説明

エステルワックスの保存方法

【課題】長期間の搬送または貯蔵を行っても酸価、水酸基価、粘度などの物性が変化しない、エステルワックスの保存方法を提供する。
【解決手段】密閉容器内に下記で表されるエステルワックスを保存する方法であって、エステルワックスに含まれる水分量を0.5重量%以下に調節するエステルワックスの保存方法。


(一般式(1)において、R及びR2は、直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、nは1〜25の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステルワックスの保存方法に関し、詳しくは、長期間保存しても、酸価、水酸基価、粘度などの物性が変化しない末端カルボン酸エステルワックスの保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二塩基酸と二価アルコールを原料とした末端カルボン酸エステルワックスは、トナー材料や感熱記録材料の改質、変性用として広く使用されている(特許文献1、特許文献2)。ところで、末端カルボン酸エステルワックスは、保存中に徐々に酸価と水酸基価が上昇し、粘度が低下するという問題がある。この物性変化の原因は、水分の影響を受けて末端カルボン酸エステルワックスが加水分解を起こし、分子量が低下していることによるものと予想される。エステルワックスの物性が変化すると、これを使用した製品などにおいて、所望の特性が得られず、品質に悪影響を及ぼすことから、保存安定性の改善が求められる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−175021号公報
【特許文献2】特開2002−225435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、長期間の搬送または貯蔵を行っても酸価、水酸基価、粘度などの物性が変化しない、エステルワックスの保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、エステルワックス中の水分量が物性変化に大きく影響しており、水分量を一定値以下に調節することにより、酸価、水酸基価、粘度などの物性変化を顕著に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、密閉容器内に下記一般式(1)で表されるエステルワックスを保存する方法であって、エステルワックスに含まれる水分量を0.5重量%以下に調節することを特徴とするエステルワックスの保存方法に存する。
【0007】
【化1】

(一般式(1)において、Rは直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、Rは直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、nは1〜25の数値を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明のエステルワックス保存方法は、長期間の搬送または貯蔵を行っても酸価、水酸基価、粘度などの物性が変化せず、長期間にわたり安定な品質を維持するという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明で使用するエステルワックスは、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0011】
【化2】

(一般式(1)において、Rは直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、Rは直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、nは1〜25の数値を表す。)
【0012】
一般式(1)において、Rは直鎖炭素数が2以上の置換基を有していてもよいアルキレン基、Rは直鎖炭素数が2以上の置換基を有していてもよいアルキレン基を表す。すなわち、R1及びR2は、次の一般式(2)で表される基、または、その一部の水素が置換された基を表すが、好ましくは無置換のアルキレン基、すなわち一般式(2)で表されるアルキレン基である。アルキレン基の置換基としては、炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
【0013】
【化3】

【0014】
上記のエステルワックスは、二塩基酸と二価アルコールとのエステル化反応物として得られる。
【0015】
二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−ドデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸などが挙げられる。これらの二塩基酸は混合物として使用してもよい。
【0016】
二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ウンデカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、エイコサンメチレングリコール等が挙げられる。これらの二価アルコールは混合物として使用してもよい。
【0017】
アジピン酸と1,6ヘキサンジオールから成るエステルワックスは、その構造と分子量に由来する末端カルボン酸の濃度の効果を有し、分散剤としての分散安定性や滑剤として使用した際の溶融粘度低下効果や接着付与効果が期待され、安定的に使用するために本発明の保存方法を適用することが好ましい。
【0018】
二塩基酸と二価アルコールとのエステル化反応は、次の様に行われる。すなわち、二塩基酸と二価アルコールを混合し、100〜200℃の温度で反応させる。この際、触媒として、硫酸、パラトルエンスルホン酸、テトラブトキシチタンを使用してもよい。エステル化反応の終点は、酸価、水酸基価を滴定法により求め、二塩基酸や二価アルコールの残存量を追跡して判断することが出来る。
【0019】
エステルワックスの分子量は、通常1000〜10000、好ましくは1000〜5000のである。分子量が小さい場合は、末端カルボン酸のエステルワックスに対する濃度が同様の組成の分子量の大きいエステルワックスに較べて高くなり、加水分解などによる影響が大きいことから、低分子量のエステルワックスの保存方法に特に有効である。尚、エステルワックスの分子量は、滴定法により得られた酸価より、次の式によって算出することが出来る。
【0020】
【数1】

【0021】
本発明で使用するエステルワックスは、エステルワックスに含まれる水分量が0.5重量%以下、好ましくは0.2重量%以下で密閉容器内に保存される。エステルワックスに含まれる水分量が0.5重量%を超える場合、水分により酸価、水酸基価、粘度などの物性変化が生じ易くなる。エステルワックスに含まれる水分量は可能な限り除去することが理想的であるが、コスト的な見地から実用的でなく、また、エステルワックスに含まれる水分量を0.5重量%以下に調節することで物性変化を防止する効果が十分得られる。
【0022】
エステルワックスの水分量を本発明の範囲内にするための方法としては、特に限定されず、例えば、エステルワックスの製造工程において、本発明の範囲内の水分量になるまで脱水を行い、密閉容器に保存する方法が挙げられる。すなわち、所定の酸価、水酸基価になるまで、脱水縮合反応を行い、発生した水分を除去することにより目的の水分量が得られる。
【0023】
本発明において、密閉容器を構成する材料としては、特に制限されず、具体的には、(1)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、PET、フッ素樹脂などのガス透過性の低い熱可塑性樹脂、(2)無機物や有機物フィラーを多量に添加し、気体透過性を低下させた熱可塑性樹脂と、物性バランスを保持するための他の熱可塑性樹脂と多層成形した材料、(3)熱可塑性樹脂から成る成形体に、気体不透過性の金属膜を貼り合わせた材料、(4)熱可塑性樹脂から成る成形体に、気体不透過性の金属蒸着層を設けた材料、(5)水蒸気透過性の低い熱可塑性樹脂に粘着性樹脂の様な疎水性の添加剤を添加した材料、(6)一斗缶、ペール缶、ドラム缶等の金属製容器の他、ガラス瓶、陶器や磁器などの材料から成る容器が例示される。
【0024】
上記の密閉容器を構成する材料の中でも、JIS Z0208で規定される防湿包装材料の透湿度試験方法に準じて測定される40℃における透湿度が、通常5g/m・日以下、好ましくは3g/m・日以下、更に好ましくは1g/m・日以下である材料が好ましい。
【0025】
JIS Z0208の透湿度試験方法とは、吸湿剤を入れたカップ状容器の開口部を防湿包装材料で密封し、温度40℃相対湿度90%の温湿度条件下で保存した時の吸湿剤の重量変化を測定し、透湿度を算出する方法である。
【0026】
上記の透湿度を有する透湿性の低い材料としては、(1)化学構造的にガス透過性の小さい熱可塑性樹脂、(2)無機物および/または有機物フィラーを多量に添加して気体透過性を低下させた熱可塑性樹脂と、物性バランスの保持から他の熱可塑性樹脂とを多層成形した材料、(3)熱可塑性樹脂から成る成形物に気体不透過性の金属膜を貼り合わせた材料、(4)熱可塑性樹脂から成る成形物に気体不透過性の金属蒸着層を設けた材料、(5)水蒸気透過性の低い熱可塑性樹脂に粘着性樹脂の様な疎水性の添加剤を加えた材料、(6)金属、ガラス、陶器、磁器などの水蒸気を透過しない無機材料などが例示される。
【0027】
密閉容器を構成する材料の厚さは、通常0.01〜10mm、好ましくは0.05〜5mmである。材料の透湿度が高い場合は、材料の厚さを厚くするか、容器を二重にして密閉する等の対策をとる。一斗缶などの金属容器は、容器の内側または外側に樹脂コーティングを施したもの、樹脂フィルムで内張り加工を施したものであってもよい。
【0028】
密閉容器内に乾燥剤(吸湿防止剤、脱水剤)を収容し、外部からの湿気による影響を防ぐことも出来る。特に透湿度の高い材料から成る容器の場合に乾燥剤を使用することが好ましい。また、水分量が0.5重量%を超えるエステルワックスを乾燥剤により密閉容器内で乾燥し、本発明の範囲内の水分量に調節することも出来る。
【0029】
乾燥剤としては、シリカゲル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、分岐鎖アミノ酸、カルシウム塩、マグネシウム塩、ケイ酸アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウム、ゼオライト、タルク、けい藻土、パーライト、燐酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。これらの乾燥剤は、混合物として使用してもよい。乾燥剤の添加形態は特に限定されず、用途、コスト等によって最適な添加形態を選択する。
【0030】
次に、本発明のエステルワックスの保存方法について説明する。本発明の保存方法は、上記で説明した密閉容器に、本発明のエステルワックスの水分量を0.5重量%以下に調節する保存方法である。水分量を0.5重量%以下に調節する方法としては、透湿性の低い材料を使用した容器を使用する方法、上記の乾燥剤を使用する方法、これらを組合せた方法などが例示される。
【0031】
保存温度は、通常40℃以下、好ましくは35℃以下である。保存温度が40℃を超える場合、密閉容器の透湿度が上昇し、密閉容器内部の水分が増加する。また、密閉容器内の水分による加水分解も促進されるため、密封時の水分量が低くても、酸価、水酸基価、粘度などの物性が変化する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。物性の測定方法は以下の通りである。
【0033】
(1)水分測定方法:
JIS K0068カールフィッシャー水分気化法に従って測定する。
【0034】
(2)酸価測定方法:
JIS K0070に従って測定する。
【0035】
(3)水酸基価測定方法:
JIS K0070に従って測定する。
【0036】
(4)粘度測定方法:
基準油脂分析試験法2.2.10.5に従って測定する。測定温度は120℃。
【0037】
合成例1:
エステルワックスを以下の様に合成した。すなわち、4口フラスコに、アジピン酸と1,6ヘキサンジオールをモル比6.0:5.0で採り、触媒として0.1重量%のパラトルエンスルホン酸を添加し、150〜200℃で20時間反応させることにより、末端にカルボン酸を有するエステルワックスを得た。得られたエステルワックスの物性を表1に示す。
【0038】
合成例2:
4口フラスコに、1,10−ドデカン二酸と1,4−ブタンジオールをモル比4.7:3.7で採り、合成例1と同様の方法で反応させ、末端にカルボン酸を有するエステルワックスを得た。得られたエステルワックスの物性を表1に示す。
【0039】
合成例3:
4口フラスコに、アジピン酸と1,6ヘキサンジオールをモル比13.5:12.5で採り、合成例1と同様の方法で反応させ、末端にカルボン酸を有するエステルワックスを得た。得られたエステルワックスの物性を表1に示す。
【0040】
実施例1:
延伸ナイロン(15μm)/ポリエチレン層(20μm)/アルミニウム薄膜(9μm)/ポリエチレン層(20μm)/帯電防止ポリエチレン層(70μm)から成る厚さ134μmの多層フィルム構造を有し、有効容積1.8リットルの容器を作製し、合成例1で合成したエステルワックスを1000g入れ、バキュームシーラーにより密閉した。密閉容器の温度40℃相対湿度90%での透湿度は0.01g/m・日以下であった。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分及び物性を測定した。結果を表2に示す。
【0041】
実施例2:
実施例1と同じ容器に、合成例2で合成したエステルワックスを1000g入れ、バキュームシーラーにより密閉した。密閉容器の温度40℃相対湿度90%での透湿度は0.01g/m・日以下であった。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分及び物性を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
実施例3:
実施例1と同じ容器に、合成例3で合成したエステルワックスを1000g入れ、バキュームシーラーにより密閉した。密閉容器の温度40℃相対湿度90%での透湿度は0.01g/m・日以下であった。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分及び物性を測定した。結果を表2に示す。
【0043】
実施例4:
合成例1で合成したエステルワックスを温度40℃相対湿度90%の環境下に2時間保管し、水分量0.51%のエステルワックスを得た。このエステルワックスを通気性を有する不織布に入れたシリカゲル100gと一緒に厚さ180μmのLDPEから成る有効容積1.8リットルの容器に入れ、バキュームシーラーにより密閉した。密閉容器の温度40℃相対湿度90%での透湿度は0.6g/m・日であった。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分および物性を測定した。結果を表2に示す。
【0044】
実施例5:
本体および蓋が厚さ0.7mmのステンレス(SUS304)から成る内寸法125×125×125mm、有効容積1.6リットルの密閉式角型金属容器に、合成例3で合成したエステルワックスを1000g入れ、シリコンパッキン付の蓋で密閉した。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分および物性を測定した。結果を表2に示す。
【0045】
比較例1:
厚さ120μmのLDPEから成り、有効容積1.8リットルの容器を作製し、合成例1で合成したエステルワックスを1000g入れ、バキュームシーラーにより密閉した。密閉容器の温度40℃相対湿度90%での透湿度は10g/m・日であった。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分および物性を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
比較例2:
厚さ120μmのLDPEから成り、有効容積1.8リットルの容器を作製し、合成例3で合成したエステルワックスを1000g入れ、バキュームシーラーにより密閉した。密閉容器の温度40℃相対湿度90%での透湿度は10g/m・日であった。室温26℃、湿度40%の恒温室内に6ヶ月保管した後、開封してエステルワックスの水分及び物性を測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
以上の結果より、実施例の保存方法は、比較例の保存方法と対比し、保存期間6ヶ月後も水分量及び酸価、水酸基価、粘度の物性変化が無く、非常に優れたエステルワックスの保存方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に下記一般式(1)で表されるエステルワックスを保存する方法であって、エステルワックスに含まれる水分量を0.5重量%以下に調節することを特徴とするエステルワックスの保存方法。
【化1】

(一般式(1)において、Rは直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、Rは直鎖炭素数が2〜24の置換基を有していてもよいアルキレン基、nは1〜25の数値を表す。)
【請求項2】
密閉容器を構成する材料のJIS Z0208に準じて測定される40℃における透湿度が5g/m・日以下である請求項1に記載のエステルワックスの保存方法。
【請求項3】
密閉容器が、金属缶、ガラス容器、陶器容器、磁器容器の群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載のエステルワックスの保存方法。
【請求項4】
密閉容器内に乾燥剤を収容する請求項1〜3の何れかに記載のエステルワックスの保存方法。
【請求項5】
一般式(1)のエステルワックスにおいて、Rが直鎖炭素数4、Rが直鎖炭素数6である請求項1〜4の何れかに記載のエステルワックスの保存方法。
【請求項6】
一般式(1)のエステルワックスにおいて、Rが直鎖炭素数4、Rが直鎖炭素数6であるエステルワックスであって、酸価から求めた分子量が1000〜10000である請求項1〜4に記載のエステルワックスの保存方法。