説明

エストロゲン分解性タンパク質

【課題】女性ホルモン物質エストロゲンを分解する新規なタンパク質の提供。
【解決手段】エストロゲンを分解し、下記の性質を有するバイリング(プリウロタス・ネブロデンシス(Pleurotus nebrodensis))由来のタンパク質:(1)最適pH:37℃において、pH6〜8に最適pHを有する;(2)pH安定性:37℃で30分間、pH2〜12の範囲でインキュベートした場合、pH6以上で安定である;(3)最適温度:ph7において、50℃が最適温度である;(4)温度安定性:37℃にて15分間インキュベートした場合、50℃以下では活性が低下せず、60℃にて3/4以上の活性が維持される;(5)分子量:SDS−PAGEにより測定した分子量は60.8kDaである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境ホルモンの一種である女性ホルモン物質エストロゲン及びその製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモンは生体内ホルモンの合成、分泌、体内輸送、結合、作用あるいは分解に介入することによって生体の恒常性の維持、生殖、発達あるいは行動に影響を与える外来物質である。ヒトや家畜などから排出される環境ホルモンである天然の女性ホルモン物質は、下水処理によっても完全には除去されず、水生生物の生殖異常などの原因となっている。このため、環境ホルモンの効率的な除去手段が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明は、女性ホルモン物質の一種であるエストロゲンを分解するタンパク質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、ヒラタケ科(Pleurotaceae)に属し、白霊茸(ハクレイタケ)ともよばれるバイリング(プリウロタス・ネブロデンシス(Pleurotus nebrodensis))由来のタンパク質がエストリオール(E3)を効率よく分解することを見出し、本発明を完成した。
【0005】
従って、本発明は、下記式:
【化1】

【0006】
で示されるエストロゲンを分解し、下記の性質を有するタンパク質:
(1)最適pH:37℃において、pH6〜8に最適pHを有する;
(2)pH安定性:37℃で30分間、pH2〜12の範囲でインキュベートした場合、pH6以上で安定である;
(3)最適温度:ph7において、50℃が最適温度である;
(4)温度安定性:37℃にて15分間インキュベートした場合、50℃以下では活性が低下せず、60℃にて3/4以上の活性が維持される;
(5)分子量:SDS−PAGEにより測定した分子量は60.8kDaである;
を提供する。
【0007】
本発明は更に、上記のタンパク質の製造方法において、当該タンパク質を産生することが出来る、バイリング(プリウロタス・ネブロデンシス(Pleurotus nebrodensis)を培養し、培養物から当該タンパク質を採取することを特徴とする方法を提供する。
本発明はまた、上記のタンパク質を有効成分とするエストリオール分解剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
生産微生物
本発明のタンパク質を産生する微生物は、Agaricales目、ヒラタケ科(Pleurotaceae)に属し、白霊茸(ハクレイタケ)ともよばれるバイリングであり、学名プリウロタス・ネブロデンシス(Pleurotus nebrodensis)である。このキノコは、中国では古くから高級食材として珍重されており、我が国においては2003年から商業的に栽培されており、当業者は容易に入手することが出来る。
【0009】
エストロゲン分解活性の測定方法
反応条件:
50mM KH2PO4/NaOH緩衝液(pH7.0)1.5mLに、0.01%エストロゲン溶液50μLを加え、更に被験液150μLを加えて、37℃にて、所定の時間反応させ、HPLC分析により、反応混合物中のエストロゲンのピークの減少を観察する。
HPLC分析条件:
カラム:Mightysil RP-18 GP250-4.6 (5μm)
ポンプ:JASCO 807-IT
検出:JASCO PU-980
サンプル量:10μL
流速:1.0mL/min.
温度:40℃
溶離液:60%メタノール+40%水
検出:210nmにおける吸光
【0010】
タンパク質の性質
本発明のエストロゲン分解物質は、10分間の煮沸によって完全に失活すること、60.8kDaの分子量を有すること、N−末端アミ酸配列が決定できることなどから、タンパク質であることが明らかであり、下記の種々の性質から、酵素であると思われる。
(1)最適pH:
緩衝液のpHをpH3.0〜10.0の範囲で変え、37℃にて分解活性を測定した。緩衝液として、CH3COONa/HCl(pH=3、4)、CH3COONa/CH3COOH(pH=5)、KH2PO4/NaOH(pH=6〜8)、KH2NaCO3(pH=9、10)を用いた。結果を図1に示す。pH6〜8に最適pHを有する。
【0011】
(2)pH安定性:
50mMの緩衝液として、CH3COONa/HCl(pH=2〜4)、CH3COONa/CH3COOH(pH=4〜6)、KH2PO4/NaOH(pH=6〜8)、KH2NaCO3(pH=9、10)、NaHCO3/Na2CO3(pH=10、11)130μLと共に被験サンプル20μLを37℃にて30分間インキュベートした後、氷冷し、50mM KH2PO4/NaOH緩衝液(pH7.0)1.5mL及び0.01%エストロゲン溶液50μLを加え、37℃にて、30分間反応させた。結果を図2に示す。pH2〜12の範囲で試験した場合、pH6以上で安定である。
【0012】
(3)最適温度:
KH2PO4/NaOH緩衝液(pH7.0)1.5mLに、0.01%エストロゲン溶液50μLを加え、更に被験液150μLを加えて、20〜70℃にて、30分間反応させた。結果を図3に示す。50℃が最適温度である。
【0013】
(4)温度安定性:
被験サンプル150μLを20〜80℃にて15分間インキュベートした後、これにKH2PO4/NaOH緩衝液(pH7.0)1.5mL、及び0.01%エストロゲン溶液50μLを加え、37℃にて、30分間反応させた。結果を、図4に示す。50℃以下では活性が低下せず、60℃にて3/4以上の活性が維持される。
【0014】
(5)分子量:
SDS−PAGEにより測定した分子量は、図5に示すとおり、60.8kDaである。
【0015】
(6)N−末端アミノ酸配列:
プロテイン・シーケンサーを用いて、常法に従って、N−末端アミノ酸配列を決定した。その結果、Ala-Lys-Gly-Pro-Thr-Gly-Asp-Lys-(Tyr,Val)-His-Val-Asp-の配列が得られた。
【0016】
製造方法
培養方法:
本発明のタンパク質を製造するための培地としては、キノコ菌を培養するための任意の常用の培地を用いることが出来る。例えば、ポテトの熱水抽出液とデキストロースとからなるポテトデキストロース培地(PD培地)を用いることが出来る。培養は好気的培養であればよく、静置表面培養でも、通気、撹拌、振とう等により好気的条件を確保した液体培養であってもよい。また、培養は、固体培地(菌床)で行うことも出来る。固体培地(菌床)は、フスマ、米糠などの固体栄養材料に水を添加した殺菌することにより調製することが出来る。培養温度は、25℃〜33℃が好ましい。
【0017】
精製:
本発明の蛋白異質の精製は、生物活性を有するタンパク質を精製するために常用されている方法を用いればよい。具体的な方法の1例を実施例に記載する。
【実施例】
【0018】
実施例 タンパク質の製造
(1)培地調製(1リッター当りの調製方法)
5mm角に切ったジャガイモ(男爵)200gに蒸留水800mLを加え、約40分間沸騰ささないようにして煮た。煮汁をガーゼで濾過したが、ロ液にグルコース20gを加え、蒸留水により全量1Lにした。これを、100mL容三角フラスコに20mLずつ分注し、蒸気殺菌した。
(2)培養
各三角フラスコに、バイリング(プリウロタス・ネブロデンシス(Pleurotus nebrodensis))の菌糸を接種し、25℃にて静置培養した。20日間培養した後に培養液を集め、菌体を除去した後、600mLの培養上清を得た。
【0019】
(3)精製
限外濾過
培養上清をペンシル型モジュール(旭化成工業株式会社、分画分子量13000)を用いて、限外濾過を行った。
陰イオン交換クロマトグラフィー
限外濾過により濃縮した濃縮液を、20mM KH2PO4緩衝液(pH 7.0)で平衡化したDEAE-TOYOPEARL 650M(78.5 mL)に供し、同緩衝液で洗浄した後、0〜1.0MのNaClの濃度勾配がかかるように同緩衝液で溶出した。溶出液は5mLずつ分取した。結果を図5に示す。
【0020】
疎水クロマトグラフィー
上記の陰イオン交換クロマトグラフィーで得た画分の内、エストリオール分解活性が高い画分を集め、2M (NH4)2SO4と等量混合した。この混合物を、1M (NH4)2SO4を含む20 mM KH2PO4緩衝液(pH 7.0)で平衡化したPhenyl-TOYOPEAR 650S(5mL)に供し、1.0〜0 Mの濃度勾配がかかるように同緩衝液によりタンパク質の溶出を行った。溶出液は1mLずつ分取した。結果を図6に示す。
【0021】
上記の精製の経過を下記表1に示す。
【表1】

【0022】
SDS-PAGEによる純度及び分子量の確認
Leammliの方法(Nature (London) 227: 680-)の方法に従い、分離ゲル10%及び濃縮ゲル10%を用いてSDS-PAGEを行った。結果を図7に示す。本発明のタンパク質がほぼ完全に精製されたこと、及び本発明のタンパク質の分子量が約60.8 kDaであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明のタンパク質の最適pHを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のタンパク質のpH安定性を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明のタンパク質の最適温度を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明のタンパク質の温度安定性を示すグラフである。
【図5】図5は、DEAE-TOYOPEARL 650Mを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーの結果を示すチャートである。
【図6】図6は、Phenyl-TOYOPEAR 650Sを用いた疎水クロマトグラフィーの結果を示すチャートである。
【図7】図7は、本発明のタンパク質のSDS-PAGEの結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記式:
【化1】

で示されるエストロゲンを分解し、下記の性質を有するタンパク質:
(1)最適pH:37℃において、pH6〜8に最適pHを有する;
(2)pH安定性:37℃で30分間、pH2〜12の範囲でインキュベートした場合、pH6以上で安定である;
(3)最適温度:ph7において、50℃が最適温度である;
(4)温度安定性:37℃にて15分間インキュベートした場合、50℃以下では活性が低下せず、60℃にて3/4以上の活性が維持される;
(5)分子量:SDS−PAGEにより測定した分子量は60.8kDaである。
【請求項2】
Agaricales目由来の請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
Agaricales目がPleurotaceae科である、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質の製造方法において、Agaricales目を培養し、培養物から当該タンパク質を採取することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質を有効成分とするエストロゲン分解剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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