説明

エタロンフィルタの製造方法及びエタロンフィルタ

【課題】FSRの調整を好適に行うことができるエタロンフィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】エタロンフィルタ1の製造方法は、基板3の設計上の厚みdを決定するステップST1と、第2反射膜5Bを構成する、設計上の複数の薄膜7の組み合わせについてΔFSRが互いに異なる複数の候補を用意するステップST2と、基板3を形成するステップST3と、基板3の実際の厚みdを測定するステップST4と、第1反射膜5Aを形成するステップST5と、厚みdと厚みdとの比較に基づいて複数の候補から一の候補を選択するステップST6〜ST8と、選択された候補の複数の薄膜7の組み合わせで前記第2反射膜を形成するステップST9とを有する。なお、ΔFSRは、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bが設けられていない場合に比較したFSRの変化量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザシステムや光通信システムに用いられるエタロンフィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソリッドエタロンフィルタは、基板と、その基板の入出射面に設けられた反射膜とにより構成され、周期的な透過波形を示し、m次のピーク波長λ(ピーク振動数ν)において光の透過率が急峻に上昇するフィルタである。その透過ピークの振動数間隔であるFSR(Free Spectral Range)は、一般に、以下の(1)式により求められるとされている。
【0003】
【数1】

ただし、cは光速、nは基板の屈折率、dは基板の厚み、θは基板内の屈折角度である。
【0004】
特許文献1は、透過波形位置の波長にすることは、基板の厚みdを正確に調整することが重要であり、その一方で、基板の厚みdを光学研磨によって精密に調整することは難しいことに言及している。そして、特許文献1は、基板と同一の屈折率を有する材料を基板の入射面若しくは出射面に成膜することにより、実質的に基板の厚みdを高精度で調整することを提案している。
【0005】
特許文献2は、MD特性の仕様を満足させるためには、平行度を10″〜30″以内の精度で研磨すること、またFSR特性は、板厚の誤差を±1〜3μm程度の精度で加工することが必要であると言及している。なお、上述したような仕様を満足するためには、極めて優れた研磨技術が必要であるとも言及しており、機械加工により研磨した基板に基板と同等の屈折率を有する薄膜を形成することにより、MD特性の改善とFSR特性の微調整を行うことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−208022号公報
【特許文献2】特開2006−292911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2のFSRの調整方法には種々の不都合が生じる。例えば、基板と同一の屈折率を有する材料を成膜することから、その成膜分だけ工程数や材料が増加することになる。また、本願発明者の鋭意検討の結果、仮に基板の厚みdを(1)式に基づいて決定される厚みに正確に調整できたとしても、FSRは所望の値にはならないことが分かった。すなわち、特許文献1及び2のように、実質的に基板の厚みdを高精度に調整して厚みdを設計上の厚みに一致させたとしても、所望のFSRは得られない。
【0008】
本発明の目的は、FSRの調整を好適に行うことができるエタロンフィルタの製造方法及びエタロンフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るエタロンフィルタの製造方法は、基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜とを有し、前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれが、複数の薄膜が積層されて構成されているエタロンの製造方法であって、前記基板の設計上の厚みdを決定するステップと、前記第2反射膜を構成する、設計上の前記複数の薄膜の組み合わせについて、下記(I)式により算出されるΔFSRが互いに異なる複数の候補を用意するステップと、前記基板を形成するステップと、前記基板の実際の厚みdを測定するステップと、前記第1反射膜を形成するステップと、厚みdと厚みdとの比較に基づいて前記複数の候補から一の候補を選択するステップと、選択された候補の前記複数の薄膜の組み合わせで前記第2反射膜を形成するステップと、を有する。
ΔFSR=FSR−FSR (I)
ただし、FSRは、厚みdの前記基板に前記第1反射膜及び前記第2反射膜が設けられていない場合におけるFSRであり、FSRは、厚みdの前記基板に複数の薄膜の組み合わせが前記第1反射膜及び前記第2反射膜として設けられている場合におけるFSRである。
【0010】
本発明の一態様に係るエタロンフィルタは、基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜と、を有し、前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれが、複数の薄膜が積層されて構成され、前記第1反射膜の構成と前記第2反射膜の構成とが互いに異なる。
【発明の効果】
【0011】
上記の手順又は構成によれば、FSRの調整を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態に係るエタロンフィルタの模式的な側面図、図1(b)はエタロンフィルタの透過特性を模式的に示す図。
【図2】エタロンフィルタの反射膜の複数の構成例を示す図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は実施形態のFSR算出法により算出したFSR及びΔFSRを示す図。
【図4】実施形態に係るエタロンフィルタの製造方法の手順を示すフローチャート。
【図5】図5(a)及び図5(b)は基板及び反射膜の種々の構成例及びその変更例を示す図。
【図6】図5(a)及び図5(b)の構成例のFSRを示す図。
【図7】図7(a)及び図7(b)は基板及び反射膜の他の種々の構成例及びその変更例を示す図。
【図8】図7(a)及び図7(b)の構成例のFSRを示す図。
【図9】図9(a)及び図9(b)は構成が互いに異なる反射膜を組み合わせた場合の作用を示す図。
【図10】実施形態のエタロンフィルタの応用例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(エタロンフィルタの概要)
図1(a)は、本発明の実施形態に係るエタロンフィルタ1を模式的に示す側面図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、従来技術若しくは比較例についてもエタロンフィルタ1に係る符号を付すことがある。
【0014】
エタロンフィルタ1は、基板3と、基板3の第1主面3aに設けられた第1反射膜5Aと、基板3の第2主面3bに設けられた第2反射膜5B(以下、単に「反射膜5」といい、両者を区別しないことがある。)とを有している。
【0015】
基板3は、例えば、石英等のガラス材若しくは水晶等の結晶材により構成され、また、第1主面3a及び第2主面3bが互いに平行な平板状に形成されている。その厚さdは、FSR等の所望の光学特性に応じて適宜に設定されてよい。第1主面3a及び第2主面3bの面粗さ及び平行度も、所望の光学特性やその精度に応じて適宜に設定されてよいが、例えば、面粗さは1nm未満であり、平行度は1分未満である。このような微小な面粗さや高精度な平行度は、例えば、第1主面3a及び第2主面3bの光学研磨により得られる。
【0016】
反射膜5は、複数の薄膜7が積層されることにより構成されている。複数の薄膜7は、例えば、誘電体により構成されている。誘電体は、例えば、二酸化ケイ素(SiO、屈折率=1.445)、二酸化チタン(TiO、屈折率=2.3)、五酸化タンタル(Ta、屈折率=2.2)である。複数の薄膜7は、屈折率が互いに異なる薄膜7が交互に積層されるように配置されている。なお、基板3の第1主面3a及び第2主面3bに重ねられる薄膜7は、基板3とは屈折率が異なる薄膜7とされている(上記の例ではSiO以外)。また、複数の薄膜7は、反射膜5において所望の光学特性(例えば反射率)が得られるように、その材料、積層数及び厚みが設計されている。一例として、反射膜5は、サブミクロン程度の厚みの薄膜7が10層以下で積層されて構成されている。薄膜7は、例えば、蒸着により基板3に対して設けられる。
【0017】
エタロンフィルタ1には、光Ltが、基板3の第1主面3a及び第2主面3bに直交する光軸Axに対して平行に若しくは傾斜して入射する。なお、図1では、光Ltが傾斜してエタロンフィルタ1に入射し、基板3内を屈折角度θで透過している場合を例示している。そして、エタロンフィルタ1は、所望の波長の光の透過を許容し、それ以外の光の透過を規制する。なお、第1主面3a及び第2主面3bは、いずれが入射面若しくは出射面とされてもよいが、図1では、第1主面3aが入射面、第2主面3bが出射面とされた場合を例示している。
【0018】
図1(b)は、エタロンフィルタ1の透過特性を模式的に示す図である。図1(b)において横軸は波長λを示し、縦軸は透過係数Tを示している。なお、透過係数Tは、光Ltの、エタロンフィルタ1への入射前における強度Iinと、エタロンフィルタ1からの出射後の強度Ioutとの比Iout/Iinである。
【0019】
一般に知られているように、エタロンフィルタ1においては、m次のピーク波長λ(ピーク振動数ν)において透過係数Tが周期的に上昇する。なお、FSRは、ピーク振動数νの間隔(ν−νm+1)であるが、図1(b)では、理解の一助のためにFSRをピーク波長間において示している。
【0020】
(FSR算出法)
ここで、本願発明者は、エタロンフィルタ1の試作品におけるFSRの測定結果から、反射膜5の構成(材料、積層数、厚み等)が変化すると、FSRが変化することを発見した。一方、(1)式に示されるように、一般に、反射膜5の構成がFSRに影響を及ぼすことは認知されておらず、当然に、反射膜5の構成を考慮して、エタロンフィルタ1の各種設計値等に基づいてFSRを算出(予測)する方法は知られていない。
【0021】
そこで、本願発明者は、反射膜5の影響を考慮に入れたFSR算出法を考案した。当該算出法は、Florin Abeles氏の行列法に基づくものである。具体的には、以下のとおりである。
【0022】
基板3及び複数の薄膜7の全体をm層の媒質からなる多層構造体として考える。このとき、j番目(1≦j≦m)の媒質の特性行列Mjは、下記(2)及び(3)式により表わされる。
【0023】
【数2】

ただし、λは波長、nはj番目の媒質の屈折率、dはj番目の媒質の厚み、θはj番目の媒質中の屈折角、δはj番目の媒質の位相である。
【0024】
多層構造体の特性行列Mは、下記(4)式に示すように、各層の行列の積によって表わされる。
【0025】
【数3】

【0026】
この多層構造体のフレネル反射係数ρとフレネル透過係数τは、下記(5)式及び(6)式により表わされる。
【0027】
【数4】

ただし、n及びnはそれぞれ、m層の媒質のうち入射媒質及び出射媒質となる媒質の屈折率である。
【0028】
(5)式及び(6)式より、反射係数Rと透過係数Tは、下記(7)式及び(8)式により表わされる。
【0029】
【数5】

【0030】
そして、上記(8)式において波長λを変数として透過係数Tを計算して極大値を求め、極大値間の波長間隔からFSRを算出する。
【0031】
なお、屈折率nについては、波長分散(波長依存性)を考慮しなければならない。例えば、下記(9)式により屈折率nが波長λに基づいて算出されることが好ましい。
【0032】
【数6】

ただし、A〜Aは分散係数である。なお、基板あるいは薄膜に吸収がある場合は、屈折率のみならず消衰係数とその波長依存性も考慮する必要がある。
【0033】
また、FSRは、一般には、(1)式に例示したように、次数mを考慮せずに求められる。ただし、次数mに応じたばらつきを考慮してFSRを求めるのであれば、FSRは、エタロンフィルタ1が使用される振動数範囲に含まれる、ピーク振動数の間隔の数、最大のピーク振動数及び最小のピーク振動数をそれぞれ、L、ν、νm+Lとして、
FSR=(ν−νm+L)/L
により求められてもよい。
【0034】
なお、以上に説明したFSR算出方法が、各媒質において屈折率が不均一でない限り、高精度にFSRを算出できることは、その理論から明らかである。
【0035】
(実施例及び比較例等の条件)
以下では、具体的な材料や寸法を設定した実施例及び比較例等に関して、FSRの算出値や実測値を求めた結果を参照し、反射膜がFSRに及ぼす影響等について説明する。なお、この場合において、特に断りがない限り、入射角度は0°であり、波長範囲は1530〜1610nmであり、基板3は、水晶Zカット板により構成されているものとする。
【0036】
(反射膜がFSRに及ぼす影響調査)
図2は、反射膜5の複数の構成例(複数の薄膜7の組み合わせの複数の例)を示す図である。図2において、各列(縦の欄)は、各構成例に対応し、各行は、各構成例の特徴を示している。具体的には、以下のとおりである。
【0037】
図2の第1行「No.」は、構成例に対して便宜的に付した番号を示している。そして、図2では、No.1〜No.15までの15種類の構成例が示されてる。
【0038】
図2の第2行「R」は、各構成例における反射膜5の反射率(%)を示している。そして、図2では、いずれの構成例も、反射膜5の反射率が20%になるように、その材料、積層数、厚みが設定されている。
【0039】
図2の中央付近の行「d」は、基板3の厚みd(単位:nm)を示している。そして、図2では、全ての構成例は、厚みdが互いに同一とされている。
【0040】
図2において、「d」の上下の行「SiO2」及び「Ta2O5」は、薄膜7の材料毎の厚み(単位:nm)を、基板3に対する積層順に合わせて示している。すなわち、図2の構成例では、基板3の一方の主面に対して、その主面側から順に、Ta、SiO、Ta、SiO、Ta及びSiOの6層が積層され、また、他方の主面においても同様に、その主面側から順に、Ta、SiO、Ta、SiO、Ta及びSiOの6層が積層されている。そして、複数の構成例は、互いに薄膜7の厚さが異なっている。
【0041】
なお、No.11〜15において一部の薄膜7の厚みが0とされているのは、その材料の薄膜が設けられなかったことを意味している。また、No.1〜No.13までは、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bは互いに同一の構成であるのに対し、No.14及びNo.15までは、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bは互いに異なる構成となっている。
【0042】
図3(a)は、No.1〜No.15の構成例におけるFSRを上述した本実施形態のFSR算出法により算出した結果を示す図であり、図3(b)は、No.1〜No.15の構成例におけるΔFSRを示す図である。図3(a)及び図3(b)において、横軸は、エタロンフィルタの厚みD(図1(a))を示している。図3(a)において縦軸はFSRを示し、図3(b)において縦軸はΔFSRを示している。
【0043】
ここで、ΔFSRは、以下の(10)式により求められる。
ΔFSR=FSR−FSR (10)
ただし、FSRは、厚みdの基板3に第1反射膜5A及び第2反射膜5Bが設けられていない場合におけるFSR、FSRは、上記の厚みdの基板に第1反射膜5A及び第2反射膜5Bが設けられている場合におけるFSRである。
【0044】
上述のように、No.1〜No.15の構成例は、基板3の厚みdが互いに同一である。従って、図3(a)及び図3(b)から、基板3の厚みdが互いに同一であっても、FSRが互いに異なることが確認された。換言すれば、いかに精度良く基板3の厚みdを調整しても、FSRが基板3の厚みdのみによって決定されるものとしてエタロンフィルタ1を設計している限り、FSRを高精度に調整することができないことが確認された。
【0045】
また、図3(a)及び図3(b)から、反射膜5の構成が異なれば、FSRも異なることが確認された。このことより、反射膜5の構成を調整することにより、FSRを調整することが可能であることが分かる。
【0046】
また、図3(a)及び図3(b)のプロットのばらつきから、巨視的には、エタロンフィルタの厚みD若しくは反射膜の厚み(D−d)が大きくなると、FSRが小さくなる傾向があるものの、必ずしも、厚みD若しくは厚み(D−d)を大きくすることにより、FSRを小さくすることができるとは限らないことが分かる。なお、図3(a)の相関係数の2乗は0.28である(図3(b)も同様)。
【0047】
なお、一般には、(1)式において例示したように、FSRは、基板3の厚みdによってのみ決定されるとされており、反射膜5の構成がFSRに影響を及ぼすことや、厚みDを調整するだけではFSRを高精度に調整することができないことは認知されていない。すなわち、上記の知見は、本願発明者の鋭意検討の結果、得られたものである。
【0048】
(エタロンフィルタの製造方法)
以上の知見を踏まえ、本実施形態では、以下のようにエタロンフィルタ1を製造することにより、高精度なFSRの調整を好適に行う。
【0049】
図4は、エタロンフィルタ1の製造方法の手順を示すフローチャートである。なお、ステップST1及びST2は、設計段階における工程であり、一の設計に対して1回行われる。また、ステップST3〜ST9は、狭義の製造段階における工程であり、一般には、繰り返し行われ、ステップST3〜ST9において多数のエタロンフィルタ1が製造される。
【0050】
ステップST1では、基板3の設計上の厚みdを決定する。厚みdは所望の光学特性(例えばFSR)が得られるように決定される。なお、厚みdは、従来公知の方法により決定されてもよいし、上述した本実施形態のFSR算出方法を含む方法により決定されてもよい。
【0051】
ステップST2では、反射膜5の設計上の複数の候補を用意する。例えば、図2のNo.1〜No.13の構成例を、設計上の複数の候補として用意する。この複数の候補は、厚みdの基板3に対して設けられたときのΔFSR(FSR)が把握されている。なお、FSR及びΔFSRは、基板3の厚みdを高精度で厚みdに制御できた試作品の実測に基づいて得られてもよいし、上述した本実施形態のFSR算出方法に基づいて算出されてもよい。また、複数の候補には、ΔFSRが互いに異なるものが選定されている。なお、複数の候補には、FSRと所望のFSRとの差がある程度の範囲内に収まっているものが選定されていることが好ましい。
【0052】
ステップST3では、基板3を形成する。基板3は、その厚みが設計上の厚みdとなるように形成される。なお、基板3の形成方法は、公知の方法と同様でよい。
【0053】
ステップST4では、ステップST3において形成された基板3の実際の厚みdを測定する。厚みdの測定は、マイクロメータやレーザ測長計など、公知の技術により行われてよい。また、厚みdの測定は、好ましくは、0.1μm以下の精度で行われることが好ましい。
【0054】
ステップST5では、第1反射膜5Aを形成する。第1反射膜5Aの構成は、例えば、ΔFSRの大きさがステップST2において用意した複数の候補において中間のものとされる。また、例えば、ΔFSRを算出する過程では、FSR(FSR)が求められるが、FSRが所望のFSRに近いものとされる。なお、第1反射膜5Aの形成方法は、公知の方法と同様でよい。
【0055】
ステップST6では、基板3の設計上の厚みdと基板3の実際の厚みdとを比較する。ここで、(1)式から理解されるように、実際の厚みdが設計上の厚みdよりも小さい場合においては、実際のFSRは所望のFSRよりも大きくなり、実際の厚みdが設計上の厚みdよりも大きい場合においては、実際のFSRは所望のFSRよりも小さくなる。
【0056】
そこで、実際の厚みdが設計上の厚みdよりも小さい場合においては、ステップST2で用意した複数の候補のうち、第1反射膜5Aの構成(候補)よりもΔFSRが小さい(ΔFSRは負なので絶対値は大きい)候補を第2反射膜5Bの構成として選択し(ステップST7)、実際の厚みdが設計上の厚みdよりも大きい場合においては、複数の候補のうち、第1反射膜5Aの構成(候補)よりもΔFSRが大きい(ΔFSRは負なので絶対値は小さい)候補を第2反射膜5Bの構成として選択する(ステップST8)。そして、その選択された候補の構成で第2反射膜5Bを形成する(ステップST9)。
【0057】
これにより、実際の厚みdが設計上の厚みdと相違することによるFSRの誤差が、第2反射膜5Bに係るΔFSRを大きく若しくは小さくすることにより打ち消され、第2反射膜5Bの構成を第1反射膜5Aの構成と同一とした場合に比較して、実際のFSRが所望のFSRに近づく。
【0058】
なお、第2反射膜5Bとなる候補の選択にあたっては、実際の厚みdと設計上の厚みdとの差が大きいほど第1反射膜5AのΔFSRとの差が大きいΔFSRの候補を選択するなど、厚みdと設計上の厚みdとの差に応じた選択がなされてもよい。
【0059】
また、特に図示しないが、実際の厚みdが設計上の厚みdと同等の場合においては、例えば、第2反射膜5Bは第1反射膜5Aと同一の構成とされてよい。
【0060】
ステップST1及びST2の順番は逆でもよい。また、ステップST5〜ST9の順番は適宜に変更可能である。例えば、ステップST6〜ST8は、ステップST5の前に行われてもよいし、ステップST5は、ステップST9の後に行われてもよい。
【0061】
(実施形態の製造方法の妥当性)
以下では、実施形態の製造方法の妥当性について説明する。
【0062】
図5(a)は、図2と同様に、基板3及び反射膜5の種々の構成例を示す図である。なお、図5(a)のNo.21−A〜No.24−Aまでの構成例は、基板3の厚みdが互いに同一であり、反射膜5の構成が互いに異なる。また、各構成例において、第1反射膜5Aの構成と、第2反射膜5Bの構成とは同一である。
【0063】
図5(a)の構成例を試作し、FSR及びΔFSRを測定した。そして、ΔFSRを考慮したうえで、所望のFSR(この例では100GHz)が得られるように図5(a)の基板3の厚みdを変更した構成例を設計した。
【0064】
図5(b)は、その厚みdを変更した構成例を示す、図5(a)と同様の図である。No.21−B〜No.24−Bは、それぞれ、No.21−A〜No.24−Aに対応している。なお、以下では、A、Bを省略して反射膜5の構成を指すことがある。
【0065】
そして、図5(b)の構成例を試作し、図5(a)の構成例と同様に、FSRを測定した。
【0066】
図6は、図5(a)の構成例のFSRと、図5(b)の構成例のFSRとを比較して示す図である。
【0067】
図6において各行は、反射膜5の構成に対応している。第1列「No.」は、反射膜5の構成例のNo.を、A、Bを省略して示している。なお、「No.」が「−」となっている行は、反射膜無しに対応している。「A」及び「B」の列(縦の欄)は、それぞれ、図5(a)及び図5(b)の構成例に対応している。
【0068】
この図に示されるように、図5(b)の構成例は、図5(a)の構成例に比較して、FSRが所望のFSR(100GHz)に近い値となっている。このことから、厚みdと反射膜5の構成とを適切に組み合わせることにより、理想的にFSRが得られることが確認された。
【0069】
図7(a)、図7(b)及び図8は、図5(a)、図5(b)及び図6に対応する他の例である。この構成例は、所望のFSRが50GHzのものである。この例においても、先の例と同様に、厚みdと反射膜5の構成とを適切に組み合わせることにより、理想的にFSRが得られることが確認された。
【0070】
図9(a)及び図9(b)は、ΔFSRが互いに異なる反射膜5を第1反射膜5A及び第2反射膜5Bとして組み合わせた場合の影響を示す図である。
【0071】
図5(a)に示したNo.21及びNo.22の構成例においては、第1反射膜5A及び第2反射膜5Bの構成は同一であった。これに対して、図9(a)に示すNo.29の構成例においては、No.21の反射膜5を第1反射膜5Aとし、No.22の反射膜5を第2反射膜5Bとしている。そして、No.29の構成例を試作し、ΔFSRを計測した。
【0072】
その結果、No.29のΔFSRは、No.21及びNo.22のΔFSRの概ね平均の大きさとなった。すなわち、No.21及びNo.22のΔFSRをそれぞれΔFSR1、ΔFSR2とすると、No.29のΔFSR12は、
ΔFSR12=(ΔFSR1+ΔFSR2)/2
となった。
【0073】
図9(b)は、No.21、No.22及びNo.29と同様に、No.23、No.24及びNo.30について、試作及びΔFSRの計測を行った結果である。なお、No.21、No.22及びNo.29と、No.23、No.24及びNo.30とは、反射膜の反射率が互いに異なっている。
【0074】
図9(b)の例においても、No.30のΔFSRは、No.23及びNo.24のΔFSRの概ね平均の大きさとなった。
【0075】
従って、図4を参照して説明したように、第2反射膜5Bを第1反射膜5AよりもΔFSRが大きい若しくは小さい構成とすると、第1反射膜5Aと同様の構成の反射膜が第2反射膜5Bとして構成される場合に比較して、ΔFSRは大きく若しくは小さくなる。従って、基板の実際の厚みdが所望の厚みdよりも大きい若しくは小さい影響を打ち消すことができることが確認された。
【0076】
(エタロンフィルタの応用例)
図10は、エタロンフィルタ1の応用例を示すブロック図である。
【0077】
エタロンフィルタ1は、レーザシステム11の光の波長を一定に保つための波長ロッカ13に組み込まれている。波長ロッカ13は、例えば、レーザシステム11からドロップされた光が入射するビームスプリッタ15と、ビームスプリッタ15を透過した光が入射するエタロンフィルタ1と、エタロンフィルタ1を透過した光が入射する第1光検出器17Aと、ビームスプリッタ15を反射した光が入射する第2光検出器17Bとを有している。そして、制御装置19は、第1光検出器17Aの検出した光の強度と、第2光検出器17Bの検出した光の強度とを比較して光の波長を検出し、その検出波長が一定に保たれるようにレーザシステム11の制御を実行する。
【0078】
本実施形態のFSRが高精度に調整されたエタロンフィルタ1が、このような波長ロッカ13に用いられることによって、光の波長を高精度にモニタすることが可能となる。
【0079】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0080】
実施例では、基板が水晶Zカット板により構成されているものとしたが、石英ガラスを用いても同様な結果が得られる。また、基板は、異なる材料を接合した状態となっていてもよい。換言すれば、エタロンフィルタは、複合型のエタロンフィルタであってもよい。
【0081】
厚みdと厚みdとの比較に基づいて複数の候補から第2反射膜となる一の候補を選択する方法は、その大小関係に応じて第1反射膜よりもΔFSRが大きい若しくは小さい候補を選択する方法に限定されない。例えば、適宜に設定された基準ΔFSRに対して大きい又は小さいΔFSRの候補が選択されてもよいし、厚みd及び厚みdをパラメータとする数式から選択されるべき候補のΔFSRが算出されてもよい。
【0082】
第1反射膜の構成と第2反射膜の構成とが異なるエタロンフィルタは、基板の厚みの測定結果に応じて第2反射膜の構成が選択される製造方法により形成されるものに限定されない。当初の設計段階において第1反射膜の構成と第2反射膜の構成とが互いに異なって設計されていてもよい。この場合においても、例えば、一方の反射膜の厚み等を変化させてFSRを調整する方が、双方の反射膜の厚み等を変化させてFSRを調整する場合よりも、微妙なFSRの調整が可能であることが期待される。
【符号の説明】
【0083】
1…エタロンフィルタ、3…基板、5…反射膜、7…薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜とを有し、前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれが、複数の薄膜が積層されて構成されているエタロンの製造方法であって、
前記基板の設計上の厚みdを決定するステップと、
前記第2反射膜を構成する、設計上の前記複数の薄膜の組み合わせについて、下記(I)式により算出されるΔFSRが互いに異なる複数の候補を用意するステップと、
前記基板を形成するステップと、
前記基板の実際の厚みdを測定するステップと、
前記第1反射膜を形成するステップと、
厚みdと厚みdとの比較に基づいて前記複数の候補から一の候補を選択するステップと、
選択された候補の前記複数の薄膜の組み合わせで前記第2反射膜を形成するステップと、
を有するエタロンフィルタの製造方法。
ΔFSR=FSR−FSR (I)
ただし、FSRは、厚みdの前記基板に前記第1反射膜及び前記第2反射膜が設けられていない場合におけるFSRであり、FSRは、厚みdの前記基板に複数の薄膜の組み合わせが前記第1反射膜及び前記第2反射膜として設けられている場合におけるFSRである。
【請求項2】
前記複数の候補は、前記第1反射膜を構成する複数の薄膜の組み合わせよりもΔFSRが大きい1以上の候補と、前記第1反射膜を構成する複数の薄膜の組み合わせよりもΔFSRが小さい1以上の候補とを含み、
前記一の候補を選択するステップでは、測定された厚みdが設計上の厚みdよりも小さいときは、前記複数の候補のうち前記第1反射膜を構成する複数の薄膜の組み合わせよりもΔFSRが小さい候補を選択し、測定された厚みdが設計上の厚みdよりも大きいときは、前記複数の候補のうち前記第1反射膜を構成する複数の薄膜の組み合わせよりもΔFSRが大きい候補を選択する
請求項1に記載のエタロンフィルタの製造方法。
【請求項3】
FSR及びFSRが試作品の実測により得られている
請求項1又は2に記載のエタロンフィルタの製造方法。
【請求項4】
FSR及びFSRが、設計上の厚みd及び設計上の複数の薄膜の組み合わせに基づいて、下記のFSR算出法により算出される
請求項1又は2に記載のエタロンフィルタの製造方法。
FSR算出法:
前記基板及び前記複数の薄膜をm層の媒質からなる多層構造体と捉え、j番目(1≦j≦m)の媒質の特性行列Mjを下記(II)及び(III)式により算出するものとする。
【数7】

ただし、λは波長、nはj番目の媒質の屈折率、dはj番目の媒質の厚み、θはj番目の媒質中の屈折角、δはj番目の媒質の位相である。
前記多層構造体の特性行列Mを下記(IV)式により算出するものとする。
【数8】

そして、前記多層構造体の透過係数Tを下記(V)式により算出するものとする。
【数9】

ただし、n及びnはそれぞれ、m層の媒質のうち入射媒質及び出射媒質となる媒質の屈折率である。
そして、上記(II)〜(V)式において波長λを変数として算出される透過係数Tの極大値間の波長間隔からFSRを算出する。
【請求項5】
前記複数の候補は、反射率が互いに同一である
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエタロンフィルタの製造方法。
【請求項6】
基板と、
当該基板の入出射面に配置された第1反射膜及び第2反射膜と、
を有し、
前記第1反射膜及び前記第2反射膜それぞれが、複数の薄膜が積層されて構成され、前記第1反射膜の構成と前記第2反射膜の構成とが互いに異なる
エタロンフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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