説明

エアフィルタ用濾材

【課題】通気抵抗を抑えつつ、ダストの捕捉量を増大させることができるエアフィルタ用濾材を提供する。
【解決手段】エアフィルタ用濾材19は、エアの流れ方向に対する上流層22と下流層23とが一体化されて構成され、上流層22はエア中のダストを捕捉し、下流層23は上流層22を支持するものである。上流層22は平均繊維径が0.5〜2.5μmの繊維からなる不織布をプレス成形して形成され、厚さが0.005〜0.1mmであると共に、空隙率が78〜92%に設定される。下流層23は、通常濾紙層で形成される。前記プレス成形は、温度20〜160℃及び圧力1〜5MPaの条件下に行われることが好ましい。また、上流層22の目付量は、1〜15g/mであることが好ましく、不織布を形成する樹脂材の密度は、0.9〜1.5g/cmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン吸気系におけるフィルタ、空調装置のフィルタなどとして使用され、エア(空気)中のダストを捕捉するためのエアフィルタ用濾材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエアフィルタ用濾材として、エアの流れ方向に対して上流側の不織布層と下流側の濾紙層とから構成されている濾材が知られている。係るフィルタ用濾材の濾過精度は流れ方向において増大するように設定されている。このため、上流側の不織布層の方が下流側の濾紙層よりも目が粗く形成されている。その結果、比較的大きなダストを上流側の不織布層で捕捉し、比較的小さなダストを下流側の濾紙層で捕捉することができるようになっている。このフィルタ用濾材では、上流側の不織布層及び下流側の濾紙層の仕様が目付け量(単位面積当たりの重量)により設定されているだけであり、目付け量以外の要素、例えば繊維径等は考慮されていない。
【0003】
しかしながら、目付け量の値が一定であっても、繊維径が大きければ不織布層等の目は粗くなり、逆に繊維径が小さければ目は細かくなる。このため、目付け量のみでは、不織布層等の目のサイズを把握することはできない。例えば、上流側の不織布層の目が細か過ぎると上流側で目詰まりを起こし易くなるため、下流側の濾紙層の性能が生かされなくなる。従って、結果的にフィルタ用濾材のダスト捕捉量が少なくなる。逆に、上流側の不織布層の目が粗過ぎると、多くのダストが不織布層を通過して濾紙層で捕捉されるようになるため、濾紙層の負担が大きくなって目詰まりを起こし易くなる。このため、やはりフィルタ用濾材のダスト捕捉量が少なくなる。
【0004】
このような問題点に鑑みて、本出願人は上流側の不織布層における目のサイズを適正にしてダスト捕捉量を向上させたフィルタ用濾材を提案した(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、フィルタ用濾材は、上流側の不織布層と下流側の濾材層とからなり、不織布層を構成する樹脂繊維の繊維径が2.5〜10μm、不織布層の目付量が2.5〜15g/mで、かつ濾材層は不織布層よりも目が細かく構成されているものである。
【特許文献1】特開2006−175352号公報(第2頁、第3頁及び第8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載されているフィルタ用濾材においては、不織布層を構成する樹脂繊維の繊維径が2.5〜10μmという細かい範囲に設定されているが、ダストの捕捉量を高めるためには樹脂繊維の繊維径をさらに細かくする必要がある。しかしながら、繊維径を細かくしていくに従って、繊維間の空間の割合を示す空隙率が小さくなる。空隙率が小さくなると、エアの通気抵抗が大きくなると共に、ダストを捕捉する空間が少なくなってダスト捕捉量が低下する。このように、特許文献1に記載のフィルタ用濾材は、通気抵抗を保持した状態でのダストの捕捉量が未だ十分ではないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、通気抵抗を抑えつつ、ダストの捕捉量を増大させることができるエアフィルタ用濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係るエアフィルタ用濾材は、エアの流れ方向に対する上流層と下流層とが一体化されて構成され、前記上流層はエア中のダストを捕捉し、下流層は上流層を支持するものである。そして、前記上流層は平均繊維径が0.5〜2.5μmの繊維からなる不織布をプレス成形して形成され、厚さが0.005〜0.1mm及び空隙率が78〜92%であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係るエアフィルタ用濾材は、請求項1に係る発明において、前記プレス成形は、温度20〜160℃及び圧力1〜5MPaの条件下に行われるものであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係るエアフィルタ用濾材は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記上流層の目付量は、1〜15g/mであることを特徴とする。
請求項4に係るエアフィルタ用濾材は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記不織布を形成する樹脂材の密度は、0.9〜1.5g/cmであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係るエアフィルタ用濾材は、請求項1から請求項4のいずれか一項に係る発明において、前記エアの流れ方向に平行に配置されて使用されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係るエアフィルタ用濾材では、上流層の厚さが0.005〜0.1mmという薄さになるようにプレス成形されることから、繊維が潰され、目を細かくすることができ、ダストの捕捉量を増大させることができる。一方、不織布を形成する繊維の平均繊維径が0.5〜2.5μm及び上流層の空隙率が78〜92%に設定されるため、エアの通気抵抗を抑えつつ、ダストの捕捉量を確保することができる。
【0012】
請求項2に係るエアフィルタ用濾材では、プレス成形は、温度20〜160℃及び圧力1〜5MPaの条件下に行われることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、樹脂繊維を十分に圧縮して目を細かくすることができる。
【0013】
請求項3に係るエアフィルタ用濾材では、上流層の目付量が1〜15g/mであることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、単位面積当たりの樹脂繊維の重量を十分に確保することができ、ダストの捕捉性能を向上させることができる。
【0014】
請求項4に係るエアフィルタ用濾材では、不織布を形成する樹脂材の密度が0.9〜1.5g/cmであることから、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、空隙率を維持し、通気抵抗の抑制とダストの捕捉性能の向上を図ることができる。
【0015】
請求項5に係るエアフィルタ用濾材では、エアの流れ方向に平行に配置されて使用されることから、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、濾材表面での目詰まりを抑え、ダストの捕捉量を増大させることができると共に、その寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良と思われる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図3はエアフィルタ装置の概略を示す断面図であり、エアエレメント部11の前部(図中左部)にはダストを含むエア(空気)が導入されるエア導入管12が接続されると共に、後部にはエアエレメント部11でダストが濾過された清浄なエアが排出されるエア排出管13が接続されている。エアエレメント部11は、エアフィルタ用濾材19が螺旋状(スパイラル状)に巻回されて形成されたハニカム構造体14により構成されている。図1及び図2は、係るハニカム構造体14の概略を示す部分断面図である。図1は図5の1−1線における断面図である。係る図1に示すようにハニカム構造体14は、エアフィルタ用濾材19の上方に位置する上部隔壁15と、下方に位置する下部隔壁16と、エアフィルタ用濾材19の後端部(図中の右端部)に設けられている後端閉塞部17と、エアフィルタ用濾材19の前端部(図中の左端部)に設けられている前端閉塞部18とにより構成されている。
【0017】
エアフィルタ用濾材19と上部隔壁15との間はダストを含むエア(図中の矢印)が導入される入口側空間部20となり、エアフィルタ用濾材19と下部隔壁16との間は清浄なエアが排出される出口側空間部21となっている。そして、入口側空間部20から導入されたダストを含むエアが図中の矢印に示すように流れてエアフィルタ用濾材19を通過してダストが濾過され、清浄なエアが出口側空間部21へ排出されるようになっている。つまり、エアフィルタ用濾材19は、エアの流れと平行に配置されており、エア中のダストがエアフィルタ用濾材19の表面に堆積しにくく、エアフィルタ用濾材19の内奥部まで運ばれ、ダストの捕集性を良くするようになっている。
【0018】
ここで、エア中のダストは有機物質又は無機物質であり、有機物質としては有機化合物、有機ポリマー等が挙げられ、無機物質としてはほこり、煙、ミスト、灰、金属微粒子等が挙げられる。また、ダストの平均粒子径は、ほとんどが0.1〜100μmであり、このような大きさのダストが上流層22で濾過される。エアフィルタ用濾材19は、エアの流れ方向に対する上流層(不織布層)22と下流層(濾紙層)23とが一体化(積層)されて構成されている。上流層22はエア中のダストを捕捉するための層であり、下流層23は上流層22を支持(補強)するための層である。
【0019】
図1においては上流層22が下流層23よりも薄く形成され、図2においては上流層22が下流層23よりも厚く形成されている。上流層22は平均繊維径が0.5〜2.5μmの繊維からなる不織布をプレス成形して形成され、厚さが0.005〜0.1mm、空隙率が78〜92%に設定される。使用する繊維としては、特に制限されないが、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、アクリル繊維等の合成繊維のほか、綿(コットン)、パルプ、レーヨン繊維等の天然繊維を用ることもできる。この繊維は、対象となる製品の通気性、除塵性、剛性等の要求値に基づいて選定され、単独又は複数の繊維が混合して使用される。繊維形状は、ストレート繊維、捲縮繊維等を問わず、要求される繊維成形体の厚さに対する繊維量(繊維密度)、繊維成形体の剛性、通気性等に基づいて、単独又は混合して使用することができる。
【0020】
また、繊維断面は円形、矩形、異形等の種類があるが、これも通気性や除塵性、剛性等の要求値で決定され、単独又は複数の繊維を混合して使用することができる。特に、自動車用フィルタを成形する場合には、高温安定性のあるポリエステル繊維を主繊維としてポリプロピレン繊維、アクリル繊維、パルプ等を適量混合して使用することが望ましい。
【0021】
樹脂繊維の平均繊維径は、前述のように0.5〜2.5μmである。この平均繊維径が0.5μm未満の場合には、生産性よく繊維を成形することが困難となる。その一方、平均繊維径が2.5μmを超える場合には、上流層22の目が粗くなり、ダストの捕捉量が不足する。
【0022】
前記プレス成形は、樹脂繊維を十分に圧縮して上流層22の目を細かくするために、温度20〜160℃及び圧力1〜5MPaの条件下に行われる。プレス成形の温度は、プレス成形を効果的に行うため、120〜150℃であることが好ましい。プレス成形の温度が20℃未満の場合には、プレス成形が実質上冷却状態で行われるため、圧縮が十分かつ均一に行われなくなる傾向を示す。その一方、160℃を超える場合には、樹脂繊維が柔軟化し、上流層22を所要の厚さに設定することが難しくなったり、上流層22の厚さが不均一になったりして好ましくない。また、圧力が1MPaより低い場合には、圧力が不十分で、上流層22を所要の厚さにして目を細かくすることが難しくなる。一方、5MPaより高い場合には、上流層22を所要の厚さに設定したり、所要の目の粗さに調整したりすることが難しくなる傾向を示す。
【0023】
このプレス成形によって上流層22の厚さは0.005〜0.1mmに設定される。厚さをこの範囲に設定することにより、ダストの捕捉量を確保し、通気抵抗を抑えることができる。上流層22の厚さが0.005mmより薄い場合、ダストの捕捉量をある程度確保することはできるが、通気抵抗が過大となるため不適当である。一方、0.1mmより厚い場合、通気抵抗を抑えることはできるが、目標とするダストの捕捉量が得られなくなる。
【0024】
前記空隙率は、上流層22の目付量、厚さ、及び上流層22を形成する樹脂材の密度によって決定され、次の計算式(1)に基づいて算出される。
空隙率(%)=1−〔目付量/(厚さ×樹脂材の密度)〕 ・・・(1)
この計算式(1)で算出される空隙率は、ダストの捕捉量と通気抵抗とのバランスを図るために78〜92%に設定される。上流層22の厚さは上記範囲に成形されるため、樹脂材の種類を選定し、目付量を決めることにより、空隙率が算出される。言い換えれば、樹脂材の種類を選定し、空隙率を定めることにより、目付量を算出することができる。空隙率が78%に満たないときには、目標とするダスト捕捉量が得られず、上流層22が目詰まりし、通気抵抗も上昇する。その一方、空隙率が92%を超えるときには、通気抵抗は低下するが、ダスト補足量が目標レベルに達しなくなる。
【0025】
上流層22の目付量は、単位面積当たりの樹脂繊維量を確保し、ダストの捕捉性能を高めるため1〜15g/mであることが好ましい。この目付量が1g/mを下回る場合には、単位面積当たりの樹脂繊維量が不足し、ダストの捕捉性能が低下する傾向を示す。一方、目付量が15g/mを上回る場合には、ダストの捕捉性能は向上するが、上流層22の通気抵抗が上昇して好ましくない。
【0026】
前記樹脂材の密度は、空隙率を維持し、通気抵抗を抑え、ダストの捕捉性能を高めるため0.9〜1.5g/cmであることが好ましい。樹脂材の密度が0.9g/cmよりも低いときには、空隙率が高くなる傾向を示し、ダストの捕捉性能が低下する。一方、係る密度が1.5g/cmより高いときには、空隙率が低くなる傾向を示し、ダストの捕捉性能が低下すると共に、通気抵抗も上昇する。
【0027】
上流層22の通気抵抗は、ダストを含むエアの流れを保持し、閉塞を抑制するため0.8〜1.8kPaであることが好ましい。この通気抵抗が0.8kPaより小さい場合、エアの流れを保持することはできるが、十分なダスト捕捉量を得ることができなくなる。一方、通気抵抗が1.8kPaより大きい場合、上流層22におけるエアの流れが閉塞しやすくなり、上流層22の寿命が短くなる傾向を示す。上流層22は、以下に述べるメルトブローン法により紡糸された熱可塑性樹脂の繊維から構成されている。
【0028】
次に、前記上流層22を製造するための製造装置及び製造方法について説明する。
図4に示すように、この製造装置は、水平方向に移動するコンベヤ30を備えており、そのコンベヤ30上にベルト状の基布31が載置されると共に、基布31の上方に位置し半溶融状態の樹脂繊維32を下向きに吐出する紡糸ノズル33とを備えている。基布31は、半溶融状態の樹脂繊維32を受ける通気性のあるメッシュ状のものである。
【0029】
前記紡糸ノズル33は、メルトブローン法を利用した紡糸ノズル33であり、中央の樹脂吐出口34から吐出された溶融樹脂に対して樹脂吐出口34を取り囲むように配置された熱風吹き出し口35から熱風を吹付けて樹脂繊維36を紡糸するようになっている。なお、樹脂吐出口34及び熱風吹き出し口35は下方ほど縮径されたテーパ状をなしている。紡糸ノズル33から紡糸された樹脂繊維36は熱風により吹き飛ばされ、半溶融状態で基布31上に積層される。そして、樹脂繊維36が基布31上で互いに接触することにより接触点で融着し、不織布38が形成される。コンベヤ30が駆動されることにより、不織布38がコンベヤ30に載って搬送される。得られた不織布38が前記条件下でプレス成形されることによって上流層22が形成され、その上流層22に下流層23を形成する濾紙等を接合することにより、平板状濾材25が形成される。
【0030】
上流層22を構成する樹脂繊維36の平均繊維径は、紡糸ノズル33の樹脂吐出口34から吐出される樹脂の吐出量と、熱風吹き出し口35から吹き出される熱風の流量とを調節することにより、所定の平均繊維径に設定される。例えば、平均繊維径を細くする場合には、紡糸ノズル33の直径を細くすると共に、熱風吹き出し口35からの風量を増大させる。本実施形態に係るエアフィルタ用濾材19では、樹脂繊維36の平均繊維径は、前述のように0.5〜2.5μmの範囲に設定される。
【0031】
また、上流層22の単位面積当たりの重量を表す目付量は、コンベヤ30の移送速度を調整することにより所定値に設定される。すなわち、コンベヤ30の移送速度を低下させることにより、基布31に積層される樹脂繊維36の量が多くなり、目付量は大きくなる。逆に、コンベヤ30の移送速度を増加させることにより、基布31に積層される樹脂繊維36の量が少なくなり、目付量は小さくなる。本実施形態に係るエアフィルタ用濾材19では、上流層22の目付量は、前述のように好ましくは1〜15g/mの範囲に設定される。
【0032】
続いて、前記下流層23について説明する。
この下流層23は通常濾紙層であるが、不織布、合成繊維の織物等であってもよく、その厚さは0.01〜0.14mm程度に形成される。また、下流層23の平均濾孔径は10〜100μmの範囲に設定される。係る下流層23では、上流層22を通過したエアが抵抗なく通り抜けることができるように構成されている。この下流層23は、パルプ又はパルプを主体とし、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維を配合した材料によって形成される。下流層23では、上流層22を通過したエア中の微細なダストが捕捉されるようになっていてもよい。
【0033】
前記上流層22と下流層23とは、エンボス加工又はラミネート加工により接合されている。ここで、エンボス加工とは、重ねられた上流層22と下流層23とを加熱された小さな複数の突起で上下から挟み、上流層22を部分的に溶融させて下流層23に接着する加工法である。また、ラミネート加工とは、上流層22と下流層23との間に通気性の高いホットメルトシートを挟み、加熱、加圧することにより両者を接合する加工法である。エアフィルタ用濾材19の厚さは、上流層22と下流層23の各厚さの総和であるため、0.02〜0.25mm程度に形成される。
【0034】
次に、上流層22と下流層23が接合された長尺状の平板状濾材25に対し波型ローラを押圧して長尺状の波型状濾材24を作製する。そして、図5に示すように、その波型状濾材24を他の平板状濾材25の上に両濾材により形成される入口側空間部20及び出口側空間部21のいずれか一方の長手方向端部のみが閉塞されるように接着剤を配置しながら巻回し、接合して一体化する。すなわち、前記の後端閉塞部17及び前端閉塞部18が形成される。このようにして、図3に示すようなハニカム構造体14が形成される。なお、前記上部隔壁15及び下部隔壁16は、図5に示す上部位置の平板状濾材25及び下部位置の平板状濾材25に相当する。また、平板状濾材25及び波型状濾材24の少なくとも一方にホットメルト接着剤を含浸させておいて、平板状濾材25と波型状濾材24とを接合するときに、接合部を加熱して接着剤を溶融、硬化させて両者を接着させることもできる。
【0035】
つまり、その幅方向から見て半円状の入口側空間部20を形成し、該入口側空間部20はその上流側が開口し、下流側が閉塞される。また、入口側空間部20と隣接して出口側空間部21が形成され、該出口側空間部21は上流側が閉塞され、下流側が開口されている(図1〜3を参照)。なお、この際には空気流入側となる面に波型状濾材24及び平板状濾材25それぞれの上流層22が位置するように接合されている。
【0036】
さて、本実施形態の作用について説明すると、エアフィルタ用濾材19は、エアの流れ方向に対する上流層22と下流層23とが接合されて形成される。上流層22は、メルトブローン法により基布31上に樹脂繊維層37が積層された不織布38がプレス成形されて形成される。このとき、上流層22は、厚さが0.005〜0.1mmという薄さまでプレス成形されることから、樹脂繊維が潰され、樹脂繊維の目が全体に細かく形成される。そのため、エア中のダストが捕捉されやすくなる。上流層22の厚さに加えて、樹脂材の種類により密度が規定され、目付量が決定されると、それらの値に基づいて空隙率が78〜92%に設定される。しかも、樹脂繊維36の平均繊維径が0.5〜2.5μmに設定されているため、エアの通気性を保持できると同時に、ダストを捕捉性を高めることができる。その結果、上流層22におけるエア中のダストの捕捉性が良くなると同時に、エアの通気性が維持される。
【0037】
以下に、上記実施形態により発揮される効果について、まとめて記載する。
・ 本実施形態のエアフィルタ用濾材19では、樹脂繊維36の平均繊維径が0.5〜2.5μmで、上流層22の厚さが0.005〜0.1mmという薄さまでプレス成形され、しかも上流層22の空隙率が78〜92%に維持される。従って、エアフィルタ用濾材19におけるエアの通気抵抗を抑えつつ、ダスト捕捉量を増大させることができる。よって、エアフィルタ用濾材19を自動車のエンジン吸気系におけるフィルタ、空調装置のフィルタ等として好適に使用することができる。
【0038】
・ 前記プレス成形が、温度20〜160℃及び圧力1〜5MPaの条件下に行われることにより、樹脂繊維を十分に圧縮して目を細かくすることができる。
・ また、上流層22の目付量が1〜15g/mであることにより、単位面積当たりの樹脂繊維の重量を十分に確保することができ、ダストの捕捉性能を向上させることができる。
【0039】
・ さらに、不織布38を形成する樹脂材の密度が0.9〜1.5g/cmであることにより、空隙率を維持し、通気抵抗の抑制とダストの捕捉性能の向上を図ることができる。
【0040】
・ 前記上流層22は、メルトブローン法により製造することにより、製造が容易であり、従来の静電紡糸法で用いる有機溶剤を使用する必要がないため、環境への負荷を軽減できると共に、製造コストの低減を図ることができる。
【0041】
・ エアフィルタ用濾材19がエアの流れ方向に平行に配置されて使用されることにより、上流層22表面での目詰まりを抑え、ダストの捕捉量を増大させることができると共に、その寿命を長くすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜5及び比較例1〜11)
実施例1〜5では、上流層22を形成する樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を使用した(樹脂密度1.4g/cm)。そして、前述した図4に示す上流層22の製造装置を用いて上流層材料を製造した。得られた上流層材料を、温度120℃、圧力3MPaの条件でプレス成形を行い、上流層22を作製した。さらに、その上流層22に下流層23を形成する濾紙を接合して平板状濾材25を形成した。係る平板状濾材25に対し波型ローラを押圧して波型状濾材24を作製した。図5に示すように、前記平板状濾材25上に波型状濾材24を載せ、両濾材により形成される入口側空間部20及び出口側空間部21のいずれか一方の長手方向端部のみが閉塞されるように接着剤を配置しながら巻回し、接合することによりハニカム構造体14を得た。
【0043】
各実施例における上流層22の厚さは、表1に示すように設定した。下流層23の厚さは0.14mm、平均孔径は60μmであった。前記平板状濾材25と波型状濾材24とを重ね合せて一体化した後、長手方向に巻回することにより図3に示すようなエアフィルタ用濾材19を有するエアフィルタ装置のハニカム構造体14を形成した。
【0044】
なお、上流層22を構成する樹脂繊維36の平均繊維径及び目付量は、紡糸ノズル33の樹脂吐出口34から吐出される樹脂の吐出量と、熱風吹き出し口35から吹き出される熱風の流量とを調節することにより、表1に示す値に設定した。また、上流層22の空隙率は前述した計算式(1)に基づいて算出した。
【0045】
そして、この上流層22に一定量のダストを含むエアを供給し、ダストの捕捉量(g)と通気抵抗(kPa)とを測定した。それらの結果を表1に示した。
また、比較例1〜11では、実施例1〜5に準じて実施したが、以下に示す条件が実施例1〜5とは異なる。比較例1及び3では、上流層22の空隙率が78%未満の場合を示す。比較例2、4、5、6、7、8、9及び11では、プレス成形を行わず、厚さが0.1mmを超えると共に、空隙率が92%を超える場合を示す。比較例10では、空隙率が92%を超える場合を示す。
(実施例6〜9)
実施例6及び7では、実施例1において、上流層22を形成する樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に代えてポリプロピレン(PP)樹脂を使用した(樹脂密度0.95g/cm)。さらに、上流層22の目付量、厚さ及び空隙率を表1に示したように設定した。また、実施例8及び9では、実施例1において、上流層22を形成する樹脂材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に代えてポリアミド(ナイロン)樹脂を使用した(樹脂密度1.14g/cm)。さらに、上流層22の目付量、厚さ及び空隙率を表1に示したように設定した。そして、実施例1と同様にして、ダストの捕捉量(g)と通気抵抗(kPa)とを測定した。それらの結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

表1に示した結果より、実施例1〜5では、プレス成形により上流層22を厚さ0.01〜0.05mmに形成すると共に、平均繊維径を1.5〜2.5μm、空隙率を78〜92%に設定したことから、ダストの捕捉量を目標とする75g以上にすることができ、かつその場合の通気抵抗を1.71kPa以下に抑えることができた。また、実施例6〜9では、樹脂材料をポリプロピレン樹脂又はポリアミド樹脂に代え、その樹脂密度を0.95又は1.14にすると共に、プレス成形により上流層22を厚さ0.03〜0.06mmに形成し、平均繊維径を1.5μmかつ空隙率を88〜90%に設定した。その結果、ダストの捕捉量を85〜89gにすることができ、しかもその場合の通気抵抗を0.9〜1.4kPaに抑えることができた。
【0048】
それに対し、表2に示したように、比較例1及び3では、上流層22の空隙率が78%未満であったため、ダストの捕捉量が不足すると共に、通気抵抗も上昇した。一方、比較例10では、空隙率が92%を超えたため、通気抵抗は低い結果であったが、ダストの捕捉量が不足した。比較例2、4、5、6、7、8、9及び11では、プレス成形を行わず、厚さが0.1mmを超えると共に、空隙率が92%を超えたため、通気抵抗を低くすることはできたが、ダストの捕捉量が目標を下回った。
【0049】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 不織布38を形成する樹脂材として、種類の異なるものを複数使用し、樹脂材の密度を調整することもできる。
【0050】
・ 実施形態におけるエアフィルタ用濾材19を、エアの流れと交差する方向に配置して使用することも可能である。
・ 上流層22を、平板状濾材25のみ、又は波型状濾材24のみで構成することも可能である。
【0051】
・ メルトブローン法により上流層22を製造した後、加熱されたロール間を通過させることにより、上流層22の表面における平滑性を高めるように構成することもできる。
・ 前記メルトブローン法において、樹脂繊維には粘度調整剤としてポリアクリル酸ナトリウム等、繊維接着剤としてバインダー繊維等、繊維滑り性向上剤として非イオン性界面活性剤等、分散安定剤としてカルボキシメチルセルロース等を配合することも可能である。
【0052】
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記エア中のダストを捕捉した状態における上流層の通気抵抗は、0.8〜1.8kPaであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエアフィルタ用濾材。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、ダストを含むエアの流れを保持し、閉塞を抑制することができる。
【0053】
・ 螺旋状に巻回されて使用されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエアフィルタ用濾材。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、ダストの捕捉を少ないスペースで効率良く行うことができる。
【0054】
・ 前記プレス成形の温度は、120〜150℃であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエアフィルタ用濾材。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、プレス成形を一層効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態におけるフィルタ装置を構成するハニカム構造体の概略を示す部分断面図。
【図2】図1とは異なるタイプのハニカム構造体の概略を示す部分断面図。
【図3】エアフィルタ装置の概略を示す断面図。
【図4】メルトブローン法により不織布を製造するための装置を示す概略説明図。
【図5】ハニカム構造体を説明するための概略断面図。
【符号の説明】
【0056】
19…エアフィルタ用濾材、22…上流層、23…下流層、38…不織布。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアの流れ方向に対する上流層と下流層とが一体化されて構成され、前記上流層はエア中のダストを捕捉し、下流層は上流層を支持すると共に、上流層は平均繊維径が0.5〜2.5μmの繊維からなる不織布をプレス成形して形成され、厚さが0.005〜0.1mm及び空隙率が78〜92%であることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記プレス成形は、温度20〜160℃及び圧力1〜5MPaの条件下に行われるものであることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記上流層の目付量は、1〜15g/mであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記不織布を形成する樹脂材の密度は、0.9〜1.5g/cmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記エアの流れ方向に平行に配置されて使用されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエアフィルタ用濾材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−155183(P2008−155183A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350178(P2006−350178)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】