説明

エックス線フィルタおよびエックス線フィルタ装置

【課題】 フィルタ後のエックス線の強度低下が小さく、目的とするエックス線のエネルギーよりも低エネルギー及び高エネルギーのエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタを提供する。
【解決手段】 周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタであって、前記周期構造体膜に一定の角度で入射されるエックス線を、前記周期構造体膜の全反射によって反射されるエネルギー領域Aと、前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域Bと、前記エネルギー領域Aと前記エネルギー領域Bの間に位置する、エックス線を透過する透過エネルギー領域とに分け、前記入射されるエックス線の中から前記透過エネルギー領域を透過するエックス線を選択して得るエックス線フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エックス線フィルタおよびそれを用いたエックス線フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エックス線は、医療、非破壊検査、結晶構造解析等の分野で広く利用されている。これらの分野において、より高度な検査、解析等を行うために、エックス線のエネルギーを選択することが行われている。このエックス線のエネルギーを選択する手法の一つとしてエックス線フィルタが用いられる。エックス線は物質の透過能が高く、また、この透過能は基本的にエックス線のエネルギーの増大とともに増大することが知られている。これを利用して、最も簡便な種類のエックス線フィルタとしては、金属板等を用いることでエックス線のうち、透過能の低い低エネルギーの成分を低減するものが挙げられる。
【0003】
一方で、この低エネルギーのエックス線の低減に加えて、目的とするエックス線のエネルギーよりも高エネルギーのエックス線を低減するフィルタが知られている。このフィルタとしては、ブラッグ回折を利用し、特定波長の反射鏡として機能する多層膜を用いたエックス線フィルタが報告されている。たとえば、特許文献1には、多層膜を対向させたエックス線の高次光除去フィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2993147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のエックス線フィルタは、目的とするエックス線のエネルギーよりも低エネルギーのエックス線を低減することに加えて、高エネルギーのエックス線を低減することが可能である。しかしながら、多層膜の反射率が十分でないために、フィルタ後のエックス線の大きな強度低下が観測されており、更なる改良が求められている。
【0006】
本発明は、フィルタ後のエックス線の強度低下が小さく、目的とするエックス線のエネルギーよりも低エネルギー及び高エネルギーのエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタを提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、フィルタ後のエックス線の強度低下が小さく、目的とするエックス線の角度よりも低角度及び高角度のエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、上記のエックス線フィルタを用いたエックス線フィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する第1のエックス線フィルタは、周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタであって、前記周期構造体膜に一定の角度で入射されるエックス線を、前記周期構造体膜の全反射によって反射されるエネルギー領域Aと、前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域Bと、前記エネルギー領域Aと前記エネルギー領域Bの間に位置する、エックス線を透過する透過エネルギー領域とに分け、前記入射されるエックス線の中から前記透過エネルギー領域を透過するエックス線を選択して得ることを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決する第2のエックス線フィルタは、周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタであって、前記周期構造体膜に一定のエネルギーを持つて入射されるエックス線を、前記周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域aと、前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射される角度領域bと、前記角度領域aと前記角度領域bの間に位置する、エックス線を透過する透過角度領域とに分け、前記入射されるエックス線の中から前記透過角度領域を透過するエックス線を選択して得ることを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するエックス線フィルタ装置は、上記のエックス線フィルタと、前記エックス線フィルタの入射エックス線に対する角度を変更できる手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィルタ後のエックス線の強度低下が小さく、目的とするエックス線のエネルギーよりも低エネルギー及び高エネルギーのエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタを提供することができる。
【0013】
本発明によれば、フィルタ後のエックス線の強度低下が小さく、目的とするエックス線の角度よりも低角度及び高角度のエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタを提供することができる。
【0014】
また、本発明は、上記のエックス線フィルタを用いたエックス線フィルタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの概略図である。
【図2A】本発明のエックス線フィルタの第1の実施形態を示す説明図である。
【図2B】本発明のエックス線フィルタの第2の実施形態を示す説明図である。
【図3】基板に開口部が設けられたエックス線フィルタを示す概略図である。
【図4】本発明のエックス線フィルタ装置の1実施形態を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例1、2のエックス線フィルタにエックス線を入射したときの透過率のエックス線のエネルギー依存性を示す図である。
【図6】本発明の実施例3のエックス線フィルタにエックス線を入射したときの透過率のエックス線のエネルギー依存性を示す図である。
【図7】本発明の実施例4のエックス線フィルタにエックス線を入射したときの透過率のエックス線のエネルギー依存性を示す図である。
【図8】本発明の実施例1、2のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線の入射角度依存性を示す図である。
【図9】本発明の実施例3のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線のエネルギー依存性を示す図である。
【図10】本発明の実施例4のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線のエネルギー依存性を示す図である。
【図11】本発明の実施例5のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線のエネルギー依存性を示す図である。
【図12】比較例1のエックス線フィルタの入射光強度に対するフィルタ後エックス線強度のエネルギー依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの構成について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの概略図である。
【0018】
同図において、1000は周期構造体膜、1010は入射エックス線、1020はエックス線の入射角度、1030は透過エックス線、1040は周期構造体膜で反射される反射エックス線である。このエックス線フィルタは、必要に応じて、基板1050のような基板の上に形成されていてよい。また、エックス線透過のための開口部1060を有していてよい。
【0019】
(本発明のエックス線フィルタの第1の実施形態)
本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの第1の実施形態について説明する。図2Aは、本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの第1の実施形態を示す説明図である。本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタにおいて、エックス線を一定の角度で入射したときの反射率の、エックス線のエネルギー依存性の概念を、図2Aを用いて説明する。
【0020】
同図において、縦軸は反射率、横軸はエックス線のエネルギーを示す。2000は前記周期構造体膜の全反射によって反射されるエネルギー領域Aを示す。2010は前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域Bを示す。2020は、前記エネルギー領域Aと前記エネルギー領域Bの間に位置する、エックス線を透過する透過エネルギー領域を示す。
【0021】
本発明のエックス線フィルタは、周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタである。エックス線は前記周期構造体膜に一定の角度で入射される。入射されるエックス線を、エネルギー領域Aと、エネルギー領域Bと、前記エネルギー領域Aと前記エネルギー領域Bの間のエックス線を透過する透過エネルギー領域とに分ける。前記入射されるエックス線の中から前記透過エネルギー領域を透過するエックス線を選択して得る。
【0022】
本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタは、全反射によって、低エネルギーのエックス線を反射することで低減する。また、ブラッグ反射によって高エネルギーのエックス線を反射することで低減する。一方で、目的の透過エネルギー領域のエックス線を高効率で透過する。その結果、フィルタによる強度低下が小さく、低エネルギー及び高エネルギーのエックス線を低減するエックス線フィルタを提供することが可能となる。
【0023】
(本発明のエックス線フィルタの第2の実施形態)
本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの第2の実施形態について説明する。図2Bは、本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタの第2の実施形態を示す説明図である。本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタにおいて、エックス線を一定のエネルギーを持つて入射したときの反射率の、エックス線の入射角度依存性の概念を、図2Bを用いて説明する。
【0024】
同図において、縦軸は反射率、横軸はエックス線の入射角度を示す。2001は前記周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域aを示す。2011は前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射される角度領域bを示す。2021は、前記角度領域aと前記角度領域bの間に位置する、エックス線を透過する透過角度領域を示す。
【0025】
本発明のエックス線フィルタは、周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタである。エックス線は前記周期構造体膜に一定のエネルギーを持つて入射される。入射されるエックス線を、角度領域aと、角度領域bと、前記角度領域aと前記角度領域bの間のエックス線を透過する透過角度領域とに分ける。前記入射されるエックス線の中から前記透過角度領域を透過するエックス線を選択して得る。
【0026】
本発明の周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタは、この全反射によって低角度で入射されるエックス線を反射することで低減する。また、ブラッグ反射によって高角度で入射されるエックス線を反射することで低減する。一方で、この透過角度領域のエックス線を高効率で透過する。その結果として、フィルタによる強度低下の小さな、低角度および高角度で入射されるエックス線を低減するエックス線フィルタを提供することが可能となる。このようなフィルタは、エックス線の放射する角度を制限するフィルタとして応用することが可能である。
【0027】
以下に、エックス線フィルタの構成を各項目に分類して説明する。
【0028】
(1−1)エックス線について
本発明におけるエックス線とは、物質の屈折率実部が1以下となるエックス線帯域の電磁波を意味する。このエックス線帯域の電磁波とは、具体的には、極端紫外光(Extreme Ultra Violet(EUV)光)を含む100nm以下の波長の電磁波を指す。
【0029】
このような短い波長の電磁波は、周波数が高く物質の最外殻電子が応答できないために、可視光や赤外線と異なり、物質の屈折率の実部が1より小さくなることが知られている。このエックス線帯域の電磁波に対する物質の屈折率nは一般的に複素数で表されるが、その実部を本明細書中では屈折率実部または屈折率の実部と称し、虚部を屈折率虚部または屈折率の虚部と称する。
【0030】
(1−2)周期構造体膜について
本発明のエックス線フィルタは、周期構造体膜から構成されることを特徴とする。この周期構造体膜を構成する材料としては、特に限定されるものではない。しかし、エックス線フィルタが透過型のフィルタであるために、透過時の吸収損失を低減することを目的として、エックス線吸収量が少ない低密度の材料を用いることが好ましい。このために、多層膜を形成する場合に一般的に用いられる重元素、たとえば、タングステンや白金等の高密度の材料ではなく、後述するような軽元素を用いて低密度の材料とすることが有効である。
【0031】
本発明における周期構造体膜は、基材上に形成されていてもよいし、基材上に形成されていなくてもよい。基材上に形成されている場合は、平坦な表面を得ることが容易である。一方で、基材上に形成されていない場合には、エックス線が基材を透過する際の損失を低減できる。
【0032】
この透過損失を低減するために、基材を用いる場合でも、目的とするエネルギーのエックス線の吸収の少ない材料や、薄い材料を選択することが好ましい。基材の例としては、シリコン基板を挙げることができる。
【0033】
また、透過損失を低減する観点から、必要に応じて基材上に開口部を設けることが好ましい。この開口部は、基材を貫通していてもよいし、貫通には至らない程度に基材を薄くしたものでもよい。透過損失を低減する観点からは貫通したものが最も好ましい。なお、貫通には至らない程度に薄くしたものであっても透過損失を低減する効果がある。この手法は特に制限されるものではないが、例としてエッチングを挙げることができる。基材がシリコン基板の場合には、フッ化水素酸によるエッチング、Cガスを用いた反応性イオンエッチングを用いることができる。反応性イオンエッチングは、周期構造体がシリカの場合に、シリコンのみをエッチングし、シリカはエッチングされない特徴を活かすことで効果的に開口部を形成できる。開口部の形状は、特に制限さないが、エックス線の入射角を確保する目的で、例えば図3に示したように、残留する基板3010が“コ”の字型となるものとすることができる。図3は、基板に開口部が設けられたエックス線フィルタを示す概略図である。同図において3000が周期構造体膜、3010が基板、3020が開口部である。
【0034】
周期構造体膜の例としては、(1)メソ構造体(2)結晶性物質を挙げることができる。
【0035】
(1−2−1)メソ構造体について
多孔質材料は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)によって、その孔径により分類されている。孔径が2から50nmの多孔質材料は、メソポーラスに分類される。近年、このメソポーラス材料についての研究が盛んに行われ、界面活性剤の集合体を鋳型とすることで、径の揃ったメソ孔が規則的に配列した構造を得ることが可能になっている。
【0036】
ここで、本発明におけるメソ構造体膜は、(A)メソポーラス膜、(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたもの、(C)ラメラ構造を持つメソ構造体膜、を意味する。
【0037】
以下にそれらのメソ構造体膜を説明する。
【0038】
(A)メソポーラス膜について
孔径が2から50nmの多孔質材料で、壁部の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性、周期構造体膜を屈折率実部が異なる物質より構成するという観点から、無機酸化物、炭素、有機化合物が挙げられる。無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛を挙げることができる。また、有機化合物の例としては、有機高分子化合物を挙げることができる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
【0039】
メソポーラス膜の調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、以下の方法で調製することができる。集合体が鋳型として機能する両親媒性物質の溶液に、壁部を構成する物質の前駆体を加え、成膜を行い、壁部を構成する物質の生成反応を進行させる方法である。その後に、鋳型分子を除去することにより、メソポーラス膜とすることができる。
【0040】
この両親媒性物質は、特に限定されるものではないが、界面活性剤が適している。界面活性剤分子の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのこのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から50を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより孔径を拡大することが可能である。また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
【0041】
先に例示した、壁部を構成する材料に対応する前駆体の例を以下に記述する。
【0042】
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Ti,Al,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。有機高分子の前駆体の例としては、フェノール化合物とホルムアルデヒドを塩基性条件下で反応させて得られるResolと呼ばれるフェノール‐ホルムアルデヒド樹脂オリゴマーを挙げることができる。
【0043】
壁部が炭素であるメソポーラス膜は、たとえば壁部が有機化合物のメソポーラス膜を炭化させることによって調製することができる。この炭化工程の例としては、多孔質高分子膜を、非酸化雰囲気中で加熱することで、有機高分子化合物膜を多孔質炭素膜に転換させる方法が挙げられる。
【0044】
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。
鋳型分子の除去方法の例としては、焼成、溶媒抽出、紫外線照射、オゾン処理が挙げられる。
【0045】
(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものについて
壁部の材料については、(A)の項に記載したものと同様のものを使用することができる。孔を充填する物質については、有機化合物を主とするものであれば特に制限されるものではない。この「主」の意味としては、体積比で50%以上を意味する。この有機化合物の例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、(A)の項で記載した界面活性剤を挙げることができる。また分子集合体の形成機能を有する部位が壁部を形成する材料、又は壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料の例としては、アルキル基を有するアルコキシシラン、アルキル基を有するオリゴシロキサン化合物を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。
【0046】
孔の内部には、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素が挙げられる。
【0047】
メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものの調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、(A)の項に記載したメソポーラス膜の調製法の鋳型の除去以前の工程を挙げることができる。
【0048】
(C)ラメラ構造を持つメソ構造体膜について
本発明のメソ構造体膜には、(A)、(B)に加えてラメラ構造のメソ構造体膜を含む。このラメラ構造の例としては、(B)に記載した壁部の材料からなる層と、同じく(B)に記載した孔を充填する物質からなる層が積層したラメラ構造体を挙げることができる。これら(A)、(B)の二種類の材料(物質)は、所望の特性を得るために、必要に応じて化学結合によって結合されていても良い。この結合されている化合物の例としては、トリアルコキシアルキルシランを挙げることができる。
【0049】
メソ構造体は一般的にその特徴として、エックス線の透過率が高く、結晶性物質と比較して広いエネルギー、角度領域にわたってブラッグ反射を示す。本発明のエックス線フィルタに用いられる周期構造体膜としてメソ構造体を用いることは、ブラッグ反射によってエックス線を遮蔽するエネルギー、角度範囲が結晶性物質より広くなる点で有利である。
【0050】
周期構造体膜が、膜面の法線方向に周期構造を有する周期構造体膜であることが好ましい。また、周期構造体膜が、複数の構造周期を有することが好ましい。
【0051】
(1−2−2)結晶性物質
本発明の周期構造体膜に用いられる結晶性物質は、特に制限されるものではないが、エックス線の透過率、結晶の扱いやすさの観点から共有結合性結晶が好ましく用いられる。この共有結合性結晶の例としては、シリコンを挙げることができる。
【0052】
結晶性物質は一般的にその特徴として、高い構造規則性を有するため、特定のエネルギー、角度において、高強度のブラッグ反射を示す。本発明のエックス線フィルタに用いられる周期構造体膜として結晶性物質を用いることは、ブラッグ反射によってエックス線を遮蔽する際の遮蔽効果(遮蔽領域における透過率の低さ)の点で有利である。
【0053】
(1−3)周期構造体膜の全反射について
エックス線に対する物質の屈折率虚部は、エックス線の吸収に関係する量であり、単色光に対しては線吸収係数と比例関係にある。線吸収係数が低く、この虚部が十分に小さいときには、全反射臨界角θは、(1)式で表される。
θ=(2δ)1/2 (1)
(ここで、δは、屈折率実部の1からのずれ量)
そして、全反射臨界角より低い角度で入射するエックス線は、全反射を起こすこととなる。
【0054】
本発明のエックス線フィルタは、周期構造体膜の全反射によって反射されるエネルギー領域と、周期構造体膜の構造周期に対応する入射エックス線のブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域との間に、エックス線の透過エネルギー領域を有する。
【0055】
また、前記周期構造体膜への入射エックス線が、前記周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域と、ブラッグ反射によって反射される角度領域との間にエックス線の透過角度領域を有することを特徴とする。
【0056】
このために、本発明の周期構造体膜の全反射臨界角は、周期構造体膜の構造周期に対応する入射エックス線のブラッグ反射により反射される角度よりも小さいものが用いられる。この全反射臨界角は、周期構造体膜を構成する材料の電子密度の増大とともに増大する。そのために密度の小さい材料を選択する等、適切な調製が行われる。
【0057】
(1−4)周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射について
ある構造周期を持つ周期構造体膜にエックス線を入射すると、その構造周期に対応した角度でエックス線が強めあって反射されるブラッグ反射が観測される。この構造周期とブラッグ反射の角度に関する関係を(2)式に示す。
2d sinθ=nλ (2)
(ここで、dは周期構造の幅、θは周期構造の形成する面と光線の間の角度、λはエックス線の波長、nは整数)
本発明のエックス線フィルタは、周期構造体膜表面の全反射によって反射されるエネルギー領域と、周期構造体膜の構造周期に対応する入射エックス線のブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域との間にエックス線の透過エネルギー領域を有する。
【0058】
また、前記周期構造体膜への入射エックス線が、前記周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域と、ブラッグ反射によって反射される角度領域との間にエックス線の透過角度領域を有することを特徴とする。
【0059】
このために、本発明の周期構造体膜のブラッグ反射によって反射される角度は、全反射臨界角よりも大きなものが用いられる。そのために、このブラッグ反射によって反射される角度は、適切な角度に調整して用いられる。このブラッグ反射によって反射される角度を調整する方法の例としては、(A)周期構造の周期の幅を変化させる方法、(B)周期構造の構成する面の方向を変化させる方法、の2点を挙げることができる。
【0060】
(A)周期構造の周期の幅を変化させる方法
周期構造の周期の幅を変化させることで、構造周期によって決定されるブラッグ角を変化させる手法である。(2)式を用いて説明するとdの値を変化させることによって、θを変化させることを意味する。具体的な手法としては、たとえば、周期構造体膜がメソ構造体膜であれば、用いる界面活性剤を変化させること、周期構造体膜が結晶性物質であれば、用いる結晶を変化させることで、構造周期を変化させることが挙げられる。
(A)の手法をさらに進めた方法として、本発明の周期構造体膜は、複数の構造周期を有しても良い。複数の構造周期を有することで、ブラッグ反射のエネルギー、角度の領域を複数とすることができる。この複数のブラッグ反射のエネルギー、角度の領域は、構造周期の調整等を行うことで、連続的に配置してもよいし、離散的に配置してもよい。連続的に配置すれば、特定の広いエネルギー、角度領域においてエックス線を反射、除去することが可能となる。離散的に配置すれば、特定の複数のエネルギー、角度領域においてエックス線を反射、除去することが可能となる。この効果を発揮させるために、複数の構造周期は、フィルタを透過するエックス線が透過する方向に配置されていることが好ましい。
【0061】
(B)周期構造の構成する面の方向を変化させる方法
周期構造体膜の表面に対し、周期構造の構成する面の方向そのものを変化させることで、(2)式のd、θを変化させることなく、ブラッグ反射によって反射される光の角度を、周期構造体膜の表面に対して変化させる手法である。具体的な手法としては、たとえば、周期構造体膜がメソ構造体膜であれば、用いる壁部の材料の前駆体を反応性の高いものとすることにより、材料の表面と周期構造の構成する面のなす角度を変化させることが挙げられる。周期構造体膜が結晶性物質であれば、結晶の持つ周期構造の構成する面とは異なる面で表面を切り出すことが挙げられる。
(B)の手法は、ブラッグ反射によって反射される光の角度を任意に調整できる点で優れている。一方で、周期構造体膜の製造の容易さの点からは、周期構造体膜が、膜面の法線方向に周期構造を有する周期構造体膜であることが有利である。たとえば、周期構造体膜がメソ構造体膜であれば、基板上に周期構造をもつ膜を形成した場合、多くの場合は、自発的に膜面の法線方向に周期構造を形成する。このことを利用することにより、周期構造体膜を容易に形成することができる。
【0062】
(1−5)エックス線の透過エネルギー領域、透過角度領域について
本発明のエックス線フィルタは、周期構造体膜表面の全反射によって反射されるエネルギー領域と、ブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域との間にエックス線の透過エネルギー領域を有することを特徴とする。また、周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域と、ブラッグ反射によって反射される角度領域との間にエックス線の透過角度領域を有することを特徴とする。
【0063】
図2Aに示す様に、透過エネルギー領域は、一定の入射角度を想定した場合、周期構造体膜の全反射がおこるエックス線のエネルギーよりも大きなエネルギーの領域である。また同時に、ブラッグ反射によって反射されるエックス線のエネルギーよりも小さなエネルギーの領域である。
【0064】
図2Bに示す様に、透過角度領域は、一定の入射エックス線のエネルギーを想定した場合、周期構造体膜の全反射臨界角よりも大きな角度であり、同時にブラッグ反射によって反射される入射エックス線の入射角度よりも小さなエネルギーの領域である。
【0065】
上述のブラッグ反射によって反射されるエネルギー、角度領域について、周期構造体膜が複数の構造周期を有する場合を説明する。この場合の透過エネルギー領域は、周期構造体膜の全反射によって反射されるエネルギー領域と、ブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域のうち最も高いエネルギー領域と、の間に存在する。また、この場合の透過角度領域は、周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域と、ブラッグ反射によって反射される角度領域のうち最も高いエネルギー領域と、の間に存在する。
【0066】
この透過領域という意味は、エックス線の全反射の反射率の最大値と、ブラッグ反射の反射率の最大値を比較した場合の小さい方の値(Rと記載する)よりも、さらに小さい反射率を示す領域という意味である。好ましくは、Rの1/2以下、さらに好ましくは、Rの1/10以下の反射率を示す領域である。
【0067】
(エックス線フィルタ装置)
次に、本発明のエックス線フィルタ装置について説明する。
【0068】
本発明のエックス線フィルタ装置は、上記のエックス線フィルタと、前記エックス線フィルタの入射エックス線に対する角度を変更できる手段とを有することを特徴とする。
【0069】
図4は、本発明のエックス線フィルタ装置の1実施形態を示す説明図である。図中、4000は周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタ、4010は入射エックス線、4020はフィルタされた透過エックス線、4030はフィルタによって反射、除去されたエックス線を表す。4040はエックス線フィルタの入射エックス線に対する角度を任意に変更できる仕組みによって変更される角度を表す。この装置は必要に応じて、4030のような反射エックス線を透過エックス線から除く目的で、4050に示すような不必要なエックス線を除去する部品を含んでもよい。この部品の例としては、スリット、コリメータを挙げることができる。
【0070】
本実施形態を構成するエックス線フィルタは、周期構造体膜の全反射、ブラッグ反射を利用することで、不要なエネルギー領域、角度領域のエックス線を除去するものである。そのために、エックス線フィルタの透過領域は、フィルタに対する入射エックス線の角度を変えることにより、変更することが可能となる。本発明のエックス線フィルタ装置は、このエックス線フィルタと、任意に角度を変更できる手段を持つことで、透過エネルギー、角度領域を任意に変更することが可能となり、自由度の高いフィルタとして使用することが可能である。
【実施例1】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明の方法は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
(実施例)
本実施例では、下に示す周期構造材料を用いたエックス線フィルタの、エックス線透過率のエネルギー、入射角度依存性の計算値と、その製造方法について記載する。
【0073】
(1)実施例の一覧
実施例1
それぞれ異なった構造周期をもつ二次元ヘキサゴナル構造を持つメソポーラスシリカ3層膜、基板:なし(開口部)、構造周期:9.5、10、10.5nm、層数:それぞれ33層
実施例2
二次元ヘキサゴナル構造を持つメソポーラスシリカ膜、基板:なし(開口部)、構造周期:10nm、層数:100層
実施例3
二次元ヘキサゴナル構造を持つメソポーラスポリマー膜、基板:なし(自立膜)、構造周期:10nm、層数:100層
実施例4
ラメラ構造を持つシリカメソ構造体膜、基板:シリコン1μm(薄膜化部)、構造周期:5.0nm、層数:200層
実施例5
Si結晶を(111)面に対して、−14度の角度で切り出した基板。
【0074】
(2)実施例の特性
(2−1)エネルギー依存性
図5には、実施例1(実線)、実施例2(点線)のエックス線フィルタに0.2度の角度でエックス線を入射したときの透過率のエックス線のエネルギー依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線のエネルギー(E)、縦軸は透過率(T)である。
【0075】
いずれのフィルタも4keV以下の全反射による低エネルギーのエックス線の遮蔽、18keVを中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽特性を示した。一方でその間の領域、特に10keVからブラッグ反射による遮蔽の領域の間において、高い透過率を示すことが確認された。これらのことからこのエックス線フィルタは、フィルタによる強度低下の小さな、低、高エネルギーのエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。また、周期構造体膜として、メソ構造体膜を用いることで、エックス線の透過率が高く、ブラッグ反射によってエックス線を遮蔽するエネルギーが広いフィルタとして機能することが示された。
【0076】
また、実施例1のエックス線フィルタでは、フィルタを3種類の異なる構造周期をもつ周期構造体とすることで、実施例2のエックス線フィルタと比較して、ブラッグ反射によるエックス線の遮蔽エネルギー領域が拡大した。このことから、周期構造体膜を複数の構造周期を有する周期構造体とすることで、より広い遮蔽エネルギー領域をもつエックス線フィルタとして機能することが確認された。
【0077】
図6には、実施例3のエックス線フィルタに0.2度の角度でエックス線を入射したときの透過率のエックス線のエネルギー依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線のエネルギー(E)、縦軸は透過率(T)である。
【0078】
ここからこのフィルタは、3.7keV以下の全反射による低エネルギーのエックス線の遮蔽、18keVを中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽特性を示すことが確認された。一方でその間の領域、特に5keVからブラッグ反射による遮蔽の領域の間において高い透過率を示した。このことから本実施例のエックス線フィルタは、メソポーラスポリマー膜を用いることにより、フィルタによる強度低下の非常に小さな、低、高エネルギーのエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。
【0079】
図7には、実施例4のエックス線フィルタに0.4度の角度でエックス線を入射したときの透過率のエックス線のエネルギー依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線のエネルギー、縦軸は透過率である。
【0080】
ここからこのフィルタは、4keV以下の全反射による低エネルギーのエックス線の遮蔽、18keVを中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽特性を示すことが確認された。このブラッグ反射によるエックス線の遮蔽領域が狭い理由は、本実施例の周期構造体の構造周期が小さいためである。一方でその間の領域、特に11keVからブラッグ反射による遮蔽の領域の間、においては、高い透過率を示した。これらのことからこのエックス線フィルタは、フィルタによる強度低下の小さな、低、高エネルギーのエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。
【0081】
(2−2)角度依存性
次に、実施例1から4のエックス線フィルタを回転ステージに固定し、スリットまたはコリメータで反射光を除去する構成を用意する。その構成において、20keVのエックス線を入射した際のエックス線フィルタ装置のエックス線透過率の入射角度依存性を以下に記述する。
【0082】
図8には、実施例1(実線)、2(点線)のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線の入射角度依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線の入射角度、縦軸は透過率である。
【0083】
いずれのフィルタも0.05度以下の全反射による低角度領域のエックス線の遮蔽、0.18度を中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽の特性を示した。一方でその間の領域、特に0.1度からブラッグ反射による遮蔽の領域の間、においては、高い透過率を示した。これらのことからこのエックス線フィルタは、フィルタによる強度低下の小さな、低、高角度のエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。また、周期構造体膜として、メソ構造体膜を用いることで、エックス線の透過率が高く、ブラッグ反射によってエックス線を遮蔽する角度範囲が広いフィルタとして機能することが示された。
【0084】
また、実施例1のエックス線フィルタでは、フィルタを3種類の異なる構造周期をもつ周期構造体とすることで、実施例2のエックス線フィルタと比較して、ブラッグ反射によるエックス線の遮蔽角度領域が拡大した。このことから、周期構造体膜を複数の構造周期を有する周期構造体とすることで、より広い遮蔽角度領域をもつエックス線フィルタとして機能することが確認された。
【0085】
図9には、実施例3のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線のエネルギー依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線の入射角度、縦軸は透過率である。
【0086】
ここから0.035度以下の全反射による低角度領域のエックス線の遮蔽、0.18度を中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽の特性を示した。一方でその間の領域、特に0.05度からブラッグ反射による遮蔽の領域の間、においては、高い透過率を示した。これらのことからこのエックス線フィルタは、フィルタによる強度低下の小さな、低、高角度のエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。
【0087】
図10には、実施例4のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線のエネルギー依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線の入射角度、縦軸は透過率である。
【0088】
ここから0.09度以下の全反射による低角度領域のエックス線の遮蔽、0.27度を中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽の特性を示した。一方でその間の領域、特に0.18度からブラッグ反射による遮蔽の領域の間、においては、高い透過率を示した。これらのことからこのエックス線フィルタは、フィルタによる強度低下の小さな、低、高角度のエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。
【0089】
図11には、実施例5のエックス線フィルタを用いた際の透過率のエックス線のエネルギー依存性の計算値を示す。図中、横軸は入射エックス線の入射角度、縦軸は透過率である。
【0090】
ここから0.09度以下の全反射による低角度領域のエックス線の遮蔽、0.23度を中心とするブラッグ反射によるエックス線の遮蔽の特性を示した。また、この角度における透過率はほぼゼロであった。
【0091】
一方でその間の領域、特に0.17度からブラッグ反射による遮蔽の領域の間、においては、高い透過率を示した。これらのことからこのエックス線フィルタは、フィルタによる強度低下の小さな、低、高角度のエックス線を低減することが可能なエックス線フィルタとして機能することが確認された。さらに、周期構造体として、結晶性物質を使用することで、ブラッグ反射によってエックス線を遮蔽した際の透過率の低い(遮蔽効果の高い)エックス線フィルタとして機能することが示された。
【0092】
(3)実施例の周期構造体膜の製造方法
(3−1)実施例1の多層メソポーラス膜からなる周期構造体膜の製造方法を記述する。
【0093】
(a)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
2Dヘキサゴナル構造を持つ酸化ケイ素メソ構造体膜は、ディップコート法で調製される。メソ構造体の前駆体溶液は、エタノール、0.01M塩酸、テトラエトキシシランを加え20分間混合した溶液に、ブロックポリマーのエタノール溶液を加え、3時間攪拌することで調製される。ブロックポリマーは、エチレンオキサイド(20)プロピレンオキサイド(70)エチレンオキサイド(20):(今後、EO(20)PO(70)EO(20)と記載する(カッコ内は、各ブロックの繰り返し数))。
エタノールにかえてメタノール、プロパノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルを使用することも可能である。混合比(モル比)は、テトラエトキシシラン:1.0、塩酸:0.0011、エタノール:5.2、エタノール:3.5とした。ブロックポリマーの比を:0.0103、0.0096、0.0089としたものを、それぞれ液1、液2、液3とする。溶液は、膜厚調整の目的で適宜希釈して使用する。
【0094】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄したシリコン基板に、ディップコート装置を用いて0.5から2mms−1の引き上げ速度でディップコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、80℃の恒温槽で12時間保持される。3層膜は液1を塗布して保持、液2を塗布して保持、液3を塗布して保持して調製する。
【0095】
(c)界面活性剤の除去
調製された3層メソ構造体膜をエタノール溶液中、80℃で2時間保持することによって界面活性剤を抽出除去する。
【0096】
(d)基板の除去
調製された基板つきメソ構造体膜の中央部の基板を、Cガスを用いた反応性イオンエッチングによって除去する。
【0097】
(3−2)実施例2のメソポーラス膜からなる周期構造体膜の製造方法を記述する。
ブロックポリマーのモル比を0.0096とし、塗布を一回とする以外は、実施例1と同様である。
【0098】
(3−3)実施例3のメソポーラス膜からなる周期構造体膜の製造方法を記述する。
【0099】
(a)メソ構造体膜の前駆体溶液調製
フェノールに20wt.%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、50℃に加熱、37wt.%ホルマリンを滴下、75℃で一時間加熱後冷却、塩酸で中和、水分を減圧溜去する。減圧溜去後の残留物をエタノールに溶解する。このときのフェノール:ホルムアルデヒド:水酸化ナトリウムの分子数比は、1:2:0.1とする。この溶液にブロックポリマー(エチレンオキサイド(20)プロピレンオキサイド(70)エチレンオキサイド(20)(カッコ内は、各ブロックの繰り返し数))のエタノール溶液を加え10分攪拌する。
【0100】
(b)メソ構造体膜の製膜
洗浄したシリコン基板に、キャスト法で基板上に製膜する。膜は、100度の恒温槽内で、24時間保持される。
【0101】
(c)界面活性剤の除去
調製されたメソ構造体膜をエタノール溶液中、80℃で2時間保持することによって界面活性剤を抽出除去する。
【0102】
(d)基板の除去
調製された基板つきメソ構造体膜の中央部の基板を、フッ化水素酸を用いたエッチングによって除去する。
【0103】
(3−4)実施例4のメソ構造体膜からなる周期構造体膜の製造方法を記述する。
【0104】
(a)溶液調製
ラメラ構造を持つ酸化ケイ素メソ構造体膜は、スピンコート法で調製される。前駆体溶液は、テトラヒドロフラン溶媒にn−ヘキサデシルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、水、塩酸を溶解、25℃で3時間攪拌することで調製される。混合比(モル比)は、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン:1、テトラメトキシシラン:4、水:19、塩酸:0.01、テトラヒドロフラン:20とする。
【0105】
(b)製膜
基板を洗浄した後に、スピンコート装置を用いて3000rpm、10秒の条件でコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で4週間保持される。
【0106】
(c)基板の薄膜化
調製された基板つきメソ構造体膜の中央部の基板を、Cガスを用いた反応性イオンエッチングによって1マイクロメートル厚に薄膜化する。
【0107】
(3−5)実施例5の結晶性物質からなる周期構造体膜の製造方法を記述する。
Si結晶を(111)面に対して−14度となる角度でスライスして基板を形成し、表面を研磨する。基板の中央部を、Cガスを用いて反応性イオンエッチングによって1マイクロメートル厚に薄膜化し、実施例5の周期構造体膜を製造する。
【0108】
(比較例1)
比較例として、タングステン(3nm)/炭素(3nm)からなる多層膜(50対)二枚からなる反射型のエックス線フィルタの入射光強度に対するフィルタ後エックス線強度のエネルギー依存性の計算値を図12に示す。
【0109】
図中、13keV付近にブラッグ反射によりフィルタされたエックス線の強度が観測される。しかし、この強度は、多層膜を構成する重元素(タングステン)による吸収のため、ピーク強度で入射光の45%程度であり、実施例のエックス線フィルタと比較して、フィルタによる損失が大きいことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のエックス線フィルタ、エックス線フィルタ装置は、任意のエネルギー領域のエックス線を選択的に、かつ、低損失で透過することが可能である。この特性を利用して、選択されたエネルギーのエックス線を利用する装置、たとえば分析装置、イメージング装置の構成要素として利用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1000 周期構造体膜
1010 入射エックス線
1020 エックス線の入射角度
1030 透過エックス線
1040 反射エックス線
1050 基板
1060 開口部
2000 エネルギー領域A
2010 エネルギー領域B
2020 透過エネルギー領域
2001 角度領域a
2011 角度領域b
2021 透過角度領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタであって、前記周期構造体膜に一定の角度で入射されるエックス線を、前記周期構造体膜の全反射によって反射されるエネルギー領域Aと、前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射されるエネルギー領域Bと、前記エネルギー領域Aと前記エネルギー領域Bの間に位置する、エックス線を透過する透過エネルギー領域とに分け、前記入射されるエックス線の中から前記透過エネルギー領域を透過するエックス線を選択して得ることを特徴とするエックス線フィルタ。
【請求項2】
周期構造体膜から構成されるエックス線フィルタであって、前記周期構造体膜に一定のエネルギーを持つて入射されるエックス線を、前記周期構造体膜の全反射によって反射される角度領域aと、前記周期構造体膜の構造周期に対応するブラッグ反射によって反射される角度領域bと、前記角度領域aと前記角度領域bの間に位置する、エックス線を透過する透過角度領域とに分け、前記入射されるエックス線の中から前記透過角度領域を透過するエックス線を選択して得ることを特徴とするエックス線フィルタ。
【請求項3】
前記周期構造体膜が基材上に形成され、その基材に開口部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のエックス線フィルタ。
【請求項4】
前記周期構造体膜がメソ構造体膜であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエックス線フィルタ。
【請求項5】
前記周期構造体膜が、膜面の法線方向に周期構造を有する周期構造体膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエックス線フィルタ。
【請求項6】
前記周期構造体膜が、複数の構造周期を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエックス線フィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエックス線フィルタと、前記エックス線フィルタの入射エックス線に対する角度を変更できる手段とを有することを特徴とするエックス線フィルタ装置。
【請求項8】
さらに、スリットまたはコリメータを有することを特徴とする請求項7に記載のエックス線フィルタ装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−63191(P2012−63191A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206382(P2010−206382)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)