説明

エステル交換反応生成物およびその製造方法

【課題】エステル交換反応後、実質的に精製工程を要さないエステル交換反応生成物、並びに、該エステル交換反応生成物を低コストで効率的に製造する製造方法を提供する。
【解決手段】油脂と低級アルコールとを塩基性触媒の存在下にエステル交換反応して得られる、脂肪酸エステル相とグリセリン相を有するエステル交換反応生成物であって、該脂肪酸エステル相の波長600nmの光の透過率が70%以上であり、かつ、該グリセリン相の波長550nmの光の透過率が30%以上であるエステル交換反応生成物。油脂と低級アルコールとを塩基性触媒の存在下にエステル交換反応させてエステル交換反応生成物を製造する方法であって、該塩基性触媒として強塩基性陰イオン交換樹脂を用いると共に、油脂を構成する脂肪酸トリグリセリドと低級アルコールとのモル比が1:2乃至1:4.5の原料組成とするエステル交換反応生成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル交換反応生成物およびその製造方法に係り、詳しくは、油脂と低級アルコールを原料として、エステル交換反応により製造される脂肪酸エステルとグリセリンを含む液状組成物であって、清登度が高く、反応の後の精製処理を省略し得るエステル交換反応生成物と、このエステル交換反応生成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂(脂肪酸トリグリセリド)と低級アルコールとのエステル交換反応によって合成される脂肪酸エステルは、バイオディーゼル燃料として有用である。
バイオディーゼル燃料は、従来の石油系ディーゼル燃料(軽油)に比べて、燃焼した際の排ガスがクリーンで、一酸化炭素、炭化水素、粒子状物質等の排出量が少ないこと、排出ガス中に硫黄酸化物や硫酸塩を含まないこと、潤滑性能が高いこと、などの多くの利点を有している。また、環境負荷の一因となる廃食用油からも合成することができるため、資源効率向上、環境調和型の廃棄物処理技術として期待されている。しかも、バイオディーゼル燃料は、あらゆるディーゼルエンジンにそのまま使用することができるという利点をも有する。
【0003】
このため、アメリカやヨーロッパでは、既に、石油系ディーゼル燃料に1〜20%程度バイオディーゼル燃料を混合したものが使用されており、その高潤滑性のためにエンジンに与える負荷が軽減され、かつ、環境や健康に与える負荷も軽減されていることが報告されている。
【0004】
植物油の主成分である脂肪酸トリグリセリドと低級アルコールとのエステル交換反応によってこのようなバイオディーゼル燃料を製造する方法については、従来、いくつかの提案がなされている。例えば、非特許文献1には、脂肪酸トリグリセリドとメタノールの混合物に、触媒として水酸化ナトリウムなどの均相アルカリ触媒を添加することにより、脂肪酸エステルを製造する方法が記載されている。
【0005】
また、エステル交換反応触媒としては、原料である脂肪酸トリグリセリドやアルコール、生成物である脂肪酸エステルやグリセリンには溶解しない不均相触媒として、陰イオン交換体を使用することも可能であり、強塩基性陰イオン交換樹脂を使用する脂肪酸エステルの製造方法が特許文献1に開示されている。
【0006】
しかし、バイオディーゼル燃料は、石油系ディーゼル燃料よりも高コストであることが大きな課題となっている。
即ち、バイオディーゼル燃料の脂肪酸トリグリセリド原料として未使用の油脂を使用すると、油脂は高価であるため原料コストが高騰し、また食料としての油脂の用途を閉ざしてしまう。
【0007】
また、従来法では、反応促進のために、アルコールを化学量論量よりも過剰に用いており、結果として、後に余剰分のアルコールを分離回収して再利用する必要が生じている。さらに、アルカリ触媒を使用すると副反応生成物として脂肪酸アルカリ塩が生成し、これが石鹸層を形成するために、主生成物である脂肪酸エステルの精製が多工程にわたるなどの不都合があった。
加えて、従来法では、原料を二相(不均相)系で反応させるため、装置コストや製造コストの増大を招いていた。
【0008】
この課題の解決のため、反応系を均相化して、より緩和された条件下で反応を進行させることが求められていた。
【0009】
そこで、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどの反応に不活性な溶媒を反応系に加えて、原料を均相化する方法などが報告されている(非特許文献2)。しかし、これらの方法においても、反応後に余剰分のアルコールの回収工程や生成物である脂肪酸エステルの精製工程が必要であるため、実用面では十分な方法とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−104316号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Biomass Bioenergy, 11(1996)43−50
【非特許文献2】Chemistry Letters,36,1408−1409(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたものであり、エステル交換反応後、実質的に精製工程を要さないエステル交換反応生成物、並びに、該エステル交換反応生成物を低コストで効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、脂肪酸トリグリセリドとアルコールのモル比を化学量論量近辺に調整し、さらに塩基性触媒として強塩基性陰イオン交換樹脂を作用させることで、廃食用油などの低品位油脂を原料として用いても、実質的に生成物の精製を必要とすることなく、高純度のエステル交換反応生成物を効率的に得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明の要旨は、油脂と低級アルコールとを塩基性触媒の存在下にエステル交換反応して得られる、脂肪酸エステル相とグリセリン相を有するエステル交換反応生成物であって、該脂肪酸エステル相の波長600nmの光の透過率が70%以上であり、かつ、該グリセリン相の波長550nmの光の透過率が30%以上であることを特徴とする(請求項1)、に存する。
【0015】
また、本発明の別の要旨は、油脂と低級アルコールとを塩基性触媒の存在下にエステル交換反応させてエステル交換反応生成物を製造する方法であって、該塩基性触媒として強塩基性陰イオン交換樹脂を用いると共に、油脂を構成する脂肪酸トリグリセリドと低級アルコールとのモル比が1:2乃至1:4.5の原料組成とすることを特徴とする上記エステル交換反応生成物の製造方法(請求項3)、に存する。
【0016】
本発明において、前記低級アルコールはメタノールであることが好ましい(請求項2,4)。
【0017】
また、前記反応は回分式で実施されてもよく、連続式で実施されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエステル交換反応生成物は、エステル交換反応後、静置分液するのみで、実質的な精製処理を必要とすることなく、バイオディーゼル燃料等として使用可能な高純度の脂肪酸エステル相を得ることができるものである。
【0019】
また、本発明のエステル交換反応生成物から得られるもう一方のグリセリン相は、従来法によるものとは異なり、触媒アルカリや脂肪酸アルカリ塩(石鹸)を含まず、着色も濁りもない清澄度の高いものであり、このグリセリン相についても、特段の処理を施すことなく、そのまま発酵原料や加工原料等に再利用することができる。
【0020】
また、本発明のエステル交換反応生成物の製造方法によれば、バイオディーゼル燃料等として使用しうる脂肪酸エステルを、煩雑な精製処理などを要することなく、容易かつ効率的に、低コストに製造することができ、実質的に反応残余のアルコールをなくすことで、反応工程や装置を簡略化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0022】
[本発明の概要]
本発明のエステル交換反応生成物は、脂肪酸トリグリセリドである油脂と低級アルコールとの反応により一段階の工程で得られるものであり、その主成分は低級アルコール由来の脂肪酸エステルとグリセリンである。低級アルコールはほぼ反応量論量が使用されるため、得られるエステル交換反応生成物中には実質的に残存せず、僅かに残存しても脂肪酸エステル相ではなく、グリセリン相中に存在する。しかも、固体触媒である強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるため、反応生成物への触媒成分の混入の問題もなく、また、脂肪酸アルカリ塩副生による石鹸層形成の問題もない。このため、脂肪酸エステル相については、これを何ら精製することなく、このまま製品としてバイオディーゼル燃料等に使用することができる。また、グリセリン相に低級アルコールが混入しても、その量はごくわずかであるため、このグリセリンについてもそのまま各種用途に使用することができる。
【0023】
即ち、本発明のエステル交換反応生成物は、残留低級アルコール、触媒成分、触媒由来の副生成物を含まない、従って、濁りや着色のない純度の高いものであり、この結果、エステル交換反応生成物の脂肪酸エステル相については波長600nmの光の透過率(以下、この透過率を「透過率T(600)」と称す場合がある。)70%以上、グリセリン相については、波長550nmの光の透過率(以下、この透過率を「透過率T(550)」と称す場合がある。)30%以上を達成することができる。
なお、ここで、脂肪酸エステル相及びグリセリン相の光の透過率は、市販の紫外可視分光光度計を使用して所定の波長における該液体試料の透過率を測定することにより求めることができる。
【0024】
油脂と低級アルコールとのエステル交換反応で得られるエステル交換反応生成物は、脂肪酸エステル相とグリセリン相等に層分離するものであるが、従来においては、いずれの相においても、濁りの問題があった。この濁りは、アルカリ触媒を用いることにより副生する脂肪酸アルカリ塩の石鹸生成によるミセル形成によるものと推定される。
本発明により、着色や濁りが少ない脂肪酸エステル相及びグリセリン相が得られる理由としては、触媒として強塩基性陰イオン交換樹脂を使用することで、着色成分や遊離脂肪酸(石鹸分)が吸着除去されることによるものと考えられる。
しかして、着色や濁りが少ない脂肪酸エステル相であれば、これをディーゼルエンジンの燃料に使用した場合に燃焼室の汚れや微粒子の発生が低減されるとともに、現行プロセスで行っている精製工程も省略可能となる。
また、グリセリン相についても、そのまま、発酵原料や加工原料等に使用することが可能となる。
【0025】
[原料]
{油脂}
本発明において、原料として用いる油脂には特に制限は無く、任意の油脂類を使用することができる。
油脂類としては、天然油脂でもよく、合成油脂でもよく、これらの混合物でもよい。例えば、大豆油、ヤシ油、パーム油、米糠油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、ココナッツ油、綿実油、ナタネ油、ヒマシ油、ゴマ油等の植物系油脂、或いは、魚油、馬脂、豚脂、羊脂、牛脂などの動物系油脂等を例示できる。また、これらの油脂を単独あるいは混合した油脂、少量のジグリセリドやモノグリセリドを含む油脂、合成されたトリグリセリド、モノグリセリド及び/又はジグリセリドを含む合成トリグリセリド、これらの油脂の一部を酸化ないしは還元等の処理をして変性した変性油脂でもよい。または、これらの油脂を主成分とする油脂加工品や食品加工時に使用された廃食油を原料とすることもできる。
【0026】
なお、油脂に含まれる脂肪酸トリグリセリドは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0027】
また、油脂中には、油脂以外の成分が混入していてもよい。ただし、かかる異物成分は、沈降、濾過、分液などにより除去した後、原料として用いることが好ましい。
【0028】
{低級アルコール}
本発明において、原料として用いる低級アルコールとしては、得られるエステル交換反応生成物の透過率の観点、入手の容易性の観点、及び、得られる脂肪酸エステルの利用性の観点から、通常、低級アルコールの少なくとも一部としてメタノールを用いる。即ち、低級アルコールのうち、通常50重量%以上、好ましくは80重量%以上がメタノールであることが好ましく、低級アルコールの全てがメタノールであることが特に好ましい。
【0029】
低級アルコールとしては、本発明の趣旨を損なわない程度に、メタノールと共に、炭素数が通常2以上、4以下の、好ましくは炭素数が2のアルコールの1種又は2種以上を用いてもよい。また、この低級アルコールの炭化水素骨格は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。ただし、炭化水素骨格としては、通常は飽和しているものを用いる。メタノールと共に用いることのできる低級アルコールとしては、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等が挙げられ、その使用割合は上述の通り、通常、全低級アルコールの50重量%以下、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは0重量%である。
【0030】
[脂肪酸トリグリセリドと低級アルコールとのモル比]
反応に供する低級アルコールのモル数に対する油脂由来の脂肪酸トリグリセリドのモル数の比率(「脂肪酸トリグリセリドのモル数」:「低級アルコールのモル数」)は、本発明における重要な制御因子であり、通常1:2以上、中でも1:2.5以上が好ましく、また、通常1:4.5以下、中でも1:4以下が好ましい。この範囲に制御することにより、原料である油脂と低級アルコールが混和し、かつエステル交換反応は過不足なく定量的に進行する。この範囲よりも油脂(脂肪酸トリグリセリド)の量が多すぎると相対的に低級アルコールの量が少なくなり、結果的に反応物の容量が著しく少なくなるなど、良好に反応を行なうことができなくなる可能性がある。一方、脂肪酸トリグリセリドが少な過ぎると反応後に残余のアルコールが過剰となりこれを除去する工程が必要となる。
【0031】
[塩基性触媒]
本発明に係るエステル交換反応においては、塩基性触媒としてエステル交換反応系に不溶な物質、すなわち固定触媒として、通常陰イオン交換体が使用される。その例としては、マグネシア、ライムなどのアルカリ土類金属酸化物;これらを含む複合金属酸化物;有機イオン交換体などが挙げられる。これらは、エステル交換反応の後で反応系からの分離除去が容易であり、好ましい。中でも、有機イオン交換体が好ましく、その中でも有機陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0032】
有機陰イオン交換樹脂としては、例えば強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂などが挙げられるが、中でも、反応速度の観点から、強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。
以下、強塩基性陰イオン交換樹脂について説明する。
【0033】
強塩基性陰イオン交換樹脂の形状は、その使用形態に応じて、膜状、粒子状など、任意である。ただし、中でも、粒子状が好ましい。また、粒子状である場合、その粒径に制限は無いが、通常10μm以上、中でも100μm以上、特には200μm以上が好ましく、また、通常2mm以下、中でも1.5mm以下、特には1mm以下が好ましい。粒径が小さすぎると取り扱いが困難となる可能性があり、大きすぎると反応速度が低下する可能性がある。なお、強塩基性イオン交換樹脂の粒径は、光学顕微鏡により測定することができる。
【0034】
強塩基性陰イオン交換樹脂の化学構造としては、ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンを基体とし、イオン性官能基としてトリメチルアンモニウム基或いはジメチルエタノールアンモニウム基を結合したものが好ましい。
【0035】
強塩基性陰イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、ダイヤイオンSA10A(三菱化学社製)、ダイヤイオンSA20A(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA308(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA408(三菱化学社製)、ダイヤイオンHPA25(三菱化学社製)、ダイヤイオンPA306S(三菱化学社製)などを用いることができる。
【0036】
また、本発明の製造方法では、塩基性触媒である強塩基性陰イオン交換樹脂は、対イオンが活性形としてエステル交換反応に使用される。しかし、市販品の強塩基性陰イオン交換樹脂の対イオンは通常は塩化物形となっているため、購入した強塩基性陰イオン交換樹脂は活性部位を例えば水酸化物で置換して水酸化物形にしてから使用することが好ましい。その際には、以下に例示する方法により強塩基性陰イオン交換樹脂を再生して用いることが好ましい。
【0037】
即ち、再生剤として0.5〜2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用い、強塩基性イオン交換樹脂を充填したカラムに通液するなどして、強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させる。この際、通液速度は、強塩基性陰イオン交換樹脂1L当たりの通液量が0.2〜10L/時間となるような通液速度とすることが好ましい。また、この際の通液量は、強塩基性陰イオン交換樹脂1Lあたり、0.5〜10Lが好ましい。水酸化ナトリウム水溶液通液による、再生終了後は、強塩基性陰イオン交換樹脂を水洗し、所定の低級アルコール(通常は反応に供する低級アルコール)で洗浄してから、触媒として使用する。
【0038】
なお、強塩基性陰イオン交換樹脂をエステル交換反応に使用した後は、後述の如く、所定の再生方法により再生して再使用する。
【0039】
上述の塩基性触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0040】
塩基性触媒の使用量は、エステル交換反応が進行する限り任意である。ただし、反応の条件に応じて適切な範囲があるため、その適切な範囲に収めることが好ましい。
【0041】
例えば、塩基性触媒として強塩基性陰イオン交換樹脂を使用する場合、後述の回分式の撹拌槽型反応器等で用いるのであれば、強塩基性陰イオン交換樹脂の使用量は、原料油脂由来の脂肪酸トリグリセリド1モル当たり、通常1g以上、中でも5g以上が好ましく、また、通常1000g以下、中でも500g以下が好ましい。一方、触媒充填カラム等の後述の連続式の流通型反応器において、充填層として使用する場合は、強塩基性陰イオン交換樹脂1L当たりの原料油脂の通液量が、通常10mL/時間以上、中でも15mL/時間となるようにすることが好ましく、また、通常100L/時間以下、中でも60L/時間以下となるようにすることが好ましい。
【0042】
[反応器]
本発明において、反応原料である油脂及び低級アルコールと、塩基性触媒との接触方式については特に制限は無い。すなわち、触媒として、不溶性の塩基性触媒、例えば、強塩基性陰イオン交換樹脂などを使用する場合、回分式及び連続式のいずれも用いることができるが、触媒と生成物との分離が容易であることを利用して、効率的な連続式で行うことが好ましい。
【0043】
回分式とは、単独の槽で原料(油脂及び低級アルコール)と塩基性触媒を混合する投入工程、エステル交換反応を進行させる反応工程、並びに、塩基性触媒とエステル交換反応生成物とを分離してエステル交換反応生成物を回収する回収工程、を繰り返し行なう方式をいう。かかる回分式としては、例えば、撹拌槽を用いる方法、振とう型反応器などを用いる方法が挙げられる。
【0044】
連続式とは、前記の投入工程、反応工程および回収工程を全て同時に行い、操作に途切れ目のない方式をいう。かかる連続式としては、固体触媒をカラムに充填した層に原料を通液する方法、流動層反応器などを用いる方法が挙げられる。
【0045】
また、反応器に原料である油脂及び低級アルコールと塩基性触媒を供給する際の順番は、脂肪酸エステルが生成する限り制限は無い。例えば、原料、及び塩基性触媒のうち一部又は全部を予め混合してから反応器に供給してもよく、これらを順次供給してもよい。
【0046】
[反応条件]
本発明の製造方法において、反応温度は、脂肪酸エステルの生成反応が進行する限り、任意である。ただし、通常10℃以上が好ましく、また、通常100℃以下、中でも60℃以下が好ましい。更にその中でも、反応速度の観点から、室温(25℃)よりも高い温度(例えば、50℃)において、反応を進行させることがより好ましい。反応温度が高すぎると強塩基性陰イオン交換樹脂等の塩基性触媒の耐熱性が不足する可能性があり、一方、反応温度が低すぎると反応速度が小さく十分な生産性が得られない可能性がある。
【0047】
反応時間(原料と塩基性触媒との接触時間)は、反応温度及び塩基性触媒の使用量にも左右されるが、最大の反応率に到達できるように設定することが好ましい。例えば、反応温度を50℃とした場合には、撹拌槽型回分式反応器では、通常1時間以上、中でも3時間以上が好ましく、また、通常10時間以下、中でも5時間以下が好ましい。一方、流通型連続式反応器では、通常5分以上、中でも10分以上が好ましく、また、通常2時間以下、中でも1時間以下が好ましい。
【0048】
反応時の圧力は、脂肪酸エステルの生成反応が進行する限り任意である。反応は常圧下で実施するのが操作上簡便であるが、例えば、必要に応じて1〜10気圧程度に加圧してもよい。
【0049】
なお、反応に際しては、原料である油脂と低級アルコールの他、別途反応溶媒を用いることもできるが、反応溶媒を用いると、生成物から反応溶媒を分離するプロセスが必要となるため、反応溶媒を用いない方が好ましい。
【0050】
[その他の処理]
エステル交換反応に使用した後の塩基性触媒は、上述の如く、必要に応じて再生され、再度、本発明に係る製造方法に使用することができる。その再生方法としては、例えば特開2008−178871号公報に記載される方法を採用することができる。
【0051】
[反応生成物]
{脂肪酸エステル}
本発明におけるエステル交換反応により生成する生成物の主成分である脂肪酸エステルは、特に、低級アルコールとしてメタノールを用いる場合、もう一方の生成物であるグリセリン層から分層して単離される。
本発明により製造されたエステル交換反応生成物中に層分離された脂肪酸エステル相は、従来法によるものよりも、着色或いは濁りが少なく、そのままでも燃料として使用できる。かかる清澄度の指標としては、波長600nmの光の透過率T(600)として通常70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。
本発明で得られるエステル交換反応生成物中の脂肪酸エステル相は、このように着色や濁りが少ないことから、これをエステル交換反応生成物から層分離して単離した後、精製することなく、そのままバイオディーゼル燃料として、ディーゼルエンジン等に使用することができる。ただし、この脂肪酸エステルは、適用されるディーゼルエンジンの仕様に準じて、脱水・脱グリセリンなどの追加の精製工程を施してもよい。
【0052】
{グリセリン}
本発明におけるエステル交換反応により生成する生成物のもう一方の成分であるグリセリンは、これを単味で燃料として用いることは困難であり、通常、清澄度を高めて発酵原料や加工原料等に再利用される。そのためには、遊離脂肪酸や脂肪酸塩を含まず、着色していないことが望ましい。かかる清澄度の指標としては、波長550nmの光の透過率T(550)が通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。
本発明によれば、グリセリン相についてもこのような清澄度の高いものを層分離により回収することができるため、これをそのまま、発酵原料や加工原料として用いることができる。
【0053】
[本発明の利点]
本発明によれば、以下のような利点を得ることができ、反応効率および生成物の回収効率を従来の製造方法に比較して飛躍的に向上させることができる。
(i)反応を均一溶液系で行うことができる。
(ii)陰イオン交換樹脂を使用する従来の技術に比べて反応速度が速い。
(iii)生成物から溶媒を分離する必要がない。
(iv)反応は回分式、連続式のいずれでも効率的に行うことができる。
(v)脂肪酸エステルおよびグリセリンの両相に関して精製工程を省略可能である。
(vi)未反応アルコール回収工程を省略可能である。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0055】
[実施例1]
強塩基性陰イオン交換樹脂「ダイヤイオンPA306S」(三菱化学製。ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンを基体とし、イオン性官能基としてトリメチルアンモニウム基を結合したもの。粒径150〜425μmの粒子状)の塩化物形15gを脱塩水とともにガラスカラムに入れ、1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液75mL(強塩基性陰イオン交換樹脂1Lあたり3.2L)を0.5時間で通液して水酸化物形に変換した。これを脱塩水150mLで洗浄し、次いでメタノール75mLを通液してメタノール湿潤の樹脂(塩基性触媒)を得た。以下、これを「触媒樹脂」と称する。
【0056】
トリオレインを主成分とする廃食油(酸価1)44.2g(脂肪酸トリグリセリド含有量0.0521モル)、低級アルコールであるメタノール6.41g(0.200モル)、及び、濾別した触媒樹脂17.7gを共栓付三角フラスコに入れて密栓し、50℃で毎分150回振盪した。
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)としてC18逆相カラム(ジーエルサイエンス(株)製)を備えた(株)日立製作所製L−7100型システムを使用し、水−アセトニトリル−2−プロパノール溶離液系で、反応系内のトリオレインの存在量を経時的に測定したところ、反応開始後8時間での転化率は100%となった。
【0057】
そこで、反応を停止して反応液から触媒樹脂を濾別し、エステル交換反応生成物を静置したところ、脂肪酸エステル層とグリセリン層が分離し、いずれも透明な液となった。
(株)日立製作所製U−2100型分光光度計にて10mmセルを使用して各液相の透過率を測定したところ、600nmにおける脂肪酸エステル相の透過率T(600)は89%、550nmにおけるグリセリン相の透過率T(550)は89%であった。
【0058】
[比較例1]
廃食油49.2g(脂肪酸トリグリセリド含有量0.0574モル)及びメタノール7.23g(0.225モル)と、塩基性触媒として、強塩基性陰イオン交換樹脂PA306Sの代わりに水酸化ナトリウム0.57gを使用して、実施例1と同様の操作を行った。トリオレインの存在量から求めた転化率は、反応開始後8時間で100%となった。エステル交換反応生成物を静置後に脂肪酸エステル層が分離したが、600nmにおける脂肪酸エステル相の透過率T(600)は69%で、グリセリン相は黒褐色に着色し、550nmにおける透過率T(550)は3.5%であった。また、両層の間には脂肪酸塩層が析出し、各層の分離は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、廃食油等の油脂からのバイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と低級アルコールとを塩基性触媒の存在下にエステル交換反応して得られる、脂肪酸エステル相とグリセリン相を有するエステル交換反応生成物であって、該脂肪酸エステル相の波長600nmの光の透過率が70%以上であり、かつ、該グリセリン相の波長550nmの光の透過率が30%以上であることを特徴とするエステル交換反応生成物。
【請求項2】
前記低級アルコールがメタノールであることを特徴とする請求項1に記載のエステル交換反応生成物。
【請求項3】
油脂と低級アルコールとを塩基性触媒の存在下にエステル交換反応させてエステル交換反応生成物を製造する方法であって、該塩基性触媒として強塩基性陰イオン交換樹脂を用いると共に、油脂を構成する脂肪酸トリグリセリドと低級アルコールとのモル比が1:2乃至1:4.5の原料組成とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のエステル交換反応生成物の製造方法。
【請求項4】
前記低級アルコールがメタノールであることを特徴とする請求項3に記載のエステル交換反応生成物の製造方法。