説明

エステル基含有酸二無水物誘導体の製造方法

【課題】 本発明は、ポリエステルイミド樹脂等の耐熱樹脂の原料、エポキシ樹脂等の硬化剤、または樹脂改質剤として有用なエステル基含有酸二無水物誘導体を、工業的に利用可能な反応温度で効率よく反応させる製造方法を提供するものである。
【解決手段】 芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルとトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中でエステル交換反応を行うことにより、エステル基含有酸二無水物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルイミド樹脂等の耐熱樹脂の原料、エポキシ樹脂等の硬化剤、または樹脂改質剤として有用なエステル基含有酸二無水物誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル基含有酸二無水物誘導体は、ポリエステルイミド樹脂等の耐熱樹脂の原料、エポキシ樹脂等の硬化剤、または樹脂改質剤として有用であり、それを製造する方法として、例えば、(1)ベンゼン、トルエン等の有機溶媒中、無水トリメリット酸クロリドとジオール類との反応による方法(例えば、特許文献1参照。)、トリメリット酸無水物とジオール類の低級アルカン酸エステルとのエステル交換反応において、(2)触媒としてシリカ・アルミナ系化合物等の無機化合物の存在下に行う方法(例えば、特許文献2参照。)または(3)特定の溶媒の存在下に、270〜320℃の高温領域で加熱することにより行う方法(例えば、特許文献3、非特許文献1参照。)等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特公昭43−5911号公報
【特許文献2】特開平7−41472号公報
【特許文献3】特開平10−147582号公報
【非特許文献1】J. Polym. Sci., vol 4, 1531-41, Part A, (1966)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記背景技術(1)に開示される方法は、高価で且つ環境衛生上取り扱い難い無水トリメリット酸クロリドを使用しなければならない。(2)に開示される製造方法では、使用する無機触媒が除去し難く、得られるエステル基含有酸二無水物誘導体の不純物となりやすい。また(3)に開示される製造方法では、反応が工業的には困難な高温を必要とするといった問題がある。本発明は工業的に利用可能な反応温度で、短時間に効率よく反応させる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記のような問題点を解決するために種々研究を行い、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルとトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中でエステル交換反応を行うことにより、エステル基含有酸二無水物誘導体を効率よく製造し得ることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明のエステル基含有酸二無水物誘導体は、ポリエステルイミド樹脂等の耐熱樹脂の原料、エポキシ樹脂等の硬化剤、または樹脂改質剤として利用される。本発明は、少量の相間移動触媒の存在下で、安価で、環境衛生上の問題も少ない原料から、工業的に利用可能な反応温度で短時間に、目的とするエステル基含有酸二無水物誘導体を、高収率で製造できる点から極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
すなわち、本発明は一般式(1):
【0008】
【化5】

【0009】
(式中、Arは、下記式(2):
【0010】
【化6】

【0011】
で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、そしてR3は、同一または異なって、水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【0012】
【化7】

【0013】
で示されるトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中で反応させ、式(4):
【0014】
【化8】

【0015】
で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を製造する方法に関する。
【0016】
本発明の一般式(1)に係る低級アルカン酸エステルとしては、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸またはイソ酪酸エステルが例示されるが、好ましくは酢酸エステルが挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(1)に係る芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロカテコール、4,4’−ビフェニルジオール、2,2’−ビフェニルジオール、3,4’−ビフェニルジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、あるいはこれらの芳香環が、同一または異なって、メチル基、エチル基、n−もしくはiso−プロピル基で置換されたものが例示されるが、好ましくは、ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノン、2,2’−ビフェニルジオール等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルは、例えば、低級アルカン酸無水物と芳香族ジオールとを加熱反応することで容易に得ることができる。このとき、従来公知のp−トルエンスルホン酸ナトリウム等のエステル化触媒を使用することもできる。
【0019】
一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、トリメリット酸無水物とのエステル交換反応は、相間移動触媒の存在下、溶媒中で行われ、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を得る。ここでは、トリメリット酸無水物2モルに対し、芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルを0.95〜1.50モル反応させるのが好ましい。
【0020】
本発明に係る相間移動触媒としては、本発明の方法において設定される反応温度に耐えうる触媒であればよく、公知のもの、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、クラウンエーテル等が利用できるが、好ましくは、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等が利用できる。ホスホニウム塩としては、例えば、トリフェニルホスフィン、臭化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム、塩化テトラブチルホスホニウム等、スルホニウム塩としては、ヨウ化スルホニウム、臭化トリフェニルスルホニウム等が挙げられる。触媒量は、一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルに対し、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%である。
【0021】
反応には、溶媒を用いる。使用する溶媒は、反応温度(170〜250℃)付近または反応温度を超える沸点を持ち、設定される反応温度に応じ適宜選択されるが、反応に関与しないもの、すなわち芳香族ジオールの低級アルカン酸エステル、トリメリット酸無水物および相間移動触媒等に対し不活性でなければならない。例えば、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンのようなポリ塩化ベンゼン、2,3−ジクロロトルエンのようなポリ塩化トルエンが使用可能である。脱水された非プロトン性の極性溶媒、例えばスルホラン、N−メチルピロリドンも使用可能である。使用量は、一般式(1)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルに対し、50〜800重量%、好ましくは100〜400重量%である。
【0022】
エステル交換反応温度は、170〜250℃で行われるが、200〜240℃が好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を具体的に実施例を示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。なお、実施例中の高速液体クロマトグラフィーの測定条件は、以下の通りである。
機種:島津製作所製高速液体クロマトグラフィー SPD−10A
カラム:ODS−80T (3φ×150mm) 40℃
溶離液:アセトニトリル:水:リン酸=400:600:0.5(容量比)
検出波長:254nm
なお、本明細書において反応率とは、上記高速液体クロマトグラフィーの測定結果から得られる、反応生成物である一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物のピーク面積に対する全ピーク面積(前記反応生成物、未反応原料および副生成物等のピークを含むが、但し溶媒のピークは除いたもの)の割合を百分率で示したものである。
【0024】
(例1)
撹拌機、温度計、蒸留用冷却管、窒素ガス導入管を付けた1Lの四つ口フラスコに、1,4−ジアセトキシベンゼン106.8g(0.55モル)、トリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、1,2,4−トリクロロベンゼン400g及び臭化テトラフェニルホスホニウム1.1gを仕込み、窒素雰囲気下210℃で4時間反応させた。この時点で反応液を採取し、高速液体クロマトグラフィー測定した結果、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物(式中、Arは、1,4−フェニレンである)の反応率は、86.3%であった。
【0025】
(例2)
1,4−ジアセトキシベンゼンの代わりに2,5−ジアセトキシトルエン114.5g(0.55モル)を使用し、例1と同様の反応条件で操作を行った。反応液を採取し、高速液体クロマトグラフィー測定した結果、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物(式中、Arは、2−メチル−1,4−フェニレンである)の反応率は、85.8%であった。
【0026】
(例3)
1,4−ジアセトキシベンゼンの代わりに4,4’−ジアセトキシビフェニル148.7g(0.55モル)、溶媒として1,2,4−トリクロロベンゼン200g及びN−メチルピロリドン200gを使用し、例1と同様の反応条件で操作を行った。反応液を採取し、高速液体クロマトグラフィー測定した結果、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物(式中、Arは、ビフェニル−4,4’−ジイルである)の反応率は、80.1%であった。
【0027】
(比較例)
臭化テトラフェニルホスホニウムを使用しない他は、例1と同様の反応条件で操作を行った。反応液を採取し、高速液体クロマトグラフィー測定した結果、一般式(4)で示されるエステル基含有酸二無水物(式中、Arは、1,4−フェニレンである)の反応率は、45.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製法で得られるエステル基含有酸二無水物誘導体は、ポリエステルイミド樹脂原料、エポキシ樹脂等の硬化剤、または樹脂改質剤として利用できるが、特に低吸水率ポリエステルイミド原料として有用である。ポリイミドの欠点である吸水率を改善するポリエステルイミドは、高周波対応多層フレキシブルプリント基板等の電子分野向け絶縁材料として極めて有用である。本発明は、その原料であるエステル基含有酸二無水物誘導体を、安価で、環境衛生上の問題の少ない原料から、工業的に利用可能な反応温度で、短時間に効率よく反応させる製造方法を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】


(式中、Arは、下記式(2):
【化2】


で表される群から選ばれる2価の芳香族基を表し、R1、R2は、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表し、そしてR3は、同一または異なって、水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される芳香族ジオールの低級アルカン酸エステルと、式(3):
【化3】


で示されるトリメリット酸無水物とを、相間移動触媒の存在下、溶媒中で反応させ、一般式(4):
【化4】


で示されるエステル基含有酸二無水物誘導体を製造する方法。
【請求項2】
反応温度が170〜250℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
相間移動触媒が、ホスホニウム塩またはスルホニウム塩である請求項1または2記載の方法。