説明

エパルレスタット製造法

【課題】 本発明の目的は高品質のエパルレスタット製造法を提供することにある。
【解決手段】 エパルレスタットの三級アミン塩を溶媒と酸の混合液に投入することにより、高品質の下式Iで表されるエパルレスタット(化学名:5−[(1Z,2E)−2−Methyl−3−phenylpropenylidene]−4−oxo−2−thioxo−3−thiazolidineaetic acid)を製造することができる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルドース還元酵素阻害作用によって特徴づけられる、治療学的に有用な下式Iで示される一般名:エパルレスタット(化学名:5−[1Z,2E]−2−Methyl−3−phenylpropenylidene]−4−oxo−2−thioxo−3−thiazolidineacetic acid)の工業的に有益な製造法に関するものである。
【化1】

【背景技術】
【0002】
近年、医療費増大による国の財政、患者負担の増大等の問題から、安価な医薬品の供給が望まれており、この観点から後発医薬品が注目を集めている。後発医薬品は、先発医薬品と同等であることが薬事法上要求される。後発医薬品に使用される原薬についても、その原薬に含まれる不純物がそのまま後発医薬品の不純物となるため、先発品と同等またはそれ以下の不純物を含む原薬を製造するべきである。エパルレスタットは、糖尿病性抹消神経障害を改善する作用があり、長期に渡り投与される内服薬であることから、不純物の極めて少ない原薬を製造し、提供する必要がある。本発明者らは、エパルレスタットの合成段階から不純物の生成を抑制し、安価で、かつ、高品質のエパルレスタットを製造する方法を提供することを課題とした。
【0003】
本発明者らは、三級アミンを塩基として用い、エパルレスタットの三級アミン塩結晶を析出せしめるエパルレスタットの合成方法を開発した(特許文献1)。この方法の特徴は、式IVで示される5−[1Z,2Z]−2−Methyl−3−phenylpropenylidene]−4−oxo−2−thioxo−3−thiazolidineacetic acid(以下、2Z−異性体と略す)の生成量が極めて少ないため縮合反応物を有効に利用できることと、粗製の段階で不純物が少ないので最小限の精製コストで高純度、高品質のエパルレスタットを得られることにある。
【化4】

【特許文献1】特願2004−288264
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高品質のエパルレスタットを安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、エパルレスタットの三級アミン塩から、エパルレスタットを安定的に製造する方法を鋭意検討した結果、低級アルコール系溶媒と酸の混合液中にエパルレスタットの三級アミン塩を投入することにより、エパルレスタットを高純度かつ安定的に製造出来ることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)
式IIで表わされるα−メチルシンナムアルデヒドと式IIIで表わされる3−カルボキシメチルロダニンを縮合させ、エパルレスタットの三級アミン塩として結晶を析出させる式Iで表わされるエパルレスタットの製造法において、エパルレスタットの三級アミン塩を、低級アルコール系溶媒と酸の混合液に投入して酸と接触させることを特長とする、エパルレスタットの製造法。
【化1】

【化2】

【化3】

(2)
三級アミンがトリエチルアミンである(1)に記載のエパルレスタット製造法。
(3)
低級アルコール系溶媒がエタノールである(1)〜(2)に記載のエパルレスタット製造法。
(4)
酸が塩化水素である請求項(1)〜(2)に記載のエパルレスタット製造法。
(5)
三級アミンがトリエチルアミンであり、低級アルコール系溶媒がエタノールであり、酸が塩化水素である(1)〜(4)に記載のエパルレスタット製造法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、工業的生産において高品質のエパルレスタットを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
式IVで表わされる2Z−異性体を極微量しか含まないエパルレスタットの三級アミン塩は、式IIで表わされるα−メチルシンナムアルデヒドと式IIIで表わされる3−カルボキシメチルロダニンを三級アミンを縮合塩基として反応せしめた後、三級アミンとの塩として析出させ濾取することにより得ることができる。また、2Z−異性体を含んだエパルレスタットと三級アミンを溶媒存在下加熱溶解後に析出させる方法によっても、上記と同様なエパルレスタットの三級アミン塩を得ることができる。
【化4】

【0008】
三級アミンは、有機合成反応にて一般的に使用されている三級アミンを使用することができる。工業的製造には、市販されている三級アミンが好ましく、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、またはそれらの混合塩基が使用できるが、本発明を実施するに当たっては中でもトリエチルアミンが特に好ましい。
【0009】
縮合反応に三級アミンを過剰量使用することは、不純物がより多く生成することや、三級アミンの除去操作を煩雑にすることから好ましくない。α−メチルシンナムアルデヒドに対して、0.1〜3.0等量、好ましくは0.7〜1.4等量である。
【0010】
縮合反応に用いる溶媒は、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の低級アルコール系、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル等のエステル系、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の極性非プロトン系、またはその混合溶媒等、種々の溶媒が使用できる。中でも好ましいのは、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の低級アルコール系溶媒である。
【0011】
エパルレスタットの三級アミン塩を取り出すには、縮合反応終了後必要に応じて三級アミンを0.7〜1.4等量になるまで追加し、水等の貧溶媒を加えエパルレスタットの三級アミン塩を析出させることにより、結晶として取出すことができる。前述の反応溶媒中で、エパルレスタットと三級アミンを加熱溶解した後、水等の貧溶媒を加え、エパルレスタットの三級アミン塩を析出させてもよい。
【0012】
エパルレスタットの三級アミン塩から三級アミンを除去することにより、エパルレスタットが得られる。三級アミンを除去する方法として、有機溶媒にてエパルレスタットを抽出する方法、減圧下加熱して三級アミンを揮発させる方法、イオン交換樹脂にて脱アミンする方法、各種クロマトグラフィーにて分離する方法、溶媒中でエパルレスタットの三級アミン塩と酸を接触させ三級アミンと酸の塩を形成し、塩を溶媒中に溶解し除去する方法、等が考えられる。工業的に実施する観点から、溶媒中でエパルレスタットの三級アミン塩と酸を接触させる方法が好ましい。
【0013】
溶媒中でエパルレスタットの三級アミン塩と酸を接触させる方法において、エパルレスタットの三級アミン塩を溶媒に懸濁させた後、塩酸を添加する方法は、エパルレスタット中に三級アミンが残留し易い。医薬原体中への三級アミン類の残存はその品質上できるかぎり少ないことが望ましい。
【0014】
三級アミンの少ないエパルレスタットを得るためには、溶媒と酸の混合液にエパルレスタットの三級アミン塩を投入する方法が優れている。この方法によれば、得られるエパルレスタット中に不純物として含まれる三級アミンの量が極めて少ない。
【0015】
溶媒と酸の混合液にエパルレスタットの三級アミン塩を投入する方法は、一定時間内一定速度で連続的に投入してもよいし、エパルレスタットの三級アミン塩を分割し、等間隔で投入してもよい。分割して投入する場合は5〜20分割が好ましく、8〜15分割がより好ましい。
【0016】
混合時間は、攪拌装置の種類、実施スケール等により必要な時間が変わるが、好ましくは1時間〜72時間、より好ましくは1時間〜24時間であるが工業的生産効率から1〜3時間が好ましい。
【0017】
本明細書中で使用する酸は、塩化水素、硫酸等の鉱酸類、酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸類が使用でき、これらの溶液も使用できる。これらの中で、安価で取扱いも比較的容易な塩酸が好適に用いられる。酸の使用量は、エパルレスタットの三級アミン塩に対し、1〜10等量が好ましく、1.1〜3.0等量がより好ましい。
【0018】
本明細書中で使用する溶媒は、低級アルコール類が好適に用いられる。例として、メタノール、エタノール、2−プロパノール等がある。溶媒の作用としてはエパルレスタットの三級アミン塩を分散あるいは溶解させ酸との接触を効率的にすることが挙げられ、その作用を発揮させるのに必要な溶媒の使用量は、投入するエパルレスタットの三級アミン塩に対し1〜10倍重量を用いるのが好ましく、2〜4倍重量を用いるのがより好ましい。
【0019】
投入するエパルレスタットの三級アミン塩は、乾燥後に使用してもよいし、湿結晶をそのまま使用してもよい。
【0020】
溶媒を分離することによりエパルレスタットが得られる。溶媒とエパルレスタット結晶との分離は、濾過で行う。エパルレスタットの三級アミン塩と酸を接触し生成した三級アミン塩は濾液中に溶解することで除去されるが、その溶解性を向上せしめる目的で水を添加してもよい。水を投入する時期は、エパルレスタットの三級アミン塩投入前でも後でもよい。水の添加量は使用する溶媒によって適正な値が異なるが、使用する溶媒に対し0〜20%volが好ましい。水を過剰に投入すると、生成したエパルレスタット結晶の分散状態が悪化し、三級アミンの残存量が増加することから好ましくない。
【0021】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
参考例1
エパルレスタットトリエチルアミン塩結晶の製造
10L反応容器に3−カルボキシメチルロダニン655g、α−メチルシンナムアルデヒド500g、トリエチルアミン345g、メタノール2460gを加え、4時間還留した。水を添加後室温まで冷却させた。析出した結晶をろ過しケーキを水で洗浄して、エパルレスタットのトリエチルアミン塩1412gを得た。含水率1.8重量%。異性体比率0.5:99.5(2Z−異性体:エパルレスタット)。
【0023】
実施例1
エパルレスタットの製造方法
1L反応容器にエタノール300g、35%塩酸68.6gを加え攪拌した中に、エパルレスタットのトリエチルアミン塩91.5gを6分割して15分間隔で投入した。添加には、最初の投入から70分を要した。添加終了後室温で1時間攪拌を続けた。結晶を濾過しケーキをエタノールで洗浄してエパルレスタット湿結晶66.5gを得た。湿結晶を50℃で送風乾燥し、乾燥したエパルレスタット64.2gを得た。ガスクロマトグラフ法(検出限界は250ppm)によるトリエチルアミンの定量分析結果は、検出限界以下であった。異性体比率0.3:99.7(2Z−異性体:エパルレスタット)。
【0024】
実施例2
1L反応容器にエタノール300g、35%塩酸68.6gを加え攪拌した中に、エパルレスタットのトリエチルアミン塩91.5gを6分割して15分間隔で投入した。添加には、最初の投入から70分を要した。添加終了後水を35g加え、さらに1時間室温で攪拌を続けた。結晶を濾過しケーキをエタノールで洗浄してエパルレスタット湿結晶67.3gを得た。湿結晶を50℃で送風乾燥し、乾燥したエパルレスタット65.2gを得た。ガスクロマトグラフ法(検出限界は250ppm)によるトリエチルアミンの定量分析結果は、検出限界以下であった。異性体比率0.3:99.7(2Z−異性体:エパルレスタット)。
【0025】
比較例1
1L反応容器にエタノール300g、35%塩酸67.8gを加え攪拌した中に、エパルレスタットのトリエチルアミン塩90.8gを一度に添加した。添加に要した時間は1分であった。添加終了後室温で2時間攪拌した。結晶を濾過しケーキをエタノールで洗浄してエパルレスタット湿結晶67.2gを得た。湿結晶を50℃で送風乾燥し、乾燥したエパルレスタット65.4gを得た。ガスクロマトグラフ法(検出限界は250ppm)によるトリエチルアミンの定量分析結果は、380ppmであった。異性体比率0.6:99.4(2Z−異性体:エパルレスタット)。
【0026】
比較例2
1L反応容器にエタノール300g、エパルレスタットのトリエチルアミン塩90.0gを加え、攪拌した中に、35%塩酸66.1gを滴下ロートで添加した。添加に要した時間は57分であった。滴下終了後、室温で2時間攪拌した。結晶を濾過しケーキをエタノールで洗浄してエパルレスタット湿結晶65.5gを得た。湿結晶を50℃で送風乾燥し、乾燥したエパルレスタット63.8gを得た。ガスクロマトグラフ法(検出限界は250ppm)によるトリエチルアミンの定量分析結果は、740ppmであった。異性体比率0.8:99.2(2Z−異性体:エパルレスタット)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIで表わされるα−メチルシンナムアルデヒドと式IIIで表わされる3−カルボキシメチルロダニンを縮合させ、エパルレスタットの三級アミン塩として結晶を析出させる式Iで表わされるエパルレスタットの製造法において、エパルレスタットの三級アミン塩を、低級アルコール系溶媒と酸の混合液に投入して酸と接触させることを特長とする、エパルレスタットの製造法。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
三級アミンがトリエチルアミンである請求項1に記載のエパルレスタット製造法。
【請求項3】
低級アルコール系溶媒がエタノールである請求項1〜2に記載のエパルレスタット製造法。
【請求項4】
酸が塩化水素である請求項1〜2に記載のエパルレスタット製造法。
【請求項5】
三級アミンがトリエチルアミンであり、低級アルコール系溶媒がエタノールであり、酸が塩化水素である請求項1〜4に記載のエパルレスタット製造法。

【公開番号】特開2007−99680(P2007−99680A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291607(P2005−291607)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(592158512)コニカミノルタケミカル株式会社 (10)
【Fターム(参考)】