射線治療の結果として、免役抑制された患者において頻繁に起こる

【0008】
本発明の新規性は、少なくとも部分的に、ジペプチジルペプチダーゼIV型(
「DPIV」)インヒビターが、外部添加サイトカインもしくは他の増殖因子ま
たはストローマ細胞の非存在下で、造血細胞の増殖および分化を刺激することに
有用であるという発見に基づく。この発見は、サイトカインまたはサイトカイン
を生成する細胞(ストローマ細胞)の添加が培養造血細胞の増殖および分化を維
持および刺激するための必須要素であることを提供する、造血細胞刺激分野にお
ける定説に反する。(例えば、WO94/03055として公開された、PCT
国際出願番号PCT/US93/017173を参照のこと)。
【0009】
本発明の1つの局面によれば、造血細胞を、インビトロで増殖および分化する
ように刺激するための方法が提供される。この方法は、以下の工程を含む:(1
)造血細胞と十分な量のジペプチジルペプチダーゼIV型インヒビターとを接触
させて、その細胞がインヒビターの存在下で培養される場合に、造血細胞の数お
よび/または分化を、インヒビターと接触されないが他の点ではインヒビター存
在下で培養される造血細胞と同じ培養条件に供されるコントロール培養において
存在する造血細胞の数および分化と比較して増大させる工程;(2)その造血細
胞を、インヒビター存在下および外部添加サイトカインの非存在下で、コントロ
ール培養において存在した造血細胞の数と比較して造血細胞の数および/または
このような細胞の分化を増大させるのに十分な条件下および時間で、培養する工
程;(3)造血細胞を、ストローマ細胞の存在下または非存在下で培養する工程
;ならびに(4)ストローマ細胞を、DPIVインヒビターの存在下で培養する
工程。一般的に、造血細胞の数を増大させるとは、その細胞が最初にインヒビタ
ーと接触させられる時に存在する造血細胞の数と比較して、少なくとも約2倍、
細胞数を増大させることをいう。一般的に、インヒビターと接触させられないが
、他の点では同一に処理されたコントロール培養において存在する細胞の数は、
インヒビターと接触する前の培養物中の細胞の初期数とほぼ同じである。好まし
くは、造血細胞の数は、造血細胞が最初にインヒビターと接触されられる時に存
在する造血細胞の数と比較して、少なくとも約4倍、10倍、20倍、または最
も好ましくは少なくとも100倍増大させられる。
【0010】
本明細書中で使用する、造血細胞は、造血幹細胞、始原幹細胞、初期前駆細胞
、CD34+細胞、間充織系列、骨髄系列、リンパ系列、および赤血球系列の初
期系列細胞、骨髄細胞、血球、臍帯血細胞、ストローマ細胞、ならびに当業者に
公知の他の造血前駆細胞を含む。
【0011】
本明細書中で使用する、ジペプチジルペプチダーゼIV型(「DPIV」)イ
ンヒビターとは、一般的に、DPIVの機能的活性を阻害する分子をいう。従っ
て、本発明のインヒビターは、ジペプチジルペプチダーゼIV型の酵素活性のイ
ンヒビターを含む。好ましくは、DPIVのインヒビターは、DPIVの活性部
位と、それと共有結合することによるか、またはそれとイオン相互作用を形成す
ることにより結合する。このようなインヒビターは、DPIVの競合インヒビタ
ー(例えば、DPIVの遷移状態アナログ)、およびDPIVの非競合インヒビ
ター(例えば、フルオロアルキルケトン)を含む。DPIVインヒビターはまた
、活性部位以外のDPIVタンパク質の部位で、(共有結合により、またはイオ
ン相互作用を介して)DPIVに選択的に結合し、それによりDPIV酵素活性
を阻害する、DPIVの非競合インヒビターを含む。このような非競合インヒビ
ターは、DPIVに選択的に結合し、そしてインビトロで造血細胞または胸腺細
胞を刺激する能力を有する結合分子の1つのカテゴリーである。DPIVに選択
的に結合し、そして造血細胞を刺激する能力を有する他の結合分子は、(1)D
PIVに結合し得、そして(2)インビトロで造血細胞および/または胸腺細胞
を刺激し得る、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および前述のフラグ
メントを含む。本発明の状況において有用なDPIVインヒビターは固定化形態
または不溶性形態であり得る。一般的に、前述のインヒビターは、一価、二価、
または多価であり得る。(例えば、DPIVインヒビターの2量体および他の結
合体の説明については、「レセプターを架橋するための多価化合物およびその使
用」という名称の、米国特許出願第08/671,756号および同第08/8
37,305号を参照のこと)。固定化されるDPIVインヒビターは、従来の
培養容器(例えば、攪拌フラスコ、攪拌タンクリアクター、エアリフトリアクタ
ー、懸濁細胞リアクター、細胞吸着リアクターおよび細胞トラップリアクター、
ペトリ皿、マルチウェルプレート、マイクロタイタープレート、試験管、培養フ
ラスコ、バッグおよび中空繊維デバイス、ならびにセルフォーム(cell f
oam))を含む、種々の固定化構造に固定化され得る。好ましくは、このよう
な固定化構造は、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル酸ポリマー
、ナイロン、布、ニトロセルロース、アガロース、セファロースなどを含む材料
から形成される。
【0012】
本発明のこの方法によれば、可溶性DPIVインヒビターを含む固定化構造中
または代替の細胞培養デバイス中の造血細胞は、その細胞がインヒビターの存在
下で培養された場合に造血細胞の数を増大させ、そして/またはこのような細胞
の分化を引き起こすために十分な量のDPIVインヒビターと接触させられる。
一般的に、造血細胞の数および/またはそれらの分化状態の増大の決定は、当業
者に公知の従来の方法を用いて評価される。本発明の重要な利点は、培養造血細
胞が、外部添加サイトカインの非存在下で分化し、そして/または数が増大する
ようにさせられ得ることである。外部添加サイトカインの非存在下で造血細胞を
刺激する方法を提供することにより、本発明は、本出願人らが培養造血細胞を刺
激するのににもはや必須の因子でないことを発見したサイトカインを排除するこ
とにより、このような細胞培養に対する実質的なコスト削減、ならびにこのよう
な細胞培養物の汚染可能性を都合の良く低下することを提供する。
【0013】
本発明の別の局面によれば、本発明の方法を行うための装置が提供される。こ
の装置は、容器、およびそれに含まれるか、またはそれに接着されるDPIVイ
ンヒビターを含む。好ましくは、容器は、当業者に公知の前述の細胞培養容器の
いずれかから選択される滅菌容器である。DPIVインヒビターは、可溶性形態
もしくは固定化形態で容器に含まれるか、または容器の内面に直接接着される。
例えば、DPIVインヒビターは、1つ以上の異なるDPIVインヒビターが接
着される磁気粒子を含み得る。固定化または可溶性DPIVインヒビターの含有
に加えて、容器は、必要に応じて、細胞培養のための1つ以上の増殖培地成分を
含む。このような成分は、当業者に公知である。
【0014】
本発明のなお別の局面によれば、培養造血細胞を刺激するためのキットが提供
される。このキットは、上記の装置、およびインビトロで造血細胞を刺激するた
めのに、この装置を使用するための説明書を含む。
【0015】
本発明のさらに別の局面によれば、インビトロで造血細胞を刺激し、そして抗
原特異的T細胞を増大するための方法が提供される。この刺激工程および増大工
程は、同時にまたは連続して行われ得る。この方法を例示するために、この方法
の3つの実施態様が以下に記載される。一般的に、実施態様は、インビトロで刺
激される造血細胞の選択において互いに異なる。各々の実施態様において、培養
工程(単数または複数)は、添加サイトカインまたはストローマ細胞の存在下ま
たは非存在下で行われ得る。各々の実施態様において使用される好ましいヘテロ
結合体(heteroconjugate)は、本発明のDPIVインヒビター
に結合体化された腫瘍特異的抗原または病原体特異的抗原を含む。
【0016】
抗原特異的T細胞を得るための方法の第1の実施態様は、培養骨髄細胞を刺激
する工程を含む。培養骨髄細胞は、細胞の混合物を含み得るが;好ましくは、培
養骨髄細胞は、単離CD34+細胞または単離幹細胞である。この実施態様によ
れば、この方法は、骨髄細胞を、DPIVインヒビター(例えば、DPIV単量
体および/またはホモ結合体(homoconjugate))の十分な量の存
在下で培養して、培養初期T系列細胞の数を増大する工程;ならびに(2)初期
T系列細胞を、抗原ペプチド(例えば、腫瘍または病原体特異的抗原)に接着さ
れたDPIVインヒビターのインヒビターを含むヘテロ結合体の十分な量と共に
培養して、その培養物中の抗原特異的T細胞の数を増大する工程、を含む。工程
(2)は、特異的抗原の存在下または非存在下で行われ得る。工程(1)および
(2)は、同時にまたは連続して行われ得る。一般的に、抗原特異的T細胞の数
は、コントロール培養がヘテロ結合体と接触されないことを除いて、工程(1)
および(2)に記載のように処理された骨髄細胞のコントロール培養と比較され
る。各工程で、細胞は、DPIVインヒビターまたはヘテロ結合体の存在下で、
それぞれ、コントロール培養において存在するこのような細胞の数と比較して、
初期T系列細胞の数を増大させるのに十分な時間および抗原特異的T細胞の数を
増大するのに十分な時間で培養される。
【0017】
第2の実施態様は、培養臍帯血細胞を刺激することに関する。この実施態様は
、(1)臍帯血細胞を、DPIVインヒビター(例えば、DPIV単量体および
/またはホモ結合体)の十分な量の存在下で培養して、培養初期T系列細胞数を
増大する工程;ならびに(2)初期T系列細胞を、抗原ペプチド(例えば、腫瘍
または病原体特異的抗原)に接着されたDPIVインヒビターのインヒビターを
含むヘテロ結合体と共に培養して、その培養物に存在する抗原特異的T細胞の数
を増大する工程、を含む。工程(2)は、特異的抗原の存在下または非存在下で
行われ得る。工程(1)および(2)は、同時にまたは連続して行われ得る。一
般的に、抗原特異的T細胞の数は、コントロール培養がヘテロ結合体と接触され
ないことを除いて、工程(1)および(2)に記載のように処理された臍帯血細
胞のコントロール培養と比較される。各工程で、細胞は、DPIVインヒビター
またはヘテロ結合体の存在下で、それぞれ、コントロール培養において存在する
このような細胞の数と比較して、初期T系列細胞の数を増大させるのに十分な時
間および抗原特異的T細胞の数を増大するのに十分な時間で培養される。
【0018】
第3の実施態様は、培養末梢血幹細胞を刺激することに関する。この実施態様
は、(1)末梢血幹細胞を、DPIVインヒビター(例えば、DPIV単量体お
よび/またはホモ結合体)の十分な量の存在下で培養して、培養T細胞の数を増
大する工程;ならびに(2)T細胞を、抗原ペプチド(例えば、腫瘍または病原
体特異的抗原)に接着されたDPIVインヒビターのインヒビターを含むヘテロ
結合体の十分な量と共に培養して、その培養物中の抗原特異的T細胞の数を増大
する工程、を含む。工程(2)は、特異的抗原の存在下または非存在下で行われ
得る。工程(1)および(2)は、同時にまたは連続して行われ得る。一般的に
、抗原特異的T細胞の数は、コントロール培養がヘテロ結合体と接触されないこ
とを除いて、工程(1)および(2)に記載のように処理された末梢血幹細胞の
コントロール培養と比較される。各工程で、細胞は、DPIVインヒビターまた
はヘテロ結合体の存在下で、それぞれ、コントロール培養において存在するこの
ような細胞の数と比較して、T細胞数を増大させるのに十分な時間および抗原特
異的T細胞の数を増大するのに十分な時間で培養される。あるいは、末梢血がT
細胞を含むことが知られているので、刺激工程(1)なしで培養抗原特異的T細
胞の数を増大することは可能である。すなわち、抗原特異的T細胞の数を増大す
るための方法は、末梢血細胞を、抗原ペプチド(例えば、腫瘍または病原体特異
的抗原)に接着されたDPIVインヒビターのインヒビターを含むヘテロ結合体
の十分な量と共に培養して、培養抗原特異的T細胞の数を増大する工程を含む。
この工程は、特異的抗原の存在下または非存在下で行われ得る。
【0019】
本発明のこれらおよび他の局面、ならびに有用性における種々の利点は、図面
および本発明の詳細な説明を参照してより明らかである。
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、培養造血細胞を刺激するために改善した方法、特に、外部添加サイ
トカインの非存在下で、インビトロで造血細胞を刺激するための方法を提供する
。本出願人らの発明は、DPIVインヒビターを添加した場合に、サイトカイン
またはサイトカイン発現細胞(ストローマ細胞)の培養造血細胞への添加が、造
血細胞の維持または刺激に必須の要素ではないという発見に関係する。従って、
出願人らの発見は、サイトカインを細胞培養物に提供する必要を排除することに
より、ならびにこのような培養細胞への潜在的な汚染源を都合よく排除すること
により、著しいコスト削減をもたらす。
【0021】
本発明の1つの局面によれば、造血細胞をインビトロで刺激するための方法が
提供される。この方法は、(1)造血細胞とジペプチジルペプチダーゼIV型(
「DPIV」)インヒビターの十分な量とをインビトロで接触させて、造血細胞
の数および/またはこのような造血細胞の分化を、インヒビターと接触されない
が他の点ではインヒビター存在下で培養される造血細胞と同じ培養条件に供され
るコントロール培養において存在する造血細胞の数および分化と比較して増大さ
せる工程、ならびに(2)造血細胞を、インヒビター存在下および外部添加サイ
トカインの非存在下で、コントロール培養において存在した造血細胞の数と比較
して造血細胞の数および/またはそれらの分化を増大させるのに十分な条件下お
よび時間で培養する工程、を含む。)本明細書中で使用する、造血細胞を刺激す
るとは、造血細胞が増殖および/または分化するように誘導することをいう。従
って、本発明の方法および組成物およびデバイスは、細胞数を増大させることに
、ならびに初期前駆細胞の分化を引き起こすことに有用である。
【0022】
(造血細胞)
本明細書中で使用する造血細胞とは、血球の生成に関連する細胞をいう。例示
的な造血細胞は、造血幹細胞、始原幹細胞、初期前駆細胞、CD34+細胞、間
充織系列、骨髄系列、リンパ系列、および赤血球系列の初期系列細胞、骨髄細胞
、血液細胞、臍帯血細胞、ストローマ細胞、ならびに当業者に公知の他の造血前
駆細胞を含む。
【0023】
当該分野での慣例によれば、造血細胞の定義は、胸腺細胞を除外する。胸腺に
由来する胸腺細胞は、このような細胞が胸腺から得られ、そして既に最終分化へ
運命付けられている(committed)ので、「造血前駆」細胞とみなされ
ない。本出願人らは、本発明のある方法が、造血細胞ならびに胸腺細胞に関して
有用であることを発見した。従って、本発明の方法は、造血細胞単独、胸腺細胞
単独、または胸腺細胞と組み合せた造血細胞を用いて行われ得ることが理解され
るべきである。
【0024】
骨髄細胞は、全系列(リンパ系列、骨髄系列、および赤血球系列を含む)の造
血細胞を生じさせる全能性幹細胞を含む。幹細胞は、自己再生する能力ならびに
全造血系列の前駆細胞に分化する能力を有する。前駆細胞は、増殖能力および全
系列の分化細胞を生じさせる能力を保持する。分化細胞は増殖能力を失い、そし
てそれらの系列(例えば、マクロファージ、顆粒球、血小板、赤血球、T細胞、
およびB細胞)に特異的な形態特徴を示す。骨髄は、幹細胞、ならびにリンパ系
列(TおよびB細胞)、骨髄系列(顆粒球、マクロファージ)、および赤血球系
列(赤血球)の前駆細胞を含む。幹細胞および前駆細胞は、それらの表面上にC
D34を発現するが、他方、分化細胞は発現しない。従って、CD34の検出は
、分化細胞と未分化細胞とを区別するために使用され得る。
【0025】
骨髄移植における使用のための造血前駆細胞は、ガン患者(自己移植片)また
は組織適合ドナー(同種異系移植片)いずれかに由来し得る。これらの細胞は、
骨髄、末梢血、または臍帯血から単離され得る。一般的に、細胞は、化学療法ま
たは放射線治療の前に採集される。骨髄は、代表的に、腸骨稜から吸引され、そ
して長々としたかつ痛い手順である。骨髄はCD34+細胞に富み;代表的に、
骨髄細胞の1〜2%は前駆細胞である。末梢血は、代表的にCD34+細胞を1
%未満含む。CD34+細胞を富化するために、血液前駆細胞は、低用量の化学
療法または特定のサイトカイン(例えば、G−CSFまたはSCF)を用いた前
処理により、骨髄から末梢に動員される。臍帯血は初期前駆細胞に非常に富み、
そして造血細胞移植のための細胞供給源として大きな見込みがある。
【0026】
どちらの供給源からでも一度に採集され得る前駆細胞の数は少なく、多くの場
合、首尾良い移植に十分でない。血液アフェレーシスまたは臍帯血から得られる
骨髄細胞または前駆細胞をインビトロ培養において増大させるために、いくつか
の方法が開発された。これらの細胞を増大する能力は、高用量の化学療法および
/または放射線を含むガン処置の実行可能な補助治療として、骨髄移植技術を発
展させるのを補助してきている。造血幹細胞のインビトロ増大は、適切な増殖因
子の添加、ならびにいわゆるストローマ細胞により提供される特定の増殖条件を
必要とする。ストローマ細胞は、造血前駆細胞に物理的支持、ならびに幹細胞数
の増大に必要とされる特定の増殖因子を提供する。
【0027】
未分化細胞からCD34+細胞(分化細胞)の分離は、多数の異なる方法によ
り達成され得る。これらの細胞の、固形支持体(Cellpro,Baxter
)上に固定化された抗CD34抗体への結合に基づく陽性免疫学的選択が最も広
く使用される。他の選択方法は、CD34を発現しない全細胞が、系列特異的細
胞表面抗原のそれらの発現に基づいてCD34+細胞から単離される、陰性選択
を含む。
【0028】
本発明の特定の実施態様において、造血細胞は、添加サイトカイン、ストロー
マ細胞、または胸腺細胞の非存在下で、単量体を用いて刺激される。他の実施態
様において、造血細胞または胸腺細胞は、添加サイトカインまたはストローマ細
胞の非存在下または存在下で、本発明の化合物(好ましくは、単量体を除く)を
用いて刺激される。本出願人らは、本発明の代表的な単量体および結合体を使用
して、添加サイトカインおよび/またはストローマ細胞の非存在下で、単離CD
34+細胞(例えば、ストローマ細胞が除去されている)を刺激した。本出願人
らはまた、このような細胞が刺激されて、液体培養中で増殖および分化し得るこ
とを実証した。従って、本発明の1つの重要な利点は、本明細書中に開示された
方法が、造血細胞または胸腺細胞の刺激のためにストロマ細胞を必要としないこ
とである。本発明の別の重要な利点は、本明細書中に開示される化合物および方
法が、ヒト幹細胞(CD34+)を刺激することに有用であることである。この
ような標的細胞は、重要な治療適用を有する成熟細胞型に分化するそれらの能力
のために、増大の重要な標的である。添加サイトカインまたはストローマ細胞の
非存在下での幹細胞の刺激は、以前に報告されたことがない。
【0029】
(造血細胞の培養)
前駆細胞の増大は、種々の異なる培養容器において、そして異なる培養条件下
で行われ得る。一般的に、先行技術の方法を用いて造血細胞を培養するために使
用される同じ培養条件が、DPIVインヒビターを先行技術培養方法におけるサ
イトカインの代わりに用いることを除いて、本明細書中で使用される。細胞を培
養するための、例示的な先行技術のプロトコルは以下に提供される。従って、こ
のプロトコルは、DPIVインヒビターの存在下および外部添加サイトカインの
非存在下で細胞を培養することによる、本発明の方法に従う使用のために改変さ
れている。
【0030】
分離後、前駆細胞は、好ましくはヒトまたはウシ胎仔血清および増殖因子混合
物を添加した培地(例えば、RPMI、イスコブDMEM、TC199、X−V
IVO−10)においてインキュベートされる。血清または血漿は、5〜50%
の濃度で添加され得る。増殖因子は、任意または全てのインターロイキン(IL
−1〜IL−16)、インターフェロン(INF−α、β、およびγ)、エリス
ロポエチン(EPO)、幹細胞因子(SCF)、インシュリン様増殖因子、線維
芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍増殖因子β、腫瘍壊死因子α、顆粒
球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(
GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、fms様チ
ロシンキナーゼ−3リガンド(Fft−3リガンド)、およびcKITリガンド
(cKL)を含む。これらの増殖因子の多くは市販されている。最も一般的に使
用される増殖因子の混合物は、G−CSF、GM−CSF、SCF、IL−1、
IL−3、およびIL−6を含む。使用される増殖因子の大部分は、組換えDN
A技術により生成され、種々の程度まで精製される。いくつかの増殖因子は、標
準的な生化学的技術により腫瘍細胞株の培養培地から精製される。広く使用され
る増殖因子は、組換え技術により生成され、そしてGM−CSFおよびIL−3
両方の活性を示す、PIXY321である。その培養において使用する増殖因子
の量は、使用する、因子調製物の活性および増殖因子の組み合わせに依存する。
代表的に、濃度は、0.5〜500ng/mlの範囲である。各増殖因子の最適
濃度は、いくつかの増殖因子が他の増殖因子と相乗作用をするので、個々の培養
条件について決定されなければならない。上記のように、本発明の方法は外部添
加サイトカインを排除し、その代わりにDPIVを利用して、培養造血細胞を刺
激する。
【0031】
本明細書中で使用する、造血細胞の数を増大させるとは、DPIVインヒビタ
ー処理培養と同じ培養条件に供される並行コントロール培養(このようなコント
ロール培養がDPIVインヒビターと接触させられないことを除く)において存
在する造血細胞の数と比較して、少なくとも約2倍、細胞数を増大させることを
意味する。好ましくは、造血細胞の数は、並行コントロール培養において存在す
る造血細胞の数と比較して、少なくとも約4倍、より好ましくは10倍、最も好
ましくは少なくとも20倍増大する。
【0032】
造血細胞の数が増大する期間は、少なくとも部分的に、細胞型の関数であり、
そして使用する特定の培養容器に依存する。一般的に、この期間は、(短期間の
増大については)約2〜3日から、長期移植定着に適する細胞増大については数
週間の範囲に及ぶ。当業者に公知の慣用手順を使用して、培養細胞数を、培養細
胞とDPIVインヒビターとの漸増インキュベーション時間の関数として決定し
得る。代表的に、増大(細胞数の増大)は、細胞数を数えることにより、例えば
、特異的色素の取り込みを測定するか、または血球計もしくはセルカウンターを
用いてヘマトクリットを決定することにより測定される。従って、上記の細胞数
増大倍を達成するために必要な、特定の増殖条件の最適化およびDPIVインヒ
ビター量の選択は、慣用的な実験を用いるだけで決定される。このような慣用的
な実験は、例えば、(i)一定のインキュベーション時間でDPIVインヒビタ
ー量を変えること;(ii)一定のDPIVインヒビター量でインキュベーショ
ン時間を変えること;(iii)前述の最適化実験を適用して、予め選択された
細胞型について予め選択された細胞数増大倍を達成するために必要な特定の条件
を決定すること;および(iv)DPIVインヒビターの他の因子(例えば、同
一性、価数(例えば、一価もしくは二価)、または状態(可溶性または固定化さ
れているかどうか)を含む)を変えて、所望の結果を達成するために培養条件を
最適化すること、を含む。従って、細胞培養インキュベーション期間の長さは変
化し、そして所望の増大の程度に依存する。大抵の適用について、この期間は、
約4日〜14日の範囲である。一般的に、液体培養中の増大は、インキュベーシ
ョン開始からの細胞総数の増大により、および/または培養中のCD34+細胞
の%を決定することにより、および/またはDPIVインヒビターと接触されな
かったコントロール培養と比較して、総細胞の増大を決定することにより評価さ
れる。CFU−GM数は、細胞が、35mmペトリ皿おいて適切な増殖因子を含
むイスコブメチルセルロース培地に10〜14日間接種された場合に評価される
。代表的な開始密度は、1000個細胞/mlである。インキュベーション期間
の終わりに、50個を超える骨髄(CFU−GM)起源細胞または赤血球(BF
U−E)起源細胞を含むコロニーの数が、倒立顕微鏡を用いてスコア付けされる

【0033】
増大後、細胞は採集され、そして患者への注入の前に、新鮮な培養培地で洗浄
される。
【0034】
(造血細胞とDPIVインヒビターとの接触:)
本明細書中で使用する、造血細胞とDPIVインヒビターとを接触させるとは
、DPIVインヒビターが細胞と直接物理的に接触するのを可能にするように、
DPIVインヒビターを培養物に導入することを意味する。一般的に、可溶性D
PIVインヒビターは、可溶性DPIVインヒビターを、先行技術のより従来か
らあるサイトカイン因子の代わりに用いる以外は、可溶性サイトカインまたは他
の可溶性増殖因子が細胞培養物に導入されるのと同じように、培養細胞と接触さ
せられる。従って、例えば、可溶性DPIVインヒビターは、細胞培養物に水溶
液として、または細胞培養マトリクス中で水溶液をもたらすために粉末(例えば
、凍結乾燥)形態で添加され得る。いくつかの代表的なDPIVインヒビターを
接触させるための例示的な手順は、実施例に提供される。
【0035】
一般的に、不溶性DPIVインヒビターは、不溶性DPIVインヒビターの物
理的形態により指図される方法で、培養細胞と接触させられる。不溶性DPIV
インヒビターとは、溶液中に入らず、そして入れ得ないDPIVインヒビターを
いう。従って、不溶性DPIVインヒビターとは、不溶性支持体に接着されるD
PIVインヒビターをいう。この不溶性支持体は細胞培養容器であり得、この場
合、インヒビターは、培養容器の培養接触面に接着されるか、あるいはこの不溶
性支持体は、粒子形態(例えば、磁気粒子、セファロース)であり得、この場合
、インヒビターは粒子の表面に接着される。従って、培養容器表面に接着された
不溶性DPIVインヒビターの接触は、造血細胞増殖用に公知であるが、外部添
加サイトカインを排除した適切な栄養分と共に、培養容器中に細胞を入れること
を含む。粒子に接着された不溶性DPIVインヒビターの接触は、(乾燥または
懸濁)粒子を、造血細胞を含む培養容器に導入することを含む。あるいは、造血
細胞は、可溶性または不溶性DPIVインヒビターを既に含む培養容器に添加さ
れ得る。DPIVインヒビターの物理的状態(可溶性または不溶性)にかかわら
ず、造血細胞とインヒビターとの接触は、外部添加サイトカインの非存在下で行
われる。
【0036】
(DPIVインヒビターの導入)
本発明のDPIVインヒビターは、DPIVに結合する分子である。一般的に
、2つのカテゴリーのDPIVインヒビターがある:(1)活性部位インヒビタ
ーおよび(2)非活性部位結合薬剤。活性部位インヒビターとは、DPIVの触
媒活性部位に(共有結合により、またはイオン相互作用を介して)結合し、それ
によりDPIVの酵素活性を阻害する薬剤をいう。例示的な活性部位インヒビタ
ーは、DPIVの競合酵素インヒビター(例えば、天然DPIV基質の遷移状態
アナログ(以下に記載))を含む。非活性部位結合薬剤は、活性部位以外のDP
IVタンパク質部位に(共有結合により、またはイオン相互作用を介して)結合
し、そして本明細書中に記載の条件下で造血細胞または胸腺細胞を刺激する能力
を有する薬剤をいう。あるいは、特定の非活性部位結合薬剤(例えば、非競合D
PIVインヒビター)のDPIVへの結合は、非活性部位結合薬剤への暴露後の
DPIV酵素活性低下を観察することにより検出され得る。例示的な非活性部位
結合薬剤は、DPIVに対する抗体およびそのフラグメントを含み、これらは、
結合薬剤が、本明細書中に記載の条件下で造血細胞および/または胸腺細胞と共
に培養された場合に、このような細胞を刺激する能力をもたらすように、DPI
Vに選択的に結合する。
【0037】
DPIV酵素活性を測定するためのアッセイは記載されている(W.G.Gu
theilおよびW.W.Bachovchin,Biochemistry
32,8723−8731(1993);Gutheil,W.G.およびW.
,B.W.Kinlsq、Analytical Biochemistry
223,13−20(1994);ならびにGultheil,W.G.ら、P
roc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91,6594−6598
(1994))。これらの方法は、色素原(chromatogenic)基質
Ala−Pro−p−ニトロアニリド(AppNA)および蛍光基質Ala−P
ro−7−アミノ−4−トリフルオロメチルクマリン(AP−AFC)を使用す
る。AppNAおよびAP−AFCは市販されている(例えば、Enzymat
ic Systems Products,Dublin,CA)。このような
方法は、DPIVインヒビターがインビトロでDPIV酵素機能を阻害するかど
うか決定するためのスクリーニングアッセイとして使用され得る。
【0038】
(DPIV活性部位に結合するDPIVインヒビター:)
DPIVは、プロリン後(postprolyl)切断活性を示すセリンプロ
テアーゼファミリーのメンバーである。従って、DPIVの天然基質は、そのア
ミノ末端にジペプチドXaa−Proを含むペプチドであり、ここで標準的なア
ミノ酸命名法に従って、Xaaは任意のアミノ酸を示し、そしてProはプロリ
ンを示す。本発明の活性部位インヒビターは、その天然基質のDPIVによる結
合および/または切断反応を阻害する。
【0039】
本発明の単量体活性部位結合インヒビターは、以下の式I:
(I)表面−(L)q−P11
により示され、
ここでP1は、DPIVの基質結合部位を模倣する、第1の標的部分(好まし
くは、ペプチド)を示し;
1は、DPIVの反応中心における官能基と反応する反応基を示し;
Lは、(i)約100ダルトン〜約2000ダルトンの範囲の分子量を有し、
(ii)約20Å〜約300Åの範囲の長さを有し;(iii)単結合、2重結
合、または3重結合により結合される、C、O、N、S、およびリン原子からな
る群より選択される原子の鎖を含み、そして(iv)表面に接着された場合、約
20Å〜約300Åの範囲の表面密度(surface density)(す
なわち、1つのリンカー分子と表面との共有結合接着と、次のリンカー分子と表
面との共有結合接着との間の距離)を有する、必要に応じて存在するリンカー分
子を示し;そして
qは0または1であり、すなわち、q=0の場合、リンカーは存在せず、そし
て単量体活性部位結合インヒビターはリンカーを介して表面(例えば、組織培養
容器表面または磁気粒子)に接着されず、そしてq=1の場合、リンカーは存在
し、そして単量体活性部位インヒビターはリンカーを介して表面に接着される。
このような実施態様において、Lは、単一結合部分を表面に共有結合するように
働くので2価リンカーと呼ばれる。このような2価リンカーは当業者に公知であ
り、そして以下により詳細に記載される。
【0040】
DPIVの基質結合部位を模倣するペプチドP1は、DPIVの競合インヒビ
ター(例えば、DPIVの遷移状態アナログ)およびDPIVの非競合インヒビ
ター(例えば、フルオロアルキルケトン)を含む。これらの型のインヒビターの
各々は、以下で議論される。本発明の重要な実施態様において、P1は、ペプチ
ドまたはペプチド模倣物(peptidomimetic)である。
【0041】
本発明の多価活性部位インヒビターは、以下の式II:
【0042】
【化1】

【0043】
により示され、
ここでP1、R1、Lは上記で定義され、そしてq=1であり;
2は、第1の標的部分と同じであるか、または異なり得る、第2の標的部分
(好ましくは、ペプチド)を示し;
2は、第1の反応基と同じであるか、または異なり得る、第2の反応基を示
し;
m=0または1;
nは、0から10の整数であり;
r=0または1;そして
Aは、表面に結合され得るリンカーのアームであり、すなわち、r=0の場合
、リンカーLは表面に結合されず、そしてr=1の場合、リンカーは表面に結合
される。
【0044】
本発明の特定の実施態様において、P2=P1であれば、R2は存在しないか、
1と同じであるか、または異なり得る。一般的に、nは1であり、そして本発
明の化合物は、ホモ結合体(すなわち、P2=P1)またはヘテロ結合体(すなわ
ち、P2≠P1)と呼ばれる。
【0045】
特定の実施態様において、Lは、表面(例えば、組織培養容器または磁気粒子
)を介してさらに接着される。このような実施態様において、Lは、2つ以上の
結合部分を、互いにならびに表面に共有結合するように働くので、多価リンカー
と呼ばれる。このような多価リンカーは、当業者に公知である。
【0046】
ペプチドであり、そして報告によればプロリン後切断酵素を阻害するのに有用
性を有し、そして反応基に結合された場合に、プロリン後切断酵素の反応部位に
おける官能基と共有結合複合体を形成する、例示的な結合部分R1は、Bach
ovchinらに発行された、米国特許第4,935,493号、「プロテアー
ゼインヒビター」(「Bachovchin,493」);Bachovchi
nらに発行された、米国特許第5,462,928号、「ジペプチジルアミノペ
プチダーゼIV型インヒビター」(「Bachovchin,928」);Po
werらに発行された、米国特許第5,543,396号、「プロリンホスホネ
ート誘導体」(「Powers,396」);Hankoらに発行された、米国
特許第5,296,604号、「HIVプロテアーゼインヒビターとしてのプロ
リン誘導体およびそれらの使用のための組成物」(「Hanko,604」);
PCT/US92/09845、「プロリンボロネートエステルを作るための方
法」、およびその米国優先権出願(米国特許出願第07/796,148号およ
び同第07/936,198号)、出願人Boehringer Ingelh
eim Pharmaceuticals,Inc.(「Boehringer
」);ならびにPCT/GB94/02615、「DPIV−セリンプロテアー
ゼインヒビター」、出願人Ferring V.V.(「Ferring」)に
記載される。前述のインヒビターの代表例は以下に記載され、そして遷移状態ア
ナログベースのインヒビターであるXaa−boroProを含み、Lys−B
oroPro、Pro−BoroPro、およびAla−BoroProを含み
、ここで「boroPro」は、カルボキシル基(COOH)がボロニル基(B
(OH)2)で置換されたプロリンのアナログをいう。本発明の代替の活性部位
インヒビターは、ボロニル基がホスホネートまたはフルオロアルキルケトンで置
換された類似構造を有する(以下に記載)。当業者は、これらの化合物の結合特
性および複合体形成特性に有意に影響を及ぼすことなくなされ得る、他のこのよ
うな変化があることを理解している。
【0047】
DPIV基質結合部位を模倣する合成化合物が選択され得る、ファージディス
プレイライブラリーおよび化学コンビナトリアルライブラリーの開発は、さらな
るP1標的部分の同定を可能し、このP1標的部分にR1反応基が共有結合により
接着されて、プロテアーゼの基質結合部分を模倣し、そしてプロテアーゼ反応部
位における官能基と複合体を形成する、結合部分を形成し得る。このようなライ
ブラリーは、天然に生じない推定標的部分を同定するために、推定ファージディ
スプレイライブラリー分子またはコンビナトリアルライブラリー分子の存在下お
よび非存在下でプロテアーゼ切断活性をアッセイし、そしてこの分子が、プロテ
アーゼによるその天然基質または基質アナログ(例えば、分光光度計アッセイに
おいて容易に検出可能な発色団基質アナログ)の切断を阻害するかどうかを決定
することによりスクリーニングされ得る。次いで、プロテアーゼ阻害を示す、こ
れらのファージディスプレイ分子および/またはコンビナトリアルライブラリー
分子は、本明細書中に開示される反応基R1に共有結合され、そして再度、これ
らの新規分子がプロテアーゼに選択的に結合するかどうかを決定するために(例
えば、上記のスクリーニングアッセイを繰り返すことにより)試験され得る。こ
ういうふうに、天然に生じない本発明の標的部分を同定するための、単純な高ス
ループットのスクリーニングアッセイが提供される。
【0048】
一般的に、本発明の第1の結合部分P1は、それらのカルボキシル末端アミノ
酸のカルボキシル基を介して、第1の反応基R1に共有結合される。本明細書中
で使用するR1とは、DPIVの反応中心における官能基と反応し得る反応基を
いう。この標的プロテアーゼの反応中心と反応することは、R1が活性部位に位
置する官能基と共有結合または強いイオン相互作用を形成することを意味する。
本発明に含まれるR1反応基は、Bachovchinらに発行された、米国特
許第4,935,493号、「プロテアーゼインヒビター」において「T」基と
呼ばれる反応基を含む。これらは、ボロネート基、ホスホネート基、およびフル
オロアルキルケトン基を含む。例示的なボロネート基は、以下および実施例に記
載される。ホスホネート基およびフルオロアルキルケトン基は以下に記載される
。一般的に、標的部分のカルボキシル末端と反応基との間の結合がL配置である
ことが好ましい。反応基が、活性部位における官能基と共有結合を形成すること
もまた好ましいが;結合部分と活性部位との間に複合体を形成するために、共有
結合を形成する必要はない。
【0049】
本願を通じて、慣習的な用語を使用して、以下および当業者に公知の適当な教
科書に記載のように異性体を示す。(例えば、Principles in B
iochemistry,A.L.Lehninger編,99−100頁,W
orth Publishers,Inc.(1982)New York,N
Y;Organic Chemistry,Morrison and Boy
d,第3版,第4章,Allyn and Bacon,Inc.,Bosto
n,MA(1978);特許協力条約により公開された出願WO93/1012
7、出願番号PCT/US92/09845もまた参照のこと)。
【0050】
グリシンを除く全てのアミノ酸は、不斉炭素およびキラル炭素を含み、そして
1を超えるキラル炭素原子を含み得る。アミノ酸の不斉α炭素原子はキラル中心
と呼ばれ、そして2つの異なる異性体形態で存在し得る。これらの形態は、それ
らが平面偏光の回転を引き起こし得る方向を除いて、全ての化学的特性および物
理的特性において同一である。これらのアミノ酸は「光学活性」であるといわれ
、すなわち、このアミノ酸は、一方の方向にまたは他方の方向に平面偏光を回転
し得る。
【0051】
α炭素に接着した4つの異なる置換基は、空間において2つの異なる配置をと
り得る。これらの配置は、互いに重ね合わすことのできない鏡像であり、そして
光学異性体、鏡像異性体、または立体異性体と呼ばれる。所定のアミノ酸の一方
の立体異性体の溶液は平面偏光を左に回転し、そして左旋性異性体((−)で示
す)と呼ばれ;アミノ酸の他方の立体異性体は、平面偏光を同程度であるが右に
回転し、そして右旋性異性体((+)で示す)と呼ばれる。
【0052】
立体異性体を分類および命名するためのより体系的な方法は、不斉炭素原子(
例えば、α炭素原子)を取り巻くテトラヘドリンにおける4つの異なる置換基の
絶対配置である。この体系を確立するために、不斉炭素原子を有する最も小さな
糖である、参照化合物(グリセルアルデヒド)が選択された。当該分野での慣習
により、グリセルアルデヒドの2つの立体異性体がLおよびDと命名される。そ
れらの絶対配置はX線解析により確立された。LおよびDの名称はまた、グリセ
ルアルデヒドの絶対配置への参照によりアミノ酸に割り当てられた。従って、平
面偏光を回転する方向にかかわらず、L−グリセルアルデヒドの配置と関連する
配置を有するキラル化合物の立体異性体はLと指定され、そしてD−グリセルア
ルデヒドと関連する配置を有する立体異性体はDと指定される。従って、記号L
およびDは、キラル炭素を取り巻く4つの置換基の絶対配置を示す。
【0053】
一般的に、キラル中心を含む天然に生じる化合物は、DまたはLいずれかの、
1つの立体異性体形態しかない。天然に生じるアミノ酸はL立体異性体であるが
;本発明は、D立体異性体配置であり得るアミノ酸を含む。
【0054】
タンパク質において見出されるたいていのアミノ酸は、DL体系を用いて明白
に命名され得る。しかし、2つ以上のキラル炭素を有する化合物は、2n個の可
能な立体異性体配置があり得、ここでnはキラル中心数である。これらの立体異
性体は、時々、2つ以上のキラル中心を含むアミノ酸の配置をより明確に指定す
るRS体系を用いて指定される。例えば、スレオニン、イソロイシンのような化
合物は2つの不斉炭素原子を含み、従って、4つの立体異性体配置を有する。2
つのキラル中心を有する化合物の異性体は、ジアステレオマーとして知られる。
アミノ酸の光学異性体を指定するRS体系の完全な議論は、Principle
s in Biochemistry,A.L.Lehninger編、99−
100頁、前出に提供される。この分類法の簡単な要約は以下の通りである。
【0055】
RS体系は、化合物が2つ以上のキラル中心を含む場合のあいまいさを避ける
ために発明された。一般的に、この分類法は、最も小さなまたは最も順位の低い
基を見る人から真っ直ぐに離して向けた場合に、原子番号が減る順番で、または
原子価密度(valance density)が減る順番で、不斉炭素原子を
取り巻く4つの異なる置換原子を順位付けるように設計されている。異なる順序
付けは当該分野で周知であり、そしてLehningerの99頁に記載される
。順位の順番の減少が時計回りであると判断された場合、キラル中心を取り巻く
配置はRと呼ばれ;順位の順番の減少が反時計回りである場合、配置はSと呼ば
れる。従って、各々のキラル中心は、この体系を用いて命名される。この分類法
をスレオニンに適用すると、当業者は、名称L−スレオニンが、RS体系におい
て(2S,3R)−スレオニンをいうことを決定する。L−、D−、L−アロ、
およびD−アロのスレオニンのより伝統的な名称は、相当長い間、一般的に使用
されており、そして当業者により使用され続けている。しかし、RS体系は、ア
ミノ酸、特に1を超えるキラル中心を含むアミノ酸を指定するためにますます使
用される。
【0056】
本発明の特に好適な実施態様では、ボロプロリン(boroProline)
化合物はVal−ボロプロリン化合物である。「Val−ボロプロリン化合物」
は、カルボキシ末端ボロプロリンが標準的なペプチド化学に従ってペプチド結合
を介してバリンアミノ酸残基に共有結合している化合物をいう。バリンアミノ酸
は必要に応じて、ペプチド結合を介してさらなるアミノ酸残基にさらに結合する
が、ただしこのさらなるアミノ酸残基はVal−ボロプロリン化合物がCD26
に結合する能力を阻害しない。最も好適な実施態様では、本発明の化合物はVa
l−ボロPro(「PT−100」ともいう)である。アミノ酸残基上およびホ
ウ素原子に結合する炭素上に存在するキラル炭素原子のせいで、Val−ボロP
roは複数の異性体形態:(a)L−Val−S−ボロPro、(b)L−Va
l−R−ボロPro、(c)D−Val−S−ボロPro、および(d)D−V
al−R−ボロPro、で存在し得る。より好ましくは、この化合物はL−Va
l−S−ボロProまたはL−Val−R−ボロProである。類似の様式で本
発明の他のボロプロリン化合物も複数の異性体形態で存在し得る。しかし一般に
、各アミノ酸キラル中心が「L−」立体配置を有し、そしてボロProがRまた
はS立体配置である形態がこの化合物の好適な形態である。
【0057】
ボロプロリンペプチドである本発明の第1の反応基P11を有する第1の標的
化部分は以下の構造を有すると考えることができる:
【0058】
【化2】

【0059】
(a)ここでBはホウ素であり、
(b)ここでY1およびY2の各々は独立して、ヒドロキシル部分および生理学
的条件下でヒドロキシル部分に転化される反応性部分からなる群から選択され、
(c)ここで−A3−A4−は構造
【0060】
【化3】

【0061】
を有し、
(d)ここでD1−A1−A2−は、
【0062】
【化4】

【0063】
からなる群から選択される構造を有するアミノ酸であり、
ここでRはアミノ酸の側鎖を表す。
これらのポロプロリンペプチドはアミノペプチド結合および/または化学的架橋
剤を介し第2の標的部分P2に連結し、アミノ酸側鎖Rを介し、例えば抗原性ペ
プチドの側鎖に連結して、上記化合物[P2(R2mn−(L)q−P11]を
形成する。例示的なペプチドには、自己免疫疾患抗原性ペプチド、感染性疾患抗
原性ペプチド、およびアレルギー性疾患抗原性ペプチドが包含される。好適な抗
原性ペプチドはT細胞表面レセプターまたはB細胞表面レセプター、例えばTC
R/CD3、CD2、CD4、CD8、CD10、CD26、CD28、CD4
0、CD45、B7.1およびB7.2に結合するペプチドである。
【0064】
あるいは、反応性部分はフルオロアルキルケトンまたはホスホネート基であり
得る。フルオロアルキルケトン反応性基である本発明の反応性基は次式:
【0065】
【化5】

【0066】
を有し、ここでGは、H、F、または1個から20個の炭素原子と必要に応じて
ヘテロ原子(これはN、S、またはOであり得る)を含むアルキル基である。本
明細書において、ホスホネート基である本発明の反応性基は次式:
【0067】
【化6】

【0068】
を有し、ここで各Jは独立して、O−アルキル、N−アルキル、またはアルキル
(各々、約1−20個の炭素原子を含む)、そして必要に応じてヘテロ原子(こ
れはn=N、S、またはOであり得る)である。パーフルオロアルキル基、フェ
ニル基または置換フェニル基を含み、かつ本発明の方法に従って用いられ得るさ
らなる例示的なプロリンホスホネート誘導体は、米国特許第5,543,396
号(Powers、396)に記載されている誘導体である。プロテアーゼ(例
えば、セリンプロテアーゼまたはシステインプロテアーゼ)の反応中心と反応す
るのに有用な反応性基である他のケトアミド、ケト酸、およびケトエステルは、
PCT/US91/09801、「Peptides,Ketoamides,
Ketoacids,and Ketoesters」、出願人:Georgi
a Tech Research Corp.(「GA Tech」)(これは
1990年12月28日出願の米国特許第635,287号に基づく優先権を主
張する)に記載される。
【0069】
特定の実施態様では、反応性基は次式を有する基から選択される:
【0070】
【化7】

【0071】
アルファケトアミド;
【0072】
【化8】

【0073】
(ここでRはアルキル、またはアリール基であり、そして置換または非置換であ
り得る)、アルファケトエステル;および
【0074】
【化9】

【0075】
アルファケト酸。
【0076】
本発明の反応性基はまた、PCT/GB94/02615、「DPIV−Se
rine Protease Inhibitors」(Ferring)に記
載の反応性基を含む。これらは上記ボロニル基[B(OH)2]、ならびにピロ
リジドおよび以下の反応性基を含み、これらのいずれも置換または非置換であり
得、ただし置換はそれが結合する反応性基または結合部分の機能活性に悪影響を
あたえない:CN、C≡C、CHOおよびCH=NPh(ここでPhはフェニル
を表す)。これらの例は例示のみであり、本発明の範囲を限定することを意図し
ない。Ferringに記載のように、これらの代表的な反応性基を含む化合物
は、E.Schonら、Biol.Chem.Hoppe−Seyler:37
2:305−311(1991)およびW.W.Bachovchinら、J.
Biol.Chem.265:3738−3743(1990)に記載の一般的
な経路を適応することによって調製され得る。(上記のBachovchinの
米国特許もまた参照のこと)。
【0077】
第2の標的部分P2は、第1の標的部分が結合する細胞と同じまたは異なる細
胞の表面上に存在する分子と結合する。好ましくは、第2の標的部分は、T細胞
の表面またはB細胞の表面上に存在する分子(例えば、レセプター、主要組織適
合複合体(MHC)分子)に結合する。特定の実施態様では、第2の標的部分は
、免疫系調節に関与する細胞上に存在するプロテアーゼの基質結合部位を模倣す
る構造を有する。従って、第2の標的部分は第1の標的部分と同じであり得、そ
して本発明の化合物は同じまたは異なる細胞上のDPIV分子を架橋させるのに
有用である。例えば、本発明の化合物を用いて、第1の細胞上の第1のプロテア
ーゼ(例えば、ポストプロリル開裂酵素(post−prolyl cleav
ing enzyme)と、同じまたは異なる第2の細胞の表面上に発現する異
なるプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼあるい
は他のセリンプロテアーゼまたはシステインプロテアーゼ)を架橋し得る。特定
の好適な実施態様では、その第1および第2の標的部分は同一(すなわち、P2
=P1)であり、かつ第2の反応性基R2は存在しない(すなわちm=0)か、第
1の反応性基R1と同じかまたは異なり得る(すなわちR1≠R2)。同一のP1
よびP2基ならびに同一のR1およびR2基を含む化合物を「ホモ結合体」とよぶ
。さらに他の実施態様では、この第1および第2の標的部分は異なり、これらの
化合物を「ヘテロ結合体」とよぶ。
【0078】
さらに他の実施態様では、第2の標的部分は抗原であり、これは抗原提示細胞
の表面上のMHC分子に選択的に結合する。このような本発明の実施態様は抗原
(例えば、腫瘍)特異性T細胞増殖のために有用である。従って、本発明の関連
の局面によれば、抗原(例えば、腫瘍特異的抗原)である第2の標的部分P2
含む上記のDPIVインヒビターは、一般に、T細胞系の造血前駆細胞を(第1
の標的部分P1を通じて)刺激し、そして末梢血T細胞の集団のサブセットを特
異的に増殖させて抗原特異的T細胞を得るために用いられ得る。特に、このよう
な化合物は、このようなT細胞集団のサブセットを増殖して抗原特異的T細胞を
富化するために有用である。従って、本発明は、エクスビボで造血細胞刺激を抗
原特異的T細胞増殖と相乗的に組み合わせる、改良された方法を提供する。これ
は、残在する腫瘍細胞、転移細胞に対する免疫応答を誘発するため、あるいは同
種移植における抗腫瘍T細胞活性を増強するために、治療的である。これはまた
、腫瘍抗原、病原性抗原および他の有害な医学的状態に関連する抗原に対して特
異的な末梢記憶T細胞のエクスビボでの増殖にも用いられ得る。従って、上記方
法に従って用いられ得る抗原は、病原および癌抗原に特徴的な抗原を含む。
【0079】
上記の方法および組成物はまた、幹細胞を遺伝子治療適用のための異種核酸(
例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、治療的タンパク質またはペプチドを
コードする核酸)を含むレトロウイルスまたは他のベクターでトランスフェクト
した後に、エクスビボ増殖するのに有用である。エクスビボで異種核酸が導入さ
れた幹細胞は、トランスフェクトされた細胞を遺伝子治療のためにヒトに移植す
るための公知の方法を用いて被験体に導入され得る。例えば、Anderson
らに対して発行された米国特許第5,399,346号(「Gene Ther
apy」);PCT国際出願番号PCT/US92/01890(公開番号WO
92/15676、「Somatic Cell Gene Therapy」
、米国特許出願番号667,169号(1991年3月8日出願、発明者I.M
.Verma)に基づく優先権主張);PCT国際出願番号PCT/US89/
05575(公開番号WO90/06997、「Genetically En
gineered Endothelial Cells and Use T
hereof」、米国特許出願番号283,586号(1989年12月8日、
発明者Anderson,W.F.ら)に基づく優先権主張)を参照。
【0080】
腫瘍抗原の特徴を示す抗原は典型的には、腫瘍組織の細胞の細胞表面、細胞質
、核、オルガネラなどに由来する。例には、腫瘍タンパク質(変異したオンコジ
ーンによってコードされるタンパク質を含む)に特徴的な抗原;腫瘍に関連する
ウイルス性タンパク質;および腫瘍ムチンおよび糖脂質が含まれる。腫瘍には、
以下の部位の癌および以下のタイプの癌が含まれるがこれらに限定されない:口
唇、鼻咽腔、咽頭および他の口腔、食道、胃、結腸、直腸、肝臓、胆嚢、胆管樹
(biliary tree)、膵臓、喉頭、肺および気管支、皮膚の黒色腫、
胸部、頸部、子宮、卵巣、膀胱、腎臓、脳および他の神経系の一部、甲状腺、前
立腺、精巣、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、および白血病。
腫瘍に関連するウイルスタンパク質は上記のクラスのウイルス由来のものである
。腫瘍に特徴的な抗原は腫瘍前駆体細胞によっては通常発現しないタンパク質で
あり得るか、あるいは腫瘍前駆体細胞で通常発現するタンパク質であり得るが、
腫瘍に特徴的な変異を有する。腫瘍に特徴的な抗原は正常なタンパク質の変異体
であり得、変化した活性または細胞内分布を有する。上記のものに加えて、腫瘍
抗原を生じさせる遺伝子の突然変異は、コード領域、5’または3’非コード領
域、あるいは遺伝子のイントロン中に存在し得、そして点変異、フレームシフト
、欠失、付加、重複、染色体再配列などの結果であり得る。当業者は、腫瘍抗原
を生じさせる正常遺伝子の構造および発現に対する多様な変化に精通している。
腫瘍抗原の具体的な例は:B細胞リンパ腫のIg−イディオタイプ、黒色腫の変
異型サイクリン依存性キナーゼ4、黒色腫のPmel−17(gp100)、黒
色腫のMART−1(Melan−A)、黒色腫のp15タンパク質、黒色腫の
チロシナーゼ、黒色腫のMAGE1、2および3、甲状腺髄質(Medulla
ry)、小細胞肺癌、結腸および/または気管支の扁平上皮癌、膀胱のBAGE
、黒色腫、乳癌、扁平上皮癌、黒色腫のgp75、黒色腫の腫瘍胎児抗原;炭水
化物/脂質、例えば、乳癌、膵臓癌、および卵巣癌のmuc1ムチン、黒色腫の
GM2およびGD2ガングリオシド;癌腫の変異型p53のようなオンコジーン
、結腸癌の変異型ras、および乳癌のHER−2/neuプロトオンコジーン
;ウイルス産物、例えば頸部および食道の扁平上皮癌のヒトパピローマウイルス
タンパク質を包含する。タンパク質性腫瘍抗原はまた、HLA分子によって全タ
ンパク質由来の特定のペプチドとして提示され得ることが意図される。抗原性ペ
プチドを与えるタンパク質の代謝プロセスは当該分野で周知である。例えば、米
国特許第5,342,774号(Boonら)参照。
【0081】
本発明の好適な腫瘍抗原は、黒色腫腫瘍抗原(例えば、MAGEタンパク質フ
ァミリー(MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3);MART−1(ペプ
チド27−35);およびgp100);および結腸癌抗原(例えば、変異した
APC遺伝子産物のペプチド)を包含する。特に好適な黒色腫腫瘍抗原配列はS
lingluffらが、Curr.Opin.in Immunol.6:73
3−740(1994)で報告している配列である:
【0082】
【表1】

【0083】
MAGEタンパク質ファミリーはまた、1を越えるタイプの癌腫に関連してい
ることが報告されている:MAGE−1(黒色腫、甲状腺髄質、および小細胞肺
の癌腫)、MAGE−2(黒色腫、小細胞肺、結腸、気管支扁平上皮細胞、およ
び甲状腺髄質の癌腫)、およびMAGE−3(黒色腫、小細胞肺、結腸、気管支
扁平上皮細胞、および甲状腺髄質の癌腫)。Moriokaら、「A Deca
peptide(Gln−Asp−Leu−Thr−Met−Lys−Tyr−
Gln−Ile−Phe)from Human Melanoma Is R
ecognized by CTL in Melanoma Patient
s」、J.Immunol.153:5650(1994)もまた、さらなる腫
瘍抗原(例えば、P1A、コネキシン37、MAGE−1、MAGE−3、MA
RT1/Aa、gp100、チロシナーゼ)および/または選択された腫瘍抗原
の組織分布に関する情報について参照のこと。
【0084】
変異APC遺伝子産物のペプチドである特に好適な腫瘍抗原はTownsen
dら、Nature371:662(1994)に報告されているものである:
【0085】
【表2】

【0086】
他の実施態様では、第2の標的部分は細胞(好ましくはT細胞またはB細胞)
の表面上に発現されるレセプターに選択的に結合するリガンドである。本発明の
第2の標的部分で模倣され得る天然に存在するリガンドを有する例示的なレセプ
ターは、以下の群から選択されるレセプターを包含する:CD2、TCR/C3
、CD4、CD8、CD10、、CD26、CD28、CD40、CD44、C
D45、B7.1およびB7.2。さらに他の実施態様によれば、第2の標的部
分は抗体または抗体フラグメントであり、これは細胞表面に発現されるエピトー
プに選択的に結合する。このエピトープは上記のレセプターのいずれかの一部で
あり得る。
【0087】
第2の標的部分の標的(例えば、プロテアーゼ、レセプター、MHC複合体、
エピトープ)の性質にかかわらず、ファージディスプレイおよび他のタイプのコ
ンビナトリアルライブラリを上で記載したのと類似の様式でスクリーニングして
、本発明の化合物を形成するのに有用な天然に存在しない標的部分を同定し得る

【0088】
(DPIVの活性部位に結合しないDPIVインヒビター(非活性部位結合剤
):)
非活性部位DPIV結合剤は:(i)活性部位以外の位置でDPIVに選択的
に結合し、そして(ii)造血細胞および/または胸腺細胞を本明細書に記載の
条件下で刺激し得る薬剤である。特定の非活性部位DPIV結合剤(例えば、非
競合的DPIVインヒビター)はまた、DPIVの酵素活性を阻害する。DPI
Vの酵素活性の阻害は、例えばDPIVのタンパク質分解開裂酵素活性を、推定
DPIVインヒビターの存在下または非存在下で測定し、そのインヒビターがこ
のようなDPIV酵素活性を阻害するかどうかを決定することによって評価され
得る。好ましくは、このような結合剤はDPIVに選択的に結合する単離された
ポリペプチドである。単離された結合ポリペプチドは、抗体および抗体のフラグ
メント(例えば、Fab、F(ab)2、FdおよびDPIVに選択的に結合す
るCDR3領域を含む抗体のフラグメント)を含む。好適な単離された結合ポリ
ペプチドは、DPIVの触媒部位またはその近くのエピトープに結合するポリペ
プチドである。
【0089】
従って、本発明は、DPIVに選択的に結合し、かつ造血細胞および/または
胸腺細胞を本明細書に記載された条件下で刺激する能力を有する、抗体または抗
体のフラグメントの使用を含む。抗体はポリクローナルおよびモノクローナル抗
体を包含し、従来の方法論で調製される。
【0090】
重要なことには、当該分野で周知のように、抗体分子のほんの小さな部分であ
るパラトープが、そのエピトープに対する抗体の結合に関与する(一般的に、C
lark,W.R.(1986)The Experimental Foun
dations of Modern Immunology Wiley &
Sons, Inc., New York;Roitt,I.(1991)
Essential Immunology,第7版、Blackwell S
cientific Publications, Oxfordを参照のこと
)。pFc’およびFc領域は、例えば、補体カスケードのエフェクターである
が、抗原結合には関与しない。pFc’領域が酵素的に切断された抗体、または
pFc’領域なしで産生される抗体は、F(ab’)2フラグメントと称され、
インタクトな抗体の抗原結合部位の両方を保持する。同様に、Fc領域が酵素的
に切断された抗体、またはFc領域なしで産生された抗体は、Fabフラグメン
トと称され、インタクトな抗体分子の抗原結合部位のうちの1つを保持する。F
abフラグメントは共有結合で結合した抗体軽鎖およびFdで表される抗体重鎖
の一部から構成される。このFdフラグメントは抗体特異性の主たる決定基であ
り(単一のFdフラグメントは抗体の特異性を変化させることなく10個までの
異なる軽鎖と会合し得る)、そしてFdフラグメントは単離においてもエピトー
プ結合能力を保持する。
【0091】
抗体の抗原結合部分内には当該分野で周知のように相補性決定領域(CDR)
(これは抗原のエピトープと直接相互作用する)およびフレームワーク領域(F
R)(これはパラトープの三次構造を維持する)が存在する(一般的に、Cla
rk、1986;Roitt、1991参照)。IgG免疫グロブリンの重鎖F
dフラグメントおよび軽鎖の両方には、4つのフレームワーク領域(FR1から
FR4)が存在し、これらは各々3つの相補性決定領域(CDR1からCDR3
)で隔てられている。CDR、詳細にはDR3領域、最も詳細には重鎖CDR3
が抗体特異性の主たる原因である。
【0092】
哺乳類抗体の非CDR領域は元の抗体のエピトープの特異性を保持しながら、
反対の特異性または異なる特異性の抗体の同様の領域で置換し得ることが、当該
分野で現在、確立されている。これは「ヒト化」抗体の開発および使用において
最も明らかに証明されており、ここで非ヒトCDRをヒトFRおよび/またはF
c/pFc’領域に共有結合して、機能性抗体が生産される。従って、例えばP
CT国際公開番号WO92/04381はヒト化マウスRSV抗体の生産および
使用を教示し、ここではマウスFR領域の少なくとも一部をヒト起源のFR領域
で置換している。このような抗体は、抗原結合能力を有するインタクトな抗体の
フラグメントを含み、しばしば「キメラ」抗体と呼ばれる。
【0093】
従って、当業者に理解されるように、本発明はまた、F(ab’)2、Fab
、FvおよびFdフラグメント;キメラ抗体(ここでFcおよび/またはFRお
よび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域
が相同のヒトまたは非ヒト配列で置換されている);キメラF(ab’)2フラ
グメント抗体(ここでFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2およ
び/または軽鎖CDR3領域が相同のヒトまたは非ヒト配列で置換されている)
;キメラFabフラグメント抗体(ここでFRおよび/またはCDR1および/
またはCDR2および/または軽鎖CDR3領域が相同のヒトまたは非ヒト配列
で置換されている);およびキメラFdフラグメント抗体(ここでFRおよび/
またはCDR1および/またはCDR2領域が相同のヒトまたは非ヒト配列で置
換されている)を提供する。本発明はまた、いわゆる一本鎖抗体を包含する。従
って、本発明は、DPIVに特異的に結合してその機能活性を阻害する、多数の
サイズおよびタイプのポリペプチドを含む。これらのポリペプチドはまた、抗体
技術以外の供給源由来であり得る。例えば、このようなポリペプチド結合剤は、
縮重ペプチドライブラリによって提供され得、これは溶液、固定化形態で、また
はファージディスプレイライブラリとして容易に調製され得る。コンビナトリア
ルライブラリはまた、1つ以上のアミノ酸を含むペプチドから合成され得る。ラ
イブラリはさらにペプチドおよび非ペプチド合成部分から合成され得る。
【0094】
ファージディスプレイは、本発明による有用な結合ペプチドを同定するために
特に有効であり得る。簡単にいうと、4個から約80個のアミノ酸残基の挿入物
を提示するファージライブラリ(例えば、m13、fd、またはラムダファージ
を用いる)を従来の手順を用いて調製する。挿入物は、完全に縮重または偏った
(biased)アレイを表し得る。次に、DPIVに結合する、ファージが保
持する挿入物を選択し得る。このプロセスを、DPIVに結合するファージを再
選択する数サイクルにわたり繰り返し得る。回数を繰り返すことでファージが保
持する特定の配列が豊富になる。DNA配列分析を行って、発現されたポリペプ
チドの配列を同定し得る。DPIVに結合する配列の最小の線状部分を決定し得
る。最小の線状部分の一部または全部とその上流または下流に1つ以上の追加の
縮重残基とを含む挿入物を含む偏ったライブラリを用いて、この手順を繰り返す
ことができる。このように、DPIV、その細胞外ドメインなどを用いて、ペプ
チドライブラリ(ファージディスプレイライブラリを含む)をスクリーニングし
て、DPIVの細胞外部分のペプチド結合パートナーを同定および選択し得る。
このような選択された分子を次にスクリーニングアッセイで試験し得る。このス
クリーニングアッセイは、結合剤がDPIVの機能活性(例えば、DPIVの酵
素機能活性)を阻害する能力、または造血細胞の増殖および/または分化を刺激
する能力を測定する。
【0095】
DPIVに選択的に結合する上記の結合剤を、直接または(リンカーを介して
)間接的に培養容器または他の表面に、DPIV活性部位インヒビターのそのよ
うな表面への付着に関連してさきに記載したのと同じタイプの化学反応を用いて
、付着させる。
【0096】
(リンカーおよび標的部分P1の付着:)
リンカーを、第1および(必要に応じて)第2の標的部分P1および(必要に
応じて)P2に、これらの部分がその各々が標的とする結合パートナーと結合す
る能力に悪影響を与えないようなやり方で、共有結合させる。好ましくは、この
ようなリンカーはさらに、標的部分を培養容器、他の表面、および/またはさら
なる標的部分に付着させるための官能基を含む。好適なリンカーLは、1つの結
合部分と第2の結合部分または表面との間に位置した場合に、これらの部分の間
または部分と表面との間が最小で約20オングストロームとなるような長さを有
する。好ましくは、この距離は20から60オングストロームであり、より好ま
しくは30から50オングストロームである。例示のリンカーは、リンカー組成
、サイズ、およびリンカーを標的部分にカップリングさせる手順の説明を含めて
、以下に示される。一般に、このようなリンカーは市販されており(例えば、P
ierce Catalog and Handobook、Rockford
、Ill参照)、当業者に周知の従来のカップリング手順を用いて標的部分にカ
ップリングされる。
【0097】
一般に、リンカーLは少なくとも2つの反応性基を含む。ホモ二価架橋剤は2
つの同一の反応性基を含み得、そしてヘテロ二価架橋剤は2つの異なる反応性基
を含む。さらなる多価リンカーも利用可能であり、これは2つより多くの反応性
基を含み、これらは同じ(ホモ多価)か、または異なり(ヘテロ多価)得る。典
型的には、本発明のリンカーは、標的部分P1を、アミノまたはスルフヒドリル
基を介して、第2の標的部分または表面に共有結合させる。なぜなら、このよう
な官能基は、タンパク質、およびタンパク質の固定化のための支持体材料を形成
するために用いられるポリマー中に一般的に見いだされるからである。アミノ反
応性基はイミドエステルおよびN−ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エス
テルを包含する。スルフヒドリル反応性基は、マレイミド、アルキルおよびアリ
ールハロゲン化物、α−ハロアセチルおよびピリジルジスルフィドを包含する。
市販のヘテロ二価架橋剤の大部分は、アミン反応性官能基を含む。一端がアミン
反応性であり、他端がスルフヒドリル反応性である架橋剤が非常に一般的である
。他のリンカーが市販されており、これは標的部分P1を他の標的部分、表面、
またはさらなる標的部分に、アミノまたはスルフヒドリル基以外の反応性基を介
して(例えば、ヒドロキシル、カルボキシル、フェノール、または炭水化物基を
介して)共有結合させる。カルボジイミドも用いられ、カルボキシルを第一級ア
ミンまたはヒドラジドとカップリングさせて、アミドまたはヒドラゾン結合を形
成し得る。
【0098】
(標的部分P1の培養容器または他の表面への付着:)
タンパク質、ペプチドおよび他の分子を、本発明の方法に従って使用するため
に、固相マトリックス上に固定化し得る。このマトリックスは、アガロース、ビ
ーズ状ポリマー、ポリスチレンプレートまたはボール、多孔質ガラスまたはガラ
ススライド、およびニトロセルロースまたは他の膜材料であり得る。いくつかの
支持体はリガンドとの直接カップリングのために活性化され得る。他の支持体は
、架橋剤を用いてタンパク質または他のリガンドと連結し得る求核体または他の
官能基を有するように作製される。
【0099】
本発明のDPIVインヒビターの固体支持体への固定化は慣用的なカップリン
グ化学を用いて達成され得る。一般に、本発明の化合物は、化合物中にアクセス
可能な第1の官能基(例えば、アルコール基)を含め、そしてこの化合物を相補
的な第2の官能基(例えば、カルボキシル基)を含む固体支持体に、第1および
第2の官能基が互いに反応して共有結合(例えば、エステル結合)を形成させる
のに十分な条件および時間で接触させることによって、固定化される。「アクセ
ス可能」とは官能基についていう場合、官能基が反応性であり、かつ固体支持体
との反応を立体的に妨げられない形態であることを意味する。付着は、直接また
は間接(例えば、リンカーLを介して)であり得る。
【0100】
本発明の化合物の固体支持体への固定化のための官能基は、これらの化合物の
ペプチド結合部分またはリンカー部分に導入され得る。例えば、側鎖に官能基を
含むアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン残基)は合
成の間にペプチド結合部分に取り込まれ得、そしてその化合物とその標的タンパ
ク質との間の反応における固体支持体による望ましくない立体障害を回避するた
めに、標的タンパク質に結合する反応性基から十分に離れた位置に配置される。
あるいは、本発明の化合物は、リンカー分子中の官能基を介して固体支持体に固
定化され得る。従って、例えば、本発明のこの局面で用いられるリンカーは、第
1および第2のペプチド結合部分に結合するための第1および第2のリンカー反
応性基に加えて、固体支持体と結合するためのさらなる官能基を含み得る。この
タイプの例示的な多価(三価)リンカーを以下に図示する。このような多価リン
カーは市販されており、そして当業者により慣用的な実験のみを用いて容易に合
成され得る:
【0101】
【化10】

【0102】
副反応を防ぐために、リンカー分子をペプチド結合部分にカップリングするた
めに使用されるリンカーの反応性基は、リンカーを固体支持体にカップリングす
るために用いられる官能基とは異なることが好ましい。このような官能基はリン
カー分子に、これらの分子の合成の最中またはその後の任意の時点で導入され得
る。従って、一般に、当該分野で、リンカー分子を、例えばタンパク質またはペ
プチドを互いにカップリングさせるため、または支持体にカップリングさせるた
めに用いるために確立されたのと同じタイプの官能基、保護/脱保護反応および
試薬、ならびに反応条件を、本発明の化合物を固体支持体に固定化するために用
い得る。
【0103】
この詳細な説明の最後に、例えばPierce Catalog and H
andbook、Rockford、Illから抜き出した市販の架橋剤の代表
例を示した表を含める。この表はまた、そのリンカーがどのような基に対して反
応性であるかを示す(例えば、スルフヒドリル、カルボキシル)。
【0104】
(培養容器および表面:)
種々の培養容器を用い得る。市販のインキュベーション容器は、攪拌フラスコ
(Corning,Inc.Corning,NY)、攪拌タンク反応器(Ve
rax、Lebanon、NH)、エアリフト反応器、懸濁細胞反応器、細胞吸
着反応器および細胞エントラップメント反応器、ペトリ皿、マルチウェルプレー
ト、フラスコ、バッグおよび中空糸装置、細胞フォーム(Cytomatrix
)、マキシソルブ(maxisorb)プレート(NUNC)、および細胞培養
系(例えば、Aastrom細胞生産系、Palssonらに対して発行された
米国特許第5,635,386号、発明の名称「Methods for re
gulating the specific lineages of ce
lls produced in a human hematopoieti
c cell culture」、およびEmersonらに対して発行された
、米国特許第5,646,043号、発明の名称「Methods for t
he ex vivo replication of human stem
cells and/or expansion of human pro
genitor cells」もまた参照のこと)を含む。Aastrom培養
装置は、ヒト幹細胞をエクスビボで増殖させるためのインキュベーションチャン
バーであり、特定の培地交換培養系を用いる。この装置は、すべてのタイプの造
血細胞(例えば、幹細胞、前駆体細胞、ストローマ細胞を含むが、リンパ系細胞
を除く)の増殖に有用であると報告されている。一般に、上記の培養容器を用い
る細胞培養は、攪拌、混合またはビーズによる懸濁を含む種々の技術によって懸
濁状態に維持される。一般に、このような容器は以下の成分のうちの1つ以上か
ら形成される:ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、およびガ
ラス。第1の標的部分P1が容器表面に付着する実施態様については、従来の固
定化技術を利用して、この部分を表面に直接またはリンカーLを介して付着させ
る。
【0105】
上記の不溶性マトリックスは本発明の化合物の付着のための官能基をそれ自体
は有さないので、活性化として知られるプロセスで化学的に修飾されなければな
らない。例えば、ポリスチレンはフェニル残基のクロロメチル化(Pierce
Chemical Company Catalog and Handbo
ok; Combinatorial Peptide & Nonpepti
de Libraries.A Handbook VCH Weinheim
編、Giuntha Jung−1996−第16章および第17章)で活性化
されて、クロロメチルポリスチレンを生じ得る。次に、反応性塩化ベンジル官能
基を利用して、カルボキシレート、アミノ、ヒドロキシル、マレイミド、スルフ
ヒドリル、N−スクシンイミジル、および多くの他の官能基を導入し得る。官能
基の導入により、次に、本発明の化合物を直接またはリンカースペーサ単位を介
して共有結合させることができる化学反応を行うことが可能となる。連結反応は
、適合するマトリクス上の官能基、および本発明の化合物に結合している、ある
いは結合するリガンドまたはスペーサーリンカー基を必要とする。例えば、カル
ボキシレート基をマトリックス上に導入すると、遊離アミノ基の共有結合が可能
になる。カルボキシレート基を有するように誘導体化されたポリスチレンは、L
ys側鎖の遊離εアミノ基へのカップリングを介して、または遊離アミノ基を有
するスペーサーリンカーを介して、Lys−ボロProに直接共有結合し得る。
あるいは、アミノ基を有するように誘導体化されたポリスチレンは、例えば、L
ys−ボロProに、2つのカルボキシレート基(1つはLys−ボロProの
εアミノ基カップリングし、他方はアミノ誘導体化ポリスチレンのアミノ基にカ
ップリングする)を含むスペーサーリンカーを介してのカップリングを通じて付
着し得る。
【0106】
このようなカップリングを導く化学は周知であり、多くの出典に記載されてお
り、これにはPierce Chemicalのような企業のカタログが含まれ
る。Pierce Chemicalは活性化および未活性化のマトリックス、
およびリンカー−スペーサー分子の両方を販売する。他の供給者にはとりわけS
igma、Novabiochemが含まれる。リガンドの付着方法を上でポリ
スチレンに関して記載したが、上で列挙した他のマトリックスに特有の方法も、
利用可能であり、周知であり、そして上記のような出典およびImmobili
zed Affinity Ligand Techniques.Shan
S.Wongによる『All the’recipes’for succes
sful affinity matrix preparation』:Ch
emistry of Protein Conjugation and C
ross−linking、に記載されている。
【0107】
マトリックスは、ビーズを含むいくつかの形態で入手可能であり、そして磁気
ビーズは特にマトリックスに付着したリガンドを容易に除去することができる。
【0108】
アビジン−ビオチン化学は同じ最終結果、すなわち本発明の化合物の不溶性マ
トリックスへの付着を達成する別の方法を提供する。ビオチンは例えばLys−
ボロProのεアミノ基に容易に付着し得、そして得られる結合体は高い親和性
でアビジンまたはストレプトアビジンに接着する。様々な種類のアビジンおよび
ストレプトアビジンの不溶化誘導体が市販されている(Avidin−Biot
in Chemistry:A Handbook−Pierce技術アシスタ
ントエキスパートにより開発)。
【0109】
あるいは、標的部分P1は、標的部分が直接または間接的に付着する表面を有
する特定の形態(例えば、粒子または膜)に付着し得る。そのような粒子を形成
するために用いられ得る例示の材料は、ニトロセルロース、アガロース、セファ
ロース、およびリガンドが慣用的に付着して、例えばアフィニティークロマトグ
ラフィー材料を形成する他のタイプの支持体材料を含む。好適な実施態様では、
粒子は磁気粒子、例えば、米国特許第4,554,088号(Whitehea
dらに対して発行)、発明の名称「Magnetic particles f
or use in separations」;同第5,382,468号(
Changnonらに対して発行)、発明の名称「Biodegradable
magnetic microclusters and methods
for making them」;同第4,454,234号(Czerli
nkskiらに対して発行)、発明の名称「Coated magnetiza
ble microparticles,reversible suspen
sion thereof,and processes related t
hereto」;同第4,795,698号(Owenらに対して発行)、発明
の名称「Magnetic polymer particles」;および同
第4,582,622号(Ikedaらに対して発行)、発明の名称「Magn
etic particulate for immobilization
of biological protein and process of
producing the same」に記載されるような磁気粒子である

【0110】
本発明のさらに他の局面では、上記の方法を実施するための装置が提供される
。この装置は、容器;およびその中に入れられた、あるいはそれに付着したDP
IVのインヒビターを含む。好ましくは、容器は滅菌容器である。DPIVイン
ヒビターは上記のように可溶性または不溶性形態であり得る。従って、例えば、
DPIVインヒビターは容器中に乾燥状態(例えば、凍結乾燥)で容器の表面に
未結合または付着して存在し得るか、そしてエンドユーザーに滅菌形態で販売さ
れて、エンドユーザーによる(例えば、インヒビターを容器に入れる場合の)汚
染の可能性を最小化し、そしてさらにインヒビターの活性の損失の可能性を最小
化する(例えば、インヒビターを乾燥状態で提供することによる。これは貯蔵時
に活性が損失しにくい)。あるいは、DPIVインヒビターを、粒子、例えば磁
気粒子に付着させ得、次にこの粒子を乾燥状態で別々の容器に入れて販売し得る
か、あるいは細胞培養の容器に入れて提供し得る。
【0111】
本発明のさらに他の局面によれば、造血細胞のインビトロでの増殖および/ま
たは分化を刺激するためのキットが提供される。このキットは、上記の装置を、
その装置を用いて造血細胞の増殖および/または分化をインビトロで刺激するた
めの指示と共に含む。必要に応じて、このキットはさらに、造血細胞を培養する
ために、適切な追加の増殖栄養素を含む。このような栄養素は液体または乾燥形
態で装置の容器中に提供されるか、あるいは別の容器に提供され、その内容物は
細胞の培養時に装置の容器に添加され得る。
【0112】
本発明のさらに他の局面によれば、インビトロで造血細胞を刺激する方法およ
び抗原特異的T細胞を増殖させる方法が提供される。刺激および増殖工程は、同
時または逐次的に行われ得る。この方法の3つの実施態様を以下記載して、この
方法を例示する。一般に、これらの実施態様はインビトロで刺激される造血細胞
の選択において互いに異なる。各実施態様において、培養工程は添加されるサイ
トカインまたはストローマ細胞の存在または非存在下で行われ得る。各実施態様
で用いられる好適なヘテロ結合体は、腫瘍特異的抗原または病原特異的抗原を含
む。
【0113】
抗原特異的T細胞を得るための方法の第1の実施態様は、培養中の骨髄細胞を
刺激することを含む。培養物中の骨髄細胞は細胞の混合物を含み得る。しかし好
ましくは、培養物中の骨髄細胞は単離されたCD34+細胞または単離された幹
細胞である。この実施態様によれば、この方法は:(1)骨髄細胞を十分な量の
DPIVインヒビター(例えば、DPIVモノマーおよび/またはホモ結合体)
の存在下で培養して、培養物中の初期T系統細胞の数を増加させる工程;および
(2)初期T系統細胞を十分な量の、抗原性ペプチド(例えば、腫瘍または病原
特異的抗原)に付着したDPIVインヒビターを含むヘテロ結合体と共に培養し
て、培養物中の抗原特異的T細胞の数を増加させる工程を含む。工程(2)は特
異的抗原の存在または非存在下で行われ得る。工程(1)および(2)は同時ま
たは逐次的に行われ得る。一般に、抗原特異的T細胞の数を骨髄細胞の対照培養
と比較する。この対照培養は工程(1)および(2)に記載のように処理される
が、ただしこの対照培養はヘテロ結合体と接触させない。各工程で、細胞は、D
PIVインヒビターまたはヘテロ結合体の存在下で、各々、対照培養物中に存在
するそのような細胞の数に比較して、初期T系統細胞の数が増大し、そして抗原
特異的T細胞の数が増加するのに十分な時間、培養される。
【0114】
第2の実施態様は、培養物中の臍帯血細胞の刺激に関する。この実施態様は:
(1)臍帯血細胞を十分な量のDPIVインヒビター(例えば、DPIVモノマ
ーおよび/またはホモ結合体)の存在下で培養して、培養物中の初期T系統細胞
の数を増加させる工程;および(2)初期T系統細胞を、抗原性ペプチド(例え
ば、腫瘍または病原特異的抗原)に付着したDPIVインヒビターを含むヘテロ
結合体と共に培養して、培養物中に存在する抗原特異的T細胞の数を増加させる
工程を含む。工程(2)は特異的抗原の存在または非存在下で行われ得る。工程
(1)および(2)は同時または逐次的に行われ得る。一般に、抗原特異的T細
胞の数を臍帯血細胞の対照培養と比較する。この対照培養は工程(1)および(
2)に記載のように処理されるが、ただし対照培養はヘテロ結合体と接触させな
い。各工程で、細胞は、DPIVインヒビターまたはヘテロ結合体の存在下で、
各々、対照培養中に存在するそのような細胞の数に比較して、初期T系統細胞の
数が増大し、そして抗原特異的T細胞の数が増加するのに十分な時間、培養され
る。
【0115】
第3の実施態様は、培養物中の末梢血幹細胞の刺激に関する。この実施態様は
:(1)末梢血幹細胞を十分な量のDPIVインヒビター(例えば、DPIVモ
ノマーおよび/またはホモ結合体)の存在下で培養して、培養物中のT細胞の数
を増加させる工程;および(2)T細胞を十分な量の、抗原性ペプチド(例えば
、腫瘍または病原特異的抗原)に付着したDPIVインヒビターを含むヘテロ結
合体と共に培養して、培養物中の抗原特異的T細胞の数を増加させる工程を含む
。工程(2)は特異的抗原の存在または非存在下で行われ得る。工程(1)およ
び(2)は同時または逐次的に行われ得る。一般に、抗原特異的T細胞の数を、
末梢血幹細胞の対照培養と比較する。この対照培養は工程(1)および(2)に
記載のように処理されるが、ただし対照培養はヘテロ結合体と接触させない。各
工程で、細胞は、DPIVインヒビターまたはヘテロ結合体の存在下で、各々、
対照培養中に存在するそのような細胞の数に比較して、T細胞の数が増大し、そ
して抗原特異的T細胞の数が増加するのに十分な時間、培養される。あるいは、
末梢血はT細胞を含むことが知られているので、培養中の抗原特異的T細胞の数
を、刺激工程(1)なしで増加させることが可能である。すなわち、抗原特異的
T細胞の数を増加させる方法は、末梢血細胞を、十分な量の、抗原性ペプチド(
例えば、腫瘍または病原特異的抗原)に付着したDPIVインヒビターを含むヘ
テロ結合体と共に培養して、培養物中の抗原特異的T細胞の数を増加させる工程
を含む。この工程は特異的抗原の存在または非存在下で行われ得る。
【実施例】
【0116】
(実施例)
いくつかの代表的なDPIVインヒビターを接触させる例示の手順を以下に示
す。
【0117】
(実験プロトコル)
1.骨髄または臍帯血をヘパリン処理された(グリーントップ)チューブ中に得
る。使用時まで48時間以内、室温で貯蔵できる。
2.骨髄/血液を1:1で、4℃で貯蔵していたリン酸緩衝化生理食塩水、pH
7.4(PBS)と混合する。
3.血液−PBS混合物を、4℃で貯蔵していた2倍の容量のHistopaq
ue(Sigma)の上に注意深く重層する。
4.37℃で400g×20分、遠心分離する。
5.界面の細胞を注意深く採取して、冷PBS中で2回洗浄する。
6.生存細胞をトリパンブルーを用いてカウントする。
7.細胞を1mlの培養物として、プラスチック培養チューブ(あるいは96ウ
ェルまたは24ウェルのマイクロタイタープレート)中で、カナマイシン(5μ
g/ml)、所望の濃度のXaa−ボロProまたは他の本発明の化合物を含み
、かつ増殖因子の供給源としての巨細胞腫瘍馴化培地(GCT−CM、Orig
en)を含むか、または含まないCellGro Iscove改変Dulbe
cco’s培地(Meditech)中、104細胞/mlでセットアップする
。本発明のXaa−ボロProまたは他の化合物は、培地中に希釈され、そして
細胞が培養チューブ中に存在する後にのみ、培養物に添加されるべきである。
8.細胞を37℃で、5%CO2を含む加湿空気インキュベーター中で培養する

9.所望の時間に、細胞のアリコートを取り出し、カウントする。
10.カウントは顕微鏡下で(直接)、あるいはMTTアッセイ(比色アッセイ
)を用いて行われ得る。
【0118】
このプロトコルを用いた実験の結果を添付の図面に示し、そして図面の簡単な
説明に記載する。
【0119】
本出願で同定したすべての特許、公開特許公報、および他の文献は、その全体
が本明細書中に参考として援用される。
【0120】
当業者は、慣用的な実験を越えずに、本明細書に記載された本発明の特定の実
施態様の多くの等価物を認識し、あるいは確認し得る。このような等価物は以下
の請求の範囲に包含されることが意図される。
【0121】
以下に、表、そして次に、請求の範囲、配列表、および要約を提示する。
【0122】
【表3】







【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】新鮮に単離された骨髄細胞を単離し、そしてウェルあたり10,000個の細胞を、CellGroイスコブ(Iscove)ダルベッコ改変培地(IMDM)中、そして指示された濃度のPro−boroProの存在下または非存在下(コントロール)で、96マイクロタイタープレートにおいて4日間インキュベートした。このインキュベーション期間の終わりに、細胞を顕微鏡の下で計数した。Pro−boroProの非存在下の培養物は、4日間の終わりで10,000個の細胞を含んだ。Pro−boroProを含む培養物は、10−6Mで53,000個の細胞、10−8Mで38,000個の細胞、および10−10Mで42,000個の細胞を有した。増殖因子混合物(GF)を含む培養物は、82,000個の細胞を含んだ。増殖因子を、OPITEN(登録商標)巨細胞腫瘍馴化培地(IGEN)中で供給した。
【図2A】臍帯血細胞を、Val−boroProを指示された濃度の刺激物として使用した以外は、本質的に図1の説明文に記載されたものと同じ条件下でインキュベートした。4日間のインキュベーション後:バルク臍帯血;総細胞数。コントロール培養:0.2×10個細胞;増殖因子5×10個細胞;Val−boroPro:3×10個(10−6M);3×10個(10−8M);4×10個(10−10M)。
【図2B】臍帯血細胞を、Val−boroProを指示された濃度の刺激物として使用した以外は、本質的に図1の説明文に記載されたものと同じ条件下でインキュベートした。4日間のインキュベーション後:CD34+単離細胞:CD34+細胞を、陽性選択のためにCD34mAb結合ビーズを用いて単離した。細胞調製物は、CD34+細胞を98%含んだ。4日間のインキュベーションの後、コントロールにおける0.6×10個細胞および増殖因子とのインキュベーションにおける4×10個細胞と比較して、10−10MのVal−boroProを含む培養物は8.5×10個の細胞を含んだ。
【図2C】臍帯血細胞を、Val−boroProを指示された濃度の刺激物として使用した以外は、本質的に図1の説明文に記載されたものと同じ条件下でインキュベートした。4日間のインキュベーション後:4日間の培養後に残存するCD34+細胞のパーセント:Val−boroProとインキュベーションした培養物は、4日間の培養後に、CD34+細胞の10〜15%を含んだ。増殖因子とインキュベートした培養物は、CD34+細胞の4%しか残存しなかった(パネルb)。これは、Val−boroProが、CD34+細胞から成熟末梢血細胞への分化に対する効果に加えて、CD34+細胞に対して増殖刺激効果を有することを示した。これは、培養におけるCD34+細胞の%が、Val−boroProおよび増殖因子の存在下でのこれらのCD34+細胞の培養により、Val−boroPro単独で見られる割合から変えられないが、この組み合せ培養における総細胞数が、Val−boroPro単独とのインキュベーションにおける8.5×10個細胞と比較して、55×10個細胞に増えた(パネルa)という観察により支持される。
【図3】Lys−boroProの二量体化(ホモ結合体)は、Lys−boroProの単量体形態の効果と比較した場合に、骨髄細胞増殖刺激を劇的に増大する。培養を、Lys−boroProおよびホモ結合体を使用した以外は、図1の説明文に記載したように設定し、そして4日間インキュベートした。
【図4A】骨髄細胞を、Val−boroProおよびホモ結合体を4日培養において使用した以外は、図1に記載のようにインキュベートした:Val−boroProは、増殖因子混合物(GF)と同様の骨髄細胞増大を与えたが、一方、二量体は、その効果の2倍以上であった。
【図4B】骨髄細胞を、Val−boroProおよびホモ結合体を4日間の培養において使用した以外は、図1に記載のようにインキュベートした。 (パネルa):コントロール培養物の細胞増殖刺激の増大と比較して、Val−boroProとインキュベートした単離CD34+細胞(98%純度)は、増殖因子を用いた18倍の増大と比べて、20倍の細胞増殖刺激の増大までにとどまった。ホモ結合体は、10−6Mの濃度で125倍、および10−6Mで96倍、増殖活性を増大した。 (パネルb):4日間のインキュベーション期間後培養物中に残存するCD34+細胞のパーセント;コントロール63%;GF5%;Val−boroPro43%;ホモ二量体10%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血細胞をインビトロで刺激するための方法であって、該方法は、以下の工程:
該造血細胞を、外因性サイトカインおよび外因性ストローマ細胞の非存在下で、かつ該造血細胞を刺激するのに十分な量のIV型ジペプチジルペプチダーゼ(DPIV)インヒビターの存在下で、培養する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記造血細胞が、造血幹細胞、初期前駆細胞または造血前駆細胞である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記造血細胞が、臍帯血細胞または骨髄細胞である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記DPIVインヒビターが、Lys−boroPro単量体、Pro−boroPro単量体、Val−boroPro単量体、またはLys−boroPro結合体である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記DPIVインヒビターが、DPIVの固定化インヒビターである、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、ここで、前記DPIVの固定化インヒビターが、組織培養容器である固定化構造に接着されたインヒビターである、方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法であって、ここで、前記DPIVの固定化インヒビターが、粒子である固定化構造に接着されたインヒビターを含む、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記刺激された造血細胞を、それらを必要とする被験体に投与して、そして、回収する工程を包含する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、ここで、前記刺激された造血細胞が、前記被験体に対して自己由来である、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、ここで、前記被験体が、化学療法または放射線療法を経験しており、かつ、前記造血細胞が、化学療法または放射線療法の前に該被験体から回収され、かつ、前記刺激された造血細胞が、化学療法または放射線療法の前に投与される、方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate


【公開番号】特開2006−81554(P2006−81554A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329518(P2005−329518)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【分割の表示】特願2000−513935(P2000−513935)の分割
【原出願日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【出願人】(500132786)ポイント セラピューティクス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】