説明

ウインチの油圧回路

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、クレーン作業、あるいはアースドリルや連壁工事等ロープ先端の掘削装置を極低速度で降下させる基礎機械等に用いられるウインチの油圧回路に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、場所打ち杭や連続壁の作業を行う基礎機械にあっては、カッタ等の掘削装置としての吊荷を通常の速度で昇降させる通常速度制御用の油圧回路を備える他、ロープ先端にカッタを吊り下げて掘削を行う場合にロープ速度が速すぎてカッタに過大な負荷がかかり、カッタが破損するのを防止するため、ロープ速度の必要以上の増大化を回避し、吊荷の極低速度での制御を可能にする極低速制御用の油圧回路を備えることが一般化されている。この種の基礎機械に用いられるウインチの油圧回路を図5により説明する。
【0003】図5は従来のウインチの油圧回路を示す回路図である。この図において、符号1は油圧ポンプ、2は油圧ポンプ1により回転する油圧モータである。3は油圧ポンプ1からの圧油の流量及び方向を切換えて油圧モータ2の回転を制御する方向切換弁である。即ち方向切換弁3は図示A側の位置にある時には圧油を管路4を経て油圧モータ2に供給し油圧モータ2を時計方向(吊荷の降下方向)に回転させ、図示B側の位置にある時には圧油を逆止弁5及び管路6を経て油圧モータ2に供給し油圧モータ2を反時計方向(吊荷の吊り上げ方向)に回転させる。7は管路6に介在する弁であり、パイロットライン7aに導かれた管路4内の圧力がばね力よりも高い時に開く。逆止弁5及び弁7によりカウンタバランス弁が構成される。8はメイクアップ弁であり、油圧モータ2を時計方向に回転させる際に油圧モータ2からの油の洩れ等で管路4に油が不足するのを避ける。9は油圧モータ2に連結された減速機、10は減速機9の回転を断、接するクラッチ、11はクラッチ10の接続時に回転するドラムである。12はドラム11に巻回されたロープ、13はロープ12の先端に連結された吊荷である。尚、油圧ポンプ1、油圧モータ2、方向切換弁3、管路4、逆止弁5、管路6、弁7、パイロットライン7a、減速機9、及びクラッチ10等により吊荷13の通常速度制御用の油圧回路が構成される。
【0004】15は油圧ポンプ、16は前述した方向切換弁3、管路4、逆止弁5、管路6、弁7と同様の部材を含む回路、17は油圧モータ2よりも容量の小さい油圧モータ、18は油圧モータ17に連結され減速機9よりも大きな減速比をもつ減速機、19は減速機18と前記ドラム11とを断、接するクラッチである。これら油圧ポンプ15、回路16、油圧モータ17、減速機18、及びクラッチ19等により吊荷13の極低速制御用の油圧回路が構成される。
【0005】吊荷13を比較的速い速度(通常の速度)で降下させる時にはクラッチ19を遮断した状態でクラッチ10を接続すると共に方向切換弁3を図示A側に切換える。これにより通常速度制御用の油圧回路が作動され油圧ポンプ1からの圧油は管路4を経て油圧モータ2に供給される。この後管路4内の圧力、即ちパイロットライン8内の圧力が方向切換弁3の操作量に応じて所定の圧力に達すると、弁7がばね力に抗して当該圧力に応じて開き、管路6内の圧油がタンク14に排出される。この時油圧モータ2は所定の速度で時計方向に回転し始め、この回転は減速機9に伝達される。減速機9は油圧モータ2の回転を所定の比率で減速し、減速した回転をクラッチ10を経てドラム11に伝達する。この結果ドラム11は回転してロープ12を送り出し、ロープ12の先端の吊荷13は所定の速度で降下する。
【0006】吊荷13がカッタである場合、堅い岩盤に遭遇した等の理由によりカッタが破損する恐れがあり、これを避けるため、吊荷13を極低速で降下させる必要が生じる。この場合にはクラッチ10を遮断してクラッチ19を接続すると共に回路16を所定の通り操作する。これにより通常速度制御用の油圧回路の作動は停止されると共に極低速制御用の油圧回路が作動されドラム11には油圧モータ15からの圧油による油圧モータ17の回転が減速比の大きい減速機18及びクラッチ19を経て伝達される。この結果ドラム11は極低速で回転してロープ12を極低速で送り出し、ロープ12の先端の吊荷13は極低速度で降下する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記従来のウインチの油圧回路においては、ロープ12の送り出し速度即ち吊荷13の降下速度を極低速で制御する必要が生じた時を考慮して極低速制御用の油圧回路、減速機、クラッチ等を増設しなければならず、部品点数が多くなり油圧回路自体が大型化されてしまうばかりでなく、コスト的にも高価になってしまうという問題があった。また、上記構成では吊荷13の極低速域での連続的な速度変化を持たせることに難点があり、吊荷13の速度変動に対する速度制御も困難であるという問題があった。
【0008】本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、極低速制御用の機械構造や油圧回路を増設することなく、吊荷の極低速度での速度制御を行うことができるウインチの油圧回路を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、油圧ポンプと、この油圧ポンプにより駆動される油圧モータと、この油圧モータに連結されると共にロープが巻回されたドラムと、前記油圧モータの前記ロープ解除時の戻り側管路に介在するカウンタバランス弁とを備えたウインチの油圧回路において、前記戻り側管路に前記ロープ速度を所定値とするため回路の油の漏れ量を考慮して油を供給する油供給手段を設けたことを特徴とする。また、上記構成に加え、前記戻り側管路に当該戻り側管路の油を所要時に所要量排出する油排出手段を設けたことをも特徴とする。
【0010】
【作用】ロープ先端の吊荷の自重あるいは推力により油圧モータに負荷が加わって回路に油洩れが生じると、油圧モータは極低速度で回転する。この状態でもロープの送り出し速度が速い場合には油供給手段の作動により油圧モータの戻り側管路に回路の油の洩れ量を考慮した油を供給する。これにより油圧モータ及びドラムの回転速度が低下し、ロープの送り出し速度が吊荷の作業に最適な極低速度になる。この後ロープの送り出し速度を僅かに上昇させる場合には油供給手段の作動を止め、回路の油洩れを容認する。これにより戻り側管路の流量が僅かに上昇して油圧モータは僅かに回転速度を上げる。この結果ドラムの回転速度及びロープの送り出し速度が僅かに上昇する。
【0011】また、油排出手段を備える場合、前記戻り側管路の油を当該油排出手段で行い、油供給手段と油排出手段を制御することによりロープの送り出し速度を極低速において制御する。
【0012】
【実施例】以下、本発明を図示の実施例に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施例に係るウインチの油圧回路を示す回路図である。同図から明らかなように本実施例のウインチの油圧回路では従来用いていた極低速制御用の構造を用いず、かつ減速機9とドラム11とを直接的に連結している。また、同図において図5に示した部分と同一部分には同一符号を付してあり、詳しい説明を省略することにする。符号21は電磁弁であり、管路22を経て油圧モータ2の戻り側管路6に外部からの圧油を供給する。本実施例では方向切換弁3の上流側のメイン回路に供給される油圧ポンプ1からの圧油を利用する。この電磁弁21には小流量を流すだけの容量でかつ応答速度の早いものが用いられる。23は逆止弁であり、戻り側管路6から電磁弁21へ圧油が逆流するのを防止する。24は圧力検出器であり、戻り側管路6内の圧力を検出し検出信号を出力する。25は速度検出器であり、ロープ12の送り出し速度及び引き戻し速度を検出し検出信号を出力する。26はコントローラであり、圧力検出器24からの検出信号、または速度検出器25からの検出信号、もしくは双方の検出器24,25からの検出信号に基づいて電磁弁21の開閉時間を制御する。
【0013】図2は本実施例の電磁弁21の制御方法を説明する図であり、横軸には戻り側管路6の圧力を、縦軸にはロープ12の送り出し速度を取ってある。同図に示すようにこの場合の制御方法としては、回路圧力、即ち吊荷13の自重からロープ張力を引いた値に近い値(吊荷13がカッタの場合、カッタの推力)とロープ速度(吊荷13がカッタの場合、カッタの掘削速度)の両方の制御範囲を設定し、実際の吊荷13の運転時における戻り側管路6の圧力とロープ速度とを当該制御範囲内に収めるように電磁弁21の開閉時間を制御する制御方法である。
【0014】この制御方法の場合には、まず吊荷13を比較的速い速度で降下させる時には方向切換弁3を所定量図示A側の位置に操作すれば良い。これにより管路4内の圧力上昇と共に弁7が従来通り所定量開いて油圧モータ2は所定の速度で回転し、ドラム11の回転を経て吊荷13は所定のロープ速度で降下する。一方、吊荷13を極低速度で降下させる時には油圧モータ1や各弁からの油洩れを利用し、方向切換弁3を中立位置とし、または方向切換弁3を弁7が開かない程度に図示A側の位置に操作し、かつ例えば図示しない入力手段によりコントローラ26を作動させる。これによりロープ12に吊荷13の自重及び推力が作用すると共に前記油洩れのため、油圧モータ2は必要時メイクアップ弁8から油を補給しつつ、ドラム11を経て吊荷13の自重及び推力に連れ回りし、吊荷13は極低速度でのロープ12の送り出し速度で降下することが可能となる。この状態でコントローラ26が圧力検出器24からの検出信号により戻り側管路6内の圧力を監視した結果、もしも当該圧力が上記制御範囲を上回って高いことを認識した時には例えば吊荷13が空中に停止して作業が進行してないとみなし、電磁弁21を閉状態とする。この閉状態の時間が継続し、やがて回路等の油洩れにより油圧モータ2は極低速度で回転しドラム11を回転させる。この結果吊荷13は作業の進展に最適な極低速度でのロープ12の送り出し速度で降下する。しかし、戻り側管路6の圧力が上記制御範囲を下回って低くなると、例えば吊荷13が堅い岩盤等に遭遇して作業が進行せず、あるいはロープ12が弛んできたとみなし、電磁弁21を開状態とし、油圧モータ2の回転を完全に停止させ、さらには逆回転させることも可能である。即ち電磁弁21の開状態により戻り側管路6の圧力を上昇させて行くと、この圧力は油圧モータ2を停止させ、さらに油圧モータ2を逆回転することが可能となるのである。この場合の制御はロープ12が自動的に送り出される時に必要となる制御であるので、多くは方向切換弁3を極僅か図示A側の位置に操作した時に行われる制御であると考えても良い。いずれにせよ電磁弁21の作動を制御して戻り側管路6の圧力及びロープ速度を上記制御範囲に収まるようにすることにより、吊荷13の刃先の破損等の危険のない最適な降下を得ることができる。
【0015】本実施例では、油圧回路の各要素の油洩れを利用し、かつ圧力検出器24の検出信号に基づいて電磁弁21を作動させ戻り側管路6の圧力及びロープ速度を予め設定した制御範囲内に収めるように制御するようにしたので、吊荷13の通常速度での制御を行えるのに加えて、簡素な構成で吊荷13の極低速度域での連続的な速度制御を行うことができる。さらには極低速度での速度範囲内で吊荷13を上昇させることもできるので、吊荷13の掘削作業の進展状況に素速く対応することができる。
【0016】図3は本実施例の電磁弁21の他の一つの制御方法を説明する図であり、横軸には戻り側管路6の圧力を、縦軸にはロープ12の送り出し速度を取ってある。同図に示すようにこの場合の制御方法としては、戻り側管路6の荷重圧力に対してのみ制御範囲を設定する。この制御方法を用いた動作は先の動作に準じるのでその説明は省略する。この制御方法では、ロープ速度に制約はうけず、回路圧力に応じて電磁弁21が制御されるので、負荷が軽負荷の場合、ロープ速度を早くすることができる。
【0017】図4は本発明の第2の実施例に係るウインチの油圧回路を示す回路図である。この図において、図1R>1に示す部分と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。符号31は電磁弁であり、油圧モータ2に接続された管路4と戻り側管路6とを連絡する管路32に設けられ、戻り側管路6の圧油を排出する。33は逆止弁であり、電磁弁31から排出された圧油を管路5に戻す。34は圧力制御弁であり、電磁弁31が排出する圧油の圧力が設定圧以上に成ると当該圧力をタンクに戻す。尚、電磁弁31が排出する圧油は逆止弁33及びリリーフ弁34を用いず直接にタンクに戻すようにしても良いことは言うまでもない。
【0018】本実施例の制御方法も図2、図3に示した制御方法を採用することができる。まず吊荷13を極低速度で降下させる時に図2の制御方法を採用した場合には例えば方向切換弁3を中立にした後のコントローラ26は圧力検出器24からの検出信号に基づいて電磁弁21,31を同時に制御する。即ち例えば戻り側管路6の圧力が上記適正範囲を上回った時には電磁弁21の閉状態に制御すると共に電磁弁31の開状態に制御し、戻り側管路6の圧力を圧力制御弁34を介してタンクに、または逆止弁33を介して管路4に排出することにより、回路のもれより多くの圧油を戻り側回路の外へ排出する。これにより油圧モータ2の回転速度を増加させ、ロープ12の送り出し速度を増加させる。また、戻り側管路6の圧力が上記適正範囲を下回って低い時には電磁弁21の開状態に制御すると共に電磁弁31を閉状態に制御し、戻り側管路6への圧油の供給量を戻り側管路6からの圧油の排出量よりも多くする。これにより油圧モータ2の回転速度を低下させ、ロープ12の送り出し速度を低下させる。この一連の制御により、極低速状態において、油圧モータ2の回転速度を素速く、かつ大きなゲインで正転側及び逆転側へと制御することが可能であり、この結果としてロープ速度を上昇側及び降下側共に同じく常に素速く、かつ大きなゲインで吊荷13の掘削作業に適正なる極低速度に制御することが可能である。
【0019】尚、図3の制御方法を用いた場合の実施例の動作も上述の動作に準じる。
【0020】
【発明の効果】本発明によれば、油圧ポンプの戻り側管路に当該戻り側管路の圧力あるいはロープ速度の変動を考慮して圧油を供給する油供給手段を設けたことにより、従来のように極低速制御用の機械構造や油圧回路を増設することなく、通常速度制御用の油圧回路で吊荷の極低速度域での上昇及び降下速度の制御が可能となり、油圧回路の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0021】また、戻り側管路の油を排出する油排出手段を加えることにより、上記の制御を大きなゲインで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係るウインチの油圧回路を示す回路図である。
【図2】本発明の一つの制御方法を説明する図である。
【図3】本発明の他の一つの制御方法を説明する図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係るウインチの油圧回路を示す回路図である。
【図5】従来のウインチの油圧回路を示す回路図である。
【符号の説明】
1 油圧ポンプ
2 油圧ポンプ
3 方向切換弁
4 管路
6 戻り側管路
7 カウンターバランス弁
9 減速器
11 ドラム
12 ロープ
13 吊荷
21 電磁弁
24 圧力検出器
25 速度検出器
26 コントローラ
31 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】 油圧ポンプと、この油圧ポンプにより駆動される油圧モータと、この油圧モータに連結されると共にロープが巻回されたドラムと、前記油圧モータの前記ロープ解除時の戻り側管路に介在するカウンタバランス弁とを備えたウインチの油圧回路において、前記戻り側管路に前記ロープ速度を一定に確保するため回路の油の洩れ量を考慮した油を供給する油供給手段を設けたことを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項2】 請求項1において、前記油供給手段は、切換弁及びこの切換弁と前記戻り側管路との間に介在する逆止弁で構成されていることを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項3】 請求項1において、前記油供給手段は、前記戻り側管路の圧力を検出する圧力検出器の検出信号に基づいて作動するコントローラにより制御されることを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項4】 請求項1において、前記油供給手段は、前記ロープ速度を検出する速度検出器の検出信号に基づいて作動するコントローラにより制御されることを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項5】 請求項1記載のウインチの油圧回路において、前記戻り側管路に当該戻り側管路の油を所要時に所要量排出する油排出手段を設けたことを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項6】 請求項において、前記油排出手段は、前記戻り側管路に接続された切換弁と、この切換弁とタンクとの間に介在する圧力制御弁と、前記切換弁と前記油圧モータの前記ロープ巻き上げ時の供給側管路との間に介在する逆止弁とで構成されていることを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項7】 請求項5において、前記油供給手段及び前記油排出手段は、前記戻り側管路の圧力を検出する圧力検出器の検出信号に基づいて作動するコントローラにより制御されることを特徴とするウインチの油圧回路。
【請求項8】 請求項5において、前記油供給手段及び前記油排出手段は、前記ロープ速度を検出する速度検出器の検出信号に基づいて作動するコントローラにより制御されることを特徴とするウインチの油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3083193号(P3083193)
【登録日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【発行日】平成12年9月4日(2000.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−14203
【出願日】平成4年1月29日(1992.1.29)
【公開番号】特開平5−201697
【公開日】平成5年8月10日(1993.8.10)
【審査請求日】平成10年8月19日(1998.8.19)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−105895(JP,A)
【文献】特開 平2−28496(JP,A)