ウイルス不活化装置、その方法およびそれを用いた空調機
【課題】ウイルスを捕捉することなく、加熱空間および電極間での放電空間を通過させることにより、一過性で、効率的にウイルスを不活化するとともに、ウイルス不活化工程において、圧力損失がなく、静音なウイルス不活化装置、その方法、およびそれを用いた空調機を提供する。
【解決手段】空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、空気と共に浮遊ウイルスを風路9に取り込む送風機1と、浮遊ウイルスが通過する風路に配置され、浮遊ウイルスを加熱処理する加熱装置2、浮遊ウイルスをプラズマ処理する高圧電極3、およびこの高圧電極に対向して設置された接地電極4と、高圧電極に高電圧を印加するために接続された可変型高電圧電源5と、を備える。
【解決手段】空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、空気と共に浮遊ウイルスを風路9に取り込む送風機1と、浮遊ウイルスが通過する風路に配置され、浮遊ウイルスを加熱処理する加熱装置2、浮遊ウイルスをプラズマ処理する高圧電極3、およびこの高圧電極に対向して設置された接地電極4と、高圧電極に高電圧を印加するために接続された可変型高電圧電源5と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間に浮遊しているウイルスを捕捉せず、放電場を通過する際に、不活化させるウイルスの不活化装置、その方法、およびそれを用いた空調機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空間に浮遊している微生物やウイルスを除去する浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置が存在している。そのようなものとして、風上側から、コロナ荷電部、高圧電極、フィルター、フィルターに接した電極の順で配置され、作動の間の電荷蓄積の影響を打ち消して、長い寿命全体にわたって高い除去効力を提供できるようにした浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
また、空間に飛散している化学物質等のガスを浄化する装置として、化学物質を吸着するハニカム構造の吸着剤と、吸着剤に密接して設けられた給電極と、放電電極とを備え、ガス状の化学物質を効果的に捕捉し、分解できるガス浄化装置が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−512131号公報
【特許文献2】特許第4457603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置にあっては、浮遊微生物・浮遊ウイルスをフィルターに付着させ、捕捉することにより、空間中から、除去している。そのため、特許文献1に記載のような浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置では、ウイルスを捕捉し続けると、フィルターでの圧力損失があがり、エネルギー消費量の増大、騒音が発生し、また、ウイルス捕捉効果が低下してしまうという問題点があった。また、特許文献1に記載のような浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置では、フィルターで捕捉した微生物やウイルスの再飛散、またフィルター上で増殖するのを防止するためには、フィルターを清浄化する等のメンテナンス作業を行う必要があるという問題点もあった。
特許文献2に記載のようなガス浄化装置にあっては、ガス(空気)に対して、プラズマ放電のみしか行っていないため、化学物質を吸着し、効果的に分解することができるが、ウイルスを捕捉することができないことはもちろんのこと、一過性でウイルスを不活化することはできないという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、ウイルスを捕捉することなく、加熱空間および電極間での放電空間を通過させることにより、一過性で、効率的にウイルスを不活化するとともに、ウイルス不活化工程において、圧力損失がなく、静音なウイルス不活化装置、その方法、およびそれを用いた空調機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るウイルス不活化装置は、空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む送風機と、
浮遊ウイルスが通過する風路に配置され、浮遊ウイルスを加熱処理する加熱装置、浮遊ウイルスをプラズマ処理する高圧電極、およびこの高圧電極に対向して設置された接地電極と、
前記高圧電極に高電圧を印加するために接続された高圧電源と、
を備えたものである。
【0007】
また、本発明に係るウイルス不活化方法は、空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する方法であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む工程と、
前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスに対し、加熱処理とプラズマ処理とを行う工程と、
を有するものである。
【0008】
本発明において、ウイルスとは、生物に寄生し、生きた細胞内でのみ増殖する微粒子をいう。大きさは約20〜260ミリミクロンであり、化学的には核蛋白質を本体とし、大形のものは脂質や多糖類をも含む。核蛋白質中の核酸は、増殖に際して生物の遺伝子と同じような働きをする。
また、ウイルスの不活化とは、ウイルスの感染能力を失活させることをいう。
また、風路とは、管状の風路のみを意味するのではなく、筐体の中を通る場合などを含めて、広く風の流れとなる通路のことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るウイルス不活化装置及びその方法によれば、空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく、一過性で、効率的にウイルスを不活化するとともに、ウイルス不活化工程において、圧力損失がなく、静音なウイルスの不活化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係るウイルス不活化装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るウイルス不活化装置が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率を調べた結果をあらわしたグラフである。
【図4】各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率に加え、各温度での加熱処理による不活化効果とプラズマ処理による不活化効果を単純に足し合わせたプロットを追記したグラフである。
【図5】加熱処理もプラズマ処理も行わない場合(無処理)、プラズマ処理のみ行った場合、加熱のみ行った場合、プラズマ処理と加熱処理の両者を行った場合のウイルスの生存率を調べた結果をあらわしたグラフである。
【図6】ウイルスに対し、加熱処理を行った後プラズマ処理を行った場合と、プラズマ処理を行った後加熱処理を行った場合のウイルス生存率の比較を行ったグラフである。比較対象として、加熱処理とプラズマ処理単独の効果を足し合わせた結果も記載している。
【図7】実施の形態1のウイルス不活化装置に中和部を追加した構成図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るウイルス不活化装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係るウイルス不活化装置が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
【図10】銅が溶解した水溶液中でのウイルスの生存率、さらにその液に対し、プラズマ処理を行った際のウイルス生存率を調べた結果をあらわしたグラフである。
【図11】本発明の実施の形態3に係るウイルス不活化装置を冷暖房機能を有する空調機に設置した例を示す概略縦断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る空調機が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態3に係るウイルス不活化装置を冷暖房機能を有する空調機に設置した他の例を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るウイルスの不活化装置(以下、装置100と称する)の概略構成を示す縦断面図である。図1に基づいて、装置100の構成及び動作について説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図1では、空気の流れを矢印で示している。
装置100は、空間に浮遊しているウイルスを捕捉せず、一過性で、効率的にウイルスを不活化するものである。装置100は、風路9を形成する筐体(以下、風路筐体と称する)10の内部に、風上(上流)側から、送風機1、加熱装置2、高圧電極3、接地電極4が順に配置されて構成されている。
【0013】
送風機1は、風路筐体10内に空気を取り込み送り出すものである。
加熱部での加熱手段としては、例えば、板状、ロット状、あるいはワイヤー状の電気ヒーター等からなる発熱体を使用し、該発熱体を風路9の外周部に密着させて設置すればよい。かかる発熱体は、空気を加熱できるものであればよく、特に電気ヒーターに限られるものではない。
【0014】
高圧電極3は、たとえば線径0.1mm〜0.3mm程度の細線が多数張られた電極で構成され、接続されている可変型の高電圧電源5から直流高電圧が印加されるようになっている。
接地電極4は、たとえば金属メッシュ等からなる電極で構成され、アースに接続されるようになっている。高圧電極3及び接地電極4でプラズマ部を構成している。なお、以下の実施の形態では、接地電極であるとして説明するが、高圧電極3と接地電極4との間に電圧が印加されればよく、接地電極4が必ずしも接地されて使用されていなくてもよい。また、高圧電極3を断面積が0.1mm×0.5mmの長方形又はその類似形状のリボン(厚み0.1mm)で構成しても同様の効果が得られる。この場合、断面積が0.1mm×0.1mmとなる面を接地電極4に向けるようにした方が効率的に荷電でき、また、放電時のスパッターによる電極磨耗による断線の影響を小さくできる効果がある。
【0015】
次に、装置100の動作について説明する。
図2は、装置100が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。装置100の特徴は、ウイルスを加熱する部分と、ウイルスに高電圧を印加する部分とを兼ね備えた点である。すなわち、ウイルスに加熱処理、プラズマ処理を行うことにより、ウイルスを効率的に不活化できるようになっている。
【0016】
装置100が運転を開始すると、まず送風機1が稼動する。そして、それと同時に加熱装置2が稼動する(S1)。高電圧電極付近の温度を図示省略の制御基板等に設けられている温度判定部で計測される。計測された温度は、温度判定部によって予め設定されている設定温度と比較される(S2)。そして、問題がなければ次の工程に移る。
測定された温度が設定温度値よりも低ければ、加熱装置2によりさらに加熱する。このようにして、浮遊しているウイルスを常時効率よく加熱されていることを確認する。
【0017】
次に、放電によるウイルス不活化工程が開始される(S3)。すなわち、高圧電極3に可変型高電圧電源5から高電圧が印加される(S4)。これにより、高圧電極3と接地電極4との間で放電が起こり(S5)、放電電流が接地電極4に流れる。ここで、接地電極4に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま不活化処理工程が開始される。
【0018】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、高圧電極3に印加される電圧が高くされ、測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、高圧電極3に印加される電圧が低くされる。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する。放電によるウイルス不活化工程が開始すると、タイマーが作動し、これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が計測される(S6)。
これら一連の工程における処理時間が設定時間に達すると、高圧電極3への高電圧印加が停止され、不活化工程は終了する(S7)。
その後、再びウイルス不活化が必要になれば、加熱工程が開始され、上記の運転が繰り返されることになる。
【0019】
以上のように、装置100では、ウイルスを加熱する工程と、ウイルスに高電圧を印加する工程を有するようにしたことにより、浮遊ウイルスを捕捉することなく、一過性でウイルスを不活化することができる。また、ウイルス不活化装置がウイルス等を捕捉することがないため、常時衛生的に保持することができ、かつ、圧力損失が無く静音にウイルスを不活化することができる。
【0020】
次に、装置100の特徴事項である加熱処理工程とプラズマ処理工程とによるウイルスの不活化に関して説明する。ウイルスの不活化の試験においては、すべて大腸菌ファージφX174を供試ウイルスとして用いている。
【0021】
図3は、各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率を示す。横軸に温度、縦軸に生存率を示す。なお、比較対象として、プラズマ処理を行っていない場合におけるウイルス生存率も記載する。プラズマ処理を行わなかった場合、温度が15℃〜40℃程度までウイルス生存率は30〜40%以上でほとんどウイルスが不活化していない。その一方で、プラズマ処理を行った場合、温度が30℃までは、生存率が10%であったのに対し、温度が30℃より高くなると、急激に生存率が低下し、40℃では9.8×10-3、60℃で9.9×10-5となった。
【0022】
プラズマ処理を行わなかった場合に生存率が90%以上となり、温度により不活化していない条件といえる15℃、20℃において、プラズマ処理を行った場合には、生存率が10%まで低下していることから、このウイルス生存率の低下は、プラズマ処理による不活化効果であるといえる。
【0023】
図4は、各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率に加え、各温度での加熱処理による不活化効果とプラズマ処理による不活化効果(上記より生存率が10%になると仮定したときの効果)を単純に足し合わせたプロットを追記したグラフである。横軸に温度、縦軸に生存率を示す。
図4からわかるように温度が30℃以上になると、単純に加熱処理とプラズマ処理の効果を足し合わせた生存率よりも、実際に加熱処理と、プラズマ処理を行った処理によるウイルス生存率のほうが低く、ウイルス不活化効果が著しく増大していることがわかる。
【0024】
プラズマ処理工程では、空気中に酸素や水が存在するため、電子や、水素イオン(H+)、酸素イオン(O2-)等の正負のイオンが共存した状態となる。また、負イオンが水と反応すると、ヒドロキシルラジカル等の活性度の高いラジカルが生成する。それらが、たんぱく質とDNAやRNA等の核酸等から構成されるウイルスに直接アタックし、物理的に損傷を与える。その損傷効果が高ければ、ウイルスは不活化する。しかし、ウイルスのような微生物は自己再生機能を有しているため、その損傷効果が少なければ、自己修復し、その結果、活性を取り戻し、もとの感染可能な状態に戻る。
【0025】
微生物の自己再生機能は、ある温度以上の高温に置かれると、低下することがわかっている。自己再生機能が低下すると、本来であれば、活性を取り戻し、感染可能な状態に戻るウイルスが、そのまま不活化してしまう。
【0026】
本工程においては、加熱工程によりウイルスの自己再生機能を低下させ、その上でプラズマ処理を行う工程となっている。そのため、これらを総合すると、加熱工程およびプラズマ工程を組み合わせることにより、各工程でウイルスが不活化する作用に加え、各工程だけでは自己再生機能により感染力を取り戻すウイルスまでもが各工程を組み合わせることで不活化することにより、相乗的にウイルスを不活化させることができたと考えられる。
【0027】
図5は、加熱温度として40℃に設定した場合において、加熱処理もプラズマ処理も行わない場合(無処理)、プラズマ処理のみ行った場合、加熱のみ行った場合、プラズマ処理と加熱処理の両者を行った場合のウイルスの生存率を調べた結果を示したものである。
【0028】
図5に示すように、ウイルス生存率は、無処理の場合の95%に対し、プラズマ処理だけでは10%、加熱処理だけでは40%、プラズマ処理と加熱処理の両者を行った場合には0.4%となり、プラズマ処理と加熱処理の両者を行うことにより、相乗的にウイルス不活化効果が増大することがわかった。また、言い換えれば、加熱処理、プラズマ処理、そして両者の複合効果により、ウイルス不活化効果が増大したといえる。
【0029】
以上のことから、ウイルス不活化効果を高めるためには、加熱処理とプラズマ処理の両者を行うことが必要であることがわかった。
【0030】
次に、加熱処理とプラズマ処理の工程の順番がウイルスの不活化に与える影響を説明する。
図6は、ウイルスに対し、加熱処理を行った後プラズマ処理を行った場合と、プラズマ処理を行った後、加熱処理を行った場合のウイルス生存率の比較を行ったグラフである。比較対象として、加熱処理とプラズマ処理単独の効果を足し合わせた結果も記載している。単純に足し合わせた処理の結果であるウイルス生存率は4.14×10-2であるのに対し、加熱処理を行った後プラズマ処理を行った場合のウイルス生存率は9.81×10-3、プラズマ処理を行った後加熱処理を行った場合のウイルス生存率は2.91×10-2であった。
【0031】
このことから、加熱処理、プラズマ処理のどちらの工程を先にしても、単なる足し合わせの効果よりもウイルス不活化効果が高いことがわかった。また、それと同時に、加熱処理後プラズマ処理のほうが、プラズマ処理後加熱処理よりもウイルス生存率が低いことから、加熱処理後プラズマ処理のほうが、より相乗的にウイルスを不活化することができることがわかった。
【0032】
以上のことより、本装置においては、加熱部、プラズマ部の処理工程順はどちらでもウイルス不活化効果が高められるが、最も効率よくウイルスを不活化するには、加熱部の後に、プラズマ部を設けるのがよいことがわかった。
【0033】
以上のことから、ウイルスに対し、加熱工程の後に、プラズマ処理工程を行うウイルス不活化装置の構造とすることにより、ウイルスを捕捉することなく、一過性で不活化することができるようになる。これにより、装置100では、加熱工程後、ウイルスにプラズマ処理を行うことで、ウイルスを捕捉することなく、一過性で、ウイルスを高効率的に不活化することができ、空気中に浮遊しているウイルスを圧損低下なく、低コスト、静音でウイルスを不活化することが可能となる。
【0034】
なお、実施の形態1では、浮遊微生物を荷電する前に空気中の粗塵を取り除くフィルターを記載していないが、空気が浮遊微生物を荷電する荷電部に流れ込む前に空気中の粗塵を取り除くようなフィルターを備えるようにした方が効率的なウイルス不活化効果が得られることはいうまでもない。
また、実施の形態1では、プラズマ部で荷電されたウイルス粒子は、そのまま荷電を保持したまま、装置を通過してしまう構造となっている。そのため、加熱部、プラズマ部の後段に、中和部を配置し、ウイルス粒子の荷電を電気的に中和する構造を付加してもよい。
【0035】
図7は、実施の形態1のウイルス不活化装置に中和部を追加した構成図である。図に中和部の詳細を示す。中和部には、プラズマ部の放電電極(高圧電極3)と逆電位の中和部電極6、次いで同電位の中和部電極7が配置されている。各中和部電極6、7は、金属メッシュ等からなる電極で構成されている。なお、図7において、8は中和部電極6と中和部電極7との間に所定の電圧を印加するための中和部電圧電源である。
この構成によれば、プラズマ部より浮遊してきた荷電されたウイルス粒子の多くは、逆電位の中和部電極6と接触し、電荷を失い、その後、装置100を通過してしまう。また、仮に逆電位の中和部電極6と接触しなかった場合でも、その後の同電位の中和部電極7により、逆電位の中和部電極6の方向に逆戻りし、その結果、逆電位の中和部電極6と接触し、電荷を失ってしまう。このようにして、ウイルス粒子は、中和部において、電荷を失う構造となっている。
【0036】
また、実施の形態1では、送風機1を風上側に設置し、ウイルス不活化部に空気を押し込む場合について述べたが、送風機を風下側に設置し、ウイルス不活化部から空気を吸い込むようにしても、同様の殺菌効果が得られることはいうまでもない。
【0037】
上記実施の形態では、放電電極(高圧電極3)が細線によって構成されている場合(線電極)について示したが、放電電極(高圧電極3)は、針状の突起物を有した針状電極や、ブラシのように金属線を植毛したブラシ状電極を用いるようにしても良い。ただし、針状電極を近づけ過ぎたり、印加電圧をあげすぎると、火花放電が起こり、大量の電流が流れるため、高圧電源に出力電流制御装置を組み込んだり、高圧電源の出力電圧波形をパルス状にすることにより、大電流が流れないようにするような工夫が必要である。
【0038】
高圧電極3と接地電極4との間で放電させるためには、所定の間隔を設ける必要がある。この間隔が長くなるほど放電開始に必要な放電電圧が高くなるため、高圧電源の付加が増大し、かつ、高圧電極3から装置筐体への異常放電を引き起こす可能性があるため、絶縁対策が必要となる。したがって、高電圧電極と接地電極との間隔はできるだけ短いほうが望ましいが、間隔が短くなると気体の絶縁破壊が生じ、接地電極への火花放電を誘発する。このため、高圧電極3と接地電極4との間の間隔の設定には留意を要する。
【0039】
放電させるために高圧電極3と接地電極4間に高電圧を共有する高圧電源としては、放電を発現させ、電子、イオン、オゾン等の活性種を精製できるものであればよく、印加される電圧波形は、正、あるいは負極性の直流電圧、交流電圧、パルス、短形波(矩形波)等、いずれの形態でもよい。
【0040】
実施の形態2.
図8は、本発明の実施の形態2に係るウイルス不活化装置(以下、装置100aと称する)の概略構成を示す縦断面図である。図8に基づいて、装置100aの構成及び動作について説明する。なお、実施の形態2では実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付している。また、図8では、空気の流れを矢印で示している。
【0041】
実施の形態2に係る装置100aは、風路筐体10の内部に、風上(上流)側から、送風機1、加熱装置2、高圧電極(高電圧印加電極)3、高圧電極3に対向した接地電極4、さらに第2電極として、空気の流れに対して平行に、かつ正極と負極が交互に配置させたイオン付着部電極11、12が順に配置されて構成されている。すなわち、装置100aは、高圧電極3、接地電極4のプラズマ部の後段に、第2電極(イオン付着部電極11、12)が構成されている点が、実施の形態1に係る装置100と相違している。なお、図8において、13はイオン付着部電極11、12間に所定の電圧を印加するためのイオン付着部電圧電源である。
【0042】
この第2電極の材料は、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)等、ウイルスを不活化する効果を有する金属を使用し、その表面は、疎水化処理が施されていることを特徴としている。ここで、金属の疎水化処理に関して説明する。
電極表面は、疎水性を有するとともに、金属がむき出しになった状態であることが必要である。そのため、金属を300℃程度の高温で処理するのが望ましい。また、その他の方法で同様の疎水性処理が行えるのであれば、それらの方法を用いてもよい。
【0043】
次に、装置100aの動作について説明する。
図9は、装置100aが実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。装置100aの特徴は、ウイルスを加熱する部分と、ウイルスに高電圧を印加する部分、更にウイルス粒子にイオンが溶解する部分とを兼ね備えた点である。すなわち、ウイルスに加熱処理、プラズマ処理、金属イオン付着処理を行うことにより、ウイルスを効率的に不活化できるようになっている。
【0044】
装置100aが運転を開始すると、まず送風機1が稼動する。そして、それと同時に加熱装置2が稼動する(S11)。高電圧電極付近の温度を図示省略の制御基板等に設けられている温度判定部で計測される。計測された温度は、温度判定部によって予め設定されている設定温度と比較される(S12)。そして、問題がなければ次の工程に移る。
測定された温度が設定温度値よりも低ければ、加熱装置2によりさらに加熱する。このようにして、浮遊しているウイルスを常時効率よく加熱されていることを確認する。
【0045】
次に、放電によるウイルス不活化工程が開始される(S13)。すなわち、高圧電極3に可変型高電圧電源5から高電圧が印加される(S14)。これにより、高圧電極3と接地電極4との間で放電が起こり(S15)、放電電流が接地電極4に流れる。ここで、接地電極4に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま不活化処理工程が開始される。
【0046】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、高圧電極に印加される電圧が高くされ、測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、高圧電極に印加される電圧が低くされる。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する。
【0047】
次に、金属イオン付着によるウイルス不活化工程が開始される(S16)。第2電極(イオン付着部電極11、12)にイオン付着部電圧電源13から電圧が印加される(S17)。これにより、第2電極(イオン付着部電極11、12)の電極それぞれが正極、負極に帯電する(S18)。ここで、第2電極(イオン付着部電極11、12)間に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま金属イオン付着による不活化処理工程が開始される。
【0048】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、第2電極(イオン付着部電極11、12)間に電圧が印加されており、金属イオン付着によるウイルス不活化効果が得られる。測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、異常とみなし、電圧印加を中断する。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する。
【0049】
全ウイルス不活化工程が開始すると、タイマーが作動し、これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が計測される。
これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が設定時間に達する(S19)と、高圧電極3への高電圧印加、第2電極(イオン付着部電極11、12)への電圧印加が停止され、不活化工程は終了する(S20)。
その後、再びウイルス不活化が必要になれば、加熱工程が開始され、上記の運転が繰り返されることになる。
【0050】
ここで、第2電極(イオン付着部電極11、12)にウイルス粒子が捕捉されない理由について説明する。ウイルス粒子は、粒子径サブミクロンから数ミクロン程度の浮遊水分中に含まれ、浮遊している。これらの粒子は、水分からできているため、表面が親水性となっている。そのため、ウイルス粒子が高圧電極・接地電極間のプラズマ部を通過し、荷電されたまま、第2電極部にやってくると、第2電極のウイルス粒子のもつ極性とは逆の電極に引き寄せられ、接触する。しかし、ウイルス粒子は、電極と電子の授受を行っても、電極材料が疎水性であるため、電極に付着しない。その結果、ウイルス粒子は、電極に接触し、電子の授受を行い、また、新たに帯電した後、電極の向かいにある逆の極性を持つ対向電極に引き寄せられていく。以上のように、電極表面を疎水性とし、かつ、対向して正負に帯電した電極を設置することにより、ウイルス粒子は、電極に接触しながらも、付着することなく電極間を通過する。
【0051】
このような構成および電圧印加により、実施の形態2においては、高圧電極3により帯電したウイルス粒子が、第2電極(イオン付着部電極11、12)に接触するが付着することなく、移動し、その結果、第2電極を通過するため、電極に捕捉されることなく、本装置を通過することができる。
【0052】
次に、第2電極(イオン付着部電極11、12)と接触した際に生じるウイルス不活化効果を説明する。ウイルスを含む水粒子は空気中を浮遊しているため、多少少なからず二酸化炭素が溶解し、pHが5.6程度と酸性に傾いている。そのため、第2電極に接触した際に、電極材料であるCu、Zn等の金属イオンが溶解する。Cu、Zn等の金属はウイルスを不活化する作用を有しているため、これらの金属イオンが溶解すると、ウイルスは不活化が促進される。
【0053】
図10は、Cuが溶解した水溶液中でのウイルスの生存率、さらにその液に対し、プラズマ処理を行った際のウイルス生存率を調べた結果を示すグラフである。なお、図10の横軸は無処理を含む各種の処理、縦軸は各種の処理におけるウイルスの生存率を示している。
図10に示すように、Cuが溶解した溶液中で、ウイルスの生存率は、無処理の場合に対して20%程度であったが、さらにプラズマ処理を行うと、9.3×10-3にまで低下し、ウイルスがCu溶解とプラズマ処理により高効率的に不活化することがわかった。
【0054】
以上のことより、Cu、Zn、Ag等のウイルスを不活化する作用を有する金属が存在すると、ウイルス不活化は促進されることがわかった。
このような構成によれば、実施の形態1で説明した効果に加え、第2電極(イオン付着部電極11、12)に接触した際に、ウイルスを含む水分中に金属が溶解し、ウイルス不活化効果をより高めることができる。
【0055】
実施の形態3.
図11は、本発明の実施の形態3に係るウイルス不活化装置を冷暖房機能を有する空調機に設置した例を示す概略縦断面図である。実施の形態3における空調機20には、風上側より、プレフィルター24、熱交換器22、ファン21、およびプラズマ部23が配置されている。29は空調機本体を示す。また、図11では、空気の流れを矢印で示している。
【0056】
インフルエンザウイルス等のウイルスが流行するのは、秋ごろから春ごろにかけてであるため、空調機20は基本的に暖房運転となる。暖房運転時、熱交換器22は、温風を作成するために、Cu管、Alフィンが媒体により暖められ、40℃以上の高温状態となる。そして、その熱交換器22と外部からの冷たい空気が接触し、空気が温められ、ファン21の力で空調機外部(室内空間)へと送風されていく。
【0057】
本実施の形態3における空調機20においては、熱交換器22の風下側にプラズマ部23(前述の高圧電極3、接地電極4、および可変型高圧電源5より構成される。)が装着されている。そのため、空調機20に入り込んだ空気は、熱交換器22で暖められ、その後、プラズマ部23を通ることとなる。
【0058】
このような構成によれば、空調機の従来の装置(プレフィルター、熱交換器、ファン)に、プラズマ部23を設置するだけで、高効率的なウイルス不活化効果を有する加熱部、プラズマ部をウイルスが通過する空調機が設計され、その結果、空調機により、ウイルスを効率的に不活化することができる。
【0059】
また、空調機には、プレフィルター24が装着されているが、このフィルター24は、空調機に吸引される空気中の粗塵を取り除く役割を果たしているため、効率的なウイルス不活化効果が得られることはいうまでもない。
【0060】
また、本実施の形態3では、実施の形態1の構造に則ったウイルス不活化機能を有する空調機について、説明したが、前述したイオン付着部等を追加し、実施の形態2の構造に則ったウイルス不活化機能を有する空調機では、本実施の形態3よりも、更に高効率なウイルス不活化効果を有する空調機となることはいうまでもない。
【0061】
次に、空調機の動作について説明する。
図12は、空調機が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
装置の特徴は、空調機20が稼動し、室内に温風を送風するときのみ、プラズマ部23に高電圧を印加する点である。すなわち、空調機20の運転とウイルス不活化を連動することにより、省エネルギーなウイルス不活化運転を行うことが可能となっている。
【0062】
空調機20が運転を開始すると、まずファン21が稼動する(S21)。そして、それと同時に室外機が稼動し、熱交換器22の加熱が始まる。空調機20に設置されている温度センサーにより、空調機20から送風される空気の温度を計測する。計測された温度は、温度判定部によって予め設定されている設定温度(室内温度)と比較される(S22)。そして、問題がなければ次の工程に移る。
測定された温度が設定温度値よりも低ければ、熱交換器22部が十分に加熱されていないことを意味するため、そのまま待機する。このようにして、浮遊しているウイルスを常時効率よく加熱していることを確認する。
【0063】
次に、プラズマ部によるウイルス不活化工程が開始される(S23)。すなわち、高圧電極に可変型高電圧電源から高電圧が印加される(S24)。これにより、高圧電極と接地電極の間で放電が起こり、放電電流が接地電極に流れる。ここで、接地電極に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま不活化処理工程が開始される。
【0064】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、高圧電極に印加される電圧が高くされ、測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、高圧電極に印加される電圧が低くされる。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する(S25)。
室内の温度が設定温度となったところで、空調機20は待機状態となる。これを感知し、高圧電極への高電圧印加をストップする。こうすることにより、ファン21が稼動し、空調機20から送風されているときにのみ、ウイルス不活化を実行することとなるため、無駄なエネルギーを消費することがない。
【0065】
放電によるウイルス不活化工程が開始すると、タイマーが作動し、これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が計測される(S26)。
これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が設定時間に達すると、高圧電極3への高電圧印加が停止され、不活化工程は終了する(S27)。
その後、再び空調機20が稼動し、送風されるようになると、熱交換器22での加熱工程が開始され、上記の運転が繰り返されることになる。
【0066】
なお、本実施の形態3においては、熱交換器22の下に、プラズマ部23を設置し、風上側よりプレフィルター24、熱交換器22、ファン21、およびプラズマ部23が配置されている構造となっているが、図13に示すように、熱交換器22の前部または上部に、プラズマ部25を配置し、このプラズマ部25の後に熱交換器22での加熱工程を行う空調機20aにしてもよい。その場合、図13に矢印30で示すように、プラズマ部25に吸引ファン(図示省略)を設けることにより、熱交換器22の加熱部を通過したウイルスに対し、プラズマをする構造とし、ベストモードでウイルスを不活化することができる。また、熱交換器22の前部または上部にプラズマ部25が配置されるため、冷房運転した際の結露水が付着することのない設計にすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 送風機、2 加熱装置、3 高圧電極、4 接地電極、5 可変型高電圧電源、6 中和部電極、7 中和部電極、8 中和部電圧電源、9 風路、10 風路筐体、11 イオン付着部電極、12 イオン付着部電極、13 イオン付着部電圧電源、20 空調機、20a 空調機、21 ファン、22 熱交換器、23 プラズマ部、24 プレフィルター、25 プラズマ部(ファン付き)、29 空調機本体、100 装置、100a 装置、100b 装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間に浮遊しているウイルスを捕捉せず、放電場を通過する際に、不活化させるウイルスの不活化装置、その方法、およびそれを用いた空調機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空間に浮遊している微生物やウイルスを除去する浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置が存在している。そのようなものとして、風上側から、コロナ荷電部、高圧電極、フィルター、フィルターに接した電極の順で配置され、作動の間の電荷蓄積の影響を打ち消して、長い寿命全体にわたって高い除去効力を提供できるようにした浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
また、空間に飛散している化学物質等のガスを浄化する装置として、化学物質を吸着するハニカム構造の吸着剤と、吸着剤に密接して設けられた給電極と、放電電極とを備え、ガス状の化学物質を効果的に捕捉し、分解できるガス浄化装置が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−512131号公報
【特許文献2】特許第4457603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置にあっては、浮遊微生物・浮遊ウイルスをフィルターに付着させ、捕捉することにより、空間中から、除去している。そのため、特許文献1に記載のような浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置では、ウイルスを捕捉し続けると、フィルターでの圧力損失があがり、エネルギー消費量の増大、騒音が発生し、また、ウイルス捕捉効果が低下してしまうという問題点があった。また、特許文献1に記載のような浮遊微生物・浮遊ウイルス除去装置では、フィルターで捕捉した微生物やウイルスの再飛散、またフィルター上で増殖するのを防止するためには、フィルターを清浄化する等のメンテナンス作業を行う必要があるという問題点もあった。
特許文献2に記載のようなガス浄化装置にあっては、ガス(空気)に対して、プラズマ放電のみしか行っていないため、化学物質を吸着し、効果的に分解することができるが、ウイルスを捕捉することができないことはもちろんのこと、一過性でウイルスを不活化することはできないという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、ウイルスを捕捉することなく、加熱空間および電極間での放電空間を通過させることにより、一過性で、効率的にウイルスを不活化するとともに、ウイルス不活化工程において、圧力損失がなく、静音なウイルス不活化装置、その方法、およびそれを用いた空調機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るウイルス不活化装置は、空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む送風機と、
浮遊ウイルスが通過する風路に配置され、浮遊ウイルスを加熱処理する加熱装置、浮遊ウイルスをプラズマ処理する高圧電極、およびこの高圧電極に対向して設置された接地電極と、
前記高圧電極に高電圧を印加するために接続された高圧電源と、
を備えたものである。
【0007】
また、本発明に係るウイルス不活化方法は、空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する方法であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む工程と、
前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスに対し、加熱処理とプラズマ処理とを行う工程と、
を有するものである。
【0008】
本発明において、ウイルスとは、生物に寄生し、生きた細胞内でのみ増殖する微粒子をいう。大きさは約20〜260ミリミクロンであり、化学的には核蛋白質を本体とし、大形のものは脂質や多糖類をも含む。核蛋白質中の核酸は、増殖に際して生物の遺伝子と同じような働きをする。
また、ウイルスの不活化とは、ウイルスの感染能力を失活させることをいう。
また、風路とは、管状の風路のみを意味するのではなく、筐体の中を通る場合などを含めて、広く風の流れとなる通路のことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るウイルス不活化装置及びその方法によれば、空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく、一過性で、効率的にウイルスを不活化するとともに、ウイルス不活化工程において、圧力損失がなく、静音なウイルスの不活化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係るウイルス不活化装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るウイルス不活化装置が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率を調べた結果をあらわしたグラフである。
【図4】各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率に加え、各温度での加熱処理による不活化効果とプラズマ処理による不活化効果を単純に足し合わせたプロットを追記したグラフである。
【図5】加熱処理もプラズマ処理も行わない場合(無処理)、プラズマ処理のみ行った場合、加熱のみ行った場合、プラズマ処理と加熱処理の両者を行った場合のウイルスの生存率を調べた結果をあらわしたグラフである。
【図6】ウイルスに対し、加熱処理を行った後プラズマ処理を行った場合と、プラズマ処理を行った後加熱処理を行った場合のウイルス生存率の比較を行ったグラフである。比較対象として、加熱処理とプラズマ処理単独の効果を足し合わせた結果も記載している。
【図7】実施の形態1のウイルス不活化装置に中和部を追加した構成図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係るウイルス不活化装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係るウイルス不活化装置が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
【図10】銅が溶解した水溶液中でのウイルスの生存率、さらにその液に対し、プラズマ処理を行った際のウイルス生存率を調べた結果をあらわしたグラフである。
【図11】本発明の実施の形態3に係るウイルス不活化装置を冷暖房機能を有する空調機に設置した例を示す概略縦断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る空調機が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態3に係るウイルス不活化装置を冷暖房機能を有する空調機に設置した他の例を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るウイルスの不活化装置(以下、装置100と称する)の概略構成を示す縦断面図である。図1に基づいて、装置100の構成及び動作について説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図1では、空気の流れを矢印で示している。
装置100は、空間に浮遊しているウイルスを捕捉せず、一過性で、効率的にウイルスを不活化するものである。装置100は、風路9を形成する筐体(以下、風路筐体と称する)10の内部に、風上(上流)側から、送風機1、加熱装置2、高圧電極3、接地電極4が順に配置されて構成されている。
【0013】
送風機1は、風路筐体10内に空気を取り込み送り出すものである。
加熱部での加熱手段としては、例えば、板状、ロット状、あるいはワイヤー状の電気ヒーター等からなる発熱体を使用し、該発熱体を風路9の外周部に密着させて設置すればよい。かかる発熱体は、空気を加熱できるものであればよく、特に電気ヒーターに限られるものではない。
【0014】
高圧電極3は、たとえば線径0.1mm〜0.3mm程度の細線が多数張られた電極で構成され、接続されている可変型の高電圧電源5から直流高電圧が印加されるようになっている。
接地電極4は、たとえば金属メッシュ等からなる電極で構成され、アースに接続されるようになっている。高圧電極3及び接地電極4でプラズマ部を構成している。なお、以下の実施の形態では、接地電極であるとして説明するが、高圧電極3と接地電極4との間に電圧が印加されればよく、接地電極4が必ずしも接地されて使用されていなくてもよい。また、高圧電極3を断面積が0.1mm×0.5mmの長方形又はその類似形状のリボン(厚み0.1mm)で構成しても同様の効果が得られる。この場合、断面積が0.1mm×0.1mmとなる面を接地電極4に向けるようにした方が効率的に荷電でき、また、放電時のスパッターによる電極磨耗による断線の影響を小さくできる効果がある。
【0015】
次に、装置100の動作について説明する。
図2は、装置100が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。装置100の特徴は、ウイルスを加熱する部分と、ウイルスに高電圧を印加する部分とを兼ね備えた点である。すなわち、ウイルスに加熱処理、プラズマ処理を行うことにより、ウイルスを効率的に不活化できるようになっている。
【0016】
装置100が運転を開始すると、まず送風機1が稼動する。そして、それと同時に加熱装置2が稼動する(S1)。高電圧電極付近の温度を図示省略の制御基板等に設けられている温度判定部で計測される。計測された温度は、温度判定部によって予め設定されている設定温度と比較される(S2)。そして、問題がなければ次の工程に移る。
測定された温度が設定温度値よりも低ければ、加熱装置2によりさらに加熱する。このようにして、浮遊しているウイルスを常時効率よく加熱されていることを確認する。
【0017】
次に、放電によるウイルス不活化工程が開始される(S3)。すなわち、高圧電極3に可変型高電圧電源5から高電圧が印加される(S4)。これにより、高圧電極3と接地電極4との間で放電が起こり(S5)、放電電流が接地電極4に流れる。ここで、接地電極4に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま不活化処理工程が開始される。
【0018】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、高圧電極3に印加される電圧が高くされ、測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、高圧電極3に印加される電圧が低くされる。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する。放電によるウイルス不活化工程が開始すると、タイマーが作動し、これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が計測される(S6)。
これら一連の工程における処理時間が設定時間に達すると、高圧電極3への高電圧印加が停止され、不活化工程は終了する(S7)。
その後、再びウイルス不活化が必要になれば、加熱工程が開始され、上記の運転が繰り返されることになる。
【0019】
以上のように、装置100では、ウイルスを加熱する工程と、ウイルスに高電圧を印加する工程を有するようにしたことにより、浮遊ウイルスを捕捉することなく、一過性でウイルスを不活化することができる。また、ウイルス不活化装置がウイルス等を捕捉することがないため、常時衛生的に保持することができ、かつ、圧力損失が無く静音にウイルスを不活化することができる。
【0020】
次に、装置100の特徴事項である加熱処理工程とプラズマ処理工程とによるウイルスの不活化に関して説明する。ウイルスの不活化の試験においては、すべて大腸菌ファージφX174を供試ウイルスとして用いている。
【0021】
図3は、各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率を示す。横軸に温度、縦軸に生存率を示す。なお、比較対象として、プラズマ処理を行っていない場合におけるウイルス生存率も記載する。プラズマ処理を行わなかった場合、温度が15℃〜40℃程度までウイルス生存率は30〜40%以上でほとんどウイルスが不活化していない。その一方で、プラズマ処理を行った場合、温度が30℃までは、生存率が10%であったのに対し、温度が30℃より高くなると、急激に生存率が低下し、40℃では9.8×10-3、60℃で9.9×10-5となった。
【0022】
プラズマ処理を行わなかった場合に生存率が90%以上となり、温度により不活化していない条件といえる15℃、20℃において、プラズマ処理を行った場合には、生存率が10%まで低下していることから、このウイルス生存率の低下は、プラズマ処理による不活化効果であるといえる。
【0023】
図4は、各温度でのプラズマ処理によるウイルスの生存率に加え、各温度での加熱処理による不活化効果とプラズマ処理による不活化効果(上記より生存率が10%になると仮定したときの効果)を単純に足し合わせたプロットを追記したグラフである。横軸に温度、縦軸に生存率を示す。
図4からわかるように温度が30℃以上になると、単純に加熱処理とプラズマ処理の効果を足し合わせた生存率よりも、実際に加熱処理と、プラズマ処理を行った処理によるウイルス生存率のほうが低く、ウイルス不活化効果が著しく増大していることがわかる。
【0024】
プラズマ処理工程では、空気中に酸素や水が存在するため、電子や、水素イオン(H+)、酸素イオン(O2-)等の正負のイオンが共存した状態となる。また、負イオンが水と反応すると、ヒドロキシルラジカル等の活性度の高いラジカルが生成する。それらが、たんぱく質とDNAやRNA等の核酸等から構成されるウイルスに直接アタックし、物理的に損傷を与える。その損傷効果が高ければ、ウイルスは不活化する。しかし、ウイルスのような微生物は自己再生機能を有しているため、その損傷効果が少なければ、自己修復し、その結果、活性を取り戻し、もとの感染可能な状態に戻る。
【0025】
微生物の自己再生機能は、ある温度以上の高温に置かれると、低下することがわかっている。自己再生機能が低下すると、本来であれば、活性を取り戻し、感染可能な状態に戻るウイルスが、そのまま不活化してしまう。
【0026】
本工程においては、加熱工程によりウイルスの自己再生機能を低下させ、その上でプラズマ処理を行う工程となっている。そのため、これらを総合すると、加熱工程およびプラズマ工程を組み合わせることにより、各工程でウイルスが不活化する作用に加え、各工程だけでは自己再生機能により感染力を取り戻すウイルスまでもが各工程を組み合わせることで不活化することにより、相乗的にウイルスを不活化させることができたと考えられる。
【0027】
図5は、加熱温度として40℃に設定した場合において、加熱処理もプラズマ処理も行わない場合(無処理)、プラズマ処理のみ行った場合、加熱のみ行った場合、プラズマ処理と加熱処理の両者を行った場合のウイルスの生存率を調べた結果を示したものである。
【0028】
図5に示すように、ウイルス生存率は、無処理の場合の95%に対し、プラズマ処理だけでは10%、加熱処理だけでは40%、プラズマ処理と加熱処理の両者を行った場合には0.4%となり、プラズマ処理と加熱処理の両者を行うことにより、相乗的にウイルス不活化効果が増大することがわかった。また、言い換えれば、加熱処理、プラズマ処理、そして両者の複合効果により、ウイルス不活化効果が増大したといえる。
【0029】
以上のことから、ウイルス不活化効果を高めるためには、加熱処理とプラズマ処理の両者を行うことが必要であることがわかった。
【0030】
次に、加熱処理とプラズマ処理の工程の順番がウイルスの不活化に与える影響を説明する。
図6は、ウイルスに対し、加熱処理を行った後プラズマ処理を行った場合と、プラズマ処理を行った後、加熱処理を行った場合のウイルス生存率の比較を行ったグラフである。比較対象として、加熱処理とプラズマ処理単独の効果を足し合わせた結果も記載している。単純に足し合わせた処理の結果であるウイルス生存率は4.14×10-2であるのに対し、加熱処理を行った後プラズマ処理を行った場合のウイルス生存率は9.81×10-3、プラズマ処理を行った後加熱処理を行った場合のウイルス生存率は2.91×10-2であった。
【0031】
このことから、加熱処理、プラズマ処理のどちらの工程を先にしても、単なる足し合わせの効果よりもウイルス不活化効果が高いことがわかった。また、それと同時に、加熱処理後プラズマ処理のほうが、プラズマ処理後加熱処理よりもウイルス生存率が低いことから、加熱処理後プラズマ処理のほうが、より相乗的にウイルスを不活化することができることがわかった。
【0032】
以上のことより、本装置においては、加熱部、プラズマ部の処理工程順はどちらでもウイルス不活化効果が高められるが、最も効率よくウイルスを不活化するには、加熱部の後に、プラズマ部を設けるのがよいことがわかった。
【0033】
以上のことから、ウイルスに対し、加熱工程の後に、プラズマ処理工程を行うウイルス不活化装置の構造とすることにより、ウイルスを捕捉することなく、一過性で不活化することができるようになる。これにより、装置100では、加熱工程後、ウイルスにプラズマ処理を行うことで、ウイルスを捕捉することなく、一過性で、ウイルスを高効率的に不活化することができ、空気中に浮遊しているウイルスを圧損低下なく、低コスト、静音でウイルスを不活化することが可能となる。
【0034】
なお、実施の形態1では、浮遊微生物を荷電する前に空気中の粗塵を取り除くフィルターを記載していないが、空気が浮遊微生物を荷電する荷電部に流れ込む前に空気中の粗塵を取り除くようなフィルターを備えるようにした方が効率的なウイルス不活化効果が得られることはいうまでもない。
また、実施の形態1では、プラズマ部で荷電されたウイルス粒子は、そのまま荷電を保持したまま、装置を通過してしまう構造となっている。そのため、加熱部、プラズマ部の後段に、中和部を配置し、ウイルス粒子の荷電を電気的に中和する構造を付加してもよい。
【0035】
図7は、実施の形態1のウイルス不活化装置に中和部を追加した構成図である。図に中和部の詳細を示す。中和部には、プラズマ部の放電電極(高圧電極3)と逆電位の中和部電極6、次いで同電位の中和部電極7が配置されている。各中和部電極6、7は、金属メッシュ等からなる電極で構成されている。なお、図7において、8は中和部電極6と中和部電極7との間に所定の電圧を印加するための中和部電圧電源である。
この構成によれば、プラズマ部より浮遊してきた荷電されたウイルス粒子の多くは、逆電位の中和部電極6と接触し、電荷を失い、その後、装置100を通過してしまう。また、仮に逆電位の中和部電極6と接触しなかった場合でも、その後の同電位の中和部電極7により、逆電位の中和部電極6の方向に逆戻りし、その結果、逆電位の中和部電極6と接触し、電荷を失ってしまう。このようにして、ウイルス粒子は、中和部において、電荷を失う構造となっている。
【0036】
また、実施の形態1では、送風機1を風上側に設置し、ウイルス不活化部に空気を押し込む場合について述べたが、送風機を風下側に設置し、ウイルス不活化部から空気を吸い込むようにしても、同様の殺菌効果が得られることはいうまでもない。
【0037】
上記実施の形態では、放電電極(高圧電極3)が細線によって構成されている場合(線電極)について示したが、放電電極(高圧電極3)は、針状の突起物を有した針状電極や、ブラシのように金属線を植毛したブラシ状電極を用いるようにしても良い。ただし、針状電極を近づけ過ぎたり、印加電圧をあげすぎると、火花放電が起こり、大量の電流が流れるため、高圧電源に出力電流制御装置を組み込んだり、高圧電源の出力電圧波形をパルス状にすることにより、大電流が流れないようにするような工夫が必要である。
【0038】
高圧電極3と接地電極4との間で放電させるためには、所定の間隔を設ける必要がある。この間隔が長くなるほど放電開始に必要な放電電圧が高くなるため、高圧電源の付加が増大し、かつ、高圧電極3から装置筐体への異常放電を引き起こす可能性があるため、絶縁対策が必要となる。したがって、高電圧電極と接地電極との間隔はできるだけ短いほうが望ましいが、間隔が短くなると気体の絶縁破壊が生じ、接地電極への火花放電を誘発する。このため、高圧電極3と接地電極4との間の間隔の設定には留意を要する。
【0039】
放電させるために高圧電極3と接地電極4間に高電圧を共有する高圧電源としては、放電を発現させ、電子、イオン、オゾン等の活性種を精製できるものであればよく、印加される電圧波形は、正、あるいは負極性の直流電圧、交流電圧、パルス、短形波(矩形波)等、いずれの形態でもよい。
【0040】
実施の形態2.
図8は、本発明の実施の形態2に係るウイルス不活化装置(以下、装置100aと称する)の概略構成を示す縦断面図である。図8に基づいて、装置100aの構成及び動作について説明する。なお、実施の形態2では実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付している。また、図8では、空気の流れを矢印で示している。
【0041】
実施の形態2に係る装置100aは、風路筐体10の内部に、風上(上流)側から、送風機1、加熱装置2、高圧電極(高電圧印加電極)3、高圧電極3に対向した接地電極4、さらに第2電極として、空気の流れに対して平行に、かつ正極と負極が交互に配置させたイオン付着部電極11、12が順に配置されて構成されている。すなわち、装置100aは、高圧電極3、接地電極4のプラズマ部の後段に、第2電極(イオン付着部電極11、12)が構成されている点が、実施の形態1に係る装置100と相違している。なお、図8において、13はイオン付着部電極11、12間に所定の電圧を印加するためのイオン付着部電圧電源である。
【0042】
この第2電極の材料は、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)等、ウイルスを不活化する効果を有する金属を使用し、その表面は、疎水化処理が施されていることを特徴としている。ここで、金属の疎水化処理に関して説明する。
電極表面は、疎水性を有するとともに、金属がむき出しになった状態であることが必要である。そのため、金属を300℃程度の高温で処理するのが望ましい。また、その他の方法で同様の疎水性処理が行えるのであれば、それらの方法を用いてもよい。
【0043】
次に、装置100aの動作について説明する。
図9は、装置100aが実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。装置100aの特徴は、ウイルスを加熱する部分と、ウイルスに高電圧を印加する部分、更にウイルス粒子にイオンが溶解する部分とを兼ね備えた点である。すなわち、ウイルスに加熱処理、プラズマ処理、金属イオン付着処理を行うことにより、ウイルスを効率的に不活化できるようになっている。
【0044】
装置100aが運転を開始すると、まず送風機1が稼動する。そして、それと同時に加熱装置2が稼動する(S11)。高電圧電極付近の温度を図示省略の制御基板等に設けられている温度判定部で計測される。計測された温度は、温度判定部によって予め設定されている設定温度と比較される(S12)。そして、問題がなければ次の工程に移る。
測定された温度が設定温度値よりも低ければ、加熱装置2によりさらに加熱する。このようにして、浮遊しているウイルスを常時効率よく加熱されていることを確認する。
【0045】
次に、放電によるウイルス不活化工程が開始される(S13)。すなわち、高圧電極3に可変型高電圧電源5から高電圧が印加される(S14)。これにより、高圧電極3と接地電極4との間で放電が起こり(S15)、放電電流が接地電極4に流れる。ここで、接地電極4に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま不活化処理工程が開始される。
【0046】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、高圧電極に印加される電圧が高くされ、測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、高圧電極に印加される電圧が低くされる。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する。
【0047】
次に、金属イオン付着によるウイルス不活化工程が開始される(S16)。第2電極(イオン付着部電極11、12)にイオン付着部電圧電源13から電圧が印加される(S17)。これにより、第2電極(イオン付着部電極11、12)の電極それぞれが正極、負極に帯電する(S18)。ここで、第2電極(イオン付着部電極11、12)間に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま金属イオン付着による不活化処理工程が開始される。
【0048】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、第2電極(イオン付着部電極11、12)間に電圧が印加されており、金属イオン付着によるウイルス不活化効果が得られる。測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、異常とみなし、電圧印加を中断する。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する。
【0049】
全ウイルス不活化工程が開始すると、タイマーが作動し、これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が計測される。
これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が設定時間に達する(S19)と、高圧電極3への高電圧印加、第2電極(イオン付着部電極11、12)への電圧印加が停止され、不活化工程は終了する(S20)。
その後、再びウイルス不活化が必要になれば、加熱工程が開始され、上記の運転が繰り返されることになる。
【0050】
ここで、第2電極(イオン付着部電極11、12)にウイルス粒子が捕捉されない理由について説明する。ウイルス粒子は、粒子径サブミクロンから数ミクロン程度の浮遊水分中に含まれ、浮遊している。これらの粒子は、水分からできているため、表面が親水性となっている。そのため、ウイルス粒子が高圧電極・接地電極間のプラズマ部を通過し、荷電されたまま、第2電極部にやってくると、第2電極のウイルス粒子のもつ極性とは逆の電極に引き寄せられ、接触する。しかし、ウイルス粒子は、電極と電子の授受を行っても、電極材料が疎水性であるため、電極に付着しない。その結果、ウイルス粒子は、電極に接触し、電子の授受を行い、また、新たに帯電した後、電極の向かいにある逆の極性を持つ対向電極に引き寄せられていく。以上のように、電極表面を疎水性とし、かつ、対向して正負に帯電した電極を設置することにより、ウイルス粒子は、電極に接触しながらも、付着することなく電極間を通過する。
【0051】
このような構成および電圧印加により、実施の形態2においては、高圧電極3により帯電したウイルス粒子が、第2電極(イオン付着部電極11、12)に接触するが付着することなく、移動し、その結果、第2電極を通過するため、電極に捕捉されることなく、本装置を通過することができる。
【0052】
次に、第2電極(イオン付着部電極11、12)と接触した際に生じるウイルス不活化効果を説明する。ウイルスを含む水粒子は空気中を浮遊しているため、多少少なからず二酸化炭素が溶解し、pHが5.6程度と酸性に傾いている。そのため、第2電極に接触した際に、電極材料であるCu、Zn等の金属イオンが溶解する。Cu、Zn等の金属はウイルスを不活化する作用を有しているため、これらの金属イオンが溶解すると、ウイルスは不活化が促進される。
【0053】
図10は、Cuが溶解した水溶液中でのウイルスの生存率、さらにその液に対し、プラズマ処理を行った際のウイルス生存率を調べた結果を示すグラフである。なお、図10の横軸は無処理を含む各種の処理、縦軸は各種の処理におけるウイルスの生存率を示している。
図10に示すように、Cuが溶解した溶液中で、ウイルスの生存率は、無処理の場合に対して20%程度であったが、さらにプラズマ処理を行うと、9.3×10-3にまで低下し、ウイルスがCu溶解とプラズマ処理により高効率的に不活化することがわかった。
【0054】
以上のことより、Cu、Zn、Ag等のウイルスを不活化する作用を有する金属が存在すると、ウイルス不活化は促進されることがわかった。
このような構成によれば、実施の形態1で説明した効果に加え、第2電極(イオン付着部電極11、12)に接触した際に、ウイルスを含む水分中に金属が溶解し、ウイルス不活化効果をより高めることができる。
【0055】
実施の形態3.
図11は、本発明の実施の形態3に係るウイルス不活化装置を冷暖房機能を有する空調機に設置した例を示す概略縦断面図である。実施の形態3における空調機20には、風上側より、プレフィルター24、熱交換器22、ファン21、およびプラズマ部23が配置されている。29は空調機本体を示す。また、図11では、空気の流れを矢印で示している。
【0056】
インフルエンザウイルス等のウイルスが流行するのは、秋ごろから春ごろにかけてであるため、空調機20は基本的に暖房運転となる。暖房運転時、熱交換器22は、温風を作成するために、Cu管、Alフィンが媒体により暖められ、40℃以上の高温状態となる。そして、その熱交換器22と外部からの冷たい空気が接触し、空気が温められ、ファン21の力で空調機外部(室内空間)へと送風されていく。
【0057】
本実施の形態3における空調機20においては、熱交換器22の風下側にプラズマ部23(前述の高圧電極3、接地電極4、および可変型高圧電源5より構成される。)が装着されている。そのため、空調機20に入り込んだ空気は、熱交換器22で暖められ、その後、プラズマ部23を通ることとなる。
【0058】
このような構成によれば、空調機の従来の装置(プレフィルター、熱交換器、ファン)に、プラズマ部23を設置するだけで、高効率的なウイルス不活化効果を有する加熱部、プラズマ部をウイルスが通過する空調機が設計され、その結果、空調機により、ウイルスを効率的に不活化することができる。
【0059】
また、空調機には、プレフィルター24が装着されているが、このフィルター24は、空調機に吸引される空気中の粗塵を取り除く役割を果たしているため、効率的なウイルス不活化効果が得られることはいうまでもない。
【0060】
また、本実施の形態3では、実施の形態1の構造に則ったウイルス不活化機能を有する空調機について、説明したが、前述したイオン付着部等を追加し、実施の形態2の構造に則ったウイルス不活化機能を有する空調機では、本実施の形態3よりも、更に高効率なウイルス不活化効果を有する空調機となることはいうまでもない。
【0061】
次に、空調機の動作について説明する。
図12は、空調機が実行するウイルス不活化方法の流れを示すフローチャートである。
装置の特徴は、空調機20が稼動し、室内に温風を送風するときのみ、プラズマ部23に高電圧を印加する点である。すなわち、空調機20の運転とウイルス不活化を連動することにより、省エネルギーなウイルス不活化運転を行うことが可能となっている。
【0062】
空調機20が運転を開始すると、まずファン21が稼動する(S21)。そして、それと同時に室外機が稼動し、熱交換器22の加熱が始まる。空調機20に設置されている温度センサーにより、空調機20から送風される空気の温度を計測する。計測された温度は、温度判定部によって予め設定されている設定温度(室内温度)と比較される(S22)。そして、問題がなければ次の工程に移る。
測定された温度が設定温度値よりも低ければ、熱交換器22部が十分に加熱されていないことを意味するため、そのまま待機する。このようにして、浮遊しているウイルスを常時効率よく加熱していることを確認する。
【0063】
次に、プラズマ部によるウイルス不活化工程が開始される(S23)。すなわち、高圧電極に可変型高電圧電源から高電圧が印加される(S24)。これにより、高圧電極と接地電極の間で放電が起こり、放電電流が接地電極に流れる。ここで、接地電極に流れる電流は、図示省略の制御基板等に設けられている電流判定部で計測される。計測された電流値は、電流判定部によって予め設定されている設定電流値と比較される。そして、問題がなければそのまま不活化処理工程が開始される。
【0064】
測定された電流値が設定電流値よりも低ければ、高圧電極に印加される電圧が高くされ、測定された電流値が設定電流値よりも高ければ、高圧電極に印加される電圧が低くされる。このようにして、ウイルスを常時効率よく不活化処理されていることを確認する(S25)。
室内の温度が設定温度となったところで、空調機20は待機状態となる。これを感知し、高圧電極への高電圧印加をストップする。こうすることにより、ファン21が稼動し、空調機20から送風されているときにのみ、ウイルス不活化を実行することとなるため、無駄なエネルギーを消費することがない。
【0065】
放電によるウイルス不活化工程が開始すると、タイマーが作動し、これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が計測される(S26)。
これら一連の工程における処理時間(工程の運転時間)が設定時間に達すると、高圧電極3への高電圧印加が停止され、不活化工程は終了する(S27)。
その後、再び空調機20が稼動し、送風されるようになると、熱交換器22での加熱工程が開始され、上記の運転が繰り返されることになる。
【0066】
なお、本実施の形態3においては、熱交換器22の下に、プラズマ部23を設置し、風上側よりプレフィルター24、熱交換器22、ファン21、およびプラズマ部23が配置されている構造となっているが、図13に示すように、熱交換器22の前部または上部に、プラズマ部25を配置し、このプラズマ部25の後に熱交換器22での加熱工程を行う空調機20aにしてもよい。その場合、図13に矢印30で示すように、プラズマ部25に吸引ファン(図示省略)を設けることにより、熱交換器22の加熱部を通過したウイルスに対し、プラズマをする構造とし、ベストモードでウイルスを不活化することができる。また、熱交換器22の前部または上部にプラズマ部25が配置されるため、冷房運転した際の結露水が付着することのない設計にすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 送風機、2 加熱装置、3 高圧電極、4 接地電極、5 可変型高電圧電源、6 中和部電極、7 中和部電極、8 中和部電圧電源、9 風路、10 風路筐体、11 イオン付着部電極、12 イオン付着部電極、13 イオン付着部電圧電源、20 空調機、20a 空調機、21 ファン、22 熱交換器、23 プラズマ部、24 プレフィルター、25 プラズマ部(ファン付き)、29 空調機本体、100 装置、100a 装置、100b 装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む送風機と、
浮遊ウイルスが通過する風路に配置され、浮遊ウイルスを加熱処理する加熱装置、浮遊ウイルスをプラズマ処理する高圧電極、およびこの高圧電極に対向して設置された接地電極と、
前記高圧電極に高電圧を印加するために接続された高圧電源と、
を備えたことを特徴とするウイルス不活化装置。
【請求項2】
前記加熱装置による空気加熱温度が30℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活化装置。
【請求項3】
空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、
風路を形成する風路筐体と、
前記風路筐体の内部に、風上側から以下の順に配置された、送風機、加熱装置、高圧電極、この高圧電極に対向する接地電極、および空気の流れに対して平行に、かつ正極と負極が交互に配置された第2電極と、
を備えたことを特徴とするウイルス不活化装置。
【請求項4】
前記第2電極の材料として、銀、銅、亜鉛等のウイルスを不活化する作用を有する金属材料を用い、かつ、その表面は疎水性処理が施されていることを特徴とする請求項3に記載のウイルス不活化装置。
【請求項5】
空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する方法であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む工程と、
前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスに対し、加熱処理とプラズマ処理とを行う工程と、
を有することを特徴とするウイルス不活化方法。
【請求項6】
前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスに対し、加熱処理の後にプラズマ処理を、または、プラズマ処理の後に加熱処理を、行うことを特徴とする請求項5に記載のウイルス不活化方法。
【請求項7】
前記プラズマ処理の後に、荷電した浮遊ウイルスを電気的に中和させる工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のウイルス不活化方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理の後に、浮遊ウイルスを不活化させる金属イオンを浮遊ウイルスに付着させる工程を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のウイルス不活化方法。
【請求項9】
前記加熱処理の工程においては、前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスを30℃以上に加熱することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載のウイルス不活化方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のウイルス不活化装置を備え、空調機本体が吸引する室内空気中のウイルスを不活化する機能を有することを特徴とする空調機。
【請求項1】
空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む送風機と、
浮遊ウイルスが通過する風路に配置され、浮遊ウイルスを加熱処理する加熱装置、浮遊ウイルスをプラズマ処理する高圧電極、およびこの高圧電極に対向して設置された接地電極と、
前記高圧電極に高電圧を印加するために接続された高圧電源と、
を備えたことを特徴とするウイルス不活化装置。
【請求項2】
前記加熱装置による空気加熱温度が30℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス不活化装置。
【請求項3】
空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する装置であって、
風路を形成する風路筐体と、
前記風路筐体の内部に、風上側から以下の順に配置された、送風機、加熱装置、高圧電極、この高圧電極に対向する接地電極、および空気の流れに対して平行に、かつ正極と負極が交互に配置された第2電極と、
を備えたことを特徴とするウイルス不活化装置。
【請求項4】
前記第2電極の材料として、銀、銅、亜鉛等のウイルスを不活化する作用を有する金属材料を用い、かつ、その表面は疎水性処理が施されていることを特徴とする請求項3に記載のウイルス不活化装置。
【請求項5】
空気中に浮遊しているウイルスを捕捉することなく不活化する方法であって、
空気と共に浮遊ウイルスを風路に取り込む工程と、
前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスに対し、加熱処理とプラズマ処理とを行う工程と、
を有することを特徴とするウイルス不活化方法。
【請求項6】
前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスに対し、加熱処理の後にプラズマ処理を、または、プラズマ処理の後に加熱処理を、行うことを特徴とする請求項5に記載のウイルス不活化方法。
【請求項7】
前記プラズマ処理の後に、荷電した浮遊ウイルスを電気的に中和させる工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のウイルス不活化方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理の後に、浮遊ウイルスを不活化させる金属イオンを浮遊ウイルスに付着させる工程を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のウイルス不活化方法。
【請求項9】
前記加熱処理の工程においては、前記風路に取り込んだ浮遊ウイルスを30℃以上に加熱することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載のウイルス不活化方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のウイルス不活化装置を備え、空調機本体が吸引する室内空気中のウイルスを不活化する機能を有することを特徴とする空調機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−125360(P2012−125360A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278495(P2010−278495)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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