説明

エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させるための触媒組成物及び当該触媒組成物を用いた分岐を有するポリマーの製造方法

【課題】 エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させる際に使用される触媒組成物と、当該触媒組成物を用いた分岐を有するポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】 この触媒組成物は、成分A:有機アルミニウム化合物と、成分B:アルカリ金属のアルコキシド又はアルカリ金属水酸化物のいずれか一方を含むことを特徴とする。成分Aの有機アルミニウム化合物としては、Al−C結合を有した化合物が好ましく、トリアルキルアルミニウム化合物、トリシクロアルキルアルミニウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上が特に好ましい。また、当該組成物存在下、エチレンオキシド99.9〜70重量%に対するグリシジルエーテル化合物の割合を0.1〜30重量%とし、従来法と同様の重合条件下で分子量数万の分岐を有するポリマーを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させる際に使用される触媒組成物および当該触媒組成物を用いた分岐を有するポリマーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より知られているポリエーテル重合体は、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、所定の重合触媒を用いてオキシラン基を含有するモノマーを重合して製造されている。この際使用される重合触媒としては、1)開環重合用触媒としての、有機アルミニウムを主体とする触媒(例えば下記の特許文献1〜3)や、有機亜鉛を主体とする触媒(例えば下記の特許文献4〜7)や、有機錫‐リン酸エステル縮合物触媒(例えば下記の特許文献8〜9)など、および2)水酸化カリウムやナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属水酸化物触媒などが挙げられる。
【特許文献1】USP3,135,705
【特許文献2】USP3,219,591
【特許文献3】USP3,403,114
【特許文献4】USP5,326,852
【特許文献5】特公昭46-7,709号公報
【特許文献6】特公昭45-7,751号公報
【特許文献7】特公昭53-27,319号公報
【特許文献8】USP3,773,694
【特許文献9】特公昭46-41378号公報
【0003】
しかしながら、上記1)の開環重合用触媒を用いて得られる重合体はいずれも、高分子量物の生成反応が主となり、グリシジルエーテル類の導入される割合がかなり低いという欠点を有している。
【0004】
一方、上記2)のアルカリ金属水酸化物触媒を用いた場合には、分子量がある一定以上にならなく、また、副生成物が起こりやすく収率が低下するなどで満足のいくものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させる際に、特定の触媒組成物を用いると、極めて良好にエチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物との共重合がなされることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明の触媒組成物は、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させる際に使用される触媒組成物であって、当該触媒組成物が、成分A:有機アルミニウム化合物と、成分B:アルカリ金属のアルコキシド及びアルカリ金属水酸化物のいずれか一方、とを含むことを特徴とする。この際、成分Aの有機アルミニウム化合物としては、Al−C結合を有した化合物が好ましく、トリアルキルアルミニウム化合物、トリシクロアルキルアルミニウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上であることが特に好ましい。
又、本発明の、分岐を有するポリマーの製造方法は、有機アルミニウム化合物と、アルカリ金属のアルコキシド又はアルカリ金属水酸化物からなる触媒組成物の存在下、エチレンオキシド99.9〜70重量%に対するグリシジルエーテル化合物の割合を0.1〜30重量%とし、従来法と同様の重合条件下で、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の触媒組成物を使用することで、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させることにより、分岐をしたポリマーを製造することが可能であり、本発明の製法を用いて得られた分岐を有するポリマーは、分岐を有するという特性を生かして多種の用途に利用可能である。このような用途の具体例としては、限定されるものではないが、製紙、繊維、塗料、医療品、化粧品、パーソナルケア品、トイレタリー、セラミック、化成品、印刷製品、農林・水産・環境分野、土木・建材製品、電気、機器、機械、金属加工などが挙げられる。本発明の製法により得られたポリマーは、特に医療品、化粧品、パーソナルケア品およびトイレタリーにおける用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明の触媒組成物について説明する。
エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させるのに際し使用される本発明の触媒組成物は、有機アルミニウム化合物(成分A)と、アルカリ金属のアルコキシド又はアルカリ金属水酸化物(成分B)の2成分を触媒成分として含み、この際、成分Aの有機アルミニウム化合物は、Al−C結合を有した化合物、即ち、金属(Al)に炭素が結合している化合物であれば特に限定するものではない。本発明に適した有機アルミニウム化合物としては、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、ジフェニルイソブチルアルミニウム、モノフェニルジイソブチルアルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、トリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。また、有機アルミニウム化合物は、必要に応じて2種以上を併用することもできる。
【0009】
成分Bのアルカリ金属のアルコキシドは特にその種類を限定するものではなく、例えばセシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム、リチウム等のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が挙げられる。これらの中でも、カリウムt−ブトキシドは特に成分Bとして好ましい。
又、成分Bとしてのアルカリ金属水酸化物も、特にその種類が限定されるものではなく、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化ルビジウム等が挙げられ、これらの中でも、水酸化カリウムが特に好ましい。
尚、本発明の触媒組成物には、上記成分Aと成分Bの他に、反応を阻害しない範囲で任意の公知の添加物が添加されても良い。
【0010】
本発明の触媒組成物を用いてエチレンオキシドと重合されるグリシジルエーテル化合物としては、n−ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0011】
本発明の触媒組成物中には、成分Aの有機アルミニウム化合物は、成分Bのアルカリ金属のアルコキシド又はアルカリ金属水酸化物1モルに対して3モル以上含有されていることが望ましい。これは、成分Bが3モル未満の含有割合では反応が進まない場合が多いからである。また、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物に対する本発明の触媒組成物の使用量は、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物に対するAl原子のモル%で0.01〜5.0、さらに好ましくは0.1〜3.0、特に好ましくは0.4〜1.5である。この際、上記使用量が0.4モル%未満であると、グリシジルエーテルの種類によっては反応速度が遅くなる傾向があり、0.2モル%未満では反応が進み難い場合がある。上記のAl原子のモル%が5.0を超えた場合でも重合反応は一応進行するが、反応促進の効果は得られない。
【0012】
本発明の触媒組成物の作用機構ついては明らかではないが、成分B中のアルカリ金属イオンが開始剤としての機能を有し、成分Aの有機アルミニウム化合物に含まれるAl原子がエチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物を共重合するに有効な配置をとることにより反応が進行するものと考えられる。
【0013】
次に、前述の触媒組成物を用いた本発明の分岐ポリマーの製造方法について説明する。
本発明では、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物の共重合により分岐を有するポリマーを製造するに際し、触媒組成物として前述の成分Aと成分Bを含む触媒組成物を前述の使用量、即ち、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物に対するAl原子のモル%が0.01〜5.0、さらに好ましくは0.1〜3.0、特に好ましくは0.4〜1.5となる量にて使用するが、この際、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物の共重合を公知の他の触媒を用いた場合と同様の方法により行うことができ、例えば、不活性ガスの存在下、非水雰囲気下、室温でアルカリ金属のアルコキシド又はアルカリ金属水酸化物を適切な溶媒に加え、有機アルミニウム化合物を加えて得た溶液に、必要量のエチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物を添加し、重合せしめることができる。
【0014】
本発明の製法では、重合を行う際の溶媒として、エチレンオキシドの重合に用いられる公知のものを用いることができ、例えばエーテル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン系溶媒、ケトン類等を使用することができる。この際、これら溶媒の1種または必要に応じて2種以上併用することもでき、これらの中でも、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、シクロペンタン、工業用ヘキサン、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタンは、生成ポリマーである分岐を有するポリマーの粉体が乾燥しやすいことと、分岐を有するポリマーが溶解しないため、粉体のまま凝集させることなく取り扱えるために特に好ましく用いることができる。
【0015】
尚、本発明の製造方法を実施する際の反応温度(重合温度)は一般的な温度であれば特に限定されないが、従来の場合と同様の温度範囲であることができ、0〜50℃が好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は重量基準によるものである。また、反応は不活性ガス下、非水雰囲気下で行った。重合により得られた生成物の分子量[Mw(重量平均分子量)]は、GPC(水系:ポリエチレンオキシド換算)により測定した。
【0017】
実施例1
1Lのオートクレーブに脱水n−ヘキサン300mlを仕込み、カリウムt−ブトキシド2.0mmolを加えた。次にトリイソブチルアルミニウム(Al(i−Bu) ) 1.0Mのn−ヘキサン溶液10ml を加え、本発明の触媒組成物溶液を得た。この溶液に室温(25℃)で1.7molのエチレンオキシドと0.24molのt−ブチルグリシジルエーテルの混合液を約1.4時間かけてフィードした。フィード終了後、4時間熟成し、分岐を有するポリマーのn−ヘキサンスラリーを得た。得られたスラリーを濾過した後、減圧乾燥することにより粉体状の分岐を有するポリマーを得た。この際の収率は84%で、GPCによるMw=40,000、[t−ブチルグリシジルエーテル/エチレンオキシド]=5.7mol%であった。
【0018】
実施例2
フィードする混合液のt−ブチルグリシジルエーテルをn−ブチルグリシジルエーテルに変更し、それ以外は実施例1と同一の条件と操作を行い、重合反応を行った。得られた分岐を有するポリマーの収率は84%で、GPCによるMw=44,000、[n−ブチルグリシジルエーテル/エチレンオキシド]=9.8mol%であった。
【0019】
実施例3
フィードする混合液のt−ブチルグリシジルエーテルをアリルグリシジルエーテルに変更し、それ以外は実施例1と同一の条件と操作を行い、重合反応を行った。得られた分岐を有するポリマーの収率は85%で、GPCによるMw=24,000、[アリルグリシジルエーテル/エチレンオキシド]=6.2mol%であった。
【0020】
実施例4
触媒組成物溶液中のカリウムt−ブトキシドを水酸化カリウムに変更し、実施例1と同一の条件と操作を行い、重合反応を行った。得られた分岐を有するポリマーの収率は84%で、GPCによるMw=28,000、[t−ブチルグリシジルエーテル/エチレンオキシド]=5.2mol%であった。
【0021】
比較例1
触媒組成物溶液中のトリイソブチルアルミニウム(Al(i−Bu) )1.0Mのn−ヘキサン溶液を加えずに、実施例1と同一の条件と操作を行った。重合反応は起こらず、ポリマーの生成は確認されなかった。
【0022】
比較例2
触媒組成物溶液中のカリウムt−ブトキシドを加えずに、実施例1と同一の条件と操作を行い、重合反応を行った。得られた分岐を有するポリマーの収率は1.6%で、GPCによるMw=25,000であり、3ピークになった。
【0023】
比較例3
触媒組成物溶液中のカリウムt−ブトキシドの使用量を3.0mmolに、トリイソブチルアルミニウム(Al(i−Bu) )1.0Mのn−ヘキサン溶液の使用量を5.0mlに変更し、また、実施例1の熟成条件を69時間とし、重合反応を行った。得られた分岐を有するポリマーの収率は21.4%で、GPCによるMw=30,000であり、2ピークになった。
【0024】
実施例1〜4に示されるように、当該触媒組成物を使用した場合には、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させることにより分岐を有するポリマーを製造できることが分かる。これに対して、比較例の場合には、収率が非常に悪く、反応しない場合もあった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の触媒組成物を使用することによって、エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物との共重合により、分岐を有するポリマーを効率よく製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキシドとグリシジルエーテル化合物とを共重合させる際に使用される触媒組成物であって、前記触媒組成物が、成分A:有機アルミニウム化合物と、成分B:アルカリ金属のアルコキシド又はアルカリ金属水酸化物のいずれか一方、とを含むことを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
前記有機アルミニウム化合物が、Al−C結合を有した化合物であることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記有機アルミニウム化合物が、トリアルキルアルミニウム化合物、トリシクロアルキルアルミニウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記有機アルミニウム化合物がトリ‐イソブチルアルミニウムであることを特徴とする請求項3記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記アルカリ金属アルコキシドがカリウムt−ブトキシドであることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記成分Aが、前記成分B1モルに対して3モル以上含有されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記触媒組成物を使用し、エチレンオキシド99.9〜70重量%に対するグリシジルエーテル化合物の割合を0.1〜30重量%として重合を行うことを特徴とする、分岐を有するポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記グリシジルエーテル化合物が、n−ブチルグリシジルエーテル、t−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルからなる群より選ばれたものであることを特徴とする請求項8に記載のポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記成分Aのモル比率が前記成分B1モルに対して3モル以上である触媒組成物を使用することを特徴とする請求項8に記載のポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記触媒組成物の使用量が、生成されるポリマーに対して0.01〜5.0モル%Al原子であることを特徴とする請求項8に記載のポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2006−77039(P2006−77039A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259159(P2004−259159)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(591018051)明成化学工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】