説明

エタノール製造方法およびエタノール製造装置

【課題】一酸化炭素と水素を含むガスから触媒反応により直接エタノールを生成させ、高効率にエタノールを製造することができるエタノール製造方法を提供する。
【解決手段】一酸化炭素と水素を含む原料気体を、触媒の存在下で反応させてエタノールを生成するエタノール製造方法であって、反応圧力における沸点が反応温度よりも高い媒体油に前記触媒を分散させ、当該媒体油中に前記原料気体を導入して反応を行うことを特徴とする、エタノール製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素と水素を含むガスからエタノールを製造するエタノール製造方法およびエタノール製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭などの化石燃料使用量の増大により、大気中の二酸化炭素(CO)濃度が上昇している。そのため、地球温暖化問題が人類の解決すべき喫緊の課題として注目されており、二酸化炭素の排出量削減目標が世界規模で論議され始めている。
【0003】
二酸化炭素排出削減の有力な方法としては、発電の際に二酸化炭素を排出しない原子力の利用や二酸化炭素の分離、回収、固定化(CCS)などの技術があるが、地球に負荷を与えない炭素源(いわゆる、カーボンニュートラルな炭素源)としてバイオマスの利活用が注目されている。
【0004】
例えば、ブラジルやインドでは、精糖工場で発生する糖蜜(モラセス)を酵母で発酵し、バイオエタノールを製造してこれをガソリンに混合し、例えばE5やE10と呼ばれるエタノール混合ガソリンを自動車用燃料として利用することにより、二酸化炭素の排出削減を行っている。また、アメリカや中国では、トウモロコシを酵素により糖化し、得られた糖分を酵母で発酵してバイオエタノールを製造し、同様にE10などのエタノール混合ガソリンとし、自動車用燃料としての普及を図っている。これらの糖蜜やトウモロコシから製造されるエタノールは、第一世代のバイオエタノールとして知られ、世界的に大規模に製造され始めたが、原料であるサトウキビやトウモロコシが食料や飼料であることから、食料価格や飼料価格の高騰を招き、大きな社会問題となった。
【0005】
これに対して、廃木材や草本などの非可食原料を用いてバイオエタノールを製造する技術開発が加速している。本技術では、非可食原料であるセルロース系バイオマスを希酸や水熱処理などの前処理により酵素糖化の効率を改善し、酵母によるエタノール発酵を促進することで、バイオエタノールの収率を改善する試みがなされている。このような非可食なセルロース系バイオマスを原料として製造したバイオエタノールは、食料などと競合しない利点があり、第二世代のバイオエタノールとして注目されている。
【0006】
しかし、前記セルロース系バイオマスに対する前処理には多大な工程が必要となり、高コストとなる上、バイオマスの残渣が多量に発生し、バイオマスの利用率が低い問題がある。
【0007】
ここで、前記セルロース系バイオマスを原料として、ガス化炉で熱化学的変換を行い、生成された合成ガス(Synthetic GasまたはSyngasと称される場合がある)中に含まれるタール、すす(固形炭素であるチャー)、硫化水素、アンモニア、塩化水素などの有害な物質を精製除去することによって、一酸化炭素(CO)と水素(H)を主要ガスとして含む合成ガスを得ることができる。
【0008】
そして、この合成ガスを触媒を用いた反応装置に導入することにより、前記一酸化炭素(CO)と水素(H)を化学反応させてバイオエタノールを製造する技術開発が行われている(特許文献1)。
このようなバイオエタノールは、同じセルロース系のバイオマスを原料とするが、酵母による発酵によって製造される前記第二世代のバイオエタノールと区別され、第三世代のバイオエタノールと呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2010/092819A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1では、前記バイオマスの熱化学的ガス化反応によって得られる一酸化炭素と水素を含む合成ガスを触媒下で反応させることによって、エタノールに直接変換するエタノールの製造方法が開示されている。
しかし、特許文献1では固定床型の反応器を使用しているため、エタノールを生成するときの発熱量を効率よく吸収することができず、触媒層の温度が急激に上昇する、所謂「温度暴走」が起こり、安定した触媒層の温度制御が非常に困難であった。このため、触媒が最も高効率、高収率で反応する温度条件での細かな運転調整ができず、触媒性能を効果的に発揮させることが困難であった。
【0011】
本発明の目的は、バイオマスの熱化学的ガス化反応によって得られる合成ガス等の一酸化炭素と水素を含むガスから触媒反応により直接エタノールを生成させる際に、発熱反応による熱量を安定して吸収することで触媒反応器の触媒層の温度制御を容易にするとともに、前記触媒の性能を効果的に得られる条件で反応を行うことによって、高効率、且つ高収率でエタノールを製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係るエタノール製造方法は、一酸化炭素と水素を含む原料気体を、触媒の存在下で反応させてエタノールを生成するエタノール製造方法であって、反応圧力における沸点が反応温度よりも高い媒体油に前記触媒を分散させ、当該媒体油中に前記原料気体を導入して反応を行うことを特徴とするものである。
【0013】
本態様によれば、一酸化炭素と水素からエタノールを生成するための触媒を分散させた媒体油中に、一酸化炭素と水素を含む原料気体を導入して反応を行うので、前記一酸化炭素と水素からエタノールを生成したときに生じる反応熱を前記媒体油に吸収させることができる。媒体油によって吸収された反応熱は速やかに拡散して均一化されるので、固定床における触媒層の急激な温度上昇(温度暴走)や、該触媒層の温度が部分的に上昇するヒートスポット現象等が起こり難く、前記媒体油の温度制御は容易である。したがって、安定して触媒反応場の温度制御を行うことが可能となる。
【0014】
このとき、前記媒体油は反応圧力における沸点が反応温度よりも高いので、反応中の媒体油の状態は液体状態で安定する。したがって、液体の媒体油中に触媒が均一に分散した状態で確実に反応を行うことができる。以って、一酸化炭素と水素を触媒の存在下で反応させて行うエタノール合成反応を安定して進行させ、高効率、且つ高収率でエタノールを製造することができる。
【0015】
また、一酸化炭素と水素を触媒の存在下で反応させて行うエタノールの合成反応は、一般的に高圧高温下において行われる。例えば、ロジウム系触媒や銅亜鉛触媒を用いた場合、反応圧力は0.1MPa〜10MPa、望ましくは3.5MPa〜10MPa、反応温度は250℃〜350℃の範囲で行われる。
この反応圧力および反応温度下では一酸化炭素と水素は超臨界状態、あるいはそれに近い状態(亜臨界状態)となり、前記媒体油中には一酸化炭素と水素が高濃度に溶解することとなる。したがって、前記媒体油中における触媒との接触効率が高まり、反応の高効率化およびエタノールの高収率化を達成することができる。
【0016】
本発明の第2の態様に係るエタノール製造方法は、第1の態様において、前記媒体油は、疎水性媒体油と親水性媒体油との混合油であることを特徴とするものである。
【0017】
触媒存在下で行う一酸化炭素と水素からエタノールを生成する反応は、以下の(1)式のように表される。
【0018】
【化1】

【0019】
このように、当該触媒反応により水(HO)が生成する。しかし、エタノール合成触媒として用いられる触媒は水による被毒を受け、その触媒活性が低下してしまう虞がある。
また、(1)式の反応は可逆反応であるため、生成物であるエタノールと水が反応系中に存在すると逆反応が起こりエタノールの収率が低下する。更に、水はCOをCO2に変換するため、原料であるCO濃度が低下し、最適CO/H比を変動してしまう。
【0020】
本態様のエタノール製造方法では、媒体油として疎水性媒体油と親水性媒体油との混合油を用いている。そして、当該媒体油中において触媒によるエタノール合成反応を行うと、生成したエタノール(COH)及び水(HO)は該媒体油中の親水性媒体油に速やかに取り込まれ、触媒に接触させないようにすることができる。すなわち、エタノール(COH)及び水(HO)を反応系外に分離することができる。
【0021】
また、疎水性媒体油中には水は取り込まれないので、疎水性媒体油中にある一酸化炭素(原料)やエタノール(目的生成物)は前記水の影響を受けない。更に、前記疎水性媒体油によって、触媒を水との接触から保護する効果が期待される。
【0022】
以上のように、親水性媒体油によって触媒と水が接触することを防ぎ、以って触媒の水による被毒を防止するとともに、疎水性媒体油によって前記逆反応やCO濃度の低下を抑制することができる。
【0023】
また、親水性媒体油、例えばポリエチレングルコールを用いると、ロジウム系触媒や銅亜鉛触媒を用いた場合の主要な触媒活性金属種であるRh、Cuと分子中の複数のエーテル酸素原子(O)と錯体化学的相互作用することによる、活性金属の原子価最適化によるエタノール合成触媒活性の向上が期待できる[参考文献:金属触媒における添加物効果と担体効果:市川 勝、触媒、26(1),68-75(1984)]。
【0024】
尚、疎水性媒体油と親水性媒体油の混合比は、触媒と、疎水性媒体油と親水性媒体油の種類に応じて任意に設定することができ、疎水性媒体油および親水性媒体油のそれぞれの前記特性が効果的に発揮されるように設定される。
【0025】
本発明の第3の態様に係るエタノール製造方法は、第2の態様において、前記疎水性媒体油は、少なくとも1種の、炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物であり、前記親水性媒体油は、少なくとも1種の、親水性を有するエーテル類であることを特徴とするものである。
【0026】
炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物としては、例えばデカン、ウンデカン、ドデカン、セタンなどが挙げられる。また、親水性を有するエーテル類としては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム、イソアミルエーテル、テトラフラン、フエニルエーテル、ポリエチレンゴリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
本態様によれば、疎水性媒体油として10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物を用い、また、親水性媒体油として親水性エーテル類を用いることによって、第2の態様と同様の作用効果を奏する。
【0027】
本発明の第4の態様に係るエタノール製造方法は、第2の態様または第3の態様において、前記疎水性媒体油と前記親水性媒体油との混合比は99:1〜1:99であることを特徴とするものである。
本態様によれば、第2の態様または第3の態様の効果を確実に得ることができる。
【0028】
本発明の第5の態様に係るエタノール製造方法は、第1の態様から第4の態様のいずれか一つにおいて、前記媒体油は、大気圧での流動点または凝固点が20℃未満であることを特徴とするものである。
【0029】
本態様によれば、該媒体油の大気圧での流動点または凝固点が20℃未満であるので、常温(例えば20℃程度の室温)における媒体油の取り扱いが容易である。
【0030】
本発明の第6の態様に係るエタノール製造装置は、一酸化炭素と水素を含む原料気体を触媒の存在下で反応させてエタノールを生成する反応を行う触媒反応部を備え、前記触媒反応部は、触媒を分散させた媒体油中に前記原料気体を導入するように構成されており、前記媒体油は、疎水性媒体油と親水性媒体油との混合油であるとともに、当該混合油の反応圧力における沸点が反応温度よりも高いことを特徴とするものである。
【0031】
本態様によれば、第2の態様のエタノール製造方法を行うことが可能となり、第2の態様と同様の作用効果を得ることができる。
【0032】
本発明の第7の態様に係るエタノール製造装置は、第6の態様において、前記疎水性媒体油は、少なくとも1種の、炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物であり、前記親水性媒体油は、少なくとも1種の、親水性を有するエーテル類であることを特徴とするものである。
【0033】
本態様によれば、第2の態様と同様の作用効果に加え、更に、第3の態様と同様の作用効果を得ることができる。また、炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物と親水性を有するエーテル類の混合油は、一般的に流動点または凝固点が20℃未満であるので、常温(例えば20℃程度の室温)における媒体油の取り扱いが容易である。
【0034】
本発明の第8の態様に係るエタノール製造装置は、第6の態様または第7の態様において、前記疎水性媒体油と前記親水性媒体油との混合比は99:1〜1:99であることを特徴とするものである。
本態様によれば、第2の態様または第3の態様の効果を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るエタノール製造装置の一実施例を説明する概略図である。
【図2】エタノール製造装置の触媒反応部を説明する概略図である。
【図3】本発明に係るエタノール製造装置の他の実施例を説明する概略図である。
【図4】エタノール製造装置のエタノール合成効率評価に用いる試験装置の概略図である。
【図5】本発明に係るエタノール製造装置の更に他の実施例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下において、本発明について実施例に基づき詳細に説明する。尚、本発明はこれらによって制約されるものではない。
最初に、本発明に用いる原料気体、触媒、および媒体油について説明する。
【0037】
<原料気体>
本発明は、一酸化炭素と水素を原料とし、触媒反応によってエタノールを生成する方法であり、原料気体としては一酸化炭素と水素を含む気体が用いられる。前記原料気体中には、一酸化炭素と水素以外の他のガス成分であって、前記触媒反応を妨げないガス成分が含まれていてもよい。また前記他のガス成分は、前記触媒によって反応し、エタノール以外の生成物を生じさせないものであることが望ましい。
【0038】
原料気体としては、例えば、バイオマスを原料としてガス化炉で熱化学的変換を行い、生成された合成ガスを用いることができる。セルロース系バイオマスを原料として生成された前記合成ガスは、タール、すす(固形炭素であるチャー)、硫化水素、アンモニア、塩化水素などの有害な物質を含むが、これらの物質を精製除去することによって、一酸化炭素(CO)と水素(H)を主要ガスとして含む合成ガスを得ることができる。
【0039】
<触媒>
本発明に係るエタノール製造方法に用いる触媒としては、一酸化炭素と水素から直接エタノールを生成する反応を触媒する公知のエタノール合成用触媒を用いることができる。
このようなエタノール合成用触媒としては、例えば、特許文献1に記載の、ロジウムと、少なくとも一種の遷移金属と、リチウム、マグネシウム、亜鉛から選ばれる少なくとも一種の元素と、を含む触媒が挙げられる。より具体的には、シリカ担体に担持したロジウム、マンガン、リチウム、およびスカンジウムからなる触媒、シリカ担体に担持したロジウム、モリブデン、イリジウム、銅、およびパラジウムからなる触媒、または、シリカ担体に担持したロジウム、マグネシウム、ジルコニウム、およびリチウムからなる触媒等が挙げられる。
また、前記ロジウム系触媒の他、シリカ担体に銅と酸化亜鉛を担持した銅亜鉛触媒も有効である。また、これらの触媒を複数組み合わせて用いることも可能である。
【0040】
後述のように、本発明では前記触媒を媒体油に分散させて用いる。前記媒体油に均一に分散させるため、触媒の粒径は、10μm〜100μmであることが好ましく、より好ましくは30μm〜70μmである。
【0041】
<媒体油>
前記触媒を分散させる媒体油としては、前記エタノール合成用触媒を用いたエタノール合成反応の反応圧力における沸点が反応温度よりも高い物質を用いる。例えば、反応圧力は0.1MPa〜10MPa、反応温度は250℃〜350℃の範囲である場合、当該反応圧力における沸点が、250℃〜350℃より高い物質が用いられる。
【0042】
具体的には、デカン、ウンデカン、ドデカン、セタン等の炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム、イソアミルエーテル、テトラフラン、フエニルエーテル、ポリエチレンゴリコール、ポリプロピレングリコール等の親水性エーテル類を媒体油として用いることができる。また、これらを2種以上組み合わせて用いることもでき、特に、疎水性媒体油(例えば、上記分岐飽和脂肪族炭化水素化合物)と親水性媒体油(例えば、上記親水性エーテル類)を混合した混合油を用いることが望ましい。
【0043】
疎水性媒体油と親水性媒体油の混合油を媒体油として用いると、以下のような効果が期待される。触媒存在下で行う一酸化炭素と水素からエタノールを生成する反応では、目的生成物であるエタノールの他、水が生成する[(1)式を参照]。しかし、エタノール合成触媒として用いられる触媒は水による被毒を受け、その触媒活性が低下してしまう虞がある。また、(1)式の反応は可逆反応であるため、生成物であるエタノールと水が反応系中に存在すると逆反応が起こりエタノールの収率が低下する。更に、水はCOをCO2に変換するため、原料であるCO濃度が低下し、最適CO/H比を変動してしまう。
【0044】
前記混合油の媒体油中において触媒によるエタノール合成反応を行うと、生成したエタノール(COH)及び水(HO)は該媒体油中の親水性媒体油に速やかに取り込まれ、触媒に接触させないようにすることができる。すなわち、エタノール(COH)及び水(HO)を反応系外に分離することができる。
また、疎水性媒体油中には水は取り込まれないので、疎水性媒体油中にある一酸化炭素(原料)やエタノール(目的生成物)は前記水の影響を受けない。更に、前記疎水性媒体油によって、触媒を水との接触から保護する効果が期待される。
【0045】
以上のように、親水性媒体油によって触媒と水が接触することを防ぎ、以って触媒の水による被毒を防止するとともに、疎水性媒体油によって前記逆反応やCO濃度の低下を抑制することができる。
【0046】
[実施例1]
本発明に係るエタノール製造方法について説明する。図1は、本発明に係るエタノール製造装置の一実施例を説明する概略図である。図2は、エタノール製造装置の触媒反応部を説明する概略図である。
【0047】
図1に示すエタノール製造装置1は、触媒反応部2と、気液分離部3と、蒸留部4と、脱水部5を備えている。触媒反応部2は、一酸化炭素と水素を含む原料ガスが送り込まれて、触媒反応により前記一酸化炭素と水素から直接エタノールを生成する反応を行う反応器である。触媒反応部2の詳細な構成を図2に示す。
【0048】
触媒反応部2を構成する反応器20には媒体油21が充填されており、前記反応部の下方に原料ガス10を導入する原料ガスライン22が設けられている。原料ガス10は、前記媒体油21中に拡散するように、小径の孔を有する配管や多孔質セラミック等で形成されたスパージャー23を通して導入されることが望ましい。符号25は触媒供給ラインであり、一酸化炭素と水素から直接エタノールを生成する反応を触媒するエタノール合成用触媒24を媒体油21に添加可能に構成されている。
【0049】
前記媒体油21に添加する前記エタノール合成用触媒24の添加量は、媒体油21に対して1wt%〜50wt%となるように添加することが好ましく、より好ましくは5wt%〜20wt%である。
【0050】
このように、エタノール合成用触媒24を分散させた媒体油21中に、一酸化炭素と水素を含む原料ガス10を導入して反応を行うことによって、触媒反応によってエタノールを生成したときに生じる反応熱を前記媒体油21に吸収させることができる。媒体油21によって吸収された反応熱は速やかに拡散して均一化されるので、固定床において問題となる触媒層の急激な温度上昇(温度暴走)や、該触媒層の温度が部分的に上昇するヒートスポット現象等が起こり難く、前記媒体油21の温度制御は容易である。したがって、安定して触媒反応場の温度制御を行うことが可能となる。
【0051】
また、前記媒体油21は反応圧力における沸点が反応温度よりも高いので、反応中の媒体油の状態は液体状態で安定する。したがって、液体の媒体油21中にエタノール合成用触媒24が均一に分散した状態で確実に反応を行うことができる。以って、前記エタノール合成反応を安定して進行させ、高効率、且つ高収率でエタノールを製造することができる。
【0052】
また、前記エタノール合成用触媒24の存在下で行う一酸化炭素および水素からのエタノール合成反応は、一般的に高圧高温下において行われる。例えば、ロジウム系触媒や銅亜鉛触媒を用いた場合、反応圧力は0.1MPa〜10MPa、反応温度は250℃〜350℃の範囲で行うことができ、より好ましくは、1MPa〜5MPa、260℃〜300℃で行われる。
このような高圧高温下では一酸化炭素と水素は超臨界状態、あるいはそれに近い状態(亜臨界状態)となり、媒体油に対する溶解度が通常の状態よりも増す。したがって、前記媒体油21中には一酸化炭素と水素が高濃度に溶解することとなる。このことにより、前記媒体油21中におけるエタノール合成用触媒24との接触効率が高まり、反応の高効率化およびエタノールの高収率化を達成することができる。
【0053】
媒体油21としては、前述したn−ドデカン、セタン等の炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物等を用いることができる。特に、疎水性媒体油(例えば、n−ドデカン、セタン等)と親水性媒体油(例えば、ポリエチレングリコール、トリグライム、1−オクタノール等)を混合した混合油を用いることが望ましい。該混合油を媒体油21として用いると、前述のように、生成したエタノール及び水が親水性媒体油に速やかに取り込まれ、更に、疎水性媒体油が前記エタノール合成用触媒24との界面で、エタノール及び水を取り込んだ親水性媒体油を寄せ付けない役割を奏する。このことにより、水によるエタノール合成用触媒24の被毒が防止されるとともに、エタノール合成用触媒24によるエタノール合成反応の逆反応を抑制することができる。
疎水性媒体油と親水性媒体油を混合した混合油を用いる場合、その混合比は、99:1〜1:99の範囲であることが好ましく、より好ましくは20:1〜1:20の範囲である。
【0054】
媒体油21の温度は、温度調整器26によって温度調節することができる。温度調整器26は、ライン中を熱媒体を流通させることによって温度を調節するものを用いることができ、例えば熱媒体として水蒸気34を利用することができる。媒体油21は循環ライン29によって循環するように構成されている。また循環ライン29を更に分岐させて、触媒抜き出しライン30を設け、フィルター32によってエタノール合成用触媒24と媒体油21を分離し、活性が低下した触媒33を抜き出せるように構成されていることが好ましい。フィルター32によって分離された媒体油21は反応器20に戻される。抜き出したエタノール合成用触媒24の量に応じて、新たなエタノール合成用触媒24を触媒供給ライン25から添加する。尚、符号31はポンプであり、符号35〜符号40はバルブである。
【0055】
前記媒体油21中においてエタノール合成触媒24による触媒反応が行われ、生成したエタノールを含む反応ガス11は、反応器20の上部に設けられた反応ガス排出ライン27を通って気液分離部3に送られる。
【0056】
反応器20から排出された反応ガス11は高温(約250〜300℃)であり、生成したエタノール、水、未反応ガス、副生成物(メタン、アセトアルデヒド、酢酸等)の全てが気体である。気液分離部3では、前記反応ガス11中に含まれるエタノールを液体として回収可能な温度(例えば、10〜30℃程度の室温)に冷却し、エタノール、水、アセトアルデヒド、酢酸等を含む液体成分7と、未反応ガスである一酸化炭素、水素、副生成物のメタン等を含む気体成分8とに分ける。前記液体成分7は貯槽6に溜められた後、蒸留部4に送られる。
【0057】
前述のように、液体成分7には、目的生成物であるエタノール(約50〜60wt%)の他、水(約40〜50wt%)、および他の微量成分(アセトアルデヒド、酢酸等)が含まれている。前記液体成分7について精製を行うことにより、目的生成物であるエタノールを得ることができる。
【0058】
本実施例では、蒸留部4と脱水部5による精製を行う。前記蒸留部4における蒸留による精製のみでは、エタノールと水との共沸のため、エタノールを高度に濃縮することは難しい。例えば水が約40〜50wt%含まれる液体成分7に対して単蒸留を行った場合、蒸留後のエタノール成分は約5〜15wt%の水を含んでいる。したがって、前記蒸留部4における蒸留精製のあとに、更に脱水部5を設けることによって水を除き、純度99%以上のエタノールを得ることができる。前記脱水部5としては、例えばゼオライト膜等を利用した脱水システムを用いることができる。
【0059】
[実施例2]
次に、本発明に係るエタノール製造装置の他の実施例を図3を用いて説明する。図3は、本実施例に係るエタノール製造装置であり、図1に記載のエタノール製造装置における気液分離部と蒸留部の間に、媒体油分離部42を備えている。触媒反応部、気液分離部、蒸留部、および脱水部については、図1のエタノール製造装置と同様であるので、同様の構成部に同じ符号を付してその説明は省略する。
【0060】
反応器2から排出される反応ガス11中には、蒸気となった媒体油21が随伴する場合があるので、気液分離部3において分離された液体成分7中には前記随伴した媒体油21が液化して含まれている場合がある。媒体油分離部42は、例えば、比重の違いを利用して媒体油21とそれ以外の液体成分43とを分離するように構成することができる。
蒸留部4に送られる液体成分中に媒体油21が多く含まれていると、蒸留部4において蒸留工程を行った際に、該蒸留部4の釜内に媒体油21が残渣として残り、蒸留部4のメンテナンスの労力が増加する。本実施例によれば、液体成分7中に含まれる媒体油21を回収し、更に蒸留工程の効率化を図り、不純物の少ないエタノールを得ることができる。尚、回収した媒体油44は反応器2に戻して再利用してもよい。
【0061】
[実施例3]
≪エタノールの合成と合成効率の評価≫
図4は、エタノール製造装置のエタノール合成効率評価に用いる試験装置51の概略図である。試験装置51は、触媒反応部52においてエタノールの合成反応を行い、該触媒反応部52から取り出した反応ガスを気液分離器56によって気体成分と液体成分に分離した後、前記気体成分と液体成分をそれぞれ分析するように構成されている。触媒反応部52としては、図2に記載の触媒反応部2と同様の構成のものを用いた。符号53および符号54はマスフローコントローラーであり、符号55は熱交換器である。
尚、反応器である触媒反応部52上部の温度は110℃程度に制御しており、そこをガスまたはミストで通過し、触媒反応部52上部から飛散した媒体油は、媒体油のみを分取し、触媒反応部52に高圧ポンプ(図示せず)で戻し、触媒濃度を一定に保つことができる。
【0062】
前記試験装置51を用い、触媒反応部52における媒体油の種類を変えてエタノールの生成を行い、その合成効率の評価を行った。尚、実験に用いるエタノール合成触媒の調整は以下の手順に従って行った。
【0063】
<ロジウム系触媒(触媒1)の調製>
シリカ担体(比表面積185m2/g:粒子径50−70μm)に、ロジウム、マンガン、リチウムを各金属重量%でそれぞれ4.47%、0.07%、0.09%となるそれぞれの塩化物のエタノール水溶液に含浸した後に、水素と窒素(1:4体積比)の混合気流下で100℃まで1時間昇温し、2時間保持し、400℃まで2時間昇温して2時間保持して25℃に降温して活性化処理して、シリカ担体にロジウム、マンガン、リチウムを担持した触媒1を調製した。
【0064】
<Cu/ZnO触媒(触媒2)の調製>
シリカ担体(比表面積185m2/g:粒子径50−70μm)に、銅と亜鉛を各金属原子比で1:0.8となるそれぞれの硝酸塩のエタノール水溶液に含浸した後に、水素と窒素(1:2体積比)混合気流下で100℃まで1時間昇温し、2時間保持し、250-400℃まで2時間昇温して2時間保持し、25℃に降温して活性化処理して、シリカ担体に銅と酸化亜鉛(ZnO)を担持したCu/ZnO触媒2を調製した。
【0065】
[実施例3-1]
図4に示す試験装置の触媒反応部52(チタン製)内にn−ドデカンの媒体油598g(700ml)を入れ、続いて、Rh複合触媒である触媒1(RhMnLi/SiO、50−70μm粒子径Davicat103)75mlとCu亜鉛触媒である触媒2(CuO/ZnO/SiO、50−70μm粒子径)75mlとを加えてスラリー状にした後に、触媒反応部52を密閉した。触媒反応部52内のスラリーを撹絆させながら、原料ガスとして、一酸化炭素ガスを2.4NL/min、水素ガスを4.8NL/minの流通量でスラリー中をミクロバブルで流通させることにより、エタノールの合成反応を実施した。尚、一酸化炭素ガスおよび水素ガスの流量は、マスフローコントローラー53および54を使用して制御した。
【0066】
このときの反応温度は285℃であり、反応圧力は3MPaであった。尚、エタノールの合成反応を実施する前に、触媒を適当な還元状態にするために、圧力1MPaでH/Nの1:2混合ガス(流量2.4L/min)を約250℃にて2時間流通することにより、予備還元操作を実施した。
【0067】
前記のエタノールの合成反応において、触媒反応部52を通過したガス(生成ガス)は、熱交換器55で約20℃に冷却され、気液分離器56でエタノール及び水を主成分とする液体58と、未反応のガス成分、二酸化炭素、メタンを含む気体59とに分離した。なお、この気液分離器56で回収した液体58は、気液分離器56から減圧弁(図示せず)を通して抜出し、常圧にして、CO、メタン等を揮発させ、エタノール及びHOを含む液体として得た。
【0068】
触媒反応部52の出口ガスは、常圧にした後に直接加温ガスサンプラー57(160℃に保持)で採取した後、CO,H、メタン及び低級炭化水素、COなどはTCDガスクロマトグラフでまたエタノール、アセトアルデヒド、エチル酢酸エステル、プロパノールなどの含酸素生成物の組成をFIDカラムガスクロマトグラフで定量分析した。
【0069】
また、気液分離器で分離した気体59は、ガスメータを用いて流量を測定した後、TCDガスクロマトグラフで組成を分析した。気液分離器で分離したエタノールと水を主成分とする液体58を減圧後回収して、液体量とエタノール濃度を測定し、更に含酸素生成物の組成をFIDガスクロマトグラフで分析した。これらの結果から、以下の算出式により、一酸化炭素転化率(単位=%)、及びエタノール収率(単位=g/L−触媒・時間)を求めた。
【0070】
一酸化炭素転化率=100×(Vin−Vout)/Vin式中、Vinは、原料ガス中の一酸化炭素流量を表わし、Voutは、生成ガス中の一酸化炭素流量を表わす。
エタノール収率=WEtOH/Lcat式中、WEtOHは、1時間当たりのエタノールの収量を表わし、Lcatは、Rh触媒容量を表わす。
【0071】
そして、(1)反応開始から5時間経過後の一酸化炭素(CO)転化率(単位=%)、(2)反応開始から40時間経過後の一酸化炭素(CO)転化率(単位=%)、(3)エタノール収率および(4)反応開始から40時間経過後の媒体油の飛散量(単位=g)を調べた。
【0072】
[実施例3-2]
前記実施例3-1の媒体油(n-ドデカン)の代わりにセタンを油媒体として用い、上記実施例3-1と同様の手順によって実施例3-2の試験を行った。
【0073】
[比較例3−1]
前記実施例3-1の媒体油(n-ドデカン)の代わりにガラスビーズを用い、上記実施例3-1と同様の手順によって比較例3−1の試験を行った。比較例3−1は固定床による触媒反応の例である。
【0074】
≪合成効率の評価試験の結果≫
以下の表1に実施例3-1、実施例3-2、および比較例3−1における結果を示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上記表1をみても明らかなように、本発明に係る実施例3-1の媒体油を使用すると、長期間にわたってCO転化率およびエタノール収量を高い水準に維持することができるのみならず、比較例3−1に係るガラスビーズ(固定床)と比較して、CO転化率およびエタノール収量が向上しかつ長期間安定して合成を行うことができることが判明した。
【0077】
[実施例4]
≪媒体油として混合油を用いた場合のエタノールの合成と合成効率の評価≫
以下の手順に従って、本実施例に用いる触媒3を調製した。
【0078】
<Rh複合触媒(触媒3)の調製>
シリカ担体(比表面積200m2/g:粒子径70μm)に、ロジウム、スカンジウム、リチウム、イリジウムを各金属重量%でそれぞれ4.02%、0.06%、0.02%、0.94となるそれぞれの塩化物のエタノール水溶液に含浸した後に、水素と窒素(1:4体積比)の混合気流下で100℃まで1時間昇温し、2時間保持し、400℃まで2時間昇温して2時間保持して25℃に降温して活性化処理して、シリカ担体にロジウム、スカンジュウム、リチウム、イリジウムを担持したRh複合触媒(触媒3)を調製した。
【0079】
<Cu/ZnO触媒(触媒4)の調製>
シリカ担体(比表面積185m2/g:粒子径50μm)に、銅と亜鉛を各金属原子比で1:1.2となるそれぞれの硝酸塩のエタノール水溶液に含浸した後に、水素と窒素(1:2体積比)混合気流下で100℃まで1時間昇温し、2時間保持し、250−400℃まで2時間昇温して2時間保持し、25℃に降温して活性化処理して、シリカ担体に銅と酸化亜鉛(ZnO)を担持したCu/ZnO触媒(触媒4)を調製した。
【0080】
[実施例4−1]
図4に示す試験装置の触媒反応部52(チタン製)内にノルマルドデカンの疎水性媒体油256g(300ml)とポリエチレングリコール200の親水性媒体油110g(120ml)を入れ、続いて、前記触媒3(RhScIrLi/SiO)50mlと前記触媒4(Cu/ZnO/SiO)50mlとを加えてスラリー状にした後に、触媒反応部52を密閉した。触媒反応部52内のスラリーを撹絆させながら、原料ガス[一酸化炭素:2.4NL/min、水素ガス:6.8NL/minの流通量(マスフローコントローラーを使用して制御した)]でスラリー中をミクロバブルで流通させることにより、エタノールの合成反応を実施した。このときの反応温度は260℃であり、反応圧力は2MPaであった。なお、エタノールの合成反応を実施する前に、触媒を適当な還元状態にするために、圧力1MPaでH/Nの1:2混合ガス(流量2.4L/min)を250℃にて5時間流通することにより、予備還元操作を実施した。
【0081】
[実施例4−2]
図4に示す試験装置の触媒反応部52(チタン製)内にセタンの疎水性媒体油438g(500ml)とポリプロピレングリコールの親水性媒体油123g(100ml)を入れ、続いて、前記触媒3(RhScIrLi/SiO)50mlと前記触媒4(Cu/ZnO/SiO)50mlとを加えてスラリー状にした後に、触媒反応部52を密閉した。触媒反応部52内のスラリーを撹絆させながら、原料ガス[一酸化炭素:2.4NL/min、水素ガス:6.8NL/minの流通量(マスフローコントローラーを使用して制御した)]でスラリー中をミクロバブルで流通させることにより、反応温度は260℃であり、反応圧力は2MPaの反応条件下でエタノールの合成反応を実施した。
【0082】
実施例3−1と同様の操作で反応を行った。反応器を通過したガス(生成ガス)は、熱交換器で約20℃に冷却され、気液分離器でエタノール及び水を主成分とする液体と、未反応のガス成分、二酸化炭素、メタンを含む気体とに分離した。反応器の出口ガスは、ガスクロマトグラフで採取、分析を行った。エタノール、アセトアルデヒド、エチル酢酸エステル、プロパノールなどの含酸素生成物の組成をFIDカラムガスクロマトグラフで定量分析した。気液分離器で分離したエタノールと水を主成分とする液体を減圧後回収して液エタノール生成量を定量した。実施例3−1と同様に、一酸化炭素転化率(単位=%)、及びエタノール収率(単位=g/L−触媒・時間)を求めた。
【0083】
そして、(1)反応開始から3時間経過後の一酸化炭素(CO)転化率(単位=%)と(2)エタノール収率および(3)反応開始から10時間経過後の媒体油の飛散量(単位=g)を調べた。
【0084】
[比較例4−1]
図4に示す試験装置の触媒反応部52(チタン製)に、前記触媒3(RhScIrLi/SiO)50mlと前記触媒4(Cu/ZnO/SiO)50mlとを100mlのガラスビーズで希釈して固定床充填して、それ以外は、実施例4−1および実施例4−2と同様の操作を行い、原料ガス[一酸化炭素:2.4NL/min、水素ガス:6.8NL/minの流通量]を、反応温度260℃、反応圧力2MPaで反応させ、エタノールの合成を実施した。反応開始から3時間経過後の一酸化炭素(CO)転化率(単位=%)とエタノール収率を比較例4−1として表2に示す。
【0085】
≪実施例4−1、4−2および比較例4−1の結果≫
以下の表2に実施例4−1、4−2、比較例4−1における結果を示す。
【0086】
【表2】

【0087】
上記表2をみても明らかなように、本発明に係る実施例4−1,4−2の混合媒体油を使用すると、比較的に低温の反応領域においてCO転化率およびエタノール収量を高い水準に維持することができるのみならず、比較例4−1に係る固定床触媒での反応と比較して、CO転化率およびエタノール収量が向上しかつ長期間安定して合成を行うことができることが判明した。触媒反応部52上部から飛散した少量の媒体油は、媒体油のみを分取し、触媒反応部52に高圧ポンプで戻し、触媒濃度を一定に保つことができる。
【0088】
<実施例5>
次に、本発明に係るエタノール製造装置の更に他の実施例を図5を用いて説明する。
前述のように、本発明の原料気体としてはバイオマスを熱化学的変換して得た合成ガスを用いることができる。図5に記載のエタノール製造装置61は、一酸化炭素と水素を含む原料ガスからエタノールを生成する触媒反応部62の上流側に、バイオマスから一酸化炭素と水素を含む合成ガスを得るための合成ガス生成部70を備えている。符号67を付した点線の枠内の構成部は、実施例1に記載のエタノール製造装置と同様の構成であり、前記触媒反応部62に続いて、気液分離部63、貯槽66、蒸留部64、および脱水部65を備えている。符号68は液面制御弁である。
【0089】
すなわち、前記合成ガス生成部70において、農業系および森林系の廃棄物、エネルギー作物などのバイオマス79から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成し、当該合成ガスを原料ガスとして触媒反応によりエタノールを合成する構成である。
【0090】
前記合成ガス生成部70について説明する。バイオマス79は乾燥機71によって予め乾燥された後、破砕機72によって細かく砕かれる。破砕後のバイオマス79は貯槽73に溜められて、定量供給機(図示せず)によりガス化炉74に供給される。ガス化炉74としては、ロータリーキルン式、流動床式、固定床式、噴流床式等の公知のガス化炉を用いることができる。
【0091】
前記ガス化炉74では、破砕後のバイオマス79を熱化学的変換によりガス化させる。前記バイオマス79のガス化により生成した合成ガス中にはタール成分やチャーが含まれる。したがって、ガス化炉の下流側に設けられたガス洗浄部75よって、前記合成ガス中のタール成分やチャーが除去回収され、前記合成ガスは洗浄される。ガス洗浄部75は、例えばスクラバー式のガス洗浄装置を用いることができ、前記タール成分およびチャーはドレン水に含まれて回収される。
【0092】
ガス洗浄部75において洗浄された合成ガスは、低圧圧縮機80により昇圧され、ガス精製部76に送られる。ガス精製部76は、吸着剤充填塔等により塩化水素や硫化水素を除去するように構成されている。
【0093】
前記ガス精製部76を通過した精製後の合成ガスは、主要成分として一酸化炭素、水素、および二酸化炭素を含み、微量成分としてメタン、エチレン等を含んでいる。前記精製後の合成ガスはガス改質部77に送られ、メタン、エチレン等の炭化水素ガスが水蒸気改質される。改質後の合成ガス中には一酸化炭素、水素、および二酸化炭素のみが含まれている。当該改質後の合成ガスを高圧圧縮機81により昇圧して触媒反応部62に導入し、該触媒反応部62においてエタノールの合成が行われる。
【0094】
また、本実施例においては、気液分離部63において分離された気体成分、すなわち、未反応ガスである一酸化炭素、水素、二酸化炭素、および副生成物のメタン等を含むガスを、ガス改質部77に戻されるように構成されている。また、気液分離部63において分離された気体成分を燃焼炉78に供給し、バイオマス79を乾燥する乾燥機71の熱源として用いることも可能である。また、蒸留部64において分離されたアセトアルデヒドを燃焼炉78に供給することも可能である。尚、符号82は流量制御弁であり、符号83は圧力制御弁である。
【0095】
本実施例によれば、前記合成ガス生成部70において、バイオマスから一酸化炭素と水素を含む合成ガスを得、当該合成ガスを原料として触媒反応部62に供給することによってエタノールを製造することができる。
【0096】
前記バイオマスとしてセルロース系のバイオマス、特に、農業系廃棄物を用いて得た合成ガスを原料気体として用いれば、前述した第三世代のバイオエタノールを製造することができる。
【0097】
前記農業系廃棄物としては、例えば、サトウキビの搾りかすであり精糖工場から排出されるバガス、やし油(パームオイル)搾油工場から排出される空果房、精米工場から排出されるもみ殻、とうもろこし工場から排出されるコーンストーバなどがあり、特にアジア諸国やブラジル、アメリカ、中国などにおいてこれらの農業系廃棄物が多量に発生している実情がある。また、都市部では都市ごみが大量に発生しており、この都市ごみもセルロース系のバイオマス資源として有効である。
【0098】
このような農業系廃棄物や都市ごみ等のセルロース系バイオマスを原料としたエタノールの製造方法は、廃棄物を資源として有効活用し、地球に与える負荷を少なくしてエネルギーを得ることができるという大きな利点を有している。
【符号の説明】
【0099】
1 エタノール製造装置、 2 触媒反応部、 3 気液分離部、
4 蒸留部、 5 脱水部、 6 貯槽、
7 液体成分、 8 気体成分、
10 原料ガス、 11 反応ガス、
20 反応器、 21 媒体油、 22 原料ガスライン、 23 スパージャー、
24 エタノール合成触媒、 25 触媒供給ライン、
26 温度調整器、 27 反応ガス排出ライン、
29 循環ライン、 30 触媒抜き出しライン、 32 フィルター、
41 エタノール製造装置、 42 媒体油分離部、
51 試験装置、 52 触媒反応部、 56 気液分離部、
61 エタノール製造装置、 62 触媒反応部、 63 気液分離部、
64 蒸留部、 65 脱水部、 66 貯槽、
70 合成ガス生成部、 71 乾燥機、 72 破砕機、 73 貯槽、
74 ガス化炉、 75 ガス洗浄部、 76 ガス精製部、
77 ガス改質部、 78 燃焼炉、 79 バイオマス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と水素を含む原料気体を、触媒の存在下で反応させてエタノールを生成するエタノール製造方法であって、
反応圧力における沸点が反応温度よりも高い媒体油に前記触媒を分散させ、当該媒体油中に前記原料気体を導入して反応を行うことを特徴とする、エタノール製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエタノール製造方法において、前記媒体油は、疎水性媒体油と親水性媒体油との混合油であることを特徴とする、エタノール製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエタノール製造方法において、前記疎水性媒体油は、少なくとも1種の、炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物であり、
前記親水性媒体油は、少なくとも1種の、親水性を有するエーテル類であることを特徴とする、エタノール製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のエタノール製造方法において、前記疎水性媒体油と前記親水性媒体油との混合比は99:1〜1:99であることを特徴とする、エタノール製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のエタノール製造方法において、前記媒体油は、大気圧での流動点または凝固点が20℃未満であることを特徴とする、エタノール製造方法。
【請求項6】
一酸化炭素と水素を含む原料気体を触媒の存在下で反応させてエタノールを生成する反応を行う触媒反応部を備え、
前記触媒反応部は、触媒を分散させた媒体油中に前記原料気体を導入するように構成されており、
前記媒体油は、疎水性媒体油と親水性媒体油との混合油であるとともに、当該混合油の反応圧力における沸点が反応温度よりも高いことを特徴とする、エタノール製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエタノール製造装置において、前記疎水性媒体油は、少なくとも1種の、炭素数が10〜20の直鎖および分岐飽和脂肪族炭化水素化合物であり、
前記親水性媒体油は、少なくとも1種の、親水性を有するエーテル類であることを特徴とする、エタノール製造装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のエタノール製造装置において、前記疎水性媒体油と前記親水性媒体油との混合比は99:1〜1:99であることを特徴とする、エタノール製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−246232(P2012−246232A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117880(P2011−117880)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(507127613)有限会社市川事務所 (3)
【Fターム(参考)】