説明

ウインチ

【課題】簡素な構造で軽量・小型であって、水中でもロープを整然と確実に巻き取ったり巻き戻したりでき、水流抵抗が小さく、消費エネルギーが少なくてすみ、破損やそれに伴う誤動作が少なく、簡易に製造できる安価なウインチを提供する。
【解決手段】ウインチ2は、回転するロープ巻取ドラム25に同一回転軸のスリーブ22が挿入され、スリーブ22の外周でその軸に対し傾斜した周回溝23が設けられ、ドラム25から該軸向きに突き出た突起24が、変速器19によりスリーブ22と異なる速度で回転しつつ該軸と平行に突起24の往復動を誘導するガイド21を介して、周回溝23へ摺動走行可能に嵌まり、ガイド21で牽引されつつ連動して回転するドラム25が、スリーブ22の回転による周回溝23上での突起24の走行に連動してロープ12の径ずつ順次ずれながら、突起24の往復動に従い、ロープ12を層状に巻き取るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋、湖沼、河川、ダム等の水中で、任意の水深の環境状態を観測したりそのデータを通信したりする機器等が搭載された浮力体を昇降させるウインチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中の水深や水温、pH、クロロフィル濃度、塩分濃度等を測定する水中観測が行われている。水中観測においては、異なる水深で経時的に繰返し観測データを得ることが重要である。
【0003】
このような観測は、ロープを巻取るウインチと測定機器とが搭載された浮力体を、水底まで沈めた錨にそのロープで係留した水中測定装置によって行われる。ウインチでロープを巻き取って浮力体を沈めて深い水深で測定したり、ウインチでロープを巻き戻して解き放ち浮力体を浮き上がらせて浅い水深で測定したりして、繰返して異なる水深での環境状態が、観測される。
【0004】
従来のウインチは、特許文献1に示すように、ロープを巻取ドラムで多層に整然と巻き取るためにドラムに対峙したワイヤロープシフターのようなロープ横行案内具を有していた。このようなウインチ40のロープ横行案内具42は例えば、図6に示すように、互いに交差する右螺旋と左螺旋との往路案内溝43a及び復路案内溝43bを有するロープガイド案内軸44を、ドラム46に対峙させつつドラム46の回転軸と平行に配置しドラム46と連動して回転させ、ロープ横行案内具42に内蔵され案内溝43a・43bに嵌まり摺動可能な案内爪(不図示)を介して、ロープ横行案内具42のロープ誘導滑車45をドラム46の1回転毎にロープ41の径ずつスライドさせるというものである。
【0005】
このようなロープ横行案内具42は、ドラム46の外側に配置される。そのため、特に水中で駆動させる際、流体抵抗面積が増大して流体抵抗が大きくなる結果、ウインチ40の駆動に多大なエネルギーを要し、バッテリーを急激に消耗させ、ウインチ40の駆動時間が、短くなってしまう。
【0006】
この往路案内溝43aと復路案内溝43bとは、細い軸44上で細かく抉られ、中程で互いに交差し、両末端で繋がった精密なものである。案内爪は、この案内溝43a・43bの交差点や両端で円滑に摺動できるように、木の葉状で適度なすくい角を有する複雑で精密な形状としなければならないから、その作製には高度な調整技術を要する。しかもこの案内爪は、交差点通過時に交差した案内溝43a・43bの角と過度に接触したり、両末端通過時に大きく曲がった案内溝43a・43bに過度に応力がかかったりして、破損し易い。
【0007】
【特許文献1】実公昭63−41428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、簡素な構造で、軽量・小型であって、水中でもロープを整然と確実に巻き取ったり巻き戻したりでき、水流抵抗が小さく、消費エネルギーが少なくてすみ、破損やそれに伴う誤動作が少なく、簡易に製造できる安価なウインチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のウインチは、回転するロープ巻取ドラムに同一回転軸のスリーブが挿入され、該スリーブの外周でその軸に対し傾斜した周回溝が設けられ、該ドラムから該軸向きに突き出た突起が、変速器により該スリーブと異なる速度で回転しつつ該軸と平行に該突起の往復動を誘導するガイドを介して、該周回溝へ摺動走行可能に嵌まり、該ガイドで牽引されつつ連動して回転する該ドラムが、該スリーブの回転による該周回溝上での該突起の走行に連動してロープの径ずつ順次ずれながら、該突起の往復動に従い、該ロープを層状に巻き取っていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のウインチは、請求項1に記載されたもので、該溝が、該外周で周回する楕円状の溝、又は、互いに交差し合い端部で繋がる右螺旋と左螺旋との溝であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のウインチは、請求項1に記載されたもので、該変速器が、該スリーブに繋がった遊星歯車と、該ガイドに繋がった内接歯車と、太陽歯車とからなることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のウインチは、請求項1に記載されたもので、該突起が、該溝及び該ガイドと摺動するローラーを備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の水中測定装置は、請求項1に記載のウインチと測定機器とが、浮力体に搭載されており、該ウインチに一端を係止され巻き取られるロープの他端が、錨に繋がっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のウインチは、ロープ巻取ドラム内部に、ロープを整然と巻き取らせる機構を収めて、一体にした簡素で小型のものである。そのため軽量であり、しかも流体抵抗面積が狭いから、水中で使用しても流体抵抗が小さく、ロープを巻き取るのに少ないエネルギーで足りる。特に水中でバッテリーにより駆動させる際の電力消費量が少なくてすむので、小型バッテリーを用いても長時間繰返して使用できる。
【0015】
しかも、このウインチは、高度の調整技術を要する精密な部品を用いなくてすみ、部品の数や大きさを従来のウインチよりも遥かに低減できるので、簡便に効率よく、安価に製造することができる。しかも、簡易な構造であって、破損し難いから、汎用性があるうえ、誤動作を起こさず、長期間、安定して使用できる。
【0016】
このウインチを有する水中測定装置によれば、異なる水深で経時的に繰返し観測データを得ることができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0017】
以下、本発明のウインチ及びそれを有する水中測定装置の実施の好ましい形態を、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0018】
水中測定装置1は、図1に示すように、浮力体31と、それにフレーム15で吊り下げられて搭載されているウインチ2と、ウインチ2が巻き取るワイヤロープ12と、そのロープ12を係留する錨11とを、有している。
【0019】
ウインチ2は、モータ14と、それに接続された円筒状のスリーブ22と、そのスリーブ22が挿入された円筒状のトルク伝達シリンダ20と、そのシリンダ20を取り巻くロープ巻取ドラム25とを、有している。ロープ巻取ドラム25は、スリーブ22の略半分の筒長を有する円筒状部分と、その両端でロープがはみ出さないように円筒状部分よりも大径の鍔部分とを、有している。
【0020】
モータ14は、フレーム15に螺子止めされて固定されている。モータ14の出力軸がシャフトケース17内の減速機16に連結されている。シャフトケース17が、フレーム15に固定されて、摺動可能にスリーブ22へ挿入されている。
【0021】
スリーブ22の外周には、モータ14の出力軸方向に対して、ロープ巻取ドラム25の筒長Lに相当する幅Lだけ傾斜した周回溝23(図3参照)が、設けられている。スリーブ22が、摺動可能にトルク伝達シリンダ20へ挿入されている。トルク伝達シリンダ20は、モータ14の出力軸方向と平行に、細長い穴が開いたガイド21を有している。
【0022】
減速機16の出力軸が、トルクフランジ18にその外面側で螺子止めされている。トルクフランジ18が、その内面側の外周近傍で、内接歯車19cを介して、トルク伝達シリンダ20に螺子止めされている。内接歯車19cに噛み合う遊星歯車19aが、スリーブ22に軸支され、遊星歯車19aに噛み合う太陽歯車19bが、シャフトケース17に軸支されている。これらの歯車19a・19b・19cで、変速器19を形成している。
【0023】
トルク伝達シリンダ20が、摺動可能にロープ巻取ドラム25へ挿入されている。ドラム25の内壁から、モータ14の出力軸線へ向いて、突起24が突き出ている。突起24は、トルク伝達シリンダ20のガイド21を貫通して、スリーブ22の周回溝23へ摺動走行可能に嵌まっている。トルク伝達シリンダ20のガイド21は、この軸と平行に突起の往復動を誘導しつつ軸回転を案内するもので、この軸と平行に開いた穴である。その穴の軸方向での長さは、スリーブ22上で傾斜している周回溝23の傾斜した幅Lよりも、突起24の径と多少の余裕とを持つ程度だけ、長いものである(図3参照)。
【0024】
遊星歯車19aは、太陽歯車19bよりも大きな径を有し、スリーブ22が丁度一回転したときに、突起24がトルク伝達シリンダ20のガイド21内をロープ径だけずれながら移動するように、歯車数が調整されている。
【0025】
突起24には、スリーブ22の周回溝23で摺動走行し易くするローラーと、トルク伝達シリンダ20のガイド21で摺動し易くするローラーとが、重なって軸支されている。
【0026】
ロープ12の一端が、ロープ巻取ドラム25に螺子止めされている。ロープ12は、フレーム15で支えられた滑車13を介してウインチ2の下方向に延び、他端が、錨11に結い付けられている。
【0027】
浮力体31内に回路ボックス32が、収められている。回路ボックス32内に、モータ駆動制御回路及び電源回路が、納められている。電源回路が、モータ14に接続されている。また、回路ボックス32には、海上からの動作指示を受信する受信機又は動作手順を記憶したメモリと、動作指示回路とを有している。さらに回路ボックス32には、水温計・圧力計・pHメータ等の測定機器も納められている。
【0028】
ウインチ2は、以下のように、動作する。
【0029】
モータ14を駆動させると、モータ14の出力軸が回転する。モータ14の出力軸が連結された減速機16により、適度な比較的高速で、減速機16の出力軸が回転する。それに連結されたトルクフランジ18と、トルク伝達シリンダ20とが、同期して回転する。トルク伝達シリンダ20の回転に伴いそれに開けられたガイド21が、突起24を牽引するので、それに連動してドラムが回転する。ロープ12は、ドラムに巻き取られ始める。
【0030】
同時に、トルクフランジ18とトルク伝達シリンダ20とに挟み込まれている内接歯車19cも、同期して回転する。すると、減速機16の出力軸を中心に回転している内接歯車19cと、固定されたシャフトケース17に軸支されその位置で回転する太陽歯車19bとに、噛み合う遊星歯車19aが、内接歯車19cと逆に回転する。それに従い、スリーブ22が、トルク伝達シリンダ20よりも僅かに遅い速度で回転する。
【0031】
突起24が、傾斜している周回溝23の最もモータ14寄りに在るとき、ロープ12は、ドラム25の最もトルクフランジ18寄りで巻き取られる。
【0032】
スリーブ22の外周で傾斜している周回溝23へ、突起24が摺動走行可能に嵌まっているから、トルク伝達シリンダ20よりも遅く回転するスリーブ22の所為で、ドラム25が回転するに連れ、突起24が、ガイド21に沿って丁度ドラムの一回転毎に、ロープ径ずつ、トルクフランジ18寄りに、順次ずれる。
【0033】
ドラム25が数周回転すると、図2のように、突起24が、周回溝23の最もトルクフランジ18寄りに移動する。それに伴い、ロープ12は、ドラム25の最もモータ14寄りで巻き取られる。
【0034】
これが繰返されると、ロープ12が、層状に整然と巻き取られるようになる。
【0035】
ロープを、巻き戻して解き放つときも、同様である。
【0036】
なお、周回溝が、図3のようにスリーブの外周で周回する楕円状の溝の例を示したが、図4のように、互いに交差し合い端部で繋がる右螺旋と左螺旋とで形成され1回交差する8字状の溝であってもよく、多数回交差する溝であってもよい。
【0037】
水中測定装置は、以下のようにして使用される。
【0038】
図5に示すように、水中の観測すべき水域で、船上から水中に、水中測定装置1を投入する。すると、錨11の重さにより、浮力体31及びウインチ2ごと沈む。錨11が水底に達すると、浮力体31のためにウインチ2が水中で浮遊したままとなりロープ12が緊張するので、一定の水深(a)に留まる。船上からの指令信号を回戸ボックス32で受信すると、ロープ12を巻き戻して解き放つ。浮力体31の浮力のために、ウインチ2は浮力体31ごと、所定の水深(a)に至る。船上からの指令信号によりロープ巻取ドラムの巻き戻しを止める。
【0039】
pH測定等の所定の観測をしたのち、船上からの指令信号、又は回路ボックスのメモリに記憶された動作手順に基づき、ウインチ2を駆動させ、ロープ12を巻き取る。すると、ロープ12が整然と巻き取られながら、再び所定の水深(a)に到達する。これを繰返して、異なる水深で経時的に水中観測を行う。
【0040】
海流等で、ウインチ2が浮力体ごと、流されていても、同様に所定の水深(b)・(b)で測定することができる。このとき、ウインチ2が小型であるためその流体抵抗面積が狭く流体抵抗が小さいので、ウインチ2の駆動のエネルギーが少なくてすみ、バッテリーを消耗させず、長時間ウインチ2の駆動が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
このウインチは、ロープを整然と巻き取ったり巻き戻したりするのに有用であり、特に異なる水深で水中観測する際に、水中測定装置を任意の水深に移動させて時間的および位置的に連続した水中の観測データを得るのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を適用するウインチの使用途中を示す断面図である。
【図2】本発明を適用するウインチの別な使用途中を示す一部切欠き側面図である。
【図3】本発明を適用するウインチの一部切欠き平面図である。
【図4】本発明を適用する別なウインチの一部切欠き平面図である。
【図5】本発明を適用するウインチとそれを搭載した水中測定装置との使用途中を示す概要図である。
【図6】本発明を適用外のウインチを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1は水中測定装置、2はウインチ、11は錨、12はロープ、13は滑車、14はモータ、15はフレーム、16は減速機、17はシャフトケース、18はトルクフランジ、19aは遊星歯車、19bは太陽歯車、19cは内接歯車、19は変速器、20はトルク伝達シリンダ、21はガイド、22はスリーブ、23は周回溝、24は突起、25はドラム、31は浮力体、32は回路ボックス、40はウインチ、41はロープ、42はロープ横行案内具、43aは往路案内溝、43bは復路案内溝、44はロープガイド案内軸、45はロープ誘導滑車、46はドラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するロープ巻取ドラムに同一回転軸のスリーブが挿入され、該スリーブの外周でその軸に対し傾斜した周回溝が設けられ、該ドラムから該軸向きに突き出た突起が、変速器により該スリーブと異なる速度で回転しつつ該軸と平行に該突起の往復動を誘導するガイドを介して、該周回溝へ摺動走行可能に嵌まり、該ガイドで牽引されつつ連動して回転する該ドラムが、該スリーブの回転による該周回溝上での該突起の走行に連動してロープの径ずつ順次ずれながら、該突起の往復動に従い、該ロープを層状に巻き取っていることを特徴とするウインチ。
【請求項2】
該溝が、該外周で周回する楕円状の溝、又は、互いに交差し合い端部で繋がる右螺旋と左螺旋との溝であることを特徴とする請求項1に記載のウインチ。
【請求項3】
該変速器が、該スリーブに繋がった遊星歯車と、該ガイドに繋がった内接歯車と、太陽歯車とからなることを特徴とする請求項1に記載のウインチ。
【請求項4】
該突起が、該溝及び該ガイドと摺動するローラーを備えていることを特徴とする請求項1に記載のウインチ。
【請求項5】
請求項1に記載のウインチと測定機器とが、浮力体に搭載されており、該ウインチに一端を係止され巻き取られるロープの他端が、錨に繋がっていることを特徴とする水中測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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