説明

インモールド転写箔用ポリエステルフィルム

【課題】 浅絞りから中絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性が良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 180℃、5分間のフィルム縦方向の熱収縮率が3.0%以下であり、フィルム横方向の熱収縮率が0.5%以下であり、25℃におけるフィルム縦方向の5%伸び応力が90〜120MPaであり、25℃における100%伸び応力がフィルム縦横両方向ともに200MPa以下であり、フィルムの平均表面粗さ(Ra)が0.30〜0.70μmであることを特徴とするインモールド転写用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浅絞りから絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性が良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるインモールド転写箔用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷および成形加工して用いる転写箔の基材フィルムには、従来、ポリエステル二軸延伸フィルムが用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、極限粘度と密度が特定範囲内にあるポリエステル二軸延伸フィルムをスクラッチ加工して艶消し転写箔用フィルムとして用いることが提案されている(特許文献3参照)。
【0003】
また、深絞り成形用フィルムとしては、成形応力が特定範囲内のポリエステルフィルムを用いること、すなわち、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートに比べて成形応力の低い共重合ポリエステルのフィルムを用いることが提案されている(特許文献4参照)。
【0004】
また、成形等の工程用フィルムとして、ブタンジオール等から選択される2種以上のグリコール成分を含有するモノマー組成から重合されたポリエステルのフィルムを用いることが提案されている。
【0005】
一方、成形用途においては、携帯電話や電気製品など、成形時の絞りが浅いものから自動車用など成形時の絞りが深いものまで各種用途により成形加工での絞りが大きく異なる。この成形加工における絞りを分類すると、浅絞り、中絞り、深絞りに大別され、目的の用途に応じて好適な基材フィルムを選び用いられている。
【0006】
離型層、図柄印刷および接着層など、コート加工や印刷加工で乾燥温度と張力の影響を受けて基材フィルムに伸び変形や幅収縮による熱寸法変化が生じて印刷ズレや有害な平面性悪化が発生する問題があるため、基材フィルムの特性は、ある一定の熱寸法安定性と機械的特性が求められる。しかしながら、この基材フィルムを用いて積層加工された転写箔は機械的強度も保持されているためインモールト成形時においては変形応力も高く、金型との追随性が悪く、印刷の鮮明さに欠ける現象や成形破れが発生しやすい問題がある。
【0007】
深絞り用の基材フィルムにおいては、基材そのものがフィルム設計上、柔らかい特性を有するため、この点を考慮して伸び変形に支障のない80〜100℃などの低温で加工されている。また絵付けする図柄が例えば木目調など、1工程の全面印刷である場合が多く、多少の熱寸法変化や伸び変形が生じても絵柄の品質上に支障をきたさない転写箔用に使用されている。
【0008】
しかし、浅絞りから中絞りの多くの用途においては、絵付けする図柄が3色〜7色など、多色印刷される場合が多く、かかる高温による乾燥温度と加工張力の影響を受けて伸び変形や幅縮みが生じて印刷ズレや平面性(片タルミなど)悪化が発生し、転写箔の品質上、致命的欠陥となる。
【0009】
このため、浅絞りから中絞り用の基材フィルムは、コート加工や印刷加工において縦方向に伸び変形を抑えるよう機械的強度が与えられている。しかしながら、このような基材フィルムを用いて得られた転写箔は機械的強度も保持されているためインモールト成形時においては変形応力も高く、金型との追随性が悪く、印刷の鮮明さに欠ける現象や成形破れが発生しやすい問題がある。
【0010】
また、成形品に低光沢感を与える手段としてはその加工工程を少なくすることができる、あらかじめ艶消し樹脂層を形成した転写箔を用いる方法が望ましく、その中でもあらかじめ基材フィルム中に艶消し剤を配合することができれば加工工程をさらに少なくすることができると考えられていた。しかし、基材フィルムに艶消し剤を配合する場合、フィルム製膜の際の連続性が悪いという問題や転写箔として使用する際に生じる成形破れが発生するという問題があり、実現は困難である。
【特許文献1】特開平7−196821号公報
【特許文献2】特開平7−237283号公報
【特許文献3】特開2007−181978号公報
【特許文献4】特開2004−9596号公報
【特許文献5】特開平6−210799号公報
【特許文献6】特開2000−344909号公報
【特許文献7】特公昭60−11628号公報
【特許文献8】特許第3090911号公報
【特許文献9】特開2002−97261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、浅絞りから中絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、180℃、5分間のフィルム縦方向の熱収縮率が3.0%以下であり、フィルム横方向の熱収縮率が0.5%以下であり、25℃におけるフィルム縦方向の5%伸び応力が90〜120MPaであり、25℃における100%伸び応力がフィルム縦横両方向ともに200MPa以下であり、フィルムの平均表面粗さ(Ra)が0.30〜0.70μmであることを特徴とするインモールド転写用ポリエステルフィルムに存する。
【0014】
以下、さらに詳細に本発明を説明する。
本発明で用いられるポリエステルフィルムとは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステルとグリコ−ルとを主たる出発原料として得られるポリエステルであり、繰り返し構造単位の80%以上がエチレンテレフタレ−ト単位またはエチレン−2,6−ナフタレ−ト単位を有するポリエステルを指す。そして、上記の範囲を逸脱しない条件下に他の第三成分を含有していてもよい。芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸以外に、例えば、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシエトキシ安息香酸等)等を用いることができる。グリコ−ル成分としては、エチレングリコ−ル以外に、例えば、ジエチレングリコ−ル、プロピレングリコール、ブタンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコ−ル等の一種または二種以上を用いることができる。
【0015】
重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物やゲルマニウム化合物やチタン化合物があげられる。チタン化合物では、例えばテトラアルキルチタネート、テトラアリールチタネート、シュウ酸チタニル塩類、シュウ酸チタニル、チタンを含むキレート化合物、チタンのテトラカルボキシレート等であり、具体的にはテトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、シュウ酸チタニルアンモニウム、シュウ酸チタニルカリウム、チタントリアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0016】
また、本発明のポリエステルフィルムには、無機粒子、有機塩粒子や架橋高分子粒子を添加することが好ましい。用いることのできる無機粒子としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リチウム等が挙げられる。一方、有機塩粒子としては、蓚酸カルシウムやカルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。また、架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機粒子を用いてもよい。
【0017】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0018】
また、本発明において用いる粒子の平均粒径は、通常3〜8μmが好ましい。平均粒径が3μm未満の場合には、表面への突起形成能が不十分な場合があり、一方、8μmを超える場合には、フィルムを延伸する際に破断等が多発し、安定的に製品を採取することができないことがある。
【0019】
さらに、ポリエステル中の粒子含有量は、通常0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.1重量%未満の場合には、フィルム上の突起数が十分でなくいため、低光沢のある成形品の外観のきめが粗くなってしまうことあり、一方、5重量%を超えて添加する場合には、フィルムを延伸する際に破断等が多発し、安定的に製品を採取することができない場合がある。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの平均粗さRaは、0.30〜0.70μmの範囲であることが必要である。Raが0.30μm未満では、成形品の低光沢感が不十分であり、低光沢感に優れたフィルムを得ることができない。また、0.70μmより大きくするためには粗大粒子を大量に配合する必要があり、フィルムを延伸する際に破断等が多発し、安定的に製品を採取することができないことがある。
【0021】
ポリエステル中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0022】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料、顔料等を添加することができる。また用途によっては、紫外線吸収剤特にベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤等を含有させてもよい。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、表面オリゴマーを抑止する方法として、オリゴマー含有量の少ないポリエステル原料を用いることができる。このような原料は、通常の溶融重縮合反応で得たポリエステルのチップを減圧下あるいは不活性ガスの流通下で180℃から240℃にて 1時間から20時間程度保つという固相重合によって得ることができる。この原料のみまたはこの原料と通常の原料を混合して単層のポリエステルフィルムを製膜してもよく、また2層以上の多層構成とし、転写層と反対側の表面層にのみこの原料を用いてもよい。多層構成の場合、内層には通常のポリエチレンテレフタレートを用いてもよく、また成型同時転写用では、成形性を向上する目的で、イソフタル酸、テレフタル酸を共重合成分とした共重合ポリエステルやポリブチレンテレフタレートを用いてもよい。
【0024】
本発明の基材として用いられるポリエステルフィルムは、単層または多層構成のいずれでもよいが、多層構成とすれば、内層と外層で異なる設計が可能となり、例えば、フィル表層にのみ粒子を含有することで製造コストの削減が図れる。
【0025】
本発明の転写箔用ポリエステルフィルムの総厚みは、本発明の転写箔用ポリエステルフィルムが使用される用途に応じ適宜選択されるため、特に限定されないが、機械的強度、ハンドリング性および生産性などの点から、好ましくは12〜100μmである。
【0026】
本発明において、耐熱性、成形加工性、寸法安定性の観点から、示差走査熱量計で測定される融解ピーク温度Tmが220〜260℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは230〜255℃の範囲である。Tmが220℃未満である場合は、耐熱性、寸法安定性に劣る傾向があるため、印刷工程でシワが発生したり、成形加工後のフィルム表面が膨れ上がったり、絵柄模様の意匠性が損ねられたりする等の問題が発生することがある。一方、Tmが260℃を超える場合は、成形性、生産性が悪くなる傾向がある。
【0027】
また、本発明において、示差走査熱量計より得られる二次転移温度Tgは、好ましくは50℃〜90℃、さらに好ましくは55℃〜80℃である。Tgが50℃以下では、耐熱性に劣る傾向があり、90℃を超えると、成形性に劣る傾向がある。
【0028】
本発明においては、180℃で5分間熱処理後のフィルム縦方向の熱収縮率が3.0%以下であり、横方向のそれが0.5%以下であることが必要であり、好ましくは、縦方向が2.5%以下、横方向が0.3%以下である。縦方向の熱収縮率が3.0%より大きい場合は、幅方向の熱収縮差が影響すると考えられる平面性(片タルミ)が悪化する。一方、横方向の熱収縮率が0.5%を超えると幅縮みが大きくなり、幅方向に印刷ズレ問題が発生する。
【0029】
本発明のフィルムは、転写箔への加工性の観点から、25℃での縦方向の引張試験において5%伸び応力が90〜120MPaの範囲である必要があり、好ましくは95〜115の範囲である。縦方向の引張試験で5%伸び応力が90MPaより低いと、印刷時等の加工工程でフィルム伸びが生じて長手方向に印刷ズレ等の問題が発生する。一方、縦方向に5%伸び応力が120MPaを越えると、転写箔に仕上がった基材フィルムの機械的強度も保持されているためインモールト成形時の変形応力も高くなり、良好な成形性を確保することが困難となる。
【0030】
本発明のフィルムは、成形性の観点から上記引張試験において25℃での縦横の両方向に100%伸び応力が200MPa以下であり、好ましくは180MPa以下である。25℃での縦方向および横方向に100%伸び応力が200MPaを超えると、インモールト成形時においては変形応力も高くなり、いわゆる金型との追随性が悪くなって加飾印刷面の鮮明さに欠ける現象や成形破れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0031】
なお、5%伸び応力を特定した根拠は、コート加工や印刷加工で起きる長手方向の伸び変形率は実質的には3%未満であるが、測定上のバラツキを考慮し5%伸び応力としたものである。また、100%伸び応力では、浅絞りから中絞り成形後の厚さ変化から成形伸び率を換算すると、70〜130%範囲の変形率であったため、成形加工の尺度となる100%伸び応力で特定したものである。また、これらの測定温度においては用途に応じ異なるが、一般にはコート加工や印刷加工での乾燥温度(80〜180℃)および成形温度(120〜160℃)等でのフィルム温度を考慮した高温試験法が考えられる。しかし、この方法ではフィルム昇温過程で結晶化が進行し、転写箔用ポリエステルフィルムの正確な機械的特性を知ることが困難となるため測定温度は常温での機械的特性で測定(JIS C 2318に準拠)したものである。
【0032】
本発明のフィルムは、帯電防止能とブロキング防止能を併せ持つ帯電防止層を有する基材フィルムとして用いることが好ましい。
【0033】
以下、帯電防止剤の詳細について説明する。
帯電防止剤は低分子量のアニオン系帯電防止剤を用いると、ポリエステルフィルムをロール状に巻いた状態で、帯電防止剤が転写層の離型層をコートする面に転移し、離型層のコートに悪影響を及ぼしたり、転写層を加工後に巻き上げた際に帯電防止剤が接着剤層に転移したりして、接着剤が所望した性能を発揮できないということが起こる。このような帯電防止剤の転移を防止するには、高分子量アニオン性化合物を用いるのが良い。また、カチオン系帯電防止剤の場合も、高分子量カチオン性化合物を用いることが望ましい。
【0034】
帯電防止層の表面固有抵抗は、通常1×1013Ω/□以下、好ましくは1×1012Ω/□以下である。表面固有抵抗が1×1013Ω/□を超えると、帯電防止性能が劣り、工程での不具合を改善できないことがある。
【0035】
帯電防止層は、上記のように帯電防止剤の転移が少ないか、ないことが好ましいが、同時に転写層の接着剤とのブロキングが生じないことが望ましい。ブロッキングの生じない目安として、粘着テープ(セロテープ(登録商標))の粘着層との剥離力が2.4N/cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2.0N/cm以下、特に好ましくは1.7N/cm以下である。この値が2.4N/cmを超えると、ブロキング性改良効果は出ないことがある。
【0036】
このような特性を満たす帯電防止剤としては、例えば、4級アンモニウム塩基を有する化合物がある。これは、分子中の主鎖や側鎖に、4級アンモニウム塩基を含む構成要素を持つ化合物を指す。そのような構成要素としては、例えば、ピロリジウム環、アルキルアミンの4級化物、さらにこれらをアクリル酸やメタクリル酸と共重合したもの、N−アルキルアミノアクリルアミドの4級化物、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。さらに、これらを組み合わせて、あるいは他の樹脂と共重合させても構わない。また、これらの4級アンモニウム塩の対イオンとなるアニオンとしては例えば、ハロゲン、アルキルサルフェート、アルキルスルホネート、硝酸等のイオンが挙げられる。
【0037】
また本発明においては、4級アンモニウム塩基を有する化合物は高分子化合物であることが望ましい。分子量が低すぎる場合は、帯電防止層から接着剤層へ静防剤が転移し、所望の接着効果が出なかったり、転写時に加熱ロールや金型に付着したりする。このような不具合を生じないためには、4級アンモニウム塩基を有する化合物の数平均分子量が、通常は1000以上、さらには2000以上、特に5000以上であることが望ましい。また一方で、かかる化合物は分子量が高すぎる場合は、塗布液の粘度が高くなりすぎる等の不具合を生じる場合がある。そのような不具合を生じないためには、数平均分子量が500000以下であることが好ましい。
【0038】
粘着テープの粘着剤との剥離力を2.4N/cm以下とするには、帯電防止剤の選択が重要なだけではなく、剥離力をより小さくするには、ポリオレフィン系樹脂および/またはフッ素系樹脂を積極的に配合することが有効である。ポリオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂としては、帯電防止剤と同様に転移の少ないもの、好ましくは転移のないものを配合することが好ましい。
【0039】
本発明における塗布層は、インラインコーティングにより設けられるのが好ましい。インラインコーティングは、ポリステルフイルム製造の工程内で塗布を行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかに塗布する。これらの中では、一軸延伸フィルムに塗布した後に横方向に延伸する方法が優れている。斯かる方法によれば、製膜と塗布乾燥を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがあり、塗布後に延伸を行うために薄膜塗布が容易であり、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温であるために塗膜とポリエステルフィルムが強固に密着する。
【0040】
塗布層の厚さは、乾燥後の厚さとして、通常0.001〜10μm、好ましくは0.010〜5μm、さらに好ましくは0.015〜2μmである。塗布層の厚さが0.001μm未満の場合は、帯電防止効果が十分に改良されない場合がある。塗布層の厚さが10μmを超える場合は、塗布層が粘着剤のような作用してロールに巻き上げたフィルム同士が相互に接着する、いわゆるブロッキングを生じることがある。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、浅絞りから中絞り用途の印刷工程において、熱寸法変化が良好で印刷性に優れ、低応力で容易に伸び、成形性が良好であり、また低光沢感に優れた成形品を得ることができるポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(1)融解ピーク温度(Tm)
ティーエーイインスツルメント社製の示差走査熱良計「MDSC2920型」を使用し、ポリエステル樹脂約5mgを0℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温させた際に得られる融解に伴う吸熱ピークの温度をTmとした。
【0044】
(2)二次転移温度(Tg)
ティーエーイインスツルメント社製の示差走査熱良計「MDSC2920型」を使用し、ポリエステル樹脂約5mgを0℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温させ、300℃で5分間溶融保持した後に0℃以下まで急冷し、次いで0〜300℃まで20℃/分で300℃まで昇温させた際に観測されるガラス転移に伴う転移点をTgとした。
【0045】
(3)表面固有抵抗(Ω/□)
横河・ヒューレット・パッカード社の内側電極50mm径、外側電極70mm径の同心円型電極である16008A(商品名)を23℃、50%RHの雰囲気下で試料に設置し、100Vの電圧を印加し、同社の高抵抗計である4329A(商品名)で試料の表面固有抵抗を測定した。
【0046】
(4)平均粗さ(Ra)
中心線平均粗さRa(nm)をもって表面粗さとする。(株)小坂研究所社製表面粗さ測定機(SE−3F)を用いて次のようにして求めた。すなわち、フィルム断面曲線からその中心線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線 y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔nm〕で表わす。中心線平均粗さは、試料フィルム表面から10本の断面曲線を求め、これらの断面曲線から求めた抜き取り部分の中心線平均粗さの平均値で表わした。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
【0047】
Ra=(1/L)∫|f(x)|dx
【0048】
(5)5%伸び応力
(株)インテスコ製引張試験機インテスコモデル2001型を用いて、温度25℃において長さ50mm,幅15mmの試料フィルムを、200mm/分の速度で引張試験を行い、縦方向の5%伸び時の応力を求めた。
【0049】
(6)100%伸び応力
上記(5)の測定方法により、試料片を縦方向および横方向に引張り、100%伸び時の応力を求めた。
【0050】
(7)破断伸度
上記(5)の測定方法により、試料片を縦方向および横方向に引張り、試料片の破断伸度を求めた。
(8)180℃の熱収縮率
熱風循環炉(田葉井製作所製)を使用し、無張力状態のフィルムを180℃の雰囲気中で5分間熱処理し、フィルムの縦方向および横方向の熱処理前後の長さを測定し、下記式にて計算し、5本ずつの試料についての平均値で表した。
【0051】
熱収縮率(%)=(L−L)×100/L
なお、上記式中、Lは熱処理前のサンプル長さ(mm)、Lは熱処理後のサンプル長さ(mm)を表す。ただし、LがLよりも小さくなる場合(フィルムが膨張する場合)は、熱収縮率の値を−(マイナス)で表した。
【0052】
(9)印刷性
<印刷ズレ>
ロール状のフィルムサンプルを8MPaのテンションで巻出し、4色のグラビア印刷を施したあと、180℃にて30秒間乾燥することにより、絵柄印刷のフィルムを作成した。得られた絵柄印刷フィルムの印刷ズレを目視観察し、以下の基準にて判定した。
◎:印刷ズレ(フィルムの伸びと縮み)の発生が観察されない
○:僅かに印刷ズレが観察されるが実用上使用可能なレベルである
×:印刷ズレが観察され実用上使用不可のレベルにある不合格)
【0053】
<平面性(片タルミ)>
上記要領で作成した絵柄印刷フィルムをロール状から2m長さに引き出し、片タルミの平面性について目視観察し、以下の基準にて判定した。
◎:絵柄印刷フィルムには片タルミの平面性はほとんど観察されない
○:僅かに片タルミが観察されるが実用上使用可能なレベルである
×:片タルミがやや目立ち、シート状での外観も悪い(不合格)
【0054】
(10)成形性
上記(8)にて作成した絵柄印刷フィルムを、オスメス金型を用いて、底面直径50mm、深さ5mmの円筒状に100個/分の速度で連続成形した。得られたサンプルの状態を目視観察し、以下の基準にて判定した。
◎:100個中95個以上がフィルム破れの発生がなく、均一に成形されている
○:100個中80個以上がフィルム破れの発生がなく、均一に成形されている
×:100個中21個以上にフィルム破れが発生し、不良個所が多く観察される(不合格)
【0055】
(11)転写成形品の低光沢感
上記(10)にて得られたフィルムの底面部分において日本電色(株)社製 グロスメ−タ− VG−107型を用いて、JIS Z−8741の方法に準じて光沢度を測定した。入射角,反射角60度に於ける黒色標準板の反射率を基準に試料の反射率を求め光沢度とし、以下の基準にて判定した。
◎:0以上20未満
○:20以上30未満
×:30以上
【0056】
次に以下の例において使用したポリエステル原料について説明する。
<ポリエステル1>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.66dl/gとする滑剤粒径を含有しないポリエステルチップを製造した。
【0057】
<ポリエステル2>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.66dl/gとし平均粒径4.5μmのメタクリル酸アルキル−スチレン共重合体による有機粒子を10部含有させたポリエステルチップを製造した。
【0058】
<ポリエステル3>
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールを使用し、定法の溶融重合法にて極限粘度が0.66dl/gとし平均粒径2.5μmの非晶質シリカを0.60部含有してポリエステルチップを製造した。
【0059】
<ポリエステル4>
ジカルボン酸成分としてイソフタル酸およびテレフタル酸、多価アルコール成分としてエチレングリコールをそれぞれ使用し、常法の溶融重縮合法で重合した原料チップを製造した。この原料のジカルボン酸成分中のイソフタル酸含量は22モル%であった。
【0060】
実施例1:
ポリエステル1とポリエステル2を1:9の重量比率で配合し、押出機にて溶融させて、積層ダイの外層Aに供給し、積層ダイの内層にはポリエステル1を供給し、それぞれの押出機にて外層Aと内層Bの押出量比率を1:4の割合で供給し、外層A/内層B/外層Aの構成からなる2種3層の積層ポリエステル樹脂をフィルム状に押出して、35℃の冷却ドラム上にキャストして急冷固化した未延伸フィルムを作製した。次いで80℃の加熱ロールで予熱した後、赤外線加熱ヒーターと加熱ロールを併用して95℃のロール間で縦方向に3.2倍延伸した後、フィルム片面にグラビアコーターで5μm厚みとなるよう帯電防止コートを行い、次いでフィルム端部をクリップで把持してテンター内に導き、110℃の温度で加熱しつつ横方向に4.2倍延伸し、250℃で10秒間の熱処理をおこなうと同時に幅方向に10%弛緩を施して厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたフィルムの特性は表1に示す通りであった。この結果より、印刷ズレ、平面性共に良好であり、成形性も問題なく、且つ低光沢感に優れる結果が得られた。
【0061】
実施例2:
実施例1において、外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、2の重量比率を7:3にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。
【0062】
比較例1:
実施例1において、ポリエステル2とポリエステル4を1:4の重量比率で配合し、押出機にて溶融させて、単層ダイに供給し、フィルム状に押出して35℃の冷却ドラム上にキャストして急冷固化し未延伸フィルムを作製した。次いで80℃の加熱ロールで予熱した後、赤外線加熱ヒーターと加熱ロールを併用して85℃のロール間で縦方向に3.0倍延伸した後、フィルム片面にグラビアコーターで5μm厚みとなるよう帯電防止コートを行い、次いでフィルム端部をクリップで把持してテンター内に導き、100℃の温度で加熱しつつ横方向に3.5倍延伸し、195℃で10秒間の熱処理を施した後、170℃で幅方向に3%弛緩して厚み50μmの単層フィルムからなるポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1に示す通りであった。この結果より、印刷性において、縦方向の5%伸び応力が不足していることが原因と考えられる長手方向の印刷ズレと幅縮み起因よる幅方向の印刷ズレが目立つ。さらに縦の収縮率も多少大きいため僅かながら平面性悪化が見られた。成形性においては成形破れに問題なく良好な成形品が得られた。
【0063】
比較例2:
上記比較例1において、縦倍率のみを3.0倍から3.5倍に高め、幅方向の弛緩を3%から4%に変更した以外は比較例1と同様にして厚さ50μmに調整したポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの印刷性は良化したが縦の収縮率が増大したことにより平面性悪化が観察された。成形性は比較例1と同様に問題なく良好な成形品が得られた。
【0064】
比較例3:
実施例1において、縦方向の延伸を3.8倍にし、230℃で10秒間熱処理した後に190℃で幅方向に3%弛緩した以外は実施例1と同様にして厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの印刷ズレは極めて良好であったが成形性において破れが多く発生し、また成形品もコーナに印刷の鮮明さに欠ける欠点が部分的に観察された。
【0065】
比較例4:
実施例1において外層Aに供給する原料配合をポリエステル1、3の重量比率を7:3にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは低光沢感に劣り、目的とする、低光沢感に優れたフィルムをえることができなかった。
【0066】
比較例5:
実施例1において外層Aに供給する原料配合をポリエステル2のみとし、中間層Bに供給する原料配合をポリエステいる1,3の重合比率を5:5にした以外は、実施例1と同様にして厚み50μmのフィルムを得た。長時間製膜することができず、安定した品質のサンプルを得ることができなかったが、少量採取したサンプルから平均粗さのみを測定した。
【0067】
【表1】

【0068】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のフィルムは、インモールド転写用のフィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃、5分間のフィルム縦方向の熱収縮率が3.0%以下であり、フィルム横方向の熱収縮率が0.5%以下であり、25℃におけるフィルム縦方向の5%伸び応力が90〜120MPaであり、25℃における100%伸び応力がフィルム縦横両方向ともに200MPa以下であり、フィルムの平均表面粗さ(Ra)が0.30〜0.70μmであることを特徴とするインモールド転写用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−150308(P2010−150308A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327016(P2008−327016)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】