説明

ウインチ装置

【課題】巻き軸に係合離脱自在なクラッチの係合子を駆動側歯車に内装することによりウインチ装置を小型化する。
【解決手段】牽引対象物に先端が連結可能な牽引部材1を巻装した巻き軸2に、牽引部材1をこれの巻取り方向に付勢する付勢手段3を設けると共に、駆動源4に連繋した駆動側歯車5をクラッチ6を介して連繋したウインチ装置において、クラッチ6は、巻き軸2を正逆回転自在に挿通する駆動側歯車5の軸孔5aに先端が出没自在で、軸孔5a突出方向へ付勢したバネ13と共に駆動側歯車5に内装されたプランジャ12と、巻き軸2外周にプランジャ12が係合離脱可能に形成された切欠18とから成り、該切欠18はプランジャ12の先端が接離自在な先端受承面18aとプランジャ12の牽引部材巻取り方向L側の側部12bが接離自在な側部受承面18bとから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子乗降用のスロープを備えた車両において、車椅子利用者が車椅子ごと乗降する際に用いられる車椅子乗降用のウインチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、後部に設けた車椅子専用の乗降口にスロープを装備し、このスロープを介護者の誘導によって上り下りすることにより、身障者等が車椅子に座ったまま乗り降りできる様にした車両が見受けられる。
この様な車両では、車内に車椅子牽引用の電動のウインチ装置を搭載し、このウインチ装置から引き出したベルト先端のフックを車椅子に掛止し、ベルトをウインチ装置が巻き取る又は繰り出すことにより、スロープを上り下りする時に介護者が車椅子を押し出す力又は支える力を補助し、身障者等を車椅子に座った状態で安全に乗降させている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記文献に開示されたウインチ装置は車内に左右一対設置されるものにして、各装置は車椅子に連結するベルトを巻装した巻き軸を渦巻きバネにてベルト巻取り方向に付勢し、巻き軸と電動モータとの間に動力伝達機構を設け、該動力伝達機構により電動モータの駆動力を巻き軸へ伝達したり、遮断することにより、車椅子乗車に際しては電動モータと巻き軸との連結を遮断して迅速にベルトを手動で引き出せる様にし、車椅子乗降時には常にベルトを緊張させながら巻取り又は繰出して車椅子を車内外へ移動させる様にし、車椅子降車後は、ベルトを渦巻きバネの付勢力で素早くベルトを巻取れる様にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4624335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ウインチ装置の動力伝達機構は、巻き軸に軸着した巻き軸側歯車に一体的に係合しながら、巻き軸に回転可能にしてその軸方向にスライド移動可能に装着されたクラッチ盤を、巻き軸に回転可能に装着された電動モータ側歯車に係合離脱可能に設け、電動モータ側歯車と巻き軸側歯車(巻き軸)を断続的に連結している。
この様に、クラッチ盤が軸方向に移動して原動側の電動モータと従動側の巻き軸を掛け外す構造のため、巻き軸を長く設定せねばならず、かかる構造のウインチ装置を車内に設置することで、車椅子を収容する車内スペースが車幅方向に狭くなる課題を有している。
そこで、本発明では、巻き軸に係合離脱自在なクラッチの係合子を駆動側歯車に内装することによりウインチ装置を小型化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明のウインチ装置は、牽引対象物に先端が連結可能な牽引部材を巻装した巻き軸に、牽引部材をこれの巻取り方向に付勢する付勢手段を設けると共に、駆動源に連繋した駆動側歯車をクラッチを介して連繋したものにして、該クラッチは、巻き軸を正逆回転自在に挿通する駆動側歯車の軸孔に先端が出没自在で、軸孔突出方向へ付勢したバネと共に駆動側歯車に内装されたプランジャと、巻き軸外周にプランジャが係合離脱可能に形成された切欠とから成り、該切欠はプランジャの先端が接離自在な先端受承面とプランジャの牽引部材巻取り方向側の側部が接離自在な側部受承面とから成ることを特徴とする。
又、駆動側歯車正面には、プランジャの往復軌道上に対応して長孔を設け、該長孔にプランジャより突設したピンを摺動自在に挿通し、該ピンを長孔の遠心方向端部へバネの付勢力に抗して強制的に移動させることにより、プランジャ先端を駆動側歯車内へ没入させるクラッチ掛け外し機構部を設けたことを特徴とする。
クラッチ掛け外し機構部は、駆動側歯車正面と隣接して巻き軸に回転自在に装着すると共に、ピンが摺接可能な周縁部を有する板カムと、該板カムの回転抑止手段と、該回転抑止手段による板カム回転抑止状態で巻き軸に対し空転可能な牽引部材繰出し方向へ回動する駆動側歯車とから成ることを特徴としている。
より具体的には、プランジャ及びバネは駆動側歯車の軸孔回りに相互に180度位相した位置に一対内装し、切欠は巻き軸外周に相互に180度位相した位置に一対形成し、板カムは平行四辺形状に形成され、板カムの1組の対辺の夫々に長孔の求心方向端部に位置するピンを当接したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
要するに本発明に係るウインチ装置は、牽引対象物に先端が連結可能な牽引部材を巻装した巻き軸に、牽引部材をこれの巻取り方向に付勢する付勢手段を設けると共に、駆動源に連繋した駆動側歯車をクラッチを介して連繋して成り、該クラッチは、巻き軸を正逆回転自在に挿通する駆動側歯車の軸孔に先端が出没自在で、軸孔突出方向へ付勢したバネと共に駆動側歯車に内装されたプランジャと、巻き軸外周にプランジャが係合離脱可能に形成された切欠とから成り、該切欠はプランジャの先端が接離自在な先端受承面とプランジャの牽引部材巻取り方向側の側部が接離自在な側部受承面とから成るので、駆動源の作動により駆動側歯車が牽引部材巻取り方向(以下、単に巻取り方向と称する。)に回転すると、先端が軸孔に突出しているプランジャの巻取り方向側側部が巻き軸の側部受承面に当接係合するだけでプランジャを没入させられないため、駆動側歯車の回転は巻き軸に伝達され、牽引部材が巻き軸に巻き取られて牽引対象物が牽引される。
又、巻き軸は巻取り方向では切欠の先端受承面がプランジャ先端をバネの付勢力に抗して軸孔より駆動側歯車の遠心方向へ没入する様に押圧しながら回転するため、駆動側歯車に対し空転し、付勢手段による巻取り方向の付勢力が常に巻き軸に作用しているので、上記牽引中においても牽引部材は弛むことなく常に緊張状態で巻き取られる。
そして、駆動源の作動により駆動側歯車が上記と逆(牽引部材繰出し)方向に回転すると、軸孔に突出しているプランジャの先端がバネの付勢力に抗して軸孔より駆動側歯車の遠心方向へ没入する様に切欠の先端受承面に押圧されながら回転し、巻き軸に対し駆動側歯車は空転可能であり、巻き軸は牽引部材繰出し方向(以下、単に繰出し方向と称する。)では切欠の側部受承面がプランジャの牽引部材巻取り方向側の側部に当接係合するだけでプランジャを没入させられないため、駆動側歯車が繰出し方向へ回転しない限り、同方向への回転が規制される。
したがって、巻き軸は駆動側歯車の回転速度を越えない範囲で繰出し方向へ回転して付勢手段の巻取り方向への付勢力が作用する牽引部材を常に緊張状態で繰り出し、言い換えれば牽引対象物を後退させるために牽引部材を引き出さない限り、駆動側歯車は空転して牽引部材を繰り出さないので、牽引部材は常に緊張状態で牽引対象物を後退させられる。
又、牽引対象物の牽引中又は後退中に駆動源(駆動側歯車)が停止しても、上記の通り巻き軸は繰出し方向への回転が規制されるため、それがスロープ上であっても牽引対象物をその位置に制止させられ安全である。
更に、駆動側歯車は巻き軸に対し繰出し方向で空転可能なため、牽引部材が巻き軸より全て繰り出されても、故障の原因となる牽引部材の逆転(繰出し方向への)巻取りができない。
この様に、本発明によれば、上記特許文献1に開示されるウインチ装置と同様なる自動巻取り及び繰出しが可能であるばかりでなく、巻き軸に係合離脱自在なクラッチが駆動側歯車に内装されているので、ウインチ装置全体を小型化することができ、牽引対象物を収容する車両スペースを広く有効に活用できる。
【0008】
駆動側歯車正面には、プランジャの往復軌道に対応して長孔を設け、該長孔にプランジャより突設したピンを摺動自在に挿通し、該ピンを長孔の遠心方向端部へバネの付勢力に抗して強制的に移動させることにより、プランジャ先端を駆動側歯車内へ没入させるクラッチ掛け外し機構部を設けたので、巻き軸の切欠にプランジャを未係合にでき、駆動側歯車と巻き軸は相互に正逆回転可能になり、駆動源の停止状態で巻き軸から付勢手段の付勢力に抗して牽引部材を迅速に手動で引き出せ、引き出した牽引部材を手放せば、付勢手段の付勢力にて自動的に巻き軸に巻き取らせることができる。
【0009】
クラッチ掛け外し機構部は、駆動側歯車正面と隣接して巻き軸に回転自在に装着すると共に、ピンが摺接可能な周縁部を有する板カムと、該板カムの回転抑止手段と、該回転抑止手段による板カム回転抑止状態で巻き軸に対し空転可能な繰出し方向へ回動する駆動側歯車とから成るので、板カムを別途駆動源にて回動させてピンを長孔の遠心方向端部へバネの付勢力に抗して強制的に移動させるのではなく、回転抑止手段で板カムを制止させ、駆動側歯車の駆動源にて駆動側歯車を一定方向へ回動させることでピンを板カムの周縁部上に摺動させられ、その結果ピンを長孔の求心方向端部から遠心方向端部へ移動させてプランジャ先端を没入させられるため、駆動側歯車の駆動源とは別に設けられる回転抑止手段の駆動源を極力小さくでき、その小型化、延いてはウインチ装置全体の小型化と消費電力の低減を図ることができる。
【0010】
プランジャ及びバネは駆動側歯車の軸孔回りに相互に180度位相した位置に一対内装し、切欠は巻き軸外周に相互に180度位相した位置に一対形成したので、軸孔内の巻き軸を相対する半径方向の二方向から突出するプランジャでバランス良く支持でき、その作動性を良好と成すことができると共に、板カムは平行四辺形状に形成され、板カムの1組の対辺の夫々に長孔の求心方向端部に位置するピンを当接したので、回転抑止手段で板カムを制止していない状態では板カムは巻き軸に対し自由に回転可能だが、板カムの1組の対辺の夫々に長孔の求心方向端部へバネにて付勢されるピンによって板カムを両側から挟持できるため、駆動側歯車とほぼ同様に回転して回転抑止手段で板カムを制止した時に板カムの周縁部(対辺)にピンが摺接でき、その機動性を良好としてその際の駆動側歯車の回動距離を短縮できる等その実用的効果甚だ大である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るウインチ装置の断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2における板カム回転抑止状態を示す図である。
【図4】図2におけるプランジャの巻き軸からの離脱状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の一形態例を図面に基づいて説明する。
本発明に係るウインチ装置は、後部扉が上方に跳ね上がることで後部開口が開放され、その後部開口から地上へ掛け渡す車椅子乗降用のスロープを装備したワンボックスタイプの車両(図示せず)において、前記後部開口を車椅子乗降口として車椅子収容スペースを有する車室内前方の左右位置に同一構造のものが設置されている。
又、車室内における内壁面には車椅子乗降口の近傍位置にウインチ装置の操作部が設けられ、該操作部には、リモコン発信器(図示せず)が支持されていると共に、フリースイッチ(図示せず)等が設けられている。
【0013】
本実施例では、一方のウインチ装置について図示し、これについて以下説明する。
このウインチ装置は、牽引対象物である車椅子(図示せず)に先端が連結可能な牽引部材1を巻装した巻き軸2に、牽引部材1をこれの巻取り方向(図2〜4において左回り)Lに付勢する付勢手段3を設けると共に、駆動源4に連繋した駆動側歯車5をクラッチ6を介して連繋している。
【0014】
牽引部材1は薄肉帯状の合成繊維製ベルトであって、該ベルト1の先端には車椅子のフレーム適所に掛止するフック等の連結部(図示せず)を設けている。
巻き軸2は車室内に設置されたベルト収容ケース7の左右壁7a、7b間に軸受8、8aで以て回転自在に水平架設され、ベルト1はベルト収容ケース7内で巻き軸2に軸着した巻取ドラム9を介して巻き軸2に巻装している。
又、右壁7bより外方突出する巻き軸2の右端には、付勢手段である渦巻きバネ3の中心端を軸着し、該渦巻きバネ3の外周端は、右壁7bと共に渦巻きバネ3を収容するバネカバー10の内壁適所に固着(図示せず)し、渦巻きバネ3をベルト巻取り方向(以下、単に巻取り方向と称する。)Lに付勢している。
【0015】
駆動源4は、正逆回転自在な電動モータから成り、ベルト収容ケース7の左側に設置され、上記リモコン発信器からの信号を受けて車両のエンジン制御ユニット(図示せず)が動作することにより、正逆回転する様に設定されている。
そして、駆動源4の駆動軸4aに小径平歯車から成る駆動小歯車11を軸着している。
駆動小歯車11は、左壁7aより外方突出する巻き軸2の左端を正逆回転自在に挿通する駆動側歯車5を噛合し、該駆動側歯車5を駆動源4に連繋している。
【0016】
駆動側歯車5は、駆動小歯車11より大径な円盤状の平歯車であり、この駆動側歯車5には巻き軸2を挿通する軸孔5aへ向かって先端が出没自在な四角柱状のプランジャ12と、該プランジャ12を軸孔5a突出(軸心)方向へ付勢した圧縮コイルバネ(以下、単にバネと称する。)13とから成る係合子14を内装している。
係合子14は駆動側歯車5の半径方向に長い収容孔15に収容されており、該収容孔15は、その長軸線を軸孔5aの一直径線に対し図2において右側に偏心(平行配置)させると共に、収容孔15の先端(求心方向端部)側の巻取り方向Lの側部(図2において左側部)を軸孔5aに連通する様に駆動側歯車5に貫設している。
【0017】
この様に形成された収容孔15には、その基端(遠心方向端部)より順にバネ13、プランジャ12を配し、駆動側歯車5と同軸孔を有すると共に、駆動側歯車5の歯底円より小径な薄肉円板16、16aで駆動側歯車5の両面に露出する収容孔15を被覆し、収容孔15から係合子14を抜止めし、薄肉円板16、16aを貼り付けた駆動側歯車5の各面を駆動側歯車正面(駆動側歯車5の図1において右側面)16及び裏面(駆動側歯車5の図1において左側面)16aとしている。
そして、駆動側歯車正面16には、プランジャ12の往復軌道に対応して長孔17を設け、該長孔17にプランジャ12後方より突設したピン12aを摺動自在に挿通している。
【0018】
又、巻き軸2において軸孔5aの挿通部(左端)外周には、プランジャ12が係合離脱可能な切欠18が形成され、該切欠18と、バネ13と共に駆動側歯車5に内装されたプランジャ12(係合子14)にてクラッチ6を構成している。
切欠18はプランジャ12の先端が接離自在な先端受承面18aとプランジャ12の巻取り方向L側の側部(図2において左側部)12bが接離自在な側部受承面18bとから成り、該側部受承面18bと先端受承面18aは直角に交差してL型面を構成している。
【0019】
クラッチ6を構成する係合子14と切欠18は、好ましくは図示例の如く軸孔5aと巻き軸2回りに夫々一対設けるのが望ましい。
即ち、係合子14(プランジャ12及びバネ13)と収容孔15は、駆動側歯車5の軸孔5a回りに相互に180度位相(回転移動)した位置に一対内装し、切欠18は巻き軸2外周に相互に180度位相(回転移動)した位置に一対形成する。
【0020】
上記の様に構成されたクラッチ6には、ピン12aを長孔17の遠心方向端部17bへバネ13の付勢力に抗して強制的に移動させることにより、プランジャ12の先端を駆動側歯車5内へ没入させるクラッチ掛け外し機構部19を設けている。
クラッチ掛け外し機構部19は、駆動側歯車正面16と隣接して巻き軸2に回転自在に装着すると共に、ピン12aが摺接可能な直線状の周縁部20aを有する板カム20と、該板カム20の回転抑止手段21と、該回転抑止手段21による板カム回転抑止状態で巻き軸2に対し空転可能なベルト繰出し方向(以下、単に繰出し方向と称する。)Rへ回動する駆動側歯車5とから構成されている。
【0021】
板カム20は、中心に巻き軸2を回転自在に挿通する軸孔を有する平行四辺形状、より具体的には菱形状に形成され、板カム20の1組の対辺(周縁部)20aの夫々に長孔17の求心方向端部17aに位置するピン12aを当接している。
又、板カム20において駆動側歯車正面16との反隣接面(図1において右側面)には、巻き軸2を回転自在に挿通すると共に、外周に多数の三角山状歯を周設した山形歯車20bを突設している。
【0022】
回転抑止手段21は、山形歯車20bの近傍に配置されるものにして、山形歯車20bに噛合離脱可能な噛部22aを有する板カムロックレバー22と、該板カムロックレバー22を進退自在に支持するアクチュエータ23から構成されている。
アクチュエータ23は電磁石の電磁力と圧縮コイルバネ23bの弾性力にてその本体より伸縮可能と成したロッド23aを有し、該ロッド23aの先端部に板カムロックレバー22の基端部を枢着連結している。
【0023】
そして、通電による電磁力で板カムロックレバー22を引張してその歯部22aを山形歯車20bに噛合させて板カム20を回転抑止状態に保持する。
又、通電が解除されると圧縮コイルバネ23bの力で板カムロックレバー22を押圧して、その歯部22aを山形歯車20bより離脱させ、板カム20の回転抑止状態を解除する様に成している。
尚、アクチュエータ23は、上記フリースイッチが押し操作されてエンジン制御ユニットからの信号で通電動作する様に設定されている。
【0024】
上記回転抑止手段21による板カム回転抑止状態において、駆動源4の作動により駆動小歯車11を介して駆動側歯車5を巻き軸2に対し空転可能な繰出し方向Rへ所定時間だけ回動させることにより、長孔17の求心方向端部17aに位置していたピン12aは板カム20の対辺20aに沿いながら長孔17の遠心方向端部17bへバネ13の付勢力に抗して移動することとなり、この結果プランジャ12の先端が切欠18より離脱して駆動側歯車5内に没入して駆動側歯車5と巻き軸2を相互に正逆回転可能としている。
【0025】
又、巻き軸2において左壁7aと山形歯車20bとの間には、該山形歯車20bより大径にして外周に多数の三角山状歯(図示せず)を周設したアンカー歯車24を軸着し、該アンカー歯車24に噛合離脱可能な噛部(図示せず)を有するアンカーレバー25をアンカー歯車24の近傍に配置している。
なお、前述のフリースイッチが押し操作されると、エンジン制御ユニットからの信号でアンカーレバー25に連繋(図示せず)したロック解除用ソレノイド(図示せず)が動作し、アンカーレバー25はアンカ歯車24との噛合を解除する様に離脱して巻き軸2の回転抑止状態を解除する方向に移動する。
【0026】
次に上記の様に構成されたウインチ装置の動作について説明する。
先ず、車椅子の乗車時には、車両の車椅子乗降口からスロープを地上へ掛け渡す。
そして、介護者が操作部のフリースイッチを押すことで、エンジン制御ユニットからの信号でロック解除用ソレノイドが通電により動作し、アンカー歯車24からアンカーレバー25を離脱させ、巻き軸2の回転抑止状態が解除される。
又、エンジン制御ユニットからの信号でアクチュエータ23が通電により動作し、板カムロックレバー22を山形歯車20bに噛合させて板カム20を回転抑止状態に保持し、次いで駆動源4が所定時間だけ駆動側歯車5を巻き軸2に対し空転可能な繰出し方向Rに回転させる。
【0027】
これによりピン12aが板カム20の周縁部(対辺)20a上をその鈍角部20c側から鋭角部20d側へ摺動させられ、その結果ピン12aを長孔17の求心方向端部17aから遠心方向端部17bへバネ13の付勢力に抗して押圧移動させられ、プランジャ12先端を切欠18より離脱する様に駆動側歯車5内に没入させられ、巻き軸2の切欠18にプランジャ12が未係合となるため、駆動側歯車5と巻き軸2は相互に正逆回転可能となる。
【0028】
かかる状態では介護者はベルト1を渦巻きバネ3の付勢力に抗して巻き軸2から任意の速度で引き出し、又は渦巻きバネ3の付勢力にて自動的にベルト1を巻き戻すことが可能となる。
そして、ベルト1を引き出し、左右のベルト1先端の連結部を車椅子のフレーム適所に掛止し、車椅子の乗車準備が完了する。
【0029】
次に、介護者がリモコン発信器の上昇ボタンを押すことで、アクチュエータ23への通電が解除され、板カムロックレバー22が板カム20の山形歯車20bより離脱するため、板カム20が回転可能となり、その周縁部20aの鋭角部d側でバネ13の付勢力に抗して長孔17の遠心方向端部17bに押圧保持されていたピン12aは、バネ13の付勢力により板カム20の周縁部20a上をその鋭角部20d側から鈍角部20c側へ摺動し、その結果ピン12aは長孔17の求心方向端部17aへ復帰するため、プランジャ12先端は巻き軸2の切欠18に係合する様に突出し、駆動側歯車5に対し巻き軸2は巻取り方向Lへの回転は許容されるが、繰出し方向Rへの回転は規制された状態となる。
【0030】
更に、リモコン発信器の上昇ボタンが押されることで、その上昇ボタンが押されている間、駆動源4が巻取り方向Lに回転し、この回転が駆動小歯車11、駆動側歯車5、クラッチ6を介して巻き軸2に伝達される。
即ち、先端が軸孔5aに突出しているプランジャ12の巻取り方向L側の側部(左側部)12bが巻き軸2の側部受承面18bに当接係合するだけでプランジャ12を没入させられないため、駆動側歯車5の回転は巻き軸2に伝達され、巻き軸2が巻取り方向Lに回転する。
【0031】
この結果、左右のベルト1が巻き軸2に巻き取られえて、車椅子が牽引され、スロープに沿って上昇する。
又、巻き軸2は巻取り方向Lでは切欠18の先端受承面18aがプランジャ12先端をバネ13の付勢力に抗して軸孔5aより駆動側歯車5の遠心方向へ没入する様に押圧しながら回転するため、駆動側歯車5に対し空転し、渦巻きバネ13による巻取り方向Lの付勢力が常に巻き軸2に作用しているので、上記牽引中においてもベルト1は弛むことなく常に緊張状態で巻き取られる。
【0032】
そして、車椅子が車室内に設定された固定場所へ到達した段階で、介護者がリモコン発信器の上昇ボタンを離すことで駆動源4が停止する。
更に、駆動源4の停止により、ロック解除用ソレノイドへの通電が解除され、アンカーレバー25がアンカ歯車24に係合する方向に移動して、巻き軸2の回転が抑止される。
この状態で車室内に設置されている図示しない連結部材を車椅子のフレーム適所に連結して車椅子の前方移動を規制し、更にベルト1に所定の張力が作用する様にリモコン発信器の上昇ボタンを押してベルト1を若干巻き取った後、上昇ボタンを離すことで、巻き軸2の回転が抑止されてベルト1の繰り出しが規制され、車椅子が車室フロアに固定される。
【0033】
車椅子の降車時には、上記と同様にスロープを地上へ掛け渡した後、介護者がリモコン発信器の下降ボタンを押すことで、ロック解除用ソレノイドが通電されてアンカ歯車24からアンカーレバー25を離脱させ、巻き軸2の回転抑止状態が解除される。
更に、リモコン発信器の下降ボタンが押されることで、その下降ボタンが押されている間、駆動源4が繰出し方向Rに回転する。
尚、ベルト1が若干繰り出されて連結部材に対する前方への引っ張り力が解除された状態で一旦駆動源4を停止し、車椅子から連結部材を外しておく。
【0034】
駆動源4の上記回転は、駆動小歯車11を介して駆動側歯車5に伝達され、該駆動側歯車5を繰出し方向Rに回転させる。
この状態では、軸孔5aに突出しているプランジャ12の先端が渦巻きバネ13の付勢力に抗して軸孔5aより駆動側歯車5の遠心方向へ没入する様に切欠18の先端受承面18aに押圧されながらの回転が可能、即ち巻き軸2に対し駆動側歯車5は空転可能であり、巻き軸2は繰出し方向Rでは切欠18の側部受承面18bがプランジャ12の左側部12bに当接係合するだけでプランジャ12を没入させられないため、駆動側歯車5が繰出し方向Rへ回転しない限り、同方向への回転が規制される。
【0035】
したがって、車椅子が下降しようとすると、これにより引き出されるベルト1を介して巻き軸2が繰出し方向Rへ回転しようとするが、駆動側歯車5が同方向に回転しているため、巻き軸2は駆動側歯車5の回転速度を越えない範囲で繰出し方向Rへ回転して渦巻きバネ3の巻取り方向Lへの付勢力が作用するベルト1を常に緊張状態で繰り出し、言い換えれば車椅子を後退させるためにベルト1を引き出さない限り、駆動側歯車5は空転してベルト1を繰り出さないので、ベルト1は常に緊張状態で車椅子をスロープに沿って後退下降させられる。
【0036】
そして、車椅子が路面まで到達した段階で、介護者がリモコン発信器の下降ボタンを離すことで駆動源4が停止する。
更に、ロック解除用ソレノイドの通電が解除されて、アンカ歯車24にアンカーレバー25が噛合することで巻き軸2の回転が抑止され、この状態で車椅子を若干前進させてベルト1を弛緩させ、ベルト1の連結部を車椅子から外す。
次に、フリースイッチを押し操作して、ロック解除用ソレノイドを通電させることにより、アンカ歯車24からアンカーレバー25を離脱させて巻き軸2の回転抑止状態を解除し、渦巻きバネ3の付勢力によりベルト1を巻き軸2に巻き取らせる。
【0037】
尚、車椅子の牽引中又は後退中に駆動源4を停止しても、上記の通り巻き軸2は繰出し方向Rへの回転が規制されるため、それがスロープ上であっても車椅子をその位置に制止させられる。
更に、駆動側歯車5は巻き軸2に対し繰出し方向Rで空転可能なため、ベルト1が巻き軸2より全て繰り出されても、故障の原因となるベルト1の逆転(繰出し方向Rへの)巻取りができない。
【符号の説明】
【0038】
1 牽引部材(ベルト)
2 巻き軸
3 付勢手段(渦巻きバネ)
4 駆動源
5 駆動側歯車
5a 軸孔
6 クラッチ
12 プランジャ
12a ピン
12b (左)側部
13 バネ
16 駆動側歯車正面
17 長孔
17a 求心方向端部
17b 遠心方向端部
18 切欠
18a 先端受承面
18b 側部受承面
19 クラッチ掛け外し機構部
20 板カム
20a 周縁部(対辺)
21 回転抑止手段
L 牽引部材(ベルト)巻取り方向
R 牽引部材(ベルト)繰出し方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引対象物に先端が連結可能な牽引部材を巻装した巻き軸に、牽引部材をこれの巻取り方向に付勢する付勢手段を設けると共に、駆動源に連繋した駆動側歯車をクラッチを介して連繋したウインチ装置において、クラッチは、巻き軸を正逆回転自在に挿通する駆動側歯車の軸孔に先端が出没自在で、軸孔突出方向へ付勢したバネと共に駆動側歯車に内装されたプランジャと、巻き軸外周にプランジャが係合離脱可能に形成された切欠とから成り、該切欠はプランジャの先端が接離自在な先端受承面とプランジャの牽引部材巻取り方向側の側部が接離自在な側部受承面とから成ることを特徴とするウインチ装置。
【請求項2】
駆動側歯車正面には、プランジャの往復軌道に対応して長孔を設け、該長孔にプランジャより突設したピンを摺動自在に挿通し、該ピンを長孔の遠心方向端部へバネの付勢力に抗して強制的に移動させることにより、プランジャ先端を駆動側歯車内へ没入させるクラッチ掛け外し機構部を設けたことを特徴とする請求項1記載のウインチ装置。
【請求項3】
クラッチ掛け外し機構部は、駆動側歯車正面と隣接して巻き軸に回転自在に装着すると共に、ピンが摺接可能な周縁部を有する板カムと、該板カムの回転抑止手段と、該回転抑止手段による板カム回転抑止状態で巻き軸に対し空転可能な牽引部材繰出し方向へ回動する駆動側歯車とから成ることを特徴とする請求項2記載のウインチ装置。
【請求項4】
プランジャ及びバネは駆動側歯車の軸孔回りに相互に180度位相した位置に一対内装し、切欠は巻き軸外周に相互に180度位相した位置に一対形成し、板カムは平行四辺形状に形成され、板カムの1組の対辺の夫々に長孔の求心方向端部に位置するピンを当接したことを特徴とする請求項3記載のウインチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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