説明

ウスバサイシン抽出物またはその分画物を有効成分として含む文化財保存用防虫及び殺虫用組成物

【課題】ウスバサイシン(Asarum sieboldii)抽出物またはその分画物を有効成分として含む、文化財保存用防虫及び殺虫用組成物を提供する。
【解決手段】本発明のウスバサイシンメタノール抽出物及びウスバサイシンヘキサン分画物は、文化財及び木造建築物に大きな被害を与える白蟻(termite)に対して、少量で有意的な殺虫効果を示すので、文化財及び木造建築物に損傷を与えずに、人畜に影響を及ぼさないで安全かつ環境にやさしい方法で白蟻を防除するのに有用に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウスバサイシン(Asarum sieboldii)抽出物またはその分画物を有効成分として含む、白蟻防虫または殺虫用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
私たちの身近にある文化財は、材質上、金属、石材、木材、紙類及び繊維質などに区分することができ、その材質特性と保存条件、期間によって多様な損傷が起きて文化財の寿命が短縮される。大部分の文化財は、現在まで原型を維持しながら降雨、風、太陽光線などによる自然環境的風化現象と管理者及び観覧者等の無分別な人為的な行為によって破損されているのが実情である。そして、材質が有機質である紙類、繊維質、木材のような文化財は、昆虫及び微生物による生物学的被害が付加されることによって無機質文化財に比べて保存の面で細心な注意と管理が求められる。
【0003】
特に、文化財の生物被害の中で、虫食いは文化財自体の材質が営養分であるため、昆虫によって蚕食されて損失する。一旦被害が発生した場合、被害程度が激甚であり発生頻度が散発的であるので、屋内外に所在している文化財を保存管理するにおいて加害昆虫の防除は、日常化されている予防方法でありかつ非常に重要な処理方法である。
【0004】
一般的に材質が木材及び紙類、繊維質である文化財に危害をあたえる昆虫は、白蟻目(Isoptera)、甲虫目(Coleoptera)、シミ目(Thysanura)、ゴキブリ目(Blattaria)、蜂目(Hymenoptera)、噛虫目(Psocoptera)などの6目が存在し、その中で白蟻目と甲虫目による加害度が非常に大きい方である。
【0005】
白蟻(Reticulitermes speratus)は、社会生活をする昆虫であって女王蟻が階級分化を通じて集団を成し、1ヶ所で30年以上にわたって定着して生活しながら人間に被害を与える害虫である。白蟻は、全世界各地域で伐採された木や家屋内部の木材、電信柱、木造橋、鉄道の枕木及び甚だしくは農作物に対する被害が報告されていて、国内の場合にも慶尚南道の海印寺などの国宝級文化財に対する被害等が知られるようになった。
【0006】
ウスバサイシン(Asarum sieboldii)は、ウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)に属する多年生植物であり、ケイリンサイシン(Asarum heterotropoides F.Maekawa var.mandshuricum F.Maekawa)またはウスバサイシン/シノニム(Asarum sieboldii var.seoulensis)の根を薬用にする。ウスバサイシンの成分としては、メチルオイゲノール(methyleugenol)、シネオール(cineol)、リモネン(エステラゴ−ル)[limonene(Estragole)]、ユカボン(アズレン)[eucarvone(azulene)]、エレミシン(elemicin)、カクオール(kakuol)、γ−アサロン(γ−asarone)、アシルケトン(acylketone)などを含むことが報告されていて、ウスバサイシンの抽出物は、解熱、鎮静、鎮痛、抗炎症、抗菌作用などを示すと報告されている。
【0007】
一般的に文化財に対する昆虫被害を防止するためには、第一に周期的な文化財の保存管理が必須であり、二番目に昆虫被害の発見時に加害昆虫の生理及び習性、生態などを解明して、「どんな種類の昆虫か」を確認しなければならないし、三番目に文化財材質に損傷を与えない範囲内で昆虫の種類による適切な防除方法を選択適用することによって、文化財の昆虫被害を最小限に減らすことができると思慮される。
【0008】
しかし、最近になって環境に対する問題が台頭してきており、世界的に今まで使用されてきたメチルブロマイドの使用に対して、漸次的に使用量を減少させ、結局、使用を禁止する方案が協議されて、その代替物質の必要性が高まってきている。代替防除物質は、環境に安定的で人畜に影響を及ぼさず、防除効果が高いことが求められていて、それを捜すための努力が切実に求められている。
【0009】
一方、特許文献1は、石菖蒲(岩菖蒲)を含む混合植物抽出物が殺虫効果があることを開示していて、特許文献2は、硫黄、絹雲母及び発酵黒ニンニク混合物が殺虫効果があることを開示していて、特許文献3は、シアノスルホキシミン化合物が殺虫効果があることを開示しているが、ウスバサイシン抽出物の白蟻に対する防虫または殺虫効果に対しては報告されたことがない。
【0010】
そこで、本発明者等は、環境及び人畜に安全で効果的に白蟻を防除する方法を研究した結果、ウスバサイシン抽出物またはその分画物が文化財加害害虫である白蟻に対して優秀な防虫または殺虫効果を示すことを確認して本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国出願番号10−2001−0026179号明細書
【特許文献2】韓国出願番号10−2007−0033344号明細書
【特許文献3】韓国出願番号10−2010−7013146号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ウスバサイシン抽出物または分画物を有効成分として含む白蟻科昆虫の防虫または殺虫用組成物を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、本発明の組成物を直接噴霧法、塗布法、薫蒸法、芳香処理法または包装法で文化財に処理する工程を含む文化財保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明はウスバサイシン抽出物(Asarum sieboldii)を有効成分として含む白蟻科(Reticulitermes speratus)昆虫の防虫または殺虫用組成物を提供する。
【0015】
また、本発明はウスバサイシン抽出物の有機溶媒分画物を有効成分として含む白蟻科昆虫の防虫または殺虫用組成物を提供する。
【0016】
同時に、本発明は本発明の組成物を直接噴霧法、塗布法、薫蒸法、芳香処理法または包装法で文化財に処理する工程を含む文化財保存方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のウスバサイシン抽出物またはその有機溶媒分画物は、木造建築物及び文化財に大きな害を与える白蟻に対して優秀な防虫または殺虫効果を示すので、木造建築物及び文化財に損傷を与えずに人畜に影響を及ぼさないで安全かつ環境にやさしい白蟻防虫または殺虫用組成物として有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ウスバサイシン抽出物を白蟻に適用させた殺虫率を示した図である。
【図2】図2は、ウスバサイシンメタノール分画物を白蟻に適用させた殺虫率を示した図である。
【図3】図3は、ウスバサイシンメチレンクロライド分画物を白蟻に適用させた殺虫率を示した図である。
【図4】図4は、ウスバサイシンエチルアセテート分画物を白蟻に適用させた殺虫率を示した図である。
【図5】図5は、ウスバサイシン抽出物をヘキサン分画を経ずにメチレンクロライドにすぐ分画した分画物を白蟻に適用させた殺虫率を示した図である。
【図6】図6は、ウスバサイシン抽出物を経口投与した後、雄ラットの体重変化を確認した図である。
【図7】図7は、ウスバサイシン抽出物を経口投与した後、雌ラットの体重変化を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0020】
本発明は、ウスバサイシン抽出物を有効成分として含む白蟻科昆虫の防虫または殺虫用組成物を提供する。
【0021】
前記ウスバサイシン抽出物は、下記の工程を含む製造方法によって製造することが好ましいがこれに限定されない。
1)ウスバサイシンに抽出溶媒を加えて抽出する工程と、
2)工程1)の抽出物をろ過する工程、及び
3)工程2)のろ過した抽出物を高圧濃縮した後に乾燥する工程。
【0022】
前記方法において、工程1)のウスバサイシンは、栽培したものまたは市販のものなどを制限なしに使用することができる。
【0023】
前記ウスバサイシンは、葉、幹または根を用いることが好ましく、幹または根を用いることがより好ましく、根を用いることが最も好ましいが、これに限定されない。
【0024】
前記抽出溶媒は、水、アルコールまたはそれらの混合物を用いることが好ましい。前記アルコールとしては、C〜Cの低級アルコールを用いることが好ましく、低級アルコールでは、エタノールまたはメタノールを用いることが好ましい。抽出方法では、振蘯抽出、ソックスレー抽出または還流抽出を用いることが好ましいが、これに限定されない。乾燥したウスバサイシン分量の1〜10倍の前記抽出溶媒をウスバサイシンに添加して抽出することが好ましい。抽出温度は、30〜100℃であることが好ましいがこれに限定されない。また、抽出時間は10〜48時間であることが好ましく、15〜30時間であることがさらに好ましいがこれに限定されない。同時に、抽出回数は3〜5回であることが好ましく、3回反復して抽出することがさらに好ましいがこれに限定されるのではない。
【0025】
前記方法において、工程3)の高圧濃縮は真空遠心濃縮機、真空減圧濃縮機または真空回転蒸発機を用いることが好ましいが、これに限定されない。また、乾燥は減圧乾燥、真空乾燥、沸騰乾燥、噴霧乾燥または凍結乾燥することが好ましいが、これに限定されない。
【0026】
前記白蟻科の昆虫は、ムカシシロアリ(Mastotermitidae)、オオシロアリ(Termopsidae)、レイビシロアリ(Kalotermitidae)、ホデテルミチデ(Hodetermitidae)、白蟻科(Rhinotermitidae)、テルミチデ(Termitidae)科であることが好ましく、白蟻科(rhinotermitidae)であることがより好ましく、ヤマトシロアリ(Reticultitermes speratus)またはヤマトシロアリキュウシュウエンシスモリモト(R.speratus kyushuensis Morimoto)であることがさらに好ましく、ヤマトシロアリであることが最も好ましいが、これに限定されない。
【0027】
また、本発明は、ウスバサイシン抽出物の有機溶媒分画物を有効成分として含む白蟻科(Reticulitermes speratus)昆虫の防虫または殺虫用組成物を提供する。
【0028】
前記ウスバサイシン抽出物の分画物は、下記の工程を含む製造方法によって製造されることが好ましいが、これに限定されない。
1)ウスバサイシンに抽出溶媒を加えて抽出する工程と、
2)工程1)の抽出物を冷却後にろ過する工程、及び
3)工程2)のろ過した抽出物を高圧濃縮後に乾燥する工程、及び
4)工程3)乾燥した抽出物を有機溶媒を加えて分画物を製造する工程。
【0029】
前記方法において、工程1)のウスバサイシンは、栽培されたものまたは市販のものなどを制限なしに使用することができる。
【0030】
前記方法において、工程4)の有機溶媒は、ヘキサン(n−hexane)、ジクロロメタン及びエチルアセテートであることが好ましく、エチルアセテートであることがさらに好ましいがこれに限定されない。
【0031】
前記方法において、工程4)の分画物は、メタノール抽出物を蒸留水に懸濁して同量のヘキサン(n−hexane)を混合した後、分液ロートに入れて分画してヘキサン層を分離除去した後、残った水層に同量のメチレンクロライドを混合した後、メチレンクロライド層を分離除去した後、残った水層に再び同量のエチルアセテートを混合して分画した後、エチルアセテート層を分離濃縮した後に凍結乾燥してエチルアセテート分画を製造することが好ましい。
【0032】
前記分画物は、前記ウスバサイシン抽出物から分画過程を1〜5回、好ましくは3回反復して得ることができ、分画後に減圧濃縮することが好ましいがこれに限定されない。
【0033】
本発明の具体的な実施例で、本発明者等はウスバサイシンメタノール抽出物、ウスバサイシンヘキサン分画物、ウスバサイシンメチレンクロライド及びウスバサイシンエチルアセテート分画物をそれぞれ製造した。
【0034】
本発明の具体的な実施例で、本発明者等はウスバサイシンメタノール抽出物の白蟻に対する殺虫効果を確認した結果、ウスバサイシンメタノール抽出物は24時間と48時間経過後には大きな殺虫活性を示さなかったが、72時間後に殺虫活性が急激に高くなることを確認した。また、少量の0.004g/mlでも68.3%の殺虫率が示され、それ以上の濃度では80%に達する殺虫率が示された。そして残りの生き残った個体も、ほとんど活動が不可能な程度のノックダウン(knock down)になり、白蟻に対する殺虫効果が優れていることを確認することができた(図1参照)。
【0035】
本発明の具体的な実施例で、本発明者等はウスバサイシンヘキサン抽出物の白蟻に対する殺虫効果を確認した結果、ウスバサイシンヘキサン分画物の殺虫活性は、濃度が高いほど24時間後から優れた殺虫活性を確認することができた。0.005g/mlでも80%以上の殺虫効果が示され、48時間後にはほとんど100%に達する殺虫活性を示した。しかし、0.004g/mlの濃度では急激に殺虫活性が低くなり、40%以下の殺虫活性が示されて殺虫物質の開発に相応しい濃度は、0.004g/mlから0.005g/mlの濃度が適正水準であることを確認した(図2参照)。
【0036】
本発明の具体的な実施例で、本発明者等はウスバサイシンメチレンクロライド分画物及びウスバサイシンエチルアセテート分画物の白蟻に対する殺虫効果を確認した結果、ウスバサイシンメチレンクロライド分画物及びエチルアセテート分画物は、すべての濃度で殺虫効果がほとんどなかったため、ウスバサイシンの主要殺虫活性物質は、最初に分画を実施したヘキサン層ですべて分画されたことを確認した(図3ないし図5参照)。
【0037】
本発明の具体的な実施例で、本発明者等はウスバサイシンの毒性が及ぼす影響を確認するために、ウスバサイシン抽出物を経口投与した後、一般症状、体重変化及び剖検を行なった結果、本発明のウスバサイシンは経口投与時の毒性がない安全な物質であることを確認した(図6及び図7参照)。
【0038】
したがって、本発明のウスバサイシン抽出物またはその有機溶媒分画物は、木造建築物及び文化財に大きな被害を与える白蟻に対して優れた防虫または殺虫効果を示すので、木造建築物及び文化財に損傷を与えずに人畜に影響を及ぼさないで安全かつ環境にやさしい白蟻防虫または殺虫用組成物として有用に用いることができる。
【0039】
また、本発明は、本発明の組成物を直接噴霧法、塗布法、薫蒸法、芳香処理法または包装法で文化財に処理する工程を含む文化財保存方法を提供する。
【0040】
前記本発明の組成物は、ウスバサイシンメタノール抽出物、ウスバサイシンヘキサン分画物、ウスバサイシンメチレンクロライド分画物及びウスバサイシンエチルアセテート分画物であることが好ましく、ウスバサイシンメタノール抽出物及びウスバサイシンヘキサン分画物がより好ましく、ウスバサイシンメタノール抽出物及びウスバサイシンヘキサン分画物それぞれを0.001〜0.008g/mlの濃度で70%エタノール溶液に希釈したものが最も好ましいが、これに限定されない。
【0041】
前記文化財は、有機質文化財であり得、前記有機質の文化財は、木材類、紙類または繊維類で、もっと好ましくは木材文化財であり、前記文化財に適用するための本発明の防虫または殺虫用組成物は、抽出された揮発性抽出物を純粋にまたは使用に相応しい濃度に希釈して用いることができる。前記防虫または殺虫用組成物を文化財に適用するための手段としては、直接噴霧法、塗布法、薫蒸法、芳香処理法、防虫または殺虫用組成物が塗布された包装紙で包装する方法などがあるが、これらに限定されない。また、本発明の防虫または殺虫用組成物を文化財に適用するための剤形としては、直接噴霧のためのエアゾール、薫蒸処理や芳香処理するためのチンキ剤、液剤、徐放性剤形のためのゲルマトリックスなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の防虫または殺虫用組成物の文化財適用有効量は、含まれた成分と適用手段によって異なるが、例えば芳香処理法では空気中の濃度が一般的に50ml/m以上、好ましくは125ml/m以上になるように調節する。
【0043】
本発明のウスバサイシン抽出物またはその有機溶媒分画物は、木造建築物及び文化財に大きな被害を与える白蟻に対して、安全で環境にやさしい防虫または殺虫効果を示すので、木造建築物及び文化財を保存する方法として有用に用いることができる。
【0044】
以下、本発明を実施例及び実験例によって詳しく説明する。
【0045】
ただし、下記の実施例及び実験例は本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例及び実験例に限定されるのではない。
【0046】
<実施例1>ウスバサイシン(Asarum sieboldii)メタノール抽出物の製造
ウスバサイシンを市中で販売中の漢方薬商で購入して、葉は除去して陰干しした後、50l容量のプラスチック筒に陰干ししたウスバサイシン7.5kgを入れてメタノール20lをいっぱいに満たした後、常温で一週間程度浸けておいた後に、ろ過紙(Advantec No.2)を用いてろ過した後、真空遠心濃縮機(EYELA、MV−100/日本)に容量2lのガラス容器に入れて真空濃縮させてメタノールを除去し、その結果、ウスバサイシンメタノール抽出物300gを得た。
【0047】
<実施例2>ウスバサイシン分画物の製造
ウスバサイシン分画物を製造するために、溶媒別極性差を用いて溶媒分画を実施した。
【0048】
具体的に、前記<実施例1>で濃縮したウスバサイシンメタノール抽出物溶液を1次蒸留水に1:1の割合で混合して懸濁させた後、分別ロート(Duran 2l)にn−ヘキサンと懸濁させた溶液を1:1の割合で混合して振った後、5分程度後に分離した分別ロートの上層液を集めて真空遠心濃縮機に入れてヘキサンを除去した。前記と同一な方法をさらに2回実施してヘキサン分画物を得た。前記ヘキサン分画物を分画して残った水と混じった抽出物は、再び1:1の割合で1次蒸留水と混合して分別ロートに入れて、メチレンクロライドを1:1の割合で混合してヘキサン分画と同じ方法で分画を実施して、ウスバサイシンメチレンクロライド分画物を得た。ただし、メチレンクロライドは、下層部溶液を取って真空遠心濃縮機で除去した。その後、残った抽出物をヘキサン分画と同じ方法でエチルアセテートと混合してウスバサイシンエチルアセテート分画物を得た。
【0049】
<実施例3>ウスバサイシン抽出物またはその分画物を有効成分として含む組成物の製造
ウスバサイシン抽出物またはその分画物を有効成分として含む組成物を製造するために、前記<実施例1>または<実施例2>で得たウスバサイシンメタノール抽出物、ヘキサン分画物、メチレンクロライド分画物、エチルアセテート分画物及びヘキサン分画を経ないメチレンクロライド分画物をそれぞれ0.001〜0.008g/mlの濃度で70%エタノール溶液に希釈して、ウスバサイシン抽出物またはその分画物を有効成分として含む組成物を製造した。
【0050】
<実験例1>ウスバサイシン抽出物またはその分画物の殺虫活性測定
<1−1>白蟻の飼育
ウスバサイシン抽出物またはその分画物の殺虫活性を測定するために、木造建築物及び文化財に大きな被害を与える白蟻を対象に実験を進行するために、白蟻を採集した後、飼育した。
【0051】
具体的に白蟻科(Reticulitermes speratus)昆虫は、野外で採集した個体群を利用し、大田広域市儒城区道龍洞花峰山で採取して室内で累代飼育したもので、個体の中で木造建築物に直接的に被害を及ぼす働き蟻を選別して使用した。
【0052】
<1−2>ウスバサイシン抽出物またはその分画物の殺虫効果確認
ウスバサイシン抽出物またはその分画物の殺虫効果を確認するために、ペトリ皿(直径 55mm、SPL)のふたにフィルターペーパー(55mm、Hyundai micro)を両面テープを用いて付着させた後、マイクロピペットを用いて前記<実施例1>及び<実施例2>で製造したウスバサイシン抽出物またはその分画物それぞれ250μlをフィルターペーパーに振り撤いた後、30分間陰干しした。その後、乾燥に弱い白蟻の特性を勘案してペトリ皿の底に1次蒸留水で濡らしたフィルターペーパーを敷いた後、フィルターペーパーの上に働き蟻20匹を乗せて1反復とした。実験は、濃度別に20匹ずつ 合計3回反復し、対照群には70%エタノールを使用した。同時に、白蟻はタバコシバンムシに比べて予備実験で相対的にずっと低い濃度でも殺虫活性を示したので非常に薄い濃度で実験を行なった。
【0053】
その結果、図1に示したようにウスバサイシンメタノール抽出物は、24時間と48時間経過後には大きな殺虫活性を示さなかったが、72時間後に殺虫活性が急激に高くなることを確認した。また、少量の0.004g/mlでも68.3%の殺虫率が示され、それ以上の濃度では80%に達する殺虫率が示された。そして、残りの生き残った個体もほとんど活動が不可能な程度にノックダウン(knock down)していて、白蟻に対する殺虫効果が優れていることを確認することができた(図1)。
【0054】
また、図2に示したように、ウスバサイシンヘキサン分画物の殺虫活性は、濃度が高いほど24時間後から優れた殺虫活性を確認することができた。0.005g/mlでも80%以上の殺虫効果を示し、48時間後にはほとんど100%に達する殺虫活性を示した。しかし、0.004g/mlの濃度では急激に殺虫活性が低くなって、40%以下の殺虫活性が示されたので殺虫物質開発の濃度は、0.004g/mlから0.005g/mlの濃度が適正水準であることを確認した(図2)。
【0055】
また、図3及び図4に示したように、ウスバサイシンメチレンクロライド分画物及びエチルアセテート分画物は、すべての濃度で殺虫効果がほとんどなかったので、ウスバサイシンの主要殺虫活性物質は、最初に分画を実施したヘキサン層にすべて分画されたことを確認した(図3及び図4)。
【0056】
<1−3>ウスバサイシンヘキサン分画を経ないメクルレンクルロライド分画物の殺虫効果確認
ヘキサン分画を経た後のメチレンクロライド分画物で殺虫効果がほとんどなかったので、殺虫成分がメチレンクロライド分画層では分画されないのかどうかを調べるために、前記<実施例2>と同一な方法を用いてウスバサイシンのメタノール抽出物をヘキサン分画を経ないで直ちにメチレンクロライドで分画を実施した。
【0057】
その結果、図5に示したようにヘキサン分画を経ない本発明のメチレンクロライド分画物は、ウスバサイシンヘキサン分画物と類似の殺虫効果を示すことを確認した。また、前記実験例<1−2>で確認したように、ウスバサイシンヘキサン分画物の場合、24時間後に非常にすぐれた殺虫効果が示され、0.005g/mlで48時間後にほとんど100%の殺虫効果が出た一方、ヘキサン分画を経ない本発明のメチレンクロライド分画物は、48時間経過後に殺虫効果が良いことが示され、0.005g/mlの濃度で48時間後に83.3%の殺虫効果が示されることを確認した。したがって、ヘキサン分画を経た後にメチレンクロライドで分画をしなくても、すぐにメチレンクロライドで分画をしても殺虫活性成分が分画されることを確認した(図5)。
【0058】
<実験例2>ウスバサイシン殺虫活性物質の経口投与毒性試験
ウスバサイシンの毒性が及ぼす影響を評価するために、ラットを用いて経口投与時に示される毒性反応を観察して概略の致死量(概略のLD50)を求めるために試験を実施した。具体的には、ウスバサイシン抽出物を0.2g/mlの濃度で1次蒸留水に希釈して(株)バイオテクステックに依頼した結果を使用した。
【0059】
<2−1>試験物質の調剤
試験物質は、電子秤(Sartorius、ドイツ)で秤量して調剤ビンに入れて、賦形剤(Choongwae Pharma Corp.,韓国)を一部入れてボルテックスミキサーで懸濁させて、賦形剤を加えて規定濃度に調剤した。
【0060】
<2−2>試験動物の準備
試験対象動物は、ラット(Sprague−Dawley)に投与した。ラットは、医薬品などの安全性試験に広く用いられていて、比較する基礎資料が豊富であるため選択した。入手時は、雄26匹、5週齢、体重90〜150g/雌26匹、5週齢、体重80〜140g、投与時には、6週齢、雄と雌各20匹のラットを選別して試験対象に使用した。
【0061】
<2−3>検疫順化
搬入時に動物の外観検査を実施して、電子秤で体重を測定した。6日間の順化期間中に毎日1回一般症状を観察し、順化期間終了日に体重を測定して、一般症状及び体重変化を確認して動物の健康状態を評価した。前記評価の結果、異常動物はCOガスを吸入させて安楽死させた。
【0062】
<2−4>個体及び飼育箱の識別
順化期間中には入手時に動物の尾に赤色油性ペンを用いて個体表示をし、飼育箱には検疫順化期間中、個体識別カードを付着した。観察期間中には群分離時に動物の尾に青色油性ペンを用いて個体表示をし、飼育箱には色個体識別カードを付着した。
【0063】
<2−5>群分離
群分離は、一般症状及び体重増加に異常がない動物の中から順化終了日(群分離日)に実施した。群分離日の平均体重に近い雄と雌各30匹を選抜した後、各群の平均体重が均等になるように無作為に雄と雌各6群、群当たり5匹に群分離した。
【0064】
<2−6>投与
試験物質の経口露出時の安全性を評価するため、経口経路を選択した。投与液量は下記の表1に示したように10ml/kgにして、個体別投与液量は節食後(投与当日)の体重を基準に算出した。経口投与用ゾンデ(sonde)を付着した使い捨て注射器(3ml)を用いての胃内に単回強制投与した。すべての動物は、投与前に約16時間以上、飲水は自由摂取させながら絶食させて投与約4時間後に飼料を与えた。
【0065】
【表1】

【0066】
<2−7>観察及び検査
投与当日に投与後30分までは少なくとも1回以上、1、2、4、及び6時間目に一般状態(毒性兆候の種類、発現時期、回復時期など)及び死亡の有無を観察した。投与後1日から14日までは、毎日1回一般症状を観察した。観察期間中の死亡動物は、発見時の体重を測定した後、剖検を実施することを原則として直ちに剖検が不可能な場合は冷蔵保管後、24時間以内に部検した。体重は、投与当日(投与の前)、投与後1、3、7日及び14日(剖検日)に測定し、観察期間終了後、すべての生存動物に対してCOガスを吸入させて肺大動脈から血を抜いて安楽死させて剖検を実施した。剖検時に肉眼所見が観察された臓器組織に対して必要だと判断された場合、組織検査を実施した。
【0067】
<2−8>結果
<2−8−1>死亡例の確認
ウスバサイシン抽出物の毒性試験を行なって死亡例を確認した。
【0068】
その結果、観察期間中に、雄4,000mg/kg投与群で投与後4時間に1例、投与後1日に2例、5,000mg/kg投与群で投与後6時間に1例が死亡した。雌2,000mg/kg及び4,000mg/kg投与群で投与後6時間に各1例、3,000mg/kg投与群で投与後1日に2例、5,000mg/kg投与群で投与後1日に2例、投与後3日に1例が死亡したことを確認した。
【0069】
<2−8−2>一般症状確認
ウスバサイシン抽出物を濃度別に経口投与した後、一般症状を確認した。
【0070】
その結果、雄と雌1,000mg/kg投与群で投与後6時間に不規則呼吸が各2例で観察されたが、投与後1日から一般症状の異常は観察されなかった。
【0071】
2,000mg/kg投与群の雄では、投与当日に不規則呼吸、流涙(lacrimation)または流涎(salivation)が5例で観察され、投与後1日に3例で不規則呼吸が観察されたが、投与後2日から一般症状の異常は観察されなかった。雌では、投与当日に流涎、振戦(tremor)、不規則呼吸、自発運動の減少または流涙が観察された後、1例で投与後6時間に腹臥位の状態で死亡した。投与後1日に不規則呼吸が4例、便量の減少が1例で観察されたが、投与後2日から一般症状の異常は観察されなかった。死亡した1例では、投与後2時間から6時間まで不規則呼吸、流涎、振戦、自発運動の減少または流れ涙が観察された後、腹臥位状態で死亡した。
【0072】
雄と雌3,000mg/kg投与群で投与当日に5例で不規則呼吸、流涙、流涎、自発運動の減少または振戦が観察された。投与後1日に雄で不規則呼吸4例、飼料摂取量の減少、自発運動の減少、便量の減少、流涎及び下腹部汚染が1例、投与後2日に不規則呼吸が2例で観察されたが、投与後3日から一般症状の異常は観察されなかった。雌では投与後1日及び2日に不規則呼吸、便量の減少、下腹部汚染、飼料摂取量の減少、自発運動の減少、流涙または口の周囲の汚染が観察された。死亡した2例では投与後1日に流涙、流涎及び横臥位の状態で死亡した。
【0073】
雄と雌4,000mg/kg投与群で投与当日に不規則呼吸、流涙、流涎、自発運動の減少または振戦が観察された。投与後1日及び2日に不規則呼吸、飼料摂取量の減少または便量の減少が観察されたが、投与後3日から一般症状の異常は観察されなかった。死亡個体では不規則呼吸、流涙、流涎、自発運動の減少、振戦または腹臥位が観察された後、投与後4及び6時間に各1例が死亡し、投与後1日に2例では流涙、流涎または腹臥位観察された後、死亡した。
【0074】
雄と雌5,000mg/kg投与群で投与当日に不規則呼吸、流涙、流涎、自発運動の減少または振戦が観察された。投与後1日から5日まで不規則呼吸、飼料摂取量の減少、便量の減少、下腹部汚染または口の周囲汚染が観察されたが、投与後6日から一般症状の異常は観察されなかった。死亡した個体では、投与後6時間に不規則呼吸、流涙、流涎または腹臥位の状態で雄1例、投与後1日に流涙及び横臥位の状態で雌1例、投与後3日に飼料摂取量の減少、便量の減少、流涙、流涎または自発運動の消失が観察された後、下腹部汚染、口の周囲汚染及び横臥位状態で1例が死亡した。
【0075】
<2−8−3>体重変化確認
ウスバサイシン抽出物を濃度別に経口投与した後、体重変化を確認した。
【0076】
その結果、図6及び図7に示したように、雄の試験物質3,000及び5,000mg/kg投与群で、投与後1日及び3日に対照群と比較して有意性ある体重減少が観察された。観察期間中、雌の試験物質投与群で対照群と比較して有意性ある体重変化は示されないことを確認した(図6及び図7)。
【0077】
<2−8−4>剖検所見
ウスバサイシン抽出物を濃度別に経口投与した後、生存個体に対する剖検の結果、雄と雌の試験物質投与群で肉眼的に異常な所見は観察されなかった。また、死亡個体に対する剖検結果、雌の試験物質5,000mg/kg投与群の1例の腺胃で黒白の病巣が観察された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウスバサイシン抽出物(Asarum sieboldii)を有効成分として含む白蟻科(Reticulitermes speratus)昆虫の防虫または殺虫用組成物。
【請求項2】
前記白蟻科昆虫が、ヤマトシロアリ(Reticultitermes speratus)またはヤマトシロアリキュウシュウエンシスモリモト(R.speratus kyushuensis Morimoto)であることを特徴とする、請求項1に記載の防虫または殺虫用組成物。
【請求項3】
前記白蟻科昆虫が、ヤマトシロアリであることを特徴とする、請求項1に記載の防虫または殺虫用組成物。
【請求項4】
前記ウスバサイシン抽出物が、メタノール、エタノール、水またはこれらの混合溶媒抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の防虫または殺虫用組成物。
【請求項5】
前記ウスバサイシン抽出物が、メタノール抽出物であることを特徴とする、請求項1に記載の防虫または殺虫用組成物。
【請求項6】
ウスバサイシン抽出物の有機溶媒分画物を有効成分として含む、白蟻科昆虫の防虫または殺虫用組成物。
【請求項7】
前記有機分画物が、ヘキサン分画物であることを特徴とする、請求項6に記載の防虫または殺虫用組成物。
【請求項8】
請求項1の組成物を直接噴霧法、塗布法、薫蒸法、芳香処理法または包装法で文化財に処理する工程を含む文化財保存方法。
【請求項9】
請求項6の組成物を直接噴霧法、塗布法、薫蒸法、芳香処理法または包装法で文化財に処理する工程を含む文化財保存方法。
【請求項10】
前記文化財が、有機質文化財であることを特徴とする、請求項8または請求項9に記載の文化財保存方法。
【請求項11】
前記有機質文化財が、木材類、紙類または繊維類であることを特徴とする、請求項10に記載の文化財保存方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112681(P2013−112681A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−96505(P2012−96505)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成23年10月20日 「2011 KSABC インターナショナルシンポジウム アンド アニュアルアルミーティング」(2011 International Symposium & Annual Meeting of the KSABC)においてポスターによる発表 平成23年10月20日 ザ コリアン ソサエティ フォー アプライド バイオロジカル ケミストリー(The Korean Society for Applied Biological Chemistry)発行の「2011 KSABC インターナショナルシンポジウム アンド アニュアルアルミーティング」要旨集 第205頁に発表
【出願人】(512104890)リパブリック オブ コリア(ナショナル リサーチ インスティテュート オブ カルチュラル ヘリテイジ) (1)
【Fターム(参考)】