説明

エキスパンダーロール

【課題】 従来の基本的なロール構造を変更することなく、優れた皺伸ばし効果が得られるようにする。
【解決手段】 製紙における抄紙工程や塗工工程等で使用されるエキスパンダーロールであって、湾曲した非回転の軸2と、軸2の外周に取り付けられたベアリング3と、ベアリング3外周に一体に設けられたスプール4と、スプール4の外側に取り付けられたゴム製筒体5とを有し、ゴム製筒体5の外周面にはその長さ中央部分から左右対称に溝幅を10〜50mmとする螺旋状凹溝6が形成され、また必要に応じて螺旋状凹溝6の両側壁が開口部に向かって広がるテーパー状となされ、凹溝の深さが0.5〜2.5mm、ピッチが25〜100mmとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙における抄紙工程や塗工工程等において、ウェブ走行時に発生する皺を伸ばすのに用いられるエキスパンダーロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエキスパンダーロールとして、湾曲した非回転の軸の外周に、ボールベアリングを内蔵したスプールを介してゴム製筒体を回転自在に装着したものが知られている。一方、全体形状が直線状であって、回転軸と一体に回転するロールの表面に、その中央部分から左右対称に螺旋状溝を設けたロール(ウォームロール)も知られている。
【0003】
また近年、全体形状が湾曲状のエキスパンダーロールについても螺旋状溝を設けたものも開発されている。
【特許文献1】特開2005−67780号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のエキスパンダーロールは、製紙における抄紙工程や塗工工程等でウェブ走行時に発生する皺を伸ばすのに広く用いられているが、前述したエキスパンダーロールのうち、全体形状が湾曲状のものは、非回転の軸の周りを回転するゴム製筒体が湾曲の短辺側から長辺側へ180°回転する際のゴム製筒体表面の伸びを利用し、その側方にウェブを当接させることで、ウェブが伸張されて皺が伸ばされる構造となっている。しかしながら、実際の工程においては、十分な皺伸ばし効果が得られていないのが実情であり、また皺伸ばし効果を高めるために、ゴム製筒体の外周面に螺旋状溝を設けた前記エキスパンダーロールにおいても螺旋状溝が十分に作用していないため、なお十分な皺伸ばし効果が達成されていなかった。
【0005】
本発明の目的は、従来の基本的なロール構造を変更することなく、優れた皺伸ばし効果が得られるエキスパンダーロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエキスパンダーロールの発明者は、全体形状が湾曲状のエキスパンダーロールにおいて、そのゴム製筒体の外周面に形成された螺旋状溝が、前記従来例のものでは十分に機能していないことを見出し、本発明を完成させたものである。
【0007】
すなわち、請求項1の本発明は、湾曲状軸の外周にベアリングを介してゴム製筒体が回転自在に装着されたエキスパンダーロールにおいて、ゴム製筒体の表面にその長さ中央部分から左右対称に溝幅を10〜50mmとする螺旋状凹溝を形成したことを技術的特徴とするものである。
【0008】
すなわち、エキスパンダーロールが当接するウェブにおいて、ロールの凹溝に位置する部分は当該ロールによる圧接がないため、他の部分に比べて自由度が大きい。湾曲したゴム製筒体が回転する際、短辺側から長辺側へ向かいゴム製筒体が軸方向に伸びるにつれて凹溝の溝幅が徐々に拡がるが、この間にウェブを当接させることにより、凹溝上の自由度と相まって効果的にウェブの皺が伸ばされる。ここで、溝幅が10mm未満の場合には、前述したウェブの自由度が十分に確保されないため、ウェブの伸張作用が少なく、その結果、十分な皺伸ばし効果が得られない一方、溝幅が50mmを超える場合には、ウェブに対するエキスパンダーロールの接触面積が減少して当該ロールの圧接力が低下することから、凹溝の幅を10〜50mmの範囲としたものである。なお、本発明は、エキスパンダーロールにおける湾曲状軸の弧高(ベント量)が可変であっても固定であっても適用される。
【0009】
請求項2記載の本発明は、前記請求項1記載のエキスパンダーロールについて、凹溝の両側壁が、開口部に向かって広がるテーパー状となされたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の本発明は、請求項1または請求項2記載のエキスパンダーロールについて、ゴム製筒体における凹溝の深さを0.5〜2.5mmとし、ピッチを25〜100mmの範囲としたことを特徴とするものである、。
【0011】
すなわち、凹溝の深さが0.5mm未満の場合には、該凹溝内において、前述したウェブの十分な自由度が得られず、その結果、凹溝による有効な皺伸ばし効果が得られない一方、凹溝の深さが2.5mmを超える場合には、最終的な紙製品に凹溝の跡が残る他、凹溝内でのウェブの自由度が高くなり過ぎて、ウェブの走行自体が不安定となることから、凹溝の深さを0.5〜2.5mmとしたものである。ただし、凹溝の深さは、より好ましくは0.5〜1.0mmの範囲である。
【0012】
またピッチが25mm未満の場合には、溝幅を10mm以上とする条件の下では、ウェブに対する当該エキスパンダーロールの接触面積が少なくなり過ぎて、当該ロールのウェブに対する伸張力が弱くなる一方、ピッチが100mmを超える場合には、溝幅を50mm以下とする条件の下では当該ロールにおける凹溝の割合が少なくなり、その結果、ウェブの自由度が大幅に低下することから、ピッチは25〜100mmの範囲としたものである。ただし、ピッチはより好ましくは40〜100mmの範囲である。
【0013】
なお、前記溝幅は湾曲したロール表面における平均値である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のエキスパンダーロールは、そのゴム製筒体における凹溝の幅を10〜50mmという広い幅とすることで当該凹溝におけるウェブの自由度が大幅に増加し、その結果、ウェブにおける十分な皺伸ばし効果が得られる。
【0015】
請求項2記載のエキスパンダーロールは、前記凹溝の両側壁を所定のテーパー状としたことにより、当該ロールがウェブに当接した際のウェブの切断を防止すると共に、最終的な紙製品の表面に凹溝の跡が残らないようにすることができる。
【0016】
請求項3記載のエキスパンダーロールによれば、請求項1記載の凹溝の溝幅に加えて溝の深さおよびピッチをより適切な範囲とすることで、当該ロールのウェブに対する適切な接触面積、伸張力を保ちつつ、凹溝によるウェブのより適切な自由度を得るようにし、その結果、更に有効な皺伸ばし効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0018】
図1および図2に示すように、エキスパンダーロール(1)は、湾曲した非回転の軸(2)と、軸(2)の外周に取り付けられたベアリング(3)と、ベアリング(3)外周に一体に設けられたスプール(4)と、スプール(4)の外側に取り付けられたゴム製筒体(5)とを有している。なお、前記湾曲した軸(2)は、その弧高(ベント量)が調整可能なものであっても良いし、調整されない固定のものであっても良い。
【0019】
そして、ゴム製筒体(5)の外周面(5a)には、その長さ中央部分から左右対称に螺旋状凹溝(6)が形成されており、螺旋状凹溝(6)は、図3に示すように、両側壁(6a)が開口部(6b)に向かって拡がるテーパー状となされ、そのテーパー角度は本実施形態では約45度となっている。また、凹溝(6)の溝幅(W)は13mm、溝深さ(D)は0.6mm、ピッチ(P)は53mmとなされている。また、本実施形態のエキスパンダーロール(1)は、ロール外径が272.6mm、ロール面長が7480mm、螺旋状凹溝(6)のねじれ角が3.6度となされている。
【0020】
次に、本実施形態に係るエキスパンダーロール(1)による皺伸ばしについて説明する。図5に示すように、走行するウエブ(7)に張力を持たせるようにエキスパンダーロール(1)が裏から押し付けられ、所定角度の間エキスパンダーロール(1)とウエブ(7)とは当接している。エキスパンダーロール(1)のゴム製筒体(5)は、湾曲した非回転の軸(2)の回りを回転している。ウエブ(7)とエキスパンダーロール(1)とが当接する始点はエキスパンダーロール(1)の短辺側(1a)に位置する。このとき、図4(a)に示すように、凹溝(6)両側の凸部上でゴム製筒体(5)からウエブ(7)に対して厚さ方向への力(矢印A)が働いているが、凹溝(6)上ではウエブ(7)とゴム製筒体(5)とは接していないのでウエブ(7)は自由な状態である。ウエブ(7)が走行してエキスパンダーロール(1)と当接する終点はエキスパンダーロール(1)の長辺側(1b)に位置する。このとき、図4(b)に示すように、凹溝(6)の溝幅はW1からW2へと拡がっている。凹溝(6)両側の凸部上ではウエブ(7)に対して厚さ方向の力に加えてゴム製筒体(5)の伸びに応じた軸方向の力が作用するため、斜め方向の力(矢印B)が働いている。凹溝(6)上のウエブ(7)に対しては、ゴム製筒体(5)と接していないので軸方向に引っ張る力(矢印C)のみが働く。本実施形態では、前述したように、前記凹溝(6)の溝幅(W)が13mmという広い幅となっているため、凹溝(6)上に位置するウエブ(7)の自由度が増加し、これが溝幅(W)の拡張と相俟ってウエブ(7)の皺を確実に消去することができる。
【0021】
また、本実施形態では、螺旋状凹溝(6)の両側壁(6a)がテーパー状となっているため、ウェブ(7)に対する凹溝(6)の両側縁の当たりが緩和されるため、最終的な紙における傷や溝跡の発生が有効に防止される。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るエキスパンダーロールは、ロールの基本的な構造を変更することなく、十分な皺伸ばし効果が得られるため、製紙分野での幅広い利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るエキスパンダーロールの正面図である。
【図2】同じくエキスパンダーロールの断面図である。
【図3】ゴム製筒体表面の拡大断面図である。
【図4】エキスパンダーロールの圧接時における溝の状態を示す断面図であって、(a)が短縮状態、(b)が拡張状態である。
【図5】エキスパンダーロールが当接した状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
(1) エキスパンダーロール
(2) 湾曲した非回転の軸
(3) ベアリング
(4) スプール
(5) ゴム製筒体
(6) 螺旋状凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲状軸の外周にベアリングを介してゴム製筒体が回転自在に装着された製紙用エキスパンダーロールにおいて、ゴム製筒体の長さ中央部分から左右対称に溝幅を10〜50mmとする螺旋状凹溝が形成されている、エキスパンダーロール。
【請求項2】
凹溝の両側壁が、開口部に向かって広がるテーパー状となされた、請求項1記載のエキスパンダーロール。
【請求項3】
ゴム製筒体における凹溝の深さが0.5〜2.5mmであり、ピッチが25〜100mmである、請求項1または請求項2記載のエキスパンダーロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−184248(P2008−184248A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17125(P2007−17125)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】