説明

インプリント用モールド構造体、並びに磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】データ領域内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマーク(DAM)を凹凸パターンで設けることにより、熱揺らぎや欠陥による読み出し不良、及び書き込み時の位置ずれ不良を回避することができるインプリント用モールド構造体、磁気記録媒体の製造方法、及び磁気記録媒体の提供。
【解決手段】サーボデータが記録されるサーボ領域と、ユーザデータを書き込むためのデータ領域とを有する磁気記録媒体を製造するためのインプリント用モールド構造体であって、前記サーボ領域に対応するパターンと、前記データ領域に対応するパターンとを有し、前記データ領域に対応するパターン内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマークに対応する形状を有するインプリント用モールド構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用モールド構造体、並びに磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速性及びコストに優れたハードディスクドライブが、ストレージ機器の主力として、携帯電話、小型音響機器や、ビデオカメラなどのポータブル機器に搭載され始め、より一層の小型大容量化という要求に応えるために、記録密度を向上させる技術が求められている。
従来よりハードディスクドライブの記録密度を高めるためには、磁気記録媒体の高性能化、及び磁気ヘッド幅の狭小化という手法が用いられてきたが、データトラック間隔を狭めることにより、隣接トラック間の磁気の影響(クロストーク)や、熱揺らぎの影響が無視できなくなり、磁気ヘッドの狭小化などによる面記録密度の向上には限界があった。
【0003】
そこで、クロストークによるノイズを解決する手段として、ディスクリートトラックメディアと呼ばれる形態の磁気記録媒体が提案されている(特許文献1〜2参照)。
ディスクリートトラックメディアは、隣接するトラック間に非磁性のガードバンド領域を設けて個々のトラックを磁気的に分離したディスクリート構造とすることにより、隣接トラック間の磁気的干渉を低減させたものである。
【0004】
上記ディスクリートトラックメディアを製造する際には、特許文献3に開示されたように、レジストパターン形成用モールドを用いて、磁気記録媒体の表面に形成されたレジスト層に所望のパターンを転写するインプリントリソグラフィー法がある。
【0005】
前記インプリントリソグラフィー法では、以下のような方法により、磁気記録媒体上の磁性体パターンと逆パターンの凸部を有するインプリント用モールド構造体を作製する。まず、Si基板上に電子線レジストを塗布し、電子線により所定のパターンを描画し、現像して電子線レジストの凹凸パターンを形成する。次いで、電子線レジストの凹凸パターンを形成したSi基板に対して電鋳処理を行い、電鋳により形成された金属ディスクを剥離してインプリント用モールド構造体を作製する。次に、例えば、以下のようなインプリントリソグラフィー法により磁気記録媒体を作製する。基板上に磁性膜を製膜し、レジストを塗布する。レジストにインプリント用モールド構造体を押し付けて、インプリント用モールド構造体の表面の凹凸をレジスト表面に転写する。インプリント用モールド構造体を取り外した後、凹凸が転写されたレジストをマスクとして磁性膜を加工し、所望の磁性体パターンが形成された磁気記録媒体を製造する。
【0006】
例えばサーボ領域と、ディスクリートデータ領域とを有するインプリント用モールド構造体を用いてインプリント法により形成された磁気記録媒体では、物理的に形成されたデータ領域に磁気ヘッドを使用してユーザデータを記録していくことになる。このため、同一トラックのデータセクター間については連続であり、熱揺らぎや欠陥による影響を受けることになる。
ここで、データセクターにはユーザデータ以外にも該ユーザデータの開始位置を示す同期用のマーク(データアドレスマーク;DAM)などを有している。このDAMは、通常磁気ヘッドにより書かれている。該DAMを確実に検出できないとデータセクターを読み出すことができず、磁気記録装置の性能及び品質に重大な影響を与えてしまうおそれがあるが、上述した熱揺らぎや欠陥により、DAMの読み出し不良、及び書き込み時の位置ずれ不良が生じるおそれがあり、その対応が望まれているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開昭56−119934号公報
【特許文献2】特開平2−201730号公報
【特許文献3】特開2004−221465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、データ領域内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマーク(DAM)を凹凸パターンで設けることができ、熱揺らぎや欠陥による読み出し不良、及び書き込み時の位置ずれ不良を回避することができるインプリント用モールド構造体、磁気記録媒体の製造方法、及び磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、(1)ディスクリートトラックメディアにおいて、予め、インプリント用モールド構造体の溝部にデータ開始部を検出するデータアドレスマークに対応する凹凸パターンを形成しておくことで、インプリント後の磁気記録媒体のデータ領域において磁気特性の影響による読み出し不良を改良できることを知見した。また、(2)磁気記録媒体をドライブに組み込んだ後にヘッドで磁気フォーマットされたトラックではなく、予め形成されたトラックであるため偏心、位置ずれの影響で正確にトラックの中心にヘッドを位置決めすることが困難になる場合、予めデータアドレスマークを凹凸パターンで形成しておくことで書き込み不良のリスクを軽減できることを知見した。
【0010】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> サーボデータが記録されるサーボ領域と、ユーザデータを書き込むためのデータ領域とを有する磁気記録媒体を製造するためのインプリント用モールド構造体であって、
前記サーボ領域に対応するパターンと、前記データ領域に対応するパターンとを有し、
前記データ領域に対応するパターン内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマークに対応する形状を有することを特徴とするインプリント用モールド構造体である。
<2> パターンが、ディスクリートパターン及びドットパターンのいずれかである前記<1>に記載のインプリント用モールド構造体である。
<3> データアドレスマークに対応する形状が、サーボ領域に対応するパターンとサーボ領域に対応するパターンの間に配置されている前記<1>から<2>のいずれかに記載のインプリント用モールド構造体である。
<4> データアドレスマークに対応するパターンが、モールド構造体の半径方向の内周部から外周部まで配置されている前記<1>から<3>のいずれかに記載のインプリント用モールド構造体である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかのインプリント用モールド構造体を用いたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
<6> 前記<5>に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、データ領域内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマーク(DAM)を凹凸パターンで設けることができ、熱揺らぎや欠陥による読み出し不良、及び書き込み時の位置ずれ不良を回避することができるインプリント用モールド構造体、磁気記録媒体の製造方法、及び磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(インプリント用モールド構造体)
本発明のインプリント用モールド構造体は、サーボデータが記録されるサーボ領域と、ユーザデータを書き込むデータ領域とを有する磁気記録媒体を製造するものである。
前記サーボ領域に対応するパターンと、前記データ領域に対応するパターンと、前記データ領域に対応するパターン内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマークに対応する形状とを有する。
【0013】
<データ領域に対応するパターン>
前記データ領域は、ユーザデータを書き込むためのパターンを有する領域である。
前記パターンとしては、ディスクリートパターン及びドットパターンのいずれかであることが好ましい。即ち、本発明のインプリント用モールド構造体は、ディスクリートトラックメディア(DTM)及びビットパターンドメディア(BPM)のいずれにも適用することができる。
【0014】
本発明のインプリント用モールド構造体においては、前記データ領域に対応するパターン内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマークに対応する形状を有する。これにより、データ領域の磁気ノイズによる読み出しエラーを回避することができる。
前記データアドレスマークに対応する凹凸パターンは、サーボ領域に対応する凹凸パターンとサーボ領域に対応する凹凸パターンの間に配置されていることが、データセクターのトリガーを現す観点から好ましい。
また、前記データアドレスマークに対応する凹凸パターンが、モールド構造体の半径方向の内周部から外周部まで配置されていることが好ましい。
【0015】
前記データアドレスマークに対応する形状としては、その形状、大きさ、数、位置などは、対応するデータセクターに応じて異なるが、前記形状は凹凸パターン、直方体形状、又は円柱形状であることが好ましい。前記大きさは、半径方向はデータトラック幅と同じ、円周方向は1つの凸、凹がデータの1ビット以上であることが好ましい。前記数は数バイト程度、例えば8バイトなどであることが好ましい。前記位置は各データセクターのプリアンブルとユーザデータ部の間、又は前のデータセクター終わりと次のデータセクター始めのプリアンブルの間であることが好ましい。
【0016】
ここで、前記データセクターは、図1に示すような構成からなり、プリアンブルと、データアドレスマーク(DAM)と、ユーザデータと、ECC(エラーコレクトコード)とを有している。
前記プリアンブルは、再生時に使用するPLL回路の同期信号であり、10〜20バイト程度のデータで構成されている。
前記データアドレスマーク(DAM)は、再生時にユーザデータの先頭を見つけるためのコードであり、DAMが検出されないとユーザデータを再生できないので、DAMに1ビット誤りがあっても認識できるように、複数のマッチングが可能なコード(エラー・トレラント・コード)を使用している。
前記ユーザデータは、ユーザが任意に作成したデータであり、HDDでは現状512バイトの固定である。
前記ECCは、エラー訂正用のデータであり、30〜40バイト程度である。
【0017】
なお、各トラック間、又は同一トラック内でも、各マーク間で凹凸パターンの形状が異なっていても構わない。
また、1つのデータセクター内に1つ以上のデータアドレスマークに対応する形状があっても構わない。その場合、複数の周期間隔が存在しても構わない。
前記データアドレスマーク(DAM)に対応する形状の単一ビット長は、データプリアンブルのビット長と同等以上であることが信号読み出しの観点で好ましい。
【0018】
<サーボ領域に対応するパターン>
前記サーボ領域は、プリアンブル部、アドレス部、及びバースト部に分けられる。
前記プリアンブル部は、再生信号のクロックを同期させるための情報が記録された領域である。
前記アドレス部は、サーボマークと呼ばれるサーボ信号認識コード、セクター情報、シリンダ情報等が、前記プリアンブル部の円周方向におけるピッチと同一のピッチで、マンチェスタコードにより形成された領域である。前記シリンダ情報は、サーボトラック毎にその情報が変化するパターンとなる。そのため、ヘッドシーク動作時のアドレス判読ミスの影響が小さくなる様に、グレイコードと呼ばれる隣接トラックとの変化が最小となるコード変換をしてから、マンチェスタコード化して記録されている。
前記バースト部は、シリンダアドレスのオントラック状態からのオフトラック量を検出するためのオフトラック検出用領域で、更にA、B、C、Dバーストと呼ばれる4つの径方向にパターン位相をずらしたマークが形成されている。各バーストには、周方向に複数個のマークがプリアンブル部と同一のピッチ周期で配置され、径方向周期は、アドレスパターンの変化周期に比例、換言すれば、サーボトラック周期に比例した周期で設けられている。本発明においては、各バーストは、周方向に10周期分形成され、径方向に、サーボトラック周期の2倍長周期で繰返すパターンを取っている。
【0019】
ここで、図2は、本発明の磁気記録媒体の一例を示す部分概略図であり、データ領域の各トラックには、DAMが形成されている。このDAMはサーボ領域とサーボ領域との間に位置している。
また、図3は、本発明の磁気記録媒体の概略構成の一例を示す平面図である。
この図3において、磁気記録媒体1は、同心円上に設けられた複数のトラック100と、略放射状に形成された複数のサーボ領域120と、サーボ領域120により分断された複数のデータ領域110とを有し、更に必要に応じて、その他の部材を備える。
前記データ領域110内には、データセクターを検出するためのデータアドレスマーク130が形成されている。
なお、図3におけるA方向は円周方向、B方向は半径方向である。
【0020】
図4は、図3の磁気記録媒体のデータ領域110と、サーボ領域120との拡大図である。
図4において、磁気記録媒体1は、各サーボ領域120のトラック方向にデータ領域110が並列配置された構造となっている。
【0021】
−データ領域−
データ領域110は、磁気記録再生装置の磁気ヘッドによってユーザデータを書き込み可能な領域である。
データ領域110は、磁気ヘッドによってユーザデータの書き込み可能な磁性帯112を有する複数のトラックが設けられ、隣接するトラック間にはユーザデータの書き込み不能な非磁性帯111が設けられている。即ち、磁気記録媒体は、磁性帯112が非磁性帯111によって物理的に分離されたディスクリートトラック型の記録媒体となっている。
データ領域110内には、データセクターを検出するためのデータアドレスマーク130が形成されている。
前記データアドレスマーク130は、データ領域110内であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、サーボ領域120とサーボ領域120との間に設けられている。また、データアドレスマーク130が、磁気記録媒体の半径方向の内周部から外周部まで配置されている。
データアドレスマークは1データセクターに1個以上配置されるため、データセクター数に応じ変化する。例えば一般的に内周よりも外周の方がデータセクター数多いため、データアドレスマークは外周のほうが多くなる。1つのデータセクターがサーボで分割されるとき、分割された後ろのデータセクターの開始位置にデータアドレスマークが配置されることもある。データアドレスマークとしては、例えば図6に示すような、“001001001001001001”のパターンなどが挙げられる。
【0022】
前記磁気記録媒体におけるデータアドレスマーク(DAM)は、所望の凹凸パターンに加工したインプリント用モールド構造体を用いてインプリントし、磁気記録媒体をエッチングすることで形状加工することができる。
【0023】
−サーボ領域−
サーボ領域120は、磁気記録再生装置の磁気ヘッドを磁気記録媒体上の位置検出を行
うためのサーボデータが事前に記録される領域である。
サーボ領域120は、磁気記録媒体製造時においてインプリント用モールド構造体(スタンパ)による全面転写により磁性部121、123と非磁性部122、124が形成されており、非磁性部122、124は非磁性体を充填した構造となっている。磁気記録再生装置の磁気ヘッドによりサーボ領域120のサーボデータを再生する場合、非磁性部122、124は2進値「0」、各磁性部121、123は2進値「1」として再生される。
【0024】
サーボ領域120は、図4に示すように、プリアンブル領域120aとアドレス領域120bとバースト領域120cとから構成されている。
なお、磁気記録媒体1では、磁性部121、123及び磁性帯112において磁性膜を垂直方向(媒体厚み方向)に磁化した垂直磁気記録方式を採用している。また、磁気記録媒体1において、非磁性帯111及び非磁性部122、124は非磁性体を充填した構成しているが、非磁性体を充填する代わりに非磁性帯111及び非磁性部122、124を空隙とした構造としてもよい。
【0025】
プリアンブル領域120aは、信号アンプの増幅率を調整して振幅を一定にするためのサーボデータが記録される領域であり、かかるサーボデータのコード「1」に対応した磁性部121とコード「0」に対応した非磁性部122が形成されている。プリアンブル領域120aは、アドレス領域120b及びバースト領域120cよりも先に磁気ヘッドによって読み出される。
【0026】
アドレス領域120bは、サーボマーク120dというコードや、セクタ情報120e、シリンダ情報120f等(図5参照)を有するサーボデータが記録される領域であって、2進値「0」をコード「01」で、2進値「1」をコード「10」で表すマンチェスタ符号化方式でサーボデータが記録される領域である。アドレス領域120bには、かかるサーボデータのマンチェスタ符号化方式のコード「1」に対応した磁性部123とコード「0」に対応した非磁性部124が形成されている。
【0027】
バースト領域120cは、トラック中心位置に対する磁気ヘッドの相対位置である位置偏差情報を求めるためのサーボデータが記録される領域である。
【0028】
−その他の部材−
前記その他の部材としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
ここで、図7は、本発明のインプリント用モールド構造体の概略構成を示す平面図である。また、図8は、本発明のインプリント用モールド構造体の部分構成を示す平面図である。
【0030】
図7及び図8に示すように、インプリント用モールド構造体400は、上述した磁気記録媒体1を製造するために用いられ、データ領域110に対応する凹凸パターン410と、サーボ領域120に対応する凹凸パターン420とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を備える。
【0031】
−データ領域に対応するパターン−
データ領域110に対応する凹凸パターン410は、磁性帯112に対応する凹部411と、非磁性帯111に対応する凸部412とを有する。
データ領域110に対応する凹凸パターン410中には、データアドレスマーク130に対応する凹凸パターン430を有している。
【0032】
−サーボ領域に対応するパターン−
サーボ領域120に対応する凹凸パターン420は、プリアンブル領域120aに対応する凹凸パターン420aと、アドレス領域120bに対応する凹凸パターン420bと、バースト領域120cに対応する凹凸パターン420cとからなる。
凹凸パターン420aは、磁性部121に対応する凹部421と、非磁性部122に対応する凸部422とを有する。凹凸パターン420bは、磁性部123に対応する凹部423と、非磁性部124に対応する凸部424とを有する。
【0033】
−その他の部材−
前記その他の部材としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インプリントレジスト層に対して剥離機能を備えたモールド表層、保護膜として付与されたカーボン膜等が挙げられる。
【0034】
<インプリント用モールド構造体の作製方法>
以下、本発明に用いられるインプリント用モールド構造体400の作製方法の例について図面を参照して説明する。なお、本発明に用いられるインプリント用モールド構造体400は、下記の作製方法以外の作製方法により作製されたものであってもよい。
【0035】
−原盤の作製−
図9A及び図9Bは、インプリント用モールド構造体の製造方法を示す断面図である。図9Aに示すように、まず、Si基板10上に、スピンコートなどで電子線レジスト液を塗布し、フォトレジスト層21を形成する。
その後、Si基板10を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビームを照射し、フォトレジスト全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
その後、フォトレジスト層21を現像処理し、露光部分を除去して、除去後のフォトレジスト層21のパターンをマスクにしてRIEなどにより選択エッチングを行い、凹凸形状を有する原盤11を得る。
【0036】
−インプリント用モールド構造体の作製−
次に、図9Bに示すように、光硬化性樹脂を含有するインプリントレジスト液を塗布してなるインプリントレジスト層24が一の面に形成された被加工基板としての石英基板30に対して、原盤11を押し当て、原盤11に形成された凹凸パターンがインプリントレジスト層24に転写される。
【0037】
ここで、前記被加工基板の材料は、光透過性を有し、モールド構造体として機能する強度を有する材料であれば、特に制限されることなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、石英(SiO)等が挙げられる。
また、前記「光透過性を有する」とは、具体的には、被加工基板にインプリントレジスト層が形成される一の面から出射するように、前記被加工基板の他方の面から光を入射させた場合に、インプリントレジストが十分に硬化することを意味しており、少なくとも、前記他方の面から前記一の面への光透過率が50%以上であることを意味する。
また、前記「モールド構造体として機能する強度を有する」とは、磁気記録媒体の基板に形成されたインプリントレジスト層に対して、平均面圧力が4kgf/cmという条件で押し当て、加圧しても耐えられるような強度を意味する。
【0038】
−−硬化工程−−
その後、インプリントレジスト層24に紫外線を照射して転写されたパターンを硬化させる。
【0039】
−−パターン形成工程−−
その後、転写されたパターンをマスクにしてRIEなどにより選択エッチングを行い、凹凸パターンが形成されたインプリント用モールド構造体400を得る。
なお、上述したインプリント用モールド構造体400は、紫外線を利用したナノインプリントリソグラフィー(NIL)の場合を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、凹凸形状を有する原盤11に、Ni導電膜層を付与し、Ni電鋳を行い、原盤11から剥離してNiモールドを得る熱を利用したナノインプリントリソグラフィー(NIL)であってもよい。
【0040】
(磁気記録媒体の製造方法)
以下、インプリント用モールド構造体400を用いて製造する磁気記録媒体1(ディスクリートトラックメディアや、パターンドメディアなど)の製造方法を、図面を参照して説明する。ただし、本発明に係る磁気記録媒体1の製造方法は、インプリント用モールド構造体400を用いていれば、下記の製造方法以外であってもよい。
【0041】
図10に示すように、磁性層50と、インプリントレジスト液を塗布してなるインプリントレジスト層24とがこの順に形成された磁気記録媒体1の基板40に対して、インプリント用モールド構造体400を押し当て、加圧することにより、インプリント用モールド構造体400に形成された凹凸パターンがインプリントレジスト層24に転写される。
【0042】
その後、インプリント用モールド構造体400に形成された凹凸パターンが転写されたインプリントレジスト層24をマスクにして、RIEなどにより選択エッチングを行い、インプリント用モールド構造体400に形成された凹凸パターンを磁性層50に形成し、凹部に非磁性材料70を埋め込み、表面を平坦化した後、必要に応じて、保護膜などを形成して磁気記録媒体1を得る。
【0043】
本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体は、ディスクリート型磁気記録媒体及びパターンドメディア型磁気記録媒体の少なくともいずれかであることが好適である。
【0044】
以上、本発明のインプリント用モールド構造体、並びに磁気記録媒体及びその製造方法について詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更しても差し支えない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
<インプリント用モールド構造体の作製>
<<原盤の作製>>
直径8インチの円板状のSi基板上に電子線レジストを、スピンコート法を用いて100nmの厚さに塗布した。
その後、回転式電子線露光装置にて所望のパターンを露光、現像することで、凹凸パターンを有する前記電子線レジストをSi基板上に形成した。
凹凸パターンを有する前記電子線レジストをマスクとして、前記Si基板に対して反応性イオンエッチング処理を行い、Si基板上に凹凸形状を形成した。
残存した前記電子線レジストを、可溶溶剤にて洗浄することで除去し、乾燥した後に原盤を得た。
【0047】
ここで、前記凹凸パターンは、データ領域における凹凸パターンと、サーボ領域における凹凸パターンとに大別される。
データ領域は、凸部の巾:120nm、凹部の巾:30nm(トラックピッチ=150nm)の凹凸パターンとした。
データ領域内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマークに対応する凹凸パターンを電子線露光プロセスでデータ部にパターンニングし、現像、エッチングからSi基板上に凸凹形状を形成した。これにより、データアドレスマークとして、ビット長40nm、50nm、60nmで「001001・・・」を8バイトの長さで作製した。
サーボ領域に関しては、基準信号長を90nmとし、総セクタ数を50とし、プリアンブル部(45bit)、SAM部(10bit)、SectorCode部(8bit)、CylinderCode部(32bit)、及びBurst部で構成されている。
前記SAM部は、“0000101011”であり、前記SectorCode部における凹凸パターンは、Binary変換を用いて形成され、CylinderCode部における凹凸パターンは、Gray変換を用いて形成される。
また、前記Burst部における凹凸パターンは、一般的な位相バースト信号(16bit)であり、マンチェスタ変換を用いて形成される。
【0048】
その後、石英基板上にノボラック系レジスト(マイクロレジスト社製、mr−I 7000E)を100nm、スピンコート法(3,600rpm)によって形成した。
そして、原盤をモールドとして使用し、ナノインプリントを行った。ナノインプリント後の凹凸レジストパターンを元にエッチャントとしてCHFを用いたRIEでインプリント用モールド構造体1を得た。なお、作製したインプリント用モールド構造体1の表面(レジストに押し当てる側の面)には、ウェット法により剥離層を形成した。該剥離層を構成する剥離剤としては、EGC−1720(住友3M株式会社製)を用いた。
【0049】
<磁気記録媒体の作製>
2.5インチガラス基板上に、以下の手順で各層を形成し、磁気記録媒体を作製した。
作製した磁気記録媒体は、軟磁性層、第1の非磁性配向層、第2の非磁性配向層、磁性層(「磁気記録層」ということがある)、保護層、及び潤滑剤層が順次形成されている。
なお、軟磁性膜、第1の非磁性配向層、第2の非磁性配向層、磁気記録層、及び保護層はスパッタリング法で形成し、潤滑剤層はディップ法で形成した。
【0050】
<<軟磁性層の形成>>
前記軟磁性層として、CoZrNbよりなる層を20nmの厚さで形成した。
具体的には、前記ガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて設置し、Arガス圧を0.15Paになるように流入させ、DCスパッタで成膜した。
【0051】
<<第1の非磁性配向層の形成>>
第1の非磁性配向層として、5nmの厚さのTi層を形成した。
具体的に、第1の非磁性配向層は、Tiターゲットと対向設置し、Arガスを0.1Paの圧になるように流入させ、DCスパッタで、5nmの厚さになるようにTiシード層を成膜した。
【0052】
<<第2の非磁性配向層の形成>>
その後、第2の非磁性配向層として、1nmの厚さのRu層を形成した。
第1の非磁性配向層形成後に、Ruターゲットと対向させて設置し、Arガスを0.5Paの圧になるように流入させ、DCスパッタし、1nmの厚さになるように第2の非磁性配向層としてRu層を成膜した。
【0053】
<<磁気記録層の形成>
その後、磁気記録層として、CoCrPtO層を25nmの厚さで形成した。
具体的には、CoPtCrターゲットと対向させて設置し、Arガスを、圧力が0.1Paとなるようにして流入させ、DCスパッタし、磁気記録層を形成した。
【0054】
<<保護層の形成>>
磁性層形成後に、Cターゲットと対向させて設置し、Arガスを、圧力が0.5Paになるように流入させ、DCスパッタし、C保護層を2nmの厚さで形成した。
なお、磁気記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)とした。
また、本実施例における磁気記録媒体の第1の非磁性材料は、例えば、PtOである。
【0055】
<<インプリントレジスト層の形成>>
前記保護層上に、インプリントレジスト組成物として、アクリル系レジスト(PAK−01−500、東洋合成工業株式会社製)を用いて、100nmの厚さになるように、スピンコート法(3,600rpm)により、インプリントレジスト層を形成した。
【0056】
<<転写工程>>
インプリントレジスト層が形成された基板に対して、上記モールドの凹凸部が形成された側の面を対向させて配置し、インプリントレジスト層が形成された基板を3MPaの圧力にて10秒間密着させ、紫外線を10mJ/cm照射した。
以上の工程を終了した後、インプリントレジスト層が形成された基板から前記モールドを剥離した。
その後、前記モールドの凹凸部に基づく凹凸パターンをインプリントレジスト層に転写することによって、該インプリントレジスト層に形成された凹凸パターンのうち、凹部に残存したインプリントレジスト層を、O反応性化学エッチングにて除去した。このO反応性化学エッチングは、前記凹部において前記磁性層が露出するように行われる。
【0057】
<<磁性パターン部形成工程>>
前記凹部に残存したインプリントレジスト層を除去した後に、磁性層の凹凸形状の加工を実施した。
磁性層の加工としては、イオンビームエッチング法を用いた。
具体的には、Arガスを用い、イオン加速エネルギーは500eVとし、磁性層に対して垂直方向よりイオンビームを入射した。
このようにして磁性層を加工した後、O反応性化学エッチングにて、磁性層上に残存したレジストを除去する。
【0058】
<<非磁性パターン部形成工程>>
上記磁性層を加工した後に、磁性材料を含む層として、厚さが50nmとなるように、スパッタリングを実施してSiO層を形成し、イオンビームエッチングにて磁性層と、非磁性層とが面一になるように、SiO層を除去した。その後C保護膜を再び厚さ4nmになるまで製膜し、その後、ディップ法により、PFPE潤滑剤を1.5nmの厚さに塗布した。
【0059】
(比較例1)
実施例1において、データ領域は、凸部の巾:120nm、凹部の巾:30nm(トラックピッチ=150nm)の凹凸パターンのみとし、C保護層を4nmの厚さで形成し、データアドレスマークとして、ビット長40nm、50nm、60nmで「001001・・・」を8バイトの長さで磁気ヘッドで磁気パターンとして記録した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の磁気記録媒体を作製した。
【0060】
<評価>
実施例1及び比較例1について、SN比の相対値をスピンスダンドを用いて測定した。具体的には、ヘッドはGMR素子Read幅140nmのPicoサイズ負圧スライダーを用い測定を行った。波形をオシロスコープで取り込み、周波数分解して一次成分の強度とノイズの強度との比を測定し、実施例1と比較例1との比を求めた。結果を表1に示す
【0061】
また、比較例1について、実施例1のデータセクターと同じビット長をヘッドで磁気記録して「0」と「1」のビット端部の波形の遷移時間幅をオシロスコープで測定し、実施例1と比較例1との遷移時間幅比を求めた。結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1及び表2の結果から、データアドレスマークを凹凸パターンで形成することで、比較例1の連続膜と比較してSN比が良好となり、遷移時間幅が短くなることから隣接ビット間の干渉を減らすことができるので、読み出し不良に対し有効であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のインプリント用モールド構造体は、データセクターを検出するためのデータアドレスマーク(DAM)を凹凸パターンで設けることにより、熱揺らぎや欠陥による読み出し不良、及び書き込み時の位置ずれ不良を回避することができるので、ディスクリートメディアの作製や、パターンドメディアの作製に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、データセクターの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、磁気記録媒体のデータ領域内にデータアドレスマークを設けた状態を示す図である。
【図3】図3は、本発明の磁気記録媒体の概略構成の一例を示す平面図である。
【図4】図4は、本発明の磁気記録媒体の部分構成の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の磁気記録媒体の部分構成の他の一例を示す図である。
【図6】図6は、データアドレスマークの具体的を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明のインプリント用モールド構造体の概略構成の一例を示す平面図である。
【図8】図8は、本発明のインプリント用モールド構造体の部分構成の一例を示す図である。
【図9A】図9Aは、本発明のインプリント用モールド構造体の製造方法を示す断面図である。
【図9B】図9Bは、本発明のインプリント用モールド構造体の製造方法を示す断面図である。
【図10】図10は、本発明のインプリント用モールド構造体を用いて磁気記録媒体を製造する製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 磁気記録媒体
10 Si基板
11 原盤
21 フォトレジスト層
24 インプリントレジスト層
30 石英基板
40 基板
50 磁性層
70 非磁性材料
100 トラック
110 データ領域
111 磁性帯
112 磁性帯
120 サーボ領域
120a プリアンブル領域
120b アドレス領域
120c バースト領域
120d サーボマーク
120e セクタ情報
120f シリンダ情報
121 磁性部
122 非磁性部
123 磁性部
124 非磁性部
130 データアドレスマーク
400 インプリント用モールド構造体
410 凹凸パターン
411 凹部
412 凸部
420 凹凸パターン
420a 凹凸パターン
420b 凹凸パターン
420c 凹凸パターン
421 凹部
422 凸部
423 凹部
424 凸部
430 データアドレスマークに対応する凹凸パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボデータが記録されるサーボ領域と、ユーザデータを書き込むためのデータ領域とを有する磁気記録媒体を製造するためのインプリント用モールド構造体であって、
前記サーボ領域に対応するパターンと、前記データ領域に対応するパターンとを有し、
前記データ領域に対応するパターン内に、データセクターを検出するためのデータアドレスマークに対応する形状を有することを特徴とするインプリント用モールド構造体。
【請求項2】
パターンが、ディスクリートパターン及びドットパターンのいずれかである請求項1に記載のインプリント用モールド構造体。
【請求項3】
データアドレスマークに対応する形状が、サーボ領域に対応するパターンとサーボ領域に対応するパターンの間に配置されている請求項1から2のいずれかに記載のインプリント用モールド構造体。
【請求項4】
データアドレスマークに対応するパターンが、モールド構造体の半径方向の内周部から外周部まで配置されている請求項1から3のいずれかに記載のインプリント用モールド構造体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかのインプリント用モールド構造体を用いたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図6】
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【図9B】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−245534(P2009−245534A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91854(P2008−91854)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】