説明

エチレン製造用触媒

【課題】エタノールを脱水してエチレンを製造するに際し、低温で、かつ、高いエチレン収率と高いエチレン選択率を与える触媒を提供する。
【解決手段】好ましくは100〜300℃の範囲でエチレンにより前加熱処理を受けた水素型ZSM5ゼオライトを必須成分とする、エタノールの脱水反応によるエチレンの製造用触媒。この触媒に、エタノールを150〜250℃の範囲で接触させてエチレンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン製造用触媒に関し、更に詳しくは、エタノールの脱水反応によりエチレンを製造する際に用いられる触媒およびこの触媒を用いるエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンは、ポリエチレンなどの原料として非常に重要な基礎化学品の一つである。従来、エチレンを工業的に製造するには、石油の接触分解ガスからの分離、エタンの脱水素反応、エタノールの脱水反応などの方法が採用されている。
従来、エタノールの脱水反応によりエチレンを製造する方法としては、アルミナ(酸化アルミニウム)などを主成分とする触媒上で、350〜450℃でエタノールを脱水させる方法が知られている(特許文献1)。
また、本発明者等は、既に、水素型モルデナイト、水素型ZSM5ゼオライト及び水素型ベータゼオライトから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とするエチレン製造用触媒を開発した(特許文献2)。
しかしながら、その後の本発明者等の検討によれば、エタノールの脱水反応は、吸熱反応であるので、より低い反応温度で反応を進行させるためには、更なる高性能触媒の開発が必要であることが判明した。
【0003】
【特許文献1】特開平4−80015号公報
【特許文献2】特開2006−116439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エタノールを脱水反応させることによりエチレンを製造する方法において、より低温で反応が進行すると共に高収率・高選択率でエチレンを製造することができる触媒およびこのものを用いた工業的に有利なエチレンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、エタノールの脱水反応によるエチレンの製造方法について、各種多数の固体酸触媒を主成分とする触媒上でエタノールの脱水反応に注目し、それらの反応成績を鋭意検討・分析した結果、意外にも、その必須成分が、エチレンにより前処理を受けた水素型ZSM5ゼオライトであるエチレン製造用触媒が、150〜250℃の範囲の低温度下でも、効率よくエタノールを脱水し高収率・高選択率でエチレンを与えること知見し、本発明に到達するに至った。
【0006】
即ち、この出願によれば、第一に、エタノールの脱水反応によりエチレンを製造する方法に用いられる触媒であって、その必須成分が、エチレンにより前処理を受けた水素型ZSM5ゼオライトであることを特徴とするエチレン製造用触媒が提供される。
第二に、前処理温度が100〜300℃の範囲であることを特徴とする第一に記載のエチレン製造用触媒が提供される。
第三に、エタノールを上記第一又は第二に記載の触媒の存在下で脱水させることを特徴とするエチレンの製造方法が提供される。
第四に、反応を150〜250℃の範囲の温度で行うことを特徴とする上記第三に記載のエチレンの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る、エタノールの脱水反応によるエチレンの製造方法に用いられる触媒は、150〜250℃の範囲の低温下であっても、エタノールの脱水反応を促進し、高収率かつ高選択率でエチレンを与える。従って、このものを触媒とすればエタノールからエチレンを工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のエチレン製造方法に用いられる触媒は、エチレンにより前処理を受けた水素型ZSM5ゼオライトを必須成分とする。
【0010】
水素型ZSM5ゼオライトをエチレンで前処理する際の条件としては、温度は水素型ZSM5ゼオライトの触媒活性が向上する温度範囲であれば特に制限はされないが、100℃未満では、エチレンで前処理する時間が非常に長くなり、逆に、300℃を超えると、エチレンでの前処理中におこる副反応のために前処理の効果が減少するので、100〜300℃の範囲に設定しておくことが好ましい。
圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれでも良い。また、前処理時間は、前処理条件により、適当な時間を定める必要がある。
この前加熱処理を行うことにより、水素型ZSM5ゼオライトの触媒活性は2倍以上に向上する。この理由については、明瞭ではないが、水素型ZSM5ゼオライトの細孔中に、適量の重合物の生成により、新たな酸点が生成するためであると推察している。このような前処理による触媒活性の向上は、ZSM5ゼオライトに特有の現象であり、モルデナイト、ベータゼオライト、Y型ゼオライトでは認められなかった。
【0011】
本発明の触媒は上記成分を必須とするが、触媒の成型を容易にするため、あるいは、触媒の耐久性を向上させるため、あるいは、その他の目的のために、本発明の触媒の性能を損なわない範囲で、他の物質を含んでいても良い。このような物質としては、たとえば、他のゼオライト、酸化アルミニウム、酸化珪素、シリカ・アルミナ、酸化ジルコニウム、活性炭などが挙げられる。
【0012】
また、触媒の粒子径や形状は、反応方式、反応器の形状によって任意に選択できる。すなわち、本発明による方法は、固定床、流動床等いずれの反応方式においても有効である。
【0013】
本発明の触媒によれば、エタノールの脱水反応によるエチレンの製造において、250℃以下の低温という条件下においても、エチレン収率およびエチレン選択率が高いという優れた反応成績を与える。
【0014】
本発明の触媒を用い、エタノールの脱水反応によりエチレンを製造する場合、その反応条件としては、反応温度は150〜250℃の範囲、好ましくは、160〜230℃、より好ましくは、170〜200℃、反応圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれでも良く、好ましくは0.2〜1.5気圧(絶対圧力)である。
また、本発明に係る触媒は、一定時間使用後に活性が低下した場合には、空気中で再度焼成し、エチレンで前処理することによりその性能を回復させることができる。また、反応原料であるエタノールには、水が含まれていても良い。
【実施例】
【0015】
以下、実施例をあげて本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
【0016】
実施例1
触媒学会より提供されたSi/Al比45の水素型ZSM5ゼオライト(JRC−Z5−90H(1))0.4gを反応管に充填し、200℃において、エチレンとヘリウムの混合ガス(エチレン濃度3%)を30ml/分の流速で触媒層に通して、4時間前処理を行った。前処理後、反応温度において、ヘリウム気流中でエタノールを触媒層に通して、圧力0.1MPa、エタノール流量0.34g/時、ヘリウム流量4,950ml/時、反応温度200℃の条件下に、反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率72%であった(表1参照)。
【0017】
実施例2
実施例1で使用したものと同じ水素型ZSM5ゼオライト0.4gを反応管に充填し、250℃において、エチレンとヘリウムの混合ガス(エチレン濃度3%)を30ml/分の流速で触媒層に通して、4時間前処理を行った。前処理後、実施例1と同じ反応条件下にエタノールの脱水反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率92%であった(表1参照)。
【0018】
実施例3
実施例1で使用したものと同じ水素型ZSM5ゼオライト0.4gを反応管に充填し、150℃において、エチレンとヘリウムの混合ガス(エチレン濃度3%)を30ml/分の流速で触媒層に通して、8時間前処理を行った。前処理後、実施例1と同じ反応条件下にエタノールの脱水反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率75%であった(表1参照)。
【0019】
実施例4
実施例1で使用したものと同じ水素型ZSM5ゼオライト0.4gを反応管に充填し、100℃において、エチレンとヘリウムの混合ガス(エチレン濃度3%)を30ml/分の流速で触媒層に通して、24時間前処理を行った。前処理後、実施例1と同じ反応条件下にエタノールの脱水反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率83%であった(表1参照)。
【0020】
実施例5
東ソー(株)より提供されたSi/Al比95の水素型ZSM5ゼオライト(HSZ−870NHA)0.8gを反応管に充填し、200℃において、エチレンとヘリウムの混合ガス(エチレン濃度3%)を30ml/分の流速で触媒層に通して、6時間前処理を行った。前処理後、実施例1と同じ反応条件下にエタノールの脱水反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率82%であった(表1参照)。
【0021】
比較例1
実施例1で使用したものと同じ水素型ZSM5ゼオライト0.4gを反応管に充填し、前処理を行わず、実施例1と同じ反応条件下にエタノールの脱水反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率19%であった(表1参照)。
【0022】
比較例2
実施例5で使用したものと同じ水素型ZSM5ゼオライト0.8gを反応管に充填し、前処理を行わず、実施例1と同じ反応条件下にエタノールの脱水反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間2時間後において、エチレン収率4%であった(表1参照)。
【0023】
以上の実施例および比較例から、100〜300℃の範囲でエチレンにより前処理を受けた水素型ZSM5ゼオライトであることを特徴とする触媒が、エタノールの脱水反応いおいて、前処理を受けていない通常の水素型ZSM5ゼオライトより遥かに高活性であることが明らかである。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールの脱水反応によりエチレンを製造する方法に用いられる触媒であって、その必須成分が、エチレンにより前処理を受けた水素型ZSM5ゼオライトであることを特徴とするエチレン製造用触媒。
【請求項2】
前処理温度が100〜300℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン製造用触媒。
【請求項3】
エタノールを請求項1又は2に記載の触媒の存在下で脱水させることを特徴とするエチレンの製造方法。
【請求項4】
反応を150〜250℃の範囲で行うことを特徴とする請求項3に記載のエチレンの製造方法。

【公開番号】特開2008−110302(P2008−110302A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294793(P2006−294793)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】