説明

エチレン−ビニルアルコール共重合体およびそのペレットの製造方法

【課題】 含水状態のエチレン−ビニルアルコール共重合体を押出機で溶融混練しながら脱水する製造法において、低含水率でかつ着色が少ないエチレン−ビニルアルコール共重合体が得られる製造法の提供。
【解決手段】 含水率が10〜100重量%である含水エチレン−ビニルアルコール共重合体をベント孔を有する押出機で溶融混練し、ベント孔の気圧を500〜760mmHgとしてかかるベント孔から水を排出し、含水率を4重量%以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水状態のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、エチレン−ビニルアルコール共重合体をEVOHと略記することがある。)をベント孔を有する押出機で溶融混練しながらかかるベント孔から水分を排出することによって低含水率のEVOHを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EVOHは、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度などに優れており、フィルム、シート、ボトルなどに成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
EVOHは、通常、エチレンと酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルとの共重合によって得られるエチレン−ビニルエステル共重合体を、アルカリ触媒の存在下、メタノールなどのアルコールを溶媒として、高温高圧下でケン化して製造される。
【0003】
従来、ケン化工程で得られた高温高圧下のEVOHアルコール溶液は、そのアルコールの一部を水に置換し、常圧で安定なEVOHの水/アルコール混合溶液とした後、水を主体とする低温の凝固浴中に押出し、ストランド状に析出させてから切断、ペレット化後乾燥されて製品とされていた。
しかしながら、かかるEVOHの製造法においては、アルコールが凝固浴中に流出し、さらにこれが空気中に揮散し、作業環境を悪化させる原因となるという問題点を有していた。
【0004】
そこで上記の問題を解決する方法として、EVOHアルコール溶液中のアルコールの大半を水に置換し、得られた含水EVOHを押出機に供給し、溶融混練しながら水分を除く方法が提案された。(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
また、上述のEVOHの水/アルコール混合溶液を凝固浴中に押出して凝固させる製造法の場合、エチレン含有量が20モル%未満のものやケン化度が95モル%未満のもの、あるいは側鎖に官能基を有するEVOHの場合、凝固性が悪く、凝固工程に長時間を要して生産性が低下したり、充分な硬度がない凝固物となり、ストランド化およびその切断によるペレット化が困難になる場合があった。
【0006】
かかる問題点に対する対策としても、含水状態のEVOHを押出機に供給し、かかる押出機から水を排出する方法(例えば、特許文献2参照。)、同様の方法において、樹脂溶融温度を70〜170℃に保ち、押出機から吐出した直後の含水率を5〜40重量%となるように押出機内の水分量を調整する方法(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−284811号公報
【特許文献2】特開2001−096606号公報
【特許文献3】特開2005−329718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる特許文献3に記載の発明によって得られるEVOHの含水率は5〜40重量%であり、特許文献1および特許文献2のいずれにおいても、得られるEVOHの含水率は5〜40重量%が好ましい条件として記載されている。
これは、押出機から吐出されるEVOHの含水率を5重量%未満にするには、押出機内の樹脂温度を170℃よりも高くする必要があり、このような高温で溶融混練すると、EVOHが熱劣化し、着色するおそれがあるからである。
【0009】
ところが、これら特許文献に記載の発明によって得られた含水率が5重量%以上のEVOHをそのまま溶融成形に用いると、製品中に気泡が混入したり、成形機の運転が不安定になるなどの問題が発生するため、通常はさらに加熱乾燥して水分量を低減させたものを成型材料として使用していた。
しかしながら、押出機による工程の後にさらに加熱乾燥工程を設けることは、製造コストの点で不利であるとともに、ペレット化後の加熱乾燥には長時間を要し、さらに均一な乾燥状態とするために流動乾燥を行うと、ペレットの割れ、欠けによるロス、微粉発生といった問題が生じる。
したがって、含水EVOHを押出機によって溶融混練しながら脱水する製造法において、押出機から吐出された時点でそのまま溶融成形に供することが可能な程度に低い含水率であり、さらに着色の問題がないEVOHの製造法が強く求められている。
【0010】
すなわち本発明は、含水状態のEVOHを押出機で溶融混練しながら脱水する製造法において、低含水率でかつ着色が少ないEVOHが得られる製造法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、含水率が10〜100重量%である含水エチレン−ビニルアルコール共重合体をベント孔を有する押出機で溶融混練し、ベント孔の気圧を500〜760mmHgとしてかかるベント孔から水を排出し、含水率を4重量%以下にすることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法によって、本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、含水状態のEVOHをベント孔を有する押出機で溶融混練しながら脱水する際に、ベント孔を減圧にしないか、または、減圧したとしても弱い減圧にすることを最大の特徴とするものである。
【0012】
かかる製造法を採用することによって、押出機内の樹脂温度を180℃以上にしてもEVOHの熱劣化が抑制され、着色が少なく、かつ、低含水率のEVOHを得ることが可能となり、ペレットの加熱乾燥工程を設ける必要がなくなった。
これは、押出機のベント孔を常圧であるいは弱い減圧とすることによって、押出機のベント口以外から空気が吸入されて、樹脂中に新たな酸素が混入するのが防止され、またベント孔付近の樹脂表面に水分を多く含む気相が形成されて、樹脂と酸素との接触が阻害されることにより、EVOHの酸化による劣化、着色が抑制されたものと推定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のEVOHの製造方法によると、押出機から吐出された時点でそのまま溶融成形に供することが可能な低含水率のEVOHが得られることから、加熱乾燥工程を必要とせず、製造工程の短縮、および製造コストの低減が可能となり、工業上有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明に用いられるEVOHについて説明する。
本発明に用いられるEVOHは、通常、酢酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルとエチレンを共重合して得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものであり、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主成分とし、ケン化度によって若干量のビニルエステル構造単位を含む。
【0016】
EVOH中のエチレン含有量は、通常2〜80モル%であり、EVOHに溶融成形性を求める場合には、通常10〜60モル%であり、さらには20〜55モル%、特に25〜50モル%のものが好ましく用いられる。かかるエチレン含有量が少なすぎると熱分解温度と融点が近くなりすぎ、良好な溶融成形が困難になる傾向にあり、逆に多すぎるとガスバリヤー性が低下する傾向にある。
【0017】
また、EVOHを水溶性樹脂として使用する場合には、かかるEVOHのエチレン含有量は通常2〜20モル%であり、さらには3〜10モル%のものが好ましく用いられる。かかるエチレン含有量が多すぎると水溶性が低下する傾向にある。かかる低エチレン含有量のEVOHは、水溶液とし、ガスバリア性塗膜形成用のコート剤などとして有用である。
また、EVOH中の酢酸ビニル成分のケン化度は通常80モル%以上であり、ガスバリア性が必要とされる場合には高ケン化度のものが好ましく、通常は95モル%以上、好ましくは98モル%以上である。かかるケン化度が小さすぎるとガスバリア性や耐湿性が低下する傾向にある。
【0018】
また、EVOHの重合度は、その用途に応じて適宜選択すればよいが、溶融成形材料として使用する場合には、通常、そのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)値として0.5〜100g/10分であり、さらには1〜50g/10分、特には3〜35g/10分のものが好ましく用いられる。かかるMFRが小さすぎると、溶融成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難になることがあり、逆に大きすぎると、溶融成形によってえられるシートやフィルムの厚み精度を上げることが難しくなる。
かかるEVOHは、通常、脂肪酸ビニルエステル化合物とエチレンを共重合して得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られ、かかるエチレン−ビニルエステル共重合体は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合などの公知の重合法によって得られるものであり、中でも溶液重合が好ましく用いられる。
【0019】
かかる脂肪酸ビニルエステル系化合物としてはギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、中でも経済的にみて酢酸ビニルが好ましく用いられる。
また、共重合体中にエチレンを導入する方法としては通常のエチレン加圧重合を行えばよく、その導入量はエチレンの圧力によって制御することが可能であり、所望するエチレン含有量により一概にはいえないが、通常は25〜80kg/cm2の範囲から選択される。
【0020】
また、エチレンと脂肪酸ビニルエステル化合物以外に、EVOHに要求される特性を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類や、そのエステル化物である、例えば、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、特に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等が挙げられる。
【0021】
溶液重合に使用される溶媒としては、エチレンと脂肪酸ビニルエステル化合物、およびその重合生成物であるエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解するものであることが必要であり、通常は炭素数が4以下のアルコールが用いられ、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールなどが挙げられ、特にメチルアルコールが好ましい。
【0022】
得られた共重合体は、次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体が炭素数4以下のアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。炭素数4以下のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、重合時に用いた溶媒と同じにすると、溶媒置換の必要がなくなり、回収再利用の処理も併せて行えることから効果的であり、重合溶媒と同様のメタノールが特に好ましく用いられる。
【0023】
ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられるが、通常は水酸化ナトリウムを用いることが多い。
【0024】
かかるケン化反応は、回分式、連続式などの公知の方法で行うことが可能であるが、鹸化時のアルカリ触媒量が低減できることや鹸化反応が高効率で進み易い等の理由より、塔型装置を用い加熱加圧下で連続的に行うことが好ましい。
かかる塔型装置を用いたケン化の条件としては、装置のサイズ、所望の処理量などに応じて適宜設定すればよいが、通常、エチレン−ビニルエステル共重合体の濃度が30〜50重量%、反応温度が90〜130℃、触媒の使用量が6〜20mmol当量(ビニルエステル構造単位当り)、圧力が0.1〜1.0Pa、反応時間が1〜8時間、の条件が好ましく用いられる。
【0025】
その結果、ケン化反応によって得られたEVOHがアルコール溶液として反応系から導出される。
得られたEVOHのアルコール溶液は、通常、EVOH100重量部に対して、アルコールを20〜100重量部含有し、特に60〜80重量部の範囲が好ましく用いられる。かかるアルコールの含有量をこの範囲内とすることによって、EVOH溶液の流動性が確保され、装置からの導出、および次工程への移送、導入が効率的に行われる。
【0026】
かくして得られたEVOHのアルコール溶液は装置に導入され、かかる装置内でアルコールの大半を水に置換することによって含水状態のEVOHとされる。
この置換工程で使用される装置としては、特に限定されるものではなく、押出機やニーダーのような混練装置の中で水と接触させてもよいが、密閉容器中にEVOHのアルコール溶液を導入し、これに水あるいは水蒸気を導入して両者を接触させる方式が好ましく用いられる。
その方式も、回分式、連続式のいずれを採用することも可能であり、回分式の場合には槽型容器内で攪拌しながら水と接触させる方式が好ましく、連続式の場合には塔型装置内で水と向流接触させる方式が好ましく用いられる。
特に、本発明で用いられる含水EVOHはアルコールの大半が除去され、その含有量が少ないものであることが好ましく、かかる置換工程において効率よくアルコールを水に置換する方法としては、塔型装置による置換と、攪拌容器内での置換の二段階に分けて行う方法が特に好ましい。
【0027】
以下、かかる方法について詳しく説明する。
まず、前段階である塔型装置でのアルコール−水置換工程について述べる。
ケン化反応によって得られたEVOHのアルコール溶液は、通常EVOH100重量部に対し、炭素数4以下のアルコールを通常300重量部以上含有するもので、特に400〜900重量部含有するものである。かかるアルコールの含有量が多すぎると続く水との置換工程において生産効率が低下し、逆に少なすぎると高粘度となって移送が困難となったり、作業性が低下したり、ゲル化しやすくなるため好ましくない。かかるEVOHのアルコール溶液中のアルコール含有量は、アルコールの添加、あるいは加熱等によるアルコールの除去によって、適宜調製することが可能である。また、かかるEVOHのアルコール溶液には、この段階で若干量の水が添加されていてもよく、水を加える方法は公知の方法を用いることができる。
【0028】
塔型装置としては、多孔板塔、泡鐘塔などの棚段塔や充填塔を用いることができるが、高分子溶液のような粘度をもつ溶液の場合、処理効率の点で棚段塔が好ましく、中でも多孔板塔が好ましく用いられる。棚段塔の場合、その段数は通常2〜20段、特に5〜15段のものが好ましく用いられ、充填塔の場合もこれと等価の高さのものが用いられる。
塔型装置に導入されたEVOHのアルコール溶液と水とは、向流あるいは並流で接触され、中でもアルコール−水置換効率の点から向流で接触させることが好ましい。また、水としては熱水あるいは水蒸気が用いられ、特に水蒸気を用いることが好ましい。例えば、EVOHのアルコール溶液を塔上部から導入し、水蒸気を塔下部から導入して前記溶液と向流接触させ、アルコール蒸気を水蒸気とともに塔上部から導出し、EVOHの水/アルコール溶液を塔下部から導出する方法が好ましい実施態様である。なお、EVOHアルコール溶液の供給位置は、通常塔頂部よりも2〜4段下であり、かかる供給位置よりも上の段には水を供給したり、水蒸気の導出量を調整したりして棚上に水層を形成することが、塔上部から導出される水とアルコールの混合蒸気中へのEVOH等の飛沫の同伴を防ぎ、蒸気の移送管や凝縮器中の汚染を防止することができるため好ましい。また、水蒸気の供給位置は、通常、塔底部であるが、それよりも1〜2段上であっても構わない。なお、かかる塔から導出されたアルコールと水との混合蒸気は、凝縮器などを用いて液化し、分離精製して再使用することが可能である。
【0029】
かかる水蒸気の導入量は、少なすぎるとアルコールとの置換効率が悪く、逆に多すぎるとコスト面で不利となるので、EVOH溶液の導入量に対して通常0.01〜30倍(重量比)であり、より好適には0.05〜10倍、さらには0.07〜5倍である。かかる水蒸気は前述の塔から導出されたアルコールと水の混合蒸気を精製したものを再使用したものであってもよく、若干量のアルコールを含む混合蒸気であっても構わないが、その含有量は水蒸気100重量部に対して10重量部以下であり、水−アルコールの置換効率の観点からは、アルコールの含有量がより少なく、理想的には全く含まないものが好ましい。
【0030】
塔型装置内の温度は、通常は40〜160℃、より好適には60〜150℃、さらには70〜140℃である。かかる温度が低すぎると、装置内でのEVOH溶液の粘度が高くなり、置換効率が低下する場合があり、逆に温度が高すぎると、EVOHが劣化する傾向がある。
塔型装置内の圧力は、通常は0〜1MPaGであり、より好ましくは0〜0.6MPaG、さらに好ましくは0〜0.3MPaGである。かかる圧力が低すぎると置換効率が低下し、また、高すぎると装置内の温度が上昇してEVOHが熱劣化しやすくなる。
【0031】
かかる工程を経て、塔型装置から導出されるEVOHの水/アルコール溶液は、EVOH100重量部に対してアルコールを通常10〜200重量部、特に10〜150重量部、さらには10〜100重量部含有するものである。また、水をEVOH100重量部に対して、通常、50〜200重量部、特に60〜150重量部、さらには70〜100重量部含有するものである。かかるアルコールおよび水の含有量が多すぎると、次いで行われる攪拌置換工程に負担がかかるため好ましくない。また、アルコールや水の含有量が少なすぎると粘度が高くなって、塔型装置後半の置換効率が低下したり、塔型装置からの導出が困難になる傾向がある。
【0032】
かくして得られたEVOHの水/アルコール溶液は、次の段階にて、攪拌容器中で攪拌しながら水と接触させることにより、アルコールを水に置換するととともに、EVOH中の水が排出され、低含水量のEVOH組成物とされる。
【0033】
ここで用いられる容器の形状は特に限定されないが、ジャケット等の温度調節手段、および攪拌装置を備えたものであることが望ましい。攪拌装置における、攪拌翼の形状としては、特に限定されず、公知のものであって高粘度となるEVOH組成物を攪拌できるものであれば、どのようなものであっても構わないが、例えば、パドル翼、ダブルヘリカルリボン翼、アンカー翼、プロペラ翼、マックスブレンド翼などを挙げることができる。また、攪拌は連続であっても、断続的におこなっても構わない。
【0034】
かかる容器への水の供給は、連続あるいは断続的に行われ、熱水であっても水蒸気であってもよく、その導入量は、少なすぎるとアルコールとの置換効率が悪く、逆に多すぎると容器からの導出速度がおいつかず、非経済的なので、容器に供給されたEVOH100重量部に対して通常0〜35重量部/hr、特に10〜32重量部/hr、さらには14〜23重量部/hrである。
【0035】
容器内の温度は通常は40〜140℃、より好適には60〜120℃、さらには80〜100℃である。かかる温度が低すぎると、系の流動性が低下し、次工程への移送が困難になる場合があり、逆に高すぎると、EVOHが劣化する場合があるので好ましくない。
容器内の圧力は通常は常圧で行われるが、加圧状態にしてもよく、通常は0〜1MPaG、特に0〜0.6MPaG、さらには0〜0.3MPaGの圧力が好ましく用いられる。かかる圧力が高すぎると容器内の温度が上昇してEVOHが熱劣化しやすくなる傾向がある。
【0036】
なお、かかる容器内に供給された水は、樹脂中から排出されたアルコールとともに容器外に導出されるが、その機構としては、容器の上部からオーバーフローさせる方法、あるいは水とアルコールの混合蒸気として導出する方法などが挙げられ、その両方を併せて行うことが好ましい。
【0037】
なお、かかる容器内攪拌による置換は連続式であっても、バッチ式であってもよく、バッチ式の場合には一段階でも十分可能であるが、容器を直列に並べ、複数段で行うことにより、滞留時間の調整や、樹脂分の微調整が可能となり、さらには、後述の添加剤の配合を容器毎に行うことができる点などから有用である。
【0038】
なお、かかる攪拌容器にてアルコールを水に置換する工程において、一般的にEVOHに添加される添加剤を添加し、これを含有させることが可能である。
例えば、EVOHには、熱安定性などの品質を向上させるために、カルボン酸化合物、ホウ素化合物、リン酸化合物などの添加剤を添加する場合がある。従来のEVOHペレットの製造法においては、EVOHをペレット化した後、これを上記添加剤を含有する水溶液に浸漬し、その後、脱水乾燥することでEVOHペレット中に含有させる方法が用いられることが多かった。しかしながら、かかる方法の場合、別途、かかる添加剤の添加工程を設ける必要があるとともに、EVOH中の添加剤の含有量を制御すること難しく、また、EVOH中に添加剤が偏在しやすいという問題点があった。本発明の製造法においては、これら添加剤の添加を前述の容器内で行うことが可能であり、別途、添加剤を添加する工程を設ける必要がなく、添加剤を定量的にEVOH中に含有させることが可能であるなど多くの利点がある。
【0039】
かかる添加剤を配合する方法としては、前工程で得られたEVOHの水/アルコール混合溶液に直接添加する方法や、これと接触する水に含有させ、水溶液の状態で系内に供給する方法が挙げられ、特に後者の方法が好ましく用いられる。
この場合の、水溶液中における各化合物の含有量は、後述する最終的なEVOH中の好ましい含有量となるように適宜調整すればよいが、通常、カルボン酸化合物が10〜500ppm、ホウ素化合物が1〜50ppm、リン酸化合物が10〜50ppmの範囲が好ましく用いられる。
【0040】
かかるカルボン酸化合物としては、通常は炭素数が2〜4のカルボン酸化合物が好ましく、また、1価あるいは2価のものが好ましく用いられる。具体的には、シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸などが例示され、これらの中でも、コスト、入手の容易さなどの面から、酢酸およびプロピオン酸が好ましく用いられる。 本発明で得られるEVOHペレット中のカルボン酸の含有量は、少なすぎると溶融成形時に着色が発生することがあり、また多すぎると溶融粘度が高くなることがあるので、通常は10〜5000ppmであり、特に30〜1000ppm、さらに50〜500ppmが好ましい範囲である。
【0041】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ酸塩などのホウ酸類、水素化ホウ素類などが挙げられ、これらに限定されるものではないが、特にホウ酸あるいはホウ酸塩が好ましく用いられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物の中でもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と記す。)が好ましい。本発明で得られるEVOHペレット中のホウ素化合物の含有量は、通常、ホウ素換算で10〜2000ppmであり、特に50〜1000ppmが好ましい範囲として用いられる。かかるホウ素化合物の含有量が少なすぎると熱安定性の改善効果が少なく、また、多すぎるとゲル化の原因となったり、成形性不良となる傾向がある。
【0042】
リン酸化合物としては、リン酸、亜リン酸などの各種の酸やその塩などが例示される。リン酸塩としては第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であることが好ましい。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムの形でリン酸化合物を添加することが好ましい。本発明で得られるEVOHペレット中のリン酸化合物の含有量は、通常、リン酸根換算で1〜1000ppmである。かかる範囲となるように添加することで、成形物の着色およびゲルやフィッシュアイの発生を抑制することでき、かかる含有量が少なすぎると溶融成形時が着色しやすくなる傾向が見られ、逆に多すぎると成形物のゲルやフィッシュアイが発生しやすくなる場合がある。
【0043】
かくして得られる含水EVOHは、EVOH100重量部に対して水を50〜100重量部、特に60〜100重量部、さらには70〜90重量部含有するものである。かかる水の含有量が少なすぎると、次の押出機での脱水工程において樹脂の温度が上がりすぎて熱劣化しやすくなる傾向があり、逆に多すぎると脱水すべき水の量が多くなり、ベントアップしやすくなる傾向にある。
また、除去しきれなかったアルコールを含有していても構わず、その含有量は、EVOH100重量部に対して10重量部未満である。
【0044】
かくして得られた含水EVOHは、次いでベント孔を有する押出機の導入され、溶融混練しながらかかるベント孔から水を排出することによって、低含水率のEVOHとされる。
本発明に用いられる押出機としては単軸押出機や二軸押出機が挙げられるが、中でもスクリューの回転方向が同方向の二軸押出機が適度なせん断により充分な混練が得られる点でより好ましい。かかる押出機のL/Dは、通常10〜80であり、特に15〜70、さらには15〜60であるものが好ましく用いられる。かかるL/Dが小さすぎると、混練が不充分で吐出が不安定となる傾向があり、逆に大きすぎると過度のせん断による発熱で、樹脂温度が高くなりすぎ、劣化の原因となる場合がある。
【0045】
押出機のスクリュー回転数は、通常、10〜400rpmであり、特に30〜300rpm、さらには50〜250rpmの範囲が好ましく用いられる。かかる回転数が小さすぎると吐出が不安定となる傾向があり、また、大きすぎると過度のせん断発熱によって樹脂の劣化の原因と成る場合がある。
【0046】
押出機内における樹脂温度は、所望の処理量等によって一概にはいえないが、通常は140〜240℃で行われる。特に、本発明の方法によれば、樹脂が高温になったとしても劣化による着色が抑制されることから、水分除去の効率の点から、高温で行うことが効果的であり、具体的には、180〜220℃、特に190〜200℃の範囲が好ましく用いられる。
かかる樹脂温度は、押出機のシリンダーの設定温度あるいは押出機の回転数などによって制御することが可能である。
かかる樹脂温度が高すぎるとEVOHが熱劣化し、着色しやすくなる傾向にあり、逆に低すぎると樹脂の粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、EVOHが十分に溶融状態とならず、良好な混練がなされないため、例えば、前工程で添加した添加剤の含有状態が均一にならなかったり、押出が良好におこなわれなかったり、あるいは含水率の低減が不充分となる場合がある。
かかる樹脂温度の調整方法は特に限定されないが、通常は、押出機内シリンダーの温度を適宜設定する方法や、押出機の回転数によって制御する方法が用いられる。
【0047】
本発明は、かかる押出機に備えられたベント孔の気圧を常圧、あるいは弱い減圧にすることを最大の特徴とするものであり、かかる方式を採用することにより、押出機内の溶融樹脂温度を180℃以上の高温にしたとしても着色することなく、低含水率のEVOHがえられたものである。
かかるベント孔の気圧は、理想的には減圧せずに常圧下とすることであるが、減圧したとしても弱い減圧であり、具体的には、500mmHg〜760mmHg、特に600〜760mmHg,さらに700〜760mmHgを好ましい範囲とする。かかる気圧が低すぎると、ベント孔以外の押出機のすきまから周囲の空気を吸い込むことになり、溶融樹脂に酸素が混入され、酸化劣化による着色が大きくなる傾向がある。また、気圧が高いと効率よく溶融樹脂から水分が排出されない場合がある。
また、ベント孔の気圧を常圧あるいは弱い減圧とすることにより、ベント孔付近に水蒸気を含む気相が形成され、周辺の酸素を含む新鮮な空気と溶融樹脂との接触を阻害することにより、樹脂の酸化劣化が抑制されるものと推定される。
なお、かかるベント孔を弱い減圧状態にする場合には、その気圧は一定であっても、間歇的に変化させてもよい。
【0048】
かかる押出機に設けられたベント孔の数は、通常1〜6個であり、特に2〜5個の範囲が好ましく用いられる。
かかるベント孔の数が少なすぎると樹脂からの水分の排出が充分におこなわれず、低含水量のEVOHが得られない場合があり、逆に多すぎると樹脂が空気と接触する機会が多くなるためか、得られた樹脂が着色する傾向がある。
【0049】
ベント孔の形状はポート式、ロングベントなどの公知のものが用いられる。
なお、本発明において押出機から水を排出する手段として、ベント孔と同等の機能を有するものであれば他の形状や機構のものに代替することも可能であり、本発明はかかる代替機構も権利範囲に包含するものである。
脱水スリットとしては、ウェッジワイヤー式脱水スリットやスクリーンメッシュ式脱水スリットなどの脱水スリットなども好適なものとして挙げられる。
複数のベント孔を有する押出機を用いる場合には、そのベント孔は同一の種類であっても、異なるものの組合せであっても良い。
【0050】
なお、前述の添加剤を押出機内で添加することも可能である。かかる添加剤を添加する場合、押出機への添加位置は、EVOHが溶融状態である位置であることが好ましく、1箇所または2箇所以上から押出機に添加することが好ましい。
また、かかる添加剤の形態は特に限定されず、粉末状やペースト状、あるいは液体に分散させた状態や溶液として添加する方法を挙げることができる。なかでも、溶液として添加する方法が、均一かつ定量的に添加できるためこのましく、かかる液体としては取扱いが容易で、安全であることから、水が好適である。
【0051】
かかる押出機より吐出されたEVOHの含水量は、通常は4重量%以下であり、好ましくは2重量%以下である。かかるEVOHの含水量は、押出機内の樹脂温度、および押出機内の滞留時間等によって制御することができる。
本発明の方法を用いると、押出機内での樹脂の酸化劣化が抑制されるため、溶融樹脂温度を高くしたり、その滞留時間を長くすることが可能であるため、従来の含水EVOHを押出機で溶融混練しながら脱水する方法では容易に達成することができなかった、含水率2重量以下のEVOHを効率よく得ることが可能である。
【0052】
上述のホウ方法により押出機から吐出されたEVOH樹脂をペレット化する方法は特に限定されないが、前記樹脂組成物をダイスからストランド状に押出し、冷却の後、適切な長さにカットする方法が用いられる。かかる冷却の方法としては、特に限定されないが、押し出された樹脂の温度よりも低温に保持された液体に接触させる方法や、冷風を吹き付ける方法が好ましく用いられ、前述の液体としては水が好ましく用いられる。かかるペレットの形状は通常、円筒状であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、ダイスの口径は2〜6mmφ、ストランドのカット長さは1〜6mm程度が好適に用いられる。なお、押出機から吐出されたEVOHがまだ溶融状態である間に、大気中あるいは水中でカットする方法も好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0054】
実施例1
エチレン含有量29モル%、ケン化度99.7モル%のEVOH100重量部に対し、メタノールを78重量部含むEVOHメタノール溶液を、10段の棚段塔の塔頂から2段目の棚板に277重量部/hrで連続的に供給、水蒸気を最下段の棚板から333重量部/hrで連続的に供給し、EVOHメタノール溶液と水蒸気とを棚段塔内で向流で接触させた。塔内の温度は126℃、塔内の圧力は0.26MPaGであった。かかる棚段塔の塔頂部からメタノール蒸気と水蒸気を留去し、これらは凝縮器で凝縮し、水/メタノール混合溶液として回収した。また、棚段塔の塔底部からは、EVOH100重量部に対し、メタノールを33重量部、水を103重量部含有するEVOHの水/メタノール混合溶液を連続的に抜き出した。
【0055】
次に、このEVOHの水/メタノール混合溶液を、パドル翼式の攪拌装置を備えた容器に236重量部/hrで連続的に供給し、さらにホウ酸を30ppm、酢酸ナトリウムを300ppm、酢酸を200ppm含有する水溶液をEVOH100重量部に対して200重量部/hr供給し、さらに水蒸気をEVOH100重量部に対して250重量部/hr供給し、攪拌しながらEVOHの水/メタノール溶液と水蒸気を接触させた。容器内の温度は120℃、圧力は0.2MPaGであった。4時間後、モチ状となった含水EVOH(EVOH100重量部に対し、水84重量部、メタノールを4.5重量部含有)を得た。
【0056】
得られた含水EVOHを二軸押出機に連続的に投入し、溶融混練を行った。含水EVOHの単位時間あたりの投入量は4kg/hrであった。二軸押出機の仕様を以下に示す。
L/D 42
口径 30mmφ
スクリュー 同方向完全噛み合い型
回転数 150rpm(100−200)
シリンダー設定温度 C1 30℃
C2 50℃
C3 100℃
C4 180℃
C5 180℃
C6 180℃
C7 180℃
H 180℃
ダイス設定温度 180℃
ダイス口径 3.5mmφ
ベント孔 C3、C7
ベント形状 ポート式
ベント圧力 常圧(760mmHg)
【0057】
かかる押出機から吐出されたEVOHの温度は198℃であった。これをストランド状でウォーターバスに導入、冷却後、切断してEVOHペレットを得た。かかるペレットの含水率は1.1重量%であり、着色は認められなかった。
【0058】
比較例1
実施例1において、ベント孔の圧力を400mmHgとして吸引した以外は実施例1と同様にして溶融混練を行い、同様にEVOHペレットを得た。得られたEVOHペレットの含水率は0.8重量%であったが、その外見は黄色く着色していた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のEVOHの製造方法によると、押出機から吐出された時点でそのまま溶融成形に供することが可能な低含水率のEVOHが得られることから、加熱乾燥工程を必要とせず、製造工程の短縮、および製造コストの低減が可能となり、工業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が10〜100重量%である含水エチレン−ビニルアルコール共重合体をベント孔を有する押出機で溶融混練し、ベント孔の気圧を500〜760mmHgとしてかかるベント孔から水を排出し、含水率を4重量%以下にすることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項2】
押出機内の溶融樹脂温度を180〜220℃の範囲にすることを特徴とする請求項1記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項3】
押出機から吐出されたエチレン−ビニルアルコール共重合体を切断することを特徴とするエチレン−ビニルアルコール共重合体ペレットの製造方法。