説明

エキス抽出蒸留装置

【課題】植物等から効率的にエキスを抽出でき、分解や組立が容易でコンパクトなエキス抽出蒸留装置を提供する。
【解決手段】内部にエキス抽出対象となる処理物を収容し、注入部24を介して外部より加温された蒸気を注入してエキスを抽出する抽出器3と、該抽出器3内で抽出されたエキス含有蒸気を導入し、迂回流を形成させて凝結させる空間からなる凝結室14を内部に形成し、凝結したエキスを収容する回収器2とからなるエキス抽出蒸留装置において、上記抽出器3の上端外周側にフランジ状の鍔11を形成し、密閉蓋22を有する上部開放型の容器とし、上部開放型の回収器2内部に上記抽出器3を収容して上端側で支持し、凝結室14の上方を上記鍔11によって閉塞する構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物等のエキスを抽出するエキス抽出蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物からエキスを抽出し、エッセンシャルオイルや天然香料等を精製する方法としては、従来から蒸留による手段が広く用いられている。さらに近年では、家庭において無添加で安全な化粧水や香料等を手作りすることができる植物エキス抽出用の蒸留装置が注目を集め、それに関連する多くの蒸留装置(例えば特許文献1や、特許文献2)が公知となっている。
【特許文献1】特開2002−356696号公報
【特許文献2】実用新案登録第3122582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の蒸留装置は、蒸気によって処理物からエキスを抽出する抽出部と、蒸気を凝結させる凝結部と、抽出部から凝結部に蒸気を迂回させながら移送させる空間とをそれぞれ別部品で形成し、それぞれ離れた箇所に配置するため、部品点数が多くなって構造が複雑になり、装置全体が大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
また、上記文献1の蒸留装置は構造がシンプルで分解や組立も容易であるが、各部材を上方に積み上げて設置するための装置全体をコンパクトにまとめることができない他、エキス含有蒸気の迂回流を安定的に形成させることが構造上困難であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明のエキス抽出蒸留装置は、第1に内部にエキス抽出対象となる処理物を収容し、注入部24を介して外部より加温された蒸気を注入してエキスを抽出する抽出器3と、該抽出器3内で抽出されたエキス含有蒸気を導入し、迂回流を形成させて凝結させる空間からなる凝結室14を内部に形成し、凝結したエキスを収容する回収器2とからなるエキス抽出蒸留装置において、上記抽出器3の上端外周側にフランジ状の鍔11を形成し、密閉蓋22を有する上部開放型の容器とし、上部開放型の回収器2内部に上記抽出器3を収容して上端側で支持し、凝結室14の上部を上記鍔11によって閉塞する構造としたことを特徴としている。
【0006】
第2に、内部に冷媒を収容し、該冷媒中に回収器2の外周側を接触させた状態で回収器2を支持する冷媒容器1を設けてなることを特徴としている。
【0007】
第3に、抽出器3側周面を囲む迂回壁12を設けて迂回室13を形成させ、迂回室13上部に抽出器3内上部から迂回室13に蒸気を導く通気孔19を設け、迂回室13下部に迂回室13から凝結室14に蒸気を導入する導入口16,17を設けたことを特徴としている。
【0008】
第4に、抽出器3の鍔11下面側に迂回壁12を設けたことを特徴としている。
【0009】
第5に、迂回壁12の上端外周側にフランジ状の鍔29を形成させて迂回器28とし、迂回器28の上記鍔29が回収器2上端に係止され、抽出器3の鍔11が迂回器28の鍔28に係止され、凝結室14上方を迂回器28の鍔29及び抽出器3の鍔11によって閉塞する構造としたことを特徴としている。
【0010】
第6に、迂回壁12外面を回収器2上端に接触させて抽出器3を回収器2の上端側で支持することを特徴としている。
【0011】
第7に、密閉蓋22下面側に管状の注入部24を下方に向かって延設し、抽出器3内下部に加温された蒸気を注入する構造としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成される本発明のエキス抽出蒸留装置によれば、大きな器の内部に小さな器を収容して保持することにより、器内部及び器と器の間に形成される空間に抽出部、蒸気を移送させる空間及び凝結部等を設けることができるため、装置の構成がシンプルになり、装置全体をコンパクトにできるとともに、分解や組立、掃除なども容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1はエキス抽出蒸留装置の分解斜視図であり、図2はエキス抽出蒸留装置の正面断面図である。エキス抽出蒸留装置は冷媒容器1と、回収器2と、抽出器3とから構成されている。上記の器1,2,3はそれぞれ略円筒形状で下部が塞がれ、上部が開口した上部開放型の器であり、材料は耐熱性、耐水性及び耐酸性のあるステンレスや陶器等を用い、本エキス抽出蒸留装置ではステンレスを用いている。
【0014】
冷媒容器1上部には排出孔4が穿設され、温められた冷却水を外部に排水する。回収器2は、筒状部分が冷媒容器1内に収容される大きさに形成されており、上端外周側にはフランジ状の鍔6が一体的に設けられている。冷媒容器1内に回収器2の筒状部分が挿入され回収器2の鍔6が冷却器1上端面に係止されることにより、冷媒容器1上方を塞いだ状態で、冷媒容器1内に回収器2が収容されて支持される。この際、冷媒容器1と、回収器2とは略同芯状になる。
【0015】
冷媒容器1内を冷却水等の液体の冷媒で満たすと、その浮力によって回収器2が浮き上がってしまい、冷媒容器1内に回収器2を収容させることが困難になる。このためボルト7等の係止具を用いて冷媒容器1側に回収器2を固定する。また、回収器2の材料に重い材質のものを用いて、回収器2が浮き上がるのを防止させてもよい。
【0016】
回収器2が冷却器1内に収容されて支持された際、冷媒容器1内に冷媒を注入できるように、回収器2の鍔6には注入孔8が穿設されている。注入孔8には漏斗9が差し込まれ、冷媒容器1内の下部に随時、冷却水等の冷媒を注ぎ入れることができるようになっている。
【0017】
抽出器3は、筒状部分が回収器2内に収容される大きさに形成されており、上端外周側にはフランジ状の鍔11が水平方向に一体的に延設されている。回収器2内に抽出器3の筒状部分が挿入され抽出器3の鍔11が回収器2の鍔6上面に載置されることにより、回収器2上方を塞いだ状態で、回収器2内に抽出器3が収容されて支持される。この際、回収器2と抽出器3とは略同芯状であり、抽出器3下面側が回収器2底面に接触しないように抽出器3の高さが規定されている。
【0018】
抽出器3の鍔11の下面には、抽出器3と同芯状で円筒形状の迂回壁12が、下方に向かって垂直方向で、抽出器3の筒状部分の側周面を覆うように突設されている。抽出器3の筒状部分の外周面と迂回壁12内周面とにより下方が開放された迂回室13が形成され、迂回壁12外周面と回収器1内周面とにより凝結室14が形成される。
【0019】
前述したように迂回室13下部は開放され開口部16が形成されている他、迂回壁12下端側には全体に亘り迂回室13と凝結室14とを連通させる通気孔17が複数設けられており、この開口部16及び通気孔17が凝結室に蒸気を導入する導入口を形成する。一方、迂回室13上部には、抽出器3内の抽出室18上部と連通し抽出器3内のエキス含有蒸気を迂回室13に導く通気孔19が穿設されている。
【0020】
さらに回収器3内を密閉状態にすると蒸気の逃げ場が無くなり、内部の圧力及び温度が上昇して凝結効率が低下してしまうため、回収器2の鍔6と抽出器3の鍔11との間に突起物等(図示しない)を設けることによって間隙21を形成させる。
【0021】
抽出器3の鍔11上面には、抽出室18の上方を塞いで密閉する平面視略円形の密閉蓋22が載置されている。密閉蓋22上面の中心付近には設置口23が設けられ、密閉蓋22下面の中心付近には、設置口23と内部が連通するように、下方に向けて垂直方向に管状の注入部24が突設されている。注入部24下端には注入部24内部と連通する注入口26が形成され、設置口23から流し入れられた蒸気は注入部24内を通って注入口26から抽出室18内に注入される。
【0022】
注入口26が抽出室18の下側に位置するように、注入部24の長さが規定される。なお、密閉蓋22をある程度の重さにし、密閉蓋22下面と抽出器3の鍔11上面との間にゴムパッキン等(図示しない)を設ける等して、抽出室18内を密閉し、外部に蒸気が漏れるのを防止する。
【0023】
次に、上記構成のエキス抽出蒸留装置を用いて蒸留によりエキスを抽出する手順について、説明する。まず冷媒として冷却水(適宜氷を入れても良い)を入れた冷媒容器1内に、前述のように回収器2を収容する。冷却水により回収器2の内周面は冷され、凝結室14内の凝結効率を向上させる。
【0024】
そして、前述したように回収器2内に抽出器3を収容し、抽出器3の抽出室18の底面に抽出対象となるハーブ等の処理物を載置して、密閉蓋22によって抽出室18内部を密閉する。密閉蓋22の設置口23には、ヤカンや圧力鍋等で加温された蒸気を設置口23から注入部24に流し込むための蒸気管27を設置する。
【0025】
注入部24を通って注入口26から抽出室18内の下部に注入された蒸気は、処理物を蒸し上げて処理物から諸成分を抽出してエキス含有蒸気となり、抽出室18内を上昇して通気孔19を通って迂回室13内に流れ込み、迂回壁12により迂回して下方へ案内される。
【0026】
下方へ案内されたエキス含有蒸気は、迂回室13下部に形成される通気孔17や開口部16から凝結室14下側に導入され、回収器2の内周面に接触して凝結し、凝結エキスとなって内周面上を伝って流下し、回収器2の底に溜まっていく。また、迂回壁12の下側でも少量の蒸気が凝結して凝結エキスとなり、回収器2の底に落下する。回収器2の底に溜まった凝結エキスは、本エキス抽出蒸留装置を分解することによって容易に回収できる。
【0027】
冷たい水は下側に集まるので回収器2の内周面の上側よりも下側の方が冷却された状態になる。一方、エキス含有蒸気は凝結室14下側に導入されるため、蒸気の多くが回収器2の内周面下側に接触する。このため、効率のよい凝結が行われ、エキス含有蒸気の多くが凝結して凝結エキスとなる。なお前述したように漏斗9によって冷媒容器1内の下側から冷たい冷却水を注入することができるとともに、冷媒容器1内の上側に設けられた排出孔4から温められて上側に集まった冷却水を排水できるため、高い凝結効率を永続的に維持させることができる。
【0028】
以上のようなエキス抽出蒸留装置によれば、冷媒容器1内に回収器2を重ね入れ、回収器2内に抽出器3を重ね入れ、回収器2と抽出器3との間に迂回壁12を設けることで、装置全体をコンパクトでシンプルにしつつ、冷媒容器1と回収器2との間の空間、回収器2と抽出器3との間の空間、抽出器3と迂回壁12との空間、及び抽出器3内部にそれぞれ冷媒収容部、凝結室14、迂回室13及び抽出室18を形成させることがきる。
【0029】
また、器の数も冷媒容器1,回収器2及び抽出器3の3つしかなく、各器1,2,3の形状もシンプルであるため、製造コストを低く抑えることができる他、装置の組立、分解及び掃除も容易になり、家庭で手軽にエキス抽出のための蒸留を行うことが可能である。
【0030】
以上、迂回壁12を抽出器3に一体形成する例につき説明したが、図3は迂回壁12を有する迂回器28を抽出器3とは別体で構成した例につき示している。このエキス抽出蒸留装置では、迂回壁12の上端外側にフランジ状の鍔29を水平方向に延設して下方が開放された迂回器28を形成している。
【0031】
迂回器28の筒状部分は回収器2内に挿入され、回収器2の鍔6上面に迂回器28の鍔29を係止させることで、回収器2が迂回器28を収容して支持するとともに、抽出器3の筒状部分を迂回器28内に挿入し、迂回器3の鍔29上面に抽出器3の鍔11を係止させることにより、迂回器28が抽出器3を収容して支持する。そして、迂回器28と抽出器3により回収器2の上方を塞いでいる。
【0032】
上記構成によって、抽出器3の形状はさらにシンプルになり製造コストをさらに低く抑えることが可能になる他、迂回器28の形状もシンプルであるため、安いコストで製造することができる。そして各器1,2,3,28の掃除もさらに容易になる。
【0033】
以上、迂回壁12を垂直方向に設置した例につき説明したが、図4は迂回壁12を内側に向かって下降傾斜させた例につき示している。迂回壁12は、抽出器3と一体に形成され内側に向かって下降傾斜しており、迂回壁12全体の形状が略逆円錐形状になっている。
【0034】
迂回壁12の上記形状によって、抽出器3の鍔部11の直径よりも小さく、迂回壁下端の開口部分の直径よりも大きい直径の略円形の開口部を有する回収器2であれば、回収器3内に抽出器3の略逆円錐形状の迂回壁を挿し込み、回収器2の開口部に迂回壁12外面を接触させ、抽出器3を回収器2内に収容し、回収器2で抽出器3を支持させることが可能になる。
【0035】
このため回収器2は専用品でなく既成品を用いることが可能になり、さらに手軽にエキス抽出のための蒸留を行うことができる。なお同図に示すように、冷媒容器1も回収器2が収容できれば専用品でなく既成品を用いることができ、この場合回収器2を冷媒容器1の底面に載置するため、回収器2の鍔6は不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】エキス抽出蒸留装置の分解斜視図である。
【図2】エキス抽出蒸留装置の正面断面図である。
【図3】エキス抽出蒸留装置の他の態様を示す正面断面図である。
【図4】エキス抽出蒸留装置の他の形態を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 冷媒容器
2 回収器
3 抽出器
4 排出孔
6 鍔
7 ボルト
8 注入孔
9 漏斗
11 鍔
12 迂回壁
13 迂回室
14 凝結室
16 開口部(導入口)
17 通気孔(導入口)
18 抽出室
19 通気孔
21 間隙
22 密閉蓋
23 設置口
24 注入部
26 注入口
27 蒸気管
28 迂回器
29 鍔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にエキス抽出対象となる処理物を収容し、注入部(24)を介して外部より加温された蒸気を注入してエキスを抽出する抽出器(3)と、該抽出器(3)内で抽出されたエキス含有蒸気を導入し、迂回流を形成させて凝結させる空間からなる凝結室(14)を内部に形成し、凝結したエキスを収容する回収器(2)とからなるエキス抽出蒸留装置において、上記抽出器(3)の上端外周側にフランジ状の鍔(11)を形成し、密閉蓋(22)を有する上部開放型の容器とし、上部開放型の回収器(2)内部に上記抽出器(3)を収容して上端側で支持し、凝結室(14)の上方を上記鍔(11)によって閉塞する構造としたエキス抽出蒸留装置。
【請求項2】
内部に冷媒を収容し、該冷媒中に回収器(2)の外周側を接触させた状態で回収器(2)を支持する冷媒容器(1)を設けてなる請求項1のエキス抽出蒸留装置。
【請求項3】
抽出器(3)側周面を囲む迂回壁(12)を設けて迂回室(13)を形成させ、迂回室(13)上部に抽出器(3)内上部から迂回室(13)に蒸気を導く通気孔(19)を設け、迂回室(13)下部に迂回室(13)から凝結室(14)に蒸気を導入する導入口(16),(17)を設けた請求項1又は2のエキス抽出蒸留装置。
【請求項4】
抽出器(3)の鍔(11)下面側に迂回壁(12)を設けた請求項3のエキス抽出蒸留装置。
【請求項5】
迂回壁(12)の上端外周側にフランジ状の鍔(29)を形成させて迂回器(28)とし、迂回器(28)の上記鍔(29)が回収器(2)上端に係止され、抽出器(3)の鍔(11)が迂回器(28)の鍔28に係止され、凝結室(14)上方を迂回器(28)の鍔(29)及び抽出器(3)の鍔(11)によって閉塞する構造とした請求項3のエキス抽出蒸留装置。
【請求項6】
迂回壁(12)外面を回収器(2)上端に接触させて抽出器(3)を回収器(2)の上端側で支持する請求項3,4又は5のエキス抽出蒸留装置。
【請求項7】
密閉蓋(22)下面側に管状の注入部(24)を下方に向かって延設し、抽出器(3)内下部に加温された蒸気を注入する構造とした請求項1,2,3,4,5又は6のエキス抽出蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−55246(P2008−55246A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231600(P2006−231600)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(306006052)
【Fターム(参考)】