説明

エアカーテン装置および感染防止システム

【課題】適用するべき位置を検出し、検出した位置に抗菌性エアカーテンを送出する。
【解決手段】車両の内部にエアカーテンを送出するエアカーテン装置は、与えられる指令が指す車両内の所定位置に対して、空調機構21を駆動させてオゾン濃度、イオン含有、加熱、加湿などのうちの1つ以上が調整された抗菌性エアカーテンを送出するエアカーテン機構2と、車両内の人が状態を検出するために車両内の各部に設けられたサーモグラフィの赤外線カメラ31とを備える。サーモグラフィに基づき発熱者を検出すると、車両内における発熱者の位置を検出して、エアカーテンコントローラ7は、これを所定位置として指示する指令をエアカーテン機構2に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアカーテン装置および感染防止システムに関し、特に、指定位置に対応する空間に選択的に適用されるエアカーテン装置および感染防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の新型インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)などの世界的な流行をうけて、各個人、家庭、自治体レベルでの感染症に対する対応が必須となっている。個人または家庭では、空気清浄器に代表される空気浄化装置の導入、化学物質(例えば消毒用アルコール)の常用といった対応が盛んにとられている。
【0003】
これに対し、公共機関や公共施設(以下、公共の場という)において、細菌、カビ、ウィルス等(以下、微生物とする)の毒性を最小限度に抑制する対策は十分ではなく、その充実が望まれている。
【0004】
公共の場での対策の要望に応えるために、例えば特許文献1の空気浄化装置は、病院などに設置されて、病院などの施設内の空気を取込み、ウィルス等を不活化処理した後に施設外に排出する構成を有する。したがって、病院内の汚染された空気により、外部側へのウィルスや細菌等の感染拡大を防止できる。しかしながら、この装置では、施設内の空気を清浄化することは困難であった。
【0005】
施設内の空気を浄化するために、特許文献2のエアカーテン装置によれば、室内の天井からオゾンを用いたエアカーテンを室内に向けて発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3148325号公報
【特許文献2】特開2001−299891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のエアカーテン装置は、有人下でオゾン濃度を常に0.08ppm以下の低濃度とするように制御される。つまり、常に画一的な情報をもとに制御されたオゾン制御装置である。しかしながら、公共の場では、対象空間が大きく、不特定多数の人が出入りする、または集合していることから、感染が疑われる特定の人から他の人への感染防止、または特定の部分的なエリアを対象に感染防止の対策を適用することが現実的である。しかしながら、特許文献2の装置を用いた場合には、空間の全てを対象にしてエアカーテンを発生させていることから、当該要望に対処することは不可能であった。
【0008】
それゆえに、この発明の目的は、適用するべき位置を検出して、検出した位置を対象に抗菌性を有するエアカーテンを発生させるエアカーテン装置および感染防止システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある局面に係る、人を収容する収容部の内部にエアカーテンを送出するエアカーテン装置は、与えられる指令が指す収容部の内部の所定位置に対して、抗菌性のエアカーテンを送出するエアカーテン発生部と、収容部に収容されている人の状態または収容部の内部の空気の状態を検出するために、収容部の内部の各位置に関連づけて設けられる状態検出部と、状態検出部が検出した状態を指す状態情報に基づき、状態が所定状態を指す位置を検出する位置検出部と、位置検出部が所定状態を指すと検出した位置を所定位置として指示する指令を、エアカーテン発生部に出力するエアカーテン制御部と、を備える。
【0010】
望ましくは、エアカーテン発生部は、オゾン濃度、加熱、イオンの含有、および加湿のうちの1つまたは2つ以上の調整がされた抗菌性のエアカーテンを送出する。
【0011】
望ましくは、加湿により調整がされる場合には、抗菌性のエアカーテンの相対湿度は、50%〜100%の範囲であるように調整される。相対湿度においては50〜100%、より好ましくは50〜90%、さらに好ましくは50〜80%とする。
【0012】
望ましくは、加熱により調整がされる場合には、抗菌性のエアカーテンの温度は、25℃〜50℃の範囲であるように調整される。加熱空気においては25〜50度、より好ましくは30〜45度、さらに好ましくは38〜40℃とする。
【0013】
望ましくは、抗菌性のエアカーテンの周囲エアを冷却する。
この発明の他の局面に従うと、人を収容する収容部の内部にエアカーテンを送出するエアカーテン装置を備える感染防止システムにおいて、エアカーテン装置は、与えられる指令が指す収容部の内部の所定位置に対して、抗菌性のエアカーテンを送出するエアカーテン発生部と、収容部に収容されている人の状態または収容部の内部の空気の状態を検出するために、収容部の内部の各位置に関連づけて設けられる状態検出部と、状態検出部が検出した状態を指す状態情報に基づき、状態が所定状態を指す位置を検出する位置検出部と、位置検出部が所定状態を指すと検出した位置を所定位置として指示する前記指令を、エアカーテン発生部に出力するエアカーテン制御部と、を有する。
【0014】
望ましくは、位置検出部が所定状態を指すと検出した位置を撮像範囲として撮像する撮像部と、撮像部が出力する画像データに基づく画像を表示する表示部とを、さらに備える。
【0015】
望ましくは、画像データを処理することにより、画像データから、位置検出部が所定状態を指すと検出した位置を特定する情報を検出して出力する。
【0016】
望ましくは、収容部の内部に向けて情報を出力する内側出力部を、さらに備え、位置検出部により状態が所定状態を指す位置が検出されたとき、第1所定メッセージを内側出力部から出力する。
【0017】
望ましくは、収容部の内部を外部から遮蔽するための遮蔽部を、さらに備え、位置検出部により状態が所定状態を指す位置が検出されたとき、遮蔽部により収容部の内部を外部から遮蔽する。
【0018】
望ましくは、収容部の外部に向けて情報を出力する外側出力部を、さらに備え、位置検出部により状態が所定状態を指す位置が検出されたとき、第2所定メッセージを外側出力部から出力する。
【0019】
望ましくは、感染防止システムの外部機関のコンピュータと通信する通信部を、さらに備え、通信部は、位置検出部により状態が所定状態を指す位置が検出されたとき、所定通報をコンピュータに送信する。
【0020】
望ましくは、エアカーテン装置は、エアカーテン発生部に対する前記指令の出力を要求するリクエストを受付ける受付部を備え、指令が指す前記所定位置の情報は、受付けたリクエストに予め含まれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、状態検出部により、抗菌性エアカーテンを適用するべき位置を検出して、検出した位置を対象に抗菌性を有するエアカーテンを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態に係る感染防止システムの概略的なハードウェア構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係るエアカーテン機構の各部の配置を模式的に示す図である。
【図3】実施の形態に係るイオン発生機構を説明する図である。
【図4】実施の形態に係る印加電圧とイオン濃度およびオゾン濃度との関係を示すグラフである。
【図5】実施の形態に係る実験環境を説明する図である。
【図6】実施の形態に係る感染防止システムの機能構成を示す図である。
【図7】実施の形態に係る感染防止システムの処理フローチャートである。
【図8】実施の形態に係る感染防止システムのエアカーテン発生に係る処理フローチャートである。
【図9】実施の形態に係る車両内におけるエアカーテンの供給態様の1例を模式的に示す図である。
【図10】実施の形態に係る緊急メッセージ表示の1例を示す図である。
【図11】実施の形態に係る警報メッセージ表示の1例を示す図である。
【図12】実施の形態に係る外部機関への通報の態様を模式的に示す図である。
【図13】実施の形態に係るリクエストに応じた抗菌性エアカーテンの供給態様を模式的に示す図である。
【図14】実施の形態に係るリクエストに応じた抗菌性エアカーテン供給の処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照し説明する。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を示す。
【0024】
本実施の形態では、「感染」とは生体内に微生物が侵入することを指し、この生体の持ち主を感染者と言う。「発病」とは感染によって生体に症状(咳、発熱など)が出現して病気になることを指す。「空気浄化」とは、空気中に浮遊する目に見えないゴミ、菌類を除去することを言い、このような除去がなされた空気を清浄空気と言う。日常生活環境において「抗菌性」とは、広義には「滅菌」(全ての微生物を殺滅),「殺菌」(微生物を一部でも殺せば殺菌),「消毒」,「除菌」,「制菌」(微生物の増殖阻止),「静菌」(微生物の増殖抑制),「防かび」,「防腐」という言葉をすべて含む。つまり、敢えて微生物を死滅させず、その増殖を阻害する場合も抗菌技術の一環に含まれる。「不活性化」とは、たとえば細菌などの増殖能力をなくすことをいい、ウイルスについては感染能力を喪失させることをいい、またアレルギー物質についてはアレルギー反応を生じないようにすることをいう。
【0025】
「公共の場」とは、例えば電車、飛行機、船舶、バス・タクシー等の公共の車両、会社や学校、病院・保険所・診療所関係、映画館、飲食店、ショッピングマーケット、宿泊設備等の公共の施設の内部の比較的に大きな閉じた空間であって、人を収容する空間を指す。本実施の形態では、公共の場として電車などの車両内を想定し説明するが、適用される空間はこれに限定されるものではない。
【0026】
<エアカーテン機構>
本実施の形態に係るエアカーテン機構は、エアカーテン発生装置として機能するものである。具体的には、オゾンや正イオンと負イオンとを発生するイオン発生素子を付設したことにより、エアカーテンが正イオンと負イオンとを含むことを特徴とする。このようなエアカーテン発生装置は、オゾンや正負イオンを含んだ空気の流れを制御することが可能であり、とりわけその風向きにより高濃度の正負両イオンを含んだ空気の流れで壁(パーティション)を構成し、この空気の壁によって人体や物品を外部から遮蔽した空間に保持することが可能となる。なお、本実施の形態におけるエアカーテンとは、一般的に用いられているエアカーテンという用語と同様の概念を示すものであり、特に特異な概念を示すものではなく空気の流れにより一種の壁のような状態を構成するものを示す。すなわち、本実施の形態におけるエアカーテンは、気流を制御することにより空間を分離したり空気の拡散を防止する機能を奏するものであり、この点において温度調節機能を主目的として温度の伝達を効率良く行なうべく空気を循環または混合するために送風する機能を奏するエアコンとは異なる。
【0027】
<感染防止システムの概略構成>
図1を参照して、本実施の形態に係る感染防止システムは、システム全体を集中的に制御および監視するためのコンピュータ1、公共の場における指定された部分の空間においてエアカーテンを発生させるための複数個のエアカーテン機構2、当該システムが適用される公共の場をモニタするためのモニタ機構3、エアカーテン機構2とモニタ機構3とコンピュータ1との間のデータ通信のための通信回線4、外部機関(保健所、消防署など)に設けられた外部コンピュータ6のそれぞれと、コンピュータ1との間のデータ通信を可能にするインターネットなどの公衆回線または専用回線を含む通信回線5、および複数のエアカーテン機構2の動作を制御するための信号を生成して出力するエアカーテンコントローラ7を含む。
【0028】
コンピュータ1は、CPU(Central Processing Unit)11、データおよびプログラムを格納するメモリ12、キーボード、マウスなどを含み、かつオペレータが操作することにより指示を入力するための入力部13、ディスプレイ、音声出力部、プリンタなどからなる出力部14、有線または無線の通信回線4および5とコンピュータ1とを接続するためのI/F(Interface)15を含む。
【0029】
エアカーテン機構2のそれぞれは、車両内の複数の区画のそれぞれに対応して設置される。各エアカーテン機構2は、発生させるエアカーテンの空気を調整する空調機構21および空調機構21によって調整された空気の流れを後述のダウンフローとして車両内に供給するためのダウンフロー機構22を含む。
【0030】
空調機構21は、オゾン発生器211、PCI(プラズマクラスターイオン:登録商標)発生器212、加湿器213、加熱器214、冷却器215および調整された空気の温度、湿度および当該空気中のオゾン濃度を検出するための各種センサ群216を含む。ダウンフロー機構22は、ダウンフローの気流を発生させるために複数のファンからなるファン群221を含む。
【0031】
モニタ機構3は、公共の場における人物などの物体をモニタするために複数台の赤外線カメラ31、被写体を撮影するためのCCD(Charge Coupled Device)あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などのカメラ32、公共の場、すなわち車内に居る人に対して情報を提示するための車内ディスプレイ33、車外に居る人に対して情報を提示するための車外ディスプレイ34および車内を外部から遮蔽するためのロック機構35を含む。
【0032】
各赤外線カメラ31は車内の異なる位置に撮像範囲が異なるように設置されている。各赤外線カメラ31を一意に識別する情報(番号データなど)は予め当該赤外線カメラ31の内部メモリに登録されている。各赤外線カメラ31は、内部メモリから読出した識別情報を付加して撮像した画像データを出力する。
【0033】
CCDカメラ32は、外部からの指示に従って、撮影角度(アングル)が自在に変更されることにより、CCDカメラ32が設けられた車内のほぼ全域を撮影することができる。
【0034】
エアカーテンコントローラ7は、エアカーテン機構2の各部を制御するための制御信号を生成して出力する信号生成部71、および複数の出力端子O1,O2、O3、・・・を有した出力I/F(Interface)72を含む。信号生成部71は与えられる信号を入力して、入力信号に基づきエアカーテン機構2の制御信号を生成し出力I/F72に出力する。当該制御信号には、制御対象となるべきエアカーテン機構2を指定する指定信号が含まれる。当該指定信号は、出力I/F72の出力端子O1、O2、O3、・・・のうちのいずれかを指示する信号である。
【0035】
出力I/F72の出力端子O1、O2、O3、・・・のそれぞれは、エアカーテン機構2のそれぞれに1対1対応で接続されている。出力I/F72は、信号生成部71から入力した制御信号の指定信号に基づき、当該制御信号を指定信号が指示する出力端子を介して出力する。したがって、生成された制御信号を、指定信号が指示するエアカーテン機構2にのみ選択的に与えることができる。
【0036】
<エアカーテン機構の構成>
図2には、公共の場である車両の空間が略直方体の内部により模式的に示される。エアカーテン機構2は略直方体の内部にエアカーテンを発生させるために、車両の天井裏において複数設けられる。図2では、説明を簡単にするために1台示している。車両の大きさにより設けられる台数は異なる。
【0037】
オゾン発生器221およびPCI発生器212がファン221Aと関連付けて設けられる。ファン221Aの送風によって送出された空気には、オゾン発生器221によって発生されたオゾン、およびPCI発生器212によって発生されたプラズマクラスターイオンが含まれた状態で、次に、加熱器214に供給されて、所定温度まで加熱された後に、加湿器213に供給される。加湿器213によって所定湿度まで加湿された後、空気は天井面に設けられた送風口222AのフラップF1、F2およびF3を介して車内に送出される。ここで、フラップF1およびF3が設けられた送風口に関連して天井裏には冷却器215が設けられる。天井側の送風口222Aから送風された気流は、車内の床面に予め設けられた送風口222Aに対応する送風口222Bのフラップを介してファン221Bにより床面下に吸い込まれて車内から強制的に送出される。これによりダウンフローが形成される。
【0038】
送出された空気は、ファン221Bによって図示のないダクト内に送風される。このダクトは床下から送出された空気を天井側に送るための通風路として機能する。送風された空気はファン221Aにより吸引されてダクトを経由して天井側に導出されて、再度、オゾン発生器211およびPCI発生器212に供給される。このように、本実施の形態では、空気は循環するとしているが、外部の環境条件が許されるならば、ダウンフローした空気は循環することなく床面から車外に排出されるとしてもよい。
【0039】
床下のファン221Bを通過した空気が、天井側のファン221Aに導出されるための図示のないダクト内においては、センサ群216が設けられる。
【0040】
抗菌性エアカーテンは発生させるために、例えば、電車内(図9参照)では、座席周辺に、上下対になったエアカーテン発生機構を備えても良い。つまり座席と座席の間、座席の前後に通常は冷暖房を目的としたエアカーテンが発生している。したがって通常時は、暖房のための加熱器214または冷房のための冷却器215のみが動作し、他の機器は動作を停止する。これを通常の状態として、特定の座席周辺を囲むエアカーテンに限ってオゾン発生器211、PCI発生器212および加湿器213をも選択的に動作させることで、抗菌性エアカーテンに変更することができる。その結果、公共の場の特定の位置に対応する空間を、当該特定位置に対応して設けられたエアカーテン機構2によって擬似的に抗菌性エアカーテンで隔離することができる。
【0041】
<オゾン発生器およびPCI発生器の動作>
図2では、オゾン発生器211とPCI発生器212は別個に示したが、実際には図3に示すような部材により一体的に構成される。図3を参照して、PCI発生のために、放電電極901、埋込電極902、セラミック誘電体903、発生装置904、ファン221Aに相当するファン905および電線906を含む。放電電極901と埋込電極902とは、放電する。放電電極901と埋込電極902との放電によりプラズマ領域907が発生する。発生装置904は、放電電極901と埋込電極902とに電圧を印加する。ファン905は、プラズマ領域907が含むイオンなどの活性な空気を放出する。
【0042】
このようなイオン発生に際しては、放電電極901と埋込電極902間に正と負の電圧を交互に印加することにより表面電極部で沿面放電を起こし、大気圧下での放電プラズマにより正イオンと負イオンを同時に生成し送出させる。実験によれば、印加した正極と負極のピーク電圧差は3.2kV〜5.5kVであり、この範囲の電圧において有害なオゾン量が発生することはなかった(図4参照)。
【0043】
イオン発生によりエアカーテンに含まれる正イオンは空気中の水分子とクラスタリングすることによりH(HO)(nは0または自然数)、負イオンは空気中の水分子とクラスタリングすることによりO(HO)(mは0または自然数)である。エアカーテン中に送出されたこれらの正負両イオンは、エアカーテン中に侵入してくる細菌、真菌、ウイルスまたはアレルギー物質を取り囲み、それらの表面で正負両イオンが以下の化学反応(1)と(2)によって活性種である過酸化水素H、二酸化水素HOまたはヒドロキシラジカル・OHを生成する。
【0044】
(1)H+O→・OH+H,(2)H+O→HO+H
生成した過酸化水素H、二酸化水素HOまたはヒドロキシラジカル・OHは、たとえばウイルスに対しては、その表面タンパク質を変性ないし破壊してウイルスの感染能力を喪失させることにより、効率的に侵入してくるウイルスを不活化させることができる。また、細菌や真菌に対しては、該活性種が表面細胞に作用して死滅させることにより不活化することができ、アレルギー物質に対しては、これらの活性種が直接反応することにより無害性の物質へ分解等されることにより不活化することができる。
【0045】
<エアカーテンの条件>
本実施の形態では、エアカーテンの発生は、通常、送風機であるファン221Aを使って風速0.1〜50m/秒程度の風を上方から下方に向けて吹き付けるダウンフローを発生させる。床面でこのダウンフローをファン221Bにより吸い込み、吸い込んだ空気を図示のないダクトを通過させて天井のファン221に供給するという空気の循環経路を形成する。ダウンフローとは、上方から流入した気体が、対向する底面から流出するように構成された気体の流れのことであり、垂直層流ともよばれる。ダウンフロー中に発生させたオゾンまたはPCI、加湿器213による相対湿度50%以上の水分、加熱器214により加熱空気等を1つ以上混ぜることで、抗菌性のエアカーテンとすることができる。湿度単独の制御では、50%以上であれば、他の条件にかかわらずインフルエンザウィルスの活性が低下するとの報告がなされている。オゾンについては、日本では作業場での基準値を0.1ppm(0.2mg/m)、1日8時間以内と定めており、人体の周りではそれ以下の濃度となる必要がある。PCIは現時点でイオン発生器の出口から直線距離10cm程度において検出されるプラズマクラスタイオン量が50,000個/cmであるプラズマクラスタイオン発生装置が市販されており、エアカーテン中にPCIを混入させることは可能である。
【0046】
加湿器213で相対湿度を上げること、加熱器214によりエアカーテンの流出空気を加熱することも、民生用の空気清浄機の制御技術の延長で容易に達成可能である。
【0047】
エアカーテンに加熱空気を用いる場合、より確実な微生物の不活性化を行うため、抗菌性のエアカーテンは温度25〜50℃、より好ましくは30〜45℃、さらに好ましくは38〜40℃とする。周囲空気が高温であることが問題となる環境下では、この抗菌性エアカーテンの周囲を、すなわち天井面の3個のフラップF1〜F3のうち、フラップF1とF3を通過するエアのみを冷却器215によりガス冷却することで、エアカーテンの中心部の空気は抗菌性のための高温を維持しながら周囲は冷気で覆うようにすることが可能となる。これにより、抗菌性を低下させることなく高温の問題を解消できて、応用範囲が広がる。
【0048】
<実験1>
発明者は、図5の環境下において、病原性を有する細菌を不活性化できるか否かを確認する試験を行った。使用した細菌は、大腸菌であった。試験空間は、内容量1mの密閉されたアクリル製容器601の内部である。本容器内にオゾン発生器211と送風ファン603とを設置し、さらに選択的に駆動される加熱器(ヒータ)607、加湿器608および冷却器609を設置した。オゾン発生器211から発生したイオンを送風ファン603がアクリル製容器601内に拡散させた。アクリル製容器601において、アクリル製容器601を30分動作させた場合のイオン濃度は、正イオンも負イオンも7,000個/cmであった。
【0049】
オゾン発生器211および攪拌ファン605を駆動させた直後より、大腸菌606を含む溶液をアトマイザー604により十分に拡散がされる時間(たとえば、45分間)噴霧した。噴霧の停止から5分後より、内部の空気を10L/分の速度で10分間吸引し、インピンジャー(図示せず)にて大腸菌を回収サンプリングした。なお、サンプリングは1mボックスに接続した2個のインピンジャーで同時に行った。
【0050】
次に、オゾン発生器211を駆動させない状態で、上記と同じ試験方法により、大腸菌606を回収し、かつサンプリングした。
【0051】
例えばオゾン殺菌において、オゾン濃度を0.5ppmとし、加熱器607および冷却器609を選択的に駆動させて温度25℃と5℃の環境を設定した。かかる環境下で大腸菌を100%死滅させるのにかかった時間は25℃の場合は5分であり5℃の場合には30分であった。この結果、オゾン殺菌については同一のオゾン濃度でも温度依存性が存在することが確認された。また、ウィルスは高温で活性が著しく低下するものもあることが知られている。したがって、エアカーテンにおける温度条件の設定は重要である。
【0052】
発明者は、図5の環境において、温度条件を一定にし加湿器608を駆動させて相対湿度を変化させて殺菌効果を確認した。湿度30%未満では、オゾンガスの殺菌効果が全く認められない場合があったが、相対湿度30〜50%で殺菌効果が発現し、60〜80%では更なるオゾンの抗菌効果が認められた。また水分によってウィルスの飛沫を防ぐ可能性も有ることが知られている。したがって、エアカーテンにおける湿度条件の設定は重要である。
【0053】
<実験2>
発明者は、エアカーテンの外には微生物が拡散されていないことを確認するために、次のような実験を実施した。
【0054】
擬似的な車両に見立てた実験室(たとえば、図2の空間が相当する)において、体表温度検査装置サーモグラフィ検査装置(例えばIS7800N/NECAvio赤外線テクノロジー社製)を用いて、携帯カイロを用いて体温を高めた人をモニタリングし、その周りに抗菌性エアカーテンを発生させた。モニタ結果に基づき発病(検出した体温が40℃以上)と診断された結果を、擬似的にUSB(Universal Serial Bus)通信を用いて車両外のパーソナルコンピュータで検出し、パーソナルコンピュータにおいて予め準備(記憶)していた実験室内の位置情報とリンクさせ、モニタが検出した発病者の位置を特定した。特定した位置情報を基に、図2のような抗菌性エアカーテン発生機構を動作させた。
【0055】
発生においては、通常の送風機を使って風速0.1〜50m/秒程度の風を上方から下方に向けて吹き付けるダウンフローを発生させる機構を利用した。この実験室の底面には、ダウンフローを吸い込む循環機構を備え、さらにエアフィルターを設けた。ダウンフロー中にオゾン発生器(例えば、OZ−200C:プレテック社製)で発生させた0.1ppmの濃度のオゾンと40℃の加熱空気を混ぜることで抗菌性エアカーテンとした。
【0056】
この状態でエアカーテン内に1.0×10個/mLの濃度で大腸菌を5分間噴霧し、エアカーテンの外でエアサンプラー(MAS100/メルク社)を用いて50L分空気を採取することで微生物濃度を確認したところ、大腸菌は検出されなかった。つまりエアカーテンの外には微生物が拡散されていないことが確認された。
【0057】
<実験3>
発明者は、温度条件による抗菌性エアカーテンの内外における微生物の有無を比較するために、次のような実験を実施した。
【0058】
擬似的な車両に見立てた実験室(たとえば、図2の空間が相当する)において、体表温度検査装置サーモグラフィ検査装置(例えばIS7800N/NECAvio赤外線テクノロジー社製)を用いて、携帯カイロを用いて体温を高めた人をモニタリングし、その周りに抗菌性エアカーテンを発生させた。モニタ結果に基づき発病(検出した体温が40℃以上)と診断された結果を、擬似的にUSB(Universal Serial Bus)通信を用いて車両外のパーソナルコンピュータで検出し、パーソナルコンピュータにおいて予め準備(記憶)していた実験室内の位置情報とリンクさせ、モニタが検出した発病者の位置を特定した。特定した位置情報を基に、図2のような抗菌性エアカーテン発生機構を動作させた。
【0059】
発生においては、通常の送風機を使って風速0.1〜50m/秒程度の風を上方から下方に向けて吹き付けるダウンフローを発生させる機構を利用した。この実験室の底面には、ダウンフローを吸い込む循環機構を備え、さらにエアフィルターを設けた。
【0060】
ダウンフロー中にミニシェル型加熱ヒータの温度をスライダックで手動調整することで、吹出し口から垂直方向に1m離れた位置での温度を放射温度計(IT−550F 堀場製作所製)で測定した。ヒータ最大容量は330Wであり、20℃の空気を120℃に昇温することが可能なヒータパイプ型の加熱器を用いた。
【0061】
まずコントロールとして加熱の無い室温の空気からなるエアカーテンを作製し、別途、30℃、35℃、38℃、40℃、45℃、50℃の温度条件の下で抗菌性エアカーテンを発生させた。実際にこのエアカーテン内に1.0×10個/mLの濃度で大腸菌を5分間噴霧し、エアカーテンの外でエアサンプラー(MAS100/メルク社製)を用いて、50L分空気を採取することで微生物濃度を確認したところ、大腸菌の検出を確認した。それぞれの温度条件で得られた培地を、1日35℃のインキュベータに保管後、発現したコロニー数を確認したところ、エアカーテンの内側で且つ室温では1.0×10CFU(colony forming units)/mL、エアカーテンの外側は加熱なし(室温)、30℃、35℃、38℃、40℃、45℃、50℃の順に、5.0×10CFU/mL、6.0× 10CFU/mL、(ND)検出されず、(ND)検出されず、(ND)検出されず、(ND)検出されず、(ND)検出されずという結果になった。
【0062】
つまりエアカーテンの抗菌性として温度条件は重要であり、室温に相当する25℃を含めて、25〜50℃が好ましく、より好ましくは30〜45℃、さらに好ましくは38〜40℃であることが確認された。
【0063】
<感染防止システムの機能構成>
図6には、感染防止システムの機能構成が示される。図示される各部の機能は、その一部または全部がプログラムまたはデータにより予め作成されて、メモリ12の所定領域に格納される。CPU11は、これらプログラム・データをメモリ12から読出し、その命令を実行することにより、図6に示す各部の機能を実現する。
【0064】
図6を参照して、感染防止システムは、他の各部を集中的に制御するためのCPU11に対応する制御部100、メモリ12に対応する記憶部101、車内に居る対象物(本実施の形態の場合は乗客などの人物)の位置を検出する対象位置検出部102、コンピュータ1を操作する管理者(オペレータ)に情報を報知するための管理者報知部103、および各エアカーテン機構2を制御するためのエアカーテン制御部105を備える。
【0065】
感染防止システムは、さらに、センサ群216の各種センサの出力を受付けるセンサ出力受付部106、CCDカメラ32および複数の赤外線カメラ31から出力される画像データを受付ける画像データ受付部107、および画像データ受付部107により受付けられたCCDカメラ32からの画像データを処理する対象画像処理部108を備える。
【0066】
感染防止システムは、さらに、各外部機関に設けられた外部コンピュータ6と通信することにより、情報を外部コンピュータ6に所定情報を通報する外部機関通報部109、車内ディスプレイ33または車外ディスプレイ34にメッセージを出力するためのメッセージ出力部110、ロック機構35により車内を外部から遮蔽するための扉に関連したロック機構35を制御するためのロック制御部111、コンピュータ1を操作する管理者に情報を表示するためのディスプレイなどの表示部112、およびリクエスト受付部113を備える。リクエスト受付部113は、乗客などのユーザによるエアカーテン機構の作動の要求(リクエスト)を受付ける。
【0067】
エアカーテン制御部105は、各エアカーテン機構2の空調機構21を制御するための空調制御部121を含む。空調制御部121は、空調機構21のオゾン発生器211、PCI発生器212、加湿器213、加熱器214および冷却器215の制御量(たとえば印加する電圧値など)を決定する制御量決定部123、およびこれら各機器のうちから動作させるものを選択的に決定し、決定された機器を動作させるための信号を出力する切替部124を含む。切替部124は、上述したように通常時は暖房・冷房に対応した機器のみを動作させているが、抗菌性エアカーテン開始の指示を入力すると、応じてオゾン発生器211、PCI発生器212、加湿器213、加熱器214および冷却器215の1つ以上に対して、動作開始の指示を出力して、エアカーテンを抗菌性のものに切替える。
【0068】
メッセージ出力部110は、車内ディスプレイ33および車外ディスプレイ34に緊急メッセージを出力するための緊急メッセージ出力部125と警報メッセージを出力するための警報メッセージ出力部126とを含む。緊急メッセージ出力部125は、緊急の対策を講じなければならない事態を報知するためのメッセージを出力する。警報メッセージ出力部126は、危険の切迫に対して警戒するよう人々に報知するための警報メッセージを出力する。
【0069】
記憶部101は、赤外線カメラ31が出力する識別情報に基づき検索されるテーブルTB1、車内の座席番号に基づき検索されるテーブルTB2とTB3、温度変化画像処理部120の機能を実現するために実行される温度変換プログラムPR0、オゾン発生器211によって発生するオゾン濃度を制御するための目標データを示すオゾン目標データTD1、加熱器214によって調整される空気の温度の目標を示すデータTD2、および加湿器213によって調整される加湿のための湿度目標データTD3が格納される。
【0070】
また、空調制御部121が、オゾン発生器211、加熱器214および加湿器213のそれぞれを、対応の目標データTD1〜TD3に従い動作を制御するために実行されるプログラムPG1、PG2、PG3およびPG4が予め格納される。記憶部101には、管理者報知部103による報知のために参照される座席表画像データ1011が格納される。
【0071】
記憶部101の各プログラムは、CPU11により読出されて、その命令が実行されることによって対応する部分の動作が制御される。
【0072】
テーブルTB1には、各赤外線カメラ31の識別情報に相当するカメラ番号のデータD1とデータD1に対応して、当該赤外線カメラ31が撮影する区画に対応して設けられたエアカーテン機構2が接続される出力端子(出力端子O1、O2、O3、・・・のいずれか)を指示する出力端子番号のデータD2、当該赤外線カメラ31が撮像する区画の車両内における位置を指示するデータD3およびCCDカメラ32が当該区画を撮像するためのアングルを指すCCDカメラ角度のデータD4が予め格納される。
【0073】
テーブルTB2には、車内の各座席を識別する座席番号のデータD5とデータD5に対応して、当該座席が属する区画に対応して設けられたエアカーテン機構2が接続される出力端子(出力端子O1、O2、O3、・・・のいずれか)を指示する出力端子番号のデータD6が予め格納される。
【0074】
テーブルTB3には、各座席番号のデータD9と、データD9に対応して当該座席を指すマークの座席表画像データ1011における位置を指す画像位置のデータD10が予め格納される。
【0075】
<感染防止システムの動作>
図7を参照して、本実施の形態に係る感染防止システムの処理フローチャートについて説明する。当該処理フローチャートに従うプログラムは、予め記憶部101に格納されており、CPU11により当該プログラムが読出されて実行されることにより、各部の機能が実現される。
【0076】
図7の処理は、定期的に繰返されてもよいし、何らかのイベント(たとえばオペレータによる入力部13を介した開始指示の入力)により開始されてもよい。なお、各エアカーテン機構2により、車両内には冷房・暖房などの通常のエアカーテンが供給されていると想定する。
【0077】
まず、対象位置検出部102は、各赤外線カメラ31により、撮影動作を行なわせる(ステップS3)。これにより、各赤外線カメラ31によって、熱源となる物体や生物(人物)から放射される赤外線が検出されて、赤外線の強度分布を示す画像データが出力される。この画像データは、画像データ受付部107を介して温度変化画像処理部120に与えられる。
【0078】
温度変化画像処理部120は、いわゆるサーモグラフィとして動作する(ステップS5)。動作において、温度変化画像処理部120は、赤外線の強度分布を示す画像データを入力すると、記憶部101から読出した温度変換プログラムPR0に基づき、入力した画像データから赤外線の強度の解析に基づく温度分布を検出し、検出結果に基づき赤外線熱画像データを出力する。赤外線熱画像データ(温度分布画像データ)による画像は、表示部112などに表示される(ステップS7)。管理者(オペレータ)は各赤外線カメラ31により検出される車両内の温度分布画像を確認することができる。
【0079】
対象位置検出部102の発熱検出部122は、検出された温度分布画像データに基づき、画像中に38℃以上の温度部分が在るか否かを判定する(ステップS9)。38℃以上の温度分布が検出されないと判定すると(ステップS9でNO)、一連のモニタ処理を終了する。ここでは、モニタ処理を終了するとしているが、再度、ステップS3の処理に戻り、以降の処理を繰返すようにしてもよい。なお、38℃を判定基準としているが、これよりも高温、または低温であってもよい。
【0080】
一方、38℃以上の温度部分を検出すると(ステップS9でYES)、対象位置検出部102は、当該38℃以上の温度部分を示した画像データに含まれる赤外線カメラ31の識別情報に基づき、テーブルTB1を検索し、識別情報を指示するデータD1に対応するデータD2、D3およびD4を読出す(ステップS11)。読出したデータD3に基づき、当該温度部分の車両内の位置データを表示部112に出力する(ステップS13、S15)。
【0081】
また、読出されデータのうちデータD2はエアカーテン制御部105に与えられ、データD4は対象画像処理部108に与えられる。対象画像処理部108は、与えられるCCDカメラ角度のデータD4に基づき、CCDカメラ32の撮像角度をデータD4が指示する角度に切替える(ステップS19)。これにより、CCDカメラ32のアングルは、検出された38℃以上の温度分布に該当する対象(人物)を撮影可能な角度に一致する。
【0082】
対象画像処理部108は、アングルが切替えられたCCDカメラ32によって撮像された画像データを、画像データ受付部107を介して入力し、ノイズ除去などの所定処理がした後に、表示部112を介して表示する(ステップS23)。これにより、オペレータ(監視者)は、38℃以上の温度分布を示した車両以内の位置を知ることができる。また、そこにいる人物の画像(顔画像を含む)により容態を確認することもできる。
【0083】
このように検出結果は、特定の管理者のみに伝えられるものである。管理者はその情報から、そのエリアを確認し得る。対象画像処理部108は、CCDカメラ32の撮像画像データからパターンマッチングにより座席シートまたは車両に印刷された座席番号のデータを検出し、検出した座席番号を管理者通報部103に出力する。管理者通報部103は、表示部112に記憶部101から読出した座席表画像データ1011に基づき車両内の座席一覧表を表示する。また、入力した座席番号に基づきテーブルTB3を検索して、当該座席番号に一致するデータD9に対応するデータD10を読出す。そして、読出したデータD10が指す画像位置のデータに基づき、表示中の座席一覧表における当該画像位置に対応の座席マークを電子的に点滅表示することにより警報表示する。これにより、速やかに且つ確実にエリアを特定できる。
【0084】
エアカーテン制御部105の切替部124は、与えられる出力端子番号のデータD2をエアカーテンコントローラ7に与えるとともに、エアカーテンコントローラ7にエアカーテンを抗菌性エアカーテンに切替えるための制御信号を出力するように指示する(ステップS25)。
【0085】
エアカーテンコントローラ7の信号生成部71は、データD2の出力端子番号を含む制御信号を生成して出力I/F72に出力する。出力I/F72は、与えられる制御信号の出力端子番号が指示する出力端子(出力端子O1、O2、O3・・・のいずれか)を介して対応のエアカーテン機構2に宛てて制御信号を出力する。これにより、データD3の車両内位置、すなわち38℃以上の人物が居る位置に対応したエアカーテン機構2のダウンフローは、抗菌性エアカーテンに切替えることが可能となる(図9参照)。エアカーテン機構2の動作(図8)については後述する。
【0086】
その後、緊急メッセージ出力部125により、38℃以上の人物が検出されていることを示す緊急メッセージが、図10のように車内ディスプレイ33に表示される(ステップS27)。図10のメッセージを表示することによって、発病している人が、特に周りの人に気取られない場合は必要ないが、例えば車両の中で、発病した人の具合が急変し、異常行動を示した場合、周辺乗客だけを非難させる緊急時車両内表示として機能する。
【0087】
例えば隣の車両に移動する場合、発病者のいる車両側のドアの上方に、抗菌性エアカーテンが存在しており、ここを潜って移動することで(図10参照)、より厳密に車両内感染を防ぐことができる。
【0088】
その後、ロック制御部111の制御により、車両のドアに関連したロック機構35が、外部からの人の出入りを遮断するように、ドアをロックする(ステップS29)。これにより、緊急時、非難ルートを制御する場合や、新たに発病者の周りに人を近づけないためのロックアウト機構が提供される。
【0089】
続いて、警報メッセージ出力部126により、図11のように車外ディスプレイ34に警報メッセージが表示される(ステップS31)。これにより、ドアがロック状態となって閉じられた状態である理由を、外部の乗客などにメッセージとして表示することができるとともに、緊急時、新たな人の車内への出入り制限できる。例えば車両の中で、発病した人の具合が急変し、異常行動を示した場合、駅でその車両の中に発病した人が存在していることを表示することで、無用な混乱を避けることができる。
【0090】
また、電車で待合が生じている場合、その待合客の目の前のドアが開かない場合、理由が明らかでないと混乱を生じる可能性がある。そのような混乱を避けることができる。
【0091】
続いて、外部機関通報部109は、車両内において、発熱している人物が検出された旨の通報を外部機関のコンピュータ6にデータ通信により通報する(ステップS33)。このとき、外部機関の保健所、医療機関、消防署などに対して、発熱している人物の容態を知らせるために、図12のようにCCDカメラ32による撮影画像データを送信するようにしてもよい(ステップS35)。
【0092】
CCDカメラ32(または、小型エックス線カメラであってもよい)を用いた画像認識結果による画像データを、緊急時に保健所・診療所・病院・消防署への通報と連動して送信するようにしている。これにより、例えば車両内で、発病した人の容態が急変した場合、この画像データから、発病者への一時治療が可能となり得る。ともすれば初期診断の遅れから、感染が拡大することもあり、また一方で二次感染を防ぐと言う意味合いからも、画像を元にした遠隔診断は大変有効である。
【0093】
図8を参照して、抗菌性エアカーテンに切替えることが指示されたエアカーテン機構2の動作について説明する。
【0094】
制御量決定部123は、センサ群216の検出結果を、センサ出力受付部106を介して入力する(ステップS47)。その入力値と、記憶部101から読出した目標データTD1〜TD3のそれぞれとを比較し、比較結果に基づき現在の検出値と目標データTD1〜TD3との差分を検出し(ステップS49)、検出した差分に基づき制御量を決定する。
【0095】
空調制御部121は、決定された制御量と記憶部101から読出された各プログラムPC1〜PC4に基づき、各機器を制御する。これにより、エアカーテン機構2が出力するエアカーテンは、抗菌性のエアカーテンに切替えられる。
【0096】
その後、処理はステップS47に戻り、以降の処理が同様に行われる。このように、抗菌性エアカーテンにおいて検出されるオゾン濃度、温度、湿度を目標データTD1〜TD3に近づけるようにフィードバック制御が行われることにより、有効な抗菌効果を奏するエアカーテンを速やかに提供し、その後は抗菌効果を維持することができる。
【0097】
上述のように発熱者が検出される時は、抗菌性エアカーテンに切替えて感染者を隔離する。ここまでのプロセスが通常処理となる。この通常処理の間、感染者はもとより、周辺の人たちにも気付かれないまま処理が進む。しかし、感染者の容態が急変した場合、周辺乗客を別の場所へ速やかに移動させ、また新たに人が入ることを防ぐプロセスが起動する。また、感染者の容態を、保健所、診療所等の外部の専門機関のコンピュータ6に画像転送して、初期診断を行うプロセスが起動する。
【0098】
上述の抗菌性エアカーテンへの切替をすることで、感染者を速やかに非感染者から遮蔽することができることから、パンデミックに対しても効果を奏する。
【0099】
(リクエストに応じた抗菌性エアカーテンの供給>
上述の抗菌性エアカーテンの供給は、車両内をモニタすることによって検出された特定エリアに限って行うとしているが、供給するエリアの特定方法をこれに限定されない。
【0100】
たとえば、特に衛生観念が高い人達が公共の場に自らの抗菌性エアカーテンで外部エリアと遮蔽された空間を望んだ場合、例えばチケット発券時や個人のID(Identification)情報を公共機関に提供することで、図1と図6の構成によって公共の場の中に、自らの位置を特定させるようにして、自己の為の空間清浄化エリアを得るシステムとしてもよい。図13には、その場合の抗菌性エアカーテンの供給イメージが示される。取分け、公共の場としては、飛行機や新幹線といった、チケットにより座席が一意に決定するような場合は、位置特定するのに都合がよい。
【0101】
図14のフローチャートを参照して、ユーザは抗菌性エアカーテンの供給を要求する場合には、乗車券(または搭乗券)の座席番号とともにリクエストをリクエスト受付部113を介して入力する(ステップS71)。
【0102】
リクエストの入力が検出されると、対象位置検出部102は、リクエストとともに入力された座席番号に基づき、テーブルTB2を検索し、座席番号に一致するデータD5に対応するデータD6を読出しエアカーテン制御部105に出力する(ステップS73)。
【0103】
エアカーテン制御部105の切替部124は、与えられる出力端子番号のデータD6をエアカーテンコントローラ7に与えるとともに、エアカーテンコントローラ7にエアカーテンを抗菌性エアカーテンに切替えるための制御信号を出力するように指示する(ステップS75)。
【0104】
エアカーテンコントローラ7の信号生成部71は、データD6の出力端子番号を含む制御信号を生成して出力I/F72に出力する。出力I/F72は、与えられる制御信号の出力端子番号が指示する出力端子(出力端子O1、O2、O3・・・のいずれか)を介して対応のエアカーテン機構2に宛てて制御信号を出力する。これにより、ユーザの座席に対応したエアカーテン機構2のエアカーテンは、抗菌性エアカーテンに切替えられる(図13参照)。この場合のエアカーテン機構2の動作は図8で説明したとおりである。
【0105】
(他の実施の形態)
上述の実施の形態では、公共の場の空間的広がりを有する領域において抗菌性エアカーテンの供給エリアをサーモグラフィによって検出するが、エリア検出方法は人の状態(温度:体温)に基づくものに限定されない。たとえば、公共の場の空気の状態、すなわち空気中に浮遊する微生物の状態の検出結果に基づき供給エリアを検出するとしてもよい。具体的には、極端に高濃度の微生物を撒き散らす、例えばバイオテロのような場面を想定した場合、公共の場の各区域に設置されたパーティクルカウンタでカウントした擬似的な微生物数や、パーティクルカウンタと紫外線で励起された蛍光をモニタする装置が合さったカビなどの微生物の公共の場の各区域に設けられたモニタリング装置の検出結果を利用して、設置箇所に基づきエリア検出することも可能である。また微生物の出す代謝物ガスの種類から微生物を同定する臭気センサの検出結果を利用してエリア検出することも可能である。
【0106】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、公共の場で、発熱体についての疾病モニタリングシステムを兼備した感染防止システムが、特定の位置情報に基づいて抗菌性エアカーテンを供給することで、公共の場という大きい空間であるとしても微生物によるバイオハザード・パンデミックによる影響を最小限に抑えるように対処することが可能となる。
【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
1 コンピュータ、2 エアカーテン機構、3 モニタ機構、4,5 通信回線、6 外部コンピュータ、7 エアカーテンコントローラ、21 空調機構、31 赤外線カメラ、32 CCDカメラ、33 車内ディスプレイ、34 車外ディスプレイ、35 ロック機構、211 オゾン発生器、212 PCI発生器、213 加湿器、214 加熱器、215 冷却器、216 センサ群、221 ファン群、102 対象位置検出部、103 管理者報知部、105 エアカーテン制御部、106 センサ出力受付部、109 外部機関通報部、110 メッセージ出力部、111 ロック制御部、113 リクエスト受付部、TB1,TB2,TB3 テーブル、PRO 温度変換プログラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人を収容する収容部の内部にエアカーテンを送出するエアカーテン装置であって、
与えられる指令が指す収容部の内部の所定位置に対して、抗菌性の前記エアカーテンを送出するエアカーテン発生部と、
前記収容部に収容されている人の状態または前記収容部の内部の空気の状態を検出するために、前記収容部の内部の各位置に関連づけて設けられる状態検出部と、
前記状態検出部が検出した前記状態を指す状態情報に基づき、前記状態が所定状態を指す前記位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部が前記所定状態を指すと検出した前記位置を前記所定位置として指示する前記指令を、前記エアカーテン発生部に出力するエアカーテン制御部と、を備える、エアカーテン装置。
【請求項2】
前記エアカーテン装置は、
前記エアカーテン発生部に対する前記指令の出力を要求するリクエストを受付ける受付部を、さらに備え、
前記指令が指す前記所定位置の情報は、受付けた前記リクエストに予め含まれる、請求項1に記載のエアカーテン装置。
【請求項3】
前記エアカーテン発生部は、
オゾン濃度、加熱、イオンの含有、および加湿のうちの1つまたは2つ以上の調整がされた前記抗菌性のエアカーテンを送出する、請求項1に記載のエアカーテン装置。
【請求項4】
前記加湿により調整がされる場合には、前記抗菌性のエアカーテンの相対湿度は、50%〜100%の範囲であるように調整される、請求項3に記載のエアカーテン装置。
【請求項5】
前記加熱により調整がされる場合には、前記抗菌性のエアカーテンの温度は、25℃〜50℃の範囲であるように調整される、請求項3に記載のエアカーテン装置。
【請求項6】
前記抗菌性のエアカーテンの周囲エアを冷却する、請求項5に記載のエアカーテン装置。
【請求項7】
人を収容する収容部の内部にエアカーテンを送出するエアカーテン装置を備える感染防止システムであって、
前記エアカーテン装置は、
与えられる指令が指す収容部の内部の所定位置に対して、抗菌性の前記エアカーテンを送出するエアカーテン発生部と、
前記収容部に収容されている人の状態または前記収容部の内部の空気の状態を検出するために、前記収容部の内部の各位置に関連づけて設けられる状態検出部と、
前記状態検出部が検出した前記状態を指す状態情報に基づき、前記状態が所定状態を指す前記位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部が前記所定状態を指すと検出した前記位置を前記所定位置として指示する前記指令を、前記エアカーテン発生部に出力するエアカーテン制御部と、を有する、感染防止システム。
【請求項8】
前記エアカーテン装置は、
前記エアカーテン発生部に対する前記指令の出力を要求するリクエストを受付ける受付部を、さらに備え、
前記指令が指す前記所定位置の情報は、受付けた前記リクエストに予め含まれる、請求項7に記載の感染防止システム。
【請求項9】
前記位置検出部が前記所定状態を指すと検出した前記位置を撮像範囲として撮像する撮像部と、
前記撮像部が出力する画像データに基づく画像を表示する表示部とを、さらに備える、請求項7に記載の感染防止システム。
【請求項10】
前記画像データを処理することにより、前記画像データから、前記位置検出部が前記所定状態を指すと検出した位置を特定する情報を検出して出力する、請求項9に記載の感染防止システム。
【請求項11】
前記収容部の内部に向けて情報を出力する内側出力部を、さらに備え、
前記位置検出部により前記状態が前記所定状態を指す前記位置が検出されたとき、第1所定メッセージを前記内側出力部から出力する、請求項7に記載の感染防止システム。
【請求項12】
前記収容部の内部を外部から遮蔽するための遮蔽部を、さらに備え、
前記位置検出部により前記状態が前記所定状態を指す前記位置が検出されたとき、前記遮蔽部により前記収容部の内部を外部から遮蔽する、請求項7に記載の感染防止システム。
【請求項13】
前記収容部の外部に向けて情報を出力する外側出力部を、さらに備え、
前記位置検出部により前記状態が前記所定状態を指す前記位置が検出されたとき、第2所定メッセージを前記外側出力部から出力する、請求項7に記載の感染防止システム。
【請求項14】
前記感染防止システムの外部機関のコンピュータと通信する通信部を、さらに備え、
前記通信部は、前記位置検出部により前記状態が前記所定状態を指す前記位置が検出されたとき、所定通報を前記コンピュータに送信する、請求項7に記載の感染防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−30719(P2011−30719A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178941(P2009−178941)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】