説明

ウインチ装置および車椅子乗降補助装置

【課題】簡単な構成で牽引部材の弛みを解消できるウインチ装置およびそれを備えた車椅子乗降補助装置を提供する。
【解決手段】ウインチ装置1は、牽引部材2と、牽引部材2を巻取りおよび繰出し可能なドラム3と、ドラム3を回転可能なモータ4と、ドラム3とモータ4との間に設けられ、ドラム3とモータ4とを接続し、牽引部材2の繰出し方向D2にドラム3が回転する際には係合状態となり、牽引部材2の巻取り方向D1にドラム3が回転する際には係合状態が解除可能となるラチェット機構5と、ドラム3を牽引部材2の巻取り方向D1に付勢する回転力付勢手段6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウインチ装置および車椅子乗降補助装置に関し、特に、牽引部材を巻取り可能なウインチ装置およびそれを備えた車椅子乗降補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、牽引部材を巻取り可能なウインチ装置は、たとえば車椅子を車両へ乗降する際に用いられている。車椅子の車両への乗降に用いられるウインチ装置として、スロープを介して車両の後部から車椅子を車両へ乗降する装置が提案されている。このウインチ装置では、ウインチ装置のドラムに備えられた牽引部材(ベルト)が車椅子に取り付けられる。この状態でドラムを回転させることにより、ベルトの巻取りおよび繰出しによってスロープを介して車両へ車椅子が乗降される。
【0003】
この種の車椅子を車両へ乗降する装置として、たとえば特開2009−213734号公報に車椅子引き上げ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−213734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に記載された車椅子引き上げ装置において、車椅子引き上げ装置を用いてスロープ上を移動して車両内へ車椅子を引き上げる際に、介助者が車椅子引き上げ装置のベルトの巻取り速度よりも速い速度で車椅子を押し上げると、ベルトが巻き取られる前に車椅子が押し上げられるためにベルトに弛みが生じてしまう。この状態で介助者が車椅子を支える力を緩めた場合には、ベルトの弛みの量だけ車椅子が下方へ移動することとなり、車椅子の乗車者に負担をかけることになる。
【0006】
また、車椅子引き上げ装置を用いてスロープ上を移動して車両外へ車椅子を引き下げる際には、介助者が車椅子を保持したり、車椅子が障害物と接触した場合等に、車椅子引き上げ装置のベルトの繰出し速度よりも車椅子が実際に下方に降下する速度の方が遅くなり、やはりベルトに弛みが生じてしまう。この状態で介助者が車椅子の保持を解除したり、車椅子と障害物との接触が解除されると、ベルトの弛みの量だけ車椅子が下方へ移動することとなり、上述の場合と同様に車椅子の乗車者に負担をかけることになる。
【0007】
ベルトの弛みを解消するために、たとえばベルトの巻取り量とドラムの回転量とを検知して、その差を判定および制御してベルトの弛みを解消する電気的な制御機構を取り付けることが考えられる。しかしながら、このような電気的な制御機構を取り付けると装置の構成が複雑になってしまう。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で牽引部材の弛みを解消できるウインチ装置およびそれを備えた車椅子乗降補助装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のウインチ装置は、牽引部材と、牽引部材を巻取りおよび繰出し可能なドラムと、ドラムを回転可能なモータと、ドラムとモータとの間に設けられ、ドラムとモータとを接続し、牽引部材の繰出し方向にドラムが回転する際には係合状態となり、牽引部材の巻取り方向にドラムが回転する際には係合状態が解除可能となるラチェット機構と、ドラムを牽引部材の巻取り方向に付勢する回転力付勢手段とを備えている。
【0010】
本発明のウインチ装置によれば、ドラムとモータとがラチェット機構によって接続されているため、ラチェット機構の係合状態と係合解除状態とを利用してモータの回転をドラムへ選択的に伝達することができる。ここで、回転力付勢手段がドラムを牽引部材の巻取り方向に付勢するため、ラチェット機構の係合が解除された状態で、回転力付勢手段がドラムを牽引部材の巻取り方向に回転させることができる。
【0011】
そのため、ラチェット機構の係合が保持された状態でモータの回転によってドラムから繰出された牽引部材を、ラチェット機構の係合が解除された状態で回転力付勢手段によりドラムに巻き取ることができる。したがって、モータの回転によってドラムから繰出された牽引部材に弛みが生じた際に、牽引部材の弛みを解消できる。
【0012】
上記のウインチ装置において好ましくは、ドラムとモータとの間に介在し、モータの駆動力をドラムに伝達する動力伝達機構をさらに備えている。動力伝達機構は、外輪と、外輪と接続された内輪とを含んでいる。外輪と内輪のうちの一方はドラムに接続され、他方はモータに接続されている。ラチェット機構は、ラチェットギヤ部と、ラチェットギヤ部と係脱可能な爪と、爪をラチェットギヤ部との係合方向に付勢する爪付勢部材とを含んでいる。外輪および内輪のいずれか一方にラチェットギヤ部が設けられ、他方に爪および爪付勢部材が設けられている。ラチェットギヤ部と爪とは、モータの駆動力が爪を介してラチェットギヤ部へ伝達され、繰出し方向への爪に対するラチェットギヤ部の相対的な回転が抑制されるように係合し、回転力付勢手段によるラチェットギヤ部の牽引部材の巻取り方向への回転により係合が解除される。
【0013】
これにより、外輪と内輪とでモータの駆動力をドラムに伝達するため、外輪の内側に内輪が配置されることにより装置を小型化できる。また、ラチェット機構は、ラチェットギヤ部と、ラチェットギヤ部と係脱可能な爪と、爪をラチェットギヤ部との係合方向に付勢する爪付勢部材とを含んでいるため、ラチェットギヤ部と爪とが正確に係脱可能である。また、ラチェットギヤ部と爪とは、繰出し方向への爪に対するラチェットギヤ部の相対的な回転が抑制されるように係合し、回転力付勢手段によるラチェットギヤ部の牽引部材の巻取り方向への回転により係合が解除されるため、回転力付勢手段によってドラムを牽引部材の巻取り方向に正確に回転させることができる。
【0014】
上記のウインチ装置において好ましくは、外輪は外周に外歯列を有し、かつ内周に爪を収容する凹部を有し、内輪の外周にラチェットギヤ部が設けられ、モータの駆動力が外歯列を介して外輪に伝達され、外輪から内輪を介してドラムに伝達され、回転力付勢手段によって内輪が外輪に対して相対的に回転する際に、爪とラチェットギヤ部との係合が解除され、爪が凹部に収容されて、ドラムを巻取り方向に回転させるように内輪が回転する。
【0015】
これにより、外輪の凹部に爪が収容されて、ラチェットギヤ部が設けられた内輪が回転力付勢手段によって回転するため、内輪に接続されたドラムを巻取り方向にスムーズに回転させることができる。
【0016】
本発明の車椅子乗降補助装置は、車椅子を車両へ乗降させる車椅子乗降補助装置であって、車椅子を車両に対して昇降させるためのスロープと、上記のいずれかのウインチ装置とを備えている。ウインチ装置のモータの回転駆動によって車椅子がスロープを昇降する際に、回転力付勢手段によるドラムの回転によってラチェット機構の係合が解除され、牽引部材の弛みがドラムに巻き取られる。
【0017】
本発明の車椅子乗降補助装置によれば、ウインチ装置のモータの回転駆動によって車椅子がスロープを昇降する際に、回転力付勢手段によるドラムの回転によってラチェット機構の係合が解除され、牽引部材の弛みがドラムに巻き取られるため、牽引部材の弛みを解消できる。そのため、牽引部材の弛みの量だけ車椅子が下方へ移動することによって車椅子の乗車者に負担をかけることを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、簡単な構成で牽引部材の弛みを解消できるウインチ装置およびそれを備えた車椅子乗降補助装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態における車椅子乗降補助装置が配置された車両の概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるウインチ装置の概略部分断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う概略部分断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う概略部分断面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う概略部分断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態におけるウインチ装置においてラチェット機構の係合が解除された状態を示す概略部分断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態における車椅子乗降補助装置によって車椅子が車両へ乗降される様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。本実施の形態では、本発明が適用される一例として、ウインチ装置が車椅子を車両へ乗降させる場合について説明する。
【0021】
最初に本発明の一実施の形態の車椅子乗降補助装置が車両に配置された様子について説明する。
【0022】
図1を参照して、車両(自動車)30は、後部ドア31と、後部ドア31によって開閉される後部32とを有している。図1では後部ドア31が開いて後部32が車両30の外に開放された状態が示されている。
【0023】
車椅子乗降補助装置100は、車椅子20を車両30へ乗降させるためのものである。車椅子乗降補助装置100は、2個のウインチ装置1と、スロープ101とを主に有している。なお、本実施の形態では、車椅子20を車両30へ乗降させる際に左右の安定性を向上するためウインチ装置1が2個設けられているが、ウインチ装置1の個数は1つであってもよい。
【0024】
2個のウインチ装置1は、車椅子20の左右方向に互いに間隔を空けて後部32に設けられている。ウインチ装置1は、後部32において、たとえば車両30のフロア上に配置されている。2個のウインチ装置1からそれぞれの牽引部材2が繰出されており、それぞれの牽引部材2の先端に設けられたそれぞれのフック2aが車椅子20の左右のフレーム21にそれぞれ係止されている。
【0025】
スロープ101は車椅子20を車両30に対して昇降させるためのものである。スロープ101は後部32につながるように設けられている。スロープ101は車両30の外の地面に向かって下方に傾斜するように設けられている。車椅子20は、車両30に対してスロープ101を挟んで車両30の外の地面に載置されている。スロープ101は、複数の板で構成されていてもよい。またスロープ101は折り畳み可能であってもよい。またスロープ101は電動で伸縮可能に構成されていてもよい。
【0026】
たとえば、図1に示される状態から2個のウインチ装置1によってそれぞれの牽引部材2が巻き取られることで車椅子20はスロープ101上を上昇して車両30内の後部32に引き上げられる。車椅子20は、後部32において、たとえば車両の図示しない後部シートが折り畳まれて空いた空間に載置される。
【0027】
次に、本発明の一実施の形態のウインチ装置の構成について説明する。
図2〜図5を参照して、ウインチ装置1は、牽引部材2と、ドラム3と、モータ4と、ラチェット機構5と、回転力付勢手段6と、動力伝達機構10と、ケーシング50と、送りギヤ51と、クラッチ52と、ドラムロック用ラチェットギヤ53と、中間ギヤ54と、モータ軸ギヤ55とを主に有している。なお図3では牽引部材2は図示されていない。
【0028】
図2および図3を参照して、牽引部材2は、一方端がドラム3に接続され、一方端と反対側の他方端が被牽引物に接続可能に構成されている。牽引部材2はドラム3に巻き取られるように設けられている。牽引部材2は、たとえば被牽引物を牽引可能なベルト、ロープおよびワイヤなどが適用され得る。
【0029】
ドラム3は、牽引部材2を巻取りおよび繰出し可能に設けられている。ドラム3は円筒形状の胴部分を有している。ドラム3は牽引部材2をこの胴部分に巻取り可能に構成されている。モータ4は、ドラム3を回転可能に設けられている。モータ4は、モータの駆動力によりドラム3を回転させるように構成されている。
【0030】
動力伝達機構10は、ドラム3とモータ4との間に介在しており、モータ4の駆動力をドラム3に伝達するように設けられている。動力伝達機構10は、外輪11と、内輪12とを有している。内輪12は、外輪11の内周側に配置されており、外輪11と接続されている。外輪11と内輪12とは互いに同軸上に回転軸が位置するように配置されているが、これに限定されず、ギヤなどを介して互いに同軸上に回転軸が位置するように配置されていなくてもよい。
【0031】
外輪11は、送りギヤ51などを介してモータ4と接続されている。外輪11は、モータ4と直接的に接続されていてもよく、またたとえばギヤなどを介して間接的に接続されていてもよい。内輪12は、ドラム3に接続されている。内輪12はドラム3に直接的に接続されていてもよく、またたとえばギヤなどを介して間接的に接続されていてもよい。
【0032】
また、上記では外輪11がモータ4に接続され、内輪12がドラム3に接続されているが、これに限定されず、外輪11がドラム3に接続され、内輪12がモータ4に接続されていてもよい。つまり、外輪11と内輪12のうちの一方はドラム3に接続され、他方はモータ4に接続されていればよい。
【0033】
ラチェット機構5は、ドラム3とモータ4との間に設けられ、ドラム3とモータ4とを接続している。ラチェット機構5はドラム3とモータ4とを直接的に接続していてもよく、また動力伝達機構10などを介して間接的に接続していてもよい。ラチェット機構5は、一方向への回転を許容し、反対側の他方向への回転を制限するように構成されている。具体的には、牽引部材2の巻取り方向D1への回転を許容し、繰出し方向D2への回転を制限するように構成されている。
【0034】
ラチェット機構5は、ラチェットギヤ部5aと、爪5bと、爪付勢部材5cとを有している。ラチェットギヤ部5aと、爪5bと、爪付勢部材5cとはそれぞれ3個ずつ設けられているが、これに限定されず、それぞれの個数は単数であっても複数であってもよい。ラチェットギヤ部5aの歯は、繰出し方向D2に向かって傾いている。爪5bは、ラチェットギヤ部5aと係脱可能に設けられている。爪5bは、ラチェットギヤ部5aの歯と繰出し方向D2に係合するように形成されている。爪付勢部材5cは、爪5bをラチェットギヤ部5aとの係合方向に付勢するよう設けられている。爪付勢部材5cは、たとえばバネ、スプリングなどが適用され得る。
【0035】
ラチェットギヤ部5aは内輪12の外周に設けられている。外輪11の内周に爪5bを収容する凹部11bが設けられている。爪5bは、凹部11bの内外に入出するように回動可能に外輪11に設けられている。爪付勢部材5cは、外輪11の内周と爪5bとの間に配置され、爪5bを内輪12に向かって付勢するように外輪11に設けられている。
【0036】
また、上記では外輪11に爪5bおよび爪付勢部材5cが設けられ、内輪12にラチェットギヤ部5aが設けられているが、これに限定されず、外輪11にラチェットギヤ部5aが設けられ、内輪12に爪5bおよび爪付勢部材5cが設けられていてもよい。つまり、外輪11および内輪12のいずれか一方にラチェットギヤ部5aが設けられ、他方に爪5bおよび爪付勢部材5cが設けられていればよい。
【0037】
回転力付勢手段6は、ドラム3を牽引部材2の巻取り方向D1に付勢するように設けられている。回転力付勢手段6は、ドラム3とケーシング50とに接続され付勢力によってドラム3を巻取り方向D1に付勢するように構成されている。回転力付勢手段6は、たとえばゼンマイが適用され得る。
【0038】
外輪11は外周に外歯列11aを有している。外輪11は外歯列11aが送りギヤ51の歯と噛み合って巻取り方向D1および繰出し方向D2に回転可能に設けられている。外輪11に設けられた爪5bと内輪12に設けられたラチェットギヤ部5aとが係合することで内輪12は巻取り方向D1および繰出し方向D2に回転可能に設けられている。
【0039】
ラチェットギヤ部5aと爪5bとは、モータ4の駆動力が爪5bを介してラチェットギヤ部5aへ伝達され、ドラム3の繰出し方向D2へのラチェットギヤ部5aの相対的な回転が抑制されるように係合し、回転力付勢手段6によるラチェットギヤ部5aの牽引部材2の巻取り方向D1への回転により係合が解除されるように構成されている。
【0040】
本実施の形態のウインチ装置1は、モータ4の駆動力が外歯列11aを介して外輪11に伝達され、外輪11から内輪12を介してドラム3に伝達され、回転力付勢手段6によって内輪12が外輪11に相対して回転する際に、爪5bとラチェットギヤ部5aとの係合が解除され、爪5bが凹部11bに収容されて、ドラム3を巻取り方向D1に回転させるように内輪12が回転するように構成されている。
【0041】
図4および図5を参照して、送りギヤ51はクラッチ52を介して中間ギヤ54に接続されている。中間ギヤ54はモータ軸ギヤ55に接続されている。モータ軸ギヤ55はモータ4の回転軸に接続されている。ケーシング50は中間ギヤ54を収容する中間ギヤ収容部50aとモータ4を収容するモータ収容部50bとを有している。
【0042】
モータ4は回転軸を回転運動させることにより駆動力を発生するように構成されている。モータ4は回転軸を回転可能にケーシング50に支持されている。モータ軸ギヤ55はモータ4の回転軸の回転方向に回転可能に回転軸に支持されている。モータ軸ギヤ55の外周には歯が設けられている。中間ギヤ54の外周には歯が設けられている。中間ギヤ54は、中間ギヤ54の歯とモータ軸ギヤ55の歯とが噛み合って回転可能に設けられている。中間ギヤ54と送りギヤ51との間にはクラッチ52が設けられている。クラッチ52によって中間ギヤ54の回転が送りギヤ51に伝達される。送りギヤ51の外周には歯が設けられている。送りギヤ51は、送りギヤ51の歯と外輪11の外歯列11aとが噛み合って回転可能に設けられている。
【0043】
このように、本実施の形態のウインチ装置1は、モータ4の駆動力がモータ軸ギヤ55、中間ギヤ54、クラッチ52および送りギヤ51を経由して、外輪11に伝達されるように構成されている。
【0044】
また、図3に示されるようにドラムロック用ラチェットギヤ53が設けられている。ドラムロック用ラチェットギヤ53は、ドラム3の回転をロックするためのものである。ドラムロック用ラチェットギヤ53は、ドラム3と接続されている。ドラムロック用ラチェットギヤ53は、図示しないラチェットレバーと係合可能に設けられている。ドラムロック用ラチェットギヤ53が図示しないラチェットレバーと係合することでドラム3は繰出し方向D2に回転しないようにロックされる。これにより、ドラム3を繰出し方向D2に回転させないようにドラム3をロックすることで、牽引部材2が繰出さないようにドラム3に保持される。
【0045】
上述のウインチ装置1を備えることによって、本発明の一実施の形態の車椅子乗降補助装置100は、図1に示すようにウインチ装置1でスロープ101上を昇降させて車椅子20を車両30へ乗降させるように構成されている。車椅子乗降補助装置100は、ウインチ装置1のモータ4の回転駆動によって車椅子20がスロープ101を昇降する際に、回転力付勢手段6によるドラム3の回転によってラチェット機構5の係合が解除され、牽引部材2の弛みがドラム3に巻き取られるように構成されている。
【0046】
次に、本発明の一実施の形態のウインチ装置の動作について説明する。
まずラチェット機構5が係合している状態での牽引部材2の巻取りおよび繰出し動作について説明する。ラチェット機構5が係合している状態では、ラチェットギヤ部5aと爪5bとが係合している。図2および図3を参照して、モータ4の駆動力が外輪11に伝達される。外輪11に設けられた爪5bと内輪12に設けられたラチェットギヤ部5aとが係合することにより、モータ4の駆動力が外輪11から内輪12に伝達される。外輪11と内輪12とが一体となって回転する。その結果、内輪12に接続されたドラム3が巻取り方向D1および繰出し方向D2に回転する。
【0047】
牽引部材2が巻き取られる場合は、モータ4の駆動力によって外輪11が巻取り方向D1に回転することにより、内輪12に接続されたドラム3が巻取り方向D1に回転して牽引部材2が巻き取られる。一方、牽引部材2が繰出される場合は、モータ4の駆動力によって外輪11が繰出し方向D2に回転することにより、内輪12に接続されたドラム3が繰出し方向D2に回転して牽引部材2が繰出される。
【0048】
続いて、図6を参照して、ラチェット機構5の係合が解除された状態の牽引部材2の巻取り動作について説明する。ラチェット機構5の係合が解除された状態では、ラチェットギヤ部5aと爪5bとの係合が解除されている。ラチェット機構5の係合が解除された状態では、爪5bが凹部11bに収容されており、ラチェットギヤ部5aと爪5bとは係合していない。ラチェットギヤ部5aと爪5bとの係合が解除されているため、外輪11が回転していてもモータ4の駆動力は外輪11から内輪12に伝達されない。したがって、モータ4の駆動力が内輪12に接続されたドラム3に伝達されないため、モータ4の駆動力によってドラム3は回転しない。
【0049】
一方、ドラム3は回転力付勢手段6によって巻取り方向D1に付勢されている。そのため、ラチェットギヤ部5aと爪5bとの係合が解除された状態では、回転力付勢手段6の付勢力によってドラム3が巻取り方向D1に回転する。これによりドラム3に牽引部材2が巻き取られる。なお、回転力付勢手段6がドラム3を巻取り方向D1に付勢しているため、ラチェットギヤ部5aと爪5bとの係合が解除された状態でドラム3が繰出し方向D2へ回転することは制限されている。
【0050】
次に、図7を参照して、本発明の一実施の形態のウインチ装置を備えた車椅子乗降補助装置の動作について説明する。
【0051】
まず、車椅子20が引き上げられる場合について説明する。この場合は牽引部材2が巻き取られる場合に該当する。ウインチ装置1がスロープ101上を上昇させて後部32へ車椅子20を引き上げる際には、牽引部材2は車椅子20および乗車者60の重量によって下方に引っ張られる。つまり、ドラム3を回転させるモータ4の駆動力と、車椅子20および乗車者60の重量とによって牽引部材2には張力が発生する。
【0052】
この張力によって図2に示すようにラチェットギヤ部5aと爪5bとは噛み合って係合する。そのため、モータ4の駆動力によって外輪11が巻取り方向D1に回転することにより、内輪12に接続されたドラム3が巻取り方向D1に回転して牽引部材2が巻き取られる。この状態では牽引部材2には弛みは生じない。
【0053】
一方、ウインチ装置1を使用しつつ介助者が牽引部材2の巻取り速度よりも速い速度で車椅子20を押し上げた場合には、牽引部材2が巻き取られる前に車椅子20が押し上げられるために牽引部材2に弛みが生じる。
【0054】
続いて、車椅子20が引き下げられる場合について説明する。この場合は牽引部材2が繰出される場合に該当する。ウインチ装置1がスロープ101上を下降させて後部32から車椅子20を引き下げる際にも、牽引部材2は車椅子20および乗車者60の重量によって下方に引っ張られる。つまり、この場合もドラム3を回転させるモータ4の駆動力と、車椅子20および乗車者60の重量とによって牽引部材2には張力が発生する。
【0055】
そしてこの張力によって図2に示すようにラチェットギヤ部5aと爪5bとは噛み合って係合する。そのため、モータ4の駆動力によって外輪11が繰出し方向D2に回転することにより、内輪12に接続されたドラム3が繰出し方向D2に回転して牽引部材2が繰出される。この状態では牽引部材2には弛みは生じない。
【0056】
一方、ウインチ装置1を使用しつつ介助者が車椅子20を保持したり、車椅子20が障害物と接触した場合には、牽引部材2の繰出し(送り出し)速度よりも車椅子20が実際に下方に降下する速度の方が遅いために、牽引部材2に弛みが生じる。
【0057】
車椅子20が引き上げられる場合および車椅子20が引き下げられる場合の両方の場合とも、上述のように牽引部材2に弛みが生じることがある。この場合、牽引部材2の弛みによって牽引部材2には上記の張力が発生しない。この張力が発生しない状態では、ラチェットギヤ部5aと爪5bとが係合を保持するように力が作用しないので、回転力付勢手段6の牽引部材2を付勢する力がラチェットギヤ部5aと爪5bとが係合を保持するように作用する力よりも大きくなる。
【0058】
この結果、回転力付勢手段6の付勢力によってラチェットギヤ部5aと爪5bとの係合が解除される。そして回転力付勢手段6がドラム3を回転させることにより牽引部材2の弛みが巻き取られる。牽引部材2の弛みが巻き取られると再びラチェットギヤ部5aと爪5bとは係合する。その結果、再び上記の張力が発生するため、回転力付勢手段6によってドラム3が回転する状態は終了する。
【0059】
したがって、牽引部材2の弛みを回転力付勢手段6によって巻き取ることにより、牽引部材2の弛みが解消される。これにより、牽引部材2が弛んで車椅子20が下方に移動することによって車椅子20の乗車者60に負担をかけることが抑制される。そのため、安全性が向上する。また使い勝手が向上する。
【0060】
次に、本発明の一実施の形態の作用効果について説明する。
本発明の一実施の形態のウインチ装置1によれば、ドラム3とモータ4とがラチェット機構5によって接続されているため、ラチェット機構5の係合状態と係合解除状態とを利用してモータ4の回転をドラム3へ選択的に伝達することができる。ここで、回転力付勢手段6がドラム3を牽引部材2の巻取り方向に付勢するため、ラチェット機構5の係合が解除された状態で、回転力付勢手段6がドラム3を牽引部材2の巻取り方向に回転させることができる。
【0061】
そのため、ラチェット機構5の係合が保持された状態でモータ4の回転によってドラム3から繰出された牽引部材2を、ラチェット機構5の係合が解除された状態で回転力付勢手段6によりドラムに巻き取ることができる。したがって、モータ4の回転によってドラム3から繰出された牽引部材2に弛みが生じた際に、牽引部材2の弛みを解消できる。
【0062】
また、本発明の一実施の形態のウインチ装置1によれば、外輪11と内輪12とでモータ4の駆動力をドラム3に伝達するため、外輪11の内側に内輪12が配置されることにより装置を小型化できる。また、ラチェット機構5は、ラチェットギヤ部5aと、ラチェットギヤ部5aと係脱可能な爪5bと、爪5bをラチェットギヤ部5aとの係合方向に付勢する爪付勢部材5cとを含んでいるため、ラチェットギヤ部5aと爪5bとが正確に係脱可能である。また、ラチェットギヤ部5aと爪5bとは、繰出し方向D2への爪5bに対するラチェットギヤ部5aの相対的な回転が抑制されるように係合し、回転力付勢手段6によるラチェットギヤ部5aの牽引部材2の巻取り方向D1への回転により係合が解除されるため、回転力付勢手段6によってドラム3を牽引部材2の巻取り方向D1に正確に回転させることができる。
【0063】
また、本発明の一実施の形態のウインチ装置1によれば、外輪11の凹部11bに爪5bが収容されて、ラチェットギヤ部5aが設けられた内輪12が回転力付勢手段6によって回転するため、内輪12に接続されたドラム3を巻取り方向D1にスムーズに回転させることができる。
【0064】
本発明の一実施の形態の車椅子乗降補助装置100によれば、ウインチ装置1のモータ4の回転駆動によって車椅子20がスロープ101を昇降する際に、回転力付勢手段6によるドラム3の回転によってラチェット機構5の係合が解除され、牽引部材2の弛みがドラム3に巻き取られるため、牽引部材2の弛みを解消できる。そのため、牽引部材2の弛みの量だけ車椅子が下方へ移動することによって車椅子20の乗車者60に負担をかけることを防止できる。
【0065】
なお、上記ではウインチ装置が車椅子に接続された場合について説明したが、これに限定されず、ウインチ装置は台車などに接続されていてもよい。また、上記では車椅子乗降補助装置が車両に配置された場合について説明したが、これに限定されず、車椅子乗降補助装置は建物の入口などに配置されていてもよい。また、車椅子乗降補助装置は、介護用の装置および施設などに配置されていてもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、牽引部材を巻取り可能なウインチ装置およびそれを備えた車椅子乗降補助装置に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0068】
1 ウインチ装置、2 牽引部材、2a フック、3 ドラム、4 モータ、5 ラチェット機構、5a ラチェットギヤ部、5b 爪、5c 爪付勢部材、6 回転力付勢手段、10 動力伝達機構、11 外輪、11a 外歯列、11b 凹部、12 内輪、20 車椅子、21 フレーム、30 車両、31 後部ドア、32 後部、50 ケーシング、50a 中間ギヤ収容部、50b モータ収容部、51 送りギヤ、52 クラッチ、53 ドラムロック用ラチェットギヤ、54 中間ギヤ、55 モータ軸ギヤ、60 乗車者、100 車椅子乗降補助装置、101 スロープ、D1 巻取り方向、D2 繰出し方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引部材と、
前記牽引部材を巻取りおよび繰出し可能なドラムと、
前記ドラムを回転可能なモータと、
前記ドラムと前記モータとの間に設けられ、前記ドラムと前記モータとを接続し、前記牽引部材の繰出し方向に前記ドラムが回転する際には係合状態となり、前記牽引部材の巻取り方向に前記ドラムが回転する際には係合状態が解除可能となるラチェット機構と、
前記ドラムを前記牽引部材の前記巻取り方向に付勢する回転力付勢手段とを備えた、ウインチ装置。
【請求項2】
前記ドラムと前記モータとの間に介在し、前記モータの駆動力を前記ドラムに伝達する動力伝達機構をさらに備え、
前記動力伝達機構は、外輪と、前記外輪と接続された内輪とを含み、
前記外輪と前記内輪のうちの一方は前記ドラムに接続され、他方は前記モータに接続され、
前記ラチェット機構は、ラチェットギヤ部と、前記ラチェットギヤ部と係脱可能な爪と、前記爪を前記ラチェットギヤ部との係合方向に付勢する爪付勢部材とを含み、
前記外輪および前記内輪のいずれか一方に前記ラチェットギヤ部が設けられ、他方に前記爪および前記爪付勢部材が設けられ、
前記ラチェットギヤ部と前記爪とは、
前記モータの駆動力が前記爪を介して前記ラチェットギヤ部へ伝達され、前記繰出し方向への前記爪に対する前記ラチェットギヤ部の相対的な回転が抑制されるように係合し、
前記回転力付勢部材による前記ラチェットギヤ部の前記牽引部材の前記巻取り方向への回転により係合が解除されるように構成されている、請求項1に記載のウインチ装置。
【請求項3】
前記外輪は外周に外歯列を有し、かつ内周に前記爪を収容する凹部を有し、
前記内輪の外周に前記ラチェットギヤ部が設けられ、
前記モータの駆動力が前記外歯列を介して前記外輪に伝達され、前記外輪から前記内輪を介して前記ドラムに伝達され、
前記回転力付勢部材によって前記内輪が前記外輪に対して相対的に回転する際に、
前記爪と前記ラチェットギヤ部との係合が解除され、前記爪が前記凹部に収容されて、前記ドラムを前記巻取り方向に回転させるように前記内輪が回転するように構成されている、請求項2に記載のウインチ装置。
【請求項4】
車椅子を車両へ乗降させる車椅子乗降補助装置であって、
前記車椅子を前記車両に対して昇降させるためのスロープと、
請求項1〜3のいずれかに記載のウインチ装置とを備え、
前記ウインチ装置の前記モータの回転駆動によって前記車椅子が前記スロープを昇降する際に、前記回転力付勢部材による前記ドラムの回転によって前記ラチェット機構の係合が解除され、前記牽引部材の弛みが前記ドラムに巻き取られるよう構成されている、車椅子乗降補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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