説明

エッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物

【課題】微細で精度のよい印画が可能なインクジェット印刷方式で印画・印字ができ、形成した保護膜が、エッチングの腐食液に耐え、さらにアルカリ水溶液で溶解して現像ができ、環境保護の観点からも有用なエッチングレジスト用の水性インクの提供。
【解決手段】水と、水可溶性有機溶媒と、ポリマーとを含む、インクジェット印刷方式で印画されるエッチングレジスト用インクであり、ポリマーが、カルボキシル基を有するα,β不飽和結合含有モノマーを構成成分とするビニル系ポリマーで、その酸価が50〜250mgKOH/g、その数平均分子量が2,000〜20,000で、さらに、該ポリマーは、カルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの少なくとも一部が、特定の化合物で中和されており、その形態が、平均粒子径10nm〜200nmの水分散体又はエマルジョンであるエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングレジストに使用されるインク組成物に関し、さらに詳しくは、インクジェット印刷方式で印刷できる水性のエッチングレジストであるエッチングレジスト用の水性インクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチングとは、腐食層(例えば、銅、亜鉛などの金属、樹脂)を表面に有する素材の必要な部分に、化学薬品(腐食液、エッチング液)に耐えうる保護膜(レジスト)を形成して防食処理をし、次いで化学薬品によって不要な部分を除去する方法のことであり、その後に保護膜を除去して現像が行われる。この場合、特にアルカリ溶液による現像が一般的であるが、このような化学薬品で保護膜を除去することで、その保護された部分のみ腐食層が残り、素材上に所望の像の形成を可能にする。この方法を利用することで、様々な種類の素材上に、精緻な、文字、画像、回路、パターンなどを作成することができるが、近年、この技術の利用は広範な分野に及んでいる。
【0003】
このようなエッチング方法を使用する技術は、例えば、金属加工、電子回路、プリント基板、製版、半導体分野、カラーフィルターなどの各種分野で、画像形成やパターン形成の手法として利用されている。特に、昨今の情報化機器の急速な発展に伴って、その小型化が進んできているという実情から、また、金属プレートなどの高意匠性に対応する目的から、その画像形成やパターン形成は、細密化、多層化したものになっており、繊細で微細な線画の形成を可能にするエッチング方法が求められている。このため、従来行なわれているスクリーン印刷やフォトリソグラフィーなどに用いられているスピンコートやスリットコートでの塗布よりもさらに繊細な線画の印刷ができるように、エッチング方法においても、インクジェット印刷方式が採用され始めている。ここで、インクジェット印刷方法で用いられているレジストインクは、有機溶媒系(例えば、特許文献1、2参照)、紫外線硬化性インク(例えば特許文献3、4参照)などであるが、省資源、省エネルギー、環境性や安全性の観点から、水性タイプのインクの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−114091号公報
【特許文献2】特開平11−149159号公報
【特許文献3】特開2007−507610号公報
【特許文献4】特開2010−53177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、環境保護などの観点から有用な水性のインクであって、且つ微細で精度のよい印画ができるインクジェット印刷方式で印画・印字でき、且つエッチングの際の塩化第二鉄などの無機化合物水溶液である腐食液に耐え、さらにアルカリ水溶液で溶解して現像できるエッチングレジスト用水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、エッチングレジスト用の水性インクとして有用に機能し得るポリマーの性状を見出し、本発明を達成した。すなわち、本発明者らは、アルカリ現像できうる酸基であるカルボキシル基をその構造中に有するビニル系ポリマーを用い、さらに該ポリマーを、そのカルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの少なくとも一部をアルカリで中和させ、インクを構成する水と水可溶性有機溶媒(以下、水性媒体とも呼ぶ)に溶解せずに、水分散体又はエマルジョンの形で配合させることが有効であることを見出した。このように構成したポリマーを含有してなる水性インクとすることによって、ポリマーの構造中にカルボキシル基が多くても、又は配合量が多くても、低粘度化された水性インクとなる。このインクの低粘度を達成することでインクジェット印刷ができるようになり、その結果、インクジェット印刷によって微細な線画を精度よく印刷することを達成した。本発明者らは、このインクジェット用インクとしての適性に加えて、本発明を特徴づける上記ポリマーは、エッチング耐性、アルカリ現像性に優れることを見出して、エッチングレジスト用の水性インクジェットインク組成物として本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に示すエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物を提供する。
[1]水と、水可溶性有機溶媒と、ポリマーとを少なくとも含有してなる、インクジェット印刷方式で印画されるエッチングレジスト用インクであって、該ポリマーが、α,β不飽和結合含有モノマーの付加重合によって得られ、少なくとも、カルボキシル基を有するα,β不飽和結合含有モノマーを構成成分とする、その酸価が50〜250mgKOH/gで、且つ、その数平均分子量が2,000〜20,000のものであり、さらに、インク中における該ポリマーは、カルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの少なくとも一部が、アンモニア;モノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1〜4)アミン;モノアルカノール(炭素数2又は3)アミン;モノ又はジアルキル(炭素数1〜4)モノアルカノール(炭素数2又は3)アミンからなる群から選択される少なくともいずれかの化合物で中和されており、その形態が、平均粒子径10nm〜200nmの水分散体又はエマルジョンであることを特徴とするエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。
【0008】
[2]25℃において、pHが5〜8.2であり、粘度が2〜20mPa・sである上記[1]のインク組成物。
[3]前記ポリマーの分子量分布である重量平均分子量/数平均分子量が、1.6以下である上記[1]又は[2]のインク組成物。
【0009】
[4]前記ポリマーが、A−Bブロックコポリマー構造を有し、Aのポリマーブロックが、その酸価が0〜50mgKOH/gで且つその数平均分子量が1,000〜5,000であり、Bのポリマーブロックが、その酸価が50〜200mgKOH/gで且つその数平均分子量が1,000〜15,000である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のインク組成物。
【0010】
また、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のインク組成物において、インクの成分として以下を満たすことが好ましい。
[5]さらに、着色剤成分として染料又は顔料を含むインク組成物。
[6]さらに、水性の紫外線硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを硬化成分として含むインク組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境保護などの観点から有用な水性のインクであり、且つ微細で精度のよい印画ができるインクジェット印刷方式で印画・印字をすることが可能で、且つ該インクで形成したポリマー層は、エッチングの際の塩化第二鉄などの無機化合物水溶液である腐食液に耐え、さらにアルカリ現像液で容易に溶解や剥離ができるものとなるエッチングレジスト用に有用な水性インクジェットインク組成物が提供される。本発明によれば、このエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物(以下、単にインク組成物又はインクと呼ぶ)を用いることで、例えば、金属加工、電子回路、プリント基板、製版、半導体分野、カラーフィルターなどの各種分野における画像形成やパターン形成において、微細で精度のよい画像、文字、回路、パターンなどを容易に形成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための好ましい形態を例に挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のインク組成物は、下記のようにして素材上にエッチングパターンを形成する際に用いるレジストとして機能し得るものである。腐食層(銅、亜鉛などの金属層、樹脂層)をもつ素材に、本発明の水性インクでインクジェット印刷(乾燥工程を含む)して微細な線画のポリマー膜を作成する。次いで、塩化第二鉄水溶液などの腐食水溶液にて腐食層を除去するが、本発明の水性インクで形成したポリマー層が設けられた腐食層部分は除去されることなく保護される。次いで、アルカリ水溶液にてポリマー層のカルボキシル基を中和してイオン化し、ポリマー膜を水可溶として除去する。この結果、不要な部分が除去されて、素材上に精緻な腐食層の線画が形成される。その具体例としては、例えば、その腐食層が銅であれば、精緻な回路やパターンの形成が容易にできる。
【0013】
本発明のインク組成物は、上記のような特殊用途に用いられるものであるため、通常のインクジェット用インク組成物とは異なる要求性能も必要になり、その特性の大きなポイントは下記に挙げるものになる。
(1)環境保全に資する水性でありながら、ポリマー膜を形成できること。
(2)インクジェット印刷方式で吐出できる低粘度(例えば、5mPa・s)であり、且つヘッドで乾燥しても再度液媒体で溶解すること。
(3)金属層や樹脂層などの腐食層を持つ素材に対して、密着性が高いポリマー膜を形成できること。
(4)形成したポリマー膜が、腐食水溶液に耐え得る保護層としてのポリマー膜であること、その際水に不溶であること。
(5)アルカリ現像にて、形成したポリマー膜がイオン化されて溶解して除去できること。
【0014】
本発明者らは、上記した要求性能に鑑み、エッチングレジスト用の水性インクジェットインク組成物に適用可能なポリマーとするための要件について鋭意検討した。まず、最終的にアルカリ現像できることが必要であるので、保護膜となるポリマーには、アルカリにてイオン化して水に溶解するポリマーとするために、その構造中に酸基を多く持つことが必須になる。または、水可溶性を出すために、その構造中に、親水性を出すポリエーテルなどの水溶性基を導入してもよい。しかし、アルカリ現像では、その酸基を持つポリマーが水に溶解するということなので、そのまますべての酸基を中和してインクにすると粘度が高くなってしまい、インクジェット印刷で印字できる低粘度のインクにならない。また、その構造中に親水性基を有すると腐食水溶液に溶解してしまい、強固な保護膜として機能できないといった別の問題が出てくる。本発明者らは、これらのことから、エッチングレジスト用であって、しかもインクジェット印刷用である本発明のインクに対する要求性能を満足するためには、インクの粘度を上げず、且つ腐食水溶液に分解や溶解せず、且つアルカリ現像液で溶解して水に溶解するという性質を併せ持つポリマー成分の開発が必要であるとの結論に至った。
【0015】
本発明者らは、上記した観点から、インク組成物に含有させるポリマー成分について鋭意検討した結果、上記した問題は次の方法によって解決することができることを見出し、本発明を達成した。すなわち、少なくとも、水、水可溶性有機溶媒、バインダーとからなる水性インクにおいて、該バインダーを、カルボキシル基を有するビニル系ポリマーとし、且つそのカルボキシル基の一部がアルカリにて中和されてイオン化しており、且つ水媒体に分散又は乳化している形態の、ポリマーの水分散体又はエマルジョンとすることで、上記の課題はいずれも解決可能になる。
【0016】
さらに詳しくは、該ポリマーは、下記の要件をいずれも満足する平均粒子径10nm〜200nmの水分散体又はエマルジョンであることを要する。
(1)α,β不飽和結合含有モノマーの付加重合で得られたものであること。
(2)カルボキシル基を有するα,β不飽和結合含有モノマーを少なくとも構成成分として付加重合されたもので、ポリマー中の酸価が50〜250mgKOH/gのものであること。
(3)数平均分子量が2,000〜20,000であること。
(4)そのカルボキシル基含有量の酸価のうちの少なくとも一部(カルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの少なくとも一部)が、アルカリで中和されていること。ここで、少なくとも一部とは、ポリマーが本来有するカルボキシル基に由来する酸価のうちの10〜100mgKOH/g程度が中和されていることを意味しており、上記した酸価の一部が部分中和されたものをインク成分として用いることを意味している。
(5)部分中和するためのアルカリが、アンモニア;モノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1〜4)アミン;モノアルカノール(炭素数2又は3)アミン;モノ又はジアルキル(炭素数1〜4)モノアルカノール(炭素数2又は3)アミンからなる群から選択される少なくともいずれかであること。
【0017】
以下、本発明に使用されるポリマーの構成成分などについて詳細に説明する。該ポリマーは、α,β不飽和結合含有モノマー(以下、単にビニルモノマー、又はモノマーともいう)の付加重合で得られるビニル系ポリマーである。具体的には、オレフィン系、スチレン系、アクリル系、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、ビニルアミド系、ハロゲン化ビニル系モノマーなどのいずれかのポリマー種、これらに使用されるモノマーの組み合わせにてできるポリマー種のいずれかであって、且つカルボキシル基を有するビニルモノマーを成分として含むことを必須とする。
【0018】
本発明で使用するカルボキシル基を有するビニル系モノマーとしては、特に限定されないが、下記のものが挙げられる。例えば、ビニル安息香酸、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸二量体或いは(メタ)アクリル酸モノヒドロキシアルキルエステルなどの水酸基含有モノマーに、無水フタル酸や無水コハク酸などの二塩基酸を反応させたモノマーや、α−クロロアクリル酸などが使用できる。
【0019】
本発明を特徴づけるポリマーは、上記に挙げたようなカルボキシル基含有モノマーのホモポリマー又は他のビニルモノマーとの共重合体である。この場合に使用できる他のビニルモノマーとしては、付加重合できるα,β不飽和結合含有モノマーであれば特に限定はなく、下記に挙げるものが例示される。例えば、エチレンやプロピレンなどの不飽和炭化水素系のモノマー;スチレンやビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系のモノマー;クロロエチレンやテトラフルオロエチレンなどのハロゲン系ビニルモノマー;(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系のモノマー;(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系のモノマー;(メタ)アクリルアミドやN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系のビニルモノマー;酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー;ビニルt−ブチルエーテルなどのビニルエーテル系のモノマー;N−ビニルカプロラクタムなどのビニルアミド系モノマーが使用できる。
【0020】
特に本発明では、上記その他のモノマーとして、芳香族炭化水素系のモノマーや(メタ)アクリル酸エステル系のモノマーからなるポリマーを用いることが好ましい。その理由は、これらのモノマーは、モノマー種類の多さによる性能改良や性能最適化の容易さ、リビングラジカル重合にて、工業的に容易に構造が制御されたポリマー構造とすることができるからである。
【0021】
さらに、本発明を特徴づけるポリマーの合成に好適に使用できる芳香族炭化水素系モノマーを例示すると、下記のものが挙げられる。例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、t−ブチルビニルベンゼンエーテル、クロロメチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ビニルアントラセンおよびスチレンスルホン酸などから選択したものが、いずれも使用できる。
【0022】
また、本発明を特徴づけるポリマーの合成に好適に使用できる(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、下記の従来公知の種々のモノマーが挙げられ、いずれも使用できる。該モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパン(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、べへニル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロデシルメチル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどのアルキル、シクロアルキル(メタ)アクリレート;
【0023】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート;
【0024】
ポリ(n=2以上)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート;
【0025】
(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート((ポリ)プロピレングリコ−ルモノメチルエーテル(メタ)アクリレートなどのグリコールエーテル系(メタ)アクリレート;
【0026】
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイロキシエチルグリシジルエーテル、(メタ)アクリロイロキシエトキシエチルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有(メタ)アクリレート;
【0027】
(メタ)アクリロイロキシエチルイソシアネート、2−(2−イソシアナトエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、およびそれらイソシアネートのε−カプロラクトンやMEKオキシム、ピラゾールなどでイソシアネートをブロックしてあるモノマーなどのイソシアネート基含有(メタ)アクリレート;
【0028】
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、オキセタニルメチル(メタ)アクリレートなどの環状(メタ)アクリレート;
【0029】
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレート;
【0030】
オクタフルオロオクチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン元素含有(メタ)アクリレート;
【0031】
2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの如き紫外線を吸収する(メタ)アクリレート;
【0032】
トリメトキシシリル基やジメチルシリコーン鎖を持ったケイ素原子含有(メタ)アクリレートなどのモノマー、などが挙げられる。
【0033】
また、これらのモノマーを重合して得られるオリゴマーの片末端に(メタ)アクリル基を導入して得られるマクロモノマーなども使用することができる。
【0034】
また、上記で使用するモノマー構成成分としては、上記に限定されず、下記に挙げるようなものも使用できる。例えば、上記したような水酸基やカルボキシル基の官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーを使用して合成したアクリル樹脂に、これらの官能基と反応しうる基を有する(メタ)アクリレート、例えば、イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどを反応させて感光性基を導入したものであってもよい。
【0035】
また、下記に挙げるような、カルボキシル基以外の酸であるスルホン酸基やリン酸基を有するモノマーも使用できる。具体的には、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、リン酸エチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
本発明を特徴づけるポリマーは、上記に列挙したモノマーの一種以上を構成成分としてなるが、該ポリマーによって形成された保護膜がアルカリ現像できるようにするために、ポリマー中の酸価が50〜250mgKOH/gであることを要する。すなわち、50mgKOH/g未満では十分なアルカリ現像ができず、または非常に溶解が遅くなり、実用的ではない。一方、ポリマー中の酸価が250mgKOH/gよりも大きいと、酸基が多すぎて水可溶性が出てきてしまい、エッチングする際の腐食水溶液に溶解してしまう可能性があり、加えて耐水性が悪い。より好適には、ポリマー中の酸価が65〜150mgKOH/gであるものを用いることが好ましい。このポリマーの有する適宜な酸価によって、本発明のインクによって形成したポリマー膜は、十分なアルカリ現像性を達成できる。
【0037】
本発明では、以上の酸価を持つポリマーをインクの構成成分として用いるが、この酸基をすべて中和してしまうと、水に溶解してしまい、インク化したときに粘度が高くなってしまう恐れがあり、インクジェット印刷で安定な吐出ができなくなる。そこで、本発明では、その構造中のカルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの少なくとも一部を中和することで、水溶解性をなくし、該ポリマーを特定の平均粒子径の水分散体又はエマルジョンとする。このように構成したことで、上記ポリマーをインクに含有させた場合に低粘度のインクとすることができる。このため、本発明のインクは、安定した状態でインクジェット印刷が可能なものとなる。加えて、低粘度の水分散体またはエマルジョンであるため、インク中にポリマー成分を多く配合することができ、この結果、良好に機能するレジスト膜の形成が可能になる。
【0038】
上記したポリマーの一部分の中和に関しては、要するに水不溶とする範囲、具体的には、ポリマーが、平均粒子径が10nm〜200nmの水分散体又はエマルジョンとなる範囲で調整される。本発明で使用するポリマーの酸価の範囲である50〜250mgKOH/g、より好ましい範囲である65〜150mgKOH/gのうちの、どれくらいの酸価を中和すればよいか(以下中和率)は、重合されるモノマーの性質によってそのポリマーの性質が変わるので、一概に言えない。しかし、平均粒子径が10nm〜200nmの水分散体又はエマルジョンとするためには、好ましくは、ポリマー中のカルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの10〜100mgKOH/gを中和するとよい。例えば、極端な例で言えば、上記酸価の範囲の最小値である50mgKOH/gの場合、50mgKOH/gすべてを中和しても水可溶性にならなければよい。しかし、好ましくは、50mgKOH/g未満で中和する。上記酸価の範囲の最大値である250mgKOH/gの場合は、100mgKOH/g以下の範囲で中和するとよい。この中和率は、重合に使用するモノマーによって得られるポリマーの性質が変わるので、使用するモノマーによって適宜に決められる。
【0039】
次に、本発明で使用するポリマーは、数平均分子量が2,000〜20,000のものを使用する。上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記する)のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)である。なお、以下の分子量はいずれも、GPC測定によるポリスチレン換算の値である。この数平均分子量が2,000未満であるとポリマーの物性が弱く、本発明のインクによって形成したポリマー膜(保護膜)がもろくなったり、液状であったりするため、エッチングする際に腐食水溶液で溶解してしまうなど、保護膜としての性能が劣る場合がある。一方、数平均分子量が20,000よりも大きい場合は、最終的にアルカリ現像する際に、酸価がある程度あっても溶解しなかったり、現像に時間がかかり遅かったりする場合がある。さらには、数平均分子量が5,000〜17,000の範囲にあるポリマーを使用することが好ましい。
【0040】
上記したようなモノマー組成で、本発明で規定する酸価を持ち、さらに酸価の一部分を中和することで、水分散体又はエマルジョンとなるが、その場合のポリマーの平均粒子径は10〜200nmである。この平均粒子径はどのような測定方法の値でもよく、例えば、動的光散乱法などが用いられる。以下、光散乱法での測定による平均粒子径とする。インク中におけるポリマーの平均粒子径が10nm未満であると、分散体といえども粘度が出てしまう可能性がある。一方、ポリマーの平均粒子径が200nmよりも大きくなると、インクジェット印刷装置のインクジェットヘッドにポリマーが詰まってしまったり、印画した場合に、ドットが大きくなって微細な線画が描けなかったりすることが生じる。より好ましいポリマーの平均粒子径は20nm〜120nmである。
【0041】
以上のポリマーは、従来公知の重合方法によって得ることができ、特に限定されない。通常のアゾ系ラジカル発生剤や過酸化物系ラジカル発生剤を使用するラジカル重合も使用できるし、新しい重合方法として、リビングラジカル重合方法によって得ることもできる。
【0042】
リビングラジカル重合は各種の方法があり、特に限定されない。リビングラジカル重合は、下記に例示されるような従来公知の方法に従って行えばよい。リビングラジカル重合の例としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
(a)ニトロキサイドを使用する重合法(Nitroxide mediated polymerization(NMP法))、
(b)ハロゲン元素である保護基を金属錯体などで引き抜く原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization(ATRP法))、
(c)ジチオエステルやザンテート化合物を使用する可逆的付加開裂型連鎖移動重合法(Revarsible Addition Fragmentation Transfer Polymerization(RAFT法))、
(d)有機テルル化合物や有機ビスマス化合物などを使用する方法、
(e)コバルト錯体を使用する方法、
(f)ヨウ素移動重合法、
(g)ヨウ素を保護基とし、触媒としてリン、窒素、酸素、又は炭化水素を含む化合物を使用する可逆的触媒移動重合法(Revarsivle Transfer Catalized Polymerization(RTCP法))など。
【0043】
また、本発明のインクを構成するポリマーには、重合によって得られる重量平均分子量/数平均分子量である分子量分布はどのような値のものでも使用できる。中でも、リビングラジカル重合では、その分子量分布を狭くすることができるので、リビングラジカル重合で得たポリマーを用いることが好ましい。ポリマーの分子量が狭い、すなわち、このことは分子量が揃っているということであり、この場合はポリマー鎖一本一本の分子量が同じとなるので溶解性が均一に近くなる。この結果、アルカリ現像した場合に、シャープな線画のエッジ形成が可能になる。好ましくは、分子量分布が1.6以下、より好ましくは1.5以下のポリマーを用いることが好ましい。
【0044】
本発明を特徴づけるポリマーは、上記したように、ラジカル重合やリビングラジカル重合などの重合方法を用いて重合して得られたものを用いることができるが、その構造は、ランダム構造、ブロック構造、グラフト構造、星型ポリマー構造などの構造をとることができ、いずれのものも使用できる。本発明においては、より好ましくは、該ポリマーの構造がA−Bブロックコポリマーであって、Aのポリマーブロックが、酸価が0〜50mgKOH/gで且つその数平均分子量が1,000〜5,000であり、Bのポリマーブロックが、その酸価が50〜200mgKOH/gで且つその数平均分子量が1,000〜15,000であるとよい。
【0045】
本発明において、特に上記構造のA−Bブロックコポリマーが好適である理由について、本発明者らは以下のように考えている。上記構造を有するため、水に溶解しない又はしにくいAのポリマーブロックが粒子を形成する一方、Bのポリマーブロックは中和によって水に溶解し、分散体やエマルジョンを形成し低粘度化し、且つAのポリマーブロックは水に不溶のため、腐食水溶液に対してより不溶であり、さらに基材の密着性を高めることができる結果、該ポリマーを用いることでより良好なエッチングレジスト用インクになる。本発明者らの検討によれば、さらに好ましくは、Aのポリマーブロックの酸価が0〜20mgKOH/gで、Bのポリマーブロックの酸価が60〜150mgKOH/gであるA−Bブロックコポリマーを用いるとよい。
【0046】
また、本発明に好適なA−BブロックコポリマーのAのポリマーブロックの数平均分子量は1,000〜5,000であるが、かかる範囲は、疎水性をもち密着性を高め、且つアルカリ現像時に溶解しづらいなどの影響を与えない範囲である。より好ましくは、Aのポリマーブロックの数平均分子量が2,000〜5,000であるポリマーを用いるとよい。また、本発明に好適なA−BブロックコポリマーのBのポリマーブロックの数平均分子量は1,000〜15,000であるが、これは、アルカリ現像できうる水溶解性が発揮できる範囲である。この数平均分子量が1,000未満であるとアルカリ現像ができない場合があり、一方、15,000を超えると、Bのポリマーブロックの数平均分子量が大きすぎて現像に時間がかかりすぎ、実用的ではない。より好ましくは、Bのポリマーブロックの数平均分子量が4,000〜7,000であるA−Bブロックコポリマーを用いるとよい。
【0047】
上記したA−Bブロックコポリマーの合成に使用されるモノマーとしては前記モノマーが使用でき、特に限定されない。また、前記したリビングラジカル重合を用いれば、AのポリマーブロックおよびBのポリマーブロックのそれぞれが、上記したような好適なものであるA−Bブロックコポリマーを容易に合成できる。その手法は特に限定されない。
【0048】
本発明のインクを構成する特定のポリマーの水分散体やエマルジョンを作る方法は、特に限定されない。例えば、溶液重合後、その酸価を中和するアルカリを溶解させた水溶液を添加して得ることもできるし、溶液重合で得たポリマーを貧溶剤で析出させたり、乾燥させたりしてポリマーを得て、これをアルカリ水溶液で中和して得ることもできる。また、乳化剤や保護コロイド性水可溶性ポリマーの存在下、乳化重合した後、アルカリを加えて中和して得てもよい。なお、前記したように、上記における中和は、本発明で使用するポリマーの酸価を部分的に中和することを意味している。
【0049】
次に、本発明で使用されるポリマーの酸価を部分的に中和する際に用いるアルカリについて説明する。該アルカリは、インクジェット印刷後の乾燥工程がある場合を考慮すると揮発性のアミンが好ましく、具体的には、アンモニア、モノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1〜4)アミン、モノアルカノール(炭素数2又は3)アミン、モノ又はジアルキル(炭素数1〜4)モノアルカノール(炭素数2又は3)アミンを用いることを要する。より具体的には、アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1〜4)アミン;モノエタノールアミン、モノプロパノールアミンなどのモノアルカノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどのモノ又はジアルキル(炭素数1〜4)モノアルカノールアミンのいずれか一種以上がよい。さらに好ましくは、アンモニア、トリメチルアミン、モノエタノールアミンが、揮発性が高く、残存しにくく、市販品として入手しやすいので好適である。
【0050】
本発明のインク組成物は、保護膜の形成材料である上記で説明した特定のポリマーと、水、水可溶性溶媒を少なくとも構成成分としてなる。インク中の水可溶性溶媒の働きは、下記に述べるように、インクジェットインクのヘッドの乾燥防止と、基材へのインクの濡れ性向上をはかることである。すなわち、インクが乾燥してしまうと、ヘッドで詰まったり、インクの吐出が不安定であったりする。これに対し、水可溶性溶媒を使用すると、ヘッドの乾燥を防止することができる。好ましくは、沸点が100℃以上の水可溶性溶媒を用いるとよい。また、水とポリマーだけであると表面張力が高く、基材に濡れにくい可能性があるが、水可溶性溶剤を添加することで、表面張力を下げて膜の形成を有利にさせることができる。特に、インクの表面張力の限定はないが、本発明では、その表面張力は50mN/m以下であることが好ましいと考えられる。
【0051】
本発明で用いる水可溶性溶媒は特に限定されない。水に完全に溶解する溶媒でもよいし、少しでも水に溶解する溶媒でもよいが、好ましくは20g/水1L以上の溶解性をもつ溶剤を用いるとよい。本発明に使用し得る水可溶性溶媒を例示すると、メタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテートなどのグリコール系溶媒;乳酸エチル、ε−カプロラクトンなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ピロリドンなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素などの極性溶媒などが挙げられる。これらは、1種以上が選択されて使用される。
【0052】
本発明のインクを構成する上記した水、水可溶性溶媒、ポリマーの量は、当該インクを使用するインクジェット印刷機の種類や印刷条件などによって調整され、その配合比は特に限定されない。好ましくは、水30〜70質量%、水可溶性溶媒5〜40質量%、ポリマー成分5〜30質量%である。本発明の特徴は水分散体又はエマルジョンである低粘度化されたポリマー成分であるので、ポリマー成分を多くすることができることが特徴である。本発明のインクは、エッチングレジスト用という特殊用途のインクであるので、該インクで保護膜としての性能を保持するパターンを形成するには、ある程度の保護膜の厚さが必要である。すなわち、本発明のインクは、吐出するインクの成分量が多い方がよく、このため、インク中におけるポリマー成分は、好ましくは10〜20質量%とするとよい。
【0053】
本発明のインク組成物は、以上のような構成を有し、エッチングレジスト用として有用であるが、下記に述べるように、上記構成を採ることで、そのインクの性質は、25℃において、pHが5〜8.2の範囲であり、粘度が2〜20mPa・sの範囲のものになる。
【0054】
まず、インクのpHは、本発明のインクでは、含有させたポリマーは、カルボキシル基を部分中和されているので、未中和のカルボキシル基が存在することになり、そのpHは酸性〜弱アルカリ性となる。その範囲は、pHが5〜8.2であり、この範囲で、水分散体やエマルジョンとなる。pHが5よりも小さいと、水分散体やエマルジョンの安定性が悪くなってしまい、析出や沈降が起こる可能性がある。一方、pHが8.2以上であると溶解状態となってしまい、粘度が上がる可能性がある。より好ましいインクのpHは、5.5〜8である。
【0055】
要求されるインクの粘度は、当該インクを適用するインクジェット印刷機の性能によって異なってくるが、好ましくは2〜20mPa・sである。2mPa・sより小さいと吐出安定性が悪くなる傾向があり、20mPa・sより大きいと、場合によっては吐出できなくなる可能性がある。より好ましいインクの粘度は、3〜10mPa・sである。
【0056】
以上が基本的な本発明のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物であるが、必要に応じて、着色成分として、染料や顔料を使用してもよい。印字した部分の視認性に使用できるからである。染料や顔料は特に限定されない。染料は水可溶性染料がよく、顔料は少なくとも水性分散してある顔料分散体を使用することが必要で、顔料は無機顔料、有機顔料いずれのものでも使用できる。例示すると、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジケトピロロピロール系、ペリレン系、キノフタロン系、ジオキサジン系などの有機系染料や顔料、カーボンブラック系、酸化チタンなどの無機顔料などが挙げられる。
【0057】
着色剤の本発明のインクへの配合量も任意であり、はっきりと画像を視認したい場合は、配合量を多くし、薄くしたい場合は、配合量を少なくすればよい。配合量としては、染料の場合は、インク中に0.1〜3質量%、顔料の場合は、0.5〜5質量%が好ましい例として挙げられる。
【0058】
さらに加えて、硬化性成分として、インク中に水性の紫外線硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを添加してもよい。これらの成分としては、従来公知のものを使用でき、特に限定はない。紫外線硬化性モノマーとしては、前記した(メタ)アクリレート系のモノマーが挙げられ、オリゴマーとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのグリコール系の多価アクリレート系などが挙げられる。硬化性成分を添加することで、インクによって形成した保護膜に架橋構造をとらせることができるので、腐食液に対する耐性をさらに向上させることができ、保護膜としての性能向上効果が得られる。
【0059】
さらに、必要に応じて、重合開始剤、光酸発生剤、界面活性剤、防腐剤、レベリング剤、消泡剤などの添加剤を配合することができるが、特に限定されない。
【0060】
本発明のインク組成物を適用するエッチングの手法については、その使用する素材、腐食液、アルカリ現像液や、その方法や条件など、特に限定されるものではなく、従来公知の材料、方法が取られる。すなわち、インクジェット印刷ができる本発明の水性インクジェットインク組成物にて印字して素材上に保護膜を形成し、その後、エッチング工程とアルカリ現像工程を含むものであれば、全く限定されない。保護膜を形成する素材について例示すると、例えば、アルミニウム、真鍮、ステンレスなどの金属鋼板、銅張積層板、アルミニウム蒸着シリコン基板、銅箔積層ポリイミド樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0061】
エッチングに用いる腐食液としては、第二塩化鉄水溶液、塩化第二銅水溶液、アンモニア銅水溶液、高濃度水酸化ナトリウム水溶液、高濃度塩酸、フッ化水素水、硝酸第二鉄水溶液などが使用でき、アルカリ現像液としては、水酸化カリウム水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド水溶液、(メタ)珪酸ナトリウム水溶液などが使用できるが、それらの濃度は任意である。
【0062】
本発明のインク組成物をエッチングレジストとして用いて素材上に保護膜を形成する工程において行うインクジェット印刷としては、従来公知のインクジェット方式がとられ、ピエゾヘッド、サーマルヘッドでの印刷も使用できる。本発明のインクは、水性であるので、印刷後に乾燥工程を含むことが好ましい。具体的には、印字後、乾燥温度50〜130℃で、数秒〜30分程度で乾燥して保護膜を形成することが好ましい。この際に、インクの構成成分である、水、アルカリ、有機溶媒の全部又は一部が揮発して、保護層であるポリマー膜を形成する。次いで、腐食液でエッチングするが、その時間、温度は任意であり、ポリマー層で保護されていない部分の素材が腐食溶解する。次いで、好ましくは洗浄した後に、アルカリ現像液に浸漬させ、ポリマー層を溶解する。その現像時間や温度は任意である。これら一連の工程によって、文字、画像、パターン、回路などの微細で精度のよい線画を得ることができる。
【実施例】
【0063】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0064】
[合成例1]ランダムポリマー型
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計を取り付けた反応容器に、ブチルセロソルブ(以下BCSと略)200部、ブチルジグリコール(以下BDGと略)200部を仕込んで、85℃に加熱した。85℃に達したら、アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと略)を4部加えた。また、別に用意したスチレンモノマー(以下Stと略)80部、ブチルアクリレート(以下BAと略)80部、メチルメタクリレート(以下MMAと略)80部、ラウリルメタクリレート(以下LMAと略)40部、ヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMAと略)60部、メタクリル酸60部、AIBN16部を混合したモノマー溶液416部のうち、138部を加えた。残り278部は1時間30分かけてゆっくりと滴下しながら加えた。モノマー溶液の滴下終了後、AIBNを2部加え、さらに5時間30分85℃にて撹拌を行い、ポリマー溶液P−01を得た。
【0065】
ポリマー溶液P−01をサンプリングし、固形分を測定したところ50.3%であり、不揮発分から換算した重合転化率はほぼ100%であった(以下、重合転化率、重合率はこの方法によって測定される)。この時のゲル浸透クロマトグラフィー(以下GPCと略)の示差屈折計(以下RIと略)での数平均分子量(以下Mnと略)は9,400であり、重量平均分子量(以下Mwと略)は18,500であり、Mw/Mnから得られる分散度(以下PDIと略)は1.97であった。酸価は、フェノールフタレインを指示薬、0.1NKOHエタノール溶液を滴定液とし、トルエン/エタノール=50/50溶液にて滴定測定したところ、97.7mgKOH/gのポリマー酸価であった。
【0066】
[中和例1]
ビーカーにポリマー溶液P−01を100部仕込み、28%アンモニア水4.7部、水15.3部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Aを得た。この時、P−01Aの酸基に対する中和率は60%であり、ポリマー酸価の97.7mgKOH/g中の58.6mgKOH/g分を部分中和した(以下、部分中和を中和率で表す)。固形分は25.3%であった。また、P−01Aを水で10倍希釈した溶液のpHは7.9(25℃、以下25℃での測定値)である半透明の水分散体を得、水希釈して光散乱による粒子径測定を行なった(原理上体積基準の平均粒子径。以下、平均粒子径はこの方法で測定)。その結果、平均粒子径は35nmであった。
【0067】
[比較中和例1]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、28%アンモニア水8.7部、水11.3部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Bを得た。この時、ポリマー溶液の中和率は110%ですべての酸基を中和するものであり、固形分は25.4%であった。また、ポリマー溶液は高粘性の透明な液体となった。pHは9.2であった。透明であるので平均粒子径は測定できなかった。
【0068】
[中和例2]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、モノエタノールアミン2.1部、水17.9部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Cを得た。この時、P−01Cの中和率は40%であり、固形分は26.1%であった。また、P−01Cを水で10倍希釈した溶液のpHは8.0であった。半透明である水分散体を得た。その平均粒子径は41nmであった
【0069】
[比較中和例2]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、ジエタノールアミン3.7部、水16.3部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Dを得た。この時、P−01Dの中和率は40%であり、固形分は26.3%であった。また、P−01Dを水で10倍希釈した溶液のpHは7.9であった。半透明である水分散体であった。平均粒子径は32nmであった。
【0070】
[比較中和例3]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、トリエタノールアミン5.2部、水14.8部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Eを得た。この時、P−01Eの中和率は40%であり、固形分は26.0%であった。また、P−01Eを水で10倍希釈した溶液のpHは7.7であった。透明感が強い液体であった。平均粒子径は23nmであった。
【0071】
[中和例3]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、ジメチルアミノエタノール3.1部、水16.9部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Fを得た。この時、P−01Fの中和率は40%であり、固形分は26.2%であった。また、P−01Fを水で10倍希釈した溶液のpHは7.9であった。半透明である水分散体であった。平均粒子径は45nmであった。
【0072】
[中和例4]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、ジメチルアミノエタノール4.7部、水15.3部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−01Gを得た。この時、P−01Gの中和率は60%であり、固形分は25.8%であった。また、P−01Gを水で10倍希釈した溶液のpHは8.2であった。幾分透明感のある水分散体であった。平均粒子径は36nmであった。
【0073】
[比較中和例5]
中和例1と同様にポリマー溶液P−01を仕込み、水酸化ナトリウム3.1部と水16.9部の混合液を加え、撹拌して中和した。続けて水40部を加え撹拌した。さらに水40部を加え撹拌し、ポリマー溶液P−01Hを得た。この時、P−01Hの中和度は40%であり、固形分は27.3%であった。またpHは8.4であった。透明感が強い液体であった。粒子径が検出できなかった。水酸化ナトリウムであることで、水への溶解性が高く、明らかな粒子にならず、検出できなかったものと考えられる。
【0074】
以上の中和例をまとめ、表1に示した。

【0075】
[比較合成例1]親水性鎖を有するランダムポリマー型
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計を取り付けた反応容器に、エタノール100部、BDG100部を仕込んで、75℃に加熱した。75℃に達したら、別に用意したSt40部、MMA30部、エチルメタクリレート(以下EMAと略)30部、ラウリルメタクリレート(以下LMAと略)40部、メタクリル酸30部、分子量約400のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(以下PME−400と略)30部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下V−65と略)5部を混合したモノマー溶液205部のうち、68部を加えた。残り137部は1時間30分かけてゆっくりと滴下しながら加えた。モノマーの滴下終了後、1時間後、V−65を1部加えた。続けて1時間後、V−65を1部加えた。さらに3時間75℃にて撹拌を行い、ポリマー溶液P−02を得た。得られたP−02をサンプリングし、換算した重合転化率は100%であった。この時のGPCのRIでのMnは13,100であり、PDIは1.77であった。また、該ポリマーの酸価は97.8mgKOH/gであった。
【0076】
[比較中和例5]
500mlビーカーにポリマー溶液P−02を100部仕込み、モノエタノールアミン2.1部、水17.9部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−02Aを得た。この時、P−02Aの中和率は40%であり、固形分は26.4%であった。また、P−02Aを水で10倍希釈した溶液のpHは8.02(25℃)であった。透明感が強い液体であり、粒子径が検出できなかった。この理由は、ポリマーの構造中にポリエチレングリコール鎖が多く結合しているので、水溶性(親水性)が高く明らかな粒子にならず、検出できなかったものと考えられる。
【0077】
[合成例2]狭い分子量分布を持つ(低PDI)ランダムポリマー型
合成例1と同様の装置を使用して、BDG172.9部、ベンジルメタクリレート(以下BzMAと略)70.4部、メタクリル酸8.6部、HEMA13.0部、ヨウ素1.0部、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下V−70と略)3.7部、N−アイオドスクシンイミド0.11部を仕込んで、窒素を流しながら、40℃で撹拌して8時間重合し、ポリマー溶液P−03を得た。サンプリングし、固形分を測定したところ、35.6%であり、重合転化率はほぼ100%であった。GPCによるMnは10,900であり、Mwは13,950であり、PDIは1.28であった。酸価の測定によって樹脂の酸価は61.0mgKOH/gであった。なお、本合成方法は、本文中にリビングラジカル重合の例として記載した(g)の方法を取っている。
【0078】
[中和例5]
500mlビーカーにP−03を142.8部仕込んで、モノエタノールアミン1.2部、水7.8部を加え、撹拌して中和した。続けて、水20.0部を加え、撹拌した。さらに、水27.2部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−03Aを得た。この時、P−03Aの中和率は50%であり、固形分は26.0%であった。また、P−03Aを水で10倍希釈した溶液のpHは7.9であった。透明感のある白色のエマルジョンを得、平均粒子径は62nmであった。
【0079】
[合成例3]ブロックポリマー型
合成例1と同様の装置を使用して、ジメチルジグリコール179部、BzMA35.2部、メタクリル酸1.8部、ヨウ素1.0部、V−70を5.0部、ジフェニルメタン0.3部を仕込んで、窒素を流しながら7時間重合し、Aのポリマーブロックを得た。一部をサンプリングして、重合率はほぼ100%であった。また、Mnは4,300であり、PDIは1.12であった。酸価の測定の結果、31.7mgKOH/gであった。これのポリマーの一部をアンモニア水で中和してみたところ溶解せずに析出した。酸価が低いため、溶解しなかったと考えられる。
【0080】
次いで、BzMA52.8部、メタクリル酸8.6部、HEMA6.5部を仕込んでさらに4時間重合し、A−BブロックポリマーであるP−04を得た。重合率はほぼ100%であり、Mnは16,800であり、PDIは1.36であった。すなわち、Bのポリマーブロックの分子量は12,500である。このA−Bブロックポリマーにおいて、GPCのピークから、Aのポリマーブロックが高分子量側にずれていることが確認できた。これは、Aのポリマーブロックから重合が始まり、A−Bブロックポリマーとなったと考えられる。また、該ポリマーは、酸価測定の結果、71.0mgKOH/gであった。Bのポリマーブロックだけでみると、その酸価は配合上の計算から82.6mgKOH/gである。固形分は51.0%であった。なお、本合成方法は、本文中にリビングラジカル重合の例として記載した(g)の方法を取っている。
【0081】
[中和例6]
ビーカーにP−04を100部仕込んで、モノエタノールアミン2.3部、水17.7部を加え、撹拌して中和した。続けて、水40部を加え、撹拌した。さらに、水40部を加え、撹拌し、ポリマー溶液P−04Aを得た。この時、P−04Aの中和率は60%であり、固形分は25.6%であった。また、P−04Aを水で10倍希釈した溶液のpHは7.7であった。透明感のある白色のエマルジョンを得、平均粒子径は70nmであった。
【0082】
[実施例1]
300リッタービーカーに、中和例1で得たP−01Aを59.3部、ダイレクトブルー86を0.3部、エチレングリコール20部、グリセリン2部、イオン交換水18.4部を配合して、撹拌機にて均一になるように撹拌した。次いで、5μm、次いで1.2μmのフィルターにてろ過し、インクを作成した。粘度を測定したところ、3.6mPa・sであり、pHは7.5であった。
【0083】
[実施例2〜4、比較例1〜5]
実施例1と同様にして、表1に記載したP−01B〜H、P−02Aを使用して、ポリマー分が12%になるようにイオン交換水の量を調整してインクを作成した。これらのインクの主組成と性状を、実施例1のインクとあわせて表2に示した。
【0084】

【0085】
[評価例1]
これらのインクをカートリッジボトルに装填し、ピエゾ式インクジェット印刷機(マスターマインド社製、MMP813P)にて、アセトンで表面の油脂などを除去した真鍮鋼板に、10ポイント、16ポイント、24ポイント、40ポイントのフォントの大きさの明朝体にて“永”の字を印字し、この印字物を80℃、3分乾燥させ、保護層であるポリマー膜を形成させた。
【0086】
その結果、実施例1〜4のインク組成物を使用した場合においては、吐出性がよく、印字の“永”の字のそれぞれの部分である“はね”や“はらい”の細かい部分まで綺麗に印字されていることが確認できた。しかし、比較例1のインク組成物を使用した場合では、吐出不能で印字できなかった。これは、この印刷機に対してはインクの粘度が高すぎたためと考えられ、最適な低粘度が必要と考えられる。次に、比較例2と3のインク組成物を使用した場合に関しては、“永”の字の前記した部分に若干乱れが生じていた。これは中和しているアミンが揮発しにくいことと、親水性が高いアミンであることから、乾燥時に乱れが生じたものと考える。しかし、比較例4、5のインク組成物を使用した場合については、実施例1〜4と同様の結果を得た。これは、比較例4、5のインク組成物については、その構成成分としたポリマー溶液では粒子が観察されなかったが、インク組成溶媒中ではうまくポリマーが粒子となったためと考えられる。
【0087】
次いで、この印字された鋼板を、20%の塩化第二鉄水溶液に30℃で8分浸漬させ、エッチングした。その結果、実施例1〜4のインクを用いた場合については、ポリマー膜の剥がれがないことが確認できた。これは、ポリマーの構造中の酸基であるカルボキシル基が基材との密着性を高め、且つ酸基をもつポリマーであるので、強酸である腐食液にも溶解しなかったためと考えられる。これに対し、比較例2〜5のインクを用いた場合では、エッチングの際にポリマー膜が剥がれていて、レジストとしての性能を保持していないことを確認した。これは、比較例2〜4のインクの成分としたポリマーの中和に用いた中和剤が高沸点のアミンや金属塩であったため、ポリマー構造中のカルボキシル基が中和されたままであり水溶解性が出てしまい、腐食液に溶解してしまったためと考えられる。また、比較例5のインクでは、その成分中のポリマーの合成にポリエチレングリコール系のメタクリレートが多く配合されており、部分的に中和しても明らかな粒子にならず親水性が高いために、該インクで形成したポリマー膜が腐食液に溶解してしまったためと、ポリマー膜自体の基材への密着性が足りなかったからと推測される。
【0088】
次いで、実施例1〜4でのエッチングされたアルミ鋼板を、よくイオン交換水で洗浄した後、2.5%水酸化カリウム水溶液に15秒浸漬させて現像操作を行った。この結果、すべての実施例において、その一部が膜状となって脱落している状態が見られたが、ポリマー膜が容易に溶解し、真鍮鋼板に綺麗な“永”の字を様々なフォントの大きさで形成することができた。この技術を利用することで、文字、画像、パターン、回路などの精密な線画を描くことができることが確認された。
【0089】
[実施例5]
実施例1と同様の装置にて、合成例2で得たP−03を部分中和した、中和例5で得たP−03Aを46.1部、NAFカラーNAF5091ブラック(カーボンブラックの水分散体、顔料分35%、大日精化社製)を8.7部、エチレングリコールを7部、ジエチレングリコールを7部、イオン交換水31.2部を混合した後、5μm、次いで1.2μmのフィルターにてろ過してインクを作成した。得られたブラックインクは、粘度が3.6で、pH8.1であった。
【0090】
[評価例2]
評価例1と同様にして、実施例5で得たブラックインクをカートリッジボトルに装填し、前記したインクジェット印刷機にて、アセトンで表面の油脂などを除去した銅箔積層シリコンウェハーに、1mmの線幅の線を間隔1mmあけて10本印刷した。この結果、ヘッドのつまりもなく問題なく吐出できた。次いで、印刷した上記素材を100℃で1分乾燥して、ポリマー層を形成させた。綺麗な線画を得ることができ、膜の剥がれなどは確認されなかった。
【0091】
次いで、評価例1と同様にしてエッチングしたところ、銅箔がなくなり、シリコンウェハーが露出し、そのポリマー層で保護されている部分が残った。ポリマー層は剥がれることなく、レジストとしての性能を持つことが確認できた。さらに同様にして0.5%テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液に5秒浸漬させた。ポリマー膜は、評価例1の場合のように膜状に剥がれることはなく、溶解しながら脱離していくことが確認できた。この溶解の様子の違いは、本実施例で使用したポリマーのP−03が低PDIのものであるためと考えられる。この結果、前記した線画が綺麗に銅膜として残った。本実施例のインクを使用した場合は、実施例1〜4のインクを用いた場合よりもさらに微細な線画も形成できると考えられ、電子回路図などの、より繊細で精緻なパターニングに利用できると考えられる。
【0092】
[実施例6]
実施例1と同様の装置にて、合成例3で得たP−04を部分中和した、中和例6で得たP−04Aを11.8部、ビスフェノールA型ポリ(n+m=6)エチレングリコールジアクリレートを6部、ブチルセロソルブを10部、グリセリンを3部、水を68.4部、ベンゾフェノンを0.3部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.3部を混合した後、5μm、次いで1.2μmのフィルターにてろ過してインクを作成した。得られたインクは、粘度が9.4で、pH7.6であった。
【0093】
[評価例3]
実施例6のインクを用い、評価例1と同様にして、洗浄されたステンレス鋼板に2cm×2cm、乾燥厚み10μmになるように印画した。この結果、ヘッドのつまりもなく、問題なく吐出できた。次いで、80℃で5分間乾燥し、UV照射装置(メタルハライドランプ120W)にて紫外線を照射して膜を硬化させた。次いで、評価例1と同様にしてエッチングして、洗浄し、アルカリ現像した。エッチングにおいては、他の樹脂成分が入っていても、インク中に含有させたA−Bブロックポリマーのカルボキシル基のため密着性が高く、剥がれがなく、一方、アルカリ現像も、B鎖が高酸価であることによって、容易に剥離し、アルカリ現像性も良好であった。
【0094】
以上のように、インク中にA−Bブロックポリマーを含有させた実施例6のインクによれば、水性で、低粘度のため、インクジェットで良好な印刷ができ、さらに、エッチング耐性、アルカリ現像性に優れたレジスト膜を得ることができる。より繊細な線画を描くためには、本実施例のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物が有用である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のエッチングレジスト用水性インクジェットインキ組成物を使用することで、微細に印刷できるインクジェット印刷の利用が可能になり、この結果、より容易に、より繊細で微細な線画を必要とする、金属加工、電子回路、プリント基板、製版、半導体分野、カラーフィルターなどの画像形成やパターン形成が可能になる。これによって、情報化機器の急速な発展に伴う部品の小型化への対応や、高意匠性の金属プレートなどを容易に得ることができるようになるので、本発明の活用は、極めて広範な分野に及ぶことが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水可溶性有機溶媒と、ポリマーとを少なくとも含有してなる、インクジェット印刷方式で印画されるエッチングレジスト用インクであって、
該ポリマーが、
α,β不飽和結合含有モノマーの付加重合によって得られ、少なくとも、カルボキシル基を有するα,β不飽和結合含有モノマーを構成成分とする、その酸価が50〜250mgKOH/gで、且つ、その数平均分子量が2,000〜20,000のものであり、
さらに、インク中における該ポリマーは、カルボキシル基に由来するポリマーの酸価のうちの少なくとも一部が、アンモニア;モノ又はジ又はトリアルキル(炭素数1〜4)アミン;モノアルカノール(炭素数2又は3)アミン;モノ又はジアルキル(炭素数1〜4)モノアルカノール(炭素数2又は3)アミンからなる群から選択される少なくともいずれかの化合物で中和されており、その形態が、平均粒子径10nm〜200nmの水分散体又はエマルジョンであることを特徴とするエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。
【請求項2】
25℃において、pHが5〜8.2であり、粘度が2〜20mPa・sである請求項1に記載のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記ポリマーの分子量分布である重量平均分子量/数平均分子量が、1.6以下である請求項1又は2に記載のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記ポリマーが、A−Bブロックコポリマー構造を有し、Aのポリマーブロックが、その酸価が0〜50mgKOH/gで且つその数平均分子量が1,000〜5,000であり、Bのポリマーブロックが、その酸価が50〜200mgKOH/gで且つその数平均分子量が1,000〜15,000である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。
【請求項5】
さらに、着色剤成分として染料又は顔料を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。
【請求項6】
さらに、水性の紫外線硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを硬化成分として含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のエッチングレジスト用水性インクジェットインク組成物。

【公開番号】特開2012−245757(P2012−245757A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121398(P2011−121398)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】