説明

ウイルス産生プロセス

【課題】本発明は、従来技術に対する種々の重要な進歩を取り込んだ、高力価で
組換えウイルスベクターを産生する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題は、ウイルス(特に外因性トランスジーンをコードするウ
イルス)の産生の増強を提供する複数の特性を組み込むことによって解決された
。具体的に例示された方法は、外因性トランスジーンを含む組換え複製欠損アデ
ノウイルスの高力価の無血清培地産生についての方法を記載する。本発明は、マ
イクロキャリアを調製する方法、高い細胞密度でバイオリアクターに接種するた
めの方法、ウイルスに対するプロデューサー細胞の感染性を増大させること、プ
ロデューサー細胞の細胞周期を同調させることを通じて産生収率を増大させる方
法、および外因性トランスジーンの有害な効果を最小化する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス産生の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在開発下の種々のインビボ遺伝子治療製品は、組換えウイルスベクターによ
る治療的トランスジーンの送達に基づく。トランスジーンの送達のための一般的
なビヒクルは、組換えアデノウイルスであり、通常、特定のパッケージング細胞
株以外の任意の細胞における複製について欠損であるアデノウイルスである。こ
れらのパッケージング細胞株は、欠損ウイルスにおいて欠失されたウイルス複製
に必要な特定のアデノウイルス遺伝子を発現する。E1領域における欠失を含む
アデノウイルスを産生するために、最も一般的に使用される細胞株は、293細
胞株である。293細胞中の複製欠損アデノウイルスの産生は、この細胞株は増
殖が難しいために、困難である。例えば、293細胞は、基材へ付着することを
要求し、そして高コンフルエンスで分化するようである。別の制限は、複製欠損
アデノウイルスは、野生型ウイルスほど複製しないことである。293細胞にお
ける野生型アデノウイルスの比ウイルス産生は、1細胞当たり約80,000〜
100,000粒子であるが、E1複製欠損アデノウイルスは、代表的に、1細
胞当たり100〜2,000粒子しか産生しない。用量レジメおよび治療市場規
模の現在の評価に基づいて、いくつかの遺伝子治療製品に対する需要を満たすた
めに約1018粒子の年間産生が必要であることが推定された。従って、アデノウ
イルス遺伝子治療製品について予測される市場を満たすレベルまでの、組換えア
デノウイルスの産生の改良が、この技術を商業的に可能にするために、要求され
る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、足場依存パッケージング細胞株におけるウイルスベクターの産生の
ためのプロセスに基づくマイクロキャリアを記載し、このマイクロキャリアは、
見積もられた市場需要に合うのに十分なアデノウイルス遺伝子治療製品のコスト
効率的産生を可能とする。本発明は、5リットルバイオリアクターにおいて2×
1015より多いウイルス粒子を産生する拡大縮小可能な産生プロセスを記載する
。本プロセスは、十分に拡大縮小可能であり、100リットルほどの小さなバイ
オリアクターおよび5リットルの精製カラムを用いて、年間で見積もられた10
18粒子を達成する。
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、高力価で組換えウイルスベクターを産生する方法に関する技術水準
に対して種々の重要な利点を取り込む。本発明の方法は、複数の特徴を組み合わ
せ、ウイルス、特に外因性トランスジーンをコードするウイルスの高められた産
生を提供する。詳細に例示される方法は、外因性トランスジーンを含有する組換
え複製欠損アデノウイルスの高力価無血清培地産生法を記載する。本発明は、マ
イクロキャリアを調製する方法、高細胞密度でバイオリアクターを接種して、ウ
イルスへのプロデューサー細胞の感染性を増加させる方法、プロデューサー細胞
の細胞周期を同調させることによって収率を増加させる方法、ならびに外因性ト
ランスジーンの悪影響を最小化する方法を提供する。本発明はさらに、本発明の
プロセスにより調製したプロデューサー細胞を提供する。本発明はさらに、本プ
ロセスにより産生されるウイルスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、光学顕微鏡下で試験した細胞でコートされたマイクロキャリアの写真での概略である。パネルAは、およそ106細胞/mlまたはマイクロキャリア当たりおよそ平均23の細胞を有するコンフルエントなマイクロキャリアを例示する。パネルBは、およそ107細胞/mlまたはマイクロキャリア当たり平均およそ230の細胞のマイクロキャリア上の細胞の超濃度の結果を実証する。
【図2】図2は、本明細書中の実施例1〜5に記載されたプロセスにより産生されるACN53のウイルス粒子の産生レベルのグラフによる概略である。縦軸は、バイオリアクターにおけるウイルス粒子の総数を示す。横軸は、感染後の時間を時間で示す。この例において、5×106細胞/mlを、ウイルスに感染させて、細胞当たりおよそ12,800のACN53ウイルス粒子の産生が得られた。
【図3】図3は、本明細書中の実施例1〜5の教示に実質的に従う、ACN−Rb110ウイルスの産生のグラフによる概略である。縦軸は、ウイルス粒子の総数を示す。横軸は、感染後の時間を時間で示す。このデータは、細胞当たりおよそ39,000のACN−Rb110ウイルス粒子の産生を実証する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(発明の詳細な説明)
本明細書中で引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、各個の刊行物
、特許または特許出願が具体的にかつ個々に参照として援用されることが示され
るかのように、本明細書中で、それらの全体が参照として援用される。特定の用
語と共の単数形の使用はまた、その複数形の使用を暗示し、そしてその逆もあて
はまる。見出しは、便宜のためのみであり、本開示の範囲を制限する意図はない

本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1) プロデューサー細胞中でのウイルスの産生のために、マイク
ロキャリアベースのバイオリアクタープロセスにおいて、5×106プロデュー
サー細胞/mlよりも高い細胞密度を達成する方法であって、該方法が、以下の
工程:
a)マイクロキャリアに付着したプロデューサー細胞の培養物を調製する工程
であって、プロデューサー細胞対マイクロキャリアの比がおよそ10細胞/マイ
クロキャリアである、工程
b)該バイオリアクターに、1リットルのバイオリアクター培地容量当たりお
よそ6グラムのプロデューサー細胞コート化マイクロキャリア(該マイクロキャ
リアの乾燥重量に基づく)を超える密度までの量の、工程(a)において調製さ
れたプロデューサー細胞コート化マイクロキャリアを接種する工程;および
c)血清含有培地において灌流条件下で、該バイオリアクターにおいて該プロ
デューサー細胞を、100細胞/マイクロキャリアを超える密度まで培養する工
程、
を包含する、方法。
(項目2) 前記プロデューサー細胞が293細胞である、項目1に記
載の方法。
(項目3) 前記ウイルスがアデノウイルスである、項目2に記載の方
法。
(項目4) 前記ウイルスが、5型アデノウイルスゲノム由来の複製欠損
アデノウイルスである、項目3に記載の方法。
(項目5) 前記複製欠損アデノウイルスが、外因性トランスジーンのた
めの発現カセットをさらに含む、項目4に記載の方法。
(項目6) 前記外因性トランスジーンが、癌抑制遺伝子、細胞傷害性遺
伝子、細胞増殖抑制性遺伝子、プロアポトーシス遺伝子、またはプロドラッグ活
性化遺伝子からなる群より選択される、項目5に記載の方法。
(項目7) 前記外因性トランスジーンが癌抑制遺伝子である、項目6
に記載の方法。
(項目8) 前記癌抑制遺伝子がp53である、項目7に記載の方法。
(項目9) 無血清培地において、マイクロキャリアベースのバイオリア
クター中に高力価のウイルス粒子を含むプロデューサー細胞の集団を産生する方
法であって、該方法が、項目1に記載のプロセスを含み、さらに以下の工程:
d)前記血清含有培地を除去する工程;
e)G1期において、該プロデューサー細胞を同調させる工程;
f)該プロデューサー細胞にウイルスを感染させる工程;
g)ウイルスの複製を許容する条件下で最大点が達成されるまで細胞を培養す
る工程、
を包含する、方法。
(項目10) 前記プロデューサー細胞が293細胞である、項目9に
記載の方法。
(項目11) 細胞を同調させることが、細胞周期のおよそ1/3を超え
る間、非血清培地中で前記細胞を維持することによって達成される、項目10
に記載の方法。
(項目12) 前記ウイルスがアデノウイルスである、項目11に記載
の方法。
(項目13) 前記ウイルスが、5型アデノウイルスゲノム由来の複製欠
損アデノウイルスである、項目12に記載の方法。
(項目14) 前記複製欠損アデノウイルスが、外因性トランスジーンの
ための発現カセットをさらに含む、項目13に記載の方法。
(項目15) 前記外因性トランスジーンが、癌抑制遺伝子、細胞傷害性
遺伝子、細胞増殖抑制性遺伝子、プロアポトーシス遺伝子、またはプロドラッグ
活性化遺伝子からなる群より選択される、項目14に記載の方法。
(項目16) 項目9に記載のプロセスに従う、ウイルスの産生のため
の方法であって、さらに以下の工程:
h)前記細胞を回収する工程;
i)前記プロデューサー細胞を溶解する工程;
j)細胞溶解物から前記ウイルス粒子を単離する工程;および
k)インタクトなウイルス粒子を精製する工程、
を包含する、方法。
(項目17) 項目16のプロセスにより産生された、精製されたウイ
ルス。
(項目18) プロデューサー細胞中のウイルスの産生についてのプロセ
スの収率を増大させる方法であって、該ウイルスに対する該プロデューサー細胞
の感染性を増大させる薬剤の添加による、方法。
(項目19) 前記ウイルスがアデノウイルスである、項目18に記載
の方法。
(項目20) 前記プロデューサー細胞が293細胞である、項目19
に記載の方法。
(項目21) 前記プロデューサー細胞の感染性を増大させる薬剤がカル
パインインヒビター1である、項目20に記載の方法。
(項目22) プロデューサー細胞に有毒であるトランスジーンを含むウ
イルスにより感染された該プロデューサー細胞中のウイルス粒子の数を増大させ
る方法であって、該トランスジーンの発現を駆動する調節領域の活性を抑制する
薬剤の添加による、方法。
(項目23) 前記トランスジーンが、プロアポトーシス遺伝子、細胞増
殖抑制性遺伝子、または細胞傷害性遺伝子である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記ウイルスがアデノウイルスであり、そして前記プロモ
ーターがサイトメガロウイルス初期プロモーターである、項目23に記載の方
法。
(項目25) 前記サイトメガロウイルス初期プロモーターの活性を抑制
する薬剤が、N−アセチル−L−システインおよびペントキシフィリンから本質
的になる群より選択される、項目24に記載の方法。
(項目26) 前記培地中のN−アセチル−L−システインまたはペント
キシフィリンの濃度が、それぞれ、およそ10〜30mMおよび0.5〜3.0
mMである、項目25に記載の方法。
(項目27) プロデューサー細胞中のウイルスの産生についてのプロセ
スの収率を増大させる方法であって、該ウイルスによる感染よりも前に、G0/
G1期において該プロデューサー細胞を同調させることによる、方法。
(項目28) 細胞を同調させることが、細胞周期のおよそ1/3を超え
る間、非血清培地中で前記細胞を維持することによって達成される、項目27
に記載の方法。
(項目29) 前記プロデューサー細胞が293細胞である、項目28
に記載の方法。
(項目30) 前記ウイルスがアデノウイルスである、項目11に記載
の方法。
【0007】
哺乳動物細胞培養によるウイルスの産生は、種々の因子に依存する。以下に説
明するように、種々の技術(例えば、プロデューサー細胞を同調させること)が
、所定のプロデューサー細胞内でのウイルス産生を改善するために使用され得、
プロデューサー細胞の感染性を増加させ、そして培養の間のトランスジーンの効
果を抑制する。産生設備の規模を拡大することによって、または低収率プロセス
を繰り返すことによって、多量のウイルス粒子を産生することは、理論的に可能
であるが、これらの因子の組み合わせは、このようなアプローチの商業的な実用
性を無効にする。結果として、所定容量でのプロセスの全体的効率は、大部分に
おいて、所定容量の培地において効率的に維持され得る細胞の濃度に依存する。
所定容量の生存可能なプロデューサー細胞の高濃度を達成し得る場合、細胞内の
ウイルスの高い産生と組み合わせると、プロセスの全効率は、改良されて、この
プロセスを経済的にする。
【0008】
(I.マイクロキャリアベースのリアクターにおいて高い細胞密度を達成する

本発明は、プロデューサー細胞内でのウイルスの産生のためのマイクロキャリ
アベースのバイオリアクタープロセスにおいて、5×106プロデューサー細胞
/mlより多い細胞密度を達成する方法を提供し、この方法は、以下の工程を包
含する:
a)マイクロキャリアに付着したプロデューサー細胞の培養物を調製する工程で
あって、ここでプロデューサー細胞とマイクロキャリアとの比が、約10細胞/
マイクロキャリアである、工程
b)バイオリアクターに、ある量の工程(a)で調製したプロデューサー細胞コ
ート化マイクロキャリアを、1リットルのバイオリアクター培地容量当たり約6
グラム(マイクロキャリアの乾燥重量を基本とする)のプロデューサー細胞コー
ト化マイクロキャリアよりも大きい密度となるまで、接種する工程;および
c)100細胞/マイクロキャリアよりも大きい密度になるまで、血清含有培地
中、灌流条件下で、バイオリアクター内でプロデューサー細胞を培養する工程。
【0009】
(バイオリアクター)
用語「バイオリアクター」とは、細胞培養のためのデバイスのことをいい、こ
のデバイスは、細胞培養が維持される容器を備える。バイオリアクターのデザイ
ンは、無菌性を保証し、そして遺伝的に操作されたプロデューサー細胞およびウ
イルスの封じ込めを提供するべきである。種々のバイオリアクターは、足場依存
プロデューサー細胞の培養および懸濁液培養のために市販されており、そして当
業者に周知であり、そして本発明の実施に容易に適用され得る。バイオリアクタ
ーは、好ましくは、内容物を均一に混合されているように保つための、そして酸
素移動を容易にするための攪拌システムを備える。好ましくは、バイオリアクタ
ーはセンサーを備え、センサーは、可能な限り多くのプロセスパラメータ(温度
、pH、溶存酸素)のモニターリングおよび操作を可能とし、その結果、これら
のパラメータは、細胞増殖の最適な範囲内に維持され得る。本発明の好ましい実
施におけるバイオリアクターは、マイクロキャリア床から分離される培地に酸素
添加する装置を含む。本発明の実施に有用な好ましいバイオリアクターは、Ce
ll−Lift(登録商標)インペラー(マイクロキャリア培養において低い剪
断および高い酸素添加のため)を備えるCelliGen Plus(登録商標
)バイオリアクターであり、New Brunswick Scientifi
c Company,Inc.,44 Talmadge Road,Edis
on,New Jersey,USA 08818−4005から市販される。
特定の改変物、例えば、細胞沈降チューブまたはデカンティングションカラムが
、培養の操作を容易にするために利用され得る(New Brunswick
Scientificから市販)。
【0010】
(ウイルスおよびウイルスベクター)
用語、ウイルス(単数または複数)およびベクター(単数または複数)は、本
明細書中で、交換可能に使用される。用語「粒子」または「ウイルス粒子」とは
、ウイルスゲノムが充填されるビリオンまたはエンベロープのことを言う。本発
明の実施により産生されるべきウイルスには、組換え改変エンベロープ化または
非エンベロープ化のDNAウイルスおよびRNAウイルスを含み、好ましくは、
バキュロウイルス科、パルボウイルス科、ピコルナウイルス(picornov
iridiae)科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、アデノウイル
ス科、またはピコルナウイルス科から選択される。これらのウイルスは、天然に
存在するウイルスであっても良く、あるいは、これらのウイルスゲノムは、外因
性トランスジーンの発現を含む組換えDNA技術により改変されても良く、そし
て複製欠損、条件的複製または複製可能であるように操作されても良い。各親ベ
クター特性の有利なエレメントを利用するキメラベクター(例えば、Fengら
(1997)Nature Biotechnology 15:866−87
0を参照のこと)はまた、本明細書中に記載される方法によって産生され得る。
最小ベクターシステムはまた、本発明の実施に従って産生され得、この最小ベク
ターシステムにおいて、ウイルス骨格は、ウイルスベクターのパッケージングの
ために必要である配列のみを含み、そして必要に応じてトランスジーン発現カセ
ットを含み得る。本発明は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびレトロ
ウイルスゲノム由来のウイルスの調製に特に有用である。本発明の最も好ましい
実施において、産生されるべきベクターは、ヒトアデノウイルスゲノム由来の複
製欠損ベクターである。本発明の好ましい実施において、産生されるべきベクタ
ーは、複製欠損または条件的複製アデノウイルスベクターである。本明細書中で
例示される本発明の最も好ましい実施において、産生されるべきベクターは、複
製欠損(E1欠損/欠失)アデノウイルスベクターであり、このベクターは、こ
のベクターによって感染される細胞内の外因性癌抑制遺伝子についての発現カセ
ットをコードする。
【0011】
条件的複製ウイルスベクターは、都合の悪い広範なスペクトルの感染を回避す
る一方で特定の細胞型において選択的発現を達成するために使用される。条件的
複製ベクターの例は、Bischoffら(1996)Science 272
:373−376;Pennisi,E.(1996)Science 274
:342−343;Russell,S.J.(1994)Eur.J.of
Cancer 30A(8):1165−1171に記載される。さらに、ウイ
ルスゲノムは、誘導性プロモーターを含むように改変され得、この誘導性プロモ
ーターは、特定の条件下でのみトランスジーンの複製または発現を達成する。誘
導プロモーターの例は、以下の科学文献において公知である(例えば、Yosh
idaおよびHamada(1997)Biochem.Biophys.Re
s.Comm.230:426−430;Iidaら(1996)J.Viro
l.70(9):6054−6059;Hwangら(1997)J.Viro
l.71(9):7128−7131;Leeら(1997)Mol.Cell
.Biol.17(9):5097−5105;およびDreherら(199
7)J.Biol.Chem.272(46):29364−29371を参照
のこと)。トランスジーンはまた、特定の細胞型においてのみトランスジーンの
発現を可能とする組織特異的プロモーター領域の制御下にあり得る。
【0012】
いくつかの場合においては、トランスジーンを特定の細胞型において発現させ
るウイルスを利用することは、価値があり得る。特定のベクターは、特定の組織
型について天然の向性を示す。例えば、ヘルペスウイルス属由来のベクターはニ
ューロン細胞の優先的な感染を有することが、示された。組換え改変したヘルペ
スウイルス科ベクターの例は、1994年7月12日に発行された米国特許第5
,328,688号に開示される。細胞型特異性または細胞型ターゲッティング
はまた、ウイルスエンベロープタンパク質の改変によって、特徴として広範な感
染力を有するウイルス由来のベクターにおいて達成され得る。例えば、細胞ター
ゲッティングは、ウイルスゲノムノブおよびファイバーコード配列の選択的な改
変(これは、独特な細胞表面レセプターとの特異的な相互作用を有する改変され
たノブおよびファイバードメインの発現を達成する)によって、アデノウイルス
ベクターで達成されている。このような改変の例は、Wickhamら(199
7)J.Virol 71(11):8221−8229(incorpora
tion of RGD peptides into adenoviral
fiber proteins);Ambergら、(1997)Virol
ogy 227:239−244(modification of aden
oviral fiber genes to achieve tropis
m to the eye and genital tract);Harr
isおよびLemoine(1996)TIG 12(10):400−405
;Stevensonら(1997)J.Virol.71(6):4782−
4790;Michaelら(1995)Gene Therapy 2:66
0−668(incorporation of gastrin relea
sing peptide fragment into adenoviru
s fiber protein);ならびにOhnoら(1997)Natu
re Biotechnology 15:763−767(incorpor
ation of Protein A−IgG binding domai
n into Sindbis virus)に記載される。細胞特異的ターゲ
ッティングの他の方法は、エンベロープタンパク質への抗体または抗体フラグメ
ントの結合によって達成されている(例えば、Michaelら(1993)J
.Biol.Chem 268:6866−6869;Watkinsら(19
97)Gene Therapy 4:1004−1012;Douglasら
(1996)Nature Biotechnology 14:1574−1
578を参照のこと)。あるいは、特定の部分が、ターゲッティングを達成する
ために、ウイルス表面へ結合され得る(例えば、Nilsonら(1996)G
ene Therapy 3:280−286(conjugation of
EGF to retroviral proteinsを参照のこと)。こ
れらの組換え改変されたベクターは、本発明の実施に従って産生され得る。
【0013】
本発明の好ましい実施において、産生されるべきウイルスは、アデノウイルス
属由来である。特に好ましいウイルスは、ヒトアデノウイルス2型または5型由
来である。このようなウイルスは、好ましくは、E1aおよび/またはE1bコ
ード領域における改変または欠失による複製欠損である。特定の発現特性を達成
する、あるいは繰り返し投与を可能にする、あるいは免疫応答を下げるための、
ウイルスゲノムの他の改変が、好ましい。E4コード領域の完全なまたは部分的
な欠失を有し、必要に応じてE4orf6およびE4orf6/7を保持する、
組換えアデノウイルスが、より好ましい。E3コード配列は、欠失され得るが、
好ましくは保持される。特に、E3のプロモーターオペレーター領域が、E3の
発現を増加するように改変されて、治療的ベクターのより都合の良い免疫学的プ
ロフィールが達成されることが、好ましい。最も好ましいのは、サイトメガロウ
イルスプロモーター領域の制御下でp53をコードするDNA配列および3分節
リーダー配列を含み、CMVプロモーターの制御下のE3を有し、そしてE4コ
ード領域を欠失するが、E4orf6およびE4orf6/7を保持するヒトア
デノウイルス5型ベクターである。本明細書で例示される本発明の最も好ましい
実施において、ベクターは、ACN53であり、これは、Willsら(199
4)Human Gene Therapy 5:1079−1088に記載さ
れる。
【0014】
(プロデューサー細胞)
用語「プロデューサー細胞」は、本明細書中で、足場依存ウイルスパッケージ
ング細胞株を記載するために使用される。足場依存細胞、またはそれに由来する
培養物は、表面(例えば、ガラスまたはプラスチック)へ付着されると、増殖し
、生存し、または機能を最適に維持する細胞である。この用語の使用は、細胞が
正常であること、あるいは細胞が新生物的に形質転換されることまたはされない
ことを暗示しない。増殖されるべきウイルスの性質に依存して、細胞株のゲノム
は、ベクターとして使用されるウイルスゲノムの欠失を相補するように改変され
得る。ベクターが複製可能である場合、哺乳動物細胞培養に一般的に使用される
任意の足場依存細胞株が、ウイルスパッケージング細胞株として使用され得る。
ウイルスベクターパッケージング細胞株として一般に使用されるこのような足場
依存細胞株の例は、HeLaまたは293細胞(GrahamおよびSmile
y(1997)J.Gen.Virol.36:59−72)、ならびにPER
C.6細胞(公開公報WO/97/00326号、出願番号第PCT/NL96
/00244に記載される)である。
【0015】
いくつかの適用において、特にウイルスが遺伝子治療適用のために使用される
場合、処置されるべき個体内のウイルスの制御されない増殖を回避するために、
ベクターは複製欠失(または複製欠損)であることが、好ましい。このような場
合、プロデューサー細胞のゲノムが、必須のウイルス機能をコードするための改
変によってか、またはヘルパーウイルスを用いるプロデューサー細胞の同時感染
のいずれかによってウイルスゲノムから欠失した配列の効果を相補するタンパク
質を発現させるように操作された哺乳動物細胞株が選択される。例えば、産生さ
れるべきウイルスベクターが、HIV−1ベクターまたは組換え改変されたその
誘導体である場合、HIV−1パッケージング細胞株PSI422(Corbe
auら(1996)PNAS(USA)93(24):14070−14075
に記載されるように)が使用され得る。同様に、産生されるべきウイルスベクタ
ーがレトロウイルスである場合、高力価のレトロウイルス粒子を産生することが
できるヒト293−由来のレトロウイルスパッケージング細胞株(293GPG
)(Oryら(1996)PNAS(USA)93(21):11400−11
406に記載されるように)が利用され得る。最小ベクターシステムの産生にお
いて、プロデューサー細胞は、操作されて(ウイルスゲノムの改変によってか、
あるいはヘルパーウイルスまたはコスミドの使用によってかのいずれかで)、複
製を可能にしかつプロデューサー細胞株中でビリオンにパッケージする親ウイル
スの機能を相補する。
【0016】
産生されるべきウイルスが、E1aおよび/またはE1b機能の欠失によって
複製欠乏を与えられた組換えアデノウイルスである場合、293細胞株のアデノ
ウイルスE1aおよびE1bを相補する能力に起因して、293細胞株が特に好
ましい。しかし、293細胞はまた、複製可能なまたは条件的複製のアデノウイ
ルスの発現のために使用され得る。E1欠損アデノウイルスの産生のために使用
され得る他の細胞株の例は、PERC.6細胞である(IntroGene,b
.v.,P.O.Box 2048,Leiden,Netherlandsか
ら入手可能)(これは、トランスでE1をコードし、そしてマイクロキャリア表
面への優れた付着を有すると実証された)。
【0017】
(トランスジーン)
本発明の方法により産生されるべき組換えベクターは、必要に応じてトランス
ジーン発現カセットを含有する。発現カセットとの用語は、本明細書中で使用さ
れて、調節エレメントおよびトランスジーンのコード配列を含有するヌクレオチ
ド配列(DNAまたはRNA)を規定し、標的細胞においてトランスジーンを発
現させる。調節エレメントには、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネー
ター、ポリアデニル化部位などが挙げられる。トランスジーンとの用語は、野生
型のタンパク質および対立遺伝子改変体をコードする配列のみならず、他の生物
由来の相同なタンパク質配列およびその任意の突然変異体または短縮物(これら
は、基本的に、野生型のポリヌクレオチドまたはタンパク質配列と同一の機能を
示す)もまた含む。このようなベクターに含まれ得るトランスジーンの例には、
癌抑制遺伝子、サイクリン依存キナーゼインヒビター、細胞傷害性遺伝子、細胞
増殖抑制性遺伝子、プロアポトーシス遺伝子、プロドラッグ活性遺伝子、腫瘍特
異的抗原、またはアンチセンス配列が挙げられる。癌抑制遺伝子(TSG)との
用語は、標的細胞で発現されると、腫瘍性表現型を抑制し得る遺伝子のことをい
う。腫瘍特異的抗原の例には、MART1およびgp100(Zhaiら(19
97)J.immunotherapy 20:15−25)が挙げられる。癌
抑制遺伝子の例には、網膜芽細胞腫Rb遺伝子ならびにその変異体Rb110お
よびRb56、MMAC−1遺伝子、p53遺伝子、DCC遺伝子、NF−1遺
伝子、erbAおよびerbB遺伝子、p33、ならびにp73が挙げられる。
サイクリン依存キナーゼインヒビターとの用語は、p27kip、p57kip
2、p15ink4b、p18ink4c、p19ink4d,p16ink4
a、およびp21sdi−1遺伝子を含む。細胞傷害性遺伝子との用語は、単独
でまたは外因性の化学薬剤と組み合わせてのいずれかで、標的細胞内で毒性効果
を有するように設計される遺伝子(例えば、プロドラッグ活性遺伝子)のことい
う。このような細胞傷害性遺伝子の例には、リシン、ジフテリア、またはシュー
ドモナス外毒素の細胞傷害性ドメインをコードするDNA配列、ならびにアデノ
ウイルス遺伝子E311.6遺伝子、アデノウイルスE1aが挙げられる。プロ
ドラッグ活性遺伝子の例には、チミジンキナーゼおよびシトシンデアミナーゼ遺
伝子が挙げられる。プロアポトーシス遺伝子は、p53およびp53経路遺伝子
(例えば、bax、bid、カスパーゼ、シトクロムcなど)ならびにアデノウ
イルスE4orf4を含む。本発明の実施によって産生されるべきベクターに含
まれ得る他の治療的トランスジーンの例には、インターフェロン(α、β、γお
よびコンセンサス)、インターフェロンα2b E2F−Rb融合タンパク質、
インターロイキン(例えば、IL−2、IL−4、IL−10)、ドパミン、セ
ロトニン、GABA、ACTH、ならびにNGFが挙げられる。
【0018】
(マイクロキャリア(単数または複数))
ウイルスの産生において使用される大部分の動物細胞は、足場依存であり、最
適な増殖のために表面への付着を必要とする。1967年、Van Wezel
は、足場依存細胞の増殖のための小粒子(0.2mm)、つまりマイクロキャリ
アの使用を記載した。これらのマイクロキャリアは、穏やかに攪拌することによ
って、培養培地中に懸濁され、その結果、均質な環境が得られる。細胞は表面上
に配置されるので、これらの細胞は力学的圧力を受け、そして培養の間、表面か
ら細胞が剪断されるのを防止するために、注意が払われなければならない。足場
依存細胞が内部表面を利用する可能性を有するマクロポアビーズはまた、剪断応
力が培養する細胞を破壊させ得る可能性を軽減するために、使用され得る。しか
し、このようなマイクロキャリアは、ウイルス感染に利用可能な表面領域を制限
し、その結果、ウイルス感染パラメータは調整されるべきである。マイクロキャ
リアは、デキストラン、ポリアクリルアミドおよびポリスチレンを含む種々の合
成材料から作製された。これらの荷電マイクロキャリアへの細胞の付着は、イオ
ン引力によって媒介される。多くの細胞型は、細胞表面タンパク質であるフィブ
ロネクチンを有し、これは、ゼラチンコート化マイクロキャリアの使用を容易に
する、ゼラチンへの生物特異的結合を有する。ゼラチンの使用に対する利点は、
蛋白分解性酵素での分解に対するその感受性であり、この感受性のため、トリプ
シンによるゼラチンマトリックスの溶解によって、ほぼ100%の生存度を有し
て、マイクロキャリアからの細胞の放出が可能となる。
【0019】
本発明の好ましい実施において、このマイクロキャリアは、Cytodex(
登録商標)マクロキャリアであり、Pharmacia Biotech AB
,Uppsala,Swedenから市販される。Cytodex(登録商標)
マイクロキャリアは、架橋デキストランビーズに基づく。このビーズは、透明で
あり、球形であり、そして水和されており、そして正に荷電した基で置換されて
いる。マイクロキャリアは、約200μmの平均直径および1.03g/cm3
の密度を有する。Cytodex(登録商標)は、誘導体化されて、3タイプを
形成する;Cytodex(登録商標)3は、コラーゲンでコーティングされる
。本明細書中で例示される本発明の好ましい実施において、マイクロキャリアは
Cytodex(登録商標)1である。
【0020】
Cytopore(登録商標)マイクロキャリアは、架橋コットンセルロース
マトリックスに基づく。これらは、230μmの平均直径および1.03g/c
3の密度を有する親水性DEAE交換体である。このマイクロキャリアは、透
明であり、そして容易にチューブを通って輸送される。マクロポアCytopo
re(登録商標)は、スターラーあるいはエアレーションまたはスピンフィルタ
ーによって生じる剪断力から細胞を保護する。マトリックスは、マイクロキャリ
アの内部へ細胞が進入することを可能とする30μmの平均ポアサイズを有する
。マイクロキャリアの内部で、細胞は、スターラー、スピンフィルター、または
スパージング散布によって生成される気泡からの剪断力から保護される。Cyt
opore(登録商標)のミクロポア性(microporosity)は、細
胞の全ての側面への栄養供給を容易にする。
【0021】
(マイクロキャリア表面への細胞の付着)
マイクロキャリアへ付着されたプロデューサー細胞の培養物は、マイクロキャ
リアが血清含有培地中のプロデューサー細胞に接触してかつ増殖を可能にする条
件に供される場合に、産生される。細胞は、マクロキャリアの存在下で増殖し、
そして新しい娘細胞を産生する。細胞は、培養物の攪拌によって、露出したマイ
クロキャリア表面へ輸送される。上記のプロセスの完了の際、細胞は、100細
胞/マイクロキャリアより大きい高密度まで、濃縮される。マイクロキャリア上
の細胞のこの高い濃縮は、ウイルスの高レベルの産生を容易にする。
【0022】
高細胞密度を達成しそして娘細胞のマイクロキャリアへの付着を可能にするた
めに、種々の方法が利用され得る。条件は、マイクロキャリア表面から親細胞を
取り外すことなしに、娘細胞のマイクロキャリア表面への効率的な輸送を保証す
るように、設計されるべきである。プロデューサー細胞の低い初期の量が存在す
る場合、細胞は、コート化マイクロキャリアを低圧(約20psi)で開口部に
通すことによって、マイクロキャリアから微粉末化(microtritura
te)され得る。脱着された細胞は、次いで、より多くのマイクロキャリアに均
一に接種するために使用され得る。あるいは、多量の細胞を用いて、バイオリア
クターに直接接種され得る。あるいは、培地含有フラスコへマイクロキャリアを
導入し得る。マイクロキャリアはフラスコの底部へ沈降し、そして細胞がフラス
コに導入され、この細胞もまた、沈降してマイクロキャリア表面に付着する。軽
く攪拌することによって、付着プロセスが促進される。マイクロキャリア表面上
の細胞の濃度は、光学顕微鏡によって容易に測定され得る。
【0023】
細胞培養が拡大するにつれて、培養パラメータ(例えば、溶存酸素濃度、pH
、温度、および攪拌)をモニターしそして制御することが、必要である。pHは
、細胞増殖プロセス全体にわたってモニターされるべきであり、その結果、細胞
複製のための最適条件が保証される。細胞が増殖するにつれて、代謝産物が培地
へ放出される(培地pHを変化し得るプロセス)。従って、培地のpHは、綿密
にモニターされ、そして比較的一定なpHを維持するために塩基または酸を添加
することによって調節されるべきである。最適増殖を容易にする正確なpHは、
幾分、特定の細胞株で変化するが、一般的に、生理学的なpHの範囲内である。
293細胞について、細胞培養のpHが、約pH6〜約pH9の範囲内に維持さ
れることが好ましく、より好ましくは約pH7〜約pH8、より好ましくは約p
H7.2〜約7.5の範囲内、最も好ましくは約pH7.2である。
【0024】
温度は、モニターおよび制御されるべきである別の生理学的なパラメータであ
る。細胞培養の温度はまた、高い細胞密度を達成するために、細胞株の最適増殖
温度で安定化されるべきである。哺乳動物細胞は、増殖のための最適温度を有す
る。この最適温度より下で増殖する場合、細胞増殖は緩やかに起る。逆に、増殖
温度が高すぎる場合、細胞死が起り得る。本発明の好ましい実施(ここで、プロ
デューサー細胞株は、293細胞株である)において、温度は、約40℃より下
、より好ましくは約30℃〜約38℃の範囲内、最も好ましくは約37℃で維持
されるべきである。
【0025】
(接種工程)
本明細書中で記載される用語「接種」は、マイクロキャリア床容量へのプロデ
ューサー細胞の導入を記載する。以下の実施例1において調製されるコート化マ
イクロキャリアは、次いで、バイオリアクターへ導入される。バイオリアクター
に、1リットルのバイオリアクター容量当たり約6グラム(マイクロキャリアの
乾燥重量に基づく)のコート化マイクロキャリアの量が「接種」される。これは
、実質的に、所定容量のマイクロキャリアの接種について推奨される容量よりも
多い。当該分野の慣例は、コート化マイクロキャリアは、約5%未満の容器/培
地の容積を超える容積、すなわち1リットルの培地/容器の容量当たり約2グラ
ム未満(マイクロキャリアの乾燥重量に基づいて)のコート化マイクロキャリア
を占めるべきであるということである。本発明の実施においては、約10グラム
(マイクロキャリアの乾燥重量に基づいて)の沈殿コート化マイクロキャリアの
容量(これは、容器容量の約20%を含む)。マイクロキャリアのこの高い濃度
は、組換えウイルスの最終的な培養における高い細胞密度に寄与し、そしてウイ
ルス収率を増強する。本発明の実施における高収率を達成するために、コート化
マイクロキャリアの濃度は、1リットルの反応容量当たり約6〜25グラム(マ
イクロキャリアの乾燥重量に基づいて)、好ましくは6〜15グラム、そして最
も好ましくは1リットルの反応容量当たり約10グラム(マイクロキャリアの乾
燥重量に基づいて)であるべきである。
【0026】
(血清含有培地において細胞を高い細胞密度まで増殖させる工程)
細胞は、次いで、灌流条件下のバイオリアクターにおいて増殖される。灌流条
件下での哺乳動物細胞の培養は、当該分野において周知である。しかし、最大の
細胞増殖を達成するために特定のパラメータが最適化されるべきであることが、
留意されるべきである。例えば、培養物全体の酸素含有量をモニターすることが
必要である。酸素はあまり水に可溶でないので(8.4mg/L、25℃)、酸
素が、滅菌された空気または純粋な酸素の形態のいずれかで、増殖培養物へ、持
続的に供給されなければならない。溶存酸素濃度は、約5%〜約200%、好ま
しくは50%〜約120%、最も好ましくは約100%の範囲内に維持されるべ
きである。溶存酸素濃度は、100%溶存酸素が、空気と平衡状態での培地中に
溶存される酸素濃度を表す場合の点として定義される。酸素濃度は、例えば以下
の従来の手段によって測定され得る:溶存酸素モニタリングプローブ(Inst
ech Laboratories,Inc.5209 Militia Hi
ll Road,Plymouth Meeting PA 19462−12
216またはLazar Research Laboratories,Lo
s Angeles CAから市販される)。
【0027】
バイオリアクター培養物の適切な攪拌は、栄養分の適切な供給を保証するため
、およびバイオリアクター内の毒性代謝物の蓄積を防止するために、必須である
。培地の攪拌はまた、酸素の移動速度に影響を与える。過剰な攪拌は、哺乳動物
細胞への機械的損傷を起こし得る。泡形成は避けられるべきであり、なぜならば
、泡形成プロセスに関連するバブリングは、マイクロキャリア表面からの細胞の
排除または細胞の溶解を生じるに十分な剪断力を培養物内に生じさせ得るからで
ある。従って、良好な混合を提供する必要性と細胞損傷を防止する必要性との間
のバランスを維持しなければならない。5リットルのCelliGen Plu
sバイオリアクターを使用する、本明細書で例示される本発明の好ましい実施に
おいて、約70rpmの攪拌が維持される。泡形成を最小化するために、培地は
、細胞から隔離され、そしてバイオリアクターへのスパージングに付着した使用
によって、細胞への再導入前に酸素添加される。
【0028】
(II.パッケージング細胞株内におけるウイルス粒子の産生)
本発明の方法は、さらに、プロデューサー細胞の集団を産生する方法を提供し
、このプロデューサー細胞の集団は、無血清培地中のマイクロキャリアベースの
バイオリアクター内に高力価のウイルス粒子を含有し、この方法は、上述のプロ
セスを包含し、そして以下の工程をさらに包含する:
d)血清含有培地を取り出す工程;
e)プロデューサー細胞をG1期に同調させる工程;
f)プロデューサー細胞にウイルスを感染させる工程;
g)最大値が達成されるまで、ウイルス複製を可能にする条件下で細胞を培養
する工程。
【0029】
無血清培地の導入のためのバイオリアクターを調製するために、まず、バイオ
リアクター内の攪拌を中断させる。マイクロキャリアビーズを、次いで、懸濁液
から沈降させ、リアクター容量の底部に沈降させ、血清含有培地を流すことが可
能となる。ビーズを、次いで、無血清培地で洗浄し、血清含有培地の割合を最小
化する。マイクロキャリア懸濁液を無血清培地を用いてその元の容量まで回復さ
せ、そして十分な攪拌によって徹底的にマイクロキャリアの懸濁を達成すること
によって、洗浄は完了する。この培地は、次いで、上記のように流される。この
洗浄工程は、血清含有培地の最大の除去を達成するために、繰り返され得る。
【0030】
感染の間、細胞培養を支持するに十分な量の無血清培地が、細胞に添加される
。無血清培地は、動物由来の血清を実質的に含まない、動物細胞培養の増殖培地
として定義される。無血清培地は、当該分野に周知である(例えば、Fresh
ney,R.I.、Culture of Mammalian Cells,
1983,76〜77頁 Alan R.Liss Company,New
Yorkを参照のこと)。単純な無血清培地は、細胞増殖を可能にするに十分な
さらなる因子を用いて補充され得る。あるいは、哺乳動物細胞の増殖を支持する
のに十分な完全な無血清培地は、種々の業者から市販される。好ましい無血清培
地の例には、JRH Ex−Cell 525無血清培地(カタログ番号611
29−79P)、CellGro Serum−free Media(Gib
co−BRL Life Science,Gaitherburg Mary
land,USAから市販)、HyCloneから市販されるHyClone無
血清培地(#A−1111−L)が挙げられる。
【0031】
(培地添加剤)
無血清培地には、1以上のホルモン(例えば、インスリン、トランスフェリン
、上皮増殖因子、ヒドロコルチゾンなど)が頻繁に補充される。無血清培地はま
た、細胞の増殖を容易にするためにさらなる薬剤で増強され得、そして産生され
るべきウイルスに使用される細胞株に依存し得る。例えば、培地は、TGF−β
で、または細胞中の内因性トランスフォーミング増殖因子(TGF)−βを上方
制御する薬剤で増強され得る。あるいは、ウイルス結合レセプター(例えば、α
vβ3インテグリンおよびαvβ5インテグリン)を上方制御または安定化する
薬剤は、感染効率を改善するために、培養物に添加され得る。本明細書中で例示
される本発明の最も好ましい実施において、無血清培地は、1% CMF−1(
Applied Nutrient Sciences、Sorrento V
alley、CA)を含む、Biowhittaker番号12−604−F
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。
【0032】
(有害なトランスジーンの抑制)
組換えウイルスが、トランスジーンの発現のために非常に強力なプロモーター
(例えば、CMV)を使用する事象において、組換えタンパク質産生は、最適な
ウイルス複製に必要とされる資源と競合し始める。結果的に、トランスジーンプ
ロモーターを下方制御または阻害するエレメントを、無血清培地に添加すること
は有利であり得る。例えば、トランスジーンプロモーターがサイトメガロウイル
ス初期プロモーター(CMV)である場合、エレメント(例えば、ノイラミダー
ゼまたはツニカマイシン)は、この培養の間、CMVプロモーターを抑制するた
めに添加され得る。
【0033】
第2に、特定の治療用トランスジーンが、プロデューサー細胞に対して負の効
果を有し得ることが公知である。例えば、癌抑制遺伝子(例えば、p53)は、
充分な細胞用量を用いて、正常な細胞において、アポトーシスを誘導することが
公知である。結果的に、このようなトランスジーンを発現するウイルスは、高密
度において培養することが特に困難である。例えば、図2および3に示される本
発明の実施からの収率の比較は、p53癌抑制遺伝子の発現の結果として、有意
により低いウイルスの収率を実証する。本発明は、トランスジーンを駆動するプ
ロモーターを阻害するに充分な濃度における、培養培地への薬剤の添加によって
、プロデューサー細胞に有毒なトランスジーンの負の効果を最少化する方法を提
供する。添加されるべき薬剤は、トランスジーンの発現を駆動するために使用さ
れるプロモーターに依存するが、ウイルス複製に必須なウイルス遺伝子の発現を
実質的に妨害しないはずである。例えば、サイトメガロウイルス主要前初期(m
ajor immediate early)プロモーターは、トランスジーン
の発現を構成的に駆動するために一般に使用されるプロモーターである。このプ
ロモーターは、転写因子NF−κBに対する結合部位を含み、そしてその活性の
ために、NF−κBの活性形態を必要とする。例えば、Bellasら(199
5)J.Clinical Investigations 96:2521〜
27およびLoserら(1998)J.Virology 72:180〜1
90を参照のこと。NF−κB活性化を阻害する化合物(例えば、N−アセチル
−L−システインまたはペントキシフィリン)の存在下において、CMVプロモ
ーターの活性は、バックグランドレベルに抑制され得る(Bellasら、前出
)。従って、CMVプロモーターによって駆動される細胞傷害性/細胞増殖抑制
性トランスジーンをコードする組換えウイルスの産生期の間、培養物へのこのよ
うな薬剤の添加によるCMVプロモーターの一過性の抑制は、このようなウイル
スの収率を改善する。有効濃度のN−アセチル−L−システインおよびペントキ
シフィリン(pentoxitylline)は、それぞれ、およそ10〜30
mMおよび0.5〜3.0mMである。同様に、NF−κB活性のインヒビター
は、HIV−1−LTRがトランスジーンの発現を駆動するために使用される状
況において、トランスジーンの発現を防ぐために有用である(Mhashilk
arら、J.Virology 71:6486〜6494)。他のプロモータ
ーの作用を抑制し得る薬剤の例およびそれらの有効濃度範囲は、当該分野におい
て公知であり、そして本発明の実施中に置き換えられ得る。
【0034】
細胞傷害性/細胞増殖抑制性トランスジーンが、特定の細胞型においてのみ(
または主に)活性であるプロモーターの制御下にある場合において、細胞(また
は組織)特異的プロモーターが不活性であるプロデューサー細胞株を用いること
が好ましい。例えば、このプロモーターが肝臓細胞においてのみ活性である場合
(例えば、αフェトプロテインプロモーター(Huberら、PNAS 88:
8039〜8043)を参照のこと)、このプロデューサー細胞株は、好ましく
は肝細胞株由来ではない。さらに、上記のような誘導性プロモーターの場合にお
いて、培養条件(化学的な組成、温度など)は、誘導性プロモーターからのトラ
ンスジーンの発現を妨げるように維持されることが好ましい。
【0035】
トランスジーンの効果を抑制する前述の手順は、細胞のマイクロキャリアベー
スの培養、懸濁培養、攪拌培養、およびいわゆる「ローラーボトル」培養を含む
がこれらに限定されない、真核生物細胞培養の任意の手順に適用され得ることが
当業者に容易に明らかである。
【0036】
(同調化)
最大の収率を達成するために、組換えウイルスを用いる感染の前に、細胞をG
1期に同調させることが好ましい。細胞をG1期に保持することによって、これ
らの細胞は、S期(ここで、核酸合成が、主として起こる)に進行するように最
適に調製される。これらの細胞を同調化することによって、最高の細胞内ウイル
ス産生を達成する。同調化をしない場合、細胞周期に進行したプロデューサー細
胞の亜集団は、最適な回収点の前に、ウイルス性細胞溶解を経験する。バイオリ
アクターの上清中に噴出されたこれらのビリオンは、細胞の回収の際に失われる
。同様に、G1期に遅れている細胞は、回収時に最適なウイルス力価に達しない

【0037】
あるいは、プロデューサー細胞を同調させることによるウイルス産生の改善に
ついての別の機構は、ウイルスまたは感染後にキャプシドに包まれていないウイ
ルスDNAの安定性である。例えば、レトロウイルスは、感染後に4〜6時間の
半減期を有すること、およびより高い感染率は、細胞を同調させた場合に観察可
能であることが示されている。Andreadisら(1997)J.Viro
l.71:7541〜8;Andreadisら(1998)Biotechn
ology and Bioengineering 58:272〜281;
Andreadisら(1996)J.Theor.Biol.182:1〜2
0。
【0038】
種々の手段が、細胞をG1期に同調させるために使用され得る。無血清培地中
でプロデューサー細胞を維持することは、細胞をG0/G1期に同調させる。最
適には、この細胞を十分に同調させるために、細胞周期のおよそ1/3(およそ
6〜8時間)にわたって、無血清培地中で細胞を維持する。あるいは、この細胞
を同調させる薬剤が、添加され得る。このような薬剤の例としては、G1/S境
界で細胞周期の停止を生じるTGF−βが挙げられる。同様に、ホスファチジル
イノシトール3−キナーゼのインヒビター(例えば、ウォルトマンニンおよびL
Y294002(Eli Lilly and Company))は、G1期
において細胞をブロックする。Bacquevilleら(1998)Bioc
hem.Biophys.Res.Comm.244:630〜636。さらに
、プロテアソームインヒビター(例えば、ラクタシスチンおよび/またはN−カ
ルボベンゾキシ−L−ロイシル−L−ロイシル−L−ノルバリナルは、細胞周期
のG1期およびG2期において細胞周期の停止を誘導することが実証されている
。Mutombaら(1997)Mol.Biochem.Parisitol
.90:491〜504。細胞を同調させるために添加され得る他の化合物の例
としては、ミモシン(mimosine)およびアフィジコリン(Oncoge
ne(1997)15(22)2749〜2753)、ケルセチン(Shenお
よびWebber(1997)Oncol.Res.9:597〜602)、エ
ピルビシン(Hedenfalkら(1997)Cytometry 29(4
):321〜327)およびロバスタチン(Molecular and Ce
llular Biology(1985)6(9):1197〜1213)が
挙げられる。
【0039】
細胞を同調させることにより収率を増大させる前述の手順は、細胞のマイクロ
キャリアベースの培養、懸濁培養、攪拌培養、およびいわゆる「ローラーボトル
」培養を含むがこれらに限定されない、真核生物細胞培養についての任意の手順
に適用され得ることが当業者に容易に明らかである。
【0040】
(ウイルスを用いるプロデューサー細胞株の感染)
多重コピーの所望のウイルスにより感染されている細胞において、ウイルスの
複製およびビリオンのパッケージングに必要とされる活性は、共同的である。従
って、条件は、プロデューサー細胞がウイルスを用いて多重感染される有意な可
能性が存在するように調整されることが好ましい。プロデューサー細胞における
ウイルスの産生を増強する条件の例は、感染期におけるウイルス濃度の増大であ
る。しかし、プロデューサー細胞当たりのウイルス感染の総数は、過度であり得
、この細胞に毒性効果を生じ得る可能性がある。結果として、1ml当たり10
6〜1010の範囲(好ましくは約109)ビリオンのウイルス濃度において、感染
を維持するように努めるべきである。
【0041】
化学試薬はまた、プロデューサー細胞株の感染性を増大させるように用いられ
得る。例えば、本発明は、カルパインインヒビターを含めることによって、ウイ
ルスの感染性について、プロデューサー細胞株の感染性を増大させるための方法
を提供する。本発明の実施において有用なカルパインインヒビターの例としては
、カルパインインヒビター1(Boehringer Mannheimから市
販されている、N−アセチル−ロイシル−ロイシル−ノルロイシナルとしてもま
た公知である)が挙げられる。カルパインインヒビター1は、組換えアデノウイ
ルスに対するプロデューサー細胞株の感染性を増大させることが観察された。
【0042】
(III.培養、回収、溶解および精製)
ウイルスの複製が進行している期の間に、バイオリアクターに、無血清補充培
地を連続して補給した。酸素濃度を、約50%〜約120%の溶存酸素、好まし
くは約100%の溶存酸素のレベルで維持するべきである。ウイルス粒子の細胞
内濃度を最大化するために、細胞内のウイルス粒子の蓄積をモニターすべきであ
る。好ましい方法において、このウイルス濃度を、本明細書中の実施例7に記載
されるように、Resource Q(登録商標)カラムを使用して、HPLC
により決定する。ウイルス粒子のレベルがプラトーになり始めた場合、このバイ
オリアクターを停止し、そして細胞を回収する。
【0043】
本発明は、上記の工程(a)〜(g)を包含し、そして以下:
h)細胞を回収する工程:
i)プロデューサー細胞を溶解する工程;
j)ウイルス粒子を単離する工程;
k)インタクトなウイルス粒子を精製する工程、
をさらに包含する、インタクトなウイルス粒子を産生する方法をさらに提供する

ウイルス粒子の濃度が上記で決定されたように最適化される場合、バイオリアク
ターの全内容物を取り出し、そして緩衝化しておよそpH7.0〜約8.5のp
Hを維持する。この時、この細胞を−70℃で貯蔵のために凍結し得る。
【0044】
(溶解および精製)
プロデューサー細胞からのウイルス粒子を単離することが所望される場合、こ
の細胞を、当該分野で周知である種々の手段を使用して溶解する。例えば、哺乳
動物細胞を、低圧(100〜200psiの異なる圧力)条件下で、または従来
の凍結融解方法で溶解し得る。外因性の遊離のDNA/RNAを、DNAse/
RNAseでの分解により取り除く。次いで、ウイルス粒子を、当該分野で公知
の手段により精製する。クロマトグラフィー法または示差的密度勾配遠心分離法
を用い得る。本発明の好ましい実施において、このウイルスは、同時係属中の米
国特許出願番号第08/400,793号(1995年3月7日に出願)に記載
されるように、Huygheら(1995)Human Gene Thera
py 6:1403〜1416のプロセスに実質的に従って、カラムクロマトグ
ラフィーにより精製される。
【実施例】
【0045】
本発明が関する当業者に明らかであるように、本発明は、以下に特に開示され
る形式以外の形式で具体化され得る。従って、以下の実施例において記載される
本発明の特定の実施態様は、例示的としてみなされるべきであり、そして本発明
の範囲を制限しない。
【0046】
(実施例1:マイクロキャリアの調製)
Cytodex 1マイクロキャリアビーズを、PBS中で膨張させ、そして
水和させることによって調製した。この手順についてのPBSを、Milli−
Q水(pH=7.5)における10×リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)の1:
10希釈により調製した。10gのCytodex 1マイクロキャリアビーズ
を、きれいな500mlボトルに加える。およそ300〜400mlのPBSを
、このボトルに加え、そしてその内容物を、このマイクロキャリアを完全に水和
させ、そして懸濁するまで攪拌した(およそ3分)。このマイクロキャリアを、
およそ10分間静置した。PBSを、吸引により除去した。この洗浄手順を2回
繰り返した。
【0047】
このマイクロキャリアを、300mlのPBSの最終容量中に再懸濁した。こ
のマイクロキャリアを、オートクレーブ内で250#Fで30分間滅菌した。滅
菌マイクロキャリアを含むボトルを、層流フード(laminar flow
hood)に移した。PBSを、吸引により除去し、そしてこのビーズを、滅菌
PBSを用いて上記のように1回洗浄した。次いで、このマイクロキャリアを、
10%胎仔ウシ血清(FBS)を含む滅菌DMEM中で1回洗浄した。このマイ
クロキャリアを、10%FBSを含む滅菌DMEMを用いて、300mlの最終
容量に再懸濁した。
【0048】
(実施例2.293GT細胞の調製)
10%FBSを含む10mlの滅菌DMEMを、15mlのコニカルチューブ
中に置いた。およそ5×106細胞を含む293GT細胞のバイアルを、液体窒
素下の貯蔵物から得、そして水浴中37℃で解凍した。このバイアルの外側を7
0%イソプロパノール中で洗浄し、そして層流フード内で開口した。バイアルの
内容物を、培地を含むチューブに移した。次いで、このチューブを、Beckm
an TJ6遠心分離機中でおよそ5分間1,000RPMで遠心分離した。次
いで、この上清を、吸引により除去し、そしてこのペレットを、10mlの培地
中に再懸濁した。次いで、この懸濁液を、T−225フラスコに移し、そしてお
よそ50時間37℃でインキュベートした。この細胞を、光学顕微鏡により決定
されるように、およそ50〜90%コンフルエンスになるまで増殖させた。
【0049】
十分なコンフルエンシーに達した際に、この培地をフラスコから除去し、そし
て10〜30mlのPBSを、このフラスコの一番上に沿って穏やかにピペッテ
ィングした。次いで、このフラスコを、倒置して、細胞をPBSでコートした。
このPBSを、フラスコから取り除き、そして10mlの0.05%トリプシン
溶液(GibcoBRLからカタログ番号25300−054として市販されて
いる、0.05%トリプシン、0.53mM EDTA)を添加した。このフラ
スコを、トリプシン溶液が単層を覆うことを保証するように穏やかに振動させた
。およそ45秒後、それぞれのフラスコを、細胞がこのフラスコから完全に剥が
れるまで鋭く叩いた。すぐに、20mlの完全培地を、各フラスコに添加した。
このフラスコ内容物を、遠心分離(Beckman TJ6遠心分離において1
,000RPMでおよそ5分間)を介してプールした。この上清を、遠心チュー
ブからデカントし、粉砕し、そしてこの細胞を、完全培地を使用してプールした
。細胞計数を、Reichert Bright−Line Hemacyto
meter(Buffalo、NY)の使用によって決定した。
【0050】
この培養物を、4個のT−225フラスコに分割した(1個のフラスコ当たり
およそ5×106細胞)。10mlの懸濁液を、接種された各フラスコ中にピペ
ットした。完全培地を、50mlの容量までそれぞれのフラスコに添加した。こ
の細胞を、加湿した7%二酸化炭素雰囲気下において37℃でインキュベートし
た。次いで、この細胞を、上記の手順を使用して、20個のT−225フラスコ
になるまで増殖させた。このプロセスを、マイクロキャリアに接種するために十
分な量の細胞(およそ6.5×108の細胞)が調製されるまで、繰り返した。
【0051】
(実施例3.マイクロキャリアの接種)
上記実施例2の教示に実質的に従って調製されたおよそ6.5×108のヒト
293細胞を、5リットルのBiowhittaker番号12−604−Fダ
ルベッコ改変イーグル培地(DMEM)血清含有培地(Biowhittake
r,Inc.、Walkersville MDから市販されている)および上
記実施例1の教示に実質的に従って調製した50グラムのマイクロキャリアを懸
濁した。上記の混合物を、およそ2分間の間回転させることによく攪拌した。次
いで、混合物全体を、Cell−Liftインペラー(New Brunswi
ck Scientific Company,Inc.、44 Talmad
ge Road,Edison,New Jersey,USA 08818〜
4005から入手される)を取り付けた、CelliGen Plus(登録商
標)5リットルのバイオリアクターの滅菌したきれいな培養容器中に吸い上げた

【0052】
次いで、この細胞を、およそ100%の溶存酸素濃度を維持しながら、温度3
7℃で培養した。溶存酸素濃度を、モニターし、そして制御機に連結した溶存酸
素のプローブ(CelliGen Plus バイオリアクターの一部)の使用
によって維持し、その結果、溶存酸素レベルを、適切なように、空気、CO2
2またはN2を噴霧することによって、およそ100%で維持した。この培養物
を、大気圧下でかつおよそ7.2のpHで維持した。この容器を、バイオリアク
ター容器の容量に依存する速度で攪拌し、そしてこの攪拌は、およそ15〜20
0rpmの範囲であり得た。本明細書において使用された5リットルのバイオリ
アクターについて、攪拌速度を、およそ70rpmで維持した。細胞を、この細
胞密度が所望のレベル(1ml当たり8〜10×106の細胞またはマイクロキ
ャリア当たりおよそ230の細胞)に達するまで培養した。細胞の濃度と比例す
る酸素消費の速度によってもまた、細胞密度を決定し得る。およそ3日のインキ
ュベーションの後に、この反応容器に、1×106細胞当たり1日当たりおよそ
0.5リットルの速度で培地を連続して供給した。使用済み培地を、カラムのデ
カントを介して除去する。この細胞を、およそ14日の期間にわたって培養させ
た。
【0053】
1ml当たりの細胞数を決定するために、攪拌を、100rpmに増大させ、
そして5mlのサンプルを、滅菌シリンジを使用して迅速に抜き取った。次いで
、このシリンジの内容物を、15mlのコニカルチューブに移した。このマイク
ロキャリアが沈澱した場合、この上清を、吸引により除去し、そして同一容量の
0.25%トリプシン溶液(GibcoBRLからカタログ番号25200−0
56として市販されている、0.25%トリプシン、1mM EDTA)で置換
した。このチューブに栓をして、そして37℃の水浴にておよそ5分間(または
細胞がマイクロキャリア上に密生した外観を達成するまで)インキュベートした
。次いで、このチューブを、20秒間ボルテックスして、そしてこのマイクロキ
ャリアが沈澱し始めたらすぐに(およそ1分間)、サンプルを、血球計算板によ
って計数するために、上記のマイクロキャリア層から抜き取った。
【0054】
(実施例4.培地交換)
一旦細胞が所望の密度を達成すると、温度制御機、攪拌機、および灌流を停止
し、そしてマイクロキャリアを沈澱させる。一旦このマイクロキャリアが沈澱し
たら、この培地を、吸い上げることによって除去した。リアクターを、5リット
ルのDMEM(血清または添加剤なし、Biowhittaker)を用いて充
填した。攪拌を、およそ3分間(およそ150rpm)でマイクロキャリア/細
胞塊を破壊するに充分に行った。この攪拌を停止し、そしてコートされたマイク
ロキャリアを沈澱させた。このプロセスを2回繰り返した。次いで、このリアク
ターを、1% CMF−1(Applied Nutrient Scienc
es、Sorrento Valley CA)を含む5リットルのDMEMを
用いて充填した。攪拌を、細胞塊を破壊するために回復し、次いで、70RPM
にセットし、コートしたマイクロキャリアの懸濁を維持した。温度制御機を付け
て、37℃の温度を維持した。
【0055】
(実施例5.組換えアデノウイルス(ACN53)を用いる293パッケージ
ング細胞株の感染)
組換えアデノウイルス(Willsら(1994)Human Gene T
herapy中に記載されるACN53)5×1012の粒子を、上記の実施例4
において調製された培養容器に加えた。灌流を、上記の実施例3中のように回復
させた。およそ20時間のインキュベーション後、この反応容器を、ウイルス濃
度についてのサンプルとした。これは100rpmまで攪拌を増大させること、
および滅菌シリンジを使用して5mlのサンプルを迅速に抜き取ることによって
達成された。次いで、このシリンジ内容物を、15mlのコニカルチューブに移
した。0.5mlのHSM緩衝液(50mM Hepes、3%スクロース、2
mM MgCl2、150mM NaCl、および5% βシクロデキストリン
、pH7.5)を添加した。次いで、このチューブを、液体窒素中で凍結し、そ
して10℃の水浴中ですぐに融解した。この凍結/融解プロセスを2回繰り返し
た。このチューブを、Beckman TJ6 遠心分離においておよそ5分間
3,000RPMで遠心分離した。上清のサンプルを、抜き取り、そしてSha
bramら(1996〜7)Human Gene Therapyに記載され
るように、Resource Q(登録商標)アッセイにより決定した。このプ
ロセスを、ウイルス濃度が低下し始める(すなわち、最適なウイルス濃度が達成
されている)ことが決定されるまで、定期的に繰り返した(およそ2時間毎)。
この結果を、以下の表1に提示されるデータにおいて提示し、このデータの図示
的な概略を、添付した図面の図2に提供する。
【0056】
【表1】

ACN53について、上記に示したデータから理解され得るように、最適なウイ
ルス濃度は、感染後およそ50時間で達成されるが、これは、個々の構築物によ
って変動する。この容器の内容物を、フリーザー安全コンテナに取り出し、10
〜20%のHSM緩衝液と混合し、そして凍結した。
【0057】
(実施例6.感染細胞の収集および溶解)
細胞を含む内容物全体を、凍結/融解手順を繰り返すことによって溶解した。
この内容物を、−80℃のフリーザーにおいて凍結し、そして室温にて水浴中で
溶解した。このウイルスを、Huygheら(1995)Human Gene
Therapy 6:1403〜1416のプロセスに実質的に従って、精製
した。
【0058】
(実施例7.ACN−Rb110の産生)
実施例1〜5に記載されるプロセスを、p110網膜芽細胞腫タンパク質を発
現する組換えアデノウイルス(ACNRb110)が293細胞に感染させるた
めに使用されることを除いて、繰り返した。ACNRB110アデノウイルスの
構築は、Smithら(1997)Circulation 96:1899〜
1905中に記載される。感染時の細胞密度は、1.0×107細胞/mlであ
った。感染培養物の結果を、添付した図面の図3に提示する。本実施例において
、細胞当たりおよそ39,000のウイルス粒子のウイルス力価が達成された。
【0059】
(実施例8.N−アセチル−L−システインを使用する、ウイルスACN−p
53ウイルス力価の改善)
293プロデューサー細胞の培養物を、上記の実施例1〜4の教示に実質的に
従って調製する。細胞を、実施例5に記載されるように、ACN53アデノウイ
ルスを用いて感染させる。しかし、実施例5の手順を、CMVプロモーターを阻
害するために、培養培地においておよそ10〜30mMの最終濃度まで、N−ア
セチル−L−システインを添加することによって改変する。この細胞を、実施例
5および6の教示に実質的に従って培養および回収する。ウイルス粒子の細胞内
濃度の改善は、p53トランスジーンの発現の阻害から生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の、プロデューサー細胞中でのウイルスの産生のた
めに、マイクロキャリアベースのバイオリアクタープロセスにおいて、5×106
プロデューサー細胞/mlよりも高い細胞密度を達成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−297044(P2009−297044A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230036(P2009−230036)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【分割の表示】特願2000−547250(P2000−547250)の分割
【原出願日】平成11年5月4日(1999.5.4)
【出願人】(399025284)カンジ,インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】