エナメル質の欠損に浸透させるための方法及び手段
本発明は、う蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、エナメル質に浸透させる方法に関し、その方法は、(a)浸透させるエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝し、(b)状態調節されたエナメル質を浸透剤に曝し、そして、(c)浸透剤を硬化させることを含むものである。また、本発明は、塩酸を含む状態調節剤と、少なくとも1種の低粘度の歯科用樹脂とを含む、エナメル質に浸透させるためのキットに関する。また、そのキットは、エナメル質に浸透させるための方法を実施するためのそのまま使用可能な手段を含み、例えば、その手段は状態調節剤又は浸透剤に浸した塗布用パッドを備えた塗布用片である。また、本発明は、浸透係数を計算することにより浸透剤を確認する方法と、その方法により確認され、浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透係数を計算することにより浸透剤を確認する方法、及び50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の歯科用樹脂に用いる浸透剤に関する。本発明は、特にう蝕(carious lesions)を防止及び/又は治療するためにエナメル質に浸透させるための上記浸透剤の使用に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、エナメル質に浸透させるためのキットに関するものであり、そのキットは、塩酸と、少なくとも1つの低粘度の歯科用樹脂を含む浸透剤と、からなる状態調節剤(conditioner)に関するものである。本発明は、また、エナメル質に浸透させるためのキットに関し、そのキットは、直ぐに使える貼用片と、必要により、洗浄用片と歯の分離手段を有する。
【背景技術】
【0002】
先進国では、大人の約98%が1つ以上のう蝕を持っているか、既に充填剤を使用している。徐々に穴を生成させるう蝕の場合、う蝕は硬い歯質の脱灰により始まる。「初期エナメル質う蝕」と呼ばれる初期段階では、歯の表面には腐食の跡は認められず無傷の状態であるが、表面より下の脱灰された領域ではより多孔質の状態となる。
【0003】
現在、隣接面う蝕(approximal caries)を治療するための手術以外の唯一の方法は、フッ化物を用いて再石灰化を促進すること、そして患者の口腔内の衛生状態を改善してう蝕を予防することである。平滑面に改良された洗浄方法を適用するのは容易であるが、隣接面は洗浄するのが特に困難である。しかしながら、象牙質にまで到達した隣接面欠損においては再石灰化はほとんど起きない。これは、いくつかの臨床例によれば、多くの場合、これを境にして視認可能な欠損穴が生成するからである(Rugg-Gunn AJ:隣接するう蝕。ラジオグラフ的及び臨床的外観の比較、Br Dent J、第133巻、第481頁〜第484頁(1972)、De Araujo FB ら:隣接面う蝕の診断:歯間分離(tooth separation)を用いたラジオグラフ的試験と臨床試験、Am J Dent、第5巻、第245頁〜第248頁(1992)、Ratledge ら:隣接するう蝕の臨床学的及び微生物学的研究。パート1:穴、ラジオグラフ的欠損深さ、特定箇所向けの歯肉インデックス、そして象牙質の感染の程度の間の関係、Caries Res、第35巻、第3頁〜第7頁(2001))。さらに、生体外の研究においても、エナメル質の閉じ込められた多くの穴が欠損中に認められている。穴の開いたエナメル質の欠損は、患者によっては十分に洗浄することができないため、そのまま進行する(Marthaler TM, Germann M:抜歯について研究された、平滑面を有する微小なう蝕のラジオグラフ的及び視覚的な外観、Caries Res、第4巻、第224頁〜第242頁(1970)、 Kogon SL ら:隣接面う蝕であって、穴を有するう蝕と穴のないう蝕とをラジオグラフ的手法で識別することは可能か、Dentomaillofac Radiol、第16巻、第33頁〜第36頁(1987))。したがって、う蝕の初期段階で穴が生成した場合、臨床的な条件下では再石灰化が起きる可能性はほとんどない。これにより臨床の知見を説明することができる。すなわち、フッ化物使用や口腔内衛生状態の改善は隣接面う蝕の進行を遅らせることができるだけで、それを逆転させることはできない(Mejare I ら:11歳から22歳までのう蝕の進行:予測適応なラジオグラフ的研究。罹患率と分布、Caries Res、第32巻、第10頁〜第16頁(1998))。
【0004】
一旦穴が開いてしまうと、通常、侵襲的な手術方法が適用される。しかしながら、う蝕の歯質を削り出す場合、う蝕のない歯質、すなわち、正常で硬い歯質も同時に削り出すことになる。そこに到達するのが困難な隣接面う蝕欠損の場合、削り取られるう蝕の基質と無傷の基質の割合が特に大きい。さらに、充填された充填剤と内生歯質との間の接続はう蝕欠損自体の影響を受けやすく、また経年変化により充填剤を新しくする場合には、正常な歯質の除去を伴う。そのため、初期段階のう蝕の治療方法には、特に隣接面う蝕欠損においては、後で侵襲的な治療方法を受ける必要がないことが非常に望まれている。
【0005】
初期段階におけるエナメル質のう蝕の一つの明確な印は、白斑欠損である。その欠損は、エナメル質のバルク部分のミネラル分の消失によるものであり、欠損の表面は比較的無傷である(いわゆる「擬無傷表層」である。)。非侵襲的な歯科学な方法として期待できるのは、歯科用接着剤や裂溝充填剤等の低粘度の光硬化性樹脂を用いてエナメル質の欠損を充填する方法である。欠損部分の微小な穴は、酸や溶解したミネラルの拡散経路として機能する。そのため、欠損の進行先端部ではエナメル質を溶解させる。提案された治療方法は、表面だけを充填するだけでなく、これらの穴に浸透し、欠損部分がさらに攻撃を受けるのを防止する。また、樹脂材料を硬化させることにより、脆弱なエナメル構造を補強する効果も有する。それゆえ、光硬化性樹脂を浸透させて穴を閉塞させることにより欠損の進行を予防し、さらに脆弱な欠損構造を補強することができる。
【0006】
低粘度の樹脂を用いてう蝕を予防しようとする考えは、1970年代から生体外の実験については続けられている(Robinson C ら:う蝕の予防及び制御。レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いた基礎的研究、J Dent Res、第55巻、第812頁〜第818頁(1976)、Davila JM ら:人間の人工及び自然の白斑への接着剤の浸透、J Dent Res、第54巻、第999頁〜第1008頁(1975)、Gray GB 、Shellis P :う蝕状の白斑エナメル質欠損への樹脂の浸透:生体外での研究、Eur J Prosthodont Restor Dent、第10巻、第27頁〜第32頁(2002)、Garcia-Godoy F ら:未充填樹脂で保護された白斑状欠損からなるう蝕の進行、J Clin Pediatr Dent、第21巻、第141頁〜第143頁(1997)、Robinson C ら:人工的なう蝕状欠損への接着剤の浸透に関する生体外での研究、Caries Res、第35巻、第136頁〜第141頁(2001)、Schmidlin PR ら:生体外における、脱石灰化された及び再石灰化されたエナメル質への結合剤の浸透、J Adehes Dent、第6巻、第111頁〜第115頁(2004))。充填剤が、人工欠損部分にほぼ完全に浸透することが示され(Gray GB 、Shellis P :う蝕状の白斑エナメル質欠損への樹脂の浸透:生体外での研究、Eur J Prosthodont Restor Dent、第10巻、第27頁〜第32頁(2002)、Meyer-Lueckel H ら:種々の接着剤と裂溝充填剤の、ウシエナメル質の人工的な表面下欠損への浸透に対する塗布時間の影響、Dent Mater、第22巻、第22頁〜第28頁(2006))、そして欠損内の影響を受けやすい空隙容積を大幅に減らすことができる(Robinson C ら:人工的なう蝕状欠損への接着剤の浸透に関する生体外での研究、Caries Res、第35巻、第136頁〜第141頁(2001))。さらに、脱石灰化の状態では、充填剤が欠損の進行を予防することが認められた(Robinson C ら:う蝕の予防及び制御。レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いた基礎的研究、J Dent Res、第55巻、第812頁〜第818頁(1976)、Garcia-Godoy F ら:未充填樹脂で保護された白斑状欠損からなるう蝕の進行、J Clin Pediatr Dent、第21巻、第141頁〜第143頁(1997)、Robinson C ら:人工的なう蝕状欠損への接着剤の浸透に関する生体外での研究、Caries Res、第35巻、第136頁〜第141頁(2001)、Muller J ら:生体外における樹脂の浸透によるう蝕の進行の予防:生体外における脱石灰化状態での、充填された初期ウシエナメル質欠損の進行、Caries Res、第40巻、第124頁〜第129頁(2006))。
【0007】
しかしながら、自然のエナメル質欠損を充填する際の問題の一つは、「見かけ上無傷の表面層」が、欠損のう蝕部分に比べミネラル分の量が多いことである。その結果、これらの層が充填剤のう蝕部分への浸透を予防し、さらには障壁として働くことになる。結局、表面層が表面的にしか覆われておらず、う蝕部分への樹脂の浸透が不十分になる。最悪の場合、「充填物」の下でう蝕が進行する。
【0008】
エナメル質欠損への充填物の浸透を促進する努力がなされている。生体外のモデルでは、無傷の表面層、欠損部分、そして進行する脱石灰化の先端部を示す人工的なエナメル質欠損が作製されている。それらの人工的に作製された欠損に対してリン酸を用いて5秒間エッチングすると、より深く浸透する(Gray GB 、Shellis P :う蝕状の白斑エナメル質欠損への樹脂の浸透:生体外での研究、Eur J Prosthodont Restor Dent、第10巻、第27頁〜第32頁(2002)。エナメル質領域に対するエッチングによるそのような前処理又は調製(conditioning)は、生体内における充填剤の浸透をも向上させる。しかしながら、人工的に作製したエナメル質欠損は、規則的で比較的薄い「見かけ上無傷の表面層」を有する点において、自然の欠損とは相違している。対照的に、自然のエナメル質欠損は、通常、種々の厚さの高度に石灰化した表面層を有している。そのため、リン酸を用いた調製は、生体外ではうまく行くが、必ずしも生体内で効果があるとは限らない。
【0009】
国際公開WO 00/09030は、う蝕と歯周病から歯を守るために、歯を染色するコーティング方法を開示している。このコーティング方法は、(a)例えば酸やレーザーを用いて歯をエッチングする工程と、(b)エッチングされた歯を保護剤を適用する工程と、(c)歯を充填する工程、とからなる。酸エッチングには、通常、リン酸、マレイン酸、クエン酸、ピルビン酸等が用いられている。
【0010】
それにもかかわらず、生体内の研究によれば、リン酸ゲルで前処理されたエナメル質欠損に従来の接着剤を適用した場合、コントロール例と比べてう蝕の進行が遅くなったことが報告されている(Martignon ら:Caries Res、第40巻、第382頁〜第388頁(2006))。しかし、患者の観察は2年間だけであり、診断もX線であり、浸透が成功であったかどうかを検討するには適した方法ではない。そのため、著者が有効性を認めた場合であっても、この研究の結果については、検討の余地がある。さらに、表面的な「充填」は生体内での物理的な負荷を受けて破壊される場合があるので、この当初の成功が長い時間が経過した後も認められるかどうかは明らかではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以前の研究では、接着の目的のために最適化された市販の接着剤と裂溝用充填剤が、表面下のエナメル質欠損に浸透させるために使用された。これらのエナメル質欠損(浸透物)に短時間で浸透させるように最適化された複合樹脂が良好な充填性能を示す可能性がある。そのような複合樹脂を開発するため、エナメル質欠損に浸透する際に起きている反応を正しく理解することが必要とされている。
【0012】
物理的には、液体(未硬化樹脂)の多孔質固体(エナメル質欠損)への浸透は、ウォッシュバーン式(式1,下を参照)で表される。この式は、多孔質固体が開放された毛細管の束であることを仮定しており(Buckton G :ドラッグデリバリー及びターゲッティングにおける界面現象、Chur(1995))、この場合、液体の浸透は毛細管力で起きる。
【0013】
【数3】
[式1]
ここで、
dは、液体樹脂の浸透距離、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度、
rは、毛細管(穴)半径、
tは、浸透時間、を表す。
【0014】
ウォッシュバーン式の括弧付きの項は、浸透係数である(PC、式2、下を参照)(Fan PL ら:充填剤の浸透性、J Dent Res、第54巻、第262頁〜第264頁(1975))。PCは、空気に対する液体の表面張力(γ)、エナメル質に対する液体の接触角(θ)のコサイン、そして液体の動粘度(η)を含んでいる。その係数が大きくなると、液体は所定の毛細管又は多孔体により速く浸透する。このことは、接触角の影響が比較的小さい場合、表面張力が大きく、粘度が低く、接触角が小さいとPCが高くなることを意味している。
【0015】
【数4】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0016】
すでに、市販の充填剤の浸透係数(PC)と、それらの裂溝への浸透性能との間に正の相関が認められている(O'Brien WJ ら:充填剤と釉薬の浸透性。充填剤の効果は、裂溝への浸透能力に依存する、Oper Dent、第3巻、第51頁〜第56頁(1987))。さらに、低粘度の充填剤は、エッチングされたエナメル質に用いるとより深く浸透することができる(Irinoda Y ら:エッチングした人間のエナメル質への樹脂の浸透に対する充填剤粘度の影響、Oper Dent 第25巻、第274頁〜第282頁(2000))。しかしながら、う蝕への樹脂の浸透に対するPCの影響に着目した研究は、今までなされていない。5種の市販の接着剤と1種の裂溝充填剤の人工のエナメル質欠損に対する浸透は、最近の研究のテーマであった(Meyer-Lueckel H ら:種々の接着剤と裂溝充填剤の、ウシエナメル質の人工的な表面下欠損への浸透に対する塗布時間の影響、Dent Mater、第22巻、第22頁〜第28頁(2006))。浸透深さが浸透時間に依存することが示された。この研究では、最も優れた浸透性能を示した市販の接着剤はエキサイト(Excite)(登録商標)であり、30秒で105μmまで浸透し、人工のエナメル質欠損を完全に充填した。ウォッシュバーン式によれば浸透深さの二乗と時間とが比例するので、市販の材料を用いて自然欠損(>1000μm)に深く浸透させるためには、かなり長い浸透時間が必要となることがわかる。このことは、さらに速い浸透時間を持った複合材料が必要なことを示している。しかしながら、歯科医の日常的な治療において使用する場合、120秒を超える適用時間は、経済的な理由から、ほとんど受け容れられることはない。
【0017】
そのため、う蝕の進行を予防するために、初期あるいは進行したエナメル質う蝕の治療に対する優れた非手術的な方法についての強い要求が依然として存在している。
【0018】
そこで、本発明の目的は、初期あるいは進行したエナメル質う蝕に対して樹脂の浸透を向上させるための方法及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、エナメル質に浸透する浸透剤であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を確認する方法を用いて解決することができる。
【数5】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0020】
一の態様として、本発明の方法は、
(a)浸透剤候補(potential infiltrant)を準備し、
(b)上記浸透剤候補の接触角、表面張力、そして動粘度の値を決定し、
(c)決定された上記(b)の値に式2を適用し上記浸透剤候補の浸透係数を決定する。
【0021】
一態様として、本発明の方法は、さらに、
(d)50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を選定する。
【0022】
本発明の好ましい態様として、(d)の選定が、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を、浸透係数が50cm/sより小さい他の浸透剤候補から分けるものである。
【0023】
別の態様として、本発明は、さらに、
(d)上記浸透剤候補の硬化能力を評価するものである。
【0024】
さらに別の態様として、本発明の方法は、
(d)上記浸透剤候補の硬化後のコンシステンシーを評価するものである。
【0025】
さらに別の態様として、本発明の方法は、
(d)上記浸透剤候補の浸透指数を決定するものである。
【0026】
本発明の目的は、さらに、エナメル質に浸透する浸透剤を確認する方法を用いて確認された浸透剤であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤を用いることにより解決することができる。
【数6】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0027】
本発明の目的は、さらに、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択された少なくとも1種の低粘度樹脂を含む浸透剤により解決できる。
【0028】
一態様において、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン(camphoroquinone)、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0029】
一態様において、浸透剤は、50cm/sより大きい浸透係数を有しており、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含むものである。
【0030】
本発明の目的は、少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂、好ましくは、歯科用複合樹脂、歯科用接着剤、及び/又は裂溝用充填樹脂から成る群から選択された少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を用いることよっても解決することができる。
【0031】
浸透剤の一態様として、樹脂は、メタクリレート及び/又はジメタクリレート及び/又はトリメタクリレートから成る群から選択することができ、好ましくは、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0032】
好ましい態様として、メタクリレートは、酸基を有するモノマー、好ましくは、カルボキシル基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基又はホウ酸基を有するモノマーを含む。その一例は、MDP:10-メタクロイルデシル二水素リン酸塩である。
【0033】
好ましい態様では、浸透剤は、さらに1種以上の硬化用の添加剤を含む。
【0034】
その添加剤は、1成分浸透剤又は2成分浸透剤を調製する時に添加することができる。添加剤は、光硬化型又は自己硬化型の浸透剤に用いることができる。
【0035】
好ましい態様として、添加剤は、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択することができる。
【0036】
これらの添加剤は、光硬化型の浸透剤に用いることができる。
【0037】
別の好ましい態様として、添加剤は、有機酸又はその塩、好ましくは、スルフィン酸(sulfinic acids)とその塩、バルビツル酸とその塩、そしてバルビツル酸誘導体から成る群から選択することができる。
【0038】
スルフィン酸塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩又はバリウム塩等のアルカリ土類金属塩、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、フェニルアミン又はキシレンジアミン基を有する一級アミンや、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、ジフェニルアミン、又はN-メチルトルイジン基を有する二級アミンや、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジエチルアミン、N,N-ジメチルトルイジン、N,N-ジエチルトルイジン又はN,N-(β-ヒドロキシエチル)トルイジン基を有する三級アミンや、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム又はトリメチルベンジルアンモニウム塩等を含むアンモニウム塩、を挙げることができる。
【0039】
好ましい態様では、スルフィン酸は、パラフィン系炭化水素系スルフィン酸、脂環系スルフィン酸、芳香族系スルフィン酸から成る群から選択されたものを用いることができる。
【0040】
特に好ましい態様としては、パラフィン系炭化水素系スルフィン酸は、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、そしてドデカンスルフィン酸から成る群から選択される。
【0041】
別の特に好ましい態様としては、脂環系硫酸はシクロヘキサンスルフィン酸又はシクロオクタンスルフィン酸である。
【0042】
別の特に好ましい態様としては、芳香族系スルフィン酸は、ベンゼンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロロベンゼンスルフィン酸、そしてナフタレンスルフィン酸から成る群から選択される。
【0043】
ベンゼンスルフィン塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、ブチルアミン塩、アニリン塩、トルイジン塩、フェニルジアミン塩、ジエチルアミン塩、ジフェニルアミン塩、トリエチルアミン塩、アンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、そしてトリメチルベンジルアンモニウム塩がある。
【0044】
o-トルエンスルフィン酸塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、シクロヘキシルアミン塩、アニリン塩、アンモニウム塩、そしてテトラエチルアンモニウム塩がある。
【0045】
p-トルエンスルフィン酸塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、エチルアミン塩、トルイジン塩、N-メチルアニリン塩、ピリジン塩、アンモニウム塩、そしてテトラエチルアンモニウム塩がある。
【0046】
β−ナフタレンスルフィン酸塩の例としては、ナトリウム塩、ストロンチウム塩、トリエチルアミン塩、N-メチルトルイジン塩、アンモニウム塩、そしてトリメチルベンジルアンモニウム塩がある。
【0047】
最も好ましい芳香族系スルフィン酸塩は、ベンゼンスルフィン酸ナトリウムとトルエンスルフィン酸ナトリウムである。
【0048】
より好ましい態様として、バルビツル酸は、1,3,5-トリメチルバルビツル酸、1,3,5-トリエチルバルビツル酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツル酸、1,5-ジメチルバルビツル酸、1-メチル-5-エチルバルビツル酸、1-メチル-5-プロピルバルビツル酸、5-エチルバルビツル酸、5-プロピルバルビツル酸、5-ブチルバルビツル酸、5-メチル-1-ブチルバルビツル酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツル酸、そして1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツル酸から成る群から選択される。
【0049】
さらに、別の好ましい態様として、添加剤が、過硫酸塩と有機パーオキサイドから成る群から選択される。
【0050】
過硫酸塩と有機パーオキサイドは、浸透剤を使用する前に、予め浸透剤に混ぜておくことが好ましい。
【0051】
有機パーオキサイドの例としては、ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプリルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、BPO、ジベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメチルベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジニトロジベンゾイルパーオキサイドがある。
【0052】
浸透剤の好ましい態様として、低粘度の樹脂は、22%のビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、67%のTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、10%のエタノール、>1%のDABE:エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート、>1%のカンファーキノンを含んでいる。
【0053】
本発明の目的は、必要とされている対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するために、本発明の浸透剤を用いることにより解決することができる。
【0054】
本発明の目的は、必要とされている対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するために、塩酸を使用することによっても解決することができ、医療用品は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0055】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによって解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、
(b)浸透剤、とを含むものである。
【0056】
一態様として、キットは、さらに、
(c)高粘度の光硬化性モノマーの混合物、を含む。
【0057】
キットの一態様として、状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0058】
キットの一態様として、浸透剤(b)は、本発明の充填剤を用いることができる。
【0059】
一態様として、キットは、さらに、少なくとも1つの塗布用片、及び/又は少なくとも1つの洗浄用片、及び/又は分離手段を有している。
【0060】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによっても解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤を含む塗布用片と、
(b)浸透剤を含む塗布用片と、そして、
(c)少なくとも1つの洗浄用片と、を含むものである。
【0061】
一態様として、キットは、さらに、
(d)高粘度の光硬化性モノマー混合物を含む塗布用片を含むものである。
【0062】
一態様として、キットは、さらに、
(e)分離手段を含むものである。
【0063】
キットの一態様として、状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0064】
キットの一態様として、浸透剤(b)には、本発明の浸透剤を用いることができる。
【0065】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させる方法により解決することができ、その方法は、
(a)浸透させるエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝し、
(b)工程(a)で状態調節されたエナメル質を浸透剤に曝し、そして、
(c)浸透剤を硬化させることを含むものである。
【0066】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0067】
一態様として、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0068】
別の態様として、状態調節剤は、さらに、グリセロール、高分散された二酸化ケイ素、そしてメチレンブルーから成る群から選択された添加剤を含むことができる。
【0069】
一態様として、浸透剤は少なくとも1種の低粘度の樹脂を含むこともできる。
【0070】
好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0071】
特に好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ポリメタクリル酸とその誘導体とから成る群から選択することができる。
【0072】
最も好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0073】
さらに別の態様として、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0074】
本発明の目的は、必要とされる対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、本発明のエナメル質に浸透させる方法を用いることにより解決することができる。
【0075】
一態様として、その対象は哺乳動物、好ましくは人間である。
【0076】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによっても解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、そして、
(b)浸透剤と、を含むものである。
【0077】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0078】
好ましい態様として、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0079】
別の態様として、状態調節剤は、さらに、グリセロール、高分散された二酸化ケイ素、そしてメチレンブルーから成る群から選択された添加剤を含むことができる。
【0080】
一態様として、浸透剤は少なくとも1種の低粘度の樹脂を含む。
【0081】
好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0082】
特に好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ポリメタクリル酸とその誘導体とから成る群から選択することができる。
【0083】
最も好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0084】
さらに別の態様として、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0085】
本発明の目的は、必要とされる対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、本発明のエナメル質に浸透させる方法を用いることにより解決することができる。
【0086】
一態様として、その対象は哺乳動物、好ましくは人間である。
【0087】
本発明の目的は、キットを作製する方法によっても解決することができる。
【0088】
本発明の目的は、う蝕欠損の予防及び/又は治療のための医療用品の製造のために塩酸を用いることによっても解決することができる。
【0089】
一態様として、医療用品は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0090】
好ましい態様として、医療用品は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0091】
別の態様として、医療用品は、さらに、グリセロール、高分散された二酸化ケイ素、そしてメチレンブルーから成る群から選択された添加剤を含むことができる。
【0092】
本発明の目的は、医療用品を製造する方法によっても解決することができる。
【0093】
本発明の目的は、少なくとも1種の低粘度の樹脂を含む充填剤によっても解決することができる。
【0094】
一態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0095】
特に好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ポリメタクリル酸とその誘導体とから成る群から選択することができる。
【0096】
最も好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0097】
さらに別の態様として、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0098】
本発明の目的は、浸透剤を調製する方法によっても解決することができる。
【0099】
本発明の目的は、う蝕欠損の予防及び/又は治療のための医療用品の製造のために、浸透剤、好ましくは本発明の浸透剤を用いることによっても解決することができる。
【0100】
本発明の目的は、医療用品を製造する方法によっても解決することができる。
【0101】
本発明の目的は、エナメル質に浸透する浸透剤であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤を確認する方法を用いて解決することができる。
【数7】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0102】
本発明の目的は、さらに、エナメル質に浸透する浸透剤であって、上記の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を確認する方法を用いて確認した浸透剤を用いることにより解決することができる。
【0103】
本発明の目的は、さらに、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を用いることよっても解決することができる。
【0104】
好ましい態様として、50cm/sより大きい浸透係数を有することは、上記の式(2)を用いて決定する。
【0105】
好ましい態様として、低粘度の樹脂は、22%のビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、67%のTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、10%のエタノール、>1%のDABE:エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート、>1%のカンファーキノンを含んでいる。
【0106】
本発明の目的は、本発明の浸透剤を用いてう蝕欠損を予防及び/又は治療する方法により解決することができる。
【0107】
本発明の目的は、う蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するために、本発明の浸透剤を用いることにより解決することができる。
【0108】
本発明の目的は、必要とされる対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、エナメル質に浸透させる方法により解決することができ、その方法は、
(a)浸透させるエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝し、
(b)工程(a)で状態調節されたエナメル質を、浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤に曝し、そして、
(c)浸透剤を硬化させることを含むものである。
【0109】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0110】
好ましくは、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0111】
一態様として、その対象は哺乳動物、好ましくは人間である。
【0112】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによって解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、
(b)浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤、とを含むものである。
【0113】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0114】
好ましくは、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0115】
一態様として、キットは、さらに、塩酸及び/又は浸透剤の塗布装置を含む。
【0116】
ここで用いている「曝す」という言葉は、状態調節剤又は浸透剤をエナメル質に適用するためのあらゆる操作を意味するものである。通常、曝露は、簡単な適用方法、例えば塗布を用いて行うことができる。そのために、キットは、さらに、適用を実際するのに適した装置、例えば、ブラシ、スポンジ、ティッシュ、ピペット、シリンジ等を1以上有していても良い。
【0117】
本発明では、浸透剤を適用する前に状態調節剤を取り除くこともできる。そのため、キットは、その目的のために用いる装置をさらに有していても良い。
【0118】
また、本発明では、余分は浸透剤を取り除くこともできる。そのため、キットは、その目的のために用いる装置をさらに有していても良い。
【0119】
状態調節剤の適用時間は、約60〜300秒が好ましくは、さらに好ましくは約90〜120秒である。
【0120】
浸透剤の適用時間は最大約120秒が好ましく、さらに好ましくは約120秒である。
【0121】
最も好ましくは、浸透剤の浸透係数が50cm/sより大きく、浸透剤の適用時間が60秒より短いことである。
【0122】
浸透剤は、2回適用することが好ましい。
【0123】
「浸透されるエナメル質の領域」は、う蝕欠損を含む領域である。しかし、そのような欠損を予防するために、すなわち、歯の掃除を行うと、すべてのう蝕による損傷が、この領域には存在しないこともある。
【0124】
状態調節剤は、水溶液をベースとすることもでき、あるいは石膏に埋め込むこともできる。
【0125】
本発明においては、状態調節剤は、さらに、最大約40%(w/w)、好ましくは約20%〜37%(w/w)のリン酸を含んでも良い。
【0126】
「浸透剤の硬化」は、光重合で行うことが好ましい。
【0127】
隣接面に近づくために、歯列矯正用弾性材を用いてう蝕歯の歯間を拡げることができる。この技術は、診断目的のために良く知られている。
【0128】
本発明の樹脂は、歯科用接着剤及び/又は裂溝充填材としても使用することができる。
【0129】
上記の樹脂は、別々にあるいは組み合わせて用いることにより、本発明の浸透剤の成分として用いることができる。
【0130】
浸透剤の「浸透係数」という言葉は、液体(浸透剤)が多孔質固体(う蝕欠損)に速やかに浸透する能力を指すものである。それは、以下の物理的特性、すなわち、空気に対する表面張力(γ)、固体に対する接触角(θ)、そして動粘度(η)を含むものである(式2を参照)。
【0131】
浸透剤の(空気に対する)表面張力は、液体−気体界面に作用する力を指し、表面上の薄膜に適用される。液体分子への周りからの引力が減り、液体表面の分子間の引力が増大するためである。
【0132】
浸透剤の(エナメル質に対する)「接触角θ」という言葉は、液滴(浸透剤)と固体表面(エナメル質)の間の界面における接線のなす角を指す。
【0133】
浸透剤の「動粘度η」という言葉は、所定の力を加えた時の液体の流動抵抗の指標である。動粘度は、単位距離の厚さの液体を挟んだ一の垂直面を別の垂直面に対し単位速度(速度勾配又は剪断速度)で移動させる時に必要な、単位面積当たりの接線方向の力(剪断又は接線応力)である。
【0134】
結論として、本発明は、浸透剤を用いることにより、初期又は進行中のエナメル質の欠損等のエナメル質の欠損に対し、優れた浸透能を有する。従来の技術では、エナメル質を閉塞させる方法を用いているが、「見かけ上無傷の表面層」のみを閉塞させるだけで、樹脂が十分に浸透していないう蝕部分が残ってしまうという危険性がある。本発明の方法及び手段、例えば、状態調節剤及び/又は浸透剤又は低粘度の樹脂を用いることにより、欠損部分を閉塞させることが可能となる。
【0135】
まず、浸透させるべきエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝すことにより、「見かけ上無傷の表面層」を除去して、う蝕領域への浸透剤の浸透を大きく促進させることができる。に次に、上記の樹脂が低粘度であるので、浸透剤は速やかに欠損穴に到達し、それらを閉塞する。
【0136】
また、本発明は、浸透剤の浸透係数(PC)を決定する方法を提供するものであり、それにより、優れた浸透特性と使用可能な適用時間とを有する浸透剤の確認及び調製を可能とする。
【0137】
本発明の方法及び手段を用いることにより、エナメル質欠損の侵襲治療を不要にしたりあるいは遅らせることができる。閉塞方法が、非侵襲的であるので、患者の承諾も非常に得やすくなる。本発明の方法は、低コストで実施することができる。最後に、本発明の方法は、純然たる歯の掃除と、う蝕の侵襲的治療との間を結ぶ治療的なリンクとなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0138】
実施例1.塩酸を含む状態調節剤による前処理の影響
1.材料及び方法
1.1 試料調製
隣接白斑を有する、人間の臼歯と小臼歯を抜き取り、脱石灰部分を切断した。外側のエナメル質に対し閉じ込められている120の欠損を選んだ。各欠損の半分と切断面には、対照試料とし、マニキュアを塗った。次に、欠損を37%リン酸ゲルあるいは5%又は15%塩酸ゲルを用いて30秒から120秒(n=10)エッチングした。
【0139】
1.2 視覚化
試料を、一端をストッパーで閉じたシリコーンチューブの中で5分間乾燥させ、シリコーンリングを用いて分離した。次に、0.1mmol/lの蛍光色素のローダミンBイソシアネート(RITC)で標識したスパー樹脂(Spurr's resin)(Spur AR、電子顕微鏡の包埋用の低粘度のエポキシ樹脂、I Ultrastruct Res、第26巻、第31頁〜第43頁(1969))を、試料にかけ、そしてチューブを別のストッパーで閉じた。樹脂をオートクレーブ中(Ivomat IP3; イボクラールビバデントシャーン、リヒテンシュタイン)で0.8Mpa、70℃で8時間かけて硬化させた。加圧により、非常に低粘度の樹脂は、欠損の残留孔に浸透する。硬化後、試料を切断し、試料ホルダーに平行に固定し、4000グリット(イクザクトミクロシュロイフシステム; イクザクトアパラテバウ)まで研磨した。この浸透方法を、樹脂浸透による視覚化(VIRIN)と名付けた。
【0140】
1.3 CLSM映像化
試料を、共焦点走査型顕微鏡(CLSM)(ライカTCS NT、ライカ、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いて検討した。励起光がアルゴン/クリプトンレーザを用い、最大波長が560nmである。映像が、蛍光モードで記録した。蛍光のみを検出し、反射光を除くように、590nmのロングパスフィルターを用いて発光を検出した。オイルに浸漬した状態で、対物40倍で試料を観察した。観察した層は、表面から約10μm下の層である。観察中、レーザ光強度と光増幅率は一定とした。映像(250x250μm)は、解像度1024x1024ピクセル、256疑似カラーステップ(pseudo color steps)(赤/黒)で撮影し、イメージジェイプログラム(NIH、ロックビルパイク、メリーランド、米国)を用いて解析した。
【0141】
2.結果
対照例の表面層の厚さと、正常及び患部の組織の浸蝕部分及びエッチング部分を測定した。リン酸ゲルで30秒間エッチングしても表面層の厚さに大きな変化はなかった(p>0.05、t-検定)。しかしながら、リン酸ゲルで30秒間又は90秒間エッチングした場合に比べ、15%塩酸ゲルで90秒間エッチングした場合では、欠損における表面層の減少率が大きく増加した(p<0.05、アノーバ(ANOVA))。欠損における浸蝕深さについては、正常なエナメル質と比べて違いは認められなかった(p>0.05、t-検定)。
【0142】
図1は、初期エナメル質欠損を37%リン酸ゲルで30秒間予備的処理を行った場合、「見かけ上無傷の表面層」のエッチングが不十分であることを示している。そのため、このような予備的処理では、浸透剤を十分に浸透させるのに必要な範囲まで表面層を破壊することはできない。結果として、閉塞されるのはほんの表面部分だけである。しかしながら、不十分な浸透では有機酸から保護することができず、エナメル質の溶解や浸蝕をさらに促進させる。図2は、15%塩酸ゲルで120秒間予備的処理を行った場合、「見かけ上無傷の表面層」が完全に除去されたことを示している。
【0143】
結論として、15%塩酸ゲルで90秒間から120秒間エッチングすることにより、表面層を確実に減らすことができる。
【0144】
実施例2.リン酸ゲルと塩酸ゲルによるエッチング後の、自然のう蝕欠損への樹脂の浸透についての生体外での試験
1.材料及び方法
この試験では、隣接白斑を有する、抜いた人間の臼歯と小臼歯を用いた。ソフトティッシュで十分に洗浄した後、歯を使用するまで20%エタノール溶液中に保存した。歯は、20倍の実体顕微鏡(ステミ(Stemi) SV 11、カールザイス、オーバーコーヘン、ドイツ)を用いて観察し、損傷や空洞のある欠損を除いた。
【0145】
放射線撮影検査のため、頬面を備えたシリコーン基材の中に、放射線撮影管(Heliodent MD、ジーメンス、ベンスハイム、ドイツ)の方を向くように歯を配置した。頬の散乱をシミュレートするため、撮影管と歯の間に透明なパースペクス(登録商標)を配置した。各歯について規格化された放射線写真(0.12秒、60kV、7.5mA)を撮影し(エクスピード(Ektaspeed)、コダック、シュトゥットガルト、ドイツ)、自動現像機(XR 24-II、デュールデンタル、ビーテックハイム−ビッシンゲン、ドイツ)を用いて現像した。放射線撮影による欠損の深さは、二人の検査者により別々に解析及び評価がなされている(Marthaler TMとGermamm M、抜かれた歯について研究された、小さな平坦面う蝕欠損についての放射線撮影及び視覚による外観、Caries Res、第224頁〜第242頁(1970))、半透明なし(R0)、エナメル質の外側半分に閉じ込められた部分が半透明(R1)、エナメル質の内側半分に閉じ込められた部分が半透明(R2)、象牙質の外側半分に閉じ込められた部分が半透明(R3)、象牙質の内側半分に閉じ込められた部分が半透明(R4)である。放射線撮影による欠損の深さの判定が一致しない場合には、合意したランクを用いる。
【0146】
歯根は除去し、歯冠は、表面に垂直にう蝕欠損を切断し(帯のこ、イクザクトアパラテバウ、ノルダーシュタット、ドイツ)、各欠損について2分割する。次に、切断面を調べ(実体顕微鏡)、組織学的な欠損の拡がりの異なるもの(C1〜C3)を分類した。象牙質の内側半分にまで拡がったもの(C4)は除いた。同じう蝕の拡がりを示す、対応する残りの分割した欠損は、処理(TRT)グループに分けた(それぞれn=10)。対応する残りの分割した欠損で拡がりが異なる場合には、深いものを対照例として用いた(CTR、n=10)。
【0147】
次に、切断面をマニキュアで覆った。対応する残りの分割した欠損でTRTグループに属すものは、37%リン酸ゲル(H3PO4:トータルエッチ、イボクラールビバデントシャーン、リヒテンシュタイン)又は試験用15%塩酸ゲル(HCl)を用いてエッチングした。塩酸ゲルは、塩酸15%、グリセロール19%、高分散の二酸化ケイ素8%、そしてメチレンブルー0.01%水溶液を含んでいる。120秒後、水をかけ30秒間十分にゲルを洗浄した。CTRグループには、酸エッチングを行わなかった。欠損を純エタノールに30秒間浸け、次いで、オイルを含まない圧縮空気を用いて60秒間乾燥した。
【0148】
0.1%テトラメチルローダミンイソシアネート(TRITC;シグマアルドリッチ、シュタインハイム、ドイツ)で標識した歯科用接着剤を、欠損表面に塗布した。樹脂を5分間、欠損の中に浸透させた。次に、余分の材料を除去し、樹脂を400mW/cm2で光を30秒間照射して硬化させた(トラナルクス(Tranalux) CL、ヘレウスクルツアー、ハーナウ、ドイツ)。マニキュアを丁寧に除去し、研磨面に平行に試料ホルダーに固定し、研磨した(イクザクトミクロシュロイフシステム、研磨紙2400,4000;イクザクトアパラテバウ、ノルダーシュタット、ドイツ)。残りの穴を染色するため、試料を100μM/lのナトリウムフルオレセイン(シグマアルドリッチ)を含む50%エタノール溶液に3時間浸けた。
【0149】
対物10倍で、二重蛍光モードで、共焦点走査型顕微鏡(ライカTCS NT;ライカ、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いて試料を観察した。励起光は、2つのピーク波長4880nmと568nmを有する。発光は、580nm反射ショートパスフィルターを用いて分光し、FITCの検出用には525/50nmのバンドパスフィルターを、RITCの検出用には590nmのロングパスフィルターを用いた。映像は、横方向の大きさが1000x1000μm2で、解像度1024x1024ピクセルで記録し、アキシオビジョンエルイーソフトウェア(AxioVison LE software)(ザイス、オーバーコーヘン、ドイツ)を用いて解析した。分割した半分の欠損の浸透深さと表面層の厚さ(残存物)を、最大10個の限定された点について(欠損の大きさによる。100μmのグリッドで示す。)測定し、平均値を計算した。
【0150】
SPSSソフトウェア(ウィンドウズ用SPSS11.5.1:SPSS Inc.、シカゴ、イリノイ、米国)を用いて統計処理を行った。データについてコルモゴロフ−スミノフテストを用い、正規分布のチェックを行った。分割した残りの半分の欠損と酸ゲルの間の違いを解析するため、対の試料についてはウィルコクソン検定を用いた。対でないグループの比較のため、マン−ホイットニー検定とクルスカル−ワリス(Kruskal-Wallis)検定を行った。
【0151】
2.結果
CLSMの映像では、浸透した樹脂は赤色蛍光を示すが、象牙質や欠損内の残存孔は緑色である(図3Aから3C)。正常なエナメル質の固体材料又は表面層は黒色である。
【0152】
浸透深さは大きく変化した。図4は、う蝕の程度が異なる種々のグループの浸透深さを示している。塩酸ゲルでエッチングした半分の欠損は、平均浸透深さ(標準偏差)[58(37)μm]は、リン酸ゲル[18(11)μm](p<0.001、ウィルコクソン)でエッチングしたものと比較し顕著に大きな値を示した。酸エッチングをしなければ、樹脂の浸透は[0(1)μm]である。処理したグループについては、進行程度の異なる欠損間で顕著な違いは認められなかった(C1〜C3)(p>0.05、クルスカル−ワリス)。同様に、浸透深さは、放射線撮影による欠損深さ(R1〜R3)(p>0.05、表1)と同程度であった。
【0153】
表面層が完全に除去された表面層では(CTR n=0、リン酸 n=2,塩酸 n=8)、エッチングの後でも表面層が残っている欠損[33(31)μm]と比べると、
顕著に大きい(p<0.01、マン−ホイットニー)平均浸透深さ[65(35)μm]が認められた。塩酸エッチングを行う[20(18)μm]と、リン酸エッチングを行った場合[37(25)μm]やエッチングを行わなかったCTRグループ[42(23)μm](p>0.05、マン−ホイットニー)に比べ、表面層の厚さが大きく減少した。
【0154】
表1. 放射線撮影による種々のう蝕進行物の平均浸透深さ[μm(標準偏差)]
【表1】
【0155】
実施例3.実験用浸透剤のPCの評価
この検討の目的は、エナメル質欠損に浸透させるための66個の実験用複合樹脂(浸透剤)について評価を行うことである。
【0156】
1.材料及び方法
エタノール(0%、10%又は20%)と、ビスGMA、UDMA、TEGDMA、そしてHEMAの内の2種のモノマーを種々の重量比(100:0、75:25、50:50、25:75、0:100)で含む66個の実験用浸透剤を調製した(表2)。各実験用樹脂は、表2に従い、10gを混合して褐色のガラス製ジャーに投入した。早期に重合が起きるのを防止するため、樹脂は使用するまで4℃で保存した。実験用浸透剤のPCを決定するために、接触角、表面張力、そして粘度を測定した。
【0157】
表2.実験用浸透剤の組成(重量%)と測定結果。
接触角、表面張力、動粘度、そして得られた浸透係数(PC)について平均及び標準偏差を記載している。また、光硬化後のコンシシテンシーも記載した。
【表2】
【0158】
接触角測定は、研磨したウシのエナメル質について行った。ウシの切歯の唇状表面からエナメル質のディスク(約5×5×3mm3)を作製し(帯のこ イクストラクト(Extract)300;イクストラクトアパラテバウ、ノルダーシュタット、ドイツ)、メタクリレート樹脂(テクノビット4071;ヘレウスクルツアー、ハーナウ、ドイツ)で包埋し、その表面を平らに削り研磨した(研磨装置フェニックスアルファ;Buehler、デュッセルドルフ、ドイツ;研磨紙600,1200,2400,4000;イクザクトアパラテバウ)。使用するまで、試料は蒸留水中に保存した。各測定の前に、表面を乾燥し、100%エタノールで洗浄した。
【0159】
樹脂の接触角を測定するため、ゴニオメータに設置したカメラ(G10;クリュス、ハンブルグ、ドイツ)を用いた。樹脂の液滴(約1μl)を、マイクロシリンジを用いてエナメル質の表面に置いた。10秒後、映像を記録し、液滴の形状解析ソフトウェア(DSA 10;クリュス)で解析した。各樹脂について、3回測定して計算した。表面の汚染を防ぐために、各測定は新しいエナメル質のディスクで行った。
【0160】
表面張力は、リングプロセッサテンショメーター(K12;クリュス)を用いて測定した。空気飽和状態を達成するため、混合物を含む溶剤を測定する時、エタノールを含むカップを測定チャンバー内に置いた。各複合物を5ml、Teflonモールドの中に入れ、試験用リング(白金イリジウム合金、RI 12;クリュス)を液面に近づけて配置した。測定は自動である。測定値のバラツキにより、装置は5回から20回で自動的に測定を停止した。
【0161】
動粘度は、マイクロウベローデ型プロセッサ粘度計(ショット;マインツ、ドイツ)を用いて25℃で測定した。低粘度樹脂については、キャピラリー定数が0.1mm2・s−2であるガラスキャピラリーを用いた。高粘度の複合物には、キャピラリー定数が10mm2・s−2であるガラスキャピラリーを用いた。自動的に3回測定を行い、各材料について平均と標準偏差(SD)を算出した。動粘度は、測定値に樹脂の密度を掛けて算出した。実験用複合物の密度は、モノマーの製造メーカーのデータを用いた。
【0162】
実験用浸透剤の硬化特性を評価するため、0.5%DABEと0.5%カンファーキノンを添加した。樹脂を規格モールド(7x4x2mm3)に導入し、400mW/cm2、60秒の条件で光硬化させた(トランスルクス CL、ヘレウスクルツアー)。次に、それらのコンシシテンシーを定性的に評価し、「硬い」、「柔らかい」、「ゴム状」、「粘性がある」又は「液状」のカテゴリーに分類した。
【0163】
2.結果
実験用浸透剤の結果を表1に示す。樹脂の間の最も大きい差異は、粘度であった(3.2〜6637.0mPa・s)。HEMAとTEGDMAが高含量である樹脂混合物は、低粘度で高いPCを有していた。一方、ビスGMAとUDMAは粘度が増加し、PCが減少した。ビスGMA又はUDMAが高含量である5個の実験用樹脂は、非常に粘度が高く、市販の装置では測定することができなかった。接触角には大きな差異が認められたが(3.2〜54.2度)、PCへの影響は、接触角のコサインで効いてくるため、わずかであった。エタノールを添加すると、すべの混合物の粘度、表面張力、そして接触角が減少し、すべてのモノマーの組み合わせについて、浸透係数が増加した。TEGDMA、 HEMA、そして20%エタノールを含む複合物が最も大きなPCを有していた。HEMAとエタノールが高含量である複合物は、十分に硬化せず、ゴム状又は液状となった(表2)。
【0164】
実施例4.PCの浸透速度への影響
この生体外における実験の目的は、PCの異なる12個の実験用浸透剤の浸透指数(PQ=浸透深さ/欠損深さ)を、接着剤(エキサイト(登録商標);ビバデント)と比較することにある。
【0165】
1.材料及び方法
ウシの臼歯から143個の試料を調製し、エポキシ樹脂に埋め込み研磨した。試料の一部をマニキュアで覆い(対照例)、4つの窓を50日間(pH4.95、37℃)脱灰した。脱灰後、4つの窓の内の3つをリン酸で5秒間エッチングした(37℃)。上記接着剤と、12個の実験用材料(No.13〜21、4〜6)を欠損(n=11)に塗布した。余分の材料を除去した後、樹脂を30秒間で光硬化させた。試料をその表面に対し垂直に切断し、その切片を共焦点顕微鏡(CLSM)と、マイクロ放射線撮影(TMR)を用いて調べた。
【0166】
2.結果
CLSM[299(57)μm]とTMR[296(51)μm]の平均欠損深さ(SD)は同等であった。接着剤と比較すると、TEGDMAをベースとする3個の浸透剤は(No.4〜6;ビスGMAとTEGDMA(25:75)、そしてエタノールを含むもの(No.20,21)だけでなく)、PQが大きく増加した(p<0.05;アノーバ)。種々の材料について、図5Aは浸透指数、図5Bは絶対浸透深さを示している。
【0167】
図6は、浸透深さとPCとの積の平方根と塗布時間との相関を示している(r2=0.847)。この良好な相関は、ウォッシュバーン式が、エナメル質欠損への浸透剤の浸透に適用できることを示している。したがって、PCは、浸透剤がエナメル質欠損へ速やかに浸透できる能力を有するかどうかを評価する上での有効な指標となると考えられる。浸透剤が、エナメル質欠損に速やかに浸透するためには、大きな浸透係数(50cm/sより大きい)を有することが必要である。
【0168】
実施例5.脱灰条件での、浸透処理したエナメル質欠損の欠損進行に対するPCの影響
この検討の目的は、脱灰条件での、閉塞させた人工エナメル質欠損の進行度を評価することである。
【0169】
1.材料と方法
130個のウシのエナメル質の試料のそれぞれについて、4個の欠損状のう蝕を作製した(pH4.5の溶液で50日の条件で脱灰した。)。各試料について、3個の欠損はリン酸で5秒間エッチングし、残りの1個の欠損にはエッチングを行わなかった。接着剤エキサイトと、PCの異なる12個の実験用複合物(No.13〜21、と4〜6;表2)のそれぞれを欠損の上に塗布した(n=10)。余分の材料を除去した後、樹脂を30秒間で光硬化させた。次に、試料をその表面に対し垂直に切断した。各試料の半分をベースラインの対照例とした。残りの半分を、さらに50日間、脱灰用溶液に曝した(効果)。試料は共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0170】
2.結果
2回目の脱灰期間中に、平均欠損深さ(SD)は、299(51)μmから418(76)μmに増加した(41.5%)。未処理の対照例と比較し、浸透処理した欠損は顕著に欠損の進行が抑制された(p>0.001、t-検定)。PCが100cm/sより小さい浸透剤と、エキサイト(PC=31.3cm/s)は、欠損深さが顕著に増加した(図6)。PCが高い浸透剤は、ほとんど進行しなかった(p>0.05)。閉塞させた欠損の進行度と、PCと浸透時間の積の平方根との間に負の相関が認められた(r2=0.625;p<0.01;図8)。PCが高い浸透剤は、PCが低い浸透剤に比べ、欠損の進行を抑制するのに、適していると結論できる。
【0171】
実施例6.エナメル質への浸透方法
1.材料
エナメル質への浸透を実行するための有効な手段は、その場で歯を分離するための分離手段と(図9)、塩酸ゲル等の状態調節剤を塗布するための塗布用片と(図10A)、浸透剤と、必要に応じて、高粘度の光硬化性モノマーの混合物と、洗浄用片(図10B)とを含んでいる。
【0172】
分離手段は、断面台形状のくさび状の形状を有し(図9)、メタクリレート又は木材等の固体材料で作製されている。大きさは、例えば、長さが約12mm、幅が最大で約2.5mmである。
【0173】
塗布用片1〜3(図10A)と洗浄用片4(図10B)は、その基材に厚さが最大で約100μmのポリマーフィルムを用いている。塗布用片は、長さが約20cm、幅が約0.4cmである。それらは、さらに基材のポリマーフィルムの上に積層された厚さが最大で約300μmの塗布用パッドを有している。塗布用パッドは、片の概ね中央又は一端の近傍に設けることができる。塗布用パッドの材料には、発泡体、フェルト又は紙等の吸収材料を用いることができる。吸収材料を、塩酸ゲル、浸透剤又は高粘度の光硬化性モノマーの混合物のいずれかに浸漬する。塗布用パッドを、使用前に、ストックから取り出し、ユーザー、例えば歯科医又は患者が浸漬することもできる。又は、塗布用片は、そのまま使用可能な状態の片でも良く、すなわち、予め浸漬されており、好ましくは真空パック又は他の方法で湿気から保護された形で市販されても良い。
【0174】
洗浄用片は、長さが約20cm、幅が約0.7cmであり、幅が約2cmの複数のラップ、例えば、4個のラップでシリコーン又はゴムからなるものを有している。ラップは、柔らかく、2個の隣接する歯の間を洗浄するために使用できるように、材料を選択して取り付けられている。2個のラップが液体又は他の材料を取り出すための空隙を形成することが好ましい。図10Bに示すように、ラップは斜めの位置が良い。ラップを設ける領域は、片の概ね中央又は一端の近傍が好ましい。
【0175】
上述した、エナメル質に浸透させる方法を実行するために好ましい手段は、キットの形で市販することができる。
【0176】
一態様として、そのキットは、好ましくは患者によって使用されるものであり、
(a)塩酸ゲルに浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個のそのまま使用可能な塗布用片と、
(b)浸透剤に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個のそのまま使用可能な塗布用片と、
(c)必要に応じ、高粘度の光硬化性モノマーの混合物に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個のそのまま使用可能な塗布用片と、そして
(d)少なくとも1個の洗浄用片、とを有する。
【0177】
別の態様として、キットは、
(a)塩酸ゲルに浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個の塗布用片と、
(b)浸透剤に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個の塗布用片と、
(c)必要に応じ、高粘度の光硬化性モノマーの混合物に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個の塗布用片と、
(d)少なくとも1個の洗浄用片と、
(e)塩酸ゲルと、
(f)浸透剤と、そして
(g)必要に応じ、高粘度の光硬化性モノマーの混合物、とを有する。
【0178】
(e)の塩酸と、(f)の浸透剤と、そして(g)の高粘度の光硬化性モノマーの混合物は、ストック用としてボトル等の容器に、あるいは使い捨て容器に保存することもできる。
【0179】
いずれのキットも、さらに分離手段を含んでも良い。
【0180】
1.そのまま使用可能な塗布用片を用いる方法を実施するための手順
歯科医の一般的なやり方として、治療部位を拭くために歯科用ダム(dental dam)を用い、歯同士を約300μm離間させるために分離手段を用いる。患者が行う場合には、治療部位を拭いたものは捨てることができる。
【0181】
第1工程では、塩酸ゲルに浸した塗布用パッドを備えた片を用いて、治療する歯に塩酸を塗布する。そのためには、治療する歯とそれに隣接する歯との間の領域に、かみ合わせの方向から又は舌/口蓋の方向から片を入れる。片を入れる間、片は、塗布用パッドの上面が治療する歯の隣接面に向くようにしておく必要がある。次に、治療する隣接領域においてC形状となるように塗布用パッドを配置してから、塗布用パッドを歯の表面に押し付ける。約2分間その状態を維持した後、歯の表面に付着した余分の塩酸をすすぎ、治療部位を空気で乾燥させ、あるいはエタノール及び/アセトンを用いて乾燥させる。
【0182】
第2工程では、浸透剤に浸した塗布用パッドを備えた片を、第1工程と同様の方法で使用する。
【0183】
第3工程では、洗浄用片を用いて余分の浸透剤を除去する。治療する歯とそれに隣接する歯との間に洗浄用片を入れた後、舌/口蓋の方向から前庭(vestibular)方向に移動させる。柔らかいラップにより形成された空隙に浸透剤が満たされるまで、片を複数回、両方向に移動させる。
【0184】
第4工程では、エナメル質欠損に浸透させた浸透剤を光硬化させる。
【0185】
第5工程では、浸透剤又は高粘度の光硬化性モノマーの混合物に浸した塗布用パッドを備えた片を、第1工程及び第2工程と同様の方法で用いる。
【0186】
必要に応じて、さらに洗浄用片を用いて第3工程と同様に行い、最後の工程における余分の材料、例えばモノマーの混合物を除去する。
【0187】
さらに、モノマーを光重合させる。高粘度の光硬化性モノマーの混合物を光硬化させて得られる最後の層は、治療部位を閉塞させ、浸透処理したエナメル質を十分に保護する。
【0188】
最後に、歯科用ダムを用いた場合は、それを治療部位から除去する。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】37%リン酸ゲルで30秒間状態調節した後の初期エナメル質う蝕欠損を示す(共焦点レーザ走査顕微鏡CLSMを用いた結果である。)。
【図2】15%塩酸ゲルで120秒間状態調節した後の初期エナメル質う蝕欠損を示す(CLSMを用いた結果である。)。
【図3A】樹脂が浸透した欠損の代表的な共焦点顕微鏡画像である(E:正常なエナメル質、SL:表面層、LB:欠損本体、R:浸透樹脂、EDJ:エナメル質と象牙質との接合部、S:欠損表面)。リン酸でエッチングしたう蝕欠損の表面層は完全には浸蝕されておらず、そのため、表面だけに樹脂が浸透している(歯表面の赤蛍光の細い縁で示している。)。
【図3B】樹脂が浸透した欠損の代表的な共焦点顕微鏡画像である(E:正常なエナメル質、SL:表面層、LB:欠損本体、R:浸透樹脂、EDJ:エナメル質と象牙質との接合部、S:欠損表面)。塩酸でエッチングした欠損には、樹脂が深く浸透し、表面層の残存物は認められない。
【図3C】樹脂が浸透した欠損の代表的な共焦点顕微鏡画像である(E:正常なエナメル質、SL:表面層、LB:欠損本体、R:浸透樹脂、EDJ:エナメル質と象牙質との接合部、S:欠損表面)。塩酸でエッチングした欠損の拡大画像である(対物40倍)。角柱状の中心部分の最外部の50〜100μmは樹脂で充填され、欠損本体の非浸透部分では、非常に多孔質の角柱状中心部分が緑の蛍光を発している。
【図4】種々の程度の欠損の平均浸透深さ(y軸)を示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)。星印で示すようにグループ間では、統計的に明確な相違が認められる(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.01、ウィルコクソン/マン−ホイットニー)。
【図5A】種々の材料についての浸透指数を示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)。
【図5B】種々の材料についての絶対浸透深さを示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)。
【図6】浸透係数(PC)と時間の積の平方根と浸透深さとの関係を示す点プロットである。
【図7】異なる材料で治療した時の、欠損の欠損深さのパーセント進行度を示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)
【図8】浸透係数(PC)と時間の積の平方根と欠損深さの進行深さとの関係を示す点プロットである。
【図9】本発明の分離手段の模式図である(Wは幅であり、例えば最大約2.5mm、lは長さであり、例えば12mmである。)。
【図10A】本発明の塗布用片の模式平面図であり、塗布用片1〜3は、それぞれ塩酸、浸透剤、高粘度の光硬化性モノマー混合物を塗布するように取り付けられた塗布用パッドを有している。
【図10B】本発明の洗浄用片の模式平面図と模式側面図であり、洗浄用片4は、柔らかい洗浄ラップを有している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透係数を計算することにより浸透剤を確認する方法、及び50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の歯科用樹脂に用いる浸透剤に関する。本発明は、特にう蝕(carious lesions)を防止及び/又は治療するためにエナメル質に浸透させるための上記浸透剤の使用に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、エナメル質に浸透させるためのキットに関するものであり、そのキットは、塩酸と、少なくとも1つの低粘度の歯科用樹脂を含む浸透剤と、からなる状態調節剤(conditioner)に関するものである。本発明は、また、エナメル質に浸透させるためのキットに関し、そのキットは、直ぐに使える貼用片と、必要により、洗浄用片と歯の分離手段を有する。
【背景技術】
【0002】
先進国では、大人の約98%が1つ以上のう蝕を持っているか、既に充填剤を使用している。徐々に穴を生成させるう蝕の場合、う蝕は硬い歯質の脱灰により始まる。「初期エナメル質う蝕」と呼ばれる初期段階では、歯の表面には腐食の跡は認められず無傷の状態であるが、表面より下の脱灰された領域ではより多孔質の状態となる。
【0003】
現在、隣接面う蝕(approximal caries)を治療するための手術以外の唯一の方法は、フッ化物を用いて再石灰化を促進すること、そして患者の口腔内の衛生状態を改善してう蝕を予防することである。平滑面に改良された洗浄方法を適用するのは容易であるが、隣接面は洗浄するのが特に困難である。しかしながら、象牙質にまで到達した隣接面欠損においては再石灰化はほとんど起きない。これは、いくつかの臨床例によれば、多くの場合、これを境にして視認可能な欠損穴が生成するからである(Rugg-Gunn AJ:隣接するう蝕。ラジオグラフ的及び臨床的外観の比較、Br Dent J、第133巻、第481頁〜第484頁(1972)、De Araujo FB ら:隣接面う蝕の診断:歯間分離(tooth separation)を用いたラジオグラフ的試験と臨床試験、Am J Dent、第5巻、第245頁〜第248頁(1992)、Ratledge ら:隣接するう蝕の臨床学的及び微生物学的研究。パート1:穴、ラジオグラフ的欠損深さ、特定箇所向けの歯肉インデックス、そして象牙質の感染の程度の間の関係、Caries Res、第35巻、第3頁〜第7頁(2001))。さらに、生体外の研究においても、エナメル質の閉じ込められた多くの穴が欠損中に認められている。穴の開いたエナメル質の欠損は、患者によっては十分に洗浄することができないため、そのまま進行する(Marthaler TM, Germann M:抜歯について研究された、平滑面を有する微小なう蝕のラジオグラフ的及び視覚的な外観、Caries Res、第4巻、第224頁〜第242頁(1970)、 Kogon SL ら:隣接面う蝕であって、穴を有するう蝕と穴のないう蝕とをラジオグラフ的手法で識別することは可能か、Dentomaillofac Radiol、第16巻、第33頁〜第36頁(1987))。したがって、う蝕の初期段階で穴が生成した場合、臨床的な条件下では再石灰化が起きる可能性はほとんどない。これにより臨床の知見を説明することができる。すなわち、フッ化物使用や口腔内衛生状態の改善は隣接面う蝕の進行を遅らせることができるだけで、それを逆転させることはできない(Mejare I ら:11歳から22歳までのう蝕の進行:予測適応なラジオグラフ的研究。罹患率と分布、Caries Res、第32巻、第10頁〜第16頁(1998))。
【0004】
一旦穴が開いてしまうと、通常、侵襲的な手術方法が適用される。しかしながら、う蝕の歯質を削り出す場合、う蝕のない歯質、すなわち、正常で硬い歯質も同時に削り出すことになる。そこに到達するのが困難な隣接面う蝕欠損の場合、削り取られるう蝕の基質と無傷の基質の割合が特に大きい。さらに、充填された充填剤と内生歯質との間の接続はう蝕欠損自体の影響を受けやすく、また経年変化により充填剤を新しくする場合には、正常な歯質の除去を伴う。そのため、初期段階のう蝕の治療方法には、特に隣接面う蝕欠損においては、後で侵襲的な治療方法を受ける必要がないことが非常に望まれている。
【0005】
初期段階におけるエナメル質のう蝕の一つの明確な印は、白斑欠損である。その欠損は、エナメル質のバルク部分のミネラル分の消失によるものであり、欠損の表面は比較的無傷である(いわゆる「擬無傷表層」である。)。非侵襲的な歯科学な方法として期待できるのは、歯科用接着剤や裂溝充填剤等の低粘度の光硬化性樹脂を用いてエナメル質の欠損を充填する方法である。欠損部分の微小な穴は、酸や溶解したミネラルの拡散経路として機能する。そのため、欠損の進行先端部ではエナメル質を溶解させる。提案された治療方法は、表面だけを充填するだけでなく、これらの穴に浸透し、欠損部分がさらに攻撃を受けるのを防止する。また、樹脂材料を硬化させることにより、脆弱なエナメル構造を補強する効果も有する。それゆえ、光硬化性樹脂を浸透させて穴を閉塞させることにより欠損の進行を予防し、さらに脆弱な欠損構造を補強することができる。
【0006】
低粘度の樹脂を用いてう蝕を予防しようとする考えは、1970年代から生体外の実験については続けられている(Robinson C ら:う蝕の予防及び制御。レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いた基礎的研究、J Dent Res、第55巻、第812頁〜第818頁(1976)、Davila JM ら:人間の人工及び自然の白斑への接着剤の浸透、J Dent Res、第54巻、第999頁〜第1008頁(1975)、Gray GB 、Shellis P :う蝕状の白斑エナメル質欠損への樹脂の浸透:生体外での研究、Eur J Prosthodont Restor Dent、第10巻、第27頁〜第32頁(2002)、Garcia-Godoy F ら:未充填樹脂で保護された白斑状欠損からなるう蝕の進行、J Clin Pediatr Dent、第21巻、第141頁〜第143頁(1997)、Robinson C ら:人工的なう蝕状欠損への接着剤の浸透に関する生体外での研究、Caries Res、第35巻、第136頁〜第141頁(2001)、Schmidlin PR ら:生体外における、脱石灰化された及び再石灰化されたエナメル質への結合剤の浸透、J Adehes Dent、第6巻、第111頁〜第115頁(2004))。充填剤が、人工欠損部分にほぼ完全に浸透することが示され(Gray GB 、Shellis P :う蝕状の白斑エナメル質欠損への樹脂の浸透:生体外での研究、Eur J Prosthodont Restor Dent、第10巻、第27頁〜第32頁(2002)、Meyer-Lueckel H ら:種々の接着剤と裂溝充填剤の、ウシエナメル質の人工的な表面下欠損への浸透に対する塗布時間の影響、Dent Mater、第22巻、第22頁〜第28頁(2006))、そして欠損内の影響を受けやすい空隙容積を大幅に減らすことができる(Robinson C ら:人工的なう蝕状欠損への接着剤の浸透に関する生体外での研究、Caries Res、第35巻、第136頁〜第141頁(2001))。さらに、脱石灰化の状態では、充填剤が欠損の進行を予防することが認められた(Robinson C ら:う蝕の予防及び制御。レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂を用いた基礎的研究、J Dent Res、第55巻、第812頁〜第818頁(1976)、Garcia-Godoy F ら:未充填樹脂で保護された白斑状欠損からなるう蝕の進行、J Clin Pediatr Dent、第21巻、第141頁〜第143頁(1997)、Robinson C ら:人工的なう蝕状欠損への接着剤の浸透に関する生体外での研究、Caries Res、第35巻、第136頁〜第141頁(2001)、Muller J ら:生体外における樹脂の浸透によるう蝕の進行の予防:生体外における脱石灰化状態での、充填された初期ウシエナメル質欠損の進行、Caries Res、第40巻、第124頁〜第129頁(2006))。
【0007】
しかしながら、自然のエナメル質欠損を充填する際の問題の一つは、「見かけ上無傷の表面層」が、欠損のう蝕部分に比べミネラル分の量が多いことである。その結果、これらの層が充填剤のう蝕部分への浸透を予防し、さらには障壁として働くことになる。結局、表面層が表面的にしか覆われておらず、う蝕部分への樹脂の浸透が不十分になる。最悪の場合、「充填物」の下でう蝕が進行する。
【0008】
エナメル質欠損への充填物の浸透を促進する努力がなされている。生体外のモデルでは、無傷の表面層、欠損部分、そして進行する脱石灰化の先端部を示す人工的なエナメル質欠損が作製されている。それらの人工的に作製された欠損に対してリン酸を用いて5秒間エッチングすると、より深く浸透する(Gray GB 、Shellis P :う蝕状の白斑エナメル質欠損への樹脂の浸透:生体外での研究、Eur J Prosthodont Restor Dent、第10巻、第27頁〜第32頁(2002)。エナメル質領域に対するエッチングによるそのような前処理又は調製(conditioning)は、生体内における充填剤の浸透をも向上させる。しかしながら、人工的に作製したエナメル質欠損は、規則的で比較的薄い「見かけ上無傷の表面層」を有する点において、自然の欠損とは相違している。対照的に、自然のエナメル質欠損は、通常、種々の厚さの高度に石灰化した表面層を有している。そのため、リン酸を用いた調製は、生体外ではうまく行くが、必ずしも生体内で効果があるとは限らない。
【0009】
国際公開WO 00/09030は、う蝕と歯周病から歯を守るために、歯を染色するコーティング方法を開示している。このコーティング方法は、(a)例えば酸やレーザーを用いて歯をエッチングする工程と、(b)エッチングされた歯を保護剤を適用する工程と、(c)歯を充填する工程、とからなる。酸エッチングには、通常、リン酸、マレイン酸、クエン酸、ピルビン酸等が用いられている。
【0010】
それにもかかわらず、生体内の研究によれば、リン酸ゲルで前処理されたエナメル質欠損に従来の接着剤を適用した場合、コントロール例と比べてう蝕の進行が遅くなったことが報告されている(Martignon ら:Caries Res、第40巻、第382頁〜第388頁(2006))。しかし、患者の観察は2年間だけであり、診断もX線であり、浸透が成功であったかどうかを検討するには適した方法ではない。そのため、著者が有効性を認めた場合であっても、この研究の結果については、検討の余地がある。さらに、表面的な「充填」は生体内での物理的な負荷を受けて破壊される場合があるので、この当初の成功が長い時間が経過した後も認められるかどうかは明らかではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以前の研究では、接着の目的のために最適化された市販の接着剤と裂溝用充填剤が、表面下のエナメル質欠損に浸透させるために使用された。これらのエナメル質欠損(浸透物)に短時間で浸透させるように最適化された複合樹脂が良好な充填性能を示す可能性がある。そのような複合樹脂を開発するため、エナメル質欠損に浸透する際に起きている反応を正しく理解することが必要とされている。
【0012】
物理的には、液体(未硬化樹脂)の多孔質固体(エナメル質欠損)への浸透は、ウォッシュバーン式(式1,下を参照)で表される。この式は、多孔質固体が開放された毛細管の束であることを仮定しており(Buckton G :ドラッグデリバリー及びターゲッティングにおける界面現象、Chur(1995))、この場合、液体の浸透は毛細管力で起きる。
【0013】
【数3】
[式1]
ここで、
dは、液体樹脂の浸透距離、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度、
rは、毛細管(穴)半径、
tは、浸透時間、を表す。
【0014】
ウォッシュバーン式の括弧付きの項は、浸透係数である(PC、式2、下を参照)(Fan PL ら:充填剤の浸透性、J Dent Res、第54巻、第262頁〜第264頁(1975))。PCは、空気に対する液体の表面張力(γ)、エナメル質に対する液体の接触角(θ)のコサイン、そして液体の動粘度(η)を含んでいる。その係数が大きくなると、液体は所定の毛細管又は多孔体により速く浸透する。このことは、接触角の影響が比較的小さい場合、表面張力が大きく、粘度が低く、接触角が小さいとPCが高くなることを意味している。
【0015】
【数4】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0016】
すでに、市販の充填剤の浸透係数(PC)と、それらの裂溝への浸透性能との間に正の相関が認められている(O'Brien WJ ら:充填剤と釉薬の浸透性。充填剤の効果は、裂溝への浸透能力に依存する、Oper Dent、第3巻、第51頁〜第56頁(1987))。さらに、低粘度の充填剤は、エッチングされたエナメル質に用いるとより深く浸透することができる(Irinoda Y ら:エッチングした人間のエナメル質への樹脂の浸透に対する充填剤粘度の影響、Oper Dent 第25巻、第274頁〜第282頁(2000))。しかしながら、う蝕への樹脂の浸透に対するPCの影響に着目した研究は、今までなされていない。5種の市販の接着剤と1種の裂溝充填剤の人工のエナメル質欠損に対する浸透は、最近の研究のテーマであった(Meyer-Lueckel H ら:種々の接着剤と裂溝充填剤の、ウシエナメル質の人工的な表面下欠損への浸透に対する塗布時間の影響、Dent Mater、第22巻、第22頁〜第28頁(2006))。浸透深さが浸透時間に依存することが示された。この研究では、最も優れた浸透性能を示した市販の接着剤はエキサイト(Excite)(登録商標)であり、30秒で105μmまで浸透し、人工のエナメル質欠損を完全に充填した。ウォッシュバーン式によれば浸透深さの二乗と時間とが比例するので、市販の材料を用いて自然欠損(>1000μm)に深く浸透させるためには、かなり長い浸透時間が必要となることがわかる。このことは、さらに速い浸透時間を持った複合材料が必要なことを示している。しかしながら、歯科医の日常的な治療において使用する場合、120秒を超える適用時間は、経済的な理由から、ほとんど受け容れられることはない。
【0017】
そのため、う蝕の進行を予防するために、初期あるいは進行したエナメル質う蝕の治療に対する優れた非手術的な方法についての強い要求が依然として存在している。
【0018】
そこで、本発明の目的は、初期あるいは進行したエナメル質う蝕に対して樹脂の浸透を向上させるための方法及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、エナメル質に浸透する浸透剤であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を確認する方法を用いて解決することができる。
【数5】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0020】
一の態様として、本発明の方法は、
(a)浸透剤候補(potential infiltrant)を準備し、
(b)上記浸透剤候補の接触角、表面張力、そして動粘度の値を決定し、
(c)決定された上記(b)の値に式2を適用し上記浸透剤候補の浸透係数を決定する。
【0021】
一態様として、本発明の方法は、さらに、
(d)50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を選定する。
【0022】
本発明の好ましい態様として、(d)の選定が、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を、浸透係数が50cm/sより小さい他の浸透剤候補から分けるものである。
【0023】
別の態様として、本発明は、さらに、
(d)上記浸透剤候補の硬化能力を評価するものである。
【0024】
さらに別の態様として、本発明の方法は、
(d)上記浸透剤候補の硬化後のコンシステンシーを評価するものである。
【0025】
さらに別の態様として、本発明の方法は、
(d)上記浸透剤候補の浸透指数を決定するものである。
【0026】
本発明の目的は、さらに、エナメル質に浸透する浸透剤を確認する方法を用いて確認された浸透剤であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤を用いることにより解決することができる。
【数6】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0027】
本発明の目的は、さらに、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択された少なくとも1種の低粘度樹脂を含む浸透剤により解決できる。
【0028】
一態様において、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン(camphoroquinone)、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0029】
一態様において、浸透剤は、50cm/sより大きい浸透係数を有しており、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含むものである。
【0030】
本発明の目的は、少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂、好ましくは、歯科用複合樹脂、歯科用接着剤、及び/又は裂溝用充填樹脂から成る群から選択された少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を用いることよっても解決することができる。
【0031】
浸透剤の一態様として、樹脂は、メタクリレート及び/又はジメタクリレート及び/又はトリメタクリレートから成る群から選択することができ、好ましくは、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0032】
好ましい態様として、メタクリレートは、酸基を有するモノマー、好ましくは、カルボキシル基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基又はホウ酸基を有するモノマーを含む。その一例は、MDP:10-メタクロイルデシル二水素リン酸塩である。
【0033】
好ましい態様では、浸透剤は、さらに1種以上の硬化用の添加剤を含む。
【0034】
その添加剤は、1成分浸透剤又は2成分浸透剤を調製する時に添加することができる。添加剤は、光硬化型又は自己硬化型の浸透剤に用いることができる。
【0035】
好ましい態様として、添加剤は、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択することができる。
【0036】
これらの添加剤は、光硬化型の浸透剤に用いることができる。
【0037】
別の好ましい態様として、添加剤は、有機酸又はその塩、好ましくは、スルフィン酸(sulfinic acids)とその塩、バルビツル酸とその塩、そしてバルビツル酸誘導体から成る群から選択することができる。
【0038】
スルフィン酸塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩又はバリウム塩等のアルカリ土類金属塩、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、フェニルアミン又はキシレンジアミン基を有する一級アミンや、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、ジフェニルアミン、又はN-メチルトルイジン基を有する二級アミンや、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジエチルアミン、N,N-ジメチルトルイジン、N,N-ジエチルトルイジン又はN,N-(β-ヒドロキシエチル)トルイジン基を有する三級アミンや、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム又はトリメチルベンジルアンモニウム塩等を含むアンモニウム塩、を挙げることができる。
【0039】
好ましい態様では、スルフィン酸は、パラフィン系炭化水素系スルフィン酸、脂環系スルフィン酸、芳香族系スルフィン酸から成る群から選択されたものを用いることができる。
【0040】
特に好ましい態様としては、パラフィン系炭化水素系スルフィン酸は、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、そしてドデカンスルフィン酸から成る群から選択される。
【0041】
別の特に好ましい態様としては、脂環系硫酸はシクロヘキサンスルフィン酸又はシクロオクタンスルフィン酸である。
【0042】
別の特に好ましい態様としては、芳香族系スルフィン酸は、ベンゼンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロロベンゼンスルフィン酸、そしてナフタレンスルフィン酸から成る群から選択される。
【0043】
ベンゼンスルフィン塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、ブチルアミン塩、アニリン塩、トルイジン塩、フェニルジアミン塩、ジエチルアミン塩、ジフェニルアミン塩、トリエチルアミン塩、アンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、そしてトリメチルベンジルアンモニウム塩がある。
【0044】
o-トルエンスルフィン酸塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、シクロヘキシルアミン塩、アニリン塩、アンモニウム塩、そしてテトラエチルアンモニウム塩がある。
【0045】
p-トルエンスルフィン酸塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、エチルアミン塩、トルイジン塩、N-メチルアニリン塩、ピリジン塩、アンモニウム塩、そしてテトラエチルアンモニウム塩がある。
【0046】
β−ナフタレンスルフィン酸塩の例としては、ナトリウム塩、ストロンチウム塩、トリエチルアミン塩、N-メチルトルイジン塩、アンモニウム塩、そしてトリメチルベンジルアンモニウム塩がある。
【0047】
最も好ましい芳香族系スルフィン酸塩は、ベンゼンスルフィン酸ナトリウムとトルエンスルフィン酸ナトリウムである。
【0048】
より好ましい態様として、バルビツル酸は、1,3,5-トリメチルバルビツル酸、1,3,5-トリエチルバルビツル酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツル酸、1,5-ジメチルバルビツル酸、1-メチル-5-エチルバルビツル酸、1-メチル-5-プロピルバルビツル酸、5-エチルバルビツル酸、5-プロピルバルビツル酸、5-ブチルバルビツル酸、5-メチル-1-ブチルバルビツル酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツル酸、そして1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツル酸から成る群から選択される。
【0049】
さらに、別の好ましい態様として、添加剤が、過硫酸塩と有機パーオキサイドから成る群から選択される。
【0050】
過硫酸塩と有機パーオキサイドは、浸透剤を使用する前に、予め浸透剤に混ぜておくことが好ましい。
【0051】
有機パーオキサイドの例としては、ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプリルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、BPO、ジベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメチルベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジニトロジベンゾイルパーオキサイドがある。
【0052】
浸透剤の好ましい態様として、低粘度の樹脂は、22%のビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、67%のTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、10%のエタノール、>1%のDABE:エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート、>1%のカンファーキノンを含んでいる。
【0053】
本発明の目的は、必要とされている対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するために、本発明の浸透剤を用いることにより解決することができる。
【0054】
本発明の目的は、必要とされている対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するために、塩酸を使用することによっても解決することができ、医療用品は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0055】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによって解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、
(b)浸透剤、とを含むものである。
【0056】
一態様として、キットは、さらに、
(c)高粘度の光硬化性モノマーの混合物、を含む。
【0057】
キットの一態様として、状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0058】
キットの一態様として、浸透剤(b)は、本発明の充填剤を用いることができる。
【0059】
一態様として、キットは、さらに、少なくとも1つの塗布用片、及び/又は少なくとも1つの洗浄用片、及び/又は分離手段を有している。
【0060】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによっても解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤を含む塗布用片と、
(b)浸透剤を含む塗布用片と、そして、
(c)少なくとも1つの洗浄用片と、を含むものである。
【0061】
一態様として、キットは、さらに、
(d)高粘度の光硬化性モノマー混合物を含む塗布用片を含むものである。
【0062】
一態様として、キットは、さらに、
(e)分離手段を含むものである。
【0063】
キットの一態様として、状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0064】
キットの一態様として、浸透剤(b)には、本発明の浸透剤を用いることができる。
【0065】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させる方法により解決することができ、その方法は、
(a)浸透させるエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝し、
(b)工程(a)で状態調節されたエナメル質を浸透剤に曝し、そして、
(c)浸透剤を硬化させることを含むものである。
【0066】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0067】
一態様として、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0068】
別の態様として、状態調節剤は、さらに、グリセロール、高分散された二酸化ケイ素、そしてメチレンブルーから成る群から選択された添加剤を含むことができる。
【0069】
一態様として、浸透剤は少なくとも1種の低粘度の樹脂を含むこともできる。
【0070】
好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0071】
特に好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ポリメタクリル酸とその誘導体とから成る群から選択することができる。
【0072】
最も好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0073】
さらに別の態様として、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0074】
本発明の目的は、必要とされる対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、本発明のエナメル質に浸透させる方法を用いることにより解決することができる。
【0075】
一態様として、その対象は哺乳動物、好ましくは人間である。
【0076】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによっても解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、そして、
(b)浸透剤と、を含むものである。
【0077】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0078】
好ましい態様として、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0079】
別の態様として、状態調節剤は、さらに、グリセロール、高分散された二酸化ケイ素、そしてメチレンブルーから成る群から選択された添加剤を含むことができる。
【0080】
一態様として、浸透剤は少なくとも1種の低粘度の樹脂を含む。
【0081】
好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0082】
特に好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ポリメタクリル酸とその誘導体とから成る群から選択することができる。
【0083】
最も好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0084】
さらに別の態様として、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0085】
本発明の目的は、必要とされる対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、本発明のエナメル質に浸透させる方法を用いることにより解決することができる。
【0086】
一態様として、その対象は哺乳動物、好ましくは人間である。
【0087】
本発明の目的は、キットを作製する方法によっても解決することができる。
【0088】
本発明の目的は、う蝕欠損の予防及び/又は治療のための医療用品の製造のために塩酸を用いることによっても解決することができる。
【0089】
一態様として、医療用品は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0090】
好ましい態様として、医療用品は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0091】
別の態様として、医療用品は、さらに、グリセロール、高分散された二酸化ケイ素、そしてメチレンブルーから成る群から選択された添加剤を含むことができる。
【0092】
本発明の目的は、医療用品を製造する方法によっても解決することができる。
【0093】
本発明の目的は、少なくとも1種の低粘度の樹脂を含む充填剤によっても解決することができる。
【0094】
一態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0095】
特に好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ポリメタクリル酸とその誘導体とから成る群から選択することができる。
【0096】
最も好ましい態様として、低粘度の樹脂は、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択することができる。
【0097】
さらに別の態様として、浸透剤は、さらに、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン(Tinuvin)326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン(triphenyl phosphane)、TPSb:トリフェニルスチバン(triphenyl stibane)、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択された添加剤を含むことができる。
【0098】
本発明の目的は、浸透剤を調製する方法によっても解決することができる。
【0099】
本発明の目的は、う蝕欠損の予防及び/又は治療のための医療用品の製造のために、浸透剤、好ましくは本発明の浸透剤を用いることによっても解決することができる。
【0100】
本発明の目的は、医療用品を製造する方法によっても解決することができる。
【0101】
本発明の目的は、エナメル質に浸透する浸透剤であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤を確認する方法を用いて解決することができる。
【数7】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【0102】
本発明の目的は、さらに、エナメル質に浸透する浸透剤であって、上記の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を確認する方法を用いて確認した浸透剤を用いることにより解決することができる。
【0103】
本発明の目的は、さらに、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を用いることよっても解決することができる。
【0104】
好ましい態様として、50cm/sより大きい浸透係数を有することは、上記の式(2)を用いて決定する。
【0105】
好ましい態様として、低粘度の樹脂は、22%のビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、67%のTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、10%のエタノール、>1%のDABE:エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート、>1%のカンファーキノンを含んでいる。
【0106】
本発明の目的は、本発明の浸透剤を用いてう蝕欠損を予防及び/又は治療する方法により解決することができる。
【0107】
本発明の目的は、う蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するために、本発明の浸透剤を用いることにより解決することができる。
【0108】
本発明の目的は、必要とされる対象に対しう蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために、エナメル質に浸透させる方法により解決することができ、その方法は、
(a)浸透させるエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝し、
(b)工程(a)で状態調節されたエナメル質を、浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤に曝し、そして、
(c)浸透剤を硬化させることを含むものである。
【0109】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0110】
好ましくは、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0111】
一態様として、その対象は哺乳動物、好ましくは人間である。
【0112】
本発明の目的は、エナメル質に浸透させるためのキットによって解決することができ、そのキットは、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、
(b)浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤、とを含むものである。
【0113】
一態様として、状態調節剤は、約1〜30%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0114】
好ましくは、状態調節剤は、約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしている。
【0115】
一態様として、キットは、さらに、塩酸及び/又は浸透剤の塗布装置を含む。
【0116】
ここで用いている「曝す」という言葉は、状態調節剤又は浸透剤をエナメル質に適用するためのあらゆる操作を意味するものである。通常、曝露は、簡単な適用方法、例えば塗布を用いて行うことができる。そのために、キットは、さらに、適用を実際するのに適した装置、例えば、ブラシ、スポンジ、ティッシュ、ピペット、シリンジ等を1以上有していても良い。
【0117】
本発明では、浸透剤を適用する前に状態調節剤を取り除くこともできる。そのため、キットは、その目的のために用いる装置をさらに有していても良い。
【0118】
また、本発明では、余分は浸透剤を取り除くこともできる。そのため、キットは、その目的のために用いる装置をさらに有していても良い。
【0119】
状態調節剤の適用時間は、約60〜300秒が好ましくは、さらに好ましくは約90〜120秒である。
【0120】
浸透剤の適用時間は最大約120秒が好ましく、さらに好ましくは約120秒である。
【0121】
最も好ましくは、浸透剤の浸透係数が50cm/sより大きく、浸透剤の適用時間が60秒より短いことである。
【0122】
浸透剤は、2回適用することが好ましい。
【0123】
「浸透されるエナメル質の領域」は、う蝕欠損を含む領域である。しかし、そのような欠損を予防するために、すなわち、歯の掃除を行うと、すべてのう蝕による損傷が、この領域には存在しないこともある。
【0124】
状態調節剤は、水溶液をベースとすることもでき、あるいは石膏に埋め込むこともできる。
【0125】
本発明においては、状態調節剤は、さらに、最大約40%(w/w)、好ましくは約20%〜37%(w/w)のリン酸を含んでも良い。
【0126】
「浸透剤の硬化」は、光重合で行うことが好ましい。
【0127】
隣接面に近づくために、歯列矯正用弾性材を用いてう蝕歯の歯間を拡げることができる。この技術は、診断目的のために良く知られている。
【0128】
本発明の樹脂は、歯科用接着剤及び/又は裂溝充填材としても使用することができる。
【0129】
上記の樹脂は、別々にあるいは組み合わせて用いることにより、本発明の浸透剤の成分として用いることができる。
【0130】
浸透剤の「浸透係数」という言葉は、液体(浸透剤)が多孔質固体(う蝕欠損)に速やかに浸透する能力を指すものである。それは、以下の物理的特性、すなわち、空気に対する表面張力(γ)、固体に対する接触角(θ)、そして動粘度(η)を含むものである(式2を参照)。
【0131】
浸透剤の(空気に対する)表面張力は、液体−気体界面に作用する力を指し、表面上の薄膜に適用される。液体分子への周りからの引力が減り、液体表面の分子間の引力が増大するためである。
【0132】
浸透剤の(エナメル質に対する)「接触角θ」という言葉は、液滴(浸透剤)と固体表面(エナメル質)の間の界面における接線のなす角を指す。
【0133】
浸透剤の「動粘度η」という言葉は、所定の力を加えた時の液体の流動抵抗の指標である。動粘度は、単位距離の厚さの液体を挟んだ一の垂直面を別の垂直面に対し単位速度(速度勾配又は剪断速度)で移動させる時に必要な、単位面積当たりの接線方向の力(剪断又は接線応力)である。
【0134】
結論として、本発明は、浸透剤を用いることにより、初期又は進行中のエナメル質の欠損等のエナメル質の欠損に対し、優れた浸透能を有する。従来の技術では、エナメル質を閉塞させる方法を用いているが、「見かけ上無傷の表面層」のみを閉塞させるだけで、樹脂が十分に浸透していないう蝕部分が残ってしまうという危険性がある。本発明の方法及び手段、例えば、状態調節剤及び/又は浸透剤又は低粘度の樹脂を用いることにより、欠損部分を閉塞させることが可能となる。
【0135】
まず、浸透させるべきエナメル質の領域を、塩酸を含む状態調節剤に曝すことにより、「見かけ上無傷の表面層」を除去して、う蝕領域への浸透剤の浸透を大きく促進させることができる。に次に、上記の樹脂が低粘度であるので、浸透剤は速やかに欠損穴に到達し、それらを閉塞する。
【0136】
また、本発明は、浸透剤の浸透係数(PC)を決定する方法を提供するものであり、それにより、優れた浸透特性と使用可能な適用時間とを有する浸透剤の確認及び調製を可能とする。
【0137】
本発明の方法及び手段を用いることにより、エナメル質欠損の侵襲治療を不要にしたりあるいは遅らせることができる。閉塞方法が、非侵襲的であるので、患者の承諾も非常に得やすくなる。本発明の方法は、低コストで実施することができる。最後に、本発明の方法は、純然たる歯の掃除と、う蝕の侵襲的治療との間を結ぶ治療的なリンクとなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0138】
実施例1.塩酸を含む状態調節剤による前処理の影響
1.材料及び方法
1.1 試料調製
隣接白斑を有する、人間の臼歯と小臼歯を抜き取り、脱石灰部分を切断した。外側のエナメル質に対し閉じ込められている120の欠損を選んだ。各欠損の半分と切断面には、対照試料とし、マニキュアを塗った。次に、欠損を37%リン酸ゲルあるいは5%又は15%塩酸ゲルを用いて30秒から120秒(n=10)エッチングした。
【0139】
1.2 視覚化
試料を、一端をストッパーで閉じたシリコーンチューブの中で5分間乾燥させ、シリコーンリングを用いて分離した。次に、0.1mmol/lの蛍光色素のローダミンBイソシアネート(RITC)で標識したスパー樹脂(Spurr's resin)(Spur AR、電子顕微鏡の包埋用の低粘度のエポキシ樹脂、I Ultrastruct Res、第26巻、第31頁〜第43頁(1969))を、試料にかけ、そしてチューブを別のストッパーで閉じた。樹脂をオートクレーブ中(Ivomat IP3; イボクラールビバデントシャーン、リヒテンシュタイン)で0.8Mpa、70℃で8時間かけて硬化させた。加圧により、非常に低粘度の樹脂は、欠損の残留孔に浸透する。硬化後、試料を切断し、試料ホルダーに平行に固定し、4000グリット(イクザクトミクロシュロイフシステム; イクザクトアパラテバウ)まで研磨した。この浸透方法を、樹脂浸透による視覚化(VIRIN)と名付けた。
【0140】
1.3 CLSM映像化
試料を、共焦点走査型顕微鏡(CLSM)(ライカTCS NT、ライカ、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いて検討した。励起光がアルゴン/クリプトンレーザを用い、最大波長が560nmである。映像が、蛍光モードで記録した。蛍光のみを検出し、反射光を除くように、590nmのロングパスフィルターを用いて発光を検出した。オイルに浸漬した状態で、対物40倍で試料を観察した。観察した層は、表面から約10μm下の層である。観察中、レーザ光強度と光増幅率は一定とした。映像(250x250μm)は、解像度1024x1024ピクセル、256疑似カラーステップ(pseudo color steps)(赤/黒)で撮影し、イメージジェイプログラム(NIH、ロックビルパイク、メリーランド、米国)を用いて解析した。
【0141】
2.結果
対照例の表面層の厚さと、正常及び患部の組織の浸蝕部分及びエッチング部分を測定した。リン酸ゲルで30秒間エッチングしても表面層の厚さに大きな変化はなかった(p>0.05、t-検定)。しかしながら、リン酸ゲルで30秒間又は90秒間エッチングした場合に比べ、15%塩酸ゲルで90秒間エッチングした場合では、欠損における表面層の減少率が大きく増加した(p<0.05、アノーバ(ANOVA))。欠損における浸蝕深さについては、正常なエナメル質と比べて違いは認められなかった(p>0.05、t-検定)。
【0142】
図1は、初期エナメル質欠損を37%リン酸ゲルで30秒間予備的処理を行った場合、「見かけ上無傷の表面層」のエッチングが不十分であることを示している。そのため、このような予備的処理では、浸透剤を十分に浸透させるのに必要な範囲まで表面層を破壊することはできない。結果として、閉塞されるのはほんの表面部分だけである。しかしながら、不十分な浸透では有機酸から保護することができず、エナメル質の溶解や浸蝕をさらに促進させる。図2は、15%塩酸ゲルで120秒間予備的処理を行った場合、「見かけ上無傷の表面層」が完全に除去されたことを示している。
【0143】
結論として、15%塩酸ゲルで90秒間から120秒間エッチングすることにより、表面層を確実に減らすことができる。
【0144】
実施例2.リン酸ゲルと塩酸ゲルによるエッチング後の、自然のう蝕欠損への樹脂の浸透についての生体外での試験
1.材料及び方法
この試験では、隣接白斑を有する、抜いた人間の臼歯と小臼歯を用いた。ソフトティッシュで十分に洗浄した後、歯を使用するまで20%エタノール溶液中に保存した。歯は、20倍の実体顕微鏡(ステミ(Stemi) SV 11、カールザイス、オーバーコーヘン、ドイツ)を用いて観察し、損傷や空洞のある欠損を除いた。
【0145】
放射線撮影検査のため、頬面を備えたシリコーン基材の中に、放射線撮影管(Heliodent MD、ジーメンス、ベンスハイム、ドイツ)の方を向くように歯を配置した。頬の散乱をシミュレートするため、撮影管と歯の間に透明なパースペクス(登録商標)を配置した。各歯について規格化された放射線写真(0.12秒、60kV、7.5mA)を撮影し(エクスピード(Ektaspeed)、コダック、シュトゥットガルト、ドイツ)、自動現像機(XR 24-II、デュールデンタル、ビーテックハイム−ビッシンゲン、ドイツ)を用いて現像した。放射線撮影による欠損の深さは、二人の検査者により別々に解析及び評価がなされている(Marthaler TMとGermamm M、抜かれた歯について研究された、小さな平坦面う蝕欠損についての放射線撮影及び視覚による外観、Caries Res、第224頁〜第242頁(1970))、半透明なし(R0)、エナメル質の外側半分に閉じ込められた部分が半透明(R1)、エナメル質の内側半分に閉じ込められた部分が半透明(R2)、象牙質の外側半分に閉じ込められた部分が半透明(R3)、象牙質の内側半分に閉じ込められた部分が半透明(R4)である。放射線撮影による欠損の深さの判定が一致しない場合には、合意したランクを用いる。
【0146】
歯根は除去し、歯冠は、表面に垂直にう蝕欠損を切断し(帯のこ、イクザクトアパラテバウ、ノルダーシュタット、ドイツ)、各欠損について2分割する。次に、切断面を調べ(実体顕微鏡)、組織学的な欠損の拡がりの異なるもの(C1〜C3)を分類した。象牙質の内側半分にまで拡がったもの(C4)は除いた。同じう蝕の拡がりを示す、対応する残りの分割した欠損は、処理(TRT)グループに分けた(それぞれn=10)。対応する残りの分割した欠損で拡がりが異なる場合には、深いものを対照例として用いた(CTR、n=10)。
【0147】
次に、切断面をマニキュアで覆った。対応する残りの分割した欠損でTRTグループに属すものは、37%リン酸ゲル(H3PO4:トータルエッチ、イボクラールビバデントシャーン、リヒテンシュタイン)又は試験用15%塩酸ゲル(HCl)を用いてエッチングした。塩酸ゲルは、塩酸15%、グリセロール19%、高分散の二酸化ケイ素8%、そしてメチレンブルー0.01%水溶液を含んでいる。120秒後、水をかけ30秒間十分にゲルを洗浄した。CTRグループには、酸エッチングを行わなかった。欠損を純エタノールに30秒間浸け、次いで、オイルを含まない圧縮空気を用いて60秒間乾燥した。
【0148】
0.1%テトラメチルローダミンイソシアネート(TRITC;シグマアルドリッチ、シュタインハイム、ドイツ)で標識した歯科用接着剤を、欠損表面に塗布した。樹脂を5分間、欠損の中に浸透させた。次に、余分の材料を除去し、樹脂を400mW/cm2で光を30秒間照射して硬化させた(トラナルクス(Tranalux) CL、ヘレウスクルツアー、ハーナウ、ドイツ)。マニキュアを丁寧に除去し、研磨面に平行に試料ホルダーに固定し、研磨した(イクザクトミクロシュロイフシステム、研磨紙2400,4000;イクザクトアパラテバウ、ノルダーシュタット、ドイツ)。残りの穴を染色するため、試料を100μM/lのナトリウムフルオレセイン(シグマアルドリッチ)を含む50%エタノール溶液に3時間浸けた。
【0149】
対物10倍で、二重蛍光モードで、共焦点走査型顕微鏡(ライカTCS NT;ライカ、ハイデルベルグ、ドイツ)を用いて試料を観察した。励起光は、2つのピーク波長4880nmと568nmを有する。発光は、580nm反射ショートパスフィルターを用いて分光し、FITCの検出用には525/50nmのバンドパスフィルターを、RITCの検出用には590nmのロングパスフィルターを用いた。映像は、横方向の大きさが1000x1000μm2で、解像度1024x1024ピクセルで記録し、アキシオビジョンエルイーソフトウェア(AxioVison LE software)(ザイス、オーバーコーヘン、ドイツ)を用いて解析した。分割した半分の欠損の浸透深さと表面層の厚さ(残存物)を、最大10個の限定された点について(欠損の大きさによる。100μmのグリッドで示す。)測定し、平均値を計算した。
【0150】
SPSSソフトウェア(ウィンドウズ用SPSS11.5.1:SPSS Inc.、シカゴ、イリノイ、米国)を用いて統計処理を行った。データについてコルモゴロフ−スミノフテストを用い、正規分布のチェックを行った。分割した残りの半分の欠損と酸ゲルの間の違いを解析するため、対の試料についてはウィルコクソン検定を用いた。対でないグループの比較のため、マン−ホイットニー検定とクルスカル−ワリス(Kruskal-Wallis)検定を行った。
【0151】
2.結果
CLSMの映像では、浸透した樹脂は赤色蛍光を示すが、象牙質や欠損内の残存孔は緑色である(図3Aから3C)。正常なエナメル質の固体材料又は表面層は黒色である。
【0152】
浸透深さは大きく変化した。図4は、う蝕の程度が異なる種々のグループの浸透深さを示している。塩酸ゲルでエッチングした半分の欠損は、平均浸透深さ(標準偏差)[58(37)μm]は、リン酸ゲル[18(11)μm](p<0.001、ウィルコクソン)でエッチングしたものと比較し顕著に大きな値を示した。酸エッチングをしなければ、樹脂の浸透は[0(1)μm]である。処理したグループについては、進行程度の異なる欠損間で顕著な違いは認められなかった(C1〜C3)(p>0.05、クルスカル−ワリス)。同様に、浸透深さは、放射線撮影による欠損深さ(R1〜R3)(p>0.05、表1)と同程度であった。
【0153】
表面層が完全に除去された表面層では(CTR n=0、リン酸 n=2,塩酸 n=8)、エッチングの後でも表面層が残っている欠損[33(31)μm]と比べると、
顕著に大きい(p<0.01、マン−ホイットニー)平均浸透深さ[65(35)μm]が認められた。塩酸エッチングを行う[20(18)μm]と、リン酸エッチングを行った場合[37(25)μm]やエッチングを行わなかったCTRグループ[42(23)μm](p>0.05、マン−ホイットニー)に比べ、表面層の厚さが大きく減少した。
【0154】
表1. 放射線撮影による種々のう蝕進行物の平均浸透深さ[μm(標準偏差)]
【表1】
【0155】
実施例3.実験用浸透剤のPCの評価
この検討の目的は、エナメル質欠損に浸透させるための66個の実験用複合樹脂(浸透剤)について評価を行うことである。
【0156】
1.材料及び方法
エタノール(0%、10%又は20%)と、ビスGMA、UDMA、TEGDMA、そしてHEMAの内の2種のモノマーを種々の重量比(100:0、75:25、50:50、25:75、0:100)で含む66個の実験用浸透剤を調製した(表2)。各実験用樹脂は、表2に従い、10gを混合して褐色のガラス製ジャーに投入した。早期に重合が起きるのを防止するため、樹脂は使用するまで4℃で保存した。実験用浸透剤のPCを決定するために、接触角、表面張力、そして粘度を測定した。
【0157】
表2.実験用浸透剤の組成(重量%)と測定結果。
接触角、表面張力、動粘度、そして得られた浸透係数(PC)について平均及び標準偏差を記載している。また、光硬化後のコンシシテンシーも記載した。
【表2】
【0158】
接触角測定は、研磨したウシのエナメル質について行った。ウシの切歯の唇状表面からエナメル質のディスク(約5×5×3mm3)を作製し(帯のこ イクストラクト(Extract)300;イクストラクトアパラテバウ、ノルダーシュタット、ドイツ)、メタクリレート樹脂(テクノビット4071;ヘレウスクルツアー、ハーナウ、ドイツ)で包埋し、その表面を平らに削り研磨した(研磨装置フェニックスアルファ;Buehler、デュッセルドルフ、ドイツ;研磨紙600,1200,2400,4000;イクザクトアパラテバウ)。使用するまで、試料は蒸留水中に保存した。各測定の前に、表面を乾燥し、100%エタノールで洗浄した。
【0159】
樹脂の接触角を測定するため、ゴニオメータに設置したカメラ(G10;クリュス、ハンブルグ、ドイツ)を用いた。樹脂の液滴(約1μl)を、マイクロシリンジを用いてエナメル質の表面に置いた。10秒後、映像を記録し、液滴の形状解析ソフトウェア(DSA 10;クリュス)で解析した。各樹脂について、3回測定して計算した。表面の汚染を防ぐために、各測定は新しいエナメル質のディスクで行った。
【0160】
表面張力は、リングプロセッサテンショメーター(K12;クリュス)を用いて測定した。空気飽和状態を達成するため、混合物を含む溶剤を測定する時、エタノールを含むカップを測定チャンバー内に置いた。各複合物を5ml、Teflonモールドの中に入れ、試験用リング(白金イリジウム合金、RI 12;クリュス)を液面に近づけて配置した。測定は自動である。測定値のバラツキにより、装置は5回から20回で自動的に測定を停止した。
【0161】
動粘度は、マイクロウベローデ型プロセッサ粘度計(ショット;マインツ、ドイツ)を用いて25℃で測定した。低粘度樹脂については、キャピラリー定数が0.1mm2・s−2であるガラスキャピラリーを用いた。高粘度の複合物には、キャピラリー定数が10mm2・s−2であるガラスキャピラリーを用いた。自動的に3回測定を行い、各材料について平均と標準偏差(SD)を算出した。動粘度は、測定値に樹脂の密度を掛けて算出した。実験用複合物の密度は、モノマーの製造メーカーのデータを用いた。
【0162】
実験用浸透剤の硬化特性を評価するため、0.5%DABEと0.5%カンファーキノンを添加した。樹脂を規格モールド(7x4x2mm3)に導入し、400mW/cm2、60秒の条件で光硬化させた(トランスルクス CL、ヘレウスクルツアー)。次に、それらのコンシシテンシーを定性的に評価し、「硬い」、「柔らかい」、「ゴム状」、「粘性がある」又は「液状」のカテゴリーに分類した。
【0163】
2.結果
実験用浸透剤の結果を表1に示す。樹脂の間の最も大きい差異は、粘度であった(3.2〜6637.0mPa・s)。HEMAとTEGDMAが高含量である樹脂混合物は、低粘度で高いPCを有していた。一方、ビスGMAとUDMAは粘度が増加し、PCが減少した。ビスGMA又はUDMAが高含量である5個の実験用樹脂は、非常に粘度が高く、市販の装置では測定することができなかった。接触角には大きな差異が認められたが(3.2〜54.2度)、PCへの影響は、接触角のコサインで効いてくるため、わずかであった。エタノールを添加すると、すべの混合物の粘度、表面張力、そして接触角が減少し、すべてのモノマーの組み合わせについて、浸透係数が増加した。TEGDMA、 HEMA、そして20%エタノールを含む複合物が最も大きなPCを有していた。HEMAとエタノールが高含量である複合物は、十分に硬化せず、ゴム状又は液状となった(表2)。
【0164】
実施例4.PCの浸透速度への影響
この生体外における実験の目的は、PCの異なる12個の実験用浸透剤の浸透指数(PQ=浸透深さ/欠損深さ)を、接着剤(エキサイト(登録商標);ビバデント)と比較することにある。
【0165】
1.材料及び方法
ウシの臼歯から143個の試料を調製し、エポキシ樹脂に埋め込み研磨した。試料の一部をマニキュアで覆い(対照例)、4つの窓を50日間(pH4.95、37℃)脱灰した。脱灰後、4つの窓の内の3つをリン酸で5秒間エッチングした(37℃)。上記接着剤と、12個の実験用材料(No.13〜21、4〜6)を欠損(n=11)に塗布した。余分の材料を除去した後、樹脂を30秒間で光硬化させた。試料をその表面に対し垂直に切断し、その切片を共焦点顕微鏡(CLSM)と、マイクロ放射線撮影(TMR)を用いて調べた。
【0166】
2.結果
CLSM[299(57)μm]とTMR[296(51)μm]の平均欠損深さ(SD)は同等であった。接着剤と比較すると、TEGDMAをベースとする3個の浸透剤は(No.4〜6;ビスGMAとTEGDMA(25:75)、そしてエタノールを含むもの(No.20,21)だけでなく)、PQが大きく増加した(p<0.05;アノーバ)。種々の材料について、図5Aは浸透指数、図5Bは絶対浸透深さを示している。
【0167】
図6は、浸透深さとPCとの積の平方根と塗布時間との相関を示している(r2=0.847)。この良好な相関は、ウォッシュバーン式が、エナメル質欠損への浸透剤の浸透に適用できることを示している。したがって、PCは、浸透剤がエナメル質欠損へ速やかに浸透できる能力を有するかどうかを評価する上での有効な指標となると考えられる。浸透剤が、エナメル質欠損に速やかに浸透するためには、大きな浸透係数(50cm/sより大きい)を有することが必要である。
【0168】
実施例5.脱灰条件での、浸透処理したエナメル質欠損の欠損進行に対するPCの影響
この検討の目的は、脱灰条件での、閉塞させた人工エナメル質欠損の進行度を評価することである。
【0169】
1.材料と方法
130個のウシのエナメル質の試料のそれぞれについて、4個の欠損状のう蝕を作製した(pH4.5の溶液で50日の条件で脱灰した。)。各試料について、3個の欠損はリン酸で5秒間エッチングし、残りの1個の欠損にはエッチングを行わなかった。接着剤エキサイトと、PCの異なる12個の実験用複合物(No.13〜21、と4〜6;表2)のそれぞれを欠損の上に塗布した(n=10)。余分の材料を除去した後、樹脂を30秒間で光硬化させた。次に、試料をその表面に対し垂直に切断した。各試料の半分をベースラインの対照例とした。残りの半分を、さらに50日間、脱灰用溶液に曝した(効果)。試料は共焦点顕微鏡を用いて観察した。
【0170】
2.結果
2回目の脱灰期間中に、平均欠損深さ(SD)は、299(51)μmから418(76)μmに増加した(41.5%)。未処理の対照例と比較し、浸透処理した欠損は顕著に欠損の進行が抑制された(p>0.001、t-検定)。PCが100cm/sより小さい浸透剤と、エキサイト(PC=31.3cm/s)は、欠損深さが顕著に増加した(図6)。PCが高い浸透剤は、ほとんど進行しなかった(p>0.05)。閉塞させた欠損の進行度と、PCと浸透時間の積の平方根との間に負の相関が認められた(r2=0.625;p<0.01;図8)。PCが高い浸透剤は、PCが低い浸透剤に比べ、欠損の進行を抑制するのに、適していると結論できる。
【0171】
実施例6.エナメル質への浸透方法
1.材料
エナメル質への浸透を実行するための有効な手段は、その場で歯を分離するための分離手段と(図9)、塩酸ゲル等の状態調節剤を塗布するための塗布用片と(図10A)、浸透剤と、必要に応じて、高粘度の光硬化性モノマーの混合物と、洗浄用片(図10B)とを含んでいる。
【0172】
分離手段は、断面台形状のくさび状の形状を有し(図9)、メタクリレート又は木材等の固体材料で作製されている。大きさは、例えば、長さが約12mm、幅が最大で約2.5mmである。
【0173】
塗布用片1〜3(図10A)と洗浄用片4(図10B)は、その基材に厚さが最大で約100μmのポリマーフィルムを用いている。塗布用片は、長さが約20cm、幅が約0.4cmである。それらは、さらに基材のポリマーフィルムの上に積層された厚さが最大で約300μmの塗布用パッドを有している。塗布用パッドは、片の概ね中央又は一端の近傍に設けることができる。塗布用パッドの材料には、発泡体、フェルト又は紙等の吸収材料を用いることができる。吸収材料を、塩酸ゲル、浸透剤又は高粘度の光硬化性モノマーの混合物のいずれかに浸漬する。塗布用パッドを、使用前に、ストックから取り出し、ユーザー、例えば歯科医又は患者が浸漬することもできる。又は、塗布用片は、そのまま使用可能な状態の片でも良く、すなわち、予め浸漬されており、好ましくは真空パック又は他の方法で湿気から保護された形で市販されても良い。
【0174】
洗浄用片は、長さが約20cm、幅が約0.7cmであり、幅が約2cmの複数のラップ、例えば、4個のラップでシリコーン又はゴムからなるものを有している。ラップは、柔らかく、2個の隣接する歯の間を洗浄するために使用できるように、材料を選択して取り付けられている。2個のラップが液体又は他の材料を取り出すための空隙を形成することが好ましい。図10Bに示すように、ラップは斜めの位置が良い。ラップを設ける領域は、片の概ね中央又は一端の近傍が好ましい。
【0175】
上述した、エナメル質に浸透させる方法を実行するために好ましい手段は、キットの形で市販することができる。
【0176】
一態様として、そのキットは、好ましくは患者によって使用されるものであり、
(a)塩酸ゲルに浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個のそのまま使用可能な塗布用片と、
(b)浸透剤に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個のそのまま使用可能な塗布用片と、
(c)必要に応じ、高粘度の光硬化性モノマーの混合物に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個のそのまま使用可能な塗布用片と、そして
(d)少なくとも1個の洗浄用片、とを有する。
【0177】
別の態様として、キットは、
(a)塩酸ゲルに浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個の塗布用片と、
(b)浸透剤に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個の塗布用片と、
(c)必要に応じ、高粘度の光硬化性モノマーの混合物に浸漬された塗布用パッドを備えた、少なくとも1個の塗布用片と、
(d)少なくとも1個の洗浄用片と、
(e)塩酸ゲルと、
(f)浸透剤と、そして
(g)必要に応じ、高粘度の光硬化性モノマーの混合物、とを有する。
【0178】
(e)の塩酸と、(f)の浸透剤と、そして(g)の高粘度の光硬化性モノマーの混合物は、ストック用としてボトル等の容器に、あるいは使い捨て容器に保存することもできる。
【0179】
いずれのキットも、さらに分離手段を含んでも良い。
【0180】
1.そのまま使用可能な塗布用片を用いる方法を実施するための手順
歯科医の一般的なやり方として、治療部位を拭くために歯科用ダム(dental dam)を用い、歯同士を約300μm離間させるために分離手段を用いる。患者が行う場合には、治療部位を拭いたものは捨てることができる。
【0181】
第1工程では、塩酸ゲルに浸した塗布用パッドを備えた片を用いて、治療する歯に塩酸を塗布する。そのためには、治療する歯とそれに隣接する歯との間の領域に、かみ合わせの方向から又は舌/口蓋の方向から片を入れる。片を入れる間、片は、塗布用パッドの上面が治療する歯の隣接面に向くようにしておく必要がある。次に、治療する隣接領域においてC形状となるように塗布用パッドを配置してから、塗布用パッドを歯の表面に押し付ける。約2分間その状態を維持した後、歯の表面に付着した余分の塩酸をすすぎ、治療部位を空気で乾燥させ、あるいはエタノール及び/アセトンを用いて乾燥させる。
【0182】
第2工程では、浸透剤に浸した塗布用パッドを備えた片を、第1工程と同様の方法で使用する。
【0183】
第3工程では、洗浄用片を用いて余分の浸透剤を除去する。治療する歯とそれに隣接する歯との間に洗浄用片を入れた後、舌/口蓋の方向から前庭(vestibular)方向に移動させる。柔らかいラップにより形成された空隙に浸透剤が満たされるまで、片を複数回、両方向に移動させる。
【0184】
第4工程では、エナメル質欠損に浸透させた浸透剤を光硬化させる。
【0185】
第5工程では、浸透剤又は高粘度の光硬化性モノマーの混合物に浸した塗布用パッドを備えた片を、第1工程及び第2工程と同様の方法で用いる。
【0186】
必要に応じて、さらに洗浄用片を用いて第3工程と同様に行い、最後の工程における余分の材料、例えばモノマーの混合物を除去する。
【0187】
さらに、モノマーを光重合させる。高粘度の光硬化性モノマーの混合物を光硬化させて得られる最後の層は、治療部位を閉塞させ、浸透処理したエナメル質を十分に保護する。
【0188】
最後に、歯科用ダムを用いた場合は、それを治療部位から除去する。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】37%リン酸ゲルで30秒間状態調節した後の初期エナメル質う蝕欠損を示す(共焦点レーザ走査顕微鏡CLSMを用いた結果である。)。
【図2】15%塩酸ゲルで120秒間状態調節した後の初期エナメル質う蝕欠損を示す(CLSMを用いた結果である。)。
【図3A】樹脂が浸透した欠損の代表的な共焦点顕微鏡画像である(E:正常なエナメル質、SL:表面層、LB:欠損本体、R:浸透樹脂、EDJ:エナメル質と象牙質との接合部、S:欠損表面)。リン酸でエッチングしたう蝕欠損の表面層は完全には浸蝕されておらず、そのため、表面だけに樹脂が浸透している(歯表面の赤蛍光の細い縁で示している。)。
【図3B】樹脂が浸透した欠損の代表的な共焦点顕微鏡画像である(E:正常なエナメル質、SL:表面層、LB:欠損本体、R:浸透樹脂、EDJ:エナメル質と象牙質との接合部、S:欠損表面)。塩酸でエッチングした欠損には、樹脂が深く浸透し、表面層の残存物は認められない。
【図3C】樹脂が浸透した欠損の代表的な共焦点顕微鏡画像である(E:正常なエナメル質、SL:表面層、LB:欠損本体、R:浸透樹脂、EDJ:エナメル質と象牙質との接合部、S:欠損表面)。塩酸でエッチングした欠損の拡大画像である(対物40倍)。角柱状の中心部分の最外部の50〜100μmは樹脂で充填され、欠損本体の非浸透部分では、非常に多孔質の角柱状中心部分が緑の蛍光を発している。
【図4】種々の程度の欠損の平均浸透深さ(y軸)を示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)。星印で示すようにグループ間では、統計的に明確な相違が認められる(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.01、ウィルコクソン/マン−ホイットニー)。
【図5A】種々の材料についての浸透指数を示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)。
【図5B】種々の材料についての絶対浸透深さを示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)。
【図6】浸透係数(PC)と時間の積の平方根と浸透深さとの関係を示す点プロットである。
【図7】異なる材料で治療した時の、欠損の欠損深さのパーセント進行度を示す(四分位数と中央値を持つ四角とウィスカーのプロットで示す。)
【図8】浸透係数(PC)と時間の積の平方根と欠損深さの進行深さとの関係を示す点プロットである。
【図9】本発明の分離手段の模式図である(Wは幅であり、例えば最大約2.5mm、lは長さであり、例えば12mmである。)。
【図10A】本発明の塗布用片の模式平面図であり、塗布用片1〜3は、それぞれ塩酸、浸透剤、高粘度の光硬化性モノマー混合物を塗布するように取り付けられた塗布用パッドを有している。
【図10B】本発明の洗浄用片の模式平面図と模式側面図であり、洗浄用片4は、柔らかい洗浄ラップを有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナメル質に浸透する浸透剤を確認する方法であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を確認する方法。
【数1】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【請求項2】
(a)浸透剤候補を準備し、
(b)上記浸透剤候補の接触角、表面張力、そして動粘度の値を決定し、
(c)決定された上記(b)の値に式2を適用し上記浸透剤候補の浸透係数を決定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、(d)50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を選定する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
上記(d)の選定が、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を、浸透係数が50cm/sより小さい他の浸透剤候補から分けるものである請求項3記載の方法。
【請求項5】
さらに、(d)上記浸透剤候補の硬化能力を評価する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
さらに、(d)上記浸透剤候補の硬化後のコンシステンシーを評価する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
さらに、(d)上記浸透剤候補の浸透指数を決定する、請求項2記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の方法を用いて確認された浸透剤であって、
以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【数2】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【請求項9】
少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、好ましくは、歯科用複合樹脂、歯科用接着剤、及び/又は裂溝用充填樹脂から成る群から選択され、かつ50cm/sより大きい浸透係数を有する、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【請求項10】
少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、好ましくは、メタクリレートから成る群から選択され、かつ50cm/sより大きい浸透係数を有する、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【請求項11】
少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、好ましくは、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択され、かつ50cm/sより大きい浸透係数を有する、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【請求項12】
請求項8又は請求項9から11のいずれか一つに記載の浸透剤であって、さらに1以上の硬化用の添加剤を含む浸透剤。
【請求項13】
上記添加剤が、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン、TPSb:トリフェニルスチバン、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択されてなる、請求項12記載の浸透剤。
【請求項14】
上記添加剤が、有機酸又はその塩から成る群から選択され、好ましくは、スルフィン酸とその塩、バルビツル酸とその塩、そしてバルビツル酸誘導体から成る群から選択されてなる請求項12記載の浸透剤。
【請求項15】
上記スルフィン酸が、パラフィン系炭化水素系スルフィン酸、脂環系スルフィン酸、そして芳香族系スルフィン酸から成る群から選択されてなる請求項14記載の浸透剤。
【請求項16】
上記パラフィン系炭化水素系スルフィン酸は、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、そしてドデカンスルフィン酸から成る群から選択され、脂環系スルフィン酸はシクロヘキサンスルフィン酸又はシクロオクタンスルフィン酸であり、芳香族系スルフィン酸は、ベンゼンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロロベンゼンスルフィン酸、そしてナフタレンスルフィン酸から成る群から選択されてなる請求項15記載の浸透剤。
【請求項17】
上記バルビツル酸は、1,3,5-トリメチルバルビツル酸、1,3,5-トリエチルバルビツル酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツル酸、1,5-ジメチルバルビツル酸、1-メチル-5-エチルバルビツル酸、1-メチル-5-プロピルバルビツル酸、5-エチルバルビツル酸、5-プロピルバルビツル酸、5-ブチルバルビツル酸、5-メチル-1-ブチルバルビツル酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツル酸、そして1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツル酸から成る群から選択されてなる請求項14記載の浸透剤。
【請求項18】
上記添加剤が、過硫酸塩と有機パーオキサイドから成る群から選択されてなる請求項12記載の浸透剤。
【請求項19】
上記有機パーオキサイドが、ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプリルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、BPO、ジベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメチルベンゾイルパーオキサイド、そしてp,p'-ジニトロジベンゾイルパーオキサイドから成る群から選択されてなる請求項18記載の浸透剤。
【請求項20】
上記低粘度の樹脂は、22%のビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、67%のTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、10%のエタノール、>1%のDABE:エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート、>1%のカンファーキノンを含んでなる請求項8又は請求項9から11のいずれか一つに記載の浸透剤。
【請求項21】
う蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するための、請求項8又は請求項9から20のいずれか一つに記載の浸透剤の使用。
【請求項22】
エナメル質に浸透させるためのキットであって、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、
(b)浸透剤と、を含み、
上記浸透剤が、浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、キット。
【請求項23】
さらに、(c)高粘度の光硬化性モノマーの混合物を含む請求項22記載のキット。
【請求項24】
上記状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしてなる請求項22又は23記載のキット。
【請求項25】
上記浸透剤(b)に、請求項8記載の浸透剤を用いる請求項22から24のいずれか一つに記載のキット。
【請求項26】
上記浸透剤(b)に、請求項9から20のいずれか一つに記載の浸透剤を用いる請求項22から25のいずれか一つに記載のキット。
【請求項27】
さらに、少なくとも1つの塗布用片、及び/又は少なくとも1つの洗浄用片、及び/又は分離手段を有してなる請求項22から26のいずれか一つに記載のキット。
【請求項28】
エナメル質に浸透させるためのキットであって、
(a)塩酸を含む状態調節剤を含む塗布用片と、
(b)浸透剤を含む塗布用片と、そして、
(c)少なくとも1つの洗浄用片と、を含んでなるキット。
【請求項29】
さらに、(d)高粘度の光硬化性モノマーの混合物を含む塗布用片を含んでなる請求項28記載のキット。
【請求項30】
さらに、(e)分離手段を含んでなる請求項28又は29に記載のキット。
【請求項31】
状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしてなる請求項28から30のいずれか一つに記載のキット。
【請求項32】
上記浸透剤(b)に、請求項8又は請求項9から20のいずれか一つに記載の浸透剤を用いる請求項28から31のいずれか一つに記載のキット。
【請求項1】
エナメル質に浸透する浸透剤を確認する方法であって、以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む浸透剤を確認する方法。
【数1】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【請求項2】
(a)浸透剤候補を準備し、
(b)上記浸透剤候補の接触角、表面張力、そして動粘度の値を決定し、
(c)決定された上記(b)の値に式2を適用し上記浸透剤候補の浸透係数を決定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、(d)50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を選定する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
上記(d)の選定が、50cm/sより大きい浸透係数を有する浸透剤候補を、浸透係数が50cm/sより小さい他の浸透剤候補から分けるものである請求項3記載の方法。
【請求項5】
さらに、(d)上記浸透剤候補の硬化能力を評価する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
さらに、(d)上記浸透剤候補の硬化後のコンシステンシーを評価する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
さらに、(d)上記浸透剤候補の浸透指数を決定する、請求項2記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の方法を用いて確認された浸透剤であって、
以下の式を用いて得られる浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【数2】
[式2]
ここで、
PCは、浸透係数、
γは、液体樹脂の空気に対する表面張力、
θは、液体樹脂のエナメル質に対する接触角、
ηは、液体樹脂の動粘度を表す。
【請求項9】
少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、好ましくは、歯科用複合樹脂、歯科用接着剤、及び/又は裂溝用充填樹脂から成る群から選択され、かつ50cm/sより大きい浸透係数を有する、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【請求項10】
少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、好ましくは、メタクリレートから成る群から選択され、かつ50cm/sより大きい浸透係数を有する、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【請求項11】
少なくとも1種の樹脂又は低粘度樹脂を含む浸透剤であって、好ましくは、ビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ビス-PMA:プロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-EMA:エトキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-MA:ビスフェノール-A-ジメタクリレート、UDMA:1,6-ビス(メタクリルオキシ-2-エトキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、UPGMA:ウレタンビスフェノール-A-ジメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、TEGMMA:トリエチレングリコールモノメタクリレート、TEEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート、DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート、DDDMA:1,10-デカンジオールジメタクリレート、HDDMA:1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、PDDMA:1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、MBDDMA 1/2:BDDMA-メタノール付加物 1/2、DBDDMA 1/2:BDDMA-自己付加物 1/2、PRDMA:1,2-プロパンジオールジメタクリレート、DMTCDDA:ビス(アクリルオキシメチル)トリクロデカン、BEMA:ベンジルメタクリレート、SIMA:3-トリメトキシシランプロピルメタクリレート、SYHEMA 1/2:1/2-シクロヘキサンメタクリレート、TYMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、MAA:メタクリル酸、そしてHEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、から成る群から選択され、かつ50cm/sより大きい浸透係数を有する、あるいは50cm/sより大きい浸透係数を有する低粘度の光硬化性樹脂を含む、浸透剤。
【請求項12】
請求項8又は請求項9から11のいずれか一つに記載の浸透剤であって、さらに1以上の硬化用の添加剤を含む浸透剤。
【請求項13】
上記添加剤が、CQ:カンファーキノン、BL:ベンジル、DMBZ:ジメトキシベンゾイン、CEMA:N-(2-シアノエチル)N-メチルアニリン、DMABEE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、DMABBEE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸ブチルエトキシエステル、DMABEHE:4-N,N-ジエチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシルエステル、DMAEMA:N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、DEMAEEA:N,N-(ビス-エチルメタクリレート)-2-エトキエチルアミン、HMBP:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、TINP:2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、TIN326:チヌビン326、TIN350:チヌビン350、TIN328:チヌビン328、HQME:ヒドロキシキノンモノメチルエステル、BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、MBP:2,2-メチレン-ビス(6-t-ブチルフェノール)、MBEP:2,2-メチレンビス(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)、BPE:安息香酸フェニルエステル、MMMA:メチルメタクリレートメタノール付加物、CA:カンファー無水物、HC 1/2:2(3)-エンド−ヒドロキシエピカンファー、TPP:トリフェニルホスファン、TPSb:トリフェニルスチバン、DMDDA:ジメチルドデシルアミン、DMTDA:ジメチルテトラデシルアミン、DCHP:ジシクロヘキシルフタレート、DEHP:ビス-(2-エチルヘキシル)フタレート、そしてホルムアルデヒド、からなる群から選択されてなる、請求項12記載の浸透剤。
【請求項14】
上記添加剤が、有機酸又はその塩から成る群から選択され、好ましくは、スルフィン酸とその塩、バルビツル酸とその塩、そしてバルビツル酸誘導体から成る群から選択されてなる請求項12記載の浸透剤。
【請求項15】
上記スルフィン酸が、パラフィン系炭化水素系スルフィン酸、脂環系スルフィン酸、そして芳香族系スルフィン酸から成る群から選択されてなる請求項14記載の浸透剤。
【請求項16】
上記パラフィン系炭化水素系スルフィン酸は、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、そしてドデカンスルフィン酸から成る群から選択され、脂環系スルフィン酸はシクロヘキサンスルフィン酸又はシクロオクタンスルフィン酸であり、芳香族系スルフィン酸は、ベンゼンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロロベンゼンスルフィン酸、そしてナフタレンスルフィン酸から成る群から選択されてなる請求項15記載の浸透剤。
【請求項17】
上記バルビツル酸は、1,3,5-トリメチルバルビツル酸、1,3,5-トリエチルバルビツル酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツル酸、1,5-ジメチルバルビツル酸、1-メチル-5-エチルバルビツル酸、1-メチル-5-プロピルバルビツル酸、5-エチルバルビツル酸、5-プロピルバルビツル酸、5-ブチルバルビツル酸、5-メチル-1-ブチルバルビツル酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツル酸、そして1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツル酸から成る群から選択されてなる請求項14記載の浸透剤。
【請求項18】
上記添加剤が、過硫酸塩と有機パーオキサイドから成る群から選択されてなる請求項12記載の浸透剤。
【請求項19】
上記有機パーオキサイドが、ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプリルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、BPO、ジベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p'-ジメチルベンゾイルパーオキサイド、そしてp,p'-ジニトロジベンゾイルパーオキサイドから成る群から選択されてなる請求項18記載の浸透剤。
【請求項20】
上記低粘度の樹脂は、22%のビス-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、67%のTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、10%のエタノール、>1%のDABE:エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート、>1%のカンファーキノンを含んでなる請求項8又は請求項9から11のいずれか一つに記載の浸透剤。
【請求項21】
う蝕欠損の予防及び/又は治療を行うために使用される医療用品を製造するための、請求項8又は請求項9から20のいずれか一つに記載の浸透剤の使用。
【請求項22】
エナメル質に浸透させるためのキットであって、
(a)塩酸を含む状態調節剤と、
(b)浸透剤と、を含み、
上記浸透剤が、浸透係数の値が50cm/sより大きい、又は50cm/sより大きい低粘度の光硬化性樹脂を含む、キット。
【請求項23】
さらに、(c)高粘度の光硬化性モノマーの混合物を含む請求項22記載のキット。
【請求項24】
上記状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしてなる請求項22又は23記載のキット。
【請求項25】
上記浸透剤(b)に、請求項8記載の浸透剤を用いる請求項22から24のいずれか一つに記載のキット。
【請求項26】
上記浸透剤(b)に、請求項9から20のいずれか一つに記載の浸透剤を用いる請求項22から25のいずれか一つに記載のキット。
【請求項27】
さらに、少なくとも1つの塗布用片、及び/又は少なくとも1つの洗浄用片、及び/又は分離手段を有してなる請求項22から26のいずれか一つに記載のキット。
【請求項28】
エナメル質に浸透させるためのキットであって、
(a)塩酸を含む状態調節剤を含む塗布用片と、
(b)浸透剤を含む塗布用片と、そして、
(c)少なくとも1つの洗浄用片と、を含んでなるキット。
【請求項29】
さらに、(d)高粘度の光硬化性モノマーの混合物を含む塗布用片を含んでなる請求項28記載のキット。
【請求項30】
さらに、(e)分離手段を含んでなる請求項28又は29に記載のキット。
【請求項31】
状態調節剤(a)は、約1〜30%(w/w)の塩酸、好ましくは約5〜15%(w/w)の塩酸を含むゲルをベースとしてなる請求項28から30のいずれか一つに記載のキット。
【請求項32】
上記浸透剤(b)に、請求項8又は請求項9から20のいずれか一つに記載の浸透剤を用いる請求項28から31のいずれか一つに記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【公表番号】特表2009−536633(P2009−536633A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508257(P2009−508257)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004204
【国際公開番号】WO2007/131725
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
2.TEFLON
【出願人】(508334199)シャリテ−ウニヴェルジテーツメディツィン・ベルリン (3)
【氏名又は名称原語表記】CHARITE−UNIVERSITAETSMEDIZIN BERLIN
【出願人】(503011251)エルンスト・ミュールバウアー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (6)
【氏名又は名称原語表記】Ernst Muehlbauer GmbH & Co. KG
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004204
【国際公開番号】WO2007/131725
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
2.TEFLON
【出願人】(508334199)シャリテ−ウニヴェルジテーツメディツィン・ベルリン (3)
【氏名又は名称原語表記】CHARITE−UNIVERSITAETSMEDIZIN BERLIN
【出願人】(503011251)エルンスト・ミュールバウアー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (6)
【氏名又は名称原語表記】Ernst Muehlbauer GmbH & Co. KG
【Fターム(参考)】
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