説明

エナメル線及びその製造方法

【課題】コイル巻時の伸びを抑えることができると共に、導体の露出を防止することができるエナメル線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導体2の周囲に絶縁被膜3が形成され、絶縁被膜3の内部にテンションメンバ4を有する。テンションメンバ4により引張強度が高く伸びにくいだけでなく、テンションメンバ4が外力に対する防護の役割を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル巻時の伸びを抑えることができると共に、導体の露出を防止することができるエナメル線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等のコイルを有する装置(以下、モータと総称する)を製造する際、コイルを巻くときには、エナメル線に張力をかけて作業する。コイル鉄心に対するエナメル線の占積率を高くするためには、エナメル線に高い張力をかける必要がある。
【0003】
しかし、コイル巻時にエナメル線に過剰に高い張力をかけると、エナメル線が過剰に伸びることがある。エナメル線が過剰に伸びると、導体断面積が小さくなって電気抵抗が高くなり、モータの特性低下、過熱などの問題を引き起こす。よって、コイル巻時にエナメル線にかける張力には限界がある。
【0004】
モータのさらなる小型化、高出力化のためには、コイル巻時に高い張力をかけても伸びにくいエナメル線が望まれる。
【0005】
このようなエナメル線として、中心にセラミックス繊維からなるテンションメンバを設け、このテンションメンバの周囲に導電層、絶縁層を順次設けることで、引張強度を高くして、伸びにくくしたエナメル線が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−179003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、従来のモータの製造において、コイル鉄心に対するエナメル線の占積率を高くするために、コイル鉄心の内部に隙間がなくなるようにエナメル線を挿入することが行われる。このとき、絶縁層の表面から導体(導電層)を露出させるような外力(圧力、摩擦力、衝撃力など)が加わって、絶縁層が破壊されて導体が露出してしまうおそれがある。
【0008】
したがって、コイル巻時におけるエナメル線の伸びを抑えることだけでなく、絶縁層の表面から導体を露出させるような外力が加わったときに、導体が露出しないようにすることが必要である。特許文献1のエナメル線は、テンションメンバの周囲に導電層、絶縁層を順次設けるので、外力に対する防護が不足している。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、コイル巻時の伸びを抑えることができると共に、導体の露出を防止することができるエナメル線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明のエナメル線は、導体の周囲に絶縁被膜が形成され、前記絶縁被膜の内部にテンションメンバを有するものである。
【0011】
前記絶縁被膜が複数の層からなり、前記複数の層のうちの最外層の内部に前記テンションメンバを有してもよい。
【0012】
前記テンションメンバは、芳香族ポリアミド系樹脂からなってもよい。
【0013】
また、本発明のエナメル線の製造方法は、導体の周囲に前記導体の長手方向にテンションメンバを沿わせる工程と、前記導体と前記テンションメンバを共に塗装用ダイスに挿通させて絶縁塗料を塗布する工程と、前記絶縁塗料を塗装炉にて焼付けして絶縁被膜を形成する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コイル巻時の伸びを抑えることができると共に、導体の露出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示すエナメル線の横断面図である。
【図2】本発明のエナメル線を製造する装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1に示されるように、本発明に係るエナメル線1は、導体2の周囲に絶縁被膜3が形成され、絶縁被膜3の内部にテンションメンバ4を有するものである。
【0018】
本実施形態においては、絶縁被膜3が、導体2の外周(表面)に形成された高密着性の下層エナメル被膜(第1絶縁被膜)5と、下層エナメル被膜5の外周に形成された上層エナメル被膜(第2絶縁被膜)6の2つの層からなる。絶縁被膜3を形成する層の数は2に限らず1又は3以上であってもよい。絶縁被膜3の各層は、絶縁塗料の塗布・焼付けにより形成される。
【0019】
テンションメンバ4は、必要な強度を有するフィラメント単体、もしくはフィラメント複数本を集束したストランドからなる。テンションメンバ4は、導体2に対し導体2の長手方向に沿わせたものであり、導体2と平行になっている。
【0020】
テンションメンバ4は、絶縁被膜3の内部に、絶縁被膜3と一体となって設けられていればよく、導体2の表面に直接接するように配置してもよく、導体2の表面には直接接しないように配置してもよい。本実施形態においては、テンションメンバ4は、絶縁被膜3を形成する2つの層のうちの最外層である上層エナメル被膜6の内部に配置される。テンションメンバ4は、絶縁被膜3の複数の層に分けて配置されてもよい。
【0021】
本実施形態においては、テンションメンバ4は、導体2の周囲の4箇所に設置される。各テンションメンバ4は、周方向に90°間隔で配置される。テンションメンバ4の本数は、これに限定されず、1〜3本、5以上の複数本であってもよく、周方向に等間隔あるいは所望の間隔で配置する。
【0022】
次に、本発明のエナメル線1の効果を述べる。
【0023】
本発明のエナメル線1は、導体2の周囲に形成された絶縁被膜3の内部に導体2と平行なテンションメンバ4が挿入されているので、引張強度が高く、伸びにくい。このため、コイル巻時の伸びを抑えることができる。
【0024】
さらに、本発明のエナメル線1は、絶縁被膜3の内部にテンションメンバ4が絶縁被膜3と密着して設けられているため、絶縁被膜3の表面から導体2を露出させるような外力が加わっても、テンションメンバ4が外力に対する防護の役割を果たし、導体2が露出するのを防止することができる。
【0025】
すなわち、本発明のエナメル線1は、耐張力高強度エナメル線といえる。この結果、モータの製造において、エナメル線1に高い張力をかけて巻くことができるので、コイル鉄心に対するエナメル線の占積率を高くすることが可能となり、モータの小型化、高出力化が実現できる。
【0026】
また、本発明のエナメル線1は、絶縁被膜3の内部にテンションメンバ4が設けられているため、エナメル線1の外側からの衝撃、摩擦に対する耐久性が高い。
【0027】
次に、テンションメンバ4の材質・構造について検討する。
【0028】
テンションメンバ4には、芳香族ポリアミド系樹脂、特にアラミド繊維が適している。アラミド繊維は、耐熱性、耐薬品性に優れる。アラミド繊維の中でも、パラ系アラミド繊維は、引張強度3000MPa、破断時伸度4%未満の特性を有しており、極細径でありながらも引張強度が高く、伸びにくい。よって、パラ系アラミド繊維は、本発明のテンションメンバ4に好適である。
【0029】
エナメル線1には外形寸法の規制があるが、テンションメンバ4の径が太いとエナメル線1の外形寸法が規制より大きくなるおそれがある。また、テンションメンバ4の径が太いとエナメル線1の断面形状が滑らかな円形にならず、粒などの外観異常が発生しやすくなる。その点、アラミド繊維は、極細のフィラメントで高い引張強度を有しており、フィラメント径が8μm程度のアラミドフィラメントを100本集束したストランドを数本用いることで、エナメル線1の断面形状や寸法の安定性、外観の滑らかさを保った高強度のエナメル線1を得ることができる。
【0030】
一般に、線径が0.8mmのエナメル線は、引張強度が280MPaであり、破断時伸度が50%であることから、フィラメント径8μmのアラミドフィラメント1000本程度で、一般のエナメル線と同じ強度を保ちながら4%程度の破断時伸度に抑えることができる。実際に従来のコイル巻時に発生する張力は引張強度の30%以下であるから、これに耐えるにはアラミドフィラメント300本で足りる。コイル巻時の張力を引張強度の50%まで高め、4%程度の破断時伸度に抑えるならば、アラミドフィラメント500本程度で十分である。よって、アラミドフィラメントを100本程度集束したストランドを4本ないし5本用いることで、本発明のエナメル線1は十分な耐張力・高強度を発揮することができる。
【0031】
テンションメンバ4を絶縁被膜3の内部に設けるために絶縁塗料を塗布する際に、テンションメンバ4の外周に空気が巻き込まれてしまうと、絶縁塗料を焼き付けしたとき、エナメル線1の表面に粒などの外観異常が発生する。また、エナメル線1を屈曲・捻回した際に、絶縁被膜3とテンションメンバ4との密着性が低いところから絶縁被膜3の割れやテンションメンバ4の剥離が発生する。これを防ぐために、テンションメンバ4のフィラメント集束本数を低減したりテンションメンバ4の濡れ性を高めることで、下層エナメル被膜5及び上層エナメル被膜6とテンションメンバ4との密着性を高くする。テンションメンバ4の濡れ性を高めるには、UV照射処理、シランカップリング処理などの前処理を施すのが好ましい。
【0032】
次に、本発明のエナメル線1の製造方法を説明する。
【0033】
図2に示されるように、本発明のエナメル線1を製造する製造装置21は、導体2の外周に下層エナメル被膜5が形成された中間製品7が鉛直方向上向きに走行されるようになっており、その走行経路の途中にテンションメンバ4を案内するテンションメンバガイドプーリ22、絶縁塗料23を蓄積し、底面に中間製品7の通過孔24を有する塗料タンク25、塗布された絶縁塗料23を絞る塗装用ダイス26が順に配置されている。図示した製造装置21は、図1の実施形態であるテンションメンバ4を導体2の周囲の4箇所に有するエナメル線1を製造するために、テンションメンバガイドプーリ22が中間製品7の周囲4箇所に配置されている。
【0034】
まず、導体2の外周に下層エナメル被膜5が形成された中間製品7を製造するが、この工程は、公知の方法でよいので説明を省略する。
【0035】
次いで、中間製品7にテンションメンバ4を沿わせる工程を行う。すなわち、テンションメンバガイドプーリ22は、走行される中間製品7の下層エナメル被膜5に対して図示しない供給源から供給されるテンションメンバ4を中間製品7と平行にかつ張力をかけた状態で沿わせる。
【0036】
次いで、絶縁塗料を塗布する工程を行う。テンションメンバ4を沿わせた中間製品7を塗料タンク25の通過孔24に通し、絶縁塗料23に浸漬させて引き上げる。これにより、テンションメンバ4及び中間製品7に絶縁塗料23が塗布され、塗装用ダイス26に挿通されることにより絶縁塗料23が絞られ、上層エナメル被膜6となる絶縁塗料23が塗布されたことになる。
【0037】
その後、図示しない塗装炉において乾燥及び焼き付けを行うことにより、上層エナメル被膜6が形成され、本発明のエナメル線1が得られる。なお、テンションメンバ4を沿わせた後、上層エナメル被膜6の絶縁塗料塗布と焼き付けを複数回繰り返すことで所望の外径寸法に仕上げることができる。
【実施例】
【0038】
本発明により、コイル巻張力70N用耐張力高強度エナメル線を製造する。導体径は0.8mm、仕上がり外径は0.92mmとする。まず、導体2の外周に下層エナメル被膜5としてエステルイミド膜を6μmの厚さで塗布形成して中間製品7を得る。その中間製品7の外周の4箇所に、フィラメント径8μmのアラミドフィラメントを50本集束したストランド4本を均等に沿わせる。その外周に第1の上層エナメル被膜6としてポリエステルイミド膜を12μmの厚さで塗布形成する。さらにその外周の4箇所に、フィラメント径8μmのアラミドフィラメントを50本集束したストランド4本を均等に沿わせる。その外周に第2の上層エナメル被膜6としてポリエステルイミド膜を12μmの厚さで塗布形成する。その外周に第3の上層エナメル被膜6としてアミドイミド膜を28μmの厚さで塗布形成する。さらに最外層として高潤滑層を2μmの厚さで塗布形成して完成する。
【符号の説明】
【0039】
1 エナメル線
2 導体
3 絶縁被膜
4 テンションメンバ
5 下層エナメル被膜
6 上層エナメル被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周囲に絶縁被膜が形成され、前記絶縁被膜の内部にテンションメンバを有することを特徴とするエナメル線。
【請求項2】
前記絶縁被膜が複数の層からなり、前記複数の層のうちの最外層の内部に前記テンションメンバを有する請求項1記載のエナメル線。
【請求項3】
前記テンションメンバは、芳香族ポリアミド系樹脂からなる請求項1又は2記載のエナメル線。
【請求項4】
導体の周囲に前記導体の長手方向にテンションメンバを沿わせる工程と、前記導体と前記テンションメンバを共に塗装用ダイスに挿通させて絶縁塗料を塗布する工程と、前記絶縁塗料を塗装炉にて焼付けして絶縁被膜を形成する工程とを有することを特徴とするエナメル線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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