ウイルス検出方法
試料中のウイルス又はその抗原の濃度を決定する方法であって、ウイルス抗原又はウイルス抗原類似体を固定化したセンサー表面を用意する段階、試料をウイルス抗原に対する抗体の既知量と混合して、試料混合物中に抗原に対する抗体の所定濃度を得る段階、試料混合物をセンサー表面に接触させて、混合物中の遊離抗体をセンサー表面に結合させる段階、遊離抗体の結合に対するセンサー表面の応答を測定する段階、並びに所定濃度の抗体及び様々な濃度のウイルスを含む混合物に関して得られる応答を測定することで作成された校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定する段階を含んでなる方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを含む媒体又はウイルスから導かれる媒体中におけるウイルス又はウイルス抗原の検出及び定量、特にワクチン製造及びプロセス開発におけるウイルス抗原濃度の決定に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは一般に、その核タンパク質及びマトリックスタンパク質抗原間における抗原性の差に基づいて3つのタイプ(A、B及びC)に分類される。インフルエンザAウイルスはさらに、ウイルス本体の表面上にスパイクとして現れる2種の主要表面糖タンパク質、即ち赤血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)に基づいてサブタイプに分類される。
【0003】
宿主細胞の感染はウイルスHAが細胞上のシアル酸構造に結合することで開始され、これがウイルス粒子を細胞表面に付着させてウイルスの取込みを誘発する。RNA及びウイルスタンパク質が複製されて新しいウイルス粒子に組み立てられ、これらが細胞から発芽する。子孫ウイルス粒子は、末端シアル酸残基を切断するウイルス上の酵素NAによって細胞表面から放出される。
【0004】
現在、15種のHAサブタイプ(H1〜H15)及び9種のNAサブタイプ(N1〜N9)が存在している。インフルエンザAウイルスのサブタイプはそのHA及びNA表面タンパク質に従って命名され、例えばH1N1、H1N2、H3N2、H5N1のようにする。インフルエンザBウイルス及びインフルエンザAのサブタイプはさらに株として特徴づけられ、例えばB Malaysia、H3N2 Beijing、H1N1 Taiwanのようにする。
【0005】
HA及びNAはいずれも抗原エピトープを担持している。HA及びNAに対して高められた抗体は、ヒト及び動物における感染又は疾患のリスクを低下させる。最初のインフルエンザワクチンは不活化した全ウイルス粒子又は殺した全ウイルス粒子を含んでいたが、商業的に入手可能なインフルエンザワクチンは通常は2種のタイプのもの、即ち「スプリットワクチン」及び「サブユニットワクチン」である。
【0006】
スプリットワクチンは、精製ウイルス粒子をエーテル又は界面活性剤で破壊し、次いで界面活性剤をウイルス脂質の大部分と共に除去することで製造される。したがって、スプリットワクチンは、全ウイルスワクチンと本質的に同じ要素を同じ比率で含んでいる。他方、サブユニットワクチンでは、表面糖タンパク質HA及びNAが個別に精製され、次いでワクチン中に合わされる。
【0007】
インフルエンザウイルスは、2種のやり方、即ち「抗原ドリフト」及び「抗原シフト」によって変化し得る。抗原ドリフトは生体の免疫系によって認識できない新しいウイルス株を生み出すのに対し、抗原シフトはインフルエンザAウイルスにおける突然の大きな変化であって、新しい赤血球凝集素及びノイラミニダーゼタンパク質を生じて新しいインフルエンザAサブユニットを生み出す。大抵の年には、インフルエンザワクチン中の3種のウイルス株のうちの1種又は2種が、循環するインフルエンザウイルスの変化についていくために更新される。
【0008】
インフルエンザワクチンは、通常は多価である。即ち、ワクチンは同じウイルス種の2以上の株の培養物から製造される。現在、毎年のインフルエンザワクチン中にはインフルエンザA/H1N1株、A/H3N2株及びインフルエンザB株が含まれるのが通例である。
【0009】
インフルエンザに対する予防接種の効力は、主としてワクチン中の免疫原性HAの量により決定される。ワクチン中のHA濃度は、通例、一元放射免疫拡散(SRID)アッセイにより測定されてきた。SRIDでは、インフルエンザビリオンが界面活性剤で破壊され、全ウイルス又は精製ウイルス抗原が特異性な抗赤血球凝集素(抗HA)抗体を含むアガロースゲル中への拡散に供される。得られた抗原/抗体反応物又はゾーン(染色によって可視化される)は、標本中のHA抗原の量に正比例する。しかし、SRIDアッセイはいくつかの欠点を有している。高い変動(約10%)と共に高い検出限界(約20μg/ml)を有することに加え、それは手間がかかり、低いスループットを有する。しかし、その欠点にもかかわらず、SRIDはなお、欧州薬局方及びWHOによって推奨されかつインフルエンザワクチンの評価のための取締り機関によって認可されている方法である。この方法の精度が悪いため、製造者はワクチン用量を「過剰充填」するのが普通である。
【0010】
インフルエンザウイルスの定量のための他の方法には、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)がある。
【0011】
また、インフルエンザウイルスを含むウイルスの検出のため、バイオセンサーに基づく方法も開発されてきた。
【0012】
欧州特許出願公開第0276142号には、金被覆回折格子上での表面プラズモン共鳴(SPR)を用いてインフルエンザAウイルスを検出する方法が開示されている。インフルエンザAウイルスの個別の決定基に対するモノクローナル抗体を金表面上に固定化し、ウイルスを適用してインキュベートした。次いで、インフルエンザAウイルス決定基に対するモノクローナル抗体を表面と共にインキュベートし、第2の抗体がインフルエンザウイルス粒子に結合した場合に得られる増強応答を検出した。
【0013】
特開平03−054467号には、ウイルスの表面抗原に対する抗体で電極を被覆した圧電振動子によってウイルスの濃度を測定することが開示されている。抗原が電極に結合した場合、振動子の振動周波数が低くなる。
【0014】
Shofield,D.J.,and Dimmock,N.J.,J.Virol.Methods 62(1996)33−42には、インフルエンザウイルスの検出のためにSPRバイオセンサー計測器を使用することが開示されている。インフルエンザウイルスの捕捉のためのモノクローナル抗体を、カルボキシル化デキストランで被覆したセンサーチップに結合した。次いで、インフルエンザウイルスを計測器の流通系に注入してセンサーチップに接触させ、固定化抗体との結合親和性をモニターした。
【0015】
Boltovets,P.M.,et al.,J.Virol.Methods 121(2004)101−106には、固定化プロテインAを有するSPRセンサー表面に対する、プレインキュベーション段階中に生成されるウイルス抗原と抗体との複合体の結合を検出することによる、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた植物ウイルスの検出が開示されている。
【0016】
Jie Xu,et al.,Analytical and Bioanalytical Chemistry 389,4(2007)1193−1199には、トリインフルエンザの検出のための干渉測定バイオセンサーイムノアッセイが開示されている。導波路表面上の抗原(赤血球凝集素)に特異的な抗体(ポリクローナル及びモノクローナルの両方)によって全ウイルス粒子を捕捉し、結合から生じた屈折変化を測定した。3種のインフルエンザウイルスサブタイプ(2種のH7及び1種のH8)を試験した。
【0017】
しかし、これらの他の方法はいずれも実質的な欠点を有している。したがって、粗試料並びに精製試料中におけるインフルエンザウイルスの濃度(特にHA濃度)を正確に決定するための改良された方法及び手段に対するニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
国際公開第2006/041392号パンフレット
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的の1つは、ウイルス(特にインフルエンザウイルス)の検出及び定量のための方法であって、先行技術方法の欠点がなく、特に高い精度及び高い検出範囲を有すると共に標準のSRIDアッセイほど手間のかからない方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、ワクチン製造に際し、プロセス試料及び最終ワクチン試料の両方においてウイルス又はウイルス抗原を定量するのに適した方法を提供することである。
【0021】
これらの目的並びに他の目的及び利点は、請求項1記載の方法によって達成される。
【0022】
本発明に係る方法は、バイオセンサー技術及び阻害型アッセイフォーマットの使用に基づいている。
【0023】
広義には、試料中のウイルス又はウイルス抗原の濃度を決定する方法は、
ウイルス抗原又はウイルス抗原類似体を固定化したセンサー表面を用意する段階、
試料をウイルス抗原に対する抗体の既知量と混合して、試料混合物中に抗原に対する抗体の所定(総)濃度を得る段階、
試料混合物をセンサー表面に接触させて、混合物中の遊離抗体をセンサー表面に結合させる段階、
遊離抗体の結合に対するセンサー表面の応答を測定する段階、並びに
所定濃度の抗体及び様々な濃度のウイルス又はウイルス抗原を含む混合物に関して得られる応答を測定することで作成された校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定する段階
を含んでなる。
【0024】
好ましくは、中間で再生を行いながらセンサー表面に関して複数の分析サイクルが実施され、各分析サイクルに関して仮想校正曲線が計算される。これは、
曲線中の既知濃度の各々を、サイクル数をxとしかつ応答をyとする二重指数式に当てはめ、
これらの式を用いて各サイクルに関する仮想校正曲線を計算し、
特定のサイクルに関する仮想校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定することによって行うことができる。
【0025】
ウイルス抗原は内部抗原であってもよいし、或いは好ましくはウイルスの表面抗原であってもよい。任意には、ウイルス抗原は全ウイルス粒子である。ウイルス抗原類似体は、例えば合成ペプチドであり得る。
【0026】
好ましくは、試料は本方法によって同時に測定される複数種のウイルス又はウイルスタイプを含む。
【0027】
本明細書中で使用される「抗体」という用語は、天然のもの或いは部分的又は全体的に合成されたものであってよい免疫グロブリンをいい、Fab抗原結合フラグメント、一価フラグメント及び二価フラグメントを含む活性フラグメントも包含する。この用語はまた、免疫グロブリンの結合ドメインと相同な結合ドメインを有する任意のタンパク質も包含する。かかるタンパク質は天然の供給源から導くことができるか、或いは部分的又は全体的に合成することができる。例示的な抗体は、免疫グロブリンのアイソタイプ並びにFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、dAb及びFdフラグメントである。
【0028】
通例、抗体はウイルス又はウイルス抗原に対する血清である。
【0029】
一実施形態では、センサーチップが複数の感知領域を有していて、それぞれのウイルス又はウイルスタイプに対して特異的なウイルス抗原又は類似体が相異なる別々の感知領域上に固定化される。試料を1種のウイルスに対する抗体の一定量と混合し、次いで混合物を抗体に対して特異的な抗原を有する感知領域のみに接触させるか、或いは(抗体が他の抗原又は類似体と交差反応しなければ)すべての感知領域に接触させ、応答を検出する。これを他の抗体及び感知領域に関して順次に繰り返す。
【0030】
別の実施形態では、センサーチップがただ1つの感知領域を有するか、或いは複数の感知表面を有するセンサーチップのただ1つの感知領域のみが使用される。この場合には、ウイルス抗原又は類似体をただ1つの感知領域上に共固定化し、試料をそれぞれの抗体の一定量と一度に1種ずつ混合し、それぞれの混合物を感知領域に順次に接触させる。
【0031】
しかし、好ましい実施形態では、抗体が選択的であって他のウイルス又は抗原との交差反応性を示さない場合、相異なる抗体のすべてを試料と混合し、次いで各々がそれぞれの固定化ウイルス抗原又は類似体を有する複数の感知領域をもったセンサーチップに混合物を接触させ、相異なる感知領域の応答を検出する。別法として、センサー表面は同一感知領域に固定化されたそれぞれの抗原の混合物を含んでいてもよい。このようによすれば、試料中のすべてのウイルス又はウイルス抗原をただ1回の分析サイクルで検出できる。
【0032】
定量すべき試料中のウイルス又はウイルス抗原は、好ましくは相異なるインフルエンザウイルスタイプ又はその抗原(好ましくは赤血球凝集素)である。
【0033】
固定化された赤血球凝集素は、インフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの数種の株に対して包括的なものであってもよいし、或いはインフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの2種以上の株から導かれたものであってもよい。
【0034】
一般に、バイオセンサーアッセイにおいては、被検体(ここでは試料中の遊離抗体)がセンサー表面上の固定化リガンド(ここではウイルス抗原又は類似体)に結合した場合、適当な流体で処理することで結合抗体を遊離させて新しい試料との接触のために表面を準備することが行われるが、このプロセスを再生という。通常、センサー表面はかなり多数の分析サイクルに供することができる。しかし、(例えばウイルス抗原のような)多くのリガンドは低い安定性を有する場合が多く、表面の被検体結合能力はサイクル数と共に減少し、定量目的のためのリガンドの使用を妨げることがある。結合能力のわずかな減少は頻繁な校正によって補償できることが多いが、これはスループットを顕著に減少させる。
【0035】
したがって、本発明の方法は、仮想校正曲線(即ち、各サイクルについて得られる固有の校正曲線)を用いて各分析サイクルを評価する基準化段階を含み、かくしてドリフト中における頻繁な校正の必要性を最小化すると共に定量測定の品質を顕著に向上させる。
【0036】
本発明並びにその追加の特徴及び利点の一層完全な理解は、以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することで得られよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、試料中に相異なるウイルス濃度を有する3つの場合(a〜c)に関し、センサー表面上での阻害型ウイルスアッセイを示す模式図である。
【図2】図2は、3種のウイルス抗原がセンサー表面上のそれぞれの個別スポットに固定化され、各抗原に対して特異的な3種の抗体が定量のために使用される場合を示す、図1と同様な模式図である。
【図3】図3は、センサー表面上に固定化したインフルエンザウイルス抗原を用いる阻害型アッセイにおいて、実測された相対応答/安定度を様々なインフルエンザウイルス/抗血清混合物の濃度に対して示す図である。
【図4】図4は、固定化されたインフルエンザウイルス抗原を有するセンサー表面に対する複数の相異なるインフルエンザウイルス抗血清の結合に関し、実測された相対応答を分析サイクル数に対して示す図である。
【図5】図5は、固定化ウイルス抗原を有するセンサー表面上で実施される阻害型アッセイ中の4回の通常校正時において、7種の濃度のウイルス対照試料に関してサイクル数をxとしかつ実測応答をyとする当てはめ基準化曲線を示す図である。これらの基準化曲線は、各サイクルに関する仮想濃度を予測するために使用される。次いで、これらの仮想濃度は、仮想濃度をxとしかつ既知濃度をyとするサイクル特有の校正曲線を作成するために使用される。
【図6】図6は、固定化ウイルス抗原を有するセンサー表面上で実施される阻害型アッセイにおいて相異なるサイクル数で4回の通常校正を行いながら、2種の対照試料濃度に関して計算濃度を分析サイクル数に対して示す図である。
【図7】図7は、2種の対照試料濃度に関し、各サイクルに関する(図5に基づく)仮想校正曲線を図6と同じ生データに適用した場合を示す図である。
【図8】図8は、対照試料に関する実測結合データ及び各サイクルに関する仮想校正曲線によって基準化された対応データを示す、図7と同様な図である。
【図9A】図9Aは、3種のウイルスタイプの同時検出のためのアッセイにおいて作成した第1の校正曲線を示している。
【図9B】図9Bは、3種のウイルスタイプの同時検出のためのアッセイにおいて作成した第2の校正曲線を示している。
【図9C】図9Cは、3種のウイルスタイプの同時検出のためのアッセイにおいて作成した第3の校正曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
上述の通り、本発明はバイオセンサー技術及び阻害型アッセイフォーマットを使用して試料媒質中の1種以上のウイルス又はウイルス抗原の検出及び定量を行うための方法に関する。
【0039】
まず、バイオセンサー技術について述べれば、バイオセンサーは広義には、固体物理化学的トランスデューサーと直接に結合した状態で、或いはトランスデューサーと結合している可動担体ビーズ/粒子と共に分子認識用の構成成分(例えば、固定化抗体を有する層)を使用する装置として定義される。かかるセンサーは通例は固定化層に関する質量、屈折率又は厚さの変化を検出する無標識技法に基づいているが、何らかの種類の標識に依存するバイオセンサーも存在する。本発明の目的のための典型的なセンサーには、特に限定されないが、光学的方法及び圧電又は弾性波方法(例えば、表面弾性波(SAW)法及び水晶微量てんびん(QCM)法を含む)のような質量検出方法がある。代表的な光学的検出方法には、外部および内部反射法の両方を含む反射光学的方法のような質量表面濃度を検出する方法があり、これらは角分解、波長分解、偏光分解又は位相分解することができる。例えば、エバネセント波偏光解析法及びエバネセント波分光法(EWS又は内部反射分光法)(これらはいすれも表面プラズモン共鳴(SPR)によるエバネセント場の増強を含み得る)、ブルースター角屈折率測定、臨界角屈折率測定、フラストレーテッド全反射(FTR)、散乱全内部反射(STIR)(これは散乱を増強する標識を含み得る)、光導波路センサー、外部反射イメージング、エバネセント波に基づくイメージング(例えば、臨界角分解イメージング、ブルースター角分解イメージング、SPR角分解イメージング)などがある。さらに、例えば表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、エバネセント波蛍光発光法(TIRF)及びリン光発光法に基づく測光方法及びイメージング/顕微鏡検査方法(「それ自体」で又は反射方法と組み合わせて使用される)、並びに導波路干渉計、導波路リーキングモード分光法、反射干渉分光法(RIfS)、透過干渉測定、ホログラフィー分光法及び原子間力顕微鏡検査法(AFR)が挙げられる。
【0040】
SPRに基づくバイオセンサー装置並びに例えばQCMを含む他の検出技法に基づくバイオセンサー装置は、いずれも1以上のフローセルを有する流通型装置及びキュヘット型装置として商業的に入手できる。複数の感知表面及び流通系を有する例示的なSPRバイオセンサーには、Biacore(商標)システム(GE Healthcare、ウプサラ、スウェーデン)及びProteOn(商標)XPR36システム(Bio−Rad Laboratories社)がある。これらのシステムは、結合リガンドと検査対象の被検体との間の表面結合相互作用をリアルタイムでモニターすることを可能にする。この文脈中では、「リガンド」は所定の被検体に対して既知又は未知の親和性を有する分子であって、表面上に固定化された任意の捕捉剤又はキャッチング剤を含む一方、「被検体」はそれに対する任意の特異的結合パートナーを含む。
【0041】
SPRバイオセンサーに関して述べれば、SPRの現象は公知である。異なる屈折率を有する2種の媒体間の界面であって、通例は金又は銀の金属フィルムで被覆された界面において光がある条件下で反射された場合にSPRが起こることを述べれば十分であろう。Biacore(商標)システムでは、媒体は試料及びミクロ流体流路系によって試料に接触させるセンサーチップのガラスである。金属フィルムはチップ表面上の金の薄層である。SPRは、特定の反射角における反射光の強度を低下させる。この最小反射光強度の角度は、反射光の反対側(Biacore(商標)システムでは試料側)の表面付近の屈折率に応じて異なる。
【0042】
Biacore(登録商標)計測器の技術的側面及びSPRの現象の詳細な論議は、米国特許第5,313,264号中に見出すことができる。バイオセンサーの感知表面のマトリックスコーティングに関する一層詳細な情報は、例えば、米国特許第5,242,828号及び同第5,436,161号に示されている。さらに、Biacore(登録商標)計測器に関連して使用されるバイオセンサーチップに関する技術的側面の詳細な議論は、米国特許第5,492,840号中に見出すことができる。上述した米国特許の全開示内容は、援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0043】
以下の実施例では、本発明はSPR分光法(さらに詳しくはBiacore(商標)システム)に関連して例示されるが、本発明はこの検出方法に限定されないことを理解すべきである。それどころか、固定化リガンドに対する被検体の結合を定量的に表す感知表面での変化を測定できさえすれば、被検体が感知表面上に固定化されたリガンドに結合する任意の親和性に基づく検出方法が使用できる。
【0044】
次に、検出及び定量アッセイについて述べよう。一般に、阻害型アッセイ(溶液競合アッセイともいう)では、既知量の検出分子(ここでは抗体)を試料(ここではウイルス)と混合し、混合物中の遊離検出分子の量を測定する。さらに詳しくは、本発明のバイオセンサーに関連した濃度測定のための阻害型アッセイは、通例、下記の段階を含み得る。
1.被検体又はその誘導体をセンサー表面にリガンドとして結合する。
2.(既知又は未知の)一定濃度の検出分子を様々な濃度の校正物質溶液(被検体)に添加する。
3.混合物をセンサー表面に接触させ(流路系内の表面上に注入し)、応答を測定する。
4.校正曲線を計算する。
5.次いで、試料(被検体)を一定濃度の検出分子と混合することで測定を行う。試料をセンサー表面に接触させ(流路系内の表面上に注入し)、応答を測定する。
6.校正曲線を用いて試料中の被検体濃度を計算する。遊離検出分子の量は、試料中の被検体濃度と逆の関係にある。
7.表面を再生し、新しい試料を注入することができる。
【0045】
本発明の方法では、リガンドはウイルス抗原、好ましくは表面抗原(又は任意には全ウイルス)であるのに対し、被検体は抗原に対する抗体である。抗体はポリクローナル(例えば血清)又はモノクローナルであり得る。阻害型アッセイフォーマットのため、表面への大きいウイルス粒子の拡散効果は回避される。
【0046】
以下、例示目的のため、試料中の1種以上のインフルエンザウイルスの濃度、さらに詳しくは三価インフルエンザワクチン中の3種のウイルスタイプの赤血球凝集素(HA)の濃度を決定することに関して本発明を説明するが、これに限定されるわけではない。添付の図面中の図1〜9を参照しながら説明を行う。
【0047】
図1aに模式的に示される通り、参照番号1で表される精製ウイルスHAをバイオセンサーのセンサー表面2上に固定化する。ウイルス粒子3と抗体4を含む抗血清との混合物をセンサー表面2上に液体流れとして通過させる。図1aに示される通り、抗体4はウイルス粒子又は固定化HA抗原に結合していることもあれば、溶液中に遊離していることもある。センサー表面への結合は、センサー表面からの応答信号を増加させる。
【0048】
図1bは、試料中にウイルスが存在しない場合を示している。この場合には、最大量の抗体4がセンサー表面上のHA抗原1に結合し、高い応答信号を生じる。
【0049】
他方、図1cでは、高濃度のウイルス粒子3が少量の遊離抗体4を生み出し、したがって低い応答信号が測定される。このように、試料中のウイルスの濃度が高いほど、表面HAに結合する抗体の量は少なくなり、低い応答レベルを生じる。
【0050】
センサー表面が複数(例えば、3以上)の個別感知領域又は「スポット」を有するか、或いはそれを提供し得るならば、図2に示すように、例えば3種のHAを固定化することができる。この場合、(現行のインフルエンザワクチン中で通例使用される)ウイルスタイプA/H1N1、A/H3N2及びBに対して特異的なHAがセンサー表面上のそれぞれのスポットに固定化されている。
【0051】
下記に実証されるように、HAに対する異なるウイルス抗血清の結合は選択性である。即ち、異なるウイルスタイプ又はサブタイプ間の交差反応性は存在しない。このような選択性のため、多価ワクチンのような試料中の2種以上のウイルス成分は同時に測定できる。
【0052】
次に、上述した3種のウイルスタイプ/サブタイプA/H1N1、A/H3N2及びBを含む試料に適用される本発明方法の例示的な実施形態を説明しよう。
【0053】
3種のウイルスタイプからのHAを、センサー表面上の3つの異なるスポットに固定化する。
【0054】
次いで、校正手続きを実施する。各ウイルスタイプに関する一定濃度の標準抗血清からなる校正物質を、測定すべき濃度範囲をカバーする様々な既知濃度のウイルス(又はウイルス抗原)と混合する。次いで、校正物質をセンサー表面のスポット上に(3種のタイプを別々に又は一緒に)注入し、応答を測定する。次いで、測定の結果から校正曲線を計算する。
【0055】
次いで、各ウイルスを一定濃度の抗血清(一度に1種ずつ又は好ましくは3種の抗血清のすべてを用いる)と混合することで試料中のウイルスHA含有量の測定を実施する。試料をセンサー表面上に注入し、遊離抗血清濃度を測定する。校正曲線を用いて試料中のウイルス抗原濃度を計算する。
【0056】
次いで、表面を再生し(即ち、表面を適当な再生流体に接触させることで固定化HAから結合抗体を解離させ)、新しい試料を表面上に流すことができる。
【0057】
上述したように、好ましくは試料を3種の抗血清のすべてと混合し、試料をすべての3つのスポット上に注入することで、3種のウイルスタイプ/サブタイプからのHAの濃度をただ1つの分析サイクルで分析することができる。したがって、多価(例えば三価)インフルエンザワクチンのすべてのウイルス成分を同時に測定し得るアッセイを開発することができる。
【0058】
下記に示されるように、インフルエンザウイルスサブタイプの様々な株と該サブタイプの1つの株の赤血球凝集素との間に実質的な交差反応性が存在することが判明した。したがって、常用ウイルス株の各々に関する包括的アッセイを開発できるように思われる。かくして、かかるアッセイは、毎年変化するインフルエンザワクチンのウイルス株の組合せに関係なく、インフルエンザワクチン中のウイルス抗原含有量を測定するため広く使用できよう。
【0059】
上述したアッセイでは、高品質の分析結果を得るための必要条件は、センサー表面上に固定化されたリガンド(HA)が一定の結合能力を有すること、及び表面上に注入される校正物質が高い安定性を有することである。一般に、結合能力のわずかな減少は頻繁な校正によって補償できることが多い。しかし、頻繁な校正はスループットを減少させると共に、試薬の消費によるコストの増加をもたらす。
【0060】
本発明に従えば、「仮想」校正曲線を用いて各分析サイクルを評価することで、ドリフト中における頻繁な校正の必要性を最小化すると共に、例えば上述したBiacore(商標)システムのようなバイオセンサーシステムを用いた定量測定の品質を顕著に向上させる方法が案出された。かかる方法は基本的には任意のリガンドに対して広く適用可能であり、とりわけ直接結合アッセイ、阻害アッセイ及びサンドイッチアッセイを含む各種のアッセイフォーマットで使用できるものの、それは本発明のウイルス検出に関連して特別の重要性を有する。これは、HAのようなウイルス抗原が通常はセンサー表面上でのドリフトを引き起こす顕著な不安定性を示すからである。
【0061】
センサー表面の結合能力は減少する一方、対照品の測定/計算濃度は新しい校正作業が行われるまでに実施される分析サイクルの数(又はサイクル数)の関数として増加する。これは、阻害型アッセイフォーマットでは、校正曲線が結合能力の減少を試料中のHA濃度の増加として解釈するからである。このようなドリフトは分析サイクル数の増加と共に増加し、しばしば指数関数的である。本発明の方法では、分析サイクルは、固定化HAを有するセンサー表面上にウイルスと検出抗体との混合物を流す段階、次いで表面を再生して次の分析サイクルの準備を行う段階を含んでいる。
【0062】
本発明に従えば、新しい校正ルーチンは様々なやり方で設計できる。
【0063】
1つの変形例では、抗体作業からの生データを用いて各分析サイクルに関する仮想濃度を予測し、次いでサイクル特有の校正曲線の計算及び試料/対照品に関する濃度の予測を行う。
【0064】
別の変形例では、現実の校正の各々に関して校正式を計算し、次いで各サイクルに関する校正係数を予測し、それを用いて試料/対照品の予測を行う。
【0065】
上述した第1の方法は実施例4及び実施例5に一層詳しく記載され、第2の変形例は下記実施例6に一層詳しく記載される。
【0066】
例えば多価インフルエンザワクチンの分析のために本発明の方法を実施するためのアッセイキットは、目標インフルエンザウイルスタイプ/サブタイプに関する赤血球凝集素(又は赤血球凝集素類似体)、該ウイルスタイプ/サブタイプに関する標準血清及びウイルス標準品、並びに任意にはセンサーチップを含み得る。
【0067】
以下の実施例には、限定ではなく例示を目的として本発明の様々な態様を一層詳細に開示する。
【実施例】
【0068】
計測機器
Biacore(商標)T100(GE Healthcare社、ウプサラ、スウェーデン)を使用した。この計測器はセンサーチップ上の金表面での表面プラズモン共鳴(SPR)検出に基づくもので、試料及び操作用緩衝液を4つの個別に検出されるフローセル(Fc1〜Fc4と表示する)に1つずつ又は連続して通過させるための微小流体系(一体化微小流体カートリッジ−IFC)を使用している。IFCは、Biacore(商標)T100計測器内において合体機構によりセンサーチップに圧着されている。
【0069】
センサーチップとしては、カルボキシメチル修飾デキストランポリマーの共有結合ヒドロゲルマトリックス(約100nm)と共に金被覆(約50nm)表面を有するシリーズCM5(GE Healthcare社、ウプサラ、スウェーデン)を使用した。
【0070】
計測器からの出力は、(「共鳴単位」(RU)で測定された)検出器の応答を時間の関数としてプロットした「センサーグラム」である。1000RUの増加は、センサー表面上での約1ng/mm2の質量増加に相当している。
【0071】
実施例1:インフルエンザウイルスA/H3N2/Wyoming、A/H3N2/New York及びB/Jilinのアッセイ
材料
赤血球凝集素(HA)A/H3N2,Wyoming/3/2003、Wisconsin及びNew Yorkは、Protein Sciences Corp.(メリデン、米国)から入手した。
HA A/H1N1,New Caledonia/20/99は、ProsPec社(レホヴォト、イスラエル)から入手した。
HB/Jilinは、GenWay Biotech Inc.(サンディエゴ、米国)から入手した。
血清及びウイルス株は、NIBSC−National Institute for Biological Standards and Control(ポッターズバー、 英国ハートフォードシャー州)から入手した。
アッセイ用及び試料用緩衝液HBS−EP+(GE Healthcare社)。
界面活性剤P20(GE Healthcare社)。
【0072】
方法
下記のように、アミンカップリングを用いて、HA(H3N2、H1N1及びB)をBiacore T100の3つのそれぞれのフローセル内のCM5センサーチップに固定化する。
H3N2/Wyoming及びWisconsin:10mMリン酸緩衝液、pH7.0、0.05%界面活性剤P20中で10μg/ml、7分間。
H3N2/New York:10mMマレイン酸緩衝液、pH6.5、0.05%界面活性剤P20中で10μg/ml、7分間。
B/Jilin:10mMマレイン酸緩衝液、pH6.5、0.05%界面活性剤P20中で5μg/ml、20〜30分間。
固定化レベルは5000〜10000RUである。
それぞれのウイルス株に対する血清を、供給者によって推奨されるように、SRID力価に基づく希釈率を用いて希釈する。例えば、SRIDのため1mlに希釈された7μlの血清は、Biacore T100中における200倍の希釈度に相当している。(希釈は約500〜1500RUが得られるように行われる。)注入時間は5分である。
血清を用いて3〜10回の開始サイクルを実施する。
最初に供給者によって推奨されるようにMQで希釈され(この場合、HAはアリコートに分けて凍結保存される)、次いでさらに血清で通例0.1〜15μg/mlに希釈されたウイルス抗原(HA)を用いて校正曲線を作成する。
標準品及び試料は400秒の注入時間を有している。
再生は20〜50mM HCl、0.05%界面活性剤P20を用いて30秒間実施し、次いで30秒間の安定化を行う。
【0073】
実施例2:同一ウイルスサブタイプの様々な株の検出の普遍性
H3N2株Wyoming HAをCM5センサーチップに固定化し、その表面を様々なウイルス/抗血清の組合せに接触させた。かかる組合せは、Wyomingからのウイルス/抗血清(W/W)、New Yorkからのウイルス/抗血清(N.Y./N.Y.)、Wyomingウイルス及びNew Yorkからの血清(W/N.Y.)並びにNew Yorkウイルス及びWyomingからの血清(N.Y./W)であった。それぞれの組合せを用いて校正曲線を作成した。結果を図3に示す。図から明らかな通り、異なるウイルス株間には交差反応性が存在する。したがって、Wyoming HA及びウイルス/抗血清はNew York株の定量のために使用でき、その逆もまた正しい。
【0074】
実施例3:様々なインフルエンザウイルスタイプ/サブタイプのHAに対する抗血清の結合の選択性
インフルエンザウイルスA/H3N2、A H1N1及びBの様々な株に対する27種の抗血清を固定化H3N2 Wyoming HA上に注入し、その結合を検出した。結果及び使用した株のリストを図4に示す。図から明らかな通り、すべてのH3N2抗血清は100RUより高い信号をもって結合する一方、すべてのH1N1及びB抗血清は50RU未満の信号を有している。これは、数種のウイルス株を同時に定量できること、及びH3N2の測定のためには1種又は若干種のHAのみが必要であることを表している。
【0075】
実施例4:仮想校正手続き
Biacore T100及びCM5センサーチップ上で複数(約100回)のアッセイサイクルを実施したが、その間に7種の濃度(0.156、0.31、0.625、1.25、2.5、5及び10μg/ml)の対照試料を用いて4回の通常校正を行った。7種の濃度の各々に関し、サイクル数をxとし、応答をyとし、かつa、b、c、d及びeを当てはめパラメーターとする関数y(x)=a*exp(−b*x)+c*exp(−d*x)+eを当てはめた。結果を図5に示すが、最上部の曲線は最も低い濃度の対照品(即ち、阻害アッセイでは最も高い応答)を表し、最下部の曲線は最も高い濃度の対照品(即ち、最も低い応答)を表している。次いで、これらの式を用いて各サイクルに関する仮想応答を計算した。次いで、図6及び図7を参照しながら下記に説明されるように、これらの応答を用いて各サイクルに関する校正曲線を計算し、この校正曲線を用いて正にそのサイクルで試料及び対照品の予測を行った。
【0076】
図6は、2種の対照品(1.0μg/ml及び0.5μg/ml)の計算濃度に関するドリフトを示している。多数のアッセイサイクルを実施し、二重波線矢印で表されるサイクル数で4回の中間校正を行った。各校正後に3つ(又は2つ)の対照品の濃度を最も近い先行校正曲線に対して計算した。波線矢印によって表されるように、校正までの距離の増加に伴って計算濃度の系統的な増加が存在している。このような計算濃度の増加は、対照試料からの信号の減少に原因している。これはまた、表面の結合能力がサイクル数の関数として減少し、校正曲線がかかる減少を濃度の増加として解釈することに原因している。このような結合能力の減少はまた、図3及び図4に見ることができる。
【0077】
上述した仮想校正方法を図6の生データに適用すれば、0.5μg/ml及び1.0μg/mlの対照品に関して図7に示す濃度推定値が得られるが、これは対照試料の濃度の予測における再現性の顕著な向上である。
【0078】
実施例5:仮想校正手続きによる結合データの基準化
HA組換えタンパク質HB/Jilin、H1N1/New Caledonia及びH3N2/Wyomingを固定化した。校正曲線を得た。試料を希釈し、0.5〜1.5μg/mlの範囲内の濃度を測定して再計算した。応答のドリフトを回避するため、上記実施例4に概述した基準化手続きを用いて結果を基準化し、各サイクルは固有の校正曲線を得た。図8は、250RUの応答及び1.2%のCVを与える対照試料(5μg/mlのB/Jiangsu/10/2003)に関する基準化前及び基準化後の結果を示している。
【0079】
実施例6:3種のウイルスタイプの同時検出
3つのフローセルに、3種の組換えインフルエンザウイルスHAタンパク質、即ちH1N1/New Caledonia、H3N2/Wisconsin及びB/Jilinを固定化した。
【0080】
3種のインフルエンザ株H1N1/New Caledonia、H3N2/Wisconsin及びB/Malaysiaからのウイルス標準品を、各標準品の最終濃度が16μg/mlとなるように希釈して混合した。次いで、16μg/mlから0.5μg/mlまでの2倍系列希釈液として校正曲線を作成した。
【0081】
分析すべき3種のワクチンH1N1、H3N2及びBを8倍、16倍、32倍及び64倍に希釈した。
【0082】
3種の血清(NIBSCからのH1N1/New Caledonia、H3N2/Wisconsin及びB/Malaysia)を、500〜700RUの応答を与える濃度に希釈して混合した。
【0083】
製造者による事前混合物 最終希釈度
H1N1/New Caledonia 60倍希釈度 180倍
H3N2/Wisconsin 70倍希釈度 210倍
B/Malaysia 20倍希釈度 60倍
ワクチンを分析するためには、標準品及びワクチンの複製物をまず血清溶液と混合し、次いで「Method Builder」で生み出された方法を用いてフローセル中に流した。
【0084】
「Method Builder」からの一般的方法は下記の通りであった。
開始(試料の代わりに緩衝液を用いて7サイクル、次いで再生、2時間)
校正曲線1(14サイクル)
試料(12サイクル)
校正曲線2(14サイクル)
試料(12サイクル)
校正曲線3(14サイクル)
試料(12サイクル)
次いで、3つの校正曲線について結果を基準化した。これは、Biacore(登録商標)システムによる濃度測定のために通常使用される4パラメーター回帰曲線(式1)に校正曲線の4パラメーター当てはめを実施して4つの係数を決定することで行った。
【0085】
【数1】
式中、Rhighは低ウイルス濃度での応答であり、Rlowは低ウイルス濃度での応答であり、A1(EC50)及びA2(Hill勾配)は当てはめパラメーターであり、Xはウイルスの濃度である。
【0086】
次いで、様々な濃度で4つの係数の各々に関して得られた値を分析サイクル数に対してプロットすることで、各係数に関する式を得た。上記の式1によって得られた係数を用いて、基準化濃度を計算した。
【0087】
結果
【0088】
【表1】
製造者によれば、ワクチン中の各株のHA濃度は、SRIDで分析して30μg/mlのはずである。
【0089】
3つの校正曲線を図9に示す(上述した校正曲線1〜3を各図に示す)。
【0090】
上記のことから、例示目的のために本発明の特定の実施形態を本明細書中に記載してきたが、本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱せずに様々な変更を行い得ることが理解されよう。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲以外によって限定されることはない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを含む媒体又はウイルスから導かれる媒体中におけるウイルス又はウイルス抗原の検出及び定量、特にワクチン製造及びプロセス開発におけるウイルス抗原濃度の決定に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは一般に、その核タンパク質及びマトリックスタンパク質抗原間における抗原性の差に基づいて3つのタイプ(A、B及びC)に分類される。インフルエンザAウイルスはさらに、ウイルス本体の表面上にスパイクとして現れる2種の主要表面糖タンパク質、即ち赤血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)に基づいてサブタイプに分類される。
【0003】
宿主細胞の感染はウイルスHAが細胞上のシアル酸構造に結合することで開始され、これがウイルス粒子を細胞表面に付着させてウイルスの取込みを誘発する。RNA及びウイルスタンパク質が複製されて新しいウイルス粒子に組み立てられ、これらが細胞から発芽する。子孫ウイルス粒子は、末端シアル酸残基を切断するウイルス上の酵素NAによって細胞表面から放出される。
【0004】
現在、15種のHAサブタイプ(H1〜H15)及び9種のNAサブタイプ(N1〜N9)が存在している。インフルエンザAウイルスのサブタイプはそのHA及びNA表面タンパク質に従って命名され、例えばH1N1、H1N2、H3N2、H5N1のようにする。インフルエンザBウイルス及びインフルエンザAのサブタイプはさらに株として特徴づけられ、例えばB Malaysia、H3N2 Beijing、H1N1 Taiwanのようにする。
【0005】
HA及びNAはいずれも抗原エピトープを担持している。HA及びNAに対して高められた抗体は、ヒト及び動物における感染又は疾患のリスクを低下させる。最初のインフルエンザワクチンは不活化した全ウイルス粒子又は殺した全ウイルス粒子を含んでいたが、商業的に入手可能なインフルエンザワクチンは通常は2種のタイプのもの、即ち「スプリットワクチン」及び「サブユニットワクチン」である。
【0006】
スプリットワクチンは、精製ウイルス粒子をエーテル又は界面活性剤で破壊し、次いで界面活性剤をウイルス脂質の大部分と共に除去することで製造される。したがって、スプリットワクチンは、全ウイルスワクチンと本質的に同じ要素を同じ比率で含んでいる。他方、サブユニットワクチンでは、表面糖タンパク質HA及びNAが個別に精製され、次いでワクチン中に合わされる。
【0007】
インフルエンザウイルスは、2種のやり方、即ち「抗原ドリフト」及び「抗原シフト」によって変化し得る。抗原ドリフトは生体の免疫系によって認識できない新しいウイルス株を生み出すのに対し、抗原シフトはインフルエンザAウイルスにおける突然の大きな変化であって、新しい赤血球凝集素及びノイラミニダーゼタンパク質を生じて新しいインフルエンザAサブユニットを生み出す。大抵の年には、インフルエンザワクチン中の3種のウイルス株のうちの1種又は2種が、循環するインフルエンザウイルスの変化についていくために更新される。
【0008】
インフルエンザワクチンは、通常は多価である。即ち、ワクチンは同じウイルス種の2以上の株の培養物から製造される。現在、毎年のインフルエンザワクチン中にはインフルエンザA/H1N1株、A/H3N2株及びインフルエンザB株が含まれるのが通例である。
【0009】
インフルエンザに対する予防接種の効力は、主としてワクチン中の免疫原性HAの量により決定される。ワクチン中のHA濃度は、通例、一元放射免疫拡散(SRID)アッセイにより測定されてきた。SRIDでは、インフルエンザビリオンが界面活性剤で破壊され、全ウイルス又は精製ウイルス抗原が特異性な抗赤血球凝集素(抗HA)抗体を含むアガロースゲル中への拡散に供される。得られた抗原/抗体反応物又はゾーン(染色によって可視化される)は、標本中のHA抗原の量に正比例する。しかし、SRIDアッセイはいくつかの欠点を有している。高い変動(約10%)と共に高い検出限界(約20μg/ml)を有することに加え、それは手間がかかり、低いスループットを有する。しかし、その欠点にもかかわらず、SRIDはなお、欧州薬局方及びWHOによって推奨されかつインフルエンザワクチンの評価のための取締り機関によって認可されている方法である。この方法の精度が悪いため、製造者はワクチン用量を「過剰充填」するのが普通である。
【0010】
インフルエンザウイルスの定量のための他の方法には、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)がある。
【0011】
また、インフルエンザウイルスを含むウイルスの検出のため、バイオセンサーに基づく方法も開発されてきた。
【0012】
欧州特許出願公開第0276142号には、金被覆回折格子上での表面プラズモン共鳴(SPR)を用いてインフルエンザAウイルスを検出する方法が開示されている。インフルエンザAウイルスの個別の決定基に対するモノクローナル抗体を金表面上に固定化し、ウイルスを適用してインキュベートした。次いで、インフルエンザAウイルス決定基に対するモノクローナル抗体を表面と共にインキュベートし、第2の抗体がインフルエンザウイルス粒子に結合した場合に得られる増強応答を検出した。
【0013】
特開平03−054467号には、ウイルスの表面抗原に対する抗体で電極を被覆した圧電振動子によってウイルスの濃度を測定することが開示されている。抗原が電極に結合した場合、振動子の振動周波数が低くなる。
【0014】
Shofield,D.J.,and Dimmock,N.J.,J.Virol.Methods 62(1996)33−42には、インフルエンザウイルスの検出のためにSPRバイオセンサー計測器を使用することが開示されている。インフルエンザウイルスの捕捉のためのモノクローナル抗体を、カルボキシル化デキストランで被覆したセンサーチップに結合した。次いで、インフルエンザウイルスを計測器の流通系に注入してセンサーチップに接触させ、固定化抗体との結合親和性をモニターした。
【0015】
Boltovets,P.M.,et al.,J.Virol.Methods 121(2004)101−106には、固定化プロテインAを有するSPRセンサー表面に対する、プレインキュベーション段階中に生成されるウイルス抗原と抗体との複合体の結合を検出することによる、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた植物ウイルスの検出が開示されている。
【0016】
Jie Xu,et al.,Analytical and Bioanalytical Chemistry 389,4(2007)1193−1199には、トリインフルエンザの検出のための干渉測定バイオセンサーイムノアッセイが開示されている。導波路表面上の抗原(赤血球凝集素)に特異的な抗体(ポリクローナル及びモノクローナルの両方)によって全ウイルス粒子を捕捉し、結合から生じた屈折変化を測定した。3種のインフルエンザウイルスサブタイプ(2種のH7及び1種のH8)を試験した。
【0017】
しかし、これらの他の方法はいずれも実質的な欠点を有している。したがって、粗試料並びに精製試料中におけるインフルエンザウイルスの濃度(特にHA濃度)を正確に決定するための改良された方法及び手段に対するニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
国際公開第2006/041392号パンフレット
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的の1つは、ウイルス(特にインフルエンザウイルス)の検出及び定量のための方法であって、先行技術方法の欠点がなく、特に高い精度及び高い検出範囲を有すると共に標準のSRIDアッセイほど手間のかからない方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、ワクチン製造に際し、プロセス試料及び最終ワクチン試料の両方においてウイルス又はウイルス抗原を定量するのに適した方法を提供することである。
【0021】
これらの目的並びに他の目的及び利点は、請求項1記載の方法によって達成される。
【0022】
本発明に係る方法は、バイオセンサー技術及び阻害型アッセイフォーマットの使用に基づいている。
【0023】
広義には、試料中のウイルス又はウイルス抗原の濃度を決定する方法は、
ウイルス抗原又はウイルス抗原類似体を固定化したセンサー表面を用意する段階、
試料をウイルス抗原に対する抗体の既知量と混合して、試料混合物中に抗原に対する抗体の所定(総)濃度を得る段階、
試料混合物をセンサー表面に接触させて、混合物中の遊離抗体をセンサー表面に結合させる段階、
遊離抗体の結合に対するセンサー表面の応答を測定する段階、並びに
所定濃度の抗体及び様々な濃度のウイルス又はウイルス抗原を含む混合物に関して得られる応答を測定することで作成された校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定する段階
を含んでなる。
【0024】
好ましくは、中間で再生を行いながらセンサー表面に関して複数の分析サイクルが実施され、各分析サイクルに関して仮想校正曲線が計算される。これは、
曲線中の既知濃度の各々を、サイクル数をxとしかつ応答をyとする二重指数式に当てはめ、
これらの式を用いて各サイクルに関する仮想校正曲線を計算し、
特定のサイクルに関する仮想校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定することによって行うことができる。
【0025】
ウイルス抗原は内部抗原であってもよいし、或いは好ましくはウイルスの表面抗原であってもよい。任意には、ウイルス抗原は全ウイルス粒子である。ウイルス抗原類似体は、例えば合成ペプチドであり得る。
【0026】
好ましくは、試料は本方法によって同時に測定される複数種のウイルス又はウイルスタイプを含む。
【0027】
本明細書中で使用される「抗体」という用語は、天然のもの或いは部分的又は全体的に合成されたものであってよい免疫グロブリンをいい、Fab抗原結合フラグメント、一価フラグメント及び二価フラグメントを含む活性フラグメントも包含する。この用語はまた、免疫グロブリンの結合ドメインと相同な結合ドメインを有する任意のタンパク質も包含する。かかるタンパク質は天然の供給源から導くことができるか、或いは部分的又は全体的に合成することができる。例示的な抗体は、免疫グロブリンのアイソタイプ並びにFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、dAb及びFdフラグメントである。
【0028】
通例、抗体はウイルス又はウイルス抗原に対する血清である。
【0029】
一実施形態では、センサーチップが複数の感知領域を有していて、それぞれのウイルス又はウイルスタイプに対して特異的なウイルス抗原又は類似体が相異なる別々の感知領域上に固定化される。試料を1種のウイルスに対する抗体の一定量と混合し、次いで混合物を抗体に対して特異的な抗原を有する感知領域のみに接触させるか、或いは(抗体が他の抗原又は類似体と交差反応しなければ)すべての感知領域に接触させ、応答を検出する。これを他の抗体及び感知領域に関して順次に繰り返す。
【0030】
別の実施形態では、センサーチップがただ1つの感知領域を有するか、或いは複数の感知表面を有するセンサーチップのただ1つの感知領域のみが使用される。この場合には、ウイルス抗原又は類似体をただ1つの感知領域上に共固定化し、試料をそれぞれの抗体の一定量と一度に1種ずつ混合し、それぞれの混合物を感知領域に順次に接触させる。
【0031】
しかし、好ましい実施形態では、抗体が選択的であって他のウイルス又は抗原との交差反応性を示さない場合、相異なる抗体のすべてを試料と混合し、次いで各々がそれぞれの固定化ウイルス抗原又は類似体を有する複数の感知領域をもったセンサーチップに混合物を接触させ、相異なる感知領域の応答を検出する。別法として、センサー表面は同一感知領域に固定化されたそれぞれの抗原の混合物を含んでいてもよい。このようによすれば、試料中のすべてのウイルス又はウイルス抗原をただ1回の分析サイクルで検出できる。
【0032】
定量すべき試料中のウイルス又はウイルス抗原は、好ましくは相異なるインフルエンザウイルスタイプ又はその抗原(好ましくは赤血球凝集素)である。
【0033】
固定化された赤血球凝集素は、インフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの数種の株に対して包括的なものであってもよいし、或いはインフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの2種以上の株から導かれたものであってもよい。
【0034】
一般に、バイオセンサーアッセイにおいては、被検体(ここでは試料中の遊離抗体)がセンサー表面上の固定化リガンド(ここではウイルス抗原又は類似体)に結合した場合、適当な流体で処理することで結合抗体を遊離させて新しい試料との接触のために表面を準備することが行われるが、このプロセスを再生という。通常、センサー表面はかなり多数の分析サイクルに供することができる。しかし、(例えばウイルス抗原のような)多くのリガンドは低い安定性を有する場合が多く、表面の被検体結合能力はサイクル数と共に減少し、定量目的のためのリガンドの使用を妨げることがある。結合能力のわずかな減少は頻繁な校正によって補償できることが多いが、これはスループットを顕著に減少させる。
【0035】
したがって、本発明の方法は、仮想校正曲線(即ち、各サイクルについて得られる固有の校正曲線)を用いて各分析サイクルを評価する基準化段階を含み、かくしてドリフト中における頻繁な校正の必要性を最小化すると共に定量測定の品質を顕著に向上させる。
【0036】
本発明並びにその追加の特徴及び利点の一層完全な理解は、以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することで得られよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、試料中に相異なるウイルス濃度を有する3つの場合(a〜c)に関し、センサー表面上での阻害型ウイルスアッセイを示す模式図である。
【図2】図2は、3種のウイルス抗原がセンサー表面上のそれぞれの個別スポットに固定化され、各抗原に対して特異的な3種の抗体が定量のために使用される場合を示す、図1と同様な模式図である。
【図3】図3は、センサー表面上に固定化したインフルエンザウイルス抗原を用いる阻害型アッセイにおいて、実測された相対応答/安定度を様々なインフルエンザウイルス/抗血清混合物の濃度に対して示す図である。
【図4】図4は、固定化されたインフルエンザウイルス抗原を有するセンサー表面に対する複数の相異なるインフルエンザウイルス抗血清の結合に関し、実測された相対応答を分析サイクル数に対して示す図である。
【図5】図5は、固定化ウイルス抗原を有するセンサー表面上で実施される阻害型アッセイ中の4回の通常校正時において、7種の濃度のウイルス対照試料に関してサイクル数をxとしかつ実測応答をyとする当てはめ基準化曲線を示す図である。これらの基準化曲線は、各サイクルに関する仮想濃度を予測するために使用される。次いで、これらの仮想濃度は、仮想濃度をxとしかつ既知濃度をyとするサイクル特有の校正曲線を作成するために使用される。
【図6】図6は、固定化ウイルス抗原を有するセンサー表面上で実施される阻害型アッセイにおいて相異なるサイクル数で4回の通常校正を行いながら、2種の対照試料濃度に関して計算濃度を分析サイクル数に対して示す図である。
【図7】図7は、2種の対照試料濃度に関し、各サイクルに関する(図5に基づく)仮想校正曲線を図6と同じ生データに適用した場合を示す図である。
【図8】図8は、対照試料に関する実測結合データ及び各サイクルに関する仮想校正曲線によって基準化された対応データを示す、図7と同様な図である。
【図9A】図9Aは、3種のウイルスタイプの同時検出のためのアッセイにおいて作成した第1の校正曲線を示している。
【図9B】図9Bは、3種のウイルスタイプの同時検出のためのアッセイにおいて作成した第2の校正曲線を示している。
【図9C】図9Cは、3種のウイルスタイプの同時検出のためのアッセイにおいて作成した第3の校正曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
上述の通り、本発明はバイオセンサー技術及び阻害型アッセイフォーマットを使用して試料媒質中の1種以上のウイルス又はウイルス抗原の検出及び定量を行うための方法に関する。
【0039】
まず、バイオセンサー技術について述べれば、バイオセンサーは広義には、固体物理化学的トランスデューサーと直接に結合した状態で、或いはトランスデューサーと結合している可動担体ビーズ/粒子と共に分子認識用の構成成分(例えば、固定化抗体を有する層)を使用する装置として定義される。かかるセンサーは通例は固定化層に関する質量、屈折率又は厚さの変化を検出する無標識技法に基づいているが、何らかの種類の標識に依存するバイオセンサーも存在する。本発明の目的のための典型的なセンサーには、特に限定されないが、光学的方法及び圧電又は弾性波方法(例えば、表面弾性波(SAW)法及び水晶微量てんびん(QCM)法を含む)のような質量検出方法がある。代表的な光学的検出方法には、外部および内部反射法の両方を含む反射光学的方法のような質量表面濃度を検出する方法があり、これらは角分解、波長分解、偏光分解又は位相分解することができる。例えば、エバネセント波偏光解析法及びエバネセント波分光法(EWS又は内部反射分光法)(これらはいすれも表面プラズモン共鳴(SPR)によるエバネセント場の増強を含み得る)、ブルースター角屈折率測定、臨界角屈折率測定、フラストレーテッド全反射(FTR)、散乱全内部反射(STIR)(これは散乱を増強する標識を含み得る)、光導波路センサー、外部反射イメージング、エバネセント波に基づくイメージング(例えば、臨界角分解イメージング、ブルースター角分解イメージング、SPR角分解イメージング)などがある。さらに、例えば表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、エバネセント波蛍光発光法(TIRF)及びリン光発光法に基づく測光方法及びイメージング/顕微鏡検査方法(「それ自体」で又は反射方法と組み合わせて使用される)、並びに導波路干渉計、導波路リーキングモード分光法、反射干渉分光法(RIfS)、透過干渉測定、ホログラフィー分光法及び原子間力顕微鏡検査法(AFR)が挙げられる。
【0040】
SPRに基づくバイオセンサー装置並びに例えばQCMを含む他の検出技法に基づくバイオセンサー装置は、いずれも1以上のフローセルを有する流通型装置及びキュヘット型装置として商業的に入手できる。複数の感知表面及び流通系を有する例示的なSPRバイオセンサーには、Biacore(商標)システム(GE Healthcare、ウプサラ、スウェーデン)及びProteOn(商標)XPR36システム(Bio−Rad Laboratories社)がある。これらのシステムは、結合リガンドと検査対象の被検体との間の表面結合相互作用をリアルタイムでモニターすることを可能にする。この文脈中では、「リガンド」は所定の被検体に対して既知又は未知の親和性を有する分子であって、表面上に固定化された任意の捕捉剤又はキャッチング剤を含む一方、「被検体」はそれに対する任意の特異的結合パートナーを含む。
【0041】
SPRバイオセンサーに関して述べれば、SPRの現象は公知である。異なる屈折率を有する2種の媒体間の界面であって、通例は金又は銀の金属フィルムで被覆された界面において光がある条件下で反射された場合にSPRが起こることを述べれば十分であろう。Biacore(商標)システムでは、媒体は試料及びミクロ流体流路系によって試料に接触させるセンサーチップのガラスである。金属フィルムはチップ表面上の金の薄層である。SPRは、特定の反射角における反射光の強度を低下させる。この最小反射光強度の角度は、反射光の反対側(Biacore(商標)システムでは試料側)の表面付近の屈折率に応じて異なる。
【0042】
Biacore(登録商標)計測器の技術的側面及びSPRの現象の詳細な論議は、米国特許第5,313,264号中に見出すことができる。バイオセンサーの感知表面のマトリックスコーティングに関する一層詳細な情報は、例えば、米国特許第5,242,828号及び同第5,436,161号に示されている。さらに、Biacore(登録商標)計測器に関連して使用されるバイオセンサーチップに関する技術的側面の詳細な議論は、米国特許第5,492,840号中に見出すことができる。上述した米国特許の全開示内容は、援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0043】
以下の実施例では、本発明はSPR分光法(さらに詳しくはBiacore(商標)システム)に関連して例示されるが、本発明はこの検出方法に限定されないことを理解すべきである。それどころか、固定化リガンドに対する被検体の結合を定量的に表す感知表面での変化を測定できさえすれば、被検体が感知表面上に固定化されたリガンドに結合する任意の親和性に基づく検出方法が使用できる。
【0044】
次に、検出及び定量アッセイについて述べよう。一般に、阻害型アッセイ(溶液競合アッセイともいう)では、既知量の検出分子(ここでは抗体)を試料(ここではウイルス)と混合し、混合物中の遊離検出分子の量を測定する。さらに詳しくは、本発明のバイオセンサーに関連した濃度測定のための阻害型アッセイは、通例、下記の段階を含み得る。
1.被検体又はその誘導体をセンサー表面にリガンドとして結合する。
2.(既知又は未知の)一定濃度の検出分子を様々な濃度の校正物質溶液(被検体)に添加する。
3.混合物をセンサー表面に接触させ(流路系内の表面上に注入し)、応答を測定する。
4.校正曲線を計算する。
5.次いで、試料(被検体)を一定濃度の検出分子と混合することで測定を行う。試料をセンサー表面に接触させ(流路系内の表面上に注入し)、応答を測定する。
6.校正曲線を用いて試料中の被検体濃度を計算する。遊離検出分子の量は、試料中の被検体濃度と逆の関係にある。
7.表面を再生し、新しい試料を注入することができる。
【0045】
本発明の方法では、リガンドはウイルス抗原、好ましくは表面抗原(又は任意には全ウイルス)であるのに対し、被検体は抗原に対する抗体である。抗体はポリクローナル(例えば血清)又はモノクローナルであり得る。阻害型アッセイフォーマットのため、表面への大きいウイルス粒子の拡散効果は回避される。
【0046】
以下、例示目的のため、試料中の1種以上のインフルエンザウイルスの濃度、さらに詳しくは三価インフルエンザワクチン中の3種のウイルスタイプの赤血球凝集素(HA)の濃度を決定することに関して本発明を説明するが、これに限定されるわけではない。添付の図面中の図1〜9を参照しながら説明を行う。
【0047】
図1aに模式的に示される通り、参照番号1で表される精製ウイルスHAをバイオセンサーのセンサー表面2上に固定化する。ウイルス粒子3と抗体4を含む抗血清との混合物をセンサー表面2上に液体流れとして通過させる。図1aに示される通り、抗体4はウイルス粒子又は固定化HA抗原に結合していることもあれば、溶液中に遊離していることもある。センサー表面への結合は、センサー表面からの応答信号を増加させる。
【0048】
図1bは、試料中にウイルスが存在しない場合を示している。この場合には、最大量の抗体4がセンサー表面上のHA抗原1に結合し、高い応答信号を生じる。
【0049】
他方、図1cでは、高濃度のウイルス粒子3が少量の遊離抗体4を生み出し、したがって低い応答信号が測定される。このように、試料中のウイルスの濃度が高いほど、表面HAに結合する抗体の量は少なくなり、低い応答レベルを生じる。
【0050】
センサー表面が複数(例えば、3以上)の個別感知領域又は「スポット」を有するか、或いはそれを提供し得るならば、図2に示すように、例えば3種のHAを固定化することができる。この場合、(現行のインフルエンザワクチン中で通例使用される)ウイルスタイプA/H1N1、A/H3N2及びBに対して特異的なHAがセンサー表面上のそれぞれのスポットに固定化されている。
【0051】
下記に実証されるように、HAに対する異なるウイルス抗血清の結合は選択性である。即ち、異なるウイルスタイプ又はサブタイプ間の交差反応性は存在しない。このような選択性のため、多価ワクチンのような試料中の2種以上のウイルス成分は同時に測定できる。
【0052】
次に、上述した3種のウイルスタイプ/サブタイプA/H1N1、A/H3N2及びBを含む試料に適用される本発明方法の例示的な実施形態を説明しよう。
【0053】
3種のウイルスタイプからのHAを、センサー表面上の3つの異なるスポットに固定化する。
【0054】
次いで、校正手続きを実施する。各ウイルスタイプに関する一定濃度の標準抗血清からなる校正物質を、測定すべき濃度範囲をカバーする様々な既知濃度のウイルス(又はウイルス抗原)と混合する。次いで、校正物質をセンサー表面のスポット上に(3種のタイプを別々に又は一緒に)注入し、応答を測定する。次いで、測定の結果から校正曲線を計算する。
【0055】
次いで、各ウイルスを一定濃度の抗血清(一度に1種ずつ又は好ましくは3種の抗血清のすべてを用いる)と混合することで試料中のウイルスHA含有量の測定を実施する。試料をセンサー表面上に注入し、遊離抗血清濃度を測定する。校正曲線を用いて試料中のウイルス抗原濃度を計算する。
【0056】
次いで、表面を再生し(即ち、表面を適当な再生流体に接触させることで固定化HAから結合抗体を解離させ)、新しい試料を表面上に流すことができる。
【0057】
上述したように、好ましくは試料を3種の抗血清のすべてと混合し、試料をすべての3つのスポット上に注入することで、3種のウイルスタイプ/サブタイプからのHAの濃度をただ1つの分析サイクルで分析することができる。したがって、多価(例えば三価)インフルエンザワクチンのすべてのウイルス成分を同時に測定し得るアッセイを開発することができる。
【0058】
下記に示されるように、インフルエンザウイルスサブタイプの様々な株と該サブタイプの1つの株の赤血球凝集素との間に実質的な交差反応性が存在することが判明した。したがって、常用ウイルス株の各々に関する包括的アッセイを開発できるように思われる。かくして、かかるアッセイは、毎年変化するインフルエンザワクチンのウイルス株の組合せに関係なく、インフルエンザワクチン中のウイルス抗原含有量を測定するため広く使用できよう。
【0059】
上述したアッセイでは、高品質の分析結果を得るための必要条件は、センサー表面上に固定化されたリガンド(HA)が一定の結合能力を有すること、及び表面上に注入される校正物質が高い安定性を有することである。一般に、結合能力のわずかな減少は頻繁な校正によって補償できることが多い。しかし、頻繁な校正はスループットを減少させると共に、試薬の消費によるコストの増加をもたらす。
【0060】
本発明に従えば、「仮想」校正曲線を用いて各分析サイクルを評価することで、ドリフト中における頻繁な校正の必要性を最小化すると共に、例えば上述したBiacore(商標)システムのようなバイオセンサーシステムを用いた定量測定の品質を顕著に向上させる方法が案出された。かかる方法は基本的には任意のリガンドに対して広く適用可能であり、とりわけ直接結合アッセイ、阻害アッセイ及びサンドイッチアッセイを含む各種のアッセイフォーマットで使用できるものの、それは本発明のウイルス検出に関連して特別の重要性を有する。これは、HAのようなウイルス抗原が通常はセンサー表面上でのドリフトを引き起こす顕著な不安定性を示すからである。
【0061】
センサー表面の結合能力は減少する一方、対照品の測定/計算濃度は新しい校正作業が行われるまでに実施される分析サイクルの数(又はサイクル数)の関数として増加する。これは、阻害型アッセイフォーマットでは、校正曲線が結合能力の減少を試料中のHA濃度の増加として解釈するからである。このようなドリフトは分析サイクル数の増加と共に増加し、しばしば指数関数的である。本発明の方法では、分析サイクルは、固定化HAを有するセンサー表面上にウイルスと検出抗体との混合物を流す段階、次いで表面を再生して次の分析サイクルの準備を行う段階を含んでいる。
【0062】
本発明に従えば、新しい校正ルーチンは様々なやり方で設計できる。
【0063】
1つの変形例では、抗体作業からの生データを用いて各分析サイクルに関する仮想濃度を予測し、次いでサイクル特有の校正曲線の計算及び試料/対照品に関する濃度の予測を行う。
【0064】
別の変形例では、現実の校正の各々に関して校正式を計算し、次いで各サイクルに関する校正係数を予測し、それを用いて試料/対照品の予測を行う。
【0065】
上述した第1の方法は実施例4及び実施例5に一層詳しく記載され、第2の変形例は下記実施例6に一層詳しく記載される。
【0066】
例えば多価インフルエンザワクチンの分析のために本発明の方法を実施するためのアッセイキットは、目標インフルエンザウイルスタイプ/サブタイプに関する赤血球凝集素(又は赤血球凝集素類似体)、該ウイルスタイプ/サブタイプに関する標準血清及びウイルス標準品、並びに任意にはセンサーチップを含み得る。
【0067】
以下の実施例には、限定ではなく例示を目的として本発明の様々な態様を一層詳細に開示する。
【実施例】
【0068】
計測機器
Biacore(商標)T100(GE Healthcare社、ウプサラ、スウェーデン)を使用した。この計測器はセンサーチップ上の金表面での表面プラズモン共鳴(SPR)検出に基づくもので、試料及び操作用緩衝液を4つの個別に検出されるフローセル(Fc1〜Fc4と表示する)に1つずつ又は連続して通過させるための微小流体系(一体化微小流体カートリッジ−IFC)を使用している。IFCは、Biacore(商標)T100計測器内において合体機構によりセンサーチップに圧着されている。
【0069】
センサーチップとしては、カルボキシメチル修飾デキストランポリマーの共有結合ヒドロゲルマトリックス(約100nm)と共に金被覆(約50nm)表面を有するシリーズCM5(GE Healthcare社、ウプサラ、スウェーデン)を使用した。
【0070】
計測器からの出力は、(「共鳴単位」(RU)で測定された)検出器の応答を時間の関数としてプロットした「センサーグラム」である。1000RUの増加は、センサー表面上での約1ng/mm2の質量増加に相当している。
【0071】
実施例1:インフルエンザウイルスA/H3N2/Wyoming、A/H3N2/New York及びB/Jilinのアッセイ
材料
赤血球凝集素(HA)A/H3N2,Wyoming/3/2003、Wisconsin及びNew Yorkは、Protein Sciences Corp.(メリデン、米国)から入手した。
HA A/H1N1,New Caledonia/20/99は、ProsPec社(レホヴォト、イスラエル)から入手した。
HB/Jilinは、GenWay Biotech Inc.(サンディエゴ、米国)から入手した。
血清及びウイルス株は、NIBSC−National Institute for Biological Standards and Control(ポッターズバー、 英国ハートフォードシャー州)から入手した。
アッセイ用及び試料用緩衝液HBS−EP+(GE Healthcare社)。
界面活性剤P20(GE Healthcare社)。
【0072】
方法
下記のように、アミンカップリングを用いて、HA(H3N2、H1N1及びB)をBiacore T100の3つのそれぞれのフローセル内のCM5センサーチップに固定化する。
H3N2/Wyoming及びWisconsin:10mMリン酸緩衝液、pH7.0、0.05%界面活性剤P20中で10μg/ml、7分間。
H3N2/New York:10mMマレイン酸緩衝液、pH6.5、0.05%界面活性剤P20中で10μg/ml、7分間。
B/Jilin:10mMマレイン酸緩衝液、pH6.5、0.05%界面活性剤P20中で5μg/ml、20〜30分間。
固定化レベルは5000〜10000RUである。
それぞれのウイルス株に対する血清を、供給者によって推奨されるように、SRID力価に基づく希釈率を用いて希釈する。例えば、SRIDのため1mlに希釈された7μlの血清は、Biacore T100中における200倍の希釈度に相当している。(希釈は約500〜1500RUが得られるように行われる。)注入時間は5分である。
血清を用いて3〜10回の開始サイクルを実施する。
最初に供給者によって推奨されるようにMQで希釈され(この場合、HAはアリコートに分けて凍結保存される)、次いでさらに血清で通例0.1〜15μg/mlに希釈されたウイルス抗原(HA)を用いて校正曲線を作成する。
標準品及び試料は400秒の注入時間を有している。
再生は20〜50mM HCl、0.05%界面活性剤P20を用いて30秒間実施し、次いで30秒間の安定化を行う。
【0073】
実施例2:同一ウイルスサブタイプの様々な株の検出の普遍性
H3N2株Wyoming HAをCM5センサーチップに固定化し、その表面を様々なウイルス/抗血清の組合せに接触させた。かかる組合せは、Wyomingからのウイルス/抗血清(W/W)、New Yorkからのウイルス/抗血清(N.Y./N.Y.)、Wyomingウイルス及びNew Yorkからの血清(W/N.Y.)並びにNew Yorkウイルス及びWyomingからの血清(N.Y./W)であった。それぞれの組合せを用いて校正曲線を作成した。結果を図3に示す。図から明らかな通り、異なるウイルス株間には交差反応性が存在する。したがって、Wyoming HA及びウイルス/抗血清はNew York株の定量のために使用でき、その逆もまた正しい。
【0074】
実施例3:様々なインフルエンザウイルスタイプ/サブタイプのHAに対する抗血清の結合の選択性
インフルエンザウイルスA/H3N2、A H1N1及びBの様々な株に対する27種の抗血清を固定化H3N2 Wyoming HA上に注入し、その結合を検出した。結果及び使用した株のリストを図4に示す。図から明らかな通り、すべてのH3N2抗血清は100RUより高い信号をもって結合する一方、すべてのH1N1及びB抗血清は50RU未満の信号を有している。これは、数種のウイルス株を同時に定量できること、及びH3N2の測定のためには1種又は若干種のHAのみが必要であることを表している。
【0075】
実施例4:仮想校正手続き
Biacore T100及びCM5センサーチップ上で複数(約100回)のアッセイサイクルを実施したが、その間に7種の濃度(0.156、0.31、0.625、1.25、2.5、5及び10μg/ml)の対照試料を用いて4回の通常校正を行った。7種の濃度の各々に関し、サイクル数をxとし、応答をyとし、かつa、b、c、d及びeを当てはめパラメーターとする関数y(x)=a*exp(−b*x)+c*exp(−d*x)+eを当てはめた。結果を図5に示すが、最上部の曲線は最も低い濃度の対照品(即ち、阻害アッセイでは最も高い応答)を表し、最下部の曲線は最も高い濃度の対照品(即ち、最も低い応答)を表している。次いで、これらの式を用いて各サイクルに関する仮想応答を計算した。次いで、図6及び図7を参照しながら下記に説明されるように、これらの応答を用いて各サイクルに関する校正曲線を計算し、この校正曲線を用いて正にそのサイクルで試料及び対照品の予測を行った。
【0076】
図6は、2種の対照品(1.0μg/ml及び0.5μg/ml)の計算濃度に関するドリフトを示している。多数のアッセイサイクルを実施し、二重波線矢印で表されるサイクル数で4回の中間校正を行った。各校正後に3つ(又は2つ)の対照品の濃度を最も近い先行校正曲線に対して計算した。波線矢印によって表されるように、校正までの距離の増加に伴って計算濃度の系統的な増加が存在している。このような計算濃度の増加は、対照試料からの信号の減少に原因している。これはまた、表面の結合能力がサイクル数の関数として減少し、校正曲線がかかる減少を濃度の増加として解釈することに原因している。このような結合能力の減少はまた、図3及び図4に見ることができる。
【0077】
上述した仮想校正方法を図6の生データに適用すれば、0.5μg/ml及び1.0μg/mlの対照品に関して図7に示す濃度推定値が得られるが、これは対照試料の濃度の予測における再現性の顕著な向上である。
【0078】
実施例5:仮想校正手続きによる結合データの基準化
HA組換えタンパク質HB/Jilin、H1N1/New Caledonia及びH3N2/Wyomingを固定化した。校正曲線を得た。試料を希釈し、0.5〜1.5μg/mlの範囲内の濃度を測定して再計算した。応答のドリフトを回避するため、上記実施例4に概述した基準化手続きを用いて結果を基準化し、各サイクルは固有の校正曲線を得た。図8は、250RUの応答及び1.2%のCVを与える対照試料(5μg/mlのB/Jiangsu/10/2003)に関する基準化前及び基準化後の結果を示している。
【0079】
実施例6:3種のウイルスタイプの同時検出
3つのフローセルに、3種の組換えインフルエンザウイルスHAタンパク質、即ちH1N1/New Caledonia、H3N2/Wisconsin及びB/Jilinを固定化した。
【0080】
3種のインフルエンザ株H1N1/New Caledonia、H3N2/Wisconsin及びB/Malaysiaからのウイルス標準品を、各標準品の最終濃度が16μg/mlとなるように希釈して混合した。次いで、16μg/mlから0.5μg/mlまでの2倍系列希釈液として校正曲線を作成した。
【0081】
分析すべき3種のワクチンH1N1、H3N2及びBを8倍、16倍、32倍及び64倍に希釈した。
【0082】
3種の血清(NIBSCからのH1N1/New Caledonia、H3N2/Wisconsin及びB/Malaysia)を、500〜700RUの応答を与える濃度に希釈して混合した。
【0083】
製造者による事前混合物 最終希釈度
H1N1/New Caledonia 60倍希釈度 180倍
H3N2/Wisconsin 70倍希釈度 210倍
B/Malaysia 20倍希釈度 60倍
ワクチンを分析するためには、標準品及びワクチンの複製物をまず血清溶液と混合し、次いで「Method Builder」で生み出された方法を用いてフローセル中に流した。
【0084】
「Method Builder」からの一般的方法は下記の通りであった。
開始(試料の代わりに緩衝液を用いて7サイクル、次いで再生、2時間)
校正曲線1(14サイクル)
試料(12サイクル)
校正曲線2(14サイクル)
試料(12サイクル)
校正曲線3(14サイクル)
試料(12サイクル)
次いで、3つの校正曲線について結果を基準化した。これは、Biacore(登録商標)システムによる濃度測定のために通常使用される4パラメーター回帰曲線(式1)に校正曲線の4パラメーター当てはめを実施して4つの係数を決定することで行った。
【0085】
【数1】
式中、Rhighは低ウイルス濃度での応答であり、Rlowは低ウイルス濃度での応答であり、A1(EC50)及びA2(Hill勾配)は当てはめパラメーターであり、Xはウイルスの濃度である。
【0086】
次いで、様々な濃度で4つの係数の各々に関して得られた値を分析サイクル数に対してプロットすることで、各係数に関する式を得た。上記の式1によって得られた係数を用いて、基準化濃度を計算した。
【0087】
結果
【0088】
【表1】
製造者によれば、ワクチン中の各株のHA濃度は、SRIDで分析して30μg/mlのはずである。
【0089】
3つの校正曲線を図9に示す(上述した校正曲線1〜3を各図に示す)。
【0090】
上記のことから、例示目的のために本発明の特定の実施形態を本明細書中に記載してきたが、本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱せずに様々な変更を行い得ることが理解されよう。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲以外によって限定されることはない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のウイルス又はその抗原の濃度を決定する方法であって、
ウイルス抗原又はウイルス抗原類似体を固定化したセンサー表面を用意する段階、
試料をウイルス抗原に対する抗体の既知量と混合して、試料混合物中に抗原に対する抗体の所定濃度を得る段階、
試料混合物をセンサー表面に接触させて、混合物中の遊離抗体をセンサー表面に結合させる段階、
遊離抗体の結合に対するセンサー表面の応答を測定する段階、並びに
所定濃度の抗体及び様々な濃度のウイルス又はウイルス抗原を含む混合物に関して得られる応答を測定することで作成された校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定する段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
中間で再生を行いながらセンサー表面に関して複数の分析サイクルが実施され、各分析サイクルに関して仮想校正曲線が計算される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
校正曲線の計算が、
曲線中の既知濃度の各々を、サイクル数をxとしかつ応答をyとする二重指数式に当てはめ、
これらの式を用いて各サイクルに関する仮想校正曲線を計算し、
特定のサイクルに関する仮想校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又はウイルス抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、別々の分析サイクルにおいて、抗原又は類似体の異なる1者を固定化したセンサー表面に順次に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又は抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、それぞれの抗原又は類似体を固定化した個別の感知領域を有するセンサー表面に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又は抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、同一感知領域に固定化されたそれぞれの抗原の混合物を含む感知領域に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又はウイルス抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、ただ1つの分析サイクルにおいて、それぞれの抗原又は類似体を固定化した個別の感知領域を有するセンサー表面に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ウイルスに対する抗体がウイルス又はウイルス抗原に対する血清からなる、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
様々なウイルスがインフルエンザウイルスタイプ及びサブタイプから選択される、請求項4乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ウイルス抗原が赤血球凝集素からなる、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
試料がインフルエンザワクチン製造から導かれる、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
試料が多価インフルエンザワクチンから導かれる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
固定化された赤血球凝集素が、インフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの複数種の株に対して包括的なものである、請求項11乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
固定化された赤血球凝集素が、インフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの2種以上の株から導かれたものである、請求項11乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
多価インフルエンザワクチンが三価であり、ウイルスA/H1N1、A/H3N2及びB株から導かれる、請求項13乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
センサー表面上での結合相互作用が、質量感知、好ましくはエバネセント波感知、特に表面プラズモン共鳴(SPR)によって検出される、請求項1乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
多価インフルエンザワクチン中のウイルス又はウイルス抗原の含有量を決定する方法であって、
各ウイルスタイプ又はサブタイプに関する赤血球凝集素をバイオセンサー感知表面のそれぞれの個別感知領域上に固定化する段階、
ワクチンの試料をワクチン中のウイルスタイプ又はサブタイプの各々に対する一定濃度の抗血清と混合する段階、
ただ1つの分析サイクルにおいて、混合物をセンサー表面に接触させて遊離抗血清をそれぞれの感知領域に結合させ、各感知領域での結合に対する応答を測定する段階、並びに
試料中の各ウイルスタイプ又はサブタイプ或いはその抗原の含有量を相異なるウイルスタイプ又はサブタイプに関する校正曲線から決定する段階
を含んでなる方法。
【請求項19】
校正曲線の作成が、
a)各ウイルスタイプ又はサブタイプに対する一定濃度の標準抗血清を相異なるウイルスタイプ又はサブタイプに関するウイルス又はウイルス抗原の所定量と混合することで校正物質混合物を調製する段階、
b)センサー表面を混合物に接触させて遊離抗血清をそれぞれの感知領域に結合させ、各感知領域での応答を測定する段階、
c)相異なるウイルスタイプ又はサブタイプに関するウイルス又はウイルス抗原の様々な量を含む混合物に関して段階a)及び段階b)を繰り返す段階、並びに
d)各ウイルスタイプ又はサブタイプに関して校正曲線を計算する段階
を含む、請求項18記載の方法。
【請求項1】
試料中のウイルス又はその抗原の濃度を決定する方法であって、
ウイルス抗原又はウイルス抗原類似体を固定化したセンサー表面を用意する段階、
試料をウイルス抗原に対する抗体の既知量と混合して、試料混合物中に抗原に対する抗体の所定濃度を得る段階、
試料混合物をセンサー表面に接触させて、混合物中の遊離抗体をセンサー表面に結合させる段階、
遊離抗体の結合に対するセンサー表面の応答を測定する段階、並びに
所定濃度の抗体及び様々な濃度のウイルス又はウイルス抗原を含む混合物に関して得られる応答を測定することで作成された校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定する段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
中間で再生を行いながらセンサー表面に関して複数の分析サイクルが実施され、各分析サイクルに関して仮想校正曲線が計算される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
校正曲線の計算が、
曲線中の既知濃度の各々を、サイクル数をxとしかつ応答をyとする二重指数式に当てはめ、
これらの式を用いて各サイクルに関する仮想校正曲線を計算し、
特定のサイクルに関する仮想校正曲線から試料中のウイルス又は抗原の濃度を決定することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又はウイルス抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、別々の分析サイクルにおいて、抗原又は類似体の異なる1者を固定化したセンサー表面に順次に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又は抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、それぞれの抗原又は類似体を固定化した個別の感知領域を有するセンサー表面に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又は抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、同一感知領域に固定化されたそれぞれの抗原の混合物を含む感知領域に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
試料中の2種以上、好ましくは3種以上のウイルス又はウイルス抗原の濃度を決定するため、試料とそれぞれのウイルス抗原に対して選択的な抗体との混合物を、ただ1つの分析サイクルにおいて、それぞれの抗原又は類似体を固定化した個別の感知領域を有するセンサー表面に接触させる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ウイルスに対する抗体がウイルス又はウイルス抗原に対する血清からなる、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
様々なウイルスがインフルエンザウイルスタイプ及びサブタイプから選択される、請求項4乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ウイルス抗原が赤血球凝集素からなる、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
試料がインフルエンザワクチン製造から導かれる、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
試料が多価インフルエンザワクチンから導かれる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
固定化された赤血球凝集素が、インフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの複数種の株に対して包括的なものである、請求項11乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
固定化された赤血球凝集素が、インフルエンザウイルスタイプ又はサブタイプの2種以上の株から導かれたものである、請求項11乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
多価インフルエンザワクチンが三価であり、ウイルスA/H1N1、A/H3N2及びB株から導かれる、請求項13乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
センサー表面上での結合相互作用が、質量感知、好ましくはエバネセント波感知、特に表面プラズモン共鳴(SPR)によって検出される、請求項1乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
多価インフルエンザワクチン中のウイルス又はウイルス抗原の含有量を決定する方法であって、
各ウイルスタイプ又はサブタイプに関する赤血球凝集素をバイオセンサー感知表面のそれぞれの個別感知領域上に固定化する段階、
ワクチンの試料をワクチン中のウイルスタイプ又はサブタイプの各々に対する一定濃度の抗血清と混合する段階、
ただ1つの分析サイクルにおいて、混合物をセンサー表面に接触させて遊離抗血清をそれぞれの感知領域に結合させ、各感知領域での結合に対する応答を測定する段階、並びに
試料中の各ウイルスタイプ又はサブタイプ或いはその抗原の含有量を相異なるウイルスタイプ又はサブタイプに関する校正曲線から決定する段階
を含んでなる方法。
【請求項19】
校正曲線の作成が、
a)各ウイルスタイプ又はサブタイプに対する一定濃度の標準抗血清を相異なるウイルスタイプ又はサブタイプに関するウイルス又はウイルス抗原の所定量と混合することで校正物質混合物を調製する段階、
b)センサー表面を混合物に接触させて遊離抗血清をそれぞれの感知領域に結合させ、各感知領域での応答を測定する段階、
c)相異なるウイルスタイプ又はサブタイプに関するウイルス又はウイルス抗原の様々な量を含む混合物に関して段階a)及び段階b)を繰り返す段階、並びに
d)各ウイルスタイプ又はサブタイプに関して校正曲線を計算する段階
を含む、請求項18記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【公表番号】特表2011−522249(P2011−522249A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511569(P2011−511569)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050637
【国際公開番号】WO2009/148395
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050637
【国際公開番号】WO2009/148395
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】
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