説明

エタノール揮散剤

【課題】アセトアルデヒドや錆等の食品の品質低下を招く物質を発生させることが無く、食品工場等で金属性異物の検査に使用されている金属探知機を用いてエタノール揮散剤を検出することが可能なエタノール揮散剤を提供する。
【解決手段】エタノールを吸着材に吸着させたエタノール吸着体およびステンレス粉末を含むエタノール揮散剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封包装内又は密封容器内に食品と共に封入して用いるエタノール揮散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食品を保存するための保存剤として、乾燥剤、酸素吸収剤、エタノール揮散剤等の包装系内の雰囲気を調節するものが知られている。その中でもエタノール揮散剤はカビの増殖抑制効果が高く、パン類や菓子類を中心に広く普及している(例えば特許文献1および2)。食品の保存に用いられるエタノール揮散剤は、エタノールを雲母やシリカ等の吸着材に吸着させたエタノール吸着体をエタノールガス透過性の小袋に充填したものであり、食品と共に封入し、包装系内でエタノールを揮散させることにより食品の保存性を改善するものである。
【0003】
エタノール揮散剤は、比較的大規模な食品工場においては、通常、自動投入装置を用いて包装食品中に投入されるが、自動投入装置に不具合が発生した場合などに不投入製品が発生していた。また、比較的小規模な食品工場では人力による投入が行われており、人為的なミスにより不投入製品が発生していた。
【0004】
食品工場ではエタノール揮散剤の在否を目視検査や重量検査によって確認しているが、目視検査では不透明な包装材料を使用した食品の場合には検出が不可能であり、重量検査では食品自体の重量が均一でない場合には検出が困難であったため、確実に検出可能な技術が望まれていた。
【0005】
一方、他の食品保存剤、例えば鉄粉を含有する酸素吸収剤では、金属探知機を利用した不投入製品の検査が行われている。金属探知機は食品工場では金属製異物の検査に使用されるため、広く普及しており、金属探知機を利用した検査は食品製造業者にとって実施し易く、且つ効果的な手段である。しかしながら、エタノール揮散剤は鉄粉などの磁性材料を含まないため、鉄粉を含有する酸素吸収剤のように金属探知機による検査は適用できなかった。また、エタノール揮散剤に鉄粉を添加するとエタノールと鉄の反応によりアセトアルデヒドが発生し、異臭の原因となるため、鉄粉を添加することにより金属探知機を利用することはできなかった。
【0006】
このような背景からエタノール揮散剤においても金属探知機を利用した検査を可能とする技術が提案されている。特許文献3にはエタノール蒸気発生剤と粉末状酸化鉄をエタノール蒸気透過性袋内に同封させ、内容物全体の嵩密度を0.6g/cm3以上に調節した食品の鮮度保持剤が記載されている。しかしながら、酸化鉄の酸化が不十分である場合には前述したようにアセトアルデヒドによる異臭が発生する場合があった。また、水分活性が比較的高い食品に使用した場合には褐色の錆がエタノール揮散剤表面にしみ出すことがあった。
【0007】
【特許文献1】特公平7−87764号公報
【特許文献2】特開2001−321141号公報
【特許文献3】実開平3−99989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アセトアルデヒドや錆等の食品の品質低下を招く物質を発生させることが無く、食品工場等で金属性異物の検査に使用されている金属探知機を用いてエタノール揮散剤を検出することが可能なエタノール揮散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、従来公知のエタノール揮散剤にステンレス粉末を混合することにより、食品の品質低下を招く物質を発生させずに金属探知機による検出が可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、エタノールを吸着材に吸着させたエタノール吸着体およびステンレス粉末を含有してなるエタノール揮散剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエタノール揮散剤に含有させるステンレス粉末としてはフェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、析出硬化系ステンレスが挙げられる。その中でもフェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレスが好ましく、耐酸化性能、入手のし易さおよびコストの点でフェライト系ステンレスがより好ましい。これらステンレス粉末は2種以上を併用してもよい。
【0012】
ステンレス粉末の割合はエタノール揮散剤全量に対して3〜10重量%が好ましく、5〜8重量%がさらに好ましい。ステンレス粉末の割合が3重量%未満の場合、金属探知機の感度を高感度に設定する必要があり、ノイズによる判定ミスが起こり易くなる。また、ステンレス粉末の割合が10重量%を超えるとエタノール揮散剤本来の目的である食品の保存効果が低下する場合がある。
【0013】
また、ステンレス粉末は粒子径63μm以下の粒子を95重量%以上含有し、且つ粒子径44μm未満の粒子を50〜80重量%含有するものが好ましく、粒子径63μm以下の粒子を98重量%以上含有し、且つ粒子径44μm未満の粒子を55〜75重量%含有するものがさらに好ましい。粒子径63μm以下の粒子が95重量%未満である場合または粒子径44μm未満の粒子が50重量%未満である場合は、偏析が生じやすく、製品毎の個体差が大きくなる傾向にある。また、粒子径44μm未満の粒子が80重量%を超える場合には粉末が飛散しやすい傾向にある。
【0014】
本発明のエタノール揮散剤に含まれるエタノール吸着体に使用するエタノールとしては、一般に食品工業用途に用いられているエタノールであればよく、特に制限されない。また、変性剤を含有するものであってもよい。変性剤としては、例えばフレーバーH−No.1,3,4,6,9〜13,100〜103,107,201等があげられるがこれらに限定されない。
【0015】
エタノール吸着体においてエタノールを吸着させるために用いる吸着材としては、従来からエタノール吸着材に用いられる材料がいずれも好適に用いられ、シリカ、バーミキュライト、雲母、二酸化珪素、タルク、ゼオライト、パーライト、ベントナイト、珪藻土、アルミナ等が例示される。その中でもシリカ、バーミキュライトがエタノールの吸着力およびステンレス粉末との混合性の点で好ましい。
【0016】
また本発明のエタノール揮散剤には、活性炭および/またはイオン交換樹脂を添加してもよい。特に食品自体の臭いが希薄でエタノール臭が目立ち易い食品に対しては、活性炭および/またはイオン交換樹脂を添加したものを用いることによりエタノール臭が抑制されるため好ましい。活性炭を添加する場合には、エタノール100重量部に対して1〜15重量部程度が好ましく、3〜10重量部がより好ましい。
【0017】
本発明のエタノール揮散剤は、エタノール蒸気を透過する袋に充填された上で、食品へ配合される。本発明のエタノール揮散剤を充填する袋としては、従来から知られているエタノール揮散剤を封入している袋がいずれも好適に用いられ、特に限定されない。材質としては、特に限定されずエタノール蒸気透過性のフィルムや紙が例示される。また、エタノール蒸気非透過性のフィルムに孔を設けたものも使用可能である。
【0018】
本発明のエタノール揮散剤は、金属探知機を用いて効率的に在否を確認することができる一方、アセトアルデヒド臭や錆の発生を招くことがほとんどない。従って、本発明のエタノール揮散剤を封入した製品についてエタノール揮散剤を封入したことの確認検査を金属探知器を用いて行う、検品法もまた本発明に含まれる。
【0019】
以下、実施例により本発明を更に説明する。
実施例1および比較例1〜2
(金属探知機検出試験)
方法:
表1に示す組成のエタノール揮散剤(内剤)を十分に混合した後、紙製の小袋(5cm×6cm)に1.7gずつ封入してエタノール揮散剤各100個を製造した。製造したエタノール揮散剤を塩化ビニリデンコートナイロン/ポリエチレン製の袋にドーナツと共に1個ずつ密封し、金属探知機(大和製衡(株)製、MA−3117)に通して検出数をカウントした。尚、使用したステンレス粉末の粒度分布は表2に示した。
【0020】
結果:
ステンレス粉末を使用した本発明のエタノール揮散剤は、全て金属探知機に検出された。また、鉄粉を使用したエタノール揮散剤は、固体差が大きく、検出されないものが発生した。結果を表3に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
ステンレス粉末の粒度分布
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
(官能試験)
方法:
金属探知機検出試験で製造した食品包装体を25℃、1ヶ月間保存した後、異臭の有無を確認した。
【0025】
結果:
結果を表4に示す。本発明のエタノール揮散剤を使用した実施例1のドーナツからは異臭の発生は確認されなかった。一方比較例1のドーナツにはアセトアルデヒドのごとき異臭が認められた。また、比較例1のアルコール揮散剤は錆の発生が認められた。
【0026】
【表4】

【0027】
(細菌検査)
方法:
金属探知器試験で使用した実施例1および比較例1〜2のエタノール揮散剤と同一のエタノール揮散剤を塩化ビニリデンコートナイロン/ポリエチレン製の袋にドーナツと共に1個ずつ密封し、これを25℃の恒温器内で保存した。初発及び30日後にドーナツの一部を採取し、細菌検査を行った。細菌検査は1サンプルより20gを採取し、10倍量の滅菌済生理食塩水を添加した後破砕処理を行って得た液を検査原液として行った。なお、エタノール揮散剤を含有しない試験区をコントロールとした。
【0028】
結果:
実施例1および比較例2のエタノール揮散剤を使用したドーナツは30日後の菌数に大きな差は見られず、ステンレス粉末を含有したエタノール揮散剤を用いることによって食品の保存性が低下することはなかった。比較例1のエタノール揮散剤を使用したドーナツは30日後の菌数において、実施例1や比較例2と変わらなかったものの異臭の発生が認められた。結果を表4に示す。
【0029】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールを吸着材に吸着させたエタノール吸着体およびステンレス粉末を含むエタノール揮散剤。
【請求項2】
ステンレス粉末の割合がエタノール揮散剤全量に対し、3〜10重量%である請求項1記載のエタノール揮散剤。
【請求項3】
ステンレス粉末が粒子径63μm以下の粒子を95重量%以上含有し、且つ粒子径44μm未満の粒子を50〜80重量%含有するものである請求項1または2記載のエタノール揮散剤。
【請求項4】
ステンレス粉末がフェライト系ステンレス粉末である請求項1〜3いずれかに記載のエタノール揮散剤。
【請求項5】
エタノールを吸着させる吸着材がシリカまたはバーミキュライトである請求項1〜4いずれかに記載のエタノール揮散剤。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかのエタノール揮散剤を封入した製品についてエタノール揮散剤を封入したことの確認検査を金属探知器を用いて行う、検品法。