インピーダンス測定値の分析
被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用する方法であって、被験者は被験者の少なくとも1つの脚体節における体液レベルが第1の時刻と第2の時刻との間で変化するように配置され、方法は、処理システムにおいて、被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求めること、被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求めること、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、体液レベルの変化を示す指標を求めることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用される方法および装置に関し、特に、被験者の体液レベルの経時的変化を示す指標を求める方法および装置に関し、指標は静脈不全の評価に使用される。
【背景技術】
【0002】
本明細書においては先行出版物(もしくは先行出版物から得られる情報)または公知の事項に言及するが、こうした言及は、先行出版物(もしくは先行出版物から得られる情報)または公知の事項が本明細書に関係する分野における共通の一般知識の一部を構成するとの認識もしくは容認、またはいずれかの形態の示唆であると解釈されるものではなく、また解釈されるべきでもない。
【0003】
静脈不全は、静脈が血液を心臓に十分に戻すことができないことを特徴とする疾患である。通常、被験者が立位にあるとき、被験者の下肢静脈内の血液は、下肢静脈の筋肉圧迫などのメカニズムの組合せにより、また静脈内の一方向弁の作用により重力に逆らって心臓に向かって押し戻される。しかしながら、静脈の内圧亢進、深部静脈血栓症(DVT)、静脈炎などが生じ、下肢内に血液の滞留を招く場合がある。
【0004】
慢性静脈疾患(CVD)は、罹患率が一般に3〜7%であり、経済的損失は年間10億米ドルに及ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0111652号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0177062号明細書
【特許文献3】国際公開第00/79255号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nicolaides AN(2000)「Investigation of Chronic Venous Insufficiency:A Consensus Statement」Circulation 102:126−163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
静脈不全の典型的な検出方法は、下肢または足首の腫れ、ふくらはぎの締め付け感、下肢の疲労感、歩行時の痛みなどの身体症状がないかを診察することである。静脈不全は、静脈瘤に関連している場合もある。
【0008】
静脈不全を評価する他の方法として、足の甲の血管に針を挿入することによって実施される歩行静脈圧の測定が挙げられる。これは血行動態調査の優れた標準と見なされているが侵襲的であり、したがって、代替的な非侵襲的方法を見つけることが望ましい。このような方法として、エアプレチスモグラフィ(APG)およびストレイン・ゲージ・プレチスモグラフィ(SPG)の2つがある。
【0009】
SPGは、たとえば、非特許文献1に記載されているように、脚容量の変化率を読み取るために較正された、シラスティックバンドに入れた水銀ストレインゲージを腓筋の周りに巻きつける。このような測定は、典型的に、静脈の再充満時間および駆出量を算定できるように運動療法中に実施される。APGは、空気袋を使用し膝から足首までの下肢に巻く。空気袋を既知の圧力まで膨張させ、一連の姿勢の変化における空気袋の圧力変化に基づいて腓筋の体積変化が求められる。
【0010】
しかしながら、これらの方法は精度に欠けており、有効な測定値を得るためには広範な較正および訓練を必要とする可能性がある。
リンパ浮腫は、リンパ輸送能力の低下、および/または正常なリンパ管負荷の存在下での組織たんぱく質分解能力の低下に起因する組織内の過剰なたんぱく質および浮腫を特徴とする疾患である。後天性リンパ浮腫、すなわち二次性リンパ浮腫は、リンパ管の損傷または閉塞によって生じる。最も一般的な誘発事象は、外科手術および/または放射線治療である。しかしながら、リンパ浮腫の発症は、予測不可能であり、その原因から数日以内に発現することもあれば、その原因から何年も経って発現することもある。
【0011】
液量などの被験者に関する生物学的パラメータを求める従来の1つの方法は、生体電気インピーダンスの使用を伴う。これは、皮膚表面に装着した一連の電極を用いて被験者の身体の電気インピーダンスを測定するものである。心周期または浮腫に関連する液量の変化などのパラメータを求めるために、体表面における電気インピーダンスの変化が使用される。
【0012】
特許文献1には、人間の四肢における血流およびリンパ流を改善する方法が記載されている。この方法の一部として、四肢内の各部の血流を算定するためにインピーダンス測定が採用されている。
【0013】
特許文献2には、身体または体節の電気インピーダンスに基づいて、導電性体液の量、組成、および移動を測定するシステムが記載されている。これは、主として、血行動態パラメータを求めるための電気機械的カルジオグラフィ(ELMEC)またはインピーダンスカルジオグラフィ(IKG)測定に使用される。
【0014】
特許文献3には、単一の低周波交流において同一の被験者の2つの異なる解剖学的領域の生体電気インピーダンスを測定することによる浮腫の検出方法が記載されている。正規母集団から得られたデータとの比較によって組織浮腫の存在の兆候を得るために2つの測定値が分析される。
【0015】
同時係属中のPCT/AU09/000163号明細書には、インピーダンス測定値の分析に使用される方法および装置、特に、インピーダンス測定値を用いて細胞外液レベルを示す指標、静脈不全、リンパ浮腫および/または浮腫を識別するのに有効である指標を求める方法および装置が記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の広範な形態では、本発明は、被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析で使用する方法を提供するものであって、被験者は被験者の少なくとも1つの脚体節における体液レベルが第1の時刻と第2の時刻との間で変化するように配置され、方法は、処理システムにおいて、
a)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求めること、
b)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求めること、
c)少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、体液レベルの変化を示す指標を求めること、
を含む。
【0017】
典型的に、指標は、少なくとも1つの脚体節における細胞内液レベルを少なくとも部分的に示す。
典型的に、指標は、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値との間の変化を示す。
【0018】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)指標を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように比較の結果の表示を提供すること、
を含む。
【0019】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)第2の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む。
【0020】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)被験者を所定期間第2の姿勢に置いた後、第1の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む。
【0021】
典型的に、方法は、
a)被験者を所定期間第1の姿勢に置くこと、
b)被験者を第2の姿勢に置くこと、
を含み、方法はさらに、処理システムにおいて、
c)第2の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とを求めること、
を含む。
【0022】
典型的に、被験者の胴は一定の姿勢を保っており、被験者が第1の姿勢にあるとき被験者の第1の下肢は第1の位置に置かれ、被験者が第2の姿勢にあるとき被験者の第1の下肢は第2の位置に置かれる。
【0023】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)単一の姿勢にある被験者に関して複数のインピーダンス値を求めること、
b)複数のインピーダンス値に基づいて指標を求めること、
を含む。
【0024】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、インピーダンス値の少なくとも1つの経時的な変化を調査することを含み、インピーダンス値の少なくとも1つの変化は静脈不全の評価に使用される。
【0025】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、インピーダンス値の経時的な変化率を調査することを含み、変化率は静脈不全の評価に使用される。
典型的に、方法は、処理システムにおいて、変化率が
a)一定である、
b)一定でない、
c)対数である、
のうちの少なくとも1つであるかどうかを判断することによって変化率を静脈不全の評価に用いることを含む。
【0026】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)変化率を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように比較の結果の表示を提供すること、
を含む。
【0027】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む。
【0028】
典型的に、少なくとも1つのインピーダンス測定値は、
a)100kHz未満、
b)50kHz未満、
c)10kHz未満、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される。
【0029】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、ゼロ測定周波数における被験者の抵抗の推定値として少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む。
典型的に、少なくとも1つのインピーダンス測定値は、
a)200kHz超、
b)500kHz超、
c)1000kHz超、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される。
【0030】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、無限大測定周波数における被験者の抵抗の推定値として少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む。
典型的に、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値はインピーダンスパラメータ値に基づいている。
【0031】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)複数のインピーダンス測定値を求めること、
b)複数のインピーダンス測定値から少なくとも1つのインピーダンスパラメータ値を求めること、
を含む。
【0032】
典型的に、インピーダンスパラメータ値は、
ゼロ周波数における抵抗であるR0、
無限大周波数における抵抗であるR∞、
特性周波数における抵抗であるZc、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0033】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、次式を用いてパラメータ値を求めることを含み、
【0034】
【数1】
ここで、
Zは角周波数ωにおける測定インピーダンスであり、
τは時定数であり、
αは0〜1の値を有する。
【0035】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)複数のインピーダンス測定値からインピーダンスパラメータR0の値とインピーダンスパラメータR∞の値を求めること、
b)次式を用いて細胞内液の抵抗であるインピーダンスパラメータRiの値を計算すること、
【0036】
【数2】
を含む。
【0037】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、次式のうち少なくとも1つを用いて指標を求めることを含み、
【0038】
【数3】
ここで、
Iは指標であり、
ΔRiは細胞内液の抵抗の変化であり、
ΔReは細胞外液の抵抗の変化であり、
Re=R0である。
【0039】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、インピーダンス測定を実施させることを含む。
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を被験者に印加させること、
b)印加された1つまたは複数の電気信号に応じて被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定すること、
c)印加された電気信号および測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求めること、
を含む。
【0040】
典型的に、指標は静脈不全の評価に使用される。
第2の広範な形態では、本発明は、被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用される装置を提供する。装置は処理システムを含み、処理システムは、
a)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求め、
b)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求め、
c)少なくとも1つの第1の第2のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、体液レベルの変化を示す指標を求める。
【0041】
典型的に、装置は処理システムを含み、処理システムは、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を被験者に印加させ、
b)印加された1つまたは複数の電気信号に応じて被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定し、
c)印加された電気信号および測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求める。
【0042】
典型的に、装置は、
a)電気信号を発生する信号発生器と、
b)電気信号を検知するセンサと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】インピーダンス測定装置の第1の例の概略図である。
【図2】インピーダンス測定値の分析に使用されるプロセスの例のフローチャートである。
【図3】インピーダンス測定装置の第2の例の概略図である。
【図4】コンピュータシステムの例の概略図である。
【図5】インピーダンス測定を実施するプロセスの例のフローチャートである。
【図6A】生体組織の理論的等価回路の例の概略図である。
【図6B】ベッセルプロットとして知られるインピーダンスの軌跡の例である。
【図7】静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第1の具体例のフローチャートである。
【図8】静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第2の具体例のフローチャートである。
【図9】静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第3の具体例のフローチャートである。
【図10A】健常被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞内抵抗の変化のプロット例である。
【図10B】静脈不全の被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞内抵抗の変化のプロット例である。
【図10C】健常被験者とリンパ浮腫の被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞外抵抗の変化のプロット例である。
【図10D】静脈不全の被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞外抵抗の変化のプロット例である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、被験者の生体電気インピーダンスの分析の実施に適した装置の例を、図1を参照して説明する。
図1に示すように、装置は測定デバイス100を含む。測定デバイス100は処理システム102を含み、処理システム102は、それぞれ第1のリード線123A、123Bを介して1つまたは複数の信号発生器117A、117Bに接続されるとともに、それぞれ第2のリード線125A、125Bを介して1つまたは複数のセンサ118A、118Bに接続されている。接続はマルチプレクサなどのスイッチングデバイスを介してもよいが、これは必須ではない。
【0045】
使用時、信号発生器117A、117Bは2つの第1の電極113A、113Bに結合され、これらの電極113A、113Bは信号を被験者Sに印加し得る駆動電極としての機能を果たす。一方、1つまたは複数のセンサ118A、118Bは第2の電極115A、115Bに結合され、これらの電極115A、115Bは被験者Sに誘起される信号を検知し得る検知電極としての機能を果たす。
【0046】
信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bは、処理システム102と電極113A、113B、115A、115Bとの間の任意の位置に備えられてもよく、したがって、測定デバイス100の中に組み込まれてもよい。
【0047】
しかしながら、一例では、信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bは、電極システムまたは被験者Sの近くに備えられた別のユニットに組み込まれ、リード線123A、123B、125A、125Bは信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bを処理システム102に接続する。この実施によって、信号発生器117A、117Bおよびセンサ118A、118Bと、対応する電極113A、113B、115A、115Bとの間の接続部の長さを短縮することができる。このため、接続部間同士、接続部と被験者との間、接続部と被験者が載せられるベッドなどの周囲の物品との間の寄生容量が最小化され、これによって測定誤差が低減される。
【0048】
前述のシステムは、それぞれ添え字A、Bで指定される2つのチャネルデバイスとして記述することができる。2チャネルデバイスの採用は単なる例のためにすぎず、必要に応じて任意の数のチャネルが提供されてよい。
【0049】
オプションの外部インターフェース103は、測定デバイス100を、有線、無線、またはネットワーク接続部を介して、外部データベースまたはコンピュータシステム、バーコードスキャナなどの1つまたは複数の周辺デバイス104に結合するために使用することができる。また、処理システム102は、典型的に、I/Oデバイス105を含み、これはタッチスクリーン、キーパッド、およびディスプレイなど任意の適切な形態のものであってよい。
【0050】
使用時、処理システム102は制御信号を発生するように適合され、これによって信号発生器117A、117Bに適切な波形の電圧信号または電流信号など1つまたは複数の交流信号を発生させて、第1の電極113A、113Bを介して被験者Sに印加することができる。この後、センサ118A、118Bは、第2の電極115A、115Bを用いて被験者Sに発生する電圧または被験者Sに流れる電流を測定し、適切な信号を処理システム102に転送する。
【0051】
処理システム102は、適切な制御信号を発生し、測定信号を少なくとも部分的に解読して被験者の生体電気インピーダンスを求め、静脈不全、その他の疾患の有無または程度の指標などの他の情報を適宜求めるのに適切であれば、どんな形態の処理システムであってもよい。
【0052】
したがって、処理システム102は、ラップトップ、デスクトップ、PDA、スマートフォンなど、適切にプログラムされたコンピュータシステムであってよい。あるいは、処理システム102は、以下でさらに詳しく説明するように、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)またはプログラム化したコンピュータシステムと専用ハードウェアの組合せなど、専用ハードウェアから形成されてもよい。
【0053】
使用時、第1の電極113A、113Bは、1つまたは複数の信号を被験者Sに注入し得るように被験者に装着される。第1の電極の位置は、検査対象の被験者Sの体節によって異なる。それゆえ、たとえば、第1の電極113A、113Bは、心機能の分析に使用する胸腔のインピーダンスを決定し得るように被験者Sの胸部および頸部に装着することができる。あるいは、被験者の手首または足首に電極を装着すると、浮腫分析、静脈不全の評価などに使用される四肢および/または全身のインピーダンスを求めることができる。
【0054】
電極が装着された時点で、1つまたは複数の交流信号が第1の電極113A、113Bを介して被験者に印加される。交流信号の性質は、測定デバイスの性質と実施される後続の分析に応じて異なる。
【0055】
たとえば、システムは、単一の低周波信号が被験者Sに注入される生体インピーダンス分析(BIA)を採用することができ、測定インピーダンスは、浮腫、したがって静脈不全を示す可能性のある細胞外液レベルなど、生物学的パラメータの決定に直接使用される。
【0056】
一例では、印加信号は100kHz未満、さらに典型的には50kHz未満、さらに好ましくは10kHz未満など、比較的低い周波数を有する。この場合、このような低周波信号は、インピーダンスパラメータ値R0と一般に称され、さらには細胞外液レベルを示す、ゼロ印加周波数におけるインピーダンスの推定値として使用され得る。
【0057】
あるいは、印加信号は、200kHz超、さらに典型的には500kHzまたは1000kHz超など、比較的高い周波数を有し得る。この場合、このような高周波信号は、インピーダンスパラメータ値R∞と一般に称され、以下でさらに詳しく説明するように、さらに細胞外および細胞内液レベルの組合せを示す、無限大印加周波数におけるインピーダンスの推定値として使用され得る。
【0058】
また、細胞内液レベルのみを示すパラメータは、以下で説明するように、インピーダンスパラメータ値R0およびR∞の値が得られる場合に求めることができる。
対照的に、生体インピーダンス分光法(BIS)デバイスは、選択された周波数範囲にわたる複数の周波数でインピーダンス測定を実施する。いかなる範囲の周波数を採用してもよいが、典型的に周波数範囲は超低周波(4kHz)から比較的高い周波数(15000kHz)に及んでいる。同様に、いかなる数の測定を行なってもよいが、一例では、この範囲内で複数のインピーダンス測定を行なえるように、システムはこの範囲内で256またはそれよりも多くの異なる周波数を採用することができる。
【0059】
インピーダンス測定を複数の周波数で行うとき、これらは、それぞれインピーダンス測定値の分散幅、ゼロにおけるインピーダンス、特性周波数、無限大周波数に対応するα、R0、Zc、R∞の値など、1つまたは複数のインピーダンスパラメータ値を導くために使用され得る。これらは、さらに、以下でさらに詳しく説明するように、細胞内および/または細胞外液レベルに関する情報を求めるために使用され得る。
【0060】
さらに別の方法は、各々がそれぞれの周波数を有する複数の信号が被験者Sに注入されて、測定インピーダンスが液レベルの評価に使用される多周波数生体インピーダンス分析(MFBIA)をシステムに採用するものである。一例では、4つの周波数を採用することができ、各周波数で得られるインピーダンス測定値は、以下でさらに詳しく説明するように、たとえば、測定インピーダンス値をColeモデルに適合させることによって、インピーダンスパラメータ値を導くために使用される。あるいは、各周波数におけるインピーダンス測定値は、個々に使用されても組み合わせて使用されてもよい。
【0061】
それゆえ、測定デバイス100は、好ましい実施態様に応じて、交流信号を、単一周波数で、複数周波数で同時に、または多数の交流信号を異なる周波数で順番に印加してよい。また、印加信号の周波数または周波数範囲は、実施されている分析に依存してもよい。
【0062】
一例では、印加信号は交流電圧を被験者Sに印加する電圧発生器によって発生されるが、交流電流信号が印加されてもよい。
一例では、電圧源は典型的に対称的および/または差動的に配置され、信号発生器117A、117Bの各々は被験者に生じる電位が変えられるように独立に制御可能である。これは、電極で検知される電圧が非対象(「不均衡」と称される状況)であるときに発生する不均衡の影響を軽減するために実施され得る。この場合、リード線内の信号の大きさに差があると、ノイズおよび干渉に起因する様々な影響が生じるおそれがある。
【0063】
電圧を対称に印加すると影響を軽減することができるが、2つの駆動電極113A、113Bの電極インピーダンスが一致しない場合これは必ずしも有効ではなく、これは実環境ではよくあることである。しかしながら、駆動電極113A、113Bの各々に印加される差動駆動電圧を調整することによって、異なる電極インピーダンスが補償され、検知電極115A、115Bにおける電圧の所望の対称性が回復する。これは、検知電極における電圧を測定した後、印加信号の振幅および/または位相を調整して検知電圧の振幅のバランスを取ることによって実現され得る。このプロセスは本明細書ではバランス調整と称され、一例では、コモンモード信号の振幅を最小にすることによって実施される。
【0064】
電位差および/または電流は、第2の電極115A、115Bの間で測定される。一例では、電圧は差動で測定され、つまり、各センサ118A、118Bは各第2の電極115A、115Bの電位を測定するために使用され、したがって、シングル・エンド・システムに比べて電位の半分を測定するだけで済む。
【0065】
獲得信号および測定信号は、ECG(心電図)、印加信号によって発生された電位、および環境電磁妨害に起因するその他の信号など、人体によって発生された電位の重畳となる。したがって、不要な成分を除去するためにフィルタリングなどの適切な分析を採用してもよい。
【0066】
獲得信号は、典型的に、印加周波数においてシステムのインピーダンスを得るために復調される。重畳周波数を復調する1つの適切な方法は、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて時間領域データを周波数領域に変換するというものである。これは、典型的に、印加電流信号が印加周波数を重畳したものであるときに採用される。測定信号のウィンドウ生成を必要としない別の技法として、スライディングウィンドウFFTがある。
【0067】
印加電流信号が種々の周波数の掃引から生成される場合、信号の相関化などの信号処理技術を使用することがより典型的である。これは、測定信号に信号発生器から得られる基準正弦波および余弦波、すなわち測定正弦波および余弦波を掛けて、全サイクル数にわたって積分することによって実現され得る。直交復調または同期検波などとして多岐にわたって知られるこのプロセスは、すべての無相関信号または非同期信号をすべて拒絶してランダムノイズを著しく減少させる。
【0068】
他の適切なディジタルおよびアナログ復調技術は当業者には既知であろう。
BISの場合、インピーダンスまたはアドミッタンス測定値が被験者に発生する記録電圧および被験者に流れる電流を用いて各周波数における信号から求められ得る。この後、復調アルゴリズムが各周波数における振幅および位相信号を生成し得る。この後、この信号は、必要に応じて1つまたは複数のインピーダンスパラメータ値を導くために使用され得る。
【0069】
前述プロセスの一部として、第2の電極の位置が測定されて記録されてもよい。同様に、身長、体重、年令、性別、健康状態、治療介入、および治療介入が行なわれた日時など、被験者に関する他のパラメータ(被験者パラメータ)が記録されてもよい。現在の投薬など、他の情報も記録されてよい。これは、この後、静脈不全、浮腫、リンパ浮腫などの有無または程度を判断し得るように、インピーダンス測定値のさらなる分析を実施する際に使用され得る。
【0070】
インピーダンス測定値を分析するプロセスとこれを実施するための図1の装置の動作の例を、ここで図2を参照して説明する。
ステップ200において、被験者の下肢の少なくとも1つの体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値が、第1の時刻に求められる。これは、信号発生器117A、117Bを有し、第1の電極113A、113Bを介して少なくとも1つの第1の信号を被験者Sに印加し、第2の信号を第2の電極115A、115Bを介してセンサ118A、118Bによって被験者Sで測定することによって実現されてもよい。第1および第2の信号の表示(indication)が処理システム102に提供されて、インピーダンスまたはインピーダンスパラメータ値を求めることができる。脚体節は、液レベルの変化が測定可能な適切な脚体節であればどんな脚体節であってもよいが、典型的に下腿領域またはふくらはぎ領域の体節である。
【0071】
ステップ210において、被験者の下肢の少なくとも1つの体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値が、第1のインピーダンス値の場合と同様の方法を用いて第2の時刻に求められる。
【0072】
このプロセスを通じて、被験者の下肢の少なくとも1つの体節における体液レベルが第1および第2のインピーダンス値が求められる時刻の間で変化するように、被験者が配置される。これは複数の方法で実施され得る。
【0073】
たとえば、第2のインピーダンス値が第1のインピーダンス値に関する姿勢とは異なる姿勢に対する被験者の下肢の少なくとも1つの体節のインピーダンスを示すように、第1のインピーダンス値を決定した後で被験者のすべてまたは一部の姿勢を変更することができる。体液レベルは姿勢変更の結果として再配分され、これにより、第1および第2のインピーダンス値が決定される時刻の間に体液レベルの変化をもたらす。
【0074】
あるいは、各測定の間の体液レベル変化は、インピーダンス値を求める前に被験者の姿勢を変えて、姿勢変化の性質に応じて被験者の下肢の体節への体液の流入または流出を促し、したがって、種々の体液レベルに対する第1および第2のインピーダンス値を求めることによって得られる。
【0075】
被験者の体液レベルに変化をもたらす手順を、本明細書において以下のさらに詳細な例で説明する。
ステップ220において、指標が少なくとも1つの第1および少なくとも1つの第2のインピーダンス値に基づいて求められる。指標は、典型的に、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値の間の変化を示し、したがって、測定間の体液レベルの変化を示す。
【0076】
典型的に、指標は、被験者の下肢の少なくとも1つの体節における少なくとも細胞内液レベルおよび/または細胞外液レベルを少なくとも部分的に示す。一般に、指標は、以下でさらに詳しく説明するように、体節の電気的特性に起因する複数の測定値を用いて導かれる。したがって、一例では、第1および第2のインピーダンス値は、複数の周波数で実施される複数の測定を用いて求められ、それぞれのインピーダンス値は、以下でさらに詳しく説明するように、ゼロ印加周波数におけるインピーダンスR0、および無限大印加周波数におけるインピーダンスR∞など、測定から導かれる適切なインピーダンスパラメータ値に基づいている。他のインピーダンスパラメータ、たとえば、理想モデルに関するインピーダンス測定値の分布を表わすαなどの分散パラメータが使用されてもよい。
【0077】
一例では、指標は体液レベルの経時的な変化を示し、別の例では、指標は連続測定に対する体液レベルの変化率を示す。あるいは、指標は細胞外液レベルの変化に対する細胞内液レベルの変化の比を示し得る。指標は様々な方法で決定されて表現され得る。追加的な例を以下でさらに詳しく説明する。
【0078】
ステップ230において、指標は、オプションとして、静脈不全、または浮腫もしくはリンパ浮腫などの他の疾患の評価に使用され得る。この点について、姿勢変更後の脚体節における液レベルの変化の性質は、指標で示され、静脈不全が存在するかどうかを判断するために使用され得る。一例では、指標は、以下でさらに詳しく説明するように、静脈不全の有無または程度を判断し得るように、正規母集団基準などの基準と比較され得る。
【0079】
姿勢変更の結果としての体液レベル変化の性質は、健常被験者と静脈不全を患う被験者とで異なるので、姿勢変更後の体液レベルの反応性の大きさまたは変化率は、静脈不全にとって好都合な指標である。
【0080】
具体的には、被験者が下腿部を支えられずに立位または座位などの下肢の最大血液滞留を促す位置から、下腿部を持ち上げた状態の背臥位または座位などの下肢の負荷を軽減する位置に移される場合、健常被験者に比べて静脈不全被験者では体液レベルに様々な種類の変化が生じる。
【0081】
たとえば、重力の影響が減少すると、静脈不全被験者の静脈内の弁の機能不全によって下肢に滞留した血液が下肢から急速に流出するので、静脈不全被験者の体液レベル変化は立位から背臥位への姿勢変化の直後に健常保険者の場合よりも典型的に大きい。同様に、被験者が背臥位から立位に姿勢を変える逆の状況では、健常被験者に比べて静脈不全被験者ではより急速な滞留が生じることになる。
【0082】
被験者の変化の特性を、健常または静脈不全の被験者の母集団から取得された基準特性と比較することによって、静脈不全の有無または程度が効果的に判断され得る。
血液滞留の量は、細胞外液のみの測定値によって示すことができ、細胞外液レベルは脚体節内の血液量を示している。
【0083】
従って、たとえば、高い細胞外インピーダンスは低血液量を示しており、したがって、これは細胞外インピーダンスが増加するにつれて血液滞留が低下することを示す。結果的に、細胞外インピーダンスの変化の測定を、血液滞留の割合、したがって静脈不全の有無または程度を判断するために使用することができる。
【0084】
さらに、細胞内インピーダンスも、血液細胞配向の変化に起因して被験者の姿勢によって間接的に影響を受ける。この点について、立位のとき、血液細胞は典型的に整列されており、細胞内インピーダンスが高くなるが、背臥位では、細胞が不規則に並んでおり、細胞内インピーダンスが減少する。この影響は、血液滞留の割合および程度の違いによって、健常被験者に比べて静脈不全を患う被験者ではさらに深刻化する。
【0085】
姿勢変更中にインピーダンスを測定する対照患者の初期の検査では、インピーダンス変化の細胞外成分は充満および還流中に予想通りに変化するが、インピーダンスの細胞内成分は逆に反応することが示されている。すなわち、滞留が増加するにつれて、測定される細胞内液が減少する。これは細胞の重力沈降によるものであると予想される。細胞は、沈降するにつれて印加電流の方向を向く最小限の断面積で整列することとなる。これは、細胞の数の増加、したがって細胞内液の量の増加にもかかわらず、インピーダンス測定によって捕えられる断面積の減少、したがって、静脈充満中のインピーダンスの増加をもたらす。
【0086】
なお、細胞内および細胞外インピーダンスの変化を単独でまたは組み合せて使用してもよい。
装置の具体例をここで図3に関してさらに詳しく説明する。
【0087】
この例では、測定システム300は、コンピュータシステム310および独立した測定デバイス320を含む。測定デバイス320は、コンピュータシステム310との有線または無線通信を可能にするインターフェース321に結合された処理システム330を含む。また、処理システム330は、オプションとして322、323、324、325、326で示すような様々な種類のメモリなど、1つまたは複数の記憶装置に結合されてもよい。
【0088】
一例では、インターフェースはBluetooth(登録商標)スタックであるが、適切なインターフェースであればどんなインターフェースが採用されてもよい。メモリは、ブートアッププロセスによって必要な情報を記憶するブートメモリ322と、デバイスのシリアルナンバーをプログラム可能なプログラマブル・シリアル・ナンバー・メモリ323とを含んでいてもよい。また、メモリは、動作中に使用される、ROM(読出し専用メモリ)324、フラッシュメモリ325、およびEPROM(電気的にプログラム可能なROM)326を含んでいてもよい。これらは、当業者によって理解されるように、たとえば、ソフトウェア命令および処理中のデータを記憶するために使用されてもよい。
【0089】
以下でさらに詳しく説明するように、処理システム330をセンサ118A、118Bおよび信号発生器117A、117Bに結合するために、多数のアナログ−ディジタルコンバータ(ADC)327A、327B、328A、328Bおよびディジタル−アナログコンバータ(DAC)329A、329Bが備えられる。
【0090】
また、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、またはプログラマブル・ロジック・デバイスなどのコントローラが処理システム330の駆動を制御するために備えられてもよいが、さらに典型的には、これは処理システム330によって実行されるソフトウェア命令によって実施される。
【0091】
コンピュータシステム310の例を図4に示す。この例では、コンピュータシステム310は、図示のように、プロセッサ400、メモリ401、キーボードおよびディスプレイなどの入力/出力デバイス402、およびバス404を介して連結される外部インターフェース403を含む。外部インターフェース403を使用することで、コンピュータシステムは必要に応じて有線または無線接続によって測定デバイス320と通信することができ、したがって、これはネットワーク・インターフェース・カード、Bluetooth(登録商標)スタックなどの形態であってもよい。
【0092】
使用時、コンピュータシステム310は、測定デバイス320の動作を制御するために使用され得るが、これは代替的に測定デバイス300に備えられた別のインターフェースによって実現されてもよい。さらに、コンピュータシステム310を使用することで、インピーダンス測定値の分析の少なくとも一部を実施することができる。
【0093】
したがって、コンピュータシステム310は、所要のタスクを実行し得る適切なアプリケーションソフトウェアを実施する、適切にプログラムされたパソコン、インターネット端末、ノートパソコン、携帯用パソコン、スマートフォン、PDA、サーバなど、適切であればどんな処理システムから形成されてもよい。
【0094】
その一方、処理システム330は、典型的に、特定の処理タスクを実行してコンピュータシステム310に対する処理要求を軽減する。つまり、処理システムは、典型的に、命令を実行して、信号発生器117A、117Bを制御するとともに瞬時インピーダンス値を求める処理のための制御信号を発生することができる。
【0095】
一例では、処理システム330は、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)のようなカスタムハードウェアなどから形成されるが、磁気論理モジュールなど、適切であればどんな処理モジュールが使用されてもよい。
【0096】
一例では、処理システム330は、プログラマブルハードウェアを含み、その動作は組込みソフトウェア命令の形態の命令を用いて制御される。プログラマブルハードウェアを使用することによって、種々の信号を被験者Sに印加することができ、かつ測定デバイス320によって種々の分析を実施することができる。それゆえ、たとえば、種々の周波数で順次印加される信号を使用するのと比較して、同時に複数の周波数でインピーダンスを分析するように信号を使用する必要がある場合、種々の組込みソフトウェアが利用されることになる。
【0097】
使用される組込みソフトウェア命令は、コンピュータシステム310からダウンロードされ得る。あるいは、使用される命令を、測定デバイス320に備えられた入力デバイスを用いるかまたはコンピュータシステム310を用いることによって選択することができるように、命令をフラッシュメモリ325などのメモリに記憶することができる。その結果、処理システム330によって実装される組込みソフトウェアなどの命令を、コンピュータシステム310を用いて制御することができ、それにより、処理システム330の動作が変更される。
【0098】
さらに、コンピュータシステム310は、処理システム330によって求められたインピーダンスを分析するように動作することができ、それにより生物学的パラメータを求めることができる。
【0099】
単一処理システムによる別の配置が使用されてもよいが、コンピュータシステム310と処理システム330との間で処理を分割することにより、いくつかの利点を提供することができる。
【0100】
第1に、処理システム330を使用することにより、適切な組込みソフトウェアを使用して、カスタムハードウェア構成をより容易に適合させることができる。これにより、単一測定デバイスを使用して様々な種類の分析を実施することができる。
【0101】
第2に、カスタム構成された処理システム330を使用することにより、コンピュータシステム310に対する処理要求が軽減される。これにより、コンピュータシステム310を比較的簡単なハードウェアを用いて実装することができ、一方で、測定デバイスがインピーダンスの解釈を提供するために十分な分析を実施することが依然として可能である。
これは、たとえば、心機能に関係するパラメータを求めるためにインピーダンス値を用いるとともに、リンパ浮腫の有無を判断する「ベッセル」プロットを生成することを含み得る。
【0102】
第3に、これにより、測定デバイス320を更新することができる。つまり、たとえば、改良された分析アルゴリズムが作成されるか、または特定のインピーダンス測定タイプに対して改良された電流シーケンスが求められる場合、フラッシュメモリ325または外部インターフェース321を介して新たな組込みソフトウェアをダウンロードすることによって測定デバイスを更新することができる。
【0103】
使用時、処理システム330はディジタル制御信号を発生し、この信号はDAC329によってアナログ電圧駆動信号VDに変換されて信号発生器117に転送される。被験者に印加される駆動信号IDの電流を表わすアナログ信号と、第2の電極115A、115Bで測定される被験者電圧VSは、信号発生器117およびセンサ118から受け取られ、ADC327、328によってディジタル化される。ディジタル信号は、この後、予備的な分析のために処理システム330に戻すことができる。
【0104】
この例では、ADC327、328およびDAC329のそれぞれの組が、参照符号添え字A、Bによってそれぞれ指定されるように、2つのチャネルの各々に対して使用される。これにより、信号発生器117A、117Bの各々を独立に制御することができ、かつセンサ118A、118Bでは、それぞれ電極115A、115Bからの信号を検出することができる。これは2チャネルデバイスを表し、各チャネルは参照符号A、Bによって指定されている。
【0105】
実際には、好ましい実施態様に応じて、任意の数の適切なチャネルが使用されてよい。たとえば、4つの駆動電極および4つの検知電極が備えられ、それぞれの検知電極および駆動電極の対が各四肢に結合される、4チャネル配置を採用することが望ましい場合もある。この場合、8つのADC327、328と4つのDAC329の配置を用いることができ、そのため各チャネルはそれぞれのADC327、328およびDAC329を有する。あるいは、当業者には理解されるように、ADC327、328およびDAC329の2チャネル配置を4チャネル電極配置に選択的に結合する多重化システムを含めるなどして、他の配置が使用されてもよい。
【0106】
インピーダンス測定を実施するプロセスの例をここで図5を参照して説明する。
ステップ500において、電極は必要に応じて被験者に装着される。下肢のインピーダンスが求められるような一般的な配置は、測定される身体の側の手の指関節の付け根と足の指関節の付け根とに駆動電極113A、113Bを備えることである。また、検知電極115Aは測定される下肢の足首の前部に装着され、検知電極115Bは対側下肢のどこかに装着される。
【0107】
この構成では、電極位置がインピーダンス測定に関して再現性のある結果を提供し得る等電位の理論が使用される。これは、オペレータによる電極の不適切な装着に起因する測定値の変動を大幅に減らすので有利である。
【0108】
しかしながら、代りに他の配置も採用され得る。たとえば、検知電極は、対象となる下肢のどこかに備えられて、下肢全体に沿って、もしくはふくらはぎ体節などの下肢の一部(一般に脚体節と称される)に対してインピーダンスを測定し得る。
【0109】
ステップ510において、インピーダンス測定タイプがコンピュータシステム310を用いて選択され、コンピュータシステム310はインピーダンス測定プロトコルを決定し、それに応じて処理システム330を構成し得る。これは、典型的に、前述のように、処理システム330内のファームウェアまたはソフトウェア命令を構成することによって実現される。
【0110】
ステップ520において、処理システム300は次の測定周波数fiを選択し、ステップ530において選択された周波数の第1の信号を信号発生器117A、117Bから被験者に印加する。ステップ540において、信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bは、脚体節を流れる電流と脚体節に発生する電圧の表示(indication)を処理システム330に提供する。
【0111】
ステップ550において、処理システム330は、すべての周波数が終了しているかどうかを判断し、終了していなければ、ステップ520に戻って次の測定周波数を選択する。ステップ560において、前述の方法を用いて、コンピュータシステム310、処理システム330、またはこれらの組合せによって、1つまたは複数の測定インピーダンス値が求められる。ステップ570において、オプションとして、1つまたは複数のインピーダンスパラメータ値が導かれてもよい。
【0112】
この点について、図6Aは、生体組織の電気的挙動を有効にモデル化する等価回路の例である。等価回路は、それぞれ細胞外液および細胞内液を流れる電流を表わす2つの分岐を有する。生体インピーダンスの細胞外液成分は細胞外抵抗Reによって表わされ、細胞内液成分は細胞膜を代表する細胞内抵抗Riおよび静電容量Cによって表わされる。
【0113】
交流電流(AC)のインピーダンスの細胞外成分および細胞内成分の相対振幅は周波数に依存する。ゼロ周波数において、コンデンサは完全絶縁体として働き、すべての電流は細胞外液を流れる。したがって、ゼロ周波数における抵抗R0は細胞外抵抗Reに等しい。無限大周波数において、コンデンサは完全導体として働き、電流は並列抵抗の組合せを流れる。無限大周波数における抵抗R∞は次式で与えられる。
【0114】
【数4】
したがって、角周波数ωにおける図6Aの等価回路のインピーダンスは、ω=2π×周波数の場合、次式で与えられる。
【0115】
【数5】
ここで、
R∞=無限大印加周波数におけるインピーダンス
R0=ゼロ印加周波数におけるインピーダンス=Re
τは容量性回路の時定数である。
【0116】
しかしながら、上式は細胞膜が不完全なコンデンサであるという事実を考慮しない理想化された状況を表している。このことを考慮すると、次式の修正モデルが得られる。
【0117】
【数6】
ここで、αは理想モデルからの実システムの偏差の指標であると考えられる分散パラメータであり、0〜1の値を有する。
【0118】
インピーダンスパラメータα、R0、R∞、またはZcの値は、以下のような複数の方法のいずれか1つで決定されてよい。
・選択された各周波数で実施されたインピーダンス測定値に基づいて値を推定する
・様々な周波数で求められたインピーダンス値に基づいて連立方程式を解く
・反復的な数学手法を適用する
・図6Bに示すような「ベッセルプロット」から外挿する
・多項式関数の使用など、関数適合法を実施する
たとえば、ベッセルプロットはBIS(生体インピーダンス分光法)生体インピーダンス分光法(BIS)デバイスで使用される場合が多く、このデバイスは4kHz〜1000kHzなどの周波数範囲で、この範囲内の256またはそれ以上の様々な周波数を用いて複数の測定を実施する。この後、R∞およびR0に対する値を計算し得る理論的な半円軌跡に測定データを適合させるために回帰手法が採用される。
【0119】
このような回帰分析は、計算コストが高くつき、典型的に、より大型またはより高価なデバイスを必要とする。さらに、回帰分析は多数のデータ点を必要とし、これにより、測定プロセスにかなりの時間を要する可能性がある。
【0120】
あるいは、3つの測定点のみを必要とするサークル法が採用され得る。この技法では、円を定義する3つのパラメータとして半径(r)と円の中心の座標(i、j)を計算し得る円上の各点の幾何学的関係を表わす3つの連立方程式が解かれる。これらの円パラメータから、R0およびR∞が幾何学の第一原理によって容易に計算される。
【0121】
このサークル法によって、回帰分析を実施する場合よりも安い計算コストでR0およびR∞に対する値を導くことが可能になり、必要なデータ点の数が減ってより高速な測定プロセスが可能になる。
【0122】
連立方程式の使用に伴う1つの潜在的欠点は、インピーダンス測定値の1つが何らかの理由で不正確である場合、これによってR0および/またはR∞の計算値に大きな偏差をもたらす可能性があることである。したがって、一例では、インピーダンス測定が3つよりも多くの周波数で実施され、3つの周波数でのインピーダンス測定値のあらゆる可能な組合せに対する円パラメータが計算される。平均値がColeモデルへのデータの適合度の尺度としての標準偏差とともに提供され得る。測定値の1つが不正確である場合、これは、平均値から最も大きくずれている測定値、または平均値からずれている標準偏差の個数が設定個数を超えている測定値など、1つまたは複数の異常な測定値を除外することによって解決され、平均値を再計算してより正確な値を提供することができる。
【0123】
このプロセスでは、4つまたは5つの測定値などの新たな測定値が使用されるが、これはBIS測定プロトコルを用いて典型的に実施される256以上の周波数よりも依然としてはるかに少なく、測定プロセスをより迅速に実施することができる。
【0124】
一例では、使用される周波数は0kHz〜1000kHzの範囲にあり。具体的な一例では、4つの測定値が25kHz、50kHz、100kHz、および200kHzの周波数で記録されるが、適切であればどんな測定周波数も使用され得る。
【0125】
R0およびR∞などのインピーダンスパラメータ値を求めるさらなる代替方法は、インピーダンス測定を単一周波数で実施し、これらの測定をパラメータ値の推定値として使用することである。この場合、単一の低周波数で実施される測定はR0を推定するために使用され、単一の高周波数で実施される測定はR∞を推定するために使用され得る。
【0126】
前述の等価回路は、抵抗率を一定値としてモデル化されており、したがって、被験者のインピーダンス応答を正確に反映しておらず、特に、被験者の血流内の赤血球の配向変化またはその他の緩和効果を正確にモデル化していない。人体の導電率をより確実にモデル化するために、改良されたCPEベースのモデルが代りに使用されてもよい。
【0127】
いずれにしても、R0、Zc、R∞、およびαなどのパラメータ値を求める技法として適切であればどんな技法が使用されてもよい。
また、パラメータ値を求めることにより、細胞外および細胞内体液レベルの抵抗の値を求めることができる。細胞外液の抵抗の値Reは、R0に等しいので容易に求められる。一方、細胞内液の抵抗の値Riは次式によって与えられる。
【0128】
【数7】
測定の間に体液レベルの変化が誘発される2つまたはそれ以上の測定に対する体液抵抗のパラメータ値を求めることにより、液レベルの変化を示す指標を導くことができ、この指標はその後に静脈不全の評価に使用され得る。
【0129】
静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第1の具体例をここで図7を参照して説明する。
この例では、ステップ700において、少なくとも1つの第1のインピーダンス値が前述の方法を用いて第1の時刻に求められる。測定は、典型的に、被験者が背臥位または立位など特定の姿勢で実施される。これは血液滞留の影響を最大または最小にするために実施され、これは実施される分析に依存することになる。具体的なプロトコルに従って、測定が実施されるときに血液滞留のレベルが変化するように、第1の測定は被験者が所定の時間だけ特定の姿勢に置かれた後に、あるいは立位から背臥位などに姿勢を変更した後に実施される。
【0130】
この第1の具体例では、被験者は血液滞留の影響を最大にするために5〜15分などのある一定期間立たされる。一般に、血液滞留の顕著な増加は5分後に実現され、血中濃度はおよそ15分後に比較的変化の少ない最大値に達する。したがって、被験者が15分間立っていて血液滞留を最大にすることが好ましいが、5分後であっても測定を実施し得るだけの十分な滞留が起こる。このことから、選択される時間の長さは測定プロセスに利用可能な時間および被験者が立位を持続する能力などの要因に依存し得る。
【0131】
さらに、被験者は、立つ前に5〜15分などの一定期間背臥位で横たわることを求められる場合がある。これは、測定の実施に先立って、被験者により正確なベースライン状態を与えるよう、立つ前に血液滞留を最小にするために実施される。ここでも、滞留の顕著な減少が5分後に実現され、滞留のレベルは典型的におよそ15分後に適度に変化の少ない最小値に達する。したがって、採用される時間の長さは、測定を行うために利用可能な時間などの要因に依存することになる。
【0132】
ステップ710において、第1のインピーダンスパラメータ値R0およびR∞がオプションとして第1のインピーダンス測定値を用いて求められる。これは、前述のように、3つまたはそれ以上のインピーダンス値が測定される場合に実施され得る。あるいは、R0およびR∞の近似値は、R0の適度に近い近似値を提供するために10kHz未満などの低周波における第1の単一インピーダンス測定値と、R∞の適度に近い近似値を提供するために1000kHz超などの高周波における第2の単一インピーダンス測定値を用いて求められてもよい。
【0133】
ステップ720において、被験者の下肢の少なくとも1つの体節における細胞内液の抵抗の第1の値Rilが、R0およびR∞の決定された第1のインピーダンスパラメータ値を用いて求められる。細胞外液の抵抗の第1の値RelはこのパラメータがR0に等しいので、この時点で既知である。
【0134】
ステップ730において、少なくとも1つの第2のインピーダンス値は、典型的に、第1の測定の前または後に被験者の姿勢を変えた結果として被験者の体液レベルの変化に続いて、ステップ700と同様に第2の時刻に求められる。少なくとも1つの第1および第2のインピーダンス値の決定の間の時間は、オプションとして記録されてもよい。
【0135】
ステップ740において、第2のインピーダンスパラメータ値R0およびR∞は、第2のインピーダンス測定値を用い、かつ、典型的に、ステップ710における第1のインピーダンスパラメータ値に使用された方法と同じ方法を用いて求められる。ステップ750において、細胞内液の抵抗の第2の値Ri2は、R0およびR∞の決定された第2のインピーダンスパラメータ値を用いて求められる。同様に、細胞外液の抵抗の第2の値Re2も求められてよい。
【0136】
ステップ750において、指標が細胞内液の抵抗の第1および第2の値に基づいて求められる。この具体例では、指標は被験者内の細胞内液レベルの変化を示す。指標は、ステップ760において、静脈不全または浮腫を評価し得るようにユーザに表示される。
【0137】
指標は、細胞内液の抵抗の第1および第2の値Riの差に基づく数値など、適切であればどんな形の指標であってもよい。たとえば、指標Iは次式で与えられてもよい。
【0138】
【数8】
別の例では、細胞外液の抵抗の第1および第2の値Reがさらに求められ、指標は細胞内液の抵抗の第1および第2の値の差と細胞外液の抵抗の第1および第2の値の差との比に基づく。この例では、指標Iは次式で与えられてもよい。
【0139】
【数9】
また、指標は、静脈不全または浮腫の有無もしくは程度を示す数値を提供するように拡大縮小されてもよい。また、指標は、基準に対する数値の比較の結果に基づいていてもよい。基準は適切であればどんな形の基準であってもよい。それゆえ、一例では、基準はサンプル集団などから導かれる基準に基づいていてもよい。基準は、被験者パラメータに基づいて選択することができ、したがって、指標の値は同様の被験者パラメータを有する他の個人のサンプル集団の調査から導かれる指標の値と比較される。
【0140】
あるいは、基準は、被験者に関して過去に測定された基準、たとえば、被験者が静脈不全または浮腫を患う前に決定された基準に基づいていてもよい。これにより、縦断的解析を実施することが可能になり、その結果、静脈不全の発症または進行を評価することができる。
【0141】
さらなる代替方法として、基準は、腕などの被験者の異なる四肢に対して決定されたインピーダンスパラメータ値の等価的変化に基づいていてもよい。これは、静脈不全を患っていない被験者では、姿勢変更の結果としての細胞内液レベルの変化には四肢間の予測可能な関係があるので可能である。それゆえ、たとえば、被験者が細胞内液レベルの経時的変化の状況に一般的変化をもたらす静脈不全以外の病気を患っている場合、これが体節に評価可能な影響を与えるはずであり、したがって静脈不全の識別が可能になる。
【0142】
指標は、追加的および/または代替的に線形または非線形目盛でグラフ表示することができ、目盛上のポインタの位置は、細胞内液レベルの変化および/あるいは浮腫または静脈不全の有無もしくは程度を少なくとも部分的に示している。一例では、線形目盛は、サンプル集団データまたは他の基準から導かれるような、浮腫または静脈不全の有無を示す範囲を表わす値の閾値を含み得る。
【0143】
ステップ770において、ユーザは、さらなる調査が必要であるかどうかを評価するために指標を使用することができる。この点について、被験者が立位(脚体節の血液滞留が最大)から背臥位(脚体節の負荷が軽減)に移された後の細胞内液レベルの大幅な低下は、被験者が静脈不全を有することの分かりやすい兆候であるが、これはさらなる測定および/または分析によって確認される必要があるかもしれない。
【0144】
前述の例では、静脈不全の存在の迅速評価が可能である。迅速評価はBIAを用いて実施することが可能であり、BIAでは比較的簡単な装置と処理を採用することができ、その結果、より複雑な技法と比べて静脈不全の評価に必要な機器のコストが削減される。それにもかかわらず、プロセスはSPGおよびAPGなどの現在の非侵襲的技法よりも信頼性が高い。この点について、液レベルの変化は、この変化が四肢容量に顕著な影響を及ぼす前に典型的にインピーダンス測定を用いて検出することができ、その結果、インピーダンス測定プロセスはSPGやAPGなどの他の技法よりも感度が高くなる。
【0145】
前述の例およびこれに続く例では、血液滞留の影響が最大になる被験者の下肢に対して測定が実施され、その結果、静脈不全の識別に使用し得る指標を求めるための測定手順の有効性がきわめて高くなる。
【0146】
被験者の姿勢に関する測定の実施方法の例をここでさらに詳しく説明する。
図8の具体例では、ステップ800において、血液滞留を最大にする立位の被験者に関して第1のインピーダンス値が求められる。このステップにおける被験者の姿勢は、実質的に垂直位置に下肢を垂らして立っているか、もたれているか、あるいは座っている被験者を含んでいてもよい。第1のインピーダンス測定は、典型的に、血液滞留を最大にするために被験者が5〜15分などの所定の期間立っていた後で実施されるが、これは必須ではない。
【0147】
被験者は、この後、背臥位に姿勢を変更され、したがって、滞留血液を再分配することができ、ステップ810において、第2のインピーダンス値が背臥位にある被験者に関して求められる。このステップにおける姿勢は、座位からの下肢挙上、または背臥位にあって心臓位置上方に最大20cmの高さまでの下肢挙上など、血液滞留を抑制または最小化するように意図された他の姿勢であってもよい。以下の説明において、背臥という用語は、被験者の下肢における血液の滞留を最小化する姿勢を包含する。体液の再分配がその後に迅速に始まるように、第2のインピーダンス測定は姿勢の変更直後に実施されてよい。また、第2のインピーダンス測定は姿勢変更の所定時間後に実施されてよい。
【0148】
細胞内液の抵抗の値は、先に図7を参照して説明したように第1および第2のインピーダンス測定値の各々に対して求められ、ステップ820において、処理システム102は姿勢変更から得られる細胞内液レベルの変化に基づいて指標を求める。
【0149】
ステップ830において、指標は基準と比較され、基準はサンプル集団から得られる同様の指標値などに基づいていてもよい。あるいは、基準は、たとえば、静脈不全の発症前に被験者について事前に求めた第1および第2のインピーダンス値に基づいていてもよく、縦断的解析の実施が可能である。
【0150】
ステップ840において、比較の結果が被験者に表示されて、静脈不全および/または浮腫の評価に使用される。
この具体例における指標は、最大滞留ベースライン測定値と姿勢変更後の測定値との間の細胞内液レベルの変化を示す。これにより、被験者の集団に対して実施された測定からの基準値との直接的な比較が可能になる。
【0151】
図9の具体例では、ステップ900において、被験者は血液滞留を最大にするために5〜15分などの所定期間立位に置かれる。しかしながら、被験者が事前に立位にあった場合には、被験者が起立している時間を正確に管理することは必須でない。たとえば、被験者が測定開始前に立位または座位で待っていた場合、血液滞留が既に起こっている可能性があり、この場合、さらなる期間立っていても血液滞留の程度にほとんど影響を与えないことになる。一方、被験者が背臥位にあったか、または被験者の下肢が測定前に持ち上げられていた場合は、測定前に血液滞留を最大にするために所定期間立っている必要があることになる。
【0152】
被験者の血液滞留が最大になると、被験者の姿勢は背臥位に変更され、第1のインピーダンス値がステップ910において第1の時刻に求められる。この後、第2のインピーダンス値がステップ920において第2の時刻に求められる。さらに、第1および第2のインピーダンス値は、細胞内液レベルを示しており、したがって、複数の周波数における複数のインピーダンス測定値、または何らかの方法でインピーダンス測定値から導かれるようなインピーダンスパラメータ値α、R0、およびR∞に基づいていてもよい。
【0153】
この例では、第1および第2のインピーダンス値が求められる間に被験者は単一の姿勢にあり、測定の実施に先立つ姿勢の変更によって体液レベルの変化が誘発される。
ステップ930において、指標が第1および第2のインピーダンス値に基づいて求められる。この指標は、やはり、典型的に、測定間の被験者の体液レベル変化を示していることになり、上記の指標Iに基づいていてもよい。この例では、測定が単一姿勢にある被験者に関して実施されるので、体液変化のレベルは体液レベルの経時的な平均変化率を求めるために使用され得る。
【0154】
ここでも、指標は、ステップ940において基準と比較され、ステップ950において、比較の結果が、静脈不全および/または浮腫の評価に使用するために被験者に表示される。
【0155】
比較の結果は、変化の関連性を評価し得るように表示することができる。この点について、比較を行った結果、液レベルの低下が基準から求められた量を超えている場合は、立位にある被験者に著しい血液滞留があり、姿勢変更後に迅速に再分配することができたことを示すもので、これは静脈不全を示している。このことから、第1および第2のインピーダンス値の差の大きさが静脈不全の程度を示している可能性がある。
【0156】
前述の例では被験者は、最初は立っており測定が背臥位で行われているが、これは必須でなく、代りに、被験者は測定の実施前に血液滞留を最小にするために背臥位に置かれてもよい。この後、被験者は、立たせられた状態など、血液滞留を最大にする体位に置かれ、したがって、第1および第2の測定値は下肢における血液滞留の割合を反映する。
【0157】
オプションとして、複数のインピーダンス値が単一の姿勢で求められるように、さらなるインピーダンス値が取り込まれてもよい。たとえば、一連のインピーダンス測定値が30秒などの各測定間の所定期間に関して求められてもよく、インピーダンス値はその一連の各インピーダンス測定に対して求められてもよい。
【0158】
この後、一連の指標をインピーダンス値の連続ペアに対して求めることができ、被験者の体液の経時的変化をさらに詳しく調査することができる。あるいは、指標は、複数または一連のインピーダンス値に対して求めることができ、指標は体液レベルの経時的変化率を示している。いずれの場合も、経時的変化、すなわち変化率は、静脈不全の評価に使用され得る。
【0159】
2つよりも多くのインピーダンス値を使用すると体液レベルの変化のより詳細なプロファイルを調査することができる。たとえば、経時的なインピーダンス値のプロットは、体液レベルの変化を曲線としてグラフで示すために生成することができる。体液レベルの変化は典型的に静脈不全被験者の姿勢変更の直後により顕著になり対数形状の曲線となるが、健常被験者は経時的に一定の変化を表示する傾向があり直線形状の曲線となるので、変化する体液レベルを表わす曲線の特性は、健常被験者を静脈不全を患う被験者と識別するために使用することができる。
【0160】
体液レベルの変化率は、曲線の形状に基づいて、より詳細に評価し得るように処理システムによって求められてもよい。たとえば、指標は次式で与えられる細胞内抵抗の変化率に基づいていてもよい。
【0161】
【数10】
同様に、指標は、次式で与えられる細胞内抵抗と細胞外抵抗の比の変化率に基づいていてもよい。
【0162】
【数11】
前述のような導関数として変化率を求めると、変化率を基準値または閾値と直接比較することができる。たとえば、姿勢変更の直後に閾値を超える変化率の値は、静脈不全を示している可能性がある。
【0163】
別の例では、1組のインピーダンス測定値から取り込まれた経時的なインピーダンス値のプロットは、医師などのユーザに見せ、被験者の疾患を評価する際に使用して視覚的評価を実施することができる。たとえば、ユーザは、プロットの特性を基準値または正常集団を表わすプロット、過去の時点における同じ被験者のインピーダンス値の別のプロットと比較してもよい。あるいは、プロットが閾値と交差する場合に静脈不全の可能性があるように、プロットは閾値曲線が重畳されて表示されてもよい。プロットを使用すると、ユーザは被験者の疾患をより詳細に評価することができる。
【0164】
あるいは、一連のインピーダンス値の評価は、処理システムによって実施されて体液レベルの変化を示す一連のインピーダンス値から指標値を導くことができる。これらの指標値は、さらなる評価のためにユーザに見せることもでき、または基準値と比較して被験者の疾患をより迅速に評価することができる。
【0165】
静脈不全の評価において被験者の体液レベルの変化を示す指標の使用を可能にする具体的な生理学的メカニズムの例を、ここで図10A〜10Dを参照して説明する。
前述のように、細胞内体液の抵抗Ri(細胞内抵抗とも称される)は、静脈不全を患う被験者と健常被験者またはリンパ浮腫を患う被験者とを区別する指標の根拠として使用され得る。
【0166】
細胞内抵抗は、下肢をぶら下げた立位または座位などの血液の滞留を最大にする位置から一方または両方の下肢を水平に上げた背臥位または座位などの下肢の負荷を軽減する位置までの姿勢変化の後に減少することが分かっている。細胞内抵抗のこの減少は、重力による滞留の影響が最小化されるにつれて下腿部から滞留血液が流出した結果であり、かつこのプロセス中の血液細胞配向の変化に起因している。
【0167】
細胞内抵抗の大きさと減少率は、被験者の疾患を示している可能性のあるプロファイルに従う。たとえば、静脈不全を患っていない被験者では、細胞内抵抗の減少は比較的一定の速度で生じるが、一方、静脈不全を患う被験者では、初期の急激な減少が、被験者の血管内の弁の機能不全の結果として滞留した血液が下肢から排出されるときに生じる。したがって、健常被験者の細胞内抵抗のプロットは図10Aに示すように比較的一定の変化率の線形プロファイルを有することになるが、静脈不全被験者に関する同様のプロットは図10Bに示すように対数プロファイルの顕著な初期減少を有することになる。
【0168】
姿勢変更に続く細胞内抵抗のプロファイルは、健常被験者と静脈不全を患う被験者とを区別するために使用され得る。したがって、細胞内抵抗の変化または変化率を少なくとも部分的に示す指標は、静脈不全の評価に有用である可能性がある。
【0169】
姿勢の変更に続く細胞外体液の抵抗Re(細胞外抵抗とも称される)の変化は、さらに静脈不全を評価するために使用され得る。細胞外抵抗は細胞内抵抗を求めるプロセスにおいて効果的に決定または推定されるので、このパラメータを使用すると、細胞内抵抗が使用されている場合は処理負担を極度に増加させることにはならない。
【0170】
細胞外抵抗を更に使用すると、それぞれの被験者に対する細胞外抵抗の大きさおよび変化率の特性の違いによって、健常被験者、リンパ浮腫を患う被験者、および静脈不全を患う被験者を区別することができるようになる。健常被験者およびリンパ浮腫を患う被験者に対する細胞外抵抗のプロットの例を図10Cに示し、静脈不全を患う被験者に対するプロットを図10Dに示す。
【0171】
一例では、指標は、細胞内抵抗および細胞外抵抗の特性の差が疾患の識別に利用されるように、被験者の細胞内液レベルおよび細胞外液レベルのそれぞれの変化を示す。
また、先に図8および9を参照して説明したそれぞれの方法は、最大血液滞留のベースライン測定に続いて体液レベルの変化を評価し得るように姿勢を変更した後、2つまたはそれ以上の測定が実施されるように組み合わせられてもよい。インピーダンス測定値は長期間にわたって周期的に求められ、その間に被験者の姿勢が少なくとも一度は変更され、したがって、静脈不全の評価は一連のインピーダンス値に基づいていてもよい。
【0172】
姿勢の変更が被験者における体液のレベルの再分配を促す場合に、前述のインピーダンス測定法は立位および背臥位以外の第1および第2の姿勢にも適用され得る。たとえば、下肢の体液の排出または滞留を促す各位置の間では、一方の下肢の姿勢変化が前述の方法と関連して使用され得る。
【0173】
下肢における滞留のレベルを変える方法の例は、被験者の胴を一定の姿勢に保ったまま下肢のみの姿勢を変化させるものである。被験者が下肢の一方の位置のみを位置変更して横たわっているといった具合に、被験者の胴は水平であってもよい。一方、被験者が下肢の一方の位置のみを位置変更して座っているかまたは立っているといった具合に、被験者の胴は垂直であってもよい。
【0174】
一例では、被験者は、被験者の下肢を水平に伸ばして横たわっている第1の姿勢に置かれる。被験者は、この後、下肢を水平に対してある角度で上げて横たわっている第2の姿勢に体位を変えられる。下肢の一方を上げると、上げられた下肢から身体への体液の排出が促され、この例では、上げられた下肢から排出するときの体液の抵抗の変化を、指標を求めるために使用することができる。インピーダンス測定は、前述の方法を用いて第1および/または第2の姿勢で実施されてよい。
【0175】
オプションとして、被験者が下肢を正しい姿勢に保とうとしなくても済むように、持ち上げている被験者の下肢は支えられてもよい。このアプローチにより、測定期間を通じて患者をくつろいだ横臥位に保つことができる。これは長期間立っていることが困難な患者にとって有益である。
【0176】
別の例では、被験者の下肢の一方を、この下肢の滞留を促すために水平未満の角度に下げることができ、その間被験者は横臥位に保たれる。あるいは、被験者は、座っていてもよく、一方の下肢を下げながら他方の下肢を上げる姿勢をとることもできる。
【0177】
また、同様の方法では両下肢の同時の上げ下げを利用し得る。たとえば、ベッドの1つまたは複数のセクションを水平に対してある角度で傾けることができる可動式ベッド上に被験者を横臥位で保ち、こうして下肢の体液の排出または滞留を促すことができる。
【0178】
別の例では、一方の下肢を上げた横臥位にある第1の姿勢に置かれた被験者に関して第1のインピーダンス測定が実施され、やはり横臥位にあるが他方の下肢を上げている第2の姿勢に置かれた被験者に関して第2のインピーダンス測定が実施される。被験者の下肢の体液は姿勢変更の結果として第1および第2の測定の時刻の間に再分配される。したがって、下肢が択一的に上げられたときの体液の変化を示す測定値に基づいて指標が決定されてもよい。
【0179】
たとえば、一方の下肢を上げた状態で実施される測定は他方の下肢を上げた状態で実施される測定と比較されて、下肢の一方が他方の下肢よりも顕著に体液を排出したかどうかを示すことができる。これ利用すると、被験者が一方の下肢のみに静脈不全を有するかどうかの判断に役立てることができる。
【0180】
前述の例では、インピーダンスという用語は、一般に測定インピーダンス値または測定インピーダンスから導かれたインピーダンスパラメータ値を示す。抵抗という用語は、リアクタンス測定値のアドミッタンスなど、インピーダンスに関係する任意の測定値を示す。また、インピーダンス測定値という用語は、アドミッタンスおよび他の関連測定値を包含する。
【0181】
処理システムという用語は、処理を実施し得るすべての構成要素を含めることを意図しており、処理システムおよびコンピュータシステムのいずれか一方または両方を含み得る。
【0182】
上記の種々の例の特徴は、必要に応じて互換的に使用されてよい。たとえば、複数の異なる指標が求められてそれぞれの閾値と比較されてもよい。
さらに、上記の例は人間などの被験者に注目してきたが、前述の測定デバイスおよび技法は、霊長類、家畜、競走馬などの競技用動物を含むが、これらに限定されない任意の動物に利用され得る。
【0183】
前述のプロセスは生物学的指標を求める際に利用することができ、生物学的指標は浮腫、リンパ浮腫、身体組成などを含むが、これらに限定されない広範な疾患および病気の有無または程度の診断に利用することができる。
【0184】
さらに、前述の例は被験者に電流を流す電圧信号の印加に注目しているが、これは必須ではなく、電流信号を印加する際のプロセスも採用することができる。
数多くの変形形態および変更形態が明らかになることを、当業者であれば理解し得る。当業者にとって明らかになるこのような変形形態および変更形態はすべて、本発明において先に広範囲に説明したような趣旨および範囲に包含されるものと考えられるべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用される方法および装置に関し、特に、被験者の体液レベルの経時的変化を示す指標を求める方法および装置に関し、指標は静脈不全の評価に使用される。
【背景技術】
【0002】
本明細書においては先行出版物(もしくは先行出版物から得られる情報)または公知の事項に言及するが、こうした言及は、先行出版物(もしくは先行出版物から得られる情報)または公知の事項が本明細書に関係する分野における共通の一般知識の一部を構成するとの認識もしくは容認、またはいずれかの形態の示唆であると解釈されるものではなく、また解釈されるべきでもない。
【0003】
静脈不全は、静脈が血液を心臓に十分に戻すことができないことを特徴とする疾患である。通常、被験者が立位にあるとき、被験者の下肢静脈内の血液は、下肢静脈の筋肉圧迫などのメカニズムの組合せにより、また静脈内の一方向弁の作用により重力に逆らって心臓に向かって押し戻される。しかしながら、静脈の内圧亢進、深部静脈血栓症(DVT)、静脈炎などが生じ、下肢内に血液の滞留を招く場合がある。
【0004】
慢性静脈疾患(CVD)は、罹患率が一般に3〜7%であり、経済的損失は年間10億米ドルに及ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0111652号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0177062号明細書
【特許文献3】国際公開第00/79255号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nicolaides AN(2000)「Investigation of Chronic Venous Insufficiency:A Consensus Statement」Circulation 102:126−163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
静脈不全の典型的な検出方法は、下肢または足首の腫れ、ふくらはぎの締め付け感、下肢の疲労感、歩行時の痛みなどの身体症状がないかを診察することである。静脈不全は、静脈瘤に関連している場合もある。
【0008】
静脈不全を評価する他の方法として、足の甲の血管に針を挿入することによって実施される歩行静脈圧の測定が挙げられる。これは血行動態調査の優れた標準と見なされているが侵襲的であり、したがって、代替的な非侵襲的方法を見つけることが望ましい。このような方法として、エアプレチスモグラフィ(APG)およびストレイン・ゲージ・プレチスモグラフィ(SPG)の2つがある。
【0009】
SPGは、たとえば、非特許文献1に記載されているように、脚容量の変化率を読み取るために較正された、シラスティックバンドに入れた水銀ストレインゲージを腓筋の周りに巻きつける。このような測定は、典型的に、静脈の再充満時間および駆出量を算定できるように運動療法中に実施される。APGは、空気袋を使用し膝から足首までの下肢に巻く。空気袋を既知の圧力まで膨張させ、一連の姿勢の変化における空気袋の圧力変化に基づいて腓筋の体積変化が求められる。
【0010】
しかしながら、これらの方法は精度に欠けており、有効な測定値を得るためには広範な較正および訓練を必要とする可能性がある。
リンパ浮腫は、リンパ輸送能力の低下、および/または正常なリンパ管負荷の存在下での組織たんぱく質分解能力の低下に起因する組織内の過剰なたんぱく質および浮腫を特徴とする疾患である。後天性リンパ浮腫、すなわち二次性リンパ浮腫は、リンパ管の損傷または閉塞によって生じる。最も一般的な誘発事象は、外科手術および/または放射線治療である。しかしながら、リンパ浮腫の発症は、予測不可能であり、その原因から数日以内に発現することもあれば、その原因から何年も経って発現することもある。
【0011】
液量などの被験者に関する生物学的パラメータを求める従来の1つの方法は、生体電気インピーダンスの使用を伴う。これは、皮膚表面に装着した一連の電極を用いて被験者の身体の電気インピーダンスを測定するものである。心周期または浮腫に関連する液量の変化などのパラメータを求めるために、体表面における電気インピーダンスの変化が使用される。
【0012】
特許文献1には、人間の四肢における血流およびリンパ流を改善する方法が記載されている。この方法の一部として、四肢内の各部の血流を算定するためにインピーダンス測定が採用されている。
【0013】
特許文献2には、身体または体節の電気インピーダンスに基づいて、導電性体液の量、組成、および移動を測定するシステムが記載されている。これは、主として、血行動態パラメータを求めるための電気機械的カルジオグラフィ(ELMEC)またはインピーダンスカルジオグラフィ(IKG)測定に使用される。
【0014】
特許文献3には、単一の低周波交流において同一の被験者の2つの異なる解剖学的領域の生体電気インピーダンスを測定することによる浮腫の検出方法が記載されている。正規母集団から得られたデータとの比較によって組織浮腫の存在の兆候を得るために2つの測定値が分析される。
【0015】
同時係属中のPCT/AU09/000163号明細書には、インピーダンス測定値の分析に使用される方法および装置、特に、インピーダンス測定値を用いて細胞外液レベルを示す指標、静脈不全、リンパ浮腫および/または浮腫を識別するのに有効である指標を求める方法および装置が記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の広範な形態では、本発明は、被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析で使用する方法を提供するものであって、被験者は被験者の少なくとも1つの脚体節における体液レベルが第1の時刻と第2の時刻との間で変化するように配置され、方法は、処理システムにおいて、
a)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求めること、
b)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求めること、
c)少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、体液レベルの変化を示す指標を求めること、
を含む。
【0017】
典型的に、指標は、少なくとも1つの脚体節における細胞内液レベルを少なくとも部分的に示す。
典型的に、指標は、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値との間の変化を示す。
【0018】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)指標を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように比較の結果の表示を提供すること、
を含む。
【0019】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)第2の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む。
【0020】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)被験者を所定期間第2の姿勢に置いた後、第1の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む。
【0021】
典型的に、方法は、
a)被験者を所定期間第1の姿勢に置くこと、
b)被験者を第2の姿勢に置くこと、
を含み、方法はさらに、処理システムにおいて、
c)第2の姿勢にある被験者に関して少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とを求めること、
を含む。
【0022】
典型的に、被験者の胴は一定の姿勢を保っており、被験者が第1の姿勢にあるとき被験者の第1の下肢は第1の位置に置かれ、被験者が第2の姿勢にあるとき被験者の第1の下肢は第2の位置に置かれる。
【0023】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)単一の姿勢にある被験者に関して複数のインピーダンス値を求めること、
b)複数のインピーダンス値に基づいて指標を求めること、
を含む。
【0024】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、インピーダンス値の少なくとも1つの経時的な変化を調査することを含み、インピーダンス値の少なくとも1つの変化は静脈不全の評価に使用される。
【0025】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、インピーダンス値の経時的な変化率を調査することを含み、変化率は静脈不全の評価に使用される。
典型的に、方法は、処理システムにおいて、変化率が
a)一定である、
b)一定でない、
c)対数である、
のうちの少なくとも1つであるかどうかを判断することによって変化率を静脈不全の評価に用いることを含む。
【0026】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)変化率を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように比較の結果の表示を提供すること、
を含む。
【0027】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む。
【0028】
典型的に、少なくとも1つのインピーダンス測定値は、
a)100kHz未満、
b)50kHz未満、
c)10kHz未満、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される。
【0029】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、ゼロ測定周波数における被験者の抵抗の推定値として少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む。
典型的に、少なくとも1つのインピーダンス測定値は、
a)200kHz超、
b)500kHz超、
c)1000kHz超、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される。
【0030】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、無限大測定周波数における被験者の抵抗の推定値として少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む。
典型的に、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値はインピーダンスパラメータ値に基づいている。
【0031】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)複数のインピーダンス測定値を求めること、
b)複数のインピーダンス測定値から少なくとも1つのインピーダンスパラメータ値を求めること、
を含む。
【0032】
典型的に、インピーダンスパラメータ値は、
ゼロ周波数における抵抗であるR0、
無限大周波数における抵抗であるR∞、
特性周波数における抵抗であるZc、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0033】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、次式を用いてパラメータ値を求めることを含み、
【0034】
【数1】
ここで、
Zは角周波数ωにおける測定インピーダンスであり、
τは時定数であり、
αは0〜1の値を有する。
【0035】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)複数のインピーダンス測定値からインピーダンスパラメータR0の値とインピーダンスパラメータR∞の値を求めること、
b)次式を用いて細胞内液の抵抗であるインピーダンスパラメータRiの値を計算すること、
【0036】
【数2】
を含む。
【0037】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、次式のうち少なくとも1つを用いて指標を求めることを含み、
【0038】
【数3】
ここで、
Iは指標であり、
ΔRiは細胞内液の抵抗の変化であり、
ΔReは細胞外液の抵抗の変化であり、
Re=R0である。
【0039】
典型的に、方法は、処理システムにおいて、インピーダンス測定を実施させることを含む。
典型的に、方法は、処理システムにおいて、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を被験者に印加させること、
b)印加された1つまたは複数の電気信号に応じて被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定すること、
c)印加された電気信号および測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求めること、
を含む。
【0040】
典型的に、指標は静脈不全の評価に使用される。
第2の広範な形態では、本発明は、被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用される装置を提供する。装置は処理システムを含み、処理システムは、
a)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求め、
b)被験者の少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求め、
c)少なくとも1つの第1の第2のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、体液レベルの変化を示す指標を求める。
【0041】
典型的に、装置は処理システムを含み、処理システムは、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を被験者に印加させ、
b)印加された1つまたは複数の電気信号に応じて被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定し、
c)印加された電気信号および測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求める。
【0042】
典型的に、装置は、
a)電気信号を発生する信号発生器と、
b)電気信号を検知するセンサと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】インピーダンス測定装置の第1の例の概略図である。
【図2】インピーダンス測定値の分析に使用されるプロセスの例のフローチャートである。
【図3】インピーダンス測定装置の第2の例の概略図である。
【図4】コンピュータシステムの例の概略図である。
【図5】インピーダンス測定を実施するプロセスの例のフローチャートである。
【図6A】生体組織の理論的等価回路の例の概略図である。
【図6B】ベッセルプロットとして知られるインピーダンスの軌跡の例である。
【図7】静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第1の具体例のフローチャートである。
【図8】静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第2の具体例のフローチャートである。
【図9】静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第3の具体例のフローチャートである。
【図10A】健常被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞内抵抗の変化のプロット例である。
【図10B】静脈不全の被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞内抵抗の変化のプロット例である。
【図10C】健常被験者とリンパ浮腫の被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞外抵抗の変化のプロット例である。
【図10D】静脈不全の被験者の姿勢を立位から背臥位に変更した後の細胞外抵抗の変化のプロット例である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、被験者の生体電気インピーダンスの分析の実施に適した装置の例を、図1を参照して説明する。
図1に示すように、装置は測定デバイス100を含む。測定デバイス100は処理システム102を含み、処理システム102は、それぞれ第1のリード線123A、123Bを介して1つまたは複数の信号発生器117A、117Bに接続されるとともに、それぞれ第2のリード線125A、125Bを介して1つまたは複数のセンサ118A、118Bに接続されている。接続はマルチプレクサなどのスイッチングデバイスを介してもよいが、これは必須ではない。
【0045】
使用時、信号発生器117A、117Bは2つの第1の電極113A、113Bに結合され、これらの電極113A、113Bは信号を被験者Sに印加し得る駆動電極としての機能を果たす。一方、1つまたは複数のセンサ118A、118Bは第2の電極115A、115Bに結合され、これらの電極115A、115Bは被験者Sに誘起される信号を検知し得る検知電極としての機能を果たす。
【0046】
信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bは、処理システム102と電極113A、113B、115A、115Bとの間の任意の位置に備えられてもよく、したがって、測定デバイス100の中に組み込まれてもよい。
【0047】
しかしながら、一例では、信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bは、電極システムまたは被験者Sの近くに備えられた別のユニットに組み込まれ、リード線123A、123B、125A、125Bは信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bを処理システム102に接続する。この実施によって、信号発生器117A、117Bおよびセンサ118A、118Bと、対応する電極113A、113B、115A、115Bとの間の接続部の長さを短縮することができる。このため、接続部間同士、接続部と被験者との間、接続部と被験者が載せられるベッドなどの周囲の物品との間の寄生容量が最小化され、これによって測定誤差が低減される。
【0048】
前述のシステムは、それぞれ添え字A、Bで指定される2つのチャネルデバイスとして記述することができる。2チャネルデバイスの採用は単なる例のためにすぎず、必要に応じて任意の数のチャネルが提供されてよい。
【0049】
オプションの外部インターフェース103は、測定デバイス100を、有線、無線、またはネットワーク接続部を介して、外部データベースまたはコンピュータシステム、バーコードスキャナなどの1つまたは複数の周辺デバイス104に結合するために使用することができる。また、処理システム102は、典型的に、I/Oデバイス105を含み、これはタッチスクリーン、キーパッド、およびディスプレイなど任意の適切な形態のものであってよい。
【0050】
使用時、処理システム102は制御信号を発生するように適合され、これによって信号発生器117A、117Bに適切な波形の電圧信号または電流信号など1つまたは複数の交流信号を発生させて、第1の電極113A、113Bを介して被験者Sに印加することができる。この後、センサ118A、118Bは、第2の電極115A、115Bを用いて被験者Sに発生する電圧または被験者Sに流れる電流を測定し、適切な信号を処理システム102に転送する。
【0051】
処理システム102は、適切な制御信号を発生し、測定信号を少なくとも部分的に解読して被験者の生体電気インピーダンスを求め、静脈不全、その他の疾患の有無または程度の指標などの他の情報を適宜求めるのに適切であれば、どんな形態の処理システムであってもよい。
【0052】
したがって、処理システム102は、ラップトップ、デスクトップ、PDA、スマートフォンなど、適切にプログラムされたコンピュータシステムであってよい。あるいは、処理システム102は、以下でさらに詳しく説明するように、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)またはプログラム化したコンピュータシステムと専用ハードウェアの組合せなど、専用ハードウェアから形成されてもよい。
【0053】
使用時、第1の電極113A、113Bは、1つまたは複数の信号を被験者Sに注入し得るように被験者に装着される。第1の電極の位置は、検査対象の被験者Sの体節によって異なる。それゆえ、たとえば、第1の電極113A、113Bは、心機能の分析に使用する胸腔のインピーダンスを決定し得るように被験者Sの胸部および頸部に装着することができる。あるいは、被験者の手首または足首に電極を装着すると、浮腫分析、静脈不全の評価などに使用される四肢および/または全身のインピーダンスを求めることができる。
【0054】
電極が装着された時点で、1つまたは複数の交流信号が第1の電極113A、113Bを介して被験者に印加される。交流信号の性質は、測定デバイスの性質と実施される後続の分析に応じて異なる。
【0055】
たとえば、システムは、単一の低周波信号が被験者Sに注入される生体インピーダンス分析(BIA)を採用することができ、測定インピーダンスは、浮腫、したがって静脈不全を示す可能性のある細胞外液レベルなど、生物学的パラメータの決定に直接使用される。
【0056】
一例では、印加信号は100kHz未満、さらに典型的には50kHz未満、さらに好ましくは10kHz未満など、比較的低い周波数を有する。この場合、このような低周波信号は、インピーダンスパラメータ値R0と一般に称され、さらには細胞外液レベルを示す、ゼロ印加周波数におけるインピーダンスの推定値として使用され得る。
【0057】
あるいは、印加信号は、200kHz超、さらに典型的には500kHzまたは1000kHz超など、比較的高い周波数を有し得る。この場合、このような高周波信号は、インピーダンスパラメータ値R∞と一般に称され、以下でさらに詳しく説明するように、さらに細胞外および細胞内液レベルの組合せを示す、無限大印加周波数におけるインピーダンスの推定値として使用され得る。
【0058】
また、細胞内液レベルのみを示すパラメータは、以下で説明するように、インピーダンスパラメータ値R0およびR∞の値が得られる場合に求めることができる。
対照的に、生体インピーダンス分光法(BIS)デバイスは、選択された周波数範囲にわたる複数の周波数でインピーダンス測定を実施する。いかなる範囲の周波数を採用してもよいが、典型的に周波数範囲は超低周波(4kHz)から比較的高い周波数(15000kHz)に及んでいる。同様に、いかなる数の測定を行なってもよいが、一例では、この範囲内で複数のインピーダンス測定を行なえるように、システムはこの範囲内で256またはそれよりも多くの異なる周波数を採用することができる。
【0059】
インピーダンス測定を複数の周波数で行うとき、これらは、それぞれインピーダンス測定値の分散幅、ゼロにおけるインピーダンス、特性周波数、無限大周波数に対応するα、R0、Zc、R∞の値など、1つまたは複数のインピーダンスパラメータ値を導くために使用され得る。これらは、さらに、以下でさらに詳しく説明するように、細胞内および/または細胞外液レベルに関する情報を求めるために使用され得る。
【0060】
さらに別の方法は、各々がそれぞれの周波数を有する複数の信号が被験者Sに注入されて、測定インピーダンスが液レベルの評価に使用される多周波数生体インピーダンス分析(MFBIA)をシステムに採用するものである。一例では、4つの周波数を採用することができ、各周波数で得られるインピーダンス測定値は、以下でさらに詳しく説明するように、たとえば、測定インピーダンス値をColeモデルに適合させることによって、インピーダンスパラメータ値を導くために使用される。あるいは、各周波数におけるインピーダンス測定値は、個々に使用されても組み合わせて使用されてもよい。
【0061】
それゆえ、測定デバイス100は、好ましい実施態様に応じて、交流信号を、単一周波数で、複数周波数で同時に、または多数の交流信号を異なる周波数で順番に印加してよい。また、印加信号の周波数または周波数範囲は、実施されている分析に依存してもよい。
【0062】
一例では、印加信号は交流電圧を被験者Sに印加する電圧発生器によって発生されるが、交流電流信号が印加されてもよい。
一例では、電圧源は典型的に対称的および/または差動的に配置され、信号発生器117A、117Bの各々は被験者に生じる電位が変えられるように独立に制御可能である。これは、電極で検知される電圧が非対象(「不均衡」と称される状況)であるときに発生する不均衡の影響を軽減するために実施され得る。この場合、リード線内の信号の大きさに差があると、ノイズおよび干渉に起因する様々な影響が生じるおそれがある。
【0063】
電圧を対称に印加すると影響を軽減することができるが、2つの駆動電極113A、113Bの電極インピーダンスが一致しない場合これは必ずしも有効ではなく、これは実環境ではよくあることである。しかしながら、駆動電極113A、113Bの各々に印加される差動駆動電圧を調整することによって、異なる電極インピーダンスが補償され、検知電極115A、115Bにおける電圧の所望の対称性が回復する。これは、検知電極における電圧を測定した後、印加信号の振幅および/または位相を調整して検知電圧の振幅のバランスを取ることによって実現され得る。このプロセスは本明細書ではバランス調整と称され、一例では、コモンモード信号の振幅を最小にすることによって実施される。
【0064】
電位差および/または電流は、第2の電極115A、115Bの間で測定される。一例では、電圧は差動で測定され、つまり、各センサ118A、118Bは各第2の電極115A、115Bの電位を測定するために使用され、したがって、シングル・エンド・システムに比べて電位の半分を測定するだけで済む。
【0065】
獲得信号および測定信号は、ECG(心電図)、印加信号によって発生された電位、および環境電磁妨害に起因するその他の信号など、人体によって発生された電位の重畳となる。したがって、不要な成分を除去するためにフィルタリングなどの適切な分析を採用してもよい。
【0066】
獲得信号は、典型的に、印加周波数においてシステムのインピーダンスを得るために復調される。重畳周波数を復調する1つの適切な方法は、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて時間領域データを周波数領域に変換するというものである。これは、典型的に、印加電流信号が印加周波数を重畳したものであるときに採用される。測定信号のウィンドウ生成を必要としない別の技法として、スライディングウィンドウFFTがある。
【0067】
印加電流信号が種々の周波数の掃引から生成される場合、信号の相関化などの信号処理技術を使用することがより典型的である。これは、測定信号に信号発生器から得られる基準正弦波および余弦波、すなわち測定正弦波および余弦波を掛けて、全サイクル数にわたって積分することによって実現され得る。直交復調または同期検波などとして多岐にわたって知られるこのプロセスは、すべての無相関信号または非同期信号をすべて拒絶してランダムノイズを著しく減少させる。
【0068】
他の適切なディジタルおよびアナログ復調技術は当業者には既知であろう。
BISの場合、インピーダンスまたはアドミッタンス測定値が被験者に発生する記録電圧および被験者に流れる電流を用いて各周波数における信号から求められ得る。この後、復調アルゴリズムが各周波数における振幅および位相信号を生成し得る。この後、この信号は、必要に応じて1つまたは複数のインピーダンスパラメータ値を導くために使用され得る。
【0069】
前述プロセスの一部として、第2の電極の位置が測定されて記録されてもよい。同様に、身長、体重、年令、性別、健康状態、治療介入、および治療介入が行なわれた日時など、被験者に関する他のパラメータ(被験者パラメータ)が記録されてもよい。現在の投薬など、他の情報も記録されてよい。これは、この後、静脈不全、浮腫、リンパ浮腫などの有無または程度を判断し得るように、インピーダンス測定値のさらなる分析を実施する際に使用され得る。
【0070】
インピーダンス測定値を分析するプロセスとこれを実施するための図1の装置の動作の例を、ここで図2を参照して説明する。
ステップ200において、被験者の下肢の少なくとも1つの体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値が、第1の時刻に求められる。これは、信号発生器117A、117Bを有し、第1の電極113A、113Bを介して少なくとも1つの第1の信号を被験者Sに印加し、第2の信号を第2の電極115A、115Bを介してセンサ118A、118Bによって被験者Sで測定することによって実現されてもよい。第1および第2の信号の表示(indication)が処理システム102に提供されて、インピーダンスまたはインピーダンスパラメータ値を求めることができる。脚体節は、液レベルの変化が測定可能な適切な脚体節であればどんな脚体節であってもよいが、典型的に下腿領域またはふくらはぎ領域の体節である。
【0071】
ステップ210において、被験者の下肢の少なくとも1つの体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値が、第1のインピーダンス値の場合と同様の方法を用いて第2の時刻に求められる。
【0072】
このプロセスを通じて、被験者の下肢の少なくとも1つの体節における体液レベルが第1および第2のインピーダンス値が求められる時刻の間で変化するように、被験者が配置される。これは複数の方法で実施され得る。
【0073】
たとえば、第2のインピーダンス値が第1のインピーダンス値に関する姿勢とは異なる姿勢に対する被験者の下肢の少なくとも1つの体節のインピーダンスを示すように、第1のインピーダンス値を決定した後で被験者のすべてまたは一部の姿勢を変更することができる。体液レベルは姿勢変更の結果として再配分され、これにより、第1および第2のインピーダンス値が決定される時刻の間に体液レベルの変化をもたらす。
【0074】
あるいは、各測定の間の体液レベル変化は、インピーダンス値を求める前に被験者の姿勢を変えて、姿勢変化の性質に応じて被験者の下肢の体節への体液の流入または流出を促し、したがって、種々の体液レベルに対する第1および第2のインピーダンス値を求めることによって得られる。
【0075】
被験者の体液レベルに変化をもたらす手順を、本明細書において以下のさらに詳細な例で説明する。
ステップ220において、指標が少なくとも1つの第1および少なくとも1つの第2のインピーダンス値に基づいて求められる。指標は、典型的に、少なくとも1つの第1のインピーダンス値と少なくとも1つの第2のインピーダンス値の間の変化を示し、したがって、測定間の体液レベルの変化を示す。
【0076】
典型的に、指標は、被験者の下肢の少なくとも1つの体節における少なくとも細胞内液レベルおよび/または細胞外液レベルを少なくとも部分的に示す。一般に、指標は、以下でさらに詳しく説明するように、体節の電気的特性に起因する複数の測定値を用いて導かれる。したがって、一例では、第1および第2のインピーダンス値は、複数の周波数で実施される複数の測定を用いて求められ、それぞれのインピーダンス値は、以下でさらに詳しく説明するように、ゼロ印加周波数におけるインピーダンスR0、および無限大印加周波数におけるインピーダンスR∞など、測定から導かれる適切なインピーダンスパラメータ値に基づいている。他のインピーダンスパラメータ、たとえば、理想モデルに関するインピーダンス測定値の分布を表わすαなどの分散パラメータが使用されてもよい。
【0077】
一例では、指標は体液レベルの経時的な変化を示し、別の例では、指標は連続測定に対する体液レベルの変化率を示す。あるいは、指標は細胞外液レベルの変化に対する細胞内液レベルの変化の比を示し得る。指標は様々な方法で決定されて表現され得る。追加的な例を以下でさらに詳しく説明する。
【0078】
ステップ230において、指標は、オプションとして、静脈不全、または浮腫もしくはリンパ浮腫などの他の疾患の評価に使用され得る。この点について、姿勢変更後の脚体節における液レベルの変化の性質は、指標で示され、静脈不全が存在するかどうかを判断するために使用され得る。一例では、指標は、以下でさらに詳しく説明するように、静脈不全の有無または程度を判断し得るように、正規母集団基準などの基準と比較され得る。
【0079】
姿勢変更の結果としての体液レベル変化の性質は、健常被験者と静脈不全を患う被験者とで異なるので、姿勢変更後の体液レベルの反応性の大きさまたは変化率は、静脈不全にとって好都合な指標である。
【0080】
具体的には、被験者が下腿部を支えられずに立位または座位などの下肢の最大血液滞留を促す位置から、下腿部を持ち上げた状態の背臥位または座位などの下肢の負荷を軽減する位置に移される場合、健常被験者に比べて静脈不全被験者では体液レベルに様々な種類の変化が生じる。
【0081】
たとえば、重力の影響が減少すると、静脈不全被験者の静脈内の弁の機能不全によって下肢に滞留した血液が下肢から急速に流出するので、静脈不全被験者の体液レベル変化は立位から背臥位への姿勢変化の直後に健常保険者の場合よりも典型的に大きい。同様に、被験者が背臥位から立位に姿勢を変える逆の状況では、健常被験者に比べて静脈不全被験者ではより急速な滞留が生じることになる。
【0082】
被験者の変化の特性を、健常または静脈不全の被験者の母集団から取得された基準特性と比較することによって、静脈不全の有無または程度が効果的に判断され得る。
血液滞留の量は、細胞外液のみの測定値によって示すことができ、細胞外液レベルは脚体節内の血液量を示している。
【0083】
従って、たとえば、高い細胞外インピーダンスは低血液量を示しており、したがって、これは細胞外インピーダンスが増加するにつれて血液滞留が低下することを示す。結果的に、細胞外インピーダンスの変化の測定を、血液滞留の割合、したがって静脈不全の有無または程度を判断するために使用することができる。
【0084】
さらに、細胞内インピーダンスも、血液細胞配向の変化に起因して被験者の姿勢によって間接的に影響を受ける。この点について、立位のとき、血液細胞は典型的に整列されており、細胞内インピーダンスが高くなるが、背臥位では、細胞が不規則に並んでおり、細胞内インピーダンスが減少する。この影響は、血液滞留の割合および程度の違いによって、健常被験者に比べて静脈不全を患う被験者ではさらに深刻化する。
【0085】
姿勢変更中にインピーダンスを測定する対照患者の初期の検査では、インピーダンス変化の細胞外成分は充満および還流中に予想通りに変化するが、インピーダンスの細胞内成分は逆に反応することが示されている。すなわち、滞留が増加するにつれて、測定される細胞内液が減少する。これは細胞の重力沈降によるものであると予想される。細胞は、沈降するにつれて印加電流の方向を向く最小限の断面積で整列することとなる。これは、細胞の数の増加、したがって細胞内液の量の増加にもかかわらず、インピーダンス測定によって捕えられる断面積の減少、したがって、静脈充満中のインピーダンスの増加をもたらす。
【0086】
なお、細胞内および細胞外インピーダンスの変化を単独でまたは組み合せて使用してもよい。
装置の具体例をここで図3に関してさらに詳しく説明する。
【0087】
この例では、測定システム300は、コンピュータシステム310および独立した測定デバイス320を含む。測定デバイス320は、コンピュータシステム310との有線または無線通信を可能にするインターフェース321に結合された処理システム330を含む。また、処理システム330は、オプションとして322、323、324、325、326で示すような様々な種類のメモリなど、1つまたは複数の記憶装置に結合されてもよい。
【0088】
一例では、インターフェースはBluetooth(登録商標)スタックであるが、適切なインターフェースであればどんなインターフェースが採用されてもよい。メモリは、ブートアッププロセスによって必要な情報を記憶するブートメモリ322と、デバイスのシリアルナンバーをプログラム可能なプログラマブル・シリアル・ナンバー・メモリ323とを含んでいてもよい。また、メモリは、動作中に使用される、ROM(読出し専用メモリ)324、フラッシュメモリ325、およびEPROM(電気的にプログラム可能なROM)326を含んでいてもよい。これらは、当業者によって理解されるように、たとえば、ソフトウェア命令および処理中のデータを記憶するために使用されてもよい。
【0089】
以下でさらに詳しく説明するように、処理システム330をセンサ118A、118Bおよび信号発生器117A、117Bに結合するために、多数のアナログ−ディジタルコンバータ(ADC)327A、327B、328A、328Bおよびディジタル−アナログコンバータ(DAC)329A、329Bが備えられる。
【0090】
また、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、またはプログラマブル・ロジック・デバイスなどのコントローラが処理システム330の駆動を制御するために備えられてもよいが、さらに典型的には、これは処理システム330によって実行されるソフトウェア命令によって実施される。
【0091】
コンピュータシステム310の例を図4に示す。この例では、コンピュータシステム310は、図示のように、プロセッサ400、メモリ401、キーボードおよびディスプレイなどの入力/出力デバイス402、およびバス404を介して連結される外部インターフェース403を含む。外部インターフェース403を使用することで、コンピュータシステムは必要に応じて有線または無線接続によって測定デバイス320と通信することができ、したがって、これはネットワーク・インターフェース・カード、Bluetooth(登録商標)スタックなどの形態であってもよい。
【0092】
使用時、コンピュータシステム310は、測定デバイス320の動作を制御するために使用され得るが、これは代替的に測定デバイス300に備えられた別のインターフェースによって実現されてもよい。さらに、コンピュータシステム310を使用することで、インピーダンス測定値の分析の少なくとも一部を実施することができる。
【0093】
したがって、コンピュータシステム310は、所要のタスクを実行し得る適切なアプリケーションソフトウェアを実施する、適切にプログラムされたパソコン、インターネット端末、ノートパソコン、携帯用パソコン、スマートフォン、PDA、サーバなど、適切であればどんな処理システムから形成されてもよい。
【0094】
その一方、処理システム330は、典型的に、特定の処理タスクを実行してコンピュータシステム310に対する処理要求を軽減する。つまり、処理システムは、典型的に、命令を実行して、信号発生器117A、117Bを制御するとともに瞬時インピーダンス値を求める処理のための制御信号を発生することができる。
【0095】
一例では、処理システム330は、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)のようなカスタムハードウェアなどから形成されるが、磁気論理モジュールなど、適切であればどんな処理モジュールが使用されてもよい。
【0096】
一例では、処理システム330は、プログラマブルハードウェアを含み、その動作は組込みソフトウェア命令の形態の命令を用いて制御される。プログラマブルハードウェアを使用することによって、種々の信号を被験者Sに印加することができ、かつ測定デバイス320によって種々の分析を実施することができる。それゆえ、たとえば、種々の周波数で順次印加される信号を使用するのと比較して、同時に複数の周波数でインピーダンスを分析するように信号を使用する必要がある場合、種々の組込みソフトウェアが利用されることになる。
【0097】
使用される組込みソフトウェア命令は、コンピュータシステム310からダウンロードされ得る。あるいは、使用される命令を、測定デバイス320に備えられた入力デバイスを用いるかまたはコンピュータシステム310を用いることによって選択することができるように、命令をフラッシュメモリ325などのメモリに記憶することができる。その結果、処理システム330によって実装される組込みソフトウェアなどの命令を、コンピュータシステム310を用いて制御することができ、それにより、処理システム330の動作が変更される。
【0098】
さらに、コンピュータシステム310は、処理システム330によって求められたインピーダンスを分析するように動作することができ、それにより生物学的パラメータを求めることができる。
【0099】
単一処理システムによる別の配置が使用されてもよいが、コンピュータシステム310と処理システム330との間で処理を分割することにより、いくつかの利点を提供することができる。
【0100】
第1に、処理システム330を使用することにより、適切な組込みソフトウェアを使用して、カスタムハードウェア構成をより容易に適合させることができる。これにより、単一測定デバイスを使用して様々な種類の分析を実施することができる。
【0101】
第2に、カスタム構成された処理システム330を使用することにより、コンピュータシステム310に対する処理要求が軽減される。これにより、コンピュータシステム310を比較的簡単なハードウェアを用いて実装することができ、一方で、測定デバイスがインピーダンスの解釈を提供するために十分な分析を実施することが依然として可能である。
これは、たとえば、心機能に関係するパラメータを求めるためにインピーダンス値を用いるとともに、リンパ浮腫の有無を判断する「ベッセル」プロットを生成することを含み得る。
【0102】
第3に、これにより、測定デバイス320を更新することができる。つまり、たとえば、改良された分析アルゴリズムが作成されるか、または特定のインピーダンス測定タイプに対して改良された電流シーケンスが求められる場合、フラッシュメモリ325または外部インターフェース321を介して新たな組込みソフトウェアをダウンロードすることによって測定デバイスを更新することができる。
【0103】
使用時、処理システム330はディジタル制御信号を発生し、この信号はDAC329によってアナログ電圧駆動信号VDに変換されて信号発生器117に転送される。被験者に印加される駆動信号IDの電流を表わすアナログ信号と、第2の電極115A、115Bで測定される被験者電圧VSは、信号発生器117およびセンサ118から受け取られ、ADC327、328によってディジタル化される。ディジタル信号は、この後、予備的な分析のために処理システム330に戻すことができる。
【0104】
この例では、ADC327、328およびDAC329のそれぞれの組が、参照符号添え字A、Bによってそれぞれ指定されるように、2つのチャネルの各々に対して使用される。これにより、信号発生器117A、117Bの各々を独立に制御することができ、かつセンサ118A、118Bでは、それぞれ電極115A、115Bからの信号を検出することができる。これは2チャネルデバイスを表し、各チャネルは参照符号A、Bによって指定されている。
【0105】
実際には、好ましい実施態様に応じて、任意の数の適切なチャネルが使用されてよい。たとえば、4つの駆動電極および4つの検知電極が備えられ、それぞれの検知電極および駆動電極の対が各四肢に結合される、4チャネル配置を採用することが望ましい場合もある。この場合、8つのADC327、328と4つのDAC329の配置を用いることができ、そのため各チャネルはそれぞれのADC327、328およびDAC329を有する。あるいは、当業者には理解されるように、ADC327、328およびDAC329の2チャネル配置を4チャネル電極配置に選択的に結合する多重化システムを含めるなどして、他の配置が使用されてもよい。
【0106】
インピーダンス測定を実施するプロセスの例をここで図5を参照して説明する。
ステップ500において、電極は必要に応じて被験者に装着される。下肢のインピーダンスが求められるような一般的な配置は、測定される身体の側の手の指関節の付け根と足の指関節の付け根とに駆動電極113A、113Bを備えることである。また、検知電極115Aは測定される下肢の足首の前部に装着され、検知電極115Bは対側下肢のどこかに装着される。
【0107】
この構成では、電極位置がインピーダンス測定に関して再現性のある結果を提供し得る等電位の理論が使用される。これは、オペレータによる電極の不適切な装着に起因する測定値の変動を大幅に減らすので有利である。
【0108】
しかしながら、代りに他の配置も採用され得る。たとえば、検知電極は、対象となる下肢のどこかに備えられて、下肢全体に沿って、もしくはふくらはぎ体節などの下肢の一部(一般に脚体節と称される)に対してインピーダンスを測定し得る。
【0109】
ステップ510において、インピーダンス測定タイプがコンピュータシステム310を用いて選択され、コンピュータシステム310はインピーダンス測定プロトコルを決定し、それに応じて処理システム330を構成し得る。これは、典型的に、前述のように、処理システム330内のファームウェアまたはソフトウェア命令を構成することによって実現される。
【0110】
ステップ520において、処理システム300は次の測定周波数fiを選択し、ステップ530において選択された周波数の第1の信号を信号発生器117A、117Bから被験者に印加する。ステップ540において、信号発生器117A、117Bとセンサ118A、118Bは、脚体節を流れる電流と脚体節に発生する電圧の表示(indication)を処理システム330に提供する。
【0111】
ステップ550において、処理システム330は、すべての周波数が終了しているかどうかを判断し、終了していなければ、ステップ520に戻って次の測定周波数を選択する。ステップ560において、前述の方法を用いて、コンピュータシステム310、処理システム330、またはこれらの組合せによって、1つまたは複数の測定インピーダンス値が求められる。ステップ570において、オプションとして、1つまたは複数のインピーダンスパラメータ値が導かれてもよい。
【0112】
この点について、図6Aは、生体組織の電気的挙動を有効にモデル化する等価回路の例である。等価回路は、それぞれ細胞外液および細胞内液を流れる電流を表わす2つの分岐を有する。生体インピーダンスの細胞外液成分は細胞外抵抗Reによって表わされ、細胞内液成分は細胞膜を代表する細胞内抵抗Riおよび静電容量Cによって表わされる。
【0113】
交流電流(AC)のインピーダンスの細胞外成分および細胞内成分の相対振幅は周波数に依存する。ゼロ周波数において、コンデンサは完全絶縁体として働き、すべての電流は細胞外液を流れる。したがって、ゼロ周波数における抵抗R0は細胞外抵抗Reに等しい。無限大周波数において、コンデンサは完全導体として働き、電流は並列抵抗の組合せを流れる。無限大周波数における抵抗R∞は次式で与えられる。
【0114】
【数4】
したがって、角周波数ωにおける図6Aの等価回路のインピーダンスは、ω=2π×周波数の場合、次式で与えられる。
【0115】
【数5】
ここで、
R∞=無限大印加周波数におけるインピーダンス
R0=ゼロ印加周波数におけるインピーダンス=Re
τは容量性回路の時定数である。
【0116】
しかしながら、上式は細胞膜が不完全なコンデンサであるという事実を考慮しない理想化された状況を表している。このことを考慮すると、次式の修正モデルが得られる。
【0117】
【数6】
ここで、αは理想モデルからの実システムの偏差の指標であると考えられる分散パラメータであり、0〜1の値を有する。
【0118】
インピーダンスパラメータα、R0、R∞、またはZcの値は、以下のような複数の方法のいずれか1つで決定されてよい。
・選択された各周波数で実施されたインピーダンス測定値に基づいて値を推定する
・様々な周波数で求められたインピーダンス値に基づいて連立方程式を解く
・反復的な数学手法を適用する
・図6Bに示すような「ベッセルプロット」から外挿する
・多項式関数の使用など、関数適合法を実施する
たとえば、ベッセルプロットはBIS(生体インピーダンス分光法)生体インピーダンス分光法(BIS)デバイスで使用される場合が多く、このデバイスは4kHz〜1000kHzなどの周波数範囲で、この範囲内の256またはそれ以上の様々な周波数を用いて複数の測定を実施する。この後、R∞およびR0に対する値を計算し得る理論的な半円軌跡に測定データを適合させるために回帰手法が採用される。
【0119】
このような回帰分析は、計算コストが高くつき、典型的に、より大型またはより高価なデバイスを必要とする。さらに、回帰分析は多数のデータ点を必要とし、これにより、測定プロセスにかなりの時間を要する可能性がある。
【0120】
あるいは、3つの測定点のみを必要とするサークル法が採用され得る。この技法では、円を定義する3つのパラメータとして半径(r)と円の中心の座標(i、j)を計算し得る円上の各点の幾何学的関係を表わす3つの連立方程式が解かれる。これらの円パラメータから、R0およびR∞が幾何学の第一原理によって容易に計算される。
【0121】
このサークル法によって、回帰分析を実施する場合よりも安い計算コストでR0およびR∞に対する値を導くことが可能になり、必要なデータ点の数が減ってより高速な測定プロセスが可能になる。
【0122】
連立方程式の使用に伴う1つの潜在的欠点は、インピーダンス測定値の1つが何らかの理由で不正確である場合、これによってR0および/またはR∞の計算値に大きな偏差をもたらす可能性があることである。したがって、一例では、インピーダンス測定が3つよりも多くの周波数で実施され、3つの周波数でのインピーダンス測定値のあらゆる可能な組合せに対する円パラメータが計算される。平均値がColeモデルへのデータの適合度の尺度としての標準偏差とともに提供され得る。測定値の1つが不正確である場合、これは、平均値から最も大きくずれている測定値、または平均値からずれている標準偏差の個数が設定個数を超えている測定値など、1つまたは複数の異常な測定値を除外することによって解決され、平均値を再計算してより正確な値を提供することができる。
【0123】
このプロセスでは、4つまたは5つの測定値などの新たな測定値が使用されるが、これはBIS測定プロトコルを用いて典型的に実施される256以上の周波数よりも依然としてはるかに少なく、測定プロセスをより迅速に実施することができる。
【0124】
一例では、使用される周波数は0kHz〜1000kHzの範囲にあり。具体的な一例では、4つの測定値が25kHz、50kHz、100kHz、および200kHzの周波数で記録されるが、適切であればどんな測定周波数も使用され得る。
【0125】
R0およびR∞などのインピーダンスパラメータ値を求めるさらなる代替方法は、インピーダンス測定を単一周波数で実施し、これらの測定をパラメータ値の推定値として使用することである。この場合、単一の低周波数で実施される測定はR0を推定するために使用され、単一の高周波数で実施される測定はR∞を推定するために使用され得る。
【0126】
前述の等価回路は、抵抗率を一定値としてモデル化されており、したがって、被験者のインピーダンス応答を正確に反映しておらず、特に、被験者の血流内の赤血球の配向変化またはその他の緩和効果を正確にモデル化していない。人体の導電率をより確実にモデル化するために、改良されたCPEベースのモデルが代りに使用されてもよい。
【0127】
いずれにしても、R0、Zc、R∞、およびαなどのパラメータ値を求める技法として適切であればどんな技法が使用されてもよい。
また、パラメータ値を求めることにより、細胞外および細胞内体液レベルの抵抗の値を求めることができる。細胞外液の抵抗の値Reは、R0に等しいので容易に求められる。一方、細胞内液の抵抗の値Riは次式によって与えられる。
【0128】
【数7】
測定の間に体液レベルの変化が誘発される2つまたはそれ以上の測定に対する体液抵抗のパラメータ値を求めることにより、液レベルの変化を示す指標を導くことができ、この指標はその後に静脈不全の評価に使用され得る。
【0129】
静脈不全の評価を可能にするためにインピーダンス測定値を分析するプロセスの第1の具体例をここで図7を参照して説明する。
この例では、ステップ700において、少なくとも1つの第1のインピーダンス値が前述の方法を用いて第1の時刻に求められる。測定は、典型的に、被験者が背臥位または立位など特定の姿勢で実施される。これは血液滞留の影響を最大または最小にするために実施され、これは実施される分析に依存することになる。具体的なプロトコルに従って、測定が実施されるときに血液滞留のレベルが変化するように、第1の測定は被験者が所定の時間だけ特定の姿勢に置かれた後に、あるいは立位から背臥位などに姿勢を変更した後に実施される。
【0130】
この第1の具体例では、被験者は血液滞留の影響を最大にするために5〜15分などのある一定期間立たされる。一般に、血液滞留の顕著な増加は5分後に実現され、血中濃度はおよそ15分後に比較的変化の少ない最大値に達する。したがって、被験者が15分間立っていて血液滞留を最大にすることが好ましいが、5分後であっても測定を実施し得るだけの十分な滞留が起こる。このことから、選択される時間の長さは測定プロセスに利用可能な時間および被験者が立位を持続する能力などの要因に依存し得る。
【0131】
さらに、被験者は、立つ前に5〜15分などの一定期間背臥位で横たわることを求められる場合がある。これは、測定の実施に先立って、被験者により正確なベースライン状態を与えるよう、立つ前に血液滞留を最小にするために実施される。ここでも、滞留の顕著な減少が5分後に実現され、滞留のレベルは典型的におよそ15分後に適度に変化の少ない最小値に達する。したがって、採用される時間の長さは、測定を行うために利用可能な時間などの要因に依存することになる。
【0132】
ステップ710において、第1のインピーダンスパラメータ値R0およびR∞がオプションとして第1のインピーダンス測定値を用いて求められる。これは、前述のように、3つまたはそれ以上のインピーダンス値が測定される場合に実施され得る。あるいは、R0およびR∞の近似値は、R0の適度に近い近似値を提供するために10kHz未満などの低周波における第1の単一インピーダンス測定値と、R∞の適度に近い近似値を提供するために1000kHz超などの高周波における第2の単一インピーダンス測定値を用いて求められてもよい。
【0133】
ステップ720において、被験者の下肢の少なくとも1つの体節における細胞内液の抵抗の第1の値Rilが、R0およびR∞の決定された第1のインピーダンスパラメータ値を用いて求められる。細胞外液の抵抗の第1の値RelはこのパラメータがR0に等しいので、この時点で既知である。
【0134】
ステップ730において、少なくとも1つの第2のインピーダンス値は、典型的に、第1の測定の前または後に被験者の姿勢を変えた結果として被験者の体液レベルの変化に続いて、ステップ700と同様に第2の時刻に求められる。少なくとも1つの第1および第2のインピーダンス値の決定の間の時間は、オプションとして記録されてもよい。
【0135】
ステップ740において、第2のインピーダンスパラメータ値R0およびR∞は、第2のインピーダンス測定値を用い、かつ、典型的に、ステップ710における第1のインピーダンスパラメータ値に使用された方法と同じ方法を用いて求められる。ステップ750において、細胞内液の抵抗の第2の値Ri2は、R0およびR∞の決定された第2のインピーダンスパラメータ値を用いて求められる。同様に、細胞外液の抵抗の第2の値Re2も求められてよい。
【0136】
ステップ750において、指標が細胞内液の抵抗の第1および第2の値に基づいて求められる。この具体例では、指標は被験者内の細胞内液レベルの変化を示す。指標は、ステップ760において、静脈不全または浮腫を評価し得るようにユーザに表示される。
【0137】
指標は、細胞内液の抵抗の第1および第2の値Riの差に基づく数値など、適切であればどんな形の指標であってもよい。たとえば、指標Iは次式で与えられてもよい。
【0138】
【数8】
別の例では、細胞外液の抵抗の第1および第2の値Reがさらに求められ、指標は細胞内液の抵抗の第1および第2の値の差と細胞外液の抵抗の第1および第2の値の差との比に基づく。この例では、指標Iは次式で与えられてもよい。
【0139】
【数9】
また、指標は、静脈不全または浮腫の有無もしくは程度を示す数値を提供するように拡大縮小されてもよい。また、指標は、基準に対する数値の比較の結果に基づいていてもよい。基準は適切であればどんな形の基準であってもよい。それゆえ、一例では、基準はサンプル集団などから導かれる基準に基づいていてもよい。基準は、被験者パラメータに基づいて選択することができ、したがって、指標の値は同様の被験者パラメータを有する他の個人のサンプル集団の調査から導かれる指標の値と比較される。
【0140】
あるいは、基準は、被験者に関して過去に測定された基準、たとえば、被験者が静脈不全または浮腫を患う前に決定された基準に基づいていてもよい。これにより、縦断的解析を実施することが可能になり、その結果、静脈不全の発症または進行を評価することができる。
【0141】
さらなる代替方法として、基準は、腕などの被験者の異なる四肢に対して決定されたインピーダンスパラメータ値の等価的変化に基づいていてもよい。これは、静脈不全を患っていない被験者では、姿勢変更の結果としての細胞内液レベルの変化には四肢間の予測可能な関係があるので可能である。それゆえ、たとえば、被験者が細胞内液レベルの経時的変化の状況に一般的変化をもたらす静脈不全以外の病気を患っている場合、これが体節に評価可能な影響を与えるはずであり、したがって静脈不全の識別が可能になる。
【0142】
指標は、追加的および/または代替的に線形または非線形目盛でグラフ表示することができ、目盛上のポインタの位置は、細胞内液レベルの変化および/あるいは浮腫または静脈不全の有無もしくは程度を少なくとも部分的に示している。一例では、線形目盛は、サンプル集団データまたは他の基準から導かれるような、浮腫または静脈不全の有無を示す範囲を表わす値の閾値を含み得る。
【0143】
ステップ770において、ユーザは、さらなる調査が必要であるかどうかを評価するために指標を使用することができる。この点について、被験者が立位(脚体節の血液滞留が最大)から背臥位(脚体節の負荷が軽減)に移された後の細胞内液レベルの大幅な低下は、被験者が静脈不全を有することの分かりやすい兆候であるが、これはさらなる測定および/または分析によって確認される必要があるかもしれない。
【0144】
前述の例では、静脈不全の存在の迅速評価が可能である。迅速評価はBIAを用いて実施することが可能であり、BIAでは比較的簡単な装置と処理を採用することができ、その結果、より複雑な技法と比べて静脈不全の評価に必要な機器のコストが削減される。それにもかかわらず、プロセスはSPGおよびAPGなどの現在の非侵襲的技法よりも信頼性が高い。この点について、液レベルの変化は、この変化が四肢容量に顕著な影響を及ぼす前に典型的にインピーダンス測定を用いて検出することができ、その結果、インピーダンス測定プロセスはSPGやAPGなどの他の技法よりも感度が高くなる。
【0145】
前述の例およびこれに続く例では、血液滞留の影響が最大になる被験者の下肢に対して測定が実施され、その結果、静脈不全の識別に使用し得る指標を求めるための測定手順の有効性がきわめて高くなる。
【0146】
被験者の姿勢に関する測定の実施方法の例をここでさらに詳しく説明する。
図8の具体例では、ステップ800において、血液滞留を最大にする立位の被験者に関して第1のインピーダンス値が求められる。このステップにおける被験者の姿勢は、実質的に垂直位置に下肢を垂らして立っているか、もたれているか、あるいは座っている被験者を含んでいてもよい。第1のインピーダンス測定は、典型的に、血液滞留を最大にするために被験者が5〜15分などの所定の期間立っていた後で実施されるが、これは必須ではない。
【0147】
被験者は、この後、背臥位に姿勢を変更され、したがって、滞留血液を再分配することができ、ステップ810において、第2のインピーダンス値が背臥位にある被験者に関して求められる。このステップにおける姿勢は、座位からの下肢挙上、または背臥位にあって心臓位置上方に最大20cmの高さまでの下肢挙上など、血液滞留を抑制または最小化するように意図された他の姿勢であってもよい。以下の説明において、背臥という用語は、被験者の下肢における血液の滞留を最小化する姿勢を包含する。体液の再分配がその後に迅速に始まるように、第2のインピーダンス測定は姿勢の変更直後に実施されてよい。また、第2のインピーダンス測定は姿勢変更の所定時間後に実施されてよい。
【0148】
細胞内液の抵抗の値は、先に図7を参照して説明したように第1および第2のインピーダンス測定値の各々に対して求められ、ステップ820において、処理システム102は姿勢変更から得られる細胞内液レベルの変化に基づいて指標を求める。
【0149】
ステップ830において、指標は基準と比較され、基準はサンプル集団から得られる同様の指標値などに基づいていてもよい。あるいは、基準は、たとえば、静脈不全の発症前に被験者について事前に求めた第1および第2のインピーダンス値に基づいていてもよく、縦断的解析の実施が可能である。
【0150】
ステップ840において、比較の結果が被験者に表示されて、静脈不全および/または浮腫の評価に使用される。
この具体例における指標は、最大滞留ベースライン測定値と姿勢変更後の測定値との間の細胞内液レベルの変化を示す。これにより、被験者の集団に対して実施された測定からの基準値との直接的な比較が可能になる。
【0151】
図9の具体例では、ステップ900において、被験者は血液滞留を最大にするために5〜15分などの所定期間立位に置かれる。しかしながら、被験者が事前に立位にあった場合には、被験者が起立している時間を正確に管理することは必須でない。たとえば、被験者が測定開始前に立位または座位で待っていた場合、血液滞留が既に起こっている可能性があり、この場合、さらなる期間立っていても血液滞留の程度にほとんど影響を与えないことになる。一方、被験者が背臥位にあったか、または被験者の下肢が測定前に持ち上げられていた場合は、測定前に血液滞留を最大にするために所定期間立っている必要があることになる。
【0152】
被験者の血液滞留が最大になると、被験者の姿勢は背臥位に変更され、第1のインピーダンス値がステップ910において第1の時刻に求められる。この後、第2のインピーダンス値がステップ920において第2の時刻に求められる。さらに、第1および第2のインピーダンス値は、細胞内液レベルを示しており、したがって、複数の周波数における複数のインピーダンス測定値、または何らかの方法でインピーダンス測定値から導かれるようなインピーダンスパラメータ値α、R0、およびR∞に基づいていてもよい。
【0153】
この例では、第1および第2のインピーダンス値が求められる間に被験者は単一の姿勢にあり、測定の実施に先立つ姿勢の変更によって体液レベルの変化が誘発される。
ステップ930において、指標が第1および第2のインピーダンス値に基づいて求められる。この指標は、やはり、典型的に、測定間の被験者の体液レベル変化を示していることになり、上記の指標Iに基づいていてもよい。この例では、測定が単一姿勢にある被験者に関して実施されるので、体液変化のレベルは体液レベルの経時的な平均変化率を求めるために使用され得る。
【0154】
ここでも、指標は、ステップ940において基準と比較され、ステップ950において、比較の結果が、静脈不全および/または浮腫の評価に使用するために被験者に表示される。
【0155】
比較の結果は、変化の関連性を評価し得るように表示することができる。この点について、比較を行った結果、液レベルの低下が基準から求められた量を超えている場合は、立位にある被験者に著しい血液滞留があり、姿勢変更後に迅速に再分配することができたことを示すもので、これは静脈不全を示している。このことから、第1および第2のインピーダンス値の差の大きさが静脈不全の程度を示している可能性がある。
【0156】
前述の例では被験者は、最初は立っており測定が背臥位で行われているが、これは必須でなく、代りに、被験者は測定の実施前に血液滞留を最小にするために背臥位に置かれてもよい。この後、被験者は、立たせられた状態など、血液滞留を最大にする体位に置かれ、したがって、第1および第2の測定値は下肢における血液滞留の割合を反映する。
【0157】
オプションとして、複数のインピーダンス値が単一の姿勢で求められるように、さらなるインピーダンス値が取り込まれてもよい。たとえば、一連のインピーダンス測定値が30秒などの各測定間の所定期間に関して求められてもよく、インピーダンス値はその一連の各インピーダンス測定に対して求められてもよい。
【0158】
この後、一連の指標をインピーダンス値の連続ペアに対して求めることができ、被験者の体液の経時的変化をさらに詳しく調査することができる。あるいは、指標は、複数または一連のインピーダンス値に対して求めることができ、指標は体液レベルの経時的変化率を示している。いずれの場合も、経時的変化、すなわち変化率は、静脈不全の評価に使用され得る。
【0159】
2つよりも多くのインピーダンス値を使用すると体液レベルの変化のより詳細なプロファイルを調査することができる。たとえば、経時的なインピーダンス値のプロットは、体液レベルの変化を曲線としてグラフで示すために生成することができる。体液レベルの変化は典型的に静脈不全被験者の姿勢変更の直後により顕著になり対数形状の曲線となるが、健常被験者は経時的に一定の変化を表示する傾向があり直線形状の曲線となるので、変化する体液レベルを表わす曲線の特性は、健常被験者を静脈不全を患う被験者と識別するために使用することができる。
【0160】
体液レベルの変化率は、曲線の形状に基づいて、より詳細に評価し得るように処理システムによって求められてもよい。たとえば、指標は次式で与えられる細胞内抵抗の変化率に基づいていてもよい。
【0161】
【数10】
同様に、指標は、次式で与えられる細胞内抵抗と細胞外抵抗の比の変化率に基づいていてもよい。
【0162】
【数11】
前述のような導関数として変化率を求めると、変化率を基準値または閾値と直接比較することができる。たとえば、姿勢変更の直後に閾値を超える変化率の値は、静脈不全を示している可能性がある。
【0163】
別の例では、1組のインピーダンス測定値から取り込まれた経時的なインピーダンス値のプロットは、医師などのユーザに見せ、被験者の疾患を評価する際に使用して視覚的評価を実施することができる。たとえば、ユーザは、プロットの特性を基準値または正常集団を表わすプロット、過去の時点における同じ被験者のインピーダンス値の別のプロットと比較してもよい。あるいは、プロットが閾値と交差する場合に静脈不全の可能性があるように、プロットは閾値曲線が重畳されて表示されてもよい。プロットを使用すると、ユーザは被験者の疾患をより詳細に評価することができる。
【0164】
あるいは、一連のインピーダンス値の評価は、処理システムによって実施されて体液レベルの変化を示す一連のインピーダンス値から指標値を導くことができる。これらの指標値は、さらなる評価のためにユーザに見せることもでき、または基準値と比較して被験者の疾患をより迅速に評価することができる。
【0165】
静脈不全の評価において被験者の体液レベルの変化を示す指標の使用を可能にする具体的な生理学的メカニズムの例を、ここで図10A〜10Dを参照して説明する。
前述のように、細胞内体液の抵抗Ri(細胞内抵抗とも称される)は、静脈不全を患う被験者と健常被験者またはリンパ浮腫を患う被験者とを区別する指標の根拠として使用され得る。
【0166】
細胞内抵抗は、下肢をぶら下げた立位または座位などの血液の滞留を最大にする位置から一方または両方の下肢を水平に上げた背臥位または座位などの下肢の負荷を軽減する位置までの姿勢変化の後に減少することが分かっている。細胞内抵抗のこの減少は、重力による滞留の影響が最小化されるにつれて下腿部から滞留血液が流出した結果であり、かつこのプロセス中の血液細胞配向の変化に起因している。
【0167】
細胞内抵抗の大きさと減少率は、被験者の疾患を示している可能性のあるプロファイルに従う。たとえば、静脈不全を患っていない被験者では、細胞内抵抗の減少は比較的一定の速度で生じるが、一方、静脈不全を患う被験者では、初期の急激な減少が、被験者の血管内の弁の機能不全の結果として滞留した血液が下肢から排出されるときに生じる。したがって、健常被験者の細胞内抵抗のプロットは図10Aに示すように比較的一定の変化率の線形プロファイルを有することになるが、静脈不全被験者に関する同様のプロットは図10Bに示すように対数プロファイルの顕著な初期減少を有することになる。
【0168】
姿勢変更に続く細胞内抵抗のプロファイルは、健常被験者と静脈不全を患う被験者とを区別するために使用され得る。したがって、細胞内抵抗の変化または変化率を少なくとも部分的に示す指標は、静脈不全の評価に有用である可能性がある。
【0169】
姿勢の変更に続く細胞外体液の抵抗Re(細胞外抵抗とも称される)の変化は、さらに静脈不全を評価するために使用され得る。細胞外抵抗は細胞内抵抗を求めるプロセスにおいて効果的に決定または推定されるので、このパラメータを使用すると、細胞内抵抗が使用されている場合は処理負担を極度に増加させることにはならない。
【0170】
細胞外抵抗を更に使用すると、それぞれの被験者に対する細胞外抵抗の大きさおよび変化率の特性の違いによって、健常被験者、リンパ浮腫を患う被験者、および静脈不全を患う被験者を区別することができるようになる。健常被験者およびリンパ浮腫を患う被験者に対する細胞外抵抗のプロットの例を図10Cに示し、静脈不全を患う被験者に対するプロットを図10Dに示す。
【0171】
一例では、指標は、細胞内抵抗および細胞外抵抗の特性の差が疾患の識別に利用されるように、被験者の細胞内液レベルおよび細胞外液レベルのそれぞれの変化を示す。
また、先に図8および9を参照して説明したそれぞれの方法は、最大血液滞留のベースライン測定に続いて体液レベルの変化を評価し得るように姿勢を変更した後、2つまたはそれ以上の測定が実施されるように組み合わせられてもよい。インピーダンス測定値は長期間にわたって周期的に求められ、その間に被験者の姿勢が少なくとも一度は変更され、したがって、静脈不全の評価は一連のインピーダンス値に基づいていてもよい。
【0172】
姿勢の変更が被験者における体液のレベルの再分配を促す場合に、前述のインピーダンス測定法は立位および背臥位以外の第1および第2の姿勢にも適用され得る。たとえば、下肢の体液の排出または滞留を促す各位置の間では、一方の下肢の姿勢変化が前述の方法と関連して使用され得る。
【0173】
下肢における滞留のレベルを変える方法の例は、被験者の胴を一定の姿勢に保ったまま下肢のみの姿勢を変化させるものである。被験者が下肢の一方の位置のみを位置変更して横たわっているといった具合に、被験者の胴は水平であってもよい。一方、被験者が下肢の一方の位置のみを位置変更して座っているかまたは立っているといった具合に、被験者の胴は垂直であってもよい。
【0174】
一例では、被験者は、被験者の下肢を水平に伸ばして横たわっている第1の姿勢に置かれる。被験者は、この後、下肢を水平に対してある角度で上げて横たわっている第2の姿勢に体位を変えられる。下肢の一方を上げると、上げられた下肢から身体への体液の排出が促され、この例では、上げられた下肢から排出するときの体液の抵抗の変化を、指標を求めるために使用することができる。インピーダンス測定は、前述の方法を用いて第1および/または第2の姿勢で実施されてよい。
【0175】
オプションとして、被験者が下肢を正しい姿勢に保とうとしなくても済むように、持ち上げている被験者の下肢は支えられてもよい。このアプローチにより、測定期間を通じて患者をくつろいだ横臥位に保つことができる。これは長期間立っていることが困難な患者にとって有益である。
【0176】
別の例では、被験者の下肢の一方を、この下肢の滞留を促すために水平未満の角度に下げることができ、その間被験者は横臥位に保たれる。あるいは、被験者は、座っていてもよく、一方の下肢を下げながら他方の下肢を上げる姿勢をとることもできる。
【0177】
また、同様の方法では両下肢の同時の上げ下げを利用し得る。たとえば、ベッドの1つまたは複数のセクションを水平に対してある角度で傾けることができる可動式ベッド上に被験者を横臥位で保ち、こうして下肢の体液の排出または滞留を促すことができる。
【0178】
別の例では、一方の下肢を上げた横臥位にある第1の姿勢に置かれた被験者に関して第1のインピーダンス測定が実施され、やはり横臥位にあるが他方の下肢を上げている第2の姿勢に置かれた被験者に関して第2のインピーダンス測定が実施される。被験者の下肢の体液は姿勢変更の結果として第1および第2の測定の時刻の間に再分配される。したがって、下肢が択一的に上げられたときの体液の変化を示す測定値に基づいて指標が決定されてもよい。
【0179】
たとえば、一方の下肢を上げた状態で実施される測定は他方の下肢を上げた状態で実施される測定と比較されて、下肢の一方が他方の下肢よりも顕著に体液を排出したかどうかを示すことができる。これ利用すると、被験者が一方の下肢のみに静脈不全を有するかどうかの判断に役立てることができる。
【0180】
前述の例では、インピーダンスという用語は、一般に測定インピーダンス値または測定インピーダンスから導かれたインピーダンスパラメータ値を示す。抵抗という用語は、リアクタンス測定値のアドミッタンスなど、インピーダンスに関係する任意の測定値を示す。また、インピーダンス測定値という用語は、アドミッタンスおよび他の関連測定値を包含する。
【0181】
処理システムという用語は、処理を実施し得るすべての構成要素を含めることを意図しており、処理システムおよびコンピュータシステムのいずれか一方または両方を含み得る。
【0182】
上記の種々の例の特徴は、必要に応じて互換的に使用されてよい。たとえば、複数の異なる指標が求められてそれぞれの閾値と比較されてもよい。
さらに、上記の例は人間などの被験者に注目してきたが、前述の測定デバイスおよび技法は、霊長類、家畜、競走馬などの競技用動物を含むが、これらに限定されない任意の動物に利用され得る。
【0183】
前述のプロセスは生物学的指標を求める際に利用することができ、生物学的指標は浮腫、リンパ浮腫、身体組成などを含むが、これらに限定されない広範な疾患および病気の有無または程度の診断に利用することができる。
【0184】
さらに、前述の例は被験者に電流を流す電圧信号の印加に注目しているが、これは必須ではなく、電流信号を印加する際のプロセスも採用することができる。
数多くの変形形態および変更形態が明らかになることを、当業者であれば理解し得る。当業者にとって明らかになるこのような変形形態および変更形態はすべて、本発明において先に広範囲に説明したような趣旨および範囲に包含されるものと考えられるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用する方法であって、被験者は被験者の少なくとも1つの脚体節における体液レベルが第1の時刻と第2の時刻との間で変化するように配置され、前記方法は、処理システムにおいて、
a)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を前記第1の時刻に求めること、
b)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を前記第2の時刻に求めること、
c)前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、前記体液レベルの変化を示す指標を求めること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記指標は、前記少なくとも1つの脚体節における細胞内液レベルを少なくとも部分的に示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記指標は、前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値との間の変化を示す、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)前記指標を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように前記比較の結果の表示を提供すること、
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)第2の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)前記被験者を所定期間第2の姿勢に置いた後、前記第1の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、
a)前記被験者を所定期間第1の姿勢に置くこと、
b)前記被験者を第2の姿勢に置くこと、
を含み、前記方法はさらに、前記処理システムにおいて、
c)前記第2の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値とを求めること、
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者の胴は一定の姿勢を保っており、前記被験者が前記第1の姿勢にあるとき前記被験者の第1の下肢は第1の位置に置かれ、前記被験者が前記第2の姿勢にあるとき前記被験者の前記第1の下肢は第2の位置に置かれる、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)単一の姿勢にある前記被験者に関して複数のインピーダンス値を求めること、
b)前記複数のインピーダンス値に基づいて前記指標を求めること、
を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記インピーダンス値の少なくとも1つの経時的な変化を調査することを含み、前記インピーダンス値の前記少なくとも1つの変化は静脈不全の評価に使用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記インピーダンス値の経時的な変化率を調査することを含み、前記変化率は静脈不全の評価に使用される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記変化率が、
a)一定である、
b)一定でない、
c)対数である、
のうちの少なくとも1つであるかどうかを判断することによって前記変化率を静脈不全の評価に用いることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)前記変化率を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように前記比較の結果の表示を提供すること、
を含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのインピーダンス測定値が、
a)100kHz未満、
b)50kHz未満、
c)10kHz未満、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、前記処理システムにおいて、ゼロ測定周波数における前記被験者の抵抗の推定値として前記少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのインピーダンス測定値が、
a)200kHz超、
b)500kHz超、
c)1000kHz超、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、前記処理システムにおいて、無限大測定周波数における前記被験者の抵抗の推定値として前記少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値はインピーダンスパラメータ値に基づいている、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)複数のインピーダンス測定値を求めること、
b)前記複数のインピーダンス測定値から少なくとも1つのインピーダンスパラメータ値を求めること、
を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記インピーダンスパラメータ値は、
ゼロ周波数における抵抗であるR0、
無限大周波数における抵抗であるR∞、
特性周波数における抵抗であるZc、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記方法は、前記処理システムにおいて、次式を用いて前記パラメータ値を求めることを含み、
【数1】
ここで、
Zは角周波数ωにおける測定インピーダンスであり、
τは時定数であり、
αは0〜1の値を有する、請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)前記複数のインピーダンス測定値からインピーダンスパラメータR0の値とインピーダンスパラメータR∞の値を求めること、
b)次式を用いて細胞内液の抵抗であるインピーダンスパラメータRiの値を計算すること、
【数2】
を含む、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記方法は、前記処理システムにおいて、次式のうち少なくとも1つを用いて前記指標を求めることを含み、
【数3】
ここで、
Iは指標であり、
ΔRiは細胞内液の抵抗の変化であり、
ΔReは細胞外液の抵抗の変化であり、
Re=R0である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記インピーダンス測定を実施させることを含む、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を前記被験者に印加させること、
b)前記印加された1つまたは複数の電気信号に応じて前記被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定すること、
c)前記印加された電気信号および前記測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求めること、
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記指標は静脈不全の評価に使用される、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用する装置であって、該装置は処理システムを含み、該処理システムは、
a)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求め、
b)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求め、
c)前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、前記体液レベルの変化を示す指標を求める、装置。
【請求項29】
前記装置は、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を前記被験者に印加させ、
b)前記印加された1つまたは複数の電気信号に応じて前記被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定し、
c)前記印加された電気信号および前記測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求める、
処理システムを含む、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記装置は、
a)電気信号を発生する信号発生器と、
b)電気信号を検知するセンサと、
を含む、請求項29に記載の装置。
【請求項1】
被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用する方法であって、被験者は被験者の少なくとも1つの脚体節における体液レベルが第1の時刻と第2の時刻との間で変化するように配置され、前記方法は、処理システムにおいて、
a)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を前記第1の時刻に求めること、
b)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を前記第2の時刻に求めること、
c)前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、前記体液レベルの変化を示す指標を求めること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記指標は、前記少なくとも1つの脚体節における細胞内液レベルを少なくとも部分的に示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記指標は、前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値との間の変化を示す、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)前記指標を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように前記比較の結果の表示を提供すること、
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)第2の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)第1の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)前記被験者を所定期間第2の姿勢に置いた後、前記第1の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、
a)前記被験者を所定期間第1の姿勢に置くこと、
b)前記被験者を第2の姿勢に置くこと、
を含み、前記方法はさらに、前記処理システムにおいて、
c)前記第2の姿勢にある前記被験者に関して前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値とを求めること、
を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者の胴は一定の姿勢を保っており、前記被験者が前記第1の姿勢にあるとき前記被験者の第1の下肢は第1の位置に置かれ、前記被験者が前記第2の姿勢にあるとき前記被験者の前記第1の下肢は第2の位置に置かれる、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)単一の姿勢にある前記被験者に関して複数のインピーダンス値を求めること、
b)前記複数のインピーダンス値に基づいて前記指標を求めること、
を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記インピーダンス値の少なくとも1つの経時的な変化を調査することを含み、前記インピーダンス値の前記少なくとも1つの変化は静脈不全の評価に使用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記インピーダンス値の経時的な変化率を調査することを含み、前記変化率は静脈不全の評価に使用される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記変化率が、
a)一定である、
b)一定でない、
c)対数である、
のうちの少なくとも1つであるかどうかを判断することによって前記変化率を静脈不全の評価に用いることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)前記変化率を基準と比較すること、
b)静脈不全の有無または程度を判断し得るように前記比較の結果の表示を提供すること、
を含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値を求めること、
b)複数の異なる周波数で実施される複数のインピーダンス測定を用いて前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値を求めること、
を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのインピーダンス測定値が、
a)100kHz未満、
b)50kHz未満、
c)10kHz未満、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、前記処理システムにおいて、ゼロ測定周波数における前記被験者の抵抗の推定値として前記少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのインピーダンス測定値が、
a)200kHz超、
b)500kHz超、
c)1000kHz超、
のうちの少なくとも1つの測定周波数で測定される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、前記処理システムにおいて、無限大測定周波数における前記被験者の抵抗の推定値として前記少なくとも1つのインピーダンス測定値を用いることを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値はインピーダンスパラメータ値に基づいている、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)複数のインピーダンス測定値を求めること、
b)前記複数のインピーダンス測定値から少なくとも1つのインピーダンスパラメータ値を求めること、
を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記インピーダンスパラメータ値は、
ゼロ周波数における抵抗であるR0、
無限大周波数における抵抗であるR∞、
特性周波数における抵抗であるZc、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記方法は、前記処理システムにおいて、次式を用いて前記パラメータ値を求めることを含み、
【数1】
ここで、
Zは角周波数ωにおける測定インピーダンスであり、
τは時定数であり、
αは0〜1の値を有する、請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)前記複数のインピーダンス測定値からインピーダンスパラメータR0の値とインピーダンスパラメータR∞の値を求めること、
b)次式を用いて細胞内液の抵抗であるインピーダンスパラメータRiの値を計算すること、
【数2】
を含む、請求項21または請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記方法は、前記処理システムにおいて、次式のうち少なくとも1つを用いて前記指標を求めることを含み、
【数3】
ここで、
Iは指標であり、
ΔRiは細胞内液の抵抗の変化であり、
ΔReは細胞外液の抵抗の変化であり、
Re=R0である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法は、前記処理システムにおいて、前記インピーダンス測定を実施させることを含む、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法は、前記処理システムにおいて、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を前記被験者に印加させること、
b)前記印加された1つまたは複数の電気信号に応じて前記被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定すること、
c)前記印加された電気信号および前記測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求めること、
を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記指標は静脈不全の評価に使用される、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
被験者に対して実施されるインピーダンス測定の分析に使用する装置であって、該装置は処理システムを含み、該処理システムは、
a)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第1のインピーダンス値を第1の時刻に求め、
b)前記被験者の前記少なくとも1つの脚体節のインピーダンスを示す少なくとも1つの第2のインピーダンス値を第2の時刻に求め、
c)前記少なくとも1つの第1のインピーダンス値と前記少なくとも1つの第2のインピーダンス値とに基づいて、前記体液レベルの変化を示す指標を求める、装置。
【請求項29】
前記装置は、
a)第1の組の電極を用いて1つまたは複数の電気信号を前記被験者に印加させ、
b)前記印加された1つまたは複数の電気信号に応じて前記被験者に印加される第2の組の電極間の電気信号を測定し、
c)前記印加された電気信号および前記測定された電気信号から少なくとも1つのインピーダンス測定値を求める、
処理システムを含む、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記装置は、
a)電気信号を発生する信号発生器と、
b)電気信号を検知するセンサと、
を含む、請求項29に記載の装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6A】
【図6B】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図3】
【図4】
【図6A】
【図6B】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【公表番号】特表2013−514845(P2013−514845A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545012(P2012−545012)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001713
【国際公開番号】WO2011/075769
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(505186876)インぺディメッド リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】IMPEDIMED LIMITED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001713
【国際公開番号】WO2011/075769
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(505186876)インぺディメッド リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】IMPEDIMED LIMITED
【Fターム(参考)】
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