エタノール産生のためのキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)のキシリトール合成変異体
キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)の株を、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ遺伝子への遺伝子改変により操作し、GFOR酵素活性の発現の減少を生じさせた。操作された株は、キシロース代謝の有害な副産物であるキシリトールの減産を示す。それはまた、プロセス関連条件下、混合糖発酵中により多くのキシロースを消費し、そしてより多くのエタノールを産生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年9月28日に出願された米国仮特許出願第60/847813号明細書(すべての目的のために、その全体が本明細書の一部として援用される)の利益を主張する。
【0002】
政府の権利についての陳述
本発明は、エネルギー省から授与された契約番号04−03−CA−70224およびDE−FC36−03GO13146に基づく米国政府の助成により行われた。政府は、本発明において所定の権利を有する。
【0003】
本発明は、微生物学および遺伝子操作の分野に関する。より具体的には、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ遺伝子の遺伝子改変を伴うキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)の株を開発した。この株は、発酵およびエタノール産生中の、キシロース代謝の有害な副産物であるキシリトールの減産を示す。
【背景技術】
【0004】
微生物によるエタノールの産生は、化石燃料に代わるエネルギー源を提供し、従って、現在の重要な研究の分野である。ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)は、グルコース、フルクトース、およびスクロース上で増殖する細菌性エタノロジェンであり、これらの糖を、エントナー−ドウデロフ(Entner−Douderoff)経路を介してCO2およびエタノールに代謝する。野生型株は、キシロースを炭素源として使用することができないが、この糖上で増殖することが可能なZ.モビリス(Z.mobilis)の組み換え株が操作されている(特許文献1、2、3、非特許文献1、2)。キシロースは、加水分解されたリグノセルロース系材料における主要なペントースであり、従って、発酵に使用される多量の利用可能な低コストの炭素基質を提供することができる。Z.モビリス(Z.mobilis)が、キシロース代謝に必要な4つの酵素:1)キシロースからキシルロースへの変換を触媒するキシロースイソメラーゼ;2)キシルロースをリン酸化して、キシルロース5−リン酸を形成させるキシルロキナーゼ;3)トランスケトラーゼ;および4)トランスアルドラーゼの発現のために操作されている(特許文献1、4、非特許文献2)。これらの4つの酵素の組み合わされた反応および細胞の通常の代謝機構を介して、3分子のキシロースが、2分子のグルコース6−リン酸および1分子のグリセルアルデヒド3−リン酸に変換され、続いて、これらは、経路のグルコース側においてエタノールおよびCO2に変換される(図1を参照のこと)。
【0005】
キシロース代謝を対象にZ.モビリス(Z.mobilis)株を操作することに成功はしているが、この株は、キシロース上では、グルコースほど良好に増殖せず、そしてエタノールを産生しない。キシロース上で増殖が乏しくなる原因の1つは、キシリトールがキシロース代謝の副産物として産生されることである(非特許文献1、3)。キシリトールは、キシルロースキナーゼによってリン酸化されて、キシリトール5−リン酸を産生し、これは細胞に蓄積し、そして細菌の増殖を阻害する。Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株はキシリトールをエタノールに変換することができないため、キシリトール合成はまた、エタノールの収率を減少する。さらに、キシリトールは、操作されたキシロース代謝経路におけるキシロース資化の第1段階を触媒するキシロースイソメラーゼの強力なインヒビターである(非特許文献4)。キシリトールの合成および効果を示す図については、図2を参照のこと。
【0006】
インビボでのキシリトール合成を担う生理学的経路および酵素は決定されていない。しかし、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)由来の無細胞抽出物は、それらをNADPHで補充する場合、キシロースをキシリトールに還元することが可能であること(非特許文献1)、およびこの反応は、NADPH依存性アルドースレダクターゼによって触媒されることが実証されている。Z.モビリス(Z.mobilis)無細胞抽出物は、NADPH補充を伴わなくても少量のキシロースをキシリトールに変換することが可能であること、および精製されたキシロースイソメラーゼがさらに反応混合物に添加される場合、これらの条件下でのキシリトール産生は、3〜4倍に増加すること(非特許文献5)もまた、示されている。キシロースイソメラーゼはキシロースをキシルロースに変換することが可能であるため、後者の実験は、Z.モビリス(Z.mobilis)酵素グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)が、キシロースを電子供与体として、およびキシルロースを電子受容体として使用して、キシリトールを生じさせることができることを明確に示唆しており、これについて以下に詳細に考察する。それ故、インビトロ実験に基づけば、Z.モビリス(Z.mobilis)において、キシリトール産生のための少なくとも2つの経路が存在するが、しかし、それらが生理学的条件下でキシリトール形成に寄与する程度は未だ決定されていない。
【0007】
エタノールの高レベル産生では、Z.モビリス(Z.mobilis)を、浸透圧ショックを生じ得る高濃度の発酵可能な炭素源において増殖させる。浸透圧ショックは、>200g/Lのグルコースもしくはフルクトースまたは>360g/Lのスクロースを含有する液体培地に野生型株を移す場合の増殖開始前の長い停滞期間として出現する(非特許文献6)。さらに加えて、ソルビトールを増殖培地に添加すると、野生型株を高濃度のこれらの糖に移す場合の停滞期間が減少する(非特許文献7、非特許文献6)。
【0008】
ペリプラズム酵素グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)は、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)をグルコースおよびフルクトースの濃縮混合物(非特許文献6)またはスクロースの濃縮液(−,非特許文献7、非特許文献6)において増殖させる場合の浸透圧バランスにおいて重要な役割を果たすこともまた、示されている。簡単に説明すると、GFORは、緊密に結合したそれの補因子を伴って、図Iに示すような古典的ピンポンBi機構で、グルコースからグルコノラクトンへの酸化、およびそれ以後のフルクトースからソルビトールへの還元を触媒する。ペリプラズム空間に生じるソルビトールは、濃度勾配に対して細胞に輸送され、ここで、それは、さらに代謝されないため、高レベルで蓄積する。細胞内における高濃度のソルビトールは、形質膜を横切る浸透圧差をなくし、そして浸透圧バランスを回復する。
【0009】
ソルビトールを生じることができない野生型Z.モビリス(Z.mobilis)の自然突然変異体は、それを低濃度のスクロース(<150g/L)上で増殖させた場合、野生型細胞より高いレベルのエタノールを産生することが示されたが、この株は、高濃度のスクロース上で増殖することができなかった(非特許文献8)。この変異体は、その後、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)の発現を欠くことが示されたが、これは、スクロースから誘導されるフルクトースを、所望されない副産物のソルビトールに変換することができないことを説明する(非特許文献7)。高濃度のスクロースにおけるソルビトール欠損変異体の増殖は、ソルビトールを増殖培地に添加することによって回復され得ることによっても示された(非特許文献7)。それ故、Z.モビリス(Z.mobilis)を、グルコースおよびフルクトースの濃縮混合物か、または宿主細胞のインベルターゼによってグルコースおよびフルクトースに加水分解される高濃度のスクロースにおいて増殖させる場合、GFORは、ソルビトールを合成することによって、浸透圧バランスにおいて極めて重要な役割を果たす。
【数1】
【0010】
特許文献5は、不活化されたGFOR遺伝子を有するZ.モビリス(Z.mobilis)の非キシロース資化性変異株、およびこの株を使用するエタノールの産生について開示している。グルコース、フルクトースまたはスクロースが炭素源であった場合、この株によるソルビトール産生の欠如は、より高いレベルのエタノールを生じた。
【0011】
キシロースおよびグルコースの混合物上で(添加されるスクロースもしくはフルクトースの非存在下で)増殖するZ.モビリス(Z.mobilis)の操作されたキシロース資化株においてグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ酵素活性を減少させるかまたはなくすことの効果については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5514583号明細書
【特許文献2】米国特許第5712133号明細書
【特許文献3】国際公開第95/28476号パンフレット、
【特許文献4】米国特許第6566107号明細書
【特許文献5】中国特許公開第1600850(A)号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Feldmannら、1992年、Appl Microbiol Biotechnol38:354−361
【非特許文献2】Zhangら、(1995)、Science267:240−243
【非特許文献3】Kimら、(2000年)Applied and Environmental Microbiology66:186−193
【非特許文献4】Smithら、(1991年)Biochem J.277:255−261
【非特許文献5】Danielson、2001年,University of Colorado Masters Thesis
【非特許文献6】Loosら、(1994年)J Bacteriol176:7688−7693
【非特許文献7】Wiegertら、(1996年)Arch Microbiol166:32−41
【非特許文献8】KirkおよびDoelle、(1993年)Biotechnol.Letters15:985−990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
キシロース含有培地上で増殖させる場合、増加した量のエタノールを産生することが可能なキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の必要性が依然としてある。本出願人らは、インビボでのキシリトール産生の主経路を決定し、そして遺伝子不活化を介してキシリトールの形成を担う酵素活性をなくし、それによって、改善されたエタノール産生を伴うZ.モビリス(Z.mobilis)株を作製することによって、この課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、キシロースの存在下で増殖させる場合、キシリトールの減産およびエタノールの増産を有するザイモモナスザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)などの(Zymomonas)の株に関する。本出願人らは、キシロースを代謝するZ.モビリス(Z.mobilis)におけるキシリトール産生は、酵素グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)によって優先的に仲介されることを発見した。GFORを発現しない遺伝子改変された株(GFORノックアウト変異体など)を構築し、そしてキシロース含有糖混合物上で増殖させる場合、低減した量のキシリトールを産生することを見出した。GFORノックアウト変異体はまた、ソルビトールの存在下で高度の糖混合物において増殖させた場合、GFORを発現する親株よりキシロースを消費し、そしてより高濃度のエタノールを産生した。さらに、エタノール収率(消費される糖1グラムあたりの産生されるエタノールの量)についても、GFORノックアウト株の方が有意に高かった。
【0016】
従って、本発明は、炭水化物培地中での発酵により、キシロースを資化してエタノールを産生することが可能なザイモモナス(Zymomonas)属の組み換え微生物を提供し、前記微生物は、より低いグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ酵素活性を生じる少なくとも1つの遺伝子改変を含んでなる。本発明は、GFOR遺伝子への遺伝子改変の結果として、低減したGFOR活性を示す、キシロースを資化してエタノールを産生することが可能なザイモモナス(Zymomonas)株を含む。GFOR活性のいずれの減少も本発明の範囲内にあり、GFOR活性の遺伝子を完全に不活化する、および/またはGFOR酵素活性を完全にノックアウトする変異を含む。
【0017】
さらに、本発明は、低減したGFOR活性を伴うザイモモナス(Zymomonas)株を作製するための方法であって:
a)キシロースを資化して、適切な条件下でエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス(Zymomonas)株を提供する工程と;
b)(a)の組み換えザイモモナス(Zymomonas)株に少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、前記改変は、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少する工程と
を含んでなる方法を提供する。
【0018】
図面の簡単な説明、生物学的寄託および配列表の説明
本発明は、以下の詳細な説明、図面、および本出願の一部をなす添付の配列の説明からさらに詳細に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】キシロース資化のためにZ.モビリス(Z.mobilis)を操作するために使用されている4つの酵素(枠内)およびキシロースを使用するエタノール産生の生化学的経路の図を示す。
【図2】操作されたキシロース経路(枠内)の最初の2段階、キシリトール合成、キシリトール5−リン酸形成(デッドエンド毒性中間産物)、およびキシリトールによるキシロースイソメラーゼの阻害の図を示す。
【図3】トランスケトラーゼ(A)、トランスアルドラーゼ(B)、キシロースイソメラーゼ(C)、およびキシルロキナーゼ(xyulokinase)(D)の酵素アッセイのストラテジーを示す。
【図4】pMODPgaptaltktCmのプラスミド地図を示す。
【図5】pMODPgapxylABCmのプラスミド地図を示す。
【図6】PgapxylABで形質転換したT2C、T3C、T4C、およびT5C系統におけるキシロースイソメラーゼ(XI)およびキシルロキナーゼ(XK)活性のグラフを示す。
【図7】PgapxylABで形質転換したT2C、T3C、T4C、およびT5C系統におけるトランスアルドラーゼ(transaldolse)(TAL)およびトランスケトラーゼ(TKT)活性(activaties)のグラフを示す。
【図8】選択された適応キシロース資化株コロニーの理論的エタノール収率%およびキシロース資化%のグラフを示す。
【図9】5%グルコースを伴うRM(リッチ培地)(RMG)において50代まで増殖する前および後の5%キシロースを伴うRM(RMX5%)上で70時間目の適応キシロース資化株の増殖のグラフを示す。
【図10】RM+10%グルコース(RMG10%)(A、B)およびRM+8%キシロース(RMX8%)(C、D)における選択された株、ZW658の増殖、グルコースまたはキシロース資化、ならびにエタノールおよびキシリトール産生を、コントロール、8bと比較したグラフを示す。
【図11】RM+10%グルコースおよび8%キシロースにおいて、酢酸塩を伴わない(A、B)または0.6%酢酸塩を伴う(C、D)選択された株、ZW658の増殖、グルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノールおよびキシリトール産生を、コントロール、8bと比較したグラフを示す。
【図12】GFOR遺伝子の挿入不活化のための自殺構築物の構築中に作製されるプラスミド、および最終産物:GFORSp−9WWの地図を示す。
【図13】キシロースイソメラーゼ発現プラスミドの構築のために作製されるプラスミド:pZB188/Kan−XylAの地図、およびこの構築物に使用した大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセット(枠内)の図を示す。
【図14】GFOR遺伝子不活化を伴うおよび伴わない、キシロースイソメラーゼ発現の存在および非存在下でのZW1株によるキシリトールおよびキシルロース産生のグラフを示す。
【図15】97g/L全キシロース+グルコース上で増殖させた、GFOR遺伝子不活化を伴う(A)および伴わない(B)キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖、グルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノール産生のグラフを示す。
【図16】188g/L全キシロース+グルコース上で増殖させた、GFOR遺伝子不活化を伴う(A)および伴わない(B)キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖、グルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノール産生のグラフを示す。
【図17】異なる濃度のソルビトールの存在下におけるGFOR遺伝子不活化を伴うキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖のグラフを示す。
【図18】GFOR遺伝子不活化を伴わない(A、C)および伴う(B、D)、酢酸塩の非存在(A、B)および存在(C、D)下、174g/Lの全キシロース+グルコースにおけるキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロース資化、エタノール産生、およびキシリトール産生のグラフを示す。
【図19】GFOR遺伝子不活化を伴わない(A、C)および伴う(B、D)、酢酸塩の非存在(A、B)および存在(C、D)下、203g/Lの全キシロース+グルコースにおけるキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロース資化、エタノール産生、およびキシリトール産生のグラフを示す。
【図20】GFOR遺伝子不活化を伴わない(A、C)および伴う(B、D)、酢酸塩の非存在(A、B)および存在(C、D)下、203g/Lの全キシロース+グルコースにおいて、緩衝能の増加のためのさらなる炭酸水素カリウムを伴う、キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロース資化、エタノール産生、およびキシリトール産生のグラフを示す。
【図21】GFOR遺伝子不活化を伴う、酢酸塩の存在下、189g/Lの全キシロース+グルコース、pH制御発酵稼動におけるキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロースおよびグルコース資化、エタノール産生、ならびにキシリトール産生のグラフを示す。
【図22】pZB188/KanおよびpZB188/kan−Cre、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるCre発現ベクターのプラスミド地図を示す。
【図23】Aは、高グルコース+キシロースにおける、酢酸塩を伴う、pH制御条件下のZW801−4およびZW800の増殖の比較を示し、Bは、ZW801−4のグルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノール産生をZW800と比較したグラフを示す。
【図24】ZW801−4における翻訳された変異体配列と、野生型GFORタンパク質とのアラインメントを示す。
【0020】
本発明は、以下の詳細な説明、および本出願の一部をなす添付の配列の説明からさらに詳細に理解することができる。
【0021】
以下の配列は、米国特許法施行規則第1.821〜1.825条(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の開示を含む特許出願の要件−配列規則」)に従い、そして世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998年)ならびにEPOおよびPCTの配列表の要件(規則5.2および49.5(aの2)、ならびに実施細則第208号および付属書C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列データに使用した記号および形式は米国特許法施行規則第1.822条に記載の規則に従う。
【0022】
配列表は、コンパクトディスクによって提供される。配列表を含むコンパクトディスクの内容は、米国特許法施行規則第1.52条第(e)項に応従して、参照により本明細書に援用される。コンパクトディスクは、2枚提出され、これらは相互に同一である。ディスクには、「Copy1−Sequence Listing」および「Copy2Sequence listing」のラベルが付されている。ディスクは、次のファイル:「CL3604seq list.ST25」を含有する。
【0023】
配列番号1および2は、pZB4由来のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター(Pgap)を含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0024】
配列番号3および4は、pZB4由来のtalコーディング領域を含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0025】
配列番号5および6は、Pgapおよびtalフラグメント由来のPgaptalを含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0026】
配列番号7および8は、pZB186由来のloxP::Cmを含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0027】
配列番号9は、pMODPgaptaltktCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列である。
【0028】
配列番号10および11は、pMODPgaptaltktCmを収容する形質転換体におけるtalおよびtktコーディング領域を含有する3kbのDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0029】
配列番号12は、pMODPgapxylABCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列である。
【0030】
配列番号13および14は、pMODPgapxylABCmを伴うT2C、T3C、T4CおよびT5C組込み体由来の1.6kbのPgapxylA DNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0031】
配列番号15および16は、pMODPgapxylABCmを伴うT2C、T3C、T4CおよびT5C組込み体由来の1.3kbのxylB DNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0032】
配列番号17および18は、遺伝子の3’末端の部分、ldh遺伝子、およびadhl遺伝子の5’末端の部分を含有するZ.モビリス(Z.mobilis)W1ゲノムDNA由来の2268bpのDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0033】
配列番号19および20は、pACYC184由来のテトラサイクリン耐性カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0034】
配列番号21および22は、loxP部位を作製するために使用されるオリゴヌクレオチド配列である。
【0035】
配列番号23および24は、loxP部位を作製するために使用されるオリゴヌクレオチド配列である。
【0036】
配列番号25および26は、pHP15578由来のSpecr−カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0037】
配列番号27および28は、ZW1ゲノムDNA由来の3’GFORフランキングDNAの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0038】
配列番号29および30は、ZW1ゲノムDNA由来の5’GFORフランキングDNAの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0039】
配列番号31は、pGFORSp−9WWプラスミドのヌクレオチド配列である。
【0040】
配列番号32および33は、pET−24a由来のKanr−カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0041】
配列番号34は、pZB4から誘導された大腸菌(E.coli)xylA発現カセットのヌクレオチド配列である。
【0042】
配列番号35および36は、Cre−発現カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0043】
配列番号37は、ZW801−4における破壊されたGFORコーディング領域(本来の開始コドンから本来の終止コドンまで)の完全なヌクレオチド配列である。
【0044】
配列番号38は、野生型GFORコーディング領域(本来の開始コドンから本来の終止コドンまで)の完全なヌクレオチド配列である。
【0045】
本出願人らは、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づき、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)10801University Boulevard,Manassas、バージニア州20110−2209において、以下の生物学的寄託を行った:
【0046】
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、内因性グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)遺伝子の改変によってさらに操作されるキシロース資化性組み換えザイモモナス(Zymomonas)株、および改変されたGFORザイモモナス(Zymomonas)株を作製するための方法について説明する。本明細書に記載の方法は、GFOR酵素活性をなくすかまたは減少し、その結果、キシロース代謝中のキシリトール産生の低減およびエタノール産生の増強を生じる任意の遺伝子改変を含む。一般的に、低減したGFOR酵素活性を伴う改変されたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株を、発酵からエタノールを産生させるプロセスにおいて使用してもよい。新規のザイモモナス(Zymomonas)株によって産生されるエタノールは、化石燃料に対する代替エネルギー源として使用してもよい。
【0048】
明細書および特許請求の範囲の解釈のために、以下の略語および定義が使用される。
【0049】
「グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ」は、GFORと略称する。
【0050】
RMはリッチ培地である。
【0051】
RMG5%はRM+5%グルコースである。
【0052】
RMG5%はRM+10%グルコースである。
【0053】
RMX8%はRM+8%キシロースである。
【0054】
RMX2%はRM+2%キシロースである。
【0055】
RMX5%はRM+5%キシロースである。
【0056】
RMGX10%8%は、RM+10%グルコースおよび8%キシロースである。
【0057】
RMGX5%8%は、RM+5%グルコースおよび8%キシロースである。
【0058】
「遺伝子」は、コード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)に調節配列を含む特定のタンパク質を発現する核酸フラグメントを指す。「生来の遺伝子」または「野生型遺伝子」は、それ自体の調節配列と共に天然に見出されるような遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、天然には一緒に見出されない調節およびコード配列を含んでなる、生来の遺伝子ではない任意の遺伝子を指す。従って、キメラ遺伝子は、異なる起源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ起源に由来するが、しかし天然に見出されるものとは異なる様式で配列される調節配列およびコード配列を含んでなることができる。「内因性遺伝子」は、生物体のゲノム内の天然の位置にある生来の遺伝子を指す。「外来」遺伝子は、宿主生物体内に通常は見出されない遺伝子を指すが、しかしこれは遺伝子導入により宿主生物体内に導入される。外来遺伝子は、非生来の生物体内に挿入された生来の遺伝子、またはキメラ遺伝子を含んでなることができる。
【0059】
用語「遺伝子構築物」は、1つ以上の特定のタンパク質の発現をコードする核酸フラグメントを指す。遺伝子構築物において、遺伝子は、生来、キメラ、または自然にはない外来性のものであってもよい。典型的に、遺伝子構築物は、「コード配列」を含んでなる。「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。
【0060】
「プロモーター」または「開始制御領域」は、コード配列または機能的RNAの発現を制御することが可能なDNA配列を指す。一般に、コード配列は、プロモーター配列の3’側に局在する。プロモーターは、そのままの形で生来の遺伝子から誘導することができるか、または天然に見出される多様なプロモーターから誘導される多様なエレメントからなるか、またはなお、合成DNAセグメントを含んでなり得る。当業者であれば、多様なプロモーターは多様な組織もしくは細胞タイプ、または多様な発生段階において、あるいは多様な環境条件に応答して、遺伝子の発現を指令することができることを理解している。ほとんどの時期におけるほとんどの細胞タイプにおいて遺伝子を発現させるプロモーターを、通常、「構成性プロモーター」と呼ぶ。
【0061】
本明細書において使用する用語「発現」は、遺伝子に由来するセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定な蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指すことができる。「アンチセンス阻害」は、標的タンパク質の発現を抑制することが可能であるアンチセンスRNA転写物の産生を指す。「過剰発現」は、通常の産生レベルを超えるトランスジェニック生物体または非形質転換生物体における遺伝子産物の産生を指す。「共抑制」は、同一または実質的に類似する外来または内因性遺伝子の発現を抑制することが可能であるセンスRNA転写物または断片の産生を指す(米国特許第5,231,020号明細書)。
【0062】
本明細書において使用する「メッセンジャーRNA(mRNA)」は、イントロンを含まず、かつ細胞によってタンパク質に翻訳され得るRNAを指す。
【0063】
本明細書において使用する用語「非機能性遺伝子」は、コードされるタンパク質を、遺伝子が内因性である野生型株において通常発現されるようには発現しない遺伝子を指す。非機能性遺伝子の発現は、転写、RNAプロセシング、または翻訳のような任意のレベルで破壊され得る。非機能性遺伝子では、典型的に、コードされるタンパク質の発現がほとんど認められないか、または全く認められない。しかし、それはまた、野生型タンパク質より低い酵素活性を有する改変されたタンパク質をコードし得る。
【0064】
本明細書において使用する「形質転換」は、遺伝的に安定に遺伝する核酸フラグメントの宿主生物体への伝達を指す。伝達された核酸は、宿主細胞において維持されるプラスミドの形態であってもよく、またはある伝達された核酸を、宿主細胞のゲノムに組込んでもよい。形質転換された核酸フラグメントを含有する宿主生物体を、「トランスジェニック」または「組み換え」または「形質転換された」生物体と呼ぶ。
【0065】
本明細書において使用する用語「プラスミド」および「ベクター」は、しばしば細胞の中心的代謝の部分ではない遺伝子を担持する染色体外エレメントを指し、通常は、環状二本鎖DNA分子の形態である。そのようなエレメントは、任意の起源に由来する一本鎖または二本鎖DNAあるいはRNAの自律的反復配列、ゲノム組込み配列、ファージもしくはヌクレオチド配列で、線状あるいは環状であってもよく、ここで、プロモーターフラグメントおよび適切な3’非翻訳配列を伴う選択された遺伝子産物に対するDNA配列を細胞に導入することが可能である独特な構築物に、多くのヌクレオチド配列が接続または組み換えられている。
【0066】
用語「作動可能に連結される」は、一方の機能が他方によって影響されるような、単一の核酸フラグメントに対する核酸配列の会合を指す。例えば、プロモーターは、それがコード配列の発現に影響を及ぼすことが可能である場合、コード配列に作動可能に連結される(即ち、コード配列はプロモーターの転写制御下にある)。コード配列は、センスまたはアンチセンス配向で調節配列に作動可能に連結され得る。
【0067】
用語「選択マーカー」は、同定因子、通常、マーカー遺伝子の効果、即ち、抗生物質に対する耐性に基づいて選択することが可能な抗生物質または化学耐性遺伝子を意味し、ここで、効果は、目的の核酸の遺伝を追跡する、および/または目的の核酸を受け継いでいる細胞もしくは生物体を同定するために使用される。
【0068】
用語「実質的になくされた」キシリトール産生および「実質的に認められない」副産物キシリトールは、典型的な実験分析を使用して検出されるキシリトールの量が0に近いか、またはほぼ0である場合を指す。
【0069】
用語「高濃度の混合糖類」は、GFOR変異体キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の増殖の阻害を生じる培地中の全糖濃度を指す。正確な濃度は、培地中の他の成分に依存して変動し得るが、これは、典型的に、約100g/Lより大きい。
【0070】
用語「発酵可能な糖」は、発酵プロセスにおいて、微生物により炭素源として使用することができるオリゴ糖および単糖類を指す。
【0071】
用語「リグノセルロース系」は、リグニンおよびセルロースの両方を含んでなる組成物を指す。リグノセルロース系材料もまた、ヘミセルロースを含んでなり得る。
【0072】
用語「セルロース系」は、セルロース、およびヘミセルロースを含むさらなる成分を含んでなる組成物を指す。
【0073】
用語「糖化」は、多糖類からの発酵可能な糖類の生成を指す。
【0074】
用語「前処置されたバイオマス」は、糖化前の前処置に供されているバイオマスを意味する。
【0075】
「バイオマス」は、任意のセルロース系またはリグノセルロース系材料を指し、そしてセルロースを含んでなり、そして場合により、ヘミセルロース、リグニン、デンプン、オリゴ糖類および/または単糖類をさらに含んでなる材料を含む。バイオマスはまた、タンパク質および/または脂質のようなさらなる成分を含んでなり得る。バイオマスは、単一の供給源から誘導されてもよく、またはバイオマスは、2つ以上の供給源から誘導される混合物を含んでなり得る;例えば、バイオマスは、トウモロコシ穂軸およびコーンストーバの混合物、または草および葉の混合物を含んでなり得る。バイオマスとして、バイオエネルギー作物、農業残渣、一般廃棄物、産業廃棄物、製紙スラッジ、庭ごみ、木材および林業廃棄物が挙げられるが、これらに限定されない。バイオマスの例として、トウモロコシ穀粒、トウモロコシ穂軸、穀物残渣、例えば、トウモロコシ皮、コーンストーバ、草、コムギ、コムギわら、オオムギ、オオムギわら、乾草、イネわら、スイッチグラス、廃紙、サトウキビバガス、モロコシ、ダイズ、穀粒、木、枝、根、葉、木材チップ、おがくず、低木および潅木の粉砕から得られる成分、野菜、果物、花および動物性肥料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
「バイオマス加水分解物」は、バイオマスの糖化から生じる産物を指す。バイオマスはまた、糖化の前に前処置してもよい。
【0077】
ここで使用した標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は当該技術分野において周知であり、サンブルック,J.(Sambrook,J.)、フリッシュE.F.(Fritsch,E.F.)およびマニアティス,T.(Maniatis,T.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1989年)(以後、マニアティス(Maniatis))ならびにシルハビー,T.J.(Silhavy,T.J.)、ベンナン,M.L.(Bennan,M.L.)、およびエンクイスト,L.W.(Enquist,L.W.)、Experiments with Gene Fusions;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,New York)、1984年ならびにグリーン・パブリッシング・アンド・ウィリー−インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley−Interscience)から出版されたアウスベル,F.M.(Ausubel,F.M.)ら、Current Protocols in Molecular Biologyにより記載されている。
【0078】
本発明は、増強されたエタノール産生を有するキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)の操作された株に関する。キシロース資化性Zモビリス(Z mobilis)によってエタノール産生を改善するための課題は、(a)付加価値のない炭素貯蔵を呈し;(b)キシロース資化の第1段階を阻害し;そして(c)細菌増殖を阻害するデッドエンドの毒性中間産物にリン酸化されるキシリトールの合成を減少させるかまたはなくすことである。本出願人らは、内因性酵素GFORがインビボでのキシリトール合成を主に担うことおよびGFOR酵素活性を減少させるかまたはなくすことによって、キシロースからのエタノール産生(速度、収率および力価)が改善されることを発見した。
【0079】
キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)宿主株
キシロースを炭素源として資化することが可能であるザイモモナス(Zymomonas)の任意の株を、本発明の株を調製するための宿主として使用してもよい。エタノールへのキシロースの発酵のために操作されているZ.モビリス(Z.mobilis)などのザイモモナス(Zymomonas)の株が特に有用である。内因性遺伝子は、代謝経路の部分を提供してもよく、またはキシロース代謝に有用な酵素活性を伴うタンパク質を提供するための任意の既知の遺伝子操作技術によって改変されてもよい。例えば、内因性トランスケトラーゼは、キシロース資化経路を作製するときに他の誘導された酵素活性を補い得る。典型的に、米国特許第5514583号明細書(参照により本明細書に援用される)に記載のように、キシロース代謝(図1)に関与する4つの酵素の発現のために、4つの遺伝子がZモビリス(Z mobilis)に導入されている。これらは、キシロースからキシルロースへの変換を触媒するキシロースイソメラーゼ、およびキシルロースをリン酸化して、キシルロース5−リン酸を形成させるキシルロキナーゼをコードする遺伝子を含む。さらに、トランスケトラーゼおよびトランスアルドラーゼ、ペントースリン酸経路の2つの酵素は、キシルロース5−リン酸を、キシロースからエタノールへの代謝を可能にする解糖系のエントナー−ドウドレフ(Entner−Douderoff)経路にペントース代謝を結合する中間体に変換する。これらの酵素をコードするDNA配列は、腸内細菌、ならびにいくつかの酵母および真菌のようなキシロースを代謝することが可能である多数の微生物のいずれかから入手してもよい。コーディング領域の供給源として、ザントモナス(Xanthomonas)、クレブシエラ(Klebsiella)、エシェリキア(Escherichia)、ロドバクター(Rhodobacter)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、アセトバクター(Acetobacter)、グルコノバクター(Gluconobacter)、リゾビウム(Rhizobium)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、サルモネラ(Salmonella)、シュードモナス(Pseudomonads)、およびザイモモナス(Zymomonas)が挙げられる。大腸菌(E.coli)のコーディング領域が特に有用である。
【0080】
コードDNA配列は、Z.モビリス(Z.mobilis)グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼのプロモーター(GAPプロモーター)、およびZ.モビリス(Z.mobilis)エノラーゼのプロモーター(ENOプロモーター)のようなZ.モビリス(Z.mobilis)細胞において発現されるプロモーターに作動可能に連結される。コーディング領域は、プロモーターから個々に発現されてもよく、または2つ以上のコーディング領域が、同じプロモーターからの発現を伴う1つのオペロン内で接続されていてもよい。得られるキメラ遺伝子は、ザイモモナス(Zymomonas)に導入し、そしてプラスミド上で維持してもよく、または例えば、相同組み換え、部位特異的組込み、もしくはランダム組込みを使用して、ゲノムに組込んでもよい。特に有用なキシロース資化株として、CP4(pZB5)(米国特許第5514583号明細書)、ATCC31821/pZB5(米国特許第6566107号明細書)、8b(米国特許出願公開第2003/0162271号明細書;モハゲギ(Mohagheghi)ら、(2004年)Biotechnol.Lett.25;321−325)、およびZW658(本明細書において記載されている;ATTCC番号PTA−7858で寄託されている)が挙げられる。
【0081】
また、天然の物質ではないキシロースのような他の糖類を資化するためにさらに操作されるザイモモナス(Zymomonas)株を、本方法に使用してもよい。例としては、米国特許第5843760号明細書(参照により本明細書に援用される)に記載のようなアラビノース資化のために操作されたZ.モビリス(Z.mobilis)の株がある。
【0082】
GFORによるキシリトール合成の発見
Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化株による所望されない副産物キシリトールの合成は、エタノールの回収率を減少し、そして細菌増殖を阻害する毒性化合物であるキシリトール5−リン酸の形成を生じる(図2を参照のこと)。さらに、キシリトールは、キシロースイソメラーゼ、キシロース資化のために操作された経路における第1の酵素の強力なインヒビターであり、そしてその合成は、細胞がキシロースを代謝する能力を減少する。インビトロ実験は、Z.モビリス(Z.mobilis)におけるキシリトール形成のための少なくとも2つの経路が存在することを確立している(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲、ダニエルソン(Danielson)ら、上掲)が、本出願人らは、生理学的に産生されるキシリトールの大部分がGFOR酵素活性の結果であることを発見している。本明細書に記載されるとおり、ここで、キシロース含有培地上で増殖するキシロースを資化することができるZ.モビリス(Z.mobilis)株(または野生型Z.モビリス(Z.mobilis)のキシルロース合成誘導体)によって合成されるキシリトールの量は、GFOR酵素活性の非存在下で顕著に減少することが見出されている。本出願人らはまた、キシロースからキシルロースへの変換が、インビボでのGFOR仲介キシリトール産生の必須条件であること、およびこの反応は、キシロースイソメラーゼを発現するZ.モビリス(Z.mobilis)株のみにおいて生じ得ることを見出している。それ故、キシロース上で増殖するように操作されているZ.モビリス(Z.mobilis)株におけるキシリトールの主な生理学的供給源は、図IIおよびIIIに依存する反応のうちの1つまたは両方を介してGFORによって合成されることが提唱される。
【数2】
【数3】
【0083】
両方のスキームにおいて、キシルロースは、GFORに不可欠な電子受容体としての役割を果たすこと、およびソルビトール産生を生じるフルクトースとの既知の反応(図I)とは対照的に、この化合物はキシリトールに還元されることに留意すること。GFORは、グルコースおよびフルクトースにかなり特異的であるが、それは、不十分ではあるものの、他の糖類を電子供与体および電子受容体として使用することができることが示されている(ザカライオウ(Zachariou)およびスコープス(Scopes)(1986年)Journal of Bacteriology167:863−869)。それ故、キシロースおよびフルクトースを精製されたタンパク質と共にインキュベートした場合、ソルビトール産生が観察されたが、しかし、グルコースとのコントロール反応と比較して、GFOR酵素活性が約12倍減少した。同論文において、キシルロースが、フルクトースの代わりに電子受容体として作用することができること、およびこの反応は、図IIIに示すキシリトールを生じることが示された。しかし、このような基質の組み合わせにより、GFOR酵素活性が約14倍減少した。これらの観察に加えて、精製されたキシロースイソメラーゼを反応混合物に添加して、キシルロースの供給源を提供する場合、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)から調製される無細胞抽出物は、キシロースからキシリトールを生じることが可能であることも示されており(ダニエルソン(Danielson)、上掲)、それ故、GFORは、図IIに示される反応を触媒することができることが実証される。しかし、これらのGFOR仲介反応が生細胞において生じるかどうかについて、およびもしそうである場合、それらはどの程度キシリトール形成にインビボで寄与するかについては、本出願人らの発見前まで決定されていなかった。同じ不確定要素が、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)無細胞抽出物にも存在し、キシロースからキシリトールへ直接変換することが可能であるNADPH依存性アルドースレダクターゼ活性にも認められた(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲)。実際、プロセス関連条件下において、インビボは言うまでもなく、インビトロでのキシリトール形成に対するGFORおよびNADPH依存性アルドースレダクターゼの相対的寄与について、何らかの見識を提供する上記の無細胞抽出物による実験は行われなかった。それ故、GFORが、原則として、生理学的条件下、キシロース含有培地において、キシロース上で増殖するように操作されているZ.モビリス(Z.mobilis)株におけるキシリトール産生を担うという本出願人らの所見は、意外であり、先行技術から予想することはできなかった。
【0084】
GFOR遺伝子発現の変更
本発明のキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株は、キシリトール合成が減少するほどに、GFORをコードする遺伝子の発現が減少しているかまたは認められないように操作される。機能性酵素の存在を減少するための当業者に既知の任意の遺伝子改変を使用して、GFOR発現を改変してもよい。方法として、GFORをコードする遺伝子全体または遺伝子の一部の欠失、タンパク質が発現されないかまたはより低いレベルで発現されるように(プロモーターもしくはコーディング領域のいずれかにおいて)GFOR遺伝子にDNAフラグメントを挿入すること、GFORコーディング領域に変異を導入して、機能性タンパク質が発現されないように終止コドンまたはフレームシフトを付加すること、およびGFORコーディング領域に1つ以上の変異を導入して、非機能性であるかまたはそれほど活性ではないタンパク質が発現されるようにアミノ酸を変更することが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、アンチセンスRNAまたは干渉RNAの発現によってGFOR発現を阻止してもよく、そして共抑制を生じる構築物を挿入してもよい。これらの方法のすべては、GFOR酵素をコードする既知の配列(配列番号38)を利用する当業者によって容易に実践することができる。GFORコード配列の周囲のDNA配列はまた、いくつかの改変手順において有用であり、そして完全なゲノム配列(ジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692)の形でZ.モビリス(Z.mobilis)に利用可能である。
【0085】
本明細書の実施例3および5において例示されるように、遺伝子改変されたGFOR株を作製するための特に適切な方法は、スペクチノマイシン耐性遺伝子または他の選択マーカーに結合するGFORフランキングDNA配列によって仲介される相同組み換えを使用して、機能性GFOR酵素が発現されないようなGFORコーディング領域への選択マーカーの挿入をもたらすことである。さらに、対応する部位特異的リコンビナーゼの発現後、耐性遺伝子をGFOR遺伝子から切り出すが、後者の活性化は伴わないように、選択マーカーを部位特異的組み換え部位に結合させてもよい。部位特異的組み換えは、後に組み換え部位を残し、これがGFOR酵素の発現を破壊する。相同組み換えベクターを構築して、選択マーカーの切り出し後にGFOR遺伝子に欠失部を残してもよく、これは当業者に周知である。
【0086】
GFORの発現を完全になくすことが好ましいが、しかし、顕著に減少したGFORの発現もまた、本発明の実施形態である。この場合、非機能性GFOR遺伝子とは、通常より低いレベルのGFOR酵素が存在するように、通常の様式では機能しないことを指す。遺伝子不活化のいくつかの方法は、共抑制のようないくらか低いレベルで保持されている発現を生じ得る。本明細書において、改変されたGFOR株は、GFOR酵素活性が減少しているかまたは認められない遺伝子改変された株を指す。
【0087】
GFOR改変株の増殖およびエタノール産生
本発明のGFOR改変キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株を、キシロースを含有する培地において、他の糖類(「混合糖類」)の非存在または存在下で増殖させる。混合糖類は、キシロースに加えて少なくとも1つの糖を含む。ザイモモナス(Zymomonas)細胞の代謝のエネルギー源を提供し得る任意の糖、またはキシロースを含有する混合物に存在する任意の糖が含まれていてもよい。バイオマス糖化から生成される糖類上でGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)細胞を増殖させることが望ましい。典型的に、バイオマスは、例えば、国際公開第2004/081185号パンフレットならびに共有および同時係属中の米国特許出願第60/670437号明細書に記載のように、前処置され、次いで、リンド,L.R.(Lynd,L.R.)ら(Microbiol.Mol.Biol.Rev.(2002年)66:506−577)によって概説されているように、糖化酵素で処置される。バイオマス糖化は、典型的に、キシロースとグルコース、フルクトース、スクロース、ガラクトース、マンノース、および/またはアラビノースとの混合物を含み得る糖類を生成する。キシロースおよびグルコースを含む混合糖類組成物が好ましく、ここで、さらなる糖類が存在してもよい。
【0088】
多様な糖類の割合は、混合物において変動し得、キシロースでは、典型的に、糖類の全量の少なくとも約10%である。好ましくは、キシロースは約40%〜約60%の間である。フルクトースは、サトウキビバガスのようないくつかのバイオマスの糖化によって生成される糖類に存在し、そしてキシロースが糖混合物の少なくとも約10%を保持するように、キシロースまたはグルコースの一部をフルクトースに置き換えてもよい。さらに、アラビノースは、ヘミセルロースから誘導され、それ故、ヘミセルロースを含有する糖化バイオマスから誘導される混合糖類の典型的な成分である。
【0089】
GFOR改変株ではないキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株ではキシリトールが産生されない発酵条件下で、本発明のGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株は増殖し、そして非GFOR改変株に匹敵するほどエタノールを産生する。例えば、5:4のグルコース対キシロース比を伴う約100g/L混合糖のような低糖培地において、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)細胞は、非GFOR改変株と同様に作動する。
【0090】
最大限のエタノール産生および発酵効率のために、キシロースを含む高レベルの糖類を含有する培地において、キシロース資化性エタノロジェンを増殖させることが望ましい。混合糖類は、本発明のZ.モビリス(Z.mobilis)株の増殖のための培地において高濃度で使用され得る。これは、バイオマス糖化糖類の直接使用、またはほとんど希釈を伴わない使用を可能にし、それによって、商業的規模のエタノール産生に所望される発酵容積が縮小される。より大きな濃度のエタノールが産生され得るように、高い糖類濃度が使用される。発酵培地における混合糖類濃度は、典型的に、少なくとも約120g/Lおよび約300g/Lまでである。約150g/L〜約235g/Lの間にある高濃度の混合糖類が特に有用である。
【0091】
エタノールの産生に所望される高濃度混合糖類条件において、ソルビトールは、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の発酵培地に含まれる。本出願人らは、意外にも、ソルビトールを高混合糖類培地に添加すると、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の良好な増殖を可能にしたが、ソルビトールが含まれていなければ、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)は、ほとんどまたは増殖しなかったことを見出した。このことは、12〜36時間の停滞期間後にソルビトール添加を伴わずに濃縮糖混合物に順応することが可能であるGFOR産生株とは極めて対照的である。フルクトースまたは(フルクトースの供給源としての)スクロースを欠く培地において、GFORがソルビトールを合成するか、または浸透圧適応において役割を果たすことは予想されなかった。増殖培地にフルクトースが存在しなければ、図Iに示されるソルビトール合成のためのGFORの既知の反応は、進行し得ない。通常のGFOR酵素活性を伴うキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株が、長い停滞期間を伴うものの、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物において増殖することが可能であることから、フルクトースを伴わなければ、GFORがソルビトールを合成しないことが予想されるため、GFORによるソルビトール合成が浸透圧適応に必要でないことが示唆された。それ故、GFOR酵素活性をなくすことが、フルクトースを欠く増殖培地においてソルビトール産生のレベルに対して効果を有することは予想しておらず、そしてグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖にソルビトールが必要であることも、全く予想外であった。
【0092】
ソルビトール(D−ソルビトールおよび/またはL−ソルビトール)は、約2mM〜200mMの間の濃度で培地に存在し得る。培地におけるより適切な最終濃度は、約2mM〜100mMの間の濃度であり、5mM〜20mMの間の濃度が好ましい。マンニトールを、ソルビトールの代わりに、またはソルビトールとの組み合わせで、培地において使用してもよい。マンニトールは、共有および同時係属中の米国仮特許出願第60/847997号明細書(参照により本明細書に援用される)におけるソルビトールに類似の効果を有することが分かった。さらに、ガラクチトールおよび/またはリビトールを、ソルビトールまたはマンニトールの代わりに、またはソルビトールまたはマンニトールと組み合わせて使用することができることが分かった。ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、リビトールまたはそれらの組み合わせは、すべて、ソルビトールについて記載の濃度と同じ濃度で使用される。
【0093】
酢酸塩のようなインヒビターの存在または非存在下における高度の糖培地におけるような、GFOR改変株ではないキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株によってキシリトールが産生される発酵条件下では、本発明のGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株は、非GFOR改変株より優れている。本出願人らは、消費されるキシロースの全量および最終的なエタノール力価の両方について、GFOR改変株の方が非改変株より大きいことを見出した。さらに加えて、プロセス関連条件下では、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)による発酵においてキシリトールは産生されないが、本明細書の実施例6において示されるように、所定の環境下では、非GFOR機構によって少量が合成され得る。
【0094】
キシロース資化およびエタノール産生における改善は、異なる発酵条件下で変動する。GFOR非改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株によって高レベルのキシリトールが産生される条件下では、キシリトール合成を欠如させると、GFOR変異の効果がさらに大きくなる。例えば、酢酸塩のようなインヒビターが培地に存在する場合、より多量のキシリトールがGFOR非改変株によって産生される。このキシリトール産生は、GFOR変異によって完全になくされ、GFOR変異を伴わずに少量のキシリトールが産生される条件におけるよりも、キシロース資化およびエタノール産生が増加することを可能にする。酢酸塩は、典型的に、処置されたセルロース系バイオマスに存在するため、処置されたセルロース系バイオマスから誘導される炭素源上において増殖させようとするエタノロジェンでは、酢酸塩に対して低減した感受性が所望される。それ故、発酵においてバイオマス加水分解物を使用する場合、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株を使用する発酵が特に有益である。
【0095】
エタノール産生のための発酵
エタノールの産生のため、組み換えGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)を、キシロースを含む混合糖類を含有する培地と接触させる。増殖が阻害されるほど混合糖類の濃度が高い場合、培地は、ソルビトール、マンニトール、またはそれらの混合物を含んでいる。ガラクチトールまたはリビトールを、ソルビトールまたはマンニトールの代わりに使用するか、またはソルビトールまたはマンニトールと組み合わせてもよい。Z.モビリス(Z.mobilis)は、発酵が発生し、そしてエタノールが産生される培地で増殖する。発酵は、空気、酸素、または他の気体の補充を伴わずに(嫌気性、微好気性(microaerobic)、または微好気性(microaerophilic)発酵のような条件を含み得る)、少なくとも約24時間行うが、30時間以上行ってもよい。エタノール産生が最大に到達するタイミングは、発酵条件に依存してばらつきがある。典型的に、インヒビターが培地中に存在する場合、より長い発酵期間が必要である。発酵は、約30℃〜約37℃の間の温度、約4.5〜約7.5のpHで行ってもよい。
【0096】
GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)は、キシロースを含む混合糖類を含有する培地中、実験規模の発酵槽、および商業的量のエタノールが産生される大規模化された発酵において増殖させることができる。エタノールの商業的産生が所望される場合、さまざまな培養方法論を適用することができる。例えば、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)からの大規模産生を、バッチおよび連続培養方法論の両方によって、産生させることができる。古典的なバッチ培養方法は閉鎖系であり、ここで、培地の組成は培養の開始時に設定され、培養プロセス中に人工的に変更されることはない。それ故、培養プロセスの開始時に、培地に所望の生物体を接種し、増殖または代謝活動を可能にして、系には何も添加しない。しかし、典型的に、「バッチ」培養は、炭素源の添加についてのバッチ処理であり、しばしば、pHおよび酸素濃度のような因子を制御することが試みられる。バッチ系では、系の代謝物およびバイオマス組成は、培養が終了する時点まで絶えず変化する。バッチ培養物内で、細胞は、静的な対数期を通過して高増殖対数期に達し、最終的に、増殖速度が減少または停止する定常期へと加減する。処理を行わなければ、定常期の細胞は最終的に死滅する。対数期の細胞は、しばしば、いくつかの系の最終産物または中間体の大部分の産生を担う。定常期または指数期後の産生は他の系において得ることができる。
【0097】
標準的なバッチ系の1つの変形例は流加培養系である。流加培養プロセスもまた、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の増殖に適切であり、培養の進行に伴って基質を増量しながら添加することを除いて、典型的なバッチ系を含んでなる。異化代謝産物抑制が細胞の代謝を阻害し易い場合、および培地中の基質量を制限することが所望される場合、流加培養系が有用である。流加培養系における実際の基質濃度の測定は、困難であるため、これは、pH、およびCO2のような排気体分圧のような測定可能な因子の変化に基づいて、見積もられる。バッチおよび流加培養方法は当該技術分野において一般的かつ周知であり、その例は、Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology、クリューガー(Crueger)、クリューガー(Crueger)、およびブロック(Brock)、第2版(1989年)Sinauer Associates,Inc.、マサチューセッツ州サンダーランド(Sunderland,MA)、またはデスパンデ,ムクンドV.(Deshpande,Mukund V.,Appl.Biochem.Biotechnol.,36,227(1992年)(参照により本明細書に援用される)に見出すことができる。
【0098】
エタノールの商業的産生はまた、連続培養によっても達成することができる。連続培養は開放系であり、ここで、規定された培養培地を連続的にバイオリアクターに添加し、同時に等量の順化培地を処理のために取り出す。一般的に、連続培養は細胞を一定の高液体相密度で維持し、ここで、細胞は主に対数増殖期にある。あるいは、連続培養を固定化された細胞によって実施してもよく、ここで、炭素および栄養物が連続的に添加され、価値のある産物、副産物および不要産物が細胞塊から連続的に取り出される。細胞の固定化は、当業者に公知である天然および/または合成材料からなる広範な固相支持体を使用して実施することができる。
【0099】
連続または半連続培養によって、細胞増殖または最終産物の濃度に影響を及ぼす1つの因子またはいくつかの因子を調節することが可能である。例えば、1つの方法は、炭素源のような制限されている栄養物または窒素レベルを一定速度で維持し、そして他のすべてのパラメータを加減することが可能である。他の系では、培地の濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、増殖に影響を及ぼす多くの因子を連続的に変更することができる。連続系は定常状態の増殖条件を維持しようとし、それ故、培地を抜き取ることによって起きる細胞の消失は、培養における細胞増殖速度に対して均衡を保たなければならない。連続培養プロセスのための栄養物および増殖因子を調節する方法ならびに産物形成の速度を最大限にするための技術については、産業微生物学の分野において周知であり、さまざまな方法がブロック(Brock)、上掲によって詳述されている。
【0100】
以下の発酵レジメンがエタノール産生に特に適切である。所望されるGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株を、オービタルシェーカー中、約150rpmで振盪しながら約30℃〜約37℃で振盪フラスコ中、半複合培地(semi−complex medium)において増殖させ、次いで、類似の培地を晩有する10L種発酵槽に移す。発酵パラメータがエタノール産生に最適化されている産生発酵槽に種培養物を移す場合、OD600が3〜6の間になるまで、種培養物を、種発酵槽において嫌気的に増殖させる。種タンクから産生タンクに移される典型的な播種容積は、約2%〜約20%v/vの範囲である。典型的な発酵培地は、リン酸カリウム(1.0〜10.0g/l)、硫酸アンモニウム(0〜2.0g/l)、硫酸マグネシウム(0〜5.0g/l)、酵母抽出物またはダイズを主材料とする製品(0〜10g/l)のような複合窒素源のような最小培地成分を含有する。最終濃度で約5mMのソルビトールまたはマンニトールが培地中に存在する。キシロース、およびグルコース(またはスクロース)のような少なくとも1つのさらなる糖を含む混合糖類は、炭素源を提供し、エタノールの率および力価を最大限にするために初期のバッチ処理された炭素源(50〜200g/l)の枯渇に際して発酵容器に連続的に添加する。炭素源供給速度は、培養物が、酢酸のような毒性の副産物の形成をもたらし得るグルコースの過渡の蓄積を生じないことを確実にするために、動力学的に調整する。利用する基質から産生されるエタノールの収率を最大限にするために、最初にバッチ処理するか、または発酵過程中に供給されるリン酸塩の量によって、バイオマスの増殖を制限する。発酵は、(水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、もしくは水酸化ナトリウムのような)苛性溶液および硫酸またはリン酸のいずれかを使用して、pH5.0〜6.0で制御する。発酵槽の温度は、30℃〜35℃に制御する。発泡を最小限にするために、消泡剤(任意のクラス−シリコーンを主材料とするもの、有機物を主材料とするものなど)を、必要に応じて容器に添加する。汚染を最小限にするために、場合により、カナマイシンのような株において抗生物質耐性マーカーが存在する抗生物質を使用してもよい。
【0101】
上記の条件の任意の組、および当業者に周知であるこれらの条件におけるさらなる変形例は、キシロース資化性組み換えザイモモナス(Zymomonas)株によるエタノールの産生のための適切な条件である。
【実施例】
【0102】
本発明を、以下の実施例においてさらに規定する。これらの実施例は、好適な実施形態を示す一方、あくまで例示として示されることが理解されるべきである。当業者であれば、上記の考察およびこれらの実施例から本発明の不可欠な特徴を確かめることが可能であり、また、その趣旨および範囲から逸脱することなく、それを多様な用途および条件に適合させるように本発明の多様な変更および改変をなすことが可能である。
【0103】
一般的方法
ここで使用した標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は当該技術分野において周知であり、サンブルック,J.(Sambrook,J.)、フリッシュ,E.F.(Fritsch,E.F.)およびマニアティス,T.(Maniatis,T.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1989年)(以後、「マニアティス(Maniatis)」);ならびにシルハビー,T.J.(Silhavy,T.J.)、ベンナン,M.L.(Bennan,M.L.)、およびエンクイスト,L.W.(Enquist,L.W.)、Experiments with Gene Fusions;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1984年);ならびにグリーン・パブリッシング・アソシエーション・アンド・ウィリー−インターサイエンス(Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience)ニュージャージー州ホーボーケン(Hoboken,NJ)(1987年)から出版されたアウスベル,F.M.(Ausubel,F.M.)ら、Current Protocols in Molecular Biologyにより記載されている。
【0104】
略語の意味は次のとおりである:「kb」はキロベースを意味し、「bp」は塩基対を意味し、「nt」はヌクレオチドを意味し、「hr」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「L」はリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「mM」はミリモルを意味し、「μM」はマイクロモルを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「μmol」はマイクロモルを意味し、「pmol」はピコモルを意味し、「Cm」はクロラムフェニコールを意味し、「Cmr」はクロラムフェニコール耐性を意味し、「Cms」はクロラムフェニコール感受性を意味し、「Spr」はスペクチノマイシン耐性を意味し、「Sps」はスペクチノマイシン感受性を意味し、「XI」はキシロースイソメラーゼであり、「XK」はキシルロキナーゼであり、「TAL」はトランスアルドラーゼであり、「TKT」はトランスケトラーゼであり、「EFT」は発酵経過時間を意味し、「RM」は10g/Lの酵母抽出物+2g/LのKH2PO4を含有するリッチ培地を意味し、「MM」は10g/Lの酵母抽出物、5g/Lのトリプトン、2.5g/Lの(NH4)2SO4および0.2g/LのKH2PO4を含有する接合培地(mating medium)を意味する。
【0105】
酵素アッセイのためのザイモモナス(Zymomonas)の無細胞抽出物の調製
細胞を、50mlのRM+2%グルコース中、30℃で、1晩、1.0〜1.2のOD600まで増殖させた。細胞を、4500rpmで10分間、4℃で、遠心分離により回収した。上清を廃棄し、そして細胞ペレットを、25ml氷冷音波処理用緩衝液(10mMのTris、pH7.6、10mMのMgCl2)で洗浄し、続いて、4500rpmで10分間、遠心分離を行った。ペレットを、2.0〜2.5ml音波処理用緩衝液+1mMジチオスレイトールに再懸濁した。500μlアリコートを、1分間、エッペンドルフ遠心管中、4℃で遠心分離した。上清のほとんどを廃棄し、約10〜20μlを残して、ペレットの乾燥を防止した。細胞を凍結し、そしてアッセイを行うまで−80℃で貯蔵した。アッセイの前に、細胞を融解し、そして500μlの音波処理用緩衝液+1mMジチオスレイトールで再懸濁した。混合物を、ブランソン(Branson)ソニファイアー450を使用して、45秒間、62%デューティサイクルおよび2の出力制御関数で、音波処理の間隔の間、サンプルを約3〜5分間冷やしながら、2回音波処理した。サンプルを、14,000rpmで60分間、ベックマン(Beckman)微量遠心機中、4℃で遠心分離した。上清を、新しいチューブに移し、そして4℃で保持した。ピアス(Pierce)BCAアッセイを、タンパク質濃度を決定するために使用した。
【0106】
この酵素は他の酵素要素より不安定であるため、トランスケトラーゼ(TKT)アッセイは、通常、最初に実施した。TKTアッセイの図を図3Aに示す。
【0107】
マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.37mMのNADP、50mMのTrisHCl pH7.5、8.4mMのMgCl2、0.1mMのTPP((チアミン塩化ピロリン酸)、0.6mMのE4P(エリトロース−4−リン酸)、4mMのBHP(βヒドロキシピルビン酸)、4U/mlのPGI(ホスホグルコースイソメラーゼ)、および4U/mlのG6PD(グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ)。A340を、3〜5分間、プレートリーダー上で読み取った。TKT活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1μmolのD−フルクトース6−リン酸/分の形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.55cm
(NADP→NADPHのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク質濃度(mg)
【0108】
トランスアルドラーゼ(TAL)アッセイの基礎を図3Bに示す。マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.38mMのNADH、87mMチエタノールアミン(thiethanolamine)、17mMのEDTA、33mMのF6P(フルクトース−6−リン酸)、1.2mMのE4P(エリトロース−4−リン酸)、2.0U/mlのGDH(グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)、および20U/mlのTPI(トリオースリン酸イソメラーゼ)。プレートを5分間、インキュベートし、次いで、A340を3〜5分間、読み取った。TAL活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1分間あたりの1μmolのD−グリセルアルデヒドの形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.5
5cm
(NADH→NADのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク
【0109】
キシロースイソメラーゼ(XI)アッセイの基礎を図3Cに示す。マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.256mMのNADH、50mMキシロース、10mMのMgSO4、10mMチエタノールアミン(thiethanolamine)、および1U/mlのSDH(ソルビトールデヒドロゲナーゼ)。A340を、3〜5分間、プレートリーダー上で読み取った。XI活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1分間あたりの1μモルのD−キシルロースの形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.55cm
(NADHP→NADのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク質濃度(mg)
【0110】
キシルロキナーゼ(XK)アッセイの基礎を図3Dに示す。マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.2mMのNADH、50mMのTris HCl pH7.5、2.0mmのMgCl2−6H2O、2.0MのATP、0.2MのPEP(ホスホエノールピルビン酸)、8.5mMのD−キシルロース、5U/mlのPK(ピルビン酸キナーゼ)、および5U/mlのLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ(lactate dehydrognase))。A340を、3〜5分間、プレートリーダー上で読み取った。XI活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1分間あたりの1μモルのD−キシルロースからD−キシルロース−5−リン酸への形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.55cm
(NADH→NADのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク質濃度(mg)
【0111】
HPLC方法
分析は、LC 3DのAgilent1100シリーズHPLCおよびAgilent ChemStationソフトウェアで行った。カラムは、BioRad Micro−Guard Cartridge Cation−H(125−0129)を伴うBioRad Aminex HPX−87H(HPLC Organic Analysis Column125−0140)であった。操作条件は以下のとおりであった:
流速:0.6mL/分
溶媒:0.01N H2SO4
停止時間:25分
注入容積:5μL
オ−トサンプラ−:温度管理(10℃または4℃)
カラム温度:55℃
検出器:外部標準検量線を伴う屈折率(40℃)
【0112】
実施例1
ZW658、キシロースを発酵させるザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)株の構築
ZW658を、連続的な転位事象を介して、キシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼをコードする4つのキシロース資化遺伝子を含有する2つのオペロン、PgapxylABおよびPgaptaltktをZW1(ATCC番号31821)のゲノムに組込むことによって構築し、続いて、キシロースを含有する選択培地に適応した。以前に、米国特許出願公開第2003/0162271号明細書に記載の8bと呼ばれるキシロースを発酵させるザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)株を、相同組み換えおよびトランスポゾンアプローチの組み合わせを介して、選択抗生物質マーカーと共に2つのオペロンPgapxylAxylBおよびPenotaltktをザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)5Cのゲノムに組込むことによって、構築し、続いて、適応およびNTG変異誘導を行った。このアプローチは利点として組込み部位の多数の選択肢および比較的高い挿入頻度を付与するため、ZW658の調製では、部位特異的相同組み換えとは対照的に、転位(エピセンター(Epicentre)社製EZ::Tnインビトロ転位システム)を使用した。キシロース資化酵素をコードする4つの遺伝子を配列し、そして組込みのための2つの個別のオペロン:PgapxylABおよびPgaptaltktとしてクローニングした。2つのP1ファージCreリコンビナーゼ認識配列(loxP)によってフランキングされる抗生物質耐性マーカー、クロラムフェニコール耐性(Cmr)遺伝子を、組込み体の選択のための各オペロンに付着させた。2つのオペロンの組込みを、2段階の連続様式:Pgaptaltkt続いて、PgapxylABで達成した。Cm耐性選択は、プラスミド上のCreリコンビナーゼを発現させ、続いて、各組込み後のプラスミドのキュアリングによって、取り出されるため、両方の組込みにおいて使用した。このプロセスにより、選択のために同じ抗生物質マーカーを複数回使用することが可能であった。さらに重要なことに、それは、オペロンの組込みの選択のために誘導される抗生物質マーカーの取り出しを可能にした。このプロセスにより、商業的用途のための発酵株に対する抗生物質耐性遺伝子の悪影響がなくされた。
【0113】
転位のためのpMODPgaptaltktCmの構築
米国特許出願公開第2003/0162271号明細書(その明細書の実施例9)に記載のように、大腸菌(E.coli)由来のトランスケトラーゼ(tkt)コーディング領域を含有する2.2kbのDNAフラグメントを、BglII/XbaI消化によってpUCtaltkt(米国特許出願公開第2003/0162271号明細書)から単離し、そしてBamHI/XbaIで消化したpMOD(エピセンターバイオテクノロジーズ(Epicentre Biotechnologies)、ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))ベクターにクローニングし、pMODtktを得た。ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)gap(Pgap;グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のプロモーター領域を大腸菌(E.coli)トランスアルドラーゼのコーディング領域(tal)に次のとおりに融合することによって、Pgaptalと命名されるPCRフラグメントを作製した。配列番号1および2を伴うプライマーを使用して、Pgapフラグメント(その構築については米国特許第5514583号明細書(実施例3)に記載されている)をpZB4から増幅した。pZB4は、Pgap−xylA/xylBオペロンおよびPENO−tal/tktオペロンを含有する。配列番号3および4を伴うプライマーを使用して、talコーディング領域フラグメントを、pZB4から増幅した。テンプレートとしてPgapおよびtalフラグメントを使用し、配列番号5および6を伴うプライマーを使用して、Pgaptalフラグメントを増幅した。このフラグメントをXbaIで消化し、そしてプラスミドpMODtktのtktコーディング領域の上流にクローニングした。Cmlox(F,sfi)およびCmlox(R,sfi)プライマー(配列番号7および8)ならびにテンプレートとしてpZB186を使用するPCRによって、loxP::Cmフラグメントを作製した。pZB186は、生来のZ.モビリス(Z.mobilis)プラスミド、ならびに米国特許第514583号明細書(実施例3)およびチャン(Zhang)ら((1995年)Science267:240−243)に記載のpACYC184の組み合わせである。最後に、loxP::CmPCRフラグメントを、Pgaptaltktを含有するプラスミドのSfiI部位に挿入し、組込みプラスミドpMODPgaptaltktCm(図4)を形成させた。このプラスミドでは、Pgaptaltkt loxP::Cmフラグメントを、pMODベクターの2つのモザイク末端(mosaic end)(トランスポナーゼ結合部位)の間に挿入した。pMODPgaptaltktCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列を、配列番号9として示す。
【0114】
ZW1におけるpMODPgaptaltktCmの転位および形質転換
プラスミドpMODは、pUCに基づくベクターであり、従って、ザイモモナス(Zymomonas)における非複製ベクターである。プラスミドpMODPgaptaltktCmを、Mg2+の存在下、室温で1時間、トランスポゼースで処置し、そして(200オーム、25μFおよび16kV/cmに設定したバイオラッド・ジーン・パルサー(BioRad Gene Pulser)を使用する)エレクトロポレーションによって、ZW1細胞を形質転換するために使用した。エレクトロポレートした細胞を、50g/Lグルコースおよび1mMのMgSO4を補充した10g/L酵母抽出物、5g/Lトリプトン、2.5g/Lの(NH4)2SO4、0.2g/LのK2HPO4)からなる接合培地(mating medium)(MM)中、6時間、30℃でインキュベートした。形質転換混合物を、50g/Lグルコースおよび120μg/mLクロラムフェニコールを補充したMM中に15g/Lバクト(Bacto)寒天を含有する寒天プレート上でプレート化し、そして30℃で嫌気的にインキュベートした。約2日間後、形質転換体が目視で認められた。形質転換/転位頻度は、約3×101/μgのDNAであった。
【0115】
合計で39個のCmr形質転換体コロニーを得た。21個のコロニーを拾い出し、そしてPCRおよび酵素活性アッセイによってさらに分析した。プライマー配列番号10および11を使用するPCRにより、形質転換体におけるtalおよびtktコーディング領域を含有する3kbのDNAフラグメントの存在を確認した。21個の組み換え体コロニー由来のプラスミドDNAによる戻し形質転換により、大腸菌(E.coli)において戻し形質転換体が作製されなかったことから、talおよびtktは、ZW1のゲノムに組込まれたことが示唆された。マイクロプレート用に改変したプロトコル(一般的方法)を使用して、これらの組込み体を、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ活性について試験した。ピアス(Pierce)BCAタンパク質アッセイを、タンパク質濃度の決定するために使用した。形質転換体を、120μg/mlクロラムフェニコール)を補充した2%(w/v)グルコースを含有するRM培地中、50ml円錐遠心管において30℃で増殖させた。酵素アッセイでは、コントロール株8bおよびZW1も増殖させた(ZW1ではRM+2%グルコースを使用した)。OD600が1.0に到達した場合、細胞を回収した。細胞を1回洗浄し、そして音波処理用緩衝液(10mMのTris−HCl、pH7.6および10mMのMgCl2)に再懸濁した。米国特許出願公開第2003/0162271号明細書に記載のように、酵素アッセイを行った。単位をμモル/分−mgとして示す。1つを除いて、すべてのサンプルは、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ活性を有した。
【0116】
tktプローブを使用して、PstIで消化した選択された組込み体のゲノムおよびプラスミドDNAに対し、サザンハイブリダイゼーションを実施した。ZW1 DNAは、tktプローブとはハイブリダイズしなかった。すべての組込み体ゲノムDNAサンプルにおいて、共通の1.5kbのバンドが認められたが、これは、tkt中のPstI部位とtal中のPstI部位との間において予想されるDNAフラグメントである。第2の認められる高分子量(6kb以上)のバンドは、各系統において個別のゲノム組込み部位を示す独立した系統T2、T3、T4およびT5の間で独特であった。興味深いことに、プラスミドおよびT5のゲノムDNAの両方ともtktプローブとハイブリダイズし、Pgaptaltktもまた、生来のプラスミド上のT5に組込まれた可能性があることを示した。Cmrマーカーを取り出すためのさらなるCre処置について、これらの4つの株(T2、T3、T4およびT5)を選択した。
【0117】
taltkt組込み体からCmrマーカーを取り出すためのCre処置
染色体からCmrマーカーを取り出すため、T2、T3、T4およびT5をpZB188/Spec−Creで形質転換した。このプラスミドは、Creリコンビナーゼの発現カセットを含有するザイモモナス(Zymomonas)−大腸菌(E.coli)シャトルベクターpZB188[チャン(Zhang)ら(1995年)Science267:240−243;米国特許第5514583号明細書]の誘導体である。pZB188/Spec−Creは、それがカナマイシン−耐性遺伝子の代わりにスペクチノマイシン−耐性遺伝子を有することを除いて、実施例10に記載されているCre発現ベクター(pZB188/Kan−Cre)と同一である。2%グルコースおよび200μg/mlスペクチノマイシン)を補充したMM寒天プレート上で、形質転換体を選択した。Spr耐性コロニーを拾い出して、2%グルコースおよび200μg/mlスペクチノマイシンを補充したRM寒天プレートおよび2%グルコースおよび120μg/mLのCmを補充したRM寒天プレート上に移した。拾い出したコロニーの100%がCmsであったことから、CreによるCmrの高い効率の切り出しが示された。SprCms形質転換体を、RM+2%グルコースにおいて、37℃、2〜5回の連日継代で培養し、pZB188aadACreFをキュアリングした。各継代時に、細胞を希釈し、そして拾い出して、200μg/mLのSpを伴うまたは伴わない同じ培地のさらなるプレートに移すために、RM+2%グルコース寒天プレート上にプレート化した。PCRによってSpsコロニーを分析して、pZB188aadACreFの消失を確認した。組込み体のプラスミドがキュアリングされた子孫を、T2C、T3C、T4CおよびT5Cと命名した。これらの転位組込み体が安定であるかどうかを調べるために、これらの4つの株を、RM+2%グルコースにおいて増殖させ、次いで、10mlの同じ培地に移し、そして37℃で、2回反復測定の試験管において増殖させた。細胞を、10日間連日、または約100代まで継代した。1代および10代継代後、コロニーを希釈し、そしてコロニー単離のためにRMGプレート上にプレート化した。試験した各株の各継代由来の12個のコロニーは、5’Pgapおよび3’tktプライマー(配列番号1および11)を使用するコロニーPCRによるPgaptaltktの存在についてポジティブであった。トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ活性もまた、(一般的方法に記載のとおりに)1回目および10回目の継代後の単離体について測定した。4つのすべての組込み体は、非選択的倍地上の100代目後もTALおよびTKT活性の両方について類似のレベルを有したことから、これらの組込み体が遺伝的に安定であることが示唆された。
【0118】
転位のためのpMODPgapxylABCmの構築
次の工程は、ZW1::Pgaptaltkt組込み体(T2C、T3C、T4CおよびT5C)にPgapxylAB loxP::Cmオペロンをさらに組込むことであった。プラスミドpMODPgaptaltktCm(図4)に基づいて、組込みプラスミドpMODPgapxylABCm(図5)を構築した。SacI/SfiI消化によってPgaptaltktDNAフラグメントを取り出した。SacI、NotI、およびSfiI制限部位を含有するアダプターフラグメントを、連結によって導入した。次いで、pZB4(米国特許第5514583号明細書)から単離したPgapxylABのNotIフラグメントを、アダプターのNotI部位にクローニングした。キシロースイソメラーゼ(XI)はxylAによってコードされ、そしてキシルロキナーゼ(XK)はxylBによってコードされる。pMODPgapxylABCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列を、配列番号12として示す。
【0119】
T2C、T3C、T4CおよびT5CにおけるpMODPgapxylABCmの転位および形質転換
PgaptaltktCmの組み込みと同様のアプローチを使用して、T2C、T3C、T4CおよびT5Cを、トランスポナーゼで処置した(上記の)pMODPgapxylABCmで形質転換/転位した。Cm選択後の2回の形質転換/転位実験で、6つの組込み体(T3CCmX1、T3CCmX2、T3CCmX3、T4CCmX1、T5CCmX1、T5CCmX2)を得た。すべてについて、2つの組のプライマー:配列番号13、および14、ならびに配列番号15および16を使用するPCRによって、xylABの存在か確認されたが、但し、T2CcmX1およびT2CcmX6については、プライマー配列番号13および14を使用すると、PCRフラグメントが検出されなかった。
【0120】
2つのPCRネガティブ系統を含む組込み体を、XI、XK、TALおよびTKT活性についてアッセイした(一般的方法)。図6および7において示される結果は、6つのxylAB組込み体T3CCmX1、T3CCmX2、T3CCmX3、T4CCmX1、T5CCmX1、およびT5CCmX2はすべて、XI、XK、TALおよびTKT活性を有したことを示した。ネガティブな親コントロールと比較して、XIおよびXK活性が新たに獲得された(図6)。TALおよびTKT活性は、親コントロールと同じように維持された。すべての結果は、タンパク質が作製され、そして機能的であることを示した。酵素活性レベルにはばらつきが認められたが、TIおよびXK活性は、同じプラスミドで形質転換/転位されたZW1組込み体のTIおよびXK活性と同様であった。XI、XK、TALおよびTKTの活性のレベルは、株8bより低かった。
【0121】
xylABオペロンの組込みを、サザンハイブリダイゼーションによって確認した。6系統のゲノムおよびプラスミドDNAの両方を、SphIで消化し、そしてジゴキシゲニン(digoxenin)標識xylBプローブにハイブリダイズさせた。xylBにおけるSphI部位およびpMODベクターベクター上の隣接するクローニング部位におけるもう1つのSphI部位から作製される約3kbの共通のバンドは、すべてのゲノムDNAサンプルに存在し、さらに、ゲノムDNAサンプル中に、より高い分子量のハイブリダイズバンドが認められたことから、染色体にPgapxylABオペロンのための4つの組込みの部位が存在することが示された。T3CCmX1およびT3CCmX2は、同じ組込み部位を有するようであり、T3CCmX3およびT4CCmX1は、同じ組込み部位を有し得、そしてT5CCmX1およびT5CCmX2はそれぞれ、個別の組込み部位を有した。PstIによる同じDNAの消化、それに続く、tktプローブとのサザンハイブリダイゼーションにより、各組込み体は、そのそれぞれの親株と同じハイブリダイゼーションパターンを有したことが実証された。
【0122】
キシロース培地におけるZW1::Pgaptaltkt PgapxylABCm組込み体の適応
キシロース資化のための4つのすべての酵素活性が存在しているにもかかわらず、先の観察(米国特許出願公開第2003/0162271号明細書)では、組込み体は、キシロース上で直ぐには増殖しないことが示された。キシロース上での増殖は、(試験管中またはプレート上のいずれかにおける)キシロース培地上での長期のインキュベーション、適応と呼ばれるプロセス後、生じ得る。
【0123】
株は、以下のとおりに適応させた。ZW1::PgaptaltktPgapxylABCm組込み株を、(10g/l酵母抽出物、2g/lのKH2PO4、20g/lまた
は2%(w/v)キシロースならびにRMGX(0.025%(w/v)グルコース、4%(w/v)キシロースを伴うRMを含有する)RMXを含有する試験管およびプレートに播種した。低レベルのグルコースを使用して、初期の増殖を支持し、適応中の変異の可能性を増加させた。培養およびプレートの両方におけるキシロースに対する適応についての少なくとも5つの試みのうちの1つが、成功であった。30℃での10日間の嫌気的インキュベーションの後、17および19個のコロニーが、それぞれT3CCmX1およびT3CCmX2細胞をプレート化したMMGX上で認められた。コロニーは小さく、そしてプレート上では健常でないように見えた(透明であった)。12個のコロニー(T3CCmX1プレーティング由来の4個:T3CCmX11、T3CCmX12、T3CCmX13およびT3CCmX110;T3CCmX2プレーティング由来の8個:T3CCmX24、T3CCmX25、T3CCmX26、T3CCmX27、T3CCmX28、T3CCmX29、T3CCmX211およびT3CCmX212)をRMGCm120に播種し、そしてさらなる適応のために3mlのRMXに移して、キシロース上でより迅速に増殖することが可能な系統を得た。
【0124】
3mlのRMXを含有する試験管における組込み体の適応は、30℃で行った。OD600を、スペクトロニック(Spectronic)601分光光度計で定期的にモニターした。増殖が対数期の中間部に到達したら、培養をRMXの新鮮な管に移した。このプロセスを、7継代、連続した。増殖速度および最終OD(非線形読み取り)が、継代の間に改善された。
【0125】
6回目の継代において、培養物をRMXプレート上から画線して、単一のコロニーを単離した。3つの組込み体:T3CCmX13、T3CCmX26およびT3CCmX27が、RMX画線プレート上で他より迅速に増殖したが、これらを、以下の表および考察でX13、X26およびX27と称した。最良のキシロース資化増殖体をスクリーニングするために、TX13、X26およびX27に対するそれぞれ4個の大きな(L1−4)および4個の小さな(S1−4)コロニーを選択し、そして増殖、糖資化、およびエタノール産生をモニターし得るように、RMX試験管中で増殖させた。コロニーを、1晩、30℃で増殖させ、続いて、2回反復測定の試験管中3mlのRMXにOD600=0.05を播種した。X27は、RMGにおいて、他の培養物より遅く増殖し、そして6.5時間後に再度、播種した。69時間(X27では62.5時間)後、サンプルを、HPLC分析(一般的方法)のために採取した。図8は、69時間目(すべてのX27培養物については62.5時間)での培養の平均エタノール収率(理論的収率の%)およびキシロース資化(%)を示す図表である。大きなコロニーと小さなコロニーとの間で、有意差は認められなかった。X27の性能は、キシロース上のX26と比較して、より良好であったが、それは、グルコース上では、より遅い増殖を示した。従って、最上位の性能を示すもの、X13(X13L3)およびX26(X26L1)の大きなコロニーを、pH制御された発酵におけるさらなる評価のために選択した。発酵を、RMG(6%グルコース)、RMX(6%キシロース)およびRMGX(8%:4%;グルコース:キシロース)中、37℃で、株X13L3およびX26L1、ならびにコントロール株8bについて行った。RMG(6%)およびRMGX(8%:4%)において増殖したX13L3およびX26L1によるグルコースの発酵は、かなり迅速に進行した。RMGX(8%:4%)におけるキシロースの発酵は、X13L3およびX26L1では、株8bと比較して緩徐であった。さらに、RMX(6%)上、37℃での増殖は、X13L3およびX26L1の両方とも、長い停滞の後に生じた。いくらかの単離体、X13b、X13cおよびX13FLを、RMX(6%)発酵から回収した。これらの単離体を、本来の株X13a(X13L3の単離体)およびX26と共に、本実施例において先に記載のようにCre処置に供して、ZW1::PgaptaltktPgapxylABCm株からCmrマーカーを取り出した。得られたCre処置されたCmrを含まない組込み体を:X13aC、X13bC、X13cC、X13FLCおよびX26Cと命名した。
【0126】
RMX(5%)中37℃での連続継代によるキシロース培地における組込み体の適応
先に記載のように、RMX上、30℃での初期のZW1::PgaptaltktPgapxylABCm株の適応により、これらの条件における株の増殖が顕著に改善された。しかし、適応された株は、RMX(6%)における37℃での増殖および発酵の間、長い停滞を蒙る。より高い糖濃度および温度を含む好適なプロセス条件でキシロース発酵のために組込み体をさらに改善するために、進化または適応プロセスを、RMX(5%)中37℃で継続させた。連続継代を行い、そして最も良好な資化増殖体を選択した。このプロセスで使用した組込み体は、X13aC、X13bC、X13cC、X26CおよびX13FLCを含んだ。これらの5つの株を、RMX中30℃で6継代増殖させた後、さらに5〜16代の継代のために、37℃でRMX(5%)に移した。すべての継代中および後、培養物をRMXプレート上に画線し、そして37℃でインキュベートして、単一のコロニーを単離した。大きなコロニーについてさらに、RMXプレート上への画線および37℃でのインキュベートを3〜4回行い、コロニーを精製した。最終的な大きなコロニーを、RMX(5%)における37℃での増殖試験のために選択した。
【0127】
RMX(5%)培地における37℃での適応由来の株の評価
連続継代による適応後に単離した18個のコロニーを、はじめに、RMX(5%)試験管中、37℃で試験した。12の株を、第2の試験管評価のために選択した。比較のために、株8bをすべての評価に含めた。18個のコロニーを、RMGにおいて、37℃で1晩増殖させ、遠心分離し、そして細胞を、第1の評価のために、試験管中4mlのRMX(5%)に37℃で、静置状態で播種した。増殖(OD600、非線形的)およびエンドポイントのHPLC結果(低い残留キシロースおよび高エタノール)に基づいて、12の株を、第2の評価のために選択した。
【0128】
第2の評価の目的の1つは、キシロース上での改善された増殖の安定性および株のキシロース資化能を試験することであった。12のすべての株を、安定性研究に供して、適応された株を非選択培地に暴露して、37℃で50代連続的に継代培養させた後に、それらが安定であるかどうかを調べた。RMG(5%)継代培養の前および後の培養物を、RMX(5%)試験管に播種し、そして評価のために37℃で増殖させた。非線形的ODを、スペクトロニック(Spectronic)601分光光度計において、試験管の直接読み取りによってモニターした。RMGにおける50代の増殖の前および後のRMX(5%)における増殖の70時間目のODを、図9にプロットした。結果は、ほとんどの株が、RMG、37℃において50代後も安定であったことを示した。(定常期における)エンドポイントの上清もまた、キシロースおよびエタノール濃度についてHPLCによって分析した。これらの培養物において低い残留キシロースおよび高いエタノール濃度が認められたことから、株が増殖し、そしてキシロースを良好に発酵したという事実が裏付けられた。
【0129】
上記の試験管評価(低い残留キシロース、高いエタノール濃度およびより高いOD)、ならびに高度の糖類におけるおよび酢酸塩の存在下でより良好な資化増殖体を選択するための高濃度のグルコースおよび/またはキシロース(20%まで)、および酢酸塩を伴うグルコースおよびキシロースの混合物による以後のマイクロタイタープレート増殖スクリーニングの結果に基づけば、ZW658と称される株番号26が全体的に最も良好な性能を示した。
【0130】
実施例2
最上位の改善されたキシロース資化株の37℃における発酵の評価
以下の実施例は、バイオマス加水分解物において予想される糖濃度および酢酸レベルを模倣する発酵条件下の改善されたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株ZW658の発酵性能を例示する。株ZW658を、それぞれ、10%グルコース(RMG10%)、8%キシロース(RMX8%)、10%グルコース+8%キシロース(RMGX10%8%)および10%グルコース+8%キシロース+0.6%酢酸(RMGXAc10%8%0.6%)を補充したRM培地を含有する発酵槽に播種した。すべての発酵は、300ml培地を伴うシックスフォース(Sixfors)中、150rpm、pH5.5および37℃で行った。窒素を、発酵槽中の培地に1晩パージし、そして播種直前に停止した。発酵中は、窒素をパージしなかった。RMG5%においてワーキングストックから起こした後の振盪フラスコ(150rpm)中37℃でのRMGX(10%、4%)によって、発酵のための播種物を調製した。株8bを、同じ条件下のコントロールとして使用した。図10に示すように、ZW658は、RMG10%上で8bと比較して、より緩徐に増殖し(AおよびB)、そしてRMX8%上では8bに類似の速度で増殖した(CおよびD)。より緩徐な増殖速度にもかかわらず、図10は、グルコース培地での発酵の終了時にZW658のエタノール収率(93%)が8bに類似したことを示す。RMX8%培地では、エタノール収率は、8b(0.44gエタノール/g糖)と比較するとZW658(0.46gエタノール/g糖)の方が高かった。ZW658は、RMX8%において8bと比較して、約4g/l多いエタノールを産生した。興味深いことに、ZW658は、何らキシリトールを産生しなかった一方、8bは、RMX8%における発酵の終了時に低レベルのキシリトール(0.7g/l)を産生した。図11に示すデータは、酢酸塩を伴って(C、D)または伴わずに(A、B)10%グルコース+8%キシロースを発酵する際に、ZW658が、8bと比較してより良好に作動したことを示し、より多いグルコースおよびキシロース消費、より少ないキシリトール産生、およびより多いエタノール産生によって示される。37℃およびpH5.5でのRMG10%X8%における両方の株の発酵の終了時に、グルコースのほとんどが使用され、そして実質的な残留キシロースが保持されたが、ZW658は、8bより約8g/l多いキシロースを使用した。37℃およびpH5.5でのRMG10%X8%中ZW658における発酵の終了時のキシリトール産生(4.9g/l)は、8bのキシリトール産生(8.2g/l)より有意に低かった。酢酸塩(6g/l)の存在下において、両方の株の細胞増殖は、有意に減少し、グルコースおよびキシロースの両方の貧弱な発酵性能を生じたが、ZW658は、より多いグルコースおよびキシロース産生、より少ないキシリトール産生およびより多いエタノール産生について、僅かにより良好な発酵性能を示した。RMX8%とは異なり、酢酸塩を伴うまたは伴わないRMG10%X8%では、両方の株とも副産物キシリトールを産生したが、8bと比較してZW658ではキシリトールがより少なく産生された。2つの株の発酵性能を表1に要約する。全体として、ZW658は、純粋な糖発酵において8bより良好に作動した。実施例1に記載のように、ZW658は、抗生物質選択マーカーを含まず、これは、商業的用途において発酵生物体に貴重な特性である。
【0131】
【表2】
【0132】
実施例3
ZW1およびZW658におけるグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)遺伝子の挿入不活化の自殺構築物の調製
ZW1およびZW658においてグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼをコードする遺伝子をノックアウトするために使用される自殺構築物(「GFORSp−9WW」)を、宿主経由、二重交差、相同組み換えおよび選択マーカーとしてスペクチノマイシン耐性を使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)においてD−乳酸デヒドロゲナーゼの遺伝子を挿入により不活化するために先に使用された別の自殺構築物(「pLDHSp−9WW」)から誘導した。pLDHSp−9WWもまた、先に作製された他の多くの構築物から誘導した。これらの構築物のすべての最初の前駆体は、プラスミドベクターpNEB193(NEB番号N3051S;ニュー・イングランド・バイオラブス(New England Biolabs))であった。それは大腸菌(E.coli)において複製することができるが、それはZ.モビリス(Z.mobilis)では複製することができないため、このプラスミドを選択した。GFORを作製するのに関与したすべての工程および中間体について、プラスミドpNEB193から開始して、年代順に以下に説明する。
【0133】
pLDH193の構築
以下に説明するDNAフラグメントの挿入のために、pNEB193をSbfIおよびAscIで二重消化した。両方の制限部位は独特であり、そしてプラスミドのマルチクローニング領域に局在する。SbfI/AscI−線状化pNEB193プラスミドDNAフラグメントを、製造者のプロトコルに従い、キアゲン(Qiagen)社製QIAクイック・ピュリフィケーション・キット(QIAQuick Purification Kit)(カタログ番号28104)を使用して、精製した。pNEB193にクローニングされたDNAフラグメントは、キアゲン(Qiagen)社製ブラッド・アンド・セル・カルチャー・マキシ・キット(Blood & Cell Culture Maxi Kit)(カタログ番号13362)を使用して、株ZW1から単離されたZ.モビリス(Z.mobilis)ゲノムDNAからPCR増幅された2268bpフラグメントであった。このフラグメントのPCR増幅のために使用した合成オリゴヌクレオチドは、プライマー1および2であった:
プライマー1(配列番号17):
CTACTCATTTcctgcaggTGGTAACTCATTGCGCGCTC
プライマー2(配列番号18):
CATCTTACTggcgcgccAAAAATCTGCGGCTGACATAC
【0134】
プライマー1(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、ホスホグリセロムターゼ(pgm)をコードするオープンリーディングフレームの3’末端でジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド1262739〜1262720にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたSbfI部位に対応する。プライマー2(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、アルコールデヒドロゲナーゼ I(adhI)をコードするオープンリーディングフレームの直ぐ上流であるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド1260490〜1260472にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたAscI部位に対応する。従って、PCR増幅の標的であった2268bpのDNAフラグメントは、SbfI部位から開始し、そしてAscI部位で終了する次のエレメントからなる:(a)pgm遺伝子の3’末端、(b)D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするldh遺伝子全体、および(c)遺伝子の5’非翻訳領域。PCR産物をSbfIおよびAscIで切断し、そして得られたDNAフラグメントを、上記で説明したSbfI/AscI線状化pNEB193ベクターに連結した。連結反応混合物を使用して、大腸菌(E.coli)JM110を形質転換して、そして形質転換された細胞を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した。正確なサイズの挿入物を伴うプラスミドを含有するアンピシリン耐性形質転換体を、はじめに、再懸濁したコロニーを使用するPCR(「コロニーPCR」)ならびにプライマー1および2によって同定した。ポジティブクローンの以後の確認は、SbfIおよびAscIによるプラスミドDNAの制限消化分析、ならびにアンピシリン耐性形質転換体によるコロニーPCRによって作製した2268bpフラグメントのDNA配列解析によって行った。さらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、「pLDH193」と称する。
【0135】
pLDHTc139#7の構築
プラスミドpLDH193は、ldhオープンリーディングフレームの中間付近に局在する独特なNcoI部位を有する。この部位を使用して、テトラサイクリンに対して耐性を付与するDNAフラグメントを挿入した。この操作のために使用したテトラサイクリン耐性カセット(Tcr−カセット)を、DNAテンプレートとしてプラスミドpACYC184(ジェンバンク(GenBank)受託番号X06403)、ならびにPCRプライマーとしてプライマー3および4を使用するPCRによって作製した。
プライマー3(配列番号19):
ACTCATTTccatggCGATCGCACTATgcggccgcAATGTAGCACCTGAAGTCAGCC
プライマー4(配列番号20):
ATCTCACTccatggCCGGCCAACTAttaattaaGAATTGATTGGCTCCAATTCTTG
プライマー3(順方向プライマー)の太い下線を付した塩基は、テトラサイクリン耐性遺伝子のプロモーターの直ぐ上流にハイブリダイズする。プライマー3はまた、その5’末端に付加された3つの制限部位(NcoI、AsiSI、およびNotI)を有する。NcoI部位を小文字で表す。AsiSI部位には、細い下線が付されている。Not I部位を斜体の小文字で表す。プライマー4(逆方向プライマー)の太い下線を付した塩基は、テトラサイクリン耐性遺伝子の終止コドンの直ぐ上流にハイブリダイズし、そしてこのプライマーはまた、その5’末端に付加された3つの制限部位(NcoI、FseI、およびPacI)を有する。上記の標識化と同様に、NcoI部位を小文字で表し、FseI部位に細い下線を付し、そしてPacI部位を斜体の小文字で表す。プライマー3および4で作製した1448bpのTcr−カセットを、NcoIで切断し、そして分離用アガロースゲル電気泳動により精製した。次いで、得られたDNAフラグメントを、プラスミド、pLDH193のldhオープンリーディングフレームに存在する独特なNcoI部位に連結した。挿入を伴わないベクターの再環状化の可能性を最小限にするために、連結の前に、NcoI消化pNEB193を仔ウシ小腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化した。連結反応混合物を大腸菌(Escherichia coli)JM110に導入し、そして形質転換された細胞を、20μg/mlのテトラサイクリンを含有するLB培地上でプレート化した。正確な挿入を伴うプラスミドを含有するテトラサイクリン耐性形質転換体を、NcoI、AsiSI、NotI、FseI、およびPacIによる制限消化分析によって同定し、そしてTcr−カセットの配向を、適切なプライマーを使用するPCR分析によって確認した。さらなる操作のために選択したプラスミド(pLDHTc139#7)の環状図を、図12に示す。ここに記載されていない実験では、この自殺構築物を使用し、宿主経由、二重交差、相同組み換えおよび選択としてテトラサイクリン上での増殖を使用して、ZW1におけるD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を、挿入により不活化(即ち、「破壊」または「ノックアウト」)した。
【0136】
pLDHTc139#7−9WWの構築
pLDHTc139#7を使用して、ZW1におけるD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を「ノックアウト」し得ることを実証したことから、次の工程は、Creリコンビナーゼを使用して、遺伝子破壊後の染色体から選択マーカーを取り出すことが可能であるように、この構築物を改変することであった。この目的を達成するために、Tcr−カセットにフランキングする4つの独特な制限部位、即ち、5’末端におけるAsiSIおよびNotIならびに3’末端におけるPacIおよびFseIを利用して、2つの野生型loxP部位(リー(Lee)およびサイトウ(Saito)、1998年)をpLDHTc139#7に付加した。構築物を両方の酵素で切断し、そして得られる大きなDNAフラグメントを精製した後、第1のloxP部位を、プラスミドpLDHTc139#7のAsiSIおよびNotI部位の間に挿入した。この位置に挿入されたloxP部位は、それらの5’末端で両方ともリン酸化された2つの合成オリゴヌクレオチド5および6(配列番号21および22)から作製した。
オリゴヌクレオチド5(配列番号21):
cgcATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATgc
オリゴヌクレオチド6(配列番号22):
ggccgcATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATgcgat
これらのオリゴヌクレオチドは相互に相補的であり、そして共にアニールする場合、DNAフラグメントがpLDHTc139#7のAsiSIおよびNotI部位の間で連結することを可能にする両末端の一本鎖突出部を有する完全長の二本鎖野生型loxP部位を形成する。オリゴヌクレオチド中の大文字は、完全長の野生型loxP部位に対応する一方、小文字は、二本鎖DNAフラグメントをpLDHTc139#7のAsiSIおよびNotI部位に連結するために使用したヌクレオチドを示す。
【0137】
連結反応混合物を使用して、大腸菌(E.coli)DH10Bを形質転換して、そして形質転換された細胞を、20μg/mlのテトラサイクリンを含有するLB培地上でプレート化した。pLDHTc139#7のAsiSiおよびNotI部位に正確に挿入されたloxP部位を伴うプラスミドを含有するテトラサイクリン耐性形質転換体を、関連領域の制限消化分析、コロニーPCR、およびDNA配列解析によって同定した。さらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、「pLDHTc139#7−9W」と称する。
【0138】
次に、両方の酵素でプラスミドを切断し、そして得られる大きなベクターフラグメントを精製した後、第2の野生型loxP部位を、pLDHTc139#7−9WにおけるTcr−カセットの他方の末端のPacIおよびFseI部位の間に挿入した。この位置に挿入されたloxP部位もまた、それらの5’末端で両方ともリン酸化された2つの合成オリゴヌクレオチド7および8(配列番号23および24)で作製した。
オリゴヌクレオチド7(配列番号23):
taaATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATggccgg
オリゴヌクレオチド8(配列番号24):
ccATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATttaat
オリゴヌクレオチド7および8は相互に相補的であり、そしてハイブリダイズする場合、DNAフラグメントがpLDHTc139#7−9WのPacIおよびFseI部位の間で連結することを可能にする両末端の一本鎖突出部を有する完全長の二本鎖野生型loxP部位を形成する。オリゴヌクレオチド中の大文字は、完全長のloxP部位に対応する一方、小文字は、二本鎖DNAフラグメントをpLDHTc139#7−9WのPacIおよびFseI部位に連結するために使用されるヌクレオチドを示す。
【0139】
連結反応混合物を使用して、大腸菌(E.coli)DH10Bを形質転換して、そして形質転換された細胞を、20μg/mlのテトラサイクリンを含有するLB培地上でプレート化した。pLDHTc139#7−9WのPacIおよびFseI部位に正確に挿入された野生型loxP部位を伴うプラスミドを含有するテトラサイクリン耐性形質転換体を、関連領域の制限消化分析、コロニーPCR、およびDNA配列解析によって同定した。さらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、pLDHTc139#7−9WWと称し、そしてこの構築物の環状図を図12に示す。
【0140】
pLDHSp−9WWの構築
pLDHSp−9WWはpLDHTc139#7−9WWと同一であるが、但し、後者の構築物のテトラサイクリン耐性カセットは、スペクチノマイシンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Specr−カセット)で置き換えられた。後者は、テンプレートとしてプラスミドpHP15578(カフーン(Cahoon)ら、2003年)ならびにプライマー9および10を使用するPCRによって作製した。pHP15578は、Specr−カセットの完全なヌクレオチド配列およびそのプロモーターを含有し、3’(9)−O−ヌクレオチジルトランスフェラーゼをコードするトランスポゾンTn7 aadA遺伝子(ジェンバンク(GenBank)受託番号X03403)の公開された配列に基づく。
プライマー9(配列番号25):
ATAAAAgcggccgcAGCACAGGATGA
プライマー10(配列番号26):
GGCGttaattaaGGCAGGTCAGCAAG
【0141】
プライマー9(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、Specr−カセットのプロモーターの直ぐ上流(ジェンバンク(GenBank)受託番号X03043のnt6〜17に)ハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたNotI部位に対応する。プライマー10(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、Specr−カセットの終止コドンから約130塩基下流(ジェンバンク(GenBank)受託番号X03043のnt1006〜1019に)ハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたPacI部位に対応する。PCRにより作製された1040bpのSpecr−カセットを、NotIおよびPacIで二重消化し、そして得られたDNAフラグメントをアガロースゲル電気泳動によって精製した。プラスミドpLDHTc139#7−9WWもまた、同じ2つの制限酵素で切断して、Tcr−カセットを取り出し、そして得られた大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、2つのDNAフラグメントを共に連結し、そしてエレクトロポレーションを使用して、形質転換反応混合物を、大腸菌(E.coli)DH10Bに導入した。形質転換体を、スペクチノマイシン(200μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化し、そして37℃で増殖させた。正確なサイズの挿入を伴うプラスミドを含有するスペクチノマイシン耐性形質転換体を、NotIおよびPacIによる制限消化分析によって同定し、そしてさらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、pLDHSp−9WWと称し;この構築物の環状図を図12に示す。ここに記載されていない実験では、pLDHSp−9WWを使用し、スペクチノマイシンに対する耐性を選択マーカーとして使用して、ZW1におけるD−乳酸デヒドロゲナーゼの遺伝子をノックアウトした。自殺構築物による遺伝子不活化は、宿主経由、二重交差、相同組み換えを介して生じ(国際公開第01/83784A2号パンフレット)、ldhオープンリーディングフレームの中間における2つの野生型loxP部位によってフランキングされる選択マーカー(Specr−カセット)の挿入を生じた。pLDHSp−9WWのSpecr−カセットにフランキングする2つのDNAフラグメントによって、二重交差事象の標的をldh遺伝子に定めた。これらのフラグメントの一方(以降、5’ldhフランキングDNAと称する)は、Specr−カセットの直ぐ上流にあり、そしてSbfIおよびAsiSI部位の間に局在する。この約1100bpのDNAフラグメントのヌクレオチド配列は、pgm遺伝子の3’末端およびldhオープンリーディングフレームのはじめのおよそ半分をコードするZW1染色体DNAと同一である。他方のDNAフラグメント(以降、3’ldhフランキングDNAと称する)は、FseIおよびAscI部位の間のSpecr−カセットの対向末端に局在する。3’ldhフランキングDNAのヌクレオチド配列(これもまた、約1100bpである)は、ldh遺伝子の他方の半分およびadhI遺伝子の5’非翻訳領域の部分をコードする染色体DNAと同一である。5’および3’ldhフランキングDNAフラグメントの両方がそれらの染色体対応物と相互作用し、そして相同組み換えを経験する場合、二重交差事象を生じる。本質的に不可逆的であり、そしてもっぱら、宿主の酵素的機構によって仲介されるこの現象は、オープンリーディングフレームの中間にSpecr−カセットを挿入することによって、染色体ldh遺伝子を不活化する。構築物は、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができず、このことがそれを自殺構築物にするため、(極めて低い頻度で生じる自然発生性の薬剤耐性変異体とは別の)pLDHSp−9WWを伴う安定なスペクチノマイシン耐性コロニーを作製するための唯一の方法は、相同組み換えを介する二重交差事象である。二重交差事象によって染色体に挿入されるSpecr−カセットはなお、自殺構築物に存在する2つの野生型loxP部位の間に挟まれていることに留意することが重要である。この配置のため、実施例10に記載されているCre発現ベクターを使用することによってそれを再活性化することを伴わずに、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子から選択マーカーを取り出すことが容易である。
【0142】
pGFORSp−9WWの構築
pLDHSp−9WWを、以下に記載の第2の工程手順におけるZ.モビリス(Z.mobilis)グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)の遺伝子不活化のための自殺構築物に変換した。第1の工程は、3’ldhフランキングDNAを取り出し、そしてそれを、GFORをコードする染色体遺伝子をプラスミド構築物の標的にする類似のDNAフラグメントで置き換えることであった。後者のDNAフラグメント(以降、3’GFORフランキングDNAと称する)は、テンプレートとしてZW1ゲノムDNAおよびPCRプライマーとしてプライマー11および12を使用するPCRによって作製した。
プライマー11(配列番号27):
CTACTCATggccggccTCAGAACGATCCTGCACAGC
プライマー12(配列番号28):
CATCTTACTggcgcgccGGACGAGGTTCATCATCAGG
【0143】
プライマー11(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFORオープンリーディングフレームのおよそ中間にあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド684324〜684305にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたFseI部位に対応する。プライマー12(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFOR終止コドンから約625bp下流にあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド683124〜683143にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたAscI部位に対応する。1234bpのPCRフラグメントを、FseIおよびAscIで切断した。pLDHSp−9WWもまた、同じ2つの制限酵素で切断して、3’ldhフランキングDNAを取り出し、そしてこの操作から得られた大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、PCRにより作製された3’GFORフランキングDNAを、ゲル精製した大きなベクターフラグメントのFseIおよびAscI部位の間で連結し、そして連結反応混合物のアリコートを、大腸菌(E.coli)DH10Bにエレクトロポレートした。形質転換された細胞を、200μg/mlのスペクチノマイシンを含有するLB培地上でプレート化し、そしてプレートを37℃でインキュベートした。正確な挿入物を伴うプラスミドを含有するスペクチノマイシン耐性形質転換体を、コロニーPCRならびにFseIおよびAscIによる制限消化分析によって同定し、そしてさらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、pLDH/GFORSp−9WWと称した。
【0144】
次の工程は、pLDH/GFORSp−9WWから5’ldhフランキングDNAを取り出し、そしてそれを、5’GFORフランキングDNAで置き換えることであったが、そのため、GFORオープンリーディングフレームの破壊のために選択した染色体標的において、二重交差事象が生じ得る。テンプレートとしてZW1ゲノムDNAならびにPCRプライマーとしてプライマー13および14を使用するPCRによって、5’GFORフランキングDNAフラグメントを作製した。
プライマー13(配列番号29):
CTACTCATatgcatGTCCAGAAAAGACAGCATTCC
プライマー14(配列番号30):
CATCTTACTgcgatcgcTGCACGGTTCATTGGAT
【0145】
プライマー13(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFOR開始コドンから約520bp上流にあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド685584〜685564にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたNsiI部位に対応する。プライマー14(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFORオープンリーディングフレームの中間近くにあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド684396〜684415にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたAsiSI部位に対応する。1217bpのPCR産物をNsiIおよびAsiSIで切断し、そしてpLDH/GFORSp−9WWを、SbfIおよびAsiSIで二重消化して、5’ldhフランキングDNAを取り出し;後者の操作から生じる大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、PCRにより作製された5’GFORフランキングDNAを、上記のゲル精製した大きなベクターフラグメントのSbfIおよびAsiSI部位に連結し、そして連結反応混合物のアリコートを、大腸菌(E.coli)SCS110(dcm−およびdam−である)にエレクトロポレートして、ZW1およびZW658の以後の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAを得た(実施例5および7において詳述する)。野生型大腸菌(E.coli)株から単離されるメチル化プラスミドDNAは、DH10Bと同様に、宿主の制限/改変系によって容易に破壊される(米国特許第6566107B1号明細書に記載されている)ため、ZM4から誘導されるZ.モビリス(Z.mobilis)株の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAの使用が、成功に極めて重要であることに留意すること。NsiIおよびSbfIは適合性の粘着末端を有するが、両方の部位が共に連結される場合、それらが破壊されることにさらに留意すること。形質転換体を、100μg/mlのスペクチノマイシンを含有するLB培地上でプレート化し、そしてプレートを37℃でインキュベートした。正確な挿入物を伴うプラスミドを含有するスペクチノマイシン耐性形質転換体を、コロニーPCRおよび制限消化分析によって同定した。ZW1およびZW658においてGFOR遺伝子をノックアウトするために使用したこの得られる自殺構築物を、以降、pGFORSp−9WWと称する。このプラスミドの環状図を図12に示し、そしてその完全なヌクレオチド配列を配列番号31に開示する。この自殺構築物とZ.モビリス(Z.mobilis)染色体GFOR遺伝子との間の二重交差事象により、2つの野生型loxP部位によってフランキングされるSpecr−カセットの挿入を生じ、pLDH−Spec−9WWについて上記の状況に類似することに留意することが重要である。
【0146】
実施例4
Z.モビリス(Z.mobilis)のための大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現ベクターの作製
出発物質として大腸菌(E.coli)/Z.モビリス(Z.mobilis)シャトルベクター(pZB188)を使用して、以下に記載のように、Z.モビリス(Z.mobilis)における大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼの発現のためのプラスミド構築物(pZB188/Kan−XylA)を作製した(図13)。pZB188の構築に関与する工程については、米国特許第5,514,583号明細書に開示されている。簡単に説明すると、この7008bpのプラスミドは、2つの異なる複製開始点を、それぞれの細菌種に対して1つずつ有するため、それは、大腸菌(E.coli)およびZ.モビリス(Z.mobilis)において複製することが可能である。pZB188はまた、テトラサイクリンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Tcr−カセット)を含有する。pZB188/Kan−XylAの構築における第1の工程は、pZB188からTcr−カセットを取り出し、そしてそれを、カナマイシンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Kanr−カセット)で置き換えることであった。pZB188からTcr−カセットを切り出すために、プラスミドをXbaIおよびBssHIIで切断し、そして得られた大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。PCR増幅のために、テンプレートとしてプラスミドpET−24a(ノバジェン(Novagen))ならびにプライマー15および16を使用するPCRによって、Kanr−カセットを作製した。pET−24aは、Kanr遺伝子の完全なオープンリーディングフレームおよびその関連するプロモーターを含有する。
プライマー15(配列番号32):
GCtctagaGCAGCAGATTACGCGC
プライマー16(配列番号33):
ACATTGgcgcgcTTAGAAAAACTCATC
プライマー15(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、pET−24aにおけるKanr遺伝子の開始コドンから約160bp上流にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたXbaI部位に対応する。プライマー16(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、Kanr遺伝子のオープンリーディングフレームの他方の末端でハイブリダイズし、そして終結コドンを含む一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたBssHII部位に対応する。PCRにより作製された991bpのKanr−カセットを、XbaIおよびBsshIIで切断し、そしてアガロースゲル電気泳動によって精製した。
【0147】
次いで、得られたDNAフラグメントを、標準的な連結反応で、上記のpZB188DNAフラグメントのXbaIおよびBssHII部位の間に挿入した。エレクトロポレーションを使用して、形質転換反応混合物を大腸菌(E.coli)DH10Bに導入し、そして細胞を、カナマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した;増殖は37℃であった。プラスミドDNAを、カナマイシン耐性形質転換体の1つから単離したが、得られた構築物を以降、pZB188/Kanと称し;このシャトルベクターの環状図を図13に示す。
【0148】
次の工程では、後者を両方の酵素で切断し、そしてアガロースゲル電気泳動によって大きなベクターフラグメントを精製した後、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットを、pZB188/KanのNcoIおよびAclI部位の間に挿入した。大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットとしての役割を果たす約2KbpのDNAフラグメントを、後者の構築物をNcoIおよびClaIで切断し、そしてアガロースゲル電気泳動によって関連DNAフラグメントを精製した後、プラスミドpZB4から誘導した。プラスミドpZB4については、米国特許第5514583号明細書に詳述されており、そして大腸菌(E.coli)発現カセットPgapXylA(配列番号34)の略図を、図13の枠内の図に示す。
【0149】
NcoIおよびClaI部位を、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットのそれぞれ5’および3’末端に局在させた。米国特許第5514583号明細書において記載のように、このフラグメントは、キシロースイソメラーゼをコードする大腸菌(E.coli)xylA遺伝子の完全なオープンリーディングフレームに正確に融合される強力な構成性Z.モビリス(Z.mobilis)グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーターを含有する。それはまた、キシロースイソメラーゼ終止コドンが直ぐ後に続く小さなステムループ領域を含有する。大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットを、標準的な連結反応で、pZB188/KanのNcoIおよびAclI部位の間に挿入した。ClaIおよびAclIは適合性の「粘着末端」を作製するが、両方の部位が共に連結される場合、それらが破壊されることにさらに留意すること。次いで、連結反応混合物を、大腸菌(E.coli)SSC110(dcm−、dam−)にエレクトロポレートして、以下の実施例6に記載のZ.モビリス(Z.mobilis)のその後の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAを入手し、そして形質転換された細胞を、カナマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した;増殖は37℃であった。正確なサイズの挿入物を伴うプラスミドを有するカナマイシン耐性形質転換体を、制限消化分析およびコロニーPCRによって同定した。Z.モビリス(Z.mobilis)において大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼを発現させるために使用したプラスミドを、以降、「pZB188/Kan−XylA」と称する;この構築物の環状図を図13に示す。
【0150】
実施例5
ZW1 GFORノックアウト変異体の作製
ZW1(ZW658が最初に誘導された野生型株)においてGFOR酵素活性をなくすために、実施例3において詳述した自殺構築物pGFORSp−9WWを使用した。米国特許第5514583号明細書に本質的に記載されているように、エレクトロポレーションを使用して、非複製プラスミドDNAを細菌宿主に導入した。簡単に説明すると、50μlの形質転換反応物は、10%(v/v)グリセロール中の約1010個の細胞/mlおよび実施例3に記載のように大腸菌(E.coli)SSC110から単離した約0.9μgの非メチル化プラスミドDNAを含有した。コントロール反応物も全く同様に処置したが、プラスミドDNAを含まなかった。エレクトロポレーターの設定は、16kv/cm、200Ω、および25μF、およびキュベットのギャップ幅は0.1cmであった。エレクトロポレーション後、形質転換物を1.0mlのMMG培地(50g/Lグルコース、10g/L酵母抽出物、5g/Lのトリプトン、2.5g/Lの(NH4)2SO4、0.2g/LのK2HPO4、および1mMのMgSO4)で希釈し、そして細胞を約5時間、30℃で回復させた。次いで、細胞を、室温で、滅菌1.5ml微量遠心管中、遠心分離(13,000×g、5分間)によって回収し、そして上清を注意深く取り出した。細胞ペレットを、150μlの液体MMG培地に再懸濁し、そして50および100μlアリコートの細胞懸濁液を、1.5%寒天および200μg/mlのスペクチノマイシンを含有するMMG培地上でプレート化した。プレートを、嫌気チャンバにおいて30℃でインキュベートし、そして2〜3日後、50〜150個のコロニーが実験プレート上に出現した。このとき、コントロールプレート上にスペクチノマイシン耐性コロニーは認められなかったが、さらに48時間のインキュベーション期間後に若干出現した。以下に記載のさらなる操作のために、GFORノックアウト構築物による形質転換から生じたスペクチノマイシン耐性コロニーのうち2個を選択した。
【0151】
Z.モビリス(Z.mobilis)およびpGFORSp−9WWに類似する自殺構築物を伴う先の実験から、染色体とプラスミドDNAとの間の初期の相互作用は2つの標的化遺伝子座のうちの1つにおける一重交差であること、および一重交差事象は最終的に二重交差事象を生じることが示されている。二重交差事象への移行は、通常、自殺構築物のための選択因子を含有する液体培地における若干の連続的継代後、極めて迅速に生じる。GFORノックアウト構築物から生じる2つの選択されたZW1形質転換体のための二重交差事象を容易にするために、100g/Lのグルコースおよび200μg/mlのスペクチノマイシンを含有する10mlのRM培地(10g/Lの酵母抽出物および2g/LのKH2PO4)に細胞を播種した。30℃で24時間のインキュベーション期間の後、両方の培養物とも、定常期に到達した。次に、10μlアリコートの第1代培養物を使用して、10mlの同じ増殖培地に播種し、そしてこれらの両方の培養物もまた、30℃で24時間後に定常期に到達した。最終的に、10μlアリコートの第2代培養物を10mlの同じ増殖培地に播種し、そして30℃でさらに24時間、増殖を促進させた。液体培地における最後の継代後、第3代培養物のアリコートを希釈し、そしてスペクチノマイシン(200μg/ml)を含有するMMG培地上でプレート化して、単一のコロニーを入手し、そしてプレートを、嫌気条件下、30℃で48時間、インキュベートした。
【0152】
3つの異なる対のプライマーを使用するコロニーPCR実験から、二重交差事象が実際に生じたことが確認された。自殺構築物における5’GFORフランキングDNAがその染色体対応物との一重交差事象を経験している場合、PCRプライマーの第1の対は、正確なサイズのDNAフラグメントのみを作製することができる。同様に、自殺構築物における3’GFORフランキングDNAがその染色体対応物との一重交差事象を生じている場合、PCRプライマーの第2の対は、正確なサイズのDNAフラグメントのみを作製することができる。最終的に、二重交差事象が生じており、そしてさらに、一重および二重交差事象の集団の混合の可能性がなくされる場合、PCRプライマーの第3の対は、正確なサイズのDNAフラグメントのみを作製することができる。この分析に使用した2個のスペクチノマイシン耐性コロニーを、自殺構築物とのZW1エレクトロポレーション反応由来の2つの異なる主な形質転換体(これは、液体培地において3回継代し、そして上記のようにプレート化して単一のコロニーを得た)から誘導し、そしてこの実験のコントロールを親株、ZW1とした。両方の形質転換体とも3つの異なる組のPCRプライマーによりポジティブな結果を呈したため、さらなる分析のために、それらのうちただ1つを選択した。この株(ZW1 GFORノックアウト変異体)を、以降、ZW1−ΔGFORと称する。
【0153】
実施例6
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼは、生理学的条件下でキシリトール形成に対する主な寄与物であり得る
ZW1 GFORノックアウト変異体(ZW1−ΔGFOR)を使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株におけるキシリトール形成が、ペリプラズム酵素GFORか、または酵素的に活性でもあるそのより大きな分子量のサイトゾル前駆体によって少なくとも部分的に仲介されるという仮説(ロース(Loos)ら、上掲)を試験した。実施例2(図11)に示されるように、キシリトールは、キシロース資化株8bおよびZW658の主な副産物であるが、キシロースが増殖培地に存在する場合にのみ形成される。CP4のようなZ.モビリス(Z.mobilis)の野生型株は、キシロースをキシリトールに直接還元することができるNADPH依存性アルドースレダクターゼを有する(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲)が、図IIおよびIIIに示すように、増殖培地がキシロースまたはグルコースおよびキシロースの混合物を含有する場合、GFORはまた、インビボでのキシリトール形成に寄与し得ることが考えられる。しかし、インビトロでのGFOR酵素特徴付けアッセイ(ザカライオウ(Zachariou)およびスコープス(Scopes)、上掲)および粗無細胞抽出物による実験(ダニエルソン(Danielson)、上掲)において示されるように、この化合物はGFOR仲介キシリトール産生に不可欠な電子受容体であるため、これらの反応のいずれかが生じるためには、酵素がキシルロースにアクセスする必要がある。キシロース上での増殖のために操作されるZ.モビリス(Z.mobilis)株では、キシリトール合成に必要なキシルロースは、キシロース代謝(図1)の第1の工程を触媒し、ZW1のような野生型株には存在しないキシロースイソメラーゼによって作製される。
【0154】
キシロースおよびグルコースの両方が増殖培地存在する場合にGFORがキシリトールを作製することができる可能を試験するために、実施例4で説明した大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現ベクター(pZB188/Kan−XylA)を、ZW1およびZW1−ΔGFORに導入した。ストラテジーは、これらの糖類のいずれかにおいて増殖することができない2つの株におけるキシロースからキシルロースへの経路を提供し、そしてGFORがキシリトールを作製し得るかどうかを決定することであった。形質転換のために使用したエレクトロポレーション手順については本質的に実施例5に記載のとおりであったが、回復期間後、形質転換された細胞を、300μg/mlのカナマイシンを含有するMMG培地上でプレート化した。この実験のコントロールとして、ZW1およびZW1−ΔGFORもまた、pZB188/Kan−XylAと同一であるが、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットを欠くpZB188/Kan(図13)で形質転換した。pZB188/Kan−XylAまたはコントロールプラスミドを所有するカナマイシン耐性コロニーを、コロニーPCRによって同定し、そして各形質転換反応由来のそれぞれのコロニーを、図14に示す実験のために無作為に選択した。これらの4つのプラスミドを有する株を、以降、ZW1(pZB188/Kan)、ZW1(pZB188/Kan−XylA)、ZW1−ΔGFOR(pZB188/Kan)およびZW1−ΔGFOR(pZB188/Kan−XylA)と称する。
【0155】
1晩培養物を、15mlキャップ付き試験管中、30℃で、5mlの60g/Lグルコース、10g/L酵母抽出物、10g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、1g/LのMgSO2(7H20)および300μg/mlのカナマイシンにおいて増殖させた。次いで、これらの1晩培養物のアリコートを使用して、20g/Lのキシロースを伴うまたは伴わない同じ増殖培地を含有する(50mlキャップ付き試験管中の)20ml培養物に播種した。増殖は、30℃において穏やかな撹拌を伴い、そして初期のOD600値は約0.1であった。0、24、48、および120時間の増殖後、HPLC分析のために、屈折率検出器を具備するHP1100(ヒューレット−パッカード(Hewlett−Packard)、カリフォルニア州パロアルト(Palo Alto,CA))を使用して、培養物の1.0mlアリコートを取り出し、発酵ブロス中に存在するキシロース、キシルロースおよびキシリトールの濃度を決定した。HPLC分析の前に、遠心分離によって細胞を取り出し、そして0.22μm酢酸セルローススピン(Spin)−X遠心管フィルター(コスター(Costar)、カタログ番号8160)を介して上清をろ過して、小さな粒子を取り出した。化合物を、0.6ml/分の流速および移動相として0.01NのH2SO4を使用する均一溶媒条件下、55℃で稼動させたアミネックス(Aminex)HPX−87Hカラム(バイオ−ラッド(Bio−Rad))上で分離させた。既知濃度の標準物質を使用して、目的のピークを定量し、そしてすべての結果をg/Lで表した。
【0156】
結果は、ZW1(pZB188/Kan)、「空の」ベクターを伴うコントロール株をグルコースおよびキシロースの存在下で増殖させる場合、120時間のインキュベーション期間後、極少量のキシリトールが増殖培地に蓄積したことを示す(図14A)。この株で観察された最大量のキシリトールは、<0.5g/Lであった。対照的に、ZW1(pZB188/Kan)を同じ濃度のグルコースにおいて増殖させたが、キシロースを省いた場合、キシリトールは形成されず、そしてこれは他の3つの株についても同様であった。結果として、グルコースおよびキシロースの両方の存在下で実施した実験のみを、図14に示す。意外にも、ZW1における大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼの発現は、発酵ブロスにおいて出現したキシリトールの量を顕著に増加し、そして120時間まで、ZW1(pZB188/Kan−XylA)は、この化合物を、ZW1(pZB188/Kan)より5倍多く作製した(図14B)。キシロースイソメラーゼは、キシロースからキシルロースへの異性化を触媒するため、予想したとおり、ZW1におけるキシロースイソメラーゼの発現もまた、キシルロースの産生を生じた。この実験において、増殖培地に添加された全キシロースのうち約16%が、キシルロースまたはキシリトールに変換されたことに留意すること。また、これらの2つの化合物の間に明らかな前駆体/産物の関係(キシリトールが増加する時、キシルロースは減少する)が存在し、これは、グルコースおよびキシロースが両方とも増殖培地に存在する場合、生理学的条件下でGFORはキシルロースをキシリトールに変換することが可能であるという仮説に一致することに留意すること。
【0157】
ZW1と同様に、キシロースイソメラーゼ発現ベクターの非存在下では、ZW1−ΔGFORによって作製されるキシリトールは極僅かであった(図14C)。これらの条件下で形成された少量のキシリトールは、NADPH依存性アルドースレダクターゼから生じ得、フェルドマン(Feldmann)ら(1992年、上掲)により示唆されている。特に、キシロースイソメラーゼをZW1 GFORノックアウト変異体において発現させた場合、ZW1(pZB188/Kan−XylA)で得られた結果とは対照的に、さらなるキシリトールは作製されなかった(図14D)。実際、ZW1−ΔGFOR(pZB188/Kan−XylA)は大量のキシルロースを産生し、そして形成されたこの化合物の量は、対応するZW1株(即ち、ZW1(pZB188/Kan−XylA))によって作製されたキシルロースおよびキシリトールの全量に極めて類似した。これらの実験は、酵素がキシルロースにアクセスする場合、GFORがインビボにおけるキシリトール形成に実質的に寄与することができ、これは、Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株がグルコースおよびキシロースの混合物において増殖する場合に他ならないことを明確に実証する。これらの結果は、さらに、Z.モビリス(Z.mobilis)の組み換え株をキシロース含有培地において増殖させる場合、NADPH依存性アルドースレダクターゼが、キシリトール産生においてあまり役割を果たしていないことを示し、文献(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲;キム(Kim)ら、上掲)の予想とは対照的である。
【0158】
実施例7
ZW658 GFORノックアウト変異体の作製およびこの株が機能性GFOR酵素を産生しないことの実証
実施例6において示されるように、グルコースおよびキシルロースの両方が利用可能である場合、生理学的条件下で、Z.モビリス(Z.mobilis)におけるキシリトール形成に寄与することができるGFORをコードする遺伝子を、自殺構築物、pGFORSp−9WW(実施例3に記載されている)を使用して、ZW658において挿入により不活化した。この手順におけるすべての工程は、実施例5におけるZW1 GFORノックアウト変異体に記載の工程と同一であり、3つの組のPCRプライマーによる二重交差事象の確認を含む。以下に記載の以後の実験のために選択したZW658ノックアウト変異体を、ZW800と命名した。
【0159】
ZW800が、グルコースおよびフルクトースからソルビトールを作製すること(GFORによって触媒される生理学的反応である)ができる酵素を産生しないことを実証するために、以下の実験を実施した。ZW800および親株ZW658の1.5ミリリットル培養液を、10mlキャップ付き試験管中、30℃で、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、および1g/LのMgSO4を含有する液体培地において、早期定常期まで増殖させた。培養物が約5.5のOD600に到達したら、遠心分離によって細胞を回収し、そして上清を注意深く取り出し、そして廃棄した。次に、細胞ペレットを、次の組成を有する5mlの新鮮増殖培地に再懸濁した:110g/Lグルコース、110g/Lフルクトース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、および4g/LのKHCO3。上記のすべての工程を滅菌条件下で実施し、そして細胞を再懸濁する前に、増殖培地の初期pHを濃リン酸で5.8に調整した。次いで、得られた培養物を、30℃で、穏やかに撹拌(150rpm)しながら増殖させ、そして表2に示された時間に、実施例6に記載したのと同じ手順を使用して、発酵ブロスのHPLC分析のためにサンプルを取り出した。この実験のための目的のピークは、グルコース、フルクトース、ソルビトールおよびエタノールであり、そして細胞を遠心分離によって回収した後、既知量の標準物質を使用して、発酵ブロスにおけるそれらの濃度を算出した;表2では、すべての濃度をg/Lで表す。
【0160】
【表3】
【0161】
表2に示されるように、ZW658培養物は、23時間後にほとんどすべてのグルコースおよびおよそ半分のフルクトースを消費し、そして主な産物として匹敵する量のソルビトールおよびエタノールを作製した;最初の時間ポイント中の2つの後者の化合物の値は、それぞれ、45.99g/Lおよび49.36g/Lであった。それ故、ZW658培養物中のGFORによって、はじめにあったフルクトースのうち40%を超えるものがソルビトールに変換された。極めて対照的に、23時間のインキュベーション期間後のZW800培養物由来の発酵ブロスでは、ソルビトールは検出されなかったが、その代わり、グルコースおよびフルクトースは、ほぼ定量的にエタノールに変換され、1グラムの消費された糖あたり理論値で0.51グラムのエタノールに極めて近かった。さらに24時間の増殖後、ZW658培養物におけるソルビトールの量のさらなる増加は認められなかったことに留意すること。ほぼすべてのグルコースが早期に枯渇され、そしてフルクトースとのGFOR反応のための電子供与体が存在しなかったため、これは予想されることであった。興味深いことに、47時間時点のZW800培養物の発酵ブロスにおいて少量のソルビトール(10.21g/L)が見出され、そしてこれは、NADPH依存性アルドースレダクターゼ(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲)または未だ解明されていない他のいくつかの酵素によって作製され得る。それにもかかわらず、上記の結果は、ZW800のGFORオープンリーディングフレームの中間に挿入されたSpecr−カセットは、全てではないにしても大部分がGFOR酵素活性を廃止した証拠を提供する。
【0162】
さらに、この結論は、ZW1、ZW658およびZW800から調製された無細胞抽出物によるインビトロ実験によって支持される。目的は、他の物質または補因子を添加することなく、ZW658がキシロースをキシリトールに変換することができるかどうかを決定すること、およびGFOR不活化の結果として、ZW800がこの反応を行う能力を失っているかどうかを調べることであった。Z.モビリス(Z.mobilis)無細胞抽出物によるGFOR仲介キシリトール産生には次の3つの要件が存在する:1)GFORの強固に結合した補因子を還元することが可能であるグルコースまたはキシロースのような糖電子供与体、2)電子受容体としてのキシルロース(何故なら、酵素が実際にキシリトールに還元するのはこの化合物であるからである)、および3)機能性GFOR酵素。キシルロースが反応混合物に添加されない場合、無細胞抽出物はまた、キシロースをキシルロースに変換するためのキシロースイソメラーゼを含有しなければならない。
【0163】
無細胞抽出物を、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4および50g/Lグルコースを含有する250ml振盪フラスコにおいて33℃で増殖させた100ml培養物から調製した。2〜3の間のOD600で遠心分離によって細胞を回収し、そして氷冷50mMのTris−HCl(pH7.0)、1.0mMのMgCl2、1mMジチオスレイトールで2回洗浄した。最終的なペレットを、1.0mlの同じ緩衝液に再懸濁し、そして細胞を音波処理によって破砕した。細胞破砕物を4℃で遠心分離(16,000×g、60分間)によって取り出した後、以下に記載のように、無細胞抽出物を、キシリトール産生について直ちにアッセイした。500μlの反応を、ポリプロピレン微量遠心管において行い、そして最終濃度で次の組成を含有した:50mMのTris−HCl(pH7.0)、1.0mMのMgCl2、1mMジチオスレイトール、66mMキシロース、および0.32〜0.35mgの無細胞抽出物タンパク質;タンパク質濃度を、標準としてウシ血清アルブミンを使用するBCAプロテインアッセイ(Protein Assay)(ピアス(Pierce))によって決定した。40℃で15時間のインキュベーション期間後、反応を、最終濃度で30mMのピバリン酸で終結させ、そして移動相として0.01N硫酸を伴うSH1011カラム(ショウデックス(Showdex))を使用するHPLCによって、アリコートを分析した。カラム温度を50℃に維持し、流速は1.0ml/分であった。この実験のためのコントロールは無細胞抽出物を含まなかったが、それ以外は全く同様に処置した。
【0164】
表3に示すように、ZW1無細胞抽出物を反応混合物に添加する場合、15時間のインキュベーション期間中、キシロースはキシルロースまたはキシリトールに変換されなかった。既に示したように、ZW658およびZW800とは対照的に、ZW1は、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼを発現しない野生型株であるため、この結果は予想されることであった。対照的に、無細胞抽出物は、これらの2つの化合物の形成に必要な両方の酵素を含有したため、ZW658無細胞抽出物を使用した場合、有意量のキシルロースおよびキシリトールを作製した。キシロースが、反応混合物に添加される唯一のGFOR基質である場合、作製されるキシリトールの各分子について2分子のキシロースが消費されるため、この場合、はじめにあった66mMキシロースのうち8%近くがキシリトール産生に使用されたことに留意すること。最終的に、そして最も重要なことに、ZW800無細胞抽出物はキシロースイソメラーゼ活性を含有したが、それはGFOR酵素活性を欠いたため、ZW800無細胞抽出物のみが、キシロースをキシルロースに変換することが可能であった。精製されたキシロースイソメラーゼでスパイクされた野生型無細胞抽出物で先に示されている(ダニエルソン(Danielson)、上掲)ように、これらの結果は、ZW800が機能性GFOR酵素を産生しないさらなる証拠を提供し、そしてこのタンパク質がキシロースを電子供与体として使用して、キシルロースをキシリトールに還元することが可能であることをさらに実証する。
【0165】
【表4】
【0166】
実施例8
ソルビトールはグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW800の増殖に必要である
グルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW800によるエタノールの産生のための発酵性能を試験した。実験は、pH制御された発酵槽において、97g/Lまたは188g/Lの全糖において約5:4の一定のグルコース対キシロース比を使用して、行った。
【0167】
ZW658およびZW800の種培養物を、振盪フラスコ中、37℃で、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、10g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、および1g/LのMgSO4を含有する液体培地において増殖させた;初期pHを4NのKOHで5.5に調整した。OD600が約5.0に到達したら、種培養物の50mlアリコートを使用して、450mlの増殖培地を含有する1リットル発酵槽(BIOSTAT(登録商標)B−DCUシステム、ザルトリウスBBIシステム・インク.(Sartorius BBI System Inc.)、米国ペンシルバニア州ベスレヘム(Bethlehem,Pennsylvania))に接種した。最終的な500ml培養物は、5g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、1g/LのMgSO4および低濃度の糖(54g/Lグルコース、43g/Lキシロース)または高濃度の糖(104g/Lグルコース、84g/Lキシロース)のいずれか一方を含有する。増殖は33℃で行い、そしてpHを、4NのKOHの自動化された添加によって5.5に維持した。混合速度を150rpmに設定した。多様な時間において、実施例6に記載したのと同じ手順および条件を使用して、発酵ブロスのHPLC分析のためにアリコートを取り出した。この実験のための目的の化合物はグルコース、キシロース、およびエタノールであり、そして既知濃度の標準物質を使用して、クロマトグラムのピークを定量した。また、600nmの光学密度に設定した分光光度計による濁度の変化を追跡することによって、細胞増殖をモニターし、そして得られるOD600値をプロットした。
【0168】
図15に示すように、発酵槽が低濃度の糖(54g/Lグルコース、43g/Lキシロース)を含有した場合、GFOR不活化は、増殖、糖消費、またはエタノール力価に影響を及ぼさなかった。しかし、全糖濃度を図16において認められる場合の約2倍に増加し
た場合、発酵性能において大きな差異が観察された。ZW658は、約30時間の停滞期間を経験したが、これは、Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株をグルコースおよびキシロースの希釈混合物から約180g/Lの全糖を超える同じ糖類の濃縮混合物へ移す場合、それらに典型的である。停滞期間後、細胞は増殖を開始し、そして培地中の全てのグルコースおよび約75%のキシロースを消費し、それ故、約73g/Lの最終エタノール力価を生じた(図16A)。対照的に、ZW800培養物は、130時間のインキュベーション期間後であっても、停滞期間から回復せず(図16B)、そしてこの結果は2回の個別の施行において観察された。
【0169】
図15に示すように、ZW800は、グルコースおよびキシロースの希釈混合物において良好に増殖したため、高い糖混合物においてこの株が回復できないことは、浸透圧ストレスにいくらか関係する可能性があるようであった。実際、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)をグルコースおよびフルクトースの濃縮混合物または高濃度のスクロースに移す場合(これはまた、インベルターゼの作用を介してグルコースおよびフルクトースを上昇させる)、GFORは、ソルビトールを作製することによって、浸透圧バランスを維持することに極めて重要な役割を果たす(ロース(Loos)ら、上掲)。ペリプラズム空間においてGFORによって産生されるソルビトールは、濃度勾配に対して細胞に輸送され、ここで、それは、さらに代謝されないため、高レベルで蓄積する。これは、形質膜を横切る浸透圧差をなくし、そして浸透圧バランスを回復する(ヴィーゲルト(Wiegert)ら、上掲)。しかし、GFOR仲介ソルビトール産生の前提条件は、グルコースおよびフルクトースが同時に存在することであり、そしてこの反応は、フルクトースを欠く増殖培地では生じるべきではない。それにもかかわらず、ソルビトールは、GFORの生理学的に重要な産物であり、そしてこの酵素は、ZW800において非活性であるため、ソルビトールをグルコースおよびキシロースの濃縮混合物に添加する効果を、下記の実験において試験した。
【0170】
高度の糖混合物における約70時間後(図16において垂直矢印で示した時点)、区画されたZW800培養物の5つの4.5mlアリコートを発酵槽から取り出し、そして15mlキャップ付き試験管に移した。次いで、試験管のうち4つに、0〜20mMソルビトール(最終濃度)を補充し、そして全ての場合において、培養物の全容積を脱イオン水で5.0mlに調整した;この実験に使用したソルビトールストック溶液もまた、水で作製した。水およびソルビトールを添加する場合、増殖培地の10%希釈のためのコントロールに対し、第5の培養物に何も添加しなかった。次いで、培養物の全てを、33℃で、穏やかに撹拌(200rpm)しながらインキュベートし、そして分光光度により増殖をモニターした。図17に示すように、ソルビトールを増殖培地に添加すると、試験した最も低い濃度(5mM)であっても、細胞は、ほぼ直ちに増殖を開始した。ソルビトールを添加しなかったが、培養物を水で10%希釈し、全糖濃度を188g/Lから169g/Lへ減少させた場合、増殖のいくつかの刺激が観察された。しかし、増殖に対するソルビトールの刺激効果は、希釈の効果よりもかなり大きかった。
【0171】
ZW658は、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物において、フルクトースの既知の供給源を伴わずに、停滞期から回復し、そして良好に増殖したため、ソルビトールによるZW800増殖の救出は全く予想外であった。後者の化合物はGFOR仲介ソルビトール産生に不可欠な電子受容体であるため、ソルビトールを合成し得ず、または高濃度のグルコースおよびキシロースを含有する培地における浸透圧バランスにおいて役割を果たし得ないようであった。それ故、ソルビトールが、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物においてZW658またはZW800の増殖のための重要な因子であることを示すものはなかった。
【0172】
実施例9
GFOR不活化は、プロセス関連条件下でキシロースからのエタノール産生を改善する
プロセス関連条件下でのグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW658およびZW800の発酵性能を、並行する様式で比較して、GFOR不活化が有益または有害な代謝エンジニアリングストラテジーであるかどうかを決定した。高濃度のグルコースおよびキシロースをこれらの実験において使用したため、ソルビトールを培地に添加して、ZW800の増殖を可能にした。ここに記載されていない実験では、ソルビトールがZW658の停滞期をなくすことも発見した。それ故、増殖培地のソルビトール補充は、これらの2つの株をプロセス関連条件下で比較するための理想的な方法を提供する。
【0173】
酢酸塩の存在および非存在下、全糖類の2つの濃度を使用して、6つの異なる条件下でZW658ならびにZW800を比較し、そしてより濃縮された糖混合物について、2つの異なる緩衝能を調べた。これらの実験は、30℃で、50ml試験管中、穏やかに撹拌(150rpm)しながら増殖させた20ml培養物で行った。pHは制御しなかったが、種培養物の播種の前に、増殖培地の初期pHを濃リン酸で5.8に調整した。基本増殖培地は、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、5mMソルビトールならびに4g/L(図18および19)のKHCO3または8g/L(図20)のKHCO3のいずれか一方を含有した。上記および下記の全ての値は、種培養物を添加した後の最終濃度である。KHCO3を使用して、増殖培地の緩衝能を増加し、細菌増殖中に通常生じるpHの低下を最小限にした。これらのすべての実験の炭素源は、全糖の異なる2つの濃度で前処置したコーンストーバ加水分解物におけるこれらの2つの糖類の比に近似するグルコースおよびキシロースの混合物であった。グルコースおよびキシロースの初期濃度は、それぞれ92g/Lおよび82g/L(図18)または107g/Lおよび96g/L(図19および20)のいずれか一方であった。表示される場合は、6g/Lの酢酸塩(前処置したコーンストーバ加水分解物に存在するインヒビター)もまた存在した。種培養物を、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4を含有する液体培地において30℃で約5.0のOD600まで増殖させ、そして1/10容積を使用して、実験培養物に播種した。多様な時間において、実施例6において先に記載のように、発酵ブロスのHPLC分析のためにアリコートを取り出した。この実験の目的の化合物は、グルコース、キシロース、エタノールおよびキシリトールであり、そして全ての値をg/Lで報告する。最初の時間ポイントを採取する前に、事実上全てのグルコースが消費されたため、この糖の値はグラフにプロットしなかった。
【0174】
図18〜20に示す実験から、次の2つの異なる基準によって判定される試験した全ての条件下で、ZW800がZW658より優れた性能を呈することが明らかである:(a)実験経過中に消費されたキシロースの全量、および(b)到達した最大エタノール力価。また、このデータから、GFOR不活化の有益な効果は、最もストレスの多い条件に遭遇する場合(即ち、すべてのグルコースが枯渇し、そしてエタノール濃度が毒性レベルに接近し始めた後)に、発酵の後期段階中に主として生じたことが明らかである。実際、2つの株の最も顕著な差異は、増殖培地中にさらなるストレスに寄与する阻害濃度の酢酸塩が存在した場合に観察された。3組の実験条件について酢酸塩の存在下におけるZW800のエタノール力価の平均の増加は、10.2%であり、値の範囲は4.4%〜13.7%である。ZW800はまた、3つのすべての実験において酢酸塩の非存在下でZW658より多くのエタノールを産生したが、この場合の平均の増加は3.2%であった。予想したとおり、ZW658は、有意な量のキシロースを、所望されない副産物キシリトールに変換し、そして条件が最もストレスの多いものである場合(即ち、発酵の後期段階中および酢酸塩が増殖培地に存在した場合)、最も高いレベルのこの化合物が観察された。例えば、図18〜20に示す酢酸塩による実験では、ZW658は、全キシロースの8.1%、8.3%および9.9%を変換し、これは消費されて、キシリトールになった。対照的に、ZW800培養物では、試験したいずれの条件下においても、キシリトールは見出されなかった。これらの結果は、プロセス関連条件下、特に、阻害濃度の酢酸塩の存在下で、GFOR不活化が、エタノール産生のためのキシロース代謝に有益であることを明確に示す。図18および19に示す試験管での実験を2回実施し、そして事実上、同一の結果を得た。
【0175】
pH制御された発酵槽を使用して、酢酸塩を伴うグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW800およびZW658による別の並行実験を実施した。Z.モビリス(Z.mobilis)によって産生される有機酸および二酸化炭素のような代謝の副産物は、酢酸対酢酸塩の比を増加する増殖培地のpHを低下することができ、そしてプロトン化種が、細菌増殖を実際に阻害する化合物であることは公知である(キム(Kim)ら、(2000年)Applied Biochemistry and Biotechnology,84−86:357−370)。それ故、5.8から5.0へのpHの低下により、酢酸の濃度が5倍増加するため、pH制御は大規模発酵において極めて重要である。
【0176】
ZW800およびZW658の種培養物を、振盪フラスコ中、37℃で、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、10g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、および1g/LのMgSO4を含有する液体培地において増殖させた;初期pHを4NのKOHで5.5に調整した。OD600が約5.0に到達したら、種培養物の50mlアリコートを使用して、450mlの増殖培地を含有する1リットル発酵槽(BIOSTAT(登録商標)B−DCUシステム、ザルトリウスBBIシステム・インク.(Sartorius BBI System Inc.)、米国ペンシルバニア州ベスレヘム(Bethlehem,Pennsylvania))に接種した。最終的な500ml培養物は、92g/Lグルコース、97g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、10mMソルビトールおよび7.2g/Lの酢酸塩を含有した。増殖は33℃で行い、そしてpHを、4NのKOHの自動化された添加によって5.5に維持した;混合速度は150rpmであった。多様な時間において、実施例6に記載されている同じ手順を使用して、発酵ブロスのHPLC分析のためにアリコートを取り出した。この実験の目的の化合物は、グルコース、キシロース、エタノールおよびキシリトールであり、そして細胞増殖(OD600)もまた、モニターした。図21は、ZW800培養物によって稼動させた発酵槽のこれらのパラメータについての全ての時間経過を示し、そして表4は、両方の株についてのキシロース、エタノールおよびキシリトールのエンドポイント値についてまとめている。
【0177】
【表5】
【0178】
酢酸塩による試験管の結果(図18〜20)と同様に、pH制御された発酵槽において、ZW800は、ZW658より14%多いキシロースを消費し、そして9.6%多いエタノールを作製した(図21)。この株は検出可能なキシリトールを何ら産生しなかったため、ZW800のエタノール収率もまた、約5%高かった。対照的に、ZW658の発酵ブロスにおけるキシリトールの最終濃度は3.92g/Lであったが、実験の過程中に消費された全キシロースの約6.5%を示す。これらの実験は、キシリトール形成をなくすことによって、GFOR不活化がキシロースからのエタノール産生を改善するさらなる証拠を提供する。既に示したように、所望されない副産物キシリトールは、少なくとも2つの異なる方法でキシロース代謝を妨害し、そして細菌増殖を阻害して、より低いレベルのATPを生じる。それ故、GFORがキシリトールを作製する場合、それは、リグノセルロース系供給原料からのエタノール産生中にZ.モビリス(Z.mobilis)が通常遭遇する他の全てのエネルギー消費ストレスに対処するZ.モビリス(Z.mobilis)の能力を減少する。ZW800は、ZW658とは対照的に、キシリトール関連ストレスに取り組む必要がないため、それは、より多くのキシロースを消費し、より多くのATPを産生し、そして最も高いレベルのストレスに遭遇する場合、発酵の後期段階中により多くのエタノールを作製する。
【0179】
実施例10
ZW800からの選択マーカーの取り出し、および得られた株、ZW801−4の特徴付け
Cre発現構築物、pZB188−Kan/Creの作製
実施例3に記載のように、ZW800におけるGFORオープンリーディングフレームに挿入されたSpecr−カセットは、2つの野生型loxP部位の間に挟まれている。この配置は、Creリコンビナーゼを使用することによって、染色体から選択マーカーを取り出すことを容易にしている(スタンバーグ(Sternberg)およびハミルトン(Hamilton)(1981年)J.Mol.Biol.150:467−486;リー(Lee)およびサイトウ(Saito)、上掲;トリン(Trinh)ら(2000年)Journal of Immunological Methods244(2):185−193)。しかし、これを行うために、第1に、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるCre発現ベクター(図22)を作製する必要があった。Cre発現ベクターの前駆体はpZB188/Kanであり、実施例4において詳述した。簡単に説明すると、pZB188/Kanは両方の細菌種の複製開始点を有するため、それは、大腸菌(E.coli)およびZ.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるシャトルベクターである。それはまた、カナマイシンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Kanr−カセット)を含有する。pZB188/Kanを、NcoIおよびNotIで二重消化し、そして大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次の工程は、Cre−発現カセットを作製することであり、そしてプライマー17および18を使用するPCRによって、これを達成した。Cre−発現カセットの増幅のために使用したDNAテンプレートは、そのプロモーターを含むバクテリオファージPI Creリコンビナーゼの完全長の遺伝子を含有するプラスミド(スタンバーグ(Sternberg)ら(1986年)J.Mol.Biol.187(2):197−212)であった。
プライマー17(配列番号35):
CTACTCATccatggCATCTTGAGCTTGAGAAAAACC
プライマー18(配列番号36):
CATCTTACTgcggccgcTTAATGGCTAATCGCCATCTTC
【0180】
プライマー17(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、Cre開始コドンから約200bp上流にあるジェンバンク(GenBank)受託番号X03453配列のnt286〜307にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたNcoI部位に対応する。プライマー18(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、Creオープンリーディングフレームの他方の末端で、ジェンバンク(GenBank)受託番号X03453配列のnt1523〜1503に結合する一方、小文字は、このプライマーの5’末端に付加されたNotI部位を示す。1238bpのPCR産物をNcoIおよびNotIで二重消化し、そしてCreリコンビナーゼの完全なオープンリーディングフレームおよびその推定プロモーターを含有する、得られたDNAフラグメント(スタンバーグ(Sternberg)ら、1986年、上掲)を、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、Cre−発現カセットを、標準的な連結反応において上述したpZB188/Kan DNAフラグメントのNcoIおよびNotI部位の間に挿入した。連結反応混合物のアリコートを大腸菌(E.coli)DH10Bにエレクトロポレートし、そして形質転換された細胞を、カナマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した;増殖は37℃であった。プラスミドDNAをカナマイシン耐性形質転換体の1つから単離し、次いで、この調製物を、大腸菌(E.coli)JM110(dcm−、dam−)に導入して、Z.モビリス(Z.mobilis)の以後の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAを得た(以降を参照のこと)。Cre発現ベクターpZB188/Kan−Creのプラスミド地図を図22に示す。
【0181】
ZW800の染色体から選択マーカーを取り出すためのCre処置およびCre発現ベクターのキュアリング
バクテリオファージP1のCreリコンビナーゼ(Cre)は、特定の34bpのDNA配列、8bpの非対称コアにフランキングする2つの13bpの逆方向反復を含有する「loxP部位」を認識することが可能である(スタンバーグ(Sternberg)およびハミルトン(Hamilton)、1981年、上掲;リー(Lee)およびサイトウ(Saito)、上掲;トリン(Trinh)ら、上掲)。Creはまた、2つの同一のloxP部位の間に配置される任意の介在DNAフラグメントを切り出すことが可能であり、そして切り出し反応は極めて迅速である。GFORオープンリーディングフレームからSpecr−カセットを取り出すために、Cre発現ベクター(pZB188/Kan−Cre)をZW800に導入した。形質転換プロトコルは、本質的に実施例5に記載のとおりであったが、回収期間後、Cre発現ベクターの選択因子である350mg/mlのカナマイシンを含有するMMG培地上で、細胞をプレート化した。Creにより染色体から回収したSpecr−カセットは、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができないDNAの環状片(circlular piece)であるため、このプロセスから回収した一次形質転換体は、スペクチノマイシンに対してもはや耐性ではなかった。30℃、嫌気条件下で48時間のインキュベーション期間後、Kanr/Specs一次形質転換体のうちの2つを、Creプラスミドキュアリングプロセスに供した。pZB188/Kan−Creは、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるが、カナマイシンを含有しない培地で細胞を増殖させることによって、このプラスミドをキュアリングすることは比較的容易である。本発明においてCre発現ベクターをキュアリングするために、細胞を、高温度(37℃)で、カナマイシンを含有しない液体MMG培地で増殖させた;細胞を、同じ組成を伴う新鮮増殖培地に、24〜36時間ごとに移した。少なくとも50代が生じた後、単一のコロニーをMMGプレート上で単離し、そして両方の本来の一次形質転換体由来の5個のコロニーを、さらなる特徴付けのために無作為に選択した。予想したとおり、これらのうち、カナマイシン(350μg/ml)またはスペクチノマイシン(200μg/ml)を含有するMMGプレート上で増殖することが可能なコロニーは認められなかった。カナマイシン上で増殖することができないことは、プラスミドキュアリングプロセスが成功したことを良好に示すものであったが、この結果を、Cre−発現カセットにハイブリダイズするプライマーを使用するコロニーPCRによって確認した。これらの実験に基づいて、Cre処置した、プラスミドがキュアリングされたZW800誘導体のうち3つを、さらなる特徴付けのために選択したが、これらの株を、以降、ZW801−4、ZW801−5およびZW801−6と称する。
【0182】
これらの株が、阻害濃度の酢酸塩の存在下で、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物においてどの程度良好に作動するかを調べるために、振盪フラスコ実験を実施した。この分析には、ZW658およびZW800も含めた。種培養物を、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4を含有する液体培地において30℃で約3.0のOD600まで増殖させ、そして15ml実験培養のために10%播種物を使用した。後者を、50ml試験管において、30℃で、穏やかに撹拌(150rpm)しながら増殖させた。増殖培地は、10g/Lの酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、5mMソルビトール、40mMのKHCO3、95g/Lグルコース、90g/Lキシロース、および7.7g/L酢酸塩を含有した;初期pHを濃リン酸で5.8に調整した。多様な時間において、実施例6において先に記載のように、発酵ブロスのHPLC分析のために、培養物のアリコートを取り出した。この実験の目的の化合物は、グルコース、キシロース、エタノールおよびキシリトールであり、そして全ての値をg/Lで報告する。
【0183】
表5に示すように、ZW658は、66.35g/Lのエタノールを産生し、そして後に40.6g/Lの残留キシロースを残した。また、ZW658は機能性GFOR酵素を有したため、それは、3.19g/Lの所望されない副産物キシリトールを産生した。他の並行実験において先に観察されたものと同様に、ZW800は、ZW658より17%多いキシロースを消費し、そして6.2%多いエタノールを産生し、そしてそれは、検出可能なキシリトールを何ら産生しなかった。ZW801−4およびZW801−6では僅かに良好な結果が得られたが、これらの差異は、おそらく実験誤差の範囲内であり、そして統計的に有意ではない。この実験で観察されたZW801−5の性能がそれほど良好ではなかったことについては、解明されていないが、それ以上調べなかった。これらの結果に基づいて、さらなる分析のために、株ZW801−4を選択した。
【0184】
【表6】
【0185】
ZW801−4が少なくともZW800と同様に作動したことを示唆した振盪フラスコ実験の結果を確認するために、これらの2つの株を、pH制御条件下で比較した。種培養物を、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4を含有する培地において、30℃で増殖させた。OD600が約4.6に到達したら、種培養物の17mlアリコートを使用して、153mlの増殖培地を含有するpH制御バイオリアクターに播種した。最終的な170ml培養物は、105g/Lグルコース、100g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、5mMソルビトールおよび7.2g/Lの酢酸塩を含有した。増殖は33℃で行い、そしてpHを、4NのKOHの自動化された添加によって5.5に維持した;混合速度は約150rpmであった。多様な時間において、上記のように、発酵ブロスのHPLC分析のために、バイオリアクターから培養物のアリコートを取り出し、そしてまた、OD600もモニターした。これらの実験条件下では、ZW800およびZW801−4の増殖曲線は、ほとんど重ね合わせることができた(図23A)。グルコースおよびキシロース消費の時間経過はまた、事実上同一であり、そして両方の株は、同様の動態で同じ量のエタノールを産生した(図23B)。さらに加えて、これらの株のいずれも、検出可能なキシリトールを何ら産生しなかった。これらの観察に基づいて、本発明者らは、GFORオープンリーディングフレームからSpecr−カセットを取り出しても、GFOR酵素活性が回復または部分的に回復しなかったこと、およびこの操作は発酵性能に有害な影響を及ぼさなかったことを結論付けている。ZW800およびZW801−4は両方とも機能性GFOR酵素を有する親株(ZW658)より良好に作動したが、ZW801−4は抗生物質に対する耐性を付与する外来遺伝子を含有しないため、商業的アプリケーションに好適な株は、ZW801−4である。ZW801−4由来のゲノムDNAの配列解析は、正確なCre切り出し事象が実際に生じた明白な証拠を提供した。ZW801−4における破壊されたGFORオープンリーディングの完全なヌクレオチド配列(本来の開始コドンから本来の終止コドンまで)を配列番号37に示し、そして図24は、翻訳された変異体配列と野生型GFORタンパク質とのアラインメントを示し;後者は、ジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のnt683751〜685052の逆相補鎖によってコードされる。予想したとおり、Specr−カセットのCre切り出しは、GFORオープンリーディングフレームの中間において単一の野生型loxP部位を残し、そしてこの挿入事象は、タンパク質を未熟な状態で切り詰めるインフレーム終止コドンを生じた;「lox scar」の局在を、灰色で強調された残基によって示す。自殺構築物の設計の結果として、変異体ヌクレオチド配列もまた、同じ場所で生来の野生型GFORヌクレオチド配列のうち約72bpを失っている。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年9月28日に出願された米国仮特許出願第60/847813号明細書(すべての目的のために、その全体が本明細書の一部として援用される)の利益を主張する。
【0002】
政府の権利についての陳述
本発明は、エネルギー省から授与された契約番号04−03−CA−70224およびDE−FC36−03GO13146に基づく米国政府の助成により行われた。政府は、本発明において所定の権利を有する。
【0003】
本発明は、微生物学および遺伝子操作の分野に関する。より具体的には、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ遺伝子の遺伝子改変を伴うキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)の株を開発した。この株は、発酵およびエタノール産生中の、キシロース代謝の有害な副産物であるキシリトールの減産を示す。
【背景技術】
【0004】
微生物によるエタノールの産生は、化石燃料に代わるエネルギー源を提供し、従って、現在の重要な研究の分野である。ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)は、グルコース、フルクトース、およびスクロース上で増殖する細菌性エタノロジェンであり、これらの糖を、エントナー−ドウデロフ(Entner−Douderoff)経路を介してCO2およびエタノールに代謝する。野生型株は、キシロースを炭素源として使用することができないが、この糖上で増殖することが可能なZ.モビリス(Z.mobilis)の組み換え株が操作されている(特許文献1、2、3、非特許文献1、2)。キシロースは、加水分解されたリグノセルロース系材料における主要なペントースであり、従って、発酵に使用される多量の利用可能な低コストの炭素基質を提供することができる。Z.モビリス(Z.mobilis)が、キシロース代謝に必要な4つの酵素:1)キシロースからキシルロースへの変換を触媒するキシロースイソメラーゼ;2)キシルロースをリン酸化して、キシルロース5−リン酸を形成させるキシルロキナーゼ;3)トランスケトラーゼ;および4)トランスアルドラーゼの発現のために操作されている(特許文献1、4、非特許文献2)。これらの4つの酵素の組み合わされた反応および細胞の通常の代謝機構を介して、3分子のキシロースが、2分子のグルコース6−リン酸および1分子のグリセルアルデヒド3−リン酸に変換され、続いて、これらは、経路のグルコース側においてエタノールおよびCO2に変換される(図1を参照のこと)。
【0005】
キシロース代謝を対象にZ.モビリス(Z.mobilis)株を操作することに成功はしているが、この株は、キシロース上では、グルコースほど良好に増殖せず、そしてエタノールを産生しない。キシロース上で増殖が乏しくなる原因の1つは、キシリトールがキシロース代謝の副産物として産生されることである(非特許文献1、3)。キシリトールは、キシルロースキナーゼによってリン酸化されて、キシリトール5−リン酸を産生し、これは細胞に蓄積し、そして細菌の増殖を阻害する。Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株はキシリトールをエタノールに変換することができないため、キシリトール合成はまた、エタノールの収率を減少する。さらに、キシリトールは、操作されたキシロース代謝経路におけるキシロース資化の第1段階を触媒するキシロースイソメラーゼの強力なインヒビターである(非特許文献4)。キシリトールの合成および効果を示す図については、図2を参照のこと。
【0006】
インビボでのキシリトール合成を担う生理学的経路および酵素は決定されていない。しかし、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)由来の無細胞抽出物は、それらをNADPHで補充する場合、キシロースをキシリトールに還元することが可能であること(非特許文献1)、およびこの反応は、NADPH依存性アルドースレダクターゼによって触媒されることが実証されている。Z.モビリス(Z.mobilis)無細胞抽出物は、NADPH補充を伴わなくても少量のキシロースをキシリトールに変換することが可能であること、および精製されたキシロースイソメラーゼがさらに反応混合物に添加される場合、これらの条件下でのキシリトール産生は、3〜4倍に増加すること(非特許文献5)もまた、示されている。キシロースイソメラーゼはキシロースをキシルロースに変換することが可能であるため、後者の実験は、Z.モビリス(Z.mobilis)酵素グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)が、キシロースを電子供与体として、およびキシルロースを電子受容体として使用して、キシリトールを生じさせることができることを明確に示唆しており、これについて以下に詳細に考察する。それ故、インビトロ実験に基づけば、Z.モビリス(Z.mobilis)において、キシリトール産生のための少なくとも2つの経路が存在するが、しかし、それらが生理学的条件下でキシリトール形成に寄与する程度は未だ決定されていない。
【0007】
エタノールの高レベル産生では、Z.モビリス(Z.mobilis)を、浸透圧ショックを生じ得る高濃度の発酵可能な炭素源において増殖させる。浸透圧ショックは、>200g/Lのグルコースもしくはフルクトースまたは>360g/Lのスクロースを含有する液体培地に野生型株を移す場合の増殖開始前の長い停滞期間として出現する(非特許文献6)。さらに加えて、ソルビトールを増殖培地に添加すると、野生型株を高濃度のこれらの糖に移す場合の停滞期間が減少する(非特許文献7、非特許文献6)。
【0008】
ペリプラズム酵素グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)は、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)をグルコースおよびフルクトースの濃縮混合物(非特許文献6)またはスクロースの濃縮液(−,非特許文献7、非特許文献6)において増殖させる場合の浸透圧バランスにおいて重要な役割を果たすこともまた、示されている。簡単に説明すると、GFORは、緊密に結合したそれの補因子を伴って、図Iに示すような古典的ピンポンBi機構で、グルコースからグルコノラクトンへの酸化、およびそれ以後のフルクトースからソルビトールへの還元を触媒する。ペリプラズム空間に生じるソルビトールは、濃度勾配に対して細胞に輸送され、ここで、それは、さらに代謝されないため、高レベルで蓄積する。細胞内における高濃度のソルビトールは、形質膜を横切る浸透圧差をなくし、そして浸透圧バランスを回復する。
【0009】
ソルビトールを生じることができない野生型Z.モビリス(Z.mobilis)の自然突然変異体は、それを低濃度のスクロース(<150g/L)上で増殖させた場合、野生型細胞より高いレベルのエタノールを産生することが示されたが、この株は、高濃度のスクロース上で増殖することができなかった(非特許文献8)。この変異体は、その後、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)の発現を欠くことが示されたが、これは、スクロースから誘導されるフルクトースを、所望されない副産物のソルビトールに変換することができないことを説明する(非特許文献7)。高濃度のスクロースにおけるソルビトール欠損変異体の増殖は、ソルビトールを増殖培地に添加することによって回復され得ることによっても示された(非特許文献7)。それ故、Z.モビリス(Z.mobilis)を、グルコースおよびフルクトースの濃縮混合物か、または宿主細胞のインベルターゼによってグルコースおよびフルクトースに加水分解される高濃度のスクロースにおいて増殖させる場合、GFORは、ソルビトールを合成することによって、浸透圧バランスにおいて極めて重要な役割を果たす。
【数1】
【0010】
特許文献5は、不活化されたGFOR遺伝子を有するZ.モビリス(Z.mobilis)の非キシロース資化性変異株、およびこの株を使用するエタノールの産生について開示している。グルコース、フルクトースまたはスクロースが炭素源であった場合、この株によるソルビトール産生の欠如は、より高いレベルのエタノールを生じた。
【0011】
キシロースおよびグルコースの混合物上で(添加されるスクロースもしくはフルクトースの非存在下で)増殖するZ.モビリス(Z.mobilis)の操作されたキシロース資化株においてグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ酵素活性を減少させるかまたはなくすことの効果については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5514583号明細書
【特許文献2】米国特許第5712133号明細書
【特許文献3】国際公開第95/28476号パンフレット、
【特許文献4】米国特許第6566107号明細書
【特許文献5】中国特許公開第1600850(A)号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Feldmannら、1992年、Appl Microbiol Biotechnol38:354−361
【非特許文献2】Zhangら、(1995)、Science267:240−243
【非特許文献3】Kimら、(2000年)Applied and Environmental Microbiology66:186−193
【非特許文献4】Smithら、(1991年)Biochem J.277:255−261
【非特許文献5】Danielson、2001年,University of Colorado Masters Thesis
【非特許文献6】Loosら、(1994年)J Bacteriol176:7688−7693
【非特許文献7】Wiegertら、(1996年)Arch Microbiol166:32−41
【非特許文献8】KirkおよびDoelle、(1993年)Biotechnol.Letters15:985−990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
キシロース含有培地上で増殖させる場合、増加した量のエタノールを産生することが可能なキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の必要性が依然としてある。本出願人らは、インビボでのキシリトール産生の主経路を決定し、そして遺伝子不活化を介してキシリトールの形成を担う酵素活性をなくし、それによって、改善されたエタノール産生を伴うZ.モビリス(Z.mobilis)株を作製することによって、この課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、キシロースの存在下で増殖させる場合、キシリトールの減産およびエタノールの増産を有するザイモモナスザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)などの(Zymomonas)の株に関する。本出願人らは、キシロースを代謝するZ.モビリス(Z.mobilis)におけるキシリトール産生は、酵素グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)によって優先的に仲介されることを発見した。GFORを発現しない遺伝子改変された株(GFORノックアウト変異体など)を構築し、そしてキシロース含有糖混合物上で増殖させる場合、低減した量のキシリトールを産生することを見出した。GFORノックアウト変異体はまた、ソルビトールの存在下で高度の糖混合物において増殖させた場合、GFORを発現する親株よりキシロースを消費し、そしてより高濃度のエタノールを産生した。さらに、エタノール収率(消費される糖1グラムあたりの産生されるエタノールの量)についても、GFORノックアウト株の方が有意に高かった。
【0016】
従って、本発明は、炭水化物培地中での発酵により、キシロースを資化してエタノールを産生することが可能なザイモモナス(Zymomonas)属の組み換え微生物を提供し、前記微生物は、より低いグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ酵素活性を生じる少なくとも1つの遺伝子改変を含んでなる。本発明は、GFOR遺伝子への遺伝子改変の結果として、低減したGFOR活性を示す、キシロースを資化してエタノールを産生することが可能なザイモモナス(Zymomonas)株を含む。GFOR活性のいずれの減少も本発明の範囲内にあり、GFOR活性の遺伝子を完全に不活化する、および/またはGFOR酵素活性を完全にノックアウトする変異を含む。
【0017】
さらに、本発明は、低減したGFOR活性を伴うザイモモナス(Zymomonas)株を作製するための方法であって:
a)キシロースを資化して、適切な条件下でエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス(Zymomonas)株を提供する工程と;
b)(a)の組み換えザイモモナス(Zymomonas)株に少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、前記改変は、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少する工程と
を含んでなる方法を提供する。
【0018】
図面の簡単な説明、生物学的寄託および配列表の説明
本発明は、以下の詳細な説明、図面、および本出願の一部をなす添付の配列の説明からさらに詳細に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】キシロース資化のためにZ.モビリス(Z.mobilis)を操作するために使用されている4つの酵素(枠内)およびキシロースを使用するエタノール産生の生化学的経路の図を示す。
【図2】操作されたキシロース経路(枠内)の最初の2段階、キシリトール合成、キシリトール5−リン酸形成(デッドエンド毒性中間産物)、およびキシリトールによるキシロースイソメラーゼの阻害の図を示す。
【図3】トランスケトラーゼ(A)、トランスアルドラーゼ(B)、キシロースイソメラーゼ(C)、およびキシルロキナーゼ(xyulokinase)(D)の酵素アッセイのストラテジーを示す。
【図4】pMODPgaptaltktCmのプラスミド地図を示す。
【図5】pMODPgapxylABCmのプラスミド地図を示す。
【図6】PgapxylABで形質転換したT2C、T3C、T4C、およびT5C系統におけるキシロースイソメラーゼ(XI)およびキシルロキナーゼ(XK)活性のグラフを示す。
【図7】PgapxylABで形質転換したT2C、T3C、T4C、およびT5C系統におけるトランスアルドラーゼ(transaldolse)(TAL)およびトランスケトラーゼ(TKT)活性(activaties)のグラフを示す。
【図8】選択された適応キシロース資化株コロニーの理論的エタノール収率%およびキシロース資化%のグラフを示す。
【図9】5%グルコースを伴うRM(リッチ培地)(RMG)において50代まで増殖する前および後の5%キシロースを伴うRM(RMX5%)上で70時間目の適応キシロース資化株の増殖のグラフを示す。
【図10】RM+10%グルコース(RMG10%)(A、B)およびRM+8%キシロース(RMX8%)(C、D)における選択された株、ZW658の増殖、グルコースまたはキシロース資化、ならびにエタノールおよびキシリトール産生を、コントロール、8bと比較したグラフを示す。
【図11】RM+10%グルコースおよび8%キシロースにおいて、酢酸塩を伴わない(A、B)または0.6%酢酸塩を伴う(C、D)選択された株、ZW658の増殖、グルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノールおよびキシリトール産生を、コントロール、8bと比較したグラフを示す。
【図12】GFOR遺伝子の挿入不活化のための自殺構築物の構築中に作製されるプラスミド、および最終産物:GFORSp−9WWの地図を示す。
【図13】キシロースイソメラーゼ発現プラスミドの構築のために作製されるプラスミド:pZB188/Kan−XylAの地図、およびこの構築物に使用した大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセット(枠内)の図を示す。
【図14】GFOR遺伝子不活化を伴うおよび伴わない、キシロースイソメラーゼ発現の存在および非存在下でのZW1株によるキシリトールおよびキシルロース産生のグラフを示す。
【図15】97g/L全キシロース+グルコース上で増殖させた、GFOR遺伝子不活化を伴う(A)および伴わない(B)キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖、グルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノール産生のグラフを示す。
【図16】188g/L全キシロース+グルコース上で増殖させた、GFOR遺伝子不活化を伴う(A)および伴わない(B)キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖、グルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノール産生のグラフを示す。
【図17】異なる濃度のソルビトールの存在下におけるGFOR遺伝子不活化を伴うキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖のグラフを示す。
【図18】GFOR遺伝子不活化を伴わない(A、C)および伴う(B、D)、酢酸塩の非存在(A、B)および存在(C、D)下、174g/Lの全キシロース+グルコースにおけるキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロース資化、エタノール産生、およびキシリトール産生のグラフを示す。
【図19】GFOR遺伝子不活化を伴わない(A、C)および伴う(B、D)、酢酸塩の非存在(A、B)および存在(C、D)下、203g/Lの全キシロース+グルコースにおけるキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロース資化、エタノール産生、およびキシリトール産生のグラフを示す。
【図20】GFOR遺伝子不活化を伴わない(A、C)および伴う(B、D)、酢酸塩の非存在(A、B)および存在(C、D)下、203g/Lの全キシロース+グルコースにおいて、緩衝能の増加のためのさらなる炭酸水素カリウムを伴う、キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロース資化、エタノール産生、およびキシリトール産生のグラフを示す。
【図21】GFOR遺伝子不活化を伴う、酢酸塩の存在下、189g/Lの全キシロース+グルコース、pH制御発酵稼動におけるキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株のキシロースおよびグルコース資化、エタノール産生、ならびにキシリトール産生のグラフを示す。
【図22】pZB188/KanおよびpZB188/kan−Cre、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるCre発現ベクターのプラスミド地図を示す。
【図23】Aは、高グルコース+キシロースにおける、酢酸塩を伴う、pH制御条件下のZW801−4およびZW800の増殖の比較を示し、Bは、ZW801−4のグルコースおよびキシロース資化、ならびにエタノール産生をZW800と比較したグラフを示す。
【図24】ZW801−4における翻訳された変異体配列と、野生型GFORタンパク質とのアラインメントを示す。
【0020】
本発明は、以下の詳細な説明、および本出願の一部をなす添付の配列の説明からさらに詳細に理解することができる。
【0021】
以下の配列は、米国特許法施行規則第1.821〜1.825条(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の開示を含む特許出願の要件−配列規則」)に従い、そして世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998年)ならびにEPOおよびPCTの配列表の要件(規則5.2および49.5(aの2)、ならびに実施細則第208号および付属書C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列データに使用した記号および形式は米国特許法施行規則第1.822条に記載の規則に従う。
【0022】
配列表は、コンパクトディスクによって提供される。配列表を含むコンパクトディスクの内容は、米国特許法施行規則第1.52条第(e)項に応従して、参照により本明細書に援用される。コンパクトディスクは、2枚提出され、これらは相互に同一である。ディスクには、「Copy1−Sequence Listing」および「Copy2Sequence listing」のラベルが付されている。ディスクは、次のファイル:「CL3604seq list.ST25」を含有する。
【0023】
配列番号1および2は、pZB4由来のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター(Pgap)を含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0024】
配列番号3および4は、pZB4由来のtalコーディング領域を含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0025】
配列番号5および6は、Pgapおよびtalフラグメント由来のPgaptalを含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0026】
配列番号7および8は、pZB186由来のloxP::Cmを含有するDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0027】
配列番号9は、pMODPgaptaltktCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列である。
【0028】
配列番号10および11は、pMODPgaptaltktCmを収容する形質転換体におけるtalおよびtktコーディング領域を含有する3kbのDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0029】
配列番号12は、pMODPgapxylABCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列である。
【0030】
配列番号13および14は、pMODPgapxylABCmを伴うT2C、T3C、T4CおよびT5C組込み体由来の1.6kbのPgapxylA DNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0031】
配列番号15および16は、pMODPgapxylABCmを伴うT2C、T3C、T4CおよびT5C組込み体由来の1.3kbのxylB DNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0032】
配列番号17および18は、遺伝子の3’末端の部分、ldh遺伝子、およびadhl遺伝子の5’末端の部分を含有するZ.モビリス(Z.mobilis)W1ゲノムDNA由来の2268bpのDNAフラグメントの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0033】
配列番号19および20は、pACYC184由来のテトラサイクリン耐性カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0034】
配列番号21および22は、loxP部位を作製するために使用されるオリゴヌクレオチド配列である。
【0035】
配列番号23および24は、loxP部位を作製するために使用されるオリゴヌクレオチド配列である。
【0036】
配列番号25および26は、pHP15578由来のSpecr−カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0037】
配列番号27および28は、ZW1ゲノムDNA由来の3’GFORフランキングDNAの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0038】
配列番号29および30は、ZW1ゲノムDNA由来の5’GFORフランキングDNAの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0039】
配列番号31は、pGFORSp−9WWプラスミドのヌクレオチド配列である。
【0040】
配列番号32および33は、pET−24a由来のKanr−カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0041】
配列番号34は、pZB4から誘導された大腸菌(E.coli)xylA発現カセットのヌクレオチド配列である。
【0042】
配列番号35および36は、Cre−発現カセットの増幅のためのプライマーのヌクレオチド配列である。
【0043】
配列番号37は、ZW801−4における破壊されたGFORコーディング領域(本来の開始コドンから本来の終止コドンまで)の完全なヌクレオチド配列である。
【0044】
配列番号38は、野生型GFORコーディング領域(本来の開始コドンから本来の終止コドンまで)の完全なヌクレオチド配列である。
【0045】
本出願人らは、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づき、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)10801University Boulevard,Manassas、バージニア州20110−2209において、以下の生物学的寄託を行った:
【0046】
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、内因性グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)遺伝子の改変によってさらに操作されるキシロース資化性組み換えザイモモナス(Zymomonas)株、および改変されたGFORザイモモナス(Zymomonas)株を作製するための方法について説明する。本明細書に記載の方法は、GFOR酵素活性をなくすかまたは減少し、その結果、キシロース代謝中のキシリトール産生の低減およびエタノール産生の増強を生じる任意の遺伝子改変を含む。一般的に、低減したGFOR酵素活性を伴う改変されたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株を、発酵からエタノールを産生させるプロセスにおいて使用してもよい。新規のザイモモナス(Zymomonas)株によって産生されるエタノールは、化石燃料に対する代替エネルギー源として使用してもよい。
【0048】
明細書および特許請求の範囲の解釈のために、以下の略語および定義が使用される。
【0049】
「グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ」は、GFORと略称する。
【0050】
RMはリッチ培地である。
【0051】
RMG5%はRM+5%グルコースである。
【0052】
RMG5%はRM+10%グルコースである。
【0053】
RMX8%はRM+8%キシロースである。
【0054】
RMX2%はRM+2%キシロースである。
【0055】
RMX5%はRM+5%キシロースである。
【0056】
RMGX10%8%は、RM+10%グルコースおよび8%キシロースである。
【0057】
RMGX5%8%は、RM+5%グルコースおよび8%キシロースである。
【0058】
「遺伝子」は、コード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)に調節配列を含む特定のタンパク質を発現する核酸フラグメントを指す。「生来の遺伝子」または「野生型遺伝子」は、それ自体の調節配列と共に天然に見出されるような遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、天然には一緒に見出されない調節およびコード配列を含んでなる、生来の遺伝子ではない任意の遺伝子を指す。従って、キメラ遺伝子は、異なる起源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ起源に由来するが、しかし天然に見出されるものとは異なる様式で配列される調節配列およびコード配列を含んでなることができる。「内因性遺伝子」は、生物体のゲノム内の天然の位置にある生来の遺伝子を指す。「外来」遺伝子は、宿主生物体内に通常は見出されない遺伝子を指すが、しかしこれは遺伝子導入により宿主生物体内に導入される。外来遺伝子は、非生来の生物体内に挿入された生来の遺伝子、またはキメラ遺伝子を含んでなることができる。
【0059】
用語「遺伝子構築物」は、1つ以上の特定のタンパク質の発現をコードする核酸フラグメントを指す。遺伝子構築物において、遺伝子は、生来、キメラ、または自然にはない外来性のものであってもよい。典型的に、遺伝子構築物は、「コード配列」を含んでなる。「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。
【0060】
「プロモーター」または「開始制御領域」は、コード配列または機能的RNAの発現を制御することが可能なDNA配列を指す。一般に、コード配列は、プロモーター配列の3’側に局在する。プロモーターは、そのままの形で生来の遺伝子から誘導することができるか、または天然に見出される多様なプロモーターから誘導される多様なエレメントからなるか、またはなお、合成DNAセグメントを含んでなり得る。当業者であれば、多様なプロモーターは多様な組織もしくは細胞タイプ、または多様な発生段階において、あるいは多様な環境条件に応答して、遺伝子の発現を指令することができることを理解している。ほとんどの時期におけるほとんどの細胞タイプにおいて遺伝子を発現させるプロモーターを、通常、「構成性プロモーター」と呼ぶ。
【0061】
本明細書において使用する用語「発現」は、遺伝子に由来するセンス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定な蓄積を指す。発現はまた、mRNAのポリペプチドへの翻訳を指すことができる。「アンチセンス阻害」は、標的タンパク質の発現を抑制することが可能であるアンチセンスRNA転写物の産生を指す。「過剰発現」は、通常の産生レベルを超えるトランスジェニック生物体または非形質転換生物体における遺伝子産物の産生を指す。「共抑制」は、同一または実質的に類似する外来または内因性遺伝子の発現を抑制することが可能であるセンスRNA転写物または断片の産生を指す(米国特許第5,231,020号明細書)。
【0062】
本明細書において使用する「メッセンジャーRNA(mRNA)」は、イントロンを含まず、かつ細胞によってタンパク質に翻訳され得るRNAを指す。
【0063】
本明細書において使用する用語「非機能性遺伝子」は、コードされるタンパク質を、遺伝子が内因性である野生型株において通常発現されるようには発現しない遺伝子を指す。非機能性遺伝子の発現は、転写、RNAプロセシング、または翻訳のような任意のレベルで破壊され得る。非機能性遺伝子では、典型的に、コードされるタンパク質の発現がほとんど認められないか、または全く認められない。しかし、それはまた、野生型タンパク質より低い酵素活性を有する改変されたタンパク質をコードし得る。
【0064】
本明細書において使用する「形質転換」は、遺伝的に安定に遺伝する核酸フラグメントの宿主生物体への伝達を指す。伝達された核酸は、宿主細胞において維持されるプラスミドの形態であってもよく、またはある伝達された核酸を、宿主細胞のゲノムに組込んでもよい。形質転換された核酸フラグメントを含有する宿主生物体を、「トランスジェニック」または「組み換え」または「形質転換された」生物体と呼ぶ。
【0065】
本明細書において使用する用語「プラスミド」および「ベクター」は、しばしば細胞の中心的代謝の部分ではない遺伝子を担持する染色体外エレメントを指し、通常は、環状二本鎖DNA分子の形態である。そのようなエレメントは、任意の起源に由来する一本鎖または二本鎖DNAあるいはRNAの自律的反復配列、ゲノム組込み配列、ファージもしくはヌクレオチド配列で、線状あるいは環状であってもよく、ここで、プロモーターフラグメントおよび適切な3’非翻訳配列を伴う選択された遺伝子産物に対するDNA配列を細胞に導入することが可能である独特な構築物に、多くのヌクレオチド配列が接続または組み換えられている。
【0066】
用語「作動可能に連結される」は、一方の機能が他方によって影響されるような、単一の核酸フラグメントに対する核酸配列の会合を指す。例えば、プロモーターは、それがコード配列の発現に影響を及ぼすことが可能である場合、コード配列に作動可能に連結される(即ち、コード配列はプロモーターの転写制御下にある)。コード配列は、センスまたはアンチセンス配向で調節配列に作動可能に連結され得る。
【0067】
用語「選択マーカー」は、同定因子、通常、マーカー遺伝子の効果、即ち、抗生物質に対する耐性に基づいて選択することが可能な抗生物質または化学耐性遺伝子を意味し、ここで、効果は、目的の核酸の遺伝を追跡する、および/または目的の核酸を受け継いでいる細胞もしくは生物体を同定するために使用される。
【0068】
用語「実質的になくされた」キシリトール産生および「実質的に認められない」副産物キシリトールは、典型的な実験分析を使用して検出されるキシリトールの量が0に近いか、またはほぼ0である場合を指す。
【0069】
用語「高濃度の混合糖類」は、GFOR変異体キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の増殖の阻害を生じる培地中の全糖濃度を指す。正確な濃度は、培地中の他の成分に依存して変動し得るが、これは、典型的に、約100g/Lより大きい。
【0070】
用語「発酵可能な糖」は、発酵プロセスにおいて、微生物により炭素源として使用することができるオリゴ糖および単糖類を指す。
【0071】
用語「リグノセルロース系」は、リグニンおよびセルロースの両方を含んでなる組成物を指す。リグノセルロース系材料もまた、ヘミセルロースを含んでなり得る。
【0072】
用語「セルロース系」は、セルロース、およびヘミセルロースを含むさらなる成分を含んでなる組成物を指す。
【0073】
用語「糖化」は、多糖類からの発酵可能な糖類の生成を指す。
【0074】
用語「前処置されたバイオマス」は、糖化前の前処置に供されているバイオマスを意味する。
【0075】
「バイオマス」は、任意のセルロース系またはリグノセルロース系材料を指し、そしてセルロースを含んでなり、そして場合により、ヘミセルロース、リグニン、デンプン、オリゴ糖類および/または単糖類をさらに含んでなる材料を含む。バイオマスはまた、タンパク質および/または脂質のようなさらなる成分を含んでなり得る。バイオマスは、単一の供給源から誘導されてもよく、またはバイオマスは、2つ以上の供給源から誘導される混合物を含んでなり得る;例えば、バイオマスは、トウモロコシ穂軸およびコーンストーバの混合物、または草および葉の混合物を含んでなり得る。バイオマスとして、バイオエネルギー作物、農業残渣、一般廃棄物、産業廃棄物、製紙スラッジ、庭ごみ、木材および林業廃棄物が挙げられるが、これらに限定されない。バイオマスの例として、トウモロコシ穀粒、トウモロコシ穂軸、穀物残渣、例えば、トウモロコシ皮、コーンストーバ、草、コムギ、コムギわら、オオムギ、オオムギわら、乾草、イネわら、スイッチグラス、廃紙、サトウキビバガス、モロコシ、ダイズ、穀粒、木、枝、根、葉、木材チップ、おがくず、低木および潅木の粉砕から得られる成分、野菜、果物、花および動物性肥料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
「バイオマス加水分解物」は、バイオマスの糖化から生じる産物を指す。バイオマスはまた、糖化の前に前処置してもよい。
【0077】
ここで使用した標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は当該技術分野において周知であり、サンブルック,J.(Sambrook,J.)、フリッシュE.F.(Fritsch,E.F.)およびマニアティス,T.(Maniatis,T.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1989年)(以後、マニアティス(Maniatis))ならびにシルハビー,T.J.(Silhavy,T.J.)、ベンナン,M.L.(Bennan,M.L.)、およびエンクイスト,L.W.(Enquist,L.W.)、Experiments with Gene Fusions;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,New York)、1984年ならびにグリーン・パブリッシング・アンド・ウィリー−インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley−Interscience)から出版されたアウスベル,F.M.(Ausubel,F.M.)ら、Current Protocols in Molecular Biologyにより記載されている。
【0078】
本発明は、増強されたエタノール産生を有するキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)の操作された株に関する。キシロース資化性Zモビリス(Z mobilis)によってエタノール産生を改善するための課題は、(a)付加価値のない炭素貯蔵を呈し;(b)キシロース資化の第1段階を阻害し;そして(c)細菌増殖を阻害するデッドエンドの毒性中間産物にリン酸化されるキシリトールの合成を減少させるかまたはなくすことである。本出願人らは、内因性酵素GFORがインビボでのキシリトール合成を主に担うことおよびGFOR酵素活性を減少させるかまたはなくすことによって、キシロースからのエタノール産生(速度、収率および力価)が改善されることを発見した。
【0079】
キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)宿主株
キシロースを炭素源として資化することが可能であるザイモモナス(Zymomonas)の任意の株を、本発明の株を調製するための宿主として使用してもよい。エタノールへのキシロースの発酵のために操作されているZ.モビリス(Z.mobilis)などのザイモモナス(Zymomonas)の株が特に有用である。内因性遺伝子は、代謝経路の部分を提供してもよく、またはキシロース代謝に有用な酵素活性を伴うタンパク質を提供するための任意の既知の遺伝子操作技術によって改変されてもよい。例えば、内因性トランスケトラーゼは、キシロース資化経路を作製するときに他の誘導された酵素活性を補い得る。典型的に、米国特許第5514583号明細書(参照により本明細書に援用される)に記載のように、キシロース代謝(図1)に関与する4つの酵素の発現のために、4つの遺伝子がZモビリス(Z mobilis)に導入されている。これらは、キシロースからキシルロースへの変換を触媒するキシロースイソメラーゼ、およびキシルロースをリン酸化して、キシルロース5−リン酸を形成させるキシルロキナーゼをコードする遺伝子を含む。さらに、トランスケトラーゼおよびトランスアルドラーゼ、ペントースリン酸経路の2つの酵素は、キシルロース5−リン酸を、キシロースからエタノールへの代謝を可能にする解糖系のエントナー−ドウドレフ(Entner−Douderoff)経路にペントース代謝を結合する中間体に変換する。これらの酵素をコードするDNA配列は、腸内細菌、ならびにいくつかの酵母および真菌のようなキシロースを代謝することが可能である多数の微生物のいずれかから入手してもよい。コーディング領域の供給源として、ザントモナス(Xanthomonas)、クレブシエラ(Klebsiella)、エシェリキア(Escherichia)、ロドバクター(Rhodobacter)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、アセトバクター(Acetobacter)、グルコノバクター(Gluconobacter)、リゾビウム(Rhizobium)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、サルモネラ(Salmonella)、シュードモナス(Pseudomonads)、およびザイモモナス(Zymomonas)が挙げられる。大腸菌(E.coli)のコーディング領域が特に有用である。
【0080】
コードDNA配列は、Z.モビリス(Z.mobilis)グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼのプロモーター(GAPプロモーター)、およびZ.モビリス(Z.mobilis)エノラーゼのプロモーター(ENOプロモーター)のようなZ.モビリス(Z.mobilis)細胞において発現されるプロモーターに作動可能に連結される。コーディング領域は、プロモーターから個々に発現されてもよく、または2つ以上のコーディング領域が、同じプロモーターからの発現を伴う1つのオペロン内で接続されていてもよい。得られるキメラ遺伝子は、ザイモモナス(Zymomonas)に導入し、そしてプラスミド上で維持してもよく、または例えば、相同組み換え、部位特異的組込み、もしくはランダム組込みを使用して、ゲノムに組込んでもよい。特に有用なキシロース資化株として、CP4(pZB5)(米国特許第5514583号明細書)、ATCC31821/pZB5(米国特許第6566107号明細書)、8b(米国特許出願公開第2003/0162271号明細書;モハゲギ(Mohagheghi)ら、(2004年)Biotechnol.Lett.25;321−325)、およびZW658(本明細書において記載されている;ATTCC番号PTA−7858で寄託されている)が挙げられる。
【0081】
また、天然の物質ではないキシロースのような他の糖類を資化するためにさらに操作されるザイモモナス(Zymomonas)株を、本方法に使用してもよい。例としては、米国特許第5843760号明細書(参照により本明細書に援用される)に記載のようなアラビノース資化のために操作されたZ.モビリス(Z.mobilis)の株がある。
【0082】
GFORによるキシリトール合成の発見
Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化株による所望されない副産物キシリトールの合成は、エタノールの回収率を減少し、そして細菌増殖を阻害する毒性化合物であるキシリトール5−リン酸の形成を生じる(図2を参照のこと)。さらに、キシリトールは、キシロースイソメラーゼ、キシロース資化のために操作された経路における第1の酵素の強力なインヒビターであり、そしてその合成は、細胞がキシロースを代謝する能力を減少する。インビトロ実験は、Z.モビリス(Z.mobilis)におけるキシリトール形成のための少なくとも2つの経路が存在することを確立している(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲、ダニエルソン(Danielson)ら、上掲)が、本出願人らは、生理学的に産生されるキシリトールの大部分がGFOR酵素活性の結果であることを発見している。本明細書に記載されるとおり、ここで、キシロース含有培地上で増殖するキシロースを資化することができるZ.モビリス(Z.mobilis)株(または野生型Z.モビリス(Z.mobilis)のキシルロース合成誘導体)によって合成されるキシリトールの量は、GFOR酵素活性の非存在下で顕著に減少することが見出されている。本出願人らはまた、キシロースからキシルロースへの変換が、インビボでのGFOR仲介キシリトール産生の必須条件であること、およびこの反応は、キシロースイソメラーゼを発現するZ.モビリス(Z.mobilis)株のみにおいて生じ得ることを見出している。それ故、キシロース上で増殖するように操作されているZ.モビリス(Z.mobilis)株におけるキシリトールの主な生理学的供給源は、図IIおよびIIIに依存する反応のうちの1つまたは両方を介してGFORによって合成されることが提唱される。
【数2】
【数3】
【0083】
両方のスキームにおいて、キシルロースは、GFORに不可欠な電子受容体としての役割を果たすこと、およびソルビトール産生を生じるフルクトースとの既知の反応(図I)とは対照的に、この化合物はキシリトールに還元されることに留意すること。GFORは、グルコースおよびフルクトースにかなり特異的であるが、それは、不十分ではあるものの、他の糖類を電子供与体および電子受容体として使用することができることが示されている(ザカライオウ(Zachariou)およびスコープス(Scopes)(1986年)Journal of Bacteriology167:863−869)。それ故、キシロースおよびフルクトースを精製されたタンパク質と共にインキュベートした場合、ソルビトール産生が観察されたが、しかし、グルコースとのコントロール反応と比較して、GFOR酵素活性が約12倍減少した。同論文において、キシルロースが、フルクトースの代わりに電子受容体として作用することができること、およびこの反応は、図IIIに示すキシリトールを生じることが示された。しかし、このような基質の組み合わせにより、GFOR酵素活性が約14倍減少した。これらの観察に加えて、精製されたキシロースイソメラーゼを反応混合物に添加して、キシルロースの供給源を提供する場合、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)から調製される無細胞抽出物は、キシロースからキシリトールを生じることが可能であることも示されており(ダニエルソン(Danielson)、上掲)、それ故、GFORは、図IIに示される反応を触媒することができることが実証される。しかし、これらのGFOR仲介反応が生細胞において生じるかどうかについて、およびもしそうである場合、それらはどの程度キシリトール形成にインビボで寄与するかについては、本出願人らの発見前まで決定されていなかった。同じ不確定要素が、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)無細胞抽出物にも存在し、キシロースからキシリトールへ直接変換することが可能であるNADPH依存性アルドースレダクターゼ活性にも認められた(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲)。実際、プロセス関連条件下において、インビボは言うまでもなく、インビトロでのキシリトール形成に対するGFORおよびNADPH依存性アルドースレダクターゼの相対的寄与について、何らかの見識を提供する上記の無細胞抽出物による実験は行われなかった。それ故、GFORが、原則として、生理学的条件下、キシロース含有培地において、キシロース上で増殖するように操作されているZ.モビリス(Z.mobilis)株におけるキシリトール産生を担うという本出願人らの所見は、意外であり、先行技術から予想することはできなかった。
【0084】
GFOR遺伝子発現の変更
本発明のキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株は、キシリトール合成が減少するほどに、GFORをコードする遺伝子の発現が減少しているかまたは認められないように操作される。機能性酵素の存在を減少するための当業者に既知の任意の遺伝子改変を使用して、GFOR発現を改変してもよい。方法として、GFORをコードする遺伝子全体または遺伝子の一部の欠失、タンパク質が発現されないかまたはより低いレベルで発現されるように(プロモーターもしくはコーディング領域のいずれかにおいて)GFOR遺伝子にDNAフラグメントを挿入すること、GFORコーディング領域に変異を導入して、機能性タンパク質が発現されないように終止コドンまたはフレームシフトを付加すること、およびGFORコーディング領域に1つ以上の変異を導入して、非機能性であるかまたはそれほど活性ではないタンパク質が発現されるようにアミノ酸を変更することが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、アンチセンスRNAまたは干渉RNAの発現によってGFOR発現を阻止してもよく、そして共抑制を生じる構築物を挿入してもよい。これらの方法のすべては、GFOR酵素をコードする既知の配列(配列番号38)を利用する当業者によって容易に実践することができる。GFORコード配列の周囲のDNA配列はまた、いくつかの改変手順において有用であり、そして完全なゲノム配列(ジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692)の形でZ.モビリス(Z.mobilis)に利用可能である。
【0085】
本明細書の実施例3および5において例示されるように、遺伝子改変されたGFOR株を作製するための特に適切な方法は、スペクチノマイシン耐性遺伝子または他の選択マーカーに結合するGFORフランキングDNA配列によって仲介される相同組み換えを使用して、機能性GFOR酵素が発現されないようなGFORコーディング領域への選択マーカーの挿入をもたらすことである。さらに、対応する部位特異的リコンビナーゼの発現後、耐性遺伝子をGFOR遺伝子から切り出すが、後者の活性化は伴わないように、選択マーカーを部位特異的組み換え部位に結合させてもよい。部位特異的組み換えは、後に組み換え部位を残し、これがGFOR酵素の発現を破壊する。相同組み換えベクターを構築して、選択マーカーの切り出し後にGFOR遺伝子に欠失部を残してもよく、これは当業者に周知である。
【0086】
GFORの発現を完全になくすことが好ましいが、しかし、顕著に減少したGFORの発現もまた、本発明の実施形態である。この場合、非機能性GFOR遺伝子とは、通常より低いレベルのGFOR酵素が存在するように、通常の様式では機能しないことを指す。遺伝子不活化のいくつかの方法は、共抑制のようないくらか低いレベルで保持されている発現を生じ得る。本明細書において、改変されたGFOR株は、GFOR酵素活性が減少しているかまたは認められない遺伝子改変された株を指す。
【0087】
GFOR改変株の増殖およびエタノール産生
本発明のGFOR改変キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株を、キシロースを含有する培地において、他の糖類(「混合糖類」)の非存在または存在下で増殖させる。混合糖類は、キシロースに加えて少なくとも1つの糖を含む。ザイモモナス(Zymomonas)細胞の代謝のエネルギー源を提供し得る任意の糖、またはキシロースを含有する混合物に存在する任意の糖が含まれていてもよい。バイオマス糖化から生成される糖類上でGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)細胞を増殖させることが望ましい。典型的に、バイオマスは、例えば、国際公開第2004/081185号パンフレットならびに共有および同時係属中の米国特許出願第60/670437号明細書に記載のように、前処置され、次いで、リンド,L.R.(Lynd,L.R.)ら(Microbiol.Mol.Biol.Rev.(2002年)66:506−577)によって概説されているように、糖化酵素で処置される。バイオマス糖化は、典型的に、キシロースとグルコース、フルクトース、スクロース、ガラクトース、マンノース、および/またはアラビノースとの混合物を含み得る糖類を生成する。キシロースおよびグルコースを含む混合糖類組成物が好ましく、ここで、さらなる糖類が存在してもよい。
【0088】
多様な糖類の割合は、混合物において変動し得、キシロースでは、典型的に、糖類の全量の少なくとも約10%である。好ましくは、キシロースは約40%〜約60%の間である。フルクトースは、サトウキビバガスのようないくつかのバイオマスの糖化によって生成される糖類に存在し、そしてキシロースが糖混合物の少なくとも約10%を保持するように、キシロースまたはグルコースの一部をフルクトースに置き換えてもよい。さらに、アラビノースは、ヘミセルロースから誘導され、それ故、ヘミセルロースを含有する糖化バイオマスから誘導される混合糖類の典型的な成分である。
【0089】
GFOR改変株ではないキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株ではキシリトールが産生されない発酵条件下で、本発明のGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株は増殖し、そして非GFOR改変株に匹敵するほどエタノールを産生する。例えば、5:4のグルコース対キシロース比を伴う約100g/L混合糖のような低糖培地において、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)細胞は、非GFOR改変株と同様に作動する。
【0090】
最大限のエタノール産生および発酵効率のために、キシロースを含む高レベルの糖類を含有する培地において、キシロース資化性エタノロジェンを増殖させることが望ましい。混合糖類は、本発明のZ.モビリス(Z.mobilis)株の増殖のための培地において高濃度で使用され得る。これは、バイオマス糖化糖類の直接使用、またはほとんど希釈を伴わない使用を可能にし、それによって、商業的規模のエタノール産生に所望される発酵容積が縮小される。より大きな濃度のエタノールが産生され得るように、高い糖類濃度が使用される。発酵培地における混合糖類濃度は、典型的に、少なくとも約120g/Lおよび約300g/Lまでである。約150g/L〜約235g/Lの間にある高濃度の混合糖類が特に有用である。
【0091】
エタノールの産生に所望される高濃度混合糖類条件において、ソルビトールは、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の発酵培地に含まれる。本出願人らは、意外にも、ソルビトールを高混合糖類培地に添加すると、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の良好な増殖を可能にしたが、ソルビトールが含まれていなければ、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)は、ほとんどまたは増殖しなかったことを見出した。このことは、12〜36時間の停滞期間後にソルビトール添加を伴わずに濃縮糖混合物に順応することが可能であるGFOR産生株とは極めて対照的である。フルクトースまたは(フルクトースの供給源としての)スクロースを欠く培地において、GFORがソルビトールを合成するか、または浸透圧適応において役割を果たすことは予想されなかった。増殖培地にフルクトースが存在しなければ、図Iに示されるソルビトール合成のためのGFORの既知の反応は、進行し得ない。通常のGFOR酵素活性を伴うキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株が、長い停滞期間を伴うものの、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物において増殖することが可能であることから、フルクトースを伴わなければ、GFORがソルビトールを合成しないことが予想されるため、GFORによるソルビトール合成が浸透圧適応に必要でないことが示唆された。それ故、GFOR酵素活性をなくすことが、フルクトースを欠く増殖培地においてソルビトール産生のレベルに対して効果を有することは予想しておらず、そしてグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株の増殖にソルビトールが必要であることも、全く予想外であった。
【0092】
ソルビトール(D−ソルビトールおよび/またはL−ソルビトール)は、約2mM〜200mMの間の濃度で培地に存在し得る。培地におけるより適切な最終濃度は、約2mM〜100mMの間の濃度であり、5mM〜20mMの間の濃度が好ましい。マンニトールを、ソルビトールの代わりに、またはソルビトールとの組み合わせで、培地において使用してもよい。マンニトールは、共有および同時係属中の米国仮特許出願第60/847997号明細書(参照により本明細書に援用される)におけるソルビトールに類似の効果を有することが分かった。さらに、ガラクチトールおよび/またはリビトールを、ソルビトールまたはマンニトールの代わりに、またはソルビトールまたはマンニトールと組み合わせて使用することができることが分かった。ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、リビトールまたはそれらの組み合わせは、すべて、ソルビトールについて記載の濃度と同じ濃度で使用される。
【0093】
酢酸塩のようなインヒビターの存在または非存在下における高度の糖培地におけるような、GFOR改変株ではないキシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株によってキシリトールが産生される発酵条件下では、本発明のGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株は、非GFOR改変株より優れている。本出願人らは、消費されるキシロースの全量および最終的なエタノール力価の両方について、GFOR改変株の方が非改変株より大きいことを見出した。さらに加えて、プロセス関連条件下では、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)による発酵においてキシリトールは産生されないが、本明細書の実施例6において示されるように、所定の環境下では、非GFOR機構によって少量が合成され得る。
【0094】
キシロース資化およびエタノール産生における改善は、異なる発酵条件下で変動する。GFOR非改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株によって高レベルのキシリトールが産生される条件下では、キシリトール合成を欠如させると、GFOR変異の効果がさらに大きくなる。例えば、酢酸塩のようなインヒビターが培地に存在する場合、より多量のキシリトールがGFOR非改変株によって産生される。このキシリトール産生は、GFOR変異によって完全になくされ、GFOR変異を伴わずに少量のキシリトールが産生される条件におけるよりも、キシロース資化およびエタノール産生が増加することを可能にする。酢酸塩は、典型的に、処置されたセルロース系バイオマスに存在するため、処置されたセルロース系バイオマスから誘導される炭素源上において増殖させようとするエタノロジェンでは、酢酸塩に対して低減した感受性が所望される。それ故、発酵においてバイオマス加水分解物を使用する場合、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株を使用する発酵が特に有益である。
【0095】
エタノール産生のための発酵
エタノールの産生のため、組み換えGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)を、キシロースを含む混合糖類を含有する培地と接触させる。増殖が阻害されるほど混合糖類の濃度が高い場合、培地は、ソルビトール、マンニトール、またはそれらの混合物を含んでいる。ガラクチトールまたはリビトールを、ソルビトールまたはマンニトールの代わりに使用するか、またはソルビトールまたはマンニトールと組み合わせてもよい。Z.モビリス(Z.mobilis)は、発酵が発生し、そしてエタノールが産生される培地で増殖する。発酵は、空気、酸素、または他の気体の補充を伴わずに(嫌気性、微好気性(microaerobic)、または微好気性(microaerophilic)発酵のような条件を含み得る)、少なくとも約24時間行うが、30時間以上行ってもよい。エタノール産生が最大に到達するタイミングは、発酵条件に依存してばらつきがある。典型的に、インヒビターが培地中に存在する場合、より長い発酵期間が必要である。発酵は、約30℃〜約37℃の間の温度、約4.5〜約7.5のpHで行ってもよい。
【0096】
GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)は、キシロースを含む混合糖類を含有する培地中、実験規模の発酵槽、および商業的量のエタノールが産生される大規模化された発酵において増殖させることができる。エタノールの商業的産生が所望される場合、さまざまな培養方法論を適用することができる。例えば、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)からの大規模産生を、バッチおよび連続培養方法論の両方によって、産生させることができる。古典的なバッチ培養方法は閉鎖系であり、ここで、培地の組成は培養の開始時に設定され、培養プロセス中に人工的に変更されることはない。それ故、培養プロセスの開始時に、培地に所望の生物体を接種し、増殖または代謝活動を可能にして、系には何も添加しない。しかし、典型的に、「バッチ」培養は、炭素源の添加についてのバッチ処理であり、しばしば、pHおよび酸素濃度のような因子を制御することが試みられる。バッチ系では、系の代謝物およびバイオマス組成は、培養が終了する時点まで絶えず変化する。バッチ培養物内で、細胞は、静的な対数期を通過して高増殖対数期に達し、最終的に、増殖速度が減少または停止する定常期へと加減する。処理を行わなければ、定常期の細胞は最終的に死滅する。対数期の細胞は、しばしば、いくつかの系の最終産物または中間体の大部分の産生を担う。定常期または指数期後の産生は他の系において得ることができる。
【0097】
標準的なバッチ系の1つの変形例は流加培養系である。流加培養プロセスもまた、GFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)の増殖に適切であり、培養の進行に伴って基質を増量しながら添加することを除いて、典型的なバッチ系を含んでなる。異化代謝産物抑制が細胞の代謝を阻害し易い場合、および培地中の基質量を制限することが所望される場合、流加培養系が有用である。流加培養系における実際の基質濃度の測定は、困難であるため、これは、pH、およびCO2のような排気体分圧のような測定可能な因子の変化に基づいて、見積もられる。バッチおよび流加培養方法は当該技術分野において一般的かつ周知であり、その例は、Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology、クリューガー(Crueger)、クリューガー(Crueger)、およびブロック(Brock)、第2版(1989年)Sinauer Associates,Inc.、マサチューセッツ州サンダーランド(Sunderland,MA)、またはデスパンデ,ムクンドV.(Deshpande,Mukund V.,Appl.Biochem.Biotechnol.,36,227(1992年)(参照により本明細書に援用される)に見出すことができる。
【0098】
エタノールの商業的産生はまた、連続培養によっても達成することができる。連続培養は開放系であり、ここで、規定された培養培地を連続的にバイオリアクターに添加し、同時に等量の順化培地を処理のために取り出す。一般的に、連続培養は細胞を一定の高液体相密度で維持し、ここで、細胞は主に対数増殖期にある。あるいは、連続培養を固定化された細胞によって実施してもよく、ここで、炭素および栄養物が連続的に添加され、価値のある産物、副産物および不要産物が細胞塊から連続的に取り出される。細胞の固定化は、当業者に公知である天然および/または合成材料からなる広範な固相支持体を使用して実施することができる。
【0099】
連続または半連続培養によって、細胞増殖または最終産物の濃度に影響を及ぼす1つの因子またはいくつかの因子を調節することが可能である。例えば、1つの方法は、炭素源のような制限されている栄養物または窒素レベルを一定速度で維持し、そして他のすべてのパラメータを加減することが可能である。他の系では、培地の濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、増殖に影響を及ぼす多くの因子を連続的に変更することができる。連続系は定常状態の増殖条件を維持しようとし、それ故、培地を抜き取ることによって起きる細胞の消失は、培養における細胞増殖速度に対して均衡を保たなければならない。連続培養プロセスのための栄養物および増殖因子を調節する方法ならびに産物形成の速度を最大限にするための技術については、産業微生物学の分野において周知であり、さまざまな方法がブロック(Brock)、上掲によって詳述されている。
【0100】
以下の発酵レジメンがエタノール産生に特に適切である。所望されるGFOR改変キシロース資化性Z.モビリス(Z.mobilis)株を、オービタルシェーカー中、約150rpmで振盪しながら約30℃〜約37℃で振盪フラスコ中、半複合培地(semi−complex medium)において増殖させ、次いで、類似の培地を晩有する10L種発酵槽に移す。発酵パラメータがエタノール産生に最適化されている産生発酵槽に種培養物を移す場合、OD600が3〜6の間になるまで、種培養物を、種発酵槽において嫌気的に増殖させる。種タンクから産生タンクに移される典型的な播種容積は、約2%〜約20%v/vの範囲である。典型的な発酵培地は、リン酸カリウム(1.0〜10.0g/l)、硫酸アンモニウム(0〜2.0g/l)、硫酸マグネシウム(0〜5.0g/l)、酵母抽出物またはダイズを主材料とする製品(0〜10g/l)のような複合窒素源のような最小培地成分を含有する。最終濃度で約5mMのソルビトールまたはマンニトールが培地中に存在する。キシロース、およびグルコース(またはスクロース)のような少なくとも1つのさらなる糖を含む混合糖類は、炭素源を提供し、エタノールの率および力価を最大限にするために初期のバッチ処理された炭素源(50〜200g/l)の枯渇に際して発酵容器に連続的に添加する。炭素源供給速度は、培養物が、酢酸のような毒性の副産物の形成をもたらし得るグルコースの過渡の蓄積を生じないことを確実にするために、動力学的に調整する。利用する基質から産生されるエタノールの収率を最大限にするために、最初にバッチ処理するか、または発酵過程中に供給されるリン酸塩の量によって、バイオマスの増殖を制限する。発酵は、(水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、もしくは水酸化ナトリウムのような)苛性溶液および硫酸またはリン酸のいずれかを使用して、pH5.0〜6.0で制御する。発酵槽の温度は、30℃〜35℃に制御する。発泡を最小限にするために、消泡剤(任意のクラス−シリコーンを主材料とするもの、有機物を主材料とするものなど)を、必要に応じて容器に添加する。汚染を最小限にするために、場合により、カナマイシンのような株において抗生物質耐性マーカーが存在する抗生物質を使用してもよい。
【0101】
上記の条件の任意の組、および当業者に周知であるこれらの条件におけるさらなる変形例は、キシロース資化性組み換えザイモモナス(Zymomonas)株によるエタノールの産生のための適切な条件である。
【実施例】
【0102】
本発明を、以下の実施例においてさらに規定する。これらの実施例は、好適な実施形態を示す一方、あくまで例示として示されることが理解されるべきである。当業者であれば、上記の考察およびこれらの実施例から本発明の不可欠な特徴を確かめることが可能であり、また、その趣旨および範囲から逸脱することなく、それを多様な用途および条件に適合させるように本発明の多様な変更および改変をなすことが可能である。
【0103】
一般的方法
ここで使用した標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は当該技術分野において周知であり、サンブルック,J.(Sambrook,J.)、フリッシュ,E.F.(Fritsch,E.F.)およびマニアティス,T.(Maniatis,T.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1989年)(以後、「マニアティス(Maniatis)」);ならびにシルハビー,T.J.(Silhavy,T.J.)、ベンナン,M.L.(Bennan,M.L.)、およびエンクイスト,L.W.(Enquist,L.W.)、Experiments with Gene Fusions;コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1984年);ならびにグリーン・パブリッシング・アソシエーション・アンド・ウィリー−インターサイエンス(Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience)ニュージャージー州ホーボーケン(Hoboken,NJ)(1987年)から出版されたアウスベル,F.M.(Ausubel,F.M.)ら、Current Protocols in Molecular Biologyにより記載されている。
【0104】
略語の意味は次のとおりである:「kb」はキロベースを意味し、「bp」は塩基対を意味し、「nt」はヌクレオチドを意味し、「hr」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「L」はリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「mM」はミリモルを意味し、「μM」はマイクロモルを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「μmol」はマイクロモルを意味し、「pmol」はピコモルを意味し、「Cm」はクロラムフェニコールを意味し、「Cmr」はクロラムフェニコール耐性を意味し、「Cms」はクロラムフェニコール感受性を意味し、「Spr」はスペクチノマイシン耐性を意味し、「Sps」はスペクチノマイシン感受性を意味し、「XI」はキシロースイソメラーゼであり、「XK」はキシルロキナーゼであり、「TAL」はトランスアルドラーゼであり、「TKT」はトランスケトラーゼであり、「EFT」は発酵経過時間を意味し、「RM」は10g/Lの酵母抽出物+2g/LのKH2PO4を含有するリッチ培地を意味し、「MM」は10g/Lの酵母抽出物、5g/Lのトリプトン、2.5g/Lの(NH4)2SO4および0.2g/LのKH2PO4を含有する接合培地(mating medium)を意味する。
【0105】
酵素アッセイのためのザイモモナス(Zymomonas)の無細胞抽出物の調製
細胞を、50mlのRM+2%グルコース中、30℃で、1晩、1.0〜1.2のOD600まで増殖させた。細胞を、4500rpmで10分間、4℃で、遠心分離により回収した。上清を廃棄し、そして細胞ペレットを、25ml氷冷音波処理用緩衝液(10mMのTris、pH7.6、10mMのMgCl2)で洗浄し、続いて、4500rpmで10分間、遠心分離を行った。ペレットを、2.0〜2.5ml音波処理用緩衝液+1mMジチオスレイトールに再懸濁した。500μlアリコートを、1分間、エッペンドルフ遠心管中、4℃で遠心分離した。上清のほとんどを廃棄し、約10〜20μlを残して、ペレットの乾燥を防止した。細胞を凍結し、そしてアッセイを行うまで−80℃で貯蔵した。アッセイの前に、細胞を融解し、そして500μlの音波処理用緩衝液+1mMジチオスレイトールで再懸濁した。混合物を、ブランソン(Branson)ソニファイアー450を使用して、45秒間、62%デューティサイクルおよび2の出力制御関数で、音波処理の間隔の間、サンプルを約3〜5分間冷やしながら、2回音波処理した。サンプルを、14,000rpmで60分間、ベックマン(Beckman)微量遠心機中、4℃で遠心分離した。上清を、新しいチューブに移し、そして4℃で保持した。ピアス(Pierce)BCAアッセイを、タンパク質濃度を決定するために使用した。
【0106】
この酵素は他の酵素要素より不安定であるため、トランスケトラーゼ(TKT)アッセイは、通常、最初に実施した。TKTアッセイの図を図3Aに示す。
【0107】
マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.37mMのNADP、50mMのTrisHCl pH7.5、8.4mMのMgCl2、0.1mMのTPP((チアミン塩化ピロリン酸)、0.6mMのE4P(エリトロース−4−リン酸)、4mMのBHP(βヒドロキシピルビン酸)、4U/mlのPGI(ホスホグルコースイソメラーゼ)、および4U/mlのG6PD(グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ)。A340を、3〜5分間、プレートリーダー上で読み取った。TKT活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1μmolのD−フルクトース6−リン酸/分の形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.55cm
(NADP→NADPHのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク質濃度(mg)
【0108】
トランスアルドラーゼ(TAL)アッセイの基礎を図3Bに示す。マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.38mMのNADH、87mMチエタノールアミン(thiethanolamine)、17mMのEDTA、33mMのF6P(フルクトース−6−リン酸)、1.2mMのE4P(エリトロース−4−リン酸)、2.0U/mlのGDH(グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)、および20U/mlのTPI(トリオースリン酸イソメラーゼ)。プレートを5分間、インキュベートし、次いで、A340を3〜5分間、読み取った。TAL活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1分間あたりの1μmolのD−グリセルアルデヒドの形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.5
5cm
(NADH→NADのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク
【0109】
キシロースイソメラーゼ(XI)アッセイの基礎を図3Cに示す。マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.256mMのNADH、50mMキシロース、10mMのMgSO4、10mMチエタノールアミン(thiethanolamine)、および1U/mlのSDH(ソルビトールデヒドロゲナーゼ)。A340を、3〜5分間、プレートリーダー上で読み取った。XI活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1分間あたりの1μモルのD−キシルロースの形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.55cm
(NADHP→NADのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク質濃度(mg)
【0110】
キシルロキナーゼ(XK)アッセイの基礎を図3Dに示す。マイクロプレートアッセイでは、20μlの無細胞抽出物を、次の最終濃度の成分を含んだ反応混合物の各ウェルに30℃で添加した:0.2mMのNADH、50mMのTris HCl pH7.5、2.0mmのMgCl2−6H2O、2.0MのATP、0.2MのPEP(ホスホエノールピルビン酸)、8.5mMのD−キシルロース、5U/mlのPK(ピルビン酸キナーゼ)、および5U/mlのLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ(lactate dehydrognase))。A340を、3〜5分間、プレートリーダー上で読み取った。XI活性を以下のとおりに算出した:
1単位は、30℃における1分間あたりの1μモルのD−キシルロースからD−キシルロース−5−リン酸への形成に対応する。
U(μモル/分)=勾配(dA340/分)*反応物の容積(μL)/6220/0.55cm
(NADH→NADのモルは1cmキュベットにおける1Lあたり1モルあたりの6220A340である)
(マイクロプレートにおける1ウェルあたり200μlの路長=0.55cm)
比活性(μモル/分−mg)=μモル/分/タンパク質濃度(mg)
【0111】
HPLC方法
分析は、LC 3DのAgilent1100シリーズHPLCおよびAgilent ChemStationソフトウェアで行った。カラムは、BioRad Micro−Guard Cartridge Cation−H(125−0129)を伴うBioRad Aminex HPX−87H(HPLC Organic Analysis Column125−0140)であった。操作条件は以下のとおりであった:
流速:0.6mL/分
溶媒:0.01N H2SO4
停止時間:25分
注入容積:5μL
オ−トサンプラ−:温度管理(10℃または4℃)
カラム温度:55℃
検出器:外部標準検量線を伴う屈折率(40℃)
【0112】
実施例1
ZW658、キシロースを発酵させるザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)株の構築
ZW658を、連続的な転位事象を介して、キシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼをコードする4つのキシロース資化遺伝子を含有する2つのオペロン、PgapxylABおよびPgaptaltktをZW1(ATCC番号31821)のゲノムに組込むことによって構築し、続いて、キシロースを含有する選択培地に適応した。以前に、米国特許出願公開第2003/0162271号明細書に記載の8bと呼ばれるキシロースを発酵させるザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)株を、相同組み換えおよびトランスポゾンアプローチの組み合わせを介して、選択抗生物質マーカーと共に2つのオペロンPgapxylAxylBおよびPenotaltktをザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)5Cのゲノムに組込むことによって、構築し、続いて、適応およびNTG変異誘導を行った。このアプローチは利点として組込み部位の多数の選択肢および比較的高い挿入頻度を付与するため、ZW658の調製では、部位特異的相同組み換えとは対照的に、転位(エピセンター(Epicentre)社製EZ::Tnインビトロ転位システム)を使用した。キシロース資化酵素をコードする4つの遺伝子を配列し、そして組込みのための2つの個別のオペロン:PgapxylABおよびPgaptaltktとしてクローニングした。2つのP1ファージCreリコンビナーゼ認識配列(loxP)によってフランキングされる抗生物質耐性マーカー、クロラムフェニコール耐性(Cmr)遺伝子を、組込み体の選択のための各オペロンに付着させた。2つのオペロンの組込みを、2段階の連続様式:Pgaptaltkt続いて、PgapxylABで達成した。Cm耐性選択は、プラスミド上のCreリコンビナーゼを発現させ、続いて、各組込み後のプラスミドのキュアリングによって、取り出されるため、両方の組込みにおいて使用した。このプロセスにより、選択のために同じ抗生物質マーカーを複数回使用することが可能であった。さらに重要なことに、それは、オペロンの組込みの選択のために誘導される抗生物質マーカーの取り出しを可能にした。このプロセスにより、商業的用途のための発酵株に対する抗生物質耐性遺伝子の悪影響がなくされた。
【0113】
転位のためのpMODPgaptaltktCmの構築
米国特許出願公開第2003/0162271号明細書(その明細書の実施例9)に記載のように、大腸菌(E.coli)由来のトランスケトラーゼ(tkt)コーディング領域を含有する2.2kbのDNAフラグメントを、BglII/XbaI消化によってpUCtaltkt(米国特許出願公開第2003/0162271号明細書)から単離し、そしてBamHI/XbaIで消化したpMOD(エピセンターバイオテクノロジーズ(Epicentre Biotechnologies)、ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))ベクターにクローニングし、pMODtktを得た。ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)gap(Pgap;グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子のプロモーター領域を大腸菌(E.coli)トランスアルドラーゼのコーディング領域(tal)に次のとおりに融合することによって、Pgaptalと命名されるPCRフラグメントを作製した。配列番号1および2を伴うプライマーを使用して、Pgapフラグメント(その構築については米国特許第5514583号明細書(実施例3)に記載されている)をpZB4から増幅した。pZB4は、Pgap−xylA/xylBオペロンおよびPENO−tal/tktオペロンを含有する。配列番号3および4を伴うプライマーを使用して、talコーディング領域フラグメントを、pZB4から増幅した。テンプレートとしてPgapおよびtalフラグメントを使用し、配列番号5および6を伴うプライマーを使用して、Pgaptalフラグメントを増幅した。このフラグメントをXbaIで消化し、そしてプラスミドpMODtktのtktコーディング領域の上流にクローニングした。Cmlox(F,sfi)およびCmlox(R,sfi)プライマー(配列番号7および8)ならびにテンプレートとしてpZB186を使用するPCRによって、loxP::Cmフラグメントを作製した。pZB186は、生来のZ.モビリス(Z.mobilis)プラスミド、ならびに米国特許第514583号明細書(実施例3)およびチャン(Zhang)ら((1995年)Science267:240−243)に記載のpACYC184の組み合わせである。最後に、loxP::CmPCRフラグメントを、Pgaptaltktを含有するプラスミドのSfiI部位に挿入し、組込みプラスミドpMODPgaptaltktCm(図4)を形成させた。このプラスミドでは、Pgaptaltkt loxP::Cmフラグメントを、pMODベクターの2つのモザイク末端(mosaic end)(トランスポナーゼ結合部位)の間に挿入した。pMODPgaptaltktCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列を、配列番号9として示す。
【0114】
ZW1におけるpMODPgaptaltktCmの転位および形質転換
プラスミドpMODは、pUCに基づくベクターであり、従って、ザイモモナス(Zymomonas)における非複製ベクターである。プラスミドpMODPgaptaltktCmを、Mg2+の存在下、室温で1時間、トランスポゼースで処置し、そして(200オーム、25μFおよび16kV/cmに設定したバイオラッド・ジーン・パルサー(BioRad Gene Pulser)を使用する)エレクトロポレーションによって、ZW1細胞を形質転換するために使用した。エレクトロポレートした細胞を、50g/Lグルコースおよび1mMのMgSO4を補充した10g/L酵母抽出物、5g/Lトリプトン、2.5g/Lの(NH4)2SO4、0.2g/LのK2HPO4)からなる接合培地(mating medium)(MM)中、6時間、30℃でインキュベートした。形質転換混合物を、50g/Lグルコースおよび120μg/mLクロラムフェニコールを補充したMM中に15g/Lバクト(Bacto)寒天を含有する寒天プレート上でプレート化し、そして30℃で嫌気的にインキュベートした。約2日間後、形質転換体が目視で認められた。形質転換/転位頻度は、約3×101/μgのDNAであった。
【0115】
合計で39個のCmr形質転換体コロニーを得た。21個のコロニーを拾い出し、そしてPCRおよび酵素活性アッセイによってさらに分析した。プライマー配列番号10および11を使用するPCRにより、形質転換体におけるtalおよびtktコーディング領域を含有する3kbのDNAフラグメントの存在を確認した。21個の組み換え体コロニー由来のプラスミドDNAによる戻し形質転換により、大腸菌(E.coli)において戻し形質転換体が作製されなかったことから、talおよびtktは、ZW1のゲノムに組込まれたことが示唆された。マイクロプレート用に改変したプロトコル(一般的方法)を使用して、これらの組込み体を、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ活性について試験した。ピアス(Pierce)BCAタンパク質アッセイを、タンパク質濃度の決定するために使用した。形質転換体を、120μg/mlクロラムフェニコール)を補充した2%(w/v)グルコースを含有するRM培地中、50ml円錐遠心管において30℃で増殖させた。酵素アッセイでは、コントロール株8bおよびZW1も増殖させた(ZW1ではRM+2%グルコースを使用した)。OD600が1.0に到達した場合、細胞を回収した。細胞を1回洗浄し、そして音波処理用緩衝液(10mMのTris−HCl、pH7.6および10mMのMgCl2)に再懸濁した。米国特許出願公開第2003/0162271号明細書に記載のように、酵素アッセイを行った。単位をμモル/分−mgとして示す。1つを除いて、すべてのサンプルは、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ活性を有した。
【0116】
tktプローブを使用して、PstIで消化した選択された組込み体のゲノムおよびプラスミドDNAに対し、サザンハイブリダイゼーションを実施した。ZW1 DNAは、tktプローブとはハイブリダイズしなかった。すべての組込み体ゲノムDNAサンプルにおいて、共通の1.5kbのバンドが認められたが、これは、tkt中のPstI部位とtal中のPstI部位との間において予想されるDNAフラグメントである。第2の認められる高分子量(6kb以上)のバンドは、各系統において個別のゲノム組込み部位を示す独立した系統T2、T3、T4およびT5の間で独特であった。興味深いことに、プラスミドおよびT5のゲノムDNAの両方ともtktプローブとハイブリダイズし、Pgaptaltktもまた、生来のプラスミド上のT5に組込まれた可能性があることを示した。Cmrマーカーを取り出すためのさらなるCre処置について、これらの4つの株(T2、T3、T4およびT5)を選択した。
【0117】
taltkt組込み体からCmrマーカーを取り出すためのCre処置
染色体からCmrマーカーを取り出すため、T2、T3、T4およびT5をpZB188/Spec−Creで形質転換した。このプラスミドは、Creリコンビナーゼの発現カセットを含有するザイモモナス(Zymomonas)−大腸菌(E.coli)シャトルベクターpZB188[チャン(Zhang)ら(1995年)Science267:240−243;米国特許第5514583号明細書]の誘導体である。pZB188/Spec−Creは、それがカナマイシン−耐性遺伝子の代わりにスペクチノマイシン−耐性遺伝子を有することを除いて、実施例10に記載されているCre発現ベクター(pZB188/Kan−Cre)と同一である。2%グルコースおよび200μg/mlスペクチノマイシン)を補充したMM寒天プレート上で、形質転換体を選択した。Spr耐性コロニーを拾い出して、2%グルコースおよび200μg/mlスペクチノマイシンを補充したRM寒天プレートおよび2%グルコースおよび120μg/mLのCmを補充したRM寒天プレート上に移した。拾い出したコロニーの100%がCmsであったことから、CreによるCmrの高い効率の切り出しが示された。SprCms形質転換体を、RM+2%グルコースにおいて、37℃、2〜5回の連日継代で培養し、pZB188aadACreFをキュアリングした。各継代時に、細胞を希釈し、そして拾い出して、200μg/mLのSpを伴うまたは伴わない同じ培地のさらなるプレートに移すために、RM+2%グルコース寒天プレート上にプレート化した。PCRによってSpsコロニーを分析して、pZB188aadACreFの消失を確認した。組込み体のプラスミドがキュアリングされた子孫を、T2C、T3C、T4CおよびT5Cと命名した。これらの転位組込み体が安定であるかどうかを調べるために、これらの4つの株を、RM+2%グルコースにおいて増殖させ、次いで、10mlの同じ培地に移し、そして37℃で、2回反復測定の試験管において増殖させた。細胞を、10日間連日、または約100代まで継代した。1代および10代継代後、コロニーを希釈し、そしてコロニー単離のためにRMGプレート上にプレート化した。試験した各株の各継代由来の12個のコロニーは、5’Pgapおよび3’tktプライマー(配列番号1および11)を使用するコロニーPCRによるPgaptaltktの存在についてポジティブであった。トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ活性もまた、(一般的方法に記載のとおりに)1回目および10回目の継代後の単離体について測定した。4つのすべての組込み体は、非選択的倍地上の100代目後もTALおよびTKT活性の両方について類似のレベルを有したことから、これらの組込み体が遺伝的に安定であることが示唆された。
【0118】
転位のためのpMODPgapxylABCmの構築
次の工程は、ZW1::Pgaptaltkt組込み体(T2C、T3C、T4CおよびT5C)にPgapxylAB loxP::Cmオペロンをさらに組込むことであった。プラスミドpMODPgaptaltktCm(図4)に基づいて、組込みプラスミドpMODPgapxylABCm(図5)を構築した。SacI/SfiI消化によってPgaptaltktDNAフラグメントを取り出した。SacI、NotI、およびSfiI制限部位を含有するアダプターフラグメントを、連結によって導入した。次いで、pZB4(米国特許第5514583号明細書)から単離したPgapxylABのNotIフラグメントを、アダプターのNotI部位にクローニングした。キシロースイソメラーゼ(XI)はxylAによってコードされ、そしてキシルロキナーゼ(XK)はxylBによってコードされる。pMODPgapxylABCmプラスミドの完全なヌクレオチド配列を、配列番号12として示す。
【0119】
T2C、T3C、T4CおよびT5CにおけるpMODPgapxylABCmの転位および形質転換
PgaptaltktCmの組み込みと同様のアプローチを使用して、T2C、T3C、T4CおよびT5Cを、トランスポナーゼで処置した(上記の)pMODPgapxylABCmで形質転換/転位した。Cm選択後の2回の形質転換/転位実験で、6つの組込み体(T3CCmX1、T3CCmX2、T3CCmX3、T4CCmX1、T5CCmX1、T5CCmX2)を得た。すべてについて、2つの組のプライマー:配列番号13、および14、ならびに配列番号15および16を使用するPCRによって、xylABの存在か確認されたが、但し、T2CcmX1およびT2CcmX6については、プライマー配列番号13および14を使用すると、PCRフラグメントが検出されなかった。
【0120】
2つのPCRネガティブ系統を含む組込み体を、XI、XK、TALおよびTKT活性についてアッセイした(一般的方法)。図6および7において示される結果は、6つのxylAB組込み体T3CCmX1、T3CCmX2、T3CCmX3、T4CCmX1、T5CCmX1、およびT5CCmX2はすべて、XI、XK、TALおよびTKT活性を有したことを示した。ネガティブな親コントロールと比較して、XIおよびXK活性が新たに獲得された(図6)。TALおよびTKT活性は、親コントロールと同じように維持された。すべての結果は、タンパク質が作製され、そして機能的であることを示した。酵素活性レベルにはばらつきが認められたが、TIおよびXK活性は、同じプラスミドで形質転換/転位されたZW1組込み体のTIおよびXK活性と同様であった。XI、XK、TALおよびTKTの活性のレベルは、株8bより低かった。
【0121】
xylABオペロンの組込みを、サザンハイブリダイゼーションによって確認した。6系統のゲノムおよびプラスミドDNAの両方を、SphIで消化し、そしてジゴキシゲニン(digoxenin)標識xylBプローブにハイブリダイズさせた。xylBにおけるSphI部位およびpMODベクターベクター上の隣接するクローニング部位におけるもう1つのSphI部位から作製される約3kbの共通のバンドは、すべてのゲノムDNAサンプルに存在し、さらに、ゲノムDNAサンプル中に、より高い分子量のハイブリダイズバンドが認められたことから、染色体にPgapxylABオペロンのための4つの組込みの部位が存在することが示された。T3CCmX1およびT3CCmX2は、同じ組込み部位を有するようであり、T3CCmX3およびT4CCmX1は、同じ組込み部位を有し得、そしてT5CCmX1およびT5CCmX2はそれぞれ、個別の組込み部位を有した。PstIによる同じDNAの消化、それに続く、tktプローブとのサザンハイブリダイゼーションにより、各組込み体は、そのそれぞれの親株と同じハイブリダイゼーションパターンを有したことが実証された。
【0122】
キシロース培地におけるZW1::Pgaptaltkt PgapxylABCm組込み体の適応
キシロース資化のための4つのすべての酵素活性が存在しているにもかかわらず、先の観察(米国特許出願公開第2003/0162271号明細書)では、組込み体は、キシロース上で直ぐには増殖しないことが示された。キシロース上での増殖は、(試験管中またはプレート上のいずれかにおける)キシロース培地上での長期のインキュベーション、適応と呼ばれるプロセス後、生じ得る。
【0123】
株は、以下のとおりに適応させた。ZW1::PgaptaltktPgapxylABCm組込み株を、(10g/l酵母抽出物、2g/lのKH2PO4、20g/lまた
は2%(w/v)キシロースならびにRMGX(0.025%(w/v)グルコース、4%(w/v)キシロースを伴うRMを含有する)RMXを含有する試験管およびプレートに播種した。低レベルのグルコースを使用して、初期の増殖を支持し、適応中の変異の可能性を増加させた。培養およびプレートの両方におけるキシロースに対する適応についての少なくとも5つの試みのうちの1つが、成功であった。30℃での10日間の嫌気的インキュベーションの後、17および19個のコロニーが、それぞれT3CCmX1およびT3CCmX2細胞をプレート化したMMGX上で認められた。コロニーは小さく、そしてプレート上では健常でないように見えた(透明であった)。12個のコロニー(T3CCmX1プレーティング由来の4個:T3CCmX11、T3CCmX12、T3CCmX13およびT3CCmX110;T3CCmX2プレーティング由来の8個:T3CCmX24、T3CCmX25、T3CCmX26、T3CCmX27、T3CCmX28、T3CCmX29、T3CCmX211およびT3CCmX212)をRMGCm120に播種し、そしてさらなる適応のために3mlのRMXに移して、キシロース上でより迅速に増殖することが可能な系統を得た。
【0124】
3mlのRMXを含有する試験管における組込み体の適応は、30℃で行った。OD600を、スペクトロニック(Spectronic)601分光光度計で定期的にモニターした。増殖が対数期の中間部に到達したら、培養をRMXの新鮮な管に移した。このプロセスを、7継代、連続した。増殖速度および最終OD(非線形読み取り)が、継代の間に改善された。
【0125】
6回目の継代において、培養物をRMXプレート上から画線して、単一のコロニーを単離した。3つの組込み体:T3CCmX13、T3CCmX26およびT3CCmX27が、RMX画線プレート上で他より迅速に増殖したが、これらを、以下の表および考察でX13、X26およびX27と称した。最良のキシロース資化増殖体をスクリーニングするために、TX13、X26およびX27に対するそれぞれ4個の大きな(L1−4)および4個の小さな(S1−4)コロニーを選択し、そして増殖、糖資化、およびエタノール産生をモニターし得るように、RMX試験管中で増殖させた。コロニーを、1晩、30℃で増殖させ、続いて、2回反復測定の試験管中3mlのRMXにOD600=0.05を播種した。X27は、RMGにおいて、他の培養物より遅く増殖し、そして6.5時間後に再度、播種した。69時間(X27では62.5時間)後、サンプルを、HPLC分析(一般的方法)のために採取した。図8は、69時間目(すべてのX27培養物については62.5時間)での培養の平均エタノール収率(理論的収率の%)およびキシロース資化(%)を示す図表である。大きなコロニーと小さなコロニーとの間で、有意差は認められなかった。X27の性能は、キシロース上のX26と比較して、より良好であったが、それは、グルコース上では、より遅い増殖を示した。従って、最上位の性能を示すもの、X13(X13L3)およびX26(X26L1)の大きなコロニーを、pH制御された発酵におけるさらなる評価のために選択した。発酵を、RMG(6%グルコース)、RMX(6%キシロース)およびRMGX(8%:4%;グルコース:キシロース)中、37℃で、株X13L3およびX26L1、ならびにコントロール株8bについて行った。RMG(6%)およびRMGX(8%:4%)において増殖したX13L3およびX26L1によるグルコースの発酵は、かなり迅速に進行した。RMGX(8%:4%)におけるキシロースの発酵は、X13L3およびX26L1では、株8bと比較して緩徐であった。さらに、RMX(6%)上、37℃での増殖は、X13L3およびX26L1の両方とも、長い停滞の後に生じた。いくらかの単離体、X13b、X13cおよびX13FLを、RMX(6%)発酵から回収した。これらの単離体を、本来の株X13a(X13L3の単離体)およびX26と共に、本実施例において先に記載のようにCre処置に供して、ZW1::PgaptaltktPgapxylABCm株からCmrマーカーを取り出した。得られたCre処置されたCmrを含まない組込み体を:X13aC、X13bC、X13cC、X13FLCおよびX26Cと命名した。
【0126】
RMX(5%)中37℃での連続継代によるキシロース培地における組込み体の適応
先に記載のように、RMX上、30℃での初期のZW1::PgaptaltktPgapxylABCm株の適応により、これらの条件における株の増殖が顕著に改善された。しかし、適応された株は、RMX(6%)における37℃での増殖および発酵の間、長い停滞を蒙る。より高い糖濃度および温度を含む好適なプロセス条件でキシロース発酵のために組込み体をさらに改善するために、進化または適応プロセスを、RMX(5%)中37℃で継続させた。連続継代を行い、そして最も良好な資化増殖体を選択した。このプロセスで使用した組込み体は、X13aC、X13bC、X13cC、X26CおよびX13FLCを含んだ。これらの5つの株を、RMX中30℃で6継代増殖させた後、さらに5〜16代の継代のために、37℃でRMX(5%)に移した。すべての継代中および後、培養物をRMXプレート上に画線し、そして37℃でインキュベートして、単一のコロニーを単離した。大きなコロニーについてさらに、RMXプレート上への画線および37℃でのインキュベートを3〜4回行い、コロニーを精製した。最終的な大きなコロニーを、RMX(5%)における37℃での増殖試験のために選択した。
【0127】
RMX(5%)培地における37℃での適応由来の株の評価
連続継代による適応後に単離した18個のコロニーを、はじめに、RMX(5%)試験管中、37℃で試験した。12の株を、第2の試験管評価のために選択した。比較のために、株8bをすべての評価に含めた。18個のコロニーを、RMGにおいて、37℃で1晩増殖させ、遠心分離し、そして細胞を、第1の評価のために、試験管中4mlのRMX(5%)に37℃で、静置状態で播種した。増殖(OD600、非線形的)およびエンドポイントのHPLC結果(低い残留キシロースおよび高エタノール)に基づいて、12の株を、第2の評価のために選択した。
【0128】
第2の評価の目的の1つは、キシロース上での改善された増殖の安定性および株のキシロース資化能を試験することであった。12のすべての株を、安定性研究に供して、適応された株を非選択培地に暴露して、37℃で50代連続的に継代培養させた後に、それらが安定であるかどうかを調べた。RMG(5%)継代培養の前および後の培養物を、RMX(5%)試験管に播種し、そして評価のために37℃で増殖させた。非線形的ODを、スペクトロニック(Spectronic)601分光光度計において、試験管の直接読み取りによってモニターした。RMGにおける50代の増殖の前および後のRMX(5%)における増殖の70時間目のODを、図9にプロットした。結果は、ほとんどの株が、RMG、37℃において50代後も安定であったことを示した。(定常期における)エンドポイントの上清もまた、キシロースおよびエタノール濃度についてHPLCによって分析した。これらの培養物において低い残留キシロースおよび高いエタノール濃度が認められたことから、株が増殖し、そしてキシロースを良好に発酵したという事実が裏付けられた。
【0129】
上記の試験管評価(低い残留キシロース、高いエタノール濃度およびより高いOD)、ならびに高度の糖類におけるおよび酢酸塩の存在下でより良好な資化増殖体を選択するための高濃度のグルコースおよび/またはキシロース(20%まで)、および酢酸塩を伴うグルコースおよびキシロースの混合物による以後のマイクロタイタープレート増殖スクリーニングの結果に基づけば、ZW658と称される株番号26が全体的に最も良好な性能を示した。
【0130】
実施例2
最上位の改善されたキシロース資化株の37℃における発酵の評価
以下の実施例は、バイオマス加水分解物において予想される糖濃度および酢酸レベルを模倣する発酵条件下の改善されたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株ZW658の発酵性能を例示する。株ZW658を、それぞれ、10%グルコース(RMG10%)、8%キシロース(RMX8%)、10%グルコース+8%キシロース(RMGX10%8%)および10%グルコース+8%キシロース+0.6%酢酸(RMGXAc10%8%0.6%)を補充したRM培地を含有する発酵槽に播種した。すべての発酵は、300ml培地を伴うシックスフォース(Sixfors)中、150rpm、pH5.5および37℃で行った。窒素を、発酵槽中の培地に1晩パージし、そして播種直前に停止した。発酵中は、窒素をパージしなかった。RMG5%においてワーキングストックから起こした後の振盪フラスコ(150rpm)中37℃でのRMGX(10%、4%)によって、発酵のための播種物を調製した。株8bを、同じ条件下のコントロールとして使用した。図10に示すように、ZW658は、RMG10%上で8bと比較して、より緩徐に増殖し(AおよびB)、そしてRMX8%上では8bに類似の速度で増殖した(CおよびD)。より緩徐な増殖速度にもかかわらず、図10は、グルコース培地での発酵の終了時にZW658のエタノール収率(93%)が8bに類似したことを示す。RMX8%培地では、エタノール収率は、8b(0.44gエタノール/g糖)と比較するとZW658(0.46gエタノール/g糖)の方が高かった。ZW658は、RMX8%において8bと比較して、約4g/l多いエタノールを産生した。興味深いことに、ZW658は、何らキシリトールを産生しなかった一方、8bは、RMX8%における発酵の終了時に低レベルのキシリトール(0.7g/l)を産生した。図11に示すデータは、酢酸塩を伴って(C、D)または伴わずに(A、B)10%グルコース+8%キシロースを発酵する際に、ZW658が、8bと比較してより良好に作動したことを示し、より多いグルコースおよびキシロース消費、より少ないキシリトール産生、およびより多いエタノール産生によって示される。37℃およびpH5.5でのRMG10%X8%における両方の株の発酵の終了時に、グルコースのほとんどが使用され、そして実質的な残留キシロースが保持されたが、ZW658は、8bより約8g/l多いキシロースを使用した。37℃およびpH5.5でのRMG10%X8%中ZW658における発酵の終了時のキシリトール産生(4.9g/l)は、8bのキシリトール産生(8.2g/l)より有意に低かった。酢酸塩(6g/l)の存在下において、両方の株の細胞増殖は、有意に減少し、グルコースおよびキシロースの両方の貧弱な発酵性能を生じたが、ZW658は、より多いグルコースおよびキシロース産生、より少ないキシリトール産生およびより多いエタノール産生について、僅かにより良好な発酵性能を示した。RMX8%とは異なり、酢酸塩を伴うまたは伴わないRMG10%X8%では、両方の株とも副産物キシリトールを産生したが、8bと比較してZW658ではキシリトールがより少なく産生された。2つの株の発酵性能を表1に要約する。全体として、ZW658は、純粋な糖発酵において8bより良好に作動した。実施例1に記載のように、ZW658は、抗生物質選択マーカーを含まず、これは、商業的用途において発酵生物体に貴重な特性である。
【0131】
【表2】
【0132】
実施例3
ZW1およびZW658におけるグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)遺伝子の挿入不活化の自殺構築物の調製
ZW1およびZW658においてグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼをコードする遺伝子をノックアウトするために使用される自殺構築物(「GFORSp−9WW」)を、宿主経由、二重交差、相同組み換えおよび選択マーカーとしてスペクチノマイシン耐性を使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)においてD−乳酸デヒドロゲナーゼの遺伝子を挿入により不活化するために先に使用された別の自殺構築物(「pLDHSp−9WW」)から誘導した。pLDHSp−9WWもまた、先に作製された他の多くの構築物から誘導した。これらの構築物のすべての最初の前駆体は、プラスミドベクターpNEB193(NEB番号N3051S;ニュー・イングランド・バイオラブス(New England Biolabs))であった。それは大腸菌(E.coli)において複製することができるが、それはZ.モビリス(Z.mobilis)では複製することができないため、このプラスミドを選択した。GFORを作製するのに関与したすべての工程および中間体について、プラスミドpNEB193から開始して、年代順に以下に説明する。
【0133】
pLDH193の構築
以下に説明するDNAフラグメントの挿入のために、pNEB193をSbfIおよびAscIで二重消化した。両方の制限部位は独特であり、そしてプラスミドのマルチクローニング領域に局在する。SbfI/AscI−線状化pNEB193プラスミドDNAフラグメントを、製造者のプロトコルに従い、キアゲン(Qiagen)社製QIAクイック・ピュリフィケーション・キット(QIAQuick Purification Kit)(カタログ番号28104)を使用して、精製した。pNEB193にクローニングされたDNAフラグメントは、キアゲン(Qiagen)社製ブラッド・アンド・セル・カルチャー・マキシ・キット(Blood & Cell Culture Maxi Kit)(カタログ番号13362)を使用して、株ZW1から単離されたZ.モビリス(Z.mobilis)ゲノムDNAからPCR増幅された2268bpフラグメントであった。このフラグメントのPCR増幅のために使用した合成オリゴヌクレオチドは、プライマー1および2であった:
プライマー1(配列番号17):
CTACTCATTTcctgcaggTGGTAACTCATTGCGCGCTC
プライマー2(配列番号18):
CATCTTACTggcgcgccAAAAATCTGCGGCTGACATAC
【0134】
プライマー1(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、ホスホグリセロムターゼ(pgm)をコードするオープンリーディングフレームの3’末端でジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド1262739〜1262720にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたSbfI部位に対応する。プライマー2(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、アルコールデヒドロゲナーゼ I(adhI)をコードするオープンリーディングフレームの直ぐ上流であるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド1260490〜1260472にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたAscI部位に対応する。従って、PCR増幅の標的であった2268bpのDNAフラグメントは、SbfI部位から開始し、そしてAscI部位で終了する次のエレメントからなる:(a)pgm遺伝子の3’末端、(b)D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードするldh遺伝子全体、および(c)遺伝子の5’非翻訳領域。PCR産物をSbfIおよびAscIで切断し、そして得られたDNAフラグメントを、上記で説明したSbfI/AscI線状化pNEB193ベクターに連結した。連結反応混合物を使用して、大腸菌(E.coli)JM110を形質転換して、そして形質転換された細胞を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した。正確なサイズの挿入物を伴うプラスミドを含有するアンピシリン耐性形質転換体を、はじめに、再懸濁したコロニーを使用するPCR(「コロニーPCR」)ならびにプライマー1および2によって同定した。ポジティブクローンの以後の確認は、SbfIおよびAscIによるプラスミドDNAの制限消化分析、ならびにアンピシリン耐性形質転換体によるコロニーPCRによって作製した2268bpフラグメントのDNA配列解析によって行った。さらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、「pLDH193」と称する。
【0135】
pLDHTc139#7の構築
プラスミドpLDH193は、ldhオープンリーディングフレームの中間付近に局在する独特なNcoI部位を有する。この部位を使用して、テトラサイクリンに対して耐性を付与するDNAフラグメントを挿入した。この操作のために使用したテトラサイクリン耐性カセット(Tcr−カセット)を、DNAテンプレートとしてプラスミドpACYC184(ジェンバンク(GenBank)受託番号X06403)、ならびにPCRプライマーとしてプライマー3および4を使用するPCRによって作製した。
プライマー3(配列番号19):
ACTCATTTccatggCGATCGCACTATgcggccgcAATGTAGCACCTGAAGTCAGCC
プライマー4(配列番号20):
ATCTCACTccatggCCGGCCAACTAttaattaaGAATTGATTGGCTCCAATTCTTG
プライマー3(順方向プライマー)の太い下線を付した塩基は、テトラサイクリン耐性遺伝子のプロモーターの直ぐ上流にハイブリダイズする。プライマー3はまた、その5’末端に付加された3つの制限部位(NcoI、AsiSI、およびNotI)を有する。NcoI部位を小文字で表す。AsiSI部位には、細い下線が付されている。Not I部位を斜体の小文字で表す。プライマー4(逆方向プライマー)の太い下線を付した塩基は、テトラサイクリン耐性遺伝子の終止コドンの直ぐ上流にハイブリダイズし、そしてこのプライマーはまた、その5’末端に付加された3つの制限部位(NcoI、FseI、およびPacI)を有する。上記の標識化と同様に、NcoI部位を小文字で表し、FseI部位に細い下線を付し、そしてPacI部位を斜体の小文字で表す。プライマー3および4で作製した1448bpのTcr−カセットを、NcoIで切断し、そして分離用アガロースゲル電気泳動により精製した。次いで、得られたDNAフラグメントを、プラスミド、pLDH193のldhオープンリーディングフレームに存在する独特なNcoI部位に連結した。挿入を伴わないベクターの再環状化の可能性を最小限にするために、連結の前に、NcoI消化pNEB193を仔ウシ小腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化した。連結反応混合物を大腸菌(Escherichia coli)JM110に導入し、そして形質転換された細胞を、20μg/mlのテトラサイクリンを含有するLB培地上でプレート化した。正確な挿入を伴うプラスミドを含有するテトラサイクリン耐性形質転換体を、NcoI、AsiSI、NotI、FseI、およびPacIによる制限消化分析によって同定し、そしてTcr−カセットの配向を、適切なプライマーを使用するPCR分析によって確認した。さらなる操作のために選択したプラスミド(pLDHTc139#7)の環状図を、図12に示す。ここに記載されていない実験では、この自殺構築物を使用し、宿主経由、二重交差、相同組み換えおよび選択としてテトラサイクリン上での増殖を使用して、ZW1におけるD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を、挿入により不活化(即ち、「破壊」または「ノックアウト」)した。
【0136】
pLDHTc139#7−9WWの構築
pLDHTc139#7を使用して、ZW1におけるD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を「ノックアウト」し得ることを実証したことから、次の工程は、Creリコンビナーゼを使用して、遺伝子破壊後の染色体から選択マーカーを取り出すことが可能であるように、この構築物を改変することであった。この目的を達成するために、Tcr−カセットにフランキングする4つの独特な制限部位、即ち、5’末端におけるAsiSIおよびNotIならびに3’末端におけるPacIおよびFseIを利用して、2つの野生型loxP部位(リー(Lee)およびサイトウ(Saito)、1998年)をpLDHTc139#7に付加した。構築物を両方の酵素で切断し、そして得られる大きなDNAフラグメントを精製した後、第1のloxP部位を、プラスミドpLDHTc139#7のAsiSIおよびNotI部位の間に挿入した。この位置に挿入されたloxP部位は、それらの5’末端で両方ともリン酸化された2つの合成オリゴヌクレオチド5および6(配列番号21および22)から作製した。
オリゴヌクレオチド5(配列番号21):
cgcATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATgc
オリゴヌクレオチド6(配列番号22):
ggccgcATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATgcgat
これらのオリゴヌクレオチドは相互に相補的であり、そして共にアニールする場合、DNAフラグメントがpLDHTc139#7のAsiSIおよびNotI部位の間で連結することを可能にする両末端の一本鎖突出部を有する完全長の二本鎖野生型loxP部位を形成する。オリゴヌクレオチド中の大文字は、完全長の野生型loxP部位に対応する一方、小文字は、二本鎖DNAフラグメントをpLDHTc139#7のAsiSIおよびNotI部位に連結するために使用したヌクレオチドを示す。
【0137】
連結反応混合物を使用して、大腸菌(E.coli)DH10Bを形質転換して、そして形質転換された細胞を、20μg/mlのテトラサイクリンを含有するLB培地上でプレート化した。pLDHTc139#7のAsiSiおよびNotI部位に正確に挿入されたloxP部位を伴うプラスミドを含有するテトラサイクリン耐性形質転換体を、関連領域の制限消化分析、コロニーPCR、およびDNA配列解析によって同定した。さらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、「pLDHTc139#7−9W」と称する。
【0138】
次に、両方の酵素でプラスミドを切断し、そして得られる大きなベクターフラグメントを精製した後、第2の野生型loxP部位を、pLDHTc139#7−9WにおけるTcr−カセットの他方の末端のPacIおよびFseI部位の間に挿入した。この位置に挿入されたloxP部位もまた、それらの5’末端で両方ともリン酸化された2つの合成オリゴヌクレオチド7および8(配列番号23および24)で作製した。
オリゴヌクレオチド7(配列番号23):
taaATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATggccgg
オリゴヌクレオチド8(配列番号24):
ccATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTATttaat
オリゴヌクレオチド7および8は相互に相補的であり、そしてハイブリダイズする場合、DNAフラグメントがpLDHTc139#7−9WのPacIおよびFseI部位の間で連結することを可能にする両末端の一本鎖突出部を有する完全長の二本鎖野生型loxP部位を形成する。オリゴヌクレオチド中の大文字は、完全長のloxP部位に対応する一方、小文字は、二本鎖DNAフラグメントをpLDHTc139#7−9WのPacIおよびFseI部位に連結するために使用されるヌクレオチドを示す。
【0139】
連結反応混合物を使用して、大腸菌(E.coli)DH10Bを形質転換して、そして形質転換された細胞を、20μg/mlのテトラサイクリンを含有するLB培地上でプレート化した。pLDHTc139#7−9WのPacIおよびFseI部位に正確に挿入された野生型loxP部位を伴うプラスミドを含有するテトラサイクリン耐性形質転換体を、関連領域の制限消化分析、コロニーPCR、およびDNA配列解析によって同定した。さらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、pLDHTc139#7−9WWと称し、そしてこの構築物の環状図を図12に示す。
【0140】
pLDHSp−9WWの構築
pLDHSp−9WWはpLDHTc139#7−9WWと同一であるが、但し、後者の構築物のテトラサイクリン耐性カセットは、スペクチノマイシンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Specr−カセット)で置き換えられた。後者は、テンプレートとしてプラスミドpHP15578(カフーン(Cahoon)ら、2003年)ならびにプライマー9および10を使用するPCRによって作製した。pHP15578は、Specr−カセットの完全なヌクレオチド配列およびそのプロモーターを含有し、3’(9)−O−ヌクレオチジルトランスフェラーゼをコードするトランスポゾンTn7 aadA遺伝子(ジェンバンク(GenBank)受託番号X03403)の公開された配列に基づく。
プライマー9(配列番号25):
ATAAAAgcggccgcAGCACAGGATGA
プライマー10(配列番号26):
GGCGttaattaaGGCAGGTCAGCAAG
【0141】
プライマー9(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、Specr−カセットのプロモーターの直ぐ上流(ジェンバンク(GenBank)受託番号X03043のnt6〜17に)ハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたNotI部位に対応する。プライマー10(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、Specr−カセットの終止コドンから約130塩基下流(ジェンバンク(GenBank)受託番号X03043のnt1006〜1019に)ハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたPacI部位に対応する。PCRにより作製された1040bpのSpecr−カセットを、NotIおよびPacIで二重消化し、そして得られたDNAフラグメントをアガロースゲル電気泳動によって精製した。プラスミドpLDHTc139#7−9WWもまた、同じ2つの制限酵素で切断して、Tcr−カセットを取り出し、そして得られた大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、2つのDNAフラグメントを共に連結し、そしてエレクトロポレーションを使用して、形質転換反応混合物を、大腸菌(E.coli)DH10Bに導入した。形質転換体を、スペクチノマイシン(200μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化し、そして37℃で増殖させた。正確なサイズの挿入を伴うプラスミドを含有するスペクチノマイシン耐性形質転換体を、NotIおよびPacIによる制限消化分析によって同定し、そしてさらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、pLDHSp−9WWと称し;この構築物の環状図を図12に示す。ここに記載されていない実験では、pLDHSp−9WWを使用し、スペクチノマイシンに対する耐性を選択マーカーとして使用して、ZW1におけるD−乳酸デヒドロゲナーゼの遺伝子をノックアウトした。自殺構築物による遺伝子不活化は、宿主経由、二重交差、相同組み換えを介して生じ(国際公開第01/83784A2号パンフレット)、ldhオープンリーディングフレームの中間における2つの野生型loxP部位によってフランキングされる選択マーカー(Specr−カセット)の挿入を生じた。pLDHSp−9WWのSpecr−カセットにフランキングする2つのDNAフラグメントによって、二重交差事象の標的をldh遺伝子に定めた。これらのフラグメントの一方(以降、5’ldhフランキングDNAと称する)は、Specr−カセットの直ぐ上流にあり、そしてSbfIおよびAsiSI部位の間に局在する。この約1100bpのDNAフラグメントのヌクレオチド配列は、pgm遺伝子の3’末端およびldhオープンリーディングフレームのはじめのおよそ半分をコードするZW1染色体DNAと同一である。他方のDNAフラグメント(以降、3’ldhフランキングDNAと称する)は、FseIおよびAscI部位の間のSpecr−カセットの対向末端に局在する。3’ldhフランキングDNAのヌクレオチド配列(これもまた、約1100bpである)は、ldh遺伝子の他方の半分およびadhI遺伝子の5’非翻訳領域の部分をコードする染色体DNAと同一である。5’および3’ldhフランキングDNAフラグメントの両方がそれらの染色体対応物と相互作用し、そして相同組み換えを経験する場合、二重交差事象を生じる。本質的に不可逆的であり、そしてもっぱら、宿主の酵素的機構によって仲介されるこの現象は、オープンリーディングフレームの中間にSpecr−カセットを挿入することによって、染色体ldh遺伝子を不活化する。構築物は、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができず、このことがそれを自殺構築物にするため、(極めて低い頻度で生じる自然発生性の薬剤耐性変異体とは別の)pLDHSp−9WWを伴う安定なスペクチノマイシン耐性コロニーを作製するための唯一の方法は、相同組み換えを介する二重交差事象である。二重交差事象によって染色体に挿入されるSpecr−カセットはなお、自殺構築物に存在する2つの野生型loxP部位の間に挟まれていることに留意することが重要である。この配置のため、実施例10に記載されているCre発現ベクターを使用することによってそれを再活性化することを伴わずに、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子から選択マーカーを取り出すことが容易である。
【0142】
pGFORSp−9WWの構築
pLDHSp−9WWを、以下に記載の第2の工程手順におけるZ.モビリス(Z.mobilis)グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ(GFOR)の遺伝子不活化のための自殺構築物に変換した。第1の工程は、3’ldhフランキングDNAを取り出し、そしてそれを、GFORをコードする染色体遺伝子をプラスミド構築物の標的にする類似のDNAフラグメントで置き換えることであった。後者のDNAフラグメント(以降、3’GFORフランキングDNAと称する)は、テンプレートとしてZW1ゲノムDNAおよびPCRプライマーとしてプライマー11および12を使用するPCRによって作製した。
プライマー11(配列番号27):
CTACTCATggccggccTCAGAACGATCCTGCACAGC
プライマー12(配列番号28):
CATCTTACTggcgcgccGGACGAGGTTCATCATCAGG
【0143】
プライマー11(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFORオープンリーディングフレームのおよそ中間にあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド684324〜684305にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたFseI部位に対応する。プライマー12(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFOR終止コドンから約625bp下流にあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド683124〜683143にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたAscI部位に対応する。1234bpのPCRフラグメントを、FseIおよびAscIで切断した。pLDHSp−9WWもまた、同じ2つの制限酵素で切断して、3’ldhフランキングDNAを取り出し、そしてこの操作から得られた大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、PCRにより作製された3’GFORフランキングDNAを、ゲル精製した大きなベクターフラグメントのFseIおよびAscI部位の間で連結し、そして連結反応混合物のアリコートを、大腸菌(E.coli)DH10Bにエレクトロポレートした。形質転換された細胞を、200μg/mlのスペクチノマイシンを含有するLB培地上でプレート化し、そしてプレートを37℃でインキュベートした。正確な挿入物を伴うプラスミドを含有するスペクチノマイシン耐性形質転換体を、コロニーPCRならびにFseIおよびAscIによる制限消化分析によって同定し、そしてさらなる操作のために選択したプラスミドを、以降、pLDH/GFORSp−9WWと称した。
【0144】
次の工程は、pLDH/GFORSp−9WWから5’ldhフランキングDNAを取り出し、そしてそれを、5’GFORフランキングDNAで置き換えることであったが、そのため、GFORオープンリーディングフレームの破壊のために選択した染色体標的において、二重交差事象が生じ得る。テンプレートとしてZW1ゲノムDNAならびにPCRプライマーとしてプライマー13および14を使用するPCRによって、5’GFORフランキングDNAフラグメントを作製した。
プライマー13(配列番号29):
CTACTCATatgcatGTCCAGAAAAGACAGCATTCC
プライマー14(配列番号30):
CATCTTACTgcgatcgcTGCACGGTTCATTGGAT
【0145】
プライマー13(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFOR開始コドンから約520bp上流にあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド685584〜685564にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたNsiI部位に対応する。プライマー14(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、GFORオープンリーディングフレームの中間近くにあるジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のヌクレオチド684396〜684415にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたAsiSI部位に対応する。1217bpのPCR産物をNsiIおよびAsiSIで切断し、そしてpLDH/GFORSp−9WWを、SbfIおよびAsiSIで二重消化して、5’ldhフランキングDNAを取り出し;後者の操作から生じる大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、PCRにより作製された5’GFORフランキングDNAを、上記のゲル精製した大きなベクターフラグメントのSbfIおよびAsiSI部位に連結し、そして連結反応混合物のアリコートを、大腸菌(E.coli)SCS110(dcm−およびdam−である)にエレクトロポレートして、ZW1およびZW658の以後の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAを得た(実施例5および7において詳述する)。野生型大腸菌(E.coli)株から単離されるメチル化プラスミドDNAは、DH10Bと同様に、宿主の制限/改変系によって容易に破壊される(米国特許第6566107B1号明細書に記載されている)ため、ZM4から誘導されるZ.モビリス(Z.mobilis)株の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAの使用が、成功に極めて重要であることに留意すること。NsiIおよびSbfIは適合性の粘着末端を有するが、両方の部位が共に連結される場合、それらが破壊されることにさらに留意すること。形質転換体を、100μg/mlのスペクチノマイシンを含有するLB培地上でプレート化し、そしてプレートを37℃でインキュベートした。正確な挿入物を伴うプラスミドを含有するスペクチノマイシン耐性形質転換体を、コロニーPCRおよび制限消化分析によって同定した。ZW1およびZW658においてGFOR遺伝子をノックアウトするために使用したこの得られる自殺構築物を、以降、pGFORSp−9WWと称する。このプラスミドの環状図を図12に示し、そしてその完全なヌクレオチド配列を配列番号31に開示する。この自殺構築物とZ.モビリス(Z.mobilis)染色体GFOR遺伝子との間の二重交差事象により、2つの野生型loxP部位によってフランキングされるSpecr−カセットの挿入を生じ、pLDH−Spec−9WWについて上記の状況に類似することに留意することが重要である。
【0146】
実施例4
Z.モビリス(Z.mobilis)のための大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現ベクターの作製
出発物質として大腸菌(E.coli)/Z.モビリス(Z.mobilis)シャトルベクター(pZB188)を使用して、以下に記載のように、Z.モビリス(Z.mobilis)における大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼの発現のためのプラスミド構築物(pZB188/Kan−XylA)を作製した(図13)。pZB188の構築に関与する工程については、米国特許第5,514,583号明細書に開示されている。簡単に説明すると、この7008bpのプラスミドは、2つの異なる複製開始点を、それぞれの細菌種に対して1つずつ有するため、それは、大腸菌(E.coli)およびZ.モビリス(Z.mobilis)において複製することが可能である。pZB188はまた、テトラサイクリンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Tcr−カセット)を含有する。pZB188/Kan−XylAの構築における第1の工程は、pZB188からTcr−カセットを取り出し、そしてそれを、カナマイシンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Kanr−カセット)で置き換えることであった。pZB188からTcr−カセットを切り出すために、プラスミドをXbaIおよびBssHIIで切断し、そして得られた大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。PCR増幅のために、テンプレートとしてプラスミドpET−24a(ノバジェン(Novagen))ならびにプライマー15および16を使用するPCRによって、Kanr−カセットを作製した。pET−24aは、Kanr遺伝子の完全なオープンリーディングフレームおよびその関連するプロモーターを含有する。
プライマー15(配列番号32):
GCtctagaGCAGCAGATTACGCGC
プライマー16(配列番号33):
ACATTGgcgcgcTTAGAAAAACTCATC
プライマー15(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、pET−24aにおけるKanr遺伝子の開始コドンから約160bp上流にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたXbaI部位に対応する。プライマー16(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、Kanr遺伝子のオープンリーディングフレームの他方の末端でハイブリダイズし、そして終結コドンを含む一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたBssHII部位に対応する。PCRにより作製された991bpのKanr−カセットを、XbaIおよびBsshIIで切断し、そしてアガロースゲル電気泳動によって精製した。
【0147】
次いで、得られたDNAフラグメントを、標準的な連結反応で、上記のpZB188DNAフラグメントのXbaIおよびBssHII部位の間に挿入した。エレクトロポレーションを使用して、形質転換反応混合物を大腸菌(E.coli)DH10Bに導入し、そして細胞を、カナマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した;増殖は37℃であった。プラスミドDNAを、カナマイシン耐性形質転換体の1つから単離したが、得られた構築物を以降、pZB188/Kanと称し;このシャトルベクターの環状図を図13に示す。
【0148】
次の工程では、後者を両方の酵素で切断し、そしてアガロースゲル電気泳動によって大きなベクターフラグメントを精製した後、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットを、pZB188/KanのNcoIおよびAclI部位の間に挿入した。大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットとしての役割を果たす約2KbpのDNAフラグメントを、後者の構築物をNcoIおよびClaIで切断し、そしてアガロースゲル電気泳動によって関連DNAフラグメントを精製した後、プラスミドpZB4から誘導した。プラスミドpZB4については、米国特許第5514583号明細書に詳述されており、そして大腸菌(E.coli)発現カセットPgapXylA(配列番号34)の略図を、図13の枠内の図に示す。
【0149】
NcoIおよびClaI部位を、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットのそれぞれ5’および3’末端に局在させた。米国特許第5514583号明細書において記載のように、このフラグメントは、キシロースイソメラーゼをコードする大腸菌(E.coli)xylA遺伝子の完全なオープンリーディングフレームに正確に融合される強力な構成性Z.モビリス(Z.mobilis)グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーターを含有する。それはまた、キシロースイソメラーゼ終止コドンが直ぐ後に続く小さなステムループ領域を含有する。大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットを、標準的な連結反応で、pZB188/KanのNcoIおよびAclI部位の間に挿入した。ClaIおよびAclIは適合性の「粘着末端」を作製するが、両方の部位が共に連結される場合、それらが破壊されることにさらに留意すること。次いで、連結反応混合物を、大腸菌(E.coli)SSC110(dcm−、dam−)にエレクトロポレートして、以下の実施例6に記載のZ.モビリス(Z.mobilis)のその後の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAを入手し、そして形質転換された細胞を、カナマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した;増殖は37℃であった。正確なサイズの挿入物を伴うプラスミドを有するカナマイシン耐性形質転換体を、制限消化分析およびコロニーPCRによって同定した。Z.モビリス(Z.mobilis)において大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼを発現させるために使用したプラスミドを、以降、「pZB188/Kan−XylA」と称する;この構築物の環状図を図13に示す。
【0150】
実施例5
ZW1 GFORノックアウト変異体の作製
ZW1(ZW658が最初に誘導された野生型株)においてGFOR酵素活性をなくすために、実施例3において詳述した自殺構築物pGFORSp−9WWを使用した。米国特許第5514583号明細書に本質的に記載されているように、エレクトロポレーションを使用して、非複製プラスミドDNAを細菌宿主に導入した。簡単に説明すると、50μlの形質転換反応物は、10%(v/v)グリセロール中の約1010個の細胞/mlおよび実施例3に記載のように大腸菌(E.coli)SSC110から単離した約0.9μgの非メチル化プラスミドDNAを含有した。コントロール反応物も全く同様に処置したが、プラスミドDNAを含まなかった。エレクトロポレーターの設定は、16kv/cm、200Ω、および25μF、およびキュベットのギャップ幅は0.1cmであった。エレクトロポレーション後、形質転換物を1.0mlのMMG培地(50g/Lグルコース、10g/L酵母抽出物、5g/Lのトリプトン、2.5g/Lの(NH4)2SO4、0.2g/LのK2HPO4、および1mMのMgSO4)で希釈し、そして細胞を約5時間、30℃で回復させた。次いで、細胞を、室温で、滅菌1.5ml微量遠心管中、遠心分離(13,000×g、5分間)によって回収し、そして上清を注意深く取り出した。細胞ペレットを、150μlの液体MMG培地に再懸濁し、そして50および100μlアリコートの細胞懸濁液を、1.5%寒天および200μg/mlのスペクチノマイシンを含有するMMG培地上でプレート化した。プレートを、嫌気チャンバにおいて30℃でインキュベートし、そして2〜3日後、50〜150個のコロニーが実験プレート上に出現した。このとき、コントロールプレート上にスペクチノマイシン耐性コロニーは認められなかったが、さらに48時間のインキュベーション期間後に若干出現した。以下に記載のさらなる操作のために、GFORノックアウト構築物による形質転換から生じたスペクチノマイシン耐性コロニーのうち2個を選択した。
【0151】
Z.モビリス(Z.mobilis)およびpGFORSp−9WWに類似する自殺構築物を伴う先の実験から、染色体とプラスミドDNAとの間の初期の相互作用は2つの標的化遺伝子座のうちの1つにおける一重交差であること、および一重交差事象は最終的に二重交差事象を生じることが示されている。二重交差事象への移行は、通常、自殺構築物のための選択因子を含有する液体培地における若干の連続的継代後、極めて迅速に生じる。GFORノックアウト構築物から生じる2つの選択されたZW1形質転換体のための二重交差事象を容易にするために、100g/Lのグルコースおよび200μg/mlのスペクチノマイシンを含有する10mlのRM培地(10g/Lの酵母抽出物および2g/LのKH2PO4)に細胞を播種した。30℃で24時間のインキュベーション期間の後、両方の培養物とも、定常期に到達した。次に、10μlアリコートの第1代培養物を使用して、10mlの同じ増殖培地に播種し、そしてこれらの両方の培養物もまた、30℃で24時間後に定常期に到達した。最終的に、10μlアリコートの第2代培養物を10mlの同じ増殖培地に播種し、そして30℃でさらに24時間、増殖を促進させた。液体培地における最後の継代後、第3代培養物のアリコートを希釈し、そしてスペクチノマイシン(200μg/ml)を含有するMMG培地上でプレート化して、単一のコロニーを入手し、そしてプレートを、嫌気条件下、30℃で48時間、インキュベートした。
【0152】
3つの異なる対のプライマーを使用するコロニーPCR実験から、二重交差事象が実際に生じたことが確認された。自殺構築物における5’GFORフランキングDNAがその染色体対応物との一重交差事象を経験している場合、PCRプライマーの第1の対は、正確なサイズのDNAフラグメントのみを作製することができる。同様に、自殺構築物における3’GFORフランキングDNAがその染色体対応物との一重交差事象を生じている場合、PCRプライマーの第2の対は、正確なサイズのDNAフラグメントのみを作製することができる。最終的に、二重交差事象が生じており、そしてさらに、一重および二重交差事象の集団の混合の可能性がなくされる場合、PCRプライマーの第3の対は、正確なサイズのDNAフラグメントのみを作製することができる。この分析に使用した2個のスペクチノマイシン耐性コロニーを、自殺構築物とのZW1エレクトロポレーション反応由来の2つの異なる主な形質転換体(これは、液体培地において3回継代し、そして上記のようにプレート化して単一のコロニーを得た)から誘導し、そしてこの実験のコントロールを親株、ZW1とした。両方の形質転換体とも3つの異なる組のPCRプライマーによりポジティブな結果を呈したため、さらなる分析のために、それらのうちただ1つを選択した。この株(ZW1 GFORノックアウト変異体)を、以降、ZW1−ΔGFORと称する。
【0153】
実施例6
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼは、生理学的条件下でキシリトール形成に対する主な寄与物であり得る
ZW1 GFORノックアウト変異体(ZW1−ΔGFOR)を使用して、Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株におけるキシリトール形成が、ペリプラズム酵素GFORか、または酵素的に活性でもあるそのより大きな分子量のサイトゾル前駆体によって少なくとも部分的に仲介されるという仮説(ロース(Loos)ら、上掲)を試験した。実施例2(図11)に示されるように、キシリトールは、キシロース資化株8bおよびZW658の主な副産物であるが、キシロースが増殖培地に存在する場合にのみ形成される。CP4のようなZ.モビリス(Z.mobilis)の野生型株は、キシロースをキシリトールに直接還元することができるNADPH依存性アルドースレダクターゼを有する(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲)が、図IIおよびIIIに示すように、増殖培地がキシロースまたはグルコースおよびキシロースの混合物を含有する場合、GFORはまた、インビボでのキシリトール形成に寄与し得ることが考えられる。しかし、インビトロでのGFOR酵素特徴付けアッセイ(ザカライオウ(Zachariou)およびスコープス(Scopes)、上掲)および粗無細胞抽出物による実験(ダニエルソン(Danielson)、上掲)において示されるように、この化合物はGFOR仲介キシリトール産生に不可欠な電子受容体であるため、これらの反応のいずれかが生じるためには、酵素がキシルロースにアクセスする必要がある。キシロース上での増殖のために操作されるZ.モビリス(Z.mobilis)株では、キシリトール合成に必要なキシルロースは、キシロース代謝(図1)の第1の工程を触媒し、ZW1のような野生型株には存在しないキシロースイソメラーゼによって作製される。
【0154】
キシロースおよびグルコースの両方が増殖培地存在する場合にGFORがキシリトールを作製することができる可能を試験するために、実施例4で説明した大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現ベクター(pZB188/Kan−XylA)を、ZW1およびZW1−ΔGFORに導入した。ストラテジーは、これらの糖類のいずれかにおいて増殖することができない2つの株におけるキシロースからキシルロースへの経路を提供し、そしてGFORがキシリトールを作製し得るかどうかを決定することであった。形質転換のために使用したエレクトロポレーション手順については本質的に実施例5に記載のとおりであったが、回復期間後、形質転換された細胞を、300μg/mlのカナマイシンを含有するMMG培地上でプレート化した。この実験のコントロールとして、ZW1およびZW1−ΔGFORもまた、pZB188/Kan−XylAと同一であるが、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼ発現カセットを欠くpZB188/Kan(図13)で形質転換した。pZB188/Kan−XylAまたはコントロールプラスミドを所有するカナマイシン耐性コロニーを、コロニーPCRによって同定し、そして各形質転換反応由来のそれぞれのコロニーを、図14に示す実験のために無作為に選択した。これらの4つのプラスミドを有する株を、以降、ZW1(pZB188/Kan)、ZW1(pZB188/Kan−XylA)、ZW1−ΔGFOR(pZB188/Kan)およびZW1−ΔGFOR(pZB188/Kan−XylA)と称する。
【0155】
1晩培養物を、15mlキャップ付き試験管中、30℃で、5mlの60g/Lグルコース、10g/L酵母抽出物、10g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、1g/LのMgSO2(7H20)および300μg/mlのカナマイシンにおいて増殖させた。次いで、これらの1晩培養物のアリコートを使用して、20g/Lのキシロースを伴うまたは伴わない同じ増殖培地を含有する(50mlキャップ付き試験管中の)20ml培養物に播種した。増殖は、30℃において穏やかな撹拌を伴い、そして初期のOD600値は約0.1であった。0、24、48、および120時間の増殖後、HPLC分析のために、屈折率検出器を具備するHP1100(ヒューレット−パッカード(Hewlett−Packard)、カリフォルニア州パロアルト(Palo Alto,CA))を使用して、培養物の1.0mlアリコートを取り出し、発酵ブロス中に存在するキシロース、キシルロースおよびキシリトールの濃度を決定した。HPLC分析の前に、遠心分離によって細胞を取り出し、そして0.22μm酢酸セルローススピン(Spin)−X遠心管フィルター(コスター(Costar)、カタログ番号8160)を介して上清をろ過して、小さな粒子を取り出した。化合物を、0.6ml/分の流速および移動相として0.01NのH2SO4を使用する均一溶媒条件下、55℃で稼動させたアミネックス(Aminex)HPX−87Hカラム(バイオ−ラッド(Bio−Rad))上で分離させた。既知濃度の標準物質を使用して、目的のピークを定量し、そしてすべての結果をg/Lで表した。
【0156】
結果は、ZW1(pZB188/Kan)、「空の」ベクターを伴うコントロール株をグルコースおよびキシロースの存在下で増殖させる場合、120時間のインキュベーション期間後、極少量のキシリトールが増殖培地に蓄積したことを示す(図14A)。この株で観察された最大量のキシリトールは、<0.5g/Lであった。対照的に、ZW1(pZB188/Kan)を同じ濃度のグルコースにおいて増殖させたが、キシロースを省いた場合、キシリトールは形成されず、そしてこれは他の3つの株についても同様であった。結果として、グルコースおよびキシロースの両方の存在下で実施した実験のみを、図14に示す。意外にも、ZW1における大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼの発現は、発酵ブロスにおいて出現したキシリトールの量を顕著に増加し、そして120時間まで、ZW1(pZB188/Kan−XylA)は、この化合物を、ZW1(pZB188/Kan)より5倍多く作製した(図14B)。キシロースイソメラーゼは、キシロースからキシルロースへの異性化を触媒するため、予想したとおり、ZW1におけるキシロースイソメラーゼの発現もまた、キシルロースの産生を生じた。この実験において、増殖培地に添加された全キシロースのうち約16%が、キシルロースまたはキシリトールに変換されたことに留意すること。また、これらの2つの化合物の間に明らかな前駆体/産物の関係(キシリトールが増加する時、キシルロースは減少する)が存在し、これは、グルコースおよびキシロースが両方とも増殖培地に存在する場合、生理学的条件下でGFORはキシルロースをキシリトールに変換することが可能であるという仮説に一致することに留意すること。
【0157】
ZW1と同様に、キシロースイソメラーゼ発現ベクターの非存在下では、ZW1−ΔGFORによって作製されるキシリトールは極僅かであった(図14C)。これらの条件下で形成された少量のキシリトールは、NADPH依存性アルドースレダクターゼから生じ得、フェルドマン(Feldmann)ら(1992年、上掲)により示唆されている。特に、キシロースイソメラーゼをZW1 GFORノックアウト変異体において発現させた場合、ZW1(pZB188/Kan−XylA)で得られた結果とは対照的に、さらなるキシリトールは作製されなかった(図14D)。実際、ZW1−ΔGFOR(pZB188/Kan−XylA)は大量のキシルロースを産生し、そして形成されたこの化合物の量は、対応するZW1株(即ち、ZW1(pZB188/Kan−XylA))によって作製されたキシルロースおよびキシリトールの全量に極めて類似した。これらの実験は、酵素がキシルロースにアクセスする場合、GFORがインビボにおけるキシリトール形成に実質的に寄与することができ、これは、Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株がグルコースおよびキシロースの混合物において増殖する場合に他ならないことを明確に実証する。これらの結果は、さらに、Z.モビリス(Z.mobilis)の組み換え株をキシロース含有培地において増殖させる場合、NADPH依存性アルドースレダクターゼが、キシリトール産生においてあまり役割を果たしていないことを示し、文献(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲;キム(Kim)ら、上掲)の予想とは対照的である。
【0158】
実施例7
ZW658 GFORノックアウト変異体の作製およびこの株が機能性GFOR酵素を産生しないことの実証
実施例6において示されるように、グルコースおよびキシルロースの両方が利用可能である場合、生理学的条件下で、Z.モビリス(Z.mobilis)におけるキシリトール形成に寄与することができるGFORをコードする遺伝子を、自殺構築物、pGFORSp−9WW(実施例3に記載されている)を使用して、ZW658において挿入により不活化した。この手順におけるすべての工程は、実施例5におけるZW1 GFORノックアウト変異体に記載の工程と同一であり、3つの組のPCRプライマーによる二重交差事象の確認を含む。以下に記載の以後の実験のために選択したZW658ノックアウト変異体を、ZW800と命名した。
【0159】
ZW800が、グルコースおよびフルクトースからソルビトールを作製すること(GFORによって触媒される生理学的反応である)ができる酵素を産生しないことを実証するために、以下の実験を実施した。ZW800および親株ZW658の1.5ミリリットル培養液を、10mlキャップ付き試験管中、30℃で、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、および1g/LのMgSO4を含有する液体培地において、早期定常期まで増殖させた。培養物が約5.5のOD600に到達したら、遠心分離によって細胞を回収し、そして上清を注意深く取り出し、そして廃棄した。次に、細胞ペレットを、次の組成を有する5mlの新鮮増殖培地に再懸濁した:110g/Lグルコース、110g/Lフルクトース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、および4g/LのKHCO3。上記のすべての工程を滅菌条件下で実施し、そして細胞を再懸濁する前に、増殖培地の初期pHを濃リン酸で5.8に調整した。次いで、得られた培養物を、30℃で、穏やかに撹拌(150rpm)しながら増殖させ、そして表2に示された時間に、実施例6に記載したのと同じ手順を使用して、発酵ブロスのHPLC分析のためにサンプルを取り出した。この実験のための目的のピークは、グルコース、フルクトース、ソルビトールおよびエタノールであり、そして細胞を遠心分離によって回収した後、既知量の標準物質を使用して、発酵ブロスにおけるそれらの濃度を算出した;表2では、すべての濃度をg/Lで表す。
【0160】
【表3】
【0161】
表2に示されるように、ZW658培養物は、23時間後にほとんどすべてのグルコースおよびおよそ半分のフルクトースを消費し、そして主な産物として匹敵する量のソルビトールおよびエタノールを作製した;最初の時間ポイント中の2つの後者の化合物の値は、それぞれ、45.99g/Lおよび49.36g/Lであった。それ故、ZW658培養物中のGFORによって、はじめにあったフルクトースのうち40%を超えるものがソルビトールに変換された。極めて対照的に、23時間のインキュベーション期間後のZW800培養物由来の発酵ブロスでは、ソルビトールは検出されなかったが、その代わり、グルコースおよびフルクトースは、ほぼ定量的にエタノールに変換され、1グラムの消費された糖あたり理論値で0.51グラムのエタノールに極めて近かった。さらに24時間の増殖後、ZW658培養物におけるソルビトールの量のさらなる増加は認められなかったことに留意すること。ほぼすべてのグルコースが早期に枯渇され、そしてフルクトースとのGFOR反応のための電子供与体が存在しなかったため、これは予想されることであった。興味深いことに、47時間時点のZW800培養物の発酵ブロスにおいて少量のソルビトール(10.21g/L)が見出され、そしてこれは、NADPH依存性アルドースレダクターゼ(フェルドマン(Feldmann)ら、上掲)または未だ解明されていない他のいくつかの酵素によって作製され得る。それにもかかわらず、上記の結果は、ZW800のGFORオープンリーディングフレームの中間に挿入されたSpecr−カセットは、全てではないにしても大部分がGFOR酵素活性を廃止した証拠を提供する。
【0162】
さらに、この結論は、ZW1、ZW658およびZW800から調製された無細胞抽出物によるインビトロ実験によって支持される。目的は、他の物質または補因子を添加することなく、ZW658がキシロースをキシリトールに変換することができるかどうかを決定すること、およびGFOR不活化の結果として、ZW800がこの反応を行う能力を失っているかどうかを調べることであった。Z.モビリス(Z.mobilis)無細胞抽出物によるGFOR仲介キシリトール産生には次の3つの要件が存在する:1)GFORの強固に結合した補因子を還元することが可能であるグルコースまたはキシロースのような糖電子供与体、2)電子受容体としてのキシルロース(何故なら、酵素が実際にキシリトールに還元するのはこの化合物であるからである)、および3)機能性GFOR酵素。キシルロースが反応混合物に添加されない場合、無細胞抽出物はまた、キシロースをキシルロースに変換するためのキシロースイソメラーゼを含有しなければならない。
【0163】
無細胞抽出物を、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4および50g/Lグルコースを含有する250ml振盪フラスコにおいて33℃で増殖させた100ml培養物から調製した。2〜3の間のOD600で遠心分離によって細胞を回収し、そして氷冷50mMのTris−HCl(pH7.0)、1.0mMのMgCl2、1mMジチオスレイトールで2回洗浄した。最終的なペレットを、1.0mlの同じ緩衝液に再懸濁し、そして細胞を音波処理によって破砕した。細胞破砕物を4℃で遠心分離(16,000×g、60分間)によって取り出した後、以下に記載のように、無細胞抽出物を、キシリトール産生について直ちにアッセイした。500μlの反応を、ポリプロピレン微量遠心管において行い、そして最終濃度で次の組成を含有した:50mMのTris−HCl(pH7.0)、1.0mMのMgCl2、1mMジチオスレイトール、66mMキシロース、および0.32〜0.35mgの無細胞抽出物タンパク質;タンパク質濃度を、標準としてウシ血清アルブミンを使用するBCAプロテインアッセイ(Protein Assay)(ピアス(Pierce))によって決定した。40℃で15時間のインキュベーション期間後、反応を、最終濃度で30mMのピバリン酸で終結させ、そして移動相として0.01N硫酸を伴うSH1011カラム(ショウデックス(Showdex))を使用するHPLCによって、アリコートを分析した。カラム温度を50℃に維持し、流速は1.0ml/分であった。この実験のためのコントロールは無細胞抽出物を含まなかったが、それ以外は全く同様に処置した。
【0164】
表3に示すように、ZW1無細胞抽出物を反応混合物に添加する場合、15時間のインキュベーション期間中、キシロースはキシルロースまたはキシリトールに変換されなかった。既に示したように、ZW658およびZW800とは対照的に、ZW1は、大腸菌(E.coli)キシロースイソメラーゼを発現しない野生型株であるため、この結果は予想されることであった。対照的に、無細胞抽出物は、これらの2つの化合物の形成に必要な両方の酵素を含有したため、ZW658無細胞抽出物を使用した場合、有意量のキシルロースおよびキシリトールを作製した。キシロースが、反応混合物に添加される唯一のGFOR基質である場合、作製されるキシリトールの各分子について2分子のキシロースが消費されるため、この場合、はじめにあった66mMキシロースのうち8%近くがキシリトール産生に使用されたことに留意すること。最終的に、そして最も重要なことに、ZW800無細胞抽出物はキシロースイソメラーゼ活性を含有したが、それはGFOR酵素活性を欠いたため、ZW800無細胞抽出物のみが、キシロースをキシルロースに変換することが可能であった。精製されたキシロースイソメラーゼでスパイクされた野生型無細胞抽出物で先に示されている(ダニエルソン(Danielson)、上掲)ように、これらの結果は、ZW800が機能性GFOR酵素を産生しないさらなる証拠を提供し、そしてこのタンパク質がキシロースを電子供与体として使用して、キシルロースをキシリトールに還元することが可能であることをさらに実証する。
【0165】
【表4】
【0166】
実施例8
ソルビトールはグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW800の増殖に必要である
グルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW800によるエタノールの産生のための発酵性能を試験した。実験は、pH制御された発酵槽において、97g/Lまたは188g/Lの全糖において約5:4の一定のグルコース対キシロース比を使用して、行った。
【0167】
ZW658およびZW800の種培養物を、振盪フラスコ中、37℃で、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、10g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、および1g/LのMgSO4を含有する液体培地において増殖させた;初期pHを4NのKOHで5.5に調整した。OD600が約5.0に到達したら、種培養物の50mlアリコートを使用して、450mlの増殖培地を含有する1リットル発酵槽(BIOSTAT(登録商標)B−DCUシステム、ザルトリウスBBIシステム・インク.(Sartorius BBI System Inc.)、米国ペンシルバニア州ベスレヘム(Bethlehem,Pennsylvania))に接種した。最終的な500ml培養物は、5g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、1g/LのMgSO4および低濃度の糖(54g/Lグルコース、43g/Lキシロース)または高濃度の糖(104g/Lグルコース、84g/Lキシロース)のいずれか一方を含有する。増殖は33℃で行い、そしてpHを、4NのKOHの自動化された添加によって5.5に維持した。混合速度を150rpmに設定した。多様な時間において、実施例6に記載したのと同じ手順および条件を使用して、発酵ブロスのHPLC分析のためにアリコートを取り出した。この実験のための目的の化合物はグルコース、キシロース、およびエタノールであり、そして既知濃度の標準物質を使用して、クロマトグラムのピークを定量した。また、600nmの光学密度に設定した分光光度計による濁度の変化を追跡することによって、細胞増殖をモニターし、そして得られるOD600値をプロットした。
【0168】
図15に示すように、発酵槽が低濃度の糖(54g/Lグルコース、43g/Lキシロース)を含有した場合、GFOR不活化は、増殖、糖消費、またはエタノール力価に影響を及ぼさなかった。しかし、全糖濃度を図16において認められる場合の約2倍に増加し
た場合、発酵性能において大きな差異が観察された。ZW658は、約30時間の停滞期間を経験したが、これは、Z.モビリス(Z.mobilis)のキシロース資化性組み換え株をグルコースおよびキシロースの希釈混合物から約180g/Lの全糖を超える同じ糖類の濃縮混合物へ移す場合、それらに典型的である。停滞期間後、細胞は増殖を開始し、そして培地中の全てのグルコースおよび約75%のキシロースを消費し、それ故、約73g/Lの最終エタノール力価を生じた(図16A)。対照的に、ZW800培養物は、130時間のインキュベーション期間後であっても、停滞期間から回復せず(図16B)、そしてこの結果は2回の個別の施行において観察された。
【0169】
図15に示すように、ZW800は、グルコースおよびキシロースの希釈混合物において良好に増殖したため、高い糖混合物においてこの株が回復できないことは、浸透圧ストレスにいくらか関係する可能性があるようであった。実際、野生型Z.モビリス(Z.mobilis)をグルコースおよびフルクトースの濃縮混合物または高濃度のスクロースに移す場合(これはまた、インベルターゼの作用を介してグルコースおよびフルクトースを上昇させる)、GFORは、ソルビトールを作製することによって、浸透圧バランスを維持することに極めて重要な役割を果たす(ロース(Loos)ら、上掲)。ペリプラズム空間においてGFORによって産生されるソルビトールは、濃度勾配に対して細胞に輸送され、ここで、それは、さらに代謝されないため、高レベルで蓄積する。これは、形質膜を横切る浸透圧差をなくし、そして浸透圧バランスを回復する(ヴィーゲルト(Wiegert)ら、上掲)。しかし、GFOR仲介ソルビトール産生の前提条件は、グルコースおよびフルクトースが同時に存在することであり、そしてこの反応は、フルクトースを欠く増殖培地では生じるべきではない。それにもかかわらず、ソルビトールは、GFORの生理学的に重要な産物であり、そしてこの酵素は、ZW800において非活性であるため、ソルビトールをグルコースおよびキシロースの濃縮混合物に添加する効果を、下記の実験において試験した。
【0170】
高度の糖混合物における約70時間後(図16において垂直矢印で示した時点)、区画されたZW800培養物の5つの4.5mlアリコートを発酵槽から取り出し、そして15mlキャップ付き試験管に移した。次いで、試験管のうち4つに、0〜20mMソルビトール(最終濃度)を補充し、そして全ての場合において、培養物の全容積を脱イオン水で5.0mlに調整した;この実験に使用したソルビトールストック溶液もまた、水で作製した。水およびソルビトールを添加する場合、増殖培地の10%希釈のためのコントロールに対し、第5の培養物に何も添加しなかった。次いで、培養物の全てを、33℃で、穏やかに撹拌(200rpm)しながらインキュベートし、そして分光光度により増殖をモニターした。図17に示すように、ソルビトールを増殖培地に添加すると、試験した最も低い濃度(5mM)であっても、細胞は、ほぼ直ちに増殖を開始した。ソルビトールを添加しなかったが、培養物を水で10%希釈し、全糖濃度を188g/Lから169g/Lへ減少させた場合、増殖のいくつかの刺激が観察された。しかし、増殖に対するソルビトールの刺激効果は、希釈の効果よりもかなり大きかった。
【0171】
ZW658は、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物において、フルクトースの既知の供給源を伴わずに、停滞期から回復し、そして良好に増殖したため、ソルビトールによるZW800増殖の救出は全く予想外であった。後者の化合物はGFOR仲介ソルビトール産生に不可欠な電子受容体であるため、ソルビトールを合成し得ず、または高濃度のグルコースおよびキシロースを含有する培地における浸透圧バランスにおいて役割を果たし得ないようであった。それ故、ソルビトールが、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物においてZW658またはZW800の増殖のための重要な因子であることを示すものはなかった。
【0172】
実施例9
GFOR不活化は、プロセス関連条件下でキシロースからのエタノール産生を改善する
プロセス関連条件下でのグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW658およびZW800の発酵性能を、並行する様式で比較して、GFOR不活化が有益または有害な代謝エンジニアリングストラテジーであるかどうかを決定した。高濃度のグルコースおよびキシロースをこれらの実験において使用したため、ソルビトールを培地に添加して、ZW800の増殖を可能にした。ここに記載されていない実験では、ソルビトールがZW658の停滞期をなくすことも発見した。それ故、増殖培地のソルビトール補充は、これらの2つの株をプロセス関連条件下で比較するための理想的な方法を提供する。
【0173】
酢酸塩の存在および非存在下、全糖類の2つの濃度を使用して、6つの異なる条件下でZW658ならびにZW800を比較し、そしてより濃縮された糖混合物について、2つの異なる緩衝能を調べた。これらの実験は、30℃で、50ml試験管中、穏やかに撹拌(150rpm)しながら増殖させた20ml培養物で行った。pHは制御しなかったが、種培養物の播種の前に、増殖培地の初期pHを濃リン酸で5.8に調整した。基本増殖培地は、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、5mMソルビトールならびに4g/L(図18および19)のKHCO3または8g/L(図20)のKHCO3のいずれか一方を含有した。上記および下記の全ての値は、種培養物を添加した後の最終濃度である。KHCO3を使用して、増殖培地の緩衝能を増加し、細菌増殖中に通常生じるpHの低下を最小限にした。これらのすべての実験の炭素源は、全糖の異なる2つの濃度で前処置したコーンストーバ加水分解物におけるこれらの2つの糖類の比に近似するグルコースおよびキシロースの混合物であった。グルコースおよびキシロースの初期濃度は、それぞれ92g/Lおよび82g/L(図18)または107g/Lおよび96g/L(図19および20)のいずれか一方であった。表示される場合は、6g/Lの酢酸塩(前処置したコーンストーバ加水分解物に存在するインヒビター)もまた存在した。種培養物を、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4を含有する液体培地において30℃で約5.0のOD600まで増殖させ、そして1/10容積を使用して、実験培養物に播種した。多様な時間において、実施例6において先に記載のように、発酵ブロスのHPLC分析のためにアリコートを取り出した。この実験の目的の化合物は、グルコース、キシロース、エタノールおよびキシリトールであり、そして全ての値をg/Lで報告する。最初の時間ポイントを採取する前に、事実上全てのグルコースが消費されたため、この糖の値はグラフにプロットしなかった。
【0174】
図18〜20に示す実験から、次の2つの異なる基準によって判定される試験した全ての条件下で、ZW800がZW658より優れた性能を呈することが明らかである:(a)実験経過中に消費されたキシロースの全量、および(b)到達した最大エタノール力価。また、このデータから、GFOR不活化の有益な効果は、最もストレスの多い条件に遭遇する場合(即ち、すべてのグルコースが枯渇し、そしてエタノール濃度が毒性レベルに接近し始めた後)に、発酵の後期段階中に主として生じたことが明らかである。実際、2つの株の最も顕著な差異は、増殖培地中にさらなるストレスに寄与する阻害濃度の酢酸塩が存在した場合に観察された。3組の実験条件について酢酸塩の存在下におけるZW800のエタノール力価の平均の増加は、10.2%であり、値の範囲は4.4%〜13.7%である。ZW800はまた、3つのすべての実験において酢酸塩の非存在下でZW658より多くのエタノールを産生したが、この場合の平均の増加は3.2%であった。予想したとおり、ZW658は、有意な量のキシロースを、所望されない副産物キシリトールに変換し、そして条件が最もストレスの多いものである場合(即ち、発酵の後期段階中および酢酸塩が増殖培地に存在した場合)、最も高いレベルのこの化合物が観察された。例えば、図18〜20に示す酢酸塩による実験では、ZW658は、全キシロースの8.1%、8.3%および9.9%を変換し、これは消費されて、キシリトールになった。対照的に、ZW800培養物では、試験したいずれの条件下においても、キシリトールは見出されなかった。これらの結果は、プロセス関連条件下、特に、阻害濃度の酢酸塩の存在下で、GFOR不活化が、エタノール産生のためのキシロース代謝に有益であることを明確に示す。図18および19に示す試験管での実験を2回実施し、そして事実上、同一の結果を得た。
【0175】
pH制御された発酵槽を使用して、酢酸塩を伴うグルコースおよびキシロースの濃縮混合物におけるZW800およびZW658による別の並行実験を実施した。Z.モビリス(Z.mobilis)によって産生される有機酸および二酸化炭素のような代謝の副産物は、酢酸対酢酸塩の比を増加する増殖培地のpHを低下することができ、そしてプロトン化種が、細菌増殖を実際に阻害する化合物であることは公知である(キム(Kim)ら、(2000年)Applied Biochemistry and Biotechnology,84−86:357−370)。それ故、5.8から5.0へのpHの低下により、酢酸の濃度が5倍増加するため、pH制御は大規模発酵において極めて重要である。
【0176】
ZW800およびZW658の種培養物を、振盪フラスコ中、37℃で、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、10g/LのKH2PO4、2g/Lの(NH4)2SO4、および1g/LのMgSO4を含有する液体培地において増殖させた;初期pHを4NのKOHで5.5に調整した。OD600が約5.0に到達したら、種培養物の50mlアリコートを使用して、450mlの増殖培地を含有する1リットル発酵槽(BIOSTAT(登録商標)B−DCUシステム、ザルトリウスBBIシステム・インク.(Sartorius BBI System Inc.)、米国ペンシルバニア州ベスレヘム(Bethlehem,Pennsylvania))に接種した。最終的な500ml培養物は、92g/Lグルコース、97g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、10mMソルビトールおよび7.2g/Lの酢酸塩を含有した。増殖は33℃で行い、そしてpHを、4NのKOHの自動化された添加によって5.5に維持した;混合速度は150rpmであった。多様な時間において、実施例6に記載されている同じ手順を使用して、発酵ブロスのHPLC分析のためにアリコートを取り出した。この実験の目的の化合物は、グルコース、キシロース、エタノールおよびキシリトールであり、そして細胞増殖(OD600)もまた、モニターした。図21は、ZW800培養物によって稼動させた発酵槽のこれらのパラメータについての全ての時間経過を示し、そして表4は、両方の株についてのキシロース、エタノールおよびキシリトールのエンドポイント値についてまとめている。
【0177】
【表5】
【0178】
酢酸塩による試験管の結果(図18〜20)と同様に、pH制御された発酵槽において、ZW800は、ZW658より14%多いキシロースを消費し、そして9.6%多いエタノールを作製した(図21)。この株は検出可能なキシリトールを何ら産生しなかったため、ZW800のエタノール収率もまた、約5%高かった。対照的に、ZW658の発酵ブロスにおけるキシリトールの最終濃度は3.92g/Lであったが、実験の過程中に消費された全キシロースの約6.5%を示す。これらの実験は、キシリトール形成をなくすことによって、GFOR不活化がキシロースからのエタノール産生を改善するさらなる証拠を提供する。既に示したように、所望されない副産物キシリトールは、少なくとも2つの異なる方法でキシロース代謝を妨害し、そして細菌増殖を阻害して、より低いレベルのATPを生じる。それ故、GFORがキシリトールを作製する場合、それは、リグノセルロース系供給原料からのエタノール産生中にZ.モビリス(Z.mobilis)が通常遭遇する他の全てのエネルギー消費ストレスに対処するZ.モビリス(Z.mobilis)の能力を減少する。ZW800は、ZW658とは対照的に、キシリトール関連ストレスに取り組む必要がないため、それは、より多くのキシロースを消費し、より多くのATPを産生し、そして最も高いレベルのストレスに遭遇する場合、発酵の後期段階中により多くのエタノールを作製する。
【0179】
実施例10
ZW800からの選択マーカーの取り出し、および得られた株、ZW801−4の特徴付け
Cre発現構築物、pZB188−Kan/Creの作製
実施例3に記載のように、ZW800におけるGFORオープンリーディングフレームに挿入されたSpecr−カセットは、2つの野生型loxP部位の間に挟まれている。この配置は、Creリコンビナーゼを使用することによって、染色体から選択マーカーを取り出すことを容易にしている(スタンバーグ(Sternberg)およびハミルトン(Hamilton)(1981年)J.Mol.Biol.150:467−486;リー(Lee)およびサイトウ(Saito)、上掲;トリン(Trinh)ら(2000年)Journal of Immunological Methods244(2):185−193)。しかし、これを行うために、第1に、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるCre発現ベクター(図22)を作製する必要があった。Cre発現ベクターの前駆体はpZB188/Kanであり、実施例4において詳述した。簡単に説明すると、pZB188/Kanは両方の細菌種の複製開始点を有するため、それは、大腸菌(E.coli)およびZ.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるシャトルベクターである。それはまた、カナマイシンに対する耐性を付与するDNAフラグメント(即ち、Kanr−カセット)を含有する。pZB188/Kanを、NcoIおよびNotIで二重消化し、そして大きなベクターフラグメントを、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次の工程は、Cre−発現カセットを作製することであり、そしてプライマー17および18を使用するPCRによって、これを達成した。Cre−発現カセットの増幅のために使用したDNAテンプレートは、そのプロモーターを含むバクテリオファージPI Creリコンビナーゼの完全長の遺伝子を含有するプラスミド(スタンバーグ(Sternberg)ら(1986年)J.Mol.Biol.187(2):197−212)であった。
プライマー17(配列番号35):
CTACTCATccatggCATCTTGAGCTTGAGAAAAACC
プライマー18(配列番号36):
CATCTTACTgcggccgcTTAATGGCTAATCGCCATCTTC
【0180】
プライマー17(順方向プライマー)の下線を付した塩基は、Cre開始コドンから約200bp上流にあるジェンバンク(GenBank)受託番号X03453配列のnt286〜307にハイブリダイズする一方、小文字は、プライマーの5’末端に付加されたNcoI部位に対応する。プライマー18(逆方向プライマー)の下線を付した塩基は、Creオープンリーディングフレームの他方の末端で、ジェンバンク(GenBank)受託番号X03453配列のnt1523〜1503に結合する一方、小文字は、このプライマーの5’末端に付加されたNotI部位を示す。1238bpのPCR産物をNcoIおよびNotIで二重消化し、そしてCreリコンビナーゼの完全なオープンリーディングフレームおよびその推定プロモーターを含有する、得られたDNAフラグメント(スタンバーグ(Sternberg)ら、1986年、上掲)を、アガロースゲル電気泳動によって精製した。次いで、Cre−発現カセットを、標準的な連結反応において上述したpZB188/Kan DNAフラグメントのNcoIおよびNotI部位の間に挿入した。連結反応混合物のアリコートを大腸菌(E.coli)DH10Bにエレクトロポレートし、そして形質転換された細胞を、カナマイシン(50μg/ml)を含有するLB培地上でプレート化した;増殖は37℃であった。プラスミドDNAをカナマイシン耐性形質転換体の1つから単離し、次いで、この調製物を、大腸菌(E.coli)JM110(dcm−、dam−)に導入して、Z.モビリス(Z.mobilis)の以後の形質転換のための非メチル化プラスミドDNAを得た(以降を参照のこと)。Cre発現ベクターpZB188/Kan−Creのプラスミド地図を図22に示す。
【0181】
ZW800の染色体から選択マーカーを取り出すためのCre処置およびCre発現ベクターのキュアリング
バクテリオファージP1のCreリコンビナーゼ(Cre)は、特定の34bpのDNA配列、8bpの非対称コアにフランキングする2つの13bpの逆方向反復を含有する「loxP部位」を認識することが可能である(スタンバーグ(Sternberg)およびハミルトン(Hamilton)、1981年、上掲;リー(Lee)およびサイトウ(Saito)、上掲;トリン(Trinh)ら、上掲)。Creはまた、2つの同一のloxP部位の間に配置される任意の介在DNAフラグメントを切り出すことが可能であり、そして切り出し反応は極めて迅速である。GFORオープンリーディングフレームからSpecr−カセットを取り出すために、Cre発現ベクター(pZB188/Kan−Cre)をZW800に導入した。形質転換プロトコルは、本質的に実施例5に記載のとおりであったが、回収期間後、Cre発現ベクターの選択因子である350mg/mlのカナマイシンを含有するMMG培地上で、細胞をプレート化した。Creにより染色体から回収したSpecr−カセットは、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができないDNAの環状片(circlular piece)であるため、このプロセスから回収した一次形質転換体は、スペクチノマイシンに対してもはや耐性ではなかった。30℃、嫌気条件下で48時間のインキュベーション期間後、Kanr/Specs一次形質転換体のうちの2つを、Creプラスミドキュアリングプロセスに供した。pZB188/Kan−Creは、Z.モビリス(Z.mobilis)において複製することができるが、カナマイシンを含有しない培地で細胞を増殖させることによって、このプラスミドをキュアリングすることは比較的容易である。本発明においてCre発現ベクターをキュアリングするために、細胞を、高温度(37℃)で、カナマイシンを含有しない液体MMG培地で増殖させた;細胞を、同じ組成を伴う新鮮増殖培地に、24〜36時間ごとに移した。少なくとも50代が生じた後、単一のコロニーをMMGプレート上で単離し、そして両方の本来の一次形質転換体由来の5個のコロニーを、さらなる特徴付けのために無作為に選択した。予想したとおり、これらのうち、カナマイシン(350μg/ml)またはスペクチノマイシン(200μg/ml)を含有するMMGプレート上で増殖することが可能なコロニーは認められなかった。カナマイシン上で増殖することができないことは、プラスミドキュアリングプロセスが成功したことを良好に示すものであったが、この結果を、Cre−発現カセットにハイブリダイズするプライマーを使用するコロニーPCRによって確認した。これらの実験に基づいて、Cre処置した、プラスミドがキュアリングされたZW800誘導体のうち3つを、さらなる特徴付けのために選択したが、これらの株を、以降、ZW801−4、ZW801−5およびZW801−6と称する。
【0182】
これらの株が、阻害濃度の酢酸塩の存在下で、グルコースおよびキシロースの濃縮混合物においてどの程度良好に作動するかを調べるために、振盪フラスコ実験を実施した。この分析には、ZW658およびZW800も含めた。種培養物を、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4を含有する液体培地において30℃で約3.0のOD600まで増殖させ、そして15ml実験培養のために10%播種物を使用した。後者を、50ml試験管において、30℃で、穏やかに撹拌(150rpm)しながら増殖させた。増殖培地は、10g/Lの酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、5mMソルビトール、40mMのKHCO3、95g/Lグルコース、90g/Lキシロース、および7.7g/L酢酸塩を含有した;初期pHを濃リン酸で5.8に調整した。多様な時間において、実施例6において先に記載のように、発酵ブロスのHPLC分析のために、培養物のアリコートを取り出した。この実験の目的の化合物は、グルコース、キシロース、エタノールおよびキシリトールであり、そして全ての値をg/Lで報告する。
【0183】
表5に示すように、ZW658は、66.35g/Lのエタノールを産生し、そして後に40.6g/Lの残留キシロースを残した。また、ZW658は機能性GFOR酵素を有したため、それは、3.19g/Lの所望されない副産物キシリトールを産生した。他の並行実験において先に観察されたものと同様に、ZW800は、ZW658より17%多いキシロースを消費し、そして6.2%多いエタノールを産生し、そしてそれは、検出可能なキシリトールを何ら産生しなかった。ZW801−4およびZW801−6では僅かに良好な結果が得られたが、これらの差異は、おそらく実験誤差の範囲内であり、そして統計的に有意ではない。この実験で観察されたZW801−5の性能がそれほど良好ではなかったことについては、解明されていないが、それ以上調べなかった。これらの結果に基づいて、さらなる分析のために、株ZW801−4を選択した。
【0184】
【表6】
【0185】
ZW801−4が少なくともZW800と同様に作動したことを示唆した振盪フラスコ実験の結果を確認するために、これらの2つの株を、pH制御条件下で比較した。種培養物を、75g/Lグルコース、25g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4を含有する培地において、30℃で増殖させた。OD600が約4.6に到達したら、種培養物の17mlアリコートを使用して、153mlの増殖培地を含有するpH制御バイオリアクターに播種した。最終的な170ml培養物は、105g/Lグルコース、100g/Lキシロース、10g/L酵母抽出物、2g/LのKH2PO4、1g/LのMgSO4、5mMソルビトールおよび7.2g/Lの酢酸塩を含有した。増殖は33℃で行い、そしてpHを、4NのKOHの自動化された添加によって5.5に維持した;混合速度は約150rpmであった。多様な時間において、上記のように、発酵ブロスのHPLC分析のために、バイオリアクターから培養物のアリコートを取り出し、そしてまた、OD600もモニターした。これらの実験条件下では、ZW800およびZW801−4の増殖曲線は、ほとんど重ね合わせることができた(図23A)。グルコースおよびキシロース消費の時間経過はまた、事実上同一であり、そして両方の株は、同様の動態で同じ量のエタノールを産生した(図23B)。さらに加えて、これらの株のいずれも、検出可能なキシリトールを何ら産生しなかった。これらの観察に基づいて、本発明者らは、GFORオープンリーディングフレームからSpecr−カセットを取り出しても、GFOR酵素活性が回復または部分的に回復しなかったこと、およびこの操作は発酵性能に有害な影響を及ぼさなかったことを結論付けている。ZW800およびZW801−4は両方とも機能性GFOR酵素を有する親株(ZW658)より良好に作動したが、ZW801−4は抗生物質に対する耐性を付与する外来遺伝子を含有しないため、商業的アプリケーションに好適な株は、ZW801−4である。ZW801−4由来のゲノムDNAの配列解析は、正確なCre切り出し事象が実際に生じた明白な証拠を提供した。ZW801−4における破壊されたGFORオープンリーディングの完全なヌクレオチド配列(本来の開始コドンから本来の終止コドンまで)を配列番号37に示し、そして図24は、翻訳された変異体配列と野生型GFORタンパク質とのアラインメントを示し;後者は、ジェンバンク(GenBank)受託番号AE008692のnt683751〜685052の逆相補鎖によってコードされる。予想したとおり、Specr−カセットのCre切り出しは、GFORオープンリーディングフレームの中間において単一の野生型loxP部位を残し、そしてこの挿入事象は、タンパク質を未熟な状態で切り詰めるインフレーム終止コドンを生じた;「lox scar」の局在を、灰色で強調された残基によって示す。自殺構築物の設計の結果として、変異体ヌクレオチド配列もまた、同じ場所で生来の野生型GFORヌクレオチド配列のうち約72bpを失っている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる少なくとも1つの遺伝子改変を含む、キシロースを資化して、エタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株。
【請求項2】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる遺伝子改変は、挿入、欠失、変異、共抑制、およびアンチセンスRNA発現からなる群から選択される、請求項1に記載の組み換えザイモモナス株。
【請求項3】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる遺伝子改変は、相同組み換えによって、株のグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ遺伝子に導入される挿入である、請求項1に記載の組み換えザイモモナス株。
【請求項4】
ZW800、ZW801−4およびZW801−6からなる群から選択された株として同定される、請求項1に記載のザイモモナス株。
【請求項5】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる遺伝子改変を伴わない株と比較して、低減した量のキシリトールを産生する、請求項1に記載のザイモモナス株。
【請求項6】
実質的にキシリトールを産生しない、請求項5に記載のザイモモナス株。
【請求項7】
a)キシロースを資化して、適切な条件下でエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株を提供する工程;および
b)(a)のキシロースを資化してエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株に少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、該改変は、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる工程
を含む、低減したGFOR活性を有する、キシロースを資化してエタノールを産生することが可能なザイモモナス株を作製するための方法。
【請求項8】
(a)のキシロースを資化してエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株は、ATCC31821/pZB5、Z.モビリス8b、ZW658、ZM4(pZB5)およびZ.モビリスCP4:pZB5からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子改変は、挿入、欠失、変異、共抑制、およびアンチセンスRNA発現からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項1】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる少なくとも1つの遺伝子改変を含む、キシロースを資化して、エタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株。
【請求項2】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる遺伝子改変は、挿入、欠失、変異、共抑制、およびアンチセンスRNA発現からなる群から選択される、請求項1に記載の組み換えザイモモナス株。
【請求項3】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる遺伝子改変は、相同組み換えによって、株のグルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ遺伝子に導入される挿入である、請求項1に記載の組み換えザイモモナス株。
【請求項4】
ZW800、ZW801−4およびZW801−6からなる群から選択された株として同定される、請求項1に記載のザイモモナス株。
【請求項5】
グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる遺伝子改変を伴わない株と比較して、低減した量のキシリトールを産生する、請求項1に記載のザイモモナス株。
【請求項6】
実質的にキシリトールを産生しない、請求項5に記載のザイモモナス株。
【請求項7】
a)キシロースを資化して、適切な条件下でエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株を提供する工程;および
b)(a)のキシロースを資化してエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株に少なくとも1つの遺伝子改変を導入する工程であって、該改変は、グルコース−フルクトースオキシドレダクターゼ活性を減少させる工程
を含む、低減したGFOR活性を有する、キシロースを資化してエタノールを産生することが可能なザイモモナス株を作製するための方法。
【請求項8】
(a)のキシロースを資化してエタノールを産生することが可能な組み換えザイモモナス株は、ATCC31821/pZB5、Z.モビリス8b、ZW658、ZM4(pZB5)およびZ.モビリスCP4:pZB5からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子改変は、挿入、欠失、変異、共抑制、およびアンチセンスRNA発現からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2010−504758(P2010−504758A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530433(P2009−530433)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/020950
【国際公開番号】WO2008/133638
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(509087737)ミッドウェスト・リサーチ・インスティテュート (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/020950
【国際公開番号】WO2008/133638
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(509087737)ミッドウェスト・リサーチ・インスティテュート (3)
【Fターム(参考)】
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