説明

エアシャッター

【課題】出入口開口部を通行する通行人に与える不快感を小さくし、またファンを大型化する必要がなく騒音が小さいため民生ビルにも使用することができ、かつ充分な遮断効果を持ったエアシャッターを提供する。
【解決手段】温度差のある出入口開口部を形成し、該開口部の両側部に空気ダクトを立設し、該立設した対状の空気ダクトそれぞれに空気吹出口と空気吸込口とを設けたエアシャッターにおいて、前記対状の空気ダクトそれぞれに設けた空気吹出口と空気吸込口とを利用して、前記出入口開口部を横断する循環流を複数形成し、1の循環流が上下方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた大循環流であり、他の循環流が前記大循環流に挟まれる内側で循環するように構成した小循環流であって、前記大循環流の風速を、前記小循環流の風速よりも高速とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度差のある出入口開口部を形成し、該開口部の両側部に空気ダクトを立設し、該立設した対状の空気ダクトそれぞれに空気吹出口と空気吸込口とを設けることで、前記出入口開口部の空気の流通を遮断するエアシャッターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一定規模以上の建築物を建築する場合には省エネルギーに努める必要がある、民生用ビルでは室内温熱環境の向上を図り快適な空間を提供することが求められる、高層ビルでは煙突効果に伴う外気の流出入が省エネルギー、室内温熱環境の向上という観点から問題となることなどから、建築物の出入口開口部に外部空気の侵入及び内部空気の漏洩を防止する装置が設けられている。
【0003】
このような、建築物の出入口開口部における外部空気の侵入及び内部空気の漏洩を防止する装置の1つとして、開口部に空気壁を形成するエアシャッターが提案、実用化されている。
エアシャッターとして広く用いられている形式に上吹出しエアシャッターが挙げられる。これは出入口開口部上方から遮断空気流を吹き下ろす簡便な方式であるため広く用いられているが、吹き下ろした空気の流速が最も低下する床面付近では遮断効率が低下する。前記出入口開口部内外で温度差がある場合、出入口開口部上部では暖気が流出入し、出入口開口部下部では冷気が流出入するため、前記上吹出しエアシャッターを用いた場合、前記出入口開口部上部の暖気に対しては強い風で対抗して流出入を防止することができるが、前記出入口下部の冷気に対しては流速が低下し遮断効率が低下した風で対抗するため充分な流出入の防止ができないという問題がある。
【0004】
また、特許文献1には出入口開口部横面より反対側に向かって空気流を水平に吹き出し、反対側より吸引し、ダクトにて吹き出し側にリターンさせる横流循環式のエアシャッターが開示されている。この方式は、温度差のある出入口開口部を挟んでその左右両側の対向位置に冷気遮断脚柱と暖気遮断脚柱とを立設し、出入口の高さに応じて開口部の中間無風域を挟んで存在する上部の暖気流入域と下部の冷気流出域に対し、それぞれ暖気遮断域と冷気遮断域を設け、前記暖気遮断域に設けた暖気遮断流路と前記冷気遮断域に設けた冷気遮断流路とよりなる循環遮断流路を構成したエアシャッターにおいて、前記冷気遮断脚柱は、前記暖気遮断脚柱と対向する面上に形成した開口部に、下部吹き出しノズルとその上部に連接した上部吸入口とを設けるとともに、該冷気遮断脚柱の内部に下部吹き出しファンと前記吸入口とを結び循環空気を運ぶ吸入ダクトを内蔵させ、一方、前記暖気遮断脚柱は、前記冷気遮断脚柱と対向する面上に形成した開口部に、上部吹き出しノズルとその下部に連設した下部吸入口を設けるとともに、内部には上部吹き出しファンと前記吸入口とを結び循環空気を運ぶ吸入ダクトを内蔵し、2つの脚柱の上部端面に桁状の天井板を架設して門型構造体を構成し、該門型構造体の2つの脚柱と前記開口部を開閉する扉との間にシールパッキンを装着してなるエアシャッターであって、前記上部吹き出しノズルより冷気遮断脚柱側の上部吸入口側に向けた暖気遮断流路を流れるエア通過流の風速を、前記下部吹き出しノズルより暖気遮断脚柱側の下部吸入口側に向けた冷気遮断流路を流れるエア通過流の風速より高速に設定したものである。
【0005】
【特許文献1】特許第3897732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術では、前記出入口開口部からの暖気及び冷気の流出入を防止するためには前記出入口開口部横面より風速の大きな空気流を吹き出す必要がある。そのため前記出入口開口部を人が通行する場合には、前記風速の大きな空気流によって通行人に不快感を与えてしまう。さらに、特許文献1に開示されたエアシャッターにおいて、風速の大きな空気流を吹き出すためには大きな吹き出しファンを使用する必要があり騒音が大きくなるため、民生ビルの出入口開口部に用いることは不向きである。
【0007】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、出入口開口部を通行する通行人に与える不快感を小さくし、またファンを大型化する必要がなく騒音が小さいため民生ビルにも使用することができ、かつ充分な遮断効果を持ったエアシャッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明においては、
温度差のある出入口開口部を形成し、該開口部の両側部に空気ダクトを立設し、該立設した対状の空気ダクトそれぞれに空気吹出口と空気吸込口とを設けたエアシャッターにおいて、前記対状の空気ダクトそれぞれに設けた空気吹出口と空気吸込口とを利用して、前記出入口開口部を横断する循環流を複数形成し、1の循環流が上下方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた大循環流であり、他の循環流が前記大循環流に挟まれる内側で循環するように構成した小循環流であって、前記大循環流の風速を、前記小循環流の風速よりも高速とすることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、暖気の流出入が多い前記出入口開口部上部と、冷気の流出入が多い前記出入口開口部下部とには、前記風速の大きい大循環流が形成されているため、暖気又は冷気の流出入を高い遮断効率で遮断することができる。また前記大循環流に挟まれる内側の小循環流の風速を小としているため、前記小循環流部を人が通行する際の不快感を小さくすることができる。
なお、前記小循環流は、人が前記出入口開口部を通行する際に不快感を小さくするために、一般的な子供の顔の高さから大人の顔の高さまでの範囲(約1〜2m)を含む範囲とし、また前記小循環流の前記空気ダクトからの吹出風量は、前記空気ダクトからの吹出面積、前記空気ダクトへの吸込面積、前記空気吹出口から吹き出される空気のインバータ制御、ダンパー制御などの方法によって吹き出し風量を変化できるようにしておくとよい。
【0010】
また、前記出入口開口部の人の通過を感知する人感知手段を設け、出入口開口部の人の通行の感知により前記小循環流の風速を変化させることを特徴とする。
これにより、前記出入口開口部を人が通行しているときには前記小循環流の風速を低速とし、前記出入口開口部を人が通行していないときには前記小循環流の風速を高速とすることができるため、人が前記出入口開口部を通行する際に与える不快感を更に小さくすることができる。
【0011】
また、温度差のある出入口開口部を形成し、該開口部の両側部に空気ダクトを立設し、該立設した対状の空気ダクトそれぞれに空気吹出口と空気吸込口とを設けたエアシャッターにおいて、
前記出入口開口部の垂直断面内に、水平方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた外側循環流と、上下方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた内側循環流とが存在することを特徴とする。
【0012】
前記外側循環流が形成される位置では、前記出入口開口部奥行き方向に二重でかつ互いに対抗した空気流が形成されるため、空気流が互いに干渉して乱れることがなく安定した遮断効果が得られるとともに、前記出入口開口部空間を人や物が通行することによって空気流の一部が遮られても出入口開口部奥行き方向全体に渡って空気流が欠ける部分が存在せず暖気や冷気の流出入を確実に遮断することができる。一方前記内側循環流が形成される位置では、前記出入口開口部上下方向に二重でかつ互いに対抗した空気流が形成されるため、空気流が互いに干渉して乱れることがなく安定した遮断効果が得られるとともに、前記出入口開口部空間奥行き方向の空気流幅は前記外側循環流が形成される位置よりも小さく、したがって、前記内側循環流部を人が通行する際の不快感を小さくすることができる。なお、前記内側循環流は、人が前記出入口開口部を通行する際に不快感を小さくするために、一般的な子供の顔の高さから大人の顔の高さまでの範囲(約1〜2m)を含む範囲とするとよい。
【0013】
また、前記出入口開口部を高さ方向上段部、中段部及び下段部の3段に分割し、前記上段部及び下段部に前記外側循環流を形成し、前記中段部に前記内側循環流を形成することを特徴とする。
これにより、暖気の流出入が多い前記出入口開口部上部と、冷気の流出入が多い前記出入口開口部下部とには、より遮断効率の高い外側循環流が形成されるため、暖気又は冷気の流出入を高い遮断効率で遮断することができる。
【0014】
また、前記出入口開口部の人の通過を感知する人感知手段を設け、出入口開口部の人の通行の感知により前記内側循環流の風速を変化させることを特徴とする。
これにより、前記出入口開口部を人が通行しているときには前記内側循環流の風速を低速とし、前記出入口開口部を人が通行していないときには前記内側循環流の風速を高速とすることができるため、人が前記出入口開口部を通行する際に与える不快感を更に小さくすることができる。
【0015】
また、前記出入口開口部内部と外部の温度差を検知する手段を設け、該温度差に応じて、前記空気吹出口からの空気の吹出方向、又は前記空気の風速を変化させることを特徴とする。
出入口開口部内部と外部の温度差によってエアシャッターの遮断効率が変化すると考えられるため、前記温度差に応じて前記空気吹出口からの空気の吹出方向又は風速を変化させることで遮断効率の最適化を行うことができる。
【0016】
また、前記出入口外部の風速を検知する手段を設け、該風速に応じて、前記空気吹出口からの空気の吹出角度、又は前記空気の風速を変化させることを特徴とする。
出入口開口部外部の風速によってエアシャッターの遮断効率が変化すると考えられるため、前記風速に応じて前記空気吹出口からの空気の吹出方向又は風速を変化させることで遮断効率の最適化を行うことができる。
【0017】
また、前記出入口開口部外部の温度を検知する手段と、前記循環流を形成する空気温度を調節する手段とを設け、前記出入口開口部外部の温度に応じて、前記循環流を形成する空気温度を変化させることを特徴とする。
これにより出入口開口部外部の温度が低いときには暖かい風を、前記温度が高いときには冷たい風を導入することで通行人や出入口開口部周囲環境にとって快適な空気流で暖気や冷気の流出入を防止することができる。なお、前記出入口開口部外部の温度が高いときには冷たい風を導入するだけでなく霧を発生させて風とともに導入するようにしてもよい。
【0018】
また、前記出入口空間を開閉する扉を設け、該扉の開度に応じて、前記循環流の風速を変化させることを特徴とする。
扉によっては、扉を閉めても僅か(5〜10mm程度)な隙間が存在する場合があるため、扉を閉めていてもエアシャッターの稼動を停止すると前記隙間から暖気又は冷気が流出入してしまう場合がある。従って扉が閉まっている場合には前記循環流の風速を小さくし、前記扉が開いている場合は前記循環流の風速を大きくすることで最小限のエネルギーで暖気又は冷気の流出入を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上記載のごとく本発明によれば、出入口開口部を通行する通行人に与える不快感を小さくし、またファンを大型化する必要がなく騒音が小さいため民生ビルにも使用することができ、かつ充分な遮断効果を持ったエアシャッターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0021】
温度差のある隣接した2空間の空気流動と温熱環境を把握し、エアシャッターの有効性を確認するため、実機エアシャッターを用いた実験を行った。
図1はエアシャッターの有効性を確認するための実験設備の概要図である。空調機による温度制御が可能な実験室32(484.5m)をエアシャッター設置対象建物、屋外環境に開放された建屋31内を外部空間として冬期の外気侵入を模擬し、開口部33には循環型横吹きエアシャッター34、35とスライド式扉を設けた。実験室上部には建物の高層階からの漏気を再現するためリリーフ弁(不図示)を設けた。また、外部風を模擬するため、実験室の開口部33から4500mm離れた位置に、ファン4台(以下、外乱ファン36)を接続した整流板付き吹出し装置を設けた。なお、実験室内を室内、建屋内の実験室外を室外、建屋外を屋外と呼ぶこととする。
【0022】
実験は以下の手順で行った。
室内温度は、室外温度より+20℃高い温度を設定値として上昇させ、設定温度に達した時点で空調機(不図示)を停止し、室内の空気流動を安定させるため空調機停止後約1分間は安静に保った。その後、エアシャッター運転開始とともに前記開口部33に設けたスライド式扉を5分間開放し、室内外の空気温度、気流速度を測定した。扉開放5分後、扉を閉鎖し、再び空調機により室内を昇温した。
【0023】
前記エアシャッター34、35の吹出風速及び前記外乱ファン36からの風速を変化させたときの実験結果について説明する。
図2は室内温度の時間変化の実験結果を表すグラフであり、横軸は経過時間(s)、縦軸は室内外の温度差に対する室内温度の初期値からの変化率を示している。なお図2(A)は外乱ファン36停止時、図2(B)は外乱ファン36の2m/sの風速での運転時、図2(C)は外乱ファン36の3m/sでの運転時を表しており、それぞれのグラフ内にはエアシャッター34、35の吹出風速、室内温度の測定位置を変えて測定した室内温度の時間変化の実験結果をまとめて記載している。
【0024】
図2(A)に示した室内空気温度(外乱ファン36停止)時においては、扉開放と同時に室内温度が低下し、エアシャッター停止条件では80秒後に温度低下率が約90%に達し、以降90%前後を推移した。エアシャッター34、35を運転した場合の温度低下は、停止条件と比較してなだらかであり、温度低下率は120秒後に約60〜70%に達し、以降その値前後を推移した。
図2(B)に示した室内空気温度(外乱ファン36を2m/sで稼動)時においては、いずれの条件も、外乱ファン停止条件と比較し温度低下率は大きかった。これは、温度差換気による冷気侵入が外乱ファンの運転によって助長されたためと考えられる。
図2(C)に示した室内空気温度(外乱ファン36を3m/sで稼動)時においては、外乱ファン36を2m/sで稼動時と比較して、室内下部では温度低下率の傾向に大きな相違はみられなかったが、室内上部においては温度低下する時間が早かった。これは、冷気が侵入した結果、漏洩する暖気の温度低下が早くなったためと考えられる。
【0025】
以上のように図2を用いて説明した実験結果から、エアシャッターの遮断効率は、外部風速によって変化するといえる。
【0026】
図3は、エアシャッターの空気吸込口における空気温度を示す。吸込口の上部、下部ともに、室内外平均値より低かった。これは、エアシャッターが室外に設置されており、対向したエアシャッターからの吹出空気の他、室外側の空気を吸込んでいるためと考えられる。特に下部では、室内側空気が室外側へ流れ込むことが少ないため、温度差が大きかった。また、上部では、エアシャッターの吹出風速が大きくなるにつれ、室内外平均値との温度差がより大きくなり、下部では小さくなる傾向にあった。
このことからエアシャッターを室外側に置く場合、空気吹出口の温度は冬季の場合には室内外平均温度より低く、夏場の場合には室内外平均温度より高くなるといえる。
【0027】
次に、前記気流遮断効率の前記エアシャッター34、35の吹出風速及び前記外乱ファン36からの風速を変化させたときの実験結果について説明する。
図4は気流遮断効率の時間変化の実験結果を表すグラフであり、横軸は経過時間(s)、縦軸は気流遮断効率(%)を示している。なお図4(A)は外乱ファン36停止時、図4(B)は外乱ファン36の2m/sの風速での運転時、図4(C)は外乱ファン36の3m/sでの運転時を表しており、それぞれのグラフ内にはエアシャッター34、35の吹出風速を変えて測定した気流遮断効率(%)の実験結果をまとめて記載している。
ここで気流遮断効率(η)は、室内温度T、室外初期温度To0、室内初期温度Tr0を用いて以下の(1)式で表すことができる値であり、室内温度Tの変化に依存する値である。
η=(T−To0)/(Tr0−To0)×100 ・・・(1)
【0028】
図4(A)に示した室内空気温度(外乱ファン36停止)時においては、気流遮断効率は、扉開放から約10秒後までは急激に低下し、その後、時間とともに比較的緩やかに低下する傾向がみられた。
図4(B)に示した室内空気温度(外乱ファン36を2m/sで稼動)時、及び図4(C)に示した室内空気温度(外乱ファン36を3m/sで稼動)時においては、外乱ファン36停止時と比較して、気流遮断効率が大きく低下する結果となった。エアシャッター運転時の気流遮断効率は、エアシャッター停止時と比べて高いものの、いずれのエアシャッター吹出風速においても、外乱がない場合に比較して遮断効率を大きく改善される状況はみられなかった。
【0029】
以上のように図4を用いて説明した実験結果から、外乱に対する効果的な気流遮断を得るためには、吹出し風速や角度を外乱に応じて変化させる必要がある。
【0030】
図5は気流遮断効率とエアシャッター吹出風速の関係を示すグラフであり、縦軸は気流遮断効率(%)、横軸はエアシャッター吹出風速(m/s)を表している。なお、図5には実験結果と汎用熱流体解析ソフト(CFD)を用いた計算結果とを記載している。図5から、エアシャッターを停止した場合(0m/s)や、吹出し風速が1m/s程度以下と遅い場合などは、顕著な気流遮断効果が得られないことがわかる。一方、建物出入口部における扉寸法として考えられる寸法(L2.0m×H2.5m)を開口部の条件とした場合、吹出し風速による差異はあるものの、実験室実験の条件(L3.0m×H3.5m)と比べて気流遮断効率が約5%向上する結果が得られた。
従って漏洩を防止するための最低限必要なエアシャッター吹出し風速は、間口幅や室内外の温度差により変化するが、実験および熱流体解析により、エアシャッターを使用した場合、低風速かつ効率が良い風速が、吹出し風速で3m/s以上であることがわかった。そこで、エアシャッターでは、間口幅3m、室内外温度差20℃の場合、吹出し風速は3m/s以上かつ不快感を与えない速度とする。
【0031】
次に、図6に示したように2つの空気ダクト41、42を設け、該空気ダクト41、42の上部に3個のファン44×2個のファン45、下部に3個のファン47×3個のファン46がついたサーモシャッターを使用し、上部ファンをアンバランスな形(3個×2個)で使用した場合とバランスの良い形(2個×2個)で使用した場合の温度変化について実験を行った。
実験は、室内温度を室外温度より+20℃高くなるように室内を暖め、気流が安定後、室内外を区切る扉を開放すると同時にエアシャッターを稼動させる。その際、上部ファンを3×2のアンバランス型と2×2のバランス型の2条件で試験を行った。
実験結果を図7に示す。図7よりバランスの良いファン2個×2個の方が温度変化率が小さく、気流の流出入を効率よく阻止していることが確認できた。
【0032】
図8(a)は実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す上面構成図であり、図8(b)は実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す側面構成図である。図9は実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す要部斜視図であり、図10は実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す別の要部斜視図である。
実施例1に係るエアシャッター1は、温度差のある出入口開口部の両側に立設された空気ダクト2、3を備える。
前記空気ダクト2は、高さ方向下側より下部吹出口2a、その上部に中部吹出口2b、その上部に中部吸込口2c、及びその上部に上部吸込口2dを設け、内部には下部吹き出しファン4と前記上部吸入口2dとを結び循環空気102aを運ぶ流路と、中部吹き出しファン8と前記中部吸込口2cとを結び循環空気102bを運ぶ流路とが形成されている。
一方、前記空気ダクト3は、前記下部吹出口2a、中部吹出口2b、中部吸込口2c、上部吸込口2dとそれぞれ対向する位置に下部吸込口3a、中部吸込口3b、中部吹出口3c、上部吹出口3dを設け、内部には上部吹き出しファン5と前記下部吸入口3aとを結び循環空気103aを運ぶ流路と、中部吹き出しファン9と前記中部吸込口3bとを結び循環空気103bを運ぶ流路とが形成されている。
【0033】
上記構成におけるエアシャッターにおいて、前記下部吹き出しファン4によって前記空気ダクト2の下部の下部吹出口2aから送り出された空気は、前記出入口開口部を横断して前記空気ダクト3下部の下部吸込口3aより吸引され、循環空気103aとして空気ダクト3内を運ばれて上部吹き出しファン5によって上部吹出口3dから送り出され、前記出入口開口部を横断して前記空気ダクト2上部の上部吸込口2dより吸引され、循環空気102aとして空気ダクト2内を運ばれる大循環流を形成する。
一方、前記中部吹き出しファン8によって前記空気ダクト2の中部の中部吹出口2bから送り出された空気は、前記出入口開口部を横断して前記空気ダクト3中部の中部吸込口3bより吸引され、循環空気103bとして空気ダクト3内を運ばれて中部吹き出しファン9によって中部吹出口3cから送り出され、前記出入口開口部を横断して前記空気ダクト2中部の中部吸込口2cより吸引され、循環空気102bとして空気ダクト2内を運ばれる小循環流を形成する。
このとき、前記大循環流の風速を、前記小循環流の風速よりも高速とする。
また前記大循環流及び小循環流を形成する流路中に網を設置することが望ましく、該網を設置することで人、物等の循環流への巻き込まれ事故を防止することができるとともに、大きなゴミを網で除去してファンの損傷及びゴミの飛散を防止することができる。
【0034】
図9に示すように、実施例1に係るエアシャッターには、前記出入口開口部の人の通行を感知する人感知センサ10が設けられている。人感知センサ10で人の通行を感知すると、感知結果は演算装置15へ送られ、該演算装置15は小循環流の目標風速を演算し、人が通行中前記ファン8及び9の回転速度を落とす指令を出し前記小循環流の風速を通行人に不快感を与えない速度まで下げる。即ち前記演算装置15は制御装置も兼ねる。これにより通行人は不快感をほとんど与えられることなく前記出入口開口部を通行することができる。
なお、本実施例1においては前記ファン8及び9の回転速度を落とすことで前記小循環流の風速を下げたが、小循環流の風速を下げる手段は特に限定されない。
【0035】
前記人感知センサ10を用いた小循環流の風速の調整について図12を用いて説明する。
ステップS1でエアシャッターが稼動すると、ステップS2で人感知センサ10による人又は物の通行の感知が開始される。ステップS3で人又は物の通行中か判断する。
ステップS3でYesと判断されると、送風ファン8、9の回転数を調整することで前記小循環流を規定の低風速とする。
ステップS3でNoと判断されると、送風ファン8、9の回転数を調整することで前記小循環流を規定の高風速とする。但し該高風速は前記大循環流の風速より低速である値を規定する。
ステップS4又はS5で前記小循環流の風速調整が終了すると、ステップS6でエアシャッター稼動終了するか判断する。ステップS6でYesと判断されるとステップS7でエアシャッターの稼動を終了して処理を終了し、ステップS6でNoと判断されるとステップS3に戻りエアシャッター稼動終了までステップS3からS6の処理を繰り返す。
【0036】
また図10に示すように、実施例1に係るエアシャッターには、前記出入口開口部外部の温度を測定する温度計11、前記出入口開口部外部の風速を測定する風速計12、前記出入口開口部内部の温度を測定する温度計13、前記出入口開口部内部の風速を測定する風速計14が設けられている。前記温度計11、13及び風速計12、14で温度及び風速が測定されると、測定結果は演算装置15へ送られ、該演算装置15は必要な調整量を演算し、前記小循環流の風速又は吹出角度の少なくとも1を調整して遮断効率を最適化する。
なお、前記吹出角度の調整とは、図11に示すように空気ダクト2からの吹き出す空気流を出入口開口部内部側(16a)に傾けたり、出入口開口部外部側(16b)に傾けたりすることであり、空気ダクト2からの吹き出しだけでなく空気ダクト3からの吹き出し角度も同時に変更してもよい。
【0037】
さらに前記大循環流及び小循環流を形成する空気通路中にヒートポンプなどの温度調節手段を設け、前記温度計11の検知結果に応じて循環流空気温度を可変させると、通行人や出入口開口部周囲環境にとって快適な空気流で暖気や冷気の流出入を防止することができる。
【0038】
前記温度計及び風速計を用いた小循環流の風量、吹出角度の調整について図13を用いて説明する。
ステップS11でエアシャッターが稼動すると、ステップS12で前記温度計11、13及び風速計12、14によって室内外温度差及び室外風速を測定する。
ステップS12で室内外温度差及び室外風速が測定されると、ステップS13で室内温度と室外温度が異なるか判断する。
ステップS13でYesと判断されると、ステップS14で室内外温度差と室外風速が規定値以内であるか判断する。ステップS14でNoと判断されるとステップS15で送風ファン4,5,8,9の回転数を調整およびファンのルーバーを調整することで吹出角度を調整してエアシャッターの遮断効率の最適化を行う。
ステップS15で調整が終了するか、ステップS13でNo又はステップS14でYesと判断されると、ステップS16でエアシャッター稼動終了するか判断する。ステップS16でYesと判断されるとステップS17でエアシャッターの稼動を終了して処理を終了し、ステップS16でNoと判断されるとステップS13に戻りエアシャッター稼動終了までステップS13からS16の処理を繰り返す。
【実施例2】
【0039】
図14(a)は実施例2に係るエアシャッターの概略構成を示す上面構成図であり、図14(b)は実施例2に係るエアシャッターの概略構成を示す側面構成図である。
実施例2に係るエアシャッターは、温度差のある出入口開口部の両側に立設された空気ダクト22、23を備える。
前記空気ダクト22は高さ方向下より下部ダクト22c、中部ダクト22b、上部ダクト22aに分割され、前記空気ダクト23は前記下部ダクト22c、中部ダクト22b、上部ダクト22aと対向する位置で下部ダクト23c、中部ダクト23b、上部ダクト23aに分割されている。
【0040】
前記上部ダクト22aには前記出入口開口部の奥行き方向に吹出口22d、吸込口22eを設け、内部にはファン4aと前記吸込口22eとを結び循環空気122aを運ぶ流路が形成されている。一方、前記上部ダクト23aには、前記吹出口22d、吸込口22eとそれぞれ対向する位置に吸込口23d、吹出口23eを設け、内部にはファン5aと前記吸込口23dとを結び循環空気123aを運ぶ流路が形成されている。
また、前記下部ダクト22c、下部ダクト23cは上部ダクト22a、23aと同じ構成である。
【0041】
また、前記中部ダクト22bには、吹出口22f及びその上部に吸込口22gを設け、内部には吹き出しファン8aと前記吸込口22gとを結び循環空気122bを運ぶ流路が形成されている。一方、前記中部ダクト23bには、前記吹出口22f、吸込口22gとそれぞれ対向する位置に吸込口23f、吹出口23gを設け、内部には吹き出しファン9aと前記吸込口23fとを結び循環空気123bを運ぶ流路が形成されている。
【0042】
上記構成におけるエアシャッターにおいて、前記吹き出しファン4aによって前記上部ダクト22aの吹出口22dから送り出された空気は、前記出入口開口部を横断して前記上部ダクト23の吸込口23dより吸引され、循環空気123aとして上部ダクト3a内を運ばれて吹き出しファン5aによって吹出口23eから送り出され、前記出入口開口部を横断して前記上部ダクト22aの吸込口22eより吸引され、循環空気122aとして上部ダクト22a内を運ばれる外側循環流を形成する。
前記下部ダクト22c、23cにおいても同様に外側循環流を形成する。
【0043】
一方、前記吹き出しファン8aによって前記中部ダクト22bの吹出口22fから送り出された空気は、前記出入口開口部を横断して前記中部ダクト23bの吸込口23fより吸引され、循環空気123bとして中部ダクト23b内を運ばれて吹き出しファン9aによって吹出口23gから送り出され、前記出入口開口部を横断して前記中部ダクト22bの吸込口22gより吸引され、循環空気122bとして上部ダクト22a内を運ばれる内側循環流を形成する。
また前記外側循環流及び内側循環流を形成する流路中に網を設置することが望ましく、該網を設置することで人、物等の循環流への巻き込まれ事故を防止することができるとともに、大きなゴミを網で除去してファンの損傷及びゴミの飛散を防止することができる。
【0044】
このような図14に示した実施例2におけるエアシャッターにも、実施例1と同様人検知センサが設けられており(不図示)、前記出入口開口部の人の通行中は前記内側循環流の風速を通行人に不快感を与えない速度まで下げる。これによりこれにより通行人は不快感をほとんど与えられることなく前記出入口開口部を通行することができる。
【0045】
さらに、前記出入口開口部外部の温度を測定する温度計、前記出入口開口部外部の風速を測定する風速計、前記出入口開口部内部の温度を測定する温度計、前記出入口開口部内部の風速を測定する風速計(何れも不図示)も実施例1と同様に設けられており、前記温度計及び風速計で温度及び風速が測定されると、該測定結果に応じて前記内側循環流の風速又は吹出角度の少なくとも1を調整して遮断効率を最適化する。最適化の手法については実施例1で説明した図13のフローチャートと同じ手順であるため省略する。
【0046】
さらに前記外側循環流及び内側循環流を形成する空気通路中にヒートポンプなどの温度調節手段を設け、前記出入口開口部外側に設けた温度計の検知結果に応じて循環流空気温度を可変させると、快適な風通行人や出入口開口部周囲環境にとって快適な空気流で暖気や冷気の流出入を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
出入口開口部を通行する通行人に与える不快感を小さくし、またファンを大型化する必要がなく騒音が小さいため民生ビルにも使用することができ、かつ充分な遮断効果を持ったエアシャッターとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】エアシャッターの有効性を確認するための実験設備の概要図である。
【図2】室内温度の時間変化の実験結果を表すグラフである。
【図3】エアシャッターの空気吸込口における空気温度の実験結果を示す表である。
【図4】気流遮断効率の時間変化の実験結果を表すグラフである。
【図5】気流遮断効率とエアシャッター吹出風速の関係を示すグラフである。
【図6】ファン配列の実験設備の概略図である。
【図7】ファン配列の実験結果を表すグラフである。
【図8】図8(a)は実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す上面構成図であり、図8(b)は実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す側面構成図である。
【図9】実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す要部斜視図である。
【図10】実施例1に係るエアシャッターの概略構成を示す別の要部斜視図である。
【図11】空気ダクトからの空気吹出角度調整の説明図である。
【図12】人感知センサ10を用いた小循環流の風速の調整の手順を示すフローチャートである。
【図13】温度計及び風速計を用いた小循環流の風量、吹出角度の調整の手順を示すフローチャートである。
【図14】図14(a)は実施例2に係るエアシャッターの概略構成を示す上面構成図であり、図14(b)は実施例2に係るエアシャッターの概略構成を示す側面構成図である。
【符号の説明】
【0049】
1 エアシャッター
2、3 空気ダクト
2a、2b、3a、3b 吹出口
2c、2d、3c、3d 吸込口
10 人感知センサ
11 外部用温度計
12 外部用風速計
13 内部用温度計
14 内部用風速計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度差のある出入口開口部を形成し、該開口部の両側部に空気ダクトを立設し、該立設した対状の空気ダクトそれぞれに空気吹出口と空気吸込口とを設けたエアシャッターにおいて、
前記対状の空気ダクトそれぞれに設けた空気吹出口と空気吸込口とを利用して、前記出入口開口部を横断する循環流を複数形成し、
1の循環流が上下方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた大循環流であり、他の循環流が前記大循環流に挟まれる内側で循環するように構成した小循環流であって、
前記大循環流の風速を、前記小循環流の風速よりも高速とすることを特徴とするエアシャッター。
【請求項2】
前記出入口開口部の人の通過を感知する人感知手段を設け、
出入口開口部の人の通行の感知により前記小循環流の風速を変化させることを特徴とする請求項1記載のエアシャッター。
【請求項3】
温度差のある出入口開口部を形成し、該開口部の両側部に空気ダクトを立設し、該立設した対状の空気ダクトそれぞれに空気吹出口と空気吸込口とを設けたエアシャッターにおいて、
前記出入口開口部の垂直断面内に、水平方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた外側循環流と、上下方向に位置する複数の異なる面内で互いに対向するように設けた内側循環流とが存在することを特徴とするエアシャッター。
【請求項4】
前記出入口開口部を高さ方向上段部、中段部及び下段部の3段に分割し、
前記上段部及び下段部に前記外側循環流を形成し、
前記中段部に前記内側循環流を形成することを特徴とする請求項3記載のエアシャッター。
【請求項5】
前記出入口開口部の人の通過を感知する人感知手段を設け、
出入口開口部の人の通行の感知により前記内側循環流の風速を変化させることを特徴とする請求項3又は4記載のエアシャッター。
【請求項6】
前記出入口開口部内部と外部の温度差を検知する手段を設け、
該温度差に応じて、前記空気吹出口からの空気の吹出方向、又は前記空気の風速を変化させることを特徴とする請求項1〜5何れかに記載のエアシャッター。
【請求項7】
前記出入口外部の風速を検知する手段を設け、
該風速に応じて、前記空気吹出口からの空気の吹出角度、又は前記空気の風速を変化させることを特徴とする請求項1〜6何れかに記載のエアシャッター。
【請求項8】
前記出入口開口部外部の温度を検知する手段と、
前記循環流を形成する空気温度を調節する手段とを設け、
前記出入口開口部外部の温度に応じて、前記循環流を形成する空気温度を変化させることを特徴とする請求項1〜7何れかに記載のエアシャッター。
【請求項9】
前記出入口空間を開閉する扉を設け、
該扉の開度に応じて、前記循環流の風速を変化させることを特徴とする請求項1〜8何れかに記載のエアシャッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−216360(P2009−216360A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63380(P2008−63380)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月14日 社団法人空気調和・衛生工学会発行の「平成19年度大会(仙台)の学術講演論文集」に発表
【出願人】(591014042)株式会社久米設計 (16)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【出願人】(591224869)クリフ株式会社 (8)