説明

ウェルプレートおよび細胞培養器具

【課題】 マニピュレータやキャピラリーの移動方向がウェルプレートの面に対して傾斜した方向となる場合でも支障なく細胞の保持やインジェクション等の作業を行うことのできるウェルプレートおよび細胞培養器具を提供する。
【解決手段】 開口部の近傍でウェル20の内径を増大させることでウェルプレート14,14’の面に対して傾斜した方向から移動するキャピラリー10,11とウェル20の開口部との干渉を防止し、細胞の保持やインジェクション等の作業を支障なく行えるようにする。また、底部の近傍におけるウェル20の内径を小さくすることで、細胞がウェル20の底面上で不用意に移動することを防止し、捕捉やインジェクション操作を容易化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータを利用して細胞を操作する単一細胞操作支援ロボット等に用いて好適なウェルプレートおよび細胞培養器具に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のウェルの各々に細胞を独立的に収容して細胞の観察あるいは培養を行うためのウェルプレートおよび細胞培養器具としては、例えば、特許文献1に開示されるような細胞収納用マルチマイクロウェルおよび培養ディッシュが既に公知である。
【0003】
また、一般的なウェル構造としては、例えば、特許文献2あるいは特許文献3に開示されるようなものが提案されている。
【0004】
これら従来のウェルプレートは、何れも、細胞を収容する複数のウェルを円筒状に形成したものである。
【0005】
しかし、マニピュレータを利用して細胞を操作する単一細胞操作支援ロボット等においては、例えば、特許文献1にも開示されるように、細胞を保持するためのキャピラリーやインジェクション等の作業を行うためのキャピラリー等を装着した複数のマニピュレータを同時に使用して細胞操作を行う必要があり、マニピュレータやキャピラリー同士の干渉を避けるため、更には、顕微鏡の視野を確保するために、幾つかのマニピュレータをテーブルの法線に対して対称的に傾斜させて設置するのが一般的である。
【0006】
この結果として、細胞の保持あるいはインジェクション等の作業を行う際のキャピラリーの移動方向は、テーブル面やウェルプレートの面に対して傾斜した方向となるが、従来のウェルプレートおよび細胞培養器具では、細胞を収容する複数のウェルを円筒状に形成していたため、各ウェルの開口部の縁がキャピラリーと干渉して細胞の保持やインジェクション等の作業に支障を生じる場合があった。
【0007】
こういった不都合を解消する手段としては、ウェルの内径を冗長させて開口部の縁とキャピラリーとの干渉を防止することも考えられるが、このような構成を適用した場合、内径の冗長に伴ってウェルの底面積も増大するため、細胞がウェルの底面上で様々な方向に移動してしまい、キャピラリーによる捕捉が難しくなるといった弊害が考えられる。
【0008】
なお、特許文献2および特許文献3に開示されたマルチ・ウェル・プレートでは、ウェルの内壁に微妙なテーパを形成した構造が見受けられるが、このテーパは、単に、射出成形等を利用したマルチ・ウェル・プレートの製造に際してウェル形成用のコアピンの離型作業を保証するための抜き勾配に過ぎず、ウェル開口部の縁とキャピラリーとの干渉を防止する機能を有するものではない。
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO2004/015055 A1号パンフレット(FIG.3,FIG.4)
【特許文献2】特開2001−252068号公報(図2)
【特許文献3】再公表特許WO00/17316(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の課題は、前記従来技術の不都合を解消し、マニピュレータやキャピラリーの移動方向がウェルプレートの面に対して傾斜した方向となる場合であっても支障なく細胞の保持やインジェクション等の作業を行うことのできるウェルプレートおよび細胞培養器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のウェルプレートは、細胞を収容する複数のウェルを備えたウェルプレートであり、前記課題を達成するため、特に、前記ウェルの内径が、該ウェルの底面側から開口部側に向かうに連れて、徐々に拡径して形成されていることを特徴とする構成を有する。
【0012】
このようにしてウェルの開口部の近傍でウェルの内径を増大させることにより、ウェルプレートの面に対して傾斜した方向で移動するキャピラリーとウェルの開口部との干渉が防止され、細胞の保持やインジェクション等の作業を支障なく行うことが可能となる。
また、ウェルの底部の近傍における内径は開口部に比べて十分に小さいので、細胞がウェルの底面上で不用意に移動してキャピラリーによる捕捉やインジェクション操作が難しくなるといった弊害も発生しない。
【0013】
より具体的には、ウェルの内壁を円錐状の斜面によって形成することで、底面側から開口部側に向けてウェルの内径を徐々に拡径させることができる。
【0014】
また、他の態様として、下に凸の二次曲面あるいは下に凸の球状曲面等を利用してウェルの内壁を形成してもよい。
前記と同様、底面側から開口部側に向けてウェルの内径を徐々に拡径させることが可能である。
【0015】
ウェルの内壁を円錐状の斜面によって形成する場合は、円錐状の斜面の頂角を40度から140度の範囲とする。
【0016】
この数値は、テーブル面やウェルプレートの面に対する斜面の傾きに置き換えると20度から70度の範囲に相当する値であり、実際の斜面の傾きは、この範囲内で、マニピュレータやキャピラリーの傾斜に合わせて特定する(円錐状の斜面の頂角が数度未満のものは、コアピンを利用した通常の成形技術における抜き勾配として解釈され、また、本願とは別の技術思想であるために請求範囲から除外する)。
【0017】
更に、ウェルの底面部には、細胞を保持するための凹部を形成するとよい。
【0018】
この凹部を形成することにより、ウェルの底面上における細胞の不用意な移動を確実に防止してキャピラリーによる細胞の捕捉やインジェクション操作を容易化することができる。
【0019】
本発明の細胞培養器具は、前記と同様の課題を達成するため、前述のウェルプレートを細胞培養容器の底面上に一体に形成したことを特徴とする構成を有する。
【0020】
この場合、細胞培養器具を成形するために新規の金型を起こす必要があるが、細胞培養器具の量産に適する。
ウェルプレート上に設けられるウェルの形状は均一であるから、ウェルを形成するコアピンを備えた入れ子や細胞培養容器の底面の内側を形成する面を備えたダミー状の入れ子の組み換えが可能なモジュラー金型を利用することで、所望する配列のウェル群を備えたウェルプレートを有する細胞培養器具を提供することができる。
【0021】
また、前述のウェルプレートを細胞培養容器の底面上に固着して細胞培養器具を構成してもよい。
【0022】
この場合、細胞培養容器とは別に成形されたウェルプレートを細胞培養容器の底面上に接着あるいは超音波溶着等で固着して細胞培養器具を構成することになるが、既存のディッシュやスライドガラス等を細胞培養容器として利用することが可能であるので、ユーザは、従来使用していた使い慣れた細胞培養容器あるいは実験等の目的に適した各種の細胞培養容器、要するに、ディッシュやスライドガラス等を自由に選択して使用することができる。
ウェルプレートの製造に関しては前記と同様であり、ウェルを形成するコアピンを備えた入れ子や対面する金型のパーティングラインに当接する押し切り面を備えたダミー状の入れ子の組み換えが可能なモジュラー金型を利用することで、所望する配列のウェル群を備えたウェルプレートを有する細胞培養器具を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウェルプレートは、ウェルの内径がウェルの底面側から開口部側に向かうに連れて徐々に拡径するように形成し、ウェルの開口部の近傍でウェルの内径を増大させる一方、ウェルの底部の近傍ではウェルの内径を十分に小さくしているので、テーブル面やウェルプレートの面に対して傾斜した方向から移動して細胞に接近するキャピラリーとウェルの開口部との干渉を防止して細胞の保持やインジェクション等の作業を支障なく行うことができ、また、細胞がウェルの底面上で不用意に移動してキャピラリーによる捕捉やインジェクション操作が難しくなるといった弊害も解消される。
【0024】
更に、ウェルの底面部には細胞を保持するための凹部を形成したので、ウェルの底面上における細胞の不用意な移動を確実に防止してキャピラリーによる細胞の捕捉やインジェクション操作を容易化することができる。
【0025】
本発明の細胞培養器具は、このウェルプレートを細胞培養容器の底面上に一体に形成した細胞培養器具であり、上記と同様の効果を奏する他、細胞培養器具の量産に適する。
【0026】
また、ウェルプレートを細胞培養容器の底面上に固着して細胞培養器具を構成する場合は、既存のディッシュやスライドガラス等を細胞培養容器として利用することが可能であるので、ユーザは、従来使用していた使い慣れた細胞培養容器あるいは実験等の目的に適した各種の細胞培養容器、要するに、ディッシュやスライドガラス等を自由に選択して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0028】
図1は単一細胞に対する遺伝子や薬品等の注入いわゆるインジェクション作業に適した単一細胞操作支援ロボットの全体的な構成を示した正面図である。この単一細胞操作支援ロボット1は、図1に示される通り、概略において、ロボット本体2とコントローラ3によって構成される。
【0029】
このうちロボット本体2は、ディッシュ等の細胞培養容器とウェルプレートから成る細胞培養器具を載置するためのテーブル4と、細胞培養器具内の細胞を操作するためのマニピュレータ5,6を実装したステージ7、および、該ステージ7を支えるためのコラム8と、細胞培養器具内の細胞を観察するために固設された顕微鏡9を備える。
【0030】
ステージ7の構造を図2に示す。ステージ7上に設けられたテーブル4はステッピングモータ等から成る各軸の駆動手段により直交二軸の水平面内で駆動され、また、テーブル4の右側に配備されたマニピュレータ5は、ステッピングモータ等から成る各軸の駆動手段とピエゾアクチュエータ等から成る駆動手段によって、直交三軸の空間内で独立的に駆動されるようになっている。テーブル4の左側に配備されたマニピュレータ6の構造も、実質的に、これと同様である。
【0031】
このうち、テーブル4の左側に配備されたマニピュレータ6は、細胞培養器具13のウェルプレート14上に配置された単一細胞を吸引等の手段で保持するためのキャピラリー10をエンドエフェクタとして備え、また、テーブル4の右側に配備されたマニピュレータ5は、単一細胞に対して遺伝子や薬品等のインジェクションを行うための注入孔を先端に備えたキャピラリー11をエンドエフェクタとして備える。
【0032】
マニピュレータ5,6は、図2に示される通り、テーブル4の法線に対して対称的に傾斜させて例えば45度の角度で設置されるが、これは、マニピュレータ5,6やキャピラリー10,11同士の干渉を避けるためであり、更には、顕微鏡9の視野を確保するためでもある。
【0033】
マニピュレータ5,6には駆動手段を内蔵するだけの大きさが必要であり、また、キャピラリー10,11にしても一定の剛性を確保する太さが必要であるため、これらのマニピュレータ5,6やキャピラリー10,11を平行にした状態で並列的に設置して単一細胞に対する同時操作を行うことは事実上不可能であり、このように、テーブル4の法線に対して傾斜させた状態で設置せざるを得ない事情がある。
【0034】
ウェルプレート14上の単一細胞に対するキャピラリー10,11の接近動作と退避動作は、最終的に、ピエゾアクチュエータ等の駆動によってキャピラリー10,11を軸方向に突出あるいは縮退させることで達成される。
【0035】
また、テーブル4には、細胞培養器具13を置く際に概略の位置決めを行うための器具ホルダー12が固設されており、この器具ホルダー12を介してテーブル4上に細胞培養器具13が載置されるようになっている。
【0036】
図1に示されるように、単一細胞操作支援ロボット1の各部を駆動制御するためのコントローラ3の主要部はコントローラ本体3aによって構成され、このコントローラ本体3aに、マン・マシン・インターフェイスとして機能する第一操作盤3R,第二操作盤3L,マウス付きのキーボード3b,フットスイッチ3c,モニタ3dが接続されている。
【0037】
第一操作盤3Rはテーブル4と其の右側に配備されたマニピュレータ5を二者択一的に駆動制御するための手動操作手段であり、制御対象をテーブル4とするかマニピュレータ5とするかは、ジョイスティック15Rの先端に設けられたヘッドスイッチ16Rの操作によって選択できる。
テーブル4とマニピュレータ5の水平面内での移動はジョイスティック15Rもしくはトラックボール17Rによって制御され、マニピュレータ5のエンドエフェクタであるキャピラリー11の軸方向の移動はジョイスティック15R先端の回転操作によって制御される。
【0038】
第二操作盤3Lはテーブル4の左側に配備されたマニピュレータ6を駆動制御するための手動操作手段である。マニピュレータ6の水平面内での移動はジョイスティック15Lもしくはトラックボール17Lによって制御され、マニピュレータ6のエンドエフェクタであるキャピラリー10の軸方向の移動はジョイスティック15L先端の回転操作によって制御される。
【0039】
具体的な制御系の構成については本発明の要旨と直接的に関連するものではないので、ここでは、説明を省略する。
【0040】
次に、細胞培養器具13の構造について具体例を挙げて説明する。図3は細胞培養器具13の構成例を示した平面図であり、この細胞培養器具13は、図3に示すように、従来型のディッシュから成る細胞培養容器18と、この細胞培養容器18の底面19上に固着されたウェルプレート14とで構成される。
【0041】
ウェルプレート14を細胞培養容器18に固着する手段としては接着剤等の使用が可能であり、また、細胞培養容器18とウェルプレート14が共にアクリル等の合成樹脂で形成されている場合には、超音波溶着等を利用することも可能である。
【0042】
ウェルプレート14の一部を拡大して図4(a)の平面図に示す。このウェルプレート14は全体として矩形の薄板状に形成され、その表裏を貫通するようにして、細胞を収容するための多数のウェル20がマトリクス状に併設されている。
また、ウェルプレート14の表側の面にはウェル20の各々を区画するようにして突条21が格子状に設けられ、突条21によって仕切られる矩形状の区画内にミネラルオイル等を貯溜して各ウェル20を相互に遮蔽することで、単一細胞毎に異なる培養環境を提供することも可能な構成となっている。
【0043】
図4(b)は図4(a)の矢視A−Aに沿ってウェルプレート14を割って示した断面図である。
各々のウェル20は、図4(b)に示されるように、その内径が、ウェル20の底面側から開口部側に向かうに連れて徐々に拡径するようにして形成されている。
図4(b)ではウェル20の内壁22を円錐状の斜面によって形成した例について示しているが、下に凸の二次曲面あるいは下に凸の球状曲面等を利用してウェル20の内壁22を形成することも可能である。
【0044】
図4(b)のようにウェル20の内壁22を円錐状の斜面によって形成する場合は、円錐状の斜面の頂角αを40度から140度の範囲に規制するものとする。この数値は、テーブル面やウェルプレート14の面に対する斜面の傾きβに置き換えると20度から70度の範囲に相当する値であり、実際の斜面の傾きβは、この範囲内で、マニピュレータ5,6やキャピラリー10,11の傾斜に合わせて特定し設計する。
【0045】
この実施形態の単一細胞操作支援ロボット1では、図2に示される通り、テーブル4の面に対するマニピュレータ5,6やキャピラリー10,11の傾斜は45度(法線に対しても45度)の角度となっているから、斜面の傾きβを45度以下つまり円錐状の斜面の頂角αを90度以上とすることで、テーブル面やウェルプレート14の面に対して45゜傾斜した方向に移動するキャピラリー10,11の先端とウェル20の開口部との干渉を防止することができる。
【0046】
なお、円錐状の斜面の頂角αの最小値を40度とした理由は、図1に示されるマニピュレータ5,6やキャピラリー10,11および顕微鏡9の相互的な配置関係からみて、マニピュレータ5,6を限界まで相互接近させて設計を行った場合であっても、キャピラリー10,11の成す角を40度以下とすることが難しいためである。
マニピュレータ5,6やキャピラリー10,11および顕微鏡9の相互的な配置関係が図1のものと異なる装置においては、理論上、円錐状の斜面の頂角αの最小値を40度以下とすることが可能な場合も有り得るが、前述した通り、キャピラリー10,11には有る程度の太さが必要であり、その先端をテーパ形状とすることで微小な単一細胞に対するキャピラリー10,11の同時操作を実現するものであるから、例え、どのような構造を適用した場合であっても、これらのキャピラリー10,11を利用する以上、頂角αの最小値が例えば数度未満となるといったことは有り得ず、当然、円錐状の斜面の頂角αが数度未満といったウェル20の構造は、本発明の要旨に沿ったものではない。
また、円錐状の斜面の頂角αの最大値を140度とした理由は、キャピラリー10,11の成す角を140度以上としてしまうと、従来型のディッシュから成る細胞培養容器18の縁にキャピラリー10,11の先端部が干渉する恐れがあるからである。
【0047】
図4(a)および図4(b)に示される構造のウェルプレート14は、公知の射出成形技術等を適用して形成され、このウェルプレート14の下面を接着あるいは超音波溶着等の手段で細胞培養容器18の底面19上に固着することで、図3に示されるような細胞培養器具13が得られる。この場合、ウェル20の底面は細胞培養容器18の底面19と共通である。
【0048】
このように、ウェルプレート14を細胞培養容器18と分離して独立的に量産した場合では、既存のディッシュやスライドガラス等を細胞培養容器18として利用することが可能であるので、ユーザは、従来使用していた使い慣れた細胞培養容器18あるいは実験等の目的に適した各種の細胞培養容器18、要するに、ディッシュやスライドガラス等を自由に選択して使用することができるというメリットがある。
【0049】
射出成形によってウェルプレート14のみを形成する場合には、先端外周部に突条21の1/2の幅に相当する削り込みを設けた矩形状のコアブロック本体と該コアブロック本体の先端面に一体に設けられたウェル形成用のコアピンとから成る第一の入れ子と、このコアブロック本体およびコアピンを含めた第一の入れ子の全長に匹敵する長さを備え、その先端面を対面する金型のパーティングラインに当接させる平坦な押し切り面としたダミーから成る第二の入れ子、および、これら第一,第二の入れ子を組み換え自在に保持するコッターブロック等を備えたモジュラー金型を利用することが望ましい。
このような金型を使用すれば、単一のモールドベースを準備するだけで、所望する配列のウェル群を備えたウェルプレート14、つまり、ウェル20の並びに関わる行数や列数の異なる多種多様のウェルプレート14を製造することができる。
【0050】
また、射出成形等を利用してウェルプレート14を細胞培養容器18の底面19上に一体に形成するようにしてもよい。
この場合、ウェルプレート14と細胞培養容器18から成る細胞培養容器13を成形するために新規の金型を起こす必要があるが、細胞培養容器13の量産が容易である。
前記と同様、先端外周部に突条21の1/2の幅に相当する削り込みを設けた矩形状のコアブロック本体と該コアブロック本体の先端面に一体に設けられたウェル形成用のコアピンとから成る第一の入れ子と、このコアブロック本体およびコアピンを含めた第一の入れ子の全長に匹敵する長さを備え、その先端面によって細胞培養容器18の底面19の内側の一部を形成するダミーから成る第二の入れ子、および、これら第一,第二の入れ子を組み換え自在に保持するコッターブロック等を備えたモジュラー金型を利用することで、所望する配列のウェル群を備えたウェルプレート14を有する細胞培養容器18を製造することができる。
【0051】
次に、細胞を保持するための凹部23をウェル20の底面部に形成したウェルプレート14’の例について図4(c)の断面図を参照して説明する。ウェルプレート14’の平面形状に関しては図4(a)のものと同様である。
【0052】
このように、細胞を保持するための凹部23を円錐状の斜面等から成る内壁22の下端部に連絡し、ウェル20の開口部よりも縮径させた状態でウェル20の底面部に形成することで、ウェル20の底面上における細胞の不用意な移動を確実に防止してキャピラリー10,11による細胞の捕捉やインジェクション操作等を容易に実施できるようになる。
キャピラリー10,11が凹部23の内周壁に干渉して細胞の補足やインジェクション操作等を阻害することがないよう、凹部23の深さは、操作の対象となる細胞の厚さ以下とする。
図4(c)では円筒状の凹部23について記載しているが、凹部23は他の形状であってもよい。
【0053】
ウェルプレート14’も前述したウェルプレート14と同様の要領で細胞培養容器18と別体または一体に形成することが可能である。
【0054】
また、図5に示されるようなスライドガラス24等を細胞培養容器として利用し、このスライドガラス24にウェルプレート14,14’を固着し、或いは、一体に成形して、細胞培養器具25とすることもできる。
無論、ディッシュやスライドガラス等に限らず、他の細胞培養容器を利用して細胞培養器具を構成しても構わない。
【0055】
効果の点については全ての実施態様を通じて共通であり、ウェル20の開口部の近傍でウェル20の内径が増大しているため、テーブル面やウェルプレート14,14’の面に対して傾斜した方向で移動するキャピラリー10,11とウェル20の開口部との干渉防止が可能であり、また、その一方で、ウェル20の底部の近傍における内径は開口部に比べて十分に小さいので、ウェル20の底面上における細胞の不用意な移動を防止してキャピラリー10,11による捕捉やインジェクション操作が容易となる効果がある。
【0056】
特に、細胞を保持するための凹部23をウェル20の底面部に形成した図4(c)のウェルプレート14’の例では、ウェル20の底面上における細胞の不用意な移動が確実に防止されるので、細胞の捕捉やインジェクション操作等を極めて容易に行うことができるメリットがある。
【0057】
また、ウェル20の形成手段としては、前述した射出成形の他、レーザースパッタリング,印刷,削り込み(彫り込み)等の各種の公知技術が利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】単一細胞操作支援ロボットの全体的な構成を示した正面図である。
【図2】単一細胞操作支援ロボットのステージを拡大して示した正面図である。
【図3】ディッシュとウェルプレートから成る細胞培養器具の構成例を示した平面図である。
【図4】ウェルプレートの構成例について示した図で、図4(a)はウェルプレートの一部を拡大して示した平面図、図4(b)は其の断面図、また、図4(c)は態様の異なるウェルプレートについて示した断面図である。
【図5】スライドガラスとウェルプレートから成る細胞培養器具の構成例を示した平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 単一細胞操作支援ロボット
2 ロボット本体
3 コントローラ
3a コントローラ本体
3b キーボード
3c フットスイッチ
3d モニタ
3R 第一操作盤
3L 第二操作盤
4 テーブル
5,6 マニピュレータ
7 ステージ
8 コラム
9 顕微鏡
10,11 キャピラリー
12 器具ホルダー
13 細胞培養器具
14 ウェルプレート
15R,15L ジョイスティック
16R,16L ヘッドスイッチ
17R,17L トラックボール
18 細胞培養容器(ディッシュ)
19 底面
20 ウェル
21 突条
22 ウェルの内壁
23 細胞を保持するための凹部
24 スライドガラス(細胞培養容器)
25 細胞培養器具
α 円錐状の斜面の頂角
β テーブル面に対する円錐状の斜面の傾き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を収容する複数のウェルを備えたウェルプレートであって、前記ウェルの内径が、該ウェルの底面側から開口部側に向かうに連れて、徐々に拡径して形成されていることを特徴とするウェルプレート。
【請求項2】
前記ウェルの内壁が、円錐状の斜面によって形成されていることを特徴とする請求項1記載のウェルプレート。
【請求項3】
前記円錐状の斜面の頂角が40度から140度の範囲にある請求項2記載のウェルプレート。
【請求項4】
前記ウェルの底面部に、細胞を保持するための凹部が形成されていることを特徴とする請求項1,請求項2または請求項3の何れか一項に記載のウェルプレート。
【請求項5】
請求項1,請求項2,請求項3または請求項4の何れか一項に記載のウェルプレートを細胞培養容器の底面上に一体に形成したことを特徴とする細胞培養器具。
【請求項6】
請求項1,請求項2,請求項3または請求項4の何れか一項に記載のウェルプレートを細胞培養容器の底面上に固着したことを特徴とする細胞培養器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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