説明

エアクリーナ用濾材及びその製造方法

【課題】エアクリーナに装着するだけの簡単な操作で、燃焼効率の向上による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果が得られ、エネルギー使用量や二酸化炭素排出量の削減が可能となり、さらに燃焼排ガス中のNOxの削減が可能となるエアクリーナ用濾材を提供する。
【解決手段】燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材であって、(a)ポリビニルアルコール,綿,レーヨン繊維等の親水性繊維、又は、ポリエチレン製,ポリプロピレン製等のポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート製等のポリエステル繊維等の疎水性繊維を親水化処理することによって得られる親水性繊維と、(b)前記親水性繊維に担持された金属酸化物粒子と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガソリン,軽油等の燃料の燃焼排ガスに含まれるNOxや黒煙等の有害物質の減少や燃焼効率を向上させるため、多くの燃料添加剤が開発されている。しかし、有害物質を減少させ燃焼効率を向上させることのできる効果的な燃料添加剤は、提供されていないのが現状である。また、燃料添加剤は燃料とともに消費される消耗品であるため、ランニングコストが生じるという問題があった。
一方、燃料を燃焼させるためには、空気(酸素)が必要である。エンジン等の燃焼室へ清浄な空気を供給するため、外気中の塵埃を捕集するエアクリーナ(エアエレメント)が用いられている。この目的のため、エアクリーナ用濾材の課題は、専ら、外気中の塵埃の捕集効率を高めることであった。
従って、エアクリーナ用濾材に着目することにより、燃焼排ガスに含まれるNOxや黒煙等の有害物質の減少や燃焼効率を向上させるという着想は、(特許文献1)を除き、ほとんどみられなかった。(特許文献1)には「酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム、酸化チタン等の遠赤外線放射物質を、ベース材料中に混合し加工して基材となし、各種の形状、厚さに加工・成形されたエアフィルタのフィルタコア」が開示されている。
【特許文献1】特許第3686339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、フィルタコアの遠赤外線放射物質により空気中の湿度(水分子)が微細化され、混合気体中の燃料と空気が均一に混合されるようになることから、完全燃焼が行われるとされている。しかし、遠赤外線放射物質によって水分子の温度が多少上昇することがあるにしても、水分子の微細化や均一混合の効果はほとんど期待できず、燃焼排ガスに含まれるNOxや黒煙等の有害物質の減少や燃焼効率向上効果は、ほとんど期待できない。
(2)遠赤外線放射物質をベース材料中に混合し加工して基材とし、その基材を成形してフィルタコアを製造するため、製造工程が煩雑で生産性に欠けるという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、エアクリーナに装着するだけの簡単な操作で、燃焼効率の向上による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果が得られ、エネルギー使用量や二酸化炭素排出量の削減が可能となり、さらに燃焼排ガス中のNOxの削減が可能となるエアクリーナ用濾材を提供することを目的とする。
また、本発明は、簡単な操作で既存の濾材に親水性を付与するとともに金属酸化物粒子を担持させることができ、生産性に著しく優れ、さらに燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができるエアフィルタ用濾材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明のエアクリーナ用濾材及びその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載のエアクリーナ用濾材は、燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材であって、親水性繊維と、前記親水性繊維に担持された金属酸化物粒子と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)詳しいメカニズムは解明中であるが、親水性繊維及び金属酸化物粒子は水との接触角が小さく濡れ性が良いため、外気(空気)がエアクリーナ用濾材を通過する際に、空気中の湿分の水分子が微細化されて燃焼室に供給されることにより、水分子が燃料油の油滴表面に付着し、いわゆるエマルション燃料のような状態をつくると推察しており、燃焼効率の向上による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果が得られ、エネルギー使用量や二酸化炭素排出量の削減が可能となる。さらに、水の気化により燃焼温度が抑えられると推察され、燃焼排ガス中のNOxの削減が可能となる。
(2)エマルション燃料を調製するには、燃料油に水を混合して乳化させる必要があるため、燃料に混合する乳化剤を必要とし、さらにスタティックミキサ等の乳化機が必要となるが、本発明は燃料を加工するものではなく消耗品でもないため、燃料に混合する乳化剤等に伴うランニングコストを必要とせず、また乳化度等を考慮する必要もなく、本発明のエアクリーナ用濾材をエアクリーナに装着するだけの簡単な操作で、長期間、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができる。
(3)自動車のエアクリーナ(エアエレメント)に適用した場合は、エンジンの吹き上がりが良くなり加速性能が向上する。
(4)燃料を加工するものではないため、燃料の種類に制限はない。このため、ガソリン、軽油、重油等の液体燃料、LPG(液化石油ガス)等の液化ガス燃料等を用いる種々の燃焼機関に適用でき、汎用性に優れる。
【0006】
ここで、親水性繊維としては、ポリビニルアルコール,綿,レーヨン繊維等の親水性繊維を用いることができる。また、ポリエチレン製,ポリプロピレン製等のポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート製等のポリエステル繊維等の疎水性繊維を、親水化処理することによって得られる親水性繊維を用いることもできる。さらに、親水性繊維と疎水性繊維を混織して用いることもできる。
親水化処理としては、例えば、親水性付与剤処理、親水性コーティング、親水性ビニルモノマーのグラフト重合処理、スルホン化処理、フッ素ガス処理、放電処理等が挙げられる。
【0007】
親水性付与剤処理は、繊維に対して親水性付与剤を付着又は含有させる処理であり、この処理方法に特に制限はない。例えば、繊維に対して親水性付与剤又はその含有液をスプレーする方法、繊維に対して親水性付与剤又はその含有液を塗布する方法、親水性付与剤又はその含有液に繊維を含浸する方法、パウダー状,ペレット状又は液状の親水性付与剤を繊維の原料に混練し、紡糸することにより親水性付与剤を繊維中に含有させる方法等を用いることができる。
【0008】
親水性付与剤としては、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホン基等の親水基を有する化合物であれば、特に制限なく用いることができる。例えば、アニオン性,カチオン性,非イオン性,両性イオン性等の界面活性剤を含有するものを挙げることができる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、アルキコキシ化アルキルフェノール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエステル等が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤としては、硫酸エステル塩基、C8〜C30のアルキルリン酸エステル塩基、C8〜C12のアルキルリン酸アルカリ金属塩、スルホン酸塩基等を含むアニオン性界面活性剤が挙げられる。また、親水性付与剤として、その他に、ベタイン活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ソルビタンモノオレートやポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン、アルキロールアミド型化合物とポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサンとの配合物、ポリグリセリン脂肪酸エステル又はこれとポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサンとの配合物、ポリエーテルポリエステルブロック共重合体又はこれとポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサンとの配合物、及び炭素数28以上の炭化水素基を疎水基とする界面活性剤とポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサンとの配合物等も使用できる。
【0009】
親水性コーティングは、繊維表面に親水性樹脂を付着させ、コーティングすることにより、親水性を付与する方法である。
親水性樹脂としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリアクリル酸等が挙げられる。繊維表面に親水性樹脂を付着させる方法としては、例えば、親水性樹脂を適当な溶媒に溶解又は分散させ、次いで、この溶解液又は分散液に繊維を浸漬させたり、あるいはこの溶解液又は分散液を上記繊維に散布させることにより、繊維表面に溶解液又は分散液を付着させ、その後、該繊維を乾燥させる方法が挙げられる。
【0010】
親水性ビニルモノマーのグラフト重合処理は、繊維に親水性ビニルモノマーをグラフト重合させることにより、親水性を付与する処理である。親水性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン及びスルホン化スチレン等が挙げられる。
【0011】
スルホン化処理としては、例えば、発煙硫酸、硫酸、三酸化イオウ、クロロ硫酸、又は塩化スルフリル等による処理が挙げられる。
【0012】
フッ素ガス処理としては、例えば、フッ素ガス自体や、フッ素ガスと窒素ガス又はアルゴンガス等の希ガスで希釈した希釈フッ素ガスで、繊維を処理するものが挙げられる。また、希釈フッ素ガスと酸素ガス、二酸化炭素ガス及び二酸化硫黄ガス等との混合ガスで処理することもできる。
【0013】
放電処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、グロー放電処理、電子線処理等が挙げられる。
【0014】
エアクリーナ用濾材は、密度や性質の異なる複数の繊維層が組み合わされているものが多く用いられているが、複数の繊維層が全て親水性繊維で形成されている必要はない。少なくとも一部の繊維が親水性繊維で形成されており金属酸化物粒子が担持されていれば、親水性繊維や金属酸化物粒子の量にもよるが、本発明の効果を達成することができる。
【0015】
金属酸化物粒子を親水性繊維に担持させる方法としては、例えば、繊維に金属酸化物粒子の含有液をスプレーする方法、繊維に金属酸化物粒子の含有液を塗布する方法、金属酸化物粒子の含有液に繊維を含浸する方法、金属酸化物粒子を繊維の原料に混練し、紡糸することにより金属酸化物粒子を繊維に担持させる方法等を用いることができる。
【0016】
金属酸化物粒子としては、チタン、ジルコニウム、シリコン、タングステン、アルミニウム、鉄、スズ、ホウ素、セリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、インジウム等の金属の酸化物粒子を単独で、若しくはこれらの混合物、又はこれらの複合酸化物の粒子を用いることができる。
なかでも、二酸化チタンを含有したものが好適に用いられる。二酸化チタンは、水との接触角がほぼ0°で濡れ性が著しく優れるからである。また、二酸化チタンがエアクリーナ用濾材に付着した有機物を分解することが期待され、エアクリーナ用濾材が汚れ難くなる効果が期待できる。二酸化チタンに、さらに二酸化ケイ素を含むものが、より好ましく用いられる。二酸化ケイ素を含むことにより、親水性がより安定に発現するからである。
【0017】
金属酸化物粒子の平均粒径としては、2〜60nmが好適に用いられる。金属酸化物粒子が微細なため、担持された金属酸化物粒子によってエアクリーナ用濾材が目詰まりを生じることがなく、またクーロン力等の物理的な作用により繊維に固着されるため、金属酸化物粒子が脱落することなく効果を長期間持続させることができる。
ここで、金属酸化物粒子の平均粒径が2nmより小さくなるにつれ、金属酸化物粒子が凝集し易く分散性が低下する傾向がみられ、60nmより大きくなるにつれ、繊維に担持された金属酸化物粒子がエアクリーナ用濾材の空気抵抗となったり、繊維から金属酸化物粒子が脱落し易くなったりする傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0018】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエアクリーナ用濾材であって、前記親水性繊維が、界面活性剤によって親水化処理された繊維である構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)ポリオレフィン繊維,ポリアミド繊維,ポリエステル繊維等の疎水性繊維であっても、界面活性剤によって親水化処理できるため、応用性に著しく優れる。
(2)界面活性剤によって金属酸化物粒子の分散性が高められるため、金属酸化物粒子が斑無く担持され、品質の安定性に優れる。
(3)疎水性繊維と親水性の金属酸化物粒子とを界面活性剤が結合させるため、繊維の表面に金属酸化物粒子が強固に固定化され、長期間効果を持続させることができ耐久性に優れる。
【0019】
ここで、親水化処理は、界面活性剤を含有する親水性付与剤を繊維にスプレー,塗布する方法、親水性付与剤を繊維に含浸する方法等を用いることができる。
界面活性剤100重量部に対する金属酸化物粒子の担持量は、5〜200重量部が好適である。界面活性剤100重量部に対して金属酸化物粒子が5重量部より少なくなるにつれ、金属酸化物粒子による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果等が低下する傾向がみられ、200重量部より多くしても燃費の向上効果や黒煙の抑制効果等にほとんど変化がみられないばかりか、エアクリーナ用濾材が目詰まりし易くなる傾向がみられる。
【0020】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のエアクリーナ用濾材であって、前記金属酸化物粒子が、結晶粒子と、非晶質粒子と、を含有した構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)非晶質粒子は、結晶粒子と比較して親水性は乏しいが、粒径が小さく表面積が大きいため、親水性繊維との結合力は結晶粒子より大きい。このため、非晶質粒子は親水性繊維と結晶粒子とのバインダーとしての機能を果たし、結晶粒子(金属酸化物粒子)を親水性繊維に強固に担持させ、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少や、燃焼効率の向上による燃費の向上効果を長期間持続させることができる。
【0021】
ここで、結晶粒子は、三次元的に規則正しい結晶構造を持つ金属酸化物の粒子のことをいい、非晶質粒子は、三次元的に規則正しい結晶構造を持たない非晶質状態の金属酸化物の粒子のことをいう。金属酸化物粒子の調製条件によって、結晶粒子と非晶質粒子を各々得ることができる。
結晶粒子に対する非晶質粒子の割合は、結晶粒子100重量部に対し非晶質粒子10〜200重量部が好適に用いられる。結晶粒子100重量部に対し非晶質粒子が10重量部より少なくなるにつれ、非晶質粒子と結晶粒子とのクーロン力や分子間力等に起因する付着力によるバインダーとしての効果が低下し、結晶粒子が脱落し易くなり効果の持続性が低下する傾向がみられ、200重量部より多くなるにつれ、金属酸化物粒子に占める結晶粒子の割合が相対的に低下するため、金属酸化物粒子による親水性能が低下し、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少や、燃焼効率の向上による燃費の向上効果が低下する傾向がみられる。
【0022】
本発明の請求項4に記載のエアクリーナ用濾材の製造方法は、燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材の製造方法であって、金属酸化物粒子が分散された金属酸化物コロイド溶液と、界面活性剤と、を含有する混合液を濾材に吸収させる構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)金属酸化物コロイド溶液と、界面活性剤と、を含有する混合液を濾材に吸収させるという簡単な操作で、既存の濾材に親水性を付与するとともに金属酸化物粒子を担持させることができ、生産性に著しく優れる。
(2)親水性繊維に金属酸化物粒子を担持させることができ、エアクリーナ用濾材の親水性を高めることにより燃焼効率が向上され、その結果、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができる。
【0023】
ここで、金属酸化物コロイド溶液としては、チタン、ジルコニウム、シリコン、タングステン、アルミニウム、鉄、スズ、ホウ素、セリウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、インジウム等の金属酸化物の単一のコロイド粒子、若しくはこれらを混合したコロイド粒子、又はこれらの複合酸化物のコロイド粒子が、水等の溶媒に分散されたものを用いることができる。
金属酸化物コロイド溶液は、例えば、アルカリ金属,アンモニウム又は有機塩基の珪酸塩や、アルカリ可溶のチタン化合物を、pH10以上のアルカリ水溶液中に添加し、コロイド粒子を生成する方法で製造することができる。また、硫酸チタン水溶液にアンモニアを添加し中和して得られる含水チタン酸のゲル又はゾルに過酸化水素を加えてチタン酸水溶液を調製し、これにシリカゾル等のケイ素化合物及び/又はジルコニウム化合物を混合し、加熱処理して製造することができる。また、負の電荷を有する酸化チタンのコロイド粒子が分散したコロイド溶液を加熱処理して製造することができる。また、四塩化チタン,硫酸チタン,硝酸チタン,アルコキシチタン等の可溶性チタン化合物を水で希釈し、過酸化水素水等を添加してペルオキソ錯体を生成させ、これにアンモニア等の塩基性物質を添加しペルオキソチタン水和物の水溶液を得る方法によっても製造できる。
【0024】
界面活性剤としては、アニオン性,カチオン性,非イオン性,両性イオン性等の界面活性剤を用いることができるが、なかでも、非イオン性の界面活性剤が好適に用いられる。電解質等の影響を受け難いからである。
【0025】
混合液は、精製水等の水に、金属酸化物コロイド溶液、界面活性剤を混合した有機溶媒を混合することで製造できる。
【0026】
有機溶媒としては、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,ブタノール,ジアセトンアルコール,エチレングリコール等のアルコール類、酢酸メチル,酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。特に、エタノールは濾材を劣化させる影響が少なく安全性の面でも優れるので好適に用いられる。
【0027】
混合液における金属酸化物粒子の濃度としては、0.01〜3wt%が好適に用いられる。混合液における金属酸化物コロイド溶液が0.01wt%より少なくなるにつれ、所望の効果が得られ難くなる傾向がみられ、3wt%より多くなるにつれ、繊維に担持された金属酸化物粒子がエアクリーナ用濾材の空気抵抗となる傾向がみられる。
【0028】
有機溶媒に対する界面活性剤の混合量としては、有機溶媒100重量部に対し界面活性剤10〜50重量部が好適である。界面活性剤が10重量部より少なくなるにつれ、濾材への金属酸化物粒子の分散性が低下する傾向がみられ、50重量部より多くなるにつれ、混合液が乾燥し難くなるとともに、濾材に埃等が付着し易くなり早期に目詰まりが生じ易くなる傾向がみられる。
界面活性剤を混合した有機溶媒は、混合液に対し3〜20wt%の割合で配合される。3wt%より少なくなるにつれ、乾燥工程において乾燥性が低下する傾向がみられ、20wt%より多くなるにつれ、濾材に残留する界面活性剤の量が増えるため、埃等が付着し易くなり早期に目詰まりが生じ易くなる傾向がみられる。
【0029】
濾材に混合液をスプレーする方法、濾材に混合液を塗布する方法、混合液に濾材を含浸する方法等により、混合液を濾材に吸収させることができる。
濾材に吸収させる混合液の量は、濾材や燃焼室の大きさ等によって異なるが、およそ50〜500mLの範囲で適宜決定することができる。
混合液を吸収させた濾材は常温下に放置しておけば乾燥され、親水性繊維に金属酸化物粒子を担持したエアクリーナ用濾材を製造することができる。なお、混合液を吸収させた濾材を、直ちにエアクリーナに装着しても何ら問題はない。
【0030】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のエアクリーナ用濾材の製造方法であって、前記金属酸化物コロイド溶液が、二酸化チタンゾルを含有した構成を有している。
この構成により、請求項4で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)金属酸化物コロイド溶液が二酸化チタンゾルを含有しているので、親水性繊維に二酸化チタンを担持させることができ、エアクリーナ用濾材の親水性を高めることにより、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができる。
【0031】
ここで、二酸化チタンゾルは、結晶粒子、非晶質粒子のいずれも用いることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明のエアクリーナ用濾材及びその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)エアクリーナに装着するだけの簡単な操作で、燃焼効率の向上による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果が得られ、エネルギー使用量や二酸化炭素排出量の削減が可能となり、さらに燃焼排ガス中のNOxの削減が可能となるエアクリーナ用濾材を提供できる。
【0033】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)ポリオレフィン繊維,ポリアミド繊維,ポリエステル繊維等の疎水性繊維であっても、界面活性剤によって親水化処理できるため、応用性に著しく優れたエアフィルタ用濾材を提供できる。
(2)界面活性剤によって金属酸化物粒子の分散性が高められるため、金属酸化物粒子が斑無く担持され、品質の安定性に優れたエアフィルタ用濾材を提供できる。
【0034】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)非晶質粒子が親水性繊維と結晶粒子とのバインダーとしての機能を果たし、結晶粒子(金属酸化物粒子)を親水性繊維に強固に担持させ、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少や、燃焼効率の向上による燃費の向上効果を長期間持続させることができるエアフィルタ用濾材を提供できる。
【0035】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)金属酸化物コロイド溶液と、界面活性剤と、を含有する混合液を濾材に吸収させるという簡単な操作で、既存の濾材に親水性を付与するとともに金属酸化物粒子を担持させることができ、生産性に著しく優れたエアフィルタ用濾材の製造方法を提供できる。
(2)親水性繊維に金属酸化物粒子を担持させることができ、親水性を高めることにより燃焼効率が向上され、その結果、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができるエアフィルタ用濾材の製造方法を提供できる。
【0036】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)金属酸化物コロイド溶液が二酸化チタンゾルを含有しているので、親水性繊維に二酸化チタンを担持させることができ、親水性をより高めることにより、燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができるエアフィルタ用濾材の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
二酸化チタンのコロイド粒子(結晶粒子、平均粒径30nm)を分散させた金属酸化物コロイド溶液(二酸化チタン10wt%、株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)1重量部を、精製水5重量部に混合して第一のコロイド液を得た。また、二酸化チタンのコロイド粒子(非晶質粒子、平均粒径5nm)を分散させたコロイド溶液(二酸化チタン1.5wt%、触媒化成工業株式会社製)1.5重量部と、二酸化ケイ素のコロイド粒子(非晶質粒子、平均粒径15nm)を分散させた金属酸化物コロイド溶液(二酸化ケイ素1.5wt%、触媒化成工業株式会社製)1.5重量部を加えて混合し、第二のコロイド液を得た。
これとは別に、有機溶媒のエタノール(65%)5重量部をビーカーに入れ、これに非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(炭素数12〜15、三洋化成工業株式会社製)1重量部を添加し、常温で撹拌して混合溶液を得た。
精製水85重量部に、混合溶液、第一及び第二のコロイド液を加えて混合することにより、実施例1の混合液100重量部を得た。
【0038】
(実施例2)
精製水85重量部に、二酸化チタンのコロイド粒子(非晶質粒子、平均粒径5nm)を分散させた金属酸化物コロイド溶液(二酸化チタン1.5wt%、触媒化成工業株式会社製)9重量部を加えて混合し、コロイド液を得た。
これとは別に、有機溶媒のエタノール(65%)5重量部をビーカーに入れ、これに非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(炭素数12〜15、三洋化成工業株式会社製)1重量部を添加し、常温で撹拌して混合溶液を得た。
この混合溶液を、コロイド液に加えて混合することにより、実施例2の混合液100重量部を得た。
【0039】
(実施例3)
精製水85重量部に、二酸化ケイ素のコロイド粒子(非晶質粒子、平均粒径15nm)を分散させた金属酸化物コロイド溶液(二酸化ケイ素1.5wt%、触媒化成工業株式会社製)9重量部を加えて混合し、コロイド液を得た。
これとは別に、有機溶媒のエタノール(65%)5重量部をビーカーに入れ、これに非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエーテル(炭素数12〜15、三洋化成工業株式会社製)1重量部を添加し、常温で撹拌して混合溶液を得た。
この混合溶液を、コロイド液に加えて混合することにより、実施例3の混合液100重量部を得た。
【0040】
(比較例1)
二酸化チタンのコロイド粒子(結晶粒子、平均粒径30nm)を分散させた金属酸化物コロイド溶液(二酸化チタン10wt%、株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)1重量部を、精製水5重量部に混合して第一のコロイド液を得た。また、二酸化チタンのコロイド粒子(非晶質粒子、平均粒径5nm)を分散させたコロイド溶液(二酸化チタン1.5wt%、触媒化成工業株式会社製)1.5重量部と、二酸化ケイ素のコロイド粒子(非晶質粒子、平均粒径15nm)を分散させた金属酸化物コロイド溶液(二酸化ケイ素1.5wt%、触媒化成工業株式会社製)1.5重量部を加えて混合し、第二のコロイド液を得た。精製水91重量部に、第一及び第二のコロイド液を加えて混合することにより、比較例1の混合液100重量部を得た。
なお、比較例1の混合液は、実施例1の混合液の製造過程で調製したのと同じ第一及び第二のコロイド液を精製水に混合したものである。実施例1では、精製水に第一及び第二のコロイド液、有機溶媒に界面活性剤を添加し撹拌した混合溶液を加えて混合液(親水性付与剤)を製造したが、比較例1は、有機溶媒に界面活性剤を添加し撹拌した混合溶液を加えていない点で、実施例1と相違する。
【0041】
(試験例1)
ディーゼル自動車の排気ガスに含まれる黒煙の減少効果を調べた。試験に用いた自動車は、平成3年式の「いすずエルフ」(車両重量:3740kg、総排気量:4.33L、走行距離:78932km)である。この自動車には、排気黒煙を除去する黒煙除去装置は搭載されていない。
この自動車を無負荷急加速させたときの排気ガスを、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(平成14年国土交通省告示第619号)別添の「無負荷急加速黒煙の測定方法」及びJIS D8004の規定に準拠したディーゼルスモークメータ(型式GSM−10H、株式会社イヤサカ製)で試験した。
この自動車のエアクリーナに装着される新品のエアクリーナ用濾材を2つ用意し、各々のエアクリーナ用濾材に、実施例1の混合液(親水性付与剤)300mL、比較例1の混合液300mLを吸収させた後、常温下に放置し乾燥させた。
まず、比較例1の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材をエアクリーナに装着した後、エンジンを起動した。排気ガスをディーゼルスモークメータのサクションポンプで濾紙を通して吸引し、黒煙を濾紙に付着させ、汚染度をディーゼルスモークメータで測定した。汚染度の3回の測定値の平均値は24%であった。
次に、実施例1の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材をエアクリーナに装着し、同様の測定及び試験を行ったところ、汚染度の3回の測定値の平均値は16%であった。
この測定及び試験では、汚染度の数値が小さいほど、排気ガスが清浄である(黒煙で汚染されていない)ことを示している。このため、実施例1の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材を装着した場合は、排気ガスに含まれる黒煙の量が、比較例1のエアクリーナ用濾材を装着した場合の約67%に減少したといえる。実施例2及び3の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材を装着した場合も、同様の結果となった。
実施例1〜3の親水性付与剤を用いて製造されたエアクリーナ用濾材は、軽油(燃料油)を完全燃焼に近い状態で燃焼させることができ、その結果、排気ガスに含まれる黒煙が減少したものと推察される。
【0042】
(試験例2)
ガソリン自動車の走行性と燃費を調べた。試験に用いた自動車は、平成7年式の「スターレット」(総排気量:1.3L、走行距離:190033km)である。この自動車の昨年同時期の3ヶ月間の燃費は、平均して15.6km/Lであった。
この自動車のエアクリーナに装着される新品のエアクリーナ用濾材を2つ用意し、各々のエアクリーナ用濾材に、実施例1の混合液150mL、比較例1の混合液150mLを吸収させた後、常温下に放置し乾燥させた。
各エアクリーナ用濾材をエアクリーナに装着し、通常通りに3ヶ月間走行して、走行距離と燃料消費量から燃費を求めた。
この結果、実施例1の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材を装着した場合は、時速40kmを超えるあたりからエンジンの吹き上がりが良くなるように感じられた。また、燃費は平均して17.4km/Lであり、明らかに向上していることが確認された。実施例2及び3の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材を装着した場合も、ほぼ同様の結果となった。
一方、比較例1の混合液を吸収させたエアクリーナ用濾材を装着した場合は、エンジンの吹き上がりが良くなるような感じはなく、燃費も平均して15.8km/Lであり、昨年同時期の燃費とほとんど変わらなかった。
以上のことから、実施例1〜3の混合液(親水性付与剤)を用いて製造されたエアクリーナ用濾材は、ガソリン(燃料油)の燃焼効率を向上させることができ、その結果、燃費を向上させたものと推察される。
【0043】
以上のように、本実施例の親水性繊維と、親水性繊維に担持された金属酸化物粒子と、を備えたエアクリーナ用濾材を用いることにより、燃焼効率の向上による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果が得られ、エネルギー使用量や二酸化炭素排出量の削減が可能となることが明らかとなった。また、自動車のエンジンの吹き上がりが良くなり、加速性能が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、エンジン等の燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材及びその製造方法に関し、エアクリーナに装着するだけの簡単な操作で、燃焼効率の向上による燃費の向上効果や黒煙の抑制効果が得られ、エネルギー使用量や二酸化炭素排出量の削減が可能となり、さらに燃焼排ガス中のNOxの削減が可能となるエアクリーナ用濾材を提供でき、また、簡単な操作で既存の濾材に親水性を付与するとともに金属酸化物粒子を担持させることができ、生産性に著しく優れ、さらに燃焼排ガス中のNOxや黒煙等の有害物質の減少、燃費の向上等を図ることができるエアフィルタ用濾材の製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材であって、親水性繊維と、前記親水性繊維に担持された金属酸化物粒子と、を備えていることを特徴とするエアクリーナ用濾材。
【請求項2】
前記親水性繊維が、界面活性剤によって親水化処理された繊維であることを特徴とする請求項1に記載のエアクリーナ用濾材。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子が、結晶粒子と、非晶質粒子と、を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアクリーナ用濾材。
【請求項4】
燃焼室に供給される空気を清浄化するエアクリーナ用濾材の製造方法であって、金属酸化物粒子が分散された金属酸化物コロイド溶液と、界面活性剤と、を含有する混合液を濾材に吸収させることを特徴とするエアクリーナ用濾材の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物コロイド溶液が、二酸化チタンゾルを含有していることを特徴とする請求項4に記載のエアクリーナ用濾材の製造方法。

【公開番号】特開2010−51871(P2010−51871A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217771(P2008−217771)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(503202941)
【Fターム(参考)】