説明

ウイルスの検出方法

【課題】ウイルス濃縮法の問題点を解決し、簡便な手段により、同時に多数の検体を簡便に処理することができ、自動化への対応も容易で、免疫学的測定方法や核酸増幅検査に悪影響を及ぼさないウイルス分離・濃縮回収・試料調製方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るウイルス検出方法は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびエイズウイルスの検出方法であって、(a)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびエイズウイルスから選択される少なくとも1種のウイルスを含有する生体検体を、カチオン性固相担体、二価金属イオンおよびリン酸系緩衝液と接触させ、前記ウイルスをカチオン性固相担体表面に捕獲させる工程と、(b)前記カチオン性固相担体を検体液体と固液分離する工程と、(c)前記カチオン性固相担体をキレート試薬液に浸し、前記ウイルスを前記カチオン性固相担体から解離する工程と、(d)前記ウイルスを固液分離して回収する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学的測定方法および核酸増幅反応等によりウイルスを検出する方法に関し、特に免疫学的測定方法および核酸増幅反応等によりウイルスを検出または測定するに際して、その検出または測定法に適合するウイルス試料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、ヒトや動植物に対する各種疾患や病気の原因となっていることは広く知られている。したがって、疾患や病害に対する予防・診断・治療法を確立するためには原因ウイルスの確認が非常に重要である。ところが、エイズや各種ウイルス性肝炎の研究史に見られるように、原因ウイルスの探求と診断は容易ではない。
【0003】
最も一般的な従来のウイルス検査・診断法としては、ウイルス抗原ならびに抗ウイルス抗体の免疫学的測定が挙げられる。これらの測定にあたっては一定量以上のウイルス抗原あるいは抗体の存在が必要である。しかしながら、感染状態にあるにもかかわらずウイルス量が少なく測定感度以下であるために抗原検査が診断に利用できない場合が少なくない。培養細胞を用いたウイルス増殖法が一部のウイルスで確立しているが、ウイルスを分離回収して測定用試料に供するこの方法は採用できないことが多い。また、上記の方法が確立しているケースであっても分離回収には特別な施設、設備、技術を要し、一般的に簡便に利用できる方法とはいえない。
【0004】
近年、遺伝子を増幅する方法が開発され、ウイルス遺伝子を増幅することにより、微量のウイルスでも検出する途も開けた。しかしながら、この方法においても、極めて少ない量のウイルスを測定するには複雑で高度の測定技術が必要とされ、一般的な施設で簡便に実施することがきわめて困難である。そこで、これらの問題を解決するために、検体中のウイルスを濃縮する手法が用いられている。
【0005】
従来のウイルス濃縮法の代表例としては超遠心法が挙げられるが、高価な機器と長時間を要し、かつ同時に多数の検体を処理することは困難であり簡便な方法とは言い難い。また感染時期によっては沈殿しないウイルスもある。B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs抗原)がヘパリンと結合する性質から、ヘパリン・セファロース担体によるクロマトグラフィー法も報告されているが、これも同時に多数の検体を処理することは困難であり回収率が悪い。
【0006】
その他、硫酸アンモニウムやポリエチレングリコール、ポリアニオンと二価イオンとの組み合わせを用いる方法、酸性基を有する粒状物質(例えば、特許文献1参照)を用いる方法、粒子と二価金属を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、カチオン性基を有する水溶性高分子物質を加えウイルスを分離する方法(例えば、特許文献3参照)等によりウイルスを沈殿させる方法があるが、混合する試薬や分離されるウイルスに混入する多量の蛋白などに核酸検出阻害がある等の問題からウイルスの沈殿分離後の試料精製が必要であるという難点があった。
【0007】
それらを解決するためにアニオン磁性粒子、二価金属イオンを用いたウイルス濃縮方法(例えば、特許文献4参照)、カチオン磁性粒子を用いたウイルス濃縮方法(例えば、特許文献5、6参照)等により、磁性粒子とともにウイルスを濃縮する方法があるが、凝縮物からウイルス核酸を抽出する際に、タンパク変性剤の存在下で磁性粒子が混在しているとそれが核酸を吸着し、解離できなくなるという問題がある。また、磁性粒子自体の破壊、磁性粒子に結合した遊離の金属イオンおよびタンパク等が解離されてウイルス核酸に混入することによる核酸検出阻害がある等の問題があった。また、ウイルス種によっては、検体間差が起こることによって濃縮が不安定となるという難点があった。
【特許文献1】特公平6−22627号公報
【特許文献2】特開平6−2172536号公報
【特許文献3】特開平4−342536号公報
【特許文献4】特開平13−258551号公報
【特許文献5】特開平13−299337号公報
【特許文献6】特開2003−274942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のウイルス濃縮法の問題点を解決し、簡便な手段により、同時に多数の検体を簡便に処理することができ、自動化への対応も容易で、免疫学的測定方法や核酸増幅検査に悪影響を及ぼさないウイルス分離・濃縮回収・試料調製方法を提供することにある。より具体的には、測定対象ウイルスを含む検体から高収率でウイルス含有凝集体を形成せしめ、次にこの凝集体から、免疫学的測定方法や核酸検出などその後のウイルス増幅工程を妨害する爽雑物を伴わないで高収率でウイルス核酸を抽出・回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るウイルス検出方法は、
(a)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびエイズウイルスから選択される少なくとも1種のウイルスを含有する生体検体を、カチオン性固相担体、二価金属イオンおよびリン酸系緩衝液と接触させ、前記ウイルスをカチオン性固相担体表面に捕獲させる工程と、
(b)前記カチオン性固相担体を検体液体と固液分離する工程と、
(c)前記カチオン性固相担体をキレート試薬液に浸し、前記ウイルスを前記カチオン性固相担体から分離する工程と、
(d)前記ウイルスを固液分離して回収する工程と、を含む。
【0010】
本発明に係るウイルス検出方法において、前記工程(a)において、さらに前記生体検体と抗ウイルス抗体とを接触させる工程を含むことができる。
【0011】
本発明に係るウイルス検出方法において、前記カチオン性固相担体は、磁気に応答する磁性粒子であることができる。
【0012】
本発明に係るウイルス検出方法において、前記カチオン性固相担体のストークス粒径は、0.08μm〜300μmであることができる。
【0013】
本発明に係るウイルス検出方法において、前記カチオン性固相担体は、その表面に、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、およびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種の重合体を化学結合で結合した固相担体であることができる。
【0014】
本発明に係るウイルス検出方法において、前記ポリエチレンイミンは、下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、ウイルス検出方法。
【0015】
【化2】

(式(1)中、nは0〜100の整数を表す。)
【発明の効果】
【0016】
上記ウイルスの検出方法によれば、特別の設備を要することなく研究機関、検査所、医療施設でウイルス試料を調製できる。これにより、ウイルスの研究ならびに抗原検査や遺伝子検査を通じてウイルス疾患の診断、治療、予防に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るウイルス検出方法は、(a)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびエイズウイルスから選択される少なくとも1種のウイルスを含有する生体検体を、カチオン性固相担体、二価金属イオンおよびリン酸系緩衝液と接触させ、前記ウイルスをカチオン性固相担体表面に捕獲させる工程と、(b)前記カチオン性固相担体を検体液体と固液分離する工程と、(c)前記カチオン性固相担体をキレート試薬液に浸し、前記ウイルスを前記カチオン性固相担体から解離する工程と、(d)前記ウイルスを固液分離して回収する工程と、を含む。
【0019】
1.ウイルスおよび検体
まず、本発明に係るウイルス検出方法に適用可能なウイルスおよび検体について説明する。
【0020】
本発明に係るウイルス検出方法は、種々のウイルスに対して適用することができ、例えば、ヘパドナウイルス(B型肝炎ウイルスなど)、アデノウイルス、フラビウイルス(日本脳炎ウイルスなど)、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス、水痘−帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)、ポックスウイルス、パルボウイルス(アデノ関連ウイルスなど)、オルソミクソウイルス(インフルエンザウイルスなど)、ラブドウイルス(狂犬病ウイルスなど)、レトロウイルス(後天性免疫不全症候群ウイルスなど)、C型肝炎ウイルス、エイズウイルスなどの検出や測定に用いることができる。
【0021】
本発明に係るウイルス検出方法は、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、エイズウイルス(HIV)の検出または測定に用いる場合に特に効果を発揮する。また、本発明に係るウイルス検出方法は、B型肝炎ウイルスを含有する複数のウイルスを同時に検出または測定する場合、例えばB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)およびエイズウイルス(HIV)を同時に検出または測定する場合にも適用することができる。
【0022】
本発明に係るウイルス検出方法が適用可能な生体検体の種類としては、特に制限はないが、献血により集めた血液検体、患者から収集した臨床検体など、多数の検体をスクリーニングする場合の血液検体、血清、血漿、その他の種々の体液が挙げられる。これらの検体を個別に本発明を適用してもよいし、検査コストの観点から、陽性率の低いウイルスであれば、複数検体を混合し、混合検体に対して本発明を適用してもよい。
【0023】
2.ウイルス検出方法
次に、本発明に係るウイルス検出方法の各工程について詳細に説明する。
【0024】
2.1 工程(a)
本工程は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびエイズウイルスから選択される少なくとも1種のウイルスを含有する生体検体を、カチオン性固相担体、二価金属イオンおよびリン酸系緩衝液と接触させ、前記ウイルスをカチオン性固相担体表面に捕獲させる工程である。これにより、ウイルスをカチオン性固相担体表面に凝集させることができる。
【0025】
本工程によれば、測定対象ウイルスを含有する可能性のある検体を、二価金属イオン、リン酸系緩衝液、および表面に陽性荷電物質を有する水不溶性粒子(カチオン性固相担体)と接触させることにより、当該測定対象ウイルスと二価金属イオンと陽性荷電物質を有する水不溶性粒子との凝集体を効率よく形成することができる。また、例えばB型肝炎ウイルスのように検体によって凝集体へのウイルス回収にバラツキが生じる場合には、測定対象ウイルスの表面タンパク質に対する抗体を共存させることにより、バラツキなくウイルスを回収することができる。また、一価金属イオンを共存させることにより、ビリルビンの影響を抑え、ウイルスを効率良く回収することができる。
【0026】
2.1.1 カチオン性固相担体
ウイルス凝集体の形成の核となる固相担体としては、高分子材料から形成された各種の粒子や金属粒子を用いることができるが、磁気に応答する磁性粒子であることが好ましい。磁性粒子を用いることにより、ウイルス凝集体の分離・回収工程を磁気または遠心分離により容易に行うことができる。また、磁気分離により沈殿タンパク質を容易に除去することができる。磁性粒子としては、例えば、四三酸化鉄(Fe)、γ−重三二酸化鉄(γ−Fe)等の各種フェライト、鉄、マンガン、コバルト、クロムなどの金属またはこれらの金属の合金などを用いることができる。
【0027】
固相担体の粒径は、好ましくは0.08μm〜300μmであり、より好ましくは0.1μm〜100μmである。ここで、固相担体の粒径はストークス粒径であり、液相沈降法または慣性衝突法により測定することができる。粒径が0.08μm未満であると、血液または体液から凝集体を磁気により分離する場合に、強い磁気を長時間かける必要があり、凝集体を十分に回収することができないなどの問題点がある。凝集体を遠心分離により分離する場合には、遠心分離機の高回転数(5,000回転)で数分間の処理を必要とするなど、操作性に問題がある。一方、粒径が300μmを越えると、粒子体積当りの表面積が小さくなり、ウイルス凝集体の捕捉効率が低下するなどの問題がある。
【0028】
粒子の表面に付着させる陽性荷電物質としては、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。この中でもポリアミノ酸が好ましく、ポリリジンがより好ましい。ポリアミノ酸の分子量は、5〜10万であることが好ましい。ポリアリルアミンとポリエチレンイミンの分子量はそれぞれ60〜50万が好ましい。ポリエチレンイミンとしては、下記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0029】
【化3】

(式(1)中、nは0〜100の整数を表す。)
これらのカチオンポリマーを粒子表面に結合させるには、前記水不溶性粒子、例えば磁性金属または金属酸化物粒子やポリマー粒子の表面にカルボキシル基を設けておき、それとポリアミノ酸の末端アミノ基との間にアミド結合を生じさせる。または、粒子表面にアミノ基を設けておき、それとポリアミノ酸の末端カルボキシル基との間にアミド結合を生じさせる。アミド結合の形成は、有機化学の常法に従って行えばよい。
【0030】
カチオン粒子表面にあるカチオン量は、5〜200μmol/粒子gであることが好ましい。カチオン量の定量方法は、通常のpH滴定または伝導度滴定などの方法により求めることができる。例えば、カチオン粒子の水分散体に水酸化ナトリウム水溶液または塩酸で、アルカリ性または酸性にする。この粒子分散液をアルカリ性溶液は塩酸等で、酸性溶液は水酸化ナトリウム水溶液等で滴定すれば、粒子表面に付加されている表面荷電を定量することができる。
【0031】
2.1.2 二価金属イオン
二価金属イオンを用いることにより、カチオン性固相担体の表面上にウイルスを凝集させることができる。二価金属イオンとしては、亜鉛イオン(Zn2+)、銅イオン(Cu2+)が挙げられるが、亜鉛イオンが好ましい。二価金属イオンの最適種類はウイルスにより異なるが、亜鉛イオンおよび銅イオンは種々のウイルスに共通して使用することができる。ウイルス含有凝集体を形成するための反応混合物中における二価金属イオンの濃度は、好ましくは20mM〜100mM、より好ましくは25mM〜35mM程度である。この二価金属イオンは、カチオン性固相担体と同時に検体に添加してもよいが、先ずカチオン性固相担体を加え、その後二価金属イオンを加えることが好ましい。
【0032】
2.1.3 リン酸系緩衝液
リン酸系緩衝液とは、通常生化学実験で使用するリン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが含まれている緩衝液のことをいう。リン酸系緩衝液を用いることにより、ウイルスがカチオン性固相担体の表面に捕獲されやすい環境を作り出すことができる。また、リン酸系緩衝液を用いることにより、二価金属イオンの溶解度を調節することもできる。リン酸系緩衝液のpHは、5〜9であることが好ましい。ウイルス含有凝集体を形成するための反応混合物中におけるリン酸系緩衝液の濃度は、1mM〜500mMであることが好ましい。リン酸系緩衝液には、必要に応じて塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの塩を添加してもよい。
【0033】
本発明は、上記の3成分(カチオン性固相担体、二価金属イオン、リン酸系緩衝液)を組み合わせて使用したときにその効果が顕著である。つまり、血漿または血清検体にリン酸系緩衝液と二価金属イオンを添加することにより、血液検体中のタンパク成分の溶解度が著しく低下し、析出・凝集する環境を作ることができる。このような状況下で本発明のカチオン性固相担体を添加すると、捕獲対象ウイルスが効率よくカチオン性物質に結合し、通常では考えられないほどの高い捕獲効率を得ることができる。
【0034】
2.1.4 抗ウイルス抗体
本工程において、必要に応じて抗ウイルス抗体を添加してもよい。上述したようにB型肝炎ウイルス(HBV)は、カチオン性固相担体に捕捉されるウイルス量に不安定な場合がある。本発明者らは、検体中に存在するビリルビンや乳彌がウイルス凝集を阻害していることを突き止めた。これを解消するために、測定対象であるウイルスの表面抗原に対する抗体、例えば、HBVの検出・測定においてはHBVの表面タンパク質に対する抗体を濃縮工程で添加することにより、ビリルビンや乳彌によって起こる検体凝集に起因するウイルス捕捉阻害を解消することができる。
【0035】
したがって、本発明に係るウイルス検出方法をHBVウイルスの検出・測定またはHBVを含む複数のウイルスの同時検出・測定(例えば、HBV、HCVおよびHIVの3種類のウイルスの同時検出・測定に適用する場合)に適用する場合には、HBVの表面タンパク質に対する抗体を工程(a)において添加することが非常に好ましい。なお、HBV表面タンパク質に対する抗体(HBs抗体)の調製は常法に従って行うことができる。また、コスト低減の観点から、ヒトHBs抗体の代わりに、非ヒトHBs抗体(例えば、ウマHBs抗体)を使用することもできる。
【0036】
2.1.5 具体的手法
工程(a)は、具体的には、以下のようにして行うことができる。
【0037】
まず、生体検体0.1mL〜5mLを用意する。これに、検出または測定対象ウイルスの表面タンパク質に対する抗体を添加する場合には、先に当該抗体(例えば、ウマ精製HBs抗体)を2〜100μL添加する。その後、pH7の50mMリン酸緩衝液を0.1〜5mL添加し、混合した後3〜30分間静置する。次に、陽性荷電物質(例えば、ポリ−L−リジン)を表面に結合した磁性粒子を0.1mg〜5mg/mLの濃度となるように加え、さらに、1Mの二価金属イオン(例えば、亜鉛イオン)溶液を3〜150μL添加し、よく混合し、この混合物を約5分間静置することによりウイルス凝集体を磁性粒子表面に生成せしめる。
【0038】
2.2 工程(b)
本工程は、カチオン性固相担体を検体液体と固液分離する工程である。
【0039】
工程(a)によって生成せしめたウイルス凝集体を含む混合物を、ウイルス凝集体とその他の液体とに分離し、ウイルス凝集体を回収する。これにより、液体に含まれる血清、血漿などの血液成分、その他の検体中に存在した種々の夾雑物が除去される。ウイルス凝集体と液体との分離は、使用した粒子が磁性粒子の場合には、ウイルス凝集体を含む混合物を磁気スタンド上に静置することにより、磁性粒子を含むウイルス凝集体を磁気吸引して固液分離することができる。
【0040】
次に、上記のようにして得た磁性粒子を含むウイルス凝集体には、目的とするウイルスのほかに、遊離の金属イオンおよびタンパク質、その他の夾雑物が含まれている。これらの物質は、次の段階であるウイルス核酸抽出の障害となる。このために、本工程においては、ウイルス解離をおこさない洗浄液で凝集体を洗浄することが好ましい。この操作によって、免疫学的測定法や核酸検出法等のタンパク、核酸の増幅を妨害しない測定試料を調製することができる。
【0041】
洗浄液として、例えば、生理食塩水、トリス緩衝液、リン酸緩衝液などが挙げられる。これらのうち、洗浄効果の観点からリン酸緩衝液であることが好ましい。洗浄液中のリン酸濃度は、好ましくは0.5mM〜50mMであり、より好ましくは1mM〜10mMである。
【0042】
2.3 工程(c)
本工程は、カチオン性固相担体をキレート試薬液に浸し、ウイルスをカチオン性固相担体から分離する工程である。
【0043】
上記のようにして得られた磁性粒子を含むウイルス凝集体には、洗浄工程を介してもなおその他の夾雑物が含まれている。これらの物質は、ウイルス核酸の検出・測定のための核酸の増幅、典型的にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の障害となるおそれがある。このため、ウイルス凝集体からウイルスを分離する必要がある。
【0044】
ウイルス凝集体からウイルスを解離するためには、工程(a)で凝集体の形成を促進するために添加した二価金属イオンを除去することによって凝集塊を解き、ウイルスを粒子表面から分離させることができる。
【0045】
二価金属イオン除去剤として、金属キレート剤、クエン酸塩、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、金属キレート剤が効果の点で好ましい。金属キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)などを使用することができる。金属キレート剤の使用量としては、工程(a)で添加した二価金属イオンのうち、凝集体に移行した量を捕捉するのに十分な量であり、上記の方法(検体0.1〜5mLから出発する方法)においては、0.01M〜0.2Mの金属キレート剤溶液を100μL程度加えればよい。その後、凝集体と金属キレート剤溶液とをよく混合する。
【0046】
2.4 工程(d)
本工程は、ウイルスを固液分離して回収する工程である。
【0047】
上記の混合物を磁気スタンド上に1〜10分間静置して粒子を磁気吸引沈殿せしめることにより、ウイルスを含む上清試料を得ることができる。
【0048】
また、上記の上清から、ウイルス核酸を抽出するには、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下でタンパク質分解酵素(例えば、プロティナーゼK)によりウイルスを消化した後、エタノール沈殿により核酸を沈殿・回収することができる。なお、上記の粒子の分離と核酸の抽出とは逆の順序で行ってもよい。
【0049】
以上のようにして、得られた濃縮されたウイルス試料について、免疫学的測定方法または核酸増幅反応等によりウイルスを検出または測定する。
【0050】
3.実施例
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
3.1 カチオン性固相担体の調製
表1に示す表面にCOOHを有する磁性粒子(いずれもJSR社製、平均粒径1.3μm、磁性体含有量50%)の10%分散液1.25mL(125mg)を分取し、粒子を磁石で集め、5mLの0.1M 2−モルホリノエタンスルホン(MES)溶液(pH5.0)中で10分間振とう洗浄した。この磁性粒子を、25mgビーズ/mLの濃度で、カップリング緩衝液(1.2mLの蒸留水、5mLの100mM MES(pH5.0)溶液、50μLの100mg/mLポリ−L−リジン溶液)に懸濁し、この懸濁液を15分間室温にて転倒混合した。
【0052】
これに、1.25mLの1−エチル−3−(3−ジメチル−アミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)水溶液を加え、10℃にて20時間転倒混和した。上液を1Mモノエタノールアミン溶液で置換し、4℃で一晩ブロッキングした。ビーズをリン酸緩衝液(PBS)により5回洗浄し、100mg粒子/mLとなるようにPBSに懸濁し、4℃で保存した。
【0053】
【表1】

【0054】
3.2 実施例1[HBVのウイルス濃縮およびウイルス定量]
HBV陽性血漿(10000IU/mL)1mLに、PBSに溶解した精製ウマHBs抗体(1mg/mL)5μLを添加し3分間混合した。次に、上記「3.1 カチオン性固相担体の調製」で調製したポリマー固定化した磁性粒子を30μL添加した。これに1M酢酸亜鉛溶液を30μL添加・混合し、5分間静置することにより、ウイルスと磁性粒子を含む凝集体を形成せしめた。この混合物を磁気スタンド上に5分間静置することにより、磁性粒子とウイルスを含む凝集体をチューブ横に集め、血漿や血清成分を含む液体を除去した。得られた凝集体に2mMのPBS1mLを加え、ボルテックスで撹拌洗浄し、洗浄後磁気スタンド上に3分間静置することにより、ウイルス凝集体を沈殿せしめ、洗浄液を除去した。さらに磁気スタンド上でPBSを1mL加え再度洗浄した。得られた凝集体に0.4MのEDTA溶液50μLを加え、3分間混合してから、再度磁気スタンドで磁性粒子を分離し、上澄50μLを回収した。表1に記載されている粒子1〜10を用いて同様な操作を行い、粒子1〜10の同一血漿検体から回収したウイルスが得られた。
【0055】
上記の操作により濃縮されたウイルスを定量するために、市販ウイルス抽出試薬(「EX.R&D」、ゲノムサイエンス研究所製)を用いてウイルス定量実験を行った。ウイルス濃縮液100μLに、検体希釈液480μL、酵素液20μL、共沈剤5μLの混合液500μLを加え、核酸抽出を行った。操作方法はメーカーマニュアルに従った。なお、対象として濃縮していない同一血漿検体0.1mLもウイルス濃縮液と同時に操作し、ウイルス核酸を抽出した。
【0056】
なお、上記HBV陽性検体をHBV陰性検体で希釈し、HBV濃度が10、100、1000IU/mLの希釈配列を調製した。これらHBV濃度の異なる検体も同時に同様な操作で実験した。
【0057】
濃縮されたウイルス核酸をBioFlux社製の「HBV PCR蛍光定量診断キット」を使って増幅した。操作方法はメーカーマニュアルに従い、添付標準を使って検量線を作成し、ウイルス定量を行った。この実験結果を表2にまとめた。表2に示すように、1mL濃縮したウイルスの成績は、未濃縮の0.1mL血液のほぼ10倍であり、濃縮効率ほぼ100%と判明した。
【0058】
また、対象実験として、精製ウマHBs抗体を加えずに、それ以外は上記の操作方法と全く同じ操作をした実験も実施した。この実験結果を表3にまとめた。表3に示すように、1mL濃縮したウイルスの成績は、未濃縮の0.1mL血液のほぼ10倍であり、濃縮効率ほぼ100%と判明した。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
3.3 実施例2[HCVのウイルス濃縮およびウイルス定量]
1000IU/mLのHCV陽性血清検体を、陰性血清で10、100倍に希釈し、各検体を上記「3.2 HBVのウイルス濃縮およびウイルス定量」に記載した方法(但し、ウマHBs抗体は添加しない。)により濃縮した後、未濃縮血漿と同時に核酸抽出を行い、得られたウイルス核酸試料を同じくBioFlux社の「HCV PCR蛍光定量診断キット」を使って増幅した。操作方法はメーカーマニュアルに従い、添付標準を使って検量線を作成し、ウイルス定量を行った。この実験結果を表4にまとめた。表4に示すように、1mL濃縮したウイルスの成績は、未濃縮の0.1mL血液のほぼ10倍であり、濃縮効率ほぼ100%と判明した。
【0062】
【表4】

3.4 実施例3[HIVのウイルス濃縮およびウイルス定量]
1000IU/mLのHIV陽性血清検体を、陰性血清で10、100倍に希釈し、各検体を上記「3.2 HBVのウイルス濃縮およびウイルス定量」に記載した方法(但し、ウマHBs抗体は添加しない。)により濃縮した後、未濃縮血漿と同時に核酸抽出を行い、得られたウイルス核酸試料を同じくBioFlux社の「HIV PCR蛍光定量診断キット」を使って増幅した。操作方法はメーカーマニュアルに従い、添付標準を使って検量線を作成し、ウイルス定量を行った。この実験結果を表5にまとめた。表5に示すように、1mL濃縮したウイルスの成績は、未濃縮の0.1mL血液のほぼ10倍であり、濃縮効率ほぼ100%と判明した。
【0063】
【表5】

【0064】
3.5 実施例4[HBV、HCV、HIVのウイルス同時濃縮およびウイルス定量]
実施例1、2、3で使用した1000IU/mLの各ウイルス陽性検体を1:1:1の容量で混合し、3種ウイルス陽性検体を調製した。この陽性検体を正常人血漿でかつ3種ウイルス陰性検体で10、100倍に希釈し、各検体を上記「3.2 HBVのウイルス濃縮およびウイルス定量」に記載した方法(但し、ウマHBs抗体は添加しない。)により濃縮した後、未濃縮血漿0.1mLと同時に市販ウイルス抽出試薬(「EX.R&D」、ゲノムサイエンス研究所製)を使って核酸抽出を行い、得られたウイルス核酸試料を同じくBioFlux社の「HBV、HCV、HCV PCR蛍光定量診断キット」を使って増幅した。操作方法はメーカーマニュアルに従い、添付標準を使って検量線を作成し、ウイルス定量を行った。この実験結果を表6にまとめた。表6に示すように、1mL濃縮したウイルスの成績は、未濃縮の0.1mL血液のほぼ10倍であり、濃縮効率ほぼ100%と判明した。
【0065】
【表6】

【0066】
3.6 まとめ
核酸抽出試薬は、通常0.1mLしか対応できない。しかしながら、本発明に係るウイルス検出方法を適用することにより、あらかじめウイルスを濃縮することができ、濃縮倍率とほぼ比例した比率でウイルスを検出することができる。
【0067】
本発明に係るウイルス検出方法は、通常の免疫検査または遺伝子検査において、検体濃度が低いために検出できない検体に対して顕著な効果が得られる。特に、血液スクリーニングのような検体使用量の制限が緩い検査において顕著な効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスおよびエイズウイルスから選択される少なくとも1種のウイルスを含有する生体検体を、カチオン性固相担体、二価金属イオンおよびリン酸系緩衝液と接触させ、前記ウイルスをカチオン性固相担体表面に捕獲させる工程と、
(b)前記カチオン性固相担体を検体液体と固液分離する工程と、
(c)前記カチオン性固相担体をキレート試薬液に浸し、前記ウイルスを前記カチオン性固相担体から分離する工程と、
(d)前記ウイルスを固液分離して回収する工程と、
を含む、ウイルスの検出方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(a)において、さらに前記生体検体と抗ウイルス抗体とを接触させる工程を含む、ウイルスの検出方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記カチオン性固相担体は、磁気に応答する磁性粒子である、ウイルスの検出方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記カチオン性固相担体のストークス粒径は、0.08μm〜300μmである、ウイルスの検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記カチオン性固相担体は、その表面に、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、およびポリエチレンイミンから選択される少なくとも1種の重合体を化学結合で結合した固相担体である、ウイルス検出方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記ポリエチレンイミンは、下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含む、ウイルス検出方法。
【化1】

(式(1)中、nは0〜100の整数を表す。)

【公開番号】特開2009−178141(P2009−178141A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22347(P2008−22347)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】