説明

ウェブ搬送装置及び印刷機

【課題】ウェブ搬送装置及び印刷機において、乾燥装置から搬送されて表面に溶剤を含む塗布液が塗布された面に蒸発した溶剤が再付着することにより、塗布面が欠損することを防止する。
【解決手段】乾燥装置14により乾燥されたウェブWを冷却装置15の冷却シリンダ25に巻き付けて搬送しながら冷却するウェブ搬送工程にて、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給装置31を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷乾燥されたウェブをガイドロールにより搬送するウェブ搬送装置、並びに、このウェブ搬送装置が搭載された印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフセット輪転印刷機は、給紙装置とインフィード装置と印刷装置と乾燥装置と冷却装置とウェブパス装置と折り装置と排紙装置とから構成されている。従って、給紙装置により巻取体からウェブが引き出され、このウェブがインフィード装置により所定のテンションで印刷装置に供給され、この印刷装置における各印刷ユニットにより多色印刷が施され、印刷されたウェブは、乾燥装置でインキが乾燥され、冷却装置で冷却され、ウェブパス装置を経て搬送された後、折り装置により切断されて折り畳まれることで折帖が作成され、排紙装置により搬出される。
【0003】
ところで、上述したオフセット輪転印刷機では、印刷されたウェブは、乾燥装置にて、転写されたインキが温風乾燥され、冷却装置にて、複数のシリンダに接触しながら搬送されることで、乾燥後の過剰な熱が冷却される。この場合、乾燥装置では、ウェブの印刷面(転写されたインキ)に対して温風を吹き付けることで、インキを乾燥しており、このとき、インキに含まれる溶剤が蒸気となり、この溶剤蒸気がウェブの走行に同伴して冷却装置に流れ込む。冷却装置では、ウェブの印刷面をシリンダに接触させて冷却することから、乾燥装置からの溶剤蒸気がウェブの印刷面とシリンダ外周面との接触部周辺に滞留し、このとき、溶剤蒸気が冷却されることで凝縮して印刷面に付着する。すると、溶剤蒸気が付着したウェブの印刷面では、転写されたインキが溶解し、ウェブの印刷面が次のシリンダの外周面に接触したとき、溶解したインキがシリンダの表面に付着し、ウェブでは印刷欠損が発生する一方、シリンダでは汚れが発生してウェブの搬送に支障をきたしてしまう。
【0004】
そこで、乾燥装置からの溶剤蒸気が冷却装置側に流れ込むのを防止する技術として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載されたスモークカッター装置では、乾燥装置から排出されたウェブの上下面に向けて空気を吹き付けることで、ウェブに同伴するスモーク(溶剤蒸気)を除去(剥離)させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平06−064871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のスモークカッター装置にあっては、ウェブの上下面に向けて空気を吹き付けることで、ウェブに同伴するスモークを除去しており、ウェブへの空気の吹き付け速度(流量)が重要となる。即ち、ウェブへの空気の吹き付け速度が低速である場合には、ウェブに同伴するスモークを適正に除去することができない。一方、ウェブへの空気の吹き付け速度が高速である場合には、この吹き付け空気によりウェブにばたつきが発生し、ウェブがスモークカッターに接触したり、乾燥装置内で周辺部材に接触したりすることがあり、ウェブの印刷面が損傷してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するものであり、乾燥装置から搬送されて表面に溶剤を含む塗布液が塗布された面に蒸発した溶剤が再付着することにより、塗布面が欠損することを防止するウェブ搬送装置及び印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明のウェブ搬送装置は、乾燥装置により乾燥されたウェブを回転体に巻き付けて搬送するウェブ搬送装置において、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段が設けられる、ことを特徴とするものである。
【0009】
従って、ウェブが乾燥装置から回転体に巻き付けられるとき、気流促進手段によりこの回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れが促進されることで、ウェブに同伴する溶剤蒸気が回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置から搬送されるウェブに対して、このウェブに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、インキや水性ニスなどの塗布液が塗布された塗布面の品質の向上を可能とすることができる。
【0010】
本発明のウェブ搬送装置では、前記気流促進手段は、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給する流体供給手段を有することを特徴としている。
【0011】
従って、気流促進手段を流体供給手段とすることで、装置を簡素化することが可能となり、また、流体供給手段は、溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給するため、ここに滞留する溶剤蒸気を適正に除去することができる。
【0012】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段は、前記回転体における回転方向の上流側から前記溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給することを特徴としている。
【0013】
従って、流体供給手段が、回転体が回転することで発生する周囲の気流に合わせて流体を供給することで、流体を溶剤蒸気滞留部に向けて効率良く供給することができる。
【0014】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段は、前記回転体に巻き付けられるときの接触面側に向けて流体を供給することを特徴としている。
【0015】
従って、回転体とウェブ接触面側に向けて流体を供給するため、回転体によりウェブが回転体に巻き付けられてその搬送方向が変わるとき、適切に溶剤濃度を低下させることができ、塗布面の欠損をより効果的に防止することができる。
【0016】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段による流体供給方向は、前記回転体に巻き付けられるウェブの走行方向の下流側に向けて所定の鋭角に設定されることを特徴としている。
【0017】
従って、流体供給手段からの流体を、適正に溶剤蒸気滞留部に供給することができる。
【0018】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段による流体供給速度及び流体供給流量は、装置の運転速度に連動して制御されることを特徴としている。
【0019】
従って、装置の運転速度に応じて、より適切な流れを発生させて溶剤濃度を低下させることができ、塗布面の欠損をより効果的に防止することができる。
【0020】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段による流体供給速度は、前記回転体の周速またはウェブの搬送速度と同速度に設定されることを特徴としている。
【0021】
従って、流体供給手段からの流体が、回転体が回転することで発生する周囲の気流と適正に流入することで、ウェブの搬送や印刷面に与える悪影響を低減することができる。
【0022】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段は、ウェブにおける走行方向の上流側から前記溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給することを特徴としている。
【0023】
従って、流体供給手段からの流体が、回転体に向かうウェブの同伴流と一緒となって溶剤蒸気滞留部に供給されることとなり、流体を適正に溶剤蒸気滞留部に供給することができる。
【0024】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段は、空気またはミストを含有する空気を噴射可能であることを特徴としている。
【0025】
従って、流体として空気を適用することで、構造の簡素化が可能となり、また、ミストを含有する空気を適用することで、乾燥装置で加熱されたウェブを冷却することができる。
【0026】
本発明のウェブ搬送装置では、前記流体供給手段は、前記回転体における軸方向における中央部から端部側に向けて流体を供給することを特徴としている。
【0027】
従って、流体が回転体における軸方向における中央部から端部側に向けて供給されることで、溶剤蒸気は、回転体から単に離間する方向に排除されるだけでなく、軸端側にも排除されることとなり、溶剤蒸気を適正に排除し、ウェブに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制することができる。
【0028】
本発明のウェブ搬送装置では、前記気流促進手段は、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気を吸引する流体吸引手段を有することを特徴としている。
【0029】
従って、気流促進手段を流体吸引手段とすることで、装置を簡素化することが可能となり、また、流体吸引手段は、滞留する溶剤蒸気を吸引するため、環境状態の悪化を防止することができる。
【0030】
本発明のウェブ搬送装置では、前記気流促進手段は、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給する流体供給手段と、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気を吸引する流体吸引手段を有することを特徴としている。
【0031】
従って、流体供給手段及び溶剤吸引手段は、溶剤蒸気滞留部に滞留する溶剤蒸気をより適正に除去することができ、且つ、溶剤吸引手段は、滞留する溶剤蒸気を吸引して環境状態の悪化を防止することができる。
【0032】
本発明のウェブ搬送装置では、前記乾燥装置は、ウェブに熱を与えて乾燥するものであり、前記回転体は、ウェブを冷却する冷却装置を有することを特徴としている。
【0033】
従って、乾燥装置で熱乾燥されたウェブを回転体の冷却装置により冷却することができ、印刷品質を向上することができる。
【0034】
また、本発明の印刷機は、巻取紙からウェブを供給する給紙装置と、該給紙装置から繰り出されたウェブに印刷を施す印刷装置と、該印刷装置により印刷が施されたウェブを乾燥する乾燥装置と、該乾燥装置により乾燥されたウェブを冷却シリンダに巻き付けて冷却する冷却装置と、該冷却装置により冷却されたウェブを裁断して折り曲げることで折帖を形成する折り装置と、該折り装置により形成された折帖を排紙する排紙装置と、を備える印刷機において、前記冷却シリンダによるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段が設けられる、ことを特徴とするものである。
【0035】
従って、ウェブが乾燥装置から冷却シリンダに巻き付けられるとき、気流促進手段によりこの冷却シリンダによるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れが促進されることで、ウェブに同伴する溶剤蒸気が冷却シリンダによるウェブの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置から搬送されるウェブに対して、このウェブに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、印刷品質の向上を可能とすることができる。
【0036】
また、本発明の印刷機は、巻取紙からウェブを供給する給紙装置と、該給紙装置から繰り出されたウェブに下地処理剤を供給する下地処理剤供給装置と、ウェブに供給された下地処理剤を乾燥する乾燥装置と、該乾燥装置により乾燥されたウェブを巻き付けて搬送する回転体と、を備える印刷機であって、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段が設けられる、ことを特徴とする印刷機。
【0037】
従って、ウェブが乾燥装置から回転体に巻き付けられるとき、気流促進手段によりこの回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れが促進されることで、ウェブに同伴する溶剤蒸気が回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置から搬送されるウェブに対して、このウェブに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、下地処理剤などの塗布液が塗布された塗布面の品質の向上を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明のウェブ搬送装置によれば、回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段を設けるので、乾燥装置から搬送されて表面に溶剤を含む塗布液が塗布された面が溶剤により再び欠損することを防止することができる。
【0039】
また、本発明の印刷機によれば、給紙装置と印刷装置と乾燥装置と冷却装置と折り装置と排紙装置とを備えて構成し、冷却シリンダによるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段を設けるので、乾燥装置から搬送されるウェブに対して、このウェブに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、品質の向上を可能とすることができる。
【0040】
また、本発明の印刷機によれば、給紙装置と下地処理剤供給装置と乾燥装置とガイドローラとを備えて構成し、ガイドローラによるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段を設けるので、乾燥装置から搬送されるウェブに対して、このウェブに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、品質の向上を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。
【図2】図2は、実施例1のウェブ搬送装置における空気噴射装置を表す概略図である。
【図3】図3は、冷却シリンダ近傍における溶剤蒸気の流れを表す詳細図である。
【図4−1】図4−1は、従来のウェブ搬送装置における冷却シリンダ近傍での溶剤蒸気の流れを表す概略図である。
【図4−2】図4−2は、実施例1のウェブ搬送装置における冷却シリンダ近傍での溶剤蒸気の流れを表す概略図である。
【図5】図5は、実施例1のウェブ搬送装置が搭載された印刷機としての商業用オフセット輪転印刷機を表す概略構成図である。
【図6】図6は、本発明の実施例2に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。
【図7】図7は、本発明の実施例3に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。
【図8】図8は、本発明の実施例4に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。
【図9】図9は、実施例4のウェブ搬送装置の変形例を表す概略図である。
【図10】図10は、本発明の実施例5に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。
【図11】図11は、実施例6のウェブ搬送装置が搭載された印刷機を表す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るウェブ搬送装置及び印刷機の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
図1は、本発明の実施例1に係るウェブ搬送装置を表す概略図、図2は、実施例1のウェブ搬送装置における空気噴射装置を表す概略図、図3は、冷却シリンダ近傍における溶剤蒸気の流れを表す詳細図、図4−1は、従来のウェブ搬送装置における冷却シリンダ近傍での溶剤蒸気の流れを表す概略図、図4−2は、実施例1のウェブ搬送装置における冷却シリンダ近傍での溶剤蒸気の流れを表す概略図、図5は、実施例1のウェブ搬送装置が搭載された印刷機としての商業用オフセット輪転印刷機を表す概略構成図である。
【0044】
本実施例の印刷機は、商業用オフセット輪転印刷機であって、図5に示すように、給紙装置11と、インフィード装置12と、印刷装置13と、乾燥装置14と、冷却装置15と、ウェブパス装置16と、折り装置17と、排紙装置18とから構成されている。
【0045】
給紙装置11は、2つの巻取体(ウェブロール)が装着されるリールスタンドを有しており、一方の巻取体から引き出されて走行しているウェブWを、他方の巻取体のウェブWに接続することで、連続的にウェブWを供給可能となっている。インフィード装置12は、給紙装置11から繰り出されたウェブWを印刷装置13側に供給するものである。印刷装置13は、4つのインキ色である藍(Cyan)、紅(Magenta)、黄(Yellow)、墨(Black)ごとの4個の印刷ユニット21,22,23,24がウェブ走行方向に沿って並設されて構成されている。各印刷ユニット21,22,23,24は、走行するウェブWの両面(表面及び裏面)に印刷を施すことができる。
【0046】
乾燥装置14は、印刷装置13により印刷が施されたウェブW上のインキを乾燥させるためのものであり、印刷が施されたウェブWの上面及び下面に対して温風を吹き付け、インキを乾燥することができる。冷却装置15は、乾燥装置14での乾燥後の過剰な熱を蓄えるウェブWを適当な温度まで冷却するものであり、ウェブWを巻き付けて冷却する複数(本実施例では、4個)の冷却シリンダ25,26,27,28を有している。この冷却シリンダ25,26,27,28は、内部に冷却水を循環することで、接触するウェブWを冷却可能となっている。ウェブパス装置16は、乾燥されて冷却されたウェブWを搬送するものであり、折り装置17は、ウェブWを縦折りされた後に断裁し、所定の大きさに折り畳んで折帖を形成するものであり、排紙装置18は、折り畳まれた折帖を機外へ搬出するものである。
【0047】
従って、給紙装置11により巻取体からウェブWが引き出され、インフィード装置12により印刷装置13に供給され、この印刷装置13にて、各印刷ユニット21,22,23,24により多色両面印刷が施され、印刷されたウェブWは、乾燥装置14で温風によりインキが乾燥され、冷却装置15の各冷却シリンダ25,26,27,28に接触することで冷却され、ウェブパス装置16を経て搬送された折り装置17により折帖が作成され、排紙装置18により搬出される。
【0048】
ところで、このような商業用オフセット輪転印刷機の印刷装置13にて、使用されるインキは、溶剤を含んでいる。例えば、油性インキ及び水性インキは、一般に、顔料、インキ用樹脂、石油系溶剤または水溶性溶剤、添加剤などを主成分として形成されている。そして、この印刷装置13で印刷されたウェブWは、乾燥装置14にて、転写されたインキが温風乾燥され、冷却装置15にて、各冷却シリンダ25,26,27,28に接触しながら搬送されることで、乾燥後の過剰な熱が冷却される。このとき、乾燥装置14では、ウェブWのインキ乾燥時に、このインキに含まれる溶剤が蒸気として発生し、溶剤蒸気がウェブWの走行に同伴して冷却装置15側に流れ込む。すると、冷却装置15にて、溶剤蒸気が冷却されて凝縮し、ウェブWの印刷面に付着し、この印刷面上のインキを溶解し、印刷品質を低下させてしまう。
【0049】
そこで、実施例1では、乾燥装置14から冷却装置15にウェブWを搬送するウェブ搬送装置にて、ウェブWに同伴する溶剤蒸気の滞留を防止することで印刷面への悪影響を抑制し、印刷品質の向上を可能としている。
【0050】
即ち、実施例1のウェブ搬送装置では、図1及び図2に示すように、冷却装置15の冷却シリンダ(回転体)25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段を設けている。この場合、ウェブWが乾燥装置14から冷却装置15に搬送されて冷却されるとき、このウェブWは、冷却シリンダ25に巻き取られることから、ウェブWの巻付け開始位置とは、ウェブWの一方の面(本実施例では、下面)が最初に冷却シリンダ25の外周面に接触する位置である。
【0051】
実施例1にて、この気流促進手段は、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて空気(流体)を供給する空気供給装置31としている。具体的に、この空気供給装置31は、冷却シリンダ25における回転方向の上流側から溶剤蒸気滞留部に向けて空気を供給する。この場合、空気に代えて、水のミストを含有する空気を噴射してもよい。
【0052】
この空気供給装置31において、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置に対して、冷却シリンダ25における回転方向の上流側には、エアチャンバ32が設けられている。このエアチャンバ32は、冷却シリンダ25の軸方向に沿って配設され、少なくとも搬送するウェブWの幅と同等の長さを有している。このエアチャンバ32の上部には、冷却シリンダ25の軸方向に沿ったスリットノズル33が設けられている。このスリットノズル33は、この冷却シリンダ25の外周面に所定隙間をもって近接して配置されており、冷却シリンダ25の接線方向であって、冷却シリンダ25における回転方向の下流側に向けて空気を噴射(供給)可能となっている。なお、エアチャンバ32には、エア配管34を介して図示しない空気供給源に連結されている。
【0053】
この場合、エアチャンバ32のスリットノズル33からの噴射エアの方向は、冷却シリンダ25に巻き付けられるウェブWの走行方向の下流側に向けて所定の鋭角に設定されている。即ち、エアチャンバ32のスリットノズル33からの噴射エアFと、冷却シリンダ25に巻き付けられるウェブWとの間の角度θが90度より小さい鋭角に設定されている。
【0054】
また、エアチャンバ32のスリットノズル33からの噴射エアの噴射速度(供給速度)は、装置(印刷機)の運転速度とほぼ同速度に設定されている。即ち、冷却シリンダ25が回転することで、その外周面の近傍には搬送流が発生し、この搬送流は冷却シリンダ25の周速(または、ウェブWの搬送速度)とほぼ同速度となっている。エアチャンバ32のスリットノズル33からは、冷却シリンダ25の搬送流と同速度の噴射エアを噴射するようにしている。なお、エアチャンバ32のスリットノズル33から噴射される空気の流量は、冷却シリンダ25の搬送流の流量の2倍から3倍程度の流量とすることが望ましい。
【0055】
この場合、噴射エアの噴射速度及び噴射流量は、装置(印刷機)の運転速度に連動して制御されるようになっている。即ち、運転速度としての冷却シリンダ25の回転速度(周速)やウェブWの搬送速度が変動するのに伴って、噴射エアの噴射速度や噴射流量を変更する。この場合、冷却シリンダ25の回転速度やウェブWの搬送速度に対して適切な気流を形成することができる。
【0056】
但し、噴射エアの噴射速度及び噴射流量を固定値として、装置(印刷機)の運転速度に連動して制御しなくてもよく、制御系を簡素化することができる。この場合、装置の運転速度に対して、噴射エアの噴射速度や噴射流量を高くすると、溶剤蒸気滞留部の気流を大きく促進することができ、噴射エアの噴射速度や噴射流量を低くすると、消費電力を低下させることができる。そのため、印刷機の印刷状態や周囲環境などにより、噴射エアの噴射速度及び噴射流量を適正値としてもよい。
【0057】
なお、乾燥装置14のウェブWの出口側には、冷却装置15の上流側に位置して上下一対のスモークカッタ41,42が設けられている。このスモークカッタ41,42は、乾燥装置14から排出されるウェブWに同伴する溶剤蒸気などの流体を剥離し、冷却シリンダ25側に流れる溶剤蒸気の流量を減少させるものである。
【0058】
ここで、実施例1のウェブ搬送装置の作動について説明する。
【0059】
図1に示すように、印刷が完了したウェブWは、乾燥装置14にて、上下面(表面及び裏面)に温風が吹きつけられることでインキが乾燥され、冷却装置15に搬送される。この冷却装置15にて、ウェブWは、各冷却シリンダ25,26・・・に順に巻き取られることで、表面及び裏面が冷却シリンダ25,26・・・の外周面に接触して冷却される。
【0060】
このとき、乾燥装置14では、ウェブWに転写されたインキの乾燥時に、このインキに含まれる溶剤が蒸発し、溶剤蒸気がウェブWの走行に同伴して冷却装置15(冷却シリンダ25)側に流れ込む。即ち、図3に示すように、乾燥装置14から冷却装置15に搬送されるウェブWは、その走行により発生する気流により、溶剤蒸気を含めて周囲の空気を同伴させ、気流Aを生成する。一方、冷却シリンダ25は、ウェブWの巻取方向に回転することから、その外周面の近傍にその回転方向に沿った搬送流Bを生成する。この溶剤蒸気を含んだ気流Aと空気の搬送流Bは、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域Dに向けて流れる。すると、溶剤蒸気を含んだ気流Aは、空気の搬送流Bと混合し、一部は、排出気流Cとなって気流Aと搬送流Bの間から排出されるが、その多くは、領域Dに滞留してしまう。
【0061】
この点は、図4−1の気流の流れの模式図からも明らかであり、溶剤蒸気を含んだ気流Aと、空気の搬送流Bが領域Dに向かって流れるものの、排出気流Cが微弱となり、旋回流Cが発生し、溶剤蒸気を含んだ気流Aが領域Dに滞留し、この領域Dでの溶剤蒸気濃度が高くなっている。すると、冷却シリンダ25により領域Dにある溶剤蒸気が冷却されて凝縮し、ウェブWの印刷面に付着し、この印刷面上のインキを溶解し、印刷品質を低下させてしまう。
【0062】
一方、実施例1のように、エアチャンバ32のスリットノズル33から、冷却シリンダ25の搬送流Bに沿って空気を噴射すると、図4−2に示すように、空気の搬送流Bの流量が増加して搬送流Bとなり、領域Dに流れ込む溶剤蒸気を含んだ気流Aを排除し、排出気流Cに加えて、排出気流Cが発生する。つまり、領域Dから排出される気流を促進することで、溶剤蒸気を含んだ気流Aの領域Dへの滞留を抑制し、この領域Dでの溶剤蒸気濃度を低下させる。すると、冷却シリンダ25により領域Dにて溶剤蒸気が凝縮してウェブWの印刷面に付着することはほとんどなく、印刷品質の低下が防止される。
【0063】
このように実施例1のウェブ搬送装置及び印刷機にあっては、乾燥装置14により乾燥されたウェブWを冷却装置15の冷却シリンダ25に巻き付けて搬送しながら冷却するウェブ搬送工程にて、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給装置31を設けている。
【0064】
従って、ウェブWが乾燥装置14から冷却シリンダ25に巻き付けられるとき、空気供給装置31から冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域Dに向けて空気が供給されることで、この領域Dにおける排出気流の流れが促進される。そのため、ウェブWに同伴する溶剤蒸気が冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置14から搬送されるウェブWに対して、このウェブWに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、インキや水性ニスなどの塗布液が塗布された塗布面における印刷品質の向上を可能とすることができる。
【0065】
この場合、気流促進手段として空気供給装置31を設けており、スリットノズル33を有するエアチャンバ32を設けるだけでよく、装置を簡素化することが可能となり、また、空気供給装置31は、溶剤蒸気滞留部(領域D)に向けて空気を供給するため、ここに滞留する溶剤蒸気を適正に除去することができる。
【0066】
また、実施例1のウェブ搬送装置では、空気供給装置31は、冷却シリンダ25における回転方向の上流側から溶剤蒸気滞留部(領域D)に向けて空気を供給している。従って、空気供給装置31が、冷却シリンダ25が回転することで発生する周囲の気流(搬送流)に合わせて空気を供給するため、空気を溶剤蒸気滞留部に向けて効率良く供給することができる。
【0067】
また、実施例1のウェブ搬送装置では、空気供給装置31による空気供給方向を、冷却シリンダ25に巻き付けられるウェブWの走行方向の下流側に向けて所定の鋭角に設定している。従って、空気供給装置31からの空気を適正に溶剤蒸気滞留部に供給することができる。
【0068】
また、実施例1のウェブ搬送装置では空気供給装置31による空気供給速度を冷却シリンダ25の周速と同速度に設定している。従って、空気供給装置31からの空気が、冷却シリンダ25が回転することで発生する周囲の気流と適正に流入することで、ウェブWの搬送や印刷面に与える悪影響を低減することができる。
【0069】
また、実施例1のウェブ搬送装置では、空気供給装置31は、空気またはミストを含有する空気を噴射可能としている。従って、流体として空気を適用することで、構造の簡素化が可能となり、また、ミストを含有する空気を適用することで、乾燥装置14で加熱されたウェブWを効率的に冷却することができる。
【実施例2】
【0070】
図6は、本発明の実施例2に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0071】
実施例2のウェブ搬送装置では、図6に示すように、冷却装置15の冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて空気(流体)を供給する空気供給装置51を設けている。具体的に、この空気供給装置51は、ウェブWにおける走行方向の上流側から溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給する。
【0072】
この空気供給装置51において、乾燥装置14と冷却装置15の冷却シリンダ25との間であって、走行するウェブWの下方には、エアチャンバ52が設けられている。このエアチャンバ52は、冷却シリンダ25の軸方向に沿って配設され、少なくとも搬送するウェブWの幅と同等の長さを有している。このエアチャンバ52における冷却シリンダ25側には、冷却シリンダ25の軸方向に沿ったスリットノズル53が設けられている。このスリットノズル53は、ウェブWの走行方向の下流側に向けてほぼ平行に空気を噴射(供給)可能となっている。
【0073】
この場合、エアチャンバ52のスリットノズル53からの噴射エアの噴射速度(供給速度)は、装置の運転速度、ここでは、ウェブWの搬送速度とほぼ同速度に設定されている。即ち、ウェブWが走行することで、その上下面の近傍には搬送流が発生し、この搬送流はウェブWの搬送速度とほぼ同速度となっている。エアチャンバ52のスリットノズル53からは、ウェブWの搬送流と同速度の噴射エアを噴射するようにしている。
【0074】
従って、印刷が完了したウェブWが、乾燥装置14で熱乾燥され、冷却装置15の各冷却シリンダ25,26・・・に順に巻き取られることで冷却されるとき、ウェブWに転写されたインキに含まれる溶剤が蒸発し、溶剤蒸気がウェブWの走行に同伴して冷却装置15(冷却シリンダ25)側に流れ込む。
【0075】
このとき、空気供給装置51にて、エアチャンバ52のスリットノズル53から、乾燥装置14から冷却装置15に搬送されるウェブWに同伴する溶剤蒸気を含んだ気流Aに沿って空気を噴射する。すると、溶剤蒸気を含んだ気流Aの流量が増加して搬送流Aとなり、領域Dに流れ込む溶剤蒸気を含んだ気流Aにより領域Dから排出される気流が促進される。そのため、溶剤蒸気を含んだ気流Aの領域Dへの滞留を抑制し、この領域Dでの溶剤蒸気濃度を低下させる。すると、冷却シリンダ25により領域Dにて溶剤蒸気が凝縮してウェブWの印刷面に付着することはほとんどなく、印刷品質の低下が防止される。
【0076】
このように実施例2のウェブ搬送装置及び印刷機にあっては、乾燥装置14により乾燥されたウェブWを冷却装置15の冷却シリンダ25に巻き付けて搬送しながら冷却するウェブ搬送工程にて、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給装置51を設けている。
【0077】
従って、ウェブWが乾燥装置14から冷却シリンダ25に巻き付けられるとき、空気供給装置51から冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域Dに向けて空気が供給されることで、この領域Dにおける排出気流の流れが促進される。そのため、ウェブWに同伴する溶剤蒸気が冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置14から搬送されるウェブWに対して、このウェブWに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、印刷品質の向上を可能とすることができる。
【0078】
また、実施例2のウェブ搬送装置では、空気供給装置51は、ウェブWにおける走行方向の上流側から溶剤蒸気滞留部(領域D)に向けて空気を供給している。従って、空気供給装置51からの空気が、冷却シリンダ25に向かうウェブWの同伴流と一緒となって溶剤蒸気滞留部に供給されることとなり、空気を適正に溶剤蒸気滞留部に供給することができる。
【実施例3】
【0079】
図7は、本発明の実施例3に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0080】
実施例3のウェブ搬送装置では、図7に示すように、冷却装置15の冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気を吸引する空気吸引装置61を設けている。
【0081】
この空気吸引装置61において、乾燥装置14と冷却装置15の冷却シリンダ25との間であって、走行するウェブWの下方には、吸引管62が設けられている。この吸引管62は、冷却シリンダ25の軸方向に沿って配設され、少なくとも搬送するウェブWの幅と同等の長さを有している。この吸引管62における冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍側には、冷却シリンダ25の軸方向に沿った吸引ノズル63が設けられている。この吸引ノズル63は、スリット形状をなし、周辺の空気を吸引可能となっている。なお、吸引管62には、図示しない吸引源が連結されている。
【0082】
従って、印刷が完了したウェブWが、乾燥装置14で熱乾燥され、冷却装置15の各冷却シリンダ25,26・・・に順に巻き取られることで冷却されるとき、ウェブWに転写されたインキに含まれる溶剤が蒸発し、溶剤蒸気がウェブWの走行に同伴して冷却装置15(冷却シリンダ25)側に流れ込む。
【0083】
このとき、空気吸引装置61にて、吸引ノズル63から周囲の空気を吸引管62内に吸引している。すると、溶剤蒸気を含んだ気流Aが領域Dに流れ込む一方、冷却シリンダ25の回転方向に伴って発生する空気の搬送流Bが領域Dに向けて流れる。すると、溶剤蒸気を含んだ気流Aと空気の搬送流Bとが混合し、排出気流Cとなって気流Aと搬送流Bの間から排出される。吸引ノズル63は、この領域Dからの排出気流Cを吸引することで、領域Dから排出される気流が促進される。そのため、溶剤蒸気を含んだ気流Aの領域Dへの滞留を抑制し、この領域Dでの溶剤蒸気濃度を低下させる。すると、冷却シリンダ25により領域Dにて溶剤蒸気が凝縮してウェブWの印刷面に付着することはほとんどなく、印刷品質の低下が防止される。
【0084】
このように実施例3のウェブ搬送装置及び印刷機にあっては、乾燥装置14により乾燥されたウェブWを冷却装置15の冷却シリンダ25に巻き付けて搬送しながら冷却するウェブ搬送工程にて、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気吸引装置61を設けている。
【0085】
従って、ウェブWが乾燥装置14から冷却シリンダ25に巻き付けられるとき、空気吸引装置61により冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域Dに滞留する溶剤蒸気を含んだ空気を吸引することで、この領域Dにおける排出気流の流れが促進される。そのため、ウェブWに同伴する溶剤蒸気が冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置14から搬送されるウェブWに対して、このウェブWに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、印刷品質の向上を可能とすることができる。
【0086】
また、実施例3のウェブ搬送装置では、気流促進手段を、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気を吸引する空気吸引装置61としている。従って、装置を簡素化することが可能となり、また、空気吸引装置61が滞留する溶剤蒸気を吸引するため、周辺の環境状態の悪化を防止することができる。
【実施例4】
【0087】
図8は、本発明の実施例4に係るウェブ搬送装置を表す概略図、図9は、実施例4のウェブ搬送装置の変形例を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0088】
実施例4のウェブ搬送装置では、図8に示すように、冷却装置15の冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給吸引装置71を設けている。
【0089】
この空気供給吸引装置71は、上述した実施例1で説明したスリットノズル33を有するエアチャンバ32と、実施例3で説明した吸引ノズル63を有する吸引管62とを有している。即ち、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置に対して、冷却シリンダ25における回転方向の上流側にエアチャンバ32が配置され、冷却シリンダ25の軸方向に沿ったスリットノズル33が設けられている。このスリットノズル33は、冷却シリンダ25における回転方向の下流側に向けて空気を噴射(供給)可能となっている。また、乾燥装置14と冷却装置15の冷却シリンダ25の下方には、吸引管62が配置され、冷却シリンダ25の軸方向に沿った吸引ノズル63が設けられている。この吸引ノズル63は、スリット形状をなし、周辺の空気を吸引可能となっている。
【0090】
従って、印刷が完了したウェブWが、乾燥装置14で熱乾燥され、冷却装置15の各冷却シリンダ25,26・・・に順に巻き取られることで冷却されるとき、ウェブWに転写されたインキに含まれる溶剤が蒸発し、溶剤蒸気がウェブWの走行に同伴して冷却装置15(冷却シリンダ25)側に流れ込む。
【0091】
このとき、エアチャンバ32のスリットノズル33から、冷却シリンダ25の搬送流Bに沿って空気を噴射すると、空気の搬送流Bの流量が増加し、領域Dに流れ込む溶剤蒸気を含んだ気流Aを排除し、排出気流Cが発生する。そして、吸引ノズル63は、この排出気流Cを吸引する。つまり、スリットノズル33からの供給空気に合わせて、吸引ノズル63の吸引力により領域Dから排出される気流を促進することで、溶剤蒸気を含んだ気流Aの領域Dへの滞留を抑制し、この領域Dでの溶剤蒸気濃度を低下させる。すると、冷却シリンダ25により領域Dにて溶剤蒸気が凝縮してウェブWの印刷面に付着することはほとんどなく、印刷品質の低下が防止される。
【0092】
なお、この実施例4では、実施例1で説明したスリットノズル33を有するエアチャンバ32と、実施例3で説明した吸引ノズル63を有する吸引管62とを合わせて空気供給吸引装置71を構成したが、この構成に限定されるものではない。例えば、図9に示すように、実施例2で説明したスリットノズル53を有するエアチャンバ52と、実施例3で説明した吸引ノズル63を有する吸引管62とを合わせて空気供給吸引装置71Aを構成してもよい。更に、実施例1で説明したスリットノズル33を有するエアチャンバ32と、実施例2で説明したスリットノズル53を有するエアチャンバ52と、実施例3で説明した吸引ノズル63を有する吸引管62とを合わせて空気供給吸引装置を構成してもよい。
【0093】
このように実施例4のウェブ搬送装置及び印刷機にあっては、乾燥装置14により乾燥されたウェブWを冷却装置15の冷却シリンダ25に巻き付けて搬送しながら冷却するウェブ搬送工程にて、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給吸引装置71を設けている。
【0094】
従って、ウェブWが乾燥装置14から冷却シリンダ25に巻き付けられるとき、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域Dに向けて空気が供給されると共に、この領域Dに滞留する溶剤蒸気を含んだ空気を吸引することで、この領域Dにおける排出気流の流れが促進される。そのため、ウェブWに同伴する溶剤蒸気が冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置14から搬送されるウェブWに対して、このウェブWに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、印刷品質の向上を可能とすることができる。
【実施例5】
【0095】
図10は、本発明の実施例5に係るウェブ搬送装置を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0096】
実施例5のウェブ搬送装置では、図10に示すように、気流促進手段としての空気供給装置81は、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置に対して、冷却シリンダ25における回転方向の上流側に配置されたエアチャンバ82と、冷却シリンダ25の軸方向に沿ってエアチャンバ82に形成された噴射ノズル83とから構成されている。本実施例にて、噴射ノズル83は、冷却シリンダ25における回転方向の下流側に向けて空気を噴射(供給)可能となっている。また、噴射ノズル83は、冷却シリンダ25における軸方向における中央部から端部側に向けて空気を噴射可能としている。即ち、噴射ノズル83は、冷却シリンダ25における軸方向中央位置では冷却シリンダ25の周方向に沿って空気を噴射するが、冷却シリンダ25における軸方向端部側では冷却シリンダ25の軸端側に向けて斜めに空気を噴射する。
【0097】
具体的には、スリットノズル内に供給する空気の噴射方向を変更する偏向板を配置したり、多数の噴射ノズルにより構成すればよい。その結果、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍に滞留する気流の流れを促進し、ここに滞留する溶剤蒸気を冷却シリンダ25の軸端側へも排除することができる。
【0098】
このように実施例5のウェブ搬送装置及び印刷機にあっては、乾燥装置14により乾燥されたウェブWを冷却装置15の冷却シリンダ25に巻き付けて搬送しながら冷却するウェブ搬送工程にて、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給装置81を設け、噴射ノズル83の一部を冷却シリンダ25における軸端側に向けている。
【0099】
従って、ウェブWが乾燥装置14から冷却シリンダ25に巻き付けられるとき、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域Dに向けて空気が供給されることで、この領域Dにおける排出気流の流れが促進される。このとき、噴射ノズル83から冷却シリンダ25における軸端側に空気が噴射されることで、冷却シリンダ25によるウェブWの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気は、冷却シリンダ25から単に離間する方向に排除されるだけでなく、軸端側にも排除されることとなり、溶剤蒸気を適正に排除し、ウェブWに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制することができる。
【実施例6】
【0100】
図11は、実施例6のウェブ搬送装置が搭載された印刷機を表す概略構成図である。
【0101】
本実施例の印刷機は、新聞用オフセット輪転印刷機であって、図11に示すように、給紙装置101とインフィード装置102と下地処理装置103と印刷装置104とを有し、また、図示しないが、ウェブパス装置、折り装置、排紙装置を有している。
【0102】
給紙装置101は、巻取紙Rとして装備されたウェブWをインフィード装置102を介して下地処理装置103及び印刷ユニット103に搬送する。インフィード装置102は、インフィードローラ102aと、移動してウェブパス距離を変更しながらウェブWの張力を調整するダンサーローラ102bと、ダンサーローラ102bからのウェブWの出側に配置されたガイドローラ102cとを有して構成され、ウェブWを所定の張力に保持しながら下地処理装置103へ送り出す。
【0103】
下地処理装置103は、一般的なオフセット印刷の印刷ユニットと同様に構成され、下地処理剤供給装置103aと、乾燥装置103bとを有している。下地処理剤供給装置103aは、下地処理剤を刷版に供給する一対の下地処理剤供給ロール111a,111bと、下地処理剤の印刷領域に応じた刷版が装着された版胴112a,112bとを有している。乾燥装置103bは、ウェブWの印刷面に転写した下地処理剤を乾燥するものであり、下地処理剤を加熱乾燥する加熱装置として構成されている。
【0104】
そして、下地処理装置103の乾燥装置103bと印刷装置104との間には,ガイドローラ(回転体)121が配置されている。そして、このガイドローラ121によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、ガイドローラ121によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて空気(流体)を供給する空気供給装置105が設けられている。この空気供給装置105は、ウェブWにおける走行方向の上流側から溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給する。
【0105】
従って、給紙装置101から供給されたウェブWは、インフィード装置102によりテンションが調整され、下地処理装置103に搬送される。この下地処理装置103の下地処理剤供給部103aでは、下地処理剤が下地処理剤供給ロール111a,111bから版胴112a,112bを介してウェブWにおける所定のページに転写される。続いて、乾燥装置103bでは、ウェブWにおける下地処理剤が転写された面に対して温風が吹き付けられることで、下地処理剤が加熱されて乾燥される。そして、ウェブWは、ガイドローラ121にガイドされて印刷装置104に搬送される。
【0106】
このとき、空気供給装置105から、ガイドローラ121によるウェブWの巻付け開始位置の近傍に空気を噴射すると、ガイドローラ121による空気の搬送流の流量が増加し、溶剤蒸気滞留部から排出される気流が促進され、溶剤蒸気を含んだ気流の滞留が抑制され、溶剤蒸気濃度を低下させる。すると、溶剤蒸気が凝縮してウェブWにおける下地処理剤の塗布面に付着することはほとんどなく、品質の低下が防止される。
【0107】
このように実施例6のウェブ搬送装置及び印刷機にあっては、下地処理装置103の乾燥装置103bにより乾燥されたウェブWをガイドローラ121に巻き付けて搬送するとき、ガイドローラ121によるウェブWの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段として、空気供給装置105を設けている。
【0108】
従って、ウェブWが乾燥装置103bからガイドローラ121に巻き付けられるとき、空気供給装置105からガイドローラ121によるウェブWの巻付け開始位置の近傍の領域に向けて空気が供給されることで、この領域における排出気流の流れが促進される。そのため、ウェブWに同伴する溶剤蒸気がガイドローラ121によるウェブWの巻付け開始位置の近傍で滞留することはなく、乾燥装置103bから搬送されるウェブWに対して、このウェブWに同伴する溶剤蒸気による悪影響を抑制し、下地処理剤などの塗布液が塗布された塗布面における印刷品質の向上を可能とすることができる。
【0109】
なお、上述した実施例6では、気流促進手段として、上述した実施例1と同様の構成をなす空気供給装置105を適用したが、この構成に限定されるものではなく、実施例2〜5で適用した構成としてもよい。
【0110】
また、上述した各実施例では、本発明のウェブ搬送装置を商業用オフセット輪転印刷機における乾燥装置14と冷却装置15との間に配置したり、新聞用オフセット輪転印刷機における乾燥装置105とガイドローラ121との間に配置したりしたが、適用箇所はこの位置に限定されるものではなく、印刷機の形態に限定されるものではない。また、実施例1から5にて、冷却装置15の冷却シリンダ25,26,27,28の配置構成は、実施例に限るものではなく、乾燥装置14からのウェブWが上方に搬送されるように冷却シリンダを配置した場合、気流促進手段は、走行するウェブWの上方に配置されることとなる。更に、本発明のウェブ搬送装置は、乾燥装置14の下流側であればよく、乾燥装置14と冷却装置15との間でなくてもよい。この場合、冷却装置15の冷却シリンダ25は、単なるガイドローラでよい。
【0111】
また、各実施例にて、乾燥装置14を温風乾燥装置としたが、ウェブWのインキに熱を与えて乾燥するものであればよく、例えば、赤外線(IR)を用いた乾燥装置であってもよい。更に、乾燥装置により乾燥するインキは、油性でも、水性でもよく、コーティング材などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係るウェブ搬送装置及び印刷機は、回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段を設けることで、乾燥装置から搬送されて表面に溶剤を含む塗布液が塗布された面に蒸発した溶剤が再付着することにより、塗布面が欠損することを防止するものであり、いずれの搬送装置や印刷機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
11 給紙装置
12 インフィード装置
13 印刷装置
14 乾燥装置
15 冷却装置
16 ウェブパス装置
17 折り装置
18 排紙装置
21,22,23,24 印刷ユニット
25,26,27,28 冷却シリンダ(回転体)
31,51,81 空気供給装置(気流促進手段、流体供給手段)
32,52,82 エアチャンバ
33,53 スリットノズル
61 空気吸引装置(気流促進手段、流体吸引手段)
62 吸引管
63 吸引ノズル
71 空気供給吸引装置(気流促進手段、流体吸引手段)
83 噴射ノズル
101 給紙装置
102 インフィード装置
103 下地処理装置
103a 下地処理剤供給装置
103b 乾燥装置
104 印刷装置
105 空気供給吸引装置(気流促進手段、流体供給手段)
121 ガイドローラ(回転体)
W ウェブ(シート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥装置により乾燥されたウェブを回転体に巻き付けて搬送するウェブ搬送装置において、
前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段が設けられる、
ことを特徴とするウェブ搬送装置。
【請求項2】
前記気流促進手段は、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給する流体供給手段を有することを特徴とする請求項1に記載のウェブ搬送装置。
【請求項3】
前記流体供給手段は、前記回転体における回転方向の上流側から前記溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給することを特徴とする請求項2に記載のウェブ搬送装置。
【請求項4】
前記流体供給手段は、前記回転体に巻き付けられるときの接触面側に向けて流体を供給することを特徴とする請求項2または3に記載のウェブ搬送装置。
【請求項5】
前記流体供給手段による流体供給方向は、前記回転体に巻き付けられるウェブの走行方向の下流側に向けて所定の鋭角に設定されることを特徴とする請求項4に記載のウェブ搬送装置。
【請求項6】
前記流体供給手段による流体供給速度及び流体供給流量は、装置の運転速度に連動して制御されることを特徴とする請求項3から5のいずれか一つに記載のウェブ搬送装置。
【請求項7】
前記流体供給手段による流体供給速度は、前記回転体の周速またはウェブの搬送速度と同速度に設定されることを特徴とする請求項6に記載のウェブ搬送装置。
【請求項8】
前記流体供給手段は、ウェブにおける走行方向の上流側から前記溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給することを特徴とする請求項2に記載のウェブ搬送装置。
【請求項9】
前記流体供給手段は、空気またはミストを含有する空気を噴射可能であることを特徴とする請求項2から8のいずれか一つに記載のウェブ搬送装置。
【請求項10】
前記流体供給手段は、前記回転体における軸方向における中央部から端部側に向けて流体を供給することを特徴とする請求項2から9のいずれか一つに記載のウェブ搬送装置。
【請求項11】
前記気流促進手段は、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気を吸引する流体吸引手段を有することを特徴とする請求項1に記載のウェブ搬送装置。
【請求項12】
前記気流促進手段は、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍の溶剤蒸気滞留部に向けて流体を供給する流体供給手段と、前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍に滞留する溶剤蒸気を吸引する流体吸引手段を有することを特徴とする請求項1に記載のウェブ搬送装置。
【請求項13】
前記乾燥装置は、ウェブに熱を与えて乾燥するものであり、前記回転体は、ウェブを冷却する冷却装置を有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一つに記載のウェブ搬送装置。
【請求項14】
巻取紙からウェブを供給する給紙装置と、
該給紙装置から繰り出されたウェブに印刷を施す印刷装置と、
該印刷装置により印刷が施されたウェブを乾燥する乾燥装置と、
該乾燥装置により乾燥されたウェブを冷却シリンダに巻き付けて冷却する冷却装置と、
該冷却装置により冷却されたウェブを裁断して折り曲げることで折帖を形成する折り装置と、
該折り装置により形成された折帖を排紙する排紙装置と、
を備える印刷機において、
前記冷却シリンダによるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段が設けられる、
ことを特徴とする印刷機。
【請求項15】
巻取紙からウェブを供給する給紙装置と、
該給紙装置から繰り出されたウェブに下地処理剤を供給する下地処理剤供給装置と、
ウェブに供給された下地処理剤を乾燥する乾燥装置と、
該乾燥装置により乾燥されたウェブを巻き付けて搬送する回転体と、
を備える印刷機であって、
前記回転体によるウェブの巻付け開始位置の近傍における気流の流れを促進する気流促進手段が設けられる、
ことを特徴とする印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−116036(P2011−116036A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275617(P2009−275617)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(310016522)三菱重工印刷紙工機械株式会社 (75)
【Fターム(参考)】